説明

磁気光学素子およびその製造方法

【課題】照射される光に対して、簡単な構成で複数の磁気光学的作用を与えることができる磁気光学素子、およびその製造方法を得ること。
【解決手段】基材2と、前記基材2上に形成された磁性層1とを備え、前記磁性層1に含まれる磁性粒子3が針状比が1以上5未満で平均粒子径が50nm以下の球形磁性微粒子であり、前記磁性層1は、その面方向において磁化の大きさの異なる複数の磁区1a、1b、1cに分割されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性粒子が配列された磁性層を有し、磁性粒子の保持する磁力によって照射されたビーム光の偏光特性を変化させる磁気光学素子、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性体の磁力により、照射されたビーム光の偏光特性を変化させる磁気光学素子が実用化されている。
【0003】
例えば、磁性物質に磁場をかけ、磁場の方向と平行に直線偏光を有するレーザービームを透過させた時に偏光面が回転するファラデー効果を用いて、反射光が光源に戻るのを防ぐ光学素子である光アイソレータを形成することができる。
【0004】
具体的には、透明樹脂製の基材に磁性粒子が配列して形成された磁性層を積層し、全体に磁界を印加することで作成したアイソレータに、偏光子を透過することで直線偏光とされたレーザービームを照射することで、ファラデー効果が生じレーザービームの直線偏光の方向が回転する。このため、反射ビームの偏光方向が照射ビームと異なるため、反射ビームは同じ偏向子を通過してレーザービーム光源に到達することができなくなる。このとき、偏向旋回の大きさである回転角θFは、θF=FlMの式で表わされ、磁気光学素子の磁性層厚lと、磁化の強さMに比例する。なお、Fは、ファラデー定数である。
【0005】
また、偏向子を通過した直線偏光を有するレーザービームが、ビーム進行方向と垂直な方向に磁化された物質を透過する場合には、コットンムートン効果によって複屈折が生じ、透過光は楕円偏向になる。このときの位相差σは、磁化の強さMの二乗に比例することが知られている。コットンムートン効果を利用する磁気光学素子として、光学干渉を利用した受光素子などが提案されている。
【0006】
ファラデー効果を利用する磁気光学素子の応用例として、金属磁性微粒子で構成された磁性層の、所定部分の磁化の大きさを電気的にコントロールすることにより透過光の偏光方向を変化させ、偏光板と組み合わせることで透過光の部分ごとのコントラストを変化させて画像を表示するディスプレイが開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−213004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来の磁気光学素子は、それ自身ではいずれも直線偏光を有するビームに対する一つの作用しか与えることができなかった。
【0009】
例えば、従来のファラデー効果を用いたアイソレータでは、直線偏光を有するレーザービームに、全体として一つの旋光性を与えることしかできなかった。また、特許文献1に記載のディスプレイでも、一つ一つの画素部分では、所定の角度の旋光しか与えることができず、旋光の大きさを変えて直線偏光の角度を変化させるためには、外部から異なる大きさの磁気的な作用を与えることが必要であった。このような、磁気光学素子に外部から磁界を印加するためには、そのための機構が別途必要となり、磁気光学素子を含めた装置全体の複雑化が避けられなかった。
【0010】
本発明は、上記従来の磁気光学素子における課題を解決し、照射される光に対して、簡単な構成で複数の磁気光学的作用を与えることができる磁気光学素子、およびその製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため本発明の磁気光学素子は、基材と、前記基材上に形成された磁性層とを備え、前記磁性層に含まれる磁性粒子が針状比が1以上5未満で平均粒子径が50nm以下の球形磁性微粒子であり、前記磁性層は、その面方向において磁化の大きさの異なる複数の磁区に分割されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の磁気光学素子の製造方法は、針状比が1以上5未満で平均粒子径が50nm以下の球形磁性微粒子とバインダーとを有する磁性塗料を作製する塗料作製工程と、前記磁性塗料を基材上に塗布する塗布工程と、前記基材上に塗布された磁性塗料に外部から磁界を印加して、前記球形磁性微粒子の結晶軸方向を一様に配列させた状態で前記磁性塗料を固化して磁性層を形成する塗料固化工程と、前記磁性層の面方向において磁化の大きさが異なる複数の磁区を形成する磁区形成工程とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の磁気光学素子は、球形磁性微粒子を有した磁性層が、その面方向において磁化の大きさの異なる複数の磁区に分割されている。このため、一つの磁気光学素子でありながら、直線偏光を有するビームに対して形成された磁区ごとに異なる磁気光学的作用を与えることができる。
【0014】
また、本発明の磁気光学素子の製造方法は、球形磁性微粒子を含む磁性塗料を塗布した後、球形磁性微粒子の結晶軸方向を一様に配列させた状態で磁性塗料を固化して磁性層を形成し、その後に、磁性層の面方向において磁化強度が異なる複数の磁区を形成する工程を備えている。このため、磁化強度の異なる複数の磁区を有する磁気光学素子を容易にかつ精度よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態にかかる磁気光学素子の製造方法における、塗料固化工程を説明するための図である。
【図2】本発明の実施の形態にかかる磁気光学素子による、直線偏光を有するレーザービームに与える磁気光学的作用を説明するための要部拡大図である。
【図3】本発明の実施の形態にかかる磁気光学素子の応用例である、微細領域の磁化を検出する装置の原理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の磁気光学素子は、基材と、前記基材上に形成された磁性層とを備え、前記磁性層に含まれる磁性粒子が針状比が1以上5未満で平均粒子径が50nm以下の球形磁性微粒子であり、前記磁性層は、その面方向において磁化の大きさの異なる複数の磁区に分割されている。
【0017】
上記本発明の磁気光学素子は、磁性層がその面方向において磁化の大きさの異なる複数の磁区に分割されているため、入射する直線偏光を有するビームに対して、それぞれの磁区の磁化の大きさに応じた磁気光学的作用を与えることができる。このため、一つのビームの断面部分ごとに異なる度合いの旋光を与えることができ、また、磁気光学素子上のビームを照射させる位置を変化させることにより、ビームに異なる大きさの旋光を与えることができる。
【0018】
なお、以下本明細書においては、「針状比が1以上5未満で平均粒子径が50nm以下」の磁性粒子を、「球形磁性微粒子」と称することとする。ここで、「針状比」とは、微粒子の形状における針状の度合い、すなわち、球形度合いを示す数値であり、粒子の長軸長(長径)と短軸長(短径)との比を示す数値である。この針状比が5未満であれば、その粒子は結晶磁気異方性の観点で十分に球に近いものであると判断することができる。
【0019】
上記本発明の磁気光学素子において、前記磁性層の球形磁性微粒子は、結晶軸方向が一様に配列された状態で配置されていることが好ましい。このようにすることで、磁性層に、所望の大きさ、形状を有し、かつ、それぞれが所望の強さに磁化された磁区を備えた磁気光学素子を容易に得ることができる。
【0020】
また、前記球形磁性微粒子の前記結晶軸方向が前記磁性層の厚さ方向であることが好ましい。このようにすれば、磁気光学素子に入射するビームに対し、磁性層の磁区ごとに大きさの異なるファラデー効果による旋光を与えることができる。
【0021】
本発明の磁気光学素子の製造方法は、針状比が1以上5未満で平均粒子径が50nm以下の球形磁性微粒子とバインダーとを有する磁性塗料を作製する塗料作製工程と、前記磁性塗料を基材上に塗布する塗布工程と、前記基材上に塗布された磁性塗料に外部から磁界を印加して、前記球形磁性微粒子の結晶軸方向を一様に配向させた状態で前記磁性塗料を固化して磁性層を形成する塗料固化工程と、前記磁性層の面方向において磁化強度が異なる複数の磁区を形成する磁区形成工程とを備えている。
【0022】
このようにすることで、球形磁性微粒子の結晶軸方向が均一に揃えられ、異なる磁化の大きさを有する複数の磁区を備えた磁気光学素子を、容易に、かつ、正確に製造する製造方法を得ることができる。
【0023】
本発明の磁気光学素子の製造方法における前記塗料固化工程において、前記塗布された磁性塗料の厚さ方向に外部磁界を印加することが好ましい。このようにすることで、結晶軸の方向が、固化された磁性塗料により形成される磁性層の厚さ方向とされた磁気光学素子を容易に製造することができる。
【0024】
また、前記磁区形成工程が、磁気ヘッドを用いて前記磁性層の所定領域に所定の大きさの磁化を付与するものであることが好ましい。このようにすることで、容易に磁性層の所定領域を所定の強さに磁化された磁区とすることができる。
【0025】
以下、本発明の磁気光学素子とその製造方法について、図面を参照して説明する。
【0026】
なお、以下で参照する各図は、説明の便宜上、本発明の磁気光学素子とその製造方法において、本発明を説明するために必要な部分のみを簡略化して示したものである。従って、本発明にかかる磁気光学素子およびその製造方法は、参照する各図に示されていない任意の構成を備えることができる。また、各図中の部材の寸法は、実際の構成部材の寸法および各部材の寸法比率を必ずしも忠実に表したものではない。
【0027】
(実施の形態)
本発明の実施の形態として、本発明にかかる磁気光学素子の製造方法の具体例について説明する。
【0028】
本実施形態の磁気光学素子の製造方法は、「塗料作製工程」「塗布工程」「塗料固化工程」「磁区形成工程」の各工程を経て磁気光学素子を製造する。以下、これらの各工程について順次説明する。
【0029】
[塗料作製工程]
塗料作製工程は、球形磁性微粒子とバインダーとを有する磁性塗料を作製する工程であり、以下の材料を使用する。
【0030】
<磁性粉>
まず、磁性粉を作製する。本実施形態の磁気光学素子の製造方法に用いられる磁性塗料に使用される磁性粉は、窒化鉄磁性粉、板状の六角晶フェライト磁性粉などが好ましく用いられる。平均粒子径50nm未満のものが好ましく、30nm以下のものがより好ましい。なお、粒子としての取り扱い上の観点などから、平均粒子径としては5nm以上程度あることが好ましい。
【0031】
このような条件を満たす窒化鉄磁性粉として、具体的には、日立マクセル株式会社製の超微粒子球状磁性体「NanoCAP」(製品名、登録商標)の平均粒径が20nmのものを用いることができる。
【0032】
<結合剤>
本実施形態の磁気光学素子の製造方法に用いられる樹脂バインダーである結合剤としては、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル−ビニルアルコール共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体樹脂、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合体樹脂、ニトロセルロースなどのセルロース系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種と、ポリウレタン樹脂とを組み合わせたものなどが挙げられる。
【0033】
これらの樹脂の中でも、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合体樹脂とポリウレタン樹脂を併用するのが好ましい。
【0034】
ポリウレタン樹脂には、ポリエステルポリウレタン樹脂、ポリエーテルポリウレタン樹脂、ポリエーテルポリエステルポリウレタン樹脂、ポリカーボネートポリウレタン樹脂、ポリエステルポリカーボネートポリウレタン樹脂などがある。
【0035】
このような結合剤樹脂は、官能基として、−COOH、−SO3M、−OSO3M、−P=O(OM)3、−O−P=O(OM)2〔これらの式中、Mは水素原子、アルカリ金属塩基またはアミン塩を示す〕、−OH、−NR12、−N+R345〔これらの式中、R1、R2、R3、R4、R5は水素または炭化水素基を示す〕、エポキシ基などを有しているものが、好ましく用いられる。このような結合剤樹脂を使用すると、磁性粉の分散性が向上するためである。
【0036】
2種以上の樹脂を併用する場合には、官能基の極性を一致させるのが好ましく、中でも、−SO3M基同士の組み合わせが好ましい。
【0037】
これらの結合剤樹脂は、磁性粉100重量部に対して、通常は、7〜50重量部、好ましくは10〜35重量部の範囲で使用するのがよい。とくに、塩化ビニル系樹脂とポリウレタン樹脂を併用する場合は、塩化ビニル系樹脂5〜30重量部とポリウレタン樹脂2〜20重量部とを併用するのが好ましい。
【0038】
また、上記のような熱硬化性の結合剤樹脂の代わりに、放射線硬化性樹脂を用いてもよい。放射線硬化性樹脂としては、上記熱硬化性樹脂をアクリル変性し放射線感応性二重結合を持たせたものや、アクリルモノマー、アクリルオリゴマーが用いられる。
【0039】
<架橋剤>
上記の結合剤樹脂とともに、結合剤樹脂中に含まれる官能基などと結合させて架橋する熱硬化性の架橋剤を併用することが好ましい。
【0040】
このような架橋剤としては、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどや、これらのイソシアネート類とトリメチロールプロパンなどの水酸基を複数個有するものとの反応生成物、上記イソシアネート類の縮合生成物などの各種のポリイソシアネートが好ましく用いられる。
【0041】
これらの架橋剤は、結合剤樹脂100重量部に対して、通常1〜50重量部の割合で用いられる。より好ましくは15〜35重量部である。
【0042】
<有機溶剤>
本実施形態の磁気光学素子の製造方法において、磁性塗料の製造に使用される有機溶剤としては、たとえば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル系溶剤、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコール系溶剤、などが挙げられる。これらの有機溶剤は、単独でまたは混合して使用され、またトルエンなどと混合して使用される。
【0043】
<分散剤>
本実施形態の磁気光学素子の製造方法に用いられる磁性塗料には、磁性粉等の添加剤を良好に分散させるために分散剤を使用することができる。
【0044】
分散剤としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアロール酸などの炭素数12〜18個の脂肪酸〔RCOOH(Rは炭素数11〜17個のアルキル基またはアルケニル基)〕、上記脂肪酸のアルカリ金属またはアルカリ土類金属からなる金属石けん、上記脂肪酸エステルのフッ素を含有した化合物、上記脂肪酸のアミド、ポリアルキレンオキサイドアルキルリン酸エステル、レシチン、トリアルキルポリオレフィンオキシ第四級アンモニウム塩(アルキルは炭素数1〜5個、オレフィンはエチレン、プロピレンなど)、硫酸塩、スルホン酸塩、りん酸塩、銅フタロシアニンなどの、従来から公知の各種分散剤を使用することができる。
【0045】
本実施形態の磁性塗料の分散剤としては、上記に例示した公知の各分散剤を単独でも、また、組み合わせて使用してもよい。分散剤は、結合剤樹脂100重量部に対し、通常0.5〜20重量部の範囲で添加される。
【0046】
<磁性塗料の作製>
上記にその詳細を示した磁性粉、結合剤を有機溶剤に添加して磁性塗料を作製する。
【0047】
まず、針状比が1以上5未満で平均粒子径が50nm以下の球形磁性微粒子としての球状窒化鉄磁性粉(Al−Y−Fe−N、諸特性はσs:85Am2/kg(85emu/g)、Hc:214.9kA/m(2700Oe)、平均粒子径14.5nm)100部と、塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体17部、メチルアシッドフォスフェート4部、メチルエチルケトン17部、トルエン17部とを、磁性粉前処理工程として、高速攪拌混合機にて予め高速混合しておき、その混合粉末を加圧式ニーダで混練する。この段階で球形磁性微粒子の割合は、78.1%である。
【0048】
続いて、上記作成した混練塗料を100部として、シクロヘキサノン180部、トルエン140部 を加えて撹拌しながら希釈化する。さらに、平均粒径1mmのジルコニアビーズを用いたサンドミルで、滞留時間60分の分散処理を行う。
【0049】
その後、分散処理を行った塗料100部に対して、架橋剤としてポリイソシアネート6部、メチルエチルケトン10部、シクロヘキサノン350部、トルエン390部を配合して撹拌し、孔径0.8μmのフィルタにて濾過工程を行って磁性塗料を得た。
【0050】
磁性塗料の、磁性粉含有率(磁性粉量/全塗料成分)は、8.1%であった。
【0051】
[塗布工程]
上記塗料作成工程で得られた磁性塗料を、透明性の高い基材である厚さ18μmのTACフィルム上に、バーコーター(#14)を用いて塗布し、一例として、塗布領域の直径が8mmの円形で乾燥後の厚みが50μmの塗膜を得た。なお、本実施形態において、磁性塗料の塗布領域の形状と大きさ、そして、乾燥後の厚みは、適宜塗布条件を調整することで所望のものを得ることができることは言うまでもない。
【0052】
[塗料固化工程]
基材上に塗布された磁性塗料に、外部から一例として3000Oeの磁界を印加した状態で磁性塗料を固化する。
【0053】
図1は、塗料固化工程において、基材2と基材上に塗布された磁性塗料1’に、外部から磁界を印加している状態を示している。なお、本実施形態の磁気光学素子の製造方法では、図1に矢印で示すように、塗布された磁性塗料1’の厚さ方向、すなわち、基材2の厚さ方向であり、固化された後の磁性層の面に垂直な方向に磁界を印加する。
【0054】
図1に示すように、外部から磁界を印加している状態で、磁性塗料1’を例えば自然乾燥することで固化する。このようにすることにより、磁気塗料1’に含まれている球形磁性微粒子(図1では図示せず)の結晶軸を、磁界を印加した方向に一様に配向させた状態で固定した磁性層を形成することができる。
【0055】
もちろん、磁性塗料の固化方法は上記自然乾燥に限られるものではなく、磁性層を形成する球形磁性微粒子の結晶軸を、外部から印加される磁界の強さによって所定方向に向けることができる範囲において磁性塗料を加熱し、固化のために要する時間を低減させることができる。
【0056】
[磁区形成工程]
磁性塗料のバインダーが固化されて形成された磁性層に、磁気ヘッドを用いて磁区を形成する。
【0057】
このようにして、直径8mm、厚さ50μmの磁気光学素子100を得た。
【0058】
本実施形態の製造方法で製造された磁気光学素子を試料振動型磁束計(東英工業製)で測定したところ、その磁気特性は、保持力2058Oe、Mrt2.2であった。
【0059】
上記本実施形態にかかる磁気光学素子の製造方法で製造した磁気光学素子100は、塗料作製工程の説明で述べたように、磁性層を形成するための磁性塗料のバインダーに分散剤を加えている。また、球形磁性微粒子として、上記製造方法において例示したNanoCAPを用いることで、その等方性から線二色性の影響のない磁気光学素子を得ることができる。
【0060】
なお、上記実施の形態では、塗料固化工程において外部からの磁界を塗布された磁性塗料1’の厚さ方向に印加して、磁性層に含まれる球形磁性微粒子の結晶軸方向をその厚さ方向に整列させた例を示したが、本発明の磁気光学素子およびその製造方法において、このことは必須ではない。磁気光学素子として、透過する光の進行方向に対して、適切な方向に球形磁性微粒子の結晶軸方向を向けることが必要であり、この結晶軸方向が得られるように、外部磁界の印加方向を調整することとなる。
【0061】
例えば、磁気光学素子として、透過する光にコットンムートン効果を付与するものを得る場合には、球形磁性微粒子の結晶軸方向を、磁気光学素子として使用される際に入射される光の進行方向に対して90度傾けることが必要である。このため、コットンムートン効果を付与する磁気光学素子を得るためには、入射される光の進行方向に対して90度の角度となるように、外部磁界の印加方向を傾斜させればよい。
【0062】
次に、本実施形態の磁気光学素子によるレーザービームに対する磁気光学的効果について説明する。
【0063】
図2は、本実施形態の磁気光学素子が、直線偏光を有するレーザー光に及ぼす磁気光学的作用を示す要部拡大図である。なお、図2では、本実施形態の磁気光学素子のレーザー光が当たっている一部分を拡大して模式的に示したものであり、図面の煩雑化を避けるため、本実施形態の磁気光学素子として、固化された磁気塗料である磁性層1のみを示し、基材2の図示は省略している。
【0064】
図2に示すように、本実施形態の磁気光学素子の磁性層1は、その内部に針状比が1以上5未満で平均粒子径が50nm以下の球形磁性微粒子3としての球状窒化鉄磁性粉を含有している。そして、磁性層1は、図2における上下方向に、3つの磁区1a、1b、1cに分割されている。
【0065】
図2における白色矢印M1、M2、M3は、3つの磁区1a、1b、1cそれぞれにおける磁化の方向と大きさを示している。図2に示すように、図2中最も上側の磁区1aの磁化の大きさM1が最も小さく、図2中最も下側の磁区1cの磁化の大きさM3が最も大きくなっている。中間部分の磁区1bの磁化の強さM2は、M1とM3との中間の大きさである。なお、各磁区1a、1b、1cの磁化方向は、いずれも磁性層1の厚さ方向である、図2中の右方向としている。
【0066】
このような磁区1a、1b、1cを有する磁性層1の一方の面に垂直に、直線偏光を有するレーザー光21が照射された場合を考える。なお、図2中レーザー光21の端面に示した矢印が、偏光の方向を示している。
【0067】
レーザー光21が磁性層1の面に垂直に入射した場合には、レーザー光21の進行方向が磁化方向と平行であるため、ファラデー効果による旋光が生じる。この旋光の大きさは、磁化M1、M2、M3の大きさに比例するため、図2に示すように、透過光22は、磁区1aを透過した部分22aでの旋光の大きさが最も小さく、磁区1cを透過した部分22cでの旋光の大きさが最も大きくなり、磁区1bを透過した部分22bの旋光の大きさがその中間となる。すなわち、直線偏光を有するレーザー光21を照射した場合に、磁性塗料1を透過した透過光22は、磁区1a、1b、1cを透過した透過光の部分22a、22b、22cごとに、異なる方向に直線偏向が向けられることとなる。
【0068】
このように、本実施形態の磁気光学素子は、一つの素子でありなから、複数個有するその磁区ごとに異なる旋光を与えることができる。また、磁区の大きさや配置、それぞれの磁区での磁化の強さを適宜選択して付与することができるため、レーザー光に所望の磁気光学特性を与える磁気光学素子を実現することができる。
【0069】
図3は、本実施形態の磁気光学素子の応用例を示すイメージ図である。
【0070】
本実施形態の磁気光学素子を透過した透過光22は、図2で説明した磁気光学素子に形成された磁区1a、1b、1cを透過した部分22a、22b、22cごとに異なる方向の直線偏光を有している。このため、図3に示すように、例えば磁気パターンP1、P2、P3が形成された記録媒体31に本実施形態の磁気光学素子を透過した透過光22を入射させることで、その反射光23は、入射光22aの部分の反射光23aが磁気パターンP1の影響を受け、入射光22bの部分の反射光23bが磁気パターンP2の影響を受け、入射光22cの部分の反射光23cが磁気パターンP3の影響を受け、それぞれの部分23a、23b、23cが旋光された直線偏光を有することになる。この反射光23の各部分23a、23b、23cの直線偏光を検出することで、磁気記録媒体31に記録された、入射ビーム22の集光限界形Dよりも細かい幅dの部分のデータを一度に読み取ることができる。したがって、本実施形態の磁気光学素子によれば、透過させたビームを用いて、従来よりも細かい複数の細分化された部分の磁気情報を、同時に取得することができる。
【0071】
上記のように、本実施形態の磁気光学素子は、任意の形状パターンを有し、それぞれにおいて任意の磁化の大きさを有する、複数の磁区が磁性層の面方向に形成されていることにより、例えば、その磁気光学作用を受けたビームを用いて細分化された面状の磁気情報を同時に取得することができるようになる。したがって、磁気記録媒体の読み込み、書き込みに関する分野をはじめとして、多くの磁気特性活用分野でさまざまな用途に応用展開をすることができる。
【0072】
また、上記図2および図3における説明では、本実施形態にかかる磁気光学素子に形成された各磁区の磁化の方向が、磁性層の厚さ方向である場合について説明したが、本発明の製造方法の実施形態において説明したとおり、本発明の磁気光学素子に形成された各磁区の磁化の方向は、磁性層の厚さ方向である場合に限られるものではない。入射される光の進行方向に平行、または、これと90度の角度をなす方向に各磁区の磁化の方向を調整することで、透過する光にファラデー効果を付与するものや、コットンムートン効果を付与するものなど、さまざまな磁気光学的作用を備えた磁気光学素子を得ることができる。これにより、磁気光学素子として、幅広い応用展開を期待することができる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明にかかる磁気光学素子は、一つの素子内に異なる磁気光学作用を与えうる複数の磁区を有した素子として、磁気記録媒体の書き込み・読み出しなどの多くの分野に利用することができる。
【0074】
また、本発明の磁気光学素子の製造方法は、複数の磁区を有する磁気光学素子を簡易、かつ、正確に製造することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 磁性層
1a、1b、1c 磁区
2 基材
3 球形磁性微粒子
100 磁気光学素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上に形成された磁性層とを備え、
前記磁性層に含まれる磁性粒子が針状比が1以上5未満で平均粒子径が50nm以下の球形磁性微粒子であり、
前記磁性層は、その面方向において磁化の大きさの異なる複数の磁区に分割されていることを特徴とする磁気光学素子。
【請求項2】
前記磁性層の球形磁性微粒子は、結晶軸方向が一様に配列された状態で配置されている請求項1に記載の磁気光学素子。
【請求項3】
前記球形磁性微粒子の前記結晶軸方向が前記磁性層の厚さ方向である請求項2に記載の磁気光学素子。
【請求項4】
針状比が1以上5未満で平均粒子径が50nm以下の球形磁性微粒子とバインダーとを有する磁性塗料を作製する塗料作製工程と、
前記磁性塗料を基材上に塗布する塗布工程と、
前記基材上に塗布された磁性塗料に外部から磁界を印加して、前記球形磁性微粒子の結晶軸方向を一様に配向させた状態で前記磁性塗料を固化して磁性層を形成する塗料固化工程と、
前記磁性層の面方向において磁化の大きさが異なる複数の磁区を形成する磁区形成工程とを備えたことを特徴とする磁気光学素子の製造方法。
【請求項5】
前記塗料固化工程において、前記塗布された磁性塗料の厚さ方向に外部磁界を印加する請求項4に記載の磁気光学素子の製造方法。
【請求項6】
前記磁区形成工程が、磁気ヘッドを用いて前記磁性層の所定領域に所定の大きさの磁化を付与する請求項5または6に記載の磁気光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−32442(P2012−32442A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169439(P2010−169439)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】