説明

磁気ディスク基板及びその製造方法並びに磁気ディスク及びその製造方法

【課題】磁気ディスク基板の製造工程における欠陥検査で磁気記録層に不適切な欠陥が検出された磁気ディスク基板の主表面を、後の成膜工程において確実に判別することができ、初めから記録面として用いられないことが判っている基板面にまで高価な材料を用いることを回避してコストの削減を図ること。
【解決手段】磁気ディスク基板の欠陥検査工程で得られたNG面情報を磁気ディスク基板に描画して後の成膜工程で判別できるようにする。または、収納カセット容器4に記録面情報又は非記録面情報を記載して後の成膜工程で判別できるようにする。成膜工程では予め使用しないと判っている基板面(非記録面)に対して、高価な材料を使用する膜を成膜しないことで、コストを下げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスクドライブ(以下、「HDD」という)の磁気ディスクに用いられる磁気ディスク基板及びその製造方法並びにその磁気ディスク基板を用いた磁気ディスク及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にHDDは、ディスク状のアルミニウム基板又はガラス基板の表面に磁性体薄膜からなる磁気記録層を有した磁気ディスクと、磁気ディスクを高速で回転させるスピンドルモータと、スイングアームの先端に取り付けられ磁気ディスクの磁気記録層に磁気データを読み書きする磁気ヘッドと、磁気ヘッドを磁気ディスク上の半径方向に移動する位置決め装置とを主な構成要素としている。磁気ディスクの両主表面に形成された磁気記録層に対してそれぞれ磁気ヘッドが対向配置されるので、1つの磁気ディスクにつき2つの磁気ヘッドを備えている。
【0003】
磁気ディスクは、磁気ディスク基板の両主表面に下地層、磁性層、保護層、潤滑層を順次積層した構成を有している。磁気記録層となる磁性層は、六方細密充填構造(hcp構造)の合金層からなる強磁性層であり、CoPt系合金、CoCrPt系合金等の高価な材料が含まれる。
【0004】
磁気ディスク基板の製造工程では、研磨、洗浄等の工程の後に、基板の両主表面について欠陥検査を行っている。欠陥検査で検出された欠陥の大きさ、個数等が所定スペック内に収まっているか否か判別する。一方の主表面だけでもスペックに収まらない欠陥が検出された磁気ディスク基板は最終製品の対象としないで製造工程から取り除かれる。
【0005】
一方で、最近はディスク容量が拡大されてきたので、高価な磁気ヘッドは磁気ディスクの片側にだけ設置し、磁気ディスクの片側の磁気記録層に対してだけ磁気データを読み書きするHDDが登場している。磁気ディスクの片側の磁気記録層だけを使用するのであれば、検査工程で一方の主表面だけにスペックに収まらない欠陥が検出された磁気ディスク基板であても最終製品として使用することができる。これにより、高価な磁気ヘッドの個数を減らすと共に、片側の主表面に欠陥が検出された磁気ディスク基板を有効活用することで、HDDの低コスト化を図ることができる。
【特許文献1】特開2001−243735号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、片側の主表面に欠陥が検出された磁気ディスク基板を製品として使用する場合であっても、成膜工程では磁気ディスク基板の両主表面に磁気記録層を成膜している。磁気ディスクの磁気記録層となる磁性層は、CoPt系合金、CoCrPt系合金等の高価な材料が用いられるので、初めから記録面として用いられないことが判っている基板面にまで高価な材料を用いて成膜することはコスト面からみて無駄である。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、磁気ディスク基板の製造工程における欠陥検査で記録面として不適切な欠陥が検出された磁気ディスク基板の主表面を、後の成膜工程において確実に判別することができ、コストの削減を図ることのできる磁気ディスク基板及びその製造方法並びに磁気ディスク及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、予め使用しないと判っている基板面(非記録面)に対して、高価な材料を使用する膜を成膜しないことで、コストを下げることができることを見出し、このようなことで実現できるシステムを構築することで、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の磁気ディスク基板の製造方法は、磁気ディスク基板の両主表面が記録層形成の条件を満たしているか否か判定するための表面検査を行う検査工程を備えた磁気ディスク基板の製造方法であって、一方の主表面が前記条件を満たし他方の主表面が前記条件を満たさない磁気ディスク基板に対して、前記他方の主表面に判別可能な情報を付すことを特徴とする。
【0010】
この製造方法によれば、一方の主表面が記録層形成の条件を満たし他方の主表面が前記条件を満たさない磁気ディスク基板に対して、前記他方の主表面に判別可能な情報を付すことにより、後の成膜工程では磁気ディスク基板に付された情報から記録面と非記録面とを判別でき、非記録面に記録面と異なる安価な材料で成膜する制御が可能になる。
【0011】
また本発明の磁気ディスク基板の製造方法は、磁気ディスク基板の両主表面が記録層形成の条件を満たしているか否か判定するための表面検査を行う検査工程と、少なくとも一方の主表面が前記条件を満たす複数の磁気ディスク基板を前記条件の満たされた主表面が同一方向を向くように出荷容器に収納して梱包する梱包工程とを備え、どちらの主表面が前記条件を満たした記録面であるかを示す記録面情報又はどちらの主表面が前記条件を満たしていない非記録面であるかを示す非記録面情報が前記出荷容器に付された状態で後の成膜工程へ送られることを特徴とする。
【0012】
この製造方法によれば、記録面情報又は非記録面情報が出荷容器に付された状態で後の成膜工程へ送られることとしたので、後の成膜工程では出荷容器に付された情報から記録面と非記録面とを判別でき、非記録面に記録面と異なる安価な材料で成膜する制御が可能になる。
【0013】
また本発明の磁気ディスク基板の製造方法は、磁気ディスク基板の両主表面が記録層形成の条件を満たしているか否か判定するための表面検査を行う検査工程と、少なくとも一方の主表面が前記条件を満たす複数の磁気ディスク基板を前記条件の満たされた主表面が同一方向を向くように出荷容器に収納して梱包する梱包工程とを備え、前記出荷容器と、どちらの主表面が前記条件を満たした記録面であるかを示す記録面情報又はどちらの主表面が前記条件を満たしていない非記録面であるかを示す非記録面情報とを予め対応付け、前記磁気ディスク又は前記出荷容器に情報を直接付すことなく、前記記録面情報又は前記非記録面情報を後の成膜工程へ送ることを特徴とする。
【0014】
この製造方法によれば、出荷容器と記録面情報又は前記非記録面情報とを予め対応付け、後の成膜工程へ送ることとしたので、後の成膜工程では出荷容器に対応付けられた情報から記録面と非記録面とを判別でき、非記録面に記録面と異なる安価な材料で成膜する制御が可能になる。
【0015】
また本発明の磁気ディスク基板は、一方の主表面に記録層が形成される磁気ディスク基板であって、記録層形成の条件を満たしていない主表面に、記録面でないことを示す情報が付されたことを特徴とする。
【0016】
この磁気ディスク基板によれば、記録層形成の条件を満たしていない主表面に、記録面でないことを示す情報が付されているので、後の成膜工程では磁気ディスク基板に付された情報から記録面と非記録面とを判別でき、非記録面に記録面と異なる安価な材料で成膜する制御が可能になる。
【0017】
また本発明の磁気ディスクの製造方法は、磁気ディスク基板の両主表面のうちどちらの主表面が記録面又は非記録面であるかを把握する把握工程と、前記把握工程で把握した記録面側に記録層を成膜し、非記録面側に両主表面の膜応力を均衡させるダミー層を成膜する成膜工程とを具備したことを特徴とする。
【0018】
この製造方法によれば、磁気ディスク基板の両主表面のうちどちらの主表面が記録面であるかを把握するので、記録面側に記録層を成膜し、非記録面側に両主表面の膜応力を均衡させるダミー層を成膜する制御が可能になる。
【0019】
上記磁気ディスクの製造方法において、把握工程では、前記磁気ディスク基板の主表面に付された情報から記録面とすべき主表面を判定するようにすることができる。又は、複数の磁気ディスク基板を収納した出荷容器に付された記録面情報又は前記非記録面情報から記録面とすべき主表面を判定するようにすることができる。或いは、複数の磁気ディスク基板を収納した出荷容器と対応付けられた情報であってどちらの主表面が前記条件を満たした記録面であるかを示す記録面情報又はどちらの主表面が前記条件を満たしていない非記録面であるかを示す非記録面情報を、当該磁気ディスク基板が収納されていた出荷容器との関係から求めるようにしても良い。
【0020】
また上記磁気ディスクの製造方法において、成膜工程は、前記記録層よりも安価な材料を用いてダミー層を成膜することを特徴とする。これにより、初めから使用しないと判っている非記録面に記録面と同じ高価な材料の膜を成膜しないので、コスト削減を図ることができる。
【0021】
また本発明の磁気ディスクは、一方の主表面が記録層形成の条件を満たし他方の主表面が前記条件を満たさない磁気ディスク基板と、前記磁気ディスク基板の前記条件を満たした一方の主表面に形成された記録層と、前記磁気ディスク基板の前記条件を満たさない他方の主表面に形成され両主表面の膜応力を均衡させるダミー層とを具備したことを特徴とする。
【0022】
これにより、初めから使用しないと判っている非記録面に記録面と同じ高価な材料の膜を成膜しないで、両主表面の膜応力を均衡させるダミー層を設けたので、磁気ディスクの両主表面の膜応力の不均衡を防止できると共にコスト削減を図ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、磁気ディスク基板の製造工程における欠陥検査で磁気記録層に不適切な欠陥が検出された磁気ディスク基板の主表面を、後の成膜工程において確実に判別することができ、初めから記録面として用いられないことが判っている基板面にまで高価な材料を用いることを回避してコストの削減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の一実施の形態として磁気ディスク基板の製造工程及びその磁気ディスク基板に成膜する成膜工程について説明する。以下の説明では、磁気ディスク基板としてガラス基板を用いた例について説明するが、本発明はガラス基板に限らず、アルミニウム基板をはじめとする他の磁気ディスク用ガラス基板にも適用可能である。
【0025】
ガラス基板の製造工程は、素材を研削して板厚を揃える研削工程、ガラス基板の表面を研磨して基板表面のうねり及び表面粗さを解消する研磨工程、ガラス基板を化学強化する化学強化工程、ガラス基板に付着するごみ及びガラス基板の粗さを制御する洗浄工程、ガラス基板表面の欠陥を検査する欠陥検査工程、最終検査の終了したガラス基板を収納カセットに収納して梱包する梱包工程などで構成されている。
【0026】
上記研削工程では、素材がディスク状をなすプレスガラスの場合は所定の板厚になるように両面を研削する。研削方法は、上定盤と下定盤とでガラス基板を挟み、上定盤と下定盤とを逆方向に回転させることでガラス基板の表面を研削する。素材がシートガラスの場合は板厚及び平坦度がプレスガラスよりも優れているので、プレスガラスの場合のような研削は不要な場合もあるが、所定寸法(ID,OD)のディスク状にガラス基板を切り出すカッティング作業が発生する。さらに、ガラス基板の中心部に穴を開けると共に、ディスク端面の面取り及び研磨を行う。
【0027】
上記研磨工程では、上定盤と下定盤とにそれぞれ研磨パッドを取り付け、上定盤と下定盤とでガラス基板を挟み、研磨を行う。第1研磨では、比較的硬いパッド(例えば、ウレタン)を用いて、ガラス基板の端部形状、凹凸、及び大きなうねりを平坦にする。第2の研磨では、比較的軟らかいパッド(例えば、発泡ポリウレタン)を用いて、ガラス基板の表面粗さ、小さなうねりを平坦にする。第2の研磨では表面粗さRaを0.2〜0.3nmにすることを目標にする。
【0028】
上記化学強化工程では、ガラス基板の表面に存在するイオン(例えば、アルミノシリケートガラス使用の場合、Li及びNa)よりもイオン半径の大きなイオン(Na及びK)にイオン交換する。ガラス基板の表面において(例えば、ガラス基板表面から約5μmまで)、イオン半径の大きい原子とイオン交換を行って、ガラス表面に圧縮応力を与えることでガラス基板の剛性を上げている。
【0029】
上記洗浄工程では、ガラス基板の表面に研磨材や不純物が付着しているので、これらを除去するための洗浄を行う。洗浄方法には、物理的洗浄と薬液洗浄とがある。物理的洗浄としてスクラブ洗浄と超音波洗浄とがある。薬液洗浄としてガラス基板をエッチングすることによる洗浄、ガラス基板に付着している不純物および研磨材を溶かす薬液を使用した洗浄、界面活性剤を用いて電位を制御することによる洗浄がある。研削工程から第1研磨および第2研磨までの各工程間の洗浄工程では、薬液洗浄+超音波洗浄が用いられる。
【0030】
上記欠陥検査工程では、全数検査と抜き取り検査とがある。全数検査できるものは全数検査するが、全数検査できないものは抜き取り検査することになる。検査対象の欠陥種として、キズ、汚れ(パーティクル)、素材要因、形状変化がある。クリーンルーム内において、AFM(原子間力顕微鏡)を用いて、ガラス基板の表面の状態検査、ID,ODの面取り角の測定、真円度、同心度の測定等を実施する。第2研磨した後の洗浄後には、ガラス基板をクリーンルームに搬入してビジュアル検査を行う。このとき、ガラス基板に対して、クラックの有無、ゴミの付着、カケ、ワレの有無、研磨材の有無等が検査される。化学強化した後の洗浄後にも、同様のビジュアル検査を行う。このような欠陥検査工程により、ガラス基板の両主表面について、記録面を形成するためのスペックを満足しているか否について判定される。スペックを満足していれば「OK面」、スペックを満足しなければ「NG面」と判断される。両主表面が「NG面」と判断されたガラス基板は最終製品の対象から除外されるが、片側だけが「NG面」と判断されたガラス基板は最終製品の対象として後の成膜工程へ送られる。
【0031】
図1は欠陥検査工程で「NG面」と判断されたガラス基板のNG面に対して後の工程で判別可能な情報を付して収納カセットに収納する工程を示す概念図である。欠陥検査工程において一方の主表面がスペックを満足したが、他方の主表面がスペックを満足せずに「NG面」と判定されたガラス基板1については、当該NG面1aに対してレーザマーカ2によってスペックを満たさないことを判別するための情報としてNG面3の文字が描画される。これにより、後の成膜工程においてガラス基板1の記録面又は非記録面を判別することができる。なお、本発明はレーザマーカ2によりガラス基板1に対して物理的にIndex情報を付する方式に限定されるものではなく、ガラス基板1に対して磁気的/電気的/化学的な手法によりマーキングするようにしても良い。また、基板に対してマーキングしなくてもOK/NG面の識別が可能であれば、マーキングは必ずしも必要ない。
【0032】
梱包工程では、欠陥検査工程で少なくとも片側が「OK面」であると判別されたガラス基板1が収納カセット容器4に収納される。収納カセット容器4にはカセット内に収納されているガラス基板を管理するためのバーコード情報5が付けられる。管理装置6は、欠陥検査工程で取得された各ガラス基板についての欠陥検査結果、シリアル番号等を含む管理情報を取り込む。管理装置6は、収納カセット容器4に収納されたガラス基板とその管理情報とを紐づけるバーコード情報を生成し、バーコードプリンタ7からシール用紙にバーコードを印刷する。このプリントアウトされたバーコード情報5のシールを収納カセット容器4に貼付する。また、管理装置6は、収納カセット容器4に収納されたガラス基板の管理情報を磁気ディスク情報管理サーバ8へ送信して、サーバにて一元管理する。
【0033】
なお、以上の説明では、ガラス基板1のNG面1aに直接的にNG面3と描画しているが、後の成膜工程で記録面又は非記録面の判別がつけば良いので、ガラス基板1に直接描画する以外の方法でガラス基板1とその記録面情報又は非記録面情報と対応付けて成膜工程へ伝えるようにしても良い。
【0034】
図2に示すように、収納カセット容器4に欠陥検査工程において「OK面」であると判別された記録面側を一方向(図では左方向)に向けて収納する。収納カセット容器4の表面には記録面側と非記録面側とが判別できるように、「記録面側」11a、「非記録面側」11bの表記を行う。これにより、収納カセット容器4が搬入された成膜工程側では記録面又は非記録面を判別することができる。
【0035】
また、収納カセット容器4の表面に「記録面側」11a、「非記録面側」11bの表記を行なわなくても、ガラス基板の第1面と第2面とが区別できる場合には、図3(a)に示すように第1面は記録面であることを示す用紙12を収納カセット容器4に添付すればよい。又は図3(b)に示すように第2面は非記録面であることを示す用紙13を収納カセット容器4に添付すればよい。或いは、収納カセット容器4の一方をA側とし、他方をB側として特定できる場合は、図3(c)に示すようにA側は記録面、B側は非記録面と表記した用紙14を添付するようにしても良い。
【0036】
さらに、磁気ディスク情報管理サーバ8においてガラス基板1の記録面及び又は非記録面情報を管理しており、バーコード情報5とガラス基板1とを対応付けておくことにより磁気ディスク情報管理サーバ8にアクセスしてバーコード情報5からガラス基板1の記録面及び又は非記録面情報を取得するようにしても良い。
【0037】
次に、上記磁気ディスク基板1に成膜して磁気ディスクを作製する成膜工程について説明する。
【0038】
図4は成膜工程で用いられる磁気記録媒体作成用スパッタリング装置の概略図である。同図に示すスパッタリング装置は、搬送装置にセットされたガラス基板が連続的に移動しながら基板両主表面に同時に連続的にスパッタ成膜されるインライン方式のスパッタリング装置である。図4に示すスパッタリング装置20は、エントランスチャンバー21、ヒーティングチャンバー22、第1のスパッターチャンバー23、ヒーティングチャンバー24、第2のスパッターチャンバー25、ヒーティングチャンバー26、第3のスパッターチャンバー27及びエグジットチャンバー28で構成されている。
【0039】
エントランスチャンバー21及びエグジットチャンバー28には、ロックバルブ31、32を備えており、ガラス基板1及び成膜された基板30を挿脱できるように構成されている。エントランスチャンバー21にはガラス基板1がローダ33によって挿入される。
【0040】
ヒーティングチャンバー22、24、26は、各スパッターチャンバー23、25、27の直前に設けられている。なお、ヒーティングチャンバー22、24、26と一体として設けられるトランスファーチャンバー、バッファリングチャンバー、スリットヒータ等は図示していない。
【0041】
第1のスパッターチャンバー23では、少なくとも基板の記録面に金属膜で形成される下地層を成膜する。下地層はこの上に成膜される各層の結晶粒子を微細化及び均一化させる機能を持たせたり(シード層)、各層の結晶配向を制御する機能を持たせたりする(配向制御層)。本例では、第1のスパッターチャンバー23内には基板移動経路の両側にターゲットAを配置する。ターゲットAは、hcp構造であればCoCrを用いることができる。この場合、基板の記録面及び非記録面の双方に下地層が成膜される。
【0042】
第2のスパッターチャンバー25では、基板の記録面に対して磁気ヘッドによる磁化反転パターンを記録する機能を有する磁性層を成膜し、当該基板の非記録面(NG面)に対してダミー層を成膜する。第2のスパッターチャンバー25内には基板移動経路の一方の側に磁性層を成膜するためのターゲットBが配置され、反対側にはダミー層を成膜するためのターゲットCが配置されている。磁性層を成膜するためのターゲットBは、hcp構造であればCoCr系合金強磁性材料が用いられ、CoCrPtまたはCoCrPtTaといった高価な材料が含まれる。一方、ダミー層を成膜するためのターゲットCは、最終的に非記録面側が記録面側と同じ膜応力を実現できればよく、磁性膜のような高価な材料に代えて安価な材料を用いることができる。たとえば、Crターゲットなどを用いることができる。
【0043】
第3のスパッターチャンバー27では、少なくとも基板の記録面に磁性膜や磁気ヘッドを保護するための保護層を成膜する。保護層としては一般的にカーボン膜が用いられる。本例では、第3のスパッターチャンバー27内には基板移動経路の両側にターゲットDを配置する。保護層を成膜するターゲットDは、カーボンを用いることができる。この場合、基板の記録面及び非記録面の双方に保護層が成膜される。
【0044】
以上の説明では、基板の非記録面に記録面と同じターゲットA,Dで成膜しているが、基板の非記録面と記録面との膜応力を均一化できるのであれば、基板の非記録面側を成膜するためのターゲットは記録面側のターゲットと異なるものを用いてさらに低コスト化を図ることもできる。
【0045】
エントランスチャンバー21の入口にはローダ33が設置されている。ローダ33は、記録面指示装置34からの指示にしたがってガラス基板1の記録面が所定方向を向くように配向制御して搬送装置にセットする。
【0046】
具体的には、第2のスパッターチャンバー25において記録面が磁性層を成膜するターゲットBが配置されている側を向くようにガラス基板1の向きが制御される。これにより、第2のスパッターチャンバー25において成膜する際に記録面側にターゲットBによる磁性層が成膜されると共に、非記録面側にターゲットCによるダミー層が成膜されることになる。
【0047】
記録面指示装置34は、次のいずれかの方法によってガラス基板1の記録面又は非記録面を把握することができる。たとえば、図1に示すようにNG面情報3が基板表面に直接描画されているガラス基板1が搬入されて来る場合、CCDカメラなど構成される撮像装置で基板表面を撮像して画像認識し、NG面情報3の有無に対応して記録面又は非記録面を把握する。
【0048】
また、図2に示すように収納カセット容器4に記録面側情報11a、非記録面側情報11bが記載されている場合は、収納カセット容器4からガラス基板1の向きを変えずに取り出してローダ33にセットする際に作業者が記録面指示装置34に記録面又は非記録面の向きを入力するようにしても良い。また、図3(a)(b)(c)に示すように収納カセット容器4に添付された用紙12,13,14に記載れている記録面及び又は非記録面情報に基づいて作業者が記録面指示装置34に記録面又は非記録面の向きを入力するようにしても良い。
【0049】
さらに、記録面指示装置34は、収納カセット容器4に貼付されたシールのバーコード情報5をバーコードリーダで読み込んで、磁気ディスク情報管理サーバ8に問い合わせて、当該収納カセット容器4に収納されたガラス基板の記録面及び又は非記録面情報を取得して把握するようにしても良い。
【0050】
一方、エグジットチャンバー28にはアンローダ35が設置されている。アンローダ35は、磁気記録媒体作成用スパッタリング装置20で下地層、磁性層、保護層が形成された基板30を、搬送装置から取り外して、スパッタリング装置20外へ搬出する。その後、ディップ法、スプレイ法又はスピンコート法により、基板30の保護層上に潤滑層が形成される。潤滑層にはフッ素系のパーフルオロポリエーテル化合物からなる液体潤滑剤を用いることができる。
【0051】
以上のようにして、非記録面側に高価な材料を用いることなく記録面側と膜応力が均一化されたダミー層を成膜することができる。
【0052】
以上の説明では、磁気記録媒体作成用スパッタリング装置20としてインライン方式のものを用いて説明したが、成膜時には基板がターゲットに対して静止した状態でスパッタされる静止対向方式のスパッタリング装置を用いることもできる。
【0053】
また、第2のスパッターチャンバー25において、基板の記録面に磁性層を成膜する際に、基板の非記録面にダミー層を同時に成膜しているが、異なるスパッターチャンバーにおいて別々に成膜するように構成することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、磁気ディスクの片側にだけ磁気ヘッドを設けたHDDに用いられる磁気ディスク基板及びその製造方法並びにその磁気ディスク基板を用いた磁気ディスク及びその製造方法に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施の形態における磁気ディスク基板の製造工程での欠陥検査工程から梱包工程に至る過程の概念図
【図2】容器に記録面情報を記述した収納カセット容器の外観図
【図3】収納カセット容器に添付される記録面情報を記載した用紙の概略図
【図4】上記実施の形態における成膜工程で用いられるスパッタリング装置の概念図
【符号の説明】
【0056】
1…ガラス基板、1a…NG面、2…レーザマーカ、3…NG面(表記文字)、4…収納カセット容器、5…バーコード情報、6…管理装置、7…バーコードプリンタ、8…磁気ディスク情報管理サーバ、11a…記録面側(表記文字)、11b…非記録面側(表記文字)、12,13,14…用紙、20…磁気記録媒体作成用スパッタリング装置、21…エントランスチャンバー、22…ヒーティングチャンバー、23…第1のスパッターチャンバー、24…ヒーティングチャンバー、25…第2のスパッターチャンバー、26…ヒーティングチャンバー、27…第3のスパッターチャンバー、28…エグジットチャンバー、30…基板、31、32…ロックバルブ、33…ローダ、34…記録面指示装置、35…アンローダ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気ディスク基板の両主表面が記録層形成の条件を満たしているか否か判定するための表面検査を行う検査工程を備えた磁気ディスク基板の製造方法であって、
一方の主表面が前記条件を満たし他方の主表面が前記条件を満たさない磁気ディスク基板に対して、前記他方の主表面に判別可能な情報を付すことを特徴とする磁気ディスク基板の製造方法。
【請求項2】
磁気ディスク基板の両主表面が記録層形成の条件を満たしているか否か判定するための表面検査を行う検査工程と、少なくとも一方の主表面が前記条件を満たす複数の磁気ディスク基板を前記条件の満たされた主表面が同一方向を向くように出荷容器に収納して梱包する梱包工程とを備え、
どちらの主表面が前記条件を満たした記録面であるかを示す記録面情報及び又はどちらの主表面が前記条件を満たしていない非記録面であるかを示す非記録面情報が前記出荷容器に付された状態で後の成膜工程へ送られることを特徴とする磁気ディスク基板の製造方法。
【請求項3】
磁気ディスク基板の両主表面が記録層形成の条件を満たしているか否か判定するための表面検査を行う検査工程と、少なくとも一方の主表面が前記条件を満たす複数の磁気ディスク基板を前記条件の満たされた主表面が同一方向を向くように出荷容器に収納して梱包する梱包工程とを備え、
前記出荷容器と、どちらの主表面が前記条件を満たした記録面であるかを示す記録面情報又はどちらの主表面が前記条件を満たしていない非記録面であるかを示す非記録面情報とを予め対応付け、前記磁気ディスク又は前記出荷容器に情報を直接付すことなく、前記記録面情報又は前記非記録面情報を後の成膜工程へ送ることを特徴とする磁気ディスク基板の製造方法。
【請求項4】
一方の主表面に記録層が形成される磁気ディスク基板であって、記録層形成の条件を満たしていない主表面に、記録面でないことを示す情報が付されたことを特徴とする磁気ディスク基板。
【請求項5】
磁気ディスク基板の両主表面のうちどちらの主表面が記録面又は非記録面であるかを把握する把握工程と、前記把握工程で把握した記録面側に記録層を成膜し、非記録面側に両主表面の膜応力を均衡させるダミー層を成膜する成膜工程とを具備したことを特徴とする磁気ディスクの製造方法。
【請求項6】
前記把握工程では、前記磁気ディスク基板の主表面に付された情報から記録面とすべき主表面を判定することを特徴とする請求項5記載の磁気ディスクの製造方法。
【請求項7】
前記把握工程では、複数の磁気ディスク基板を収納した出荷容器に付された記録面情報又は前記非記録面情報から記録面とすべき主表面を判定することを特徴とする請求項5記載の磁気ディスクの製造方法。
【請求項8】
前記把握工程では、複数の磁気ディスク基板を収納した出荷容器と対応付けられた情報であってどちらの主表面が前記条件を満たした記録面であるかを示す記録面情報又はどちらの主表面が前記条件を満たしていない非記録面であるかを示す非記録面情報を、当該磁気ディスク基板が収納されていた出荷容器との関係から求めることを特徴とする請求項5記載の磁気ディスクの製造方法。
【請求項9】
前記成膜工程は、前記記録層よりも安価な材料を用いてダミー層を成膜することを特徴とする請求項5から請求項8のいずれかに記載の磁気ディスクの製造方法。
【請求項10】
一方の主表面が記録層形成の条件を満たし他方の主表面が前記条件を満たさない磁気ディスク基板と、前記磁気ディスク基板の前記条件を満たした一方の主表面に形成された記録層と、前記磁気ディスク基板の前記条件を満たさない他方の主表面に形成され両主表面の膜応力を均衡させるダミー層とを具備したことを特徴とする磁気ディスク。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−64488(P2009−64488A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−229160(P2007−229160)
【出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【出願人】(503069159)ホーヤ ガラスディスク タイランド リミテッド (85)
【Fターム(参考)】