説明

磁気文字認識方法及び磁気文字認識装置

【課題】磁気波形のパターンの変形がある場合であっても、精度良く磁気文字認識を行うことが可能な磁気文字認識方法及び磁気文字認識装置を提供する。
【解決手段】基準ピーク間隔配列データを準備する配列データ準備工程と、情報記録媒体の表面に印字された磁気文字の文字列から、再生波形を生成する波形生成工程と、再生波形から、磁気文字の1文字ごとの文字波形を切り出す切り出し工程と、文字波形を構成するピークに含まれる複数のピーク間の間隔の配列パターンから、ピーク間隔配列データを生成する配列データ生成工程と、ピーク間隔配列データと、基準ピーク間隔配列データとを比較する比較工程と、を含み、比較工程の比較結果に基づいて、最も一致度の高いピーク間隔配列データに対応する文字を読み取り文字として決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気インク文字で印刷された文字列を読み取って、再生波形を生成し、文字認識を行う磁気文字認識方法及び磁気文字認識装置に関し、特に、精度の良い文字認識を行うことが可能なものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、磁気インク文字(MICR文字)が印刷された媒体表面の文字印刷部分を、磁気ヘッドで読み取って磁気再生信号を取得し、これを用いて文字認識を行う様々な方法が開示されている。磁気インク文字(MICR文字)は、金融機関などで扱われる小切手等で用いられ、文字タイプとしてはE13B、CMC7が代表的であり、ISO1004などで規格化されている。
【0003】
MICR文字認識技術発展の初期段階では、磁気文字ラインを磁気ヘッドで読取り、その磁気再生信号波形を論理回路に入力してピーク位置やその出力レベルの特徴に基づいて文字認識をする方法が主流であったが、マイクロプロセッサの高性能化や記憶素子の高速化・大容量化に伴い、近年は、ソフトウエアで磁気信号を処理することによって文字認識するものが増えてきている。また、磁気信号のみならず、媒体をイメージスキャンして得られる画像を併用する例もある。
【0004】
磁気信号による方法では、磁気再生信号のピーク間隔を判定し、その大小の組み合わせからその組み合わせパターンが表す文字に対応付ける方法が開示されている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2001−351062号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、実際に市場で流通している小切手等の中には、公差内にはあるものの、磁気インク文字の印刷状態が良くないものがある。そのため、文字認識技術は、この境界線上の文字を認識することができ、間違った文字認識を行わないことが要求される。
【0007】
より詳細には、実際の磁気インク文字は、磁気インクの品質、印刷装置、再生磁気ヘッド及び着磁ヘッドの磁気特性によってばらつき、高磁力、低磁力、太文字・細文字、傾斜等の変化が生じる。さらに、小切手の使用状態、保管状態によっては、穴あき、かすれ、にじみなどの変化が生じることもあり、磁気インク文字の磁気再生波形は様々に変形することとなる。特に、折り曲げて保管されていた場合は、折り目の部分をスキャンする際に、文字幅や文字ピッチが変化し、認識精度の低下に繋がる虞がある。
【0008】
そこで、上述した特許文献1に開示された方法では、磁気波形のピーク間隔を判定して、所定の間隔よりも広いときには間隔パターンを1、所定の間隔よりも狭いときには間隔パターンを0に変換する手順を設けている。そして、これら1と0の配列パターンが正規のパターンと一致するか否かによって、異常の有無を検出するようにしている。
【0009】
ところが、この特許文献1に開示された方法だと、磁気パターンの間隔が広いときと狭いときとの中間付近にある場合には、判定ミスを起こしやすく、誤認識に繋がる可能性が大きい。
【0010】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、その目的は、磁気波形のパターンの変形がある場合であっても、精度良く磁気文字認識を行うことが可能な磁気文字認識方法及び磁気文字認識装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上のような課題を解決するために、本発明は、以下のものを提供する。
【0012】
(1) 磁気インクを用いて印字された複数の磁気文字からなる文字列を磁気ヘッドで読み取る際の基準となる基準波形に基づいて、磁気文字の1文字ごとの基準文字波形を構成するピークに含まれる複数のピーク間の間隔の配列パターンから、基準ピーク間隔配列データを準備する配列データ準備工程と、情報記録媒体の表面に印字された磁気文字の文字列から、再生波形を生成する波形生成工程と、前記再生波形から、磁気文字の1文字ごとの文字波形を切り出す切り出し工程と、前記文字波形を構成するピークに含まれる複数のピーク間の間隔の配列パターンから、ピーク間隔配列データを生成する配列データ生成工程と、前記ピーク間隔配列データと、前記基準ピーク間隔配列データとを比較する比較工程と、を含み、前記比較工程の比較結果に基づいて、最も一致度の高いピーク間隔配列データに対応する文字を読み取り文字として決定することを特徴とする磁気文字認識方法。
【0013】
本発明によれば、まず、磁気文字の1文字ごとの基準文字波形を構成するピークに含まれる複数のピーク間の間隔の配列パターンから、基準ピーク間間隔配列データを準備しておく。その後、磁気文字の文字列から再生波形を生成し、1文字ごとの文字波形を切り出し、その文字波形を構成するピークに含まれる複数のピーク間の間隔の配列パターンからピーク間隔配列データを生成し、ピーク間隔配列データと基準ピーク間隔配列データを比較し、その結果、最も一致度の高いピーク間隔配列データに対応する文字を読み取り文字として決定することとしたので、精度良く磁気文字認識を行うことができる。
【0014】
すなわち、本発明に係る磁気文字認識方法は、ピーク間の大・小比較やパターン変換処理を必要としないことから、磁気パターンの間隔が広いときと狭いときとの中間付近にある場合であっても、判定ミスを起しにくい。その結果、磁気文字認識の精度向上に資することができる。
【0015】
(2) 前記磁気文字認識方法は、前記ピーク間隔配列データと前記基準ピーク間隔配列データとの相関係数を比較して、最も一致度の高い相関係数に対応する文字を読み取り文字として決定することを特徴とする(1)記載の磁気文字認識方法。
【0016】
本発明によれば、上述した磁気文字認識方法は、ピーク間隔配列データと基準ピーク間隔配列データとの相関係数を比較して、最も一致度の高い相関係数に対応する文字を読み取り文字として決定することとしたので、ピーク間距離を距離パターンなどに変換する必要がなく、処理負荷の軽減に資することができる。
【0017】
(3) 前記切り出し工程において、1文字分の長さの範囲内に、所定の強度値以上のピークが存在するか否かによって、その部分の再生波形を、文字領域に対応させるか無信号領域に対応させるかを判定することを特徴とする(1)又は(2)記載の磁気文字認識方法。
【0018】
本発明によれば、上述した切り出し工程において、1文字分の長さの範囲内に、所定の強度値以上のピークが存在するか否かによって、その部分の再生波形を、文字領域に対応させるか無信号領域に対応させるかを判定することとしたので、ノイズの影響を受けにくく、ひいては磁気文字認識の精度向上に資することができる。
【0019】
(4) 前記切り出し工程において、前記所定の強度値は、再生波形に含まれる全てのピーク値を求め、再生波形の平均値から一定の範囲内にあるピークの分散を求め、その分散値に基づいて決定されることを特徴とする(3)記載の磁気文字認識方法。
【0020】
本発明によれば、上述した切り出し工程において、上述した所定の強度値は、再生波形に含まれる全てのピーク値を求め、再生波形の平均値から一定の範囲内にあるピークの分散を求め、その分散値に基づいて決定されることとしたので、認識処理系の個性に起因するノイズレベルの変動に影響され難くなり、ひいては磁気文字認識の精度向上に資することができる。
【0021】
(5) 磁気インクを用いて印字された複数の磁気文字からなる文字列を磁気ヘッドで読み取る際の基準となる基準波形に基づいて、磁気文字の1文字ごとの基準文字波形を構成するピークに含まれる複数のピーク間の間隔の配列パターンを、基準ピーク間隔配列データとして記憶する配列データ記憶部と、情報記録媒体の表面に印字された磁気文字の文字列から、再生波形を生成する波形生成部と、前記再生波形から、磁気文字の1文字ごとの文字波形を切り出す切り出し部と、前記文字波形を構成するピークに含まれる複数のピーク間の間隔の配列パターンから、ピーク間隔配列データを生成する配列データ生成部と、前記ピーク間隔配列データと、前記基準ピーク間隔配列データとを比較する比較部と、を含み、前記比較部の比較結果に基づいて、最も一致度の高いピーク間隔配列データに対応する文字を読み取り文字として決定することを特徴とする磁気文字認識装置。
【0022】
本発明によれば、磁気文字認識装置に、配列データ記憶部と、波形生成部と、切り出し部と、配列データ生成部と、比較部と、を設け、比較部の比較結果に基づいて、上述したピーク間隔配列データと基準ピーク間隔配列データとの一致度が最も高い場合におけるピーク間隔配列データに対応する文字を読み取り文字として決定することとしたので、精度良く磁気文字認識を行うことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ピーク間隔配列データと基準ピーク間隔配列データとの比較によって、最も一致度の高いピーク間隔配列データに対応する文字を読み取り文字として決定することとしているので、磁気波形のパターンの変形がある場合であっても、精度良く磁気文字認識を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0025】
[磁気文字認識装置]
図1は、本発明の実施の形態に係る磁気文字認識装置1の構成を示す模式図である。なお、本発明の実施の形態では、MICR認識機能を備えた小切手リーダを例にとって説明する。図1では、本発明の実施の形態に係る磁気文字認識装置1のMICR文字認識処理に関する部分を中心とした構成を示している。
【0026】
図1において、磁気文字認識装置1は、紙媒体搬送路11と、MICR文字(磁気インクを用いて印字された磁気インク文字)を再磁化する着磁ヘッド12と、MICR文字の磁気を検出する磁気ヘッド13と、紙媒体を搬送するローラ14と、磁気ヘッド駆動・増幅回路15と、媒体搬送制御回路16と、マイクロプロセッサ17と、RAM18と、を有している。磁気ヘッド13は、磁気ヘッド駆動・増幅回路15によって、ローラ14は、媒体搬送制御回路16によって、それぞれ制御されている。また、磁気ヘッド駆動・増幅回路15及び媒体搬送制御回路16は、CPU等のマイクロプロセッサ17の指令に基づいて動作し、マイクロプロセッサ17は、RAM18をワーキングメモリとして使用する。
【0027】
紙媒体搬送路11に挿入された小切手(情報記録媒体)は、ローラ14によって搬送され、着磁ヘッド12及び磁気ヘッド13を通過する。着磁ヘッド12は、小切手に印字されたMICR文字を再磁化し、磁気ヘッド13は、着磁ヘッド12によって再磁化されたMICR文字の磁気を検出する。
【0028】
磁気ヘッド13によって読取られたMICR文字からは再生波形が生成され(波形生成部による波形生成工程)、生成された再生波形は、デジタル化されてMICR波形メモリ(例えばRAM18)に記録される。このMICR波形メモリに記憶されたMICR再生波形データを用いて、磁気文字認識装置1に内蔵されたマイクロプロセッサ17において磁気文字認識処理が行われる。磁気文字認識の詳細については、後述する[磁気文字認識方法]において説明する。
【0029】
なお、本実施の形態においては、磁気文字認識装置1に内蔵されたマイクロプロセッサ17において磁気文字認識が行われるが、MICR再生波形を上位制御装置(例えばATMなど)に転送して、上位制御装置において磁気文字認識を行うこととしてもよい。また、小切手の表面の画像を読取るための密着型1次元撮像素子を、紙媒体搬送路11の上部または下部または両側に配置することとしてもよい。さらに、小切手表面に所定の事項を印字するための印字ブロックを配置することとしてもよい。
【0030】
図2は、本発明の実施の形態に係る磁気文字認識装置1の電気的構成を示すブロック図である。図2では、MICR文字認識処理に関する部分を中心とした構成を示している。
【0031】
図2において、磁気文字認識装置1は、認識制御部100と、MICR波形メモリ(例えばEEPROMなど)101と、基準波形データベース(例えばEEPROMなど)102と、前処理部103と、ピーク検出部104と、文字境界検出部105と、文字認識部107と、を有している。
【0032】
MICR波形メモリ101に格納されたMICR再生波形は、まず、前処理部103において、平滑化によるMICR再生波形全体のノイズ除去が行われ、ノイズが除去された整形波形が生成される。
【0033】
次いで、ピーク検出部104において、整形されたMICR再生波形に含まれる全てのピーク情報が検出され、その各々のピークの極性(正・負)、強度、尖頭位置等のピーク情報が記憶される。このとき、ピークの強度が一定値に満たないピークの除外処理も同時に行われる。
【0034】
次いで、これらのピーク情報に基づいて、文字境界検出部105において、MICR再生波形から、磁気インク文字1文字ごとの先頭ピークの検出が行われ、1文字に対応する文字波形が切り出される(切り出し部による切り出し工程)。そして、切り出された文字波形を構成するピークに含まれる複数のピーク間の間隔の配列パターンから、ピーク間隔配列データが生成される(配列データ生成部による配列データ生成工程)。そして、文字認識部107において、このピーク間隔配列データと、基準波形データベース102に格納された基準ピーク間隔配列データとの比較が行われ(比較部による比較工程)、磁気文字認識が行われる。
【0035】
ここで、上述した基準波形データベース102は、例えばEEPROMやフラッシュメモリ等からなる記憶手段であって、配列データ準備工程において使用される基準ピーク間隔配列データを記憶する配列データ記憶部として機能する。具体的には、基準波形データベース102は、磁気インクを用いて印字された複数の磁気文字からなる文字列を磁気ヘッドで読み取る際の基準となる基準波形に基づいて、磁気文字の1文字ごとの基準文字波形を構成するピークに含まれる複数のピーク間の間隔の配列パターンを、基準ピーク間隔配列データとして記憶する。
【0036】
なお、本実施形態に係る磁気文字認識装置1では、基準波形データベース102以外にも、各種の変形要因に対応した基準ピーク間隔配列データを記憶するデータベースを備えていてもよい。すなわち、初期段階において、一意的に文字が決定できなかった場合は、第二,三のデータベースとの比較を行うこととしてもよい。
【0037】
[磁気文字認識方法]
図3は、本発明の実施の形態に係る磁気文字認識方法の全体的な流れを示すフローチャートである。
【0038】
図3に示すように、本実施の形態に係る磁気文字認識方法では、まず、スムージングが行われる(ステップS1)。具体的には、移動平均法などを用いてMICR波形全体の平滑化を行い、高周波ノイズを除去することにより、ノイズの影響を受けることなく波形比較ができるように処理を行う。
【0039】
次いで、ピーク検出が行われる(ステップS2)。具体的には、MICR再生波形に含まれる全てのピーク、すなわち、極大値及び極小値が検出される。
【0040】
正のピークは上側に凸のパターンとして検出される。すなわち、現時点tにおける信号出力Amp(t)とひとつ先の信号出力Amp(t+1)との差を△(t)=Amp(t+1)−Amp(t)とし、△(t)>0かつ△(t+1)<0のとき、Amp(t+1)は正の極大値であると判定される。また負のピークは下側に凸のパターンとして検出される。すなわち、△(t)<0かつ△(t+1)>0のとき、Amp(t+1)は負の極大値(極小値)であると判定される。
【0041】
この正と負のピークは交互に出現する。ピークが検出されるごとにそのインデクスtと信号出力Amp(t)と極性Sgnが記憶される。なお、同一の信号出力値が連続してひとつのピークが形成されている場合には、ピークの形状は台形状となるので、ピークの平坦部の開始位置と終了位置を求め、両者の中間点をピーク位置と判定するようにする。こうすることにより、小切手のMICR磁気再生出力が飽和した場合でも正確にピーク位置を検出することができる。
【0042】
次に、ピーク閾値決定処理が行われる(ステップS3)。ピーク閾値は、再生波形に含まれるピークがノイズであるか、真のピークであるかを判定するのに使用される。ある信号出力値がピークであると判定された場合であっても、その信号出力レベルが一定値に満たない場合には、その信号はノイズであると判断して、採用しないようにすることにより、ノイズの影響を受けることなく、精度の良い磁気文字認識を行うことができる。
【0043】
なお、図4は、図3におけるステップS3のピーク閾値決定処理を詳細に説明するためのフローチャートである。図4では、最初に再生波形全体の平均値Pavを求める(ステップS11)。ピーク検出処理(図3のステップS2)によって得られたピークのうち、レベル値Pkが適当なR(>0)に対して、Pav−R≦Pk≦Pav+Rを満たすものを抽出する(ステップS12)。そして、抽出したピークの平均値Pm及び標準偏差Psを計算する(ステップS13)。なお、Rには、磁気再生回路系の特性を考慮して、適切な値を用いるようにするとよい。
【0044】
最後に、ピーク閾値Athは、Ath=Pm+δPsの計算式を用いて計算する(ステップS14)。なお、δは、3又は4を用いる。これにより、信号レベルのバラつきに左右されることなくなり、適切なピーク値を設定することができる。
【0045】
このように、図4に示すフローチャートでは、ピーク閾値Athを決定するにあたって、再生波形に含まれる全てのピーク値を求め、再生波形の平均値から一定の範囲内にあるピークの分散(又は標準偏差)を求め、その分散値(又は標準偏差)に基づいて決定するようにしている。
【0046】
なお、本実施形態では、ピーク閾値Athを決定するにあたって標準偏差を用いることとしたが、それ以外の値を用いてもよい。すなわち、1文字分の長さの範囲に、所定の強度値以上のピークが存在するか否かによって、その部分の再生波形を、文字領域に対応させるか無信号領域に対応させるかを判定することとしてもよい。また、図3では、説明の便宜上、ステップS3のピーク閾値決定処理とステップS4の文字切り出し処理とを分けて記載しているが、ステップS3のピーク閾値決定処理を、ステップS4の文字切り出し処理の中に含めることとしてもよい。
【0047】
次いで、文字切り出しが行われる(ステップS4)。図5は、図3に示すフローチャートにおいて、「文字切り出し」(ステップS4)の詳細な流れを示すフローチャートであり、図6は、MICR再生波形データの一例を示す図である。
【0048】
文字切り出しにおいては、まず、文字の先頭ピーク位置の検出を行う。文字の先頭ピークはMICR文字の印字に関する規格により、正極であって一定レベル以上の信号出力値をもつメジャーなピークであると規定されているため、MICR再生波形を先頭からスキャンして、そのレベル値Pkが正であってピーク閾値Ath以上であるか否かを判定する。この閾値は、例えば全ての正ピーク値について平均値を求めておき、その60%の値に設定する。
【0049】
図5において、変数i及び変数kに1を代入するとともに、NEXTPEAKに、位置情報IDX(i)(すなわちIDX(1))を代入する(ステップS21)。そして、レベル値Pk(i)が正であって(極性関数Sgn(i)を用いて正負を検出する)、ピーク閾値Ath以上であるとき、IDX(i)がNEXTPEAK−USIZEよりも大きいか否かを判断する(ステップS22)。これがNEXTPEAK−USIZEよりも大きくないときは、その時点におけるIDX(i)は文字の切り出し部分ではないと判断し、iをインクリメントした後(ステップS24)、iがlastになるまで処理をステップS22に戻す。
【0050】
一方で、IDX(i)がNEXTPEAK−USIZEよりも大きいときには(すなわち、NEXTPEAK−USIZEよりも先で値であって、ピーク閾値Ath以上かつ正のレベル値Pk(i)が登場したときには)、その時点におけるIDX(i)は文字の切り出し部分であると判断し、そのIDX(i)をBGN(k)に代入する(ステップS23)。また、NEXTPEAKにIDX(i)+PITCH(文字間隔)を代入するとともに、変数kを1だけインクリメントする。これにより、図6に示すPk(1)の位置情報IDX(1)がBGN(1)に代入され、図6に示すPk(17)の位置情報IDX(17)がBGN(2)に代入されることになる。BGN(3)以降も同様である。
【0051】
このようにして、文字の先頭ピークの検出を続け、MICR文字波形の終端を超えたところで(ステップS25:YES)、文字切り出しを打ち切る。なお、上述したUSIZEは、文字波形の切り出しを先頭ピークの何ポイント手前から切り出すかを表すものである。すなわち、基準波形データは、その先頭からUSIZE番目に第1ピークが来るように作成されている。したがって、先頭ピークからUSIZE手前の地点を切り出し開始点とし、基準波形の長さと同じ長さの波形を切り出す。
【0052】
ここで、図5のステップ22において、NEXTPEAK(−USIZE)に到達しない間は、この間のピークを逐次検出し、隣接ピーク間の距離を次々に記憶していく。この場合、隣接ピーク間距離の計算は、正のピーク又は負のピークのどちらか一方に関して行われる。
【0053】
このように、文字の先頭ピークの検出と、隣接ピーク間距離計算を続け、MICR文字波形の終端を超えたところで文字切り出しを打ち切る。CMC7フォントの場合は、ひとつの文字は7本のバーと6本のスペースで構成されている。ピーク間距離は、1文字あたり6個のデータから構成されることになる。
【0054】
i番目の文字に関するピーク間距離を、Di1,Di2,Di3,Di4,Di5,Di6と表すと、図6の例では、D11=Pk(3)−Pk(1)、D12=Pk(5)−Pk(3),・・・,D16=Pk(13)−Pk(11)となる。
【0055】
次いで、文字認識が行われる(図3のステップS5)。
【0056】
図7は、図3に示すフローチャートにおいて、「文字認識」(ステップS5)の詳細な流れを示すフローチャートである。また、図8は、小切手等の媒体に印字された磁気文字ラインの一例を示す図である。磁気パターンの読み取りは、図8中の右から左に向かって行われる。このようにして読み取られた磁気再生波形を、前述の文字切り出しステップで処理することによって、次の[表1]に示す隣接ピーク間距離のデータ配列が得られる(ステップS31)。
【0057】
【表1】


次に、文字ごとにピーク間距離のデータ配列を、予め用意された[表2](下記参照)のテンプレートのデータ配列(標準パターン配列)のそれぞれと逐次比較する(ステップS32)。なお、本実施形態では、一致度(一致係数)の尺度としては、正規化相関を用いている。
【0058】
【表2】


例えば、図8の一番先頭(右端)の文字について、この文字のピーク間距離は、D1=(D16,D15,D14,D13,D12,D11)である。そして、このD1と、標準パターンの1番目、すなわち数字の"1"を示すT1=(1,0,0,0,1,0)との相関係数R(1,1)を求める。
【0059】
【数1】


次に、数字の"2"を示すT2との相関係数R(1,2)を求める。以下同様に、記号"SV"までの各テンプレートデータとの相関係数R(1,t)を求める。最後に、これら相関係数の最大値Rm=max(R(1,t)を求め、そのときのtに対応する文字が求める認識結果となる。
【0060】
そして、Rmが所定の値よりも大きいか小さいかによって、一致度が十分か否かが判断される(ステップS33)。Rmが所定の値よりも小さい場合は、波形に異常があるとして、文字特定不能とする一方で(ステップS35)、Rmが所定の値よりも大きい場合は、文字決定が行われる(ステップS34)。なお、ステップS35の「文字特定不能」とする以外には、例えば、類似度が接近したものだけに絞って更に波形解析をすることとしてもよい。
【0061】
このように、ステップS33では、すなわち、ピーク間隔配列データと基準ピーク間隔配列データとの相関係数を比較して、最も一致度の高い相関係数が所定の値よりも大きい場合には、その相関係数に対応する文字を読み取り文字として決定するようにしている。
【0062】
次に、最後の文字か否かが判断され(ステップS36)、最後の文字でなければ、処理はステップS31に移される。一方、最後の文字である場合には、本サブルーチンを終了する。なお、類似性の尺度としては、本実施形態で用いた正規化相関の他、必要に応じて差分絶対値和なども適宜用いることができる。また、MICR文字には、E13−Bや、CNC−7等の規格があるが、本発明は、どちらのMICR文字であっても適用することができる。
【0063】
[実施形態の効果]
以上説明したように本実施形態に係る磁気文字認識装置1及び磁気文字認識方法によれば、1文字分の磁気再生波形において隣接するピーク間の距離を求めて、その距離データからなる配列(ピーク間隔配列データ)を生成し、配列を予め求めてあった文字パターンのビット配列辞書(基準ピーク間隔配列データ)と比較することで、パターンと文字の関連付けを行うこととしたので、ピーク間隔の大・小比較やパターン変換処理の必要がなく、磁気文字認識の精度向上に資することができる。
【0064】
具体的に説明すると、公知例と異なって、個々のピーク間距離について大小関係を調べて、距離パターンに変換する必要がなく、単に相関係数を求めるだけなので、処理が単純化される。また、ピーク間距離が大と小の中間にあるような場合、公知例では第2の変換処理を設けているが、本実施形態では、ピーク間距離のゆらぎがあっても文字全体としての相似性を数値化して判定しているため、精度良い文字認識を行うことができる。
【0065】
また、使用される文字セットが変わった場合でも、文字セットに対応した標準データを用意するだけでよいことから、磁気文字認識装置1の保守性を高めることができる。
【0066】
さらに、上述したピーク閾値決定(図3のステップS3)又は文字切り出し(図3のステップS4)において、1文字分の長さの範囲内に、所定の強度値以上のピークが存在するか否かによって、その部分の再生波形を、文字領域に対応させるか無信号領域に対応させるかを判定することとしたので、ノイズの影響を受けにくい。そして、再生波形の平均値から一定の範囲内にあるピークの分散値に基づいて、この所定の強度値を決定することとしたので、認識処理系の個性に起因するノイズレベルの変動に影響されにくい。
【0067】
以上説明した実施形態では、媒体の印字文字は数字と記号としているが、媒体によってはアルファベットも使用される場合がありうる。その場合、文字中の大きいピーク間隔と小さいピーク間隔の存在比率が変わるため、公知例ではそれに対応した処理ロジックの追加が必要である。しかし、本実施形態では、上述した表2の基準データテーブルに英字部分を追加するだけでよいので、認識対象のバリエーションに柔軟に対応することができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係る磁気文字認識方法及び磁気文字認識装置は、磁気文字認識の精度を向上させることが可能なものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施の形態に係る磁気文字認識装置の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る磁気文字認識装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る磁気文字認識方法の全体的な流れを示すフローチャートである。
【図4】図3におけるステップS3のピーク閾値決定処理を詳細に説明するためのフローチャートである。
【図5】図3に示すフローチャートにおいて、「文字切り出し」(ステップS4)の詳細な流れを示すフローチャートである。
【図6】MICR再生波形データの一例を示す図である。
【図7】図3に示すフローチャートにおいて、「文字認識」(ステップS5)の詳細な流れを示すフローチャートである。
【図8】小切手等の媒体に印字された磁気文字ラインの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0070】
1 磁気文字認識装置
11 紙媒体搬送路
12 着磁ヘッド
13 磁気ヘッド
14 ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気インクを用いて印字された複数の磁気文字からなる文字列を磁気ヘッドで読み取る際の基準となる基準波形に基づいて、磁気文字の1文字ごとの基準文字波形を構成するピークに含まれる複数のピーク間の間隔の配列パターンから、基準ピーク間隔配列データを準備する配列データ準備工程と、
情報記録媒体の表面に印字された磁気文字の文字列から、再生波形を生成する波形生成工程と、
前記再生波形から、磁気文字の1文字ごとの文字波形を切り出す切り出し工程と、
前記文字波形を構成するピークに含まれる複数のピーク間の間隔の配列パターンから、ピーク間隔配列データを生成する配列データ生成工程と、
前記ピーク間隔配列データと、前記基準ピーク間隔配列データとを比較する比較工程と、を含み、
前記比較工程の比較結果に基づいて、最も一致度の高いピーク間隔配列データに対応する文字を読み取り文字として決定することを特徴とする磁気文字認識方法。
【請求項2】
前記磁気文字認識方法は、前記ピーク間隔配列データと前記基準ピーク間隔配列データとの相関係数を比較して、最も一致度の高い相関係数に対応する文字を読み取り文字として決定することを特徴とする請求項1記載の磁気文字認識方法。
【請求項3】
前記切り出し工程において、1文字分の長さの範囲内に、所定の強度値以上のピークが存在するか否かによって、その部分の再生波形を、文字領域に対応させるか無信号領域に対応させるかを判定することを特徴とする請求項1又は2記載の磁気文字認識方法。
【請求項4】
前記切り出し工程において、前記所定の強度値は、再生波形に含まれる全てのピーク値を求め、再生波形の平均値から一定の範囲内にあるピークの分散を求め、その分散値に基づいて決定されることを特徴とする請求項3記載の磁気文字認識方法。
【請求項5】
磁気インクを用いて印字された複数の磁気文字からなる文字列を磁気ヘッドで読み取る際の基準となる基準波形に基づいて、磁気文字の1文字ごとの基準文字波形を構成するピークに含まれる複数のピーク間の間隔の配列パターンを、基準ピーク間隔配列データとして記憶する配列データ記憶部と、
情報記録媒体の表面に印字された磁気文字の文字列から、再生波形を生成する波形生成部と、
前記再生波形から、磁気文字の1文字ごとの文字波形を切り出す切り出し部と、
前記文字波形を構成するピークに含まれる複数のピーク間の間隔の配列パターンから、ピーク間隔配列データを生成する配列データ生成部と、
前記ピーク間隔配列データと、前記基準ピーク間隔配列データとを比較する比較部と、を含み、
前記比較部の比較結果に基づいて、最も一致度の高いピーク間隔配列データに対応する文字を読み取り文字として決定することを特徴とする磁気文字認識装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−287457(P2008−287457A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−131232(P2007−131232)
【出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【出願人】(000002233)日本電産サンキョー株式会社 (1,337)
【Fターム(参考)】