磁気信号計測装置
【課題】 試料容器に含まれる磁気不純物からの磁気信号により正確な測定ができない。
【解決手段】 正逆それぞれの方向に配向用外部磁界を印加して得られた2つの測定信号の差分を求めることで、配向用外部磁界に依存しない試料容器に含まれる磁気不純物からの磁気信号をキャンセルできる。試料容器に含まれる磁気不純物の影響を低減し、目的とする結合した磁気マーカの信号を高感度に計測できる。
【解決手段】 正逆それぞれの方向に配向用外部磁界を印加して得られた2つの測定信号の差分を求めることで、配向用外部磁界に依存しない試料容器に含まれる磁気不純物からの磁気信号をキャンセルできる。試料容器に含まれる磁気不純物の影響を低減し、目的とする結合した磁気マーカの信号を高感度に計測できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁性微粒子と磁気センサを用い、磁気信号により生体物質など分析する装置、例えば免疫グロブリン、ホルモン、腫瘍マーカ、感染症などの検査に用いられる免疫検査装置や感染症、食中毒など病原菌検査に用いられる血液培養装置、細菌培養装置に関する。
【背景技術】
【0002】
抗原抗体反応のような特異的な結合反応を利用して種々の生体物質(ホルモン、抗体、抗原、腫瘍マーカなど)や病原菌、ウイルス、がん細胞、DNA、環境有害物質等の検査が可能である。近年、これらの検査対象を高感度かつ迅速に検出する要求が高まっており、そのための免疫検査装置の開発が盛んに行われている。免疫検査の一般的な方法として、検出対象とする抗原に選択的に結合する検出用抗体を蛍光酵素等の光学マーカで標識して、抗原−抗体の結合反応を光学マーカからの光信号を検出し、抗原の種類及び量を検出する光学的方法がある。しかし、光学的方法では、検出感度が十分ではなく、また、未結合の光学マーカを洗い流す工程(洗浄工程)が必要であった。
【0003】
近年、磁気微粒子と磁気センサを用い、抗原抗体反応を検出する磁気的方法が提案されている。この磁気的方法では、磁気微粒子で磁気的に標識された抗体(以下、磁気マーカという)を検出対象の物質と結合させ、結合した磁気マーカから発生する磁気信号を磁気センサを用いて検出する。高感度な磁気センサーであるSQUIDを使用することで、光学的方式よりも高い検出感度が得られている。
【0004】
磁気微粒子をラベルとして磁気信号によるバイオ物質を検出する方法はいろいろな方式が提案されている。
【0005】
特許文献1に記載の方法では、被測定物質を容器に固定した後、磁気マーカと反応させ、未結合の磁気マーカを洗浄した後に容器に固定された被測定物質と結合した磁気マーカからの残留磁気信号をSQUID磁気センサーで測定している。
【0006】
特許文献2に記載の方法では、被測定物質を含む溶液と磁気マーカを溶液中で混合することで、被測定物質と磁気マーカを結合させ凝集体を形成し、未結合磁気マーカが存在した状態で、外部磁場を印加し磁気マーカの方向を揃えた後、磁場を遮断したあとの磁気信号を測定している。溶液中に浮遊した磁気マーカはブラウン運動により、その磁気モーメントの方向がランダムになるため、磁界により磁気モーメントの方向を揃えても、磁界を遮断すると徐々に磁気信号が減衰する。磁気マーカがターゲット物質と結合し凝集すると、回転体としての体積が増加するため、磁気信号の減衰が遅くなるが、未結合の磁気マーカの磁気信号は早く減衰する。磁気信号の減衰特性が異なるため、未結合マーカを除去することなく結合マーカの磁気信号を測定できている。類似の方法は非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、特許文献3でも報告されている。
【0007】
特許文献4、非特許文献4の方法では、被測定物質を容器に固定した後、磁気マーカと反応させ、未結合の磁気マーカが存在する状態で容器に固定された被測定物質と結合した磁気マーカからの信号をSQUID磁気センサーで測定している。未結合の磁気マーカはブラウン運動により、その磁気モーメントの方向がランダムになるため磁気信号が減衰する。そのため、未結合マーカを洗浄することなく結合した磁気マーカからの信号を測定できている。類似の方法は非特許文献5でも報告されている。
【0008】
特許文献5および特許文献6では磁化率測定を利用した方法が報告されている。特許文献5ではSQUID磁気センサの磁束検出方向と直角な方向から、磁気マーカを磁化させる直流磁界を印加し、SQUID磁気センサの磁束検出領域内を移動する磁気マーカより生じた磁界の変化を測定している。特許文献6では磁気マーカに対して交流磁界を印加し、その信号をSQUID磁気センサを用いて抗原抗体反応を検出している。
【0009】
このように、様々な方法で結合した磁気マーカからの磁気信号が計測されているが、測定される磁気信号には、外来の環境磁気信号および容器に含まれる磁気不純物からの磁気信号、容器に非特異的に結合した磁気マーカからの磁気信号が雑音信号として含まれる。精度良く測定するためには、これらの磁気信号を低減する必要がある。
【0010】
【特許文献1】特願昭61−235774号公報
【特許文献2】特願平2−15551号公報
【特許文献3】特表平10−513551号公報
【特許文献4】特開2005―257425号公報
【特許文献5】特開2001−33455号公報
【特許文献6】特開2001−133458号公報
【非特許文献1】Y. R. Chemla, et al.: Proc. National Acad. Sciences of U.S.A. 97, 14268 (2000)
【非特許文献2】A. Haller, et al.: IEEE Trans. Appl. Supercond. 11, 1371 (2001)
【非特許文献3】H.L.Grossman, et al.: Proc. National Acad. Sciences of U.S.A. 101, 129 (2004)
【非特許文献4】K. Enpuku, et al.: IEEE Trans. Appl. Supercond. 13, 371 (2003)
【非特許文献5】R. Kotitz, et al.: IEEE Trans. Appl. Supercond. 7, 3678(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述したように、測定される磁気信号には、結合磁気マーカ、未結合磁気マーカだけでなく、雑音信号としてセンサー自身の雑音信号、外来の環境磁気信号および容器に含まれる磁気不純物からの磁気信号、容器に非特異的に結合した磁気マーカからの磁気信号が含まれる。精度良く測定するためには、これらの磁気信号を低減する必要がある。
【0012】
容器の製造工程では、原料や作製工程など細心の注意を払い作製しても、磁気不純物の混入を完全に押さえることは極めて困難である。また、容器自身に磁気不純物が含まれていなくても、磁性を帯びた粉塵などが容器底面などに付着する可能性がある。光学的方式では、このような容器の汚染は問題になっていない。蛍光体などの光学的マーカに用いられる物資は、通常の製造工程や使用環境では存在せず、混入したり付着することがないためである。しかしながら、一般的な環境でも磁性を持った物質は多数存在する。このため、容器の不純物や汚染は磁気的検出に特有の新しい課題である。
【0013】
一方、容器へのマーカの非特異吸着は光学的方法でも問題となっている。通常、容器表面は非特異吸着を防止するためBSAなどのブロッキング剤でコーティングするが、マーカの非特異吸着を完全に防止することが困難である。特に、測定容器を洗浄して再利用する方式、例えばフローセル方式の検査装置では、測定容器に付着したマーカを除去するため複数回の洗浄が行われるが、再現性良く完全に除去することは困難であり、検出下限濃度を制限する要因となっている。
【0014】
本発明の目的は、容器に含まれる、あるいは、容器表面に付着した磁気不純物および容器に非特異的に結合した磁気マーカ(以下これらを容器に結合した磁気不純物と呼ぶ)からの磁気信号をキャンセルし、これらの磁気信号の影響を受けない検査技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、被測定物質を容器に固定するための固相抗体を使用しない磁気的計測の場合、測定信号から未結合磁気マーカ、および容器に結合した磁気不純物を除去し、結合磁気マーカの信号を高精度に測定できることを見いだした。例えば、特許文献2、特許文献3、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3の測定方法に適用可能である。
【0016】
図1に本発明の方法を用いた測定手順の例を模式的に示す。図では、測定対象物質として複数の結合サイトを表面に有する細胞、例えば白血球や病原菌、を例に示すが、本発明はその他の物質、例えば抗体、ホルモン、タンパク質、DNAなど結合アッセイにより測定可能な物質が対象となる。
【0017】
(a)試料容器1に、測定対象物質2を含む溶液試料(例えば血清など)および測定対象物質と特異的に結合する物質(抗体)が固定された磁性粒子(磁気マーカ)を加える。加えた磁気マーカの一部は測定対象物質2の結合部位と結合する。以下、測定対象物質と結合した磁気マーカを結合磁気マーカ3と呼ぶ。また、結合せずに溶液中に分散した磁気マーカを未結合磁気マーカ4と呼ぶ。また、一部の磁気マーカは容器壁面に非特異的に吸着する。この磁気マーカを非特異吸着磁気マーカ5と呼ぶ。また、図には容器に混入あるいは表面に付着している可能性がある磁気不純物6も示している。図に示した小さな矢印は磁気モーメントの方向7を示す。この段階では、磁気モーメントの方向は一方向に揃っていないため磁気信号は比較的弱い。この状態で配向用磁場を印加して測定を行うこともできるが、次に述べるように着磁用磁場を印加して、各磁気マーカの磁化方向を揃えると共に、飽和磁界に近い強い磁界で測定前に磁化した方が強い磁気信号が期待できる。
(b)着磁用外部磁界8を磁石9を用いて印加し、磁気マーカを磁化する。この時、未結合磁気マーカ4はその磁気モーメントの方向が着磁用外部磁界8の方向に沿うように、粒子自体が回転することができる。一方、測定対象物質2と結合している複数の磁気マーカは独立して回転できないが、強い磁界を印加することで、磁気微粒子内部のスピンの方向が着磁用外部磁界8の方向に沿って変化するため、測定対象物質と結合している複数の磁気マーカの磁気モーメントの方向を一方向に揃えることができる。強度はおよそ飽和磁化に必要な磁界程度である。この時に、磁気不純物も磁化され着磁用外部磁界の方向に沿って磁気モーメントを持つ。
【0018】
着磁用外部磁界を遮断すると、ブラウン運動により結合磁気マーカおよび未結合磁気マーカの磁気モーメントの方向がランダムになる。一方、容器に固定されている非特異吸着磁気マーカ5および磁気不純物6は当初の磁気モーメントの方向を維持したままである。
【0019】
この着磁の工程により結合マーカからの信号が増加するが、同時に磁気不純物からの信号も増加することになるため、強磁場による着磁を行わずに、測定した方が好ましい結果となる場合もあり得る。
【0020】
(c)次に、配向用外部磁界10を磁石11で印加し、ランダムになった磁気マーカを再び配向用外部磁界10の方向に揃える。印加する磁界の強度を磁気マーカや磁気不純物の保持力以下としすれば、磁気マーカおよび磁気不純物に含まれる磁性体内部のスピンの方向は変わらない。しかし、適切な時間印加することで、溶液中に浮遊している未結合の磁気マーカ自身を回転させ、マーカの磁気モーメントの方向を配向用外部磁界の方向に揃えることができる。また、被測定物質に結合している磁気マーカも被測定物質とともに回転可能なため、結合している磁気マーカの磁気モーメントも配向用外部磁界の方向に揃えることができる。なお、配向用外部磁界の方向は必ずしも着磁用外部磁界と一致する必要はないが、ここでは同じ方向とした。
【0021】
(d) 配向用外部磁界を遮断後、磁気マーカの磁気モーメントの方向が再びランダムになるため、試料から発生する磁気信号が減衰する。結合マーカ3よりも未結合磁気マーカ4の方が早く磁気信号が減衰する。これはブラウン回転運動の緩和時間が回転体の体積に比例するためである。そこで、未結合磁気マーカ4からの磁気信号は大きく減衰するが、結合磁気マーカ3空の磁気信号があまり減衰していないタイミングで、磁気信号を測定すれば結合磁気マーカ3からの磁気信号を選択的に測定できる。この測定信号を信号1とする。信号1には非特異吸着磁気マーカ5および磁気不純物6からの磁気信号も含まれる。
【0022】
(e) 次に、極性が逆の配向用外部磁界12を磁石13で印加する。この時、溶液中に浮遊した結合磁気マーカ3および未結合磁気マーカ4の磁気モーメントは逆方向に配向するが、容器に吸着した非特異吸着磁気マーカ5および磁気不純物6はその磁気モーメントの方向が変化しない。溶液中に浮遊している磁気マーカはマーカ自身が回転することで磁気モーメントの方向が逆方向に変化できるが、非特異吸着磁気マーカ5および磁気不純物6は容器に固定されているため、磁性体自身が回転して配向用外部磁界の方向に磁気モーメントの方向を揃えることができない。また、印加する配向用外部磁界の強度が磁気マーカや磁気不純物の保持力以下であるため、磁性体内部のスピンの方向を変えて配向用外部磁界の方向に磁気モーメントの方向を揃えることもできない。その結果、非特異吸着磁気マーカ5および磁気不純物6はその磁気モーメントの方向が変化しない。
【0023】
(f) 配向用外部磁界を遮断後、未結合磁気マーカ4の信号はブラウン運動の影響により大きく減衰するが、結合磁気マーカ3の磁気信号があまり減衰していないタイミングで試料からの磁気信号を測定する。この測定信号を信号2とする。信号2には信号1とは逆方向の結合および未結合磁気マーカの信号が含まれる。また、非特異吸着磁気マーカ5および磁気不純物からの磁気信号も含まれるが、配向用外部磁界では非特異吸着磁気マーカおよび磁気不純物6に含まれる磁性体のスピンの方向を変えるほど強くないため、信号2に含まれる非特異吸着磁気マーカおよび磁気不純物からの信号は信号1に含まれているこれらの信号と等価である。したがって、信号1から信号2を差し引くことで、容器に固定した非特異吸着磁気マーカおよび磁気不純物からの磁気信号成分を除去できる。
【0024】
以上のように、本発明によれば、容器に固定された磁性物質からの信号と、固定されていない溶液中の未結合マーカおよび未結合マーカからの磁気信号を分離できる。この結果、従来問題であった容器の磁性不純物や容器に吸着したマーカの信号の影響を低減できる。
【0025】
図2に本発明の適用が可能な装置構成の例を示す。図2(a)に示すように、配向用外部磁界を電磁石14で印加し、その後磁気センサー15で試料16の磁気信号を測定する場合、電磁石14に流す電流を反転させることで逆方向の配向用外部磁界を容易に印可でき、本発明の方法を適用できる。また、図2(b)に示すように、2つの極性が異なる配向用外部磁界を印可するための磁石17,18を用意し、片方の磁石17である方向に外部磁界を印加し配向させた後、磁気信号の測定を行い、次に極性が逆のもう一つの磁石18で逆方向の外部磁界を印加し配向させた後、磁気信号を測定することで本発明の方法を実施できる。磁石17,18は永久磁石でも電磁石でもかまわないが、どちらの場合も漏れ磁場の影響を防ぐ必要がある。上下2つの磁石で試料に平行磁場を印加する方法や、試料がコイル上にあるときのみパルス磁場を印加するなどの工夫が必要である。図2(a)および(b)の方法は試料16を移動させているが、図2(c)に示すように、磁気センサー15上に試料16を配置した状態で、電磁石19により磁場を印可し、電磁石に流す電流を切った後に測定を行う方法でも、電磁石19に流す電流を反転させて測定することで本発明を実施することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上のように、本発明によれば、容器に固定させた磁性物質からの信号と、結合マーカおよび未結合マーカからの磁気信号を分離できる。この結果、従来問題であった容器の磁性不純物や容器に吸着したマーカの信号の影響を低減でき、より高感度、高精度な測定が可能となる。また、本発明により容器の磁気不純物の影響を低減できるので、容器の製造や品質管理が容易になる。場合によっては、磁気不純物濃度が低い容器の製造に必要な特別な工程や製造装置が不要になると期待される。さらに、測定時に磁性不純物が容器に付着することで誤った測定結果が発生することを防止できる。本技術を例えば免疫グロブリン、ホルモン、腫瘍マーカなどの検査に適用すれば微量検体での迅速・高感度な検査が期待できる。また、感染症、食中毒など病原菌検査では判定までに時間がかる血液培養、細菌培養が必要であったが、本技術を用いた磁気的検出により培養無しでの病原菌検査ができる可能性があり、病原菌の迅速検査に貢献できると期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下の説明では、残留磁気信号を有する磁気微粒子で標識された抗体(磁気マーカ)を使用し、1次微分の平面型SQUIDグラジオメータで検査試薬と反応した試料からの磁気信号を検出する、磁気的バイオ検査装置を例に、本発明の実施例を説明する。以下の開示は、本発明の一実施例にすぎず、本発明の技術範囲を何ら限定するものではない。
【実施例1】
【0028】
図3は本発明の一実施例である磁気的バイオ検査装置の構成を示す断面図である。環境磁気雑音のSQUID28への入力を低減するために、SQUIDを冷却するための冷却容器21、電磁シールド29および磁気シールド30、31によって囲まれている。電磁シールド29はアルミニウムなど電気抵抗が低い金属材料で構成されており、磁気シールド30、31は、パーマロイ等の高透磁率材料から構成されている。磁気シールド30の一部には試料容器71を挿入するための切欠き穴38が形成されている。
【0029】
試料容器71は非磁性の円盤型試料台32に、固定ネジ33により回転軸35に固定されている。図4に実験で使用した試料容器71の模式図を示す。容器は樹脂などの非磁性材料で作製されている。容器71は円形で、外周部に12カ所の円錐台の形状の窪み部分70があり、中央には装置に固定するための穴72が開いている。窪み部分の底面の直径は5mmである。窪み部分に試料16が入れられており、各窪みを容器番号1から12で表す。試料台32は回転機構34に接続された回転軸35によって回転する。回転機構34は、移動ステージ36、37上で3次元方向に移動可能となっており、回転機構35の移動により、試料容器71の一部が切り欠き穴38を通って、磁気シールド30の内部へ移動され、窪み部分70の底面とサファイヤウインドウ29が近接するように位置調整される。
【0030】
試料16とSQUID28との距離を小さくし、試料から発生する磁気信号の検出感度及び空間分解能を高くするために、サファイヤウインドウ29の下部にSQUID28が配置されている。試料容器71が回転することで、複数の試料16が順次、SQUID28の上を通過し、そのときの磁気信号が計測される。通常20-60rpmで使用し、40-100回転分の信号を測定し、加算平均処理を行いSN比を改善している。サファイヤウインドウ29は非磁性の円筒部品39に固定されており、上下方向に位置合わせが可能である。また、SQUIDと対向する位置には配向用外部磁場発生用の磁化機構42を設置した。磁化機構42は2つの磁石40,40‘とヨーク41で構成されており、2つの磁石の間に垂直方向の平行磁界が発生するように2つの磁石の磁化方向は揃っている。磁化機構42を上下逆さまに配置することで配向用外部磁場の方向を反転できる。印加磁場の強度は約100ガウスであった。
【0031】
SQUID28は外層22と内槽23の間が断熱真空層となっている冷却容器21の断熱真空層に配置され、熱伝導率の高い銅ロッド26及びサファイヤロッド25を介して液体窒素24により間接的に冷却されている。冷却容器の外槽22、内槽23は、SUSやFRP等の非磁性材料で構成される。SQUID28と銅ロッド26との間にサファイヤロッド25を介することにより、銅ロッド26から発生する磁気雑音の影響を低減する効果がある。
【0032】
本実施例の免疫検査装置ではSQUID28として、高温超電導SQUIDグラジオメータを使用した。図5は高温超電導SQUIDグラジオメータの構成を模式的に示す平面図である。図5(a)は全体を示す図、図5(b)は中央部分の拡大図である。検出コイル62及びSQUIDリング64は、SrTiO3やMgO等の単結晶を結晶方位をずらしてバイクリスタル接合面61で張り合わされた構造のバイクリスタル基板60上に形成された、YBa2Cu3Ox等の高温超電導材料を加工することで作製した。SQUIDリング64は、バイクリスタル基板60に形成されたバイクリスタル接合面61を横切っており、バイクリスタル接合面61上に形成された超電導薄膜に粒界ジョセフソン結合65が形成されている。その結果、SQUIDリング64には2カ所の粒界ジョセフソン結合65が形成される。今回使用したSQUIDでは、1枚の基板上に同じ検出コイルと結合した2つのSQUIDリング64,64’が形成されており、そのうち特性が良い方のSQUIDを実験で使用した。
【0033】
検出コイル62は、一辺が5mmの2つのループを持つ8の字型の微分コイルを構成しており、検出コイル62に磁束が入力すると、2つのループの各ループに生じる誘導電流の差分量が検出コイルの中央部分66を経由してSQUIDリング64、64‘に流れる。この電流が磁束として検出される。フィードバックコイル67は、検出コイル62のうち片方のループを囲むように基板60上にパターニングされ形成されている。2つのフィードバックコイル67,67’の内、片方を使用した。配線の接続が必要なところには超電導薄膜の上に、金の配線パッド63,および68がパターニングされている。配線パッド63はSQUIDリング64と電気接続されており、配線パッド68はフィードバックコイル67と電気接続されている。
【0034】
試料測定前に、図4に示した非磁性試料容器71の磁気信号を測定した。窪み部分70に試料を入れない状態で試料容器をネオジム磁石(表面磁束密度250mT)に近づけ空の試料容器に含まれる磁気不純物を磁化させた後、磁石を遠ざけた。
【0035】
試料容器を図3に示した測定装置の円盤型試料台32に固定し、容器から発生する磁気信号の変化を測定した。まず、S極が上になるように磁化機構42を配置した状態で測定を行い、測定信号1を得た。次にN極が上になるように磁化機構42を配置した状態で測定を行い、測定信号2を得た。
【0036】
図6に測定して得られた測定信号1、測定信号2およびそれらの差分の時間波形を示す。測定信号1の容器番号9の位置に振幅10mΦ0程度の大きな磁気信号の変化が観察される。容器をアルコールで拭いてもこの信号を除去できなかったことから、容器に含まれる磁気不純物からの信号と考えられる。もし、配向用外部磁界を反転させたときに、磁気不純物の磁化方向も反転していたら、上下方向に反転した磁気信号が検出されるはずであるが、測定信号2でも同じ信号が観察されている。その結果、測定信号1から測定信号2を差し引いた差分波形では容器番号9の位置の磁気信号の変化がキャンセルされている。また、図6の容器番号7近傍や10近傍の小さな磁気信号の変動も差分波形では振幅が小さくなっており、本発明の方法が容器の雑音信号除去に有効なことを確認できる。
【0037】
次に実際の試料を測定した場合の本発明の効果について示す。 本実施例では、図7に示すように測定対象物質として表面にビオチン51が結合したポリマービーズ52を使用した。ポリマービーズの粒径は1μmである。
【0038】
磁気マーカ53には市販のストレプトアビジン修飾の磁気マーカ(R&D system社製)を使用した。ストレプトアビジンはビオチンと特異的に結合するため、この磁気マーカによりビオチンで修飾されたポリマー粒子を検出できる。
【0039】
まず、濃度0.1mg/mlに希釈した磁気マーカ溶液100μlとポリマービーズ52が10000個含まれた40μlのポリマービーズ溶液を容量2mlのエッペンチューブ54に入れ、5分おきにボルテックスで撹拌しながら15分間反応させた。その後、磁気マーカを磁化するためネオジム磁石にエッペンチューブを近づけ、約1500ガウスの磁界を印加した。その後、図6の磁気信号波形を示した非磁性試料容器71の窪み部分70の3カ所に反応後の溶液35μlを加えた。
【0040】
空の試料容器の測定と同様に、ネオジム磁石に近づけ試料及び試料容器を飽和磁気まで磁化させた後、S極が上になるように磁化機構42を配置した状態とN極が上になるように磁化機構42を配置した状態で測定を行い、測定信号1および測定信号2を得た。
【0041】
図8に容器番号8−10の3カ所の磁気信号波形を示す。(a)は測定信号1、(b)は測定信号2、(c)は差分波形である。試料の磁気信号強度を各試料位置における信号の最大振幅と定義する。3カ所とも同じ試料が入っており、理想的には同じ磁気信号強度が観察されるはずである。しかし、測定信号1の容器番号9の位置には図6で示した磁気不純物の信号があるため大きな磁気信号強度を示した。配向用外部磁界を反転させて測定した測定信号2では、容器番号8および10の信号波形は上下方向に反転しており、配向用外部磁界の反転により測定対象であるポリマービーズに結合した磁気マーカの磁化方向が反転していることがわかる。容器番号9の信号波形は反転していないが、これは図6に示したように配向用外部磁界で反転しない磁気不純物の影響である。このように、通常の測定信号では容器雑音の影響を受け正しい測定が困難であった。しかし、本発明の方法を用い、2つの測定信号の差分を求めることで、容器の磁気不純物の影響を除去できる。図8(c)の差分波形からわかるように、容器番号8-10の3つの試料ともほぼ同じ磁気信号強度が得られている。また、差分を求めることで信号強度は約2倍に増加している。容器番号9の位置の磁気不純物だけではなく、試料8と9の間や試料9と10の間で観察されていた測定信号の変動も抑制されていることがわかる。以上の結果から本発明により、容器雑音の影響を低減すると共に測定対象物質からの磁気信号強度を増加させ、SN比を大きく改善できることを確認できた。
【0042】
図9に得られた磁気信号強度とポリマービーズ個数との関係(検量線)を示す。ポリマービーズの数に応じて磁気信号が単調に変化している。この曲線を検量線として用いれば、測定した磁気信号から試料中のポリマービーズ個数を求めることができる。本実施例では、測定対象物質である表面にビオチン51が結合したポリマービーズ52に対して、そのビオチンと特異的に結合するアビジンで修飾された磁気マーカを使用してポリマービーズの個数を測定できることを示した。
測定対象が病原菌の場合はその病原菌の表面に存在するタンパク質や糖鎖などと特異的に結合する抗体で修飾された磁気マーカを用いれば、病原菌の個数に応じた強度の磁気信号を計測でき、磁気信号から病原菌の有無だけでなくその個数を求めることができる。したがって、感染症や食中毒の検査などに利用できる。
【実施例2】
【0043】
本実施例では、図10に示すように試料容器71が回転する円周上に極性が逆の2つの磁化機構42,43を配置した。実施例1では磁化機構42を上下逆さまに配置することで、配向用外部磁界の方向を反転させたが、本実施例では試料容器71の回転方向を反転させることで、測定直前に試料に印加される配向用外部磁界の方向を反転できる。試料は2つの磁化機構を通過するが、試料の磁気モーメントは測定直前に通過する磁化機構の磁界の方向に揃う。
【0044】
2つの磁化機構42,43はSQUID28の位置を0度として右回りに150度の位置に磁化機構42を、左回りに150度の位置に磁化機構43を設置した。磁化機構43は磁化機構42と同じ構造であるが、磁界の方向が逆向きである。試料位置での磁束密度は約100ガウスであった。実施例1と同じく、ビオチン修飾ポリマービーズと磁気マーカを反応させた試料を使用した。最初にネオジム磁石に近づけ試料及び試料容器を飽和磁気まで磁化させた後、まず試料容器を20rpmの速度で右回転させて磁気信号を測定した。この場合、S極が上向きの磁石の上を通過した後、SQUID上を通過する。40回転分の信号を測定し、40回の信号加算平均処理を行った(測定信号1)。次に、逆向きに回転させて磁気信号を測定した。この場合、N極が上向きの磁石の上を通過した後、SQUID上を通過するので、浮遊した磁気マーカは逆方向に配向する。40回転分の信号を測定し、40回の信号加算平均処理を行った(測定信号2)。回転方向を逆転させると測定された磁気信号の時間波形とSQUIDと試料との相対的な位置関係も逆転する。そこで、測定信号2を左右反転させた後で、測定信号1との差分を求めた。
【0045】
その結果、実施例1と同様に、非測定物質である凝集した磁気マーカを含む磁気マーカ溶液からの磁気信号は差分波形では約2倍に増加すること、非特異吸着磁気マーカあるいは磁気不純物に対応した乾燥磁気マーカからの信号は差分波形では大きく減少することを確認できた。
【実施例3】
【0046】
本実施例では、図11に示すように試料容器71が回転する円周上に極性が逆の2つの磁化機構42,43を配置し、さらに2つのSQUID28,28‘を配置した。実施例2では2つの磁石を使用し、試料容器71の回転方向を反転させることで、測定直前に試料に印加される配向用外部磁界の方向を反転したが、本実施例では磁気センサも2つ配置することで、図11の矢印方向に回転させることで、磁化機構42を通過後の磁気信号をSQUID28で、磁化機構43を通過後の磁気信号をSQUID28’で測定できる。
【0047】
磁化機構43は磁化機構42と同じ構造であるが、磁界の方向が逆向きである。試料位置での磁束密度は約100ガウスであった。実施例1、2と同じく、ビオチン修飾ポリマービーズと磁気マーカを反応させた試料を使用した。最初にネオジム磁石に近づけ試料及び試料容器を飽和磁気まで磁化させた後、試料容器を20rpmの速度で右回転させて2つのSQUIDで検出される磁気信号(2系統)を同時に測定した。40回転分の信号を測定し、40回の信号加算平均処理を行った。このようにして測定された2つのSQUIDで測定された磁気信号を試料がSQUIDを通過したタイミングを合わせて差し引いた。その結果、実施例1および2と同様に、非測定物質である凝集した磁気マーカを含む磁気マーカ溶液からの磁気信号は差分波形では約2倍に増加すること、非特異吸着磁気マーカあるいは磁気不純物に対応した乾燥磁気マーカからの信号は差分波形では大きく減少することを確認できた。
【実施例4】
【0048】
本実施例では、電磁石を使用した磁化機構46を使用した。図12に使用した測定装置の断面構造模式図を示す。磁化機構46のコイル48は電源47に接続されており、試料14が磁化機構46の磁極49,49‘の間を通過するタイミングでパルス電流を流すことができる。電流の方向を反転させることで印加する配向用外部磁界の方向を反転できる。また、大きな電流を流すことで着磁用の磁界を印加することも可能である。
【0049】
本実施例では、実施例1から3と同じく、ビオチン修飾ポリマービーズと磁気マーカを反応させた試料を使用して測定を行った。
【0050】
ビオチン修飾ポリマービーズと磁気マーカの反応溶液35μlを試料容器71の窪み部分70に入れた後、試料容器を20rpmで右回転させながら磁化機構46の磁極49,49‘の間を通過するタイミングでコイル48にパルス幅1-10msの電流を流した。印加した磁場強度は500から1000ガウス程度である。
【0051】
次に、印加するパルス磁場の強度を100ガウスに下げ、SQUID28で磁気信号を測定した。40回転分の信号を測定し、40回の加算平均処理を行った(測定信号1)。次に、電流の向きを反転させ、逆方向に100ガウスの磁界を印加した状態で、やはり40回転分の信号を測定し、40回の加算平均処理を行った(測定信号2)。測定信号1から測定信号2を差し引くことで差分信号波形を求めた。
【0052】
その結果、実施例1から3と同様に、非測定物質である凝集した磁気マーカを含む磁気マーカ溶液からの磁気信号は差分波形では約2倍に増加すること、非特異吸着磁気マーカあるいは磁気不純物に対応した乾燥磁気マーカからの信号は差分波形では大きく減少することを確認できた。
【0053】
ここで述べた3つの実施例では、いずれもビオチンで修飾されたポリマー粒子について報告したが、溶液中の測定対象物質が磁気マーカと結合あるいは凝集体を形成する反応系に適用できる。いくつかの例を示すと、図13(a)のように、表面に1次抗体84が固定されたポリマー粒子81を使用し、測定対象物質の抗原82と抗原に結合する2次抗体で修飾された磁気マーカ83を反応させ、1次抗体-抗原-磁気マーカの凝集体を形成させることで、本手法を適用して抗原の検出が可能となる。従来の洗浄が必要な光学的方法では、試料を容器に固定するための固定用抗体が必要なため容器のコストが高いという問題や自分で固定用抗体を固定させるには手間と時間が必要であった。図11(a)のようにポリマービーズ表面で1次抗体-抗原-磁気マーカの凝集体を形成させることで、本発明の方法を適用できるとともに固定用抗体の準備に必要な手間とコストを低減できる。
【0054】
また、図13(b)のように細胞やバクテリア87の細胞膜表面の特定のタンパク質と選択的に結合する抗体85で修飾された磁気マーカ83を使用した細胞やバクテリアの検出にも適用できる。タンパク質に比べ細胞やバクテリアはそれ自体が大きい。そのため、ポリマービーズ表面に細胞やバクテリアを固定しなくても、浮遊した細胞やバクテリアに結合した磁気マーカのブラウン回転緩和時間は、未結合磁気マーカのブラウン回転運動緩和時間よりも充分長い。従って緩和時間の違いを利用して結合した磁気マーカからの磁気信号を選択的に計測できると同時に、本発明の方法を適用可能である。
【0055】
さらに図11(c)のようにビオチン86で修飾された細胞膜表面の特定のタンパク質に結合する抗体88と、アビジン89で修飾された磁気マーカ83を使用した、細胞やバクテリアの検出にも適用できる。この場合、アビジン89で修飾された磁気マーカを用意すれば、市販されているビオチン86で修飾された細胞膜表面の特定のタンパク質に結合する抗体を利用して種々の細胞や病原菌を測定できるというメリットがある。
【0056】
また、本実施例では磁気センサーとしてSQUIDを使用したが、GMRセンサー、MRセンサー、光ポンピング磁束計、フラックスゲート磁束計、ホール素子などの磁気センサーを使用した場合も同様の効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の方法を用いた測定手順の説明図。
【図2】本発明の適用が可能な装置構成の例を示す図。
【図3】本発明の実施例で使用した磁気的バイオ検査装置の構成を示す断面図。
【図4】実施例で使用した試料容器の模式図。
【図5】1次微分平面型グラジオメータを使用した場合の試料の磁化方向と検出される磁気信号波形の関係を説明する図。
【図6】空の試料容器の磁気信号波形。
【図7】実施例1における試料の作製方法を説明するための図。
【図8】ポリマービーズ試料の測定結果および本発明の適用結果。
【図9】磁気信号強度とポリマービーズ個数の関係。
【図10】実施例2における磁化機構およびSQUIDの配置を説明するための図。
【図11】実施例3における磁化機構およびSQUIDの配置を説明するための図。
【図12】実施例4で使用した磁気的バイオ検査装置の構成を示す断面図。
【図13】本発明が適用可能な反応系の例。
【符号の説明】
【0058】
1…試料容器、2…測定対象物質、3…結合磁気マーカ、4…未結合磁気マーカ、5…非特異吸着磁気マーカ、6…磁気不純物、7…磁気モーメントの方向、8…着磁用外部磁界、9…磁石、10…配向用外部磁界、
11…磁石、12…逆の配向用外部磁界、13…磁石、14…電磁石、15…磁気センサー、16…試料、17…磁石、18…磁石、19…電磁石、20…サファイヤウインドウ、
21…冷却容器、22…外槽、23…内槽、24…液体窒素、25…サファイヤロッド、26…銅ロッド、28、28’…SQUID、29…電磁シールド
30…磁気シールド、31…磁気シールド、32…試料台、33…固定ネジ、34…回転機構、35…回転軸、36…移動ステージ(垂直方向)、37…移動ステージ(水平方向)、38…切欠き穴、39…円筒部品、
40,40‘…磁石、41…ヨーク、42…磁化機構、43…磁化機構、
46…磁化機構、47…電源、48…コイル、49、49‘…磁極、
51…ビオチン、52…ポリマービーズ、53…磁気マーカ、54…エッペンチューブ、
60…バイクリスタル基板、61…バイクリスタル接合面、62…検出コイル、63…配線パッド、64…SQUIDリング、65…粒界ジョセフソン結合、66…検出コイルの中央部分、67…フィードバックコイル、68…配線パッド(フィードバックコイル用)、
70…窪み部分、71…試料容器、72…固定するための穴、
81…ポリマー粒子、82…抗原、83…磁気マーカ、84…1次抗体、85…抗体、86…ビオチン、87…細胞やバクテリア、88…抗体、89…アビジン。
【技術分野】
【0001】
本発明は磁性微粒子と磁気センサを用い、磁気信号により生体物質など分析する装置、例えば免疫グロブリン、ホルモン、腫瘍マーカ、感染症などの検査に用いられる免疫検査装置や感染症、食中毒など病原菌検査に用いられる血液培養装置、細菌培養装置に関する。
【背景技術】
【0002】
抗原抗体反応のような特異的な結合反応を利用して種々の生体物質(ホルモン、抗体、抗原、腫瘍マーカなど)や病原菌、ウイルス、がん細胞、DNA、環境有害物質等の検査が可能である。近年、これらの検査対象を高感度かつ迅速に検出する要求が高まっており、そのための免疫検査装置の開発が盛んに行われている。免疫検査の一般的な方法として、検出対象とする抗原に選択的に結合する検出用抗体を蛍光酵素等の光学マーカで標識して、抗原−抗体の結合反応を光学マーカからの光信号を検出し、抗原の種類及び量を検出する光学的方法がある。しかし、光学的方法では、検出感度が十分ではなく、また、未結合の光学マーカを洗い流す工程(洗浄工程)が必要であった。
【0003】
近年、磁気微粒子と磁気センサを用い、抗原抗体反応を検出する磁気的方法が提案されている。この磁気的方法では、磁気微粒子で磁気的に標識された抗体(以下、磁気マーカという)を検出対象の物質と結合させ、結合した磁気マーカから発生する磁気信号を磁気センサを用いて検出する。高感度な磁気センサーであるSQUIDを使用することで、光学的方式よりも高い検出感度が得られている。
【0004】
磁気微粒子をラベルとして磁気信号によるバイオ物質を検出する方法はいろいろな方式が提案されている。
【0005】
特許文献1に記載の方法では、被測定物質を容器に固定した後、磁気マーカと反応させ、未結合の磁気マーカを洗浄した後に容器に固定された被測定物質と結合した磁気マーカからの残留磁気信号をSQUID磁気センサーで測定している。
【0006】
特許文献2に記載の方法では、被測定物質を含む溶液と磁気マーカを溶液中で混合することで、被測定物質と磁気マーカを結合させ凝集体を形成し、未結合磁気マーカが存在した状態で、外部磁場を印加し磁気マーカの方向を揃えた後、磁場を遮断したあとの磁気信号を測定している。溶液中に浮遊した磁気マーカはブラウン運動により、その磁気モーメントの方向がランダムになるため、磁界により磁気モーメントの方向を揃えても、磁界を遮断すると徐々に磁気信号が減衰する。磁気マーカがターゲット物質と結合し凝集すると、回転体としての体積が増加するため、磁気信号の減衰が遅くなるが、未結合の磁気マーカの磁気信号は早く減衰する。磁気信号の減衰特性が異なるため、未結合マーカを除去することなく結合マーカの磁気信号を測定できている。類似の方法は非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、特許文献3でも報告されている。
【0007】
特許文献4、非特許文献4の方法では、被測定物質を容器に固定した後、磁気マーカと反応させ、未結合の磁気マーカが存在する状態で容器に固定された被測定物質と結合した磁気マーカからの信号をSQUID磁気センサーで測定している。未結合の磁気マーカはブラウン運動により、その磁気モーメントの方向がランダムになるため磁気信号が減衰する。そのため、未結合マーカを洗浄することなく結合した磁気マーカからの信号を測定できている。類似の方法は非特許文献5でも報告されている。
【0008】
特許文献5および特許文献6では磁化率測定を利用した方法が報告されている。特許文献5ではSQUID磁気センサの磁束検出方向と直角な方向から、磁気マーカを磁化させる直流磁界を印加し、SQUID磁気センサの磁束検出領域内を移動する磁気マーカより生じた磁界の変化を測定している。特許文献6では磁気マーカに対して交流磁界を印加し、その信号をSQUID磁気センサを用いて抗原抗体反応を検出している。
【0009】
このように、様々な方法で結合した磁気マーカからの磁気信号が計測されているが、測定される磁気信号には、外来の環境磁気信号および容器に含まれる磁気不純物からの磁気信号、容器に非特異的に結合した磁気マーカからの磁気信号が雑音信号として含まれる。精度良く測定するためには、これらの磁気信号を低減する必要がある。
【0010】
【特許文献1】特願昭61−235774号公報
【特許文献2】特願平2−15551号公報
【特許文献3】特表平10−513551号公報
【特許文献4】特開2005―257425号公報
【特許文献5】特開2001−33455号公報
【特許文献6】特開2001−133458号公報
【非特許文献1】Y. R. Chemla, et al.: Proc. National Acad. Sciences of U.S.A. 97, 14268 (2000)
【非特許文献2】A. Haller, et al.: IEEE Trans. Appl. Supercond. 11, 1371 (2001)
【非特許文献3】H.L.Grossman, et al.: Proc. National Acad. Sciences of U.S.A. 101, 129 (2004)
【非特許文献4】K. Enpuku, et al.: IEEE Trans. Appl. Supercond. 13, 371 (2003)
【非特許文献5】R. Kotitz, et al.: IEEE Trans. Appl. Supercond. 7, 3678(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述したように、測定される磁気信号には、結合磁気マーカ、未結合磁気マーカだけでなく、雑音信号としてセンサー自身の雑音信号、外来の環境磁気信号および容器に含まれる磁気不純物からの磁気信号、容器に非特異的に結合した磁気マーカからの磁気信号が含まれる。精度良く測定するためには、これらの磁気信号を低減する必要がある。
【0012】
容器の製造工程では、原料や作製工程など細心の注意を払い作製しても、磁気不純物の混入を完全に押さえることは極めて困難である。また、容器自身に磁気不純物が含まれていなくても、磁性を帯びた粉塵などが容器底面などに付着する可能性がある。光学的方式では、このような容器の汚染は問題になっていない。蛍光体などの光学的マーカに用いられる物資は、通常の製造工程や使用環境では存在せず、混入したり付着することがないためである。しかしながら、一般的な環境でも磁性を持った物質は多数存在する。このため、容器の不純物や汚染は磁気的検出に特有の新しい課題である。
【0013】
一方、容器へのマーカの非特異吸着は光学的方法でも問題となっている。通常、容器表面は非特異吸着を防止するためBSAなどのブロッキング剤でコーティングするが、マーカの非特異吸着を完全に防止することが困難である。特に、測定容器を洗浄して再利用する方式、例えばフローセル方式の検査装置では、測定容器に付着したマーカを除去するため複数回の洗浄が行われるが、再現性良く完全に除去することは困難であり、検出下限濃度を制限する要因となっている。
【0014】
本発明の目的は、容器に含まれる、あるいは、容器表面に付着した磁気不純物および容器に非特異的に結合した磁気マーカ(以下これらを容器に結合した磁気不純物と呼ぶ)からの磁気信号をキャンセルし、これらの磁気信号の影響を受けない検査技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、被測定物質を容器に固定するための固相抗体を使用しない磁気的計測の場合、測定信号から未結合磁気マーカ、および容器に結合した磁気不純物を除去し、結合磁気マーカの信号を高精度に測定できることを見いだした。例えば、特許文献2、特許文献3、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3の測定方法に適用可能である。
【0016】
図1に本発明の方法を用いた測定手順の例を模式的に示す。図では、測定対象物質として複数の結合サイトを表面に有する細胞、例えば白血球や病原菌、を例に示すが、本発明はその他の物質、例えば抗体、ホルモン、タンパク質、DNAなど結合アッセイにより測定可能な物質が対象となる。
【0017】
(a)試料容器1に、測定対象物質2を含む溶液試料(例えば血清など)および測定対象物質と特異的に結合する物質(抗体)が固定された磁性粒子(磁気マーカ)を加える。加えた磁気マーカの一部は測定対象物質2の結合部位と結合する。以下、測定対象物質と結合した磁気マーカを結合磁気マーカ3と呼ぶ。また、結合せずに溶液中に分散した磁気マーカを未結合磁気マーカ4と呼ぶ。また、一部の磁気マーカは容器壁面に非特異的に吸着する。この磁気マーカを非特異吸着磁気マーカ5と呼ぶ。また、図には容器に混入あるいは表面に付着している可能性がある磁気不純物6も示している。図に示した小さな矢印は磁気モーメントの方向7を示す。この段階では、磁気モーメントの方向は一方向に揃っていないため磁気信号は比較的弱い。この状態で配向用磁場を印加して測定を行うこともできるが、次に述べるように着磁用磁場を印加して、各磁気マーカの磁化方向を揃えると共に、飽和磁界に近い強い磁界で測定前に磁化した方が強い磁気信号が期待できる。
(b)着磁用外部磁界8を磁石9を用いて印加し、磁気マーカを磁化する。この時、未結合磁気マーカ4はその磁気モーメントの方向が着磁用外部磁界8の方向に沿うように、粒子自体が回転することができる。一方、測定対象物質2と結合している複数の磁気マーカは独立して回転できないが、強い磁界を印加することで、磁気微粒子内部のスピンの方向が着磁用外部磁界8の方向に沿って変化するため、測定対象物質と結合している複数の磁気マーカの磁気モーメントの方向を一方向に揃えることができる。強度はおよそ飽和磁化に必要な磁界程度である。この時に、磁気不純物も磁化され着磁用外部磁界の方向に沿って磁気モーメントを持つ。
【0018】
着磁用外部磁界を遮断すると、ブラウン運動により結合磁気マーカおよび未結合磁気マーカの磁気モーメントの方向がランダムになる。一方、容器に固定されている非特異吸着磁気マーカ5および磁気不純物6は当初の磁気モーメントの方向を維持したままである。
【0019】
この着磁の工程により結合マーカからの信号が増加するが、同時に磁気不純物からの信号も増加することになるため、強磁場による着磁を行わずに、測定した方が好ましい結果となる場合もあり得る。
【0020】
(c)次に、配向用外部磁界10を磁石11で印加し、ランダムになった磁気マーカを再び配向用外部磁界10の方向に揃える。印加する磁界の強度を磁気マーカや磁気不純物の保持力以下としすれば、磁気マーカおよび磁気不純物に含まれる磁性体内部のスピンの方向は変わらない。しかし、適切な時間印加することで、溶液中に浮遊している未結合の磁気マーカ自身を回転させ、マーカの磁気モーメントの方向を配向用外部磁界の方向に揃えることができる。また、被測定物質に結合している磁気マーカも被測定物質とともに回転可能なため、結合している磁気マーカの磁気モーメントも配向用外部磁界の方向に揃えることができる。なお、配向用外部磁界の方向は必ずしも着磁用外部磁界と一致する必要はないが、ここでは同じ方向とした。
【0021】
(d) 配向用外部磁界を遮断後、磁気マーカの磁気モーメントの方向が再びランダムになるため、試料から発生する磁気信号が減衰する。結合マーカ3よりも未結合磁気マーカ4の方が早く磁気信号が減衰する。これはブラウン回転運動の緩和時間が回転体の体積に比例するためである。そこで、未結合磁気マーカ4からの磁気信号は大きく減衰するが、結合磁気マーカ3空の磁気信号があまり減衰していないタイミングで、磁気信号を測定すれば結合磁気マーカ3からの磁気信号を選択的に測定できる。この測定信号を信号1とする。信号1には非特異吸着磁気マーカ5および磁気不純物6からの磁気信号も含まれる。
【0022】
(e) 次に、極性が逆の配向用外部磁界12を磁石13で印加する。この時、溶液中に浮遊した結合磁気マーカ3および未結合磁気マーカ4の磁気モーメントは逆方向に配向するが、容器に吸着した非特異吸着磁気マーカ5および磁気不純物6はその磁気モーメントの方向が変化しない。溶液中に浮遊している磁気マーカはマーカ自身が回転することで磁気モーメントの方向が逆方向に変化できるが、非特異吸着磁気マーカ5および磁気不純物6は容器に固定されているため、磁性体自身が回転して配向用外部磁界の方向に磁気モーメントの方向を揃えることができない。また、印加する配向用外部磁界の強度が磁気マーカや磁気不純物の保持力以下であるため、磁性体内部のスピンの方向を変えて配向用外部磁界の方向に磁気モーメントの方向を揃えることもできない。その結果、非特異吸着磁気マーカ5および磁気不純物6はその磁気モーメントの方向が変化しない。
【0023】
(f) 配向用外部磁界を遮断後、未結合磁気マーカ4の信号はブラウン運動の影響により大きく減衰するが、結合磁気マーカ3の磁気信号があまり減衰していないタイミングで試料からの磁気信号を測定する。この測定信号を信号2とする。信号2には信号1とは逆方向の結合および未結合磁気マーカの信号が含まれる。また、非特異吸着磁気マーカ5および磁気不純物からの磁気信号も含まれるが、配向用外部磁界では非特異吸着磁気マーカおよび磁気不純物6に含まれる磁性体のスピンの方向を変えるほど強くないため、信号2に含まれる非特異吸着磁気マーカおよび磁気不純物からの信号は信号1に含まれているこれらの信号と等価である。したがって、信号1から信号2を差し引くことで、容器に固定した非特異吸着磁気マーカおよび磁気不純物からの磁気信号成分を除去できる。
【0024】
以上のように、本発明によれば、容器に固定された磁性物質からの信号と、固定されていない溶液中の未結合マーカおよび未結合マーカからの磁気信号を分離できる。この結果、従来問題であった容器の磁性不純物や容器に吸着したマーカの信号の影響を低減できる。
【0025】
図2に本発明の適用が可能な装置構成の例を示す。図2(a)に示すように、配向用外部磁界を電磁石14で印加し、その後磁気センサー15で試料16の磁気信号を測定する場合、電磁石14に流す電流を反転させることで逆方向の配向用外部磁界を容易に印可でき、本発明の方法を適用できる。また、図2(b)に示すように、2つの極性が異なる配向用外部磁界を印可するための磁石17,18を用意し、片方の磁石17である方向に外部磁界を印加し配向させた後、磁気信号の測定を行い、次に極性が逆のもう一つの磁石18で逆方向の外部磁界を印加し配向させた後、磁気信号を測定することで本発明の方法を実施できる。磁石17,18は永久磁石でも電磁石でもかまわないが、どちらの場合も漏れ磁場の影響を防ぐ必要がある。上下2つの磁石で試料に平行磁場を印加する方法や、試料がコイル上にあるときのみパルス磁場を印加するなどの工夫が必要である。図2(a)および(b)の方法は試料16を移動させているが、図2(c)に示すように、磁気センサー15上に試料16を配置した状態で、電磁石19により磁場を印可し、電磁石に流す電流を切った後に測定を行う方法でも、電磁石19に流す電流を反転させて測定することで本発明を実施することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上のように、本発明によれば、容器に固定させた磁性物質からの信号と、結合マーカおよび未結合マーカからの磁気信号を分離できる。この結果、従来問題であった容器の磁性不純物や容器に吸着したマーカの信号の影響を低減でき、より高感度、高精度な測定が可能となる。また、本発明により容器の磁気不純物の影響を低減できるので、容器の製造や品質管理が容易になる。場合によっては、磁気不純物濃度が低い容器の製造に必要な特別な工程や製造装置が不要になると期待される。さらに、測定時に磁性不純物が容器に付着することで誤った測定結果が発生することを防止できる。本技術を例えば免疫グロブリン、ホルモン、腫瘍マーカなどの検査に適用すれば微量検体での迅速・高感度な検査が期待できる。また、感染症、食中毒など病原菌検査では判定までに時間がかる血液培養、細菌培養が必要であったが、本技術を用いた磁気的検出により培養無しでの病原菌検査ができる可能性があり、病原菌の迅速検査に貢献できると期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下の説明では、残留磁気信号を有する磁気微粒子で標識された抗体(磁気マーカ)を使用し、1次微分の平面型SQUIDグラジオメータで検査試薬と反応した試料からの磁気信号を検出する、磁気的バイオ検査装置を例に、本発明の実施例を説明する。以下の開示は、本発明の一実施例にすぎず、本発明の技術範囲を何ら限定するものではない。
【実施例1】
【0028】
図3は本発明の一実施例である磁気的バイオ検査装置の構成を示す断面図である。環境磁気雑音のSQUID28への入力を低減するために、SQUIDを冷却するための冷却容器21、電磁シールド29および磁気シールド30、31によって囲まれている。電磁シールド29はアルミニウムなど電気抵抗が低い金属材料で構成されており、磁気シールド30、31は、パーマロイ等の高透磁率材料から構成されている。磁気シールド30の一部には試料容器71を挿入するための切欠き穴38が形成されている。
【0029】
試料容器71は非磁性の円盤型試料台32に、固定ネジ33により回転軸35に固定されている。図4に実験で使用した試料容器71の模式図を示す。容器は樹脂などの非磁性材料で作製されている。容器71は円形で、外周部に12カ所の円錐台の形状の窪み部分70があり、中央には装置に固定するための穴72が開いている。窪み部分の底面の直径は5mmである。窪み部分に試料16が入れられており、各窪みを容器番号1から12で表す。試料台32は回転機構34に接続された回転軸35によって回転する。回転機構34は、移動ステージ36、37上で3次元方向に移動可能となっており、回転機構35の移動により、試料容器71の一部が切り欠き穴38を通って、磁気シールド30の内部へ移動され、窪み部分70の底面とサファイヤウインドウ29が近接するように位置調整される。
【0030】
試料16とSQUID28との距離を小さくし、試料から発生する磁気信号の検出感度及び空間分解能を高くするために、サファイヤウインドウ29の下部にSQUID28が配置されている。試料容器71が回転することで、複数の試料16が順次、SQUID28の上を通過し、そのときの磁気信号が計測される。通常20-60rpmで使用し、40-100回転分の信号を測定し、加算平均処理を行いSN比を改善している。サファイヤウインドウ29は非磁性の円筒部品39に固定されており、上下方向に位置合わせが可能である。また、SQUIDと対向する位置には配向用外部磁場発生用の磁化機構42を設置した。磁化機構42は2つの磁石40,40‘とヨーク41で構成されており、2つの磁石の間に垂直方向の平行磁界が発生するように2つの磁石の磁化方向は揃っている。磁化機構42を上下逆さまに配置することで配向用外部磁場の方向を反転できる。印加磁場の強度は約100ガウスであった。
【0031】
SQUID28は外層22と内槽23の間が断熱真空層となっている冷却容器21の断熱真空層に配置され、熱伝導率の高い銅ロッド26及びサファイヤロッド25を介して液体窒素24により間接的に冷却されている。冷却容器の外槽22、内槽23は、SUSやFRP等の非磁性材料で構成される。SQUID28と銅ロッド26との間にサファイヤロッド25を介することにより、銅ロッド26から発生する磁気雑音の影響を低減する効果がある。
【0032】
本実施例の免疫検査装置ではSQUID28として、高温超電導SQUIDグラジオメータを使用した。図5は高温超電導SQUIDグラジオメータの構成を模式的に示す平面図である。図5(a)は全体を示す図、図5(b)は中央部分の拡大図である。検出コイル62及びSQUIDリング64は、SrTiO3やMgO等の単結晶を結晶方位をずらしてバイクリスタル接合面61で張り合わされた構造のバイクリスタル基板60上に形成された、YBa2Cu3Ox等の高温超電導材料を加工することで作製した。SQUIDリング64は、バイクリスタル基板60に形成されたバイクリスタル接合面61を横切っており、バイクリスタル接合面61上に形成された超電導薄膜に粒界ジョセフソン結合65が形成されている。その結果、SQUIDリング64には2カ所の粒界ジョセフソン結合65が形成される。今回使用したSQUIDでは、1枚の基板上に同じ検出コイルと結合した2つのSQUIDリング64,64’が形成されており、そのうち特性が良い方のSQUIDを実験で使用した。
【0033】
検出コイル62は、一辺が5mmの2つのループを持つ8の字型の微分コイルを構成しており、検出コイル62に磁束が入力すると、2つのループの各ループに生じる誘導電流の差分量が検出コイルの中央部分66を経由してSQUIDリング64、64‘に流れる。この電流が磁束として検出される。フィードバックコイル67は、検出コイル62のうち片方のループを囲むように基板60上にパターニングされ形成されている。2つのフィードバックコイル67,67’の内、片方を使用した。配線の接続が必要なところには超電導薄膜の上に、金の配線パッド63,および68がパターニングされている。配線パッド63はSQUIDリング64と電気接続されており、配線パッド68はフィードバックコイル67と電気接続されている。
【0034】
試料測定前に、図4に示した非磁性試料容器71の磁気信号を測定した。窪み部分70に試料を入れない状態で試料容器をネオジム磁石(表面磁束密度250mT)に近づけ空の試料容器に含まれる磁気不純物を磁化させた後、磁石を遠ざけた。
【0035】
試料容器を図3に示した測定装置の円盤型試料台32に固定し、容器から発生する磁気信号の変化を測定した。まず、S極が上になるように磁化機構42を配置した状態で測定を行い、測定信号1を得た。次にN極が上になるように磁化機構42を配置した状態で測定を行い、測定信号2を得た。
【0036】
図6に測定して得られた測定信号1、測定信号2およびそれらの差分の時間波形を示す。測定信号1の容器番号9の位置に振幅10mΦ0程度の大きな磁気信号の変化が観察される。容器をアルコールで拭いてもこの信号を除去できなかったことから、容器に含まれる磁気不純物からの信号と考えられる。もし、配向用外部磁界を反転させたときに、磁気不純物の磁化方向も反転していたら、上下方向に反転した磁気信号が検出されるはずであるが、測定信号2でも同じ信号が観察されている。その結果、測定信号1から測定信号2を差し引いた差分波形では容器番号9の位置の磁気信号の変化がキャンセルされている。また、図6の容器番号7近傍や10近傍の小さな磁気信号の変動も差分波形では振幅が小さくなっており、本発明の方法が容器の雑音信号除去に有効なことを確認できる。
【0037】
次に実際の試料を測定した場合の本発明の効果について示す。 本実施例では、図7に示すように測定対象物質として表面にビオチン51が結合したポリマービーズ52を使用した。ポリマービーズの粒径は1μmである。
【0038】
磁気マーカ53には市販のストレプトアビジン修飾の磁気マーカ(R&D system社製)を使用した。ストレプトアビジンはビオチンと特異的に結合するため、この磁気マーカによりビオチンで修飾されたポリマー粒子を検出できる。
【0039】
まず、濃度0.1mg/mlに希釈した磁気マーカ溶液100μlとポリマービーズ52が10000個含まれた40μlのポリマービーズ溶液を容量2mlのエッペンチューブ54に入れ、5分おきにボルテックスで撹拌しながら15分間反応させた。その後、磁気マーカを磁化するためネオジム磁石にエッペンチューブを近づけ、約1500ガウスの磁界を印加した。その後、図6の磁気信号波形を示した非磁性試料容器71の窪み部分70の3カ所に反応後の溶液35μlを加えた。
【0040】
空の試料容器の測定と同様に、ネオジム磁石に近づけ試料及び試料容器を飽和磁気まで磁化させた後、S極が上になるように磁化機構42を配置した状態とN極が上になるように磁化機構42を配置した状態で測定を行い、測定信号1および測定信号2を得た。
【0041】
図8に容器番号8−10の3カ所の磁気信号波形を示す。(a)は測定信号1、(b)は測定信号2、(c)は差分波形である。試料の磁気信号強度を各試料位置における信号の最大振幅と定義する。3カ所とも同じ試料が入っており、理想的には同じ磁気信号強度が観察されるはずである。しかし、測定信号1の容器番号9の位置には図6で示した磁気不純物の信号があるため大きな磁気信号強度を示した。配向用外部磁界を反転させて測定した測定信号2では、容器番号8および10の信号波形は上下方向に反転しており、配向用外部磁界の反転により測定対象であるポリマービーズに結合した磁気マーカの磁化方向が反転していることがわかる。容器番号9の信号波形は反転していないが、これは図6に示したように配向用外部磁界で反転しない磁気不純物の影響である。このように、通常の測定信号では容器雑音の影響を受け正しい測定が困難であった。しかし、本発明の方法を用い、2つの測定信号の差分を求めることで、容器の磁気不純物の影響を除去できる。図8(c)の差分波形からわかるように、容器番号8-10の3つの試料ともほぼ同じ磁気信号強度が得られている。また、差分を求めることで信号強度は約2倍に増加している。容器番号9の位置の磁気不純物だけではなく、試料8と9の間や試料9と10の間で観察されていた測定信号の変動も抑制されていることがわかる。以上の結果から本発明により、容器雑音の影響を低減すると共に測定対象物質からの磁気信号強度を増加させ、SN比を大きく改善できることを確認できた。
【0042】
図9に得られた磁気信号強度とポリマービーズ個数との関係(検量線)を示す。ポリマービーズの数に応じて磁気信号が単調に変化している。この曲線を検量線として用いれば、測定した磁気信号から試料中のポリマービーズ個数を求めることができる。本実施例では、測定対象物質である表面にビオチン51が結合したポリマービーズ52に対して、そのビオチンと特異的に結合するアビジンで修飾された磁気マーカを使用してポリマービーズの個数を測定できることを示した。
測定対象が病原菌の場合はその病原菌の表面に存在するタンパク質や糖鎖などと特異的に結合する抗体で修飾された磁気マーカを用いれば、病原菌の個数に応じた強度の磁気信号を計測でき、磁気信号から病原菌の有無だけでなくその個数を求めることができる。したがって、感染症や食中毒の検査などに利用できる。
【実施例2】
【0043】
本実施例では、図10に示すように試料容器71が回転する円周上に極性が逆の2つの磁化機構42,43を配置した。実施例1では磁化機構42を上下逆さまに配置することで、配向用外部磁界の方向を反転させたが、本実施例では試料容器71の回転方向を反転させることで、測定直前に試料に印加される配向用外部磁界の方向を反転できる。試料は2つの磁化機構を通過するが、試料の磁気モーメントは測定直前に通過する磁化機構の磁界の方向に揃う。
【0044】
2つの磁化機構42,43はSQUID28の位置を0度として右回りに150度の位置に磁化機構42を、左回りに150度の位置に磁化機構43を設置した。磁化機構43は磁化機構42と同じ構造であるが、磁界の方向が逆向きである。試料位置での磁束密度は約100ガウスであった。実施例1と同じく、ビオチン修飾ポリマービーズと磁気マーカを反応させた試料を使用した。最初にネオジム磁石に近づけ試料及び試料容器を飽和磁気まで磁化させた後、まず試料容器を20rpmの速度で右回転させて磁気信号を測定した。この場合、S極が上向きの磁石の上を通過した後、SQUID上を通過する。40回転分の信号を測定し、40回の信号加算平均処理を行った(測定信号1)。次に、逆向きに回転させて磁気信号を測定した。この場合、N極が上向きの磁石の上を通過した後、SQUID上を通過するので、浮遊した磁気マーカは逆方向に配向する。40回転分の信号を測定し、40回の信号加算平均処理を行った(測定信号2)。回転方向を逆転させると測定された磁気信号の時間波形とSQUIDと試料との相対的な位置関係も逆転する。そこで、測定信号2を左右反転させた後で、測定信号1との差分を求めた。
【0045】
その結果、実施例1と同様に、非測定物質である凝集した磁気マーカを含む磁気マーカ溶液からの磁気信号は差分波形では約2倍に増加すること、非特異吸着磁気マーカあるいは磁気不純物に対応した乾燥磁気マーカからの信号は差分波形では大きく減少することを確認できた。
【実施例3】
【0046】
本実施例では、図11に示すように試料容器71が回転する円周上に極性が逆の2つの磁化機構42,43を配置し、さらに2つのSQUID28,28‘を配置した。実施例2では2つの磁石を使用し、試料容器71の回転方向を反転させることで、測定直前に試料に印加される配向用外部磁界の方向を反転したが、本実施例では磁気センサも2つ配置することで、図11の矢印方向に回転させることで、磁化機構42を通過後の磁気信号をSQUID28で、磁化機構43を通過後の磁気信号をSQUID28’で測定できる。
【0047】
磁化機構43は磁化機構42と同じ構造であるが、磁界の方向が逆向きである。試料位置での磁束密度は約100ガウスであった。実施例1、2と同じく、ビオチン修飾ポリマービーズと磁気マーカを反応させた試料を使用した。最初にネオジム磁石に近づけ試料及び試料容器を飽和磁気まで磁化させた後、試料容器を20rpmの速度で右回転させて2つのSQUIDで検出される磁気信号(2系統)を同時に測定した。40回転分の信号を測定し、40回の信号加算平均処理を行った。このようにして測定された2つのSQUIDで測定された磁気信号を試料がSQUIDを通過したタイミングを合わせて差し引いた。その結果、実施例1および2と同様に、非測定物質である凝集した磁気マーカを含む磁気マーカ溶液からの磁気信号は差分波形では約2倍に増加すること、非特異吸着磁気マーカあるいは磁気不純物に対応した乾燥磁気マーカからの信号は差分波形では大きく減少することを確認できた。
【実施例4】
【0048】
本実施例では、電磁石を使用した磁化機構46を使用した。図12に使用した測定装置の断面構造模式図を示す。磁化機構46のコイル48は電源47に接続されており、試料14が磁化機構46の磁極49,49‘の間を通過するタイミングでパルス電流を流すことができる。電流の方向を反転させることで印加する配向用外部磁界の方向を反転できる。また、大きな電流を流すことで着磁用の磁界を印加することも可能である。
【0049】
本実施例では、実施例1から3と同じく、ビオチン修飾ポリマービーズと磁気マーカを反応させた試料を使用して測定を行った。
【0050】
ビオチン修飾ポリマービーズと磁気マーカの反応溶液35μlを試料容器71の窪み部分70に入れた後、試料容器を20rpmで右回転させながら磁化機構46の磁極49,49‘の間を通過するタイミングでコイル48にパルス幅1-10msの電流を流した。印加した磁場強度は500から1000ガウス程度である。
【0051】
次に、印加するパルス磁場の強度を100ガウスに下げ、SQUID28で磁気信号を測定した。40回転分の信号を測定し、40回の加算平均処理を行った(測定信号1)。次に、電流の向きを反転させ、逆方向に100ガウスの磁界を印加した状態で、やはり40回転分の信号を測定し、40回の加算平均処理を行った(測定信号2)。測定信号1から測定信号2を差し引くことで差分信号波形を求めた。
【0052】
その結果、実施例1から3と同様に、非測定物質である凝集した磁気マーカを含む磁気マーカ溶液からの磁気信号は差分波形では約2倍に増加すること、非特異吸着磁気マーカあるいは磁気不純物に対応した乾燥磁気マーカからの信号は差分波形では大きく減少することを確認できた。
【0053】
ここで述べた3つの実施例では、いずれもビオチンで修飾されたポリマー粒子について報告したが、溶液中の測定対象物質が磁気マーカと結合あるいは凝集体を形成する反応系に適用できる。いくつかの例を示すと、図13(a)のように、表面に1次抗体84が固定されたポリマー粒子81を使用し、測定対象物質の抗原82と抗原に結合する2次抗体で修飾された磁気マーカ83を反応させ、1次抗体-抗原-磁気マーカの凝集体を形成させることで、本手法を適用して抗原の検出が可能となる。従来の洗浄が必要な光学的方法では、試料を容器に固定するための固定用抗体が必要なため容器のコストが高いという問題や自分で固定用抗体を固定させるには手間と時間が必要であった。図11(a)のようにポリマービーズ表面で1次抗体-抗原-磁気マーカの凝集体を形成させることで、本発明の方法を適用できるとともに固定用抗体の準備に必要な手間とコストを低減できる。
【0054】
また、図13(b)のように細胞やバクテリア87の細胞膜表面の特定のタンパク質と選択的に結合する抗体85で修飾された磁気マーカ83を使用した細胞やバクテリアの検出にも適用できる。タンパク質に比べ細胞やバクテリアはそれ自体が大きい。そのため、ポリマービーズ表面に細胞やバクテリアを固定しなくても、浮遊した細胞やバクテリアに結合した磁気マーカのブラウン回転緩和時間は、未結合磁気マーカのブラウン回転運動緩和時間よりも充分長い。従って緩和時間の違いを利用して結合した磁気マーカからの磁気信号を選択的に計測できると同時に、本発明の方法を適用可能である。
【0055】
さらに図11(c)のようにビオチン86で修飾された細胞膜表面の特定のタンパク質に結合する抗体88と、アビジン89で修飾された磁気マーカ83を使用した、細胞やバクテリアの検出にも適用できる。この場合、アビジン89で修飾された磁気マーカを用意すれば、市販されているビオチン86で修飾された細胞膜表面の特定のタンパク質に結合する抗体を利用して種々の細胞や病原菌を測定できるというメリットがある。
【0056】
また、本実施例では磁気センサーとしてSQUIDを使用したが、GMRセンサー、MRセンサー、光ポンピング磁束計、フラックスゲート磁束計、ホール素子などの磁気センサーを使用した場合も同様の効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の方法を用いた測定手順の説明図。
【図2】本発明の適用が可能な装置構成の例を示す図。
【図3】本発明の実施例で使用した磁気的バイオ検査装置の構成を示す断面図。
【図4】実施例で使用した試料容器の模式図。
【図5】1次微分平面型グラジオメータを使用した場合の試料の磁化方向と検出される磁気信号波形の関係を説明する図。
【図6】空の試料容器の磁気信号波形。
【図7】実施例1における試料の作製方法を説明するための図。
【図8】ポリマービーズ試料の測定結果および本発明の適用結果。
【図9】磁気信号強度とポリマービーズ個数の関係。
【図10】実施例2における磁化機構およびSQUIDの配置を説明するための図。
【図11】実施例3における磁化機構およびSQUIDの配置を説明するための図。
【図12】実施例4で使用した磁気的バイオ検査装置の構成を示す断面図。
【図13】本発明が適用可能な反応系の例。
【符号の説明】
【0058】
1…試料容器、2…測定対象物質、3…結合磁気マーカ、4…未結合磁気マーカ、5…非特異吸着磁気マーカ、6…磁気不純物、7…磁気モーメントの方向、8…着磁用外部磁界、9…磁石、10…配向用外部磁界、
11…磁石、12…逆の配向用外部磁界、13…磁石、14…電磁石、15…磁気センサー、16…試料、17…磁石、18…磁石、19…電磁石、20…サファイヤウインドウ、
21…冷却容器、22…外槽、23…内槽、24…液体窒素、25…サファイヤロッド、26…銅ロッド、28、28’…SQUID、29…電磁シールド
30…磁気シールド、31…磁気シールド、32…試料台、33…固定ネジ、34…回転機構、35…回転軸、36…移動ステージ(垂直方向)、37…移動ステージ(水平方向)、38…切欠き穴、39…円筒部品、
40,40‘…磁石、41…ヨーク、42…磁化機構、43…磁化機構、
46…磁化機構、47…電源、48…コイル、49、49‘…磁極、
51…ビオチン、52…ポリマービーズ、53…磁気マーカ、54…エッペンチューブ、
60…バイクリスタル基板、61…バイクリスタル接合面、62…検出コイル、63…配線パッド、64…SQUIDリング、65…粒界ジョセフソン結合、66…検出コイルの中央部分、67…フィードバックコイル、68…配線パッド(フィードバックコイル用)、
70…窪み部分、71…試料容器、72…固定するための穴、
81…ポリマー粒子、82…抗原、83…磁気マーカ、84…1次抗体、85…抗体、86…ビオチン、87…細胞やバクテリア、88…抗体、89…アビジン。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液中に浮遊した被測定物質に磁性粒子を結合させて、その磁性粒子から発生する磁気信号を磁気センサで測定し、被測定物質を検出する方法であって、
磁性粒子と結合した前記被測定物質を含む溶液試料に、配向用の外部磁界を印加し、第一の磁気信号を測定する第一の工程と、
前記第一の工程と逆方向の配向用の外部磁界を印加し、第二の磁気信号を測定する第二の工程と、
記第一の磁気信号と前記第二の磁気信号との差分を測定する工程を有することを特徴とした磁気信号計測方法。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気信号計測方法において、前記第一の工程前に、着磁用の外部磁界を印加する工程を有し、
前記着磁用の外部磁界の強度が配向用の外部磁界よりも強いことを特徴とする磁気信号計測方法。
【請求項3】
請求項1に記載の磁気信号計測方法において、磁気信号の測定位置と異なる場所で磁界を印加し、その後試料を磁気信号の測定位置に移動させて磁気信号を測定することを特徴とする磁気信号計測方法。
【請求項4】
試料を入れる容器と、
前記容器を同心円上に保持する円形の試料ホルダーと、
記試料ホルダーをその中心軸周りに回転させる機構と、
回転中に容器が移動する同心円のいずれかの位置に配置された磁気センサと、
回転中に容器が移動する同心円のうち、前記磁気センサとは異なる位置に配置された配向用外部磁界を印加する磁石とを備え、
極性の異なる配向用の外部磁界の磁気信号差分を測定することを特徴とする磁気信号計測装置。
【請求項5】
請求項4に記載の磁気信号計測装置において、同心円上の異なる2つの位置に極性の異なる配向用の磁界を印加するための磁石が配置されており、前記試料ホルダーの回転方向を反転させて極性の異なる配向用の磁界の印加された磁気信号をそれぞれ計測し、極性の異なる配向用の外部磁界の磁気信号差分を測定することを特徴とする磁気信号計測装置。
【請求項6】
前記容器が移動する同心円上に2つの磁気センサと極性の異なる2つの配向用の磁界を印加するための磁石が交互に配置され、前記試料ホルダーを回転させて極性の異なる配向用の磁界の印加された磁気信号をそれぞれ計測し、前記極性の異なる配向用の外部磁界の磁気信号差分を測定することを特徴とする磁気信号計測装置。
【請求項7】
請求項4に記載の磁気信号計測装置において、前記磁石は、前記試料の着磁用にも用いられ、着磁用の磁石により試料に加える磁束密度が100ガウス以上、1000ガウス以下であることを特徴とする磁気信号計測装置。
【請求項8】
請求項4に記載の磁気信号計測装置において、前記磁石は、前記試料の着磁用にも用いられ、着磁用の磁石により試料に加える磁束密度が、前記試料および前記容器に含まれる磁性体の磁化の向きを変更させるのに必要な強度を有することを特徴とする磁気信号計測装置。
【請求項9】
請求項4に記載の磁気信号計測装置において、前記配向用の磁石により試料に加える磁束密度が1ガウス以上、1000ガウス以下であることを特徴とする磁気信号計測装置。
【請求項10】
請求項4に記載の磁気計測装置において、前記磁石が永久磁石であることを特徴とする磁気信号計測装置。
【請求項11】
請求項4に記載の磁気計測装置において、前記磁石が電磁石であることを特徴とする磁気信号計測装置。
【請求項12】
請求項4に記載の磁気信号計測装置において、前記磁石が電磁石であり、前記試料が前記電磁石の磁極を通過するタイミングでパルス磁場を印加することを特徴とする磁気信号計測装置。
【請求項13】
請求項4に記載の磁気信号計測装置において、前記磁気センサは、SQUID磁束計であることを特徴とする磁気信号計測装置。
【請求項14】
請求項4に記載の磁気信号計測装置において、前記磁気センサは、GMRセンサであることを特徴とする磁気信号計測装置。
【請求項15】
請求項4に記載の磁気信号計測装置において、前記磁気センサは、光ポンピング磁束計であることを特徴とする磁気信号計測装置。
【請求項1】
溶液中に浮遊した被測定物質に磁性粒子を結合させて、その磁性粒子から発生する磁気信号を磁気センサで測定し、被測定物質を検出する方法であって、
磁性粒子と結合した前記被測定物質を含む溶液試料に、配向用の外部磁界を印加し、第一の磁気信号を測定する第一の工程と、
前記第一の工程と逆方向の配向用の外部磁界を印加し、第二の磁気信号を測定する第二の工程と、
記第一の磁気信号と前記第二の磁気信号との差分を測定する工程を有することを特徴とした磁気信号計測方法。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気信号計測方法において、前記第一の工程前に、着磁用の外部磁界を印加する工程を有し、
前記着磁用の外部磁界の強度が配向用の外部磁界よりも強いことを特徴とする磁気信号計測方法。
【請求項3】
請求項1に記載の磁気信号計測方法において、磁気信号の測定位置と異なる場所で磁界を印加し、その後試料を磁気信号の測定位置に移動させて磁気信号を測定することを特徴とする磁気信号計測方法。
【請求項4】
試料を入れる容器と、
前記容器を同心円上に保持する円形の試料ホルダーと、
記試料ホルダーをその中心軸周りに回転させる機構と、
回転中に容器が移動する同心円のいずれかの位置に配置された磁気センサと、
回転中に容器が移動する同心円のうち、前記磁気センサとは異なる位置に配置された配向用外部磁界を印加する磁石とを備え、
極性の異なる配向用の外部磁界の磁気信号差分を測定することを特徴とする磁気信号計測装置。
【請求項5】
請求項4に記載の磁気信号計測装置において、同心円上の異なる2つの位置に極性の異なる配向用の磁界を印加するための磁石が配置されており、前記試料ホルダーの回転方向を反転させて極性の異なる配向用の磁界の印加された磁気信号をそれぞれ計測し、極性の異なる配向用の外部磁界の磁気信号差分を測定することを特徴とする磁気信号計測装置。
【請求項6】
前記容器が移動する同心円上に2つの磁気センサと極性の異なる2つの配向用の磁界を印加するための磁石が交互に配置され、前記試料ホルダーを回転させて極性の異なる配向用の磁界の印加された磁気信号をそれぞれ計測し、前記極性の異なる配向用の外部磁界の磁気信号差分を測定することを特徴とする磁気信号計測装置。
【請求項7】
請求項4に記載の磁気信号計測装置において、前記磁石は、前記試料の着磁用にも用いられ、着磁用の磁石により試料に加える磁束密度が100ガウス以上、1000ガウス以下であることを特徴とする磁気信号計測装置。
【請求項8】
請求項4に記載の磁気信号計測装置において、前記磁石は、前記試料の着磁用にも用いられ、着磁用の磁石により試料に加える磁束密度が、前記試料および前記容器に含まれる磁性体の磁化の向きを変更させるのに必要な強度を有することを特徴とする磁気信号計測装置。
【請求項9】
請求項4に記載の磁気信号計測装置において、前記配向用の磁石により試料に加える磁束密度が1ガウス以上、1000ガウス以下であることを特徴とする磁気信号計測装置。
【請求項10】
請求項4に記載の磁気計測装置において、前記磁石が永久磁石であることを特徴とする磁気信号計測装置。
【請求項11】
請求項4に記載の磁気計測装置において、前記磁石が電磁石であることを特徴とする磁気信号計測装置。
【請求項12】
請求項4に記載の磁気信号計測装置において、前記磁石が電磁石であり、前記試料が前記電磁石の磁極を通過するタイミングでパルス磁場を印加することを特徴とする磁気信号計測装置。
【請求項13】
請求項4に記載の磁気信号計測装置において、前記磁気センサは、SQUID磁束計であることを特徴とする磁気信号計測装置。
【請求項14】
請求項4に記載の磁気信号計測装置において、前記磁気センサは、GMRセンサであることを特徴とする磁気信号計測装置。
【請求項15】
請求項4に記載の磁気信号計測装置において、前記磁気センサは、光ポンピング磁束計であることを特徴とする磁気信号計測装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−286616(P2008−286616A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−131203(P2007−131203)
【出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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