磁気刺激における刺激部位の特定あるいはターゲッティングを行うための装置
【課題】 電磁コイルがどの位置にあってもその位置や向きを特定することのできる磁気刺激装置(磁気刺激における刺激部位の特定あるいはターゲッティングを行うための装置)を提供する。
【解決手段】 磁気刺激装置を、被験者の体内部位に磁気刺激を加えるための磁界発生手段M1と、磁界発生手段M1を支持するための支持手段M2と、支持手段M2の変位を読み取って磁界発生手段M1の位置及び向きを計測するための計測手段M3と、前記体内部位と該体内部位の周辺にある体表部位の形状及びそれらの相対的位置関係についての情報を含むデータD1を予め格納しておくための記憶手段M4と、前記体表部位の形状及び位置についての情報を含むデータD2を計測するための計測手段M5と、データD1とデータD2との位置合わせを行って、前記体内部位の座標を特定する演算手段M6と、を備えたものとした。
【解決手段】 磁気刺激装置を、被験者の体内部位に磁気刺激を加えるための磁界発生手段M1と、磁界発生手段M1を支持するための支持手段M2と、支持手段M2の変位を読み取って磁界発生手段M1の位置及び向きを計測するための計測手段M3と、前記体内部位と該体内部位の周辺にある体表部位の形状及びそれらの相対的位置関係についての情報を含むデータD1を予め格納しておくための記憶手段M4と、前記体表部位の形状及び位置についての情報を含むデータD2を計測するための計測手段M5と、データD1とデータD2との位置合わせを行って、前記体内部位の座標を特定する演算手段M6と、を備えたものとした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳などの体内部位に磁気刺激を行う際に刺激部位の特定やターゲッティングを行うことのできる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、脳に磁気刺激を加えるための装置として、磁気刺激を加えるための電磁コイルと、電磁コイルと被験者頭部との位置を同時に計測するための計測手段とを備え、磁気共鳴イメージング装置(MRI)などで予め撮影しておいた脳の三次元イメージデータを前記計測手段によって計測される実空間の座標系に位置合わせすることによって、電磁コイルと脳との相対的な位置関係を特定するものが知られている(例えば、特許文献1と特許文献2を参照)。この種の装置は、脳の機能を部位ごとに調べるための手段として、あるいは鬱病を始めとする各種疾患を治療するための手段として、近年注目を集めている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−180649号公報(請求項12、図1)
【特許文献2】特開2004−000636号公報(請求項13、図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の装置では、前記電磁コイルの位置や向きは、該電磁コイルに固定したマーカからの反射光をカメラなどで読み取って特定することが多く、前記電磁コイルが前記カメラの死角に位置する場合には、前記電磁コイルの位置などを正確に特定することができなかった。このため、磁気刺激を行う場所によっては、被験者やカメラなどの配置を変えなければならず、非常に煩わしかった。また、従来の装置では、電磁コイルを手動で操作していたために、前記電磁コイルを正確な位置や向きに迅速に調整することは困難であった。
【0005】
そして、従来の装置では、光を反射させるためのマーカや、被験者頭部を位置固定するための固定具などを被験者頭部に取り付ける必要があったために、被験者が鬱陶しく感じるおそれがあった。また、マーカや固定具を被験者頭部の正確な位置に取り付けておかないと、電磁コイルと脳との相対的な位置関係を正しく把握することができなくなるために、その取り付け作業には細心の注意を払う必要があった。さらに、マーカや固定具を正確な位置に取り付けたとしても、脳の三次元イメージデータと計測空間の座標系との位置合わせを必ずしも正確に行うことができるとは限らなかった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、磁気刺激を加えるための電磁コイルがどの位置にあってもその位置や向きを特定することのできる装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、(a)被験者の体内部位に磁気刺激を加えるための磁界発生手段M1と、(b)磁界発生手段M1を支持するための支持手段M2と、(c)支持手段M2の変位を読み取って磁界発生手段M1の位置及び向きを計測するための計測手段M3と、(d)前記体内部位と該体内部位の周辺にある体表部位の形状及びそれらの相対的位置関係についての情報を含むデータD1を予め格納しておくための記憶手段M4と、(e)前記体表部位の形状及び位置についての情報を含むデータD2を計測するための計測手段M5と、(f)データD1とデータD2との位置合わせを行って、前記体内部位の座標を特定する演算手段M6とが備えられてなる、磁気刺激における刺激部位の特定あるいはターゲッティングを行うための装置(以下においては、説明の便宜上、単に‘磁気刺激装置’と表記する。)を提供することによって解決される。
【0008】
このように、磁界発生手段M1の位置や向きを支持手段M2の変位によって特定することで、磁界発生手段M1が計測手段M5の死角にある場合であっても、磁界発生手段M1の位置を検知することが可能になる。ただし、支持手段M2の変位は、支持手段M2の変位を直接的に読み取ってもよいし、後述する駆動手段M10を支持手段M2に取り付ける場合には、駆動手段M10の変位から間接的に読み取ってもよいものとする。
【0009】
前記磁気刺激装置に、磁気刺激によって前記体内部位に生じる誘導電界の分布(例えば、磁気刺激によって被験者の脳に生じる誘導電界ベクトルの脳表に対する垂直成分の分布など)を表示するための出力手段M7を備えることも好ましい。これにより、磁気刺激が加えられている体内部位の任意の座標における磁気刺激の様子を把握することが可能になる。また、被験者の生体反応を計測するための計測手段M8を備えておくことも好ましい。これにより、前記体内部位を磁気刺激することによって、被験者の身体にどのような変化が現れるのかを観察することも可能になる。さらに、磁気刺激を加える前記体内部位の座標を予め設定入力するための入力手段M9を備えておくことも好ましい。
【0010】
支持手段M2がN個の可動部M2.1〜M2.Nを有することも好ましい。Nの値は、磁界発生手段M1の対称性や、各可動部M2.1〜M2.Nに付与する自由度などによっても異なるが、後述する「8」の字形の電磁コイルのようにその形状に回転対称性を有さないものを磁界発生手段M1として用い、各可動部M2.1〜M2.Nに付与する自由度を全て1とした場合には、通常、6以上に設定される。
【0011】
計測手段M3は、支持手段M2の変位を読み取ることができるものであれば特に限定されず、各種の計測機器を用いることができる。具体的には、モータなどの回転量を計測することのできるロータリエンコーダや、ピストンシリンダなどの伸縮量を計測することのできるリニアエンコーダが、計測手段M3として例示される。なかでも、ロータリエンコーダは、計測手段M3として好適なものである。支持手段M2の各可動部M2.1〜M2.Nは、他の可動部に対して回転変位するように取り付けられることが多いためである。
【0012】
計測手段M5は、磁気刺激を加える体内部位の周辺にある体表部位の位置を計測できるものであれば特に限定されないが、カメラによる撮影又はレーザ発振器による測距によって計測を行うもの(以下においては、説明の便宜上、‘三次元スキャナ’と表記する。)であると好ましい。これにより、前記体表部位の表面形状を把握することが可能となり、データD1とデータD2との位置合わせより正確に行うことができる。また、被験者にマーカや固定具などを取り付ける必要がなく、被験者が感ずる鬱陶しさを大幅に軽減することのできる磁気刺激装置を提供することも可能になる。さらに、電磁コイルと脳との相対的な位置関係を高い精度で特定することのできる磁気刺激装置を提供することも可能になる。
【0013】
計測手段M5の計測原理は、特に限定されないが、光切断法、フェーズシフト法、スポット光法、空間コード法、モアレ法、ステレオ法の中から選ばれる少なくとも1の計測原理を用いるものであると好ましい。これにより、被験者の体表部位の位置だけでなくその表面形状を把握して、データD1とデータD2との位置合わせをより正確に行うことも可能になる。光切断法、フェーズシフト法、スポット光法、空間コード法、モアレ法、ステレオ法については後述する。
【0014】
前記磁気刺激装置に、支持手段M2を駆動して磁界発生手段M1の位置及び向きを変化させるための駆動手段M10を備えることも好ましい。これにより、支持手段M2を自動的に制御するだけでなく、支持手段M2を高い精度で位置決めすることも可能になる。また、計測手段M5や演算手段M6などの性能によっては、磁界発生手段M1を被験者の動きに略リアルタイムに追従させることも可能になり、被験者頭部などを完全に固定しなくても磁気刺激を行うことができるようになる。
【0015】
駆動手段M10は、支持手段M2を駆動するものであれば特に限定されず、モータなどの電気機器やピストンシリンダなどの油圧機器が例示される。なかでも、ステッピングモータやサーボモータなどのモータを用いることが多い。ステッピングモータやサーボモータは、その変位を高精度に制御することができるだけでなく、油圧機器などと比較して応答性に優れ、磁界発生手段M1を所望の位置に迅速に移動させることも容易なためである。
【0016】
磁気刺激を加える前記体内部位は、特に限定されないが、脳であることが好ましい。このとき、磁気刺激によって脳表に生じる誘導電界ベクトルと脳表の単位法線ベクトルとを複数点で求めて、前記誘導電界ベクトルと前記単位法線ベクトルとの内積が最大となる点を磁界発生手段M1による刺激部位と特定するための刺激部位特定手段が備えられていることも好ましい。これにより、磁気刺激される刺激部位の位置を高確度で特定することが可能になる。脳の錐体細胞はその長軸方向が脳表に対して略垂直となるように配列されているが、前記錐体細胞は前記錐体細胞の長軸方向に平行な方向に電界が印加されると興奮するという報告がなされているためである。ただし、本明細書においては、大脳皮質の表面、大脳皮質と大脳白質との境界面、又はそのいずれかの面に平行な大脳皮質内の面(例えば、錐体細胞層のなす曲面)を脳表と呼んでいる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によって、電磁コイルなどの磁界発生手段M1がどの位置にあってもその位置や向きを特定することのできる磁気刺激装置を提供することが可能になる。また、磁界発生手段M1を正確な位置及び向きに迅速にターゲッティングすることも可能となるために、被験者頭部が動いたような場合であっても磁界発生手段M1を被験者頭部にリアルタイムに追従させるといったことも実現可能となり、被験者の感ずる拘束感を軽減することもできる。さらに、磁界発生手段M1の位置や向きを高い精度で制御でき、磁界発生手段M1が磁気刺激を加えている体内部位の座標を高い精度で特定することもできる磁気刺激装置を提供することも可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
[全体構成]
本発明の磁気刺激装置を、図面を用いてより具体的に説明する。図1は、本発明の磁気刺激装置の全体構成の一例を示した概念図である。本例の磁気刺激装置は、図1に示すように、被験者の体内部位に磁気刺激を加えるための磁界発生手段M1と、磁界発生手段M1を支持するための支持手段M2と、支持手段M2を駆動するための駆動手段M10と、支持手段M2の変位を計測するための計測手段M3と、前記体内部位と該体内部位の周辺にある体表部位の形状及びそれらの相対的位置関係についての情報を含むデータD1を予め格納しておくための記憶手段M4と、前記体内部位の周辺にある体表部位の形状及び位置についての情報を含むデータD2を計測するための計測手段M5と、前記体内部位の実空間における座標を特定するための演算手段M6と、演算手段M6の演算結果などを出力するための出力手段M7と、被験者の生体反応を計測するための計測手段M8と、磁気刺激装置に各種設定を行うための入力手段M9と、を備えたものとなっている。
【0019】
[磁界発生手段M1]
磁界発生手段M1は、被験者10の体内部位に磁気刺激を加えるためのものとなっている。磁界発生手段M1は、外部に磁界を発生できるものであれば特に限定されないが、通常、電磁コイルが用いられる。本例の磁気刺激装置においては、磁界発生手段M1として、略「8」の字形の電磁コイルを採用している。この電磁コイルは、時計方向に電流が流される第一ループと、反時計方向に電流が流される第二ループとが、1点で接近するように並べて配されたものとなっており、第一ループを流れる電流によって前記体内部位に生じる誘導電界と、第二ループを流れる電流によって前記体内部位に生じる誘導電界とが、前記電磁コイルの中央直下の1点で互いに強め合うものとなっている。
【0020】
[支持手段M2]
支持手段M2は、磁界発生手段M1を支持するためのものとなっている。図2は、図1の支持手段M2を示した側面図である。本例の磁気刺激装置において、支持手段M2は、固定部M2.0と、可動部M2.1〜M2.6とを備えた、アームスタンド型のものを採用している。各可動部M2.1〜M2.6は、回転するものであってもよいし、スライドするものであってもよい。本例の磁気指摘装置において、可動部M2.1は、軸L1を中心に回転できる状態で固定部M2.0に連結されており、可動部M2.2は、軸L2を中心に回転できる状態で可動部M2.1に連結されている。また、可動部M2.3は、軸L3を中心に回転できる状態で可動部M2.2に連結されており、可動部M2.4は、軸L4を中心に回転できる状態で可動部M2.3に連結されている。さらに、可動部M2.5は、軸L5を中心に回転できる状態で可動部M2.4に連結されており、可動部M2.6は、軸L6を中心に回転できる状態で可動部M2.5に連結されている。ただし、軸L1,L4,L6は、図2の紙面に平行であり、軸L2,L3,L5は、図2の紙面に垂直である。可動部M2.6には、磁界発生手段M1が固定されている。
【0021】
[駆動手段M10]
駆動手段M10は、支持手段M2を駆動するためのものとなっている。本例の磁気刺激装置では、駆動手段M10を6個の駆動手段M10.1〜M10.6(図示省略)によって構成している。駆動手段M10.1〜M10.6のそれぞれは、図2に示した軸L1〜L6の周辺で支持手段M2に取り付けられており、可動部M2.1〜M2.6を独立して駆動することができるようになっている。駆動手段M10.1〜M10.6としては、モータなどの回転型のアクチュエータや、ピストンシリンダなどのスライド型のアクチュエータが例示される。駆動手段M10.1〜M10.6は、1自由度で駆動されるものであってもよいし、多自由度モータのように2以上の自由度で駆動されるものであってもよい。本例の磁気刺激装置においては、駆動手段M10.1〜M10.6の全てを1自由度のステッピングモータとしている。
【0022】
[計測手段M3]
計測手段M3は、支持手段M2の変位を計測するためのものとなっている。本例の磁気刺激装置では、計測手段M3を6個の計測手段M3.1〜M3.6(図示省略)によって構成している。計測手段M3.1〜M3.6は、それぞれ駆動手段M10.1〜M10.6に取り付けられており、計測手段M3.1〜M3.6と駆動手段M10.1〜M10.6とが1対1で対応するようになっている。このため、計測手段M3.1〜M3.6で可動部M2.1〜M2.6の変位をそれぞれ計測して、磁界発生手段M1の位置及び向きを検知することができるようになっている。計測手段M3.1〜M3.6としては、モータなどの回転量を計測することのできるロータリエンコーダや、ピストンシリンダなどの伸縮量を計測することのできるリニアエンコーダが例示される。ロータリエンコーダやリニアエンコーダを計測手段M3として採用する場合には、アブソリュート式のものを選択してもよいし、インクリメント式のものを選択してもよい。本例の磁気刺激装置においては、計測手段M3.1〜M3.6の全てをロータリエンコーダとしている。
【0023】
[記憶手段M4]
記憶手段M4は、磁気刺激を加える体内部位と該体内部位の周辺にある体表部位の形状及びそれらの相対的位置関係についての情報を含むデータD1を予め格納しておくためのものとなっている。記憶手段M4としては、通常、ワークステーションなどのコンピュータに内蔵又は接続された記憶装置(コンピュータの基本装置の一。必要なデータを蓄えておく装置。LSI などを用いた主記憶装置と、磁気ディスク・磁気テープなどを用いた補助記憶装置に大別される。)が用いられる。主記憶装置としては、RAM(VRAMを含む。)が例示され、補助記憶装置としてはハードディスクが例示される。
【0024】
[計測手段M5]
計測手段M5は、磁気刺激を加える体内部位の周辺にある体表部位の形状及び位置についての情報を含むデータD2を計測するためのものとなっている。計測手段M5として用いる三次元スキャナは、いわゆる二次元スキャナを複数台組み合わせて構成したものであってもよい。計測手段M5の計測原理としては、光切断法、フェーズシフト法、スポット光法、空間コード法、モアレ法、ステレオ法が例示される。これらの計測原理について説明する。
【0025】
[光切断法]
光源から出射した光をスリットや格子などの光切断部を介して計測対象物(被験者頭部)に照射し、該計測対象物の表面に線状に投影された光をカメラで撮影することによって、前記計測対象物の表面における光が投影された点の座標を求める計測方法である。該点の座標は、前記計測対象物の表面に照射された光が前記カメラの撮像面において結像する位置から演算することができる。その演算には、三角測量の原理が用いられる。
【0026】
[フェーズシフト法]
前記光切断法において、格子やカメラの撮像面などを移動させながら撮影を行い、前記計測対象物の表面における光が投影された点の座標を求める計測方法である。フェーズシフト法を用いることによって、1回の測定で多数の点の座標を求めることができる。
【0027】
[スポット光法]
光源から計測対象物にレーザ光を照射し、該計測対象物の表面にスポット状に投影された光をカメラや半導体位置検出素子(PSD:Position Sensitive Detector)などで撮影することによって、前記計測対象物の表面における光が投影された点の座標を求める計測方法である。スポット光法には、前記光源と前記カメラとを同軸に配する同軸式と、前記光源と前記カメラとを非同軸に配する非同軸式(三角測量式とも呼ばれる。)とがある。同軸式の場合には、カメラやPSDの撮像面に形成された干渉縞のピッチから前記点の座標を求めることができ、非同軸式の場合には、三角測量の原理により前記点の座標を求めることができる。
【0028】
[空間コード法]
光源から出射した光を格子などを介して計測対象物に照射し、該計測対象物の表面に投影された光のパターンの変化をカメラで複数回撮影し、撮影された複数枚の画像を解析することによって、前記計測対象物の表面における光が投影された点の座標を求める計測方法である。
【0029】
[モアレ法]
光源から出射した光を一の格子を介して計測対象物に照射し、該計測対象物の表面に投影された光のパターンを他の格子を介してカメラで撮影し、該カメラで撮影されたモアレ画像から前記計測対象物の表面における光が投影された点の座標を求める計測方法である。光源の光軸とカメラの光軸は、通常、平行となるように配される。
【0030】
[ステレオ法]
撮影方向の異なる複数台のカメラで計測対象物を撮影し、各カメラの画像から計測対象物の表面における対応する点を見つけることによって、その対応する点の座標を求める計測原理である。対応する点の座標は、その点が各カメラの撮像面に結像する位置から演算することができる。その演算には、三角測量の原理が用いられる。
【0031】
本例の磁気刺激装置においては、計測手段M5として、日本電気エンジニアリング株式会社製の三次元スキャナ「Danae(登録商標)」を用いている。この三次元スキャナは、その計測原理に多眼正弦波格子位相シフト法を用いたものとなっている。多眼正弦波格子位相シフト法は、前記光切断法と前記フェーズシフト法とを組み合わせて、計測対象物の表面形状を計測するものとなっている。
【0032】
多眼正弦波格子位相シフト法についてさらに詳しく説明する。図3は、図1の計測手段M5の計測原理を説明する原理図である。図3において、y軸は、紙面に垂直で紙面手前側が正となる向きに配されている。この計測手段M5は、光源M5.1と、カメラM5.2と、格子M5.3とを用いて、被験者10の体表部位の表面形状を計測するものとなっている。光源M5.1には、人体に照射しても安全なハロゲンランプを採用しており、カメラM5.2には、CCDカメラを採用している。以下においては、説明の便宜上、光源M5.1は原点Oにあるものとする。また、カメラM5.2のレンズは点A(a,0,0)にあるものとし、カメラM5.2の撮像面αはxy平面に平行で点Aからz軸方向に距離f(焦点距離)の位置にあるものとする。さらに、格子M5.3は、xy平面に平行で原点Oからz軸方向に距離bの位置にあるものとする。a,b,fの値は、全て既知である。
【0033】
図3に示すように、光源M5.1から出射された光が、格子M5.3上の点B(c,d,b)を通過して被験者10の体表部位上の点Pに照射され、カメラM5.2の撮像面α上の点Q(a+X,Y,−f)で結像された場合について考える。このとき、直線PQ上にある点Rの位置ベクトル(xR,yR,zR)は、媒介変数rを用いて下記式(1)で表すことができる。
【数1】
【0034】
また、直線OP上にある点Sの位置ベクトル(xS,yS,zS)は、媒介変数sを用いて下記式(2)で表すことができる。
【数2】
【0035】
点Pは直線PQと直線OPとの交点であるので、xR=xS(=xP)、yR=yS(=yP)、zR=zS(=zP)として、上記式(1)と上記式(2)を解くと、点Pの位置ベクトル(xP,yP,zP)を求めることができる。点Pの位置ベクトルを具体的に求めてみると、下記式(3)のようになる。
【数3】
上記式(3)において、a,b,f,X,Yの値は既知であるので、cの値が分かれば、点Pの位置ベクトル(座標)を特定することができる。
【0036】
本例の計測手段M5においては、格子M5.3として、フィルムに正弦波パターンを印刷したもの(正弦波格子)を用いている。このため、被験者10の体表部位には、明暗パターンが現われるようになっている。また、カメラM5.2の撮像面αには、受光した光の明るさに応じた電流を出力する撮像素子を配している。このため、撮像素子が出力した電流値を計測することによって、その撮像素子が受光した光が格子M5.3のどの位置を通過してきたものなのか(cの値)が分かるようになっている。
【0037】
ただし、格子M5.3(正弦波格子)は、透過率の等しい場所がx軸方向でも複数個所に存在するために、本例の計測手段M5では、正弦波格子の位置をx軸方向にシフトさせることによって、点Qが受光する光の強度の時間的変化を監視するようにしている。これにより、cの値を絞り込むことができ、点Pの座標を一義的に特定することができる。この計測原理は、多眼正弦波格子位相シフト法と呼ばれている。同様に、撮像面α上の点Q以外の点についてもcの値を求めていくと、被験者10の体表部位の位置だけでなくその表面形状についての情報をも含むデータD2が生成される。
【0038】
[演算手段M6]
演算手段M6は、データD1における体表部位とデータD2における体表部位とを重ね合わせて位置合わせすることによって、前記体内部位の実空間における座標を特定するためのものとなっている。演算手段M6は、前記体内部位の座標を特定するためだけに用いてもよいし、その他の処理を行わせてもよい。本例の磁気刺激装置においては、演算手段M6を、磁界発生手段M1の位置を特定するための磁界発生位置特定手段や、刺激部位を特定するための刺激部位特定手段としても利用している。演算手段M6には、通常、ワークステーションなどのコンピュータに内蔵された演算装置(マイクロプロセッサの構成要素の一つで、四則演算や論理演算など算術的な処理を行なう回路。)が用いられる。
【0039】
[出力手段M7]
出力手段M7は、磁気刺激によって前記体内部位に生じる誘導電界の分布など、演算手段M6の演算結果などを出力するためのものとなっている。出力手段M7には、通常、ディスプレイなどの表示装置が用いられる。
【0040】
[計測手段M8]
計測手段M8は、磁気刺激を加えることによって被験者10の身体に生じた生体反応を計測するためのものとなっている。計測手段M8は、特に限定されるものではないが、本例の磁気刺激装置では、筋電計を用いている。
【0041】
[入力手段M9]
入力手段M9は、磁気刺激を行う刺激部位の座標を磁気刺激装置に設定するなど、各種設定を行うためのものとなっている。入力手段M9には、通常、マウスやキーボードなどの入力装置が用いられる。
【0042】
[磁気刺激方法]
次に、本発明の磁気刺激装置を用いた磁気刺激方法について説明する。以下においては、説明の便宜上、磁気刺激を加える体内部位を脳として説明しているが、これに限定されない。また、計測手段M5によって計測を行う体表部位は、磁気刺激を行う体内部位の周辺にあり、該体内部位に対して相対的な位置が変化しない部分の体表部位であれば特に限定されないが、以下においては、被験者頭部として説明している。さらに、「データD1」を「三次元イメージデータD1」と表記し、「データD2」を「三次元イメージデータD2」と表記し、「計測手段M5」を「三次元スキャナM5」と表記して説明している。
【0043】
まず、脳の三次元イメージデータD1を用意する。三次元イメージデータD1は、磁気共鳴イメージング装置やX線イメージング装置などから取得できる。なかでも、磁気共鳴イメージング装置は、被爆の心配がなく軟組織の判別も容易なために好ましい。本例の磁気刺激方法においては、磁気共鳴イメージング装置を用いて脳の断面画像を複数枚撮影し、得られた脳の断面画像を積層することによって三次元イメージデータD1を生成している。
【0044】
図4に、三次元イメージデータD1の一例を示す。三次元イメージデータD1には、破線で示すように、被験者頭部の表面も現われる。生成された三次元イメージデータD1は、記憶手段M4に予め格納される。三次元イメージデータD1には、モデル化されたもの(多数の被験者からサンプリングを行って取得した平均的なデータなど)を用いてもよいが、形状や寸法に個人差が顕著に現れる体内部位を磁気刺激する場合や、磁気刺激を加える部位を高確度で特定する必要があるような場合には、通常、被験者本人を計測して得られたものが用いられる。
【0045】
続いて、磁界発生手段M1の位置及び向きを規定する座標系の原点を、三次元スキャナM5が計測する空間の座標系の原点に一致させ、磁界発生手段M1の座標系と三次元スキャナM5の座標系とをリンクさせる。この原点合わせは、例えば、磁界発生手段M1を三次元スキャナM5で撮影し、三次元スキャナM5から取得した磁界発生手段M1の位置を示すパラメータ群を計測手段M3から取得した同様のパラメータ群と比較することによって行うことができる。
【0046】
三次元スキャナM5は、その視野に被験者頭部が入るとその表面形状を計測して、被験者頭部の三次元イメージデータD2を生成する。図4に、三次元イメージデータD2の一例を示す。三次元イメージデータD2は、演算手段M6に送信される。記憶手段M4に格納されていた三次元イメージデータD1は、図4に示すように、演算手段M6によって三次元イメージデータD2に重ねられ、三次元イメージデータD3が生成される。三次元イメージデータD1と三次元イメージデータD2との位置合わせは、三次元イメージデータD1,D2に現われた被験者頭部のうち、表情筋のない部位(額や顎など)や、形状に特徴を有する部位(鼻や顎など)などの表面を互いに重ね合わせることによって行うと容易かつ高精度に行うことができる。三次元イメージデータD3は、出力手段M7に表示される。
【0047】
続いて、磁界発生手段M1を被験者頭部の周辺で移動させ、磁界発生手段M1の位置及び向きを調節する。このとき、演算手段M6(刺激部位特定手段)は、図5に示すように、脳表の複数点P1,P2,P3・・・で、磁界発生手段M1によって脳表に生じる誘導電界ベクトルV1と、脳表の単位法線ベクトルV2とを算出し、誘導電界ベクトルV1と単位法線ベクトルV2との内積(誘導電界ベクトルV1の脳表に対する垂直成分V3の大きさ)を各点P1,P2,P3・・・ごとに求め、それぞれを比較している。脳表の単位法線ベクトルV2は、例えば、三次元イメージデータD1の脳表周辺を画素レベルで解析することによって求めることができる。誘導電界ベクトルV1と単位法線ベクトルV2との内積が最大となった点は、磁界発生手段M1による刺激部位と特定されて、三次元イメージデータD3上に重ねられて出力手段M7に表示される。このため、出力手段M7で刺激部位の位置を確認しながら、磁界発生手段M1の位置及び向きを調節することができるようになっている。図5の例では、点P2が刺激部位と特定される。
【0048】
磁界発生手段M1の調節は、手動で行ってもよいし、駆動手段M10を駆動することによって行ってもよい。また、粗調節のみを手動で行って、その後の微調節は駆動手段M10を駆動して行うといったことも可能である。駆動手段M10を駆動して磁界発生手段M1の調節を行う場合には、磁界発生手段M1を移動させたい点の座標や、磁界発生手段M1によって磁気刺激を加えたい点の座標などを磁気刺激装置に予め設定しておき、設定された位置に磁界発生手段M1が自動的に移動するように制御することもできる。刺激部位が所望の位置に一致したのを確認すると、磁界発生手段M1による磁気刺激を開始する。
【0049】
このとき、被験者頭部が動かないという前提であれば、磁界発生手段M1が磁気刺激を行っている間は、駆動手段M10の駆動系統を遮断しておくことが好ましい。これにより、磁界発生手段M1によって生じた磁界によって、駆動手段M10が誤作動するのを防止することができるためである。しかし、被験者頭部が動くおそれがあり、駆動系統M10に電磁遮蔽が十分に施されているという前提であれば、駆動手段M10の駆動系統を遮断しない方が好ましい。これにより、磁界発生手段M1を被験者頭部の動きにリアルタイムに追従させて、磁界発生手段M1と被験者頭部との相対的な位置関係を常に一定に保つといったことも可能となるためである。
【0050】
磁気刺激によって被験者の身体に生体反応が生ずると、計測手段M8が反応する。このため、磁気刺激されている部位にどのような機能があるのかを調べることができるようになっている。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の磁気刺激装置の全体構成の一例を示した概念図である。
【図2】図1の磁気刺激装置で用いた支持手段M2を示した側面図である。
【図3】図1の磁気刺激装置で用いた計測手段M5の計測原理を説明する原理図である。
【図4】三次元イメージデータD1と三次元イメージデータD2とを重ね合わせることによって三次元イメージデータD3を生成している状態を示した図である。
【図5】刺激部位の特定原理を説明する原理図である。
【符号の説明】
【0052】
10 被験者
D1 体内部位(脳)の三次元イメージデータ
D2 体表部位(被験者頭部)の三次元イメージデータ
D3 三次元イメージデータD1,D2を重ね合わせた三次元イメージデータ
L1〜L6 軸
M1 磁界発生手段(電磁コイル)
M2 支持手段(アームスタンド)
M2.0 固定部
M2.1〜M2.6 可動部
M3 計測手段(ロータリエンコーダ)
M4 記憶手段(記憶装置)
M5 計測手段(三次元スキャナ)
M5.1 光源
M5.2 カメラ
M5.3 格子
M6 演算手段(演算装置)
M7 出力手段(ディスプレイ)
M8 計測手段(筋電計)
M9 入力手段(キーボード、マウス)
M10 駆動手段(ステッピングモータ)
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳などの体内部位に磁気刺激を行う際に刺激部位の特定やターゲッティングを行うことのできる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、脳に磁気刺激を加えるための装置として、磁気刺激を加えるための電磁コイルと、電磁コイルと被験者頭部との位置を同時に計測するための計測手段とを備え、磁気共鳴イメージング装置(MRI)などで予め撮影しておいた脳の三次元イメージデータを前記計測手段によって計測される実空間の座標系に位置合わせすることによって、電磁コイルと脳との相対的な位置関係を特定するものが知られている(例えば、特許文献1と特許文献2を参照)。この種の装置は、脳の機能を部位ごとに調べるための手段として、あるいは鬱病を始めとする各種疾患を治療するための手段として、近年注目を集めている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−180649号公報(請求項12、図1)
【特許文献2】特開2004−000636号公報(請求項13、図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の装置では、前記電磁コイルの位置や向きは、該電磁コイルに固定したマーカからの反射光をカメラなどで読み取って特定することが多く、前記電磁コイルが前記カメラの死角に位置する場合には、前記電磁コイルの位置などを正確に特定することができなかった。このため、磁気刺激を行う場所によっては、被験者やカメラなどの配置を変えなければならず、非常に煩わしかった。また、従来の装置では、電磁コイルを手動で操作していたために、前記電磁コイルを正確な位置や向きに迅速に調整することは困難であった。
【0005】
そして、従来の装置では、光を反射させるためのマーカや、被験者頭部を位置固定するための固定具などを被験者頭部に取り付ける必要があったために、被験者が鬱陶しく感じるおそれがあった。また、マーカや固定具を被験者頭部の正確な位置に取り付けておかないと、電磁コイルと脳との相対的な位置関係を正しく把握することができなくなるために、その取り付け作業には細心の注意を払う必要があった。さらに、マーカや固定具を正確な位置に取り付けたとしても、脳の三次元イメージデータと計測空間の座標系との位置合わせを必ずしも正確に行うことができるとは限らなかった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、磁気刺激を加えるための電磁コイルがどの位置にあってもその位置や向きを特定することのできる装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、(a)被験者の体内部位に磁気刺激を加えるための磁界発生手段M1と、(b)磁界発生手段M1を支持するための支持手段M2と、(c)支持手段M2の変位を読み取って磁界発生手段M1の位置及び向きを計測するための計測手段M3と、(d)前記体内部位と該体内部位の周辺にある体表部位の形状及びそれらの相対的位置関係についての情報を含むデータD1を予め格納しておくための記憶手段M4と、(e)前記体表部位の形状及び位置についての情報を含むデータD2を計測するための計測手段M5と、(f)データD1とデータD2との位置合わせを行って、前記体内部位の座標を特定する演算手段M6とが備えられてなる、磁気刺激における刺激部位の特定あるいはターゲッティングを行うための装置(以下においては、説明の便宜上、単に‘磁気刺激装置’と表記する。)を提供することによって解決される。
【0008】
このように、磁界発生手段M1の位置や向きを支持手段M2の変位によって特定することで、磁界発生手段M1が計測手段M5の死角にある場合であっても、磁界発生手段M1の位置を検知することが可能になる。ただし、支持手段M2の変位は、支持手段M2の変位を直接的に読み取ってもよいし、後述する駆動手段M10を支持手段M2に取り付ける場合には、駆動手段M10の変位から間接的に読み取ってもよいものとする。
【0009】
前記磁気刺激装置に、磁気刺激によって前記体内部位に生じる誘導電界の分布(例えば、磁気刺激によって被験者の脳に生じる誘導電界ベクトルの脳表に対する垂直成分の分布など)を表示するための出力手段M7を備えることも好ましい。これにより、磁気刺激が加えられている体内部位の任意の座標における磁気刺激の様子を把握することが可能になる。また、被験者の生体反応を計測するための計測手段M8を備えておくことも好ましい。これにより、前記体内部位を磁気刺激することによって、被験者の身体にどのような変化が現れるのかを観察することも可能になる。さらに、磁気刺激を加える前記体内部位の座標を予め設定入力するための入力手段M9を備えておくことも好ましい。
【0010】
支持手段M2がN個の可動部M2.1〜M2.Nを有することも好ましい。Nの値は、磁界発生手段M1の対称性や、各可動部M2.1〜M2.Nに付与する自由度などによっても異なるが、後述する「8」の字形の電磁コイルのようにその形状に回転対称性を有さないものを磁界発生手段M1として用い、各可動部M2.1〜M2.Nに付与する自由度を全て1とした場合には、通常、6以上に設定される。
【0011】
計測手段M3は、支持手段M2の変位を読み取ることができるものであれば特に限定されず、各種の計測機器を用いることができる。具体的には、モータなどの回転量を計測することのできるロータリエンコーダや、ピストンシリンダなどの伸縮量を計測することのできるリニアエンコーダが、計測手段M3として例示される。なかでも、ロータリエンコーダは、計測手段M3として好適なものである。支持手段M2の各可動部M2.1〜M2.Nは、他の可動部に対して回転変位するように取り付けられることが多いためである。
【0012】
計測手段M5は、磁気刺激を加える体内部位の周辺にある体表部位の位置を計測できるものであれば特に限定されないが、カメラによる撮影又はレーザ発振器による測距によって計測を行うもの(以下においては、説明の便宜上、‘三次元スキャナ’と表記する。)であると好ましい。これにより、前記体表部位の表面形状を把握することが可能となり、データD1とデータD2との位置合わせより正確に行うことができる。また、被験者にマーカや固定具などを取り付ける必要がなく、被験者が感ずる鬱陶しさを大幅に軽減することのできる磁気刺激装置を提供することも可能になる。さらに、電磁コイルと脳との相対的な位置関係を高い精度で特定することのできる磁気刺激装置を提供することも可能になる。
【0013】
計測手段M5の計測原理は、特に限定されないが、光切断法、フェーズシフト法、スポット光法、空間コード法、モアレ法、ステレオ法の中から選ばれる少なくとも1の計測原理を用いるものであると好ましい。これにより、被験者の体表部位の位置だけでなくその表面形状を把握して、データD1とデータD2との位置合わせをより正確に行うことも可能になる。光切断法、フェーズシフト法、スポット光法、空間コード法、モアレ法、ステレオ法については後述する。
【0014】
前記磁気刺激装置に、支持手段M2を駆動して磁界発生手段M1の位置及び向きを変化させるための駆動手段M10を備えることも好ましい。これにより、支持手段M2を自動的に制御するだけでなく、支持手段M2を高い精度で位置決めすることも可能になる。また、計測手段M5や演算手段M6などの性能によっては、磁界発生手段M1を被験者の動きに略リアルタイムに追従させることも可能になり、被験者頭部などを完全に固定しなくても磁気刺激を行うことができるようになる。
【0015】
駆動手段M10は、支持手段M2を駆動するものであれば特に限定されず、モータなどの電気機器やピストンシリンダなどの油圧機器が例示される。なかでも、ステッピングモータやサーボモータなどのモータを用いることが多い。ステッピングモータやサーボモータは、その変位を高精度に制御することができるだけでなく、油圧機器などと比較して応答性に優れ、磁界発生手段M1を所望の位置に迅速に移動させることも容易なためである。
【0016】
磁気刺激を加える前記体内部位は、特に限定されないが、脳であることが好ましい。このとき、磁気刺激によって脳表に生じる誘導電界ベクトルと脳表の単位法線ベクトルとを複数点で求めて、前記誘導電界ベクトルと前記単位法線ベクトルとの内積が最大となる点を磁界発生手段M1による刺激部位と特定するための刺激部位特定手段が備えられていることも好ましい。これにより、磁気刺激される刺激部位の位置を高確度で特定することが可能になる。脳の錐体細胞はその長軸方向が脳表に対して略垂直となるように配列されているが、前記錐体細胞は前記錐体細胞の長軸方向に平行な方向に電界が印加されると興奮するという報告がなされているためである。ただし、本明細書においては、大脳皮質の表面、大脳皮質と大脳白質との境界面、又はそのいずれかの面に平行な大脳皮質内の面(例えば、錐体細胞層のなす曲面)を脳表と呼んでいる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によって、電磁コイルなどの磁界発生手段M1がどの位置にあってもその位置や向きを特定することのできる磁気刺激装置を提供することが可能になる。また、磁界発生手段M1を正確な位置及び向きに迅速にターゲッティングすることも可能となるために、被験者頭部が動いたような場合であっても磁界発生手段M1を被験者頭部にリアルタイムに追従させるといったことも実現可能となり、被験者の感ずる拘束感を軽減することもできる。さらに、磁界発生手段M1の位置や向きを高い精度で制御でき、磁界発生手段M1が磁気刺激を加えている体内部位の座標を高い精度で特定することもできる磁気刺激装置を提供することも可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
[全体構成]
本発明の磁気刺激装置を、図面を用いてより具体的に説明する。図1は、本発明の磁気刺激装置の全体構成の一例を示した概念図である。本例の磁気刺激装置は、図1に示すように、被験者の体内部位に磁気刺激を加えるための磁界発生手段M1と、磁界発生手段M1を支持するための支持手段M2と、支持手段M2を駆動するための駆動手段M10と、支持手段M2の変位を計測するための計測手段M3と、前記体内部位と該体内部位の周辺にある体表部位の形状及びそれらの相対的位置関係についての情報を含むデータD1を予め格納しておくための記憶手段M4と、前記体内部位の周辺にある体表部位の形状及び位置についての情報を含むデータD2を計測するための計測手段M5と、前記体内部位の実空間における座標を特定するための演算手段M6と、演算手段M6の演算結果などを出力するための出力手段M7と、被験者の生体反応を計測するための計測手段M8と、磁気刺激装置に各種設定を行うための入力手段M9と、を備えたものとなっている。
【0019】
[磁界発生手段M1]
磁界発生手段M1は、被験者10の体内部位に磁気刺激を加えるためのものとなっている。磁界発生手段M1は、外部に磁界を発生できるものであれば特に限定されないが、通常、電磁コイルが用いられる。本例の磁気刺激装置においては、磁界発生手段M1として、略「8」の字形の電磁コイルを採用している。この電磁コイルは、時計方向に電流が流される第一ループと、反時計方向に電流が流される第二ループとが、1点で接近するように並べて配されたものとなっており、第一ループを流れる電流によって前記体内部位に生じる誘導電界と、第二ループを流れる電流によって前記体内部位に生じる誘導電界とが、前記電磁コイルの中央直下の1点で互いに強め合うものとなっている。
【0020】
[支持手段M2]
支持手段M2は、磁界発生手段M1を支持するためのものとなっている。図2は、図1の支持手段M2を示した側面図である。本例の磁気刺激装置において、支持手段M2は、固定部M2.0と、可動部M2.1〜M2.6とを備えた、アームスタンド型のものを採用している。各可動部M2.1〜M2.6は、回転するものであってもよいし、スライドするものであってもよい。本例の磁気指摘装置において、可動部M2.1は、軸L1を中心に回転できる状態で固定部M2.0に連結されており、可動部M2.2は、軸L2を中心に回転できる状態で可動部M2.1に連結されている。また、可動部M2.3は、軸L3を中心に回転できる状態で可動部M2.2に連結されており、可動部M2.4は、軸L4を中心に回転できる状態で可動部M2.3に連結されている。さらに、可動部M2.5は、軸L5を中心に回転できる状態で可動部M2.4に連結されており、可動部M2.6は、軸L6を中心に回転できる状態で可動部M2.5に連結されている。ただし、軸L1,L4,L6は、図2の紙面に平行であり、軸L2,L3,L5は、図2の紙面に垂直である。可動部M2.6には、磁界発生手段M1が固定されている。
【0021】
[駆動手段M10]
駆動手段M10は、支持手段M2を駆動するためのものとなっている。本例の磁気刺激装置では、駆動手段M10を6個の駆動手段M10.1〜M10.6(図示省略)によって構成している。駆動手段M10.1〜M10.6のそれぞれは、図2に示した軸L1〜L6の周辺で支持手段M2に取り付けられており、可動部M2.1〜M2.6を独立して駆動することができるようになっている。駆動手段M10.1〜M10.6としては、モータなどの回転型のアクチュエータや、ピストンシリンダなどのスライド型のアクチュエータが例示される。駆動手段M10.1〜M10.6は、1自由度で駆動されるものであってもよいし、多自由度モータのように2以上の自由度で駆動されるものであってもよい。本例の磁気刺激装置においては、駆動手段M10.1〜M10.6の全てを1自由度のステッピングモータとしている。
【0022】
[計測手段M3]
計測手段M3は、支持手段M2の変位を計測するためのものとなっている。本例の磁気刺激装置では、計測手段M3を6個の計測手段M3.1〜M3.6(図示省略)によって構成している。計測手段M3.1〜M3.6は、それぞれ駆動手段M10.1〜M10.6に取り付けられており、計測手段M3.1〜M3.6と駆動手段M10.1〜M10.6とが1対1で対応するようになっている。このため、計測手段M3.1〜M3.6で可動部M2.1〜M2.6の変位をそれぞれ計測して、磁界発生手段M1の位置及び向きを検知することができるようになっている。計測手段M3.1〜M3.6としては、モータなどの回転量を計測することのできるロータリエンコーダや、ピストンシリンダなどの伸縮量を計測することのできるリニアエンコーダが例示される。ロータリエンコーダやリニアエンコーダを計測手段M3として採用する場合には、アブソリュート式のものを選択してもよいし、インクリメント式のものを選択してもよい。本例の磁気刺激装置においては、計測手段M3.1〜M3.6の全てをロータリエンコーダとしている。
【0023】
[記憶手段M4]
記憶手段M4は、磁気刺激を加える体内部位と該体内部位の周辺にある体表部位の形状及びそれらの相対的位置関係についての情報を含むデータD1を予め格納しておくためのものとなっている。記憶手段M4としては、通常、ワークステーションなどのコンピュータに内蔵又は接続された記憶装置(コンピュータの基本装置の一。必要なデータを蓄えておく装置。LSI などを用いた主記憶装置と、磁気ディスク・磁気テープなどを用いた補助記憶装置に大別される。)が用いられる。主記憶装置としては、RAM(VRAMを含む。)が例示され、補助記憶装置としてはハードディスクが例示される。
【0024】
[計測手段M5]
計測手段M5は、磁気刺激を加える体内部位の周辺にある体表部位の形状及び位置についての情報を含むデータD2を計測するためのものとなっている。計測手段M5として用いる三次元スキャナは、いわゆる二次元スキャナを複数台組み合わせて構成したものであってもよい。計測手段M5の計測原理としては、光切断法、フェーズシフト法、スポット光法、空間コード法、モアレ法、ステレオ法が例示される。これらの計測原理について説明する。
【0025】
[光切断法]
光源から出射した光をスリットや格子などの光切断部を介して計測対象物(被験者頭部)に照射し、該計測対象物の表面に線状に投影された光をカメラで撮影することによって、前記計測対象物の表面における光が投影された点の座標を求める計測方法である。該点の座標は、前記計測対象物の表面に照射された光が前記カメラの撮像面において結像する位置から演算することができる。その演算には、三角測量の原理が用いられる。
【0026】
[フェーズシフト法]
前記光切断法において、格子やカメラの撮像面などを移動させながら撮影を行い、前記計測対象物の表面における光が投影された点の座標を求める計測方法である。フェーズシフト法を用いることによって、1回の測定で多数の点の座標を求めることができる。
【0027】
[スポット光法]
光源から計測対象物にレーザ光を照射し、該計測対象物の表面にスポット状に投影された光をカメラや半導体位置検出素子(PSD:Position Sensitive Detector)などで撮影することによって、前記計測対象物の表面における光が投影された点の座標を求める計測方法である。スポット光法には、前記光源と前記カメラとを同軸に配する同軸式と、前記光源と前記カメラとを非同軸に配する非同軸式(三角測量式とも呼ばれる。)とがある。同軸式の場合には、カメラやPSDの撮像面に形成された干渉縞のピッチから前記点の座標を求めることができ、非同軸式の場合には、三角測量の原理により前記点の座標を求めることができる。
【0028】
[空間コード法]
光源から出射した光を格子などを介して計測対象物に照射し、該計測対象物の表面に投影された光のパターンの変化をカメラで複数回撮影し、撮影された複数枚の画像を解析することによって、前記計測対象物の表面における光が投影された点の座標を求める計測方法である。
【0029】
[モアレ法]
光源から出射した光を一の格子を介して計測対象物に照射し、該計測対象物の表面に投影された光のパターンを他の格子を介してカメラで撮影し、該カメラで撮影されたモアレ画像から前記計測対象物の表面における光が投影された点の座標を求める計測方法である。光源の光軸とカメラの光軸は、通常、平行となるように配される。
【0030】
[ステレオ法]
撮影方向の異なる複数台のカメラで計測対象物を撮影し、各カメラの画像から計測対象物の表面における対応する点を見つけることによって、その対応する点の座標を求める計測原理である。対応する点の座標は、その点が各カメラの撮像面に結像する位置から演算することができる。その演算には、三角測量の原理が用いられる。
【0031】
本例の磁気刺激装置においては、計測手段M5として、日本電気エンジニアリング株式会社製の三次元スキャナ「Danae(登録商標)」を用いている。この三次元スキャナは、その計測原理に多眼正弦波格子位相シフト法を用いたものとなっている。多眼正弦波格子位相シフト法は、前記光切断法と前記フェーズシフト法とを組み合わせて、計測対象物の表面形状を計測するものとなっている。
【0032】
多眼正弦波格子位相シフト法についてさらに詳しく説明する。図3は、図1の計測手段M5の計測原理を説明する原理図である。図3において、y軸は、紙面に垂直で紙面手前側が正となる向きに配されている。この計測手段M5は、光源M5.1と、カメラM5.2と、格子M5.3とを用いて、被験者10の体表部位の表面形状を計測するものとなっている。光源M5.1には、人体に照射しても安全なハロゲンランプを採用しており、カメラM5.2には、CCDカメラを採用している。以下においては、説明の便宜上、光源M5.1は原点Oにあるものとする。また、カメラM5.2のレンズは点A(a,0,0)にあるものとし、カメラM5.2の撮像面αはxy平面に平行で点Aからz軸方向に距離f(焦点距離)の位置にあるものとする。さらに、格子M5.3は、xy平面に平行で原点Oからz軸方向に距離bの位置にあるものとする。a,b,fの値は、全て既知である。
【0033】
図3に示すように、光源M5.1から出射された光が、格子M5.3上の点B(c,d,b)を通過して被験者10の体表部位上の点Pに照射され、カメラM5.2の撮像面α上の点Q(a+X,Y,−f)で結像された場合について考える。このとき、直線PQ上にある点Rの位置ベクトル(xR,yR,zR)は、媒介変数rを用いて下記式(1)で表すことができる。
【数1】
【0034】
また、直線OP上にある点Sの位置ベクトル(xS,yS,zS)は、媒介変数sを用いて下記式(2)で表すことができる。
【数2】
【0035】
点Pは直線PQと直線OPとの交点であるので、xR=xS(=xP)、yR=yS(=yP)、zR=zS(=zP)として、上記式(1)と上記式(2)を解くと、点Pの位置ベクトル(xP,yP,zP)を求めることができる。点Pの位置ベクトルを具体的に求めてみると、下記式(3)のようになる。
【数3】
上記式(3)において、a,b,f,X,Yの値は既知であるので、cの値が分かれば、点Pの位置ベクトル(座標)を特定することができる。
【0036】
本例の計測手段M5においては、格子M5.3として、フィルムに正弦波パターンを印刷したもの(正弦波格子)を用いている。このため、被験者10の体表部位には、明暗パターンが現われるようになっている。また、カメラM5.2の撮像面αには、受光した光の明るさに応じた電流を出力する撮像素子を配している。このため、撮像素子が出力した電流値を計測することによって、その撮像素子が受光した光が格子M5.3のどの位置を通過してきたものなのか(cの値)が分かるようになっている。
【0037】
ただし、格子M5.3(正弦波格子)は、透過率の等しい場所がx軸方向でも複数個所に存在するために、本例の計測手段M5では、正弦波格子の位置をx軸方向にシフトさせることによって、点Qが受光する光の強度の時間的変化を監視するようにしている。これにより、cの値を絞り込むことができ、点Pの座標を一義的に特定することができる。この計測原理は、多眼正弦波格子位相シフト法と呼ばれている。同様に、撮像面α上の点Q以外の点についてもcの値を求めていくと、被験者10の体表部位の位置だけでなくその表面形状についての情報をも含むデータD2が生成される。
【0038】
[演算手段M6]
演算手段M6は、データD1における体表部位とデータD2における体表部位とを重ね合わせて位置合わせすることによって、前記体内部位の実空間における座標を特定するためのものとなっている。演算手段M6は、前記体内部位の座標を特定するためだけに用いてもよいし、その他の処理を行わせてもよい。本例の磁気刺激装置においては、演算手段M6を、磁界発生手段M1の位置を特定するための磁界発生位置特定手段や、刺激部位を特定するための刺激部位特定手段としても利用している。演算手段M6には、通常、ワークステーションなどのコンピュータに内蔵された演算装置(マイクロプロセッサの構成要素の一つで、四則演算や論理演算など算術的な処理を行なう回路。)が用いられる。
【0039】
[出力手段M7]
出力手段M7は、磁気刺激によって前記体内部位に生じる誘導電界の分布など、演算手段M6の演算結果などを出力するためのものとなっている。出力手段M7には、通常、ディスプレイなどの表示装置が用いられる。
【0040】
[計測手段M8]
計測手段M8は、磁気刺激を加えることによって被験者10の身体に生じた生体反応を計測するためのものとなっている。計測手段M8は、特に限定されるものではないが、本例の磁気刺激装置では、筋電計を用いている。
【0041】
[入力手段M9]
入力手段M9は、磁気刺激を行う刺激部位の座標を磁気刺激装置に設定するなど、各種設定を行うためのものとなっている。入力手段M9には、通常、マウスやキーボードなどの入力装置が用いられる。
【0042】
[磁気刺激方法]
次に、本発明の磁気刺激装置を用いた磁気刺激方法について説明する。以下においては、説明の便宜上、磁気刺激を加える体内部位を脳として説明しているが、これに限定されない。また、計測手段M5によって計測を行う体表部位は、磁気刺激を行う体内部位の周辺にあり、該体内部位に対して相対的な位置が変化しない部分の体表部位であれば特に限定されないが、以下においては、被験者頭部として説明している。さらに、「データD1」を「三次元イメージデータD1」と表記し、「データD2」を「三次元イメージデータD2」と表記し、「計測手段M5」を「三次元スキャナM5」と表記して説明している。
【0043】
まず、脳の三次元イメージデータD1を用意する。三次元イメージデータD1は、磁気共鳴イメージング装置やX線イメージング装置などから取得できる。なかでも、磁気共鳴イメージング装置は、被爆の心配がなく軟組織の判別も容易なために好ましい。本例の磁気刺激方法においては、磁気共鳴イメージング装置を用いて脳の断面画像を複数枚撮影し、得られた脳の断面画像を積層することによって三次元イメージデータD1を生成している。
【0044】
図4に、三次元イメージデータD1の一例を示す。三次元イメージデータD1には、破線で示すように、被験者頭部の表面も現われる。生成された三次元イメージデータD1は、記憶手段M4に予め格納される。三次元イメージデータD1には、モデル化されたもの(多数の被験者からサンプリングを行って取得した平均的なデータなど)を用いてもよいが、形状や寸法に個人差が顕著に現れる体内部位を磁気刺激する場合や、磁気刺激を加える部位を高確度で特定する必要があるような場合には、通常、被験者本人を計測して得られたものが用いられる。
【0045】
続いて、磁界発生手段M1の位置及び向きを規定する座標系の原点を、三次元スキャナM5が計測する空間の座標系の原点に一致させ、磁界発生手段M1の座標系と三次元スキャナM5の座標系とをリンクさせる。この原点合わせは、例えば、磁界発生手段M1を三次元スキャナM5で撮影し、三次元スキャナM5から取得した磁界発生手段M1の位置を示すパラメータ群を計測手段M3から取得した同様のパラメータ群と比較することによって行うことができる。
【0046】
三次元スキャナM5は、その視野に被験者頭部が入るとその表面形状を計測して、被験者頭部の三次元イメージデータD2を生成する。図4に、三次元イメージデータD2の一例を示す。三次元イメージデータD2は、演算手段M6に送信される。記憶手段M4に格納されていた三次元イメージデータD1は、図4に示すように、演算手段M6によって三次元イメージデータD2に重ねられ、三次元イメージデータD3が生成される。三次元イメージデータD1と三次元イメージデータD2との位置合わせは、三次元イメージデータD1,D2に現われた被験者頭部のうち、表情筋のない部位(額や顎など)や、形状に特徴を有する部位(鼻や顎など)などの表面を互いに重ね合わせることによって行うと容易かつ高精度に行うことができる。三次元イメージデータD3は、出力手段M7に表示される。
【0047】
続いて、磁界発生手段M1を被験者頭部の周辺で移動させ、磁界発生手段M1の位置及び向きを調節する。このとき、演算手段M6(刺激部位特定手段)は、図5に示すように、脳表の複数点P1,P2,P3・・・で、磁界発生手段M1によって脳表に生じる誘導電界ベクトルV1と、脳表の単位法線ベクトルV2とを算出し、誘導電界ベクトルV1と単位法線ベクトルV2との内積(誘導電界ベクトルV1の脳表に対する垂直成分V3の大きさ)を各点P1,P2,P3・・・ごとに求め、それぞれを比較している。脳表の単位法線ベクトルV2は、例えば、三次元イメージデータD1の脳表周辺を画素レベルで解析することによって求めることができる。誘導電界ベクトルV1と単位法線ベクトルV2との内積が最大となった点は、磁界発生手段M1による刺激部位と特定されて、三次元イメージデータD3上に重ねられて出力手段M7に表示される。このため、出力手段M7で刺激部位の位置を確認しながら、磁界発生手段M1の位置及び向きを調節することができるようになっている。図5の例では、点P2が刺激部位と特定される。
【0048】
磁界発生手段M1の調節は、手動で行ってもよいし、駆動手段M10を駆動することによって行ってもよい。また、粗調節のみを手動で行って、その後の微調節は駆動手段M10を駆動して行うといったことも可能である。駆動手段M10を駆動して磁界発生手段M1の調節を行う場合には、磁界発生手段M1を移動させたい点の座標や、磁界発生手段M1によって磁気刺激を加えたい点の座標などを磁気刺激装置に予め設定しておき、設定された位置に磁界発生手段M1が自動的に移動するように制御することもできる。刺激部位が所望の位置に一致したのを確認すると、磁界発生手段M1による磁気刺激を開始する。
【0049】
このとき、被験者頭部が動かないという前提であれば、磁界発生手段M1が磁気刺激を行っている間は、駆動手段M10の駆動系統を遮断しておくことが好ましい。これにより、磁界発生手段M1によって生じた磁界によって、駆動手段M10が誤作動するのを防止することができるためである。しかし、被験者頭部が動くおそれがあり、駆動系統M10に電磁遮蔽が十分に施されているという前提であれば、駆動手段M10の駆動系統を遮断しない方が好ましい。これにより、磁界発生手段M1を被験者頭部の動きにリアルタイムに追従させて、磁界発生手段M1と被験者頭部との相対的な位置関係を常に一定に保つといったことも可能となるためである。
【0050】
磁気刺激によって被験者の身体に生体反応が生ずると、計測手段M8が反応する。このため、磁気刺激されている部位にどのような機能があるのかを調べることができるようになっている。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の磁気刺激装置の全体構成の一例を示した概念図である。
【図2】図1の磁気刺激装置で用いた支持手段M2を示した側面図である。
【図3】図1の磁気刺激装置で用いた計測手段M5の計測原理を説明する原理図である。
【図4】三次元イメージデータD1と三次元イメージデータD2とを重ね合わせることによって三次元イメージデータD3を生成している状態を示した図である。
【図5】刺激部位の特定原理を説明する原理図である。
【符号の説明】
【0052】
10 被験者
D1 体内部位(脳)の三次元イメージデータ
D2 体表部位(被験者頭部)の三次元イメージデータ
D3 三次元イメージデータD1,D2を重ね合わせた三次元イメージデータ
L1〜L6 軸
M1 磁界発生手段(電磁コイル)
M2 支持手段(アームスタンド)
M2.0 固定部
M2.1〜M2.6 可動部
M3 計測手段(ロータリエンコーダ)
M4 記憶手段(記憶装置)
M5 計測手段(三次元スキャナ)
M5.1 光源
M5.2 カメラ
M5.3 格子
M6 演算手段(演算装置)
M7 出力手段(ディスプレイ)
M8 計測手段(筋電計)
M9 入力手段(キーボード、マウス)
M10 駆動手段(ステッピングモータ)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)被験者の体内部位に磁気刺激を加えるための磁界発生手段M1と、
(b)磁界発生手段M1を支持するための支持手段M2と、
(c)支持手段M2の変位を読み取って磁界発生手段M1の位置及び向きを計測するための計測手段M3と、
(d)前記体内部位と該体内部位の周辺にある体表部位の形状及びそれらの相対的位置関係についての情報を含むデータD1を予め格納しておくための記憶手段M4と、
(e)前記体表部位の形状及び位置についての情報を含むデータD2を計測するための計測手段M5と、
(f)データD1とデータD2との位置合わせを行って、前記体内部位の座標を特定する演算手段M6とが備えられてなる、
磁気刺激における刺激部位の特定あるいはターゲッティングを行うための装置。
【請求項2】
磁気刺激によって前記体内部位に生じる誘導電界の分布を表示するための出力手段M7が備えられてなる請求項1記載の装置。
【請求項3】
被験者の生体反応を計測するための計測手段M8が備えられてなる請求項1又は2記載の装置。
【請求項4】
磁気刺激を加える前記体内部位の座標を予め設定入力するための入力手段M9が備えられてなる請求項1〜3いずれか記載の装置。
【請求項5】
支持手段M2がN個の可動部M2.1〜M2.Nを有してなる請求項1〜4いずれか記載の装置。
【請求項6】
計測手段M3が、ロータリエンコーダである請求項1〜5いずれか記載の装置。
【請求項7】
計測手段M5が、カメラによる撮影又はレーザ発振器による測距によって計測を行うものである請求項1〜6いずれか記載の装置。
【請求項8】
計測手段M5が、光切断法、フェーズシフト法、スポット光法、空間コード法、モアレ法、ステレオ法の中から選ばれる少なくとも1の計測原理を用いるものである請求項7記載の装置。
【請求項9】
支持手段M2を駆動して磁界発生手段M1の位置及び向きを変化させるための駆動手段M10が備えられてなる請求項1〜8いずれか記載の装置。
【請求項10】
駆動手段M10がモータである請求項9記載の装置。
【請求項11】
磁気刺激を加える前記体内部位が脳である請求項1〜10いずれか記載の装置。
【請求項12】
磁気刺激によって脳表に生じる誘導電界ベクトルと脳表の単位法線ベクトルとを複数点で求めて前記誘導電界ベクトルと前記単位法線ベクトルとの内積が最大となる点を磁界発生手段M1による刺激部位と特定するための刺激部位特定手段が備えられてなる請求項11記載の装置。
【請求項1】
(a)被験者の体内部位に磁気刺激を加えるための磁界発生手段M1と、
(b)磁界発生手段M1を支持するための支持手段M2と、
(c)支持手段M2の変位を読み取って磁界発生手段M1の位置及び向きを計測するための計測手段M3と、
(d)前記体内部位と該体内部位の周辺にある体表部位の形状及びそれらの相対的位置関係についての情報を含むデータD1を予め格納しておくための記憶手段M4と、
(e)前記体表部位の形状及び位置についての情報を含むデータD2を計測するための計測手段M5と、
(f)データD1とデータD2との位置合わせを行って、前記体内部位の座標を特定する演算手段M6とが備えられてなる、
磁気刺激における刺激部位の特定あるいはターゲッティングを行うための装置。
【請求項2】
磁気刺激によって前記体内部位に生じる誘導電界の分布を表示するための出力手段M7が備えられてなる請求項1記載の装置。
【請求項3】
被験者の生体反応を計測するための計測手段M8が備えられてなる請求項1又は2記載の装置。
【請求項4】
磁気刺激を加える前記体内部位の座標を予め設定入力するための入力手段M9が備えられてなる請求項1〜3いずれか記載の装置。
【請求項5】
支持手段M2がN個の可動部M2.1〜M2.Nを有してなる請求項1〜4いずれか記載の装置。
【請求項6】
計測手段M3が、ロータリエンコーダである請求項1〜5いずれか記載の装置。
【請求項7】
計測手段M5が、カメラによる撮影又はレーザ発振器による測距によって計測を行うものである請求項1〜6いずれか記載の装置。
【請求項8】
計測手段M5が、光切断法、フェーズシフト法、スポット光法、空間コード法、モアレ法、ステレオ法の中から選ばれる少なくとも1の計測原理を用いるものである請求項7記載の装置。
【請求項9】
支持手段M2を駆動して磁界発生手段M1の位置及び向きを変化させるための駆動手段M10が備えられてなる請求項1〜8いずれか記載の装置。
【請求項10】
駆動手段M10がモータである請求項9記載の装置。
【請求項11】
磁気刺激を加える前記体内部位が脳である請求項1〜10いずれか記載の装置。
【請求項12】
磁気刺激によって脳表に生じる誘導電界ベクトルと脳表の単位法線ベクトルとを複数点で求めて前記誘導電界ベクトルと前記単位法線ベクトルとの内積が最大となる点を磁界発生手段M1による刺激部位と特定するための刺激部位特定手段が備えられてなる請求項11記載の装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2006−320425(P2006−320425A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−144652(P2005−144652)
【出願日】平成17年5月17日(2005.5.17)
【出願人】(303051592)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(000180069)山陽電子工業株式会社 (21)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月17日(2005.5.17)
【出願人】(303051592)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(000180069)山陽電子工業株式会社 (21)
【Fターム(参考)】
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