説明

磁気共鳴画像化のための方法

一定の態様において、本発明は磁気共鳴画像法のためのコントラスト物質に関連した方法と組成物を提供する。一定のバリエーションにおいて、ここで提供されるコントラスト物質は遺伝的な指令によりインサイチュで作られ、利用可能な金属原子を捕捉すると強力になる。例示的なコントラスト物質として金属結合タンパク質が挙げられる。一定の態様において、核酸配列は、金属結合タンパク質が産生される細胞に対してコントラスト効果を付与するように直接または間接的に作用する該金属結合タンパク質をコードする。本発明は、さらに、対象のコントラスト物質を生成し、利用する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2005年3月14日に出願された米国特許出願第11/080,732号(2003年3月7日に出願されたU.S.10/384,496(これは、2002年3月7日に出願された米国仮特許出願第60/363,163号の出願日の利益を主張する)の部分継続)の継続である。これらの出願の教示は、参考として本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
(背景)
インビボで遺伝子発現を可視化させることのできる道具は、医学の将来と生物科学者にとって根本的な重要性を有する。遺伝子医学の新興分野は、治療遺伝子がどこに送達されたのか、いつ送達されたのか、送達されたのかどうか、かつ所望のタンパク質が発現されたのかどうかを示すことのできる非侵襲性の画像検査法を必要とする。基礎的生物学的研究の領域において、インビボでの遺伝子発現の時期および部位を画像化できることは基本的に必要なことである。
【0003】
通常、科学者は、興味のある遺伝子とともに、しばしば転写融合または翻訳融合のいずれかとして発現されるマーカー遺伝子を取り込むことにより遺伝子発現をモニターする。マーカー遺伝子産物の検出は、ほとんどの場合、組織プレパラート(例えば、β−ガラクトシダーゼアッセイ)を用いるか、または蛍光顕微鏡(例えば、緑色蛍光タンパク質、すなわちGFP)を用いることにより達成される。これらの方法の何れも、組織、または細胞の他の巨視的な構築体の非侵襲性の画像化を可能とするものではない。組織プレパラートを必要とするマーカーは対象の素材を犠牲とすることなく検出することはできない。蛍光マーカーは生細胞において像を作ることができるが、利用可能な最も洗練された光学技術によってさえも、およそ500μmを超える組織の深さで像を作ることはできない。PET(ポジトロン放出断層撮影)、ガンマ線カメラおよびSPECT(単一光子放射型コンピュータ断層撮影法)等の他の方法は遺伝子発現をインビボで検出するために使用されてきたが、これらの全ては、立方ミリメートル以上のオーダーでは、限定された空間分解能に劣っている。
【0004】
MRIは、光学的に不透明な対象の非侵襲性画像化を可能とし、軟部組織間のコントラストを高い空間分解能で提供する広く使用される臨床的な診断道具である。大部分の臨床応用において、MRIシグナルは、画像化されつつある材料に存在する水分子のプロトンから得られる。組織の画像強度は多くの因子により決定される。プロトン密度、スピン格子緩和時間(T1)およびスピンスピン緩和時間(T2)等の特定組織の物理的特性は、利用可能なシグナルの量をしばしば決定する。
【0005】
異なる組織間に増強コントラストを提供するために、「コントラスト物質」と呼ばれる多くの組成物が開発されてきた。通常、コントラスト物質はT1、T2またはその両方に影響を与える。一般的に、コントラスト物質は、不対のdまたはf電子を有する金属を取り込むことにより強力にされる。例えば、T1コントラスト物質は、毒性を制限するために低分子量の分子にキレート化されたランタニド金属イオン、通常、Gd3+をしばしば含む。T2物質は、多くの場合、デキストランで被覆されたマグネタイト(FeO−Fe)の小さい粒子からなる。両タイプの物質は組織中の移動性の水と相互作用してコントラストを生じる;この微視的な相互作用の詳細は物質のタイプにより異なる。
【0006】
最も広く用いられるコントラスト物質は外来性であり、これは、コントラスト物質は外部で作られて、次に、画像化される組織または細胞に送達されることを意味する。外来性コントラスト物質は、一般的に血管系により送達され、通常、非選択的分布を有し、生理学的に不活性である。外来性のコントラスト物質は、不十分な内在性のコントラストを有する生体組織を強調し、正常な血流を破壊または血液脳関門の損傷を引き起こす多様な病態を可視化するために用いられる。これら物資のいずれも細胞膜を容易に横断することはないので、既存の技術が細胞内事象の分析に適合することは難しい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
MRIコントラスト物質の新しい世代が、この強力な画像技術を分子医学と生物学研究の必要性に適合させるために必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の要旨)
一定の態様において、本発明は、核酸配列により指示されて対象中に合成された磁気共鳴画像法用のコントラスト物質に関する。コントラスト物質は、利用可能な金属原子、通常、鉄原子を捕捉することにより強力にされる。一定の態様において、核酸配列は、金属結合タンパク質が産生される細胞に対してコントラスト効果を付与するように直接または間接的に作用する該金属結合タンパク質をコードする。本発明は、さらに、対象のコントラスト物質を生成し、利用する方法に関する。
【0009】
一定の実施態様において、本発明は、複数の細胞を含む対象材料を画像化することにより対象材料の画像を作成する方法において、一部の該細胞がMRIで検出可能な量のコントラスト物質を含む方法に関する。好ましくは、対象材料は、コントラストタンパク質を対象材料によりそれが通常作られるよりも過剰な量で作られるように組換え核酸の導入等により操作されている。例えば、コントラストタンパク質は、組換え核酸から発現される組換えタンパク質であってよい。別の例として、コントラストタンパク質は、外因的な操作により増加する発現を示す内在性遺伝子により作られてよい。好ましい実施態様において、異なる細胞に存在するコントラストタンパク質の量は区別可能であり、任意に、測定可能な量のコントラストタンパク質を含む細胞は、測定可能な量のコントラストタンパク質を含まない細胞または他の材料成分と区別することができる。
【0010】
別の実施態様において、本発明の方法は、コントラスト物質をコードする組換え核酸を含む細胞を画像化することにより遺伝子発現を検出することからなる。好ましくは、磁気共鳴画像法によるコントラストタンパク質の検出は、コントラストタンパク質をコードする核酸が発現されている、および/または発現されてきていることを示す。任意に、コントラスト物質はタンパク質、好ましくは金属結合タンパク質である。金属結合タンパク質の例示的種類として、フェリチンタンパク質;トランスフェリンレセプタータンパク質;鉄調節タンパク質;鉄スカベンジャータンパク質および二価金属輸送体(DMT−1またはNramp−2)が挙げられる。本発明の例示的金属結合タンパク質として、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12および配列番号14の何れかに示される配列に対して少なくとも60%、任意に少なくとも70%、80%、90%、95%、99%または100%同一である金属結合タンパク質が挙げられる。もしくは、該タンパク質は、配列番号16、配列番号18、配列番号20または配列番号22に示される配列に対して少なくとも60%、任意に少なくとも70%、80%、90%、95%、99%または100%同一である。ここで示されるように、トランスフェリンレセプターと、フェリチンの軽/重サブユニットとの複合発現は特に強力なコントラストシグナルを提供する。
【0011】
ここに記載の方法は、コントラスト物質を本来の位置(インサイチュ)に産生することのできる基本的にどのような物質でも共に用いることができる。例えば、対象材料は細胞、任意に細胞培養物の一部である細胞、インビトロ組織の一部または多細胞生物(例えば、真菌、植物または動物等)の一部であってよい。好ましい実施態様において、対象材料はマウスまたはヒト等の生きた哺乳動物である。
【0012】
さらなる態様において、本発明は、コントラスト物質をコードする組換え核酸を含む多細胞生物のトランスフェクションのためののベクターを提供する。一定の実施態様において、コントラスト物質は金属結合タンパク質である。任意に、ベクターは、アデノウイルス、アデノウイルス随伴ウイルス、単純ヘルペスウイルス、レトロウイルス、アルファウイルス、ポックスウイルス、アレナウイルス、ワクシニアウイルス、インフルエンザウイルス、ポリオウイルス、および前記の何れかの雑種からなる群から選択されるウイルスに由来するウイルスベクターである。
【0013】
さらなる態様において、本発明は、本発明の核酸を対象材料に導入するデリバリーシステムを包含する。一定の実施態様において、本発明は、上記のコントラスト物質等のコントラスト物質をコードする配列を含む核酸を含有し、哺乳動物細胞の形質移入に適するウイルス粒子を提供する。任意に、ウイルス粒子は、アデノウイルス、アデノウイルス随伴ウイルス、単純ヘルペスウイルス、レトロウイルス、アルファウイルス、ポックスウイルス、アレナウイルス、ワクシニアウイルス、インフルエンザウイルスおよびポリオウイルスの1種類以上に由来する。さらなる実施態様において、本発明は、上記のコントラスト物質等のコントラスト物質をコードする配列を含む核酸を含有し、哺乳動物細胞の形質移入に適するコロイド懸濁液を提供する。任意の種類のコロイド懸濁液として、高分子複合体、ナノカプセル、マイクロスフェア、ビーズ、油中水型懸濁液、ミセル、混合ミセルおよびリポソームの1種類以上が挙げられる。
【0014】
さらに別の態様において、本発明は、上記のコントラスト物質等のコントラスト物質をコードする配列を含む組換え核酸を含有する、細胞、細胞培養物、組織化された細胞培養物、組織、器官および非ヒト生物を提供する。一定の実施態様において、生物は、マウス、ラット、イヌ、サル、ブタ、ショウジョウバエ、線虫および魚、もしくは植物または真菌からなる群から選択される。さらなる実施態様において、細胞、細胞培養物、組織化された細胞培養物、組織、器官および非ヒト生物は上記のようなベクターを含んでよい。
【0015】
別の態様において、本発明は、例えば、候補医薬品等の試験化合物のスクリーニングまたは評価の方法と組成物を提供する。そのような方法は細胞系または生物系の試験系に用いることができる。一般的な概念として、試験化合物は細胞または生物の遺伝子発現パターンの変化を誘発でき、そのような変化はここに開示されるコントラスト物質を用いてモニターすることができるだろう。最も興味を持ちうる試験化合物の特徴として、例えば、有効性(例えば、候補医薬の場合の治療有効性、除草剤または殺虫剤の場合の標的生物に対する致死性、および試験化合物の目的の用途に基づく有効性の他の特徴)、安全性および毒性を挙げることができる。興味のある各特徴のために、コントラストタンパク質系を設計して1種類以上の有益な遺伝子の発現をモニターすることができる。哺乳動物および他の生物での安全性と毒性に関して、薬物代謝、ストレス応答、熱ショック、細胞周期制御、炎症、アポトーシス、DNA損傷修復または細胞増殖に関与する遺伝子等、毒性に関与する多様な因子の遺伝子発現の変化をモニターすることができる。リード化合物が望まれない副作用を有することが知られるか、または予想される場合、該リード化合物ならびに構造的に関連する変種は、低減した副作用を有するリード化合物またはその変種を同定するように、望まれない副作用に関して情報を提供するコントラスト物質システムを有する細胞または生物で調べることができる。試験化合物の組合せを、望ましい特徴を提供する組合せおよびその用量を同定するために同じように調べてもよい。1種類以上の試験化合物または条件に対する曝露の際の遺伝子発現のレベルをMRIを用いてモニターして、発現の経時的変化および/または空間的位置の変化を決定することができる。
【0016】
さらに別の特徴において、ここで説明する方法および組成物を植物における多様な応用に関連させて用いることができる。例えば、ここに記載のようなコントラスト物質は、多様な商業目的のために植物に導入された導入遺伝子のモニタリングを容易にするために用いることができる。さらに、多様な遺伝子の発現量は、環境条件または試験化合物に対する植物の暴露の際にモニターすることができる。
【0017】
本発明の実施は、特に他に示されなければ、技量の範囲内にある細胞生物学、細胞培養、分子生物学、トランスジェニック生物学、微生物学、組換えDNAおよび免疫学の慣用の技術を用いることができる。そのような技術は文献で十分に説明されている。例えば、Molecular Cloning A Laboratory Manual, 2nd Ed., ed. by Sambrook, Fritsch and Maniatis (Cold Spring Harbor Laboratory Press: 1989); DNA Cloning, Volumes I and II (D. N. Glover ed., 1985); Oligonucleotide Synthesis (M. J. Gait ed., 1984); Mullis et al. U.S. Patent No. 4,683,195; Nucleic Acid Hybridization (B.D. Hames & S.J. Higgins eds. 1984); Transcription And Translation (B.D. Hames & S.J. Higgins eds. 1984); Culture Of Animal Cells (R.I. Freshney, Alan R. Liss, Inc., 1987); Immobilized Cells And Enzymes (IRL Press, 1986); B. Perbal, A Practical Guide To Molecular Cloning (1984); the treatise, Methods In Enzymology (Academic Press, Inc., N.Y.); Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells (J.H. Miller and M.P. Calos eds., 1987, Cold Spring Harbor Laboratory); Methods in Enzymology, Vols. 154 and 155 (Wu et al. eds.), Immunochemical Methods In Cell And Molecular Biology (Mayer and Walker, eds., Academic Press, London, 1987); Handbook Of Experimental Immunology, Volumes I−IV (D.M. Weir and C.C. Blackwell, eds., 1986); Manipulating the Mouse Embryo, (Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1986)を参照されたい。
【0018】
本発明の他の特徴と利点は下記の詳細な説明および請求の範囲から明らかとなるだろう。
【0019】
ここで提供される請求の範囲は参照により本セクションに組み込まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
1.定義
「コード配列」は、ここでは、特定のタンパク質をコードする核酸部分をいうために用いられる。コード領域は、イントロン、および翻訳前に最終的に除去される他の非コード配列により中断されうる。
【0021】
「コロイド懸濁液」は、ここでは、細胞に送達される1種類以上の核酸を含むコロイド懸濁液をいうために用いられる。コロイド懸濁液中の材料は、一般的に、核酸を保護し、細胞膜を経る核酸の送達を容易にするように設計される。例示的なコロイド懸濁液として、しばしば陽イオン性脂質を含有する、脂質ミセル、チューブ、ラフト、サンドイッチおよび他の脂質構造物が挙げられるが、これらに限定されない。他のコロイド懸濁液として、ナノカプセル、マイクロビーズ、および小さく、核酸結合性のあるポリマー構造等が挙げられる。
【0022】
「コントラスト物質」との用語は、コントラスト効果が直接、間接または両方であろうか、その効果をインビボで生じる分子をいうために用いられる。例示的な実施態様において、「コントラスト物質」は「コントラストタンパク質」または「コントラストポリペプチド」と交換可能に使用される。直接のイフェクターの場合、コントラストタンパク質は、通常、緩和時間T1、T2またはT2*に影響を及ぼす複合体を形成する。しばしば、直接的コントラストタンパク質は金属タンパク質複合体を形成する。コントラストタンパク質の例示的なカテゴリーとして、例えば、金属結合タンパク質および/または1種類以上の金属結合タンパク質等の産生を促進する物質が挙げられる。間接的なイフェクターとして、細胞に、直接的コントラストタンパク質を産生させ、および/または直接的コントラストタンパク質の機能的、生化学的および/または生物物理的特徴を調節させることでコントラスト効果を作る分子が挙げられる。間接的なイフェクターの例示的なカテゴリーとして、例えば、直接的コントラストタンパク質の発現に影響を及ぼし、直接的コントラストタンパク質の活性を調節し、金属結合タンパク質に結合する金属を調節し、鉄調節タンパク質の発現を調節し、および/または鉄調節タンパク質等の活性を調節するタンパク質および/または核酸が挙げられる。
【0023】
MRIに関してここで用いられる「コントラスト効果」との用語は、1つの細胞または組織を別のものとは検出可能に異ならせるMRIシグナルの変化を包含する。コントラスト効果は、T1、T2および/またはT2*に対する効果を含んでもよい。MRIにおいて、移動可能な水を含む対象は、一般的に、大きな静磁場に置かれる。この磁場は水の水素原子の磁気モーメント(スピン)の一部を磁場の方向に沿って整列させる傾向がある。スピン格子緩和時間(T1)は磁場に置かれた核の集団が磁場の方向に沿って平衡する時定数である。T1はスピン系から環境(格子)へのエネルギー移動の時定数である。スピンスピン緩和時間(T2)はラーモア周波数での核プレシングが互いに相中にとどまる時定数である。もしくは、T2はスピン−相記憶時間と呼ばれる。位相コヒーレンスのこの損失は、通常、スピン間の相互作用による磁場の低周波変動に起因する。緩和時間T2*は、1/T2*=1/T2+γΔB(式中、γは核磁気回転比であり、ΔBは外部静磁場不均質性である)と定義される。
【0024】
「コントラスト遺伝子」または「コントラスト核酸」との用語は、ここでは、コントラストタンパク質をコードする配列を含む核酸をいうために交換可能に用いられる。
【0025】
「外的に制御されるプロモーター」は、調節可能に当業者により提供されうる条件に応えて転写に影響を及ぼす核酸である。外的に制御されるプロモーターは、テトラサイクリンまたはIPTG等の特定の薬品によるか、または転写部位の外部で容易に調節される温度、pH、酸化状態等の他の状態により調節することができる。
【0026】
「フェリチンタンパク質」との用語は、第1ヘリックス中に鉄配位Glu残基と第2ヘリックス中にGlu−X−X−Hisモチーフを含むヘリックス束構造を有し、結合した鉄を有する多量体構造を形成する傾向により特徴付けられるカルボン酸二鉄タンパク質の集団のいずれも包含するものとする。あるフェリチンは結合した鉄を主にFe(III)の状態で保持する。バクテリオフェリチンはヘムタンパク質である傾向がある。脊椎動物のフェリチンは2つ以上のサブユニットから構築される傾向があり、哺乳動物のフェリチンは重鎖と軽鎖からしばしば構築される。多くのフェリチンは、鉄の豊富な凝集体を内部に有する中空構造を形成する。例示的なフェリチンを下記の表2に示す。
【0027】
「相同性」、「同一性」または「類似性」とは、2つのポリペプチド間または2つの核酸分子間の配列類似性をいう。相同性と同一性は、比較の目的のために配列しうる各配列の1つの位置を比較することによりそれぞれ決定することができる。比較された配列中の等価の位置が同一の塩基またはアミノ酸により占められる場合、それら分子同士はその位置において同一であり、等価の部位が同一または類似(例えば、立体的性質および/または電子的性質が類似)のアミノ酸残基により占められる場合、それら分子同士は当該位置において相同(類似)であるということができる。相同性/類似性または同一性の割合としての発現は、比較されている配列が共有する位置において同一または類似のアミノ酸の数の関数をいう。「無関係」または「非相同」である配列は、本発明の配列に対して40%未満の同一性を共有するが、好ましくは25%未満の同一性を共有する。
【0028】
「相同性」との用語は、類似の機能またはモチーフを有する遺伝子またはタンパク質を同定するために用いられる配列類似性の数学に基づく比較を表す。本発明の核酸配列とタンパク質配列は、例えば、他のファミリーメンバー、関連配列または相同体を同定するために公開データベースに対する検索を実施する「問い合わせ配列」として用いることができる。そのような検索は、Altschul, et al.(1990) J Mol.Biol.215:403−10のNBLASTとXBLASTプログラム(バージョン2.0)を用いて実施することができる。BLASTヌクレオチド検索は、NBLASTプログラム、スコア=100、語長=12で実施して、本発明の核酸分子と相同的な核酸配列を得ることができる。BLASTタンパク質の検索は、NBLASTプログラム、スコア=50、語長=3で実施して、本発明のタンパク質分子と相同的なアミノ酸配列を得ることができる。比較の目的のためにすき間のある配列比較を得るために、ギャップトBLASTを、Altschul et al.,(1997)Nucleic Acids Res. 25(17):3389−3402に記載されたように使用することができる。BLASTプラグラムとギャップトBLASTプログラムを利用する場合、各プログラム(例えば、XBLASTやBLAST)のデフォルトパラメーターを使用することができる。http://www.ncbi.nlm.nih.govを参照されたい。
【0029】
ここで用いられる「同一性」とは、配列が配列マッチングを最大化するように(すなわちギャップと挿入を考慮して)配列された場合に、2つ以上の配列中の対応する位置での同一のヌクレオチドまたはアミノ酸残基の割合を意味する。同一性は、(Comutational Molecular Biology, Lesk, A.M., ed., Oxford University Press, New York, 1988; Biocomputing: Informatics and Genome Projects, Smith, D.W. ed., Academic Press, New York, 1993; Computer Analysis of Sequence Data, Part I, Griffin, A.M., and Griffin, H.G., eds., Humana Press, New Jersey, 1994; Sequence Analysis in Molecular Biology, von Heinje, G., Academic Press, 1987; and Sequence Analysis Primer, Gribskov, M. and Devereux, J., eds., M Stockton Press, New York, 1991; and Carillo, H., and Lipman, D., SIAM J. Applied Math., 48:1073(1988)で記載された方法等の、しかし、これらに限定されない公知の方法により容易に計算することができる。同一性を決定する方法は、試験される配列同士間で最大のマッチを与えるように設計される。さらに、同一性を決定する方法は、公的に利用できるコンピュータプログラムに体系化されている。2配列間の同一性を決定するコンピュータプログラム法は、GCGプログラムパッケージ(Devereux, J., et al., Nucleic Acids Research 12(1): 387(1984))、BLASTP、BLASTNおよびFASTA(Altschul, S.F. et al., J. Molec. Biol. 215:403−410(1990)およびAtschul et al. Nuc. Acids Res. 25:3389−3402(1997))が挙げられるが、これらに限定されない。BLAST XプログラムはNCBIと他のソースから公的に利用可能である(BLAST Manual, Altschul, S., et al., NCBI NLM NIH Bethesda, Md. 20894; Altschul, S., et al., J. Mol. Biol. 215:403−410(1990))。
【0030】
ここで用いられる「鉄結合タンパク質」との用語は、生理学的に関連する条件下で鉄に結合するタンパク質を含むことを意図する。一定の鉄結合タンパク質はヘム等の補助因子により鉄と相互作用する。多くの他の例示補助因子もここに記載されている。他の鉄結合タンパク質は、ヒスチジン、アスパルテート、グルタメート、アスパラギンおよびグルタミン等の、しかし、これらに限定されない適当なアミノ酸とともに鉄結合部位を形成する。本発明の鉄結合タンパク質は鉄に結合するが、他の金属にも結合する可能性がある。したがって、ここで用いられる「鉄結合タンパク質」は、該タンパク質がまったく鉄だけに結合することや、さらに、該タンパク質が他の金属よりもさらに固く鉄に結合することを示すことを意味しない。
【0031】
「鉄調節タンパク質」とは、細胞中での鉄の利用、処理および/または蓄積に関与するタンパク質をいう。鉄調節タンパク質として、例えば、鉄のホメオスタシスを調節するタンパク質、細胞内または細胞外への鉄輸送を調節するタンパク質、鉄に関連する要素の産生に関与するタンパク質(例えば、フェリチンやトランスフェリン)等が挙げられる。鉄調節タンパク質は鉄に直接結合してもしなくてもよい。
【0032】
「調節」または「調節する」との用語は、ポリペプチドの発現に関連して用いられる場合、遺伝子発現を上方制御するか(例えば、活性化または刺激により発現を増加する)、または遺伝子発現を下方制御する(例えば、阻害または抑制により発現を減少する)能力をいう。
【0033】
ここで用いられる「核酸」との用語は、デオキシリボ核酸(DNA)や、必要に応じて、リボ核酸(RNA)等のポリヌクレオチドをいう。この用語は、ヌクレオチド相同体(塩基および/または骨格、例えば、ペプチド核酸、ロックされた核酸、マンニトール核酸等に関する相同体を含む)から作られたRNAまたはDNAのいずれかの相同体や、記載される実施態様への応用可能性に応じて、一本鎖(センスまたはアンチセンス等)、二本鎖または高次構造のポリヌクレオチドを包含することも理解しなければならない。
【0034】
「作動可能に連結された」との用語は、ここでは、制御配列と遺伝子との関係をいうために用いられる。制御配列が産生される遺伝子産物の量に対して測定可能な効果を及ぼすことができるように制御配列が遺伝子に対して配置されている場合、該制御配列は遺伝子に対して作動可能に連結されている。
【0035】
「植物」との用語は、全植物体、植物器官(例えば、葉、茎、根等)、種子および植物細胞やそれらの子孫をいう。「植物細胞」との用語は、種子、懸濁培養液、胎芽、分裂領域、カルス組織、葉、根、新芽、配偶体、胞子体、花粉および小胞子を包含することを意味する。単子葉と双子葉の両方の植物をここに記載の組成物と方法にしたがって用いてよい。
【0036】
「植物発現カセット」との用語は、植物細胞中のオープンリーディングフレームからのタンパク質の発現をもたらすことのできるDNA構築物をいう。通常、発現カセットはプロモーターとコード配列を含む。発現カセットは、(i)3’非翻訳領域または(ii)「シグナル配列」または「リーダー配列」(葉緑体(または他の色素体)、小胞体またはゴルジ体等の一定の細胞内構造へのペプチドの翻訳時または翻訳後の輸送を容易にする配列)の1種類以上の配列を任意に含んでよい。
【0037】
「植物形質転換ベクター」との用語は、植物細胞の効率的な形質転換を可能とするDNA構築物をいう。そのような構築物は、1つ以上の植物発現カセットからなってよく、2つ以上の「ベクター」DNA分子へと構築してよい。例えば、バイナリーベクターは、植物細胞の形質転換のためにすべての必要なシス作動性機能とトランス作動性機能をコードする2つの不連続DNAベクターを利用する植物形質転換ベクターである(Hellens and Mullineaux (2000) Trends in Plant Science 5:446−451)。
【0038】
「ポリリンカー」は、1種類以上の制限酵素による切断のために、少なくとも2つ、好ましくは3、4またはそれ以上の制限酵素認識部位を含む核酸である。制限酵素認識部位は重複してもよい。各制限酵素認識部位は、好ましくは長さが5、6、7、8またはそれ以上のヌクレオチドである。
【0039】
「組換えヘルパー核酸」またはさらに単純には「ヘルパー核酸」は、第二の核酸をキャプシドに包み込ませる機能的成分をコードする核酸である。通常、本発明の文脈において、ヘルパープラスミドまたは他の核酸は、組換えウイルスベクターをキャプシドに包み込ませるウイルス機能と構造タンパク質をコードする。好ましい一実施態様において、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ヘルパー核酸は、AAVポリペプチドをコードし、かつAAV ITR領域を欠如するプラスミドである。例えば、一実施態様において、ヘルパープラスミドは、アデノウイルスITR配列で置換されるAAV ITR領域を除いて、AAVゲノムをコードする。これは、AAV複製欠損組換えベクターの複製とキャプシド形成を可能としながら、野生型AAVウイルスの、例えば組換えによる生成を妨げる。
【0040】
「調節核酸」または「制御配列」として、作動可能に連結されたオープンリーディングフレームの転写に影響を及ぼしうる核酸が挙げられる。調節核酸は、コアプロモーター、エンハンサー要素またはレプレッサー要素、完全な転写調節領域または前記のいずれかの機能的部分であってよい。前記の変異形も調節核酸とみなしてもよい。
【0041】
「小分子」との用語は、約5kD未満、約2.5kD未満、約1.5kD未満または約0.9kD未満の分子量を有する化合物をいう。小分子は、例えば、核酸、ペプチド、ポリペプチド、ペプチド核酸、ペプチド模倣物、炭水化物、脂質または他の有機(炭素含有)分子または無機分子であってよい。多くの製薬会社は、ここに記載の方法の何れかを用いてスクリーニングすることのできる化学混合物および/または生物混合物、しばしば真菌、細菌または藻類の抽出物の広範囲にわたるライブラリーを有する。「小有機分子」との用語は、有機または医薬化合物としてしばしば同定され、かつ、まったく核酸、ペプチドまたはポリペプチドだけの分子は含まない小分子をいう。
【0042】
「試験化合物」との用語は、遺伝子発現の推定上のモジュレーターとして1種類以上の方法により調べられる分子をいう。「コントロール試験化合物」との用語は、所与の核酸構築物からの遺伝子発現に対して公知の効果を有する化合物をいう。例えば、コントロール試験化合物は、所与のプロモーターからの遺伝子発現を活性化するか、所与のプロモーターからの遺伝子発現を阻害するか、所与のプロモーターからの遺伝子発現に対して何の効果も持たないだろう。一定の実施態様において、0.01μM、0.1μM、1.0μMおよび10.0μM等の多様な所定の濃度の試験化合物がスクリーニングに用いられる。試験化合物の例として、ペプチド、核酸、炭水化物および小分子が挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
「毒性マーカー遺伝子プロモーター」との用語は、環境ストレスおよび/または毒性物質に対する細胞または生物の曝露の際に、発現の調節を示す遺伝子の上流の調節領域をいう。毒性マーカー遺伝子の例として、例えば、薬物代謝に関与するタンパク質(例えば、CYP450類、アセチルトランスフェラーゼ、スルホトランスフェラーゼ等)、成長因子とレセプター(例えば、IGF類、インターロイキン、NGF類、TGF類、VEGF等)、キナーゼとホスファターゼ(例えば、脂質キナーゼ、MAPK類、ストレス活性化キナーゼ等)、核内レセプター(例えば、レチノイン酸、レチノイドX、PPAR類等)、転写因子(例えば、癌遺伝子、stat類、NF−カッパΒ、亜鉛フィンガータンパク質等)、DNA損傷修復タンパク質(例えば、ポリメラーゼ、トポイソメラーゼ、GADD類、RAG等)、アポトーシスタンパク質(例えば、BCL−2ファミリー、Bad、Bax、カスパーゼ、Fas等)、ストレス応答タンパク質(例えば、薬物輸送体、熱ショックタンパク質等)、膜タンパク質(例えば、ギャップ結合タンパク質、Na+/K+アデノシン三リン酸分解酵素、セレクチン等)、細胞周期制御因子(例えば、サイクリンと関連タンパク質)および炎症に関与するタンパク質(例えば、ケモカイン、サイトカイン、ケモカイン、ケモカインレセプター、サイトカインレセプター、インターロイキン、インターロイキンレセプター、TNFリガンド、TNFリガンドレセプター等)をコードする遺伝子が挙げられる。上記の多様な機能的カテゴリーのマウスとヒトの遺伝子の具体的な例を表1に示す。表1に示される遺伝子の塩基配列とそれらの調節領域は、例えば、ジェンバンク(ncbi.nlm.nih.govのワールドワイドウェブ)等の公的に利用可能なデータベースに見ることができる。「毒性物質」は、生物への投与に安全でないと思われる物質またはその量を含むことを意味する。例えば、毒性物質は、安全性および/または毒性の理由からヒトへの臨床投与のためにFDAにより承認されないであろう物質を含む。
【0044】
「転写融合」は、少なくとも2つのコード領域を含むmRNAの発現を引き起こす核酸構築物である。換言すれば、2つ以上のオープンリーディングフレームは、両オープンリーディングフレームを単一のmRNAの一部として発現させ、次に宿主細胞により特定される別々のポリペプチドを生じるように転写融合物へと組織化されるだろう。転写融合におけるオープンリーディングフレームは同じ転写制御を受けやすい傾向があるが、コードされたポリペプチドは異なる翻訳後運命(例えば、分解)を受けやすいだろう。「転写融合」は、2つ以上のオープンリーディングフレームが単一のポリペプチドを生じるように結合した「翻訳融合」とは対照的でありうる。「翻訳融合」での融合ポリペプチドは同様な転写、翻訳および翻訳後制御を受けやすい。
【0045】
ここで用いられる「形質移入」との用語は、核酸(例えば発現ベクター)の受容細胞への導入を意味し、ウイルスまたはウイルスベクターに関する「感染」等の一般的な用語を含むことが意図される。「形質導入」との用語は、核酸による形質移入が核酸のウイルス移送による場合にここでは一般的に用いる。ここで用いられる「形質転換」とは、外来性のDNAまたはRNAの細胞取り込みの結果として細胞の表現型が変化するプロセスをいい、例えば、形質転換細胞は組み換え型のポリペプチドを発現し、または伝達された遺伝子からのアンチセンス発現の場合、組換えタンパク質の天然に存在する形が破壊される。
【0046】
「形質転換植物」または「改変植物」との用語は、例えば、コントラストタンパク質のコード配列等の外来性DNA構築物を含む植物細胞を含有する植物をいう。この用語は、核の形質転換(すなわち、形質転換細胞が核ゲノムから発現されている)により作られた植物(トランスジェニック植物)、および色素体形質転換(すなわち、形質転換細胞が色素体ゲノムから発現されている)により作られた植物(トランスプラトミック植物)を含むが、これらに限定されない。形質転換植物は、有性生殖および無性生殖により作られた植物苗木および植物子孫を含む。
【0047】
ここで用いられる「導入遺伝子」との用語は、細胞に導入された核酸配列をいう。導入遺伝子が導入された細胞に由来する娘細胞もまた導入遺伝子を含むと言われる(それが欠失しない場合)。導入遺伝子は、部分的または完全に異種、すなわち、それが導入されるトランスジェニック動物または細胞に対して外来である、例えば、ポリペプチドをコードすることができる。任意に、導入遺伝子にコードされたポリペプチドは、それが導入されるトランスジェニック動物または細胞の内在性遺伝子に対して同族であってよいが、それが挿入される細胞のゲノムを変更するようにゲノムに挿入されるように設計してもよく、または挿入される(例えば、天然遺伝子とは異なる位置に挿入される)。もしくは、導入遺伝子はエピソームに存在してもよい。導入遺伝子は、選択されたコード配列の最適な発現に必要となりうる1種類以上の転写制御配列およびそれ以外の核酸(例えば、イントロン)を含むことができる。導入遺伝子は、ポリペプチドをコードする領域を含まなくてもよいが、そのような場合、rRNA、tRNA、リボザイム等の機能的に活性のあるRNAの発現を一般的に指令するだろう。「治療導入遺伝子」とは、生物学的機能を対象に有益であるように変える目的のために、細胞、組織および/または生物に導入される導入遺伝子である。
【0048】
「一過性の形質移入」とは、しばしば、外来性の核酸が形質移入細胞のゲノムに組み込まれない場合、例えば、エピソームDNAがmRNAに転写されてタンパク質へと翻訳される場合に、該核酸が比較的短い時間保持される場合をいう。ウイルスの翻訳領域を含む核酸構築物が細胞膜内に導入され、ウイルスの翻訳領域が娘細胞に受け継がれうる場合に、細胞は該核酸構築物により「安定に形質移入」されている。
【0049】
「ウイルス粒子」とは、少なくとも1つの核酸と、少なくとも1つのウイルスタンパク質を含むコートとの集合体である。一般的に、核酸を細胞に移送するために用いられるウイルス粒子は核酸を細胞に挿入する能力を保持するが、自己複製等の多くの他の機能に対しては不完全であろう。
【0050】
2.例示方法
一部の態様において、本発明は、遺伝的な指令により、インサイチュで作られ、金属原子の捕捉により強力にされる細胞内コントラスト物質を用いてMRIを実施するための方法に関する。捕捉された金属原子は、好ましくは内在性の金属原子、例えば、鉄原子である。一定の実施態様において、本発明の方法は、対象材料を、金属結合タンパク質等の細胞内コントラスト物質の合成の指令をコードする核酸に接触させることからなる。そのような実施態様において、適当な細胞による内部移行の際に、核酸は、利用可能な金属原子に結合することによりコントラスト物質として強力になる金属結合タンパク質の産生を指令する。別の実施態様において、本発明の方法は、例えば、細胞内の金属量を増加させることにより、または金属結合タンパク質の発現および/または活性に影響を与えることによりコントラストに間接的に影響を与えるタンパク質または核酸に対象材料を接触させることからなる。ここに記載される細胞内コントラストタンパク質は、そのような物質を作ることのできる培養細胞、組織および単細胞生物から多細胞生物(例えば、ヒト、非ヒト哺乳動物、他の脊椎動物、高等植物、昆虫、線虫類、真菌類等)までの範囲の生物等の、しかし、これらに限定されない基本的にどの生物材料の画像化にも用いることができる。ほとんどの生物系は、強力なコントラスト効果を有する多様な金属を含むが、鉄が、細胞内コントラスト物質を強力にするのに有用であるように十分に濃縮されている一般的に唯一の金属であると理解されている。しかし、望ましいなら、画像化される材料は外因性の金属原子を補充してよく、そのような手順は、外因性金属原子により引き起こされる有害効果を低減するように最適化されるのが好ましいであろう。
【0051】
一定の実施態様において、ここに記載の新規なコントラスト技術を用いて、遺伝子発現の調節をインサイチュで調べることができる。例えば、コントラストタンパク質をコードする核酸を、細胞、組織および/または興味のある対象に導入してよい。コントラストタンパク質の発現に適当な細胞内条件を有する細胞は、コントラストタンパク質を産生しない細胞からMRIによって区別することができる。一定の実施態様において、コントラストタンパク質をコードする核酸を常時活性型の制御配列に作動可能に連結させる。さらなる実施態様において、コントラストタンパク質を制御配列に作動可能に連結させて、コントラストタンパク質の産生を、温度の変化、インデューサーまたはレプレッサーの濃度等の1種類以上の外因的に制御される条件の適用により調節してもよい。さらに別の実施態様において、制御配列の活性は少なくとも部分的には知られていない。さらなる実施態様において、コントラストタンパク質をコードする核酸を制御配列に作動可能には連結させない(または弱いプロモーターに作動可能に連結させる)。この種の「プロモーターを持たない」構築物を用いて、制御活性を「エンハンサートラップ」に類似の方法で供給する内在性配列を同定することができる。
【0052】
一定の例示的実施態様において、本発明の方法および組成物は、治療導入遺伝子等の興味のある導入遺伝子の発現をモニターするために用いられる。治療導入遺伝子等の興味のある導入遺伝子と、制御配列に作動可能に連結させたコントラストタンパク質のコード配列を含有する核酸構築物との両方に対象材料を接触させる。一つのバリエーションにおいて、興味のある導入遺伝子の産生とコントラストタンパク質の産生はともに機能的に類似(任意に同一)の制御配列によって調節される。例えば、一定のウイルス末端リピートプロモーター等の強力な構成的プロモーターの指令を受けた導入遺伝子に対象材料を接触させた場合、コントラストタンパク質をコードする遺伝子の発現は、同一のプロモーターまたは類似の発現パターンを有するように設計されたプロモーターの指令も受けているに違いない。一部のバリエーションにおいて、興味のある導入遺伝子が最初に導入され、次に、後の段階でコントラストタンパク質をコードする核酸を導入する。別のバリエーションにおいて、コントラストタンパク質をコードする核酸を興味のある導入遺伝子と同時に導入し、任意に、コントラスト核酸および興味のある導入遺伝子が同一のベクターに位置している。一定の実施態様において、コントラスト核酸は興味のある導入遺伝子との転写融合物として発現させる。さらなる実施態様において、コントラスト遺伝子と興味のある導入遺伝子(またはその第2コピー)を融合タンパク質として発現させてもよい。融合タンパク質は、治療導入遺伝子の有効性が翻訳後調節によって影響されると考えられる場合に望ましいだろう。対象材料がMRIにより画像化され、コントラストタンパク質を有する細胞を検出して、それを、コントラストタンパク質を持たない細胞から区別できる。好ましい実施態様において、MRIにより検出されるコントラストレベルは、興味のある導入遺伝子の発現レベルと相関するか、またはそれを示すものとなるだろう。
【0053】
さらなる例示実施態様において、本発明の方法と組成物は、興味のある制御配列のインサイチュでの調節活性を調べるために用いることができる。対象材料を、コントラストタンパクをコードし、かつ興味のある制御配列に作動可能に連結させた核酸に接触させる。適当な細胞内にいったん内部移行すると、興味のある制御配列により調節されるレベルでコントラスト遺伝子が発現する。好ましい実施態様において、MRIにより検出されるコントラストのレベルは興味のある制御配列の活性レベルに相関するだろう。興味のある制御配列は、プロモーター、エンハンサー、プロモーター/エンハンサーの全領域、前記のものの変異形または変化形、または前記のものの1つ以上の部分等の、しかし、これらに限定されない基本的に何れの制御配列であってもよい。
【0054】
さらなる例示実施態様において、ここに記載の方法は、生理学的に重量な制御配列がインサイチュで活性があるかどうかを決定するために用いることができる。例えば、p53タンパク質は、DNA損傷に応えてその調節作用を部分的に及ぼすレギュレーターであって、細胞増殖とアポトーシスの広く認識されたレギュレーターである。したがって、コントラストタンパク質をコードする核酸に作動可能に連結されたp53応答性制御配列は、p53調節経路が活性化されている細胞のインサイチュでの検出を可能とするだろう。同様に、本発明の方法は、例えば、前増殖シグナル経路の状態を調べるため(例えば、癌細胞または前癌細胞を同定するため)、または炎症経路の状態(例えば、移植器官の内部またはその近くのホスト組織内および/またはドナー組織内の炎症経路の状態)を評価するため、または発達の過程においてプロモーターの活性化を非侵襲的に画像化するためなどに用いることができる。本開示を鑑みれば、当業者は無数の関連する方法を開発することができるだろう。
【0055】
生物学者によりルーチン的に実施されるβ−ガラクトシダーゼ(β−Gal)または緑色蛍光タンパク質(GFP)を用いるアッセイ等の伝統的なレポーター遺伝子アッセイと本発明の一定の実施態様との間に類似性を引き出しうる。したがって、本発明の一定の方法は他の慣用の細胞スクリーニング方法の代わるものとして用いることができる。例えば、候補医薬品を評価する方法は、有益なレポーター遺伝子構築物を有する細胞への候補医薬品の接触を伝統的に伴う。今や、標準的なレポーター遺伝子がコントラスト遺伝子により置き換えられ、標準的な検出系がMRIにより置き換えられる。本発明の一定の実施態様は伝統的なレポーター遺伝子アッセイの代わりに用いることができるが、これらの伝統的なアッセイはそれらの有用性においてはるかに限定されている。例えば、伝統的なアッセイは、無傷組織内の深い所での遺伝子発現の可視化には効果的でない光学系読み取り技術を用いており、生物材料の組織学的処理をしばしば必要とする。対照的に、本発明の実施態様はMRIコントラスト物質をレポーター遺伝子として用いて、光学的に不透明な組織内の深い所でのMRIによるシグナル読み取りを可能とし、所望であれば、対象材料の生物学的機能の有るか無しかの破壊によって読み取り情報を得てもよい。
【0056】
別の実施態様において、試験化合物の安全性および/または毒性の評価方法が提供される。トキシコゲノミクストキシコゲノミクスとも称される毒性研究に利用される遺伝子発現分析は、より迅速かつ費用効果の高い方法で、より安全な医薬を同定する有用な道具として医薬品産業で迅速に受け入れられつつある。毒性の基礎となる機構の同定と、医薬発見プロセスにおいて初期に安全性義務を同定する手段の提供との両方で、医薬安全性評価に対する遺伝子発現プロファイリングを利用する有用性が研究により示されてきた。トキシコゲノミクスはヒトにおいて新しい医薬候補または市販品の有害な医薬反応をより良く同定し、評価する可能性を有する。肝毒性および腎毒性がしばしば最も大きな懸念であるが、他の組織毒性と変異原性毒性とに関連したリスクにも興味が持たれている。特に肝臓において、トキシコゲノム研究は、AhRシグナル伝達、PXRシグナル伝達およびPPARシグナル伝達に関連した毒性マーカー遺伝子の発現と、第一相、第二相および第三相の医薬代謝酵素(ほぼ全ての主要なチトクロームp450イソ酵素を含む)とに焦点が置かれてきた。ここに開示のコントラスト物質はトキシコゲノミック研究に用いることができ、その検出手法は非侵襲性であるので、該コントラスト物質は単一の動物で時系列の遺伝子発現を可能とする。例えば、コントラストタンパク質のコード配列に作動可能に連結された毒性マーカー遺伝子を含む核酸構築物を含有する細胞を試験化合物に接触させてよい。次に、毒性マーカー遺伝子プロモーターからの発現レベルに対する試験化合物の効果を、MRIを用いて決定することができる。MRIにより検出されるコントラストのレベルは毒性マーカー遺伝子プロモーターからの発現レベルに相関するか、またはそれを示すものとなるだろう。試験化合物の存在下での遺伝子発現のレベルの何れの変化も、試験化合物が細胞に対して毒性効果を有しえることを示すだろう。一定の実施態様において、コントラストタンパク質の発現レベルの増加は、(例えば、コントラストタンパク質が、毒性物質への接触に応じて発現の増加を示すことが知られている遺伝子に由来するプロモーターに作動可能に連結されている場合に)毒性を示すだろうし、もしくはコントラストタンパク質の発現レベルの減少は、(例えば、コントラストタンパク質が、毒性物質への接触に応じて発現の減少を示すことが知られている遺伝子に由来するプロモーターに作動可能に連結されている場合に)毒性を示すだろう。この方法は、毒性マーカー遺伝子プロモーターからの発現に直接または間接に影響を及ぼす試験化合物(例えば、試験化合物は毒性マーカー遺伝子プロモーターからの転写に影響を及ぼすタンパク質の発現および/または活性のレベルを調節する)を評価するために用いることができる。例示的実施態様において、試験化合物の毒性レベルは、例えば、マウス、ラット、イヌ、サル、ブタ、ショウジョウバエ、線虫または魚等の非ヒト多細胞生物にて評価される。そのような生物は、(例えば、コントラストタンパク質のコード配列に作動可能に連結された毒性マーカー遺伝子プロモーターを含む核酸構築物を含有するように生物の生殖細胞系を改変した)トランスジェニックであってもよいし、またはコントラストタンパク質のコード配列に作動可能に連結された毒性マーカー遺伝子プロモーターを含む核酸構築物により(例えば、ウイルスベクター等を用いて)形質移入された一部の細胞を含んでもよい。生物中で毒性を調べる場合、毒性マーカー遺伝子プロモーターからの発現の変化を生物全体にわたり、該生物の1つ以上の特定の位置(例えば、特定の組織または器官、例えば、腎臓または肝臓)において、1つ以上の位置等で経時的に評価するのが有用であろう。例示的な実施態様において、コントラストタンパク質のコード配列に作動可能に連結された1つ以上の毒性マーカー遺伝子プロモーターを含む核酸構築物を含有するトランスジェニック動物を、候補化合物の安全性および/または毒性の前臨床評価の目的のために候補医薬化合物に接触させる。一定の実施態様において、異なる毒性マーカー遺伝子プロモーターに作動可能に連結されたコントラスト物質のコード配列を含む一群のトランスジェニック動物に対して候補化合物をスクリーニングすることは有用であろう。別の実施態様において、単一のトランスジェニック動物は複数のコントラスト物質レポーター構築物(例えば、多様な毒性マーカー遺伝子プロモーターに作動可能に連結されたコントラストタンパク質のコード配列)を含むことができる。そのような実施態様において、例えば、ウエスタンブロットまたはノーザンブロットを用いるさらなるスクリーニングを用いて毒性マーカーをさらに評価してよい(例えば、各構築物は、試験化合物に対する曝露の際に発現の変化を示した特定の構築物を同定するために独自のタグを含んでよい)。もしくは、多様な導入遺伝子構築物の発現は、ここに記載の技術を用いて動物内の異なる特定の位置を標的とすることができるだろう。このようにして、異なる毒性遺伝子の発現を、MRI画像法による導入遺伝子発現の位置の決定に基づいて同一の動物で決定することができるだろう。
【0057】
毒性の多数のマーカー遺伝子が同定されており、事実上すべてのそのような遺伝子の調節エレメントを、コントラストタンパク質をコードする遺伝子に作動可能に連結して、毒性応答性のコントラスト遺伝子を作ってよい。毒性マーカーの例が表1に示されており、さらなる毒性マーカー遺伝子はこの明細書を鑑みれば当業者には明らかであろう。
【0058】
【表1−1】

【0059】
【表1−2】

【0060】
【表1−3】

【0061】
【表1−4】

【0062】
【表1−5】

【0063】
【表1−6】

さらに別の例示実施態様において、本発明の方法と組成物は、対象材料に投与されたベクターの分布を評価するために用いることができる。例えば、生物を形質移入するように設計されたベクターは、適当なプロモーターに作動可能に連結されたコントラストタンパク質をコードする核酸を含むだろう。任意に、プロモーターは広い範囲の組織型で検出可能なレベルの発現を提供するように選択されるだろう。例えば、強力な構成的プロモーターを選択してよい。形質移入された生物材料をMRIにより画像化して、ベクターで形質移入された細胞を同定する。この例示的方法はベクターを投与する多くの異なる方法(例えば、特に興味のある解剖学的領域または器官への導入、循環系、リンパ系等への導入)に組合せてよく、これらの各アプローチにより得られたベクター分布と転写レベルとを比較するために用いてよい。特定の組織を標的とするデリバリーシステムの場合、組織特異性を確認または最適化するために例示の方法を用いてよい。別の例として、本方法を用いれば、研究者は、特定の遺伝子治療システムの投与後に得られた遺伝子発現の位置および任意にそのレベルを決定することによって遺伝子治療プロトコールを最適化または開発できるだろう。
【0064】
本発明の多くの実施態様は、人工的に誘導された細胞内コントラスト物質の生成に関する。前記の多くの実施態様において、細胞内コントラスト物質の産生は直接的コントラストタンパク質をコードする核酸を導入することにより達成される。一般的に、コントラスト物質の産生は別の方法により達成されるだろう。例えば、細胞内コントラスト物質のインサイチュでの産生は、間接的コントラスト物質をコードする核酸を導入することにより促進することができる。間接的コントラスト物質は、例えば、鉄ホメオスタシスを調節し、直接的コントラスト物質をコードする内在性遺伝子の発現を調節し、および/または直接的コントラスト物質、例えば、フェリチンとして働くことのできる内在性タンパク質の活性を調節するタンパク質または核酸であってよい。別の例として、コントラスト物質の産生は、対象材料を、コントラスト物質の産生を誘因する組成物に接触させることにより誘発してよい。例えば、細胞を、効果的なコントラスト物質であるフェリチンを細胞に産生させる鉄源等の物質に接触させてよい。したがって、本発明は、直接的コントラスト物質ではなく、核酸でもタンパク質でもないが、それにもかかわらず細胞内コントラスト物質のインサイチュでの産生の誘導に有用である物質を包含すると理解されたい。
【0065】
一定の態様において、多様なベクターのいずれかを、一般的または生物/組織/細胞型特異的にかかわらずに用いて、例えば、リポソーム、ウイルス粒子、エレクトロポレーション等の多様なデリバリーシステムと組み合わせることで本発明の核酸を生物材料に導入してよい。さらなる態様において、リポソーム融合、エレクトロポレーション、細胞によって内部移行した部分への付着等の多様な方法により本発明のタンパク質を細胞に直接投与してもよい。
【0066】
コントラストタンパク質をコードする核酸を細胞に導入する一定の実施態様において、ごく僅かの時間または任意に調節された時間で、細胞内で活性があるか、または存在する遺伝子を有することが望ましいだろう。所望であれば、一過性の形質移入系、好ましくは、平均して1日または2日間よりも短い時間で発現させるベクターを用いてよい。もしくは、または同時に、遺伝子発現を、外的に制御されるプロモーターを用いて調節してよく、または、さらなる例として、リコンビナーゼの活性化が、コントラストタンパク質をコードする核酸の不活性化(または、望ましいのであれば、活性化)を引き起こすように、コントラスト遺伝子またはその一部を1つ以上の組換え部位に対して位置付けてよい。
【0067】
特定の一連のプロモーターをマーカーとして用いて組織中の示差的細胞活性を調べることができる。例えば、c−fos、c−junおよびegr−1等の前初期遺伝子(IEG)は、数々の細胞内シグナル伝達経路により転写調節される転写因子をコードし、下流の後期遺伝子の転写活性をもたらす。多様な細胞外または生理学的刺激は、これらの細胞シグナル伝達を活性化するスイッチを提供する。これらのIEGの活性化は、細胞がそれらの環境下でシグナルに応答する遺伝的回路網を含む、下流遺伝子を活性化する転写カスケードをもたらす。例えば、これらのシグナルは、ホルモン刺激、感覚刺激、運動皮質の刺激または他の運動行動により、または多様な神経伝達物質系に作用する多様な医薬と毒素により神経細胞中に誘導されるだろう。IEGは洗練された組織特異的な方法で一時的に活性化されうるので、MRIレポーターとともに用いられるIEGの転写プロモーターは組織の代謝活性化を細胞レベルで研究するための理想的なシステムである。
【0068】
本発明の多くの実施態様は、複数のコントラストタンパク質をコードする核酸、例えば、哺乳動物のフェリチンの重鎖と軽鎖をコードする核酸またはフェリチンとフェリチンレセプターをコードする核酸の使用を伴う。
【0069】
一定の実施態様において、細胞内コントラスト物質を対象材料での安全性のために選択し、対象がヒト対象である場合、細胞内コントラスト物質はヒトでの使用に安全であることが好ましい。
【0070】
3.コントラスト物質
上記のように、多くの態様において、本発明の方法は、MRIコントラストをインビボで作り出す1つ以上のコントラストタンパク質を使用する。コントラストタンパク質は、MRIコントラストを与える第2タンパク質を細胞に産生させることによりMRIコントラストを直接または間接に与えるだろう。直接的イフェクターの場合、コントラストタンパク質は、通常、緩和時間T1、T2および/またはT2*の少なくとも1つの変化(この変化はMRI中にコントラスト効果を導く)を作る複合体を形成するだろう。しばしば、直接的コントラストタンパク質は金属タンパク質複合体を形成する。間接的イフェクターの場合、コントラスト物質は、例えば、鉄ホメオスタシスを調節し、直接的コントラスト物質をコードする内在性遺伝子の発現を調節し、および/または直接的コントラスト物質として働きうる内在性タンパク質の活性を調節することによりコントラスト効果を生じるタンパク質または核酸であってよい。一定の実施態様において、ここに記載の方法は直接と間接の両方のコントラスト物質を伴ってよい。例示的実施態様において、ここに記載の方法および/または組成物は、鉄ホメオスタシスに影響を及ぼす間接的コントラスト物質と直接的コントラスト物質(金属結合タンパク質等)を含む。
【0071】
金属結合ポリペプチドを直接的コントラスト物質として用いる本発明の態様において、金属結合タンパク質は、好ましくは、効果的なコントラストを提供する1つ以上の金属に結合するだろう。多様な金属、特に、dまたはfオービタルに不対電子を有するもの(例えば、鉄(Fe)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、ゴドリニウム(Gd)等)はコントラスト化物質の元素として効果的である。上記のように、鉄は哺乳動物およびほとんどの他の生物に比較的高いレベルで存在し、したがって、鉄の検出可能な蓄積が外因性の鉄の補充を用いることなく生じるだろうから、鉄は特に興味がある。したがって、本発明の好ましい鉄結合タンパク質は鉄結合タンパク質である。T2コントラスト物質を用いる実施態様において、金属結合の配列は重要ではないが、そのコントラストは、大量の金属が共に濃縮されている場合にさらに高い傾向がある。一定の好ましい実施態様において、効果的な金属は、直径が10ピコメーターを超え、直径が任意に100ピコメーターを超え、1ナノメーターを超え、10ナノメーターを超え、または100ナノメーターを超える金属に富む凝集体、任意に結晶様凝集体に結合するに違いない。もしくは、金属に富む凝集体は、直径が、ポリペプチド複合体中で1〜100ナノメーターの範囲にあるに違いない。特に好ましい実施態様において、金属に富む凝集体は超常磁性の性質を示す。鉄結合ポリペプチドが用いられる場合、ポリペプチドが無毒のFe(III)酸化状態で鉄を保持するのであれば、その鉄結合ポリペプチドが好ましい。Fe(II)も効果的なコントラスト化物質であるが、Fe(II)は、潜在的に不利なヒドロキシルラジカルを生じる鉄触媒フェントン反応に関与することがある。
【0072】
好ましい実施態様において、本発明の直接的コントラストタンパク質は、迅速な細胞内タンパク質の組み立てと金属負荷、高い常磁性磁化率を有する金属に富む凝集体の形成を促進する傾向、および比較的無毒な形の金属(例えば鉄の場合、Fe(III)状態)を保持する能力といった性質を有する。
【0073】
一定の態様において、金属結合ポリペプチドは、金属代謝を撹乱し、コントラスト効果を有する内在性金属結合ポリペプチドの発現を促進することにより細胞のコントラスト性を変化させてもよい。これは、さらに細胞における特定の金属の蓄積または欠乏を導くだろう。例えば、高親和性の鉄結合タンパク質の一過性の発現は、細胞内の不安定な鉄のプールの一過性の減少を引き起こし、トランスフェリンレセプターの産生を促進することにより、正味の鉄の細胞への取り込みを増加させるだろう。
【0074】
異なる金属に対する金属結合タンパク質の正確な結合親和性は重要ではないが、1種類以上の効果的な金属に対するナノモル未満の親和性を有するポリペプチドが有用であることが一般的には予想され、任意に、ポリペプチドは、1種類以上の効果的な金属に対して10−15M、10−20M未満またはそれ以下の解離定数を有するだろう。多くの金属結合タンパク質は2種類以上の金属に結合することがわかっている。例えば、ラクトフェリンは、マンガンや亜鉛等の金属と複合体を形成する。フェリチン−鉄複合体は、一般的に、いくぶんか少ない量で(恐らく微量の)他の金属を含むことが予想される。一般的に、鉄結合タンパク質は、マンガン、コバルト、亜鉛およびクロム等の金属に結合する可能性があるが、インビボでは鉄の濃度と豊富さがこれらの他の金属よりも非常に高いので、鉄結合タンパク質は主に鉄に結合するだろう。
【0075】
本発明の幾つかの例示的な金属結合ポリペプチドが提供される。これは完全な表であることを決して意図するものではないが、ここでの教示を鑑みれば、当業者は他の有用な金属結合ポリペプチドを同定または設計することができるだろう。
【0076】
一定の例示的実施態様において、1つ以上のフェリチンをコントラストタンパク質として用いてよい。本発明のフェリチンは、第1ヘリックス中に鉄配位Glu残基と第2ヘリックス中にGlu−X−X−Hisモチーフを含むヘリックス束構造を有し、結合した鉄を有する二量体または多量体構造を形成する傾向により特徴付けられるカルボン酸二鉄タンパク質の集団のいずれも包含する。あるフェリチンは結合した鉄を主にFe(III)の状態で保持する。例示的なフェリチンの一覧表を表2に示す。この一覧表は実例の提供を意図するものであって、網羅的であることを意図するものではない。多くの知られたフェリチンは含まれていないが、ほとんどの脊椎動物種は、コントラスト物質として用いることのできる形のフェリチンを有することが分かっている。本明細書を鑑みれば、当業者はさらなるフェリチン相同体を同定することができるだろう。一定の実施態様において、コントラスト化物質として用いられるフェリチンは、配列番号2および/または配列番号4のアミノ酸配列に対して少なくとも50%の同一性を有する必要があり、任意に、配列番号2および/または配列番号4のアミノ酸配列に対して少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%または100%の同一性を有する必要がある。
【0077】
多くの実施態様において、本発明の方法は脊椎動物のフェリチンをコントラスト物質として用いる。通常、脊椎動物のフェリチンは、鉱物のコンパクト形で鉄が蓄積されている空洞の境界を定めるシェル内に集合する大きい複合体を形成する。ほとんどの哺乳動物のフェリチンは2種類のサブユニット(H鎖とL鎖)からなる。通常、これらの2種類の鎖のそれぞれの内在性mRNAは、鉄調節タンパク質(IRP)に結合することによりフェリチン翻訳を調節する5’末端に近接するほとんど同一の鉄応答性要素(IRE)を有する。フェリチンの異所性発現のために核酸構築物を設計する場合、IRE配列を省くか、さもなければ壊すことがしばしば望ましいだろう。培養細胞を高濃度の鉄に接触させることは、通常、L鎖とH鎖の両方の強い上方調節を引き起こす一方で、デスフェリオキサミン等の鉄キレート剤による処理はフェリチン産生を抑制する。本発明の好ましいフェリチンは、Fe(II)型からFe(III)型への鉄酸化工程を触媒し、さらに鉄鉱物核の核生成と成長を触媒する。複数のサブユニットからなるフェリチンの場合、通常、天然の複合体中に見られる比率に近似する化学量論ですべてのサブユニットを発現することが望ましいだろう。しかし、通常、広い範囲のサブユニットの比率が効果的であることが注目される。例えば、ヒトH鎖は、鉄に結合するホモポリマーを形成することができる。過剰発現から生じる過剰のフェリチンは、通常、細胞内で分解し、その主要な崩壊生成物はヘモシデリン沈着物である;これらもコントラスト物質として効果的である。
【0078】
【表2−1】

【0079】
【表2−2】

一定の実施態様において、H−およびL−フェリチンサブユニットは融合タンパク質として発現してもよい。これらの単鎖キメラフェリチン(「sc−Ft」)は、細胞に発現される場合、サブユニットの固定された化学量論を有する(例えば、1:1、但し、2:1または1:2等の比率を選択してもよい)。それらのサブユニットは基本的にどのような順序にあってもよく、それらサブユニットは直接に互いに融合してもよく、またサブユニット間にリンカーが存在してもよい。好ましくは、リンカーは各サブユニットの互いの折りたたみを容易にするように柔軟性がある。リンカーポリペプチドは多様な機能をsc−Ftに付与するように設計してよい。例えば、リンカーは独自のエピトープタグ(例えば、HAエピトープ、YPYDVPDYA;His、HHHHHH;c−MYC、EQKLISEEDL;VSV−G、YTDIEMNRLGK;HSV、QPELAPEDPED;V5、GKPIPNPLLGLDST)をコードすることができるだろう。そのようなエピトープタグは、高度に選択的な抗体を用いる免疫組織化学診断を用いることで容易に検出することができるので、例えば、MRI検査後にsc−Ftレセプターを発現する細胞や組織の組織学的検査を容易にする。もしくは、これらのエピトープタグは、免疫精製や他の親和性試薬を用いて細胞溶解物から組換えsc−Ftタンパク質を生化学的に単離するために用いることができる。さらに、蛍光タンパク質(その例はGFPまたはDS−redの変種)や酵素(例えば、β−ガラクトシダーゼ、GSTまたはHRP等)等の機能的マーカーをリンカーに取り込むことにより2つのFTサブユニットを連結すると同時に標識することもできるだろう;次に、蛍光顕微鏡、組織診断または生化学技術を用いてリンカーを検出することができる。さらに、リンカーポリペプチドは細胞内の特定のタンパク質を標的とするように設計することができ、すなわち、リンカーは細胞内局在化シグナルを含むことができる。例えば、リンカーはシグナルをユビキチン化を行なう酵素による修飾に提供でき、次にこれを用いてsc−Ftレポーターの細胞分解を促進することができる。このようにして、レポーターの分解経路を指定することができ、これは、MRIレポーター活性の速いターンオンおよびターンオフ動力学が望ましい場合、またはMRIレポーターが特定の細胞型では十分な速度で自然に除去されない場合に有用な特徴であろう。
【0080】
さらに、リンカーペプチドは、sc−FtレポーターのMRIコントラスト化機能と安定性を変えるために用いることができる。単鎖キメラ二本鎖分子から形成されるフェリチンシェルの最終構造は、リンカーポリペプチドの柔軟性、長さ、化学的性質(例えば、疎水性や電荷分布)および立体的充填に依存しうる。よって、リンカー設計により、改変構造、インビボでの安定性および増強された機能的性質(すなわち、増強NMR緩和能)を有する新しいフェリチン分子を設計することができる。例えば、リンカーポリペプチドの立体体積、長さ、または強剛性の増加は、十分に形成されたフェリチンシェルの全体的なサイズを増加させ、その結果、さらに大きい鉄負荷容量を容易にする。その上に、構造の他の変化はシェルへの鉄負荷動力学を増加させるだろう。さらに、リンカーはシェルの構造を、細胞中のその安定性とターンオーバー速度が影響されるように改変してよく、これを、細胞中のMRIレポーターのターンオンとターンオフを調節する付加的手段として用いることができる。
【0081】
さらなる実施態様において、本発明の金属結合タンパク質は、シデロホアにより非常に高い親和性で金属に結合するタンパク質と定義される金属スカベンジャーである。そのようなタンパク質をコントラスト物質として用いてよい。機構に縛られることを欲するものではないが、そのようなタンパク質は主に間接的コントラスト物質として作用すると予想される。例えば、細胞で発現した鉄捕捉タンパク質は、細胞内空間内で不安定な鉄のプールから鉄を捕捉し、それと固く結合するだろう。よって、MRIコントラストは、鉄結合キレート自体と、細胞自身の鉄調節機構の結果として捕捉され、保存される追加の金属との組合せにより増強されるだろう。金属を捕捉するタンパク質に存在しうる例示的なシデロホアとして、ヘモグロビンと、6酸素原子により通常形成される正8面体配位球を鉄に提供する他の物質とが挙げられる。一般的に、これらは以下の2カテゴリーに分類される:(a)2,3−ジヒドロキシ−N−ベンゾイルセリンの3分子からなる環状構造を含むエンテロバクチン等のカテコール。さらなる例として、セリンがグリシンまたはスレオニンで置換されている物質が挙げられる。環状構造よりもむしろ直鎖構造を有するシュードバクチン等のカテコールシデロホア類もここに含まれる;(b)ヒドロキサメートは、多様なタイプのヒドロキサム酸を含む環状または直鎖のペプチドを有する大きく可変のグループを含む。通常の例として、フェリクロム、フェリオキサミンおよびアエロバクチンが挙げられる。さらなる例として、フィトシデロホア等の植物シデロホア類が挙げられる。例示的な金属捕捉タンパク質として、哺乳動物のトランスフェリン、オボトランスフェリン、ラクトフェリン、メラノトランスフェリン、セルトリトランスフェリン、ニューロトランスフェリン、粘膜トランスフェリンおよび細菌トランスフェリン等(例えば、インフルエンザ菌、淋菌および髄膜炎菌に見られるもの)のシデロフィリン族の鉄結合タンパク質が挙げられる。
【0082】
さらなる実施態様において、鉄調節タンパク質(IRP)をコントラストタンパク質として用いることができる。IPRは、鉄の取り込み(例えば、トランスフェリンレセプター)、利用(例えば、赤血球5−アミノレブリネートシンターゼ)または保存(例えば、H−フェリチンとL−フェリチン)に機能するタンパク質の合成を調節する鉄調節RNA結合タンパク質である。IRPにより調節されるタンパク質は、鉄反応エレメント(IRE)と呼ばれる1つ以上のステムループモチーフを含むmRNAによりコードされる。低い鉄条件下では、IRPはIREに結合し、影響を受けたmRNAの安定性または翻訳を調節する。一般的に、IREがmRNAの5’UTR領域に位置する場合(例えば、フェリチン類)、IRPは翻訳をブロックし、低い鉄条件で低下したタンパク質産生を引き起こす。IREが3’UTRに位置する場合(例えば、トランスフェリンレセプター)、IRPは通常mRNAを安定化させることにより、低い鉄条件に応えて遺伝子産物の産生を高める。IRP2をコードする遺伝子の標的化欠失を有するマウスは神経組織中に鉄の顕著な蓄積を示す(LaVaute et al., 2001, Nat. Genet. 27(2):209−14)。したがって、例えば、アンチセンスまたはRNAi手法によるIRPの操作はコントラスト効果を提供するだろう。通常、本発明のIRPは、鉄を調節する形でIREに結合する能力を有する。本発明の好ましいIRPは脊椎動物のIRPであり、例えば、ヒトIRP1(受託番号P21399および受託番号Z11559)、ヒトIRP2(受託番号AAA69901および受託番号M58511)、ラットIRE−BP1(受託番号Q63270および受託番号L23874)、マウスIRE−BP1(受託番号P28271および受託番号X61147)、ニワトリIRE−BP(受託番号Q90875および受託番号D16150)等が挙げられる。一般的に、対象の生物材料のIREに結合するIRPを使用することが望ましく、一定の実施態様において、これは、対象種に由来するIRPを用いることにより達成することができる。本発明の一定の態様において、コントラストタンパク質は、ヒトIRP1および/またはIRP2のアミノ酸配列に対して少なくとも60%同一であり、任意に少なくとも70%、80%、90%、95%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0083】
さらなる態様において、本発明のコントラストタンパク質は細胞の鉄ホメオスタシスを乱すものであってよい。例えば、トランスフェリンレセプタータンパク質、および/またはトランスフェリンレセプタータンパク質の発現および/または機能を調節する分子をコントラスト物質として用いることができる。トランスフェリンレセプターは、鉄を保有するタンパク質トランスフェリンのレセプター仲介エンドサイトーシスを仲介することにより、細胞の鉄取り込みを仲介する。したがって、本発明の一実施態様において、標的細胞内のトランスフェリンレセプターのレベルおよび/または活性は、細胞の鉄取り込みの増加を生じるように調節されることで細胞にフェリチンを作らせることができる。その最終結果は、MRIコントラストを生む過剰なフェリチンの蓄積となるだろう。例示的なトランスフェリンレセプターとして、配列番号16、配列番号18、配列番号20および配列番号22が挙げられる。本発明の一定の態様において、コントラストタンパク質は、ヒトトランスフェリンレセプター1(「TfR−1」)および/またはヒトトランスフェリンレセプター2(「TfR−2」)のアミノ酸配列に対して少なくとも60%同一であり、任意に少なくとも70%、80%、90%、95%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸配列を含み、好ましくはトランスフェリンレセプター活性を保持する。下記の実施例で示すように、トランスフェリンレセプターとフェリチンL−、H−サブユニットとを組み合わせた発現は望ましいコントラストシグナルを提供するだろう。
【0084】
さらなる実施態様において、コントラストタンパク質は、DMT−1またはNramp−2等の二価金属輸送体である。最近、二価金属輸送体タンパク質であるDMT−1イソ型IIが再循環するTfR−1と共存することが示された。DMT−1は、鉄の後期エンドソームの内腔から膜を経た細胞質への輸送を仲介し、細胞質において不安定な鉄はフェリチンにより捕捉される。これらは他のタンパク質と共に同時発現させて増強コントラスト効果を達成してもよい。体内の鉄の主要な運搬体はトランスフェリンであり、トランスフェリン−鉄複合体は、トランスフェリンレセプター(TfR)依存経路により、主にTfR−1を経て細胞内に取り込まれる。体内のほとんどの細胞型による金属輸送に関与する主要な輸送体は二価金属輸送体(DMT−1)であり、この輸送体は、TfR−1により細胞内に運ばれた鉄を、エンドソーム系から、鉄が使用されるか、またはFT中に保存されうる細胞質へと輸送する。FT導入遺伝子とともに、TfR−1および/またはDMT−1の上方制御を用いて、正常な生理学的条件下でFeの標的細胞への輸送を増強し、FTへの鉄負荷を高め、NMR緩和率(例えば、画像のコントラスト)を増強することができる。FT導入遺伝子なしにTfRおよび/またはDMT−1のみの過剰発現も、LIPを上げ、内因性FT上方制御をもらすことができ、これは次にMRIコントラストを生むだろう。例えば、Canonne−Hergaux, F., J.E. Levy, M.D. Fleming, L.K. Montross, N.C. Andrews, and P. Gros, Expression of the DMT1 (NRAMP2/DCT1) iron transporter in mice with genetic iron overload disorders. Blood, 97(4): p. 1138−1140 (2001); Moos, T., D. Trinder, and E.H. Morgan, Effect of iron status on DMT1 expression in duodenal enterocytes from beta(2)−microglobulin knockout mice. Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol, 283(3):p. G687−G694(2002); Picard, V., G. Govoni, N. Jabado, and P. Gros, Nramp 2 (DCT1/DMT1) expressed at the plasma membrane transports iron and other divalent cations into a calcein−accessible cytoplasmic pool. J Biol Chem, 275(46):p.35738−35745(2000)を参照されたい。
【0085】
最近、ミトコンドリアのフェリチン相同体であるMt−FTをコードする哺乳動物のイントロンを含まない遺伝子が記載された[例えば、Levi, S., B. Corsi, M. Bosisio, R. Invernizzi, A. Volz, D. Sanford, P. Arosio, and J. Drysdale, A human mitochondrial ferritin encoded by an intronless gene. J Biol Chem, 276(27): p.24437−24440(2001)を参照]。Mt−FTは主要なMRIレポーターとして使用される魅力的な候補である。その理由は、(i)それは単一で、小さく、イントロンを含まない遺伝子上にコードされており、(ii)それはホモポリマーFT等の機能的シェルを構築することができ、(iii)その発現は細胞の原形質を再標的化することができ、(iv)それは鉄を効率的に捕捉する能力を示すからである。Mt−FTの改変型を用いてもよい。そのような改変は、5’配列の置換と天然のミトコンドリアのシグナル伝達配列の除去とによって発現の標的を原形質とするように独自のエピトープタグおよび/または任意に他の改変を取り込むように設計してよい。
【0086】
他の潜在的な金属タンパク質レポーターは細菌に由来するFT相同体(原核生物のフェリチン、すなわち、「Pk−FT」)を含む。Pk−FTは、次の3種類(i)バクテリオフェリチンと呼ばれるヘム含有Pk−FT;(ii)細菌フェリチンと呼ばれるヘム配位部位を欠くPk−FT[Carrondo, M.A., Ferritins, iron uptake and storage from the bacterioferritin viewpoint. Embo J. 22(9):p. 1959−1968(2003); Andrews, S.C., Iron storage in bacteria. Adv Microb Physiol, 40: p.281−351(1998)により概説];および(iii)類似の物理的構造を有するが、12個のサブユニットから構築された12量体フェリチン様分子と呼ばれるPk−FT[Ilari, A., P. Ceci, D. Ferrari, G.L. Rossi, and E. Chiancone, Iron incorporation into Escherichia coli Dps gives rise to a ferritin−like microcrystalline core. J Biol Chem, 277(40):p.37619−37623(2002)]に分けることができる。2種類の遺伝子は大腸菌(Ec)の通常の実験室株に由来する。Ec BFr[Abdul−Tehrani, H., A.J. Hudson, Y.S. Chang, A.R. Timms, C. Hawkins, J.M. Williams, P.M. Harrison, J.R. Guest, and S.C. Andrews, Ferritin mutants of Escherichia coli are iron deficient and growth impaired, and fur mutants are iron deficient. J Bacteriol, 181(5):p.1415−1428(1999); Andrews, S.C., P.M. Harrison, and J.R. Guest, Cloning, sequencing, and mapping of the bacterioferritin gene (bfr) of Escherichia coli K−12. J Bacteriol, 171(7):p.3940−3947(1989);Hudson, A.J., S.C. Andrews, C. Hawkins, J.M. Williams, M. Izuhara, F.C. Meldrum, S. Mann, P.M. Harrison, and J.R. Guest, Overproduction, purification and characterization of the Escherichia coli ferritin. Eur J. Biochem, 218(3):p.985−995(1993)を参照]、およびEC FtnA[Stillman, T.J., P.D. Hempstead, P.J. Artymiuk, S.C. Andrews, A.J. Hudson, A. Treffry, J.R. Guest, and P.M. Harrison, The high−resolution X−ray crystallographic structure of the ferritin (EcFtnA) of Escherichia coli; comparison with human H ferritin (HuHF) and the structures of the Fe(3+) and Zn(2+) derivatives. J Mol Biol, 307(2):p. 587−603(2001)]タンパク質はMRIレポーターとして哺乳動物細胞で発現されるだろう。これらの配列はエピトープタグを含むように改変してもよい。
【0087】
コントラストタンパク質を発現するための一組の例示構築物を下記の表3に示す。
【0088】
【表3】

さらなる実施態様において、本発明のコントラストタンパク質は、例えば、分子生物学の技術を用いることにより設計してよい。例えば、いくつかある特徴の中で特にコントラスト効率、安定性(例えば、インビボにおけるタンパク質分解に対する増加または低下した耐性)、抗原性または安全性の増強等の目的のために対象コントラストタンパク質の構造を改変することができる。そのような改変タンパク質は、例えば、アミノ酸置換、欠失または付加により作ることができる。さらに、ここで議論されるタンパク質のいずれかの単純な変異体を同類置換により得てもよい。例えば、ロイシンのイソロイシンまたはバリンへ、アスパルテートのグルタメートへ、スレオニンのセリンへの単離置換またはあるアミノ酸の構造的に関連したアミノ酸への同様な置換(すなわち保存的変異)は得られる分子の生物活性の大きな効果を持たないことは合理的に予想される。保存的置換とは、側鎖が関連するアミノ酸のファミリー内で起こる置換である。遺伝的にコードされたアミノ酸は次の4ファミリー:(1)酸性=アスパルテート、グルタメート;(2)塩基性=リジン、アルギニン、ヒスチジン;(3)非極性=アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン;および(4)無電荷極性=グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、スレオニン、チロシンに分けることができる。フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシンは一緒に芳香族アミノ酸として分類されることがある。同様に、アミノ酸レパートリーは、(1)酸性=アスパルテート、グルタメート;(2)塩基性=リジン、アルギニン、ヒスチジン、(3)脂肪族=グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン(但し、セリンとスレオニンは任意に脂肪族−ヒドロキシルとして別にグループ分けしてもよい);(4)芳香族=フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン;(5)アミド=アスパラギン、グルタミン;および(6)硫黄含有=システインおよびメチオニンにグループ分けすることができる。(例えば、Biochemistry、第2版、L. Stryer, W.H.編集、Freeman社(1981年)を参照されたい)。
【0089】
さらに、本発明は、主題のコントラストタンパク質の一連のコンビナトリアル変異体の作成方法ならびに機能的切断変異体を意図する。そのようなコンビナトリアルライブラリーをスクリーニングする目的は、例えば、上記のような幾つもの望ましい性質を有する設計コントラストタンパク質を作ることである。
【0090】
可能性のある設計タンパク質のライブラリーを作ることのできる多くの方法が存在する。縮重遺伝子配列の化学合成は自動DNA合成機により実施することができ、次に合成遺伝子を発現のために適当な遺伝子に連結することができる。遺伝子の縮重の組の目的は、1つの混合物中に、可能性のあるコントラストタンパク質配列の所望の組をコードするすべての配列を提供することにある。そのような技術は、他のタンパク質の指向進化に用いられている(例えば、Scott et al.,(1990) Science 249:386−390; Roberts et al.,(1992) PNAS USA 89:2429−2433; Devlin et al.,(1990) Science 249:404−406;Cwirla et al.,(1990) PNAS USA 87:6378−6382;並びに米国特許第5,223,409号、米国特許第5,198,346号および米国特許第5,096,815号を参照)。
【0091】
もしくは、他の形の突然変異誘発を利用してコンビナトリアルライブラリーを作成することができる。例えば、設計したコントラストタンパク質は、例えば、アラニンスキャンニング突然変異誘発等を用いるスクリーニングにより(例えば、Ruf et al.,(1994) Biochemistry 33:1565−1572; Wang et al.,(1994) J. Biol. Chem. 269:3095−3099; Balint et al.,(1993)を参照);リンカースキャニング突然変異誘発により(Gustin et al.,(1993) Virology 193:653−660; Brown et al.,(1992) Mol. Cell Biol. 12:2644−2652; McKnight et al.,(1982) Science 232:316);飽和突然変異誘発により(Meyers et al.,(1986) Science 232:613);PCR突然変異誘発により(Leung et al.,(1989) Method Cell Mol Biol 1:11−19);または化学突然変異誘発等のランダム突然変異誘発により(Miller et al.,(1992) A Short Course in Bacterial Genetics, CSHL Press, Cold Spring Harbor, NY; and Greener et al.,(1994) Strategies in Mol Biol 7:32−34)、ライブラリーから作成および単離することができる。
【0092】
ポリペプチドのアミノ酸配列の変化が機能的相同体をもたらすかどうかは、例えば、所望の金属に結合し、細胞中で十分なMRIコントラストを生じ、低減した細胞毒性を生じる変種ポリペプチドの能力を評価することにより容易に決定することができる。
【0093】
さらなる態様において、所望のコントラスト効果を得るためにコントラストタンパク質のどの組合せを用いてもよい。
【0094】
4.構築物とベクター
一定の態様において、本発明は、1つ以上のコントラスト物質をコードする核酸を含むベクターと核酸構築物を提供する。ベクターまたは構築物の他の特徴は、一般的に、コントラスト物質を如何にして作成し、使用するかに応じて所望の特徴を提供するように設計される。例示的な所望の特徴として、所望のレベルでの遺伝子発現、異なる遺伝子の発現を反映する遺伝子発現、容易なクローニング性、対象細胞における一過性または安定的な遺伝子発現等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0095】
一定の態様において、コントラスト物質の一過性の発現を提供するベクターを使用することが望ましい。そのようなベクターは一般的に細胞内で不安定であるので、コントラスト物質の発現に必要な核酸は比較的短い時間の後に失われる。任意に、一過性の発現は安定的な抑圧により達成されるだろう。例示的な一過性の発現ベクターを設計して、平均で数時間、数日間、数週間またはおそらく数ヶ月間の遺伝子発現を提供してよい。一過性の発現ベクターはしばしば再結合して宿主の安定的なゲノムに統合することはない。例示的な一過性の発現ベクターとして、アデノウイルス由来ベクター、アデノ随伴ウイルス、単純ヘルペス由来ベクター、複合型のアデノ随伴/単純ヘルペスウイルスベクター、インフルエンザウイルスベクター、特にインフルエンザAウイルスおよびアルファウイルス、例えばセンビスおよびセムリキ森林熱ウイルスに基づくベクターが挙げられる。
【0096】
一部の実施態様において、本発明は、コントラストタンパク質をコードする容易にクローニング可能な核酸を含むベクターまたは構築物を提供する。例えば、コード配列はポリリンカーを一端または両端に位置させる。ポリリンカーは、当業者が必要とされる多様な異なるベクターと構築物にコード配列を容易に挿入するために有用である。別の例において、コード配列は1つ以上の組換え部位に隣接させてよい。多様な市販のクローニングシステムは、異なるベクターへの所望の核酸の移動を容易にする組換え部位を使用する。例えば、Invitrogen Gateway(登録商標)技術は、標的核酸を第2核酸により組み換えるためにファージラムダリコンビナーゼ酵素を利用する。各核酸にattLまたはattB等の適当なラムダ認識配列を隣接させる。別のバリエーションにおいて、トポイソメラーゼI等のリコンビナーゼを、適当な認識部位に隣接させた核酸とともに用いてよい。例えば、ワクシニアウイルスのトポイソメラーゼIタンパク質は(C/T)CCTT配列を認識する。これらの組換えシステムは、隣接させたカセットのあるベクターから別のベクターへの必要に応じた迅速なシャフリングを可能とする。構築物またはベクターは、隣接するポリリンカーと隣接する組換え部位の両方を望む通りに含んでもよい。
【0097】
一定の態様において、コントラスト遺伝子はプロモーターに作動可能に連結させる。プロモーターは、例えば、SV40の初期プロモーターおよび後期プロモーターやアデノウイルスまたはサイトメガロウイルスの前初期プロモーター等の強力または構成的プロモーターであってよい。任意に、tetプロモーター、IPTG制御プロモーター(GAL4、Plac)またはtrp系等の外的に制御されるプロモーターを使用することが望ましいであろう。本明細書を鑑みれば、当業者は、下流の使用に応じて他の有用なプロモーターを容易に同定するだろう。例えば、本発明は、発現がT7 RNAポリメラーゼにより指令されるT7プロモーター、ファージラムダの主要なオペレーターとプロモーター領域、fdコートタンパク質の制御領域、3−ホスホグリセレートキナーゼまたは他の糖分解酵素のプロモーター、酸性ホスファターゼのプロモーター、例えばPho5、酵母a接合因子のプロモーター、バキュロウイルス系のポリへドロンプロモーター、および原核細胞または真核細胞の遺伝子発現を制御することが知られている他の配列またはそれらのウイルス等の例示プロモーターおよびそれらの多様な組合せを利用してよい。さらに、上記のように、配置された細胞の状態に関する有用な情報を提供するプロモーターに作動可能に連結されたコントラスト遺伝子を有することは望ましいだろう。一定の実施態様において、標的細胞内でバックグランドノイズを超える検出を可能とするコントラストタンパク質の濃度を達成することが望ましく、一定の検出システムにより、これが少なくとも1nMまたは少なくとも10nMのタンパク質濃度になることが予想される。
【0098】
本発明のベクターは、コントラスト遺伝子を細胞またはウイルスに導入し、および/または保持するように設計された基本的にいかなる核酸であってもよい。pcDNAI/amp、pcDNAI/neo、pRc/CMV、pSV2gpt、pSV2neo、pSV2−dhfr、pTk2、pRSVneo、pMSG、pSVT7、pko−neoおよびpHygに由来するベクターが真核細胞の形質移入に適する哺乳動物の発現ベクターの実例である。これらのベクターの一部を、pBR322等の細菌プラスミドに由来する配列で修飾して、原核細胞と真核細胞の両方での複製と薬剤抵抗性選択を容易にする。もしくは、ウシパピローマウイルス(BPV−1)またはエプスタインバーウイルス(pHEBo、pREP由来およびp205)等のウイルスの誘導体を用いてよい。遺伝子治療に適当な他のベクター系は下記で説明する。
【0099】
5.細胞、組織化細胞培養物、および組織
多くの態様において、本発明は、コントラスト物質をコードする核酸を含む細胞、組織化細胞培養物、および組織を提供する。形質転換または形質移入細胞の作成方法は当分野で広く知られており、ここに記載の方法が、細菌、真菌、植物および動物の細胞等の、しかし、これらに限定されない興味のある基本的に何れの細胞型にも用いてもよいと予測される。本発明の好ましい実施態様は哺乳動物の細胞を用いる。特に興味のある細胞として、腫瘍の部分であるか、またはインビトロでの癌、幹細胞または前駆細胞、および患者の細胞治療のために調製された細胞のモデルとして有用である形質転換細胞または他の細胞が挙げられるだろう。本発明の細胞は、培養細胞、細胞系、組織中に位置する細胞および/または生物の一部である細胞であってよい。
【0100】
細胞を用いて、組織化細胞培養物(すなわち、非ランダム構造を発達させている細胞培養物)を作り、かつ対象に移植するための器官または器官様構造物を作ってもよいことがさらに予測される。そのような細胞において遺伝子発現の一部の態様を非侵襲的にモニターすること、さもなければ、そのような細胞中でMRIコントラストを提供することは有用であろう。例えば、筋肉の前駆細胞は、損傷筋肉に対する投与または治療タンパク質を産生する細胞の小さい束として投与するための筋肉様器官を発達させるために用いてよい(例えば、米国特許第5,399,346号、米国特許第6,207,451号、米国特許第5,538,722号を参照)。他の細胞培養方法は、移植のための神経、膵臓、肝臓および多くの他の器官タイプを作るために用いられてきた(例えば、米国特許第6,146,889号、米国特許第6,001,647号、米国特許第5,888,705号、米国特許第5,851,832号、PCT公開WO00/36091、PCT公開WO01/53461、PCT公開WO01/21767を参照)。この性質を持つ細胞に、培養の初期段階でコントラスト遺伝子により安定的に形質移入してもよいし、または組織化培養物を培養のもっと後の点で一過的または安定的に形質移入して、細胞機能の一部の側面を評価してもよい。遺伝子産物を送達するために形質移入細胞を対象に投与してよく、この手法は生体外の遺伝子治療または細胞治療の方法として効果的である。コントラストタンパク質をコードする核酸をそのような細胞に導入し、投与細胞の遺伝子発現または生存能をモニターするために対象に投与してよい。遺伝子アデノシンデアミナーゼによって形質移入された細胞を、重症複合免疫不全症候群(SCID)の生体外遺伝子治療の治療薬として患者に送達されている(Cavazzana−Calvo et al., 2000, Science 288(5466):669−72)。
【0101】
6.生物およびインビトロ組織に送達される核酸
細胞の生体外改変の代わりに、多くの状況で、細胞をインビボで改変したいこともあるだろう。この目的のために、多様な技術が、標的組織および細胞をインビボで改変するために開発されてきた。形質移入を可能とし、時にはウイルスのホストへの組込みを可能とする上記のような多くのウイルスベクターが開発されてきた。例えば、Dubensky et al.(1984) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81, 7529−7533; Kaneda et al.,(1989) Science 243, 375−378;Hiebert et al.(1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86, 3594−3598; Hatzoglu et al.(1990) J. Biol. Chem. 265, 17285−17293 and Ferry, et al.(1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88, 8377−8381を参照されたい。ベクターは注射(例えば、静脈内または筋肉内)、吸入または他の非経口の方法により投与してよい。リポソームとの複合体によるか、または注射、カテーテルまたは遺伝子銃によるDNAの投与等の非ウイルスの送達方法を用いてもよい。一般的に、ヒト対象において、コントラスト物質をコードする核酸の一過性の発現を提供するために核酸および/またはデリバリーシステムを設計することが好ましいだろう。
【0102】
一般的に、核酸を導入する方法は、組織の性質、必要とされる細胞改変の効率、特定の細胞を改変する機会の回数、導入される核酸組成物に対する組織の到達性等に依存するだろう。DNA導入は組込みをもたらす必要はない。実際、非組込みは、しばしば導入DNAの一過性の発現をもたらし、一過性の発現は、しばしば十分であるか、または好ましくさえある。
【0103】
ポリヌクレオチドを哺乳動物(ヒトまたは非ヒト)に導入する手段は、本発明の多様な構築物を目的とするレシピエントに送達するために、本発明の実施に適合させてよい。本発明の一実施態様において、核酸構築物を、形質移入により、すなわち、「裸の」核酸の送達により、またはコロイド分散系との複合体で細胞に送達される。コロイド系として、高分子複合体、ナノカプセル、微粒子、ビーズ、および脂質系システム、例えば、油中水型乳濁液、ミセル、混合ミセルおよびリポソームが挙げられる。本発明の例示的コロイド系は、脂質と複合化されたDNAまたはリポソームに処方されたDNAである。前者のアプローチでは、DNAを例えば脂質により処方する前に、所望のDNA構築物を有する導入遺伝子を含むプラスミドを最初に発現のために実験的に最適化することができる(例えば、イントロンの5’非翻訳領域への包含と不必要な配列の除去)(Felgner, et al., Ann NY Acad Sci 126−139, 1995)。DNAの例えば多様な脂質またはリポソーム材料による処方を、次に、公知の方法と材料を用いて達成し、レシピエント哺乳動物に送達してよい。例えば、Canonico et al, Am J Respir Cell Mol Biol 10:24−29, 1994; Tsan et al, Am J Physiol 268; Alton et al., Nat Genet. 5:135−142, 1993およびCarson等の米国特許第5,679,647号を参照されたい。
【0104】
任意に、リポソームまたは他のコロイド分散系をターゲットとする。ターゲティングは解剖学的要因と機構的要因に基づいて分類することができる。解剖学的要因は、選択性のレベル、例えば、器官特異的、細胞特異的および細胞小器官特異的に基づく。機構的要因は、それが受動的または能動的であるかどうかに基づいて区別することができる。受動的ターゲティングは、洞様毛細血管を含む器官において細網内皮系(RES)の細胞に分布するリポソームの天然の傾向を利用する。一方で、能動的ターゲティングは、リポソームを特定のリガンド(例えば、モノクローナル抗体、糖、糖脂質またはタンパク質)に結合させることによるか、または局在化の天然の部位ではない器官または細胞型に対するターゲティングを達成するためにリポソームの組成やサイズを変えることによるリポソームの改変を伴う。
【0105】
標的化遺伝子導入系の表面を多様な方法で修飾してよい。リポソームの標的化遺伝子導入系の場合、リポソーム二重層に安定に結合したターゲティングリガンドを維持するために、脂質基をリポソームの脂質二重層に取り込むことができる。脂質鎖をターゲティングリガンドに結合させるために多様な結合基を用いることができる。選択された投与方法により一定のレベルのターゲティングを達成してよい。
【0106】
本発明の一定の変形において、核酸構築物を細胞、特に生物または培養組織中の細胞にウイルスベクターを用いて導入する。導入遺伝子は、組換えレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、単純ヘルペス由来ベクター、複合型のアデノ随伴/単純ヘルペスウイルスベクター、インフルエンザウイルスベクター、特にインフルエンザAウイルスおよびアルファウイルス、例えばシンビスおよびセムリキ森林熱ウイルスに基づくベクター、または組換え細菌または真核生物のプラスミド等の遺伝子治療に有用な多様なウイルスベクターのいずれかに組み込んでよい。ウイルスベクターの選択と使用に関する下記のさらなる指導は実施者にとって有用であるだろう。下記にさらに詳しく説明するように、対象の発現構築物のそのような実施態様は、具体的には、多様な生体内および生体外の遺伝子治療の手順に使用されることが意図される。
【0107】
A.ヘルペスウイルスシステム
多様なヘルペスウイルス系ベクターが哺乳動物に遺伝子を導入するために開発されている。例えば、単純ヘルペスウイルス1型(HSV−1)は、遺伝子の神経系への移行のために特に興味のあるヒト神経向性ウイルスである。標的細胞の感染後、ヘルペスウイルスはしばしば溶解生活環か潜伏生活環のいずれかを伴い、核内エピソームとして存続する。ほとんどの場合、潜伏感染した細胞は免疫系によって拒絶されない。例えば、HSV−1に潜伏感染した神経細胞は正常に機能し、拒絶されない。一部のヘルペスウイルスは、ウイルスが潜伏形にあっても発現される細胞型に特異的なプロモーターを有する。
【0108】
典型的なヘルペスウイルスゲノムは、100〜250kbの範囲の直鎖の二本鎖DNA分子である。HSV−1は152kbのゲノムである。ゲノムは、内部の反復配列(IRLとIRS)によりいずれかの配向で連結される長い領域と短い領域(それぞれULとUSと名付けられる)を含むだろう。独自の領域の非リンカー末端には末端反復(TRLとTRS)が存在する。HSV−1において、80〜90個の遺伝子のおよそ半分が非必須であり、非必須の遺伝子の欠失は外来DNAのおよそ40〜50kbの空間を作る(Glorioso等(1995年))。潜伏活性化転写物の発現を作動する2つの潜伏活性プロモーターが同定されており、ベクター導入遺伝子発現に有用であることが証明されるだろう(Marconi等(1996年))。
【0109】
HSV−1ベクターは、単位複製配列と組換えHSV−1ウイルスとの形で利用可能である。単位複製配列は、OriC、大腸菌の複製開始点、OriS(HSV−1の複製開始点)、HSV−1パッケージ配列、前初期プロモーターの制御下にある導入遺伝子および選択可能マーカーを含み、細菌により作られるプラスミドである(Federoff等(1992年))。形質移入においてすべての欠損した構造遺伝子と調節遺伝子を提供するヘルパーウイルス(温度感受性突然変異体)を含む細胞系を、単位複製配列を用いて形質移入する。さらに最近の単位複製配列として、プラスミドのエピソーム維持のためのエプスタインバーウイルス由来の配列が挙げられる(WangおよびVos、1996年)。組換えウイルスは、前初期遺伝子の1つ(例えば、形質移入において提供されるICP4)を欠失することにより複製欠損とされる。多数の前初期遺伝子の欠失は細胞毒性を実質的に低減し、野生型の潜在ウイルスでサイレンシングされているプロモーターからの発現を可能とする。これらのプロモーターは長期の遺伝子発現を指令するのには有益であろう。複製条件的な変異体は許容細胞系中で複製する。許容細胞系は、細胞の酵素を供給してウイルス欠損を補う。変異体として、チミジンキナーゼ(During等、1994年)、リボヌクレアーゼレダクターゼ(Kramm等、1997年)、UTPaseまたは神経毒性因子g34.5(Kesari等、1995年)が挙げられる。これらの変異体は特に癌の治療に有用であり、他の細胞系よりも速く増殖する腫瘍細胞を死滅させる(Andreansky等、1996年、1997年)。複製が制限されたHSV−1ベクターはヒト悪性中皮腫を治療するために用いられている(Kucharizuk等、1997年)。神経細胞に加え、野生型HSV−1は、皮膚等の他の非神経細胞型に感染することができ(Al−Saadi等、1983年)、HSV由来のベクターは導入遺伝子を多様な細胞型に送達するために有用であろう。ヘルペスウイルスベクターの他の例は当分野で知られている(米国特許第5,631,236号とWO00/08191)。
【0110】
B.アデノウイルスベクター
本発明に有用なウイルス遺伝子送達系はアデノウイルス由来ベクターを利用する。36kBの直鎖および二本鎖DNAウイルスであるアデノウイルスの遺伝子構成の知識により、アデノウイルスDNAの大断片を、8kBまでの外来配列に置換することができる。レトロウイルスとは対照的に、アデノウイルスDNAの宿主細胞への感染は、アデノウイルスDNAが潜在的な遺伝毒性なしにエピソームの様式で複製できるので染色体への組み込みをもたらさない。また、アデノウイルスは構造的に安定で、広範な増幅後にゲノムの再構成は検出されない。アデノウイルスは、事実上すべての上皮細胞に、それらの細胞周期段階にかかわらずに感染することができる。さらに、アデノウイルスベクターが介在する細胞の形質移入はしばしば一過性の事象である。免疫反応とプロモーターサイレンシングとの組合せは、アデノウイルス上に導入された導入遺伝子が発現される時間を限定するように思われる。
【0111】
アデノウイルスは、その中型のゲノム、操作の容易さ、高力価、広い標的−細胞の範囲および高感染力のために遺伝子移入ベクターとしての使用に特に適する。ウイルス粒子は比較的安定で、容易に精製、濃縮することができ、上述のように、感染力の範囲に影響を及ぼすように改変することができる。さらに、アデノウイルスは増殖や操作が容易であり、インビトロとインビボで広い宿主の範囲を示す。この集団のウイルスは高い力価、例えば10〜1011のプラーク形成単位(PFU)/mlで得ることができ、それらウイルスは高感染性である。さらに、外来DNAに対するアデノウイルスのゲノムの保有能力は、他の遺伝子送達ベクターに比べて高い(8キロベースまで)(上記のBerknere et al.;Haj−Ahmand and Graham(1986)J. Virol. 57:267)。現在使用されており、よって本発明で支持されるほとんどの複製欠損アデノウイルスベクターは、ウイルスE1とE3遺伝子のすべてまたは一部を欠損するが、アデノウイルスの遺伝物質の80%もの量を保持する(例えば、Jones et al.,(1979) Cell 16:683; 上記のBerkner et al.;およびGraham et al., in Methods in Molecular Biology, E.J. Murray, Ed.(Humana, Clifton, NJ, 1991) vol.7. pp. 109−127を参照)。本発明の挿入ポリヌクレオチドの発現は、例えば、E1Aプロモーター、主要後期プロモーター(MLP)および関連リーダー配列、ウイルスのE3プロモーターまたは外から加えられたプロモーター配列の制御下にあることができる。
【0112】
アデノウイルスのゲノムは興味のある遺伝子産物をコードするが、正常な溶解性ウイルス生活環での複製能力という点では不活化させるように操作することができる(例えば、Berkner et al.,(1988) BioTechniques 6:616; Rosenfeld et al.,(1991) Science 252:431−434; および Rosenfeld et al.,(1992) Cell 68:143−155を参照)。アデノウイルス株Adの5 dl324型またはアデノウイルスの他の株(例えば、Ad2、Ad3、Ad7等)に由来する適当なアデノウイルスベクターは当業者によく知られている。
【0113】
アデノウイルスは細胞型に特異的でありえる、すなわち、限定された細胞型のみに感染し、および/または限定された細胞型でのみ導入遺伝子を発現する。例えば、それらウイルスは、例えば、HendersonとSchuurの1997年12月16日に発行された米国特許第5,698,443号に記載されるように、標的宿主細胞により特異的に調節される転写開始領域の転写制御下にある遺伝子を含むように設計してよい。よって、複製可能なアデノウイルスは、例えば、複製に必要なタンパク質の合成を調節する細胞特異的な応答エレメント(例えば、E1AまたはE1B)を挿入することにより一定の細胞に制限することができる。
【0114】
多くのアデノウイルスタイプのDNA配列はジェンバンクから入手することができる。例えば、ヒトアデノウイルス5型はジェンバンク受託番号M73260を有する。アデノウイルスDNA配列は最近同定された42種類のヒトアデノウイルスタイプの何れから得てもよい。多様なアデノウイルス株はアメリカ培養細胞系統保存機関(ロックビル、メリーランド州)から入手でき、または要求に応じて多くの商業的ソースや学術的ソースから入手できる。ここに記載の導入遺伝子は、制限消化、リンカーの連結または末端の充填、および連結によりアデノウイルスベクターや送達指令に組み入れることができる。
【0115】
アデノウイルス生成細胞系は、例えば、Kadan等のPCT/US95/15947(WO96/18418);Kovesdi等のPCT/US95/07341(WO95/346671);Imler等のPCT/FR94/00624(WO94/28152); Perrocaudet等のPCT/FR94/00851(WO95/02697);Wang等のPCT/US95/14793(WO96/14061)に記載されるように、アデノウイルス遺伝子E1、E2aおよびE4の1つ以上が変異または欠失されているアデノウイルスベクターをパッケージするために、これら遺伝子のDNA配列の1つ以上を含むことができる。
【0116】
C.AAVベクター
対象のポリヌクレオチドの送達に有用なさらに別のウイルスベクター系はアデノ随伴ウイルス(AAV)である。アデノ随伴ウイルスは、別のウイルス(例えばアデノウイルスまたはヘルペスウイルス)を十分な複製と増殖生活環のためにヘルパーウイルスとして必要とする天然の欠陥ウイルスである。(概説について、Muzyczka et al., Curr. Topics in Micro. and Immunol.(1992)158:97−129を参照されたい)。
【0117】
AAVはいかなる病気の原因にも関連してはいない。AAVは形質転換ウイルスでも腫瘍ウイルスでもない。ヒト細胞系の染色体へのAAV組込みは、細胞の成長性や形態学的特徴に顕著な変化を引き起こさない。AAVのこれらの特徴から、潜在的に有用なヒト遺伝子治療ベクターとして推奨されている。
【0118】
AAVはそのDNAを非分裂細胞(例えば、肺上皮細胞)に組込むことができ、高い頻度の安定的な組込みを示す数少ないウイルスの1つでもある(例えば、Flotte et al., (1992) Am. J. Respir. Cell. Mol. Biol. 7:349−356; Samulski et al., (1989) J. Virol. 63:3822−3828;およびMcLaughlin et al., (1989) J. Virol. 62:1963−1973を参照)。AAVの僅かに300塩基対を含むベクターはパッケージすることができ、組込むことができる。外来性DNAの空間は約4.5kbに制限されている。Tratschin等(Mol. Cell. Biol. 5:3251−3260(1985))に記載されたようなAAVベクターを用いてDNAを細胞に導入することができる。多様な核酸がAAVベクターを用いて異なる細胞型に導入されている(例えば、Hermonat et al., (1984) PNAS USA 81:6466−6470; Tratschin et al., (1985) Mol. Cell. Biol. 4:2072−2081; Wondisford et al., (1988) Mol. Endocrinol. 2:32−39; Tratschin et al., (1984) J. Virol. 51:611−619;およびFlotte et al., (1993) J. Biol. Chem. 268:3781−3790を参照)。
【0119】
使用されるAAV系の発現ベクターは、利用可能な制限酵素認識部位を用いて直接に、または制限酵素による導入遺伝子の切除後に末端の平滑化、適当なDNAリンカーの連結、制限酵素による消化、逆方向末端反復(ITR)間の部位への連結により導入遺伝子のサブクローニングに用いることのできる制限酵素認識部位に隣接する145ヌクレオチドの逆方向末端反復を通常含む。AAVベクターの容量は、通常、約4.4kbである(Kotin, R.M., Human Gene Therapy 5:793−801, 1994およびFlotte, et al. J. Biol. Chem. 268:3781−3790, 1993)。
【0120】
AAVストックは、Samulski等(J. Virol. 63:3822(1989))により記載されたpAAV/Adを用いることにより改変してHermonatおよびMuzyczka(PNAS 81:6466(1984))に記載されたように作ることができる。ウイルスの濃縮と精製は、インビボでのAAVベクター発現の最初の報告(Flotte, et al. J. Biol. Chem. 268:3781−3790, 1993)に用いられたように、塩化セシウムグラジエントによるバンドの形成や、O’Riordan等のWO97/08298で記載されたようにクロマトグラフィーによる精製等の報告された方法により達成することができる。インビトロでAAVベクターをパッケージングする方法も利用することができ、それら粒子にパッケージされるDNAの大きさの制限がないという利点を有する(1997年11月18日発行のZhou等の米国特許第5,688,676号を参照)。この操作は無細胞のパッケージング用抽出物の調製を伴う。
【0121】
D.アデノウイルス−AAVのハイブリッドベクター
アデノウイルス−AAVのハイブリッドベクターが作られており、これらは、通常、一部のアデノウイルスを含む核酸を含有するアデノウイルスキャプシドと、プロモーターの制御下にある選択導入遺伝子に隣接するAAV由来の5’−および3’−逆方向末端反復配列とによって表される。例えば、Wilson等の国際特許出願公開第WO96/13598を参照されたい。このハイブリッドベクターは、ホスト細胞に対する高い力価の導入遺伝子送達と、導入遺伝子をrep遺伝子の存在下に宿主細胞染色体に安定的に組込む能力とにより特徴付けられる。このウイルスは事実上すべての細胞型に感染することができ(そのアデノウイルス配列により付与されている)、かつホスト細胞ゲノムへの導入遺伝子の安定で長期の組込み(そのAAV配列により付与されている)を可能とする。
【0122】
このベクターに用いられるアデノウイルス核酸配列は、ハイブリッドウイルス粒子を産生するためにヘルパーウイルスの使用を必要とする最小限の配列量から、アデノウイルスの選ばれた欠失のみ(欠失遺伝子産物は、ハイブリッドウイルスプロセスにおいてパッケージング細胞により供給されうる)までの範囲であってよい。例えば、ハイブリッドウイルスは、アデノウイルスの(複製開始点として機能する)5’−および3’−逆方向末端反復(ITR)配列を含むことができる。使用することのできるAd5ゲノムの左末端配列(5’)配列は従来のアデノウイルスゲノムの1bpから約360bp(図単位0〜1ともいう)に及び、5’ITRとパッケージング/エンハンサー領域を含む。ハイブリッドウイルスの3’アデノウイルス配列は、約580ヌクレオチドである右末端3’ITR配列(図単位98.4〜100ともいうアデノウイルスの約35,353bp末端)を含む。
【0123】
導入遺伝子の組み入れ、導入遺伝子を含む組換えウイルスの増殖と精製、および細胞と哺乳動物の形質移入におけるその使用等、本発明の実施に有用でありうるアデノウイルスおよびハイブリッドアデノウイルス−AAV技術に関するさらに詳細な指導については、WilsonらのWO94/28938、WO96/13597およびWO96/26285およびそこで挙げられた参考文献を参照されたい。
【0124】
E.レトロウイルス
レトロウイルスベクターを構築するために、興味の核酸をウイルスゲノム中に一定のウイルス配列の代わりに挿入して複製欠損であるウイルスを作る。ウイルス粒子を作るために、gag遺伝子、pol遺伝子およびenv遺伝子を含むが、LTR成分とpsi成分は持たないパッケージング用細胞系を構築する(Mann et al.(1983) Cell 33:153)。レトロウイルスLTR配列とpsi配列とともに、ヒトcDNAを含む組換えプラスミドを(例えば、リン酸カルシウム沈殿により)この細胞系に導入する場合、psi配列によって組換えプラスミドのRNA転写物がウイルス粒子中にパッケージングされ、これは次に培養培地に分泌される(Nicolas and Rubenstein (1988) “Retroviral Vectors”, In: Rodriguez and Denhardt ed. Vectors: A Survey of Molecular Cloning Vectors and their Uses. Stoneham:Butterworth; Temin, (1986) “Retrovirus Vectors for Gene Transfer: Efficient Integration into and Expression of Exogenous DNA in Vertebrate Cell Genome”, In: Kucherlapati ed. Gene Transfer. New York: Plenum Press; Mann et al., 1983、上記)。次に、組換えレトロウイルスを含む培地を集め、任意に濃縮し、遺伝子移入に用いる。レトロウイルスベクターは広い範囲の細胞型に感染することができる。組込みと安定な発現はホスト細胞の分化を必要とする(Paskind et al. (1975) Virology 67:242)。これらベクターは、増殖する細胞の選択的ターゲティング、すなわち、網膜上膜内の細胞のみがPVR対象の目で増殖する唯一の細胞であるので網膜上膜内細胞の選択的ターゲティングを可能とするので、上記の特徴はPVRの治療に特に関連性がある。
【0125】
レトロウイルスの使用の主な必要条件は、特に、細胞集団中の野生型ウイルスの広がりの可能性に関して、それらの使用の安全性を確保することである。複製欠損レトロウイルスのみを産生する特殊化細胞系(「パッケージング用細胞」と名付ける)の開発により遺伝子治療に対するレトロウイルスの有用性が高められ、欠損レトロウイルスは遺伝子治療目的での遺伝子移入の使用のためによく特徴付けられている(概説については、Miller, A.D.(1990) Blood 76:271を参照されたい)。よって、レトロウイルスのコード配列(gag、pol、env)の一部が、本発明のタンパク質をコードする核酸、例えば、転写活性化因子により置換されてレトロウイルスを複製欠損とした組換えレトロウイルスを構築することができる。次に、複製欠損レトロウイルスを、標準的な方法によりヘルパーウイルスを使用することによって標的細胞の感染に用いることのできるウイルス粒子にパッケージする。組換えレトロウイルスを作る手順とインビトロとインビボで細胞にそれらウイルスを感染させる手順は、Current Protocols in Molecular Biology, Ausubel, F.M. et al., (eds.) Greene Publishing Associates, (1989)、9.10−9.14章およびそれらの標準的な実験マニュアルに見ることができる。適切なレトロウイルスの例として、当業者によく知られているpLJ、pZIP、pWEおよびpEMが挙げられる。好ましいレトロウイルスベクターはpSR MSVtkNeo(Muller et al. (1991) Mol. Cell Biol. 11:1785)およびpSR MSV(XbaI)(Sawyers et al. (1995) J. Exp. Med. 181:307)およびその誘導体である。例えば、これらのベクターの両方において独自なBamHI部位は、Clackson等のPCT/US96/09948に記載されるように、ベクターをBamHIで消化し、クレノーで充填し、再連結してpSMTN2とpSMTX2をそれぞれ作ることにより除去することができる。狭宿主性レトロウイルス系と広宿主性レトロウイルス系の両方を調製するための適当なパッケージング用ウイルス系の例としてCrip、Cre、2およびAmが挙げられる。
【0126】
レンチウイルス等のレトロウイルスは、神経系細胞、上皮細胞、網膜細胞、内皮細胞、リンパ球、筋芽細胞、肝細胞、骨髄細胞等の多くの異なる細胞型に多様な遺伝子をインビトロおよび/またはインビボに導入するために用いられている(例えば、以下の概説:Federico (1999) Curr. Opin. Biotechnol. 10:448; Eglitis et al., (1985) Science 230:1395−1398; Danos and Mulligan, (1988) PNAS USA 85:6460−6464; Wilson et al., (1988) PNAS USA 85:3014−3018; Armentano et al., (1990) PNAS USA 87:6141−6145; Huber et al., (1991) PNAS USA 88:8039−8043; Ferry et al., (1991) PNAS USA 88:8377−8381; Chowdhury et al., (1991) Science 254:1802−1805; van Beusechem et al., (1992) PNAS USA 89:7640−7644; Kay et al., (1992) Human Gene Therapy 3:641−647; Dai et al., (1992) PNAS USA 89:10892−10895; Hwu et al., (1993) J. Immunol. 150:4104−4115;米国特許第4,868,116号;米国特許第4,980,286号;PCT出願WO89/07136;PCT出願89/02468;PCT出願WO89/05345;およびPCT出願WO92/07573を参照されたい)。
【0127】
さらに、レトロウイルスの感染範囲、したがってレトロウイルス系ベクターの感染範囲を、ウイルス粒子表面上のウイルスパッケージングタンパク質を修飾することにより限定できることが示されている(例えば、PCT公告WO93/25234、PCT公告WO94/06920およびPCT公告WO94/11524を参照)。例えば、レトロウイルスベクターの感染範囲を変更する方法として、ウイルスenvタンパク質に対する細胞表面抗原に特異的な抗体の連結(Roux et al., (1989) PNAS USA 86:9079−9083; Julan et al., (1992) J. Gen Virol 73:3251−3255;およびGoud et al., (1983) Virology 163:251−254)またはウイルスenvタンパク質に対する細胞表面リガンドの連結(Neda et al., (1991) J. Biol. Chem. 266:14143−14146)が挙げられる。連結は、タンパク質または他の種類(例えば、envタンパク質をアシアロ糖タンパク質に変換するラクトース)との化学的架橋結合の形であってよく、または融合タンパク質(例えば、単鎖抗体/env融合タンパク質)の生成によってもよい。この技術は一方で一定の組織型に対して感染を限定、さもなければ指令するのに有用であるが、狭宿主性ベクターを広宿主性ベクターに変換するために使うこともできる。
【0128】
F.他のウイルス系
本発明のポリヌクレオチドを送達するために用いることのできる他のウイルスベクターは、ワクシニアウイルス、アルファウイルス、ポックスウイルス、アレナウイルス、ポリオウイルス等から得られている。そのようなベクターは多様な哺乳動物の細胞ために幾つかの魅力的な特徴を提供する(Ridgeway (1988) In: Rodriguez R L, Denhardt D T, ed. Vectors: A survey of molecular cloning vectors and their uses. Stoneham: Butterworth; Baichwal and Sugden (1986) In:Kucherlapati R, ed. Gene transfer. New York:Plenum Press; Coupar et al. (1988) Gene, 68:1−10; Walther and Stein (2000) Drugs 60:249−71; Timiryasova et al. (2001) J Gene Med 3:468−77; Schlesinger (2001) Expert Opin Biol Ther 1:177−91; Khromykh (2000) Curr Opin Mol Ther 2:555−69; Friedmann (1989) Science, 244:1275−1281; Ridgeway, 1988、上記: Baichwal and Sugden, 1986、上記; Coupar et al., 1988; Horwich et al. (1990) J. Virol., 64:642−650)。
【0129】
7.トランスジェニック動物
ここに記載の技術は核酸をヒト対象または動物対象に導入するために用いられる一方で、他の方法が、コントラストタンパク質をコードする組換え核酸を取り込む非ヒトトランスジェニック動物を生成するために利用できる。
【0130】
例示的な実施態様において、本発明の「トランスジェニック非ヒト動物」は非ヒト動物の生殖系列に導入遺伝子を導入することにより作られる。多様な発達段階での胚性標的細胞を用いて導入遺伝子を導入することもできる。胚性標的細胞の発達段階に応じて異なる方法が用いられる。本発明を実施するために用いられる動物の具体的な系統は、全体的な良好な健康状態、良好な胚収量、胚中の良好な前核視認性および良好な生殖適応度に関して選択される。さらに、ハプロタイプは重要な因子である。例えば、トランスジェニックマウスを作ろうとする場合、C57BL/6またはFVB系統等の株がしばしば用いられる(Jackson Laboratory, Bar Harbor, ME)。C57BL/6またはDBA/1等の好ましい株を選択してもよい。本発明を実施するために用いられる系統はそれら自体がトランスジェニック系統であってもよいし、および/またはノックアウト系統(すなわち、部分的または完全に抑制された1つ以上の遺伝子を有する動物から得られたもの)であってもよい。
【0131】
一実施態様において、コントラストタンパク質をコードする核酸を含む構築物を単一段階の胚に導入する。接合体がマイクロインジェクションの最善の標的である。マウスにおいて、オスの前核は、1〜2plのDNA溶液の再現性のある注射を可能とする直径約20マイクロメートルの大きさに達する。遺伝子移入の標的としての接合体の使用は、ほとんどの場合で、注射されたDNAが最初の分裂前にホスト遺伝子に組み入れられるという大きな利点がある(Brinster et al.(1985) PNAS 82:4438−4442)。結果として、トランスジェニック動物のすべての細胞は組み入れられた導入遺伝子を保有するだろう。このことは、50%の胚細胞が導入遺伝子を保有するので、導入遺伝子の創始動物の子孫への効率的な伝達にも一般的に反映されるだろう。
【0132】
通常は、受精胚は前核が現れるまで適当な培地でインキュベートされる。だいたいこの時点で、導入遺伝子を含むヌクレオチド配列を下記のようにメスまたはオス前核に導入する。マウス等の一部の種では、オス前核が好ましい。外来性遺伝物質を、卵核または接合体メス前核により処理を受ける前の接合体のオスDNA相補体に加えるのが最も好ましい。卵核またはメス前核は、恐らくオスDNAのプロタミンをヒストンに置換することによってオスDNA相補体に影響を与えることで、メス相補体とオスDNA相補体の結合を容易にする分子を放出して、二倍体接合体を形成させると考えられる。
【0133】
例えば、外来性遺伝物質を、メス前核により影響を受ける前のDNAのオス相補体またはDNAの他の相補体に加えることが望ましい。例えば、オスとメスの前核が適切に離れていて、両者が細胞膜の近くに位置する時であるオス前核の形成後にできるだけ早く外来性遺伝物質を加える。もしくは、外来性遺伝物質は、脱凝縮を受けるように誘導された後の精子の核に加えることもできるだろう。次に、外来性遺伝物質を含有する精子を卵子に加えることができ、または卵子に導入遺伝子構築物を加え、その後にできるだけ早く脱凝縮化精子を加えることができるだろう。
【0134】
導入遺伝子の塩基配列の胚への導入は、例えば、マイクロインジェクション、エレクトロポレーションまたはリポフェクション等の当分野で知られた手段により達成することができる。導入遺伝子塩基配列の胚への導入後、胚をインビトロで様々な時間インキュベートするか、または代理のホストに再移植するか、またはその両方を行なう。成熟までのインビトロインキュベーションは本発明の範囲内にある。1つの通常の方法は、種に応じて胚をインビトロで約1〜7日間インキュベートし、次に代理ホストに再移植することである。
【0135】
本発明の目的のために、接合体は、基本的に、完全な生物に発達することのできる二倍体細胞の形成物である。一般的に、接合体は、単一または複数の配偶子に由来する2つの一倍体核の融合により天然または人工的に形成された核を含有する卵からなるだろう。よって、配偶子の核は、天然に適合可能なもの、すなわち、分化を受けて、機能する生物まで発達することのできる生存可能な接合体をもたらすものでなければならない。一般的に、正倍数性接合体が望ましい。異数性接合体が得られる場合、染色体の数は何れかの配偶子が生じた生物の正倍数体数に関して2以上変わってはならない。
【0136】
類似の生物学的条件に加えて、物理的条件も、接合体の核に加えるか、または接合体核の一部を形成する遺伝物質に加えることのできる外来性遺伝物質の量(例えば、容積)を支配する。遺伝物質が除去されない場合、加えることのできる外来性遺伝物質の量は、物理的に破壊されることなく吸収される量によって限定される。一般的に、挿入される外来性遺伝物質の容積は約10ピコリットルを超えないものとする。添加の物理的効果は、接合体の生存能を物理的に破壊するように大きいものであってはならない。得られる接合体の遺伝物質(例えば、外来遺伝物質)は接合体を機能生物に生物学的に分化させ、発達させることを開始させ、維持することができなければならないので、DNA配列の数と種類の生物学的な制限は特定の接合体と外来性遺伝物質の機能とに応じて変化し、そうした制限は当業者にとって容易に明らかであろう。
【0137】
接合体に加えられる導入遺伝子構築物のコピー数は、加えられる外来性遺伝物質の総量に依存し、遺伝的形質転換の発生を可能とする量とする。理論的にはわずかに1つのコピーが必要とされる;しかし、一般的には、1つのコピーが機能的であることを保障するために、多数のコピー、例えば、1,000〜20,000コピーの導入遺伝子の構築物が必要とされる。本発明に関しては、外来性DNA配列の表現型発現を増強するために各挿入外来性DNAの2つ以上の機能するコピーを有することにはしばしば利点があるだろう。
【0138】
外来性遺伝物質を核の遺伝物質に加えることを可能とする技術は、それが細胞、核膜または他の存在する細胞または遺伝子構造に対して破壊的でない限りどのようなものでも利用することができる。外来性遺伝物質は、マイクロインジェクションにより核の遺伝物質に選択的に挿入する。細胞および細胞構造のマイクロインジェクションは公知であり、当分野で使用されている。
【0139】
再移植は標準的な方法を用いて達成する。通常、代用ホストを麻酔し、胚を卵管に挿入する。特定のホストに移植する胚の数は種に応じて変わるが、通常は、その種が自然に作る子孫の数に相当する。
【0140】
代理ホストのトランスジェニック子孫は適当な方法によって導入遺伝子の存在および/または発現に関してスクリーニングしてよい。スクリーニングは、導入遺伝子の少なくとも一部に相補的なプローブを用いて、サザンブロットまたはノーザンにより達成される。導入遺伝子によりコードされるタンパク質に対する抗体を用いるウエスタンブロット分析は、導入遺伝子産物の存在に対するスクリーニングの別の方法または追加の方法として使用してよい。通常、DNAは尾の組織から調製し、導入遺伝子のサザン分析またはPCRにより分析する。もしくは、導入遺伝子を最大レベルで発現すると思われる組織または細胞を、導入遺伝子の存在および発現に関してサザン分析またはPCRを用いて調べるが、どの組織も細胞型もこの分析に使用することができる。
【0141】
導入遺伝子の存在を評価する別の方法または追加の方法として、酵素および/または免疫学的検定、特定のマーカーまたは酵素活性に対する組織染色、フローサイトメトリー分析等の適当な生化学分析が制限なく挙げられる。血液の分析は血液中の導入遺伝子産物の存在を検出し、多様な種類の血液細胞や他の血液成分のレベルに対するの導入遺伝子の効果を評価するために有用でもあろう。もしくは、MRIを、導入遺伝子を可視化するために用いることができる。
【0142】
トランスジェニック動物を生成する別の方法は、所望の核酸によるオス動物の生殖細胞のインビボまたはエキソビボ(インビトロ)形質移入を伴う(例えば、米国特許第6,316,692号を参照)。1つの研究方法では、核酸を動物の生殖腺にインサイチュで送達する(インビボ形質移入)。形質移入された生殖細胞をそれら自身の環境で分化させ、次に核酸の生殖細胞への組込みを示す動物を選択する。選択された動物を交配してもよいし、それらの精子を受精またはインビトロでの受精に利用して、トランスジェニック子孫を作ってもよい。それらの選択は、片方または両方の生殖腺の生検後に実施してもよいし、または所望の核酸配列の取り込みを確認するために動物の射精された精液の検査後に実施してもよい。もしくは、オスの生殖細胞をドナー動物から単離し、形質移入するか、またはインビトロで遺伝子改変してもよい。この遺伝子操作の後、形質移入細胞を選択し、適切な受容動物の精巣に移す。生殖細胞を移す前に、受容精巣は、一般的に、ガンマ照射、化学的処置、ウイルス等の感染体の手段、または自己免疫除去、またはそれらの組合せ等の内在性生殖細胞を不活性化または破壊する多くの手段の一つまたは組合せを用いて処置する。この処置は、改変ドナー細胞による受容精巣のコロニー形成を容易にする。適切に改変された精子細胞を保有する動物は自然交配させてもよいし、もしくは、それらの精子を受精またはインビトロでの受精に用いる。
【0143】
例示的な実施態様において、トランスジェニック動物は、レンチウイルスベクターによる単細胞胚のインビトロ感染により作ってよい。例えば、Lois et al., Science 295:868−872(2002)を参照されたい。
【0144】
レトロウイルス感染は導入遺伝子を非ヒト動物に導入するために用いることもできる。発達しつつある非ヒト胚をインビトロで胞胚期まで培養する。この間に、割球はレトロウイルスの標的となりうる(Jaenich, R. (1976) PNAS 73:1260−1264)。割球の効率的な感染は透明帯を除去する酵素処理により得られる(Manipulating the Mouse Embryo, Hogan eds. (Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, 1986)。導入遺伝子を導入するために使用されるウイルスベクター系は、通常、導入遺伝子を保有する複製欠損レトロウイルスである(Jahner et al. (1985) PNAS 82:6927−6931; Van der Putten et al. (1985) PNAS 82:6148−6152)。形質移入は、ウイルス産生細胞の単層上で割球を培養することにより容易かつ効率的に達成される(Van der Putten、上記; Stewart et al. (1987) EMBO J. 6:383−388)。もしくは、感染は後期に実施することができる。ウイルスまたはウイルス産生細胞は割腔に注入することができる(Jahner et al. (1982) Nature 298:623−628)。組み入れはトランスジェニック非ヒト動物を形成した細胞の一部のみで起こるので、ほとんどの創始細胞は導入遺伝子に対してモザイクとなるだろう。さらに、創始細胞は、子孫では通常分離するゲノム中の異なる位置に導入遺伝子の多様なレトロウイルス挿入物を含むだろう。さらに、妊娠中期胚の子宮内レトロウイルス感染により導入遺伝子を生殖系列に導入することも可能である(上記のJahner et al.(1982))。
【0145】
導入遺伝子を導入するための第4タイプの標的細胞は胚性幹細胞(ES)である。ES細胞はインビトロで培養された着床前胚から得られ、胚に融合される(Evans et al. (1981) Nature 292:154−156; Bradley et al. (1984) Nature 309:255−258; Gossler et al. (1986) PNAS 83:9065−9069;およびRoberson et al. (1986) Nature 322:445−448)。導入遺伝子は、DNA形質移入によるか、またはレトロウイルス仲介形質導入によりES細胞に効率的に導入することができる。そのような形質転換ES細胞はその後に非ヒト動物の胚盤胞に混合することができる。その後、ES細胞は胚に移入し、得られるキメラ動物の生殖系列に寄与する。総説については、Jaenisch, R.(1988) Science 240:1468−1474を参照されたい。
【0146】
一般的に、トランスジェニック動物の子孫は、トランスジェニック動物を適当なパートナーと交配するか、またはトランスジェニック動物から得られた卵および/または精子のインビトロ受精により得てよい。パートナーとの交配を行なう場合、パートナーは、トランスジェニックおよび/またはノックアウトであってもなくてもよく、ここでは、それがトランスジェニックであり、同一または異なる導入遺伝子、またはその両方を含んでよい。もしくは、パートナーは親系統でもよい。インビトロ受精が用いられる場合、受精胚は代理ホストに移植してもよいし、またはインビトロでインキュベートしてもよいし、またはそれらの両方を行なってもよい。何れかの方法を用いて、子孫を、上記の方法または他の適当な方法を用いて導入遺伝子の存在に関して評価してよい。
【0147】
本発明にしたがって作られたトランスジェニック動物はコントラスト物質をコードする外来性遺伝物質を含むだろう。さらに、配列は、好ましくは導入遺伝子の発現を可能とする制御配列に付着させられるだろう。インサイチュで作られるコントラスト物質はMRIにより可視化することができる。
【0148】
8.植物に関連する方法と組成物
ここに記載の方法と組成物は、例えば、興味のある導入遺伝子の発現のモニター、または環境または多様な試験化合物への植物の相互作用のモニター等、植物での多様な利用に用いてよい。植物を、興味のある導入遺伝子と、制御配列に作動可能に連結させたコントラストタンパク質のコード配列を含む核酸構築物とに接触させてよい。多様な実施態様において、導入遺伝子はコントラストタンパク質をコードする配列との転写融合物として提供してよく、導入遺伝子配列とコントラストタンパク質配列は同一または異なる核酸構築物上に別々に提供されてよく、導入遺伝子配列とコントラストタンパク質配列を植物に同時または異なる時期に投与してよく、導入遺伝子配列とコントラストタンパク質配列を同一または異なるプロモーター配列の制御下に提供してよい等々である。ここでの教示に基づいて、当業者は所望の結果のために適当な組成物と方法を利用することができるだろう。一実施態様において、植物を、興味のある導入遺伝子と、制御配列に作動可能に連結させたコントラストタンパク質のコード配列を含む核酸構築物とに接触させてよい。次に、MRI画像法を用いて導入遺伝子の発現をモニターして、植物中の導入遺伝子発現の時期および/または局在性を決定してよい。別の実施態様において、植物を、興味のある遺伝子のプロモーターに作動可能に連結されたコントラストタンパク質のコード配列により形質転換してよい。次に、植物を異なる環境条件に曝し、および/または1つ以上の化合物に接触させてよい。MRIにより検出されるコントラストのレベルはプロモーターからの発現レベルに相関するか、またはそれを示すので、MRI画像法を用いて、プロモーターにより作動される遺伝子発現をモニターすることができる。コントラストタンパク質の発現レベルのいかなる変化も、プロモーターにより制御される遺伝子の発現に対する環境条件および/または試験化合物の効果を評価するために有用であろう。
【0149】
興味のある導入遺伝子は、農作物の開発にかかわる導入遺伝子、例えば、農業形質、虫害抵抗性、耐病性、除草剤抵抗性、生殖不能、粒子特性、商品をコードする遺伝子、油、デンプン、炭水化物、または栄養素代謝にかかわる遺伝子、穀粒の大きさ、スクロース負荷等に影響をおよぼす遺伝子、および油(飽和および不飽和)のレベルとタイプ、必須アミノ酸の品質と量、およびセルロースのレベル等の穀粒品質にかかわる遺伝子の商業的なマーケットと興味を反映するだろう。
【0150】
多様な調節エレメントを用いて植物発現ベクターからの発現を操作してもよい。例えば、CaMVの35S RNAプロモーターや19S RNAプロモーター等のウイルスプロモーター(Brisson et al., 1984, Nature 310:511−514)、またはTMVのコートタンパク質プロモーター(Takamatsu et al., 1987, EMBO J. 6:307−311)を用いてよい;もしくは、RUBISCOの小サブユニット等の植物プロモーター(Coruzzi et al., 1984, EMBO J. 3:1671−1680; Broglie et al., 1984, Science 224:838−843);またはヒートショックプロモーター、例えば、ダイズhsp17.5−Eまたはhsp17.3−B(Gurley et al., 1986, Mol. Cell. Biol. 6:559−565)を用いてよい。これらの構築物は、Tiプラスミド、Riプラスミド、植物ウイルスベクター、直接的DNA形質転換、遺伝子銃/粒子衝突、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション等を用いて植物細胞に導入することができる。そのような技術の概説に関しては、例えば、Weissbach & Weissbach, 1988, Methods for Plant Molecular Biology, Academic Press, New York, Section VIII, pp. 421−463;およびGrierson & Corey, 1988, Plant Molecular Biology, 2d Ed., Blackie, London, Ch. 7−9を参照されたい。ここで用いられる調節エレメントとして、誘導および非誘導プロモーター、エンハンサー、オペレーター、および発現を操作し調節する当業者に公知の他のエレメントが挙げられるが、これらに限定されない。
【0151】
一定の実施態様において、プロモーター、例えば、CHSプロモーター、PATATINプロモーター等は、発現を、植物の特定の組織に、および/または植物の発達の特定の段階に向けさせることができるだろう。プロモーターは植物に対して非相同でも相同でもよい。例えば、植物材料の摂取によりヒトに導入される治療剤の開発を試みる場合に有用な果実または葉に発現を向けさせることができるようにしてよい。もしくは、プロモーター、例えば、小麦の高分子量グルテニン(HMWG)遺伝子からのプロモーターは発現を植物種子の内胚乳または植物の根か塊茎に向けさせるだろう。他の適切なプロモーター、例えば、グリアジン、枝作り酵素、ADPGピロホスホリラーゼ、デンプン合成酵素およびアクチンのプロモーターが当業者に公知であろう。さらに別の実施態様において、外的に調節可能なプロモーター、例えば、化学物質への曝露、温度、または発達のシグナルに応答性であるプロモーターを用いてよい。
【0152】
別の実施態様において、強力かつ組織や成長に非特異的な植物プロモーター(例えば、多数または全ての植物組織タイプにおいて強力に発現するプロモーター)をここに記載の方法や組成物にしたがって用いてよい。そのような強力な「構成的」プロモーターの例として、CaMV 35Sプロモーター(Odell et al., 1985, Nature 313:810−812)、T−DNAマンノピン合成酵素プロモーターおよびそれらの多様な誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。別の実施態様において、誘導性または抑制性のプロモーター、例えば、Weinmann等(Plant J. 5:559−569(1994))により記載されたtetオペレータープロモーター、McNellis等(Plant J. 14:247−257(1998))により記載されたグルココルチコイド誘導プロモーター、またはCaddick等(Nature Biotechnology 16:177−180(1998))により記載されたエタノール誘導プロモーターを使用してよい。さらに、誘導性および抑制性の植物用遺伝子発現系を記載するGatz, Methods in Cell Biology 50:411−424(1995)を参照されたい。色素体の形質転換のためには、psbAのプロモーター(PpsbA)、光化学系II 32kDタンパク質をコードする色素体遺伝子等の強力なプロモーターを用いてもよい。
【0153】
植物および植物細胞は当分野で公知の任意の方法を用いて形質転換してよい。一実施態様において、アグロバクテリウムを用いて遺伝子構築物を植物に導入する。通常、そのような形質転換はバイナリーアグロバクテリウムT−DNAベクター(Bevan, 1984, Nuc. Acid Res. 12:8711−8721)および共培養操作(Horsch et al., 1985, Science 227:1229−1231)を用いる。一般的に、アグロバクテリウム形質転換系は双子葉植物を操作するために用いられる(Bevan et al., 1982, Ann. Rev. Genet 16:357−384; Rogers et al., 1986, Methods Enzymol. 118:627−641)。さらに、アグロバクテリウム形質転換系を用いてDNAを形質転換し、それを単子葉植物および植物細胞に導入してよい(Hernalsteen et al., 1984, EMBO J 3:3039−3041; Hooykaas−Van Slogteren et al., 1984, Nature 311:763−764; Grimsley et al., 1987, Nature 325:1677−179; Boulton et al., 1989, Plant Mol. Biol. 12:31−40;およびGould et al., 1991, Plant Physiol. 95:426−434を参照)。
【0154】
他の実施態様において、組換え核酸構築物を植物および植物細胞に導入する多様な別の方法も利用できる。これらの他の方法は、標的が単子葉植物かその植物細胞である場合に特に有用である。別の遺伝子導入と形質転換の方法として、粒子銃衝突(遺伝子銃)、カルシウム仲介、ポリエチレングリコール(PEG)仲介またはエレクトロポレーション仲介の裸のDNAの取り込みによるプロトプラスト形質転換(Paszkowski et al., 1984, EMBO J 3:2717−2722, Potrykus et al., 1985, Molec. Gen. Genet. 199:169−177; Fromm et al., 1985, Proc. Nat. Acad. Sci. USA 82:5824−5828;およびShimamoto, 1989, Nature 338:274−276を参照)および植物組織のエレクトロポレーション(D’Halluin et al., 1992, Plant Cell 4:1495−1505)が挙げられるが、これらに限定されない。植物細胞の形質転換のさらなる方法として、マイクロインジェクション、炭化ケイ素仲介DNA取り込み(Kaeppler et al., 1990, Plant Cell Reporter 9:415−418)および微粒子銃(Klein et al., 1988, Proc. Nat. Acad. Sci. USA 85:4305−4309;およびGordon−Kamm et al., 1990, Plant Cell 2:603−618を参照)が挙げられる。多様な方法において、少なくとも最初に、形質転換が実際に起こったのかどうかを決定するために選択可能なマーカーを用いてよい。有用な選択可能なマーカーは、ゲンタマイシン、ハイグロマイシン、カナマイシン等の抗生物質に対する耐性を付与する酵素を含む。もしくは、色の変化により同定可能な化合物(GUS等)や蛍光により同定可能な化合物(ルシフェラーゼ)を提供するマーカーを用いてもよい。色素体の形質転換に関しては、SvabとMaligaの方法による遺伝子銃(Svab et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:913−917)が望ましい。例示的な実施態様において、MRI画像法を用いてコントラスト物質の発現を検出することにより、うまく形質転換された植物または植物細胞を選択してよい。
【0155】
ここに記載された方法と組成物は任意の植物を用いて実施することができる。そのような植物として、単子葉植物と双子葉植物、例えば、穀類(例えば、小麦、トウモロコシ、米、キビとアワ、大麦)、果実作物(例えば、トマト、リンゴ、ナシ、イチゴ、オレンジ)、飼料作物(例えば、アルファルファ)、根菜作物(例えば、ニンジン、ジャガイモ、サトウダイコン、ヤムイモ);葉菜作物(例えば、レタス、ホウレンソウ);顕花植物(例えば、ペチュニア、バラ、キク)、針葉樹とマツの木(例えば、マツ、モミ、エゾマツ);植物療法に用いられる植物(例えば、重金属を蓄積する植物);油料作物(例えば、ヒマワリ、アブラナ)および実験目的のために用いられる植物(例えば、シロイヌナズナ、タバコ)等の農作物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0156】
9.MRI方法
一般的に、本発明のコントラスト物質はMRI検出系用に設計される。MRIの最も一般的な実施において、対象材料に含まれる移動性の水の分子中の水素原子核(陽子)を観察する。対象材料を広い静磁場に置く。磁場は、水の水素原子核に付随する磁気モーメントを磁場の方向に沿って整列させる傾向がある。陽子がエネルギーを共鳴吸収する磁場強度に比例する固有周波数であるラーモア周波数に設定されたパルス高周波(RF)放射によって、原子核は平衡状態から乱される。RFを取り除くと、原子核はレシーバアンテナの過渡電圧を誘導する;この過渡電圧は核磁気共鳴(NMR)シグナルを構成する。空間的情報は、広い静磁場に重ねられた磁場勾配の選択的な適用によりNMRの周波数および/または位相にエンコードされる。一般的に、過渡電圧はデジタル化され、次に、これらのシグナルは、例えば、コンピュータを用いて処理され、画像を得ることができる。
【0157】
本発明をここまで一般的に説明してきたが、本発明の一定の特徴と実施態様を単に例示する目的のために含まれ、本発明を限定するものではない下記の実施例により本発明はさらに容易に理解されるだろう。
【実施例】
【0158】
(実施例1)
フェリチンを過剰発現するK562細胞のNMR:模擬腫瘍研究
有力なMRIコントラスト物質としての細胞内金属結合ポリペプチドの過剰発現の使用の成否を示すデータを説明する。これらの初期の結果は、生きているヒト骨髄性白血病(K562)細胞中のフェリチンに焦点を合わせる。
【0159】
K562細胞のNMR性質を調節するフェリチンの感受性を調べるために、模擬「腫瘍」試料を合成した。これらは、多様な量の過剰の細胞内フェリチンをインビトロで産生するように刺激されたK562細胞で構成された。次に、細胞を低融点アガロースに懸濁して小ペレットを作った。スピン格子緩和率(1/T)およびスピンスピン緩和率(1/T)をペレット中で測定してフェリチンの影響を定量した。(これらの緩和時間の調節はMRIで画像コントラストを生じさせる)。試料のために用いられた同じ細胞で、ELISA(酵素結合免疫吸着測定法)を用いて全フェリチン含量を分析した。
【0160】
実験のために、試料は、2%ウシ胎児血清を補充したRPMI培養培地中の多様な濃度のクエン酸第二鉄アンモニウム(FAC)とともに16時間インキュベートすることによりフェリチンを過剰発現するように刺激されたK562細胞から構成された。インキュベーション後、細胞を洗浄した。各FAC濃度に関して、10細胞をNMR試料用にカウントし、10細胞をELISAアッセイ用(Alpha Diagnostics Int. Inc., San Antonio, TX))に取っておいた。NMR試料用の細胞を、小プラスチックチューブの50μlの低融点アガロースに再懸濁した。1/Tおよび1/T測定をBruker Minispec緩和時間測定計(Bruker Instruments, Billerica, MA)を用いて室温で実施した。ELISA用の細胞は溶解緩衝液で処理し、遊離タンパク質の全量の一貫性をビシンコニン酸タンパク質定量法(Pierce Inc., Rockford, IL)を用いて確認した。フェリチン濃度は細胞ペレット容積にわたって平均として計算した。
【0161】
NMR変化とフェリチン含量との相関性を図1に示す。結果は、バックグラウンドを超えるフェリチン発現の適度な増加とともに緩和時間の実質的な変化を示す;これらの変化はMRIを用いて容易に観察される(下記)。これらの模擬腫瘍は200細胞/nlの細胞密度を有する。
【0162】
(実施例2)
毒性研究
フェリチン合成は細胞の鉄代謝を一時的に乱す。細胞の長期の健康状態に対するこの有害作用はインビトロでまだ十分に決定されていないが、多様なインビトロ実験からの指標は、フェリチン過剰発現が多様な細胞型において、特に一過性の発現のために有害ではないことを示した。これは上記の実施例1で記載したK562細胞での実験で確認された。各FAC濃度(およびコントロール)に関して、インキュベーション前とインキュベーション後の細胞を、血球計数器を用いて3回カウントし、それらの結果の平均をとった。図2は16時間のフェリチン負荷後に残る細胞比率を示す。模擬腫瘍において、ベースライン値よりも10倍大きいフェリチンの増加はオーダー20%の細胞消失をもたらしただけであった。観察可能なMRIコントラストを提供するために必要とされるフェリチン増加はわずかにオーダー2〜4だけであった。
【0163】
(実施例3)
模擬腫瘍のMRI
模擬腫瘍におけるフェリチンの過剰発現はMRIを用いて容易に可視化される。図3は、NMR実験に用いられる3ペレットにわたるMRI像スライスを示す。この像において、コントラストは主にT加重される。図3において、(a)はコントロールであり、(b)〜(c)は、それぞれ2.7と4のフェリチン増加を含む試料である(図1を参照)。Bruker 7−Tesla MRIシステム(TE/TR=45/2000ms、128×128像点および1mm厚みのスライス)を用いて複数の像を同時に得た。ペレットの大きさは直径約4mmであった。
【0164】
(実施例4)
組換えフェリチンを含む細胞のMRI研究
軽フェリチン導入遺伝子と重フェリチン導入遺伝子(それぞれLFとHFと命名)の両方を、脂質に基づく形質移入方法を用い、ウイルスを用いて多様な細胞系(例えば、K562およびラット9L膠肉腫)に導入した。ELISA、NMRおよびMRIを用いて、結果を分析した。典型的な結果を図4と図5に示す。欠損鉄調節エレメントを有するヒト軽/重鎖フェリチンcDNAを用いた。標準的な分子生物学技術を用いて、両導入遺伝子をCMVの前初期プロモーターの制御下に置いた。導入遺伝子の完全性は、多様な制限酵素による消化後のDNA断片の電気泳動とDNAの配列決定とにより確認した。
【0165】
フェリチンの形質移入による導入
9L細胞(Fischer 344ラット膠肉腫)を、10%ウシ胎児血清(FBS)、ペニシリン、ストレプトマイシンおよびグルタミンを補充したDMEM中でインキュベートした。細胞を形質移入の1日前に24ウエルプレートに蒔き、60〜80%集密度を達成した。細胞を無血清DMEMですすぎ、次に同溶液で覆った。DNA混合物は以下のように調製した。試薬リポフェクタミン(登録商標)(Invitrogen, Carlsbad, CA)を、無血清DMEM中の等量のLFとHF DNAと混合した。試薬Plus(登録商標)(Invitrogen, Carlsbad, CA)をDNA溶液に加えて形質移入効率を高めた。DNA混合物を細胞に加え、次に3時間、37℃でインキュベートし、その後、10%FBSを含むDMEMを加えた。細胞を形質移入の48時間後または96時間後に集め、カウントした。さらにコントロール試料を、DNAをリポフェクタミン(登録商標)−Plus(登録商標)−DMEM混合物に加えなかった以外は上記を同じ条件で9L細胞をインキュベートすることにより調製した。48時間後または96時間後の回収の際、DNAレセプターとともにインキュベートした試料とコントロール試料との間に細胞膜に有意差は観察されなかった。例えば、コントラストタンパク質に関連した明らかな毒性は存在しなかった。
【0166】
形質移入後にフェリチン増加を測定するために、9L細胞を上記のように調製した。細胞内タンパク質をM−PER(登録商標)抽出試薬(Pierce Biotechnology, Mountain View, CA)を用いて抽出し、フェリチン含量をELISAキット(Alpha diagnostics, San Antonio, TX)を用いて測定した。その結果は、通常、形質移入細胞で約3ng/mlのフェリチン濃度を示し、非形質移入細胞で無視できる量(約0.0ng/ml)のヒトフェリチンを示した。(9L細胞系はラット由来であり、ELISAで用いられた抗体は交差反応性のないヒトフェリチンのみを検出する)。
【0167】
細胞内の鉄含量を形質移入細胞とコントロール細胞で測定し、導入遺伝子発現による増加した鉄の取り込みを確認した。これらの実験のために、20×10細胞を蒔き、上記の方法を用いて形質移入した。さらに、コントロール細胞を、DNAをインキュベーション溶液に加えないで、上記のように調製した。細胞を形質転換の96時間後に集めてカウントした。標準的な方法[2001 Blood 97(9), 2863]を用いて、細胞をPBS中で洗浄し、ペレットを酸溶液に溶解し、バトフェナントロリンスルコネート溶液で処理した。溶液の光吸収を、分光光度計を用いて535nmで読み、鉄濃度を計算した。結果は、コントロールに比較して、形質転換細胞の正味鉄含量で約1.5増加因子示す。
【0168】
形質移入細胞ペレット中の1/Tの測定を行なった。細胞(20×10)を上記のように導入遺伝子で形質移入した。細胞を形質移入の96時間後に集め、PBSで洗浄し、0.2mlの微小遠心管に移した。再び、細胞を遠心し、上清を捨てた。ペレットに関して、4℃で20MHz Bruker Minispec NMR分析装置(Bruker Instruments, Billerica, MA)を用いてNMR測定を実施した。結果は、通常、コントロールに比較して形質移入細胞で1/Tの約15%増加因子を示す。
【0169】
上記NMR実験用に調製した同じ細胞ペレットを用いて、コントラストタンパク質の発現のために1/T変化はMR像に十分なコントラスト提供することを確認した。ペレットを含む微小遠心管をMRI装置に置き、標準的なT加重の二次元フーリエ変換(2DFT)スピンエコーパルスシーケンスを用いて撮像した。図4は典型的なデータを示し、同時に得られた2つのペレットにわたる高分解能MRIスライスを示す;左のペレットはコントロールであり、右側のペレットはコントラストタンパク質を発現する細胞を含む。映像コントラストはこれら2つの試料間で明らかに明白である。
【0170】
ウイルスベクターによるフェリチンの導入
さらに、コントラストタンパク質をウイルスベクターにより細胞に導入した。感染細胞はELISA、NMRおよびMRIを用いて特性付けた。MRIデータは、コントラストタンパク質を感染させた細胞と非感染(コントロール)細胞との間に明瞭な差異を示す。これらの実験のために、LF導入遺伝子とHF導入遺伝子をそれぞれ別々の複製欠損アデノウイルスに組み入れた。これらのウイルスは、市販のAdeno−X(登録商標)発現系(Clontech,Palo Alto, CA)を製造者の説明書に従って用いて構築した。導入遺伝子の発現はCMVプロモーターを用いて調節した。ウイルスストックの産生のためにHEK−293細胞系を用いた。ウイルス産生のために、細胞変性効果がHEK−293細胞で明らか場合、細胞を集め、溶解し、その上清を集めた。これらの上清はアデノウイルスに富み、これらを用いて哺乳動物細胞を感染させてMRIコントラスト効果を示した。9L細胞を、10%FBS、ペニシリン、ストレプトマイシンおよびグルタミンを補充したDMEM中でインキュベートした。細胞(約20×10)をに感染の1日前に24ウエルプレート蒔き、60〜80%の集密度を得た。次に、細胞を無血清DMEMでそそぎ、次に同じ溶液で覆った。それぞれの上清から等量のLFアデノウイルスとHFアデノウイルスを9Lの細胞に加えた。このウイルスと細胞を無血清培地で0.5時間インキュベートし、次にFBSをDMEMに加えて10%FBSを得た。48時間のインキュベーション後、細胞を集め、すすぎ、コントラスト遺伝子の効果を測定した。図5は、2つのペレット、感染および非感染(コントロール)、9L細胞の典型的なMRIデータを示す。これらのデータは、上記の形質移入実験と同様にT加重2DFTスピン−エコーシーケンスを用いて得られた。左のペレットはコントロールであり、右のペレットはLF導入遺伝子とHF導入遺伝子で感染された細胞を含む。映像コントラストは2つの試料の間で明らかに明白であった。
【0171】
(実施例5)
コントラストタンパク質をコードする核酸のインビボでの導入
この実験は本発明のコントラスト物質のインビボでの送達を示すために設計されている。
【0172】
この実施例において、2つの腫瘍試料をヌードマウスに移植する。HSV送達は、配列番号2と配列番号4に示されるそれぞれのヒトフェリチンのコード配列を含む核酸構築物を含むように設計する。1つの腫瘍試料にHSV+フェリチンベクターを注入し、一方、他の腫瘍試料には「空の」HSVベクターを注入する。マウスをMRIに供し、HSV+フェリチン試料と「空の」HSV試料とのコントラストを比較する。
【0173】
(実施例6)
インビボ画像研究
この実施例では、フェリチンマーカー遺伝子をコードする遺伝子移入ベクターにより導入遺伝子をインビボで可視化するためにMRIを使用する新しい研究手法を紹介する。この研究手法は強い映像コントラストを生み、哺乳動物系に広く適用することができる。結晶性水酸化鉄核のために、FTは異常に高い超常磁性を有し(Bulte, J. W. et al. J. Magn. Reson, Imaging 4, 497−505(1994))、溶媒NMR緩和率に対する著しい効果を有する(Bulte, J.W. et al. J. Magn. Reson. Imaging 4, 497−505(1994); Gottesfeld, Z. et al. T. Magn. Reson. Red. 35, 514−20(1996); Vymazal, J., et al. Magn. Reson. Med. 36, 61−65(1996); Vymazal, J., et al. J. Inorg. Biochem. 71, 153−157(1998))。よって、FTはインビボMRI研究のために発現させるのに理想的な分子である。この実施例において、FTファミリーの金属プロテアーゼをコードするMRIレポーター遺伝子を、複製欠損アデノウイルス(AdV)を用いて生体対象の特定の組織に導入した。細胞がその生物からの内在性Feを捕捉するにしたがって、ベクターにコードされたレポーターは超常磁性とされる。外部から供給されるかさ高い金属の複合体が必要とされないことにより、細胞内送達が単純化される。
【0174】
最初に、一連のインビトロアッセイでのレポーター発現の生物学的効果を特徴付けた。インビボ実験において、AdV−フェリチンベクター(AdV−FT)を定位注射によりC57B1/6Jマウスの脳に送達した。ウイルスにより形質導入された神経細胞と膠細胞は強い映像コントラストを示した。コントラスト増強を長期的に研究のエンドポイントとして最長5週間モニターした。対側部位に注入されたAdVコントロールベクター(AdV−lacZ)を発現するlacZはMRIコントラストを示さなかったが、組織診断はAdV−FTベクターとしての同様な形質導入パターンを明らかにした。さらに、FT導入遺伝子の免疫組織化学的検出はMRIにより示されるパターンを実証した。
【0175】
全体的に見て、この技術は、多くの組織型での遺伝子発現を調べるように適合させることができるので、莫大な数の前臨床インビボ利用性が存在する。例えば、投与プロトコールを評価するための遺伝子治療学の前臨床試験やトランスジェニック動物での遺伝子発現の可視化が挙げられる。
【0176】
結果
インビトロ研究
AdV−FTレポーターの機能、細胞毒性およびMRI効力を調べるために、通常の細胞系(A549)を用いるインビトロ研究を実施した。軽FTサブユニットと重FTサブユニットの導入遺伝子をそれぞれ含む2つの別々のAdVベクター(それぞれAdV−LFとAdV−HF)により細胞の形質導入を行なった。これら2つのベクターの比率は1:1であり、全感染効率(MOI)は100であった。最初に、レポーター発現速度論をインビトロでA549細胞にて特徴付けた。形質導入後、細胞内タンパク質を多様な時点で集め、ELISAによりFT含量を調べた。FT産生は公知のCMVプロモーター活性と一致する経時的な遺伝子発現を示した(図28)。AdV−FTで形質導入された細胞は形質導入の18時間後に検出可能な導入遺伝子の発現を示し、120時間までに導入遺伝子の発現はバックグラウンドFTレベルよりも約60倍高かった(図28)。
【0177】
FTの過剰発現は、Feを内部に取り入れて保存する細胞の能力の増加を始動させるに違いない。形質導入後の多様な時点で、無血清培地中の培養細胞に、59Feに富むトランスフェリンを一時間加えることによりこれを調べた。細胞を洗浄し、すすいだ後、59Fe取り込みを調べた。形質導入細胞は、1分間あたりコントロールよりも約50%だけ増加したカウントを終始一貫して示し、鉄の高い取り込みと保存能力を示した(図29)。
【0178】
FTとトランスフェリンレポーター産生は不安定な鉄プール(LIP)レベルに応えてしっかりと調節される。よって、FTの過剰発現はFe保存能力を高め、LIPを低減し、これらのことは次にトランスフェリンレセプターの上方制御を導くことが予想される(Welch, S. Transferrin: The Iron Carrier(CRC Press, Boca Raton, FL, 1992))。レポーターがこれらの効果を誘導できるのかどうかを調べるために、形質導入細胞とコントロール(偽形質導入)細胞中のトランスフェリンレセプター1(TfR−1)レベルをELISAにより調べた。鉄補足物(クエン酸第二鉄アンモニウム、FAC)の存在下、コントロール細胞に比較して形質導入細胞でTfR−1レベルの統計的に有意な約36%の増加を観察した。
【0179】
スピンスピンNMR緩和率(1/T)に対するレポーター発現の影響は、細胞内FT濃度と、FT核に負荷されたFeの量との関数である(Vymazal, J., et al. Magn. Reson. Med. 36, 61−65(1996))。形質導入細胞における相対的なFe負荷をインビトロで検出するために、ペレット化A549細胞での1/Tを形質導入の120時間後に測定した。唯一のFe源として2%FBSとともにインキュベートされた形質導入細胞はコントロール細胞に比較して1/Tの最小の増加を示しただけであった(図31)。細胞をFe補足物(FAC)とともにインキュベートすることにより、コントロール細胞に比較して形質導入細胞でほぼ2.5倍まで1/Tを有意に増強した(図31)。この1/T挙動は、形質導入後にFTシェルが豊富であるが(図28)、常磁性のFeをわずかに最小限負荷した場合のシナリオに一致する。低いFe(すなわち、FAC陰性)条件下では満たされないFT内部の「過剰な」Feの保存能力が存在する。スピン格子緩和率(1/T)も測定したが、全ての試料にわたって統計的に有意な差を示さなかった。
【0180】
ペレットに対するT加重MRIを実施し、FT導入遺伝子発現による1/T変化は検出可能な映像コントラストに関連があることを確認した(図31、挿入図)。コントラストは、FAC中でインキュベートされた形質導入細胞とコントロール細胞との間で容易に識別できるが、低Fe条件下インキュベートした細胞に対してはそうではなかった(図31、挿入図)。例えば、MRIは1/TNMR測定結果と定量的に一致にしている。
【0181】
次に、FT導入遺伝子発現が細胞生存率に有害でありうるかどうかを調べた。細胞増殖を調べるために、ミトコンドリア活性を測定するメチルチアゾールテトラゾリウム(MTT)アッセイを用いた。AdV−FT形質導入細胞とコントロール細胞は形質導入の48時間後で生存率の統計的に有意な差を示さなかった(図32a)。例えば、FT導入遺伝子発現は、たとえFACの存在下においても細胞増殖を損なわないようにみえる(図32a)。
【0182】
さらに、グルコース6リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PD)酵素の培地中への遊離を測定することによりFTベクター形質導入により引き起こされる潜在的な細胞毒性を測定した。FACが存在しない場合、48時間後で、コントロール細胞に比較してTF形質導入細胞において酵素遊離(すなわち、毒性)の有意な増加は見られなかった(図32b)。興味深いことに、Fe補足物によって、AdV−FT形質導入細胞はコントロール細胞に比べて毒性の小さい有意な減少(34%まで)を示し、FT過剰発現の保護的役割を示唆した。全体的に見て、A549細胞はレポーター発現による明白な生存率の変化を示さなかった。
【0183】
インビボ研究
この導入遺伝子イメージング研究方法の真の可能性をインビボで評価するために、マウス脳におけるMRIレポーター発現を可視化した。MRIレポーターを含むアデノウイルスを線条体に定位的に注入し、次にマウス(n=5)の像を接種の5日後、11日後および39日後に取得した。5日後、形質導入細胞は、T加重像とT*加重像の両方で強いコントラストを示した(左の矢印、図33a、b)。わずかに強いMRIレポーター形質導入領域と、隣接する無影響の実質とにおいて、24ピクセルの平均強度からコントラストノイズ比(CNR)を計算した。T加重像とT*加重像において接種の5日後に6.6±1.7および16.2±1.6のCNR増強をそれぞれ得た。不確定度はn=5での平均値の標準誤差を示す。形質導入細胞は、単一の0.75mm厚のスライス内に高く局在化された。AdV−lacZコントロールベクターを注入した対側部位に統計的に有意なMRIコントラストは検出されなかった(右側の矢印、図33)。MRIは、注入部位において、組織損傷、炎症または血腫の明らかな兆候は示さなかった(図33a〜b)。MRIレポーターからの映像コントラストは測定されたすべての時点で持続し(図33b)、CMVプロモーター活性と一致した。
【0184】
形質導入の5日後、選択された脳の組織診断を実施した。AdV−lacZ接種のX−gal染色パターンはAdV−FTで誘導されたMRIコントラストによく似ていた(図33c)。さらに、接種の1日後と5日後に線条体でのベクター仲介LFおよびHFフェリチンサブユニット発現を検出するために免疫組織化学診断を実施した(図34)。ヒトHF(図34a、c)遺伝子産物とLF(図34b、d)遺伝子産物の両者が接種部位の近位に検出された。発現レベルは1日目から5日目まで接種領域で増加した(図34)。組換えタンパク質発現の時間的/空間的パターンはMRIに一致した。接種の1日後、MRIレポーターコントラストは最小であるが、5日までにコントラストは強かった(図33)。接種後の39日目に、細胞特異的なマーカーであるGFAP(グリア線維性酸性タンパク質)と神経フィラメントを免疫組織化学診断により調べて、MRIレポーター発現により引き起こされる神経損傷と神経膠症を評価した。GFAPと神経フィラメントの染色された部分は、AdV−lacZを接種した反対側の領域と比較してMRIレポーター発現の領域では異常な星状細胞増殖と細胞消失を示さなかった。
【0185】
方法
細胞培養。ヒト肺腺癌(A549)細胞(ATCC#CCL185,Manassas,Virginia)を(特に注記しない限り)販売者の説明書にしたがって培養した。Fe補充を必要とする実験のために、16.5%の鉄含量の2μmolのFAC(Sigma, St. Louis, Missouri)を形質導入の24時間後または96時間後に加え、さらに24時間培養した。
【0186】
発現ベクター。ヒトHFとLFをコードするcDNAをそれぞれ、Paolo Arosio(Universita di Brescia、イタリア)から得た。これらのcDNAは鉄応答エレメントを欠いている(Cozzi, A. et al. J. Biol. Chem. 275, 25122−25129(2000))。アデノウイルスをアデノ−X発現系(Clontech, Palo Alto, California)を製造者の指示にしたがって用いることで作成した。HF導入遺伝子、LF導入遺伝子およびlacZ導入遺伝子用の別々のウイルスストックを作成した。すべての導入遺伝子はCMV前初期プロモーターの制御下にあった。力価はA549細胞を用いた終点希釈分析により決定した。
【0187】
ELISA。経時的なFT発現の測定のために、A549(1×10)を、無血清DMEM中、AdV−LFとAdV−HFのそれぞれについて50MOIで形質導入した。次に、2%FBSを補ったDMEM中で細胞をインキュベートし、形質導入後の多様な時点で集めた;抽出物を、全体のタンパク質含量についてはBCA法(Pierce, Rockford, Illinois)により、LF含量についてはELISA(ICN, Orangeburg, New York)によりそれぞれ評価した。トランスフェリンレセプター1(TfR−1)レベルを測定するために、10個のA549細胞を上記のように形質導入し、2%FBSを含むDMEM中で120時間インキュベートした。膜タンパク質を抽出し、定量し、TfR−1含量をELISA(Ramco Labs Inc, Stafford, Texas)により分析した。
【0188】
59Fe取り込み。A549細胞を上記のように形質導入し、次に、2%FBSを有するDMEM中で培養した。形質導入後の多様な時点で、細胞を59Feに富むヒトトランスフェリン(Klausner, R.D. et al. J. Biol. Chem. 258, 4715−24. (1983))とともにインキュベートした。次に、放射性標識細胞を洗浄し、溶解し、細胞の59Feをシンチレーションにより測定した(n=3)。
【0189】
インビトロNMR/MRI。NMR緩和時間TとTをFe取り込みの相対的基準として用いた。A549(3×10)細胞を上記のように形質導入した。次に、FAC補給物を有するか、または有さない2%FBSを含むDMEM中で120時間インキュベートした。補給される細胞のために、FACを96時間目に加えた。細胞を洗浄し、固定し、ペレット化し、そして上清を捨てた。各実験集団からのn=3ペレットのTとTを500MHzのNMR分光計(Bruker Instruments, Billerica, Massachusetts)を用いて30℃で測定した。NMR後、4つの代表的な試料を11.7T Brukerマイクロイメージングシステムを用いて同時に撮像した。TR/TE=3000/55ms、117μmの面内分解能および0.75mm厚のスライス厚みを有するT加重スピン−エコーシークエンスを用いた。
【0190】
細胞生存率。A549細胞(2×10細胞/ウエル)を上記のように形質導入し。2%FBSを含むDMEM中でインキュベートした。FACを24時間後に一部のウエルに加えた。形質導入の48時間後、MTTアッセイを販売者の説明書(ATCC)にしたがって実施した。細胞毒性を調べるために、細胞を上記のように形質導入した。形質導入の48時間後、培地に放出されたグルコース6リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PD)を製造者の指示(Molecular Probes Inc., Eugene, Oregon)にしたがって検出することにより細胞毒性を測定した。MTTアッセイとG6PDアッセイの両方で、n=8ウエルを条件ごとに測定した。
【0191】
インビボ研究。Carnegie Mellon Institutional Animal Care and Use Committee(IACUC)指針とNational Institutes of Health Guide for the Care and Use of Laboratory Animalsに従って実験を実施した。20gの成体メスC57B1/6Jマウス(Harlan, Indianapolis, Indiana)をケタミン/キシラジンの腹腔内混合物を用いて麻酔し、頭部定位固定装置に配置した。AdV−HFとAdV−LF(1.6×10pfu総量)の1:1混合物を、32標準規格注射針を用いて動物の右線条体に注入した。AdV−lacZコントロールベクターを反対側の脳半球に注入した。動物は回復するまでモニターし、餌と水を自由に与えて飼育した。長期的に、注入の5日後、11日後および39日後、マウスを撮像した。11.7T、89mm垂直ボアBrukerマイクロイメージングシステム内の麻酔マウスを用いて像を得た。T加重スピン−エコー(SE)シーケンスとT*加重グラジエント−エコー(GE)シーケンスを用いて注入部位の冠状スライスを得た。パラメーターは、SEシーケンスではTR/TE=1200/35msであり、GEシーケンスではTR/TE=1200/6.7msであった。すべての像は256×256像点、2.6cm視野および0.75mmスライス厚みで得た。面内解像度は98μmであった。合計n=5マウスを用いた。
【0192】
組織診断/免疫組織化学診断。アデノウイルス注入の5日後、選択されたマウスを屠殺し、脳を14μmの厚みで、凍結切片作製器により切片とし、製造者の指示(Sigma)にしたがってX−gal染色による処理を行なった。ヒトLFとHF免疫染色のために、注入の1日後と5日後にマウスを屠殺し、脳を10μmの厚みで、凍結切片作製器により切片とした。ヒトHFの検出にrH02抗体(Cozzi, A. et al. J. Biol. Chem. 275, 25122−25129(2000))を使用し、ヒトLFの検出にモノクローナルマウス抗ヒト抗体(Alpha Diagnostics)を使用した。ローダミン複合化二次抗体を用いた。
【0193】
(実施例7)
MRIレポーターとしてのトランスフェリンレセプター
トランスフェリン−レセプター1(TfR−1)をコードする導入遺伝子をMRIレポーターとして用いることができることを実証する。この実施例において、ウイルスベクターによるTfR−1導入遺伝子の導入が、鉄負荷表現型である内在性フェリチン(FT)の上方調節を促進し、MRIコントラストを誘発することを示す。これらの効果を、細胞培養研究(図35)とマウス脳でのインビボ研究(図36)を用いて観察した。
【0194】
図35に示される実験において、アデノウイルスを用いて導入された導入遺伝子は、GFP=緑色蛍光タンパク質;H=ヒトフェリチンの重鎖;L=ヒトフェリチンの軽鎖;T=TfR−1であった。さらに、細胞を、示されたように(例えば、H+L=HベクターとLベクターの混合物により多重形質導入された細胞)、導入遺伝子の混合物によっても形質導入した。図35は、Tで形質導入された細胞(黒棒)は、GFPコントロール(白抜きの棒)に比較して実質的な鉄負荷、内在性(L)フェリチンの上方調節および顕著なTfR−1導入遺伝子の発現を有することを示す。T導入遺伝子をH導入遺伝子とL導入遺伝子とに組合せることにより(H+L+L、灰色の棒)、最大の全体的な鉄負荷効果が得られ、この組合せも、最も感受性があり強力なMRIコントラストをインビボで提供することができることを示唆する。これらのすべての実験で、細胞(HEK293)を、導入遺伝子をコードするアデノウイルス(AdV)のそれぞれで感染効率3にて形質導入した。形質導入の48時間目に細胞をアッセイした。鉄含量を測定するために、細胞を採取し、グアニジニウム中で破砕し、全体の鉄を、Ferene−S試薬と600nmの分光光度吸収を用いて測定した。鉄含量は検量線から計算し、10細胞/試料を代表する試料に標準化させた。ELISAのために、細胞を採取し、ペレット化し、界面活性剤溶液に懸濁した。L含量は、ICNフェリチンELISAキットを製造者の指示(ICN Pharmaceuticals, Orangeburg, NY)にしたがって用いることで決定した。TfR−1含量をヒトトランスフェリンレセプターELISAキット(Ramco Laboratories, Stafford, TX)を製造者により規定されたように使用することで決定した。全タンパク質を、Pierce BCAタンパク質アッセイキットを製造者の指示(Pierce, Rockford, IL)にしがたって用いることにより決定した。L量とTfR−1量を全タンパク質含量に標準化した。エラーバーは三つ組み(n=3)試料から計算された標準誤差である。
【0195】
図36に示された実験では、トランスフェリンレセプター系MRIレポーターは検出可能なMRIコントラストを生じ(左のパネル、矢印)、免疫組織化学診断はTfR−1導入遺伝子発現を示し(右のパネル、上)および外来性フェリチンの上方調節を示す(右パネル、下)。マウスの線条体に、ヒトTfR−1をコードする導入遺伝子を保有するAdVベクターを、定位脳手術を用いて、右の脳半球にて接種し、β−ガラクトシダーゼ(lacZ)コントロールベクターを左の脳半球に注入した。接種の5日後、MR画像法を実施した。図36の左パネルは代表的なMRI結果を示す。注入部位にわたるこのT加重冠状像スライスを、実施例6(上記)に記載のように同一の画像法を用いて得た。TfR−1レポーターによって誘導されたコントラストは右の線条体に明らかに見られた。lacZコントロールウイルスが注入された反対(左)側には顕著なMRIコントラストは見られない。右側のパネルはMRI後の同じ脳の免疫組織化学診断を示す。MRI後、マウスを屠殺し、脳を除去し、OTC包埋剤中で凍結した。次に、スライスを14μm厚みで脳にわたって切断し、乗せて、固定し、ヒトTfR−1について抗CD71mAb用いて調べた(α−TfR、右上のパネル)(Ancell, Bayport, MN, cat#:223−020)。さらに、隣接する部分を、ウサギ抗Mo LFt血清F17を用いて内在性のマウス特異的な軽鎖フェリチンに関して調べた[Santambrogio, P. et al. Protein Expression And Purification, 19(1):p.212−218(2000)](α−Mo−LFt、右下のパネル)。免疫組織化学診断のために、ローダミン複合化二次抗体を用いた(Jackson ImmunoResearch Laboratories, West Grove, PA)。
【0196】
(実施例8)
単鎖キメラフェリチン(sc−Ft)レポーター
以前の研究は、ヘテロ多量体のフェリチンへの十分な鉄の取り込みが起こること[Corsi, B. et al., Biochem. J., 330:p.315−320(1998)]、および重(H)サブユニットと軽(L)サブユニットの特定比を有するFTヘテロ多量体が鉄をさらに効果的に取り込むこと[Santambrogio, P. et al., Journal of Biological Chemistry, 268(17):p.12744−12748(1993)]を示す。よって、単一のポリペプチドとして発現されたHおよびLの両方のFTサブユニットからなる合成単鎖FTキメラ二本鎖分子をコードする単一のシストロンを設計し、評価した(表37)。これらの一本鎖キメラフェリチンは、細胞で発現する場合にサブユニットの一定の化学量論(例えば、1:1比)を有する。サブユニット間に、サブユニットをそれぞれ折り畳ませる柔軟性のあるリンカーペプチド(図37A)を導入し、機能的フェリチンシェルを形成する。
【0197】
リンカーポリペプチドは多様な機能をsc−Ftに付与することができる。例えば、これらのリンカーは独自のエピトープタグをコードできるだろう(例えば、HAエピトープ、YPYDVPDYA; His、HHHHHH; c−MYC、EQKLISEEDL; VSV−G、YTDIEMNRLGK; HSV、QPELAPEDPED; V5 GKPIPNPLLGLDST)。これらのエピトープタグは、極めて選択的な抗体を用いる免疫組織化学診断を用いて容易に検出できるので、例えば、MRI検査後にsc−Ftレポーターを発現する細胞と組織の組織学的検査を容易にする。もしくは、これらのエピトープタグを用いて、免疫精製または他の親和性試薬を用いて細胞溶解物から組換えsc−Ftタンパク質を生物化学的に単離することができる。さらに、蛍光タンパク質等の機能的マーカー(具体例はGFPまたはDSレッドの変種)または酵素(β−ガラクトシダーゼ、GSTまたはHRP等)をリンカーに組み入れて、2つのFTサブユニットを同時に連結し、標識することもできるだろう;次に、蛍光顕微鏡、組織学または生化学技術を用いてリンカーを検出することができる。さらに、リンカーポリペプチドは細胞内の特定のタンパク質を標的とするように設計することができ、すなわち、リンカーは細胞内局在化シグナルを含むことができる。例えば、リンカーはユビキチン化を行なう酵素による修飾のシグナルを提供でき、次にこれを用いてsc−Ftレセプターの細胞分解を促進することができる。このようにして、レポーターの分解経路を指定することができ、これは、MRIレポーター活性の速いターンオンおよびターンオフ動力学が望ましい場合、またはMRIレポーターが特定の細胞型では十分な速度で自然に除去されない場合に有用な特徴であろう。
【0198】
さらに、リンカーペプチドは、sc−FtレポーターのMRIコントラスト化機能と安定性を変えるために用いることができる。単鎖キメラ二本鎖分子から形成されるフェリチンシェルの最終構造は、リンカーポリペプチドの柔軟性、長さ、化学的性質(例えば、疎水性や電荷分布)および立体的充填に依存しうる。よって、リンカー設計により、改変構造、インビボでの安定性および増強された機能的性質(すなわち、増強NMR緩和能)を有する新しいフェリチン分子を設計することができる。例えば、リンカーポリペプチドの立体体積、長さ、または強剛性の増加は、十分に形成されたフェリチンシェルの全体的なサイズを増加させ、その結果、さらに大きい鉄負荷容量を容易にする。その上に、構造の他の変化はシェルへの鉄負荷動力学を増加させるだろう。さらに、リンカーはシェルの構造を、細胞中のその安定性とターンオーバー速度が影響されるように改変してよく、これを、細胞中のMRIレポーターのターンオンとターンオフを調節する付加的手段として用いることができる。
【0199】
この計画を調べるために、H鎖とL鎖の両方からなる単鎖フェリチン(sc−Ft)キメラを構築した(図37)。i)クローニングのための独自の制限酵素認識部位、ii)最適な翻訳開始のためのコザックコンセンサスシグナル、およびiii)翻訳融合のためにC末端遺伝子の5’開始とN末端遺伝子の3’停止でのコドン置換を導入するために、オリゴヌクレオチド依存性PCR仲介変異誘発を用いた。さらに、修飾された遺伝子単位複製配列を連結するリンカーを導入するために合成DNAを用いた。リンカーはインフレームの2つのFT cDNAを融合させ、タンパク質の免疫検出のために独自のマーカーとして使用されるFLAGエピトープ(アミノ酸配列DYKDDDDK)をコードする。sc−FTレポーターのインビトロとインビボ特性付けを図38〜図40に示す。
【0200】
フェリチンサブユニットを連結するために用いられる合成オリゴヌクレオチドの代表的な配列を以下に示す。これらのDNAをアニールし、次にサブユニット遺伝子に連結する場合、それらは中央FLAGエピトープ(下線の部分)、KSRGGGGSDYKDDDDKGGGGSGAPに隣接する柔軟性のあるポリ−グリシン−セリン領域をコードする。
【0201】
【化1】

2つの異なるキメラFT cDNAを生成するために用いられる変異原性オリゴヌクレオチドは以下の通りである:
【0202】
【化2】

sc−Ft分子をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)のDNA配列は以下の通りである:
【0203】
【化3】

【0204】
【化4】

sc−FtキメラMRIレポーター形質導入細胞中の鉄、L鎖およびTfR−1のインビトロレベルを図39に示す。これらの実験において、導入遺伝子は、GFP=緑色蛍光タンパク質;H;L;T=TfR−1;L*H=L−Tag−Hキメラであった(図37B)。ベクターの混合物により多重形質導入された細胞をA+B(ここで、AとBは導入遺伝子の成分である)と表示する。L−Tag−Hキメラ(L*H)は形質導入細胞で強い鉄負荷表現型を示す。さらに、L*Hは、等量のH導入遺伝子とL導入遺伝子とにより形質導入された細胞によりも顕著にさらに高い効率で鉄を捕捉するようにみえる。TfR−1を有するL*Hキメラを共発現する細胞は、H+Lを発現する細胞に比較して3倍の量の鉄を捕捉する。これらのデータは、合成単鎖キメラが、NMR緩和率に対して「野生型」FT分子よりもかなり強い効果を示すことを示唆する;結局、低い感染量でさらに強いMRIコントラストがもたらされることになる。細胞(HEK293)は、AdVをコードする導入遺伝子のそれぞれで、多重度3で形質導入した。形質導入後、培養物を1mg/mlの精製ホロトランスフェリンを補った低血清培地中でインキュベートした。形質導入の48時間後、実施例6に記載の方法を用いて細胞を調べた。ELISAを用いてLとTfR−1の含量を調べ、示されたデータをBCA方法で測定された全タンパク質に標準化する(さらなる詳細については実施例6を参照されたい)。鉄の定量値は検量線から計算し、10細胞/試料を代表する試料に標準化した。標準誤差バーを三つ組み試料から計算する。
【0205】
マウス脳におけるsc−Ftに基づくレポーター発現のインビボ利用を図40に示す。sc−FT MRIレポーターはMRIコントラストを生じ(左のパネル、矢印)、同じ脳の免疫組織化学診断はFLAGエピトープの存在を示す(右のパネル)。マウスを、定位脳手術を用いて線条体に接種し、この定位脳手術において、L−Tag−Hをコードする導入遺伝子を保有するAdVベクター(図37B)を右の脳半球に注入し、β−ガラクトシダーゼ(lacZ)コントロールベクターを左の脳半球に注入した。接種の5日後、MR撮像を実施した。上記の左のパネルは典型的なMRIの結果を示す。注入部位にわたるこのT2加重冠状像スライスを実施例6(上記)に記載したように同一の画像法を用いて得た。L−Tag−Hレポーターにより誘導された撮像コントラストは右の線条体に明らかに見られる。lacZコントロールウイルスが注入された反対(左)側には顕著なMRIコントラストは見られない。右側のパネルは、MRI後の同じ脳での免疫組織化学診断を示す。MRI後、マウスを屠殺し、脳をOTC包埋剤中で凍結した。次に、スライスを14μm厚みで脳にわたって切断し、乗せて、固定し、sc−Ftについて、α−FLAG mAb(M2、Sigma、F−3165)、次にローダミン複合化二次抗体(Jackson ImmunoResearch)を用いて調べた。
【0206】
(実施例9)
刺激と組織に特異的なプロモーター下の脳内MRIレポーター活性
特定の組の遺伝子をマーカーとして用いて組織中の差異細胞活性を調べることができる。例えば、c−fos、c−junおよびegr−1等の前初期遺伝子(IEG)は、一連の細胞内シグナル経路によって、転写段階で制御され、かつ下流の後期遺伝子の転写活性に影響を与える転写因子をコードする。多様な細胞外または生理学的な刺激は、これらの細胞シグナル経路を活性化するスイッチを提供する。これらのIEGの活性化は、細胞がそれらの環境下でシグナルに応答する遺伝回路網を含む下流遺伝子を活性化する転写カスケードをもたらす。例えば、これらのシグナルは、ホルモン刺激、感覚刺激、運動皮質または他の運動行動の促進により、および多様な神経伝達物質系に作用する多様な医薬や毒素により神経細胞中に誘導されるだろう。IEGは洗練された組織特異的な方法で一時的に活性化されうるので、MRIレポーターとともに用いられるIEGの転写プロモーターは組織の代謝活性化を非侵襲的に研究するための理想的なシステムである。
【0207】
以前の研究は、自然のc−fosプロモーターの組織特異的転写活性の読み取りのためにレポーターのβ−galとGFPとを用いるc−Fosタンパク質融合物の有用性を示した。例えば、Barth, A.L., et al. Journal Of Neuroscience, 24(29):p.6466−6475(2004); Wilson, Y.,N. et al. Proceedings Of The National Academy Of Sciences Of The United States Of America, 99(5):p.3252−3257(2002); Schilling, K. et al., Proceedings Of The National Academy Of Sciences Of The United States Of America, 88(13):p.5665−5669(1991)を参照されたい。しかし、fos−β−galとfos−GFP融合レポーターはfos核局在化シグナルの包含により核を標的とする。MRIレポーターにとって、核局在化はレポーター活性に最適ではないかもしれない。例えば、MRIレポーターの刺激依存性の細胞質発現を提供する操作されたc−fosプロモーターの例を図41に示す。第1例であるP−fos−1(図41)は最小のfosプロモーターを含み、第2例のP−fos−2(図41)はc−fosのエクソン1とエクソン2を含み、イントロン1を包含する。両プロモーター構築物において、fos転写物に見られる標準的および潜在的なATG開始コドンを変異させた。これらを除去することにより、改変配列が両構築物において5’UTRとして働くだろう。P−fos−2構築物にあるような改変エクソン−1/イントロン−1/エクソン−2領域はRNAプロセシングを容易にし、導入遺伝子発現を増強するだろう。当業者は、図41に概要を示すスキームの多くの他のバリエーションを考え出すことができる。
【0208】
MRIレポーターを取り入れたここに記載の設計は、中枢神経系(CNS)において内在性遺伝子活性を非侵襲的にモニターするために用いることができる。例えば、MRIレポーターを用いて可視化することのできる前初期遺伝子c−fosのプロモーター成分をCNSでの細胞活性化を調べる原型マーカーとして利用することができる。さらに、他のIEGに由来するプロモーターモジュールを用いて刺激特異的および組織特異的リポーター発現を作動させることもできるだろう。これらの種類のシステムは、脳の回路を知る上で発達遺伝子調節、神経可塑性および遺伝子活性の研究に有用でありうる。さらに、MRIリポーターにより生じるコントラスト化効果を用いて医薬品が異なる能領域で遺伝子調節にどのように影響を及ぼすかを可視化するためにこのレポーター系を用いることができる。MRIレポーターにより、c−fosまたはIEG活性を長期的に観察することができる。
【0209】
【化5】

【0210】
【化6】

【0211】
【化7】

P−fos−1プロモーター構築物のDNA配列は、上記配列で波状の下線を付した724塩基対5’MluI断片を得ることにより単純に作られる。
【0212】
(文献による援用)
ここで挙げられたすべての特許、出版物および配列データベースは参照によりここに取り込まれる。さらに、Trinder et al., Int. J. Biochem. & Cell Biol., 35:292−296(2003); Fleming et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99:10653−10658(2002); Fleming et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97:2214−2219(2000);米国特許公報第2004/0194161号;米国特許公報第2004/0205846号;および米国特許公報第2004/0205847号が参照により取り込まれる。
【0213】
(等価物)
当業者は、単に日常の実験法を用いて、ここで説明した本発明の特定の実施態様の多くの等価物を認識するだろうし、確認することができるだろう。そのような等価物は本発明の請求の範囲に包含されることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0214】
【図1】フェリチン増加と、模擬腫瘍における1/T(a)および1/T(b)との相関。実線は最小二乗適合させたデータを示す(視覚的ガイド)。値を標準化して、フェリチンの1.5mg/mlであるコントロールペレットの平均ベースライン値を超えるフェリチン増加を与える;実験試料は多様な濃度のクエン酸第二鉄アンモニウム(FAC)とともにインキュベートし、コントロール試料はFACなしにインキュベートした。誤差バーはN=4の実験の標準偏差を表す。
【図2】フェリチン負荷の16時間後に残る細胞の総計パーセントを示すデータ。各FAC濃度(およびコントロール)に関して、インキュベーション前後の細胞を、血球計数器を用いて3回カウントし、その結果を平均した。誤差バーは別の(N=4)インキュベーション実験の標準偏差を表す。
【図3】3つの模擬腫瘍試料のMRI像。ここで、(a)はコントロールであり、(b)および(c)は、それぞれ2.7と4のフェリチン増加を含む試料である。これらの試料間のコントラストは、このT加重像で容易に明らかである。像を、TE/TR=45/2000ms、128×128像点および1mm厚スライスによりBruker 7−Tesla MRIシステムを用いて同時に得た。ペレットサイズは直径がおよそ4mmであった。
【図4】コントラストタンパク質である軽(LF)と重(HF)鎖フェリチンにより形質導入されたペレット化9L神経膠腫細胞のMRI像。左側の試料はコントロールである(インキュベーション中、DNAを加えない)。像コントラストは2つのペレット間で容易に明らかである。レポーターの発現はMR像で細胞を暗くする。この像は標準的T加重2DFTパルスシーケンスを用いる11.7Tesla MRIシステムを用いて得た。この像は4℃で得られた。
【図5】アデノウイルスによりコントラストタンパク質である軽(LF)および重(HF)鎖フェリチンを感染させたペレット化9L細胞のMRI像。左側の試料はコントロール(未感染細胞)である。像コントラストは2つのペレット間で容易に明らかである。(ペレット中の強く濃いスポットは気泡の人為的結果である)。この像は11.7 Tesla MRIシステムと標準的T加重2DFTパルスシークエンスを用いて得られた。この像は4℃で得られた。
【図6】ヒトフェリチン重鎖cDNA配列(BC016009)(配列番号1)。コード領域に下線を付す。
【図7】ヒトフェリチン重鎖アミノ酸配列(AAH16009)(配列番号2)。
【図8】ヒトフェリチン軽鎖cDNA配列(XM_050469)(配列番号3)。コード領域に下線を付す。
【図9】ヒトフェリチン軽鎖アミノ酸配列(XP_050469)(配列番号4)。
【図10】マウスフェリチン重鎖cDNA配列(NM_010239.1)(配列番号5)。コード領域に下線を付す。
【図11】マウスフェリチン重鎖アミノ酸配列(NP_034369.1)(配列番号6)。
【図12】マウスフェリチン軽鎖1 cDNA配列(NM_010240.1)(配列番号7)。コード領域に下線を付す。
【図13】マウスフェリチン軽鎖1アミノ酸配列(NP_034370.1)(配列番号8)。
【図14】マウスフェリチン軽鎖2 cDNA配列(NM_008049.1)(配列番号9)。コード領域に下線を付す。
【図15】マウスフェリチン軽鎖2アミノ酸配列(NP_032075.1)(配列番号10)。
【図16】Rattus norvegicusフェリチンサブユニットH cDNA配列(NM_012848.1)(配列番号11)。コード領域に下線を付す。
【図17】Rattus norvegicusフェリチンサブユニットHアミノ酸配列(NP_036980.1)(配列番号12)。
【図18】Rattus norvegicusフェリチンフェリチン軽鎖1 cDNA配列(NM_022500.1)(配列番号13)。コード領域に下線を付す。
【図19】Rattus norvegicusフェリチン軽鎖1アミノ酸配列(NP_071945.1)(配列番号14)。
【図20−1】ヒトトランスフェリンレセプターcDNA配列(NM_003234)(配列番号15)。コード領域に下線を付す。
【図20−2】ヒトトランスフェリンレセプターcDNA配列(NM_003234)(配列番号15)。コード領域に下線を付す。
【図20−3】ヒトトランスフェリンレセプターcDNA配列(NM_003234)(配列番号15)。コード領域に下線を付す。
【図21】ヒトトランスフェリンレセプターアミノ酸配列(NP_003225)(配列番号16)。
【図22−1】ヒトトランスフェリンレセプター2 cDNA配列(NM_003227)(配列番号17)。コード領域に下線を付す。
【図22−2】ヒトトランスフェリンレセプター2 cDNA配列(NM_003227)(配列番号17)。コード領域に下線を付す。
【図23】ヒトトランスフェリンレセプター2アミノ酸配列(NM_003218)(配列番号18)。
【図24−1】マウストランスフェリンレセプターコード配列(NM_011638)(配列番号19)。
【図24−2】マウストランスフェリンレセプターコード配列(NM_011638)(配列番号19)。
【図25】マウストランスフェリンレセプターアミノ酸配列(NP_035768)(配列番号20)。
【図26−1】マウストランスフェリンレセプター2核酸配列(NM_015799)(配列番号21)。コード領域に下線を付す。
【図26−2】マウストランスフェリンレセプター2核酸配列(NM_015799)(配列番号21)。コード領域に下線を付す。
【図27】マウストランスフェリンレセプター2アミノ酸配列(NP_056614)(配列番号22)。
【図28】A549細胞におけるAdV−FT発現の時間経過。コントロール(白い円)およびベクターで形質導入した細胞(黒い四角)中の細胞内LF含量をELISA(全タンパク質の1mgあたりμg)により測定した。値はn=3の平均であり、平均値の標準誤差(SEM)はデータ記号内にある。
【図29】A549細胞における59Feに富むヒトトランスフェリンのインビトロ取り込み速度論。細胞をAdV−LFとAdV−HFにより形質導入した。59Feに富むホロトランスフェリンを多様な時点で培地に加え、59Fe取り込みをシンチレーションにより調べた。形質導入細胞は、一致して、1分あたりのカウント(cpm)をコントロールよりも約51%高めた。さらに、形質導入細胞とコントロール細胞はともに経時的にFe取り込みの同様な単調増加を示す。この観察は、レポーター形質導入または導入遺伝子発現により損なわれない培養での細胞数の定常的な増加と一致し、FTのベクター仲介発現と鉄捕捉がインビトロでA549に対して明らかに毒性がないことを示唆する。示されたデータはn=3での平均±SEMである。
【図30】AdV−FTで形質導入された細胞とコントロールA549細胞のTfR−1レベル。ELISAを用いて、形質導入の120時間後の細胞(AdV)内および非形質導入コントロール(wt)細胞内のTfR−1レベルを測定した。FACの追加なし(灰色バー)とFACの追加あり(黒バー)の結果を示す。n=3の平均値±SEMを示す。TfR−1の小さな増加(約6%)が、低鉄培地(すなわち、2%FBSを含む培地)でインキュベートされた形質導入細胞で観察されるが、これは平均値の標準誤差内にある。FACを添加する場合、TfR−1レベルの統計的に有意な増加(約36%)が観察される。これらのデータは、FAC追加により、LIPの増加はFTの上方調節により提供される余分なFe保存容量により緩衝されるので、TfR−1発現に影響を及ぼさないことを示唆する。コントロールにおいて、低い内在性FTレベルにより、LIPが増加し、TfR−1が下方調節される。
【図31】ペレット化A549細胞におけるインビトロ1/T。FACの追加ありと追加なしで、形質導入の120時間後のAdV−FT形質導入細胞(AdV)と非形質導入コントロール細胞(wt)の結果(それぞれ黒バーと灰色バー)を示す。NMR結果はn=3の平均±SEMである。挿入図は、4実験集団からの代表的なA549ペレットのT加重MR像を示す。
【図32】A549細胞でのインビトロ細胞毒性アッセイは、AdV−FT発現による有害作用を示さない。AdV形質導入細胞とコントロール細胞(wt)のデータをFAC追加有りと無し(それぞれ黒バーと灰色バー)で示す。a、MTT増殖アッセイ。b、G6PD細胞毒性アッセイ。bにおいて、データをwtに標準化し、100%と定義する;高いG6PD放出は増加した毒性を示す。値はn=8の平均±SEMである。
【図33】マウス脳におけるMRIレポーター発現のインビボでの長期的な結果。MRIレポーターを含むアデノウイルスを線条体に接種した。a、接種部位を示す注入の5日後のT加重像(矢印、MRIレポーター(左)、AdV−lacZコントロール(右))。b、注入の5日後、11日後および39日後の同じマウスにおける経時的T*加重像。c、注入の5日後のX−gal染色AdV−lacZ形質導入パターン。cにおいて、MRIと類似の染色パターンは主に白質にあり(上の矢印)と線条体(下の矢印)にあり、ここでvは脳室を示す。像を、0.75mmスライス厚みと102μmの面内解像度にて11.7Tで得られた。
【図34】マウス脳におけるFT発現を示す免疫組織化学診断。MRIレポーターを含むアデノウイルスを左の線条体に接種し、AdV−lacZを反対側に注入した。ヒトLFとHFに対する抗体を用いる免疫組織化学診断は、(a)HFと(b)LFの形質導入の24時間後に左の線条体のみ(矢印)でMRIレポーター発現を検出した。MRIレポーター発現は、(c)HFと(d)LFに対する抗体を用いて、形質導入の5日後までに増加した(矢印)。パネル対a−bとc−dは隣接するスライスであり、各対は異なるマウスからのものである。
【図35】FT MRIレポーター有りまたは無しでのヒトトランスフェリンレポーター1(TfR−1)のインビトロ特性付け。
【図36】脳中のトランスフェリンレセプター系MRIレポーターのインビボ利用。
【図37】sc−Ftレポーターのコンピュータシミュレーションによる表示。A、リンカーポリペプチドにより繋がれた異なるFTサブユニットを含むタンパク質融合物として構築されたフェリチン系MRIレポーターの一般的な表示。B、2つの例単鎖フェリチンcDNA分子のコンピュータシミュレーションで作られた構築。オープンリーディングフレームを含む個々の成分を有色矢印により示す。リンカー“link−tag−link”はサブユニット遺伝子を融合して単一のポリペプチドの発現をもたらす。H−Tag−L構築物は、それぞれN末端とC末端の成分として配置されたHサブユニットとLサブユニットを有するが、L−Tag−H構築物は逆の配向で融合されたこれらサブユニットを有する。
【図38】単鎖フェリチン(sc−Ft)キメラの発現。H−Tag−L(Ad−H*L)導入遺伝子またはL−Tag−H(Ad−L*H)導入遺伝子(図37)を含むアデノウイルスにより約0.02の多重度で形質導入されたHEK293に対して免疫蛍光検出測定法(IFA)を実施した。次に、細胞を形質導入の40時間後に固定し、抗L(α−LFt)mAb(#FERT12−M, Alpha Diagnostics, Inc)または抗FLAG(α−FLAG)mAb(M2, Sigma, #F−3165)を用いた後、ローダミン複合化二次抗体(Jackson ImmunoResearch)を用いて調べた。細胞の対応する明視野像も示す。
【図39】sc−FtキメラMRIレポーター形質導入細胞における鉄、L鎖およびTfR−1のインビトロレベル。
【図40】マウス脳のsc−Ft系レポーター発現のインビボ利用。sc−FT MRIレポーターは検出可能なMRIコントラストを生じ(左のパネル、矢印)、同じ脳の免疫組織化学診断はFLAGエピトープの存在を示す(右のパネル)。
【図41】レポーター発現をもたらすマウスc−fos DNAプロモーター構築物と転写物。自然のc−fos遺伝子に見られる1つだけ除いてすべての調節エレメントを保持するようにP−fos−1(上)を構築した。P−fos−2(下)は、遺伝子内cre/ap1様エレメントを含むすべての公知の調節エレメントを保持し、さらにfosイントロン−1(fosI1)をも含む。fosエキソン−1(fos E1)とエキソン−2(fos E2)中のすべての潜在的な開始コドンを変異させているので、転写物のこれらの領域は5’非翻訳領域(UTR)のように作動し、適当なレポーター発現を可能とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験化合物の毒性を評価するための方法であって、
コントラストタンパク質のコード領域に作動可能に連結された毒性マーカー遺伝子のプロモーターを含む核酸を含有する細胞を提供する工程;
該細胞と該試験化合物とを接触させる工程;そして
該細胞を磁気共鳴画像法により画像化する工程を包含し、
コントロールのコントラストのレベルに比較して該試験化合物の存在下での磁気共鳴画像法によるコントラストのレベルの変化が、該毒性マーカー遺伝子プロモーターからの発現のレベルを調節する試験化合物を示し、それによって該試験化合物の毒性を評価する、
方法。
【請求項2】
前記試験化合物が、ペプチド、核酸、炭水化物または小分子の少なくとも1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記毒性マーカー遺伝子プロモーターからの発現のレベルの増加が、前記細胞に対して毒性がある試験化合物を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記毒性マーカー遺伝子プロモーターからの発現のレベルの減少が、前記細胞に対して毒性がある試験化合物を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記毒性マーカー遺伝子プロモーターが、薬物代謝、ストレス応答、熱ショック、細胞周期制御、炎症、アポトーシス、DNA損傷修復または細胞増殖のうちの1つ以上のプロセスに関与する遺伝子に由来するプロモーターである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記コントラストタンパク質が金属結合タンパク質である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記コントラストタンパク質が、フェリチンタンパク質、トランスフェリンレセプタータンパク質、鉄調節タンパク質または鉄スカベンジャータンパク質のうちの1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記コントラストタンパク質が、配列番号2または配列番号4を有するタンパク質に対して少なくとも60%同一である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記細胞が細胞培養物の一部である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞がインビトロ組織の一部である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞が多細胞生物の一部である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞が哺乳動物の一部である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞が植物の一部である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記コントロールが、(i)コントロール試験化合物に接触させた細胞、または(ii)前記試験化合物に接触させていない細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
試験化合物の毒性を評価するための方法であって、
複数の細胞を含む非ヒト多細胞生物を提供する工程であって、該細胞の少なくとも一部が、コントラストタンパク質のコード領域に作動可能に連結させた毒性マーカー遺伝子のプロモーターを含む核酸を含有する、工程;
該試験化合物を該非ヒト多細胞生物に投与する工程;そして
対象を磁気共鳴画像法により画像化する工程、
を包含し、
コントロールのコントラストのレベルに比較して該試験化合物の存在下での磁気共鳴画像法によるコントラストのレベルの変化が、該毒性マーカー遺伝子プロモーターからの発現のレベルを調節する試験化合物を示し、それによって試験化合物の毒性を評価する、
方法。
【請求項16】
前記非ヒト多細胞生物が、マウス、ラット、イヌ、サル、ブタ、ショウジョウバエ、線虫または魚のうちの1つである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記非ヒト多細胞生物がトランスジェニックである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記毒性マーカー遺伝子のプロモーターがヒト遺伝子由来である、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
さらに、前記毒性マーカー遺伝子プロモーターからの遺伝子発現の調節のレベルを対象内の1つ以上の位置で評価する工程を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
遺伝子発現調節のレベルが、腎臓、肝臓、脳、心臓、骨、肺、筋肉、脈管構造、脂肪または軟骨のうちの少なくとも1つの位置で評価される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
フェリチン重鎖サブユニットとフェリチン軽鎖サブユニットを含む融合タンパク質。
【請求項22】
リンカーが、前記フェリチン重鎖サブユニットを前記フェリチン軽鎖サブユニットに連結させる、請求項21に記載の融合タンパク質。
【請求項23】
請求項21に記載の融合タンパク質をコードする核酸。
【請求項24】
ウイルスベクターである、請求項21に記載の融合タンパク質をコードする組換え核酸を含む多細胞生物のトランスフェクションのためのベクター。
【請求項25】
前記ウイルスベクターが、アデノウイルス、アデノウイルス随伴ウイルス、単純ヘルペスウイルス、レトロウイルス、アルファウイルス、ポックスウイルス、アレナウイルス、ワクシニアウイルス、インフルエンザウイルスおよびポリオウイルスからなる群から選択されるウイルスの1つ以上に由来する、請求項24に記載のベクター。
【請求項26】
対象材料の像を作る方法であって、
複数の細胞を含有する対象材料を提供する工程であって、該細胞の一部がMRIで検出可能な量のコントラスト融合タンパク質を含む、工程;そして
該細胞を磁気共鳴画像法により画像化する工程を包含し、
ここで、該コントラスト融合タンパク質が、フェリチン重鎖サブユニットとフェリチン軽鎖サブユニットとを含む、
方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20−1】
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【図20−2】
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【図20−3】
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【図21】
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【図22−1】
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【図22−2】
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【図23】
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【図24−1】
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【図24−2】
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【図25】
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【図26−1】
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【図26−2】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【公表番号】特表2008−532552(P2008−532552A)
【公表日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−502029(P2008−502029)
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【国際出願番号】PCT/US2006/009435
【国際公開番号】WO2006/099516
【国際公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(504337958)カーネギー メロン ユニバーシティ (15)
【Fターム(参考)】