説明

磁気ディスク用ガラス基板の製造方法および磁気ディスク製造方法

【課題】複数の研磨工程を経て所望の端部形状を有することとなる磁気ディスク用ガラス基板を提供。
【解決手段】先行研磨工程では、ガラス基板1の主表面の端部形状が、主表面の中央部と比べて隆起した形状となるように研磨パッド10および酸化セリウム研磨砥粒40を用いて遊星歯車運動による研磨を行う。把握工程では、先行研磨工程で得られるガラス基板の端部形状を予め把握する。決定工程では、先行研磨工程にて隆起した形状を相殺する方向に変化させることで端部形状を所望の形状とし、かつ、ガラス基板の表面粗さを、算術平均粗さ(Ra)が0.2nm以下であり、最大山高さ(Rp)が2nm以下となるように後続研磨工程に用いる研磨パッドの硬度および研磨砥粒の粒径を決定する。後続研磨工程では、決定工程で決定された硬度の研磨パッド20および決定された粒径の研磨砥粒としてコロイダルシリカ砥粒50を用いて遊星歯車運動による研磨を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータ等の記録媒体として用いられる磁気ディスク用ガラス基板の製造方法および磁気ディスク製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録媒体には一層の記録密度の向上が要求されている。磁気記録密度を向上させるには、例えば、記録ヘッドの浮上量を小さくする必要がある。記録ヘッドの浮上量を小さくすることにより、スペーシングロスを低減させることができ、記録密度を向上させることができるからである。
【0003】
記録ヘッドの浮上量を小さくするには、記録媒体である磁気ディスクの表面粗さを低減させるだけでなく、記録ヘッドの浮上を安定させるために、磁気ディスクの端部形状も、中央部分に比較して起伏のない実質的に平坦な形状とすることが必要である。そして、磁気ディスクの端部形状を実質的に平坦にするには、磁気ディスク用のガラス基板の端部形状を実質的に平坦にする必要がある。
【0004】
特に、近年、記録密度の向上を図るため、垂直磁気記録方式等が開発されているが、磁気ディスク用ガラス基板の端部形状を、起伏のない精密な平坦な形状に保つことができなければ、垂直磁気記録方式は採用できず、記録密度の向上は図れない。
【0005】
従来、端部形状の乱れ等を防止する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法として、例えば特許文献1が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−141852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし従来の、例えば10nm程度の浮上量からさらに低浮上量化を進めて記録ヘッドを浮上走行させた場合、磁気ヘッドの浮上が安定せず、記録ヘッドがクラッシュするという問題が生じていた。本願発明者らは、ヘッドがクラッシュした原因を調べた結果、ガラス基板の端部形状が所望の平坦な形状になっていないことがクラッシュの原因であることを突き止めた。
【0008】
また、本願発明者が研磨工程を検討した結果、従来の後研磨工程では、上述のクラッシュを回避するほどの平坦さを端部形状に持たせることは、非常に困難であるという事実を突き止めた。したがって、端部形状を、現状より一層良好な平坦形状にする手段を講じる必要がある。
【0009】
しかし、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法には、複数の研磨工程をはじめとして、ガラス基板の端部形状を変化させる複数の処理工程が含まれている。それら複数の処理工程のうち1つの処理工程だけを見直して所望の端部形状を形成することは、他の充足すべき要求(例えば、加工時間や加工条件といった製造条件・コストや、ガラス基板として求められる表面形状の特性値)との関係上、限界がある。
【0010】
本発明はこのような課題に鑑み、複数の研磨工程をはじめとする複数の処理工程を見直すことにより、所望の端部形状を有する磁気ディスク用ガラス基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者は、複数の研磨工程で端部形状が変化することから、最終的に求める端部形状を得るためには、先行する研磨工程での端部形状の形状変化特性(形状変化量および変化形状)を、先行する研磨工程の前に把握しておき、後続の研磨工程における端部形状の形状変化特性を設定することで、磁気ヘッドの浮上量の削減を可能にする端部形状が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。なお、先行する研磨工程の前に予め把握しておくものは、後続の研磨工程における端部形状の変化としてもよい。その場合、把握しておいた変化に応じて、先行する研磨工程における端部形状の形状変化特性を設定すればよい。
【0012】
本発明によれば、上述の課題を解決するために、ガラス基板の端部形状が変化する第1処理工程および第2処理工程を含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、第1処理工程の前に、第1処理工程後のガラス基板の端部形状を把握する把握工程を含み、第2処理工程では、把握工程によって把握された端部形状を相殺する方向に変化させることで所望の端部形状を得ることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、上述の課題を解決するために、ガラス基板とガラス基板の主表面を研磨する研磨パッドとの間に研磨砥粒を含有する研磨液を供給し、ガラス基板と研磨パッドとを相対的に移動させることで研磨する研磨工程を複数含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、上記の複数の研磨工程には、ガラス基板の主表面の端部形状が、主表面の中央部と比べて隆起した形状となるよう研磨を行うための先行研磨工程と、先行研磨工程にて隆起した形状を相殺する方向に変化させることで端部形状を所望の形状とするための研磨を行う後続研磨工程とが含まれることを特徴とする。
【0014】
上述の所望の形状とは、ガラス基板の端部形状が実質的に平坦であることとしてよいし、ガラス基板の端部形状が中央部と比べて下降した形状であることとしてもよい。具体的には、例えば、上記第1処理工程および第2処理工程を行った後に、例えば、端部形状が盛り上がり形状に変化する化学強化処理を行う場合には、上記第2処理工程を終えた時点で、ガラス基板の端部形状が中央部と比べて下降した形状にすることが好ましい。また、第2処理工程を行った後、端部形状が変化するような処理を行わない場合には、上記第2処理工程を終えた時点で、ガラス基板の端部形状が実質的に平坦である形状とすることが好ましい。
【0015】
また、上述の後続研磨工程では、端部形状が平坦なガラス基板を研磨した場合に端部形状が中央部と比べて下降した形状となるように研磨を行うこととしてよい。
【0016】
上記の先行研磨工程に用いる研磨パッドより硬度の高い研磨パッドを後続研磨工程に用いてよい。
【0017】
本発明によれば、以上の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法により得られたガラス基板の表面に少なくとも磁性層を形成することを特徴とする磁気ディスクを製造してよい。
【0018】
本発明によれば、研磨液に含有される研磨砥粒と、研磨液を供給されながらガラス基板と相対的に移動する研磨パッドとで構成されるセットを複数セット用いることにより、ガラス基板の主表面を複数回研磨する磁気ディスク用ガラス基板の研磨装置において、複数セットは、主表面の端部が中央部と比べて隆起した形状となるよう、後続研磨工程の前の先行研磨工程を行う第1のセットと、隆起した形状を相殺する方向に変化させることで端部を平坦に近付ける後続研磨工程を行う第2のセットとを含むことを特徴とする。
【0019】
上記の第2のセットは、端部が平坦なガラス基板を研磨した場合に端部が中央部と比べて下降した形状となる研磨を行うものとしてよい。
【0020】
また、第2のセットによる後続研磨工程の結果、主表面の端部は実質的に平坦にしてよく、あるいは、主表面の端部が中央部と比べて下降した形状としてよい。
【0021】
上述の第1のセットの研磨パッドより第2のセットの研磨パッドの硬度を高くしてよい。
【0022】
上記の複数の研磨工程は、複数の研磨工程を行った後のガラス基板の主表面の粗さ(Ra)が0.2nm以下となるように研磨する。
【0023】
本発明によれば、ガラス基板とガラス基板の主表面を研磨する研磨パッドとの間に研磨砥粒を含む研磨液を供給し、ガラス基板と研磨パッドとを相対的に移動させることでガラス基板の主表面を研磨する複数の研磨工程を含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、複数の研磨工程では、主表面における端部が平坦なガラス基板を研磨した場合に端部の形状が中央部と比べて隆起した形状となるようにガラス基板の主表面を研磨する第1研磨工程と、主表面における端部が平坦なガラス基板を研磨した場合に端部の形状が中央部と比べて下降した形状となるようにガラス基板の主表面を研磨する第2研磨工程とを行うことで、ガラス基板の端部形状を実質的に平坦な形状にすることを特徴とする。
【0024】
本発明によれば、ガラス基板とガラス基板の主表面を研磨する研磨パッドとの間に研磨砥粒を含む研磨液を供給し、ガラス基板と研磨パッドとを相対的に移動させることでガラス基板の主表面を研磨する複数の研磨工程と、ガラス基板を化学強化処理液に接触させることにより、ガラス基板に含まれる一部のイオンを化学強化処理液中のイオンに置換することにより、ガラス基板の主表面における端部の形状が中央部と比べて隆起した形状となる化学強化処理工程を含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、複数の研磨工程は、主表面における端部が平坦なガラス基板を研磨した場合に端部の形状が中央部と比べて隆起した形状となるようにガラス基板の主表面を研磨する第1研磨工程と、主表面における端部が平坦なガラス基板を研磨した場合に端部の形状が中央部と比べて下降した形状となるようにガラス基板の主表面を研磨する第2研磨工程とを含んでいて、複数の研磨工程および化学強化処理工程を行うことでガラス基板の端部形状を実質的に平坦な形状にすることを特徴とする。
【0025】
上記の複数の研磨工程は、複数の研磨工程を行った後のガラス基板の主表面の粗さ(Ra)が0.2nm以下となるように研磨する。
【0026】
本発明によれば、上述のいずれかの磁気ディスク用ガラス基板の製造方法により得られたガラス基板の表面に少なくとも磁性層を形成することを特徴とする磁気ディスクを製造してよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、複数の処理工程間で端部形状の変化を相殺する方向に変化させて、所望の端部形状を形成することが可能である。とりわけ、先行研磨工程で生じた隆起した形状を後続研磨工程で相殺する方向に変化させて、磁気ディスク用ガラス基板の端部を平坦に近付けることが可能である。
【0028】
本発明によれば、後続研磨工程にて得られる端部形状を実質的に平坦とすることが可能であるし、また、下降した形状を残存させておくことも可能である。この下降した形状は、後続研磨工程のさらに後に行われる化学強化処理工程にて生じる隆起する形状を相殺するよう、予め残存させたものであり、化学強化処理工程を経てガラス基板の端部を最終的に実質的に平坦な形状とすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明による磁気ディスク用ガラス基板の研磨装置の実施形態である、両面研磨装置を説明する図である。
【図2】本発明に用いる研磨パッドの構成を説明する拡大断面図である。
【図3】図1に示す研磨装置を用いて本発明による磁気ディスク用ガラス基板の製造方法の実施形態を示す模式図である。
【図4】円板状のガラス基板の中心を通り、主表面に垂直な面でガラス基板を切断した断面図である。
【図5】(a)は本実施例における研磨条件を示す表であり、(b)は本実施例と比較される比較例における研磨条件を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
まず、本願にて端部形状を表現する用語「隆起」(以下「スキージャンプ」と称する)、「下降」(以下「ロールオフ」と称する)、「平坦」の意味を図4を用いて説明する。上記「スキージャンプ」とは、ガラス基板の主表面の端部において、中央部と比べて隆起している(盛り上がっている)形状を示す。また、上記「ロールオフ」とは、ガラス基板の主表面の端部において、中央部と比べて下降している(盛り下がっている)形状を示す。また、上記「平坦」とは、ガラス基板の主表面の端部が、中央部と比べて略同じ形状(主表面と直交する方向の形状)を示す。これについて、以下に詳述する。
【0031】
図4は円板状のガラス基板1の中心を通り、主表面1aに垂直な面でガラス基板1を切断した断面図であり、図4(a)はスキージャンプを示し、図4(b)はロールオフを示す。図4(a)(b)の平坦な主表面1aの輪郭線上の記録エリアM内に、中心から近い順に2点の基準点R1、R2を設定する。また、記録エリアMの外周端部からさらに外周方向に一定の距離のマージンをとった、主表面1aに垂直な境界線R3(グライド領域Gの外周端位置)を設定し、境界線R3とガラス基板1の輪郭線との交点をロールオフ点Rとする。次に、点R1と点R2とを結ぶ直線R4を描く。そして、図4において、直線R4を基準(値ゼロ)として、上方向を正の方向、下方向を負の方向とする。このとき、点R2から点Rまでの領域において、最も大きい値を有する点、すなわち直線R4から正の方向に最も乖離した位置にあるガラス基板1の輪郭線上の点Sをスキージャンプ点とする。スキージャンプ点Sの値S5がスキージャンプ値である。そしてロールオフ点Rの値がロールオフ値R5である。
【0032】
より詳細に説明すると、ガラス基板の中心から半径方向に点R1、R2、R3をと設定する。このうち、点R1とR2とは、ガラス基板の中央部(ガラス基板の半径方向における中央付近の位置)に設定する。そして、点R1とR2とを通る直線を引いたとき、R2とR3の間における当該直線とガラス基板表面との乖離(基板面と直交する方向の乖離)を測定する。そして、その乖離のうち、正方向(盛り上がっている方向)の乖離が最大の点をスキージャンプ点(点S)、そのときの乖離の大きさをスキージャンプ値とし、負方向(盛り下がっている方向)の乖離が最大の点をロールオフ点(点R)、また、そのときの乖離の大きさをロールオフ値とする。
【0033】
図4(a)ではスキージャンプ値S5が正、ロールオフ値R5が負であり、図4(b)ではスキージャンプ値S5がゼロ、ロールオフ値R5が負である。本願では、図4(a)のようにスキージャンプ値S5が正になる形状をスキージャンプ(主表面の端部が中央部と比べて隆起した形状)と呼び、図4(b)のようにスキージャンプ値がゼロでロールオフ値R5が負になる形状をロールオフ(主表面の端部が中央部と比べて下降した形状)と呼ぶ。そして、スキージャンプ値またはロールオフ値の絶対値が小さいほど端部形状は平坦に近付き、スキージャンプ値およびロールオフ値がともにゼロであれば平坦形状であると本願では定義する。
【0034】
なお、基板のサイズに応じて、上記点Rl、R2、境界線R3は適宜選択される。例えば、ガラス基板が外径サイズ2.5インチ(外径65mmφ)の基板である場合、境界線R3は、ガラス基板の端面から内側に1mmの位置に定める。また、外径サイズ2.5インチの基板の場合、例えば、基板の中心からの距離をそれぞれ、点R1までが23mm、点R2までが27mm、境界線R3までが31.5mm、端面までが32.5mm、のように定めることができる。
【0035】
換言すると、基板の中心から見て、基板の外径(端部)までの、71%の位置をR1、83%の位置をR2、97%の位置をR3と設定することができる。
【0036】
スキージャンプ値およびロールオフ値の絶対値が過大になる場合、端部形状が悪いために、磁気ヘッドの浮上安定性が悪くなり、また、磁気ディスクの回転安定性が悪くなり、ひどい場合はヘッドクラッシュが発生し磁気ディスクドライブに搭載できなくなるので好ましくない。好ましいスキージャンプ値、ロールオフ値は、それぞれ、±0.10μmの範囲であり、より好ましくは、±0.05μmの範囲内である。
【0037】
スキージャンプまたはロールオフのいずれが生じるかは、様々な要因があるが、例えば、研磨液に含有される研磨砥粒の粒径や、研磨パッドの硬度、研磨条件等によって決定される。
【0038】
また、磁気ヘッドの浮上量を低減させる場合には、上記ガラス基板の主表面における端部形状が重要であることは勿論であるが、主表面全体の粗さおよび端部形状の粗さも重要である。磁気ヘッドは、主表面の内周端から外周端までを浮上走行するため、それぞれの位置における粗さ、および、特に回転速度が速いガラス基板主表面の端部における粗さが重要になってくる。
【0039】
具体的には、ガラス基板の主表面は、原子間力顕微鏡(AFM)(デジタルインスツルメンツ社製ナノスコープ)で測定したときの表面粗さRaは0.2nm以下であることが好ましい。また、このときの最大高さ(Rmax)は2nm以下であることが好ましい。
【0040】
さらに、ディスク外周端からディスク中心方向に向かって2.5mmの主表面上の点を中心とした3.8平方mmの矩形領域における表面形状のうち、形状波長が16μm〜1.9μmの帯域の表面形状を抽出し、この表面形状の二乗平均粗さRq(RMS)を微小うねりRqとしたとき、上記微小うねりRqが0.5nm以下であることがさらに好ましい。
【0041】
次に添付図面を参照して本発明による磁気ディスク用ガラス基板の製造方法、磁気ディスク製造方法および磁気ディスク用ガラス基板の研磨装置の実施例を詳細に説明する。
【0042】
[磁気ディスク用ガラス基板の研磨装置]
図1は、本発明による磁気ディスク用ガラス基板の研磨装置の実施形態である、両面研磨装置を説明する図である。両面研磨装置3は、研磨パッド10を用い、ガラス基板1と研磨パッド10とを相対的に移動させて研磨を行う装置である。
【0043】
図1(a)は両面研磨装置の駆動機構部の説明図であり、図1(b)は上下定盤を有する両面研磨装置の主要部断面図である。図1(a)に示すように、両面研磨装置3はそれぞれ所定の回転比率で回転駆動されるインターナルギア34及び太陽ギア35を有する研磨用キャリア装着部と、この研磨用キャリア装着部を挟んで互いに逆回転駆動される上定盤31及び下定盤32とを有する。上定盤31および下定盤32のガラス基板1と対向する面には、それぞれ後述する研磨パッド10が貼り付けられている。インターナルギア34および太陽ギア35に噛合するように装着した研磨用キャリア33は遊星歯車運動をして、太陽ギア35の周囲を自転しながら公転する。
【0044】
研磨用キャリア33にはそれぞれ複数のガラス基板1が保持されている。上定盤31は上下方向に移動可能であって、図1(b)に示すように、ガラス基板1の表裏の主表面に研磨パッド10を加圧する。そして研磨砥粒を含有するスラリーを供給しつつ、研磨用キャリア33の遊星歯車運動と、上定盤31および下定盤32が互いに逆回転することにより、ガラス基板1と研磨パッド10とは相対的に移動して、ガラス基板1の表裏の主表面が研磨される。
【0045】
上記のごとく構成した両面研磨装置3は、研磨液に含有される研磨砥粒と、研磨液を供給されながらガラス基板1と相対的に移動する研磨パッド10とで構成されるセットを複数セット用いることにより、ガラス基板の製造工程において段階的に複数回行われるガラス基板1の主表面研磨に用いることができる。後述する実施例では、ガラス基板の主表面を研磨する工程として、予備研磨(1次研磨)工程、鏡面研磨(2次研磨)工程の2回の研磨工程を実施する。これらの工程において両面研磨装置3の構成はほぼ同様であるが、使用する研磨液(スラリー)に含有される研磨砥粒、および研磨パッド10の組成が異なる。一般的な傾向としては後工程になるほど研磨砥粒の粒径は小さくなり、研磨パッド10の硬さは柔らかくなる。
【0046】
しかし、予備研磨工程の前に行われる粗削り工程にて、従来より低粗さの基板が得られる場合には、1次研磨(予備研磨)のパッドとして、従来より軟質のパッドを使用できる可能性がある。そのため、1次研磨では従来より少ない取り代の研磨にて、十分に目的が達せられる場合がある。しかし、1次研磨で従来より軟質の研磨パッドを使用した場合には、端部の隆起(スキージャンプ)がより顕著に生じる場合がある。かかる場合には、2次研磨において、1次研磨で生じたスキージャンプを相殺するまでに至らず、端部がスキージャンプとなったままの形状となってしまう可能性がある。そこで、それを解決するための1つの方法として、本発明では、後工程である2次研磨にて、研磨砥粒の粒径の大きさや研磨パッドの材質・硬度を変更するなど、研磨条件を変化させることにより、1次研磨にて生じたスキージャンプを2次研磨にて相殺する方向に変化させて、端部形状を平坦に近付ける。
【0047】
図2は本発明に用いる研磨パッドの構成を説明する拡大断面図である。同図に示すように、研磨パッド10は、ポリウレタンやポリエステルなど合成樹脂の発泡体が用いられる。特に現状では、発泡ポリウレタンが好ましい。図2によると、研磨パッド10は、不織布等からなる基層13と、基層13の表面に積層されたナップ層14とからなる。かかるナップ層14には、複数の気泡がナップ層14の厚み方向に雫形状に形成される。本実施形態ではこの気泡をナップ孔15としている。このような発泡体の硬度は、混入する気泡(ナップ孔15)の量によって調節することができる。
【0048】
[磁気ディスク用ガラス基板の製造方法]
図3は図1に示す研磨装置を用いて本発明による磁気ディスク用ガラス基板の製造方法の実施形態を示す模式図である。本方法は、図3(a)(b)に示す複数の研磨工程を含む。これら研磨工程では、研磨砥粒40または50を含有する研磨液を供給しながらガラス基板1と研磨パッド10または20とを相対的に移動させてガラス基板1の主表面を研磨する。図3(a)は、主表面の端部が中央部と比べて隆起した形状(スキージャンプ)となるよう研磨を行う先行研磨工程であり、後述の実施例における予備研磨工程に相当する。図3(b)は、隆起した形状(スキージャンプ)を相殺する方向に変化させて、端部を平坦に近付ける研磨を行う後続研磨工程であり、後述の実施例における鏡面研磨工程に相当する。先行研磨工程は、研磨砥粒40と研磨パッド10とで構成されるセットによって実現され、後続研磨工程は、研磨砥粒50と研磨パッド20とで構成されるセットによって実現される。
【0049】
なお、上記「中央部」とは、磁気ディスク用ガラス基板を用いて磁気ディスクを製造した場合における情報を書き込む情報記録領域のうちの半径方向における中心を含む領域を意味し、図4に示すグライド領域Gの少なくとも一部の領域に相当する。
【0050】
本実施形態では、図3(a)の先行研磨工程の前に、この工程で生じる、端部が中央部と比べて隆起したスキージャンプ形状を予め把握して、図3(b)の後続研磨工程に用いる研磨パッド20の硬度および研磨砥粒50の粒径を決定する把握工程をさらに含んでよい。把握工程では、例えば、先行研磨工程後に、ガラス基板の端部形状を測定しておき、後続研磨工程での処理条件を決定すればよい。
【0051】
かかる把握工程により、図3(a)の先行研磨工程に用いる研磨パッド10より、図3(b)の後続研磨工程に用いる研磨パッド20の硬度を高くしてよい。研磨パッド10、20の硬度は、上述のように、これらパッドに混入する気泡の量によって調節してよい。また上述の把握工程により、図3(a)の先行研磨工程に用いる研磨砥粒より、図3(b)の後続研磨工程に用いる研磨砥粒の粒径を小さくしてよい。つまり、本発明は、先行研磨工程によって得られるガラス基板の端部形状を予め把握する把握工程と、後続研磨工程に用いる研磨パッドの硬度および研磨砥粒の粒径を決定する決定工程とを含む。
【0052】
上述のように、研磨パッドの硬度をより高くし、さらに/あるいは、研磨砥粒の粒径をより小さくした図3(b)の後続研磨工程では、仮に、端部が平坦なガラス基板を研磨した場合に、ガラス基板100のように端部が中央部と比べて下降した形状(ロールオフ)となる研磨を行う。
【0053】
このような研磨を、既に端部がスキージャンプとなっているガラス基板1に適用した結果、図3(c)のように、主表面の端部を実質的に平坦にすることが可能である。あるいは、図3(b)の後続研磨工程の結果、主表面の端部を中央部と比べて下降した形状(ロールオフ)としておいてもよい。これは、後続研磨工程のさらに後に行われる化学強化処理工程で生じる端部形状変化(スキージャンプ)を予め見込んで、後続研磨工程にてロールオフにしておく研磨方法である。ロールオフにすると言っても、予備研磨工程によって生じるスキージャンプよりは平坦に近付けたロールオフにするということである。
【0054】
なお、本実施形態では、先行研磨工程でガラス基板の端部に生じたスキージャンプを後続研磨工程で相殺する方向に変化させているが、先行研磨工程でロールオフを生じさせ、それを後続研磨工程で相殺する方向に変化させてもよい。
【0055】
ここで、上記先行研磨工程(1次研磨工程、予備研磨工程)および後続研磨工程(2次研磨工程、鏡面研磨工程)について、それぞれ説明する。
【0056】
本実施の形態にかかる先行研磨工程では、後述する後続研磨工程を行った後のガラス基板の端部形状が平坦になるように、ガラス基板の端部形状を作り出す。具体的には、先行研磨工程では、主表面における端部が平坦なガラス基板を研磨した場合に端部の形状が中央部と比べて隆起した形状となるように上記ガラス基板の主表面を研磨する。
【0057】
また、本実施の形態にかかる後続研磨工程では、ガラス基板の端部形状を平坦にする。具体的には、後続研磨工程では、主表面における端部が平坦なガラス基板を研磨した場合に端部の形状が中央部と比べて下降した形状となるように上記ガラス基板の主表面を研磨する。
【0058】
また、上記後続研磨工程では、ガラス基板の表面を鏡面にする。後続研磨工程にて用いる研磨砥粒としては、コロイド状シリカ粒子を用いることが好ましい。なお、研磨液中のコロイド状シリカ粒子の含有量は、5重量%以上40重量%以下とすることが好ましい。
【0059】
また、コロイド状シリカ粒子のグレイン径は80nm以下とすることが好ましく、50nm以下とすることがより好ましい。このような微細な研磨砥粒であれば、磁気ディスク用ガラス基板として好ましい平滑鏡面を得られるからである。なお、グレイン径の下限値は、後続研磨工程における研磨加工速度を考慮して定めることが好ましく、例えば、20nm以上とすることができる。
【0060】
後続研磨工程では、ガラス基板の表面粗さを、例えば、算術平均粗さ(Ra)が0.2nm以下であり、最大山高さ(Rp)が2nm以下となるように研磨を行う。ここで最大山高さ(Rp)とは、ガラス基板の表面の所定領域の表面形状を測定し、この表面形状の平均面を求め、この平均面を基準としたときの、最も高い地点の平均面からの高さの事である。また、これらの値は、AFM(原子間力顕微鏡)を用いて測定された値である。
【0061】
[磁気ディスクの製造方法]
上述の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法により得られたガラス基板の表面に少なくとも磁性層を形成して磁気ディスクを製造すれば、端部が実質的に平坦な磁気ディスクなど、所望の端部形状を有する磁気ディスクが得られる。
【0062】
[磁気ディスク用ガラス基板の製造方法]
本発明をさらに一般化すれば、ガラス基板1に対して行われる第1処理工程と、第1処理工程で生じたガラス基板1の端部形状の変化を相殺する方向に変化させて所望の端部形状を形成する第2処理工程とを含む実施形態も考えられる。端部形状を、互いに相殺する方向に変化させる第1・第2処理工程は、複数の研磨工程に限定されない。すなわち、後続の工程において、先行する工程での端部形状変化を相殺する方向に変化させるという技術思想に該当する、いかなる実施形態も考えられる。
【0063】
例えば、(A)第1処理工程:LAP(研削)、第2処理工程:研磨、(B)第1処理工程:化学強化、第2処理工程:研磨、(C)第1処理工程:予備研磨(1次研磨)、第2処理工程:鏡面研磨(2次研磨)等が挙げられる。図1から図3までを用いて説明したのは、上記(C)の例である。
【0064】
このように、研磨や化学強化などの工程では、端部形状が変化してしまうため、第1処理工程の前に、その工程で生じる端部形状の変化を予め把握して第2処理工程の処理条件を決定してよい。端部形状の変化を予め把握するには、例えば、第1処理工程後に、ガラス基板の端部形状を測定しておけばよい。
【0065】
また、処理工程の数が2つに限られないことは言うまでもない。例えば、(D)1次研磨→2次研磨→化学強化という工程や、(E)1次研磨→2次研磨→化学強化→研磨という工程や、(F)化学強化→1次研磨→2次研磨という工程など、様々なパターンが考えられる。いかなるパターンにおいても、個々の工程後、ガラス基板の端部形状が所望の形状になっていればよい。
【0066】
化学強化を行わない場合には、最後の研磨工程で端部形状を平坦にすればよいが、上記例(D)のように、2次研磨後に化学強化工程を行い、その後研磨を行わない場合には、化学強化で生じる端部形状の隆起の程度を予め把握しておき、化学強化後の端部形状が平坦になるように、2次研磨後の端部形状をロールオフ形状にしておけばよい。一方、上記例(E)(F)のように、化学強化後にさらに研磨を行う場合(強化層を残した状態で粗さおよび端部形状の改善を行いたい場合)においては、できるだけ、少ない取代で研磨を行いために、予め化学強化条件によって得られる端部形状を把握しておき、その端部形状を相殺する方向に変化させるだけの研磨を行うことで、強化層を残した(十分に強度をもった)ままで端部形状および粗さの改善を行うことができる。この研磨によって、端部形状を実質的に平坦にする。
【実施例1】
【0067】
本実施例では、以下の(1)〜(11)の工程を経て、磁気ディスク用ガラス基板、及び垂直磁気記録ディスクを製造した。
【0068】
(1)形状加工工程
まず、アモルファスガラスからなる多成分系のガラス基板を用意した。ガラスの硝種はアルミノシリケートガラスであり、具体的な化学組成は、SiO2が63.5重量%、Al2O3が14.2重量%、Na2Oが10.4重量%、Li2Oが5.4重量%、ZrO2が6.0重量%、Sb2O3が0.4重量%、As2O3が0.1重量%とした。
【0069】
このガラス基板は、ダイレクトプレス法で成形し、ディスク状のガラス基板とした。そして、砥石を用いてガラス基板の中央部分に孔をあけ、中心部に円孔を有するディスク状のガラス基板1とした。さらに、外周端面および内周端面に面取加工を施した。
【0070】
(2)端面研磨工程
続いて、ガラス基板1を回転させながら、ブラシ研磨によりガラス基板1の端面(内周、外周)の表面粗さを、最大高さ(Rmax)で1.0μm程度、算術平均粗さ(Ra)で0.3μm程度になるように研磨した。
【0071】
(3)研削工程
続いて、#1000の粒度の砥粒を用いて、主表面の平坦度が3μm、Rmaxが2μm程度、Raが0.2μm程度となるようにガラス基板表面を研削した。ここで平坦度とは、基板表面の最も高い部分と、最も低い部分との上下方向(表面に垂直な方向)の距離(高低差)であり、平坦度測定装置で測定した。また、Rmax、及びRaは、原子間力顕微鏡(AFM)(デジタルインスツルメンツ社製ナノスコープ)にて測定した。
【0072】
(4)予備研磨工程
予備研磨工程は、上記研削工程(3)で研削され、さらに粗削りされたガラス基板を初めて研磨パッドを用いて研磨する工程である。一度に100枚〜200枚のガラス基板の両主表面を研磨できる研磨装置3を用いて予備研磨工程を実施した。研磨パッドには、ポリウレタン系軟質ポリッシャを用いた。研磨パッドには、予め酸化ジルコニウムと酸化セリウムとを含ませてあるものを使用した。
【0073】
図5(a)は本実施例における研磨条件を示す表である。予備研磨(1次研磨)工程における研磨液は、水に、平均粒径が1.2μmの酸化セリウム研磨砥粒40を混合することにより作成した。なお研磨砥粒40の粒径は、1.0〜1.4μmの範囲内が好ましい。なお、グレイン径が4μmを越える研磨砥粒は予め除去した。研磨液を測定したところ、研磨液に含有される研磨砥粒の最大値は3.5μm、平均値は1.2μm、D50値は1.1μmであった。その他、ガラス基板1に加える荷重は80〜100g/cmとし、ガラス基板1の表面部の除去厚は20〜40μmとした。
【0074】
なお、図5の 表中の「端部形状」とは、その研磨工程のみを単独で行った場合の端部形状を示している。具体的には、フラット(平坦)な端部を有するガラス基板を用いてその研磨工程を行った場合において生じる端部の形状を示している。 そして図5の表中の「結果」とは、一連の1次・2次研磨工程がそれぞれ終わった後の基板の端部形状を示している。
【0075】
そして、この(4)予備研磨工程を行った後の端部形状を観測したところ、図3(a)に示すように、端部形状がスキージャンプ形状であることが分かった。
【0076】
(5)鏡面研磨工程
鏡面研磨工程は、予備研磨されたガラス基板をさらに研磨して、ガラス基板の主表面が鏡面化するまで研磨する工程である。一度に100枚〜200枚のガラス基板の両主表面を研磨できる研磨装置3を用いて、鏡面研磨(2次研磨)工程を実施した。研磨パッドには、ポリウレタン系軟質ポリシャを用いた。鏡面研磨工程における研磨液は、超純水に、さらにグレイン径が40nmのコロイド状シリカ粒子を加えて作製した。なおコロイド状シリカ粒子のグレイン径は、20〜60nmの範囲内が望ましい。そして、この(5)鏡面研磨工程を行った後の端部形状を観測したところ、図3(c)に示すように、端部形状が実質的に平坦な形状であることが分かった。
【0077】
なお、(5)鏡面研磨工程を行う直前の端部形状が平坦なガラス基板を用いて、(5)鏡面研磨工程を行ったところ、端部形状は、図3(b)に示すガラス基板100のように、ロールオフ形状となった。
【0078】
つまり、本発明では、予備研磨工程において端部形状がスキージャンプ形状となる研磨を行い、後続の鏡面研磨工程では、当初平坦な端部形状をロールオフ形状とするような研磨を行うことで、最終的に得られるガラス基板の端部形状を、所望の値となるように制御している。
【0079】
(6)鏡面研磨処理後の洗浄工程
続いて、ガラス基板1を、濃度3〜5wt%のNaOH水溶液に浸漬してアルカリ洗浄を行った。なお、洗浄は超音波を印加して行った。さらに、中性洗剤、純水、純水、イソプロピルアルコール、イソプロピルアルコール(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬して洗浄した。洗浄後のガラス基板1の表面をAFM(デジタルインスツルメンツ社製ナノスコープ)により観察したところ、コロイダルシリカ研磨砥粒の付着は確認されなかった。また、ステンレスや鉄などの異物も発見されなかった。
【0080】
(7)化学強化処理工程
続いて、硝酸カリウム(60%)と硝酸ナトリウム(40%)とを混合して375℃に加熱した化学強化塩の中に、300℃に予熱した洗浄済みガラス基板1を約3時間浸漬することにより化学強化処理を行った。この処理により、ガラス基板1の表面のリチウムイオン、ナトリウムイオンは、化学強化塩中のナトリウムイオン、カリウムイオンにそれぞれ置換され、ガラス基板1は化学的に強化される。なお、ガラス基板1の表面に形成された圧縮応力層の厚さは、約100〜200μmであった。化学強化の実施後は、ガラス基板1を20℃の水槽に浸漬して急冷し、約10分維持した。
【0081】
この化学強化処理工程の結果、ガラス基板1の端部は、基板表面に生じる圧縮応力によって膨張して盛り上がり、スキージャンプが発生することがある。かかる場合は、先行する鏡面研磨工程終了時に、全くの平坦にするのではなく、少々のロールオフ形状を残しておくようにしてもよい。つまり、化学強化処理工程を行った後で、平坦な端部形状となるように、予め、2次研磨工程(鏡面研磨工程)後の端部形状、および/または、1次研磨工程(予備研磨工程)後の端部形状を調整してもよい。
【0082】
(8)化学強化後の洗浄工程
続いて、上記急冷を終えたガラス基板1を、約40℃に加熱した硫酸に浸漬し、超音波を掛けながら洗浄して、磁気ディスク用ガラス基板の製造を完了した。
【0083】
(9)磁気ディスク用ガラス基板の検査工程
続いて、磁気ディスク用ガラス基板について検査を行った。磁気ディスク用ガラス基板の表面の粗さをAFM(原子間力顕微鏡)で測定したところ、最大山高さ(Rp)は1.8nm、算術平均粗さ(Ra)は0.25nmであった。また、表面は清浄な鏡面状態であり、磁気ヘッドの浮上を妨げる異物や、サーマルアスペリティ障害の原因となる異物は存在しなかった。
【0084】
(10)磁気ディスク製造工程
続いて、上述の磁気ディスク用ガラス基板に、ガラス基板の表面にCr合金からなる付着層、CoTaZr基合金からなる軟磁性層、Ruからなる下地層、CoCrPt基合金からなる垂直磁気記録層、水素化炭素からなる保護層、パーフルオロポリエーテルからなる潤滑層を順次成膜することにより、垂直磁気記録ディスクを製造した。
【0085】
(11)磁気ディスクの検査工程
続いて、以上のように製造された磁気ディスクの検査を行った。まず、浮上量が8nmである検査用ヘッドを用いて磁気ディスク上を浮上走行させるヘッドクラッシュ試験を実施した。その結果、磁気ヘッドが異物等に接触することもなく、クラッシュ障害は生じなかった。
【0086】
次に、再生素子部が磁気抵抗効果型素子であり、記録素子部が単磁極型素子であって、浮上量が8nmである磁気ヘッドを用いて、垂直記録方式による記録再生試験を行ったところ、正常に情報が記録、再生されることを確認した。この際、再生信号にサーマルアスペリティ信号が検出されることもなく、1平方インチ当り100ギガビットで記録再生を行うことができた。
【0087】
次に、磁気ディスクのグライドハイト試験を行った。この試験は、検査用ヘッドの浮上量を次第に低下させ、検査用ヘッドと磁気ディスクとの接触が生じる浮上量を確認する試験である。その結果、本実施例にかかる磁気ディスクでは、磁気ディスクの内縁部分から外縁部分にわたり、浮上量が4nmであっても接触が生じなかった。磁気ディスクの外縁部分においては、グライドハイトは3.7nmであった。
【0088】
図5(b)は本実施例と比較される比較例における研磨条件を示す表である。比較例によって得られたガラス基板を、上記と同様にして、磁気ディスクを作製し、ヘッドクラッシュ試験を実施した結果、磁気ヘッドが異物等に接触し、クラッシュ障害が生じた。
【0089】
図5(a)(b)を比較すると、1次・2次研磨とも、粒子径はほぼ同様であるが、1次研磨に用いる研磨パッドの材質がそれぞれ異なる。研磨パッドを比較すると、比較例である図5(b)の研磨パッド硬度は、1次研磨にて93C硬度であり、2次研磨にて84C硬度であり、1次研磨より2次研磨の方が研磨パッド硬度が低い。一方、本発明の実施例である図5(a)の研磨パッド硬度は、1次研磨にて80C硬度であり、2次研磨にて84C硬度であり、1次研磨より2次研磨の方が研磨パッド硬度が高い。
【0090】
なお、所望の端部形状を得る以外にも、加工速度(研磨速度)、基板の表面粗さ等の観点から、図5(a)の研磨パッド硬度は、1次研磨にて78〜82C硬度(アスカーC硬度)の範囲内にあるのが望ましく、2次研磨にて82〜86C硬度の範囲内にあるのが望ましい。換言すると、本発明において使用する研磨パッドの硬度(アスカーC硬度)については、2次研磨にて使用される研磨パッドのほうが、1次研磨にて使用される研磨パッドよりも硬度が高いことが好ましい。
【0091】
本発明の実施例では、1次研磨でスキージャンプとなったガラス基板端部の形状が2次研磨で相殺する方向に変化し、ロールオフ値が−0.046μmのロールオフとなっている。一方、比較例では、1次研磨でロールオフとなったガラス基板端部の形状が、2次研磨では相殺されないばかりか、さらに絶対値を増したロールオフ値−0.173μmのロールオフとなっている。この結果から見て明らかなように、本発明の実施例によれば、前後の研磨工程で生じる端部形状変化を互いに相殺することで、端部形状を、より平坦に近付けることができる。換言すると、最終的に、平坦な端部形状であり、かつ、主表面が平滑な磁気ディスク用ガラス基板を製造するためには、それぞれのプロセスを調整するだけでは非常に困難であり、複数のプロセスを連続して端部形状を制御することが重要である。つまり、2次研磨工程により変化する端部形状の変化量を予め把握しておき、2次研磨工程後の端部形状が平坦になるように、1次研磨工程における端部形状を調整することにより、平坦な端部形状である磁気ディスク用ガラス基板を製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、コンピュータ等の記録媒体として用いられる磁気ディスク用ガラス基板の製造方法および磁気ディスク製造方法に利用可能である。
【符号の説明】
【0093】
1、100 ガラス基板
3 両面研磨装置
10、20 研磨パッド
40、50 研磨砥粒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板と該ガラス基板の主表面を研磨する研磨パッドとの間に研磨砥粒を含有する研磨液を供給し、前記ガラス基板と研磨パッドとを相対的に移動させることで研磨する研磨工程を複数含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、
前記複数の研磨工程には、
前記ガラス基板の主表面の端部形状が、主表面の中央部と比べて隆起した形状となるように研磨パッドおよび酸化セリウム研磨砥粒を用いて遊星歯車運動による研磨を行うための先行研磨工程と、
前記先行研磨工程で得られるガラス基板の端部形状を予め把握する把握工程と、
前記先行研磨工程にて隆起した形状を相殺する方向に変化させることで前記端部形状を所望の形状とし、かつ、ガラス基板の表面粗さを、算術平均粗さ(Ra)が0.2nm以下であり、最大山高さ(Rp)が2nm以下となるように前記後続研磨工程に用いる研磨パッドの硬度および研磨砥粒の粒径を決定する決定工程と、
前記決定工程で決定された硬度の研磨パッドおよび決定された粒径の研磨砥粒としてコロイダルシリカ砥粒を用いて遊星歯車運動による研磨を行う後続研磨工程とが含まれることを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記先行研磨工程でのガラス基板表面部の除去厚は、20−40μmであることを特徴とする請求項1に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記所望の形状とは、前記ガラス基板の端部形状が実質的に平坦であることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記所望の形状とは、前記ガラス基板の端部形状が中央部と比べて下降した形状であることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項5】
前記後続研磨工程では、端部形状が平坦なガラス基板を研磨した場合に該端部形状が中央部と比べて下降した形状となるように研磨を行うことを特徴とする、請求項1から4までのいずれかに記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項6】
前記後続研磨工程では、前記先行研磨工程に用いる研磨パッドよりもアスカーC硬度の高い研磨パッドを用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項7】
前記先行研磨工程では、アスカーC硬度が78〜82である研磨パッドを用いることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれかに記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法により得られたガラス基板の表面に少なくとも磁性層を形成することを特徴とする磁気ディスクの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−51026(P2013−51026A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−262825(P2012−262825)
【出願日】平成24年11月30日(2012.11.30)
【分割の表示】特願2007−240054(P2007−240054)の分割
【原出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】