説明

磁気ディスク用ガラス基板の製造方法

【課題】 梱包する作業の過程において磁気ディスク用ガラス基板への塵埃の付着、ならびに磁気ディスク用ガラス基板表面の状態変化を、より確実に防止することを目的としている。
【解決手段】 本発明における磁気ディスク用ガラス基板100の製造方法は、磁気ディスク用ガラス基板100をケース300に収容し、ケース300を梱包袋350に格納するとき、静電気を帯電する帯電装置320によって、梱包作業の雰囲気から空気中に浮遊している塵埃310を吸着させて除去し、磁気ディスク用ガラス基板100を収容したケース300を梱包袋350に格納し、梱包袋350を脱気した状態で密封することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、情報化技術の高度化に伴い、情報記録技術、特に磁気記録技術は著しく進歩している。磁気記録媒体のひとつであるHDD(ハードディスクドライブ)等の磁気記録媒体用基板として、磁気ディスクの小型化、薄板化、および高密度記録化に伴い、従来多く用いられてきたアルミニウム基板に代えて基板表面の平坦性及び基板強度に優れたガラス基板が用いられるようになってきている。
【0003】
かかる磁気抵抗型ヘッド(MRヘッド)および巨大磁気抵抗型ヘッド(GMRヘッド)は、相対運動する磁気ヘッドと磁気ディスク間の空気の圧力によって浮上量を制御している。すなわち、空気流によって生じた正圧(磁気ヘッドが磁気ディスクより浮上する方向に働く圧力)と、負圧(磁気ヘッドスライダー下面に意図的に設けられた空間において空気の容積を増大し圧力が低下させることで発生する、磁気ヘッドが磁気ディスクへと吸着させる方向の圧力)とのバランスにより、磁気ヘッドの磁気ディスクからの浮上量が決定される。
【0004】
上述した磁気ヘッド浮上量の制御を安定化し、更なる低浮上量化を図るための技術の1つとして、近年、DFH(Dynamic Flying Height)という技術が開発されている。磁気ヘッドにヒータ素子を埋め込み、磁気ヘッドの動作時に、ヒータ素子を発熱させ、その熱によって磁気ヘッドが熱膨張し、磁気ディスクに向かってわずかに突出する。これにより、磁気ヘッドと磁気ディスク主表面との間に磁気的な間隙である磁気的スペーシングをその時にのみ小さくすることが可能である。すなわち、DFHとは、磁気ヘッドの磁気ディスクからの浮上量を低浮上量化することが可能な技術である。
【0005】
かかるDFHヘッドにより、更なる低浮上量化が図れたが、磁気ヘッドにはMR素子が搭載されており、その固有の障害としてヘッドクラッシュ障害やサーマルアスペリティ障害を引き起こすという問題がある。これらの障害は磁気ディスク面上の微小な凹凸によって発生するため、磁気ディスク主表面は極めて高度な平滑度および平坦度が求められる。磁気ディスクの平滑度に左右される浮上特性を評価する手段として、例えばグライドテスト(磁気ディスクの主表面に対向して、グライドヘッド(PZT(圧電素子)などの衝撃検知センサーを装備したヘッド)を配置し、所定のグライド高さでグライドヘッドを磁気ディスクに対し相対移動させることで浮上特性を評価する方法)により検査される。
【0006】
したがって、アルミニウム基板と比較すれば平坦性に優れたガラス基板においても、さらなる平滑度および平坦度が求められるようになってきている。ここで、ガラス基板を平滑かつ平坦に研磨することと同様またはそれ以上に、ガラス基板の主表面に付着する塵埃などのパーティクルが問題となる。パーティクルで汚染されたガラス基板に磁性層を形成すると磁気ディスク上に凸欠陥を生じるため、ヘッドクラッシュ傷害やサーマルアスペリティ障害の原因となるからである。このため、ガラス基板の主表面に磁性層/保護層などを形成する作業は、通常、クリーンルームにて行う。
【0007】
ここで、ガラス基板を製造してから、磁気ディスク生産拠点まで輸送する間にガラス基板に付着するパーティクルの問題が生じる。一般に磁気ディスク生産工程においては、まずガラス基板を洗浄し、付着したパーティクルを落とす。しかし、いかなる量のパーティクルも落とせるわけではなく、ガラス基板に付着しているパーティクルの量に多寡がある場合、洗浄後にガラス基板上に残留するパーティクルの量にも差が生じる。したがって搬入時(梱包開梱後)にガラス基板上に付着しているパーティクルをできるだけ少なくする必要があり、そのためにはガラス基板または磁気ディスクの製造方法に含まれる梱包方法、開梱方法、梱包構造、梱包材料は、極めて重要である。
【0008】
ここで、ガラス基板等を梱包する部屋に浮遊している極性を持った塵埃を除去する方法として、壁面および床面に帯電性塗料を塗布することで室内の塵埃を壁面および床面に吸着させ、室内の洗浄度を維持することが例えば特許文献1に公開されている。
【0009】
また、帯電しているガラス基板に空気イオン流を吹き付けることで、電荷を中和し、塵埃によるガラス基板への静電吸着を防止する方法が例えば特許文献2に公開されている。
【特許文献1】特開平7−284661号公報報
【特許文献2】特開2002−50499号公
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
磁気ディスク用ガラス基板の汚染を防ぐ梱包技術は特許文献1によって提案されているが、かかる梱包技術をガラス基板の梱包に応用しても、開梱後のガラス基板への塵埃の付着量削減は満足するに到らなかった。このため、近年の磁気ディスクの高記録密度化および磁気ヘッドの低浮上量化に伴って磁気ディスクに求められる平滑度・平坦度の基準を満たすことができなかった。したがって、ガラス基板への塵埃の付着を更に低減する必要性がある。
【0011】
また、磁気ディスク用ガラス基板の極性と塵埃の極性が異なれば、磁気ディスクが塵埃を吸着してしまうこともあり得るため、磁気ディスクの表面を汚染してしまうおそれがある。
【0012】
特許文献2に記載されているように、空気イオン流を磁気ディスク用ガラス基板に吹き付ければ帯電を除去できる。しかし、磁気ディスク用ガラス基板を電気的に中和しても静電吸着を防止するだけであって、空気中を浮遊する塵埃がガラス基板に付着することは防止できない。このため、高記録密度化にむけての対応は十分でなく、更なる磁気ディスク用ガラス基板への塵埃の付着を低減する必要性がある。
【0013】
本発明はこのような課題に鑑み、梱包する作業の過程において磁気ディスク用ガラス基板への塵埃の付着、ならびに磁気ディスク用ガラス基板表面の状態変化を、より確実に防止する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明にかかる磁気ディスク用ガラス基板の製造方法の代表的な構成は、磁気ディスク用ガラス基板をケースに収容し、ケースを梱包袋に格納するとき、静電気を帯電する帯電装置によって、梱包作業の雰囲気から空気中に浮遊している塵埃を吸着させて除去し、磁気ディスク用ガラス基板を収容したケースを梱包袋に格納し、梱包袋を脱気した状態で密封することを特徴とする。
【0015】
上記の構成によれば、梱包袋に磁気ディスク用ガラス基板を収容する梱包作業において、梱包作業の雰囲気に浮遊している塵埃を帯電装置によって吸着させて除去しているため、磁気ディスク用ガラス基板に付着する塵埃を低減することはもちろん、梱包袋の中に含まれている塵埃も低減することが可能となる。
【0016】
空気中に浮遊している塵埃に、荷電粒子放電器から荷電粒子を放電して塵埃を帯電させ、荷電粒子を放電された塵埃の極性に対して逆極性を前記帯電装置に帯電させてもよい。
【0017】
上記の構成により、空気中に浮遊する塵埃に荷電粒子放電器から荷電粒子を放電すると、塵埃はプラスの極性、マイナスの極性または中性の極性のいずれであっても、荷電粒子放電器から放電された極性に応じて同一の極性を持つようになる。したがって、例えば荷電粒子によって極性をマイナスにされた塵埃を、帯電装置にプラスの極性を持たせることにより吸着することが可能となる。
【0018】
磁気ディスク用ガラス基板にバイアス電圧をかけて塵埃と同じ極性に帯電させてもよい。極性を持った塵埃と同様の極性を磁気ディスク用ガラス基板に持たせることで、磁気ディスク用ガラス基板に塵埃を反発させて吸着を防止することが可能となる。
【0019】
当該磁気ディスク用ガラス基板は、DFHヘッドを用いて記録される磁気ディスクの製造に用いられてよい。
【0020】
本発明にかかる製造方法によって製造された磁気ディスク用ガラス基板は、従来の製造方法にて製造された磁気ディスク用ガラス基板よりもパーティクルの量が低減されているため、ガラス基板主表面の平滑度および平坦度が高い。したがって、本発明にかかる磁気ディスク用ガラス基板は、磁気ヘッドの浮上量が低いDFHヘッドを使用した磁気記録方式にて記録される磁気ディスクに用いられるのに好適である。
【0021】
当該磁気ディスク用ガラス基板は、磁気ディスクへの記録の際の磁気ヘッドの浮上量が10nm以下となる磁気ディスクの製造に用いられるとよい。
【0022】
上述したように、本発明にかかる製造方法によって製造された磁気ディスク用ガラス基板は、ガラス基板主表面の平滑度および平坦度が高い。したがって、かかるガラス基板を用いて製造される磁気ディスクは、磁気ヘッドの浮上量が10nm以下である記録方式に対応することができる。
【0023】
当該磁気ディスク用ガラス基板は、記録密度が200Gbit/inch以上の磁気ディスクの製造に用いられるとよい。
【0024】
上述したように、本発明にかかる製造方法によって製造された磁気ディスク用ガラス基板は、ガラス基板主表面の平滑度および平坦度が高いため、かかるガラス基板を用いて製造される磁気ディスクは、磁気ヘッドの浮上量が低浮上量である記録方式によって高記録密度化が達成される、200Gbit/inch以上の記録密度を有する磁気ディスクに好適に用いることが可能である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、磁気ディスク用ガラス基板を梱包する作業の過程において、空気中に浮遊する塵埃を磁気ディスク用ガラス基板に付着することを防ぎ、梱包中の梱包袋の中に塵埃の混入を防止することで、塵埃による磁気ディスク用ガラス基板表面に影響を受けない磁気ディスク用ガラス基板の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
まず、本実施形態にかかる磁気ディスク用ガラス基板の製造方法について説明する。図1は、本実施形態にかかる磁気ディスク用ガラス基板を説明する図であり、図1(a)は磁気ディスク用ガラス基板の斜視図である。磁気ディスク用ガラス基板100は、円板形状をしていて、その中心には内孔が形成されている。主表面110は、情報を記録再生するための領域であるため、記録ヘッドが浮上走行するために実質的に平滑になっている。
【0027】
図1(b)は、図1(a)のX−X断面図である。磁気ディスク用ガラス基板100は、情報の記録再生領域となる主表面110と、当該主表面110に対して直交している端面120と、当該主表面110と端面120との間に介在している面取面130とを備えている。なお、後述する端面研磨工程により端面120と面取面130との境界が不明瞭となる場合もあるため、本実施形態は端面120とその両側の面取面130があわせて1つの曲面を構成する場合も含むものとする。
【0028】
磁気ディスクの成膜工程前に磁気ディスク用ガラス基板100、特にその主表面110にパーティクルや異物が付着すると、成膜工程において磁気ディスク用ガラス基板に平滑な磁性層を形成することができず、最終製品である磁気ディスクの良品率が低下する。そこで、ガラス基板に対するパーティクルや異物の付着を防止する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法について説明する。
【0029】
(磁気ディスク用ガラス基板の製造方法)
続いて磁気ディスク用ガラス基板100を磁気ディスク用ガラス基板用のケースに収容してから、磁気ディスク用ガラス基板用のケースを梱包するまでの流れを説明する。
【0030】
図2は、磁気ディスク用ガラス基板100を磁気ディスク用ガラス基板用のケースに収容してから、磁気ディスク用ガラス基板用のケースを梱包するまでの流れの説明図である。図3は、磁気ディスク用ガラス基板のケースへの収納状態を説明する図である。図4は、塵埃を除去する装置の概略図である。
【0031】
まず、磁気ディスク用ガラス基板100の運搬を容易にするため、磁気ディスク用ガラス基板100をケースに収容する(S200)。ここで磁気ディスク用ガラス基板を収容するケースについて述べる。
【0032】
図3(a)は、磁気ディスク用ガラス基板を保管するための容器である略直方体の磁気ディスク用ガラス基板ケースの拡大図である。ケース300は1個もしくは複数の磁気ディスク用ガラス基板を収容可能とし、磁気ディスク用ガラス基板100はケース300に保存される。磁気ディスク用ガラス基板100を収容したケース300は、図3(b)のように複数個、例えば4個を並べられた状態で梱包袋に収容される。
【0033】
磁気ディスク用ガラス基板100をケース300に収容し、図4に示した空気中に浮遊している塵埃310の中から、マイナスの極性を持っている塵埃をプラスの極性を持たせた単数もしくは複数の帯電装置320によって吸着する(S210)。ここで、帯電装置320を使用して塵埃310を吸着している部屋等では、ファン(図示せず)などにより空気の流れ(対流)を作り、帯電装置320に向かって空気を流し塵埃310を吸着させることも可能である。
【0034】
帯電装置320に極性を持たせることにより、異なる極性を持っている塵埃310を吸着するので、空気中に浮遊している塵埃310の数を低減させる。
【0035】
しかし、すべての塵埃310はマイナスの極性を持っているわけではない。プラスの極性を持っている塵埃や、極性を持たない中性の塵埃が存在する。そこで、例えば空気中に浮遊している塵埃310の極性をマイナスの極性にするため荷電粒子放電器330を使用して、塵埃310の極性をマイナスにする荷電粒子を空気中に放電する(S220)。
【0036】
上記の構成により、空気中に浮遊する塵埃310に荷電粒子放電器330から荷電粒子を放電すると、塵埃310はプラスの極性、マイナスの極性または中性の極性のいずれであっても、荷電粒子放電器330から放電された荷電粒子の極性に応じて同一の極性を持つようになる。したがって、例えば帯電装置320にプラスの極性を持たせることにより、荷電粒子によって極性をマイナスにされた塵埃310を吸着する。
【0037】
さらに、磁気ディスク用ガラス基板100に塵埃310を吸着させないため、磁気ディスク用ガラス基板100にバイアス電圧をかけて塵埃と同じ極性であるマイナスに帯電させる図4の磁気ディスク用ガラス基板帯電装置340を取り付ける。そして磁気ディスク用ガラス基板帯電装置340は、磁気ディスク用ガラス基板100に塵埃310と同じ極性を持たせる(S230)。
【0038】
極性を持った塵埃310と同様の極性を磁気ディスク用ガラス基板100に持たせることで、磁気ディスク用ガラス基板100に塵埃310を反発させて吸着を防止する。
【0039】
これらの動作を行うことで、塵埃310は磁気ディスク用ガラス基板100に吸着せず帯電装置320によって除去される(S240)。そして、磁気ディスク用ガラス基板帯電装置340を磁気ディスク用ガラス基板から外し、塵埃310が除去された状態で、梱包袋にケースの梱包を行う(S250)。
【0040】
ここで図5は、磁気ディスク用ガラス基板100が収容されたケース300の梱包状態を説明する図である。磁気ディスク用ガラス基板100が収容されたケース300は、複数個積み重ねられた状態から、ケース300を、脱気した状態で密封する。そして脱気された梱包袋350で梱包され、梱包体352となる。
【0041】
上記の構成によれば、梱包袋350に磁気ディスク用ガラス基板100を収容する梱包作業において、梱包作業の雰囲気に浮遊している塵埃310を帯電装置320によって吸着させて除去しているため、磁気ディスク用ガラス基板100に付着する塵埃310を低減することはもちろん、梱包袋350の中に含まれている塵埃310も低減する。
【0042】
梱包体352の梱包袋350は、別室において開梱する(図示せず)。かかる別室は、所定の部屋と、生産ラインが設置されているクリーンルームとに隣接する中間の部屋であり、所定の部屋に向かって気流が発生している。
【0043】
以上、本発明にかかる磁気ディスク用ガラス基板の製造方法の実施形態を説明した。なお、当該磁気ディスク用ガラス基板は、従来の製造方法にて製造された磁気ディスク用ガラス基板100よりも塵埃の量が低減されているため、ガラス基板主表面の平滑度および平坦度が高い。したがって、高い平滑度および平坦度が要求される、低浮上量の磁気ヘッドでの記録方式、すなわち、磁気ヘッドの浮上量が10nm以下である記録方式にて記録される磁気ディスクに用いることができる。また、同様の観点から、当該磁気ディスク用ガラス基板は、磁気ヘッドの浮上量が低いDFHヘッドを使用した磁気記録方式にて記録される磁気ディスクに用いるのにも好適であり、更に、磁気ヘッドの低浮上量化によって高記録密度化が達成された、200Gbit/inch以上の記録密度を有する磁気ディスクに用いることもできる。
【0044】
他に、当該ガラス基板を用いて製造された磁気ディスクの平滑度は、グライドテストにおけるグライド高さが10nm以下という基準を満たすことができる。これは、本発明にかかる製造方法によって製造されたガラス基板は、主表面の平滑度および平坦度が高いため、当該ガラス基板を用いて製造された磁気ディスクにおいても主表面の平滑度および平坦度が向上するためである。
【0045】
(実施例)
以下に、本発明を適用した磁気ディスク用ガラス基板の製造方法について実施例を説明する。梱包対象となる磁気ディスク用ガラス基板100は、2.5インチ型ディスクとして製造されるものを意図している。その他、0.8インチ型ディスク(内径6mm、外径21.7mm、板厚0.381mm)、1.0インチ型ディスク(内径7mm、外径27.4mm、板厚0.381mm)、1.8インチ型磁気ディスク(内径12mm、外径48mm、板厚0.508mm)などの所定の形状を有する磁気ディスクとしてもよい。3.5インチ型ディスクに適用してもよい。
【0046】
(1)形状加工工程および第1ラッピング工程
本実施形態において磁気ディスク用ガラス基板100の材質としてはソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、ボロシリケートガラス、結晶化ガラス等が挙げられるが、中でもアルミノシリケートガラスが好適である。アルミノシリケートガラスは、平滑かつ高剛性が得られるので、磁気的スペーシング、特に、磁気ヘッドの浮上量をより安定して低減できる。また、アルミノシリケートガラスは化学強化により、高い剛性強度を得ることができる。
【0047】
まず、溶融させたアルミノシリケートガラスを上型、下型、胴型を用いたダイレクトプレスによりディスク形状に成型し、アモルファスの板状ガラスを得た。なお、アルミノシリケートガラスとしては、化学強化用のガラスを使用した。ダイレクトプレス以外に、ダウンドロー法やフロート法で形成したシートガラスから研削砥石で切り出して円板状の磁気ディスク用磁気ディスク用ガラス基板100を得てもよい。なお、アルミノシリケートガラスとしては、SiO:58〜75重量%、Al:5〜23重量%、LiO:3〜10重量%、NaO:4〜13重量%を主成分として含有する化学強化ガラスを使用した。
【0048】
次に、この板状ガラスの両主表面をラッピング加工し、ディスク状のガラス母材とした。このラッピング加工は、遊星歯車機構を利用した両面ラッピング装置により、アルミナ系遊離砥粒を用いて行った。具体的には、板状ガラスの両面に上下からラップ定盤を押圧させ、遊離砥粒を含む研削液を板状ガラスの主表面上に供給し、これらを相対的に移動させてラッピング加工を行った。このラッピング加工により、平坦な主表面を有するガラス母材を得た。
【0049】
(2)切り出し工程(コアリング、フォーミング)
次に、ダイヤモンドカッタを用いてガラス母材を切断し、このガラス母材から円板状の磁気ディスク用ガラス基板を切り出した。次に、円筒状のダイヤモンドドリルを用いて、この磁気ディスク用ガラス基板の中心部に内孔を形成し、円環状の磁気ディスク用ガラス基板100とした(コアリング)。そして内周端面および外周端面120をダイヤモンド砥石によって研削し、所定の面取り加工を施した(フォーミング)。
【0050】
(3)第2ラッピング工程
次に、得られた磁気ディスク用ガラス基板100の両主表面110について、第1ラッピング工程と同様に、第2ラッピング加工を行った。この第2ラッピング工程を行なうことにより、前工程である切り出し工程や端面研磨工程において主表面に形成された微細な凹凸形状を予め除去しておくことができ、後続の主表面110に対する研磨工程を短時間で完了させることができるようになる。
【0051】
(4)端面研磨工程
次に、磁気ディスク用ガラス基板100の外周の端面研磨を行なう。まず端面120については、面取面130に先立ち、単独で研磨を行なう。研磨の方法は、例えば複数枚の磁気ディスク用ガラス基板100を同時にブラシにて研磨する方法でもよいが、取代が多くなってしまう。そこで、例えば枚葉式の研磨方法を用いてよい。
【0052】
続いて面取面130については、鏡面研磨を行った。これにより、1枚の磁気ディスク用ガラス基板100の面取面130の、外周の全周における表面粗さの差は、0.001μm以下の範囲になった。そして、端面研磨工程を終えた磁気ディスク用ガラス基板100を水洗浄した。この端面研磨工程により、磁気ディスク用ガラス基板100の端面120は、ナトリウムやカリウムの析出の発生を防止できる鏡面状態に加工された。
【0053】
なお、本実施例では端部の研磨を行った後に面取面130の研磨を行なうよう説明した。しかしこの順序については任意であって、面取面130の研磨を先に行ってから端面120の研磨を行ってもよい。
【0054】
次に、内周端面については、多数枚積層したガラス基板ブロックを形成し、面取りした内周端部をブラシロールにて同時に研磨してよい。このとき、研磨砥粒としては、酸化セリウム砥粒を含むスラリー(遊離砥粒)を用いた。
【0055】
(5)主表面研磨工程
主表面研磨工程として、まず第1研磨工程を施した。この第1研磨工程は、前述のラッピング工程において主表面110に残留したキズや歪みの除去を主たる目的とするものである。この第1研磨工程においては、遊星歯車機構を有する両面研磨装置により、硬質樹脂ポリッシャを用いて、主表面110の研磨を行った。研磨剤としては、酸化セリウム砥粒を用いた。
【0056】
この第1研磨工程を終えた磁気ディスク用ガラス基板100を、中性洗剤、純水、IPA(イソプロピルアルコール)、の各洗浄槽に順次浸漬して、洗浄した。
【0057】
次に、主表面研磨工程として、第2研磨工程を施した。この第2研磨工程は、主表面110を鏡面状に仕上げることを目的とする。この第2研磨工程においては、遊星歯車機構を有する両面研磨装置により、軟質発泡樹脂ポリッシャを用いて、主表面110の鏡面研磨を行った。研磨剤としては、第1研磨工程で用いた酸化セリウム砥粒よりも微細な酸化セリウム砥粒を用いた。
【0058】
この第2研磨工程を終えた磁気ディスク用ガラス基板100を、中性洗剤、純水、IPA(イソプロピルアルコール)の各洗浄槽に順次浸漬して、洗浄した。なお、各洗浄槽には、超音波を印加した。
【0059】
(6)化学強化工程
次に、前述のラッピング工程および研磨工程を終えた磁気ディスク用ガラス基板100に、化学強化を施した。化学強化は、硝酸カリウム(60%)と硝酸ナトリウム(40%)を混合した化学強化溶液を用意し、この化学強化溶液を400℃に加熱しておくとともに、洗浄済みの磁気ディスク用ガラス基板100を300℃に予熱し、化学強化溶液中に約3時間浸漬することによって行った。この浸漬の際には、磁気ディスク用ガラス基板100の表面全体が化学強化されるようにするため、複数の磁気ディスク用ガラス基板100が端面120で保持されるように、ホルダに収納した状態で行った。
【0060】
このように、化学強化溶液に浸漬処理することによって、磁気ディスク用ガラス基板100の表層のリチウムイオンおよびナトリウムイオンが、化学強化溶液中のナトリウムイオンおよびカリウムイオンにそれぞれ置換され、磁気ディスク用ガラス基板100が強化される。磁気ディスク用ガラス基板100の表層に形成された圧縮応力層の厚さは、約100μm乃至200μmであった。
【0061】
化学強化処理を終えた磁気ディスク用ガラス基板100を、20℃の水槽に浸漬して急冷し、約10分間維持した。そして、急冷を終えた磁気ディスク用ガラス基板100を、約40℃に加熱した濃硫酸に浸漬して洗浄を行った。さらに、硫酸洗浄を終えた磁気ディスク用ガラス基板100を純水、IPA(イソプロピルアルコール)の各洗浄槽に順次浸漬して洗浄した。なお、各洗浄槽には超音波を印加した。
【0062】
上記の如く、第1ラッピング工程、切り出し工程、端面研磨工程、第2ラッピング工程、第1および第2研磨工程、ならびに化学強化工程を施すことにより、平坦で平滑な、高剛性の磁気ディスク用磁気ディスク用ガラス基板100を得た。
【0063】
(7)検査工程
得られた磁気ディスク用磁気ディスク用ガラス基板100の主表面110について清浄度の検査を行った。検査工程は、表面欠陥検出装置(AOI:Automatic Optical Inspection、或いはOSA(Optical Surface Analyzer)等)を用いて、磁気ディスク用ガラス基板100に光を照射し磁気ディスク用ガラス基板100から反射した光の強度もしくは変位のいずれか一方または両方を測定し、付着物、凹部および凸部が存在するか否か等を測定し、基板状態を評価する。
【0064】
(8)梱包工程
25枚の磁気ディスク用ガラス基板100をケース300に収容し、ケース300を4個並べた。そして空気中に浮遊している塵埃310にマイナスの極性を与え、磁気ディスク用ガラス基板100の極性を塵埃310の極性と同じ極性に持たせ、帯電装置320によって塵埃310を吸着し除去した。そして、磁気ディスク用ガラス基板100を収容したケース300は梱包袋350に入れられ、この梱包袋350を脱気した状態で密封して梱包体352にした。
【0065】
上記のように、磁気ディスク用ガラス基板100がケース300に収納され、梱包袋350で梱包された梱包体352を、ガラス基板製造施設から出荷され、船や飛行機、列車等によって磁気ディスク製造施設へ運搬される。
【0066】
(9)開梱工程
梱包体352の梱包袋350を所定の部屋において開梱した。別室は、所定の部屋と、生産ラインが設置されているクリーンルームとに隣接していて、所定の部屋に向かって気流が発生させた(所定の部屋および別室は図示を省略する)。
【0067】
(10)搬入工程
磁気ディスク用ガラス基板100上に磁性層を形成する成膜工程を行うため、ケース200に収納された磁気ディスク用ガラス基板100を、生産ラインが設置されているクリーンルーム(図示は省略)へ搬送した。
【0068】
(評価)
以上の工程によって開梱された磁気ディスク用ガラス基板100における本実施例の有効性について説明する。図6は、実施例である塵埃除去した梱包体352と、比較例である塵埃除去していない梱包体との塵埃の数を開梱して、表面欠陥検出装置(OSA6100)を用いてカウントした図である。ここで、実施例のサンプル410(塵埃除去した梱包体)および比較例のサンプル420(塵埃除去していない梱包体)をそれぞれ3枚任意に選択した。そしてそれぞれ3枚任意に選択した磁気ディスク用ガラス基板100の主表面に付着している塵埃310などのパーティクル数430をカウントし、3サンプルの平均として平均パーティクル数440を求めた。なお、パーティクル数430は、パーティクルの粒径1.0μm未満のものをカウントした。その結果、実施例のサンプル410の平均パーティクル数440は、比較例のサンプル420の平均パーティクル数440よりも約1/3と少なく、明らかなパーティクル数の差異が見られ、前者が梱包品質として高い優位を示す結果が得られている。
【0069】
(11)磁気ディスク製造工程(成膜工程)
上記の梱包体を用いて梱包された磁気ディスク用ガラス基板100に少なくとも磁性層を形成する成膜工程を行うことを特徴とする。
【0070】
上述した梱包方法および製造工程を経て得られた磁気ディスク用ガラス基板100の両面に、磁気ディスク用ガラス基板100の表面にCr合金からなる付着層、CoTaZr基合金からなる軟磁性層、Ruからなる下地層、CoCrPt基合金からなる垂直磁気記録層、水素化炭素からなる保護層、パーフルオロポリエーテルからなる潤滑層を順次成膜することにより、垂直磁気記録ディスクを製造した。なお、本構成は垂直磁気ディスクの構成の一例であるが、面内磁気ディスクとして磁性層等を構成してもよい。
【0071】
以上説明したように、本実施形態にかかる磁気ディスク用ガラス基板100の製造方法によれば、梱包袋350およびケース300内に存在している塵埃310の磁気ディスク用ガラス基板100への付着をより確実に防止することができる。したがってこの磁気ディスク用ガラス基板100を用いて製造した磁気ディスクは凸欠陥が少なくなり、磁気ヘッドの浮上量が10nm以下となるほどの低浮上量化、記録密度が200Gbit/inch以上の高記録密度化を図ることができる。
【0072】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本実施形態にかかる磁気ディスク用ガラス基板を説明する図である。
【図2】磁気ディスク用ガラス基板を磁気ディスク用ガラス基板用のケースに収容してから、磁気ディスク用ガラス基板用のケースを梱包するまでの流れの説明図である。
【図3】磁気ディスク用ガラス基板のケースへの収納状態を説明する図である。
【図4】塵埃を除去する装置の概略図である。
【図5】磁気ディスク用ガラス基板が収容されたケースの梱包状態を説明する図である。
【図6】実施例である塵埃除去した梱包体と、比較例である塵埃除去していない梱包体との塵埃の数を開梱してカウントした図である。
【符号の説明】
【0075】
100 …磁気ディスク用ガラス基板
110 …主表面
120 …端面
130 …面取面
300 …ケース
310 …塵埃
320 …帯電装置
330 …荷電粒子放電器
340 …ガラス基板帯電装置
350 …梱包袋
352 …梱包体
410 …実施例のサンプル
420 …比較例のサンプル
430 …パーティクル数
440 …平均パーティクル数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気ディスク用ガラス基板をケースに収容し、
前記ケースを梱包袋に格納するとき、静電気を帯電する帯電装置によって、梱包作業の雰囲気から空気中に浮遊している塵埃を吸着させて除去し、
前記磁気ディスク用ガラス基板を収容したケースを梱包袋に格納し、
前記梱包袋を脱気した状態で密封することを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記空気中に浮遊している塵埃に、荷電粒子放電器から荷電粒子を放電して該塵埃を帯電させ、
前記荷電粒子を放電された塵埃の極性に対して逆極性を前記帯電装置に帯電させることを特徴とする請求項1に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記磁気ディスク用ガラス基板にバイアス電圧をかけて塵埃と同じ極性に帯電させることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項4】
当該磁気ディスク用ガラス基板は、DFHヘッドを用いて記録される磁気ディスクの製造に用いられることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項5】
当該磁気ディスク用ガラス基板は、磁気ディスクへの記録の際の磁気ヘッドの浮上量が10nm以下となる磁気ディスクの製造に用いられることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項6】
当該磁気ディスク用ガラス基板は、記録密度が200Gbit/inch以上の磁気ディスクの製造に用いられることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−205766(P2009−205766A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−48456(P2008−48456)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【出願人】(503069159)ホーヤ ガラスディスク タイランド リミテッド (85)
【Fターム(参考)】