説明

磁気ディスク装置のヘッド位置決め制御方法

【課題】位相特性を改善して制御系の安定性を維持する制御方法を提供すること。
【解決手段】フィードバック制御器31は、制御対象35である磁気ヘッドを磁気ディスク上の目標位置へ移動させるための制御操作量を決定する。また、共振抑圧フィルタ33によって、制御操作量の第1の周波数成分を抑制する。共振フィルタ34によって、制御操作量の第2の周波数成分を増大させる。抑制及び増大後の制御操作量に応じて、アクチュエータがヘッドを磁気ディスク上の目標位置へ移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク装置のヘッド位置決め制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マルチレート制御系は、周期の異なる信号が混在するデジタル制御系であり、観測周期を任意に選べないという条件の下で、制御性能を向上させるための制御技術である。
【0003】
磁気ディスク装置のディスク上には、所定の間隔で位置信号が書き込まれている。ヘッドの位置は、この位置信号を読み出すことで得られる。位置信号の観測周期は、ディスクに書き込まれた位置信号の数とディスクの回転速度から決まるため、任意に設定することができない。一方、ヘッドの位置決め制御のための制御入力の周期は、制御演算プロセッサやDA変換器の性能次第で速くすることができる。このように、磁気ディスクのヘッドの位置決め制御系は、位置信号の観測周期と制御入力の周期とが異なるマルチレート制御系として構成することができる。
【0004】
制御対象の機械的な共振周波数がナイキスト周波数より高いと、制御入力が機械共振モードを加振してしまうことがある。非特許文献1に記載のマルチレート制御系では、位置信号のサンプリング周波数のN(Nは2以上の整数)倍の周波数で動作するデジタルフィルタを使用し、共振周波数付近の制御入力の周波数成分を落とすことが行われている。
【非特許文献1】山口高司,平田光男,藤本博志,「ナノスケールサーボ制御」,第1版,東京電機大学出版局,2007年10月20日,p.129−130,p.268−269
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の磁気ディスク装置では、デジタルフィルタによって制御入力から共振周波数付近の周波数成分を落とす。従って、共振周波数の周波数成分の制御入力は制御対象に加えられず、機械的な共振が抑制される。しかしながら、デジタルフィルタによって共振周波数のゲインを下げると、低周波数域の位相が遅れて位相特性に劣化が生じてしまう。
【0006】
本発明は、前記のような問題に鑑みなされたもので、位相特性を改善して制御系の安定性を維持する磁気ディスク装置のヘッド位置決め制御方法を提供することを目的する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係る磁気ディスク装置のヘッド位置決め制御方法は、ヘッドを磁気ディスク上の目標位置へ移動させるための制御操作量を決定することと、前記制御操作量の第1の周波数成分を抑制し、前記制御操作量の第2の周波数成分を増大させることと、前記抑制及び増大後の制御操作量に応じて、アクチュエータが前記ヘッドを前記磁気ディスク上の目標位置へ移動させることを備える。
【0008】
また、本発明の一実施形態に係る磁気ディスク装置は、表面に位置信号が書き込まれた磁気ディスクと、前記磁気ディスクの表面から前記位置信号を読み出すヘッドと、前記ヘッドを前記磁気ディスク上の目標位置へ移動させるための制御操作量を決定する制御部と、前記制御操作量の第1の周波数成分を抑制する第1のフィルタと、前記制御操作量の第2の周波数成分を増大させる第2のフィルタと、前記抑制及び増大後の制御操作量に応じて、前記ヘッドを目標位置へ移動させるアクチュエータを備える。
【0009】
また、本発明の一実施形態に係るフィードバック制御方法は、制御対象の出力を観測することと、前記制御対象を駆動するための制御操作量を、目標値と観測された前記出力との差分に基づいて決定することと、前記制御操作量の第1の周波数成分を抑制し、前記制御操作量の第2の周波数成分を増大させることと、前記抑制及び増大後の制御操作量に応じて、前記アクチュエータが前記制御対象を駆動することを備える。
【発明の効果】
【0010】
制御操作量の第1の周波数成分を抑制することによって、磁気ディスク装置に生じる機械的な共振を抑制することができる。また制御操作量の第2の周波数成分を増大させることによって、制御系の開ループ伝達関数の位相特性を改善することができる。従って、共振の励起を抑制しつつ位相特性を改善し安定性を維持できる制御方法が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明による磁気ディスク装置の実施の形態を説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る、磁気ディスク装置のサーボ制御系の構成を示すブロック図である。
【0013】
磁気ディスク装置は、1枚以上の磁気ディスク11を有する。磁気ディスク11はスピンドルモータ12に取り付けられており、スピンドルモータ12はディスク11を回転させる。ディスク11には、各種のデータが記憶される。
【0014】
ディスク11の表面上には、ディスクの回転軸を中心とする同心円状に、複数のトラック13が書き込まれている。図1では説明のために簡略化されているが、実際のディスク11には、数万から数十万のトラック13が書き込まれている。データは、このトラック13に記憶される。
【0015】
トラック13は、複数のサーボセクタ14を含み、これらのサーボセクタ14はトラック13を円周方向に等分する。データの記憶は、サーボセクタ14を1つの単位として行われる。サーボセクタ14は、サーボ領域15とデータ領域16を含む。
【0016】
サーボ領域15は、サーボセクタ14の先頭に配置される。図1では説明のために、サーボ領域15はディスク11上に放射状に形成されている。サーボ領域15の形状は、ヘッド21の軌跡に合わせてカーブした円弧状であってもよい。サーボ領域15には、ヘッド21の位置を検出するためのサーボデータが記録されている。サーボデータは、サーボパターンと呼ばれる磁気的なパターンを含む。一方、データ領域16には一定量のユーザデータが格納される。
【0017】
サーボ領域15に記憶されたサーボデータ、あるいはデータ領域16に記憶されたユーザデータは、ヘッド21によって読み出される。ヘッド21はまた、ディスク11へのデータの書き込みも行う。ヘッド21は、データ読み出しのための読み出し素子とデータ書き込みのための書き込み素子を別個に備えてもよいが、一体化された読み出し素子と書き込み素子を備えてもよい。読み出し素子として、巨大磁気抵抗効果を利用したGMRヘッドが用いられてもよい。また、ディスク11の数に応じて複数のヘッド21が備えられてもよい。ヘッド21は、アーム22の先端に取り付けられ、アーム22によってディスクの半径方向に移動される。
【0018】
ボイスコイルモータ(VCM)23は、アーム22に取り付けられたヘッド21を目標位置にまで移動するための駆動力を発生する。VCM23では、永久磁石を用いてつくられる磁場の中にコイルを配置して、そのコイルに電流を流すことで駆動力を発生させる。駆動力の大きさはVCM23のコイルに流れる電流に比例する。VCM23で発生した駆動力は、ピボット20を中心とした回転運動に変換され、円弧状の軌跡を描いてヘッド21を移動させる。従って、ヘッド21を目標の位置まで移動するためには、VCM23に与える電流を制御する必要がある。ヘッド21は、VCM23が発生する駆動力によって目標のトラック上に移動し、当該トラックにデータを書き込んだり、当該目標のトラックからデータを読み出したりする。
【0019】
ヘッド21が読み出した信号は、信号処理回路24によって復調され、エラー訂正される。ヘッド21がサーボ領域15からサーボデータを読み出すと、位置検出回路25は、読み出されたサーボデータから位置信号を検出して、ヘッド21の位置を求める。
【0020】
コントローラ26は、CPU27とROM28を含み、データの書き込み制御や読み出し制御、ヘッド21の位置決め制御を含む各種の制御を行う。ROM28には、制御方法を記述したプログラムと制御に必要な制御パラメータが予め格納されている。コントローラ26は、図示しないRAMをワークメモリとして備えていてもよい。RAMやROM28は、コントローラ26に含まれずに、コントローラ26の外部に備えられてもよい。
【0021】
ディスク11上に書き込まれたデータを読み出す場合にも、またディスク11上にデータを書き込む場合にも、ヘッド21をディスク11上の目標の位置へ正確に移動させる必要がある。コントローラ26は、ROM28に格納されたプログラム及び制御パラメータに従い、ディスク11上でのヘッド21の位置決め制御を行う。位置決め制御の際には、CPU27は、位置検出回路25が検出したヘッド21の位置、及び図示しないタイマによって測定されたプログラム処理時間に基づいて、VCM23を駆動するための制御入力値(電流値)を決定する。決定された制御入力値はVCM駆動回路29に与えられる。
【0022】
VCM駆動回路29は、コントローラ26からの命令に応じてVCM23に流れる電流を制御する。VCM23に流れる電流が制御されることで、ヘッド21がディスク11上の目標の位置へと移動する。
【0023】
ディスク11は一定の角速度で回転しており、サーボ領域15も一定の時間間隔でヘッド21の下を通過する。このため、位置検出回路25によるヘッド21の位置信号の観測周期(サンプリング周期)も一定の時間間隔となる。従ってコントローラ26は、VCM23に与えられる電流値の決定を、一定の時間間隔で行うこととなる。すなわち、コントローラ26は、サンプル値制御系を構成している。
【0024】
磁気ディスク装置のヘッド位置決め制御系では、ヘッド駆動機構系を構成するアーム22とVCM23に機械的な共振が生じる恐れがある。ヘッド駆動機構系の最低次の共振(主共振)よりも高次の共振(高次共振)は、高周波数域における安定性及び位置決め精度に影響を与える。共振特性をどのように安定化するかにより、制御系の制御性能は大きく変化する。特に、制御対象の機械的な共振周波数がナイキスト周波数より高いと、制御入力が機械共振モードを加振してしまうことがある。
【0025】
以下では、特定の周波数のゲインを抑制する共振抑制フィルタ、及び特定の周波数のゲインを増大させる共振フィルタを用いて、共振の励起を抑制しつつ安定性を維持できるフィードバック制御系について説明する。
【0026】
図2は、本発明の一実施形態に係る、マルチレートフィードバック制御系のブロック線図である。
【0027】
この制御系では、制御出力のサンプリング周期を1/N倍(Nは2以上の整数)した周期で、制御対象に制御操作量を与えるマルチレートフィードバック制御を行っている。
【0028】
フィードバック制御器31は、制御出力の観測周期(サンプリング周期)と同じ周期で動作する制御器である。このフィードバック制御器31には、目標値と制御出力の差分である偏差が入力される。
【0029】
本実施形態による磁気ディスク装置では、フィードバック制御器31は、コントローラ26によって構成される。フィードバック制御器31の動作周期は、位置検出回路25がヘッド21の位置信号を検出するサンプリング周期と同じ周期である。また、本実施形態によるフィードバック制御器31には、偏差として位置誤差信号が入力する。位置誤差信号は、ヘッド21の目標位置信号と、位置検出回路25によって検出されたヘッド21の位置信号との差分である。
【0030】
フィードバック制御器31は、制御対象35に加えられる制御操作量(制御入力)を決定する。本実施形態による磁気ディスク装置では、ヘッド21のディスク11上での位置が制御の対象となる。ヘッド21の位置はVCM23を流れる電流量によって制御されるため、フィードバック制御器31はVCM23に流す電流値を決定する。決定された電流値はVCM駆動回路29を介してVCM23に与えられる。これらのVCM駆動回路29とVCM23が、この制御系のアクチュエータを構成する。
【0031】
フィードバック制御器31は、VCM23に入力する電流の値を制御操作量として決定できれば、どのような制御器であってもよい。例えば、フィードバック制御器31は、比例制御(P制御)、積分制御(I制御)及び微分制御(D制御)を行うPID制御器であってもよい。また、フィードバック制御器31は、制御対象35を安定化させるための位相進み補償や積分補償を行う制御器を含んでもよい。
【0032】
フィードバック制御器31からの出力は、アップサンプラ32に入る。アップサンプラ32は、フィードバック制御器31から出力される制御操作量の周期を1/N(Nは2以上の整数)倍に変換する。アップサンプラ32は、Nステップ同じ値を保持するゼロ次ホールドによる補間を行っている。
【0033】
共振抑圧フィルタ33は、磁気ディスク装置の機構に生じる共振によって制御系の安定性が損なわれないよう、ゲインの補償を行う。共振抑圧フィルタ33は、サンプリング周期の1/Nの周期で動作し、特定の周波数のゲインを抑制するフィルタである。本実施形態では、共振抑圧フィルタ33は、磁気ディスク装置の機構系の高次共振の共振周波数に対して、ゲインを抑制する。共振抑圧フィルタ33によって共振周波数のゲインが抑制され、共振の励起を抑えられる。共振抑圧フィルタ33としては、アナログあるいはデジタルのノッチフィルタを用いることができる。
【0034】
共振抑圧フィルタ33を用いて高次の共振周波数に対してゲインを下げ、高次共振の励起を抑えることができる。この場合、制御器31に含まれるかあるいは制御器31に接続されている位相進み特性を有する図示しない位相進み補償器(又は安定化フィルタ)によって、主共振特性が安定化されてもよい。磁気ディスク装置の機構が複数の共振周波数を有する場合には、それぞれの共振周波数に対応する複数のフィルタを直列に連結した共振抑圧フィルタ33が用いられてもよい。
【0035】
従来の磁気ディスク装置では、このように制御器31の出力に共振抑圧フィルタ33を付加して制御操作量から共振周波数の成分を落としている。そして、共振周波数の周波数成分が落ちた制御操作量が、制御対象35に与えられていた。制御対象35に加えられる制御操作量からは共振周波数の周波数成分が落ちているため、共振の励起が抑制される。
【0036】
しかしながら、共振抑圧フィルタ33によって共振周波数のゲインを下げると、低周波数域において位相遅れが発生してしまい、制御系の位相余裕が減少しかねない。
【0037】
そこで本実施形態では、さらに共振抑圧フィルタ33に共振フィルタ34を直列に接続している。共振フィルタ34は、共振抑圧フィルタ33とは逆に、特定の周波数のゲインを増大させるフィルタである。特に、共振フィルタ34によってサンプリング周波数のナイキスト周波数のゲインを上げると、低周波数域の位相を進め、位相特性を改善することができる。本実施形態では、制御対象35には、共振フィルタ34から出力された制御操作量が加えられることになる。なお、図2のとおり共振フィルタ34は共振抑圧フィルタ33の後に接続されていることから、共振フィルタ34は共振抑圧フィルタ33と同じ周期(サンプリング周期の1/N)で動作する。
【0038】
以下では、共振フィルタ34を備えることによる位相特性の改善について説明する。
【0039】
図3は、本実施形態に係る共振抑圧フィルタ及び共振フィルタの特性の一例を示すボード線図である。図3では、アップサンプラ32の設定をN=2に、すなわち制御操作量の周期を位置信号観測周期の1/2に設定したときの例である。
【0040】
図3に示すように、共振抑圧フィルタは、特定の周波数、すなわち共振周波数付近のゲインを抑制する。このため、低周波数域では、位相に遅れが生じている。すなわち低周波数域の位相特性が劣化している。
【0041】
これに対して、共振フィルタは、特定の周波数、すなわち位置誤差検出回路25によるヘッド21の位置信号の観測周期(サンプリング周期)から定められるナイキスト周波数のゲインを増大させる。このため、低周波数域では、図3に示すように位相が進んでおり、低周波数域の位相特性が改善されていることがわかる。
【0042】
この共振抑圧フィルタと共振フィルタとを組み合わせた場合の特性は、図3において実線で示される。図示のように、共振周波数のゲインは抑制されるが、低周波数域の位相が進み、位相特性の改善が見られるようになる。
【0043】
従って、共振抑圧フィルタと共振フィルタの組み合わせによって、磁気ディスク装置の機械的な共振を抑制しつつ、位相特性の劣化を防ぐことができる。
【0044】
図4は、本実施形態に係る、マルチレートフィードバック制御系のナイキスト線図を示す図である。共振抑圧フィルタのみを用いる制御系のナイキスト線図は破線で、共振抑圧フィルタと共振フィルタの組み合わせた制御系のナイキスト線図は実線で示されている。
【0045】
共振抑圧フィルタのみを用いる場合に比べて、共振抑圧フィルタと共振フィルタとを組合せた場合では、ナイキスト線図の右半平面が広がる。これは共振フィルタによってナイキスト周波数のゲインを上昇させているためである。しかしながら、共振抑圧フィルタと共振フィルタを組み合わせた制御系のナイキスト線図が、ナイキストの安定判別法で着目する(−1,0)の点を回ることはない。従って、この場合でも制御系の安定性は保たれていることがわかる。
【0046】
図5は、本実施形態に係る、マルチレートフィードバック制御系の開ループ伝達関数の特性を示す図である。破線は共振抑圧フィルタのみを用いる制御系の開ループ伝達関数を示し、実線は共振抑圧フィルタと共振フィルタを組み合わせた制御系の開ループ伝達関数を示す。
【0047】
図5に示すように、共振抑圧フィルタと共振フィルタを組み合わせた場合では、ナイキスト周波数近辺のゲインは上昇している。しかしながら、位相が大きく回るため、安定性は保たれていることがわかる。
【0048】
また、共振抑圧フィルタのみを用いる場合に比べて、共振抑圧フィルタと共振フィルタを組み合わせた場合では、位相余裕が大きくなっている。従って、共振抑圧フィルタと共振フィルタを組み合わせた場合のほうが、位相に関して安定性が向上していることがわかる。ここで、位相余裕とは、ゲインが0dBとなる周波数における位相角のことで、ここからどれだけ位相が変わると系が不安定になるかを示す。
【0049】
同様に、共振抑圧フィルタのみを用いる場合に比べて、共振抑圧フィルタと共振フィルタを組み合わせた場合では、ゲイン余裕も向上している。従って、ゲインに関しても共振抑圧フィルタと共振フィルタを組み合わせた場合のほうが、より性能が向上していることが分かる。
【0050】
このように、共振抑圧フィルタ33と共振フィルタ34を組み合わせることによって、制御対象の共振を抑制しつつ、低周波数域の位相特性を改善することができる。特に、ナイキスト周波数のゲインを上げることで、フィードバック制御系の安定性が保たれる。
【0051】
上述の実施形態では、共振フィルタ34は、サンプリング周波数のナイキスト周波数についてゲインを上げるだけなので、装置の構成をそれほど複雑なものにしなくてもすむ。また、どのようなフィードバック制御器31に対しても適用可能となる。
【0052】
上述の実施形態においては、磁気ディスク装置のヘッド位置決め制御系に対して、図2に示すマルチレートフィードバック制御系を適用する場合が、一例として説明された。しかしながら、図2に示すマルチレートフィードバック制御系は、磁気ディスク装置以外の制御系にも導入できる。例えば、制御対象が複数の異なるセンサによって観測される制御系は、これらのセンサのサンプリング周期が互いに異なるため、本質的にマルチレート制御系である。このような制御系に対しても、図2の制御系が導入できる。
【0053】
また上述の実施形態では、制御操作量としてVCM23の電流値が入力され、観測出力としてヘッド21の位置誤差信号が観測される1入力1出力系が、図2に示す制御系の一例として説明された。しかしながら、図2の制御系は、多入力多出力制御系に対しても適用できる。1つの制御入力で複数の観測出力を制御する場合には、上述の実施形態と同様に、当該1つの制御入力に対して共振抑圧フィルタ33及び共振フィルタ34を付加すればよい。また、複数の制御入力がある場合には、それぞれの制御入力に対して、共振抑圧フィルタ33及び共振フィルタ34を付加してもよい。
【0054】
また、上述の説明では、共振抑圧フィルタ33によって高次共振の共振周波数についてゲインを下げるとした。しかしながら、共振抑圧フィルタ33によって、すべての共振周波数についてゲインを下げてもよい。
【0055】
図2に示す制御系は、他の制御系の一部として実現されてもよく、あるいは他の制御系をその一部として含んでもよい。
【0056】
以上のように、本実施形態では、共振特性をナイキスト周波数に持つ共振フィルタをマルチレートフィードバック制御系に加えることで、開ループ伝達関数の位相特性を改善した。
【0057】
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【0058】
また、本発明は、コンピュータに所定の手段を実行させるため、コンピュータを所定の手段として機能させるため、コンピュータに所定の機能を実現させるため、あるいはプログラムを記録したコンピュータ読取り可能な記録媒体としても実施することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の一実施形態に係る、磁気ディスク装置のサーボ制御系の構成を示すブロック図。
【図2】本発明の一実施形態に係る、マルチレートフィードバック制御系のブロック線図。
【図3】本発明の一実施形態に係る、共振抑圧フィルタ及び共振フィルタの特性を示すボード線図。
【図4】本発明の一実施形態に係る、マルチレートフィードバック制御系のナイキスト線図を示す図。
【図5】本発明の一実施形態に係る、マルチレートフィードバック制御系の開ループ伝達関数の特性を示す図。
【符号の説明】
【0060】
11…ディスク、12…スピンドルモータ、13…トラック、14…サーボセクタ、15…サーボ領域、16…データ領域、20…ピボット、21…ヘッド、22…アーム、23…ボイスコイルモータ、24…信号処理回路、25…位置検出回路、26…コントローラ、27…CPU、28…ROM、29…VCM駆動回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドを磁気ディスク上の目標位置へ移動させるための制御操作量を決定することと、
前記制御操作量の第1の周波数成分を抑制し、前記制御操作量の第2の周波数成分を増大させることと、
前記抑制及び増大後の制御操作量に応じて、アクチュエータが前記ヘッドを前記磁気ディスク上の目標位置へ移動させることと、
を備える磁気ディスク装置のヘッド位置決め制御方法。
【請求項2】
前記第1の周波数成分の抑制は、第1の周波数のゲインを下げる第1のフィルタリングによって行われ、
前記第2の周波数成分の抑制は、第2の周波数のゲインを上げる第2のフィルタリングによって行われる、請求項1に記載の制御方法。
【請求項3】
前記ヘッドは、前記磁気ディスクの表面から第1の周期で位置信号を読み出し、
前記制御操作量は、前記ヘッドの目標位置信号と前記ヘッドが読み出した位置信号との差分に基づいて、前記第1の周期で決定され、
前記第1の周波数成分の抑制及び前記第2の周波数成分の増大は、第2の周期で行われる、請求項1に記載の制御方法。
【請求項4】
前記第1の周波数は、前記アクチュエータの共振周波数である、請求項3に記載の制御方法。
【請求項5】
前記第2の周波数は、前記第1の周期のナイキスト周波数である、請求項3に記載の制御方法。
【請求項6】
前記制御操作量のサンプリング周期を、サンプラによって前記第1の周期から前記第2の周期に変更することを更に備える請求項3に記載の制御方法。
【請求項7】
前記第1の周期は前記第2の周期の整数倍である、請求項3に記載の制御方法。
【請求項8】
表面に位置信号が書き込まれた磁気ディスクと、
前記磁気ディスクの表面から前記位置信号を読み出すヘッドと、
前記ヘッドを前記磁気ディスク上の目標位置へ移動させるための制御操作量を決定する制御部と、
前記制御操作量の第1の周波数成分を抑制する第1のフィルタと、
前記制御操作量の第2の周波数成分を増大させる第2のフィルタと、
前記抑制及び増大後の制御操作量に応じて、前記ヘッドを目標位置へ移動させるアクチュエータと、
を備える磁気ディスク装置。
【請求項9】
前記第1のフィルタは、第1の周波数のゲインを下げ
前記第2のフィルタは、第2の周波数のゲインを上げる、請求項8に記載の磁気ディスク装置。
【請求項10】
前記ヘッドは、前記磁気ディスクの表面から第1の周期で前記位置信号を読み出し、
前記制御部は、前記ヘッドの目標位置信号と前記ヘッドが読み出した前記位置信号との差分に基づいて、前記制御操作量を前記第1の周期で決定し、
前記第1のフィルタ及び前記第2のフィルタは、第2の周期で動作する、請求項8に記載の磁気ディスク装置。
【請求項11】
前記第1の周波数は、前記アクチュエータの共振周波数である、請求項10に記載の磁気ディスク装置。
【請求項12】
前記第2の周波数は、前記第1の周期のナイキスト周波数である、請求項10に記載の磁気ディスク装置。
【請求項13】
前記制御操作量のサンプリング周期を、前記第1の周期から前記第2の周期に変更するサンプラを更に備える、請求項10に記載の磁気ディスク装置。
【請求項14】
前記第1の周期は前記第2の周期の整数倍である、請求項10に記載の磁気ディスク装置。
【請求項15】
制御対象の出力を観測することと、
前記制御対象を駆動するための制御操作量を、目標値と観測された前記出力との差分に基づいて決定することと、
前記制御操作量の第1の周波数成分を抑制し、前記制御操作量の第2の周波数成分を増大させることと、
前記抑制及び増大後の制御操作量に応じて、前記アクチュエータが前記制御対象を駆動することと、
を備えるフィードバック制御方法。
【請求項16】
前記第1の周波数成分の抑制は、第1の周波数のゲインを下げる第1のフィルタリングによって行われ、
前記第2の周波数成分の抑制は、第2の周波数のゲインを上げる第2のフィルタリングによって行われる、請求項15に記載の制御方法。
【請求項17】
前記制御対象は第1の周期で観測され、
前記制御操作量は前記第1の周期で決定され、
前記第1の周波数成分の抑制及び前記第2の周波数成分の増大は、第2の周期で行われる、請求項15に記載の制御方法。
【請求項18】
前記第1の周波数は、前記アクチュエータの共振周波数である、請求項17に記載の制御方法。
【請求項19】
前記第2の周波数は、前記第1の周期のナイキスト周波数である、請求項17に記載の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−102795(P2010−102795A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−274691(P2008−274691)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】