説明

磁気回路の製造方法

【課題】 永久磁石表面の腐食および接着部の接着強度の低下を防止でき、磁場が強く、安価で、品質が安定した、磁気回路の製造方法を提供する。
【解決手段】 ヨークに永久磁石が固着された磁気回路を具備し、前記磁気回路に冷媒21が供給されるようにした磁気回路を持つ装置において、前記磁気回路の少なくとも前記冷媒21と接触する部分に、少なくともエポキシ樹脂の第1層を吹き付け塗布し、フッ素樹脂の第2層を吹き付け塗布することを特徴とする磁気回路の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体あるいは磁気記録媒体等の製造に用いられる磁気回路の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜を形成するには蒸着などの種々の方法があり、その一つに、例えば特許文献1に記載された、陰極側の金属を陽極側に飛着させる所謂スパッタリング法を利用したものがある。以下、従来のスパッタリング装置を示す断面図である図6を参照しながら前記特許文献1に記載されたスパッタリング装置について説明する。
【0003】
このスパッタリング装置は密閉された気密室10中に、環状の第1の永久磁石12と、その中心位置に第2の永久磁石14と、これら両永久磁石を支持するヨーク16とから構成される磁気回路18(マグネトロン)を備えている。前記両永久磁石は一般に接着剤によりヨーク16に固着される。この磁気回路18は導電性のカソードボディ20(枠体)に収容され、前記カソードボディ20の開口部に、飛着させるべき金属から成るターゲット22が着脱自在に配設されている。なお、ターゲット22とカソードボディ20との間には、図示しないがバッキングプレートが介装されることもある。
【0004】
そして、前記第1と第2の永久磁石の磁化方向は図の紙面上下方向に互いに逆向きであり、ターゲット22近傍に磁場を発生する。ターゲット22に接触するカソードボディ20は、直流高電圧電源の陰極側に接続され、また前記ターゲット22に対向配置された基板24は陽極側に接続される。この直流高電圧が印加されることにより、ターゲット22と基板24との間に電場が形成され、グロー放電が生じる。そして前記電場と前記磁場が直交しているターゲット22近傍に円環状に放電が集中して、放電空間中に高密度のアルゴンプラズマが発生し、このプラズマ中のアルゴン正イオンが加速されて陰極帯電したターゲット22の表面に衝突し、ターゲット22をスパッタ蒸発させることによって、金属原子の放出を促進する。
【0005】
このようなスパッタリング装置においては、スパッタ動作中に前記放電による発熱により、永久磁石が高温になり、磁力低下、あるいは前記接着剤の接着力低下を招く。そこで同じく特許文献1には、永久磁石を冷媒21(特許文献1においては、水)により冷却するとともに、永久磁石が冷媒21に接触して腐食するのを防止するために永久磁石表面へ、フッ素樹脂、ニッケルメッキあるいは銅メッキのような耐食性材料を被覆することが記載されている。
【0006】
しかし前記特許文献1に記載されている耐食性材料を被覆する方法には、次のような問題点がある。
(1)フッ素樹脂を被覆する方法では、フッ素樹脂液を塗布した後の乾燥工程において溶剤や冷媒が揮発するため、塗膜にはピンホールが発生し、形成された塗膜が酸素と水分を完全には遮断できず、永久磁石表面の腐食を防ぐことができない。
(2)ニッケルメッキあるいは銅メッキを施す方法では、多孔質な永久磁石表面を完全に被覆することができず、永久磁石表面の腐食を防ぐことができない。
【0007】
また、前記永久磁石としては、磁力の強い希土類磁石が使用され、従来はSm―Co系の永久磁石が使用されていたが、近年では磁力がさらに強く価格も比較的安価なNd−Fe−B系磁石が使用されるようになった。このNd−Fe−B系磁石は高温では減磁しやすいため、前記水冷方式での使用がいっそう多くなる。且つこのNd−Fe−B系磁石は前記従来のSm―Co系の永久磁石よりも腐食しやすいので、その腐食を防ぐ対策は更に重要である。
【0008】
さらに、前述とは別に次のような問題も指摘されている。特許文献2によれば、前述のように永久磁石表面へ耐食性材料を被覆するだけでは永久磁石とヨークの接着部(あるいは後述のように、小寸法の複数の永久磁石を接着剤によりつなぎあわせて、一体形状にする場合の接着部)への冷媒の遮断は不完全であり、前記接着部の接着強度の低下を防止できない。そこで特許文献2においては磁気回路を樹脂材料でモールドする発明が示されている。しかし、このような樹脂モールドにも次のような問題点がある。
(1)樹脂モールドするためにモールド型を作る必要がある。このモールド型は寸法精度を良くするため高価なものとなるが、スパッタリング装置の生産数量は少なく、前記モールド型を繰り返し使用してモールド型の製造原価を償却することが困難であり、スパッタリング装置の価格が高くなる。
(2)前記モールド型に磁気回路を装着して樹脂を注入する作業において、空気抜きが不充分であると気泡により樹脂モールド内に空胴部(または表面に凹部)が形成され、その個所が長期使用後ひび割れする。表面に凹部が形成された場合は外観検査で発見することができ、(コスト高にはなるが)樹脂モールドを剥離してやり直せば良いが、樹脂モールド内に空胴部が形成された場合は、外観検査で発見することができずに見落としてしまう可能性が高く、品質が不安定となる。
(3)樹脂モールドの肉厚が厚いとその分、磁気回路がターゲットから遠くなり、ターゲット近傍の磁場が弱くなる。

【特許文献1】実開昭62-182972号公報
【特許文献2】特許2575069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、前記従来の問題点を解決し、耐食性が優れ、磁場がより強力で、安価で、品質が安定した磁気回路の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願の第1の発明は、ヨークに永久磁石が固着されているとともに前記ヨーク及び永久磁石が冷媒により冷却されるように構成された磁気回路の製造方法において、前記磁気回路の少なくとも前記冷媒に接触する部分に、少なくともエポキシ樹脂で第1層目を吹き付け塗布しその後、フッ素樹脂で第2層目の吹き付け塗布を行うことを特徴とする磁気回路の製造方法である。
【0011】
本願の第2の発明は前記磁気回路がスパッタリング装置に使用されることを特徴とする前記請求項1に記載の磁気回路の製造方法である。
【0012】
本願の第3の発明は、前記永久磁石がNd−Fe−B系磁石であることを特徴とする、前記請求項1又は2に記載の発明の磁気回路の製造方法である。
【0013】
前記磁気回路は、ヨークに環状の第1の永久磁石が固着され、前記ヨークの前記第1の永久磁石の中心位置に第2の永久磁石が固着されて形成されたことを特徴とし本願第1及至第3の何れかの発明により製造されるのが望ましい。
【0014】
前記磁気回路は、ヨークに直線状の2列の第1の永久磁石が固着され、前記ヨークの前記2列の第1の永久磁石の中央位置に直線状の第2の永久磁石が固着されて形成されたことを特徴とし本願第1及至第3何れかの発明により製造されるのが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ヨークに磁気回路が固着されているとともに前記ヨーク及び永久磁石が冷媒により冷却されるように構成された磁気回路の製造方法において、前記磁気回路の少なくとも前記冷媒に接触する部分に、少なくともエポキシ樹脂で第一層目を吹き付け塗布しその後、フッ素樹脂の第2層目を吹き付け塗布することを特徴とすることで、耐食性が優れ、磁場がより強力で、安価で、品質が安定した磁気回路の製造方法を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
(実施形態1)図1は本発明により製造された磁気回路を持つスパッタリング装置の実施形態1を示す断面図、図2は図1の後述する磁気回路18のA―A矢視図である。なお、同一部分は前述の図6と同一の参照符号で示す。
【0017】
このスパッタリング装置は密閉された気密室10中に、環状の第1の永久磁石12と、その中心位置に第2の永久磁石14と、これら両永久磁石を支持するヨーク16とから構成される磁気回路18(マグネトロン)を備えている。前記両永久磁石は接着剤(図示せず)によりヨーク16に固着される。前記接着剤としては例えば住友スリーエム製のXA7416のようなエポキシ樹脂系接着剤が用いられる。ヨーク16は磁性ステンレス(SUS410、SUS416、SUS440等)あるいは鉄板(SS400等)のような強磁性材料により形成し、鉄板により形成する場合はメッキ、塗装等の表面処理を施すことが好ましいが、表面処理が施されていなくても良い。第1の永久磁石12および第2の永久磁石14はSm―Co系あるいはNd−Fe−B系の希土類磁石により形成する。
【0018】
第1の永久磁石12あるいは第2の永久磁石14は、単一の永久磁石から成る場合もあるが、大寸法の場合は次のようにしても良い。
(1)小寸法の複数の永久磁石を接着剤によりつなぎあわせて、図のような形状に形成してから、ヨーク16に固着する。
(2)小寸法の複数の永久磁石を接着剤によりつなぎあわせて、中寸法の複数または単数の永久磁石ブロックを形成し、前記中寸法の永久磁石ブロック(あるいは必要に応じて小寸法の複数または単数の永久磁石)を接着剤によりヨーク16に固着して図のような形状に形成する。この場合、隣接する中寸法の永久磁石ブロックあるいは小寸法の永久磁石相互の隙間は接着剤で埋めることが好ましいが、埋めなくても良い。
(3)小寸法の複数の永久磁石を接着剤によりヨーク16に固着して図のような形状に形成する。この場合、隣接する小寸法の永久磁石相互の隙間は接着剤で埋めることが好ましいが、埋めなくても良い。(前記大寸法、中寸法、小寸法の表示は寸法の比較を示すものであり、実寸法を示すものではない。)
前記(1)乃至(3)の接着剤は、前述の永久磁石12、14とヨーク16との接着に用いられた接着剤と同様である。
【0019】
第1の永久磁石12および第2の永久磁石14は、メッキ及び/又は電着エポキシ樹脂コーティングのような表面処理が施されていることが好ましいが、表面処理が施されていなくても良い。そして前記磁気回路18の少なくとも後述する冷媒21に接触する部分には、吹き付け塗布されたエポキシ樹脂の第1層の表面に吹き付け塗布されたフッ素樹脂の第2層から成る膜(図示せず)が具備されている。前記エポキシ樹脂の第1層およびフッ素樹脂の第2層の厚さは、後述する防食性の機能のためには厚いほうが好ましいが、費用を考慮すると、薄いほうが好ましく、後述する比較例5から、ある値以上に厚くしても前記防食性の機能は向上しないことがわかるので次のような値とする。前記エポキシ樹脂の第1層の厚さは20〜35μmであり、好ましくは25〜35μmであり、より好ましくは30〜35μmである。前記フッ素樹脂の第2層の厚さは30〜45μmであり、好ましくは35〜45μmであり、より好ましくは40〜45μmである。前記第1層あるいは第2層を形成する手段として、吹き付けを採用する。前記エポキシ樹脂の第1層は、防食性及び付着性が良好であるので、耐食性の向上と前記フッ素樹脂の第2層の密着性の向上に寄与する。前記フッ素樹脂の第2層は、撥水性、耐水性が良好であるので、耐食性の向上に寄与する。また、フッ素樹脂は電気絶縁性にも優れているので、後述のスパッタリング時にその被覆対象である磁気回路18に高電圧が直接印加されることがなく、この点からも好適である。
【0020】
この磁気回路18は導電性のカソードボディ20(枠体)に収容され、前記カソードボディ20の開口部に飛着させるべき金属から成るターゲット22が着脱自在に配設されている。なお、ターゲット22とカソードボディ20との間には、図示しないがバッキングプレートが介装されることもある。そして、前記第1と第2の永久磁石の磁化方向は図の紙面上下方向に互いに逆向きであり、ターゲット22近傍に磁場を発生する。ターゲット22に接触するカソードボディ20は、直流高電圧電源の陰極側に接続され、また前記ターゲット22に対向配置された基板24は陽極側に接続される。この直流高電圧が印加されることにより、ターゲット22と基板24との間に電場が形成され、グロー放電が生じる。そして前記電場と前記磁場が直交しているターゲット22近傍に円環状に放電が集中して、放電空間中に高密度のアルゴンプラズマが発生し、このプラズマ中のアルゴン正イオンが加速されて陰極帯電したターゲット22の表面に衝突し、ターゲット22をスパッタ蒸発(スパッタリング)させることによって、金属原子の放出を促進する。
【0021】
そして、ヨーク16に少なくとも1個の穴16aが穿設され、前記穴16aと同位置になるように穴20aがカソードボディ20に穿設される。同様にヨーク16に少なくとも1個の穴16bが穿設され、前記穴16bと同位置になるように穴20bがカソードボディ20に穿設される。前記穴16aと穴20aを通して冷媒21が供給され、前記穴16bと穴20bを通して冷媒21が排出される。冷媒21としては純水が用いられる。このように循環供給される冷媒21により前記両永久磁石が冷却される。必要に応じて冷媒供給排出のための管体(図示せず)を穴16a、16b、20a、20bの少なくとも一部に具備しても良い。
【0022】
本発明により製造された磁気回路を持つスパッタリング装置である実施形態には次のような効果がある。
(1)磁気回路の少なくとも冷媒21に接触する部分には、吹き付け塗布されたエポキシ樹脂の第1層の表面に吹き付け塗布されたフッ素樹脂の第2層から成る膜が具備されているので、前記冷媒21は前記膜に遮られて永久磁石および接着剤に接触しない。よって、永久磁石表面の腐食および接着部の接着強度の低下を防止できる。
(2)前記膜の厚さは従来の樹脂モールドの肉厚よりも薄いので、その分、磁気回路がターゲットから近くなり、ターゲット近傍の磁場を強くすることができる。
(3)前記膜は吹き付けにより形成できるので、従来の樹脂モールドする場合の高価なモールド型が不要となりスパッタリング装置の価格を安価にすることができる。
(4)モールド型を使用しないので、モールド型への樹脂注入時の気泡により樹脂モールド内に空胴部(または表面に凹部)が形成されるという不具合が無くなり、品質が安定する。
【0023】
(実施形態2)図3は本発明により製造された磁気回路を持つスパッタリング装置である実施形態2を示す断面図、図4は図3の後述する磁気回路181のA―A矢視図である。なお、同一部分は前述の図1、図2あるいは図6と同一の参照符号で示す。
【0024】
このスパッタリング装置は密閉された気密室10中に、直線状の2列の第1の永久磁石121と、その中央位置に直線状の第2の永久磁石141と、これら両永久磁石を支持するヨーク161とから構成される磁気回路181(マグネトロン)を備えている。前記両永久磁石は実施形態1と同様な接着剤(図示せず)によりヨーク161に固着される。ヨーク161は磁性ステンレス(SUS410、SUS416、SUS440等)あるいは鉄板(SS400等)のような強磁性材料により形成し、鉄板により形成する場合はメッキ、塗装等の表面処理を施すことが好ましいが、表面処理が施されていなくても良い。第1の永久磁石121および第2の永久磁石141はSm―Co系あるいはNd−Fe−B系の希土類磁石により形成する。
【0025】
第1の永久磁石121あるいは第2の永久磁石141は、単一の永久磁石から成る場合もあるが、大寸法の場合は次のようにしても良い。
(1)小寸法の複数の永久磁石を接着剤によりつなぎあわせて、図のような形状に形成してから、ヨーク161に固着する。
(2)小寸法の複数の永久磁石を接着剤によりつなぎあわせて、中寸法の複数または単数の永久磁石ブロックを形成し、前記中寸法の永久磁石ブロック(および必要に応じて小寸法の複数または単数の永久磁石)を接着剤(図示せず)によりヨーク161に固着して図のような形状に形成する。この場合、隣接する中寸法の永久磁石ブロックあるいは小寸法の永久磁石相互の隙間は接着剤で埋めることが好ましいが、埋めなくても良い。
(3)小寸法の複数の永久磁石を接着剤によりヨーク161に固着して図のような形状に形成する。この場合、隣接する小寸法の永久磁石相互の隙間は接着剤で埋めることが好ましいが、埋めなくても良い。(前記大寸法、中寸法、小寸法の表示は寸法の比較を示すものであり、実寸法を示すものではない。)
前記(1)乃至(3)の接着剤は、前述の永久磁石121、141とヨーク161との接着に用いられた接着剤と同様である。
【0026】
第1の永久磁石121および第2の永久磁石141は、メッキ及び/又は電着エポキシ樹脂コーティングのような表面処理が施されていることが好ましいが、表面処理が施されていなくても良い。そして前記磁気回路181の少なくとも後述する冷媒21に接触する部分には、実施形態1の磁気回路18に具備されたものと同様な、吹き付け塗布されたエポキシ樹脂の第1層の表面に吹き付け塗布されたフッ素樹脂の第2層から成る膜(図示せず)が具備されている。
【0027】
この磁気回路181は導電性のカソードボディ201(枠体)に収容され、前記カソードボディ201の開口部に飛着させるべき金属から成るターゲット221が着脱自在に配設されている。なお、ターゲット221とカソードボディ201との間には、図示しないがバッキングプレートが介装されることもある。そして、前記第1と第2の永久磁石の磁化方向は図の紙面上下方向に互いに逆向きであり、ターゲット221近傍に磁場を発生する。ターゲット221に接触するカソードボディ201は、直流高電圧電源の陰極側に接続され、また前記ターゲット221に対向配置された基板241は陽極側に接続される。この直流高電圧が印加されることにより、ターゲット221と基板241との間に電場が形成され、グロー放電が生じる。そして前記電場と前記磁場が直交しているターゲット221近傍に円環状に放電が集中して、放電空間中に高密度のアルゴンプラズマが発生し、このプラズマ中のアルゴン正イオンが加速されて陰極帯電したターゲット221の表面に衝突し、ターゲット221をスパッタ蒸発(スパッタリング)させることによって、金属原子の放出を促進する。
【0028】
そして、ヨーク161に少なくとも1個の穴161aが穿設され、前記穴161aと同位置になるように穴201aがカソードボディ201に穿設される。同様にヨーク161に少なくとも1個の穴161bが穿設され、前記穴161bと同位置になるように穴201bがカソードボディ201に穿設される。前記穴161aと穴201aを通して実施形態1と同様な冷媒21が供給され、前記穴161bと穴201bを通して前記冷媒21が排出される。このように循環供給される冷媒21により前記両永久磁石が冷却される。必要に応じて冷媒供給排出のための管体(図示せず)を穴161a、161b、201a、201bの少なくとも一部に具備しても良い。
【0029】
本発明により製造された磁気回路を持つスパッタリング装置である本実施形態の効果は実施形態1と同じである。
【0030】
(実施形態3)図5は本発明により製造された磁気回路を持つスパッタリング装置である実施形態3を示す断面図である。本実施形態は前述の実施形態1において、穴16aを無くし、カソードボディ20の図の紙面水平方向部分に冷媒供給用の穴20cを穿設し、図の紙面上下方向部分に冷媒排出用の穴20dを穿設したものである。それ以外は実施形態1と同じである。
【実施例】
【0031】
続いて、本発明の実施例及び比較例について説明する。
(実施例)図1に示すスパッタリング装置の磁気回路18において、ヨーク16は磁性ステンレスSUS410(表面処理無し)から形成され、第1の永久磁石12および第2の永久磁石14は、日立金属製のNd−Fe−B系磁石であるHS47CHから形成され、電着エポキシ樹脂コーティング厚さ6〜9μmの表面処理が施されている。この磁気回路18に、エポキシ樹脂の第1層として、江戸川合成(株)製エポキシ樹脂塗料エポリート(商品名)を吹き付け塗布し、乾燥後22〜27μmの厚さとなるようにした。その後、フッ素樹脂の第2層として、江戸川合成(株)製フッ素樹脂塗料バリハートを吹き付け塗布し、乾燥後32〜38μmの厚さとなるようにした。このように2層の膜を備えた磁気回路18に、200Pa(2気圧)×120℃のプレッシャークッカーテストを施したところ、192時間経過後は異常無く、216時間経過後、前記膜に膨れが発生した。
(比較例1)エポキシ樹脂の第1層を塗布せず、それ以外は前記実施例と同じ磁気回路18に、200Pa(2気圧)×120℃のプレッシャークッカーテストを施したところ、72時間経過後、前記膜に膨れが発生した。
【0032】
(比較例2)フッ素樹脂の第2層を塗布せず、それ以外は前記実施例と同じ磁気回路18に、200Pa(2気圧)×120℃のプレッシャークッカーテストを施したところ、48時間経過後、前記膜に膨れが発生した。
【0033】
(比較例3)エポキシ樹脂の第1層の厚さを13〜18μmとし、それ以外は前記実施例と同じ磁気回路18に、200Pa(2気圧)×120℃のプレッシャークッカーテストを施したところ、72時間経過後、前記膜に膨れが発生した。
【0034】
(比較例4)フッ素樹脂の第2層の厚さを21〜27μmとし、それ以外は前記実施例と同じ磁気回路18に、200Pa(2気圧)×120℃のプレッシャークッカーテストを施したところ、120時間経過後、前記膜に膨れが発生した。
【0035】
(比較例5)エポキシ樹脂の第1層の厚さを35〜40μm、フッ素樹脂の第2層の厚さを45〜50μmとし、それ以外は前記実施例と同じ磁気回路18に、200Pa(2気圧)×120℃のプレッシャークッカーテストを施したところ、216時間経過後は異常無く、240時間経過後、前記膜に膨れが発生した。
【0036】
前記実施例及び比較例1乃至4から、エポキシ樹脂の第1層、フッ素樹脂の第2層の厚さが厚いほうがプレッシャークッカーテストの結果(すなわち防食性)が良いことがわかる。しかし実施例に対して比較例5は、前記第1層および第2層の厚さを厚くしたにもかかわらず、プレッシャークッカーテストの結果(すなわち防食性)は略同様である。このことから、前記第1層および第2層の厚さをある値以上に厚くしても、前記防食性の機能は向上しないことがわかる。
【0037】
以上、本発明の実施の形態あるいは実施例について説明したが、本発明は前述の実施の形態あるいは実施例に限定されるものではなく、このほか次のような変形にも適用可能である。
(1)実施の形態においては、冷媒21として純水を用いたが、これに限定されるものではなく、例えば液体窒素等スパッタリングに悪影響を与えない任意の冷媒を用いた磁気回路にも本発明は適用できる。
(2)実施形態3においては、カソードボディ20の図の紙面水平方向部分に冷媒供給用の穴20cを穿設し、図の紙面上下方向部分に冷媒排出用の穴20dを穿設したが、カソードボディ20の図の紙面水平方向部分に冷媒排出用の穴20dの少なくとも一部を穿設し、図の紙面上下方向部分に冷媒供給用の穴20cの少なくとも一部を穿設した磁気回路にも本発明は適用できる。
(3)実施形態3において、実施形態1のようにヨーク16に穴16aを穿設し、少なくとも一部の冷媒供給用穴20cを前記穴16aと位置を合わせてカソードボディ20に配設した磁気回路にも本発明は適用できる。
(4)実施形態3において、実施形態1のようにヨーク16に穴16bを穿設し、少なくとも一部の冷媒排出用穴20dを前記穴16bと位置を合わせてカソードボディ20に配設した磁気回路にも本発明は適用できる。
(5)実施形態1の穴位置を変更したものが実施形態3であるが、実施形態2も実施形態3のように穴位置を変更しても良く、前記(2)乃至(4)のような変形を適用した磁気回路にも本発明は適用できる。
(6)実施の形態においては、永久磁石の磁化方向は第1の永久磁石はヨークに接着された面がS、第2の永久磁石はヨークに接着された面がNとしたが、この逆の磁化方向とした磁気回路にも本発明は適用できる。
(7)実施の形態においては、磁気回路に第1層と第2層から成る膜を吹き付け塗布したが、前記膜は磁気回路全面を覆う必要はなく、少なくとも永久磁石と接着剤の冷媒に接する部分を覆うようにしても良い。
(8)実施の形態においては、接着剤としてエポキシ樹脂系接着剤である住友スリーエム製のXA7416を用いたが、これに限定されるものではなく、磁気回路の組立に適する任意の接着剤を用いた磁気回路にも本発明は適用できる。
【0038】
実施の形態、実施例あるいは前記各変形と任意に組み合わせた磁気回路にも本発明は適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、永久磁石表面の腐食および接着部の接着強度の低下を防止できる磁気回路の製造方法を提供することができる点で産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明により製造された磁気回路を持つスパッタリング装置の実施形態1を示す断面図である。
【図2】図1の磁気回路18のA―A矢視図である。
【図3】本発明により製造された磁気回路を持つスパッタリング装置の実施形態2を示す断面図である。
【図4】図3の磁気回路181のA―A矢視図である。
【図5】本発明により製造された磁気回路を持つスパッタリング装置の実施形態3を示す断面図である。
【図6】従来の方法により製造された磁気回路を持つスパッタリング装置を示す断面図である。
【符号の説明】
【0041】
10 気密室、 12、121 第1の永久磁石、14、141 第2の永久磁石、 16、161 ヨーク、16a、16b、161a、161b、20a、20c、20d、201a、201b 穴、 18、181 磁気回路、 20、201 カソードボディ、21 冷媒、 22、221 ターゲット、 24、241 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨークに永久磁石が固着されているとともに前記ヨーク及び永久磁石が冷媒により冷却されるように構成された磁気回路の製造方法において、前記磁気回路の少なくとも前記冷媒に接触する部分に、少なくともエポキシ樹脂で第1層目を吹き付け塗布しその後、フッ素樹脂の第2層目の吹き付け塗布を行うことを特徴とする磁気回路の製造方法。
【請求項2】
前記磁気回路がスパッタリング装置用であることを特徴とする請求項1に記載の磁気回路の製造方法。
【請求項3】
前記永久磁石がNd−Fe−B系磁石であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の磁気回路の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−88511(P2007−88511A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−343362(P2006−343362)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【分割の表示】特願2001−205783(P2001−205783)の分割
【原出願日】平成13年7月6日(2001.7.6)
【出願人】(000183417)株式会社NEOMAX (121)
【出願人】(393027383)NEOMAX機工株式会社 (46)
【Fターム(参考)】