説明

磁気方位検出装置及びその方位演算方法

【課題】2軸磁気センサが地面に対して傾斜しても、誤差の少ない方位角を得る。
【解決手段】回路基板2にX軸方向の地磁気成分を検出するX軸磁気センサ3と、X軸方向に対して90度の角度を有するY軸方向の地磁気成分を検出するY軸磁気センサ4と、傾斜センサ7とを固着し、X軸磁気センサ3とY軸磁気センサ4からの情報に基づいてX軸方向の地磁気成分であるX軸信号P4とY軸方向の地磁気成分であるY軸信号P5を取得する地磁気取得部6と、傾斜センサ7からの情報に基づいて回路基板2の傾斜角を取得する傾斜角取得部8と、取得した傾斜角に基づいてX軸データP8とY軸データP9を補正する傾斜角補正部10と、傾斜角補正部10によって補正された補正X軸データX3と補正Y軸データY3に基づいて方位角θ0を算出する方位角演算部11と、算出された方位角θ0を0〜360度方位角に修正する方位角修正部12とを備える構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサから得られた地磁気情報を傾斜センサからの情報によって磁気センサの姿勢誤差を補正し、誤差の少ない方位角情報を算出する磁気方位検出装置及びその方位演算方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地磁気を測定して方位を検出する磁気方位検出装置は、車載用のナビゲーションシステム等で方位情報取得手段として多用されている。これらの磁気方位検出装置は、トロイダルコアを用いたフラックスゲート型磁気センサや磁気インピーダンス効果素子を用いて、X軸とY軸の2軸の地磁気成分によって方位角を検出する磁気方位検出装置が開示されている。(例えば特許文献1参照)
【0003】
以下、従来の磁気インピーダンス効果素子を用いた磁気方位検出装置を図面に基づいて説明する。図5(a)は特許文献1で開示されている電子コンパスと言われる磁気方位検出装置の平面図である。図5(a)に於いて、磁気方位検出装置30は外部磁界のX軸方向の成分の検出手段である第1の磁気インピーダンス効果素子(以下、MI素子と略す)31と、X軸方向に垂直なY軸方向の外部磁界の成分の検出手段である第2のMI素子32とが備えられている。第1、2のMI素子31、32は、Feを主成分とするFe基金属ガラス合金からなり、その形状は平面視略矩形で所定の厚みを有している。この第1、2のMI素子31、32は、それぞれに印加される交流電流の電流路の方向が互いに直交するように基板33に配置されている。即ち、第1、2のMI素子31、32は、それぞれの長手方向の向きが互いに直交するように基板33に固定される。
【0004】
第1、2のMI素子31、32には、第1、2のMI素子31、32に印加される交流電流の電流路の方向に沿って、即ち、第1、2のMI素子31、32の長手方向に沿ってバイアス磁化を印加するための巻線34、35が巻回されている。巻線34、35の両端は、巻線端子34a、35aを介して、外部巻線用導線34b、35bに接続されている。第1、2のMI素子31、32の長手方向の両端31a、32aには、出力電流を取り出すための導線36、37、38が接続されている。導線36、38は、出力端子36a、38aを介して、出力用外部導線36b、38bに接続されている。また、導線37の両端は、第1のMI素子31の端部31aと第2のMI素子32の端部32aとに接続されている。また、導線37は出力端子37aを介して、出力用外部導線37bに接続されている。更に、第1、2のMI素子31、32のそれぞれの長手方向の両端31a、32aには、図示しない交流電流を印加するための導線が接続されている。
【0005】
上述の磁気方位検出装置30の動作は次の通りである。第1、2のMI素子31、32には、図示しない導線からMHz帯域の交流電流が印加されている。このとき、第1、2のMI素子31、32のそれぞれの両端31a、32aには、それぞれの素子に固有のインピーダンスによる電圧が発生する。ここで、図5(b)に示すように、外部磁界による磁力線の方向を任意とし、この磁力線が第1のMI素子31に印加されると、第1のMI素子31の両端31aに発生するインピーダンスは、この磁力線の第1のMI素子31の長手方向に対して平行な成分(X軸方向の成分)の大きさに対応したものとなる。同様に、この磁力線が第2のMI素子32に印加されると、第2のMI素子32の両端32aに発生するインピーダンスは、この磁力線の第2のMI素子32の長手方向に対して平行な成分(Y軸方向の成分)の大きさに対応したものとなる。
【0006】
即ち、第1、2のMI素子31、32に対して、外部磁界による磁力線の方向が変化すると、これに対応して第1、2のMI素子31、32のインピーダンスが変化し、第1、2のMI素子31、32から出力される電圧値が変化することになる。また、巻線34、35には第1、2のMI素子31、32にバイアス磁化を印加するための電圧が供給される。このようにして、磁気方位検出装置30に於いては、出力端子36a、37aから、地磁気のX軸方向の成分の大きさに対応した電圧値を示す出力電流が取り出され、出力端子37a、38aから、地磁気のY軸方向の成分の大きさに対応した電圧値を示す出力電流が取り出される。これらの出力電流は、出力用外部導線36b、37b、38bを介して図示しない処理部に送られる。処理部では、得られた出力電流に基づいて地磁気による磁力線の方位が測定される。以上のように、従来の磁気方位検出装置は互いに直交するように配置された二つの磁気センサによって地磁気を検出し方位角を得ることが出来る。
【0007】
【特許文献1】特開平11−63997号公報(特許請求の範囲、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の磁気方位検出装置30のMI素子31、32を固定する基板33が地面に対して水平であれば、その方位角は正しい値を示すが、もし、基板33が地面に対して傾斜していると、MI素子31、32の出力に歪みが生じて正しい方位角を得ることが出来ない。図6は磁気方位検出装置30の傾きを示す説明図であり、磁気方位検出装置30の基板33がX軸に対して角度θ1だけ傾いた状態を示している。このとき、Y軸方向を検出するMI素子32は、Y軸に対して平行なのでその出力に歪みは生じないが、X軸方向を検出するMI素子31は、前述した如く、X軸に対して傾斜しているのでその出力は変化し歪みが生じる。
【0009】
また、地磁気の磁力線が地面に入射する入射角は、赤道上では水平に近いが緯度が高くなるに従って入射角は大きくなる。すなわち、磁気方位検出装置を使用する使用者が地球上の何処にいるかにより、地磁気の入射角は異なることになる。ここで仮に、地磁気の大きさを1として、図7(a)で示すように地磁気の地面(X方向)に対する入射角をφ、また、図7(b)で示すように、磁気方位検出装置30のX軸に対する地磁気の方向を回転角θ2とすると、X軸方向とY軸方向の地磁気を検出する磁気センサの出力は、
X=cosφcosθ2、Y=cosφsinθ2となる。すなわち、磁気方位検出装置30を図6で示すようにZ軸を中心に回転させ、回転角θ2を0度から360度まで変化させながらX、Yをプロットすることで得られる円グラフは、図7(c)で示すように、地磁気の入射角φが大きくなるほど小さくなり、入射角φ=90度でX、Yは零になる。このように、磁気方位検出装置30が検出する地磁気は、測定地点によって地磁気の検出値が大きく影響され、また、磁気方位検出装置30の地面に対する傾きによって検出値が変化し歪みが生じる結果となる。
【0010】
図8は、地磁気が地面に対して水平で入射角φ=0度の場合、磁気方位検出装置30を地面(X軸)に対して0度、20度、30度、45度、60度、70度、80度、90度の傾斜角を持たせながらZ軸に対して0〜360度回転させ(図6参照)、MI素子31、32の出力をX、Yでプロットしたグラフの一例である。ここで、磁気方位検出装置30が地面に対して水平で傾斜角が0度の場合は、図示するように、X、Yのプロットによるグラフは歪むこと無く円となる。しかし、磁気方位検出装置30が傾斜して、その傾斜角が大きくなると、図示するようにX、Yのプロットによるグラフは歪みが増加して楕円となり、傾斜角が90度ではX軸の成分が零となって、Y軸に重なる直線となる。すなわち、地面に対する傾斜角が0度で、X、Yのプロットによるグラフが円であれば、X,Yの値から方位角θは、θ=ATAN(Y/X):数式1で求めることが出来るが、磁気方位検出装置30がX軸に対して傾斜角を持つと、X軸の値が大きく歪むので、数式1で方位角θを求めると大きな誤差が生じる結果となり問題である。
【0011】
次に図9は、地磁気が地面に対して水平ではなく例えば入射角φ=48.5度の場合、磁気方位検出装置30を地面(X軸)に対して0度、20度、30度、45度、60度、70度、80度、90度の傾斜角を持たせながらZ軸に対して0〜360度回転させ(図6参照)、MI素子31、32の出力をX、Yでプロットしたグラフの一例である。ここで、磁気方位検出装置30が地面に対して水平で傾斜角が0度の場合は、図示するように、X、Yのプロットによるグラフは、図8のグラフより半径は小さくなるが歪むこと無く円である。しかし、磁気方位検出装置30が傾斜して、その傾斜角が大きくなると、図示するようにX、Yのプロットによるグラフは歪みが増加して楕円になると共に、地磁気が地面に対して斜めに入射しているので、その楕円の中心点が徐々にシフトし、傾斜角が90度ではX軸成分が特定のオフセットを持った一定値となり、Y軸成分のみ360度の回転に対して変化するので、そのグラフはX軸と一定の値で直交する直線となる。
【0012】
すなわち、地磁気が地面に対して入射角を有する場合は、磁気方位検出装置が傾斜すると、図9で示すように、その出力は歪むと共に中心点もずれるので、前述の数式1で求める方位角θは更に大きな誤差が生じる結果となる。特に磁気方位検出装置をGPS機能付き携帯電話等の携帯型電子機器に搭載してヘディングアップ表示機能等を実現する場合は、使用者は携帯型電子機器を手で携帯して使用するので、携帯型電子機器を地面に対して常に水平に保持することが困難であり、この結果、磁気方位検出装置によって得られる方位角に誤差が生じやすく、使用上大きな問題となる。
【0013】
本発明の目的は上記課題を解決し、X軸とY軸による2軸磁気センサが地面に対して傾斜しても、その傾斜角から2軸磁気センサの検出値を補正し、誤差の少ない方位角を算出する磁気方位検出装置及びその方位演算方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明の磁気方位検出装置及びその方位演算方法は、下記記載の構成と方法を採用する。
【0015】
本発明の磁気方位検出装置は、略板状の基台にX軸方向の地磁気成分を検出するX軸磁気センサと、前記X軸方向に対して90度の角度を有するY軸方向の地磁気成分を検出するY軸磁気センサと、前記基台の傾斜を検出する傾斜センサとを固着し、一体化したことを特徴とする。
【0016】
これにより、X軸磁気センサとY軸磁気センサを固着する基台が地面に対して傾斜しても、基台に固着され一体化された傾斜センサからの情報に基づいてX軸磁気センサとY軸磁気センサからの地磁気情報を補正し、方位角の検出精度に優れた磁気方位検出装置を提供出来る。
【0017】
また、前記X軸磁気センサと前記Y軸磁気センサからの検出信号に基づいてX軸方向の地磁気成分であるX軸情報とY軸方向の地磁気成分であるY軸情報を取得する地磁気取得手段と、前記傾斜センサからの検出信号に基づいて前記基台の傾斜角情報を取得する傾斜角取得手段と、前記取得した傾斜角情報に基づいて前記X軸情報と前記Y軸情報を補正する傾斜角補正手段と、前記傾斜角補正手段によって補正された補正X軸情報と補正Y軸情報に基づいて方位角を算出する方位角演算手段と、前記算出された方位角を0〜360度の方位角に修正する方位角修正手段とを備えたことを特徴とする。
【0018】
これにより、傾斜角取得手段からの情報に基づいてX軸情報とY軸情報を傾斜角補正手段によって補正し、更に、補正された補正X軸情報と補正Y軸情報に基づいて方位角演算手段によって方位角を算出するので、特に磁気方位検出装置を携帯電話等の携帯型電子機器に搭載する場合、携帯型電子機器が地面に対してどのように傾斜しても、常に補正された誤差の少ない方位角を得ることが出来る。また、方位角修正手段によって0〜360度の方位角に修正するので、例えば北を基準とした方位を直接得ることが出来、どのような機器のアプリケーションに対しても簡単に搭載が可能であり、利便性の高い磁気方位検出装置を提供出来る。
【0019】
本発明の方位演算方法は、略板状の基台に固着されたX軸方向の地磁気成分を検出するX軸磁気センサと前記X軸方向に対して90度の角度を有するY軸方向の地磁気成分を検出するY軸磁気センサからの検出信号に基づいて、X軸方向の地磁気成分であるX軸情報とY軸方向の地磁気成分であるY軸情報を取得する地磁気取得工程と、前記基台の傾きを検出する傾斜センサから検出信号に基づいて傾斜角情報を取得する傾斜角取得工程と、前記取得した傾斜角情報に基づいて前記X軸情報と前記Y軸情報を補正する傾斜角補正工程と、前記傾斜角補正工程によって補正された補正X軸情報と補正Y軸情報に基づいて方位角を算出する方位演算工程と、前記算出された方位角を0〜360度の方位角に修正する方位角修正工程とを有することを特徴とする。
【0020】
これにより、傾斜角取得工程からの情報に基づいてX軸情報とY軸情報を傾斜角補正工程によって補正し、更に、補正された補正X軸情報と補正Y軸情報に基づいて方位演算工程によって方位角を算出し、更に方位角修正工程によって0〜360度の方位角に修正するので、基台が傾斜していても常に補正された誤差の少ない方位角を得ることが出来ると共に、0〜360度に修正された方位角によって、例えば北を基準とした方位を直接得ることが出来るので、どのような機器のアプリケーションに対しても簡単に対応出来、利便性の高い磁気方位検出装置の方位演算方法を提供出来る。
【発明の効果】
【0021】
上記の如く本発明によれば、X軸磁気センサとY軸磁気センサを固着する基台が地面に対して傾斜していても、基台に固着され一体化された傾斜センサからの情報に基づいてX軸磁気センサとY軸磁気センサからの地磁気情報を補正し、誤差の少ない方位角を算出する磁気方位検出装置を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下図面により本発明の実施の形態を詳述する。図1は本発明の磁気方位検出装置のブロック図である。図2は本発明の磁気方位検出装置の傾斜を補正するための補正方法を説明するXY座標のグラフである。図3は本発明の磁気方位検出装置の動作を説明するフローチャートである。図4は本発明の磁気方位検出装置が算出する方位角を0〜360度の方位角に修正する動作を説明する説明図である。
【実施例1】
【0023】
図1に基づいて本発明の磁気方位検出装置の構成を説明する。1は本発明の磁気方位検出装置であり、基台としての回路基板2に各構成部品が実装されている。3はX軸方向の地磁気成分を検出するX軸磁気センサであり、4はX軸方向に対して90度の角度を有するY軸方向の地磁気成分を検出するY軸磁気センサであって回路基板2に固着されている。このX軸磁気センサ3とY軸磁気センサ4は、フラックスゲート方式の磁気センサであり、それぞれ軟磁性体のコア3a、4aに検出コイル3b、4bが巻回されている。尚、X軸磁気センサ3とY軸磁気センサ4は、フラックスゲート方式に限定されず、MI素子やホール素子等の他の方式の磁気センサでも良い。5は駆動波生成部であり、X軸磁気センサ3とY軸磁気センサ4のコア3a、4aに交流の励磁駆動信号P1を供給する。励磁駆動信号P1は、コア3aの一方の端部に接続されてコア3aの他方の端部からコア4aの一方の端部に接続され、更にコア4aの他方の端部から駆動波生成部5に戻り、コア3a、4aに励磁電流I1を流す。
【0024】
6は地磁気取得手段としての地磁気取得部であり、X軸磁気センサ3とY軸磁気センサ4のそれぞれの検出コイル3b、4bから検出信号P2、P3を入力し、X軸方向の地磁気成分であるX軸情報としてのX軸信号P4と、Y軸方向の地磁気成分であるY軸情報としてのY軸信号P5を取得し出力する。7は傾斜センサであり、回路基板2の地面に対する傾斜に応じた傾斜検出信号P6を出力する。この傾斜センサ7は回路基板2に固着され、傾斜センサ7とX軸磁気センサ3とY軸磁気センサ4は、回路基板2によって一体化される。尚、傾斜センサ7は、半導体による加速度センサを用いることが小型化し易く好ましいが、ピエゾ抵抗素子等、どのような傾斜センサであっても良い。8は傾斜角取得手段としての傾斜角取得部であり、傾斜センサ7からの傾斜検出信号P6を入力して傾斜角情報としての傾斜角信号P7を取得し出力する。
【0025】
9はAD変換部であり、アナログ量のX軸信号P4とY軸信号P5と傾斜角信号P7を入力してデジタルデータに変換し、X軸データP8、Y軸データP9、傾斜角データP10を出力する。10は傾斜角補正手段としての傾斜角補正部であり、X軸データP8、Y軸データP9、傾斜角データP10を入力して補正X軸情報としての補正X軸データX3と補正Y軸情報としての補正Y軸データY3を出力する。11は方位角演算手段としての方位角演算部であり、補正X軸データX3と補正Y軸データY3を入力して方位角を算出し、方位角データθ0を得る。また、方位角演算部11は、補正X軸データX3と補正Y軸データY3によって相対X軸データXと相対Y軸データYを算出し出力する。12は方位角修正手段としての方位角修正部であり、方位角データθ0と相対X軸データXと相対Y軸データYを入力して0〜360度の方位角を表す方位角修正データθOUTを回路基板2に設けられる出力端子13より外部に出力する。
【0026】
次に、本発明の磁気方位検出装置の動作を図1に基づいて説明する。まず、駆動波生成部5が動作を開始して励磁駆動信号P1を出力すると、X軸磁気センサ3とY軸磁気センサ4のコア3a、4aに励磁電流I1が流れてコア3a、4aが磁気飽和し、これにより検出コイル3b、4bに外部磁界の強さに応じた誘起電圧が発生する。ここで、X軸磁気センサ3は、コア3aの長手方向からの外部磁界を検出するので、図示するようにX方向の地磁気を検出することが出来る。また、同様にY軸磁気センサ4は、コア4aの長手方向からの外部磁界を検出するので、図示するように、X方向に対して90度の角度を有するY方向の地磁気を検出することが出来る。これにより、X軸磁気センサ3からの検出信号P2はX方向の地磁気の強さを示し、Y軸磁気センサ4からの検出信号P3はY方向の地磁気の強さを示して、地磁気取得部6に入力される。
【0027】
地磁気取得部6は、検出信号P2、P3を入力して内部で地磁気の検出成分だけを取り出して増幅し、アナログ量のX軸信号P4とY軸信号P5を出力する。AD変換部9は、X軸信号P4とY軸信号P5を入力してアナログ/デジタル変換を実行し、デジタル量のX軸データP8とY軸データP9を出力する。傾斜センサ7は、固着されている回路基板2の地面に対する傾斜を検出して傾斜検出信号P6を出力する。ここで、X軸磁気センサ3とY軸磁気センサ4も、90度の角度を持った状態で回路基板2に固着されているので、傾斜センサ7はX軸磁気センサ3とY軸磁気センサ4の地面に対する傾きを検出することになる。
【0028】
傾斜角取得部8は、傾斜検出信号P6を入力して内部でインピーダンス変換と増幅を行い、アナログ量の傾斜角信号P7を出力する。AD変換部9は、傾斜角信号P7を入力してアナログ/デジタル変換を実行し、デジタル量の傾斜角データP10を出力する。傾斜角補正部10はデジタル演算機能を有し、デジタルデータであるX軸データP8、Y軸データP9、傾斜角データP10をそれぞれ入力して内部で補正演算を実行し、X軸データP8とY軸データP9を傾斜角データP10に基づいて補正を行い、補正された補正X軸データX3と補正Y軸データY3を出力する。
【0029】
次に、磁気方位検出装置1の傾斜角補正部10を中心とした初期化動作を図2に基づいて詳細に説明する。説明の条件として、本発明の磁気方位検出装置1が、例えば携帯電話(図示せず)に搭載されているものとする。また、この携帯電話を使用する使用者(図示せず)が居る場所の地磁気は、図7(a)で示したように地面に対して特定の入射角φを有しているとする。ここで、この携帯電話を用いて、一例としてGPSによる地図表示を行い、ヘディングアップ表示を行うために本発明の磁気方位検出装置1を用いる場合、初期化動作として二つの作業を行う。第一の作業は、携帯電話を地面に対して水平に置いた状態(すなわち、磁気方位検出装置の傾斜角=0度)で方位検出動作を開始し、方位検出動作を継続しながら携帯電話を垂直方向に対して360度回転させる。
【0030】
これにより、磁気方位検出装置1のX軸磁気センサ3とY軸磁気センサ4は、360度の回転によって得られた地磁気を検出し、傾斜角補正部10は、AD変換部9からのX軸データP8とY軸データP9を順次記憶する。ここで記憶されたX軸データP8とY軸データP9は、傾斜角が零であるのでXY座標でプロットすると前述した如く円のグラフとなる。このプロットされた円グラフの中心点をXY座標の原点(0、0)としてキャリブレーションを実行すると、図2で示す地磁気データD0を得ることが出来る。すなわち、地磁気データD0は、図2で示すようにXY座標上に於いて円となり、その円の中心点A0はXY座標の原点となる。
【0031】
次に初期化の第二の作業は、携帯電話を地面に対して垂直に置いた状態(すなわち、磁気方位検出装置の傾斜角=90度)で方位検出動作を実行し、磁気方位検出装置1のX軸磁気センサ3とY軸磁気センサ4によって地磁気を検出する。これにより、傾斜角補正部10は、AD変換部9からのX軸データP8とY軸データP9を傾斜角90度での地磁気データとして取得する。尚、第二の作業の前提条件として、携帯電話を地面に対して垂直に置いた場合、内蔵する磁気方位検出装置1のX軸磁気センサ3が地面に対して垂直になるものとする。ここで、前述した如く、地磁気は入射角φを有しているので、垂直に置かれた携帯電話の向きがどのような方向であってもX軸データP8は原点に対して一定のシフト量となり、Y軸データP9は携帯電話の向きによって変化する。すなわち、第二の作業によって得られるX軸データP8とY軸データP9は、図2で示すX軸とシフト量X1で直交する直線の地磁気データD1となる。尚、地磁気の入射角φ=0度であるならば、X軸データP8のシフト量X1は零となるので、地磁気データD1は、Y軸と重なる直線となる。よって、地磁気データD1のシフト量X1が入射角φを示す値となる。以上のように、磁気方位検出装置1は、初期化動作として第一、及び第二の作業によって地磁気データD0、D1を取得後、実際の方位角を取得する動作に移行する。
【0032】
次に、実際の方位角取得動作を図3のフローチャートに基づいて説明する。使用者(図示せず)が携帯電話を手に携帯して方位角取得動作を実行すると、磁気方位検出装置1の地磁気取得部6は、X軸磁気センサ3とY軸磁気センサ4によって地磁気を取得し、AD変換部9よりX軸データP8、Y軸データP9を出力する(ST1:地磁気取得工程)。このとき得られたX軸データP8とY軸データP9の値をそれぞれXS、YSとし、その測定点をASとする(図2参照)。
【0033】
次に、磁気方位検出装置1の傾斜角取得部8は、傾斜センサ7によって携帯電話の傾斜角(すなわち、磁気方位検出装置1の傾斜角)を取得し、AD変換部9より傾斜角データP10を出力する(ST2:傾斜角取得工程)。
【0034】
次に、傾斜角補正部10は、傾斜角データP10の値を参照し、磁気方位検出装置1が地面に対して傾斜しているかどうかを判定する。ここで、肯定判定(傾斜有り)であれば、X軸データP8とY軸データP9の補正が必要であると判断してステップST4へ進み、否定判定(傾斜無し)であれば、X軸データP8とY軸データP9の補正が必要ないと判断してステップST7へ進む(ST3)。
【0035】
次に、ステップST3で肯定判定がなされたならば、傾斜角補正部10は、磁気方位検出装置1の傾斜角が90度の時の地磁気データD1からシフト量X1が零近傍であるかどうかを判定する。ここで、肯定判定であれば、地磁気の入射角は零近傍であり、地磁気は地面に対してほぼ水平であるのでステップST6へ進み、否定判定であれば地磁気の入射角は零近傍ではなく、地磁気は地面に対して斜めに入射しているのでステップST5へ進む(ST4)。
【0036】
次に、ステップST4で否定判定がなされたならば、地磁気は地面に対して斜めに入射しているので、測定した地磁気データのXYプロットによる楕円の中心点A2はXY座標の原点(すなわちA0)よりシフトしていると判断し、XY座標の原点に対する楕円の中心点A2のシフト量を算出する(ST5)。ここで傾斜角補正部10は、傾斜角90度での地磁気データD1から得られるX軸データP8のシフト量X1と、ステップST2で取得された傾斜角データP10から得られる傾斜角φを用いて、測定された測定点ASが重なる楕円(すなわち仮想地磁気データD2)の中心点A2のXY座標の原点に対するX軸のシフト量X2を下記の数式2で求める。
シフト量X2=90度傾斜時の地磁気データD1のシフト量X1×SINφ:数式2
ここで算出されるシフト量X2は、測定点ASから携帯電話を垂直に対して360度回転させて得られる楕円の仮想地磁気データD2(図2参照)の中心点A2を示すX軸の座標であり、中心点A2のY軸の座標Y2は、零である。
【0037】
次に、ステップST5の終了後、又は、ステップST4で肯定判定がなされたならば、傾斜角補正部10は、楕円の仮想地磁気データD2上の測定点ASの座標データXS、YSを補正し、円の傾斜補正地磁気データD3上に重なる補正X軸データX3と補正Y軸データY3を算出して出力する(ST6:傾斜角補正工程)。すなわち、傾斜補正部10はステップST2で取得された傾斜角データP10から得られる傾斜角φと、ステップST5で得られた仮想地磁気データD2の中心点A2のXY座標X2、Y2から、測定点ASのXY座標XS、YSを下記の数式3、4で補正し、補正X軸データX3と補正Y軸データY3を出力する。
補正X軸データX3=XS+(XS−X2)/COSφ:数式3
補正Y軸データY3=YS:数式4
ここで、図2のXY座標に於いて、円の傾斜補正地磁気データD3上の補正X軸データX3と補正Y軸データY3の座標を補正点A3として示している。尚、ステップST4で肯定判定がなされた場合は地磁気の入射角φは零近傍であって、測定点ASの中心点A2のシフト量X2は零、すなわち、測定点ASの中心点A2はXY座標の原点(A0)に等しい。
【0038】
次に、ステップST6の終了後、又は、ステップST3で否定判定がなされたならば、方位角演算部11は、補正X軸データX3と補正Y軸データY3に基づいて方位角データθ0を下記の数式5で算出し出力する(ST7:方位角演算工程)。
方位角データθ0=ATAN(Y/X):数式5
ここで、XとYは相対X軸データと相対Y軸データであり、前述した仮想地磁気データD2の中心点A2から見た補正点A3の相対座標であって、補正X軸データX3と補正Y軸データY3、及び中心点A2のXY座標であるX2、Y2から、X=(X3−X2)、Y=(Y3−Y2)によって与えられる。尚、ステップST3で否定判定がなされた場合は、磁気方位検出装置1の地面に対する傾斜角は零であるので、補正X軸データX3と補正Y軸データY3は、ステップST1で取得したXSとYSが代入され、また、仮想地磁気データD2の中心点A2のXY座標であるX2、Y2は共に零であって中心点A2はXY座標の原点(A0)に等しいので、方位角データθ0は、
方位角データθ0=ATAN(YS/XS):数式5´となる。
【0039】
次に、ステップST7で得られた方位角データθ0は、数学的には−90度から+90度の間になるが、実際の方位は北を基準として0度から360度になるので修正が必要である。このため、方位角修正部12はステップST7で得られる相対X軸データX、相対Y軸データYを入力して0〜360度の方位角に修正し、方位角修正データθOUTとして出力端子13より出力する(ST8:方位角修正工程)。ここで、方位角修正部12での方位角の修正を図4に基づいて説明する。まず、前提条件として、X軸の正方向が北向き(0度)、Y軸の負方向が東向き(90度)、X軸の負方向が南向き(180度)、Y軸の正方向が西向き(270度)であるとして、相対X軸データXと相対Y軸データYの値から図示する4つの領域に振り分け、下記に示す数式6〜9で方位角修正データθOUTを算出する。
【0040】
X>0、Y<0である領域1での方位修正データθOUTは、
方位修正データθOUT=−ATAN(Y/X):数式6
X<0、Y<0である領域2での方位修正データθOUTは、
方位修正データθOUT=180−ATAN(Y/X):数式7
X<0、Y>0である領域3での方位修正データθOUTは、
方位修正データθOUT=180−ATAN(Y/X):数式8
X>0、Y>0である領域4での方位修正データθOUTは、
方位修正データθOUT=360−ATAN(Y/X):数式9
以上のように、方位角修正部12は方位角データθ0の値を北を基準にして0〜360度の方位修正データθOUTに修正することが出来る。
【0041】
以上のように、本発明の磁気方位検出装置によれば、磁気方位検出装置を搭載する携帯電話等の情報機器が、地面に対して傾斜していても、初期化動作として二つの作業を実施するだけで、傾斜センサからの情報に基づいてX軸磁気センサとY軸磁気センサの値を自動的に補正するので、誤差の少ない方位角情報を得ることが出来る。また、方位角修正手段によって0〜360度の方位角に修正するので、北を基準とした方位を直接得ることが出来、どのような機器のアプリケーションに対しても簡単に搭載可能であり、利便性の高い磁気方位検出装置を提供することが出来る。
【0042】
特に本発明の磁気方位検出装置をGPS機能付き携帯電話等の携帯型電子機器に搭載してヘディングアップ表示機能等を実現する場合、使用者は携帯型電子機器を手で携帯して使用するので、携帯型電子機器を地面に対して常に水平に保持することは困難である。しかし、本発明の磁気方位検出装置は、搭載される携帯型電子機器が地面に対して傾斜した状態であっても、常に精度の高い方位角を算出し出力するので、携帯型電子機器に搭載する磁気方位検出装置としてたいへん有効である。尚、図1で示す本発明の磁気方位検出装置のブロック図は、この構成に限定されず、機能を満たすもので有ればどのような構成でも良い。例えば、各ブロックの大部分をワンチップによって成るマイクロコンピュータで構成しても良く、また、演算機能を備えたカスタムICで構成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の磁気方位検出装置のブロック図である。
【図2】本発明の磁気方位検出装置の傾斜を補正するための補正方法を説明するXY座標のグラフである。
【図3】本発明の磁気方位検出装置の動作を説明するフローチャートである。
【図4】本発明の磁気方位検出装置が算出する方位角を0〜360度の方位角に修正する動作を説明する説明図である。
【図5(a)】従来の磁気方位検出装置の平面図である。
【図5(b)】従来の磁気方位検出装置の外部磁界検出動作を説明する説明図である。
【図6】従来の磁気方位検出装置の傾きを説明する説明図である。
【図7(a)】地磁気の地面に対する入射角を説明する説明図である。
【図7(b)】従来の磁気方位検出装置の地磁気に対する回転角を説明する説明図である。
【図7(c)】従来の磁気方位検出装置の地磁気の入射角の違いによる地磁気の検出値の変化を説明する説明図である。
【図8】地磁気が地面に対して水平である場合の磁気方位検出装置の傾斜角の違いに対する地磁気検出値の変化を説明するXY座標によるグラフである。
【図9】地磁気が地面に対して入射角を持つ場合の磁気方位検出装置の傾斜角の違いに対する地磁気検出値の変化を説明するXY座標によるグラフである。
【符号の説明】
【0044】
1、30 磁気方位検出装置
2 回路基板
3 X軸磁気センサ
3a、4a コア
3b、4b 検出コイル
4 Y軸磁気センサ
5 駆動波生成部
6 地磁気取得部
7 傾斜センサ
8 傾斜角取得部
9 AD変換部
10 傾斜角補正部
11 方位角演算部
12 方位角修正部
13 出力端子
31、32 MI素子
33 基板
34,35 巻線
36,37,38 導線
I1 励磁電流
P1 励磁駆動信号
P2、P3 検出信号
P4 X軸信号
P5 Y軸信号
P6 傾斜検出信号
P7 傾斜角信号
P8 X軸データ
P9 Y軸データ
P10 傾斜角データ
X 相対X軸データ
Y 相対Y軸データ
X3 補正X軸データ
Y3 補正Y軸データ
θ0 方位角データ
θOUT 方位角修正データ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
略板状の基台にX軸方向の地磁気成分を検出するX軸磁気センサと、前記X軸方向に対して90度の角度を有するY軸方向の地磁気成分を検出するY軸磁気センサと、前記基台の傾斜を検出する傾斜センサとを固着し、一体化したことを特徴とする磁気方位検出装置。
【請求項2】
前記X軸磁気センサと前記Y軸磁気センサからの検出信号に基づいてX軸方向の地磁気成分であるX軸情報とY軸方向の地磁気成分であるY軸情報を取得する地磁気取得手段と、前記傾斜センサからの検出信号に基づいて前記基台の傾斜角情報を取得する傾斜角取得手段と、前記取得した傾斜角情報に基づいて前記X軸情報と前記Y軸情報を補正する傾斜角補正手段と、前記傾斜角補正手段によって補正された補正X軸情報と補正Y軸情報に基づいて方位角を算出する方位角演算手段と、前記算出された方位角を0〜360度の方位角に修正する方位角修正手段とを備えたことを特徴とする請求項1記載の磁気方位検出装置。
【請求項3】
略板状の基台に固着されたX軸方向の地磁気成分を検出するX軸磁気センサと前記X軸方向に対して90度の角度を有するY軸方向の地磁気成分を検出するY軸磁気センサからの検出信号に基づいて、X軸方向の地磁気成分であるX軸情報とY軸方向の地磁気成分であるY軸情報を取得する地磁気取得工程と、前記基台の傾きを検出する傾斜センサから検出信号に基づいて傾斜角情報を取得する傾斜角取得工程と、前記取得した傾斜角情報に基づいて前記X軸情報と前記Y軸情報を補正する傾斜角補正工程と、前記傾斜角補正工程によって補正された補正X軸情報と補正Y軸情報に基づいて方位角を算出する方位角演算工程と、前記算出された方位角を0〜360度の方位角に修正する方位角修正工程とを有することを特徴とする磁気方位検出装置による方位演算方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate