説明

磁気共鳴イメージング装置および超伝導コイルの励磁方法

【課題】テスラメータを使用せずに磁場強度を確認できる磁気共鳴イメージング装置を提供する。
【解決手段】電源手段300からヒータに電流を供給することにより、永久電流スイッチをオフに設定する。その後、電源手段300から超伝導コイル15に励磁電流の供給を開始する。励磁電流がIthに到達したら、送受信コイル13からRFパルスPrfを送信し、ファントムPHからのMR信号Sphの周波数fを測定する。測定された周波数fが所定の周波数f1〜f2の範囲に含まれる場合、電源手段300からヒータへの電流の供給を停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導コイルを有する磁気共鳴イメージング装置、および超伝導コイルを励磁する励磁方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージング装置は、数T(テスラ)程度の強力な磁場を発生する必要がある。このような磁場を発生させる方法として、永久磁石を用いる方法や、超伝導コイルを用いる方法がある。超伝導コイルを用いて磁場を発生させるには、超伝導コイルに励磁電流を供給する必要がある。超伝導コイルに励磁電流を供給する方法が、例えば、特開2007-117523号公報に開示されている。
【特許文献1】特開2007-117523号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特開2007-117523号公報の方法では、外部の励磁電源装置を用いずに超伝導コイルに励磁電流を供給することができる。しかし、オペレータは、テスラメータを見ながら励磁作業をする必要があり、オペレータに負担がかかる。
【0004】
本発明は、上記の事情に鑑み、オペレータの負担を軽減することができる磁気共鳴イメージング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の問題を解決する本発明の磁気共鳴イメージング装置は、
超伝導コイルと、
勾配コイルと、
送信コイルと、
ファントムからのMR信号を受信する受信コイルと、
上記超伝導コイルに接続された超伝導体と、
上記超伝導体を加熱するヒータと、
上記ヒータに上記超伝導体を加熱するための電流を供給し、上記超伝導コイルに励磁電流を供給し、上記送信コイルにRFパルスを送信するための電流を供給する電源手段と、
上記受信コイルが受信した上記ファントムからのMR信号の周波数が所定の周波数範囲に到達した場合、上記電源手段から上記ヒータへの電流の供給が停止されるように、上記電源手段を制御する制御手段と、
を有している。
【0006】
また、上記の問題を解決する本発明の超伝導コイルの励磁方法は、
上記電源手段が、上記ヒータに、上記超伝導体を加熱するための電流を供給するステップと、
上記電源手段が上記超伝導コイルに励磁電流を供給するステップと、
上記電源手段が、上記送信コイルに、RFパルスを送信するための電流を供給するステップと、
上記受信コイルが受信した上記ファントムからのMR信号の周波数が所定の周波数範囲に到達した場合、上記電源手段から上記ヒータへの電流の供給を停止するステップと、
を有している。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、受信コイルでファントムからのMR信号を受信し、受信したMR信号の周波数が所定の周波数範囲内に到達した場合、電源手段からヒータへの電流の供給が停止される。したがって、オペレータがテスラメータを見ながら励磁作業をする必要がなく、オペレータの作業負担が軽減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら、発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。尚、本発明は、発明を実施するための最良の形態に限定されるものではない。
【0009】
図1は、本発明の一実施形態の磁気共鳴イメージング(Magnetic Resonance Imaging:以下、「MRI」と呼ぶ)装置を示す図である。
【0010】
MRI装置1は、ガントリ11およびテーブル21を有している。
【0011】
図2は、図1のA−A断面図である。
【0012】
ガントリ11は、被検体が収容されるボア12を有している。また、ガントリ11には、送受信コイル13と、勾配コイル14と、超伝導コイル15と、永久電流スイッチ16が内蔵されている。
【0013】
送受信コイル13は、ボア12の外側に設けられている。送受信コイル13は、ボア15内にRFパルスを送信する。また、送受信コイル13は、被検体からのMR信号を受信する。
【0014】
勾配コイル14は、送受信コイル13の外側に設けられている。勾配コイル14は、X軸勾配コイル14Xと、Y軸勾配コイル14Yと、Z軸勾配コイル14Zとを有している。X軸勾配コイル14Xは、X軸方向に勾配パルスを印加する。Y軸勾配コイル14Yは、Y軸方向に勾配パルスを印加する。Z軸勾配コイル14Zは、Z軸方向に勾配パルスを印加する。
【0015】
超伝導コイル15は、ボア12内に静磁場B0を印加するコイルであり、勾配コイル14の外側に設けられている。超伝導コイル15は、液体ヘリウムなどの超伝導用冷媒が注入された冷媒容器に収容されている。超伝導コイル15はコネクタ15aおよび15bに接続されている。
【0016】
永久電流スイッチ16は、超伝導コイル15に永久電流を流すために設けられている。永久電流スイッチ16は、液体ヘリウムなどの超伝導用冷媒が注入された冷媒容器に収容されており、超伝導コイル15に接続されている。永久電流スイッチ16は、超伝導線材161とヒータ162とを有している。超伝導線材161は、超伝導コイル15のコネクタ15aおよび15bに接続されている。ヒータ162は、超伝導線材161の温度を臨界温度Tc以上に上昇させるためのものであり、ヒータ用コネクタ162aおよび162bに接続されている。
【0017】
図1に戻って説明を続ける。
【0018】
MRI装置1は、更に制御装置30を有している。
【0019】
制御装置30は、電源手段300を有している、電源手段300は、X軸勾配コイル電源部31X、Y軸勾配コイル電源部31Y、Z軸勾配コイル電源部31Z、ヒータ電源部32、および送受信コイル電源部33を有している。
【0020】
X軸勾配コイル電源部31X、Y軸勾配コイル電源部31Y、およびZ軸勾配コイル電源部31Zは、それぞれ、X軸勾配コイル14X、Y軸勾配コイル14Y、およびZ軸勾配コイル14Zに電流を供給する。X軸勾配コイル電源部31X、Y軸勾配コイル電源部31Y、およびZ軸勾配コイル電源部31Zは、最大300Aの電流を供給することが可能である。また、X軸勾配コイル電源部31X、Y軸勾配コイル電源部31Y、およびZ軸勾配コイル電源部31Zは、それぞれ電流プローブ3x、3y、および3zを有している。これらの電流プローブ3x、3y、および3zは、超伝導コイル15に流れる電流を測定するために設けられている。電流プローブ3x、3y、および3zを用いて超伝導コイル15に流れる電流を測定するやり方については後述する。
【0021】
ヒータ電源部32は、超伝導コイル15を励磁する場合に、超伝導線材161(図2参照)の温度を臨界温度Tc以上に上昇させるための電流をヒータ162に供給する。また、ヒータ電源部32は電流プローブ32aを有している。電流プローブ32aは、後述するように、ヒータ162に流れる電流を測定するために設けられている。
【0022】
送受信コイル電源部33は、送受信コイル13に電流を供給する。
【0023】
制御装置30は、更に、電源制御手段34〜周波数判定手段41を有している。
【0024】
電源制御手段34は、電源手段300を制御する。
【0025】
ケーブル接触状態判定手段35は、抵抗値算出部36と、抵抗値判定部37とを有している。抵抗値算出部36は、電流プローブ3x、3y、および3zが検出した電流に基づいて、抵抗値RsおよびRh(後述する式(1)および(2)参照)を算出する。抵抗値判定部37は、抵抗値算出部36が算出した抵抗値RsおよびRhが所定値以下であるか否かを判定する。
【0026】
励磁電流算出手段38は、超伝導コイル15に流れる励磁電流Ie(t)を測定する。
【0027】
励磁電流判定手段39は、励磁電流Ie(t)が、後述する式(4)を満たすか否かを判定する。
【0028】
周波数測定手段40は、送受信コイル13に流れる受信電流Irの周波数fを測定する。
【0029】
周波数判定手段41は、周波数測定手段40が測定した受信電流Irの周波数fが、所定の周波数範囲(後述する式(6)参照)に含まれているか否かを判定する。
【0030】
MRI装置1は、更に、操作装置50および表示モニタ51を有している。
【0031】
操作装置50は、オペレータ52の指示に従って、制御装置30に必要な命令を送る。表示モニタ51は、種々の情報を表示する。
【0032】
MRI装置1は、上記のように構成されている。上記のように構成されたMRI装置1では、テスラメータを使用せずに超伝導コイル15を励磁することができる。以下に、テスラメータを使用せずに超伝導コイル15をどのように励磁しているのかについて説明する。
【0033】
図3は、超伝導コイル15を励磁するときのフローチャートを示す図である。
【0034】
ステップS11では、オペレータ52がボア12内にファントムを設置する。
【0035】
図4は、ボア12内にファントムが設置されたMRI装置1の斜視図、図5は、図4のA−A断面図である。
【0036】
ファントムPHは、マグネットセンターに位置するように設置される。オペレータ52がファントムPHを設置した後、ステップS12に進む。
【0037】
ステップS12では、オペレータ52はケーブル接続を行う。
【0038】
図6は、ケーブル接続が行われたMRI装置1の斜視図、図7は、図6のA−A断面図である。
【0039】
オペレータ52は、X軸勾配コイル電源部31X、Y軸勾配コイル電源部31Y、およびZ軸勾配コイル電源部31Zの+端子を、ケーブルを用いて超伝導コイル15のコネクタ15aに接続する。また、オペレータ52は、X軸勾配コイル電源部31X、Y軸勾配コイル電源部31Y、およびZ軸勾配コイル電源部31Zの−端子を、ケーブルを用いて超伝導コイル15のコネクタ15bに接続する。更に、オペレータ52は、ヒータ電源部32の+端子および−端子を、ケーブルを用いてそれぞれヒータ162のコネクタ162aおよび162bに接続する。図6および図7に示すようにケーブル接続した後、ステップS13に進む。
【0040】
ステップS13では、ステップS12で行われたケーブル接続に対して、ケーブルの接触不良が発生していないかを確認する。次に、ステップS13の処理フローについて具体的に説明する。
【0041】
図8は、ステップS13の処理フローの説明図である。
【0042】
ステップS13は、サブステップS131〜S135を有している。
【0043】
サブステップS131では、オペレータ52は、操作装置50を操作して、制御装置30に、ケーブル接触不良が発生していないかを確認するための命令を入力する。この命令が制御装置30に入力されると、電源制御手段34は、ケーブル接触不良が発生していないかを確認するための制御信号Sgを、勾配コイル電源部31X〜31Zおよびヒータ電源部32に伝送する。勾配コイル電源部31X〜31Zおよびヒータ電源部32は、制御信号Sgに応答して、以下のような電流を供給する。
【0044】
図9は、勾配コイル電源部31X〜31Zおよびヒータ電源部32が電流を供給しているときのMRI装置1の斜視図、図10は、図9のA−A断面図である。
【0045】
ヒータ電源部32は、電源制御手段34からの制御信号Sgに応答して、一定の電圧Vhを印加する。このとき、ヒータ電源部32から電流Ihが供給される。電流Ihは、以下の経路を流れる。
電流Ih:ヒータ電源部32→コネクタ162a→ヒータ162→コネクタ162b→ヒータ電源部32
【0046】
一方、勾配コイル電源部31X〜31Zは、電源制御手段34からの制御信号Sgに応答して、一定の電圧Vsを印加する。このとき、勾配コイル電源部31X、31Y、および31Zから、電流Ix、Iy、およびIzが供給される。電流Ix、Iy、およびIzは、それぞれ以下の経路を流れる。
電流Ix:勾配コイル電源部31X→コネクタ15a→超伝導線材161(超伝導コイル15)→コネクタ15b→勾配コイル電源部31X
電流Iy:勾配コイル電源部31Y→コネクタ15a→超伝導線材161(超伝導コイル15)→コネクタ15b→勾配コイル電源部31Y
電流Iz:勾配コイル電源部31Z→コネクタ15a→超伝導線材161(超伝導コイル15)→コネクタ15b→勾配コイル電源部31Z
【0047】
上記の電流Ih、Ix、Iy、およびIzを供給した後、サブステップS132に進む。
【0048】
サブステップS132では、勾配コイル電源部31X〜31Zの電流プローブ3x〜3zが、それぞれ電流Ix〜Izを測定する。また、ヒータ電源部32の電流プローブ32aが電流Ihを測定する。各電流プローブ3x〜3zおよび32aが電流値を測定した後、サブステップS133に進む。
【0049】
サブステップS133では、抵抗値算出部36が、抵抗値RsおよびRhを算出する。抵抗値RsおよびRhは、以下の式(1)および(2)で表される。
Rs=Vs/(Ix+Iy+Iz) ・・・(1)
Rh=Vh/Ih ・・・(2)
【0050】
抵抗値Rsは、式(1)に示すように、コネクタ15aと15bとの間の電圧Vs(図10参照)と、電流Ix+Iy+Izとの比である。したがって、抵抗値Rsは、勾配コイル電源部31X〜31Zと、コネクタ15aおよび15bと、超伝導線材161(超伝導コイル15)とによって構成される閉回路の抵抗値である。式(1)の電圧Vsは、サブステップS131で印加した電圧であり、既知の値である。また、式(1)の電流Ix、Iy、およびIzは、サブステップS132で算出された値である。したがって、抵抗値算出部36は、Vs、Ix、Iy、およびIzの値を式(1)に代入することによって、抵抗値Rsを算出することができる。
【0051】
また、抵抗値Rhは、式(2)に示すように、ヒータ162の両端の電圧Vhと、電流Ihとの比である。したがって、抵抗値Rhは、ヒータ電源部32と、コネクタ172aおよび162bと、ヒータ162とによって構成される閉回路の抵抗値である。式(2)の電圧Vhは、サブステップS131で印加した電圧であり、既知の値である。また、式(2)の電流Ihは、サブステップS132で算出された値である。したがって、抵抗値算出部36は、Vh、およびIhの値を式(2)に代入することによって、抵抗値Rhを算出することができる。抵抗値RsおよびRhを算出した後、サブステップS134に進む。
【0052】
サブステップS134では、抵抗値判定部37が、サブステップS133で算出された抵抗値RsおよびRhが所定値以下であるか否かを判定する。抵抗値RsおよびRhが所定値以下であると判定された場合、表示モニタ51に、電源手段30とコネクタとの間のケーブル接触は良好である旨が表示され、ケーブル接続状態の確認が終了する。
【0053】
一方、抵抗Rs又はRhが所定値よりも大きいと判定された場合は、表示モニタ51に、電源手段30とコネクタとの間のケーブル接触が不良である旨が表示される。ケーブル接触が不良である旨が表示された場合、サブステップS135に進む。サブステップS135では、オペレータ52がケーブル接続の調整を行う。オペレータ52がケーブル接続の調整を行った後、サブステップS131に戻る。
【0054】
したがって、サブステップS134において、抵抗値判定部37が、抵抗値RsおよびRhのうちの一つでも所定値よりも大きいと判定した場合は、サブステップS131〜S135のループが繰り返し行われる。サブステップS134において、抵抗値RsおよびRhの両方とも所定値以下であると判定された場合、サブステップS131〜S135のループを抜け出し、ステップS13が終了する。
【0055】
図3に戻って説明を続ける。
【0056】
ステップS13が終了した後、ステップ14に進む。ステップS14では、電源制御手段34は、永久電流スイッチ16をオフにするための制御信号Sgを、ヒータ電源部32に伝送する。ヒータ電源部32は、制御信号Sgに応答して、以下のように、永久電流スイッチ16をオフにするための電流を供給する。
【0057】
図11は、ヒータ電源部32が永久電流スイッチ16をオフにするための電流を供給しているときのMRI装置1の斜視図、図12は、図11のA−A断面図である。
【0058】
ヒータ電源部32は、電源制御手段34からの制御信号Sgに応答して、永久電流スイッチ16をオフにするための電流Ioffが供給される。電流Ioffが供給されると、ヒータ162は電流Ioffによって発熱し、超伝導線材161を加熱する。その結果、超伝導線材161の温度が臨界温度Tc以上に上昇する。超伝導線材161の温度が臨界温度Tc以上に上昇すると、超伝導線材161は常伝導状態になるので、永久電流スイッチ16はオフに設定される。永久電流スイッチ16をオフに設定した後、ステップS15(図3参照)に進む。
【0059】
ステップS15では、超伝導コイル15に励磁電流を供給するための処理が行われる。次に、ステップS15の処理フローについて具体的に説明する。
【0060】
図13は、ステップS15の処理フローを示す図である。
【0061】
ステップS15は、サブステップS151〜S156を有している。
【0062】
サブステップS151では、電源制御手段34は、超伝導コイル15に励磁電流を供給するための制御信号を、勾配コイル電源部31X、31Y、および31Zに伝送する。勾配コイル電源部31X、31Y、および31Zは、制御信号に応答して、以下のようなコイル電流を供給する。
【0063】
図14は、勾配コイル電源部31X、31Y、および31Zがコイル電流を供給しているときのMRI装置1の斜視図、図15は、図14のA−A断面図である。
【0064】
勾配コイル電源部31X、31Y、および31Zは、電源制御手段34からの制御信号Sgに応答して、コイル電流Ix(t)、Iy(t)、およびIz(t)を供給する。
【0065】
コイル電流Ix(t)、Iy(t)、およびIz(t)の合計が、超伝導コイル15を流れる励磁電流Ie(t)となるので、励磁電流Ie(t)は、以下の式(3)で表される。
Ie(t)=Ix(t)+Iy(t)+Iz(t) ・・・(3)
【0066】
図16は、コイル電流Ix(t)〜Iz(t)および励磁電流Ie(t)の時間的変化を示すグラフである。
【0067】
図16に示すように、コイル電流Ix(t)、Iy(t)、およびIz(t)の時間的変化は、いずれも曲線Aで表される。したがって、本実施形態では、コイル電流Ix(t)、Iy(t)、およびIz(t)は、どの時刻であっても、Ix(t)=Iy(t)=Iz(t)となる。励磁電流Ie(t)の時間的変化は曲線Bで表されている。
【0068】
尚、図16には、曲線AおよびBの他に、曲線C、RFパルスPrf、およびMR信号Sphも示されている。曲線C、RFパルスPrf、およびMR信号Sphについては、後に説明する。
【0069】
サブステップS151において、励磁電流Ie(t)の供給が開始されると、サブステップS152に進む。
【0070】
サブステップS152では、電流プローブ3x〜3z(図14参照)が、各時刻におけるコイル電流Ix(t)、Iy(t)、およびIz(t)を検出し、検出結果を、励磁電流算出手段38に送る。励磁電流算出手段38は、検出された各時刻におけるコイル電流Ix(t)、Iy(t)、およびIz(t)の値を加算し、励磁電流Ie(t)を算出する。励磁電流算出手段38は、算出した励磁電流Ie(t)を、励磁電流判定手段39に送る。
【0071】
励磁電流判定手段39は、励磁電流算出手段38が算出した励磁電流Ie(t)が以下の関係式(4)を満たすか否かを判定する。
Ie(t)≧Ith・・・(4)
ここで、Ithは、超伝導コイル15に供給される永久電流Ip(図16参照)よりも小さい値である。本実施形態では、Ith=0.9×Ipに設定している。したがって、永久電流Ipが750Aである場合、Ith=675Aである。ただし、Ithの値は、0.9×Ipとは異なる値であってもよい。
【0072】
励磁電流判定手段39は、関係式(4)を満たさないと判定した場合は、励磁電流算出手段38が次の励磁電流Ie(t)を算出するまで待機する。図16を参照すると、時刻t0〜t1までは、励磁電流Ie(t)はIthよりも小さいので、時刻t0〜t1の間は、励磁電流判定手段39は、関係式(4)を満たさないと判定する。
【0073】
しかし、時刻t1において、励磁電流Ie(t)は、Ithに到達する。したがって、励磁電流判定手段39は、時刻t1における励磁電流Ie(t1)は関係式(4)を満たすと判定する。励磁電流Ie(t1)が関係式(4)を満たす場合、サブステップS153に進む。
【0074】
サブステップS153では、励磁電流判定手段39は、電源制御手段34に、励磁電流Ie(t1)が関係式(4)を満たす旨の比較結果を伝送する。電源制御手段34は、励磁電流判定手段39からの比較結果に応答して、RFパルスの送信を開始するための制御信号Sgを送受信コイル電源部33に伝送する。送受信コイル電源部33は、制御信号Sgに応答して、RFパルスを送信するのに必要な電流を送受信コイル33に供給する。したがって、送受信コイル13は、図16のグラフに示すように、時刻t1が経過した直後からRFパルスPrfの送信を開始する。
【0075】
送受信コイル13は、一定間隔Tconstごとに、RFパルスPrfを送信する。送受信コイル13がRFパルスPrfの送信を開始した後、サブステップS154に進む。
【0076】
サブステップS154では、周波数測定手段40は、送受信コイル13がファントムPHからのMR信号Sphを受信したときに送受信コイル13に流れる受信電流Ir(図15参照)の周波数fを測定する。RFパルスPrfの周波数範囲をf0±Δfとすると、ファントムPHからMR信号Sphが発生するためには、以下の式(5)を満たす必要がある。
2π(f0−Δf)≦γ・B0≦2π(f0+Δf)・・・(5)
ここで、γ:磁気回転比、B0:超伝導コイル15に励磁電流Ie(t)が流れることにより生成される静磁場の強度
【0077】
したがって、超伝導コイル15に流れる励磁電流Ie(t)により形成される静磁場B0が、式(5)を満たす場合、送受信コイル13には、ファントムPHからのMR信号Sphに起因した受信電流Irが流れる。しかし、超伝導コイル15に流れる励磁電流Ie(t)により形成される静磁場B0が、式(5)を満たしていない場合、ファントムPHからMR信号Sphは発生しないので、送受信コイル13には、ファントムPHからのMR信号Sphに起因した電流は流れない。本実施形態では、時刻t1〜t2の間、超伝導コイル15に流れる励磁電流Ie(t)により形成される静磁場B0は、式(5)を満たしておらず、したがって、RFパルスPrfは送信されているものの、ファントムPHからのMR信号Sphはまだ発生していない。このため、時刻t1〜t2の間、送受信コイル13には受信電流Irは流れず、周波数測定手段40は、受信電流Irの周波数fを測定することはできない。
【0078】
しかし、時刻t2以降は、超伝導コイル15に流れる励磁電流Ie(t)により形成される静磁場B0は、式(5)を満たす。したがって、ファントムPHからMR信号Sphが発生する。ファントムPHからMR信号Sphが発生すると、ファントムPHからのMR信号Sphに起因した受信電流Irが流れるので、周波数測定手段40は、受信電流Irの周波数fを測定する。図16には、受信電流Irの周波数fの時間的変化が曲線Cで示されている。受信電流Irの周波数fを測定した後、サブステップS155に進む。
【0079】
サブステップS155では、周波数判定手段41が、受信電流Irの測定周波数fが、所定の周波数f1〜f2の範囲内に到達しているか否か、即ち、以下の式(6)を満たすか否かを判定する。
f1≦f≦f2 ・・・(6)
【0080】
MRI装置1が1.5T(テスラ)の装置の場合、f1およびf2は、例えば、f1=63.8MHz、f2=63.9MHzである。周波数判定手段41が、受信電流Irの測定周波数fが式(6)を満たすか否かを判定したら、この判定結果を電源制御手段34に伝送する。
【0081】
図16を参照すると、時刻t4までは、測定周波数fは、周波数f1〜f2の範囲に到達していない。したがって、時刻t4までは、サブステップS154とS155のループが繰返し実行される。
【0082】
しかし、時刻t4に到達すると、測定周波数fは、周波数f1〜f2の範囲に到達する。したがって、周波数判定手段41は、測定周波数fは周波数f1〜f2の範囲に到達したという判定結果を電源制御手段34に伝送し、サブステップS156に進む。
【0083】
サブステップS156では、電源制御手段34は、ヒータ電源部32からヒータ162への電流Ioffの供給が停止されるように、ヒータ電源部32を制御する。したがって、ヒータ電流Ioffはゼロになる。この結果、超伝導線材161が臨界温度以下になり、超伝導線材161は、常伝導状態から超伝導状態に遷移し、永久電流スイッチ16はオンになる。したがって、励磁電流Ie(t)は、超伝導コイル15と超伝導線材161とにより構成される閉ループを循環するようになり、超伝導コイル15に永久電流Ipが流れる。永久電流スイッチ16がオンになったら、ステップ15を抜け出し、ステップS16(図3参照)に進む。
【0084】
ステップS16では、オペレータ52がケーブルを取り外す。その後、ステップS17で、オペレータ52はファントムPHをボアから取り出す。
【0085】
このようにして、処理フローが終了する。
【0086】
本実施形態では、周波数測定手段40が送受信コイル13に流れる受信電流Irの周波数fを測定し、周波数判定手段41が測定周波数fに対して式(6)を満たしているか否かを判定する。受信電流Irの周波数fが式(6)を満たすと、電源制御手段34は、ヒータ162への電流の供給が停止されるようにヒータ電源部32を制御するので、超伝導コイル15に永久電流Ipを流すことができる。したがって、オペレータ52がテスラメータを見ながら励磁作業をする必要がなく、オペレータの作業負担が軽減される。
【0087】
尚、本実施形態では、送受信コイル13がファントムPHからのMR信号Sphを受信している。しかし、送受信コイル13とは別の受信コイルを用意し、当該別の受信コイルでファントムPHからのMR信号Sphを受信してもよい。
【0088】
また、本実施形態では、励磁電流Ie(t)がIthに到達した時点(時刻t1)で、RFパルスPrfの送信を開始している。しかし、励磁電流Ie(t)の供給開始時刻t0と同時にRFパルスPrfの送信を開始してもよく、あるいは、励磁電流Ie(t)の供給開始前にRFパルスPrfの送信を開始してもよい。
【0089】
更に、本実施形態では、ケーブルの接触状態を確認するために、ケーブル接触状態判定手段35を備えている。しかし、ケーブル接触状態判定手段35を備えずに、オペレータ52がテスタを使ってケーブルの接触状態を確認してもよい。
【0090】
次に、上記のようにして励磁された超伝導コイル15を消磁する方法について説明する。
【0091】
図17は、超伝導コイル15を消磁するときのフローチャートを示す図である。
【0092】
ステップS21では、オペレータ52はケーブル接続を行う。消磁するときのケーブル接続は、励磁するときのケーブル接続と同じである(図6および図7参照)。図6および図7に示すようにケーブル接続した後、ステップS22に進む。
【0093】
ステップS22では、ケーブル接触不良が発生していないかを確認する。この確認は、オペレータ52がテスタなどを使用して、手動で行う。ケーブル接続が良好であることを確認した後、ステップS23に進む。
【0094】
ステップS23では、オペレータ52は、操作装置50を操作して、制御装置30に、永久電流スイッチ16をオフにするための命令を入力する。この命令が制御装置30に入力されると、電源制御手段34はヒータ電源部32を制御し、ヒータ162に、永久電流スイッチ16をオフにするための電流Ioffが流れる。ヒータ162は電流Ioffによって発熱し、超伝導線材161を加熱する。その結果、超伝導線材161の温度が臨界温度Tc以上に上昇する。超伝導線材161の温度が臨界温度Tc以上に上昇すると、超伝導線材161は常伝導状態になるので、永久電流スイッチ16はオフに設定される。永久電流スイッチ16をオフに設定した後、ステップS24に進む。
【0095】
ステップS24では、電源制御手段34は、電源部31X〜31Zが超伝導コイル15に消磁電流を供給するように、電源部31X〜31Zを制御する。消磁電流によって、超伝導コイル15に流れる電流はゼロになる。超伝導コイル15に流れる電流がゼロになったら、ステップS25に進み、ケーブルを取り外す。
【0096】
上記のようにして、消磁が行われる。
【0097】
本実施形態では、消磁もテスラメータを使わずに行うことができるので、消磁作業においても、オペレータの作業負担が軽減される。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明の一実施形態の磁気共鳴イメージング装置を示す図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】超伝導コイル15を励磁するときのフローチャートを示す図である。
【図4】ボア12内にファントムが設置されたMRI装置1の斜視図である。
【図5】図4のA−A断面図である。
【図6】ケーブル接続が行われたMRI装置1の斜視図である。
【図7】図6のA−A断面図である。
【図8】ステップS13の処理フローの説明図である。
【図9】勾配コイル電源部31X〜31Zおよびヒータ電源部32が電流を供給しているときのMRI装置1の斜視図である。
【図10】図9のA−A断面図である。
【図11】ヒータ電源部32が永久電流スイッチ16をオフにするための電流を供給しているときのMRI装置1の斜視図である。
【図12】図11のA−A断面図である。
【図13】ステップS15の処理フローを示す図である。
【図14】勾配コイル電源部31X、31Y、および31Zがコイル電流を供給しているときのMRI装置1の斜視図である。
【図15】図14のA−A断面図である。
【図16】コイル電流Ix(t)〜Iz(t)および励磁電流Ie(t)の時間的変化を示すグラフである。
【図17】超伝導コイル15を消磁するときのフローチャートを示す図である。
【符号の説明】
【0099】
1 MRI装置
11 ガントリ
12 ボア
13 送受信コイル
14 勾配コイル
15 超伝導コイル
15a、15b、162a、162b コネクタ
16 永久電流スイッチ
30 制御装置
31X X軸勾配コイル電源部
31Y Y軸勾配コイル電源部
31Z Z軸勾配コイル電源部
32 ヒータ電源部
33 送受信コイル電源部
34 電源制御手段
35 ケーブル接触状態判定手段
36 抵抗値算出部
37 抵抗値判定部
38 励磁電流算出手段
39 励磁電流判定手段
40 周波数測定手段
41 周波数判定手段
50 操作装置
51 表示モニタ
52 オペレータ
161 超伝導線材
162 ヒータ
300 電源手段2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超伝導コイルと、
勾配コイルと、
送信コイルと、
ファントムからのMR信号を受信する受信コイルと、
前記超伝導コイルに接続された超伝導体と、
前記超伝導体を加熱するヒータと、
前記ヒータに前記超伝導体を加熱するための電流を供給し、前記超伝導コイルに励磁電流を供給し、前記送信コイルにRFパルスを送信するための電流を供給する電源手段と、
前記受信コイルが受信した前記ファントムからのMR信号の周波数が所定の周波数範囲に到達した場合、前記電源手段から前記ヒータへの電流の供給が停止されるように、前記電源手段を制御する制御手段と、
を有する磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記勾配コイルは、X軸勾配コイルと、Y軸勾配コイルと、Z軸勾配コイルとを有する、請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記電源手段は、
前記X軸勾配コイルに電流を供給するX軸勾配コイル電源部と、
前記Y軸勾配コイルに電流を供給するY軸勾配コイル電源部と、
前記Z軸勾配コイルに電流を供給するZ軸勾配コイル電源部と、
前記ヒータに電流を供給するヒータ電源部と、
を有する、請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記超伝導コイルは、
前記X軸勾配コイル電源部から供給される第1の電流と、前記Y軸勾配コイル電源部から供給される第2の電流と、前記Z軸勾配コイル電源部から供給される第3の電流とを合わせた加算電流が、前記励磁電流として供給される、請求項3に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記ファントムからのMR信号の周波数を測定する周波数測定手段と、
前記周波数測定手段により測定された周波数が前記所定の周波数範囲に含まれているか否かを判定する周波数判定手段と、
を有する、請求項4に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
前記周波数判定手段が、前記周波数測定手段により測定された周波数が前記所定の周波数範囲に含まれていると判定した場合、前記制御手段は、前記電源手段から前記ヒータへの電流の供給が停止されるように前記電源手段を制御する、請求項5に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
前記第1の電流、前記第2の電流、および前記第3の電流を検出する電流検出手段と、
前記電流検出手段が検出した前記第1の電流、前記第2の電流、および前記第3の電流を加算することにより、前記励磁電流を算出する励磁電流算出手段と、
を有する請求項6に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
前記励磁電流算出手段によって算出された前記励磁電流が、所定の電流値以上であるか否かを判定する励磁電流判定手段、
を有する請求項7に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
前記励磁電流検出手段は、
前記第1の電流を検出する第1の電流プローブと、
前記第2の電流を検出する第2の電流プローブと、
前記第3の電流を検出する第3の電流プローブと、
を有する、請求項7又は8に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項10】
前記超伝導コイルに接続された第1のコネクタと、
前記ヒータに接続された第2のコネクタと、
を有する、請求項3〜9のうちのいずれか一項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項11】
前記X軸勾配コイル電源部、前記Y軸勾配コイル電源部、および前記Z軸勾配コイル電源部は、ケーブルによって前記第1のコネクタに接続され、前記ヒータ電源部は、ケーブルによって前記第2のコネクタに接続される、請求項10に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項12】
前記ケーブルの接触不良が発生しているか否かを判定するケーブル接触状態判定手段を有する、請求項11に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項13】
前記電源手段は、前記送信コイルに電流を供給する電源部を有する、請求項1〜12のうちのいずれか一項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項14】
前記送信コイルは、前記受信コイルを兼ねている、請求項1〜13のうちのいずれか一項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項15】
請求項1〜14のうちのいずれか一項に記載の磁気共鳴イメージング装置が有する前記超伝導コイルの励磁方法であって、
前記電源手段が、前記ヒータに、前記超伝導体を加熱するための電流を供給するステップと、
前記電源手段が前記超伝導コイルに励磁電流を供給するステップと、
前記電源手段が、前記送信コイルに、RFパルスを送信するための電流を供給するステップと、
前記受信コイルが受信した前記ファントムからのMR信号の周波数が所定の周波数範囲に到達した場合、前記電源手段から前記ヒータへの電流の供給を停止するステップと、
を有する超伝導コイルの励磁方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2010−51541(P2010−51541A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−219709(P2008−219709)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(300019238)ジーイー・メディカル・システムズ・グローバル・テクノロジー・カンパニー・エルエルシー (1,125)
【Fターム(参考)】