説明

磁気測定システム

【課題】 動揺する環境下においても南北方向、東西方向、鉛直方向の磁界を精度良く測定する磁気測定システムを提供する。
【解決手段】 3軸磁気センサと、この3軸磁気センサの動揺を測定する姿勢センサとを備え、姿勢センサにより得られた動揺情報を用いて磁気センサの測定データを南北方向、東西方向、鉛直方向の磁界に変換する磁気測定システムにおいて、3軸磁気センサのオフセット、直行度、感度及び姿勢センサと3軸磁気センサとの軸平行度のずれを、南北方向の磁界の変動と全磁力の変動が最小となるように補正し、これらの補正値を用いて3軸磁気センサの測定データを南北方向、東西方向、鉛直方向の磁界に変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、海上における船舶の磁気測定や環境磁気測定において、磁気センサが動揺していても、南北方向、東西方向、鉛直方向の磁界を精度良く測定することが可能な磁気測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、海上等の動揺する環境下において、南北方向、東西方向、鉛直方向の磁界を測定する場合、3軸磁気センサの動揺を姿勢センサを用いて測定し、この動揺情報を用いて、演算処理により南北方向、東西方向、鉛直方向に変換することができる変換式は次式のとおりである(例えば、非特許文献1参照)。
【数1】



【0003】
ここで、Hxin:磁気センサX軸出力、HYin:磁気センサY軸出力、HZin:磁気センサZ軸出力、H:南北方向磁界、H:東西方向磁界、H:鉛直方向磁界、P:姿勢センサPitch角出力、R:姿勢センサRoll角出力、Y:姿勢センサYaw角出力である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】茂原正道著、「宇宙工学入門」、培風館、1994年10月7日、p.62−65
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術では、3軸磁気センサの各軸出力を南北方向、東西方向、鉛直方向の磁界を測定する場合、磁気センサのオフセット、直行度、感度及び姿勢センサと磁気センサとの軸平行度のずれにより、数1をそのまま適用しても、東西方向、南北方向、鉛直方向の磁界を精度良く求めることは困難であった。
【0006】
本発明は、そのような問題点に着目してなされたものであって、動揺する環境下においても南北方向、東西方向、鉛直方向の磁界を精度良く測定する磁気測定システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、この発明の磁気測定システムは、3軸磁気センサと、この磁気センサの動揺を測定する姿勢センサとを備え、姿勢センサにより得られた動揺情報を用いて磁気センサの測定データを南北方向、東西方向、鉛直方向の磁界に変換する磁気測定システムにおいて、磁気センサのオフセット、直行度、感度及び姿勢センサと磁気センサとの軸平行度のずれを補正し、これらの補正値を用いて磁気センサの測定データを南北方向、東西方向、鉛直方向の磁界に変換することを特徴とする。
【0008】
この磁気測定システムによれば、従来、動揺下における3軸磁気センサ出力と姿勢センサの出力を用いて、南北方向、東西方向、鉛直方向の磁界を求めても、磁気センサのオフセット、直行度、感度及び姿勢センサと磁気センサの軸平行度のずれにより、南北方向、東西方向、鉛直方向の磁界を精度良く求めることが困難であったが、これらを求め、補正することにより、南北方向、東西方向、鉛直方向の磁界を精度良く演算処理により求めることができる。
【0009】
具体的には、磁気センサのオフセット、直行度、感度及び姿勢センサと磁気センサとの軸平行度のずれを求め、これらを補正した後に上記数1を適用することにより、精度良く東西方向、南北方向、鉛直方向の磁界を求める。磁気センサのオフセット、直行度、感度及び姿勢センサと磁気センサの軸平行度のずれは、例えば南北方向の磁界の変動と全磁力の変動が最小となるように最急降下法やGA(遺伝的アルゴリズム)等の最適パラメータ探査法にて求める。ここで、評価方法として、南北方向の磁界の変動を一例として挙げたが、東西方向や鉛直方向を評価しても良いし、それぞれを組み合わせて評価しても良い。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、従来困難であった動揺する環境下における南北方向、東西方向、鉛直方向の磁気を精度良く測定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態に係る磁気測定システムの構成例の概略構成図である。
【図2】同磁気測定システムのセンサ筐体の内部の構成を示すブロック図である。
【図3】同磁気測定システムの処理概要を示すフロー図である。
【図4】同磁気測定システムに用いる3軸磁気センサの出力を示す図である。
【図5】同磁気測定システムに用いる3軸磁気センサの出力を数1を用いて南北方向、東西方向、鉛直方向の磁界に変換した結果を示す図である。
【図6】同磁気測定システムに用いる磁気センサのオフセット、直行度、感度及び姿勢センサと磁気センサとの軸平行度のずれを補正するための補正係数をGAを用いて求めるフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施の形態により、この発明を更に詳細に説明する。
図1は、この発明の実施形態に係る磁気測定システムの構成例を示す概略図である。センサ筐体1は、このセンサ筐体1にロープ4によって連結されたフロート2とおもり3によって、例えば海中に吊り下げられる。なお、符号5は海面を示している。
【0013】
センサ筐体1の内部には、図2に示すように、X軸、Y軸、Z軸の各磁界を測定する3軸磁気センサ10と、磁気センサ10の動揺を測定する姿勢センサ11と、磁気センサ10及び姿勢センサ11のアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D12と、例えば図6のフロー図に従って補正係数を算出する機能、求めた補正係数を用いて磁気センサ10及び姿勢センサ11の出力に数1を適用して南北方向、東西方向、鉛直方向の磁界を演算する機能等を有するCPU13と、磁気センサ10及び姿勢センサ11の出力や補正係数等を格納するメモリ14とが内蔵されている。
【0014】
図3に処理概要を示す。メモリ14に格納された磁気センサ10の出力及び姿勢センサ11の出力を補正係数計算に使用し(ステップST21)、求めた補正係数を元に、CPU13で南北方向、東西方向、鉛直方向の磁界に変換する演算処理を行う(ステップST22)。
【0015】
図4に、3軸磁気センサの出力を示す。この図で明らかなように、3軸磁気センサは、波浪や潮流により動揺し、地磁気中で姿勢や方位が変化するため、X軸、Y軸、Z軸の各出力が大きく変動する。
【0016】
図5に、3軸磁気センサの出力を上記数1を用いて南北方向、東西方向、鉛直方向の磁界に変換した結果を示す。数1の変換処理により、磁気センサの出力は、動揺下においても、南北方向、東西方向、鉛直方向の磁界に変換されるので、静止状態と等価の測定結果が得られるが、このままでは、磁気センサのオフセット、直行度、感度及び姿勢センサと磁気センサとの軸平行度のずれにより、南北方向、東西方向、鉛直方向の磁界を精度良く求めることが困難となる。すなわち、図5の変換後のグラフに楕円印で示すように、磁気センサのオフセット、直行度、感度及び姿勢センサと磁気センサとの軸平行度のずれが補正できていない場合、変動が大きくなる。
【0017】
この変換後の変動を解決するための一例として、図6に、磁気センサのオフセット、直行度、感度及び姿勢センサと磁気センサとの軸平行度のずれを補正するための補正係数をGAを用いて求めるフロー図の例を示す。先ず、メモリ14に格納された磁気センサ10及び姿勢センサ11の測定データを読み込む(ステップST1)。次に、GAにより、次式数2、数3に示す磁気センサ10のオフセット、直行度、感度及び磁気センサ10と姿勢センサ11との軸平行度の補正係数を設定する(ステップST2)。

【数2】

ここで、
Hx’〜Hz’ =磁気センサの測定データ
Hx〜Hz =オフセット、直交度、感度補正後 磁気データ
11、a22、a33 =感度の補正係数
12、a13、a21、a23、a31、a32 =直交度の補正係数
14、a24、a34 =オフセットの補正係数
である。
【0018】
(数3)
P=P’+Ph
P=R’+Rh
Y=Y’+Yh
ここで、
P’、R’、Y’=姿勢制御センサのデータ
、R、Y=軸平行度の補正係数
P、R、Y=補正後の姿勢データ
である。
【0019】
設定後、補正係数が有用であるかどうか評価する(ステップST3〜ST8)。具体的には、ステップST3にて、X軸、Y軸、Z軸の各出力から全磁力[(H+H+H1/2]を計算し、ステップST4にて、全磁力のPeak to Peak値(差値)を求める。次いで、スッテプST5にて、例えば南北方向の磁界を計算し、ステップST6にて、南北方向の磁界変換後のPeak to Peak値を求める。続いて、スステップST7にて、適合度を計算する。すなわち、上記の全磁力のP-P値と南北方向のP-P値とが最小となるように適合度を計算し、ステップST8にて、収束条件を満たしているかどうか(最小となったかどうか)評価を行う。満たしていない場合は、ステップST9に進み、各Peak to Peak値が最小となるようにパラメータを変えるために補正係数をGAオペレータにて設定し直す。収束条件を満たした場合は、ステップST10にて、求めた補正係数をメモリ14に保存する。
【0020】
以上の処理により、図3に示すように、補正係数を求め(ステップST21)、補正後の補正係数に基づいて姿勢センサ及び磁気センサ出力に数1を適用することにより(ステップST22)、南北方向、東西方向、鉛直方向の磁界を精度良く求めることができる。
【0021】
なお、この例では、補正係数を求めるためにGAを用いたが、最急降下法やSA(焼き鈍し法)等、他の最適パラメータ探査法を用いても良い。また、図3や図6のフロー図に示す処理は、センサ筐体1内のCPU13で実行してもよいし、例えば海上の船舶内に設けたコンピュータにセンサ筐体1からの信号を取り込み、船舶内のコンピュータで計算を行ってもよい。
【符号の説明】
【0022】
1 センサ筐体
2 フロート
3 おもり
4 ロープ
5 海面
10 磁気センサ
11 姿勢センサ
12 A/D
13 CPU
14 メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3軸磁気センサと、この磁気センサの動揺を測定する姿勢センサとを備え、姿勢センサにより得られた動揺情報を用いて磁気センサの測定データを南北方向、東西方向、鉛直方向の磁界に変換する磁気測定システムにおいて、
磁気センサのオフセット、直行度、感度及び姿勢センサと磁気センサとの軸平行度のずれを補正し、これらの補正値を用いて磁気センサの測定データを南北方向、東西方向、鉛直方向の磁界に変換することを特徴とする磁気測定システム。
【請求項2】
前記磁気センサのオフセット、直行度、感度及び姿勢センサと磁気センサとの軸平行度のずれは、南北方向、東西方向、鉛直方向のうちの少なくとも1方向の磁界の変動と全磁力の変動とが最小となるように補正することを特徴とする請求項1記載の磁気測定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−47910(P2011−47910A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−199025(P2009−199025)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(390014306)防衛省技術研究本部長 (169)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】