説明

磁気冷却用またはヒートポンプ用の金属系材料の製造方法

磁気冷却用またはヒートポンプ用の金属系材料の製造方法であって、
a)前記の金属系材料に相当する化学量論量の化学元素及び/又は合金を、固相及び/又は液相で反応させる工程と、
b)適当なら工程a)の反応生成物を固体に変換する工程と、
c)工程a)または工程b)の固体を焼結及び/又は熱処理する工程と、
d)工程c)における焼結及び/又は熱処理後の固体を少なくとも100K/sの冷却速度で急冷する工程と、を含むことを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気冷却用またはヒートポンプ用の金属系材料の製造方法、この種の材料、及びその用途に関する。本発明で製造される材料は、磁気冷却や、ヒートポンプ、空調システム中で使用される。
【背景技術】
【0002】
この種の材料は基本的には公知であり、例えばWO2004/068512に記載されている。磁気冷却技術は、磁気熱量効果(MCE)によるもので、既知の蒸気循環冷却方式を置き換えるものである。磁気熱量効果を示す材料中では、ランダムに配列した磁気モーメントが外部磁界で配列する結果、材料が加熱される。この熱は、伝熱によりMCE材料から周囲の雰囲気に除かれる。磁場が消されるかなくなると、この磁気モーメントがランダムな配列に戻り、この結果として材料が周囲温度未満にまで冷却される。この効果は冷却に利用できる;Nature、vol. 415、January 10、2002、pages 150 to 152を参照。通常、磁気熱量材料から熱を除くのに水などの伝熱媒体が用いられる。
【0003】
従来の材料は、その材料の出発元素または出発合金をボールミル中で固相反応させ、続いて、プレス、焼結、不活性ガス雰囲気下での熱処理し、そして徐々に室温にまで冷却して製造されている。このようなプロセスは、例えば、J. Appl. Phys. 99、2006、08Q107に記載されている。
【0004】
溶融紡糸による加工も可能である。これにより、元素のより均一な分布が可能となり、この結果、磁気熱量効果が改善される; Rare Metals、vol. 25、October 2006、pages 544〜549を参照。ここに記載の方法では、出発元素はまずアルゴンガス雰囲気下で誘導過熱により溶融され、溶融状態でノズルから回転している銅ローラー上に吹付けられる。その後、1000℃で焼結し、徐々に室温まで冷却する。
【0005】
この既知の方法で得られる材料は、しばしば大きな熱ヒステリシスを示す。例えば、ゲルマニウムまたはケイ素で置換されたFe2P型化合物では、10K以上の大きな範囲の熱ヒステリシスが観察される。したがって、これらの材料は磁気熱量冷却に非常に好適であるとは言えない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、熱ヒステリシスの小さな磁気冷却用の金属系材料の製造方法を提供することである。同時に大きな磁気熱量効果(MCE)が達成されなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、本目的は、
a)所望の金属系材料に相当する量の化学元素及び/又は合金を、固相及び/又は液相で反応させる工程と、
b)適当なら工程a)の反応生成物を固体に変換する工程と、
c)工程a)またはb)の固体を焼結及び/又は熱処理する工程と、
d)工程c)からの焼結及び/又は熱処理後の固体を少なくとも100K/sの冷却速度で急冷する工程と
からなる磁気冷却用またはヒートポンプ用の金属系材料の製造方法により達成される。
【0008】
本発明により、焼結及び/又は熱処理後の金属系材料を周囲温度にまで徐冷するのでなく高冷却速度で急冷することにより熱ヒステリシスを小さくすることができることが明らかとなった。この冷却速度は、少なくとも100K/sである。この冷却速度は、好ましくは100〜10000K/sであり、より好ましくは200〜1300K/sである。特に好ましい冷却速度は、300〜1000K/sである。
【0009】
この急冷は、いずれか適当な冷却方法で、例えば固体を水または水系の液体で、例えば冷却水または氷/水混合物で冷却することにより達成できる。例えば、この固体を氷水中に落下させてもよい。液体窒素などの超冷却ガスで固体を急冷することもできる。他の急冷方法は、当業界の熟練者には公知である。最も重要なのは、よく制御された急冷である。
【0010】
理論に拘泥するのではないが、ヒステリシスの減少は、急冷後の組成物の粒度の減少によるものであろう。
【0011】
従来の方法では、焼結後や熱処理後に徐冷されるため、粒度が増加し、熱ヒステリシスが大きくなる。
【0012】
最終工程で焼結後及び/又は熱処理後の固体が本発明の冷却速度で急冷されるのであるなら、金属系材料の製造の他の部分はそれほど重要ではない。この方法は、いずれか適当な磁気冷却用の金属系材料の製造に適用可能である。磁気冷却用材料の典型例は、少なくとも3種の金属元素と、さらに適当なら非金属元素を含む多金属混合物である。なお、「金属系材料」という表現は、これらの材料の主たる部分が金属または金属元素からなることを意味する。通常、全材料中の比率が、少なくとも50質量%であり、好ましくは少なくとも75質量%、特に少なくとも80質量%である。好適な金属系材料を、以下に詳細に説明する。
【0013】
本発明の方法の工程(a)では、最後に金属系材料中に存在する元素及び/又は合金が、この金属系材料に相当する量で、固相または液相で処理される。
【0014】
密閉容器中または押出機中でこれらの元素及び/又は合金を加熱して、あるいはボールミル中で固相反応により、工程a)の反応を行うことが好ましい。固相反応を行うことが、特にボールミル中で固相反応を行うことが、特に好ましい。このような反応は、原理的には既知である(序に述べた文書を参照)。通常、所望の金属系材料中に存在する個々の元素の粉末または2種以上の元素からなる合金の粉末を、適当な質量比で粉末状態で混合する。必要なら、微結晶の混合粉末を得るためにこの混合物をさらに粉砕してもよい。この混合粉末をボールミル中で加熱することが好ましく、これにより粉砕と混合が進行して混合粉末中で固相反応が起こる。
【0015】
あるいは、個々の元素を所要量混合して溶融する。
【0016】
密閉容器中での加熱を併用すると、揮発性元素の固定と量の制御が可能となる。例えばリンを使用する場合は、開放系ではリンが簡単に気化してしまう。
【0017】
この反応の後に、この固体の焼結及び/又は熱処理が続くが、この前に一つ以上の中間工程を設けてもよい。例えば、工程a)で得られる固体を焼結及び/又は熱処理の前に、プレスを行ってもよい。この結果、材料の密度が増加し、高密度の磁気熱量材料が後の工程で存在することとなる。これは、特に磁場が存在する体積を減らすことができるため有利であり、かなりのコスト減につながる可能性がある。プレスは公知であり、プレス用の補助具を用いて行ってもよいし、用いなくてもよい。このプレスにいずれか適当な金型を用いることもできる。プレスにより、所望の三次元構造もつ成型物を得ることができる。このプレスの後に、工程c)の焼結及び/又は熱処理が続き、さらに工程d)の急冷が続いてもよい。
【0018】
あるいは、ボールミルで得られる固体を溶融紡糸プロセスに送ることもできる。溶融紡糸プロセスは公知であり、例えば、Rare Metals、Vol. 25、October 2006、pages 544 to 549やWO2004/068512に記載されている。
【0019】
これらのプロセスでは、工程a)で得られる組成物を溶融して、回転している冷金属ローラー上に吹き付ける。この吹付けは、噴射ノズルの上流を加圧するか、噴射ノズルの下流を減圧することにより行われる。通常、回転銅ドラムまたはローラーが使用され、これは、適当ならさらに冷却される。この銅ドラムの表面速度は、好ましくは40m/sであり、特に20〜30m/sである。この銅ドラム上で、この液体組成物が、好ましくは102〜107K/sの速度で、より好ましくは少なくとも104K/s、特に0.5〜2×106K/sの速度で冷却される。
【0020】
工程a)の反応と同様に、溶融紡糸も減圧下または不活性ガス雰囲気下で実施できる。
【0021】
溶融紡糸では続く焼結と熱処理を短縮することができるため、加工速度を上げることができる。具体的には工業スケールで、金属系材料の製造がさらに経済的に実施可能となる。吹付けでも、高い加工速度が可能となる。特に好ましいのは、溶融紡糸を行うことである。
【0022】
あるいは、工程b)で、噴霧冷却を行い、工程a)からの組成物の溶融物を噴霧塔内に噴霧することができる。例えば、この噴霧塔をさらに冷却してもよい。噴霧塔においては、103〜105K/sの範囲の、特に約104K/sの冷却速度が、しばしば達成される。
【0023】
固体の焼結及び/又は熱処理は、工程c)で行われ、好ましくはまず800〜1400℃の範囲の温度で焼結し、次いで500〜750℃の範囲の温度で熱処理する。これらの値は、特に成型物に対するものであり、粉末には、より低い焼結温度や熱処理温度を使用してもよい。例えば、焼結を500〜800℃の範囲の温度で行ってもよい。成型物/固体には、焼結は、より好ましくは1000〜1300℃の範囲の温度で、特に1100〜1300℃の範囲の温度で行われる。熱処理を、例えば600〜700℃で行ってもよい。
【0024】
焼結は、好ましくは1〜50時間、より好ましくは2〜20時間、特に5〜15時間行う。熱処理は、好ましくは10〜100時間の範囲、より好ましくは10〜60時間、特に30〜50時間の範囲で行う。実際の処理時間は、材料の実際的な必要条件に合わせて決めることができる。
【0025】
溶融紡糸方法を使用する場合は、しばしば焼結を省くことができ、また熱処理を大幅に短縮、例えば5分〜5時間に、好ましくは10分〜1時間に短縮することができる。従来の10時間の焼結と50時間の熱処理と比べると、これは大きな時間的利点となる。
焼結/熱処理の結果、粒子境界の部分的な溶融が起こり材料がさらに緻密となる。
【0026】
したがって、工程b)での溶融と急冷で工程c)の所要時間が大幅に短縮される。したがってこれら金属系材料の連続生産が可能となる。
【0027】
本発明によれば、次の加工順序が好ましい。
a)金属系材料に相当する量の化学元素及び/又は合金のボールミル中での固相反応、
b)工程a)で得られる材料の溶融紡糸、
c)430〜1200℃の範囲、好ましくは800〜1000℃の範囲の温度で10秒間又は1分〜5時間、好ましくは30分間〜2時間の工程b)の固体の加熱、
d)工程c)からの熱処理成型物の200〜1300K/sの冷却速度での急冷。
【0028】
いずれの適当な金属系材料にも、本発明の方法を使用可能である。
【0029】
この金属系材料は、好ましくは以下の化合物から選ばれる。
(1)一般式(I)の化合物
(Ayy-12+δwxz (I)
式中、
Aは、Mn又はCoであり、
Bは、Fe、Cr、又はNiであり、
C、D、Eは、CとDとEのうち少なくとも2つは相互に異なり、濃度がゼロでなく、P、B、Se、Ge、Ga、Si、Sn、N、As、およびSbから選ばれ、CとDとEの少なくとも一つがGe又はSiであり、
δは、−0.1〜0.1の範囲の数字であり、
w、x、y、zは、0〜1の範囲の数字である(ただし、w+x+z=1);
(2)一般式(II)及び/又は(III)及び/又は(IV)のLa及びFe系化合物
La(FexAl1-x13yまたはLa(FexSi1-x13y (II)
式中、
xは0.7〜0.95の数字であり;
yは、0〜3の、好ましくは0〜2の数字である;
La(FexAlyCoz13またはLa(FexSiyCoz13 (III)
式中
xは0.7〜0.95の数字であり;
yは0.05〜1−xの数字であり;
zは0.005〜0.5の数字である;
LaMnxFe2-xGe (IV)
式中
xは1.7〜1.95の数字である;及び
(3)MnTP型のホイスラー合金(式中、Tは遷移金属で、Pは原子中の電子数e/aが7〜8.5の範囲にあるp−ドープ金属である)。
【0030】
本発明に特に好適な材料が、例えば、WO 2004/068512、Rare Metals、Vol. 25、2006、pages 544 to 549、J. Appl.Phys. 99.08Q107 (2006)、Nature、Vol. 415、January 10、2002、pages 150 to 152、及びPhysica B 327 (2003)、pages 431 to 437に記載されている。
【0031】
上記の一般式(I)の化合物中で、CとDとEは、好ましくは同一であるが、異なっていてもよく、P、Ge、Si、Sn及びGaの少なくとも一種から選ばれる。
【0032】
一般式(I)の金属系材料は、好ましくは少なくともMnとFeとPと、適当ならSbに加えて、さらにGe、Si、As、GeとSi、GeとAs、SiとAs、又はGeとSiとAsを含む4元化合物から選ばれる。
【0033】
好ましくは、成分Aの少なくとも90質量%が、より好ましくは少なくとも95質量%がMnである。好ましくは、Bの少なくとも90質量%が、より好ましくは少なくとも95質量%がFeである。好ましくは、Cの少なくとも90質量%が、より好ましくは少なくとも95質量%がPである。好ましくは、Dの少なくとも90質量%が、より好ましくは少なくとも95質量%がGeである。好ましくは、Eの少なくとも90質量%が、より好ましくは少なくとも95質量%がSiである。
【0034】
この材料は、好ましくは、一般式MnFe(PwGexSiz)をもつ。
【0035】
xは、好ましくは0.3〜0.7の範囲の数字であり、wは1−x以下であり、zは1−x−wである。
【0036】
この材料は、好ましくは結晶性の六方晶型Fe2P構造をもつ。好適な構造の例としては、MnFeP0.45-0.7Ge0.55-0.30およびMnFeP0.5-0.70(Si/Ge)0.5-0.30があげられる。
【0037】
他の好適な化合物は、Mn1+xFe1-x1-yGeyであり、xは−0.3〜0.5の範囲であり、inは0.1〜0.6の範囲である。同様に好適なのが、一般式Mn1+xFe1-x1-yGey-zSbzの化合物であり、xは−0.3〜0.5の範囲であり、yは0.1〜0.6の範囲であり、zはyより小さく、また0.2より小さい。式Mni+xFe1-x1-yGey-zSizの化合物も好適である。xは0.3〜0.5の範囲であり、yは0.1〜0.66の範囲であり、zはyより小さく、0.6より小さい。
【0038】
好ましい一般式(II)及び/又は(III)及び/又は(IV)のLaとFe系化合物は、La(Fe0.90Si0.1013、La(Fe0.89Si0.1113、La(Fe0.880Si0.12013、La(Fe0.877Si0.12313、LaFe11.8Si1.2、La(Fe0.88Si0.12130.5、La(Fe0.88Si0.12131.0、LaFe11.7Si1.31.1、LaFe11.57Si1.431.3、La(Fe0.88Si0.12)H1.5、LaFe11.2Co0.7Si1.1、LaFe11.5Al1.5Co0.1、LaFe11.5Al1.50.2、LaFe11.5Al1.50.4、LaFe11.5Al1.5Co0.5、La(Fe0.94Co0.0611.83Al1.17、La(Fe0.92Co0.0811.83Al1.17である。
【0039】
好適なマンガン含有化合物は、MnFeGe、MnFe0.9Co0.1Ge、MnFe0.8Co0.2Ge、MnFe0.7Co0.3Ge、MnFe0.6Co0.4Ge、MnFe0.5Co0.5Ge、MnFe0.4Co0.6Ge、MnFe0.3Co0.7Ge、MnFe0.2Co0.8Ge、MnFe0.15Co0.85Ge、MnFe0.1Co0.9Ge、MnCoGe、Mn5Ge2.5Si0.5、Mn5Ge2Si、Mn5Ge1.5Si1.5、Mn5GeSi2、Mn5Ge3、Mn5Ge2.9Sb0.1、Mn5Ge2.8Sb0.2、Mn5Ge2.7Sb0.3、LaMn1.9Fe0.1Ge、LaMn1.85Fe0.15Ge、LaMn1.8Fe0.2Ge、(Fe0.9Mn0.13C、(Fe0.8Mn0.23C、(Fe0.7Mn0.33C、Mn3GaC、MnAs、(Mn、Fe)As、Mn1+δAs0.8Sb0.2、MnAs0.75Sb0.25、Mn1.1As0.75Sb0.25、Mn1.5As0.75Sb0.25である。
【0040】
本発明で好適なホイスラー合金の例としては、Fe2MnSi0.5Ge0.5、Ni52.9Mn22.4Ga24.7、Ni50.9Mn24.7Ga24.4、Ni55.2Mn18.6Ga26.2、Ni51.6Mn24.7Ga23.8、Ni52.7Mn23.9Ga23.4、CoMnSb、CoNb0.2Mn0.8Sb、CoNb0.4Mn0.6Sb、CoNb0.6Mn0.4Sb、Ni50Mn35Sn15、Ni50Mn37Sn13、MnFeP0.45As0.55、MnFeP0.47As0.33、Mn1.1Fe0.90.47As0.53、MnFeP0.89-xSixGe0.11、x=0.22、x=0.26、x=0.30、x=0.33があげられる。
【0041】
本発明はまた、上記の方法により得られる磁気冷却用の金属系材料に関する。
【0042】
また、本発明は、As含有材料を除く組成物で、平均結晶サイズが10〜400nmの範囲、より好ましくは20〜200nm、特に30〜80nmの範囲にある上記の磁気冷却用の金属系材料に関する。この平均結晶サイズは、X線回折で求めることができる。結晶サイズが小さくなりすぎると最大の磁気熱量効果が低下する。一方、結晶サイズが大きすぎると系のヒステリシスが増加する。
【0043】
上述のように、本発明の金属系材料は磁気冷却に使用することが好ましい。上述のように、対応する冷蔵庫は、磁石、好ましくは永久磁石に加えて、金属系材料を有している。コンピューターチップや太陽発電機の冷却も可能である。他の利用分野はヒートトポンプや空調システムである。
【0044】
本発明の方法で製造される金属系材料は、どのような固体状態であってもよい。フレーク状や、リボン状、ワイヤ状、粉末状であってもよく、また成型物の形であってもよい。モノリスやハニカムなどの成型物は、例えば押出成型法により製造される。例えばセル密度が400〜1600CPI以上であってもよい。本発明によれば、ロールにより製造される薄いシートが好ましい。好ましい無多孔性の成型物は、薄い材料、例えばチューブ、板、メッシュ、格子状物または棒からなるものである。本発明によれば、金属射出成型(MIM)法による成型も可能である。
【0045】
本発明を、以下の実施例をもとに詳述する。
【実施例】
【0046】
実施例1
プレスしたMnFePGe試料を含む真空石英アンプルを1100℃で10時間維持して、この粉末を焼結させた。この焼結物を650℃で60時間熱処理して均質化させた。炉中でゆっくりと室温まで冷却するのでなく、試料を直ちに室温の水中で急冷した。この水中での急冷で試料表面が一定程度酸化した。外側の酸化被膜を希酸で洗い流した。XRDパターンは、すべての試料が、Fe2P型の構造で結晶化していることを示した。
【0047】
以下の組成物が得られた。
【0048】
Mn1.1Fe0.90.81Ge0.19、Mn1.1Fe0.90.78Ge0.22、Mn1.1Fe0.90.75Ge0.25、およびMn1.2Fe0.80.81Ge0.19。これらの試料の熱ヒステリシスの観測値は、順に7K、5K、2K、3Kである。徐冷された試料では熱ヒステリシスが10Kより大きく、この試料と比べると、熱ヒステリシスは大幅に低下している。
【0049】
熱ヒステリシスは、0.5テスラの磁場で測定した。
【0050】
図1は、磁場を増強しながらキュリー温度付近でMn1.1Fe0.90.78Ge0.22を等温磁化させた結果を示す。最高5テスラの磁場まで、MCEを増加させる磁場誘起性の遷移がみられる。
【0051】
キュリー温度は、熱ヒステリシス値と同様に、Mn/Fe比とGe濃度を変えることで調整可能である。
【0052】
0〜2テスラの最大磁場変化に対する、マクスウェル式を用いて直流磁化から計算された磁気エントロピーの変化は、初めの三つの試料に対して、それぞれ14J/kgK、20J/kgK、12.7J/kgKである。
【0053】
Mn/Fe比の増加に伴い、キュリー温度と熱ヒステリシスは低下する。その結果、このMnFePGe化合物は、低磁場で比較的大きなMCE値を示す。これらの材料の熱ヒステリシスは非常に小さい。
【0054】
実施例2
MnFeP(GeSb)の溶融紡糸
WO2004/068512とJ. Appl.Phys. 99、08 Q107 (2006)に記載のように、ボールミル中で高エネルギーを注入して、固相反応法により、まず多結晶MnFeP(Ge,Sb)合金を製造した。この材料を、ノズルを有する石英チューブに入れた。試験槽を10-2mbarにまで脱気し、高純度アルゴンガスで満たした。試料を高周波で溶融し、回転銅ドラムを収めた試験槽への差圧によりノズルから吹付けさせた。銅ホイールの表面速度は調整可能で、約105K/sの冷却速度が達成された。次いで、巻き取ったリボンを900℃で1時間熱処理した。
【0055】
X線回折の結果は、すべての試料が六方晶Fe2P構造パターンで結晶化していることを示す。溶融紡糸法以外で生産された試料とは異なり、MnOの汚染相が観測されなかった。
【0056】
溶融紡糸をいろいろ異なる周速度で行い、キュリー温度、ヒステリシス、エントロピーの値を測定した。結果を、以下の表1と表2にまとめて示す。いずれの場合も、低いヒステリシス温度が測定された。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気冷却用またはヒートポンプ用の金属系材料の製造方法であって、
a)前記の金属系材料に相当する化学量論量の化学元素及び/又は合金を、固相及び/又は液相で反応させる工程と、
b)適当なら工程a)の反応生成物を固体に変換する工程と、
c)工程a)または工程b)の固体を焼結及び/又は熱処理する工程と、
d)工程c)における焼結及び/又は熱処理後の固体を200〜1300K/sの範囲の
冷却速度で急冷する工程と、を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
工程a)の反応を、前記元素及び/又は合金を密閉容器中、または押出機中で加熱することにより行うか、あるいはボールミル中で固相反応させることにより行う請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程b)における固体への変換が、溶融紡糸または噴霧冷却により行われる請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程c)において、まず焼結が800〜1400℃の範囲の温度で行われ、次いで熱処理が500〜750℃の範囲の温度で行われる請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記金属系材料が以下のものから選ばれる請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
(1)一般式(I)の化合物
(Ayy-12+δwxz (I)
式中、
Aは、Mn又はCoであり、
Bは、Fe、Cr、又はNiであり、
CとDとEは、CとDとEのうち少なくとも2つは異なり、濃度がゼロでなく、P、B、Se、Ge、Ga、Si、Sn、N、As、およびSbから選ばれ、CとDとEの少なくとも一つがGe又はSiであり、
δは−0.1〜0.1の範囲の数字であり、
w、x、y、zは、0〜1の範囲の数字である(ただし、w+x+z=1);
(2)一般式(II)及び/又は(III)及び/又は(IV)のLa及びFe系化合物
Le(FexAl1-x13yまたはLa/FexSi1-x13y (II)
式中、
xは0.7〜0.95の数字であり;
yは、0〜3の数字である;
La(FexAlyCoz13またはLa(FexSiyCoz13 (III)
式中
xは0.7〜0.95の数字であり;
yは0.05〜1−xの数字であり;
zは0.005〜0.5の数字である;
LaMnxFe2-xGe (IV)
式中
xは1.7〜1.95の数字である;及び
(3)MnTP型のホイスラー合金(式中、Tは遷移金属で、Pは原子中の電子数e/aが7〜8.5の範囲にあるp−ドープ金属である)。
【請求項6】
前記金属系材料が、少なくとも、MnとFeとP、適当ならSbに加えて、Ge、Si、As、Ge、As、SiとAs、あるいはGeとSiとAsを含む一般式(I)の4元化合物から選ばれる請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程の順序が以下の通りである請求項1に記載の方法。
a)金属系材料に相当する化学量論量の化学元素及び/又は合金のボールミル中における固相反応、
b)工程a)で得られる材料の溶融紡糸、
c)430〜1200℃の範囲、好ましくは800〜1000℃の範囲の温度で、10秒間又は1分〜5時間、好ましくは30分間〜2時間の工程b)における固体の加熱、
d)工程c)からの熱処理成型物の200〜1300K/sの冷却速度での急冷。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法により得られる磁気冷却用またはヒートポンプ用の金属系材料。
【請求項9】
請求項5または6に記載の方法により得られる磁気冷却またはヒートポンプ用の金属化材料であって、平均結晶サイズが10〜400nmの範囲であるAs含有材料以外の金属化材料。
【請求項10】
請求項8と9のいずれか一項に記載の金属系材料を磁気冷却、ヒートポンプまたは空調システムにおいて使用する方法。

【公表番号】特表2011−523676(P2011−523676A)
【公表日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−505532(P2011−505532)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【国際出願番号】PCT/EP2009/055024
【国際公開番号】WO2009/133049
【国際公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(510276652)テクノロジー、ファウンデーション、エステーヴェー (2)
【出願人】(510276663)ユニバーシティー、オブ、アムステルダム (1)
【Fターム(参考)】