説明

磁気共鳴装置

【課題】インフロウ効果を利用した血管画像を生成するためのエコーと、T2*強調効果を利用した血管画像を生成するためのエコーとを短い撮影時間で収集する。
【解決手段】インフロウ効果を利用した血管画像と、T2*強調効果を利用した血管画像は、1TR期間内に発生した複数のエコーから選択された1以上のエコーによりそれぞれ生成される。T2*強調効果を利用した血管画像は、十分なT2*強調効果を有するエコーから生成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴撮影装置に関し、特に、血流像を撮影する磁気共鳴撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴撮影装置では、撮影対象を収容する空間に静磁場、勾配磁場および高周波磁場を形成し、撮影対象のスピン(spin)が発生する磁気共鳴信号を収集し、それに基づいて画像を生成する。磁気共鳴信号は、2次元(又はそれ以上の次元の)フーリエ(Fourier)空間すなわちkスペース(space)を埋めるデータ(data)として収集され、それを2次元(又はそれ以上の次元の)逆フーリエ変換することにより画像が生成(再構成)される。
【0003】
動脈の血流像を撮影するシーケンスとしては、撮影断面に流入する血流から強い信号が得られるタイム・オブ・フライト(TOF:Time
of Flight)法が用いられることが多い(特許文献1)。また、血流像を撮影するシーケンスとして、FS−BB(Flow-Sensitive BB)法等が知られている(特許文献2)。また、MR(Magnetic Resonance)データの位相情報を利用して、磁化率の異なる組織のコントラストを強調した画像を作成し表示するSWI(Susceptibility Weighted Imaging)の技術も提案されており(特許文献3)、静脈の血流像の描出に応用されている(上記特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−154132号公報
【特許文献2】特開2008−272248号公報
【特許文献3】特開2006−255046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の動脈と静脈の双方の血流像を撮影するシーケンスは撮影時間が長くなるという問題があった。
【0006】
したがって、本発明の一態様は、短い撮影時間で動脈と静脈の双方の血流像を撮影することを目的とする。
【0007】
本発明の他の一態様は、インフロウ効果を利用した血管画像を生成するためのエコーと、T2*強調効果を利用した血管画像を生成するためのエコーとを短い撮影時間で収集することを目的とする。
【0008】
本発明の他の一態様は、被検体の動きによる位置ずれの影響を低減することを目的とする。
【0009】
本発明の他の一態様は、高いSN比の動脈と静脈の画像を生成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様において、インフロウ効果を利用した血管画像と、T2*強調効果を利用した血管画像は、1TR期間内に発生した複数のエコーから選択された1以上のエコーによりそれぞれ生成される。T2*強調効果を利用した血管画像は、十分なT2*強調効果を有するエコーから生成される。
【0011】
本発明の他の一態様において、
複数のリードアウト勾配磁場を含む撮影用パルスシーケンスを実行する制御部と、
前記複数のリードアウト勾配磁場に応じて発生した複数のエコーを収集するデータ収集部と、
前記複数のエコーに基づいてインフロウ効果を利用した第1の血管画像と、T2*強調効果を利用した第2の血管画像を生成するデータ処理部と、
を備え、
前記パルスシーケンスは、同じTR期間内において、前記インフロウ効果および前記T2*強調効果を生成するに必要な数のリード勾配磁場が印加される、
磁気共鳴装置が提供される。
【0012】
本発明の他の一態様において、
前記データ処理部は、前記複数のエコーのうち短いTEで取得された1以上のエコーに基づいて前記第1の血管画像を生成する。
【0013】
本発明の他の一態様において、
前記データ処理部は、前記複数のエコーに基づいて前記第1の血管画像生成する際、それぞれのエコーに加重関数を適用して前記血管画像を生成する。
【0014】
本発明の他の一態様において、
前記インフロウ効果を利用した第1の血管画像は、動脈を関心領域とする血管画像である。
【0015】
本発明の他の一態様において、
前記データ処理部は、前記複数のエコーのうち長いTEで取得された1以上のエコーに基づいて前記第2の血管画像を生成する。
【0016】
本発明の他の一態様において、
前記データ処理部は、前記複数のエコーに基づいて前記第2の血管画像を生成する際、それぞれのエコーに加重関数を適用して前記第2の血管画像を生成する。
【0017】
本発明の他の一態様において、
前記T2*強調効果を利用した第2の血管画像は、静脈を関心領域とする血管画像である。
【0018】
本発明の他の一態様において、
前記データ処理部は、前記第2の血管画像の生成に使用するエコーよりもTEの短いエコーを少なくとも1つ使用して前記第1の血管画像を生成し、前記第1の血管画像の生成に使用するエコーよりもTEの長いエコーを少なくとも1つ使用して前記第2の血管画像を生成する。
【0019】
本発明の他の一態様において、
前記データ処理部は、前記複数のエコーのうち1つのエコーを前記第1の血管画像および前記第2の血管画像のいずれにも使用する。
【0020】
本発明の他の一態様において、
前記撮影用パルスシーケンスは、3次元の撮影シーケンスである。
【0021】
本発明の他の一態様において、
前記制御部は、撮影領域の外部から流入するスピンを飽和させるサチュレーション用パルスシーケンスを実行する。
【0022】
本発明の他の一態様において、
前記撮影用パルスシーケンスは、血流の信号欠損を抑制するグラディエントモーメントヌリングの位相補償パルスを含んでいる。
【0023】
本発明の他の一態様において、
前記複数のリードアウト勾配磁場の各々は、単極型のリード勾配磁場である。
【0024】
本発明の他の一態様において、
前記複数のリードアウト勾配磁場の各々は、双極型のリード勾配磁場である。
【0025】
本発明の他の一態様において、
前記データ処理部は、前記第1の血管画像にMIP法を適用し、前記第2の血管画像にMinIP法を適用し、それぞれ血管が強調される画像を生成する。
【0026】
本発明の他の一態様において、
前記データ処理部は、
前記リードアウト勾配磁場に応じて発生したエコーから得られる画像に対応した位相画像を生成し、
前記位相画像にフィルタ処理を施すことにより、位相シフトが大きい部分と小さい部分と表した位相マスク画像を生成し、
前記エコーから得られる画像に前記位相マスク画像を所定回数掛け合わせることにより、磁化率による位相変化を強調させた画像を生成し、前記位相変化を強調させた画像に基づき前記第1または第2の血管画像を生成する。
【発明の効果】
【0027】
本発明の一態様によれば、短い撮影時間で動脈と静脈の双方の血流像を撮影する装置を提供することができる。
【0028】
本発明の他の一態様によれば、インフロウ効果を利用した血管画像を生成するためのエコーと、T2*強調効果を利用した血管画像を生成するためのエコーとを短い撮影時間で収集することができる。
【0029】
本発明の他の一態様によれば、被検体の動きによる位置ずれの影響を低減する装置を提供することができる。
【0030】
本発明の他の一態様によれば、高いSN比の動脈と静脈の画像を生成する装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、本発明の一実施形態にかかるMRI装置の構成を示す構成図である。
【図2】図2は、本発明の好適な実施例において、インフロウ効果を利用した血管画像と、T2*強調効果を利用した血管画像の撮影に用いる撮影用パルスシーケンスを説明する概念図である。
【図3】図3は、本発明の好適な実施例において、インフロウ効果を利用した血管画像と、T2*強調効果を利用した血管画像の撮影に用いる撮影用パルスシーケンスを説明する概念図である。
【図4】図4は、本発明の好適な実施例における撮影で選択される撮影スラブ及びサチュレーションスライスを説明する概念図である。
【図5】図5は、本発明の好適な実施例における撮影で選択される撮影スラブ及びサチュレーションスライスを説明する模式図である。
【図6】図6は、本発明の好適な実施例において使用される、サチュレーション用パルスシーケンスを説明する概念図である。
【図7】図7は、本発明の好適な実施例において静脈画像に適用される加重関数を説明するグラフである。
【図8】図8は、位相マスク画像を用いて、静脈画像の磁化率による位相変化を強調させた位相マスク処理画像を得る手順を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる磁気共鳴撮像方法および装置の好適な実施の形態について説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【0033】
図1において、静磁場マグネット部12は、被検体40が収容される静磁場空間11に静磁場を形成するために設けられている。静磁場マグネット部12は、水平磁場型であって、被検体40が収容される静磁場空間11において載置される被検体40の体軸方向に沿うように、超伝導磁石(図示なし)が静磁場を形成する。なお、静磁場マグネット部12は、水平磁場型の他に、垂直磁場型であってもよく、永久磁石により構成されていてもよい。
【0034】
勾配コイル部13は、RFコイル部14が受信する磁気共鳴信号に3次元の位置情報を持たせるために、静磁場空間11に勾配磁場を形成する。勾配コイル部13は、好適には互いに直交するX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向のそれぞれの勾配磁場を発生させるための3組のコイルを備える。勾配駆動部23は、勾配コイル部13の各コイルに供給するパルス電流を制御することにより、物理軸である3軸(X軸,Y軸,Z軸)方向のそれぞれの勾配磁場を合成して、互いに直交するスライス方向勾配磁場Gs、フェーズ方向勾配磁場Gp、および周波数方向勾配磁場Grから成る論理軸方向のそれぞれの勾配磁場を任意に設定することができる。
【0035】
RFコイル部14は、たとえば、被検体40の撮影領域である頭部全体を囲むように配置されており、送信用と受信用とを兼用するように構成されている。RFコイル部14は、静磁場空間11内の被検体に電磁波であるRF信号を送信して高周波磁場を形成し、被検体40の撮影領域におけるプロトンのスピンを励起する。そして、RFコイル部14は、その励起されたプロトンから発生する電磁波を磁気共鳴信号として受信する。なお、RFコイル部14は、送信用コイルと受信用コイルが独立するように設けてもよい。
【0036】
RF駆動部22は、RFコイル部14を駆動させて静磁場空間11内に高周波磁場を形成するために、ゲート変調器(図示なし)とRF電力増幅器(図示なし)とRF発振器(図示なし)とを有する。RF駆動部22は、制御部30からの制御信号に基づいて、RF発振器からのRF信号を、ゲート変調器を用いて所定のタイミングおよび所定の包絡線の信号に変調する。そして、ゲート変調器により変調されたRF信号を、RF電力増幅器により増幅した後、RFコイル部14に出力する。
【0037】
勾配駆動部23は、制御部30の制御信号に基づいて勾配コイル部13を駆動させて、静磁場空間11内に勾配磁場を発生させる。勾配駆動部23は、勾配コイル部13の3系統の勾配コイルに対応して3系統の駆動回路(図示なし)を有する。
【0038】
データ収集部24は、RFコイル部14が受信する磁気共鳴信号を収集するために、位相検波器(図示なし)とアナログ/デジタル変換器(図示なし)とを有する。データ収集部24は、RFコイル部14からの磁気共鳴信号を、RF駆動部22のRF発振器の出力を参照信号として、位相検波器によって位相検波し、アナログ/デジタル変換器に出力する。そして、位相検波器により位相検波されたアナログ信号である磁気共鳴信号を、アナログ/デジタル変換器によってデジタル信号に変換して、データ処理部33に出力する。
【0039】
テーブル(table)25は、被検体40を載置するクレードル(cradle)26を有する。テーブル25は、被検体を制御部30からの制御信号に基づいて、収容空間11の内部と外部との間でクレードル26に載置された被検体40を移動する。
【0040】
制御部30は、コンピュータと、コンピュータを用いて所定の走査(スキャン)に対応する動作を各部に実行させるプログラムと、該プログラムがロードされるメモリとを有する。そして、制御部30は、操作部32に接続されており、操作部32に入力された操作信号を処理し、RF駆動部22と勾配駆動部23とデータ収集部24とテーブル25との各部に、制御信号を出力し制御を行うコンピュータである走査用プロセッサを備える。また、制御部30は、所望の画像を得るために、操作部32からの操作信号に基づいてデータ処理部33を制御する。
【0041】
記憶部31は、ハードディスク装置等の記憶装置により構成されている。そして、記憶部31は、データ収集部24に収集された画像画像再構成処理前の磁気共鳴データ、データ処理部33で画像画像再構成処理された画像データ等を記憶する。
【0042】
操作部32は、キーボードやマウスなどの操作デバイスにより構成されており、オペレータの操作に応じた操作信号を制御部30に出力する。
【0043】
データ処理部33は、コンピュータである再構成用プロセッサにより構成されている。そして、データ処理部33は、データ収集部24に接続されており、データ収集部24から出力される磁気共鳴データに対して画像画像再構成処理を実施して、画像を生成する。
【0044】
表示部34は、ディスプレイなどの表示デバイスにより構成されており、データ処理部33が生成する被検体40の画像を表示する。また、表示部34の表示画面には、後述するスキャン・パラメータ等の各種パラメータを入力するための各種ウインドウが表示される。
<パルスシーケンス>
【0045】
図2に、本発明の好適な実施例における、動脈及び静脈の血流像の撮影に用いる撮影用パルスシーケンス(pulse sequence)を示す。図において、1段目は周波数方向の勾配磁場Gr、2段目はフェーズ方向の勾配磁場Gp、3段目はスライス方向の勾配磁場Gs、4段目はRFパルスのシーケンスを示す。このパルスシーケンスは、グラディエントエコー(GRE:Gradient
Echo)法に基づくパルスシーケンスである。パルスシーケンスは時間軸tに沿って左から右に進行する。図2は、1つの繰り返し時間(1TR)におけるパルスシーケンスを示している。本発明の好適な実施例では、後述するように、各方向の勾配磁場に所定の変更が与えられ、複数のTR期間でこのパルスシーケンスが繰り返される。ここで、各繰り返し時間ごとにRFパルスに異なる送信位相を付与するRFスポイリング手法を用いてもよい。
【0046】
同図の参照番号281で示すように、α°パルスによりスピンのα°励起が行われる。このとき、スライス軸上に勾配磁場270が印加され、所定のスライスについての選択励起が行われる。図3は本発明の好適な実施例で印加されるスライス軸上の勾配磁場270をより詳細に説明する。図に示すようにスライス軸上の勾配磁場270は、スライス選択勾配磁場271と、スライスリフォーカシング(slice refocusing)勾配磁場273を有している。この実施例においては、図4に示す撮影スラブ311の3次元像を得るために、撮影スラブ311(この例では8cm厚)を纏めて励起している。この点で図2の撮影用パルスシーケンスは、3次元の撮影シーケンスであると言える。具体的には、公知の3次元ボリューム撮影法に従って、RFパルスにより8cm厚のスラブを纏めて励起し、その後、スライス方向の位置情報を持たせるためのスライスエンコーディング勾配磁場275が印加される。RFパルス印加後に移動するスピンの存在による、流体の信号強度の低下する現象はフローボイド(flow void)と呼ばれている。勾配磁場275にはこのフローボイドが生じることを防止するグラディエントモーメントヌリング(gradient moment nulling)の位相補償パルスの成分を含んでいる。勾配磁場275にグラディエントモーメントヌリングの位相補償パルスが含まれていることにより、0次及び1次モーメントのヌリングが行われ、スライス方向の血流の信号欠損を抑制することができる。この例では、図4に示すように、被検体40のアキシャル像を得るため、撮影スラブ311が選択される。そして、被検体40の脳内の動脈及び静脈の画像を取得することを目的に、被検体40の頭部を撮影スラブ311として選択している。本発明は、被検体40の脳内の動脈及び静脈に限らず、例えば被検体40の腹部大動脈及びその近傍の静脈等、他の動脈や静脈の撮影にも適用可能である。また、被検体40は、人間に限らず、その他の動物であっても良い。
【0047】
図2に戻り、説明を続けると、勾配磁場277は、横磁化をスポイル(spoil)するためのキラーパルス、およびスライスエンコード勾配磁場275に対するスライスリワインダー(slice rewinder)勾配磁場を足し合わせたものである。
【0048】
α°パルス励起の後、フェーズ軸上の勾配磁場261によりスピンのフェーズエンコードが行われる。また、周波数軸上に、グラディエントモーメントヌリングの位相補償パルス211を印加し、次いで周波数軸上の勾配磁場213によりスピンをディフェーズ(dephase)し、その後一連のリードアウト勾配磁場231〜246を印加することによりグラディエントエコーを発生させる。ここで、インフロウ(inflow)効果により、撮影領域外より流入する血流の信号は、静止している組織で生じる信号よりも高信号となる。なお、後述するように、関心領域外の領域にサチュレーションパルス(saturation pulse)を印加することにより、特定領域から流入する血流の信号を抑制することができる。これにより、インフロウ効果による静脈の血流信号は描出せず、動脈の血流を描出させることが可能となる。位相補償パルス211はスライス軸に印加した位相補償パルス275と同様に、周波数方向の血流の信号欠損を抑制することができる。
【0049】
グラディエントエコーは図2リードアウト勾配磁場231〜246に応じて発生する。この例では、リードアウト勾配磁場231〜246は16個存在し、1TR期間において、それぞれ対応するTE(echo
time)において16個のグラディエントエコーが発生する。この例において各リードアウト勾配磁場231〜246は同じ形状を有している。なお、この例では、いわゆるモノポーラ(mono Polar:単極)型のリードアウト勾配磁場が使用されているが、これに替えてリードアウト勾配磁場が正と負で周期的に反転するバイポーラ(bi−polar:双極)型のリードアウト勾配磁場を使用することもできる。また、この例では16個の連続したリードアウト勾配磁場231〜246が印加されているが、インフロウ効果による第1の血管画像(以下単に「TOF画像」という)用のリードアウト勾配磁場を1つ以上印可した後、リードアウト勾配磁場の印加を停止し、所定の時間経過後にT2*強調による第2の血管画像(以下単に「T2*強調画像」という)用のリードアウト勾配磁場を1つ以上印加することもできる。
【0050】
グラディエントエコーはデータ収集部24によりローデータ(raw data)として収集される。この例では、2mm間隔で40スライス分、合計8cm厚のデータが収集される。なお、この厚さ(8cm厚)が厚いと血流の下流側でインフロウ効果の低下に伴う信号減少が発生するため、対象領域を薄い複数のスラブに分割して撮影することも可能である。収集されたローデータは、後述する処理により、TOF画像を再構成するために使用されるローデータと、T2*強調画像を再構成するために使用されるローデータとに分けられ、データ処理部33によりそれぞれの処理方法により処理される。
【0051】
図2の周波数軸上の勾配磁場215は、横磁化をスポイルするためのキラーパルスであり、位相軸上の勾配磁場263は、フェーズエンコード勾配磁場261に対するフェーズリワインダー勾配磁場である。
【0052】
このようなパルスシーケンスが周期TR(repetition time)で3次元のkスペースを埋めるまで繰り返される(例えば40スライス・256ビュー(veiw)分のデータを取得する場合、40×256=10240回繰り返される)。繰り返しのたびにフェーズエンコード勾配磁場261、リワインダーパルス263、勾配磁場275におけるスライスエンコード勾配磁場、勾配磁場277におけるスライスリワインダー勾配磁場が変更され、毎回異なるエンコードを行う。これによって3次元のkスペースデータがエコーごとに16セット得られる。
<サチュレーション>
【0053】
なお、第1の血管画像で静脈の血流を描出せず、動脈の血流のみを描出する場合には、図5の模式的に示すように、静脈が流入してくる領域(サチュレーションスライス、図4、参照番号313)のスピンを飽和(サチュレーション)させる。
【0054】
サチュレーションは、図6に示すようなパルスシーケンス(サチュレーションパルスシーケンス)を用いて行う。同図に示すように、90゜パルスおよびスライス軸Gsへの勾配磁場によりサチュレーションスライスを選択励起し、次いで、例えば周波数軸Grに勾配磁場を印加してスピンの位相を分散させる。
【0055】
これによって、サチュレーションスライスから撮影スラブに流入した静脈性血流がグラディエントエコーを生じることを防止できる。このようなサチュレーションパルスシーケンスを図2に示したパルスシーケンスの前に付加することにより静脈性血流の画像を阻止することができる。撮影領域を複数のスラブに分割して撮影する場合、各撮影において、撮影スラブの静脈流入側にサチュレーションスライスを設定することができる。
<画像再構成>
【0056】
図2のパルスシーケンスによって得られたデータが、データ処理部33のメモリ(kスペース)に収集される。データ処理部33は、kスペースのデータを3次元逆フ−リエ変換して撮影対象40の3次元像を再構成する。データ処理部33は、さらに、この3次元像を特定方向(例えばスライス方向)に加算して、血管が立体的に表示された断層像を生成する。
【0057】
本発明の好適な実施例において、リードアウト勾配磁場231、232に対応する2個のエコーよりそれぞれ画像再構成を行い、得られた画像を足し合わせてTOF画像を得る。また、リードアウト勾配磁場235〜246に対応する連続した12個エコーよりそれぞれ画像再構成を行い、得られた画像を足し合わせてT2*強調画像を得る。別法として、リードアウト勾配磁場231〜236に対応する連続した6個のエコーよりそれぞれ画像再構成を行い、得られた画像を足し合わせてTOF画像を得る。また、この範囲とオーバラップする、リードアウト勾配磁場233〜246に対応する連続する14個エコーよりそれぞれ画像再構成を行い、得られた画像を足し合わせてT2*強調画像を得る。換言すれば、図2のシーケンスにより発生した1つのエコーは、選択により、TOF画像に用いてもよいし、T2*強調画像に用いてもよい。言うまでもなく、TOF画像用に4個のエコーとT2*強調画像用に12個のエコーといったように、撮影で得られた全てのエコーが用いられるように、両者の振り分けを行っても良い。なお、使用するエコーは連続したものである必要はなく、例えばリードアウト勾配磁場232、234、237に対応する連続した3個のエコーやリードアウト勾配磁場239、241、244、245に対応する連続した4個のエコーによりTOF画像やT2*強調画像を生成することもできる。すなわち、時間の経過に従ってn個のエコーが順次収集された場合、TOF画像は1番目〜n−1番目のエコーの内の1つ以上のエコーから生成可能であり、T2*強調画像は2番目〜n番目のエコーの内の1つ以上のエコーから生成可能である。
【0058】
ただし、インフロウ効果による血流は、励起直後により高い信号強度を有する。このため、RFパルス281の印加からの経過時間(TE)が短いエコー、すなわち、リードアウト勾配磁場231及びこのリードアウト勾配磁場231の近くに位置するリードアウト勾配磁場231〜234により発生したエコーがTOF画像の再構成に適する。さらに先に述べたサチュレーションパルスを併用することで、インフロウ効果により動脈が周辺組織に比べて高い信号強度を有する動脈画像の再構成が可能となる。
【0059】
データ処理部33は、短いTEの各エコー(動脈用エコー)に対応するkスペースのデータを逆フ−リエ変換して撮影対象40の断層像(動脈画像)を再構成する。再構成された画像はメモリに記憶される。また、この段階で、再構成された画像を表示部34に表示することもできる。
【0060】
この一方、デオキシヘモグロビン(deoxy-hemoglobin)等の血液分解産物は、TEが長くなるに伴ってT2*を促進し、信号の低下を引き起こす。このため、T2*強調画像は、TEが長いほど磁化率の違いをコントラストに反映させることができる。このため、RFパルス281の印加からの経過時間(TE)が25ms〜45ms好適には30msより長いエコーを組み合わせて画像を再構成すると、静脈の信号が低下した画像を得ることができる。すなわち、T2*強調画像は、静脈を他の組織と差別化した画像(静脈画像)となる。
【0061】
本発明の好適な実施例では、TEが30msより長いリードアウト勾配磁場235〜246により発生したエコー(静脈用エコー)が静脈画像用に使用される。静脈画像の再構成の場合も、データ処理部33は、各静脈用エコーに対応するkスペースのデータを逆フ−リエ変換して撮影対象40の断層像を再構成する。再構成された画像はメモリに記憶される。また、この段階で、再構成された画像を表示部34に表示することもできる。
【0062】
このように、本発明では、1回の撮影に(1TR期間に)収集されたエコーから動脈と静脈をそれぞれ描出する2種類の画像を得ることができ、効率的な撮影を行うことができる。また、一連のパルスシーケンスで2種類の画像を収集できるので、被検体40の動きによる位置ずれの問題が無く、被検体の40がほぼ同じ状態にあるときの画像を得ることができる。なお、TOF画像の再構成に使用するエコーを「動脈用エコー」と呼び、この「動脈用エコー」に対応するリードアウト勾配磁場を「動脈用リードアウト勾配磁場」と呼ぶこととする。同様に、T2*強調画像による画像再構成に使用するエコーを「静脈用エコー」と呼び、この「静脈用エコー」に対応するリードアウト勾配磁場を「静脈用リードアウト勾配磁場」と呼ぶこととする。
【0063】
TOF画像は、動脈の血流を白く(高い輝度値)、バックグラウンドを黒く(低い輝度値)描出する。本発明の好適な実施例では、再構成された各動脈用エコーから得られた画像を加算して1つの動脈画像にする。その後、加算された画像に最大投影法(MIP法:Maximum Intensity Projection)による画像処理を適用し、動脈が強調された動脈画像を生成する。2つの画像の加算により画像のSN比を向上させることができる。この動脈が強調された画像はメモリに記憶され、表示部34に表示される。
【0064】
この一方、T2*強調による静脈画像は、静脈の血流を黒く(低い輝度値)描出する。本発明の好適な実施例では、再構成された12個の画像を加算して1つの静脈画像にする。その後、加算された静脈画像に最小投影法(MinIP法:Minimum Intensity Projection)による画像処理を適用し、静脈が強調された静脈画像を生成する。この画像の加算により画像のSN比を向上させることができる。
【0065】
また、上述のようにTEが長くなるに従ってT2*の促進が進む。このため、本発明の好適な実施例では、図7に示される加重曲線(加重関数)300を使用し、T2*がより促進された静脈画像の比重を高め、静脈の信号をより低下させると共に、静脈画像全体のSN比を向上させている。すなわち、加重関数300は複数の静脈用エコーの各々に対応する静脈用リードアウト勾配磁場が印加された時間が大きくなるに従って、より高い加重が適用されるように設定された関数となっている。かかる加重関数300は、所定の傾きを持つ線形関数や、放物曲線等であっても良い。
【0066】
静脈画像と同様に、複数のエコーに基づいて動脈画像を生成する場合、それぞれのエコーにおけるインフロウ効果の程度に応じて各エコーに加重関数を適用し、動脈画像を生成することができる。
【0067】
なお、本発明では、上述のT2*強調画像の再構成処理により静脈画像を生成しているが、任意選択により、SWIと同様の位相マスク画像を用いて、このT2*強調による静脈画像の磁化率による位相変化をさらに強調させた静脈画像を得ることもできる。この手順を図8を使用して説明する。
【0068】
すなわち、リードアウト勾配磁場235〜246により発生した12個のエコーの一部または全てを使用し、周知の手法によってデータ処理部33はT2*強調による画像405に対応した位相画像401を生成することができる。次に、データ処理部33は、位相画像401から位相シフトが大きい部分と小さい部分とを表した位相マスク画像403を生成する。この位相マスク画像403は、位相画像上で位相シフトが大きい部分の画素値の絶対値を高く、位相差のない部分の画素をゼロに設定した画像である。位相マスク画像403は、位相画像401にフィルタ処理を施し、低周波数成分の位相の乱れを除去することにより生成することができる。フィルタとしては、高周波通過フィルタ(High-pass filter)などがある。データ処理部33はT2*強調による画像405に位相マスク画像403を所定回数(1回〜複数回)掛け合わせ、磁化率による位相変化をさらに強調させた位相マスク処理画像407を得る。その後、静脈用エコーから得られた各位相マスク処理画像407を加算し、得られた静脈画像に最小投影法による画像処理を適用し、静脈を強調した位相マスク処理画像409を生成する。この静脈を強調した位相マスク処理画像409もメモリに記憶され、また、表示部34に表示される。
【0069】
本発明の好適な実施例では、得られた複数のエコーから適当なエコーを組み合わせて、動脈画像および静脈画像を生成している。このため、操作者は、動脈画像と静脈画像を表示部34で確認した後、いずれか又は両方の画像を生成するために使用されるエコーの数及び又は範囲を変更してこれらの画像を再作成することもできる。この場合、新たな撮影を行う必要はなく、メモリに記憶されたkスペースのデータを操作者が選択した数及び又は範囲に従って特定し、特定されたkスペースのデータを使用して、上述の手順により動脈画像及び/又は静脈画像を再作成することができる。
【0070】
本発明の好適な実施例では、動脈の画像(動脈画像、動脈が強調された動脈画像を含む)と静脈の画像(静脈画像、静脈が強調された静脈画像、位相マスク処理画像、静脈が更に強調された位相マスク処理画像を含む)は別々の画像として表示部34に表示されるが、この両者を合成して表示させることもできる。この場合、両者又はいずれかの画像を合成に適したようにスケーリング修正やコントラストの修正を行うことが望ましい。また、合成に先立って、静脈を青色に、動脈を赤色に着色する等、両者の判別をより容易にするための処理を行うこともできる。
【0071】
以上、本発明の好適な実施例を中心に説明を行ったが、本発明の思想は、この実施例に限定されるものではなく、種々の変形形態を採用することができる。
【符号の説明】
【0072】
1:MRI装置
11:静磁場空間
12:静磁場マグネット部
13:勾配コイル部
14:RFコイル部
22:RF駆動部
23:勾配駆動部
24:データ収集部
25:テーブル
26:クレードル
30:制御部
31:記憶部
32:操作部
33:データ処理部
34:表示部
40:被検体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のリードアウト勾配磁場を含む撮影用パルスシーケンスを実行する制御部と、
前記複数のリードアウト勾配磁場に応じて発生した複数のエコーを収集するデータ収集部と、
前記複数のエコーに基づいてインフロウ効果を利用した第1の血管画像と、T2*強調効果を利用した第2の血管画像を生成するデータ処理部と、
を備え、
前記パルスシーケンスは、同じTR期間内において、前記インフロウ効果および前記T2*強調効果を生成するに必要な数のリード勾配磁場が印加される、
磁気共鳴装置。
【請求項2】
前記データ処理部は、前記複数のエコーのうち短いTEで取得された1以上のエコーに基づいて前記第1の血管画像を生成する、
請求項1に記載の磁気共鳴装置。
【請求項3】
前記データ処理部は、前記複数のエコーに基づいて前記第1の血管画像生成する際、それぞれのエコーに加重関数を適用して前記血管画像を生成する、
請求項2に記載の磁気共鳴装置。
【請求項4】
前記インフロウ効果を利用した第1の血管画像は、動脈を関心領域とする血管画像である、
請求項1乃至3のいずれかに記載の磁気共鳴装置。
【請求項5】
前記データ処理部は、前記複数のエコーのうち長いTEで取得された1以上のエコーに基づいて前記第2の血管画像を生成する、
請求項1乃至4のいずれかに記載の磁気共鳴装置。
【請求項6】
前記データ処理部は、前記複数のエコーに基づいて前記第2の血管画像を生成する際、それぞれのエコーに加重関数を適用して前記第2の血管画像を生成する、
請求項5に記載の磁気共鳴装置。
【請求項7】
前記T2*強調効果を利用した第2の血管画像は、静脈を関心領域とする血管画像である、
請求項1乃至6のいずれかに記載の磁気共鳴装置。
【請求項8】
前記データ処理部は、前記第2の血管画像の生成に使用するエコーよりもTEの短いエコーを少なくとも1つ使用して前記第1の血管画像を生成し、前記第1の血管画像の生成に使用するエコーよりもTEの長いエコーを少なくとも1つ使用して前記第2の血管画像を生成する、請求項1乃至7のいずれかに記載の磁気共鳴装置。
【請求項9】
前記データ処理部は、前記複数のエコーのうち1つのエコーを前記第1の血管画像および前記第2の血管画像のいずれにも使用する、
請求項1乃至8のいずれかに記載の磁気共鳴装置。
【請求項10】
前記撮影用パルスシーケンスは、3次元の撮影シーケンスである、
請求項1乃至9のいずれかに記載の磁気共鳴装置。
【請求項11】
前記制御部は、撮影領域の外部から流入するスピンを飽和させるサチュレーション用パルスシーケンスを実行する、
請求項1乃至10のいずれかに記載の磁気共鳴装置。
【請求項12】
前記撮影用パルスシーケンスは、血流の信号欠損を抑制するグラディエントモーメントヌリングの位相補償パルスを含んでいる、
請求項1乃至11のいずれかに記載の磁気共鳴装置。
【請求項13】
前記複数のリードアウト勾配磁場の各々は、単極型のリード勾配磁場である、
請求項1乃至12のいずれかに記載の磁気共鳴装置。
【請求項14】
前記複数のリードアウト勾配磁場の各々は、双極型のリード勾配磁場である、
請求項1乃至12のいずれかに記載の磁気共鳴装置。
【請求項15】
前記データ処理部は、前記第1の血管画像にMIP法を適用し、前記第2の血管画像にMinIP法を適用し、それぞれ血管が強調される画像を生成する、請求項1乃至14のいずれかに記載の磁気共鳴装置。
【請求項16】
前記データ処理部は、
前記リードアウト勾配磁場に応じて発生したエコーから得られる画像に対応した位相画像を生成し、
前記位相画像にフィルタ処理を施すことにより、位相シフトが大きい部分と小さい部分と表した位相マスク画像を生成し、
前記エコーから得られる画像に前記位相マスク画像を所定回数掛け合わせることにより、磁化率による位相変化を強調させた画像を生成し、前記位相変化を強調させた画像に基づき前記第1または第2の血管画像を生成する、
請求項1乃至15のいずれかに記載の磁気共鳴装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−158459(P2010−158459A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−3492(P2009−3492)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(300019238)ジーイー・メディカル・システムズ・グローバル・テクノロジー・カンパニー・エルエルシー (1,125)
【Fターム(参考)】