説明

磁気共鳴イメージング装置及びシミング方法

【課題】 グローバルシミングでは静磁場不均一の補正が困難な領域においても、良好な静磁場不均一補正を行うことが可能なMRI装置及びシミング方法を提供する。
【解決手段】 補正対象領域を複数の分割領域に分割し、シムコイルに補正磁場を発生させるためのシム補正値を分割領域毎に算出し、分割領域毎のシム補正値を用いて、補正対象領域の静磁場不均一分布を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴イメージング(以下、「MRI」という)装置に関し、特に、シムコイルを用いたアクティブシミングを行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置は、被検体、特に人体の組織を構成する原子核スピンが発生するNMR信号を計測し、その頭部、腹部、四肢等の形態や機能を2次元的に或いは3次元的に画像化する装置である。撮影においては、NMR信号には、傾斜磁場によって異なる位相エンコードが付与されるとともに周波数エンコードされて、時系列データとして計測される。計測されたNMR信号は、2次元又は3次元フーリエ変換されることにより画像に再構成される。
【0003】
上記MRI装置において、近年新しい撮像方法が提唱、実用化され、中には高い静磁場均一度を必要とする撮像法も多く存在する。高い静磁場均一度を得るためには磁石自身の素磁場が均一であることはもちろんであるが、被検体を静磁場内に設置した状態で静磁場を均一に保つことが必要となる。そこで、被検体の体格は千差万別であるため、球面調和関数の高次項までの補正磁場を発することのできるシムコイルを搭載し、被検体毎にシミングを行うのが一般的である。例えば、特許文献1は、撮像スライスごとに最適なシム補正値を求め、撮像時にダイナミックに調整する方法を提案しており、これによって個々の撮像スライスに応じて静磁場不均一を補正可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8-206094号公報
【特許文献2】特開平11-235324号公報
【特許文献3】特開2002-580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常行われる広範囲(グローバル)なシミングでは、補正対象領域が大きくなることもあり、指定した補正対象領域全体を限られた次数項のシムコイルで良好に補正することは困難である。加えて、近年は市場ニーズに応えるための磁石形状の多様化に伴う素磁場の分布も様々であり、磁場中心付近では問題なくとも、システムスペックで定められる静磁場均一度保証領域の辺縁部では静磁場が急峻に変化していることもある。例えば、腹部のような広領域撮像時には、撮像領域の頭側と足側が静磁場均一度保証領域の辺縁付近に位置することも珍しくない。この静磁場均一度保証領域の辺縁付近を良好にシミングするためには高次シムコイルを有効に活用することが必須であるが、高次項のシムコイルであっても、静磁場均一度保証領域の端ともう一方の端を同時に補正することは困難である。特許文献1ではスライス毎にシム補正値を求めることで、精度を高めたシミングを行うことを提案しているが、前述のように急峻な変化の中で高次の磁場分布を正確に把握するためには、その変化を十分に捉えることが可能なだけの領域が必要となる。一スライス分の狭い領域のみからの磁場分布を正確に把握して補正して、十分な補正とは言えない。
【0006】
本発明の目的は、グローバルシミングでは静磁場不均一の補正が困難な領域においても、良好な静磁場不均一補正を行うことが可能なMRI装置及びシミング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明は、補正対象領域を複数の分割領域に分割し、シムコイルに補正磁場を発生させるためのシム補正値を分割領域毎に算出し、分割領域毎のシム補正値を用いて、補正対象領域の静磁場不均一分布を補正する。
【0008】
具体的には、本発明のMRI装置は、静磁場を発生する静磁場発生部と、静磁場の静磁場不均一分布を補正するための補正磁場を発生するシムコイルと、被検体の撮像領域を含む補正対象領域の静磁場不均一分布を取得する静磁場不均一分布取得部と、補正対象領域の静磁場不均一分布を補正するために前記シムコイルに補正磁場を発生させるためのシム補正値を求めるシム補正値算出部と、シム補正値を用いて補正対象領域の静磁場不均一分布の補正を制御して、前記被検体からのエコー信号の計測を制御する計測制御部と、補正対象領域を複数の分割領域に分割する領域分割部と、を備え、シム補正値算出部は分割領域毎にシム補正値を算出し、計測制御部は分割領域毎のシム補正値を用いて、補正対象領域の静磁場不均一分布の補正を制御することを特徴とする。
【0009】
また、本発明のシミング方法は、補正対象領域を複数の分割領域に分割するステップと、分割領域毎に、シムコイルに補正磁場を発生させるためのシム補正値を算出するステップと、分割領域毎のシム補正値を用いて、補正対象領域の静磁場不均一分布の補正するステップと、を有して成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のMRI装置及びシミング方法によれば、静磁場不均一の補正が困難な領域においても、良好な静磁場不均一補正を行うことが可能となる。また、補正対象領域を分割して、分割領域毎にシミングすることで、MRI装置に搭載されている次数項のシムコイルより高次の静磁場分布についても、それらの搭載されている次数項のシムコイルによって高精度に補正することが可能となり、より複雑な静磁場不均一に対して補正を行うことが可能となる。その結果、より広い領域において良好なシミングを可能とし、高い静磁場均一度を必要とする高度な撮像法においても良好な画質を得ることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るMRI装置の一実施例の全体構成を示すブロック図
【図2】実施例1の演算処理部の各機能を表す機能ブロック図
【図3】実施例1の処理フローを表すフローチャート
【図4】補正対象領域の分割例を示す図であり、(a)図は静磁場不均一分布の例、(b)図は実施例1の略等間隔で分割する例、(c)図は、実施例2の不等間隔で分割する例
【図5】実施例2の処理フローを表すフローチャート
【図6】実施例3の補正対象領域の一例を示す図
【図7】実施例1の補正対象領域を分割してシミングした結果を表す画像
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面に従って本発明のMRI装置の好ましい実施例について詳説する。なお、発明の実施例を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0013】
最初に、本発明に係るMRI装置を図1に基づいて説明する。図1は、本発明に係るMRI装置の一実施例の全体構成を示すブロック図である。
【0014】
このMRI装置は、NMR現象を利用して被検体101の断層画像を得るもので、図1に示すように、静磁場発生磁石102と、傾斜磁場コイル103及び傾斜磁場電源109と、シムコイル120及びシム電源107と、送信RFコイル104及びRF送信部110と、受信RFコイル105及び信号検出部106と、計測制御部111と、全体制御部108と、表示・操作部113と、被検体101を搭載してその被検体101を静磁場発生磁石102の内部に出し入れするベッド112と、を備えて構成される。
【0015】
静磁場発生磁石102は、垂直磁場方式であれば被検体101の体軸と直交する方向に、水平磁場方式であれば体軸方向に、それぞれ均一な静磁場を発生させるもので、被検体101の周りに永久磁石方式、常電導方式あるいは超電導方式の静磁場発生源が配置されている。
【0016】
傾斜磁場コイル103は、MRI装置の実空間座標系(静止座標系)であるX、Y、Zの3軸方向に巻かれたコイルであり、それぞれの傾斜磁場コイルは、それを駆動する傾斜磁場電源109に接続され電流が供給される。具体的には、各傾斜磁場コイルの傾斜磁場電源109は、それぞれ後述の計測制御部111からの命令に従って駆動されて、それぞれの傾斜磁場コイルに電流を供給する。これにより、X、Y、Zの3軸方向に傾斜磁場Gx、Gy、Gzが発生する。
【0017】
2次元スライス面の撮像時には、スライス面(撮像断面)に直交する方向にスライス傾斜磁場パルス(Gs)が印加されて被検体101に対するスライス面が設定され、そのスライス面に直交して且つ互いに直交する残りの2つの方向に位相エンコード傾斜磁場パルス(Gp)と周波数エンコード(リードアウト)傾斜磁場パルス(Gf)が印加されて、NMR信号(エコー信号)にそれぞれの方向の位置情報がエンコードされる。
【0018】
なお、傾斜磁場コイル103には、静磁場発生磁石102が発生する静磁場の不均一を補正して均一度を向上させるためのシムコイル120が一体的に組み込まれている。シムコイル120は、球面調和関数の0(ゼロ)次と1次以外の高次項にそれぞれ対応する成分コイルを有する。なお、1次成分は傾斜磁場コイル103が兼用される。各成分コイルがそれぞれ個別のシム電源107に接続されて、静磁場不均一の各次数成分に応じて、対応する成分コイルに電流が供給される。
【0019】
送信RFコイル104は、被検体101にRFパルスを照射するコイルであり、RF送信部110に接続され高周波パルス電流が供給される。これにより、被検体101の生体組織を構成する原子の原子核スピンにNMR現象が誘起される。具体的には、RF送信部110が、後述の計測制御部111からの命令に従って駆動されて、高周波パルスが振幅変調され、増幅された後に被検体101に近接して配置された送信RFコイル104に供給されることにより、RFパルスが被検体101に照射される。
【0020】
受信RFコイル105は、被検体101の生体組織を構成する原子核スピンのNMR現象により放出されるエコー信号を受信するコイルであり、信号検出部106に接続されて受信したエコー信号が信号検出部106に送られる。
【0021】
信号検出部106は、受信RFコイル105で受信されたエコー信号の検出処理を行う。具体的には、RF送信コイル104から照射されたRFパルスによって誘起された被検体101の応答のエコー信号が被検体101に近接して配置された受信RFコイル105で受信され、後述の計測制御部111からの命令に従って、信号検出部106が、受信されたエコー信号を増幅し、直交位相検波により直交する二系統の信号に分割し、それぞれを所定数(例えば128、256、512等)サンプリングし、各サンプリング信号をA/D変換してディジタル量に変換し、後述の計測制御部111を介して演算処理部114に送る。従って、エコー信号は所定数のサンプリングデータからなる時系列のデジタルデータ(以下、エコーデータという)として得られる。
【0022】
計測制御部111は、被検体101の断層画像の再構成に必要なエコーデータ収集のための種々の命令を、主に、傾斜磁場電源109及びシム電源107と、RF送信部110と、信号検出部106に送信してこれらを制御する制御部である。具体的には、計測制御部111は、後述する全体制御部108の制御で動作し、ある所定のパルスシーケンスに基づいて、傾斜磁場電源109、RF送信部110及び信号検出部106を制御して、被検体101へのRFパルスと傾斜磁場パルスの印加及び被検体101からのエコー信号の検出を繰り返し実行し、被検体101の撮像領域についての画像の再構成に必要なエコーデータの収集を制御する。これらの制御により信号処理部107からのエコーデータを全体制御部108に出力する。
【0023】
また、計測制御部111は、シム電源107を制御して、励起するスライス位置毎或いは補正対象領域を分割した分割領域毎に静磁場不均一を補正しながらエコー信号の計測を制御する。
【0024】
全体制御部108は、計測制御部111の制御、及び、各種データ処理と処理結果の表示及び保存等の制御を行うものであって、CPU及びメモリを内部に有する演算処理部114と、光ディスク、磁気ディスク等の記憶部115とを有して成る。具体的には、計測制御部111を制御してエコーデータの収集を実行させ、計測制御部111からのエコーデータが入力されると、演算処理部114がそのエコーデータに印加されたエンコード情報に基づいて、メモリ内のK空間に相当する領域に記憶させる。メモリ内のK空間に相当する領域に記憶されたエコーデータ群をK空間データともいう。そして演算処理部114は、このK空間データに対して信号処理やフーリエ変換による画像再構成等の処理を実行し、その結果である被検体101の画像を、後述の表示部に表示させると共に記憶部115に記録させる。
【0025】
表示・操作部113は、再構成された被検体101の画像を表示する表示部と、MRI装置の各種制御情報や上記全体制御部108で行う処理の制御情報を入力するトラックボール又はマウス及びキーボード等の操作部と、から成る。この操作部は表示部に近接して配置され、操作者が表示部を見ながら操作部を介してインタラクティブにMRI装置の各種処理を制御する。
【0026】
現在MRI装置の撮像対象核種は、臨床で普及しているものとしては、被検体の主たる構成物質である水素原子核(プロトン)である。プロトン密度の空間分布や、励起状態の緩和時間の空間分布に関する情報を画像化することで、人体頭部、腹部、四肢等の形態または、機能を2次元もしくは3次元的に撮像する。
【0027】
(アクティブシミングについて)
次に、本発明の基礎となるアクティブシミングについて説明する。
アクティブシミングは、被検体をガントリ内の静磁場空間内に配置した状態で被検体内の静磁場不均一分布を計測し、静磁場不均一を打ち消すだけの補正磁場を、MRI装置に搭載している一次コイル(傾斜磁場コイル103)およびシムコイル120から発生させることで静磁場均一度の向上を行う。
【0028】
例えば、シミングに用いる一次コイル及びシムコイル120が発生できる磁場の分布データを基に、静磁場不均一による磁場変動分を打ち消す補正磁場を発生させるためのシム補正値(シム電流値)を求める。そのために、各一次コイル及びシムコイルが発生できる磁場の分布データを事前に計測又は計算によって予め求めておき、リファレンスデータとして記憶部115に記憶しておく。このリファレンスデータをS(n)とする。ただし、nは一次コイル及びシムコイルの次数項を表す。また、各一次コイル及びシムコイルに印加するシム補正値(シム電流)をI(n)とすると、各一次コイル及びシムコイルによって発する補正磁場は(式1)のように求められる。
【0029】
H(n) = S(n)・I(n)・・・(式1)
したがって、被検体内の静磁場不均一による磁場変化をΔHとすると、これを打ち消すために必要な次数項nに対応するシム補正値I’(n)は、(式2)となる。
【0030】
-ΔH ≒ΣH’(n) =ΣS(n)・I’(n)・・・(式2)
(式2)の関係が最小自乗の意味で満たされるI’(n)のセットが求める各次数項のシム補正値となる。ただし、MRI装置に搭載しているシムコイルの項数や、静磁場自身の規則的でない変化のために、完全に-ΔHに一致するI’(n)のセットが得られるとは限らない。その場合には、-ΔHに近い解が得られるI(n)のセットを求めて、各次数項のシム補正値とする。
【0031】
上記方法は、補正対象空間全体の静磁場不均一分布を補正するために、補正対象空間に渡って平均的に均一度が向上するシム補正値を算出する。この場合では、静磁場が急峻に変化する静磁場空間の周縁領域を共に高い精度で補正することが困難となる。そこで、本発明は、この静磁場不均一を補正する補正対象領域を分割して、分割した領域毎にアクティブシミングを行なう。以下、本発明のMRI装置及びシミング方法の各実施例を詳細に説明する。
【0032】
(本発明の概要)
次に、本発明の概要を説明する。本発明のMRI装置及びシミング方法は、静磁場不均一を補正する補正対象領域を分割して、分割した領域毎にシム補正値を算出する。その際、分割の仕方や補正大量領域設定を変えてシム補正値を算出し、最良の静磁場均一度が得られる分割の仕方を選択する。
【0033】
補正対象領域の分割の仕方は、静磁場不均一の程度に応じて変えることが好ましく、以下、この補正対象領域の分割の仕方や補正大量領域設定について、各実施例を説明する。
なお、補正対象領域は少なくとも撮像対象領域を内部に含む領域である。
【実施例1】
【0034】
次に、本発明のMRI装置及びシミング方法の実施例1を説明する。本実施例は、補正対象領域を略等間隔に分割する。以下、添付図面に基づいて本実施例を詳細に説明する。
【0035】
本実施例に係る演算処理部114の各機能は、図2の機能ブロック図に示すとおり、各次数項のシムコイルが発生する磁場分布データであるリファレンスデータが予め記憶されている記憶部115からそのリファレンスデータを取得するリファレンスデータ取得部201と、補正対象領域の実際の静磁場不均一データを取得する静磁場不均一分布取得部202、補正対象領域の分割数を設定して分割を行なう領域分割部203と、分割領域毎にシム補正値を算出するシム補正値算出部204と、複数の分割候補の中から最適な分割数を選択する最適分割選択部205と、を有している。これらの各機能は、記憶部115に予め記憶されたプログラムをCPUがメモリにロードして実行することにより実現される。
【0036】
以下、図3に示すフローチャートに基づいて、本実施例における上記各機能の詳細と処理フローとを説明する。
【0037】
ステップ301で、リファレンスデータ取得部201は、記憶部115に予め保存されている一次コイル(傾斜磁場コイル)及びシムコイル(一次以外のコイル)のリファレンスデータを読み込んで内部メモリに記憶する。リファレンスデータは、例えばMRI装置の据付時に取得したものを記憶部115に保存しておく。
【0038】
ステップ302で、静磁場不均一分布取得部202は、計測制御部111に補正対象領域の静磁場不均一分布の計測を指示し、計測制御部111は、補正対象領域の静磁場不均一分布の計測を行なう。例えば、特許文献2に記載の公知の技術を用いて静磁場不均一分布が計測される。計測された補正対象領域の静磁場不均一分布データは、内部メモリに記憶される。
【0039】
ステップ303で、領域分割部203は、補正対象領域の分割数mに2を設定する。即ち、最初は補正対象領域を略等間隔に2分割するよう分割数mを設定する。
【0040】
ステップ304で、領域分割部203は、ステップ302で計測された補正対象領域の静磁場不均一分布を略等間隔にm分割する。図4に本実施例の分割例を示す。(a)図は、補正対象空間の静磁場不均一分布の内の、X方向(左右方向)のX=0の断面であって、Z方向(静磁場方向)とY方向(上下方向)の2次元の静磁場不均一分布を示す。この静磁場不均一分布は主にZ方向に変化しているので、Z方向に領域分割することが好ましく、本実施例は(b)図に示す様にZ方向に略等間隔に分割する。(b)図は3分割する例を示す。なお、本実施例は、2分割又は4分割以上でも良い。また、Z方向以外のX方向又はY方向にも静磁場が変化する場合には、その方向にも補正対象領域を分割しても良い。
【0041】
ステップ305で、シム補正値算出部204は、ステップ304でm分割された分割領域毎に、一次コイル及びシムコイルのレファレンスデータに基づいて、シム補正値を(式2)に基づいて算出する。算出の仕方は前述したとおりである。
【0042】
ステップ306で、領域分割部203は、分割数mが最大値M以下か否か判定し、M以下(No)であればステップ307へ移行してmをインクリメント(mに1追加)してステップ304に戻る。分割数mが最大値Mより大きければ(Yes)、ステップ308に移行する。
【0043】
高次項のシムコイルを有効に活用するためにはその磁場変化を捉えることができるだけの領域サイズが必要であるため、この分割数mを大きくしすぎて1つの分割領域のサイズが小さくならないようにする。そのために、分割数mの最大値Mを、静磁場不均一分布の程度やステップ302で計測された静磁場不均一分布の空間分解能(サンプル点数)に応じて設定する必要がある。
【0044】
ステップ308で、最適分割選択部205は、ステップ305で算出したシム補正値で得られる静磁場均一度を分割数毎に評価して、最良の分割数を選択する。静磁場均一度の評価及び最良分割数の決定は次の様に行なうことができる。例えば、ステップ305で求められたシム補正値を適用した状態で補正対象領域の静磁場不均一分布を再計測し、静磁場強度の分散値が最小になる分割数を最良分割数としてよい。或いは、求めたシム補正値から理論上得られる補正磁場を、ステップ302で計測された補正対象領域に生じている静磁場不均一分布から差分することで計算して評価してもよい。つまり、
Hremain = ΔHinitial − Hcorrect・・・(式3)
が最小になる分割数を最良分割数とする。ここで、Hremainは補正後も残存する不均一磁場、ΔHinitialは補正前の静磁場不均一、Hcorrectはシム補正値による補正磁場である。
【0045】
ステップ309で、最適分割選択部205は、ステップ308で選択した分割数に対応するシム補正値を分割情報と共に計測制御部111に通知する。そして、撮像制御部206が、計測制御部111に撮像を指示する。
【0046】
ステップ310で、計測制御部111は、ステップ309で最適分割選択部205から通知された分割領域毎のシム補正値を基に撮像を開始し、撮像するスライスがどの分割領域に属するかに応じて、分割領域毎にシム補正値を変更しながら、つまり、分割領域毎に該領域に最適な静磁場不均一補正を行いながら、スライス毎のエコー信号の計測を制御する。そして、演算処理部114は、計測されたエコーデータを用いて、スライス毎の画像を再構成し、表示部に各スライス画像を表示させる。
以上が、本実施例の処理フローの説明である。
【0047】
図7に、本実施例による補正対象領域を分割して静磁場補正を行った例を示す。図の濃淡は静磁場不均一の程度を示しており、濃淡が均一であるほど静磁場均一度が高いことを示している。従来手法で求めたシム補正を用いた静磁場補正では図中矢印で示したような部分に静磁場不均一が残存しているが、本発明で求めたシム補正値を用いた場合には、改善が見られ均一な磁場分布が得られている。
【0048】
以上説明したように、本実施例のMRI装置及びシミング方法は、補正対象領域を略等間隔に分割して、分割領域毎にシム補正値を求めて、領域毎に静磁場不均一を補正しながら撮像を行うので、グローバルシミングにおいて限られた次数項のシムコイルのみでは補正困難な領域においても、良好な静磁場不均一補正を行うことが可能となる。
【実施例2】
【0049】
次に、本発明のMRI装置及びシミング方法の実施例2を説明する。本実施例は、静磁場不均一分布の変化の仕方に応じて、補正対象領域の分割を不等間隔にする。以下、添付図面に基づいて本実施例を詳細に説明する。
【0050】
本実施例は、シムコイルの限られた高次項を有効活用するために、それらの高次項のシムコイルを用いて静磁場不均一分布を十分に近似できる範囲毎に、補正対象領域を分割する。具体的には、静磁場が緩やかに変化している領域では、一つの領域サイズを大きくして粗く分割する。逆に、静磁場が急峻に変化している領域では、一つの領域サイズを小さくして細かく分割する。一方、シムコイルの高次項を有効に活用するためには、その磁場変化を捉えることができるだけの領域サイズが必要である。そこで、本実施例は、補正対象領域の分割を数ではなく、面積で指定する。その際、最小領域を事前に設定しておき、それを下回らない範囲で補正対象領域を分割し、各分割領域でシム補正値の計算を行なう。
【0051】
図4(c)に本実施例の領域分割例を示す。前述の実施例1で説明したように、(a)図に示す静磁場不均一分布は、Z方向に変化し、Z座標値が大きくなるに従い、静磁場の変化が急峻になる静磁場不均一分布となっている。そこで、Z座標値が小さい領域(左側の領域)では、領域サイズを大きくして分割し、Z座標値が大きい領域(右側の領域)では、領域サイズを小さくして分割する。(c)図の例では、領域3のサイズ<領域2のサイズ<領域1のサイズとなっている。
【0052】
次に、本実施例における演算処理部114の各機能と処理フローとを説明する。本実施例の演算処理部114の各機能は、図2に示した演算処理部114の各機能と同じであるが処理内容が異なる。以下、図5に示す本実施例の処理フローに基づいて、前述の実施例1と異なる機能及び処理ステップのみ説明し、同じ処理内容の機能と処理ステップの詳細な説明は省略する。
【0053】
ステップ301,302は、前述の図3のステップ301,302と同様なので説明を省略する。
ステップ503で、領域分割部203は、補正対象領域の一方の端に分割領域として最小領域を設定する。例えば、図4の例では、補正対象領域の内でZ方向左端に、事前に設定しておいた最小領域を設定する。
【0054】
ステップ504で、シム補正値算出部204は、分割領域に対し、一次コイル及びシムコイルのレファレンスデータに基づいて、シム補正値を(式2)に基づいて算出する。算出の仕方は前述したとおりである。
【0055】
ステップ505で、シム補正値算出部204は、ステップ504で求めたシム補正値で、分割領域における静磁場不均一分布を十分近似できるか否か判定する。そのためには、(式3)を用いて、補正後も残存する磁場Hremainを求め、このHremainが所定の閾値以下となるか否かを判定する。閾値以上の場合(No)はステップ507に移行し、閾値より小さい場合(Yes)はステップ506へ移行する。
【0056】
ステップ506で、領域分割部203は、分割領域を拡張する。例えば、最小領域の1/10〜1/2単位で、分割領域を拡張していく。そして、ステップ504に移行し、拡張した分割領域に対して、シム補正値を算出する。以下、Hremainが所定の閾値より大きくなるまでステップ504〜506を繰り返す。これにより、MRI装置が備える次数項のシムコイルで精度良く補正可能な分割領域をなるべく広く設定する。
【0057】
ステップ507で、領域分割部203は、補正対象領域の中で未分割領域が残っているか否か判定する。未分割領域が残っている場合(Yes)はステップ508に移行し、残っていない場合(No)はステップ509に移行する。
【0058】
ステップ508で、領域分割部203は、それまで領域拡張された分割領域を一区切りの分割領域として設定する。そして、次の分割領域を設定するために、領域分割部203は、補正対象領域の中で、この分割領域に連続して隣接する未分割領域中に、最小領域を設定する。そして、ステップ504に移行し、設定した新たな分割領域に対して、シム補正値を算出する。
【0059】
ステップ509で、補正対象領域の中に未分割領域が残っていなければ、領域分割部203は、これまでに設定した各分割領域とそれらのシム補正値を確定する。そして、最適分割選択部205は、確定されたシム補正値を分割情報と共に計測制御部111に通知する。
ステップ309は、前述の図3のステップ309と同様なので説明を省略する。
以上が、本実施例の処理フローの説明である。
【0060】
以上説明したように、本実施例のMRI装置及びシミング方法は、補正対象領域を静磁場不均一分布の変化の仕方に応じて、高次項のシムコイルで各分割領域を最適に補正できるように、補正対象領域を不等間隔に分割する。その結果、グローバルシミングでは補正困難な領域においても、良好なシミングを行うことが可能となることに加えて、補正対象領域の分割をMRI装置が有するシムコイルの次数に応じて最適に分割できるので、分割数を減らしてシム補正値の切り替え回数を低減できると共に、各分割領域の画質を向上させることができる。
【実施例3】
【0061】
次に、本発明のMRI装置及びシミング方法の実施例3を説明する。本実施例は、補正対象領域を3次元の局所領域とする。以下、図6に基づいて本実施例を詳細に説明する。
【0062】
撮像領域が限定される場合は、この撮像領域を含む3次元の局所領域を補正対象領域とすることで、精度の高い静磁場不均一補正を行うことができる。例えば、図6に示す様に、Axial断面で行う乳房撮像の場合には、左右の乳房601,602以外の体躯部603も撮像FOV内に含まれるが、関心領域となるのは乳房領域601,602のみであり、乳房領域601,602の静磁場不均一が高精度に補正できればよい。しかし、静磁場不均一分布の測定をAxial断面にて2次元的に行うと、計測結果に体躯部603の静磁場不均一情報が含まれるために無駄に補正対象領域を広げてしまい、領域の分割や、補正結果に影響を与えてしまう。そこで、計測領域及び補正対象領域を乳房領域601,602に限定して、これらの領域の励起を3次元的に限定して行うことで、余分な領域拡大を防ぐことが出来る。その結果、乳房領域601,602の静磁場不均一を高精度に補正することが可能になり、画質を向上させることが可能になる。
【0063】
以下、本実施例に係る3次元局所領域の撮像として、乳房を撮像する場合を例にして、本実施例を説明する。
【0064】
一般的に、乳房を撮像する場合は、被検者は、乳房が重力で下方に伸びてその3次元的領域が広がるように、静磁場空間内にうつぶせに配置される。この様な状態で、左右の乳房領域を含む領域604を補正対象領域とするか、或いは、それぞれの乳房領域601,602を独立に且つ3次元的に限定して補正対象領域として、3次元撮像又は2次元マルチスライス撮像を行なう。体躯部603を撮像領域から除外するので体躯部603を励起することなく補正対象領域としない。そして、左右の乳房領域601,602を含む領域604、或いは、乳房領域601,602毎に独立して、静磁場不均一分布の計測と、その静磁場不均一分布の仕方に応じた領域分割、及び、分割領域毎のシム補正値の算出を行い、算出されたシム補正値を用いて、左右の乳房領域601,602を含む領域604、或いは、乳房領域601,602毎に独立して撮像を行なう。
【0065】
3次元の局所領域についての静磁場不均一分布計測及び撮像は例えば、特許文献3に記載の方法を用いることができる。或いは、不要領域にプリサチュレーションパルスを印加して、不要領域を本計測前に飽和させておくことが可能である。ここでの詳細な説明は省略する。
【0066】
本実施例の演算処理部114の各機能及び各機能の処理フローは、左右の乳房領域601,602を含む領域604に対して、或いは、乳房領域601,602毎に独立して、前述の実施例1又は実施例2と同様の処理が行われることになるので、詳細な説明は省略する。
【0067】
以上説明したように、本実施例のMRI装置及びシミング方法は、補正対象領域を3次元の局所領域として、その局所領域を領域分割して分割領域毎にシム補正値を求めて静磁場不均一補正を行う。その結果、3次元の局所領域に限定して高精度に静磁場不均一補正を行うことが可能になり、3次元局所領域の画質を向上させることが可能になる。
【0068】
以上までが、本発明のMRI装置及びシミング方法の各実施例の説明である。しかし、本発明は、以上の各実施形態で開示された内容にとどまらず、本発明の趣旨を踏まえた上で各種形態を取り得る。
【0069】
補正対象領域の分割上限値M、或いは、分割の最小領域は磁石の静磁場特性に左右される。したがって、静磁場分布の性質が異なる磁石では、異なる定義を行なう。また、磁石によっては、例えば、静磁場に直交座標を定義した場合に、方向依存して静磁場の分布特性が異なることも考えられる。その場合には、分割を行う方向によって、分割上限値M、または分割の最小領域の定義を変える。
【0070】
また、採用したシム補正値を求めるために要した分割数は、そのまま本撮像時のシム補正値切り替え回数になる。分割数が多くなると撮像中にシムコイルから生じる補正磁場の立ち上がり下がりが生じる回数が増えるため、補正磁場の立ち上がり下がりに要する時間や、補正磁場の立ち上がり下がり時に生じる渦電流の影響が無視できなくなる可能性がある。その場合には、MRI装置の性能に応じて、1回の撮像中に許容できる分割数を予め評価しておく。
【符号の説明】
【0071】
101 被検体、102 静磁場発生磁石、103 傾斜磁場コイル、104 送信RFコイル、105 受信RFコイル、106 信号検出部106、107 信号処理部、108 全体制御部、109 傾斜磁場電源、110 RF送信部、111 計測制御部、112 ベッド、113 表示・操作部、114 演算処理部、115 記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静磁場を発生する静磁場発生部と、
前記静磁場の静磁場不均一分布を補正するための補正磁場を発生するシムコイルと、
被検体の撮像領域を含む補正対象領域の静磁場不均一分布を取得する静磁場不均一分布取得部と、
前記補正対象領域の静磁場不均一分布を補正するために前記シムコイルに補正磁場を発生させるためのシム補正値を求めるシム補正値算出部と、
前記シム補正値を用いて前記補正対象領域の静磁場不均一分布の補正を制御して、前記被検体からのエコー信号の計測を制御する計測制御部と、
を備えた磁気共鳴イメージング装置であって、
前記補正対象領域を複数の分割領域に分割する領域分割部を備え、
前記シム補正値算出部は、前記分割領域毎に前記シム補正値を算出し、
前記計測制御部は、前記分割領域毎のシム補正値を用いて、前記補正対象領域の静磁場不均一分布の補正を制御することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記計測制御部は、前記分割領域毎に前記シム補正値を切り替えて前記エコー信号の計測を制御することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記領域分割部は、前記補正対象領域の領域分割を略等間隔で行なうことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
請求項1又は2記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記領域分割部は、前記補正対象領域の領域分割を不等間隔で行なうことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記静磁場不均一分布取得部と前記計測制御部は、前記補正対象領域として3次元の局所領域とすることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか一項に記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記領域分割部は、前記補正対象領域をスライス方向に領域分割することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
静磁場発生部が発生する静磁場の内で補正対象領域の静磁場不均一分布を補正するための補正磁場を発生するシムコイルを備えた磁気共鳴イメージング装置における該静磁場不均一分布を補正するシミング方法であって、
前記補正対象領域を複数の分割領域に分割するステップと、
前記分割領域毎に、前記シムコイルに補正磁場を発生させるためのシム補正値を算出するステップと、
前記分割領域毎のシム補正値を用いて、前記補正対象領域の静磁場不均一分布の補正するステップと、
を有して成ることを特徴とするシミング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−229632(P2011−229632A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−101565(P2010−101565)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】