説明

磁気共鳴イメージング装置及びこれを用いた画像再構成方法

【課題】 被検体の磁気共鳴現象によりその内部断層像を得る磁気共鳴イメージングにおいて、再構成処理速度の向上やデータ処理の負荷分散を実現する。
【解決手段】 複数の演算器を格子状に配置して、垂直方向のみのデータ伝送だけでなく、水平方向に隣接する演算器のデータ伝送を可能にすることにより、再構成処理速度の向上やデータ処理の負荷分散を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核磁気共鳴(以下「NMR」という)現象を利用して被検体の所望部位の断層像
を得る磁気共鳴イメージング(以下「MRI」という)装置に関し、特に複数の受信コイルを
用いて取得したNMR信号に対して行う再構成処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
MRI装置は、静磁場中に置かれた被検体に対し、特定周波数の高周波磁場を照射することにより被検体に含まれる水素等の原子核を励起し、被検体から発生するNMR信号を検出して、被検体の物理的又は化学的情報を取得して画像化することが可能である。
このようなMRI装置で、NMR信号の検出には高周波コイルが用いられている。この高周波コイルとしては、感度が良好でそのうえ視野を広げてもSN比が良いことから、フェーズド・アレイ・コイル或いはマルチプルコイルと呼ばれる複数の受信コイルから構成されたものが用いられている。
【0003】
このようなマルチプルコイルでは、それを構成する複数の受信コイルから得られるNMR信号をそれぞれ画像再構成した後に、各再構成画像を合成して最終的な一つの画像として表示している。そのために、受信コイル毎にプリアンプとA/D変換器を備えて、このプリアンプによって増幅され、A/D変換器でディジタル化された各NMR信号が、受信コイル数以上の伝送経路(チャンネル)数を備えた信号処理系に入力される。この信号処理系では、伝送経路毎にNMR信号を処理するための演算器が備えられ、その伝送経路に入力されたNMR信号を処理する。つまり、信号処理系内では複数の演算器が並列に配列されて、複数のNMR信号を並列処理することによって、大量のデータを高速に処理している。
【0004】
このような構成の一例として、例えば(特許文献1)には、NMR信号をディジタル化するA/D変換手段と、ディジタル化されたNMR信号に対して演算処理を行って画像を再構成するデータ処理手段とを備え、前記A/D変換手段から出力されるディジタルNMR信号を入力して信号処理を実行する複数個の信号処理ユニットを備えた信号処理手段が前記A/D変換手段と前記データ処理手段との間に介在し、かつ前記各信号処理ユニットはユニットごとに異なる信号処理をディジタルNMR信号に施して前記データ処理手段へ送信する動作を並列に進行させる構成が開示されている。
【特許文献1】特開平9-294734号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
伝送経路毎に演算器を備えてNMR信号を並列処理する場合には、伝送経路数や演算器数をなるべく少なくしてコストを低減しながら、信号処理の処理効率を高める必要がある。処理効率を高める方法の一つとして、特定の演算器の負荷が高まることによって全体のスループットが低下するのを回避するために、データ処理の負荷が複数の演算器間でなるべく均等となるようにデータを分散させる方法が一般的に知られている。
【0006】
しかし、(特許文献1)に開示された構成では、複数個の信号処理ユニット間でのデータの授受は考慮されていない。また、後段のデータ処理手段においても並列化や、相互のデータ授受に関しては開示されていない。このために、演算量の多いデータ処理や大量のデータが発生した場合に、特定の信号処理ユニットに負荷が集中してしまう可能性があり、このような場合には信号処理系全体のスループットが低下する可能性があると考えられる。
【0007】
そこで本発明の目的は、複数の受信コイルからなるマルチプルコイルによって受信されたNMR信号を信号処理して画像再構成する場合において、負荷分散や処理速度の高速化が可能な信号処理系及びこれを備えたMRI装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明のMRI装置における画像再構成方法は以下の様に構成されることを特徴とする。即ち、
複数の受信コイルを有して成るマルチプルコイルと、前記受信コイルの数と同数の伝送経路を有して該伝送経路毎に一の前記受信コイルからの信号が入力される画像再構成手段とを備えた磁気共鳴イメージング装置における画像再構成方法であって、
(a)前記伝送経路毎に前記受信コイルの画像を再構成するステップ、
(b)前記各伝送経路の画像を2つずつ合成するステップ、
(c)前記各合成画像を2つずつ合成するステップ、
(d)前記合成画像の数が1つになるまで前記ステップ(c)を繰り返すステップ、
(e)前記受信コイルの数が奇数の場合には、更に、最後の合成画像と残りの伝送経路の
画像とを合成するステップ
を含む。
【0009】
これは、伝送経路毎に各受信コイルの画像を再構成し、各画像を2つずつ合成して合成画像を作製し、更に、この合成画像を2つずつ合成していくことを繰り返すことによって、最終的に1つの画像を合成する方法である。なお、受信コイルの数が奇数の場合には、更に、最後の合成画像と残りの伝送経路の画像を合成して最終画像を得る。
これにより、画像再構成の負荷分散や処理速度の高速化が可能となる。
【0010】
さらに、上記の課題を解決するために、本発明のMRI装置は以下の様に構成されることを特徴とする。即ち、複数の受信コイルを有して成るマルチプルコイルと、前記受信コイルの数と同数の伝送経路を有して該伝送経路毎に一の前記受信コイルからの信号が入力される画像再構成手段とを備え、前記画像再構成手段は、直列に接続された1以上の演算器を伝送経路毎に有し、前記演算器の少なくとも一部は、隣接する伝送経路の演算器との間で、少なくとも一方向のデータ送受が可能に接続されたMRI装置において、前記伝送経路内の1以上の演算器の内の少なくとも1つの演算器は、該伝送経路に入力された前記受信コイルの信号から画像を再構成すると共に、隣接する演算器の画像と自身の画像とを合成する。
好ましくは、前記演算器の少なくとも一部は、双方向通信が可能に相互接続されて、互いに前記画像合成の開始指示と終了の通知を行う。
【0011】
これは、上記画像再構成方法を実現するMRI装置の構成であって、複数の演算器の少なくとも一部を格子状に接続して画像再構成手段を構成することによって、受信コイル毎の画像の再構成と、それらの画像の合成を複数の演算器に分散させるものである。
これによって、本発明のMRI装置は、上記画像再構成方法と同様の効果を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のMRI装置及び画像再構成方法は、以上に説明したように構成されているので、演算器間の伝送経路が格子状であることを利用して、水平方向及び垂直方向の伝送経路を考慮したデータ処理方法を選択することができ、画像再構成処理を複数の演算器に負荷分散することが可能になる。その結果、データ処理速度の高速化が可能となり、MRI装置全体のスループットを向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係るMRI装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係るMRI装置の一実施例の全体構成を示すブロック図である。このMRI装置は、静磁場発生手段1、傾斜磁場発生手段2、送信系3、受信系4、シーケンサ5、計測制御装置6、信号処理演算器制御装置7、信号処理演算器8、及び図示しない操作部とからなっており、NMR現象を利用して被検体9の断層像を表示する。
【0014】
静磁場発生手段1は、被検体9の周りのある広がりを持った空間に配置された永久磁石、常電導磁石又は超電導磁石のいずれかを有し、被検体9の周囲にその体軸方向または被検体9の体軸と直行する方向に均一な静磁場を発生させる。
【0015】
傾斜磁場発生系2は、X,Y,Zの3軸方向に巻かれた傾斜磁場コイル10と、これらの各々のコイルに電流を供給する傾斜磁場電源11とを有し、シーケンサ5からの制御に従って傾斜磁場電源11から各々のコイルに電流を供給することによりX,Y,Zの3軸方向の傾斜磁場Gx,Gy,Gzを被検体9に印加する。この傾斜磁場の加え方により、被検体9の撮影断面が設定される。
【0016】
送信系3は、高周波発振器12、変調器13、高周波増幅器14及び高周波照射コイル15とを有し、事前に設定された被検体9のある断面を構成する原子の原子核にNMR現象を誘起するために、傾斜磁場発生手段2からの傾斜磁場と共に、高周波発振器12から出力された高周波信号を変調器13で変調し高周波増幅器14で増幅した後に、被検体9に近接して設置された高周波照射コイル15に供給して、被検体9に高周波磁場パルス(以下「RFパルス」という)を照射する。
【0017】
受信系4は、高周波受信コイル16、受信回路17及びアナログ/ディジタル(以下「A/D」という)変換器18からなり、送信系3の高周波照射コイル15から照射されたRFパルスによって誘起された被検体9の原子核からのNMR信号(エコー信号)を、被検体9に近接して配置された高周波受信コイル16で検出し、プリアンプを含む受信回路17を介してA/D変換器18に入力され、ディジタル信号に変換される。このディジタル信号は、シーケンサ5からの制御によるタイミングでサンプリングされたデータ(以下「サンプリングデータ」という)として、信号処理系20に出力される。
【0018】
シーケンサ5は、計測制御装置6の制御に基づいて動作し、RFパルス及び傾斜磁場の発生をある所定のパルスシーケンスに基づいて繰り返すために、傾斜磁場発生系2と送信系3に種々の命令を送ってこれらの動作を制御する。
【0019】
信号処理系20は、信号処理演算器8と信号処理演算器制御装置7とを有し、信号処理演算器8は受信系4からのサンプリングデータをフーリエ変換し、補正計算及び画像再構成等の処理を行ない、処理結果を信号処理演算器制御装置7に出力する。信号処理演算器制御装置7は信号処理演算器8で再構成された画像データをディスプレイ19に断層像として表示し、それらの画像データを装置内のデータベースに保存する。
【0020】
計測制御装置6は、指定されたパルスシーケンスに規定されたRFパルス及び傾斜磁場パルスの印加パターンを読み出してシーケンサ5を動作させるとともに、受信系4で検出したNMR信号を用いて、信号処理系20で画像再構成演算を行う様に制御する。
【0021】
(第1の実施形態)
以下、本発明に係るMRI装置の第1の実施形態を説明する。本実施形態は、受信コイル数及び伝送経路数が偶数となる形態である。
図2は、本実施形態の第1の実施例に係るMRI装置における信号処理演算器8の一構成例を示すブロック図である。この信号処理演算器8には、マルチプルコイルを構成する受信コイルの数(n)に対応したサンプリングデータの伝送経路が存在し、伝送経路毎に、QD検波及びリサンプリングを行う演算器(以下「DRF」という)21と、DRF21から取り込んだディジタルデータを自身のヘッダ情報に含まれている位置情報をもとにK空間に配置してフーリエ変換を行う演算器(以下「RCN」という)22とが1組の演算器セットとして直列に配置されている。
【0022】
つまり上述の演算器セットを受信コイル数以上の数だけ並列に配置して、それぞれの伝送経路に一の受信コイルからのサンプリングデータが入力されて、伝送経路毎に並列処理される。このサンプリングデータは、前述した様に、その伝送経路に接続された受信コイルで受信されたNMR信号が、プリアンプを介して増幅された後にA/D変換器でディジタル化されたデータである。
【0023】
複数の演算器の少なくとも一部は、格子状に配置されて、縦方向(つまり伝送経路方向)及び横方向にデータバスを介して接続されている。つまり、隣接するDRF21同士と隣接するRCN22同士を相互に接続し、且つ、DRF21とRCN22を伝送経路方向に接続し、それぞれの接続については一方向又は双方向にデータ伝送を行える様にする。演算器としては、例えばDSP(Digital Signal Processor)を用いることができる。この演算器同士の相互接続は、高速な専用データバス(以下、単に「高速バス」という)を用いて高速にデータの授受を行うことが可能である。例えば、80MB/sec以上の実効データ伝送スピードを達成することができる。この様な複数の演算器の少なくとも一部を高速バスを用いて格子状に接続し、各種演算を各演算器に効率的に割り当てることによって、効率的な負荷分散を行うことが可能になる。これにより装置全体のスループットを向上させることができる。
【0024】
図3に、受信コイル数及び伝送経路数が偶数の場合の一例として、それぞれ4つの場合に、マルチプルコイルを構成する各受信コイル16で受信したNMR信号から画像再構成を行う際のデータの流れを示してあり、これに基づいて本実施形態の第1の例を説明する。
図3のデータ流れ図は、伝送経路毎に、マルチプルコイルを構成する各受信コイル16から受信回路17を経由して信号処理演算器8にデータが伝送され、この信号処理演算器8内のDRF21とRCN22で処理されたデータが信号処理演算器制御装置7に伝送されるまでを示している。
【0025】
Step1では、伝送経路毎に301の処理が行われる。つまり、各受信コイル16で受信されたNMR信号が、受信回路11にてプリアンプによって信号増幅され、低域通過フィルタ(LPF)1を通過した後にA/D変換器によってアナログ信号であるNMR信号がディジタル化されたサンプリングデータに変換される。このA/D変換器のサンプリングレートを例えば500kHzにする場合には、LPF1のカットオフ周波数を略250kHzとする。
【0026】
Step2では、伝送回路毎に302の処理が行われる。つまり、信号処理演算器8内のDRF21において、サンプリングデータが直交(Q/D)検波及びリサンプリングされる。この直交検波は、ディジタル信号である1系統のサンプリングデータをディジタル的に直交検波して、互いに直交する0°成分と90°成分からなる2系統の信号に分割する。また、リサンプリングは、撮影の際に設定された画像のマトリックス数と信号計測時間幅とで定まるNMR信号の周波数帯域に対応するサンプリングレートで、サンプリングデータの各成分をそれぞれ再サンプリングする。例えば、5.12msecの信号計測時間幅で256マトリックスのデータを計測する場合の周波数帯域は50kHzとなるので、リサンプリングのサンプリングレートは100kHzとなる。そこで、カットオフ周波数を略50kHzとするディジタル的低域通過フィルタ(LPF)2にサンプリングデータの各成分を通過させた後に、成分毎に100kHzでリサンプリングを行う。
【0027】
Step3では、伝送経路毎に303の処理を行う。つまり、信号処理演算器8内のRCN22において、0°成分を実成分とし90°成分を虚成分とする複素データをK空間に配置して、画像再構成に必要な全K空間データを揃える。その際、NMR信号を受信する際に印加された位相エンコード量に対応するK空間の位置に複素データを配置する。全K空間データが揃った後にフーリエ変換を行って画像を再構成する。このステップにおいて、受信コイル16毎の画像再構成処理が完了する。
【0028】
次のステップからは、各受信コイルの画像を合成して、最終的な一つの画像を取得する処理を行う。この画像合成は、例えば(1)式のように行うことができる。
合成画像=(1/N)Σ(受信コイル毎の画像) (1)
ここで、Nは受信コイル数である。
【0029】
そこでStep4では、画像合成1(304)の処理を行う。隣接する2伝送経路毎に(1)式の画像合成1を行う。そのためには、例えば、伝送経路4のRCN22-4はその画像4データを、図2に示すRCN間の横方向の高速バスを経由して、隣の伝送経路3のRCN22-3に伝送する。そして、RCN22-3は自身の伝送経路3の画像3データと伝送された画像4データとを(1)式に基づ
いて加算する。
合成画像34=(1/2){(画像3)+(画像4)} (2)
【0030】
伝送経路1と伝送経路2においても同様の処理を行う。つまり、伝送経路2のRCN22-2はその画像2データを、図2に示すRCN間の横方向の高速バスを経由して、隣の伝送経路1のRCN22-1に伝送する。RCN22-1は自身の伝送経路1の画像1データと伝送された画像2データとを(1)式に基づいて加算する。
合成画像12=(1/2){(画像1)+(画像2)} (3)
【0031】
最後にStep5で、画像合成2(305)の処理を行う。画像合成1で得られた2つの合成画像を更に画像合成2して、最終的な1枚の画像を合成する。そのためには、伝送経路3のRCN22-3で合成された(2)式の合成画像34データを図2に示すRCN間の横方向の高速バスを経由して、伝送経路1のRCN22-1に伝送する。その際、伝送経路2のRCN22-2を介して画像データを伝送することになるが、このような場合にはRCN22の内部スイッチを切り替えて横方向の高速バスが直通となるように設定する。これにより、高速にデータ伝送が可能になる。RCN22-1は自身の合成画像12データと伝送された合成画像34データとを(1)式に基づいて加算する。
最終合成画像=(1/2){(合成画像12)+(合成画像34)} (4)
以上のようにして合成された最終合成画像は、信号処理演算器制御装置7に伝送される。
【0032】
ここで、上記第1の実施例のデータ処理が他の考え得る形態よりも高速であることを簡単に説明する。比較の対象として、伝送経路毎の画像を順次加算していく場合を想定する。この場合を図2の構成で説明すると次のようになる。即ち、RCN22-3において、RCN22-4で再構成された画像4と自身の画像3を加算して合成画像34を得る。次に、RCN22-2において、RCN22-3で合成された合成画像34と自身の画像2を加算して合成画像234を得る。最後に、RCN22-1において、RCN22-2で合成された合成画像234と自身の画像1を加算して最終合成画像を得る。これにより明らかなように、順次画像を加算していく場合の処理ステップ数が、上記第1の実施例で説明した2伝送経路毎に画像を加算していく場合の処理ステップ数より多くなってしまう。つまり、2伝送経路毎に画像を加算していく上記第1の実施例の加算方法が効率的であることが明らかである。
【0033】
なお、上記説明では、演算器の構成をDRFとRCNの2段からなる格子配置の例を説明したが、他の段数でも良い。1段のみの演算器で構成する場合は、図2のDRF21が、本実施形態で説明したDRF21とRCN22の処理を順次行うことになる。つまり、上記伝送経路毎の直交検波から画像再構成までを行った後に、隣接する演算器に再構成画像データを伝送する。再構成画像データを伝送された演算器では、自身の再構成画像と伝送された再構成画像とを加算して合成画像を求めることができる。そして、例えば左端の演算器において、最終合成画像を求めることになる。或いは、3段の場合には、2段目では前述のように受信コイル毎の画像再構成を行い、その画像データを3段目の演算器に伝送して、3段目の演算器において上記画像合成を行うことができる。4段以上の場合は、更に前述の各種処理を細分化して格段の演算器に分配して、いわゆるパイプライン処理を行えば良い。
【0034】
次に、本実施形態の第2の実施例として、マルチプルコイルを構成する受信コイル数及び伝送経路数が8つの場合における、各受信コイル16で受信したNMR信号から画像再構成を行う際の処理例を図5〜9に基づいて説明する。
【0035】
図5は信号処理演算器8の内部構成のブロック図である。この例では、伝送経路毎の演算器の数を1つとした場合の例を示している。各伝送経路の演算器(以下、CH演算器という)には、サンプリングデータが入力されて信号処理が行われる。また、各CH演算器には、計測制御装置6との間で通信を行うためのバス501とバス502が接続されている。バス501は、計測制御装置6と各CH演算器との間で1対1の双方向通信を行うことが可能なバスであり、例えばPCIバスとすることができる。一方、バス502は、計測制御装置6と複数のCH演算器との間及び各CH演算器間で同時に並列に双方向通信を行うことが可能なバスであり、例えばEthernet(登録商標)とすることができる。図5は、バス502をEthernetとした場合を示しており、各CH演算器は計測制御装置6との間をEthernet Hub503を介してスター型のネットワーク・トポロジで接続され双方向の通信を行う例を示している。つまり、各CH演算器とEthernet Hub503との間を1対1で接続し、計測制御装置6とEthernet Hub503との間は1本の線路で接続されている。このEthernet Hub503は計測制御装置6からのデータを全てのCH演算器に送信し、各CH演算器からのデータを計測制御装置6に送信する。また、各CH演算器は隣接するCH演算器に対して下位方向のみに高速データ伝送を行える高速バス504を介して接続されている。
【0036】
図6は、各CH演算器の内部構成の概略ブロック図で、CPUとMemoryとBus Bridge Ship Setとを有している。そして、Bus Bridge Chip Setはバス501とバス502とに接続され、高速バスに接続される内部経路におけるスイッチを制御することによって、CH演算器の動作モードを切り替える。
Memoryにはサンプリングデータが一時記憶され、CPUは、Memory上のサンプリングデータに対して前述のRDFとRCNとが行う各処理を行う。
Bus Bridge Ship Setは、スイッチを制御することによってCH演算器の動作モードを制御する。つまり、CH演算器が隣接するCH演算器との間でデータ送受を行うTransfer/Receive(T/R)モードでは、内部経路をBus Bridge Chip Setを経由するようにスイッチを切り替え、単にデータを素通りさせるThrough(Thru)モードでは、内部経路をBus Bridge Chip Setから切り離して直結する様にスイッチを制御する。
【0037】
図7〜9は、図5の信号処理演算器構成における画像合成例をステップ毎に説明する図である。以下、これらの図に基づいて画像合成例を説明する。
図7は第一段階の画像合成の過程を示す。(a)に示す初期状態において、各CH演算器はTransfer/Receive(T/R)モードになって、伝送経路毎に画像再構成を行う。
【0038】
次に、(b)の表に示してあるように、Step1で、2CH演算器が高速バス504経由で1CH演算器に画像データを送信し、バス502経由で1CH演算器に画像合成処理の開始指示を行うことと、4CH演算器が高速バス504経由で3CH演算器に画像データを送信し、バス502経由で3CH演算器に画像合成処理の開始指示を行うことと、6CH演算器が高速バス504経由で5CH演算器に画像データを送信し、バス502経由で5CH演算器に画像合成処理の開始指示を行うことと、8CH演算器が高速バス504経由で7CH演算器に画像データを送信し、バス502経由で7CH演算器に画像合成処理の開始指示を行うことと、が並列に行われる。Step2で、奇数(つまり1,3,5,7)CH演算器で画像データの合成処理が行われると共に、偶数(つまり2,4,6,8)CH演算器がThroughモードになる。このモード変更は、前述のStep1で偶数CH演算器が自身の画像データを転送した後に自発的にThroughモードになる。Step3では、1CH演算器が3CH演算器に、3CH演算器が5CH演算器に、5CH演算器が7CH演算器に、バス502経由で合成処理の終了通知をそれぞれ行う。
【0039】
これらの各Step処理の結果、(c)に示されているように、1CH演算器に1CH演算器と2CH演算器の各画像を合成した合成画像が格納され、3CH演算器に3CH演算器と4CH演算器の各画像を合成した合成画像が格納され、5CH演算器に5CH演算器と6CH演算器の各画像を合成した合成画像が格納され、7CH演算器に7CH演算器と8CH演算器の各画像を合成した合成画像が格納される。また、2,4,6CH演算器はThroughモードとなり、1,3,5,7CH演算器はTransfer/Receiveモードのままとなる。
【0040】
図8は第二段階の画像合成の過程を示す。(a)に示す初期状態は、図7(c)に示す第一段階の終了状態と同じである。つまり、偶数番目のCH演算器はThroughモードにされ、奇数番目のCH演算器はTransfer/Receiveモードにされている。
【0041】
次に、(b)の表に示してあるように、Step1で、3CH演算器が高速バス504経由で1CH演算器に画像データを送信し、バス502経由で1CH演算器に画像合成処理の開始指示を行うことと、7CH演算器が高速バス504経由で5CH演算器に画像データを送信し、バス502経由で5CH演算器に画像合成処理の開始指示を行うことと、が並列に行われる。Step2で、1,5CH演算器で画像データの合成処理が行われると共に、3,7CH演算器がThroughモードになる。このモード変更は、前述のStep1で3,7CH演算器が自身の画像データを転送した後に自発的にThroughモードになる。Step3では、1CH演算器が5CH演算器にバス502経由で合成処理の終了通知を行う。
【0042】
これらの各Step処理の結果、(c)に示されているように、1CH演算器に1〜4CH演算器の各画像を合成した合成画像が格納され、5CH演算器に5〜8CH演算器の各画像を合成した合成画像が格納される。また、3,7CH演算器が新たにThroughモードとなり、1,5CH演算器のみがTransfer/Receiveモードのままとなる。
【0043】
図9は第三段階の画像合成の過程を示す。(a)に示す初期状態は、図8(c)に示す第二段階の終了状態と同じである。つまり、2〜4CH演算器と6〜8CH演算器はThroughモードにされ、1,5CH演算器はTransfer/Receiveモードにされている。
【0044】
次に、(b)の表に示してあるように、Step1で、5CH演算器が高速バス504経由で1CH演算器に画像データを送信し、バス502経由で1CH演算器に画像合成処理の開始指示が行われる。Step2で、1CH演算器で画像データの合成処理が行われると共に、5CH演算器がThroughモードになる。このモード変更は、前述のStep1で5CH演算器が自身の画像データを転送した後に自発的にThroughモードになる。
以上の結果、(c)に示されているように、1CH演算器に全CH演算器の合成画像が格納されることになる。また、5CH演算器が新たにThroughモードとなり、1CH演算器のみがTransfer/Receiveモードのままとなる。
【0045】
以上は、伝送経路数が4つ又は8つの場合を説明したが、これら以外の偶数の場合でもよい。これを一般の2N(Nは自然数)の場合に拡張して言うと、2M-1(Mは自然数でM≦N)番目のRCN22-(2M-1)において画像(2M-1)と画像(2M)を合成して合成画像(2M-1,2M)を求める。これ以降、合成画像を2つずつ更に合成していき、合成画像の数が1つになるまで繰り返す。この最後の合成画像が最終合成画像となる。この際、2つの合成画像を合成する処理は、合成画像データのあるRCNのいずれかで行えば良い。
【0046】
以上、説明したように本発明の第1の実施形態によれば、マルチプルコイルを構成する各受信コイルで受信されたNMR信号を用いて画像合成を行う場合に、効率良く短時間で処理することができる。その結果、単位時間あたりに再構成できる画像の枚数を増加させることができ、リアルタイムイメージング等の際に発生する大量のデータを高速に処理することができる。
【0047】
(第2の実施形態)
次に、信号処理演算器8の第2の実施形態を説明する。本実施形態は、受信コイル数及び伝送経路数が奇数となる場合である。図4に、受信コイル数及び伝送経路数が奇数の場合の一例として3つの場合に、マルチプルコイルを構成する各受信コイルで受信したNMR信号から画像再構成を行う際のデータの流れを示してあり、これに基づいて本実施形態を説明する。ただし、本発明は伝送経路が3つの場合に限定されることなく、他の数にも適用可能である。
【0048】
図4のデータ流れ図は、図3と同様に、伝送経路毎に、マルチプルコイルを構成する各受信コイル16から受信回路17を経由して信号処理演算器8内のDRF21とRCN22で処理されたデータが信号処理演算器制御装置7に送信されるまでを示している。なお、図3の伝送経路4が図4の伝送経路3に、図3の伝送経路3が図4の伝送経路2に、図3の伝送経路1が図4の伝送経路1に、それぞれ対応する。つまり、図4では、図3の伝送経路2に相当する伝送経路が無い場合を示している。
図3の偶数の場合と異なる部分は、伝送経路1のみであり、伝送経路2と伝送経路3の処理は図3と同様である。そこで、伝送経路1の処理のみ説明して他の説明は省略する。
【0049】
伝送経路1では、フーリエ変換迄の処理は第1の実施形態と同じなので、フーリエ変換迄の処理の説明は省略する。このフーリエ変換によって、この伝送経路1の画像1が再構成される。その後、本実施形態においては、Step4の画像合成1(304)の処理は行わず、Step5の画像合成2(305)のみの処理を行う。従って、RCN22-1には、RCN22-2においてRCN22-3から伝送された伝送経路3の画像3と自身の伝送経路2の画像2とから合成された合成画像23が伝送され、この合成画像23と自身の伝送経路1の画像1とが加算されて最終合成画像が得られることになる。
【0050】
つまり、本実施形態では、隣接する2つの伝送経路毎に合成画像を求め、残りの1つの伝送経路では、自身の画像と他の合成画像とを加算して最終合成画像を得る。これを一般的に言えば、伝送経路の数を2N+1(Nは自然数)とすると、2M(Mは自然数でM≦N)番目のRCNにおいて画像(2M)と画像(2M+1)を合成して合成画像(2M,2M+1)を求める。これ以降、合成画像を2つずつ更に合成していき、合成画像の数が1つになるまで繰り返す。この際、2つの合成画像を合成する処理は、合成画像データのあるRCNのいずれかで行えば良い。最後に1番目の伝送経路のRCNに最後の合成画像を伝送し、そのRCNにおいて自身の画像(1)と最後の合成画像とを加算して最終合成画像を合成することになる。
なお、上記説明では、演算器の構成をDRFとRCNの2段からなる格子配置の例を説明したが、他の段数でも良いことは、前述の第1の実施形態と同様である。
【0051】
以上、説明したように本発明の第2の実施形態によれば、伝送経路数が奇数の場合でも第1の実施形態と同様の効果を有することになる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に係るMRI装置の全体構成を示すブロック図。
【図2】本発明に係る再構成演算器8の構成を示すブロック図。
【図3】伝送経路数が4つの場合におけるデータの流れを示す図。
【図4】伝送経路数が3つの場合におけるデータの流れを示す図。
【図5】信号処理装置の別構成例を示すブロック図。
【図6】図5の信号処理装置における演算器の内部構成のブロック図。
【図7】図5の信号処理装置における伝送経路数が3つの場合におけるデータの流れの第一段階を示す図。
【図8】図5の信号処理装置における伝送経路数が3つの場合におけるデータの流れの第二段階を示す図。
【図9】図5の信号処理装置における伝送経路数が3つの場合におけるデータの流れの第三段階を示す図。
【符号の説明】
【0053】
1 静磁場発生磁石、2 静磁場勾配発生系、3 送信系、4 受信系、5 シーケンサ、6 計測制御装置、7 信号処理演算器制御装置、8 再構成演算器、9 被検体、10 傾斜磁場コイル、11 傾斜磁場電源、12 高周波発信器、13 変調器、14 高周波増幅器、15 照射コイル、16 高周波受信コイル、17 受信回路、18 A/D変換器、19 ディスプレイ、20 信号処理系、21 DRF、22 RCN

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の受信コイルを有して成るマルチプルコイルと、前記受信コイルの数と同数の伝送経路を有して該伝送経路毎に一の前記受信コイルからの信号が入力されて画像を再構成する画像再構成手段とを備えた磁気共鳴イメージング装置における画像再構成方法であって、
(a)前記伝送経路毎に前記受信コイルの画像を再構成するステップ、
(b)前記各伝送経路の画像を2つずつ合成するステップ、
(c)前記各合成画像を2つずつ合成するステップ、
(d)前記合成画像の数が1つになるまで前記ステップ(c)を繰り返すステップ、
(e)前記受信コイルの数が奇数の場合には、更に、最後の合成画像と残りの伝送経路の画像とを合成するステップ、
を含むことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置における画像再構成方法。
【請求項2】
複数の受信コイルを有して成るマルチプルコイルと、前記受信コイルの数と同数の伝送経路を有して該伝送経路毎に一の前記受信コイルからの信号が入力されて画像を再構成する画像再構成手段とを備え、
前記画像再構成手段は、直列に接続された1以上の演算器を伝送経路毎に有し、
前記演算器の少なくとも一部は、隣接する伝送経路の演算器との間で、少なくとも一方向のデータ送受が可能に接続された磁気共鳴イメージング装置において、
前記伝送経路内の1以上の演算器の内の少なくとも1つの演算器は、該伝送経路に入力された前記受信コイルの信号から画像を再構成すると共に、隣接する演算器の画像と自身の画像とを合成することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
請求項2記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記演算器の少なくとも一部は、双方向通信が可能に相互接続されて、互いに前記画像合成の開始指示と終了の通知を行うことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−218285(P2006−218285A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−295045(P2005−295045)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】