説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】水信号と脂肪信号とのスペクトルの重複に影響されず、微細な構造部分まで水信号と脂肪信号との化学シフトアーチファクトを除去した良好な画像を得る。
【解決手段】複数のサブコイル各々で得たエコー信号から再構成した各画像における同位置の画素の信号強度と、各サブコイルの周波数エンコード方向の感度分布から得た当該画素の相対感度と、水と脂肪との共鳴周波数の差から算出した距離だけ周波数エンコード方向に離れた位置の相対感度とを用い、演算により水・脂肪分離画像を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体中の水素や燐等からの核磁気共鳴(以下、「NMR」という)信号を検出し、核の密度分布や緩和時間分布等を画像化する磁気共鳴イメージング(以下、「MRI」という)技術に関する。特に、水信号と脂肪信号とを分離した水・脂肪分離画像を得る技術に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置では、被検体組織に含まれるプロトン(H)の角スピンをその共鳴周波数と同じ周波数の高周波(RF)磁場で励起し、発生するNMR信号を計測する。プロトンは、生体組織の水に含まれるのみならず、脂肪にも多く含まれる。従って、MRI装置では、生体組織に含まれる脂肪と水とからの信号が画像化される。ところが、水と脂肪とはその共鳴周波数が異なる(化学シフト)。このため、水と脂肪とが混在する領域を撮影すると、化学シフトによる周波数成分の違いが周波数エンコード方向の位置の変化として現れ、いわゆる化学シフトアーチファクトが発生し、診断の妨げとなる。
【0003】
これを避けるため、水信号および脂肪信号のいずれか一方を選択的に抑制するプリパルスを印加し、いずれかの信号のみから画像を再構成する手法がある(例えば、特許文献1参照)。また、TEの異なる画像を複数枚取得し、水信号と脂肪信号との位相差を利用し、演算により水・脂肪分離画像を得る方法(DIXON法)がある(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
また、受信コイルを複数のチャンネル(サブコイル)によって構成し、各々のサブコイルの感度分布を画像再構成時に用いるものがある(例えば、非特許文献2参照)。非特許文献2では、感度分布を折り返しアーチファクトを除去するために用いる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第4680546号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】W.Thomas Dixon. Simple Proton Spectroscopic Imaging. Raiology 153; 189−194(1984)
【非特許文献2】Klass P. Pruessmann, Markus Weiger, Markus B. Scheidegger, and Peter Boesiger. SENSE Sensitivity Encoding for Fast MRI. Magnetic Resonance in Medicine 42:952−962(1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、プリパルスにより脂肪信号(または水信号)を抑制する手法では、水信号と脂肪信号とのスペクトルは一部重複しているため、他方も同時に抑制される。従って、精度のよい画像を得ることができない。また、水信号と脂肪信号との位相差を利用するDIXON法では、静磁場不均一の影響を受けやすく、信号強度が低い微細な構造部分の信号は分離できない。このため、最も化学シフトによるアーチファクトの影響を受けやすい微細な構造部分について、両信号が良好に分離された画像を得ることができない。このように、水信号と脂肪信号とが混在する領域を撮像する場合、化学シフトアーチファクトを効果的に防ぐことができない。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、水信号と脂肪信号との化学シフトアーチファクトを除去した良好な画像を得る技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、複数のサブコイル各々で得たエコー信号から再構成した各画像における同位置の画素の信号強度と、各サブコイルの周波数エンコード方向の感度分布とを用い、演算により水・脂肪分離画像を得る。
【0010】
具体的には、均一な磁場空間を生成する静磁場生成手段と、x、y、zの3軸方向に沿って磁場強度が線形に変化する傾斜磁場を生成する傾斜磁場生成手段と、被検体内の原子核スピンに磁気共鳴を誘起する高周波磁場パルスを照射する高周波磁場送信手段と、前記原子核スピンから放出されるエコー信号を検出する受信手段と、前記受信手段で検出したエコー信号を用いて画像を再構成する信号処理手段と、前記傾斜磁場生成手段、前記高周波磁場送信手段、および前記受信手段の動作を制御する動作制御手段と、を備える磁気共鳴イメージング装置であって、前記受信手段は、複数のサブコイルを備え、前記検出したエコー信号をサブコイル毎に異なるk空間に配置し、前記サブコイルは、少なくとも2つが周波数エンコード傾斜磁場印加方向にそれぞれ単調に異なる感度分布を示す位置に配置され、前記信号処理手段は、前記k空間毎に画像を再構成する画像再構成手段と、前記再構成した各画像と、前記2つのサブコイルの周波数エンコード方向の感度分布とを用い、水・脂肪分離画像を得る画像分離手段と、を備えることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水信号と脂肪信号との化学シフトアーチファクトを除去した良好な画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態のMRI装置の機器構成および機能ブロック図である。
【図2】本発明の実施形態で用いられるパルスシーケンスの一例を示す図である。
【図3】(a)は、一般のエコー信号のk空間への配置例を示す図である。(b)は、パラレルイメージングにおけるエコー信号のk空間への配置例を示す図である。
【図4】(a)はサブコイルの配置と画像の折り返しを説明するための図であり、(b)は、各サブコイルのy軸方向の感度分布である。
【図5】(a)は、本発明の実施形態の各サブコイルと被検体の配置および脂肪信号の移動を説明するための図であり、(b)は、本発明の実施形態の各サブコイルのx軸方向の感度分布である。
【図6】(a)〜(f)は、本発明の実施形態の水・脂肪分離手法を説明するための図である。
【図7】本発明の実施形態の画像分離処理の処理フローである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を適用する実施形態について説明する。以下、本発明の実施形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0014】
本実施形態の磁気共鳴イメージング装置(以下、MRI装置)について説明する。図1は、本実施形態のMRI装置100の機器構成および機能ブロック図である。本図に示すように、本実施形態のMRI装置100は、均一な磁場空間を発生する超伝導コイルからなる静磁場発生コイル1と、傾斜磁場発生系を構成するx、y、zの3軸方向に沿って磁場強度が線形に変化する傾斜磁場を発生する3組の傾斜磁場発生コイル2および傾斜磁場電源5と、送信系を構成する被検体10の磁気共鳴を誘起する高周波磁場発生コイル3および高周波磁場電源6と、受信系を構成する被検体10から発生する核磁気共鳴信号(エコー信号)を受信する受信コイル4および受信コイル4で受信した信号を検出する信号検出部8と、被検体10を静磁場発生コイル1内に搬送する寝台7と、シーケンサ9と、制御装置11と、ユーザインタフェースとして制御装置11に接続される表示装置12と、操作装置13と、を備える。
【0015】
また、本実施形態の受信コイル4は、少なくとも2つのサブコイル41を備えた多チャンネル型受信コイルにより構成される。サブコイル41それぞれに、信号検出部8として増幅器、直交位相検波器、A/D変換器が接続される。各サブコイル41で収集されたデータは、シーケンサ9を介して制御装置11に送られ、それぞれ処理される。
【0016】
シーケンサ9は、制御装置11からの指示を受け、予め記憶するパルスシーケンスに従って、傾斜磁場電源5、高周波磁場電源6および信号検出部8の動作を制御する。パルスシーケンスには、これらの各部を動作させるために必要な情報、たとえば、傾斜磁場および高周波磁場の印加強度、印加時間、印加タイミング、エコー信号検出タイミング等が含まれる。
【0017】
制御装置11は、シーケンサ9に制御指示を与える動作制御部110と、信号検出部8が検出したエコー信号を処理して画像を再構成する信号処理部120とを備え、MRI装置100全体の動作を制御する。制御装置11は、CPUとメモリと記憶装置とを備え、CPUが記憶装置に格納されているプログラムをメモリにロードして実行することにより、動作制御部110と信号処理部120とを実現する。
【0018】
次に、本実施形態の動作制御部110が、シーケンサ9に実行させるパルスシーケンスの一例を説明する。図2は、本実施形態で用いられるパルスシーケンス201である。なお、本実施形態では、以下のパルスシーケンスで選択励起される平面をxy平面とし、それに直交する方向をz方向とする。また、図2のRF、Gz、Gx,Gy、echoは、それぞれ、高周波磁場パルス、z方向の傾斜磁場、x軸方向の傾斜磁場、y軸方向の傾斜磁場の印加およびエコー信号収集のタイミングチャートである。
【0019】
本図に示すように、まず、高周波磁場21を印加するとともにz方向の傾斜磁場22を印加し、スライス選択傾斜磁場22により特定される領域(xy平面)を選択励起する。次に、y軸方向に位相エンコード傾斜磁場23を印加する。そして、x軸方向に読み出し傾斜磁場(周波数エンコード傾斜磁場)24を印加しながら、高周波磁場21の印加からTE時間後にエコー信号25をサンプリングする。動作制御部110は、このパルスシーケンス201を、TR時間間隔で画像再構成に必要な数の信号を収集するまで、位相エンコード傾斜磁場23の印加量を変化させながら繰り返す。
【0020】
信号処理部120は、サンプリングしたエコー信号25をk空間に配置し、画像を再構成する。図3(a)は、エコー信号25のk空間への配置例を示す図である。本図に示すように、k空間において、周波数エンコード傾斜磁場24の時間積分値はkx方向に沿って変化するため、パルスシーケンス201を1回実行するごとに軌跡31が得られる。また、位相エンコード傾斜磁場23の時間積分値はky方向に沿って変化する。1回目の実行で、軌跡31を得たとすると、位相エンコード傾斜磁場23の印加量を変えてパルスシーケンス201を繰返すごとに、ky方向にステップした軌跡31a、31b、31c、31d、31eが順に得られる。
【0021】
ここで、従来の複数のサブコイルからなる受信コイルを用いた、パラレルイメージングの手法について説明する。図3(b)および図4は、パラレルイメージングの手法を説明するための図である。図3(b)は、パラレルイメージングにおけるk空間のサンプリング軌跡(エコー信号のk空間への配置例)で、図4(a)はサブコイルの配置と画像の折り返しを説明するための図である。なお、ここでは、受信コイルは、2つのサブコイル51a、52bから構成されるものとする。また、各サブコイル51a、52bは、被検体10(の撮影領域50)を挟んで位相エンコード傾斜磁場23の印加方向であるy軸方向に所定の間隔を空けて配置される。また、図4(b)は、各サブコイル51aおよび51bのy軸方向の感度分布501aおよび501bである。
【0022】
通常、図3(a)に示すように走査するk空間を、パラレルイメージングでは、図3(b)に示すように位相エンコード方向に間引いて走査する。従って、サンプリング数が低減し、撮影時間を短縮することができる。しかし、k空間を間引いてサンプリングすると、撮影視野が狭くなる。このため、図4(a)に示すように、再構成した画像に折り返しが発生する。そして、撮影対象領域54が画像の部分55に折り返される。パラレルイメージングでは、この画像の重なりを、サブコイル51aおよび51bの感度分布を用いて分離する。
【0023】
例えば、サンプリングを半分に間引いた(サンプリング間隔を倍にした)場合、元のy方向の撮影視野をLとすると、撮影視野L’はL/2となる。また、折り返しによる画素の移動量δはL/2である。例えば、視野外の座標(X、y2)の位置から発生した信号は、画像上では座標(X、y1)の画素に表示される。座標(X、y1)の画素56に着目すると、画素56の信号は、座標(X、y2)の位置(画素57に対応する位置)からの信号I2と座標(X、y1)の位置(画素56に対応する位置)からの信号I1とが足しあわされたものである。サブコイル51aで検出したエコー信号25から再構成された画像における画素56の信号強度Ic1と、サブコイル51bで検出した検出したエコー信号25から再構成された画像における同位置の画素56の信号強度Ic2とは、以下の式(1)で表される。
Ic1=I2×C1y2+I1×C1y1
Ic2=I2×C2y2+I1×C2y1 (1)
【0024】
ここで、C1y1、C1y2は、それぞれ、サブコイル51aの、y軸方向の位置y1およびy2における相対感度であり、C2y1、C2y2は、それぞれサブコイル51bの、y軸方向の位置y1およびy2における相対感度である。なお、相対感度は、y軸方向の基準となる位置の感度に対する感度の大きさの比率で、サブコイル51aの相対感度C1y1、C1y2、および、サブコイル51bの相対感度C2y1、C2y2は、それぞれ、図4(b)に示すサブコイル51aおよびサブコイル51bの感度分布501aおよび501bから得られる。従って、各サブコイルの感度分布と式(1)とから、位置y2からの信号I2と位置y1からの信号I1とを求めることができる。このようにして、パラレルイメージングでは、複数のサブコイルの感度分布を用い、画素56の信号と画素57の信号とを分離する。
【0025】
本実施形態では、上記手法を、水信号と脂肪信号との分離に適用する。以下、その原理を説明する。本実施形態では、水信号と脂肪信号とを分離するため、受信コイル4は、少なくとも2つのサブコイル41(以下、41aおよび41bとする。)を備える。図5は、本実施形態の信号分離手法を説明するための図であり、(a)は、サブコイル41a、サブコイル41b、被検体10の撮影領域40の配置および脂肪信号の移動を説明するための図であり、(b)は、各サブコイル41aよび41bのx軸方向の感度分布401aおよび401bである。
【0026】
本図に示すように、本実施形態では、2つのサブコイル41aおよび41bは、周波数エンコード傾斜磁場24印加方向(x軸方向)に被検体10を挟んで対向する位置に配置される。なお、サブコイル41aおよび41bの配置はこれに限られない。脂肪信号は水信号の位置から周波数エンコード傾斜磁場24印加方向(x軸方向)に変位して認識されるため、各サブコイル41aおよび41bに関し、エコー信号検出範囲でx軸方向に感度分布が単調に変化し、また、両サブコイル41aおよび41bがx軸方向に関して異なる感度分布を示す位置に配置されていればよい。
【0027】
本実施形態では、上記パラレルイメージングとは異なり、k空間を間引くことなく走査する。従って、撮影視野が狭くなることはなく、それによる折り返しも発生しない。上記パルスシーケンス201を実行することにより、被検体10の撮影領域40と、当該撮影領域40内の脂肪がある領域42は、高周波磁場21により励起される。脂肪プロトンは水プロトンよりも歳差運動の周波数が3.5ppm程高い。従って、水の共鳴周波数fw(Hz)と脂肪の共鳴周波数fs(Hz)との差Δf(Hz)は、fwを用いて以下の式(2)で表される。
Δf=(3.5/1.000.000)×fw (2)
共鳴周波数の差Δfは、画像上で水信号と脂肪信号とを引き離す。周波数エンコード傾斜磁場24の強度をBW(Hz)とし、撮影視野をL(cm)とすると、画像上での水信号と脂肪信号との距離δ(cm)は、以下の式(3)で表される。
δ=Δf×(L/BW) (3)
【0028】
従って、水と脂肪との共鳴周波数の差により、領域42にある脂肪は、画像上ではδ分x軸方向に移動し、領域43に表示される。すなわち、領域42内の座標(x1、Y)の位置(画素42p)の脂肪信号は、δ分x軸方向に変位した座標(x2、Y)(ここで、x2=x1+δ)の位置の画素43pに表示される。
【0029】
ここで座標(x2、Y)の画素43pに着目すると、画素43pの信号は、座標(x2、Y)の位置の水信号Iwと座標(x1、Y)の位置の脂肪信号Ifとが足しあわされたものである、サブコイル41aで検出したエコー信号25から再構成された画像における同位置(座標(x2、Y))の画素43pa(不図示)の信号強度Is1と、サブコイル41bで検出したエコー信号25から再構成された画像における同位置の画素43pb(座標(x2、Y):不図示)の信号強度Is2とは、サブコイル41aの、x軸方向の位置x1およびx2における相対感度をそれぞれS1x1、S1x2、サブコイル41bの、x軸方向の位置x1およびx2における相対感度をそれぞれS2x1、S2x2とすると、以下の式(4)で表される。
Is1=Iw×S1x2+If×S1x1
Is2=Iw×S2x2+If×S2x1 (4)
【0030】
サブコイル41aの相対感度S1x1、S1x2、および、サブコイル41bの相対感度S2x1、S2x2は、それぞれ、図5(b)に示すサブコイル41aおよび41bの感度分布401aおよび401bから得られる。従って、各サブコイルの感度分布と式(4)とから、位置x2からの水信号Iwと位置x1からの水信号Ifとを以下の式(5)のように求めることができる。
Iw=(Is1×S1x1−Is2×S2x1)
/(S1x2×S1x1−S2x2×S2x1)
If=(Is1×S2x2−Is2×S1x2)
/(S1x1×S2x2−S2x1×S1x2) (5)
【0031】
このように、得られた画像において、画素43pの水信号と画素43pの脂肪信号とを分離することができる。なお、脂肪信号が含まれない領域の画素44p(x軸方向の位置をx2とする。)においても、式(4)および式(5)は適用できる。
【0032】
本実施形態では、信号処理部120において、各サブコイル41aおよび41bで取得したエコー信号25から再構成した画像の各画素を上記手法を用いて処理し、水・脂肪分離画像を得る。これを実現するため、本実施形態の信号処理部120は、図1に示すように、信号配置部121と、画像再構成部122と、画像分離部123とを備える。
【0033】
信号配置部121は、図6(a)、(b)に示すように、各サブコイル41aおよび41bで取得したエコー信号25を、それぞれ、独立したk空間411aおよび411bに配置する。
【0034】
画像再構成部122は、図6(c)、(d)に示すように、各k空間411aおよび411bに配置されたエコー信号25に対してフーリエ変換を行い、実空間の画像412aおよび412bを再構成する。具体的には、画像を構成する各画素P(n、m)(nは1からx軸方向の画素数までの整数、mは1からy軸方向の画素数までの整数)に対応する位置の信号強度を得る。
【0035】
画像分離部123は、再構成した画像412aおよび412bの同位置の各画素P(n、m)について、当該画素P(n、m)の信号強度と、サブコイル41aおよび41bの感度分布401aおよび401bとを用い、上記式(5)を用いて当該画素P(n、m)の水信号の強度およびと脂肪信号の強度をそれぞれ算出し、それぞれ、図6(e)、(f)に示すように、水画像413aおよび脂肪画像413bを得る。
【0036】
なお、各サブコイル41aおよび41bの感度分布401aおよび401bは、予め求め、記憶装置などに格納しておく。感度分布を求める際には、空間分解能は低くてもよいため、被検体の動きが影響しないような短時間で画像を取得可能なパルスシーケンスを用いる。本実施形態では、共鳴周波数の差による変位が周波数エンコード傾斜磁場印加方向に発生するため、周波数エンコード傾斜磁場印加方向の感度分布を得ることができればよい。
【0037】
画像分離部123の画像分離処理の詳細について説明する。図7は、本実施形態の画像分離処理の処理フローである。本実施形態では、上述のように動作制御部110が、繰り返し時間TRごとにパルスシーケンス201に従ってMRI装置100を動作させ、エコー信号25を収集する。各サブコイル41aおよび41bで検出したエコー信号25は、信号配置部121により、それぞれ、独立したk空間411aおよび411bに充填される。そして、画像再構成部122は、各k空間411aおよび411bに配置されたエコー信号25からそれぞれ、画像412aおよび412bを再構成する。ここでは、上述のように、各画素の信号値を得る。
【0038】
画像412aおよび412bが再構成されたら、画像分離部123は処理を開始する。画像分離部123は、水と脂肪との共鳴周波数の差から、水信号に対する脂肪信号の変位量δを算出する(ステップS601)。ここで、水と脂肪と共鳴周波数の差は、予め記憶装置等に格納されているものとする。
【0039】
次に、各サブコイル41aおよび411bで取得したエコー信号25それぞれから再構成された画像412aおよび412bの各画素について、以下の処理を行う。以下、処理を行う画素P(n,m)を処理対象画素と呼ぶ。また、相対感度は、感度分布上のx軸の原点における感度に対する感度とする。x軸の原点はどこに設定してもよいが、ここでは、一例として、図5(b)に示すように、サブコイル41aおよびサブコイル41bのx軸方向の中間点を原点とする。
【0040】
具体的には、x軸方向の画素数をnn(nnは自然数)、y軸方向の画素数をmm(mmは自然数)とする。まず、画像分離部123は、nおよびmを1とする(ステップS602)。次に、画像分離部123は、再構成された結果(画像412aおよび412b)から、処理対象画素P(n,m)の信号強度Is1およびIs2をそれぞれ読み出す(ステップS603)。
【0041】
そして、画像分離部123は、処理対象画素P(n,m)のx軸方向の位置を特定し、特定した位置x2に対応する相対感度S1x2およびS2x2と、処理対象画素P(n,m)から距離δだけx軸方向に離れた位置(x1=x2−δ)に対応する相対感度S1x1およびS2x1とを、感度分布401aおよび401bから読み取り、特定する(ステップS604)。
【0042】
ステップS603およびステップS604で得た結果を式(5)に代入し、計算を行い、それぞれ、処理対象画素P(n,m)の水信号強度および脂肪信号強度を算出する(ステップS605)。以上の処理を、n=nn、m=mmとなるまで繰返す(ステップS606、S607、S608、S609)。
【0043】
以上により、画像分離部123は、全画素についての水信号強度および脂肪信号強度を得、水画像、脂肪画像を得る。
【0044】
なお、撮影視野内において、静磁場に不均一な領域がある場合、式(2)のΔfがその位置の静磁場の強度に応じて変化する。従って、再構成された画像においては、画素によって、脂肪信号と水信号との距離が変化する。これは、式(4)および(5)の計算に影響を与えるため、水信号と脂肪信号とを正しく分離できなくなる。
【0045】
撮影視野内の静磁場に不均一がある場合、水の共鳴周波数に対する脂肪の共鳴周波数fs(Hz)のずれΔf’(Hz)を、以下の式(6)により補正し、静磁場不均一を補正した画像上の水信号と脂肪信号との距離δ’を算出する。
Δf=(3.5/1.000.000)×fw−fu (6)
ここで、fuは、処理対象の1画素内の周波数に換算した静磁場不均一量(基準の静磁場強度からの強度の差)である。式(6)の結果を式(3)に代入し、画素毎に静磁場不均一の影響を除去した距離δ’を得ることができる。この結果を用い、感度分布から相対感度を特定し、式(5)に従って、各画素の水信号および脂肪信号を得る。
【0046】
なお、周波数に換算した静磁場不均一量は、静磁場不均一を補正するシミング技術の前処理として周知のものを用い、静磁場の強度分布状態を測定し、測定結果から算出する。すなわち、静磁場不均一の影響がキャンセルされるスピンエコー信号を基準として、静磁場不均一の影響を受けるグラジエントエコー信号の位相回転量を測定し、これを静磁場強度分布に換算する。なお、各画素の位相回転量は、グラジエントエコー法で取得した画像の実部データと虚部データとの比から求める。以上の処理は、例えば、信号処理部120に新たな機能として共鳴周波数補正部を備え、実現する。
【0047】
上記実施形態において、水信号と脂肪信号とを分離するために、2個のコイル、すなわち、2種の感度分布が必要であるのは式(4)に示すとおり、代数方程式の解法に従うところである。しかしながら、3個以上のコイルを配置してより詳細な感度分布を得ることによって、水信号と脂肪信号とを分離することも有効であることは明らかである。
【0048】
以上説明したように、本実施形態によれば、撮影視野内で異なる感度分布を有する2つのサブコイルで検出したエコー信号から得た同一画素の信号強度と、分離対象物質の共鳴周波数の差から特定される画像上の分離対象物質間の距離と、感度分布から求めた分離対象物質それぞれの感度とを用い、画素毎に分離対象物質毎の強度を算出する。従って、分離対象物質の一方の信号を抑制するといった処理は行わないため、両物質からの信号のスペクトルの重複に影響されることがない。また、DIXON法とは異なり、微細な構造部分の信号であっても分離が可能である。さらに、上述のように、静磁場不均一がある場合も対応できる。従って、本実施形態によれば、分離対象の複数の物質からの信号を精度よく分離することができ、良好な画像を得ることができる。
【符号の説明】
【0049】
1:静磁場発生コイル、2:傾斜磁場発生コイル、3:高周波磁場発生コイル、4:受信コイル、5:傾斜磁場電源、6:高周波磁場電源、7:寝台、8:信号検出部、9:シーケンサ、10:被検体、11:制御装置、12:表示装置、13:操作装置、21:高周波磁場、22:スライス選択傾斜磁場、23:位相エンコード傾斜磁場、24:読み出し傾斜磁場(周波数エンコード傾斜磁場)、25:エコー信号、31:軌跡、31a:軌跡、31b:軌跡、31c:軌跡、31d:軌跡、31e:軌跡、40:撮影領域、41:サブコイル、41a:サブコイル、41b:サブコイル、42:領域、42p:画素、43:領域、43p:画素、44p:画素、51a:サブコイル、51b:サブコイル、54:撮影対象領域、55:画像部分、56:画素、57:画素、100:MRI装置、110:動作制御部、120:信号処理部、121:信号配置部、122:画像再構成部、123:画像分離部、201:パルスシーケンス、401a:感度分布、401b:感度分布、411a:k空間、411b:k空間、412a:画像、412b:画像、501a:感度分布、501b:感度分布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
均一な磁場空間を生成する静磁場生成手段と、x、y、zの3軸方向に沿って磁場強度が線形に変化する傾斜磁場を生成する傾斜磁場生成手段と、被検体内の原子核スピンに磁気共鳴を誘起する高周波磁場パルスを照射する高周波磁場送信手段と、前記原子核スピンから放出されるエコー信号を検出する受信手段と、前記受信手段で検出したエコー信号を用いて画像を再構成する信号処理手段と、前記傾斜磁場生成手段、前記高周波磁場送信手段、および前記受信手段の動作を制御する動作制御手段と、を備える磁気共鳴イメージング装置であって、
前記受信手段は、複数のサブコイルを備え、前記検出したエコー信号をサブコイル毎に異なるk空間に配置し、
前記サブコイルは、少なくとも2つが周波数エンコード傾斜磁場印加方向にそれぞれ異なる感度分布を示す位置に配置され、
前記信号処理手段は、
前記k空間毎に画像を再構成する画像再構成手段と、
前記再構成した各画像と、前記2つのサブコイルの周波数エンコード方向の感度分布とを用い、水・脂肪分離画像を得る画像分離手段と、を備えること
を特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記画像分離手段は、
水と脂肪との共鳴周波数の差から水信号に対する脂肪信号の画像上の変位量を算出する変位量算出手段と、
前記再構成された各画像の同位置の画素について、当該画素の位置における感度と当該画素から前記変位量分周波数エンコード傾斜磁場印加方向に変位した位置における感度とを前記各サブコイルの感度分布からそれぞれ特定し、当該画素の信号強度および前記特定した両感度を用いて、当該位置の画素の水信号の強度と脂肪信号の強度とを算出することを全画素について行う信号強度算出手段と、を備えること
を特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
請求項2記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記信号強度算出手段は、
前記変位量をδとし、前記2つのサブコイルで検出したエコー信号から再構成された一方の画像の処理対象画素における信号強度をIs1、他方の画像の前記処理対象画素と同位置の画素における信号強度をIs2、前記一方の画像の処理対象画素における感度をS1x1、当該画像の前記処理対象画素から周波数エンコード傾斜磁場印加方向にδ離れた位置の感度をS1x2、前記他方の画像の前記処理対象画素と同位置の画素における感度をS2x1、当該画像の当該画素からδ周波数エンコード傾斜磁場方向にδ離れた位置の感度をS2x2、前記処理対象画素のおける水信号の強度をIw、当該画素の脂肪信号の強度をIfとすると、式(7)を計算することにより、水信号の強度と脂肪信号の強度とを算出すること
Is1=Iw×S1x1+If×S1x1
Is2=Iw×S2x2+If×S2x1 (7)
を特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
請求項2または3記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記高周波磁場パルスと前記傾斜磁場とにより選択される撮影断面の静磁場分布を、当該撮影断面の周波数分布に変換し、前記水と脂肪との共鳴周波数の差を、当該周波数分布を用いて補正する共鳴周波数補正手段をさらに備え、
前記変位量算出手段は、前記補正後の共鳴周波数の差を用いて前記変位量を算出すること
を特徴とする磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−172356(P2010−172356A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−15130(P2009−15130)
【出願日】平成21年1月27日(2009.1.27)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】