説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】 脂肪抑制パルス併用ダイナミック撮影において、経時的に変動する静磁場の不均一による画質劣化を低減し、安定に脂肪抑制する。
【解決手段】 ダイナミック撮影において、静磁場の不均一を測定するブロックと周波数選択的な脂肪抑制を行うブロックと本撮像を行うブロックで構成されたパルスシーケンスを制御する手段とを有し、前記静磁場の不均一を測定するブロックは本撮像を行うスライス方向の軸において、特定の時間間隔で2つのエコー信号を計測し前記2つのエコー信号の位相マップから得られたスライス方向の静磁場分布に基づいて、前記周波数選択的な脂肪抑制を行うブロックにおいて、脂肪抑制パルスの中心周波数を少なくとも1つのスライスに対して最適値にして励起する。
本発明は以上のように構成されたので、脂肪抑制パルス併用ダイナミック撮像において、経時的に変動する静磁場の不均一による画質劣化を低減し、安定に脂肪抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体中の水素や燐等からの核磁気共鳴(以下、「NMR」という)信号を測定し、核の密度分布や緩和時間分布等を映像化する核磁気共鳴イメージング(以下、「MRI」という)装置に関し、特にダイナミック撮影において、経時的な静磁場変動に伴う画質劣化を低減し、効果的に脂肪からのエコー信号を抑制する(以下、簡単に「脂肪抑制」という)ことに関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置は、NMR現象を利用して被検体中の所望の検査部位における原子核スピン(以下、単に「スピン」という)の密度分布、緩和時間分布等を計測して、その計測データから被検体の任意の断面を画像表示するものである。このMRI装置を用いた脳のダイナミック血流評価法として、MR Perfusion Weighted Imaging(以下、「PWI」という)があり、このPWIにおいて更に造影剤を使用する方法と造影剤を使用しない方法がある。
【0003】
特に、造影剤を使用する方法は、造影剤のサセプタビリティーによるT2*値、T2値の短縮効果を利用したものである。撮像パルスシーケンスとしては、T2*、T2値に感受性が高く、造影剤のファーストパス時の血流情報が得られる高速撮像が要求されるため、一般にエコープラナーイメージング(以下、「EPI」という)が用いられる。一般的な撮像方法は、撮像部位にスライス設定を行った後、静脈から造影剤を急速注入すると同時に、1〜2secの時間間隔でEPIによるダイナミック撮影を約60〜90sec間行い、注入された造影剤をトレーサとした血流の循環を観察するものである。この造影剤を使用する方法については、[非特許文献1]に詳しく記載されている。
【0004】
また、このようなEPIによるダイナミック撮影では、さらに脂肪抑制する目的で、公知技術である周波数選択的な脂肪抑制パルスが併用される。この脂肪抑制パルスの一例としてCHESS(Chemical shift Selective Suppression)パルスがある。CHESSパルスについては、例えば[特許文献1]に詳述されている。
【0005】
このように頭部PWI計測においては、一般的にEPI系のパルスシーケンスが用いられ、脂肪抑制としてCHESSパルスが併用されるが、EPIパルスシーケンス及びCHESSパルスは高い静磁場均一度が必要である。特に、ダイナミック撮像においては、撮像パルスシーケンス自体による渦電流や熱、被検体の体動による経時的な動きにより、計測前に補正された静磁場均一度が低下する場合があり、経時的に画像位置がシフトしたり、CHESSパルスによる周波数選択ずれで画像の一部が欠損してしまう等の問題がある。
【0006】
そのため、頭部PWI計測においては、静的な状態で静磁場の均一度を向上させることと、計測時のように動的に静磁場が変動する状態で静磁場の均一度を向上させることが高画質を得るために必須となる。まず、静的な状態で静磁場の均一度を向上させる方法の一つとしてアクティブシミングがある。これは、MRIに被検体が入ったことによって生じる静磁場不均一を計測して、その静磁場不均一を補正して均一度を向上させるように磁石内に配置されたシムコイルに流す電流を制御するものである。特に、一次の静磁場不均一成分に関しては、シムコイルを用いずに、3方向(x,y,z)の傾斜磁場にそれぞれオフセット量を重畳する形で傾斜磁場を印加しても補正可能であり、一般に前計測などで行われている(GCキャリブレーションスキャン)。実際のアクティブシミングでは、被検体をMRI装置に入れた後、本撮像を始める前や静磁場均一度を要求する計測(例えば、EPIや脂肪抑制併用撮像など)の前に行われる。
【0007】
このように、被検体がMRI装置に入ったことで生じる静磁場の乱れによる静磁場不均一は設置された傾斜磁場コイルやシムコイルのパターン(1次項,2次項,3次項など)の範囲内で補正可能である。
また、マルチスライス撮像のように異なる部位を順次撮像する場合、静磁場のシミングを各撮像部位毎、つまりスライス毎に最適に行うことが有効である。撮像断面に応じて静磁場補正を逐次変更する方法として、ダイナミックシミング法が提案されている。このダイナミックシミング法は、マルチスライス撮像でスライス毎にその位置の静磁場不均一に対応してシミングの設定を制御することにより、スライス毎に適したシミングを動的に行う方法であり、[非特許文献2]に詳細に記載されている。
【0008】
以上のアクティブシミング法、ダイナミックシミング法は、全て本撮影前に取得したアクティブシミングのデータを用いた補正技術となる。
【特許文献1】特開昭60−168041号公報
【非特許文献1】Brace R. Rosen et al: Perfusion Imaging with NMR Contrast Agents. Mang Reson Med 1990; 14: 249-265
【非特許文献2】G.Morrell el al: Dynamic Shimming for Multi-Slice magnetic Resonance Imaging, MRM 38.477-483 (1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記アクティブシミング法やダイナミックシミング法では、本撮影前に取得したアクティブシミングのデータを用いて静磁場補正を行うため、経時的に変動する静磁場の乱れについては考慮されない。そのため、この様な方法だけでは経時変化を観察するダイナミック撮影において、経時的に静磁場均一度が低下し、画質劣化する場合があった。
【0010】
また、脂肪抑制するためにCHESSパルスを撮影パルスシーケンスの中で併用すると、特にマルチスライス撮像においては、通常、各スライスの繰り返し時間(TR)毎にCHESSパルスが印加されるため、TRが同じであれば、CHESSパルスの有無で撮像可能なスライス数は制約されてしまう。
そのため、撮影中の動的な静磁場変動に対して、簡単に静磁場不均一分布を計測でき、それに基づいて、安定に且つ効果的に脂肪抑制する技術が必要とされていた。また、上述したようにCHESSパルス併用により同一繰り返し時間(TR)での撮像可能なスライス数の制約を低減することも必要であった。
【0011】
そこで本発明の第1の目的は、マルチスライス撮影において、動的な静磁場変動に対して安定して脂肪抑制すること、特にダイナミック撮像においてこれを実現することである。
また、第2の目的は、マルチスライス撮影において、脂肪抑制パルス併用において、同一繰り返し時間(TR)での撮像可能なスライス数の制約を低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明のMRI装置は、以下のように構成される。即ち、
静磁場空間に配置された被検体の複数のスライスをそれぞれ撮影するための撮影シーケンスを制御する計測制御手段と、前記撮影シーケンスに基づいて取得されたエコー信号を用いて前記被検体の画像を再構成する信号処理手段を備え、前記撮影シーケンスは、前記被検体の脂肪組織からのエコー信号を抑制するための脂肪抑制パルスを有する磁気共鳴イメージング装置において、前記撮影シーケンスは、前記静磁場空間の静磁場不均一分布を求めるためのエコー信号を取得し、前記信号処理手段は、前記静磁場不均一分布を求めるためのエコー信号から静磁場不均一分布を求め、前記計測制御手段は、前記脂肪抑制パルスが印加されるスライスにおける前記静磁場不均一に対応して、該脂肪抑制パルスの中心周波数を設定する。
【0013】
これにより、適宜静磁場不均一分布を計測して求めながら、その求められた静磁場不均一分布に基づいて脂肪抑制をおこなうことができる。その結果、前記第1の目的を達成することができる。
【0014】
本発明の好ましい一実施態様は、前記撮影シーケンスは、前記静磁場空間の静磁場不均一分布を求めるためのエコー信号を取得する第1ブロックと、前記複数のスライスの内の少なくとも一つのスライスに亘って前記脂肪抑制パルスを印加する第2ブロックと、前記複数のスライスの内の少なくとも一つのスライスからそれぞれ画像用のエコー信号を取得する第3ブロックを有して成る。
これにより、撮影シーケンスにおいて各ブロックを独立に追加又は削除する制御が可能になる。その結果、静磁場不均一分布及びその経時的変動に対応して、第1ブロックと第2ブロックの実行回数を制御することが可能になる。これは、上記第2の目的を達成するために有用な構成となる。
【0015】
また、本発明の好ましい一実施態様は、前記計測制御手段は、前記第1ブロックと前記第2ブロックを、それぞれ前記複数のスライスの数より少ない回数だけ実行する。
これにより、静磁場不均一分布の計測回数及び脂肪抑制パルスの印加回数を低減することができる。その結果、前記第2の目的を達成することができる。
【0016】
また、本発明の好ましい一実施態様は、前記被検体を載置して前記静磁場空間内で移動させる手段を備え、前記被検体を複数の領域に分割して、それぞれの領域を撮影する場合に、前記計測制御手段は、前記領域毎に、前記撮影シーケンスによる撮影と、その撮影の後に次の領域が前記静磁場空間の略中心に来るように前記移動手段を制御する。
これにより、複数の領域に分割して撮影するマルチステーション撮影においても、上記効果を発揮することができ、その結果、各ステーション毎の撮影時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は以上のように構成されたので、脂肪抑制パルス併用ダイナミック撮像において、経時的に変動する静磁場の不均一による画質劣化を低減し、安定して脂肪抑制することができる。また、脂肪抑制パルス併用において、同一繰り返し時間(TR)での撮像可能なスライス数の制約を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。なお、発明の実施形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0019】
最初に、本発明が適用されるMRI装置の全体概要を図1に基づいて説明する。図1はMRI装置の全体構成を示すブロック図である。このMRI装置は、NMR現象を利用して被検体の断層像を得るもので、図3に示すように、静磁場発生磁石2と、傾斜磁場発生系3と、シーケンサ4と、送信系5と、受信系6と、信号処理系7と、中央処理装置(CPU)8とを備えて成る。
【0020】
静磁場発生磁石2は、被検体1の周りにその体軸方向または体軸と直交する方向に均一な静磁場を発生させるもので、被検体1の周りのある広がりをもった空間に永久磁石方式または常電導方式あるいは超電導方式の磁場発生手段が配置されている。
磁場勾配発生系3は、X,Y,Zの三軸方向に巻かれた傾斜磁場コイル9と、それぞれの傾斜磁場コイルを駆動する傾斜磁場電源10とから成り、後述のシ−ケンサ7からの命令に従ってそれぞれのコイルの傾斜磁場電源10を駆動することにより、X,Y,Zの三軸方向のスライス傾斜磁場Gs、位相エンコード傾斜磁場Gp、y読み出し傾斜磁場Grを被検体1に印加するようになっている。この傾斜磁場の加え方により被検体1に対するスライス面を設定することができる。
【0021】
シーケンサ4は、被検体1の生体組織を構成する原子のスピンに核磁気共鳴を誘起するための高周波磁場パルス(以下、「RFパルス」という)をある所定のパルスシーケンスで繰り返し印加するもので、CPU8の制御で動作し、被検体1の断層像のデータ収集に必要な種々の命令を、送信系5及び傾斜磁場発生系3並びに受信系6に送るようになっている。
【0022】
送信系5は、被検体1の生体組織を構成する原子のスピンに核磁気共鳴を誘起させるためにRFパルスを照射するもので、高周波発振器11と変調器12と高周波増幅器13と送信側の高周波コイル(送信コイル)14aとから成る。高周波発振器11から出力された高周波パルスをシーケンサ4からの指令によるタイミングで変調器12により振幅変調し、この振幅変調された高周波パルスを高周波増幅器13で増幅した後に被検体1に近接して配置された高周波コイル14aに供給することにより、電磁波が被検体1に照射される。
【0023】
受信系6は、被検体1の生体組織を構成する原子核スピンの核磁気共鳴により放出されるエコー信号(NMR信号)を検出するもので、受信側の高周波コイル(受信コイル) 14bと信号増幅器15と直交位相検波器16と、A/D変換器17とから成る。送信側の高周波コイル14aから照射された電磁波によって誘起された被検体1の応答のNMR信号が被検体1に近接して配置された高周波コイル14bで検出され、信号増幅器15で増幅された後、シーケンサ4からの指令によるタイミングで直交位相検波器16により直交する二系統の信号に分割され、それぞれがA/D変換器17でディジタル量に変換されて、信号処理系7に送られる。
【0024】
信号処理系7は、CPU8と、磁気ディスク18及び磁気テープ19等の記録装置と、CRT等のディスプレイ20とから成り、上記CPU8でフーリエ変換、補正係数計算、画像再構成等の処理を行い、任意断面の信号強度分布あるいは複数の信号に適当な演算を行って得られた分布を画像化してディスプレイ20に断層像として表示するようになっている。
尚、被検体1は、寝台30上の天板31に載置されて、静磁場空間内に挿入される。寝台30内には図示せぬ天板駆動装置が内蔵されており、天板駆動装置は、CPU8からの制御の下に天板を移動を制御する。
また、図1において、送信側及び受信側の高周波コイル14a,14bと傾斜磁場コイル9は、被検体1の周りの空間に配置された静磁場発生磁石2の磁場空間内に設置されている。
【0025】
(第1の実施形態)
次に、本発明の第1の実施形態を説明する。本実施形態は、マルチスライス撮影において、適宜スライス方向の静磁場不均一分布を求め、この静磁場不均一分布に基づいて、なるべく多くのスライスにおいて効果的に一括して脂肪抑制できるように脂肪抑制パルスの中心周波数を制御することにより、スライス毎且つ繰り返し時間(TR)毎に脂肪抑制パルスを印加することなく、脂肪抑制パルスの印加回数を低減するものである。
【0026】
本実施形態の一実施例を図2に基づいて説明する。図2は、脂肪抑制パルスとしてCHESSパルスを使用し、本撮影パルスシーケンスとしてダイナミックEPIを使用した例であり、大きく3つのブロックで構成される。第1ブロック201は、静磁場不均一を測定するブロックである。第2ブロック202は、脂肪抑制するための脂肪抑制パルスであるCHESSパルスを印加するブロックである。第3ブロック203は、本撮像を行うブロックで、シングルショットのグラディエントエコー信号EPI(GE−EPI)を使用した例である。ただし、本発明は、脂肪抑制パルスとしてCHESSパルスに限定されることはなく、脂肪抑制を目的とした周波数選択的なRFパルスであればよい。また、本撮影パルスシーケンスとしてシングルショットGE−EPIに限定されることはない。尚、本発明以前の従来技術では、第1ブロック301が無く、繰り返し時間(TR)毎にCHESSパルスを印加する構成となる。以下、各ブロックについて図2に基づいて詳細に説明する。
【0027】
最初に第1ブロック201を説明する。第1ブロック201おいて、第3ブロック203で行う本撮像におけるスライス方向の軸に関して、1次元静磁場不均一分布を計測する。そのために、図4に示すステップからなる処理を行う。
【0028】
ステップ401:所定の時間間隔206を空けて2つのエコー信号(図2では、第2エコー信号204と第4エコー信号205)を計測する。計測された2つのエコー信号のデータは、例えば磁気ディスク18に一時記憶される。
【0029】
ここで、図2に示す第1ブロック201では、スライス方向に読み出し傾斜磁場の極性を反転させて2つのエコー信号204, 205を取得しているが、これはGMN法に基づいて主に血流部分の横磁化の流れによる一次位相歪みをキャンセルするためである。即ち、第2エコー信号204のエコー信号中心において、それまでの傾斜磁場210, 211−1, 211−2, 212−1の印加量が1:−1:−1:1になるように、つまり210と211−1及び211−2と212−1のペアがそれぞれ双極性であって且つ互いに時間的に逆向きとなる傾斜磁場波形を印加して第2エコー信号204を取得する。次に、第4エコー信号205のエコー信号中心において、第2エコー信号204のエコー信号中心から第4エコー信号205のエコー信号中心までの傾斜磁場212−2, 213−1, 213−2, 214−1の印加量が1:−1:−1:1になるように、つまり212−2と213−1及び213−2と214−1のペアがそれぞれ双極性であって且つ互いに逆向きとなる傾斜磁場波形を印加して第4エコー信号205を取得する。以上の様にして傾斜磁場を印加するとエコー信号中心において一次位相歪みをキャンセルすることができる。
【0030】
このGMN法の詳細は、例えば[非特許文献3]に記載されている。尚、本発明において、静磁場不均一分布を求めるためのエコー信号を取得する際に、このGMN法を適用することは必須ではなく、GMN法を適用せずにエコー信号を取得しても良い。
【0031】
ステップ402:ステップ401で取得された2つのエコー信号のそれぞれを一次元のフーリエ変換する。具体的には、ステップ1で計測された2つのエコー信号データを磁気ディスク18から読み出してCPU8内のメモリー(図1では図示を省略)にロードし、CPU8で一次元フーリエ変換を行う。これにより、スライス方向の一次元プロジェクションデータがそれぞれのエコー信号から求められる。
【0032】
ステップ403:ステップ402で求めた2つの一次元プロジェクションデータのそれぞれから一次元位相分布を求め、2つの一次元位相分布の位相差分を求める。この位相差分は、時間間隔306(Δt)間におけるスライス方向の横磁化の位相回転量を表す。これら位相分布及び位相差分の計算は例えばCPU8内で行われる。
【0033】
ステップ404:ステップ403で求められた位相差分を2つのエコー信号間の時間間隔206(Δt)で割ると、その時間間隔206での横磁化の角速度、即ち周波数シフト量が求められる。この周波数シフトは静磁場不均一が原因となって生じる設定中心周波数からのずれであり、周波数シフト量から逆算することにより間接的に静磁場の不均一値(歪み量)を求めることができる。即ち、本撮像におけるスライス方向の1次元静磁場不均一分布(単位は周波数)、つまり、スライス位置毎の静磁場不均一が取得される。このスライス方向の1次元静磁場不均一分布を求める計算は例えばCPU8内で行われる。
【非特許文献3】Hinks RS, et al, Gradient Moment Nulling in Fast Spin Echo, MRM 32: 698-706 (1994)
【0034】
次に、第2ブロック202について説明する。第2ブロック202において、上記の様にして第1ブロック201で取得されたスライス方向の1次元静磁場不均一分布に基づいて、所望のスライス位置の静磁場不均一値に対応して、そのスライスに印加されるCHESSパルスの中心周波数を変更する。さらに、CHESSパルスの併用による撮影時間の延長や同一繰り返し時間(TR)での撮像可能なスライス枚数の制約を低減するために、本発明はCHESSパルスの印加回数を低減する。
【0035】
そのために、複数のスライスに対して一括して脂肪抑制できるようにCHESSパルスの中心周波数を設定し、このようなCHESSパルスをそれら複数のスライスの内で最初のスライス撮影パルスシーケンスにおいてのみ印加して上記複数のスライスを一括して脂肪抑制し、以降の上記複数のスライスの内の他のスライスを撮影するパルスシーケンスにおいてはCHESSパルスを印加しない。つまり、この第2ブロックの殆どは間引かれて実行されない。
【0036】
上記CHESSパルスの中心周波数の設定の仕方を図3に基づいて詳細に説明する。図3は、縦軸をスライス方向、横軸を静磁場強度とする座標上に、各スライス位置における水分子中の水素原子核(プロトン)のスピンが感じる静磁場分布(つまり共鳴周波数分布)を細線のスペクトル301として、脂肪分子中の水素原子核(プロトン)のスピンが感じる静磁場分布を太線のスペクトル302として示したものである。尚、プロトンの共鳴周波数は水分子中と脂肪分子中で一般に3.5ppmの周波数差を有しており、水分子は脂肪分子より3.5ppm高い。そのため、CHESSパルスの中心周波数303を、以下に説明する第3ブロックにおける本撮影の際に印加されるRFパルスの中心周波数よりも3.5ppmだけ低くする。さらに、CHESSパルスが水分子からのエコー信号を抑制しないようにするために、CHESSパルスの印加時間を調整してCHESSパルスの周波数帯域幅304の半値幅を3.5ppm以下にする。
【0037】
図3(a)は静磁場不均一の無い理想的な場合における一般的な脂肪抑制の場合を示し、図3(b)は静磁場不均一がある場合における脂肪抑制の問題点を示し、図3(c)は静磁場不均一の有る場合における本発明の脂肪抑制方法を示す。
【0038】
図3(a)のように、静磁場不均一の無い理想的な場合では、スライス方向の静磁場分布が均一であるためCHESSパルスの中心周波数を、水分子の中心周波数から3.5ppmだけ周波数オフセットされた値に設定し、周波数帯域の半値幅を3.5ppm以下にして印加することで、全スライスにわたって脂肪抑制が可能となる。
【0039】
しかし、図3(b)に示す様に静磁場不均一がある場合では、スライス方向の位置によって静磁場B0の強度が異なり、スライス位置に応じてB0オフセット305が生じる。このB0オフセット305は計測中においても経時的に変動する。このような系において、図3(a)で説明した様に静磁場不均一の無い理想的な場合を想定した脂肪抑制方法では、スライス#3については脂肪抑制されるものの、スライス#1,#2,#4,#5については脂肪抑制されず、逆に水分子からのエコー信号が抑制される。その結果、水分子が主要となる領域が画像から欠損してしまう。
【0040】
これに対して、本発明では、スライス毎の静磁場不均一によるB0オフセット305に対応してCHESSパルスの中心周波数303を変更する。つまり、本処理では、図3(c)に示すように、各スライス位置の静磁場不均一によるB0オフセット305に3.5ppmに相当する周波数分シフトした位置にある脂肪の共鳴周波数が、スライスにわたる最大静磁場不均一値δB01より大きくなる位置にあるスライス(この場合、スライス#1,#2,#4,#5)については、最大静磁場不均一値δB01から3.5ppmに相当する周波数をシフトさせた周波数値をCHESSパルスの中心周波数303として設定し、CHESSパルスの周波数帯域幅304の半値幅が、3.5ppm未満となるようにCHESSパルスの印加時間を調整して、そのCHESSパルスを印加する。これにより、上記条件を満たすスライス(この場合、スライス#1,#2,#4,#5)については一回のCHESSパルス印加で一括して脂肪抑制することができる。
【0041】
一方、上記条件に入らない位置にあるスライス(この場合、スライス#3)のグループについては、そのグループ内で同様の処理を行い、可能な範囲でCHESSパルスの印加回数を低減するようにCHESSパルスの中心周波数303を制御する。
【0042】
以上により、CHESSパルスをスライス毎に印加する必要が無くなるので、CHESSパルス併用による同一繰り返し時間(TR)における撮像可能なスライス数の制約を低減することができる。
最後に、第3ブロック203を説明する。第3ブロック203では、本撮像のパルスシーケンスを行う。図2では、一般的なPWI撮像にも使用されるシングルショットGE−EPIパルスシーケンスを用いているので、これを説明する。
【0043】
まず被検体にRFパルス221を照射すると同時にスライスを選択する傾斜磁場パルス222を印加し、画像化するスライスを選択する。次いで位相エンコードのオフセットを与える傾斜磁場パルス223と読み出し傾斜磁場のオフセットを与える傾斜磁場パルス224を印加し、位相エンコード傾斜磁場パルス225を離散的に印加しながら反転する読み出し傾斜磁場226の各周期内で各位相エンコードのエコー信号228をサンプリング227する。1枚の画像再構成に必要なエコー信号は、時間間隔229で全て取得される。ダイナミック撮影では、このようなパルスシーケンスを複数回(N回)繰り返し、N枚の時系列画像を得る。
【0044】
なお、シングルショットでなく、マルチショットGE−EPIの場合は、基本的には各ショット毎に上記第1〜3ブロックを実行するが、静磁場の経時的変動の周期に対応して、第1ブロックにおける静磁場不均一分布の計測を省略することができる。つまり、静磁場の変動周期が長ければ長いほど、第1ブロックの実行回数を省略することができる。
【0045】
また、本ブロックで印加する撮影用RFパルス(図2ではRFパルス221)の中心周波数も、静磁場不均一に対応してシフトしても良い。例えば図2においては、静磁場不均一があるためにスライス#1,#2,#4,#5における平均的静磁場強度とスライス#3における静磁場強度が異なる。そこで、静磁場強度の差に対応して、スライス#1,#2,#4,#5を撮影する際のRFパルスの中心周波数をスライス#3を撮影する際のRFパルスの中心周波数よりも高くすることができる。あるいは、スライス毎の静磁場不均一に対応して、スライス毎に撮影用RFパルスの中心周波数を変更してもよい。
【0046】
以上の第1から第3ブロックをダイナミック撮影回数分繰り返すが、上記の通り、第1及び第2ブロックは可能な限り省略してスキップする。そのスキップする回数が多い程、撮影時間の短縮又は同じ繰り返し時間(TR)内でスライス枚数を増加することが可能になる。
【0047】
最後に、上述した本発明のパルスシーケンスで行う臨床撮像方法を説明する。まず、被検体を静磁場磁石内の計測空間に配置し、ダイナミック評価する部位(主に頭部)にスライス位置を必要スライス数分設定する。スライス設定後、造影剤の注入開始と同時に約1sec間隔で60〜90sec間の連続撮像を行う。また、この際、頭部の脂肪を抑制するためにCHESSパルスが併用される。パルスシーケンスとしては図2で記載した3つのブロックで構成されるパルスシーケンスを用いる。図2では本撮像用パルスシーケンスとしてGE−EPIを示したが、GE−EPIでもスピンエコータイプのEPI(以下、SE−EPI)でもよい。尚、GE−EPIの場合は、励起されたスピンはほぼT2*に基づいて減衰するため、比較的少ない造影剤量と短TEで十分なサセプタビリティーによる信号減衰効果が得られる。一方、SE-EPIでは、励起されたスピンはほぼT2に基づいて減衰するため、サセプタビリティーによる減衰効果を得るためには適度に大きいTE(>100ms)を設定する必要がある。計測終了後、取得されたダイナミック画像データから解析ソフトを用いて血流量マップ、血流速マップ、平均通過時間マップ(非特許文献4)を作成し、撮像部位における血流評価が行われる。
【0048】
本発明により効果的な脂肪抑制と画像欠損等の画質劣化が低減されるため、上記血流評価においても、安定で定量的な解析マップの取得が可能となる。
【非特許文献4】Brace R. Rosen et al: Perfusion Imaging with NMR Contrast Agents. Mang Reson Med 1990; 14: 249-265
【0049】
以上に説明したように、本発明の第1の実施形態によれば、マルチスライス撮影において、たとえ静磁場不均一が動的に変動したとしても、適宜静磁場不均一を求めて、その静磁場不均一に対応して、なるべく多くのスライスを一括して脂肪抑制できるように脂肪抑制パルスの中心周波数を制御して印加することができる。その結果、静磁場不均一に依らずに複数のスライスを効果的に一括して脂肪抑制できると共に、脂肪抑制パルスをスライス毎且つ繰り返し時間(TR)毎に印加する必要がなくなって、脂肪抑制パルスの印加回数を低減できるため、繰り返し時間(TR)内で撮影できるスライス枚数を増加させることができる。
【0050】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態を説明する。本実施形態は、被検体を移動させながら広範囲の領域を撮影する場合に、適宜静磁場不均一分布を求め、この静磁場不均一分布に基づいて、効果的に一括して脂肪抑制できるように脂肪抑制パルスの中心周波数を制御するものである。静磁場空間に配置される被検体の撮影部位によって静磁場の均一度が影響を受けるので、被検体の移動に連動して静磁場不均一分布も変動する。そこで、被検体を静磁場空間内で移動し、撮影部位が変わる毎に静磁場不均一分布を求めて脂肪抑制パルスの中心周波数を制御する。
【0051】
本実施形態の一実施例を図5に基づいて説明する。図5は、被検体を広範囲に撮影する方法の一つとして、被検体を幾つかの領域に分割して、その領域毎に撮影と被検体の移動を繰り返すマルチステーション撮影の場合を示す。図5は、被検体1の4つの領域(ステーション)のそれぞれに受信コイル501〜504を配置して、それぞれのステーションの撮影と天板移動とを繰り返す。つまり、最初に受信コイル501の領域を静磁場中心に来るように天板31を移動する。そして受信コイル501の領域を撮影する。撮影後に再度受信コイル502の領域が静磁場中心に来るように天板31を移動し、その受信コイル502の領域を撮影する。以下同様にして受信コイル領域504まで繰り返す。
【0052】
上記の様なマルチステーション撮影において、各ステーションの撮影の際に、第1の実施形態と同様の撮影を行う。つまり、ステーション毎に、マルチスライス撮影において、適宜スライス方向の静磁場不均一分布を求め、この静磁場不均一分布に基づいて、なるべく多くのスライスにおいて効果的に一括して脂肪抑制できるように脂肪抑制パルスの中心周波数を制御する。詳細は第1の実施形態と同様なので、その説明は省略する。
【0053】
以上に説明したように、本発明の第2の実施形態によれば、、ステーション毎に、被検体の撮影部位が変わることによる静磁場不均一が変動しても、適宜静磁場不均一を求めて、その静磁場不均一に対応して、なるべく多くのスライスを一括して脂肪抑制できるように脂肪抑制パルスの中心周波数を制御して印加することができる。その結果、第1の実施形態で説明した効果に加えて、その効果によってステーション毎の撮影時間を短縮することができる。
【0054】
以上、本発明の第1及び第2の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、連続的に被検体を移動させつつ撮影を行うホールボディーイメージングに対して本発明を適用することができる。つまり、被検体の移動と共に上記第1〜第3ブロックのパルスシーケンスを繰り返して撮影を行うことにより、第3ブロックにおいて画像用のエコー信号を取得する前に、そのエコー信号を取得する領域の静磁場不均一に対応して適切に脂肪抑制を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明が適用されるMRI装置の全体構成を示す図。
【図2】本発明の第1の実施形態の一実施例であるパルスシーケンスの概要構成図。
【図3】本発明の第1ブロックで測定されるスライス方向における静磁場不均一分布と、それに対する水中と脂肪中のプロトンスピンが感じる静磁場分布を示す1例。
【図4】本発明のスライス方向の1次元静磁場不均一分布を求める処理ステップを示すフローチャート。
【図5】本発明の第2の実施形態の一実施例であるマルチステーション撮影の概要図。
【符号の説明】
【0056】
1…被検体
2…磁場発生装置
3…磁場勾配発生系
4…送信系
5…受信系
6…信号処理系
7…シーケンサ
8…CPU
9…傾斜磁場コイル
10…傾斜磁場電源
14a…送信側の高周波コイル
14b…受信側の高周波コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静磁場空間に配置された被検体の複数のスライスをそれぞれ撮影するための撮影シーケンスを制御する計測制御手段と、前記撮影シーケンスに基づいて取得されたエコー信号を用いて前記被検体の画像を再構成する信号処理手段を備え、
前記撮影シーケンスは、前記被検体の脂肪組織からのエコー信号を抑制するための脂肪抑制パルスを有する磁気共鳴イメージング装置において、
前記撮影シーケンスは、前記静磁場空間の静磁場不均一分布を求めるためのエコー信号を取得し、
前記信号処理手段は、前記静磁場不均一分布を求めるためのエコー信号から静磁場不均一分布を求め、
前記計測制御手段は、前記脂肪抑制パルスが印加されるスライスにおける前記静磁場不均一に対応して、該脂肪抑制パルスの中心周波数を設定することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記撮影シーケンスは、前記静磁場空間の静磁場不均一分布を求めるためのエコー信号を取得する第1ブロックと、前記複数のスライスの内の少なくとも一つのスライスに亘って前記脂肪抑制パルスを印加する第2ブロックと、前記複数のスライスの内の少なくとも一つのスライスからそれぞれ画像用のエコー信号を取得する第3ブロックを有して成ることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記計測制御手段は、前記第1ブロックと前記第2ブロックを、それぞれ前記複数のスライスの数より少ない回数だけ実行することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
請求項3に記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記被検体を載置して前記静磁場空間内で移動させる手段を備え、
前記被検体を複数の領域に分割して、それぞれの領域を撮影する場合に、
前記計測制御手段は、前記領域毎に、前記撮影シーケンスによる撮影と、その撮影の後に次の領域が前記静磁場空間の略中心に来るように前記移動手段を制御することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−265(P2006−265A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−177904(P2004−177904)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】