説明

磁気光融合記録装置用ヘッド及び磁気光融合記録装置

【課題】 近接場光発生素子として導電性を有する散乱体を用いた磁気光融合記録用ヘッドにおいて,散乱体周辺に発生するバックグランド光を低減する。
【解決手段】スライダ1の底部に磁界発生用のコイル3を配置し,その内側に近接場光発生素子2を設ける。このとき,コイルの内径を入射光4の波長以下にし,コイルに電流を流すための引き出し線6の間の間隔9を光の波長の半分以下にし,磁界発生用のコイル3をバックグランド光抑制のためのシールドとして機能させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,磁気光融合記録装置用ヘッド及び磁気光融合記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年,1Tb/in2以上の記録密度を実現する記録方式として,磁気光融合記録方式が提案されている(H. Saga, H. Nemoto, H. Sukeda, and M. Takahashi, Jpn. J. Appl. Phys. 38, Part 1, 1839 (1999)))。従来の磁気記録装置では,記録密度が1Tb/in2以上になると,熱揺らぎによる記録情報の消失が問題となる。これを防ぐためには,媒体の保磁力を上げる必要があるが,発生させることができる磁界の大きさには限りがあるため,保磁力を上げすぎると媒体に記録ビットを形成することが不可能となる。これを解決するために,磁気光融合記録方式では,記録の瞬間,媒体を光で加熱し保磁力を低下させる。これにより,高保磁力媒体への記録が可能となり,1Tb/in2以上の記録密度実現が可能となる。
【0003】
この磁気光融合記録装置において,照射する光のスポット径は,記録ビットと同程度の大きさ(数10nm)にする必要がある。なぜなら,それよりも大きいと,隣接トラックの情報を消去してしまうからである。このような微小な領域を加熱するためには,近接場光を用いる。近接場光は,光波長以下の微小物体近傍に存在する局在した電磁場(波数が虚数成分を持つ光)であり,径が光波長以下の微小開口や金属の散乱体を用いて発生させる。例えば,Technical Digest of 6th international conference on near field optics and related techniques, the Netherlands, Aug. 27-31, 2000, p55では,高効率な近接場光発生器として三角形の形状をした金属散乱体を用いた近接場光発生器が提案されている。金属散乱体に光を入射させると,金属散乱体中にプラズモン共鳴が励起され,三角形の頂点に強い近接場光が発生する。この近接場光発生器を用いることにより,光を数10nm以下の領域に高効率に集めることが可能になる。
【非特許文献1】Jpn. J. Appl. Phys. 38, Part 1, 1839 (1999)
【非特許文献2】Technical Digest of 6th international conference on near field optics and related techniques, the Netherlands, Aug. 27-31, 2000, p55
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記金属の散乱体を利用した近接場光発生器を利用して媒体を加熱する場合,金属の散乱体に当たらなかった光がバックグランド光として媒体に入射してしまう。このバックグランド光のスポット径は,入射光のスポット径と同一であるが,入射光のスポット径は回折限界により,入射光波長よりも小さくすることが出来ない。したがって,近接場光の存在する数10nmの領域周辺の広い範囲において媒体が加熱されてしまう。そのため,このバックグランド光による加熱により,隣接トラックの情報が消去されてしまう可能性がある。
【0005】
本発明は,磁気光融合記録用ヘッドにおいて,バックグランド光の発生を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は,以下の構成とすることによって達成される。即ち,スライダの底部に磁界発生用の円形のコイルを配置し,そのコイル内側に近接場光発生用の導電性を有する散乱体を設ける。このとき,コイル内側の幅を入射光の波長以下にし,またコイルに対し電流を流すための引き出し線の間の間隔を光の波長の半分以下にすることにより,磁界発生用のコイルをバックグランド光抑制のためのシールドとして機能させる。ここで,コイル内側の幅とは,コイル中心に開けられた空間の幅のうち,最も小さな部分の幅を言う。
【0007】
上記構造に入射させる光の偏光方向は,引き出し線を取り付ける部分の切れ込みに対し平行となるようにすると良い。このようにすることにより,引き出し線の部分から漏れる光の量を小さくすることが出来る。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると,近接場光発生素子として導電性を有する散乱体を用いた磁気光融合記録用ヘッドにおいて,散乱体周辺に発生するバックグランド光の影響を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下,図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
[実施例1]
本発明の磁気光融合記録装置用ヘッドでは,図1に示すように,ヘッドの母体となるスライダ1の底部に円形のコイル3を配置し,その中心に,近接場光を発生するための導電性を有する散乱体2を設置する。入射光4はコイル3の上側から入射させる。ここで上側とは,媒体5を置く方向に対して反対側を言う。このとき,コイル3の内側の幅d1を入射光4のスポット径(d2)以下,すなわち入射光4の波長以下にすることにより,近接場光発生素子(散乱体)2周辺に発生するバックグランド光を除去する。ここで,コイル内側の幅とは,コイル中心に開けられた空間の幅のうち,最も小さな部分の幅を言う。
【0010】
本実施例では,光が透過する部分が石英で出来たスライダ1を用い,そのスライダ底部に,図2に示すようなコイル3及び金属の散乱体2を埋め込んだ。コイル3の形状は円形とし,その内側に,三角形の形状をした近接場光発生用の金属の散乱体2を設置した。コイル3の材質は銅とし,コイルの厚さt2は800nmとした。コイル3の材質は導電性を有するものであれば良く,金,銀,アルミなどの金属にしても良い。近接場光発生用の散乱体の寸法はプラズモン共鳴が発生するように調整すると良く,本実施例では,幅w3を100nm,厚さt1を50nm,近接場光が発生する頂点7の頂角を40度にした。近接場光発生用の散乱体2の材質は金とした。散乱体の材質は,導電性を有するものであれば良く,銀,銅,アルミ,鉄,ニッケルなどの金属又は合金,又はSiなどの半導体にしても良い。
【0011】
コイル3の内側の部分は,入射光に対し,導波路としての働きをする。したがって,光導波路と同様に,コイル内側の幅d1を小さくし過ぎると,内部を伝播する伝播モードがなくなるため,近接場光発生素子2に到達する光量が低下してしまう。すなわち,図3に示すように,コイル内側の幅d1が導波路のカットオフ径である入射光の波長(λ)の1/2以下になると,コイルの内側を伝播しにくくなり,近接場光発生素子2に到達する光量が低下してしまう。したがって,コイル内側の幅d1はコイル内側を伝播する光の波長の1/2以上にすると良い。本実施例では,入射光の波長を780nm(真空中の波長)としたので,半波長の値(λ/2)は,真空中の波長÷コイル内側の材質(石英)の屈折率(=1.5)÷2=260nmとなる。したがって,コイル内側の幅d1(コイルが円形の場合,コイルの内径に相当)を300nmとした。
【0012】
近接場光の強度を最も強くするためには,上記散乱体の中心が,コイル中心に実質的に一致するようにすると良い。例えば,本実施例の場合,散乱体の中心(頂点から底辺に引いた垂線の中点)がコイルの中心に実質的に一致するように置くと良い。ただし,近接場光が発生する点における磁界強度を強くする必要がある場合は,近接場光が発生する点がコイルの中心に実質的に一致するように散乱体を配置すると良い。例えば,本実施例の場合頂点7とコイルとの距離xがコイル内側の幅d1の半分の値,すなわち150nmとなるようにすればよい。
【0013】
コイルの幅w1は,大きすぎると表皮効果により,電流がコイル外側を流れてしまう。これは,コイルの曲率半径が大きくなることに相当するため,コイル内側に発生する磁界強度が低下する。このことを防ぐためには,コイルの幅w1は表皮厚よりも小さくすることが好ましい。ここで,表皮厚δは,σをコイルの導電率,μを透磁率,ωをコイルを流れる交流電流の角振動数としたとき,次式で表される。
【0014】
【数1】

【0015】
本実施例では,コイル材質を銅にし,変調周波数を1GHzとしたため,表皮厚は2.09μmである。したがってコイルの幅w1は,それ以下の1μmとした。
【0016】
コイルに電流を流すための引き出し線6を取り付ける部分における切れ込み9の間隔w2は大きくしすぎると,切れ込みの部分から光が漏れだし,媒体を加熱してしまう。この切れ込みはスリット状の導波路と同じ働きをするが,この導波路の場合と同様に,図4に示すように,間隔w2が入射光の波長(λ)の1/2以上になると,漏れ出る光の量が大きくなる。したがって,切れ込み部からの漏れ光による加熱を低減するためには,切れ込みの幅w2を,入射光の波長(λ)の1/2以下にすると良い。本実施例では,幅w2は50nmとした。なお,スリット状の導波路の場合と同様に,透過光量は,偏光方向が切れ込み9に対して平行になるとき(図2中矢印8で示された方向),最も小さくなる。したがって,入射光4の偏光方向は,切れ込み9に対して平行になるように入射させると良い。
【0017】
図5に,上記ヘッドを記録媒体近傍に置き,光を照射したときの,媒体表面での光の吸収量の分布を示す。この分布は,Finite Difference Time Domain(FDTD)法を用いて計算した。スライダとしては石英の基板を利用し,その表面に図2に示す円形のコイルを形成した。コイルの中心には,三角形の形状をした近接場光発生用の金属の散乱体を設置した。金属の散乱体2の材質は金とし,幅w3は100nm,厚さt1は50nm,近接場光が発生する頂点7の頂角は40度にした。コイルの材質は金とし,コイルの幅w1は1μm,コイルの厚さt2は800nmとした。引き出し線6を取り付ける部分におけるコイルの切れ込み9の間隔は50nmとした。記録媒体としては厚さ6nmのCo媒体を利用し,スライダと媒体の距離は8nmとした。入射光は波長780nmの平面波とした。図5(a)は,散乱体周辺にコイルが置かれた場合,図5(b)はコイルがない場合の媒体表面における光吸収量の分布を示す。この図に示すように,本発明のコイルを形成することにより,図5(b)中の矢印で示されたバックグランド光による加熱が低減されることが分かる。
【0018】
[実施例2]
次に,コイル内側の幅がコイル上側と下側で異なった場合の実施例について説明する。
上記構造において,光エネルギーの利用効率を上げるために,図6に示すように,コイル上側(光の入射側)におけるコイル内側の幅d3がコイル下側(光の出射側)におけるコイル内側の幅d1よりも大きくなるようにした。このようにすることにより,入射光4の内,コイル内側の空洞部に入らずに反射する成分が小さくなるため,光利用効率が向上する。また,図6に示すように,コイル内側部の壁を斜めにすれば,壁に当たった光が反射して中心部に集まるため,金属の散乱体2に入射する光のエネルギー密度を高めることができる。すなわち,コイル3に導光及び集光機能を持たせることが出来る。
【0019】
本実施例では,図2に示す実施例と同様,コイル3の形状は円形とし,その中心部に,三角形の形状をした近接場光発生用の金属の散乱体2を設置した。コイル3の材質は銅とし,コイル厚t2は1μm,コイル外径d7は2.3μm,コイル下側におけるコイル内側の幅(内径)d1は260nm,コイル上側におけるコイル内側の幅d3は500nmとし,入射光のスポット径d2は1μmとした。近接場光発生用の金属の散乱体2の材質は金とし,幅w3は100nm,厚さt1は50nm,近接場光が発生する頂点の頂角は40度にした。上記構造において,コイル上側におけるコイル内側の幅d3は,入射光のスポット径d2と同じか,又はそれより大きくしても良い。このようにすれば,入射光4のすべてが,コイル内側に入射するため,光利用効率をさらに大きくすることが出来る。例えば本実施例では,コイル厚t2は1μm,コイル下部におけるコイル内径d1は260nm,コイル上部における内径d3は1μmとし,入射光のスポット径d2は1μmとした。
【0020】
また,コイル内壁を斜めにすることに替え,図7に示すように,ステップ状にコイル内側の幅を狭めても良い。図7(a)の実施例では,コイル形状を円形にし,内径を2段階に変化させた。厚さt3の部分(11で示される層)の内径は260nm,それより上の部分(12で示される層)の内径は500nmとした。厚さt3は100nm,厚さt2は1μmとした。コイル外径d7は2.3μmとした。図7(b)の実施例では,コイル形状を円形にし,内径を3段階に変化させた。厚さt3=200nmの部分(11で示される層)の内径は260nm,その上の厚さt4=400nmまでの部分(12で示される層)の内径は360nm,その上の厚さt2=600nmまでの部分(13で示される層)の内径は460nmとした。コイル外径d7は2.3μmとした。
【0021】
[実施例3]
次に,コイル底面が,スライダ底面から離れた場合の実施例について説明する。
コイル3の底面は,スライダの底面と同じ高さにある必要はなく,図8に示すように,コイル3の底面と媒体5の表面との距離が,スライダの浮上面21と媒体5の表面との距離よりも大きくなるようにコイルを配置しても良い。一般に,円形開口のエッジ近傍には強い散乱光(局在光)が発生するが,遮光膜として機能しているコイル3のエッジ14近傍にも同様の散乱光が発生する。その散乱光が媒体に吸収されると,加熱領域の増大を招く。これに対し,上記構造のように,コイル3の底面を媒体から離して配置することにより,エッジ14で発生する散乱光が記録媒体5に吸収されにくくなり,加熱領域をより小さくすることが出来る。
【0022】
本実施例では,図2に示す実施例と同様,コイル3の形状は円形とし,その中心部に,三角形の形状をした近接場光発生用の金属の散乱体2を設置した。コイル3の材質は銅とし,コイル厚t2は1μm,コイルの幅w1は1μm,コイル内径d1は300nm,引き出し線を取り付ける部分におけるコイルの切れ込みの間隔w2は50nm,コイル底面とスライダ浮上面21の距離t5を30nmとした。近接場光発生用の金属の散乱体2の材質は金とし,幅w3は100nm,厚さt1は50nm,近接場光が発生する頂点7の頂角は45度にした。入射光のスポット径d2は1μmとした。
【0023】
[実施例4]
次に,コイルの幅が部分的に小さくなった場合の実施例について説明する。
コイルの幅w1は,部分的に小さくしても良い。図9は,散乱体2の近接場光が発生する頂点7付近において,コイル3の幅を小さくした場合の実施例を示している。コイル3の内側の形状は円形とし,その中心部に,三角形の形状をした近接場光発生用の金属の散乱体2を設置した。コイル3の材質は銅とし,コイルの内径d1は300nm,コイルの厚さt2は1μm,引き出し線間9の間隔w2は50nmとした。近接場光発生用の金属の散乱体2の材質は金とし,幅w3は100nm,厚さt1は50nm,近接場光が発生する頂点7の頂角は45度にした。コイル3の幅は引き出し線付近ではw1=1μmとし,近接場光が発生する頂点7付近ではw12=300nmとした。入射光4のスポット径d2は900nmとした。このように,近接場光が発生する頂点7付近でコイルの幅を狭めれば,幅が狭まった部分において,コイル内の電流が,全体的にコイル内側を流れるために,近接場光が発生する頂点7付近に発生する磁界強度を大きくすることが出来る。
【0024】
上記のように,コイルの幅を部分的に狭くしたとき,コイル外側から光が漏れないようにするには,狭くした部分の外側31は,光スポット4の外側になるようにする必要がある。しかし,もし磁界強度を上げるために,外側31が光スポット4の内側になるまで狭くする場合,狭くなった部分の幅w12は,光の半波長以下になるようにすると良い。すなわち,図10に示すように,コイルの一部に幅が半波長以下の切れ込み32を入れるようにすると良い。
【0025】
図10に示す実施例では,図2に示す実施例と同様,コイル3の形状は円形とし,その中心部に,三角形の形状をした近接場光発生用の金属の散乱体2を設置した。コイル3の材質は銅とし,コイル厚t2は2μm,コイル内径d1は300nm,引き出し線6を取り付ける部分におけるコイルの切れ込み9の間隔w2は50nm,コイルの幅w1は1μm,狭くした部分のコイル幅w12は100nm,狭くした部分の切れ込み32の幅w13は100nmとした。なお,上記切れ込み32は,コイル上に複数箇所形成しても良い。複数個所でコイルの幅を狭くすることにより,全体的に電流がコイル内側を流れるようにすることが出来るため,コイル内側に発生する磁界強度を強くすることが出来る。
【0026】
[実施例5]
次に,コイルの厚さが部分的に小さくなった場合の実施例について説明する。
コイルの磁界強度を強めるために,図11に示すように,近接場光が発生する点近くにおいて,コイル厚を部分的に小さくしても良い。本実施例では,図2に示す実施例と同様,コイル3の形状は円形とし,その中心部に,三角形の形状をした近接場光発生用の金属の散乱体2を設置した。コイル3の材質は銅とし,コイル内径d1は300nm,引き出し線を取り付ける部分におけるコイルの切れ込み9の間隔w2は50nm,コイルの幅w1は1μmとした,全体のコイル厚t2は1μmとし,近接場光が発生する頂点7近くにおいて,コイルの厚さt9を500nmとした。コイル中を流れる電流の一部は,コイル上側にも流れるが,この部分の作る磁界は,コイル上側が近接場光が発生する点7から離れているため,近接場光が発生する点7付近において弱くなってしまう。これに対し,近接場光が発生する点7付近において,コイル厚を小さくすれば,電流は全体的に,近接場光が発生する点7の近くを流れるようになるため,近接場光が発生する頂点7における磁界強度を強くすることが出来る。なお,本実施例では,コイルの幅は均一としたが,コイル厚を部分的に小さくすると同時に,図9に示すように,コイルの幅を小さくしても良い。
【0027】
[実施例6]
次に,コイルの曲率が部分的に小さくなった場合の実施例について説明する。
コイル形状は,図12に示すように,円形に替えて,一部の曲率半径が小さくなった曲線形状にしても良い。コイル近傍に発生する磁界は,コイルの曲率が小さいほど強くなる。したがって,近接場光が発生する点付近においてコイルの曲率半径を小さくすることにより,近接場光が発生する地点における磁界強度を強くすることが出来る。
【0028】
本実施例では,図12に示すコイル右半分をコイル内側の曲率半径が150nmの円形とし,左半分をコイル内側の曲率半径が50nmの円形となるようにした。コイル3の材質は銅とし,コイルの幅は1μm,コイルの厚さt2は800nm,引き出し線間9の間隔w2は50nmとした。近接場光発生用の金属の散乱体2の材質は金とし,幅w3は100nm,厚さt1は50nm,近接場光が発生する頂点7の頂角は40度にした。ここで,近接場光が発生する点7における磁界強度を最も強くするには,コイルの曲率半径が最も小さくなった部分19におけるコイル内側の曲率半径をr,近接場光が発生する点7とコイルの曲率半径が最も小さくなった部分19におけるコイル内壁との距離をxとしたとき,x<2rとなるようにすると良い。本実施例では距離xが50nmとなるように散乱体を配置した。
【0029】
[実施例7]
次に,コイルの形状が円形とは異なる場合の実施例について説明する。
コイルの形状は,楕円形や,三角形や四角形などの多角形にしても良い。図13は,コイル形状を楕円にし,そのコイルの中心に,三角形の形状をした近接場光発生用の金属の散乱体を設置した実施例を示す。コイル内側の開口部の形状は長軸の長さwbが500nm,短軸の長さwaが300nmの楕円とした。コイル3の材質は銅とし,コイルの幅は1μm,コイルの厚さt2は700nm,引き出し線間9の間隔w2は50nmとした。近接場光発生用の金属の散乱体2の材質は金とし,幅w3は100nm,厚さt1は50nm,近接場光が発生する頂点7の頂角は40度にした。近接場光が発生する頂点7は,頂点7において磁界強度が強くなるように,曲率半径が最も小さくなる楕円の長軸上の頂点10を向くように配置した。
【0030】
図14は,コイル形状を四角形にした場合の実施例を示す。本実施例では,四角形の形状をしたコイル3の中心部に三角形の形状をした金属の散乱体2を配置した。コイル3の材質は銅とし,コイルの幅w1は1μm,中心の開口部の大きさはw8を300nm,w9を300nm,コイルの厚さt2は1μm,引き出し線間9の間隔w2は50nmとした。金属の散乱体2の材質は金とし,幅w3は100nm,厚さt1は50nm,近接場光が発生する頂点7の頂角は40度にした。入射光の偏光方向は矢印8の方向にした。
【0031】
図15は,コイル形状を三角形にした場合の実施例を示す。本実施例では,正三角形の形状をしたコイル3の中心に,三角形の形状をした金属の散乱体2を配置した。コイル3の材質は銅とし,コイルの幅w1は1μmとした。中心の開口部の形状も正三角形とし,一辺の長さw10は300nmとした。コイルの厚さt2は1μm,引き出し線間9の間隔w2は50nmとした。金属の散乱体2の材質は金とし,幅w3は100nm,厚さt1は50nm,近接場光が発生する頂点7の頂角は60度にした。このコイルにおいて,磁界はコイル内側の曲率が小さくなる部分38で強くなる。したがって,この頂点38付近で近接場光が発生するように,近接場光が発生する頂点7が頂点38を向くように金属の散乱体2を配置した。入射光の偏光方向は,矢印8の方向にした。
【0032】
[実施例8]
次に,散乱体の形状が三角形とは異なる場合の実施例について説明する。
近接場光を発生させるための導電性を有する散乱体の形状は,三角形に替えて,長方形や円,楕円,球,円錐などにしても良い。図16は,散乱体の形状を長方形にした場合の実施例を示す。コイル3の形状は四角形とし,その中心部に,長方形の形状をした近接場光発生用の金属の散乱体2を設置した。コイル3の材質は銅とし,コイル内側の寸法はw8が260nm,w9が300nmとした。コイルの幅w1は1μm,コイルの厚さt2は800nm,引き出し線間9の間隔w2は50nmとした。近接場光発生用の金属の散乱体2の寸法は,入射光の波長領域においてプラズモン共鳴が発生するように調整するのが好ましい。本実施例では,入射光波長を780nm,散乱体2の材質は金とした。散乱体中にプラズモン共鳴が励起されるように,長方形の長軸方向は,偏光方向(矢印8で示される方向)となるようにした。寸法はw4=100nm,w5=30nm,t1=50nmとした。
【0033】
上記導電性を有する散乱体は,1つ形成することに替えて,2つ以上形成しても良い。図17は,三角形の散乱体を2つ対向するように配置した実施例を示す。このように,三角形の散乱体を2つ対向させるように配置し,光の偏光方向が矢印8の方向になるように光を照射すると,2つの三角形の頂点間15に強い近接場光が発生する。このとき,三角形の長さw3をプラズモン共鳴が発生するように調整するとより強い近接場光の発生が可能で,本実施例では,三角形の長さw3は100nm,2つの頂点間15の間隔は10nmとした(入射光波長は780nm)。散乱体の厚さt1は50nmとした。コイル3の材質は銅とし,コイルの内径d1は300nm,コイルの幅w1は1μm,コイルの厚さt2は500nm,引き出し線間9の間隔w2は50nmとした。
【0034】
[実施例9]
次に,散乱体がコイルと接する場合の実施例について説明する。
散乱体は,コイルと接するように配置しても良い。このようにコイルに接するように散乱体を配置することにより,散乱体とコイルの間から漏れ出るバックグランド光を減らすことが出来る。
【0035】
図18は,三角形の散乱体2をコイル3に接するように配置した実施例を示す。コイル3の材質は銅とし,コイルの内径d1は300nm,コイルの幅w1は1μm,コイルの厚さt2は800nm,引き出し線間9の間隔w2は50nmとした。散乱体2の材質は金とし,幅w3は100nm,厚さt1は50nm,近接場光が発生する頂点7の頂角は60度とした。コイル3の材質は金属の散乱体2の材質と同じとなるようにしても良く,上記実施例の場合,コイルの材質を金にしても良い。また,金属の散乱体2の厚さt1はコイルの厚さt2に実質的に等しくなるようにしても良く,前記実施例の場合,散乱体2の厚さt1を800nmにしても良い。
【0036】
図19は,散乱体2の形状を長方形にし,コイル3に接するように配置した場合の実施例を示す。コイル3の形状は四角形とし,材質は銅とした。コイルの幅w1は1μm,中心の開口部の大きさはw8を300nm,w9を300nm,コイルの厚さt2は1μm,引き出し線間9の間隔w2は50nmとした。金属の散乱体2の材質は金,寸法はw7=100nm,w6=30nm,t1=100nmとした。入射光の偏光方向は,長方形の長軸方向(矢印8で示される方向)となるようにした。コイル3の材質は金属の散乱体2の材質と同じとなるようにしても良く,上記実施例の場合,コイルの材質を金にしても良い。また,金属の散乱体2の厚さt1はコイル3の厚さt2に実質的に等しくなるようにしても良く,前記実施例の場合,散乱体2の厚さt1を1μmにしても良い。また,文献(JOURNAL OF APPLIED PHYSICS, VOLUME 96, NUMBER 5, p2743)に示されるように,幅w9, w7, w6, w8を最適化することにより,近接場光強度をより強くすることが可能である。本実施例の場合,中心の開口部の大きさ及び散乱体の大きさを,w8=218nm, w6= 19nm, w7=18nm, w9=38nm, t1=60nmとし,コイルの幅w1を1μm,厚さt2を1μm,引き出し線間9の間隔w2を50nmと最適化することにより,より強い近接場光を発生することができる。
【0037】
また,図20に示すように,散乱体2はコイル引き出し線6の近くに配置しても良い。本実施例では,コイル引き出し線6を中心線からずらして配置し,散乱体2を中心線上に配置した。コイルの幅w1は1μm,中心の開口部の大きさはw8を300nm,w9を300nm,コイルの厚さt2は1μm,引き出し線間9の間隔w2は50nmとした。金属の散乱体の材質は金,寸法はw4=100nm,w5=30nm,t1=100nmとした。
【0038】
図21は,三角形の形状をした金属の散乱体を2つ,コイル3に接するように配置した実施例を示す。三角形の長さw3は100nm,2つの頂点間15の間隔は10nmとした。入射光の偏光方向は,矢印8で示される方向にした。コイル3の形状は四角形とし,材質は銅とした。コイルの幅w1は1μm,中心の開口部の大きさはw8を300nm,w9を300nm,コイルの厚さt2は1μm,引き出し線間9の間隔w2は50nmとした。なお,図21の実施例では,2つの散乱体が共にコイル3に接するように配置したが,片方のみがコイルに接するように配置しても良い。
【0039】
[実施例10]
次に,コイルの引き出し線の形成方法について説明する。
コイルにつながる2つの引き出し線間9から漏れる光をさらに小さくするためには,図22に示すように,コイル中心部分17の材質を,コイルの引き出し線6の間9の材質とは異なるようにし,引き出し線間9の部分の屈折率に対し,コイル中心部分17の屈折率が大きくなるようにすると良い。このようにすれば,光導波路と同様,コイル中心部分17と引き出し線間9の部分の境目で光が全反射するために,コイル中心部分に光が閉じ込められ,引き出し線間9から漏れる光がより小さくなる。なお,光が入射するコイル上部において,引き出し線間9に光が入射することを防ぐためには,図6のように,コイル内側の幅がコイル上部で広くなるようにし,コイル上部におけるコイル内側の幅d3が,入射光スポット径d2に実質的に等しいか,それよりも大きくなるようにすると良い。
【0040】
本実施例では,コイル3の形状は円,材質は銅とし,コイル下部の内径d1は300nm,コイル上部の内径d3は1μmとなるようにし,コイルの外径は2.5μm,コイルの厚さt2は1μm,引き出し線間9の間隔w2は100nmとした。引き出し線間9の材質はSiO2,コイル中心部分17の材質はTa2O5とした。近接場光発生用の金属の散乱体2はコイルの中心に配置し,散乱体の形状は三角形,材質は金とし,幅w3は100nm,厚さt1は50nmとした。入射光4の波長は780nmとし,スポット径d2は1μmにした。入射光の中心位置は,コイル3の中心(散乱体2の中心)に実質的に一致するようにした。上記中心部17の材料は,屈折率が引き出し線間9の材料の屈折率よりも大きければ良く,TiO2, SiN, TiドープSiO2, GeドープSiO2などにしても良い。
【0041】
引き出し線間9から漏れる光を小さくする方法として,コイル上面の引き出し線6の部分に遮光性能を持つ膜を形成しても良い。ここで遮光性能を持つ膜とは,入射光に対する透過率が50%以下である膜を意味する。図23(a)は,引き出し線間9の上部に遮光膜16を形成した実施例を示す。コイル3の形状は円形とし,その中心部に,三角形の形状をした近接場光発生用の金属の散乱体2を設置した。コイル3の材質は銅とし,コイルの内径d1は300nm,コイルの幅w1は1μm,コイルの厚さt2は1μm,引き出し線間9の間隔w2は100nmとした。近接場光発生用の金属の散乱体2の材質は金とし,幅w3は100nm,厚さt1は50nmとした。遮光膜16としては,四角形の形状をした金の膜を利用し,幅w10は1μm,幅w11は300nm,厚さ(図24(a)中t6)は100nmとした。遮光膜16が導電性を持つ場合,遮光膜をコイル3に接するように配置すると,ショートしてしまう。これを防ぐためには,図24(a)のように,コイル上面と遮光膜が離れるように配置すれば良い。本実施例では,コイル上面と遮光膜16の間隔t7を100nmとし,コイル上面と遮光膜間の材質はSiO2とした。入射光4の波長は780nmとし,スポット径d2は1μmにした。入射光の中心位置は,コイル3の中心(散乱体2の中心)に実質的に一致するようにした。偏光方向は矢印8の方向にした。遮光膜16は,遮光性を持つものであれば良く,金の膜に替えて,銀,銅,アルミ,カーボンなどの金属やSiなどの半導体,フォトレジストなどの誘電体などにしても良い。
【0042】
また,遮光膜は,コイル中心の開口部を囲むように形成しても良い。図23(b)に,コイル中心の開口部周辺に,円形の遮光膜16を形成した実施例を示す。遮光膜16の材料はアルミとし,外径d5は2μm,内径d6はコイルの内径d1と同じく300nmとした。遮光膜の厚さt6は100nmとし,遮光膜とコイル上面の間隔t7は50nmとした。入射光4の波長は780nmとし,スポット径d2は1μmにした。入射光の中心位置は,コイル3の中心(散乱体2の中心)に実質的に一致するようにした。コイル3及び散乱体2の形状は,上記四角形の遮光膜の場合と同じにした。
【0043】
なお,遮光膜16は,図24(b)に示すように,コイルの下側(記録媒体5に近い方向)に設置しても良い。この実施例では,コイル3及び金属の散乱体2の形状は図24(a)に示す実施例と同じとし,引き出し線6の下側に図24(a)と同様の四角い形状をした遮光膜16を設置した。コイル3とスライダ底面の距離t7は100nmとし,遮光膜の材質及び厚さは,それぞれ,金,50nmとした。
【0044】
引き出し線6の間は,図25のように,コイルから離れた部分において互いに離れるように形成しても良い。図2のように,引き出し線6が2つ平行になるように設置されていると,コイル電流を高速に変調した場合,引き出し線間9がキャパシターとして働き,2つの引き出し線間9にリーク電流が流れてしまう可能性がある。図25のように,2つの引き出し線6を互いに離すことにより,これを防ぐことが出来る。図25(a)は,2つの引き出し線6のなす角θ1を0度よりも大きくした実施例を示す。コイル3の形状は円形とし,その中心部に,三角形の形状をした近接場光発生用の金属の散乱体2を設置した。コイル3の材質は銅とし,コイルの内径d1は300nm,コイルの幅w1は1μm,コイルの厚さt2は1μm,コイルの切り込み20の間隔w2は50nmとした。近接場光発生用の金属の散乱体2の材質は金とし,幅w3は100nm,厚さt1は50nmとした。入射光のスポット径d2は1μm,偏光方向は矢印8で示される方向とした。コイル3の引き出し線6は,入射光スポット4の外側の部分において斜めになるようにし,それぞれの角度θ1及びθ2は45度とした。角度θ1及びθ2は0度以上であれば良く。θ1=θ2=90度となるように形成しても良い。また,θ1及びθ2は互いに異なるようにしても良く,例えばθ1=90度,θ2=0度となるように形成しても良い。また,図25(b)に示すように,コイルの切れ込み部20から離れた部分に,コイルの引き出し線6を形成しても良い。
【0045】
コイルの引き出し線は,互いに高さ(スライダ浮上面21からの距離)を変えることにより交差させても良い。図26(a)は2つの引き出し線を,互いになす角θ3が90度となるように配置した場合の実施例を示す。コイル3の形状は円形とし,その中心部に,三角形の形状をした近接場光発生用の金属の散乱体2を設置した。コイル3の材質は銅とし,コイルの内径d1は300nm,コイルの幅w1は1μm,コイルの厚さt2は1μm,コイルの切り込み20の間隔w2は50nmとした。入射光のスポット径d2は1μm,偏光方向は矢印8で示される方向とした。片側の引き出し線18は,もう片方の引き出し線6に対し,上方向(浮上面21から遠くなる方向)に配置し,引き出し線18の下面と引き出し線6の上面の距離は100nmとなるようにした。なお,上記2つの引き出し線のなす角θ3は任意の値にして良く,図24(b)のように,θ3=180度となるようにしても良い。
【0046】
[実施例11]
次に,コイルの巻き数を2以上にした場合の実施例について説明する。
コイルは,磁界強度を大きくするために,巻き数を1より多くしても良い。図27はコイルの巻き数を3回にした場合の実施例を示す。コイル3の形状は円形とし,その中心部に,三角形の形状をした近接場光発生用の金属の散乱体2を設置した。コイル3の材質は銅とし,コイルの内径d1は300nm,コイルの幅w1は1μm,コイルの厚さt2は1μm,コイルの切り込み20の間隔w2は50nm,隣り合う配線の間隔w14は100nmとした。入射光4のスポット径d2は1μm,偏光方向は矢印8で示される方向とした。コイルの一方の引き出し線18は,コイル3及び引き出し線6に対して上方に配線した。
【0047】
コイルの巻き数を1より多くする場合,コイルの配線を,スライダ浮上面に対し垂直な方向に積層させても良い。図28は,コイルの配線を,スライダ浮上面に対し垂直な方向に3層積層させた実施例を示す。コイル3の形状は図2と同様に円形とし,その中心部に,三角形の形状をした近接場光発生用の金属の散乱体2を設置した。コイル3の材質は銅とし,コイルの幅w1は1μm,コイルの厚さt2は1μm,コイル間の間隔t8は100nmとした。各層のコイルの内径d1, d5, d6は同じにしても良いが,入射光4がコイル上側の層でけられないようにするには,上側に行くに従い,徐々に大きくすると良い。本実施例では,コイルの一番下側(浮上面21に近い方向)の内径d1を300nm,2層目の内径d5は1μm,3層目の内径d6は2μmとした。
【0048】
[実施例12]
次に,光学系全体の実施例について説明する。
図29に,記録用光学系全体の実施例を示す。近接場光発生素子2及びコイル3は,スライダ浮上面21に埋め込むように形成した。図2に示す実施例と同様,コイル3の形状は,円形とし,その中心部に,三角形の形状をした近接場光発生用の金属の散乱体2を設置した。コイル3の材質は銅とし,コイルの幅w1は1μm,コイルの厚さt2は1μm,引き出し線間の間隔w2は50nmとした。コイルの内径は,図6に示す実施例と同様に,上に行くに従い大きくなるようにし,最下面において内径d1は300nm,最上面において内径d3は1μmとなるようにした。近接場光発生用の金属の散乱体2の材質は金とし,幅w3は100nm,厚さt1は50nmとした。スライダ上面に凹部を形成し,その凹部底面22にマイクロレンズ23を形成した。コイル3,近接場光発生素子2及びマイクロレンズ23の中心は同軸上になるようにし,マイクロレンズ23の焦点は,コイルの上面に位置するようにした。本実施例では,マイクロレンズ23の開口数は0.75とした。光源としては半導体レーザ26を用い,それをスライダ1の上面に設置した。半導体レーザ26からの光はコリメータレンズ25によりコリメートした。コリメートされた光はミラー24で折り返しマイクロレンズ23に入射させた。記録ビット再生用には,Giant Magneto Resistive(GMR)素子又はTunneling Magneto Resistive (TMR)素子 36をコイル近傍に作り込んだ。
【0049】
図30(a)は,レンズに替えて,導波路を利用して光を導入したヘッドの実施例を示す。本実施例では,中心に金属の散乱体2が置かれたコイル3の上部に導波路33を形成し,その上に半導体レーザ26を設置した。コイル3の形状は図16に示すように,正方形とし,材質は銅,寸法は,w8=300nm,w9=300nm,w1=1μm,w2=50nm,t2=700nmとした。散乱体2の形状は,図16に示すような長方形とし,材質は金,寸法はw4=90nm, w5=30nm, t2=50nmとした。導波路コア部の断面形状は正方形にし,材質はTa2O5,幅w15は400nm,長さw16は50μmとした。導波路周辺(クラッド部)34は,SiO2とした。導波路の中心と,コイル内側の中心は実質的に一致するようにした。半導体レーザ26は,スライダ1の側面37に固定し,出射面35からの光が導波路33に直接入るようにした。なお,導波路の径w15が半導体レーザの出射光のスポット径よりも小さいと,エネルギーのロスが生じる。これを防ぐには,導波路の径が入力側(半導体レーザ側)に行くに従い徐々に大きくなるようにテーパーをつけるとよい。本実施例では,入力側の導波路径を1μm,出力側の導波路径を300nmとした。記録ビット再生用には, GMR又はTMR素子36をコイル近傍に作り込んだ。
【0050】
上記導波路を利用したヘッドにおいて,コイル内側の幅が導波路コアの幅より小さいと,コイル内側と導波路コアの接合部において,入射光が反射又は散乱され,エネルギーのロスが生じる。このことを防ぐためには,導波路コアの幅に対し,コイル内側の幅が同じか,もしくは大きくなるようにすると良い。またこのとき,図30(b)に示すように,コイル上部におけるコイル内側の幅d3に対し,コイル下部におけるコイル内側の幅d1を小さくすることにより,散乱体周辺から漏れるバックグランド光の量を減らすことが出来る。本実施例では,コイル3の形状は正方形とし,上部におけるコイル内側の幅d3は500nm,コイル下部におけるコイル内側の幅d1は300nm,コイル外側の幅d7は2.3μm,材質は銅とした。散乱体2の形状は長方形とし,材質は金,寸法はw4=90nm, w5=30nm, t2=50nmとした。導波路の断面形状も正方形とし,導波路コア幅w15は500nm,長さw16は50μmとした。導波路の材質はTa2O5とし,コイル内側も同じ材料で満たされるようにした。
【0051】
[実施例13]
次に,本発明のヘッドの記録装置への応用について説明する。
図31に,本発明のヘッドを磁気光融合装置へ応用した実施例を示す。本発明の記録ヘッド28はサスペンション29に固定し,ボイスコイルモータ30で位置を動かした。ヘッド表面には浮上用パッドを形成し,記録ディスク27の上を浮上量10nm以下で浮上させた。記録ディスク27としては,光磁気記録媒体を用いた。記録ディスク27は,モータによって回転駆動されるスピンドル39に固定されて回転する。記録の瞬間,コイル3により磁界を印加すると同時に,レーザ26を発光させ,記録マークを形成した。再生には記録ヘッド28表面に形成したGMR又はTMR素子を用いた。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の磁気光融合記録用ヘッドの例を示す側断面図。
【図2】コイルの上面図。
【図3】コイル内径と近接場光強度の関係を示す図。
【図4】引き出し線の間隔と漏れ出る光強度との関係を示す図。
【図5】媒体表面の吸収量の分布図であり,(a)はコイルがある場合の図,(b)はコイルがない場合の図。
【図6】内側の径が変化するコイルの例を示す断面図。
【図7】内側の径が段階状に変化するコイルの例を示す断面図であり,(a)は2段階に変化したコイルの図,(b)は3段階に変化したコイルの図。
【図8】コイル底面がスライダの浮上面から離れている例を示す断面図。
【図9】配線の幅が部分的に狭くなったコイルの例を示す図。
【図10】一部に切れ込みが形成されたコイルの例を示す図。
【図11】配線の厚さが部分的に小さくなったコイルの例を示す図。
【図12】曲率半径の一部が他よりも小さくなったコイルの例を示す図。
【図13】コイルの形状が楕円である場合の例を示す図。
【図14】コイルの形状が四角である場合の例を示す図。
【図15】コイルの形状が三角形である場合の例を示す図。
【図16】散乱体形状が長方形である場合の例を示す図。
【図17】散乱体形状が対向する2つの三角形である場合の例を示す図。
【図18】散乱体形状が三角形で,散乱体がコイルに接したヘッドの例を示す図。
【図19】散乱体形状が長方形で,散乱体が四角形の形状をしたコイルの例を示す図。
【図20】散乱体形状が長方形で,散乱体が四角形の形状をしたコイルの例を示す図。
【図21】散乱体形状が対向する2つの三角形で,散乱体がコイルに接したヘッド例を示す図。
【図22】コイル内側が高屈折材料で満たされたヘッドの例を示す図。
【図23】遮光膜を形成したヘッドの例を示す図であり,(a)は遮光膜を引き出し線上に形成した場合の図,(b)は遮光膜をコイル全体に形成した場合の図。
【図24】遮光膜を形成したヘッドの例を示す図であり,(a)は遮光膜をコイル上側に形成した場合の図,(b)は遮光膜をコイル下側に形成した場合の図。
【図25】2つの引き出し線を非並行にしたヘッドの例を示す図で,(a)は成す角が90度の場合の図,(b)は引き出し線を,コイルの切り込みから離れた部分につけた場合の図。
【図26】引き出し線を交差させるように配置した場合のヘッドの例を示す図で,(a)は引き出し線が互いに直交する場合の図,(b)は引き出し線の成す角が180度となる場合の図。
【図27】コイルの巻き数を1回よりも大きくしたヘッドの例を示す図。
【図28】コイルの巻き数を1回よりも大きくし,コイルを浮上面に対し垂直な方向に積み重ねたヘッドの例を示す図。
【図29】本発明の記録ヘッドの光学系の例を示す図。
【図30】本発明の導波路を利用した記録ヘッドの例を示す図で,(a)は全体図,(b)はコイル内側の幅がコイル上側と下側とで異なった場合の例を示す図。
【図31】記録再生装置の構成例を示す図。
【符号の説明】
【0053】
1 スライダ
2 近接場光発生素子
3 磁界発生用コイル
4 入射光
5 記録媒体
6 引き出し線
7 近接場光が発生する頂点
8 偏光方向
9 引き出し線間
10 長軸上の頂点
11 コイル内径がd1となる層
12 コイル内径がd3となる層
13 コイル内径がd4となる層
14 コイル内側のエッジ
15 2つの頂点間
16 遮光膜
17 コイル内側
18 引き出し線
19 コイルの曲率半径が最も小さくなった部分
20 コイル切り込み部
21 スライダ浮上面
23 マイクロレンズ
24 折り返しミラー
25 コリメートレンズ
26 半導体レーザ
27 記録ディスク
28 記録ヘッド
29 サスペンション
30 ボイスコイルモータ
31 コイル幅を狭くした部分の外側
32 コイル幅を狭くするための切り込み
33 導波路コア
34 導波路クラッド
35 半導体レーザ出射面
36 再生ヘッド
37 スライダ側面
38 コイル内側の曲率半径が小さくなる部分
39 スピンドル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁界発生用のコイルと,
前記コイルの内側に配置された近接場光を発生させるための導電性を有する散乱体とを備え,
前記コイルの内側の幅は前記コイルに入射する光の波長以下であることを特徴とする磁気光融合記録装置用ヘッド。
【請求項2】
請求項1記載の磁気光融合記録装置用ヘッドにおいて,前記コイルの外径は前記コイルに入射する光のスポット径より大きいことを特徴とする磁気光融合記録装置用ヘッド。
【請求項3】
請求項1記載の磁気光融合記録装置用ヘッドにおいて,前記コイルの内側の幅は前記コイルに入射する光の波長の半分以上であることを特徴とする磁気光融合記録装置用ヘッド。
【請求項4】
請求項1記載の磁気光融合記録装置用ヘッドにおいて,前記コイルは当該コイルに電流を流すための引き出し線を取り付ける部分に切れ込みを有し,前記切れ込みの間隔は前記コイルに入射する光の波長の半分以下であることを特徴とする磁気光融合記録装置用ヘッド。
【請求項5】
請求項4記載の磁気光融合記録装置用ヘッドにおいて,前記コイルに入射する光の偏光方向が前記切れ込みに平行な方向であることを特徴とする磁気光融合記録装置用ヘッド。
【請求項6】
請求項1記載の磁気光融合記録装置用ヘッドにおいて,前記コイルの内側の幅は前記コイルに入射する光の入射側の方が出射側より大きいことを特徴とする磁気光融合記録装置用ヘッド。
【請求項7】
請求項1記載の磁気光融合記録装置用ヘッドにおいて,前記コイルの配線の幅は,配線材料の導電率をσ,透磁率をμ,前記コイルを流れる交流電流の角振動数をωとしたとき,
【数1】

より小さいことを特徴とする磁気光融合記録装置用ヘッド。
【請求項8】
請求項1記載の磁気光融合記録装置用ヘッドにおいて,前記コイルの配線の幅は近接場光が発生する部分近くにおいて相対的に狭くなっていることを特徴とする磁気光融合記録装置用ヘッド。
【請求項9】
請求項1記載の磁気光融合記録装置用ヘッドにおいて,前記コイルの配線の厚さは近接場光が発生する部分近くにおいて相対的に小さくなっていることを特徴とする磁気光融合記録装置用ヘッド。
【請求項10】
請求項1記載の磁気光融合記録装置用ヘッドにおいて,前記コイルの形状は,近接場光が発生する部分近くにおいて曲率が相対的に小さくなった曲線形状であることを特徴とする磁気光融合記録装置用ヘッド。
【請求項11】
請求項1記載の磁気光融合記録装置用ヘッドにおいて,前記散乱体は前記コイルの配線に接していることを特徴とする磁気光融合記録装置用ヘッド。
【請求項12】
請求項1記載の磁気光融合記録装置用ヘッドにおいて,前記コイルの内側に配置された材料の屈折率が,前記コイルに電流を流すための引き出し線を取り付ける部分に設けられた前記コイルの切れ込み間に配置された材料の屈折率より大きいことを特徴とする磁気光融合記録装置用ヘッド。
【請求項13】
請求項1記載の磁気光融合記録装置用ヘッドにおいて,前記コイルは当該コイルに電流を流すための引き出し線を取り付ける部分に切れ込みを有し,前記切れ込みの上方又は下方に遮光性を有する膜が形成されていることを特徴とする磁気光融合記録装置用ヘッド。
【請求項14】
磁気記録媒体と,前記磁気記録媒体を駆動する媒体駆動部と,前記磁気記録媒体に対して記録・再生動作を行うヘッドと,前記ヘッドを前記磁気記録媒体に対して位置決めするためのヘッド駆動部とを備え,
前記ヘッドは,磁界発生用のコイルと,前記コイルの内側に配置された近接場光を発生させるための導電性を有する散乱体と,前記散乱体に光を入射させるための光学系とを備え,前記コイルの内側の幅は前記コイルに入射する光の波長以下であることを特徴とする磁気光融合記録装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図30】
image rotate

【図31】
image rotate


【公開番号】特開2007−52885(P2007−52885A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−238908(P2005−238908)
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成14年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(再)委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】