説明

磁気ディスク用ガラス基板の梱包体、磁気ディスク用ガラス基板の梱包方法および磁気ディスク製造方法

【課題】輸送中の磁気ディスク用ガラス基板への塵埃や異物の付着、ならびにガラス基板表面の状態変化を、より確実に防止する。
【解決手段】磁気ディスク用ガラス基板の二重梱包体222は、1つ以上の磁気ディスク用ガラス基板を収容するケース200と、ケース200を、脱気した状態で密封するアルミニウムラミネートフィルム製の第1の梱包袋210と、第1の梱包袋210をさらに外側から、脱気した状態で密封するプラスチックフィルム製の第2の梱包袋220と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク用ガラス基板の梱包体、磁気ディスク用ガラス基板の梱包方法および磁気ディスク製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、情報化技術の高度化に伴い、情報記録技術、特に磁気記録技術は著しく進歩している。磁気記録媒体のひとつであるHDD(ハードディスクドライブ)等の磁気記録媒体用基板として、磁気ディスクの小型化、薄板化、および高密度記録化に伴い、従来多く用いられてきたアルミニウム基板に代えて基板表面の平坦性及び基板強度に優れたガラス基板が用いられるようになってきている。
【0003】
また、磁気記録技術の高密度化に伴い、磁気ヘッドの方も薄膜ヘッドから、磁気抵抗型ヘッド(MRヘッド)、巨大磁気抵抗型ヘッド(GMRヘッド)へと推移してきていて、磁気ヘッドの基板からの浮上量が20nmから5nm程度にまで狭くなってきている。このような磁気抵抗効果型素子を搭載した磁気ヘッドには固有の障害としてヘッドクラッシュ障害やサーマルアスペリティ障害を引き起こす場合がある。これらの障害は磁気ディスク面上の微小な凹凸によって発生するため、磁気ディスク表面は極めて高度な平滑度および平坦度が求められる。
【0004】
上述のように平滑度・平坦度が重視される磁気ディスク用ガラス基板は、塵埃などによるパーティクルがガラス基板の表面に付着して汚染されることを嫌う。パーティクルで汚染されたガラス基板に磁性層を形成すると、コロージョンを生じ、ヘッドクラッシュ傷害やサーマルアスペリティ障害の原因となるからである。したがって、ガラス基板の表面に磁性層を形成する作業は、通常、クリーンルームにて行う。
【0005】
ここで、製造されたガラス基板をクリーンルームまで輸送する間にガラス基板に付着するパーティクルの問題が生じる。
【0006】
ガラス基板でなく、磁気ディスクを梱包対象とした従来技術として、磁気ディスクを収納容器に収納し、第一の梱包袋および第二の梱包袋で二重に梱包して輸送するものがある(例えば特許文献1)。かかる梱包体によれば、磁気ディスクは梱包袋中に密封されているため、パーティクルや異物の梱包袋内への侵入を防止することができる。
【0007】
また、例えば特許文献2のような素材の包装袋を使用して、輸送中のガラス基板の汚染を防ぐ技術が提案されている。特許文献2では、ガラス基板を水蒸気透過率が5g/m・day以下である包装部材によって保持体と共に密封包装することにより、輸送時や保管時などにガラス基板の主表面の劣化を防いでいる。
【特許文献1】特開平11−157591号公報
【特許文献2】特開2001−240178号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
磁気ディスクの汚染を防ぐ梱包技術は特許文献1等によって提案されているが、ガラス基板へのパーティクルの付着を完全に防止する手段は発見されていない。梱包されるものがガラス基板の場合、磁気ディスクとは異なる特有の問題がある。すなわち、梱包をしていても水蒸気や外気がガラス基板に接触することによって、ガラス基板表面のイオンが溶け出し、イオンバランスが崩れたり、或いは酸化作用により、表面が荒れるおそれもある。
【0009】
本発明はこのような課題に鑑み、輸送中のガラス基板への塵埃や異物の付着、ならびにガラス基板表面の状態変化を、より確実に防止する磁気ディスク用ガラス基板の梱包体、磁気ディスク用ガラス基板の梱包方法および磁気ディスク製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、上記の課題について鋭意検討した結果、ガラス基板にパーティクルが付着したり、表面状態が変化したりする可能性の高い、ガラス基板輸送中の梱包手段を強化することが現段階ではガラス基板の良品率を向上させる最も有効な方法であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
上述の課題を解決するために、本発明にかかる磁気ディスク用ガラス基板の梱包体の代表的な構成は、1つ以上の磁気ディスク用ガラス基板を収容するケースと、ケースを、脱気した状態で密封する金属ラミネートフィルム製の第1の梱包袋と、第1の梱包袋をさらに外側から、脱気した状態で密封するプラスチックフィルム製の第2の梱包袋と、を含むことを特徴とする。
【0012】
上記の構成によれば、クリーンルームにガラス基板を搬入する前に、まず、塵埃が付着している外側の第2の梱包袋を開梱する。次に内側の第1の梱包袋を開梱して、ケースに入ったガラス基板をクリーンルームに搬入する。梱包体が二重梱包されているため、このように、第2の梱包袋を開梱する際に、輸送中に付着する塵埃をほぼ完全に除去することが可能である。
【0013】
また、両方の梱包袋とも脱気したうえで密封しているため、水蒸気やガスの透過が効果的に防止されている。なおプラスチックフィルムよりも金属ラミネートフィルムの方が水蒸気やガスの遮蔽性が高いため、内側の第1の梱包袋を金属ラミネートフィルムとすることにより、より効果的に上記遮蔽性の効果を得ることができる。金属ラミネートの金属としては、アルミニウムの他、ステンレス材、クロム、またはクロム酸処理、リン酸処理、クロメート処理や、ニッケル、スズ、亜鉛などでめっき処理した鋼板などを好適に用いることができる。
【0014】
なお、第1の梱包袋と第2の梱包袋の両方に金属ラミネートフィルムを用いることも考えられる。しかし金属ラミネートフィルムはポリエチレンなどのプラスチックフィルムよりも複雑な構造をしていて、材料費が高騰するおそれがある。このため、水蒸気やガスの遮断については金属ラミネートフィルム性の第1の梱包袋で実現し、塵埃や大方の水蒸気の進入はプラスチックフィルム性の第2の梱包袋で防止することにより、梱包としての性能を確保しつつ材料費を低廉に抑えることができる。
【0015】
第2の梱包袋は、第1の梱包袋を直接に梱包していて、第1の梱包袋の四方は丸められている、あるいは鈍角化されているとよい。これにより、内側の強靭な第1の梱包袋の四方(角)の鋭利な形状によって、外側の第2の梱包袋が破れてしまうことを防止している。
【0016】
すなわち、金属ラミネートフィルムは硬度が高いが、また縁部はヒートシール(熱圧着)されて柔軟性を失っているためさらに硬度が高くなっている。これに対し外袋である第2の梱包袋を構成するプラスチックフィルムは柔軟性が高く、さほどの強度は得にくい。くわえて第2の梱包袋も脱気していると第2の梱包袋に密着することになるため、搬送する際の振動や外圧によって、第1の梱包袋の角部が第2の梱包袋の同じ箇所に繰り返し接触することになり、やがてこれを破いてしまうおそれがある。
【0017】
特許文献1では、第1および第2の梱包袋で二重に梱包がされているものの、かかる袋の破れを防止するため、第1および第2の梱包袋の間には、箱形状のケースが介在している。このようなケースを介在させることは開梱に手間がかかる上、運搬する際の重量の増加の原因ともなるため、好ましくない。
【0018】
しかし、第1の梱包袋の四方を面取りする(アールを取る)ことにより、本発明では、第2の梱包袋が第1の梱包袋を直接に梱包し、両者が密着しても、破れを効果的に防止することができる。第1の梱包袋の角の面取りは、第2の梱包袋の強度にもよるが、実験的に、曲率半径が、ヒートシールを行う部分の幅の1/10程度であればよい。
【0019】
第1の梱包袋は、ポリエチレンフィルム、アルミニウムフィルム、延伸ナイロンフィルムおよびポリエチレンテレフタレートフィルムから成るとよい。
【0020】
これらの素材をラミネートすることによって水蒸気透過率、酸素透過率を下記のように低減することが可能である。
【0021】
第1の梱包袋の水蒸気透過率は、0.1g/m・day以下であるとよい。水蒸気透過率をこのような値にすることにより、ガラス基板が湿気に曝され汚染されたり、表面の状態変化を回避するためである。
【0022】
第1の梱包袋の酸素透過率は、0.1cc/m・day以下であるとよい。水蒸気透過率が低い梱包袋を用いた場合と同様、酸素透過率が低い梱包袋を用いれば、ガラス基板の表面の状態変化を防止することができるからである。
【0023】
上述の課題を解決するために、本発明にかかる磁気ディスク用ガラス基板の梱包方法は、1つ以上の磁気ディスク用ガラス基板をケースに収容し、ケースを、金属ラミネートフィルム製の第1の梱包袋を、脱気した状態で密封し、第1の梱包袋を、プラスチックフィルム製の第2の梱包袋を、さらに外側から、脱気した状態で密封することを特徴とする。
【0024】
また、上述の課題を解決するために、本発明にかかる磁気ディスク製造方法は、上記の梱包体を用いて梱包された磁気ディスク用ガラス基板に少なくとも磁性層を形成する成膜工程を行うことを特徴とする。
【0025】
上述した磁気ディスク用ガラス基板の梱包体の技術的思想に基づく構成要素やその説明は、当該磁気ディスク用ガラス基板の梱包方法および磁気ディスク製造方法にも適用可能である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、輸送中のガラス基板への塵埃や異物の付着をより確実に防止した状態で、磁性層の成膜を行うクリーンルームまで搬入することができる。また、輸送中に水分や外気にガラス基板が接触することによる表面の状態変化を生じることもない。その結果、最終製品である磁気ディスクの良品率が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
まず、本実施形態にかかる磁気ディスク用ガラス基板について説明する。図1は、本実施形態にかかる磁気ディスク用ガラス基板を説明する図であり、図1(a)は磁気ディスク用ガラス基板の斜視図である。磁気ディスク用ガラス基板100は、円板形状をしていて、その中心には内孔が形成されている。主表面110は、情報を記録再生するための領域であるため、記録ヘッドが浮上走行するために実質的に平滑になっている。
【0028】
図1(b)は、図1(a)のX−X断面図である。磁気ディスク用ガラス基板100は、情報の記録再生領域となる主表面110と、当該主表面110に対して直交している端面120と、当該主表面110と端面120との間に介在している面取面130とを備えている。なお、後述する端面研磨工程により端面120と面取面130との境界が不明瞭となる場合もあるため、本実施形態は端面120とその両側の面取面130があわせて1つの曲面を構成する場合も含むものとする。
【0029】
磁気ディスクの成膜工程前に磁気ディスク用ガラス基板100、特にその主表面110にパーティクルや異物が付着すると、成膜工程においてガラス基板に平滑な磁性層を形成することができず、最終製品である磁気ディスクの良品率が低下する。
【0030】
図2は、ガラス基板のケースへの収納状態を説明する図である。図2(a)は、ガラス基板を保管するための容器であるプラスチック製の略直方体のガラス基板ケースの拡大図である。ケース200は25枚のガラス基板を収納可能とし、ガラス基板100はケース200に保存される。ガラス基板100が収納されたケース200は、図2(b)のように複数個(本実施形態では4個)を積み重ねることができる。なおケース200に収納する磁気ディスク用ガラス基板の数は1つ以上であればよく、その数は特に限定されない。
【0031】
図3は、ガラス基板が収納されたケースの梱包状態を説明する図である。ガラス基板100が収納されたケース200は、図2(b)に示すような複数個積み重ねられた状態から、まず、図3(a)に示すように、ケース200を、脱気した状態で密封する脱気された金属ラミネートフィルム製の第1の梱包袋210で梱包され、梱包体212となる。次に、図3(b)に示すように、第1の梱包袋210をさらに外側から直接に、脱気した状態で密封するプラスチックフィルム製の第2の梱包袋220で梱包され、二重梱包体222となる。このプラスチックフィルムは、例えばポリエチレンとしてよい。なお、本実施形態においては、ケース200を複数個積み重ねた状態で梱包しているが、ケース200一つごとに梱包してもよい。
【0032】
上記の構成によれば、クリーンルームにガラス基板100を搬入する前に、まず、塵埃が付着している外側の第2の梱包袋220を開梱する。次に内側の第1の梱包袋210を開梱して、ケース200に入ったガラス基板をクリーンルームに搬入する。梱包体が二重梱包されているため、このように、第2の梱包袋220を開梱する際に、輸送中に付着する塵埃をほぼ完全に除去することが可能である。
【0033】
また、両方の梱包袋210、220とも脱気したうえで密封しているため、水蒸気やガスの透過が効果的に防止されている。また脱気は、窒素などの不活性ガスを充填してから行ってもよい。
【0034】
図4は図3の第1の梱包袋の大きさの一例を示す図である。第1の梱包袋の縦横のサイズは500mm×400mmとし、ヒートシールを行う部分170の幅を10mmとしているが、これらの数値は例示にすぎない。同図に示すように、第1の梱包袋210の四方は、曲率半径1mmの曲線形状に丸められている。あるいは、鈍角化してもよい。これにより、第2の梱包袋220が第1の梱包袋210を直接に梱包し、両者が密着しても、内側の強靭な第1の梱包袋210の四方(角)の鋭利な形状によって、外側の第2の梱包袋220が破れてしまうことを防止している。なお曲率半径を1mmとしたのは、ヒートシール部分170の幅の1/10程度の曲率半径で丸めれば、破れ防止機能を確保するには十分だからである。
【0035】
梱包袋210のうち3方は斜線に示す部分170にてヒートシールされている。内容物を封入した後、脱気し、開口部180をヒートシールして内容物を密封する。
【0036】
図5は図3の第1の梱包袋のラミネート構造を示す概略図である。本実施形態では、上述のように、第1の梱包袋210を金属ラミネートフィルム製としている。本願では、積層される複数のフィルムから成り、そのうち1つでも金属製のフィルムを含むものであれば、金属ラミネートフィルム製と呼ぶ。具体的には、図5に示す通り、第1の梱包袋210は、内側から、ポリエチレンフィルム410、アルミニウムフィルム(金属製フィルム)420、延伸ナイロンフィルム430およびポリエチレンテレフタレートフィルム440が積層されている。
【0037】
これらの素材を上述の順番でラミネートすることによって、水蒸気透過率、酸素透過率を下記のように低減することが可能である。
【0038】
図6は、図5のアルミニウムラミネートフィルムの特性を示す一覧表である。とりわけ、第1の梱包袋210の水蒸気透過率が0.1g/m・day以下であること、酸素透過率が0.1cc/m・day以下であることに注目されたい。水蒸気透過率および酸素透過率をこのような値にすることにより、ガラス基板100が湿気に曝されて化学変化することによる表面の状態変化が確実に回避される。
【0039】
その他、ヒートシール強度が24.5N/15mmとなっている。かかるヒートシール強度は、二重のヒートシールをすることによって得られている。二重のヒートシールとは、脱気しながら図4に示した部分170について、あるラインに沿って1回目のヒートシールを行い、さらにそのラインの外側のラインに沿って、2回目のヒートシールを行う方法である。
【0040】
上記のように梱包されたガラス基板100は、ガラス基板製造施設から出荷され、磁気ディスク製造施設へ運搬される。磁気ディスク製造施設到着後、開梱工程が行われる。
【0041】
二重梱包体222の二重の梱包袋のうち、外側の梱包袋である第2の梱包袋210を所定の室(図示は省略)で開梱し、梱包体212とする。この所定の室は、別室(図示は省略)と隣接していて、当該別室から気流が流れこんでいるとよい。
【0042】
梱包体212の第1の梱包袋210は、この別室において開梱する。かかる別室は、所定の室と、生産ラインが設置されているクリーンルームとに隣接する中間の室であり、所定の室に向かって気流が発生している。
【0043】
(実施例)
以下に、本発明を適用した磁気ディスク用ガラス基板の製造方法、磁気ディスク用ガラス基板および磁気ディスクについて実施例を説明する。梱包対象となる磁気ディスク用ガラス基板100は、2.5インチ型ディスクとして製造されるものを意図している。その他、0.8インチ型ディスク(内径6mm、外径21.7mm、板厚0.381mm)、1.0インチ型ディスク(内径7mm、外径27.4mm、板厚0.381mm)、1.8インチ型磁気ディスク(内径12mm、外径48mm、板厚0.508mm)などの所定の形状を有する磁気ディスクとしてもよい。3.5インチ型ディスクに適用してもよいが、アルミニウム製の基板など、基板自体がガラスでないものは梱包対象として意図していない。
【0044】
(1)形状加工工程および第1ラッピング工程
本実施形態においてガラス基板100の材質としてはソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、ボロシリケートガラス、結晶化ガラス等が挙げられるが、中でもアルミノシリケートガラスが好適である。アルミノシリケートガラスは、平滑かつ高剛性が得られるので、磁気的スペーシング、特に、磁気ヘッドの浮上量をより安定して低減できる。また、アルミノシリケートガラスは化学強化により、高い剛性強度を得ることができる。
【0045】
まず、溶融させたアルミノシリケートガラスを上型、下型、胴型を用いたダイレクトプレスによりディスク形状に成型し、アモルファスの板状ガラスを得た。なお、アルミノシリケートガラスとしては、化学強化用のガラスを使用した。ダイレクトプレス以外に、ダウンドロー法やフロート法で形成したシートガラスから研削砥石で切り出して円板状の磁気ディスク用ガラス基板100を得てもよい。なお、アルミノシリケートガラスとしては、SiO:58〜75重量%、Al:5〜23重量%、LiO:3〜10重量%、NaO:4〜13重量%を主成分として含有する化学強化ガラスを使用した。
【0046】
次に、この板状ガラスの両主表面をラッピング加工し、ディスク状のガラス母材とした。このラッピング加工は、遊星歯車機構を利用した両面ラッピング装置により、アルミナ系遊離砥粒を用いて行った。具体的には、板状ガラスの両面に上下からラップ定盤を押圧させ、遊離砥粒を含む研削液を板状ガラスの主表面上に供給し、これらを相対的に移動させてラッピング加工を行った。このラッピング加工により、平坦な主表面を有するガラス母材を得た。
【0047】
(2)切り出し工程(コアリング、フォーミング)
次に、ダイヤモンドカッタを用いてガラス母材を切断し、このガラス母材から円板状のガラス基板を切り出した。次に、円筒状のダイヤモンドドリルを用いて、このガラス基板の中心部に内孔を形成し、円環状のガラス基板100とした(コアリング)。そして内周端面および外周端面120をダイヤモンド砥石によって研削し、所定の面取り加工を施した(フォーミング)。
【0048】
(3)第2ラッピング工程
次に、得られたガラス基板100の両主表面110について、第1ラッピング工程と同様に、第2ラッピング加工を行った。この第2ラッピング工程を行なうことにより、前工程である切り出し工程や端面研磨工程において主表面に形成された微細な凹凸形状を予め除去しておくことができ、後続の主表面110に対する研磨工程を短時間で完了させることができるようになる。
【0049】
(4)端面研磨工程
次に、ガラス基板100の外周の端面研磨を行なう。まず端面120については、面取面130に先立ち、単独で研磨を行なう。研磨の方法は、例えば複数枚のガラス基板100を同時にブラシにて研磨する方法でもよいが、取代が多くなってしまう。そこで、例えば枚葉式の研磨方法を用いてよい。
【0050】
続いて面取面130については、鏡面研磨を行った。これにより、1枚のガラス基板100の面取面130の、外周の全周における表面粗さの差は、0.001μm以下の範囲になった。そして、端面研磨工程を終えたガラス基板100を水洗浄した。この端面研磨工程により、ガラス基板100の端面120は、ナトリウムやカリウムの析出の発生を防止できる鏡面状態に加工された。
【0051】
なお、本実施例では端部の研磨を行った後に面取面130の研磨を行なうよう説明した。しかしこの順序については任意であって、面取面130の研磨を先に行ってから端面120の研磨を行ってもよい。
【0052】
次に、内周端面については、多数枚積層したガラス基板ブロックを形成し、面取りした内周端部をブラシロールにて同時に研磨してよい。このとき、研磨砥粒としては、酸化セリウム砥粒を含むスラリー(遊離砥粒)を用いた。
【0053】
(5)主表面研磨工程
主表面研磨工程として、まず第1研磨工程を施した。この第1研磨工程は、前述のラッピング工程において主表面110に残留したキズや歪みの除去を主たる目的とするものである。この第1研磨工程においては、遊星歯車機構を有する両面研磨装置により、硬質樹脂ポリッシャを用いて、主表面110の研磨を行った。研磨剤としては、酸化セリウム砥粒を用いた。
【0054】
この第1研磨工程を終えたガラス基板100を、中性洗剤、純水、IPA(イソプロピルアルコール)、の各洗浄槽に順次浸漬して、洗浄した。
【0055】
次に、主表面研磨工程として、第2研磨工程を施した。この第2研磨工程は、主表面110を鏡面状に仕上げることを目的とする。この第2研磨工程においては、遊星歯車機構を有する両面研磨装置により、軟質発泡樹脂ポリッシャを用いて、主表面110の鏡面研磨を行った。研磨剤としては、第1研磨工程で用いた酸化セリウム砥粒よりも微細な酸化セリウム砥粒を用いた。
【0056】
この第2研磨工程を終えたガラス基板100を、中性洗剤、純水、IPA(イソプロピルアルコール)の各洗浄槽に順次浸漬して、洗浄した。なお、各洗浄槽には、超音波を印加した。
【0057】
(6)化学強化工程
次に、前述のラッピング工程および研磨工程を終えたガラス基板100に、化学強化を施した。化学強化は、硝酸カリウム(60%)と硝酸ナトリウム(40%)を混合した化学強化溶液を用意し、この化学強化溶液を400℃に加熱しておくとともに、洗浄済みのガラス基板100を300℃に予熱し、化学強化溶液中に約3時間浸漬することによって行った。この浸漬の際には、ガラス基板100の表面全体が化学強化されるようにするため、複数のガラス基板100が端面120で保持されるように、ホルダに収納した状態で行った。
【0058】
このように、化学強化溶液に浸漬処理することによって、ガラス基板100の表層のリチウムイオンおよびナトリウムイオンが、化学強化溶液中のナトリウムイオンおよびカリウムイオンにそれぞれ置換され、ガラス基板100が強化される。ガラス基板100の表層に形成された圧縮応力層の厚さは、約100μm乃至200μmであった。
【0059】
化学強化処理を終えたガラス基板100を、20℃の水槽に浸漬して急冷し、約10分間維持した。そして、急冷を終えたガラス基板100を、約40℃に加熱した濃硫酸に浸漬して洗浄を行った。さらに、硫酸洗浄を終えたガラス基板100を純水、IPA(イソプロピルアルコール)の各洗浄槽に順次浸漬して洗浄した。なお、各洗浄槽には超音波を印加した。
【0060】
上記の如く、第1ラッピング工程、切り出し工程、端面研磨工程、第2ラッピング工程、第1および第2研磨工程、ならびに化学強化工程を施すことにより、平坦で平滑な、高剛性の磁気ディスク用ガラス基板100を得た。
【0061】
(7)検査工程
得られた磁気ディスク用ガラス基板100の主表面110について平滑性の検査を行った。検査工程は、表面欠陥検出装置(AOI:Automatic Optical Inspection)やOSA(Optical Surface Analyzer)等の機器を用いて、磁気ディスク用ガラス基板100に光を照射し磁気ディスク用ガラス基板100から反射した光の強度もしくは変位のいずれか一方または両方を測定し、付着物、凹部および凸部が存在するか否か等を測定し、基板状態を評価する。
【0062】
(8)梱包工程
25枚の磁気ディスク用ガラス基板100をケース200に収容し、ケース200を4個重ね、アルミニウムラミネートフィルム製の第1の梱包袋210を、脱気した状態で密封して梱包体212とした。次に、梱包体212を、プラスチックフィルム製の第2の梱包袋220をさらに外側から、脱気した状態で密封して二重梱包体222とした。
【0063】
上記のように、ガラス基板100がケース200に収納され、第1の梱包袋210および第2の梱包袋220で二重に梱包された二重梱包体222を、ガラス基板製造施設から出荷され、船や飛行機、列車等によって磁気ディスク製造施設へ運搬される。
【0064】
(9)開梱工程
二重梱包体222のうち、外側の梱包袋である第2の梱包袋220を所定の室において開梱し、梱包体212とした。かかる所定の室は、別室と隣接していて、別室から気流が流れこんでいる(所定の室および別室は図示を省略する)。
【0065】
梱包体212の第1の梱包袋210を別室において開梱した。別室は、所定の室と、生産ラインが設置されているクリーンルームとに隣接していて、所定の室に向かって気流が発生させた。
【0066】
(11)搬入工程
ガラス基板100上に磁性層を形成する成膜工程を行うため、ケース200に収納されたガラス基板100を、生産ラインが設置されているクリーンルーム(図示は省略)へ搬送した。
【0067】
[評価]
以上の工程によって開梱されたガラス基板における本実施形態の有効性について説明する。図7は、本実施形態である二重梱包体222と、比較例である一重の梱包体212とを、高温多湿(50℃/60%RH)の環境下で5日間放置した後に、ガラス表面に付着したパーティクルの数を、再び表面欠陥検出装置(OSA6100)を用いてカウントした。(各々100枚ずつを測定)その結果、本実施形態(二重梱包)および比較例(一重梱包)との間に明らかなパーティクルカウント数の差異が見られ、前者が梱包品質として高い優位を示す結果が得られている。
【0068】
(12)磁気ディスク製造工程(成膜工程)
上記の梱包体を用いて梱包された磁気ディスク用ガラス基板に少なくとも磁性層を形成する成膜工程を行うことを特徴とする。
【0069】
上述した梱包方法および製造工程を経て得られたガラス基板100の両面に、ガラス基板100の表面にCr合金からなる付着層、CoTaZr基合金からなる軟磁性層、Ruからなる下地層、CoCrPt基合金からなる垂直磁気記録層、水素化炭素からなる保護層、パーフルオロポリエーテルからなる潤滑層を順次成膜することにより、垂直磁気記録ディスクを製造した。なお、本構成は垂直磁気ディスクの構成の一例であるが、面内磁気ディスクとして磁性層等を構成してもよい。
【0070】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、磁気ディスク用ガラス基板の梱包体、磁気ディスク用ガラス基板の梱包方法および磁気ディスク製造方法に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明にかかる磁気ディスク用ガラス基板を説明する図である。
【図2】ガラス基板のケースへの収納状態を説明する図である。
【図3】ガラス基板が収納されたケースの梱包状態を説明する図である。
【図4】図3の第1の梱包袋の大きさの一例を示す図である。
【図5】図3の第1の梱包袋のラミネート構造を示す概略図である。
【図6】図5のアルミニウムラミネートフィルムの特性を示す一覧表である。
【図7】本実施形態である二重梱包体と、比較例である一重の梱包体とを、高温多湿の環境下で耐久試験した結果を示す表である。
【符号の説明】
【0073】
100…ガラス基板
110…主表面
120…端面
130…面取面
200…ケース
210…第一の梱包袋
212…梱包体
220…第二の梱包袋
222…二重梱包体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の磁気ディスク用ガラス基板を収容するケースと、
前記ケースを、脱気した状態で密封する金属ラミネートフィルム製の第1の梱包袋と、
前記第1の梱包袋をさらに外側から、脱気した状態で密封するプラスチックフィルム製の第2の梱包袋と、
を含むことを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の梱包体。
【請求項2】
前記第2の梱包袋は、前記第1の梱包袋を直接に梱包していて、第1の梱包袋の四方は丸められている、あるいは鈍角化されていることを特徴とする請求項1に記載の磁気ディスク用ガラス基板の梱包体。
【請求項3】
前記第1の梱包袋は、ポリエチレンフィルム、アルミニウムフィルム、延伸ナイロンフィルムおよびポリエチレンテレフタレートフィルムから成ることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気ディスク用ガラス基板の梱包体。
【請求項4】
前記第1の梱包袋の水蒸気透過率は、0.1g/m・day以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の磁気ディスク用ガラス基板の梱包体。
【請求項5】
前記第1の梱包袋の酸素透過率は、0.1cc/m・day以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の磁気ディスク用ガラス基板の梱包体。
【請求項6】
前記第1の梱包袋は、遮光性を有することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の磁気ディスク用ガラス基板の梱包体。
【請求項7】
1つ以上の磁気ディスク用ガラス基板をケースに収容し、
前記ケースを、金属ラミネートフィルム製の第1の梱包袋を脱気して密封し、
前記第1の梱包袋を、プラスチックフィルム製の第2の梱包袋を脱気してさらに外側から密封することを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の梱包方法。
【請求項8】
請求項1から6までのいずれか1項に記載の梱包体を用いて梱包された磁気ディスク用ガラス基板に少なくとも磁性層を形成する成膜工程を行うことを特徴とする磁気ディスク製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−163803(P2009−163803A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−340830(P2007−340830)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【出願人】(503069159)ホーヤ ガラスディスク タイランド リミテッド (85)
【Fターム(参考)】