説明

磁気粘性グリース組成物

【課題】組成物の熱安定性、分散安定性及び磁気レオロジー特性を改良した磁気粘性グリース組成物を提供すること。
【解決手段】下記(a)〜(c)の成分を含有する磁気粘性グリース組成物:
(a) 基油中にエーテル系合成油を少なくとも30質量%含有する基油、
(b) 脂肪族ジウレア系増ちょう剤、及び
(c) 組成物の全量を基準として45〜95質量%の磁性粉体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のバンパー、サスペンション、介護用ロボットの関節部、リハビリ器具、制震装置、安全ロック機構などに利用するのに適した磁気粘性グリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気粘性流体は磁力を変化させることにより、粘性が低い状態から高い状態に変化する性質を持っている。したがって、磁気粘性流体の粘性を衝撃力の強さに対応した吸収の強さに思い通りに変化させることが出来る。気体・液体・固体の三相において発生する全ての衝撃を吸収することが可能である。磁気がない場合は粘度が低い状態であり、バネに例えるなら軟らかいバネと同じ状態であり、また磁気が有る場合は磁力の強さにより粘度が徐々に高くなり、バネにたとえるならその硬さを増していく状態である。
このように磁気粘性流体は衝撃力を吸収する効果があることから、バネやダンパーのような役割をする。衝撃力吸収効果が必要な装置においては、磁力を変化させることにより、粘度を高い状態から低い状態に変化させて思い通りに衝撃力を吸収することを可能にする。また、一定の律動をしているピストン運動装置において、ピストン運動の動きを自由に変化させたい場合、状況の変化に対応して粘性を変化させて、短時間から長時間の停止や運転の繰り返しを計画的に行うことを可能とする。
【0003】
特許文献1には磁気応答粒子、キャリヤー流体及び増粘剤からなる磁気レオロジーグリース組成物が開示されており、増粘剤の一例としてポリウレアが開示されている。また、特許文献2にはウレア系グリース、特にジフェニルエーテルのアルキル置換体とウレア化合物とを含むウレア系グリース、分散媒及び磁性粒子を含有する磁気粘性流体が開示されている。しかし、磁性粒子の分散安定性及び磁気レオロジー特性が不十分であり、更なる改良が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6547986号明細書
【特許文献2】特開2006−253239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、組成物の熱安定性、分散安定性及び磁気レオロジー特性を改良した磁気粘性グリース組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明により、以下のグリース組成物を提供する:
1.下記(a)〜(c)の成分を含有する磁気粘性グリース組成物:
(a) 基油中にエーテル系合成油を少なくとも30質量%含有する基油、
(b) 脂肪族ジウレア系増ちょう剤、及び
(c) 組成物の全量を基準として45〜95質量%の磁性粉体。
2.(b) 脂肪族ジウレア系増ちょう剤が、下記式(1)で表される前記1記載の磁気粘性グリース組成物。
R1NH-CO-NH-C6H4-p-CH2-C6H4-p-NH-CO-NHR1′ (1)
(式中、R1及びR1′は独立して炭素数6〜20の直鎖又は分岐アルキル基である。)
3.(a) エーテル系合成油がアルキルジフェニルエーテル油である前記1又は2記載の磁気粘性グリース組成物。
4.(c) 磁性粉体が鉄及び鉄化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種類である前記1〜3のいずれか1項記載の磁気粘性グリース組成物。
5.(c) 磁性粉体の平均粒径が0.1〜10μmである前記1〜4のいずれか1項記載の磁気粘性グリース組成物。
6.(c) 磁性粉体が強磁性粉体である前記1〜5のいずれか1項記載の磁気粘性グリース組成物。
7.(c) 強磁性粉体が鉄粉である前記6項記載の磁気粘性グリース組成物。
8.さらに(d)酸化防止剤を含有する前記1〜7のいずれか1項記載の磁気粘性グリース組成物。
9.(d) 酸化防止剤がアミン系酸化防止剤である前記8項記載の磁気粘性グリース組成物。
10.(d) アミン系酸化防止剤がアルキルジフェニルアミン及び/又はα-ナフチルアミンである前記9項記載の磁気粘性グリース組成物。
11.混和ちょう度が250〜450である前記1〜10のいずれか1項記載の磁気粘性グリース組成物。
12.前記1〜11のいずれか1項記載の磁気粘性グリース組成物を繰り返し運動部に封入した装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、熱安定性、分散安定性及び磁気レオロジー特性に優れた磁気粘性グリース組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔(a)基油〕
本発明に使用する基油は、少なくとも30質量%のエーテル系合成油を含有する。エーテル系合成油としては、アルキルジフェニルエーテル、ポリプロピレングリコール、パーフルオロアルキルエーテル油等があげられる。アルキルジフェニルエーテル系合成油が好ましい。
基油は、上記エーテル系合成油を単独で使用しても、その他の基油を加えて使用しても良い。エーテル系合成油と併用する基油は特に限定されない。具体的には、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油;ジオクチルセバケート等のジエステル、ポリオールエステルに代表されるエステル系合成油;ポリ−α−オレフィン、ポリブテンに代表される合成炭化水素油;シリコーン油;フッ素化油など各種の基油を使用することができる。
他の基油を含む場合、基油の全量を基準にして、エーテル系合成油を少なくとも30質量%含むが、少なくとも50質量%含むのが好ましい。さらには、エーテル系合成油100質量%の基油が最も好ましい。
基油の40℃の動粘度は、60〜140mm2/sであることが好ましく、80〜120mm2/sであることがより好ましい。粘度が低すぎると、十分な油膜を構成できず、疲労寿命への悪影響が懸念され、粘度が高すぎると、低温性への悪影響が懸念される。
本発明の組成物中、基油の含有量は3〜50、好ましくは5〜25質量%であり、特に好ましくは10〜30質量%であり、さらに好ましくは10〜25質量%である。
【0009】
〔(b)増ちょう剤〕
本発明に用いる増ちょう剤は、脂肪族ジウレア系増ちょう剤である。下記一般式(1)で表されるものが好ましい。
R1NH-CO-NH-C6H4-p-CH2-C6H4-p-NH-CO-NHR1′ (1)
式中、R1及びR1′は、同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数6〜20、好ましくは炭素数8〜20、より好ましくは炭素数8〜18の直鎖又は分岐、好ましくは直鎖アルキル基である。R1及びR1′が同一であるのが好ましい。
脂肪族ジウレア増ちょう剤は、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネートと、脂肪族モノアミンとを反応させることにより得ることができる。脂肪族モノアミンの好ましい具体例としては、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン又はこれらの混合物が挙げられる。特に、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミンが好ましい。オクチルアミンが最も好ましい。
増ちょう剤の含有量は、本発明の組成物のちょう度を通常250〜450、好ましくは280〜415に調整するのに必要な量であるのが好ましく、組成物の全質量に対して、通常0.01〜5質量%、好ましくは0.1〜3質量%である。
【0010】
〔(c)磁性粉体〕
本発明で用いる磁性粉体としては、磁性を有するものであれば特に限定されない。例えば、鉄、酸化鉄、炭化鉄、窒化鉄、金属含有鉄合金、カルボニル鉄等の鉄化合物、低炭素鋼、二酸化クロム、ニッケル、コバルト、ガドリニウム、ガドリニウム有機誘導体などである。これらの磁性粉体単独又は2種類以上を混合して使用してもよい。このうち、鉄及び鉄化合物が好ましい。鉄及びカルボニル鉄がより好ましい。鉄粉がさらに好ましい。
本発明で用いる磁性粉体としては商業的に入手できるものを使用することができる。例えば、International Specialty Products社からCIPの名称で販売されているものを使用することができる。磁性粉体は強磁性粉体であると一層好ましい。
磁性粉体の数平均粒径は0.1〜10μmであるのが好ましく、1〜10μmであるのがより好ましく、5〜10μmであるのがさらに好ましい。粒径がこのような範囲にあると、必要とする磁気粘性を示すので好ましい。本発明において、磁性粉体の数平均粒径は公知の方法にて測定が可能である。例えば、電子顕微鏡写真から磁性粉体の大きさを測定することにより、磁性粉体の数平均粒径を得ることができる。また、磁性粉体が非球状の場合、長径と短径の平均値を1粒子の粒径として数平均粒径を算出する。
本発明の組成物中、磁性粉粒体の含有量は、45〜95質量%であり、45〜90質量%であるのが好ましく、65〜90質量%であるのがさらに好ましい。
【0011】
〔酸化防止剤〕
本発明の組成物は、酸化防止剤を含有してもよい。酸化防止剤はその効果により、単独又は2種類以上の混合で使用しても良い。酸化防止剤としては、アミン系、フェノール系及びキノリン系等があり、代表的なものは下記のとおりである。アミン系酸化防止剤としては、α-ナフチルアミン、フェニルα-ナフチルアミン、アルキルフェニルα-ナフチルアミン、アルキルジフェニルアミンなどがあげられる。フェノール類酸化防止剤としては、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチルテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどのヒンダードフェノールなどがあげられる。キノリン系酸化防止剤としては、2,2,4−トリメチル−1,2ジヒドロキノリン重合体などがあげられる。
その中で好ましいのは、アミン系酸化防止剤であり、特に好ましいのはアルキルジフェニルアミン及びα-ナフチルアミンである。
酸化防止剤の含有量は、効果及び経済性の面から、本発明の組成物の全質量に対して、通常0.1〜5質量%、好ましくは0.5〜4質量%、より好ましくは1〜3質量%である。
【0012】
〔任意成分〕
本発明の組成物は、更に、分散剤、清浄分散剤、腐食防止剤、消泡剤、防錆剤、耐荷重添加剤などを必要に応じて含有することができる。これらの成分の使用量は、通常0.02〜3質量%程度、好ましくは0.075〜1.5質量%である。
【0013】
本発明の特に好ましい磁気粘性グリース組成物は、組成物の全質量を基準として、
(a)基油の含有量が3〜50質量%であり、好ましくは5〜25質量%であり、特に好ましくは10〜30質量%であり、さらに好ましくは10〜25質量%であり、
(b)増ちょう剤の含有量が0.1〜3質量%であり、
(c)鉄及び鉄化合物からなる群から選ばれる磁性粒粉体の含有量が45〜95質量%であり、好ましくは45〜90質量%であり、さらに好ましくは65〜90質量%であり、及び
(d)アミン系酸化防止剤の含有量が1〜3質量%である組成物である。
【0014】
本発明のさらに特に好ましい磁気粘性グリース組成物は、上記の特に好ましい態様において、
(a)基油がアルキルジフェニルエーテル油100%であり、
(b)脂肪族ジウレア系増ちょう剤が、上記式(1)中R1及びR1′が炭素数8の直鎖アルキル基である化合物であり、
(c) 磁性粉体が強磁性粉体であり、及び
(d)アミン系酸化防止剤がアルキルジフェニルアミンであり、その含有量が1〜3質量%である組成物である。
【実施例】
【0015】
1.グリース組成物の調製方法
・実施例1〜4
(1)70−80℃に加熱した基油50部に、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネートを分散させた−(A)
(2)別に70−80℃に加熱した基油50部に、脂肪族アミンを溶解させた−(B)
(3)AにBを加えてよく撹拌して、160−180℃まで加熱した後に冷却し、80℃以下で酸化防止剤を添加した。さらに室温まで冷却し、3本ロールを2回通して混練処理を施しグリースとした−(C)
(4)Cに磁性粉体を規定量混合し、3本ロールを2回通して磁気粘性グリースを得た。
【0016】
・比較例1
基油中で、Li(12OH)St(12-ヒドロキシステアリン酸リチウム)を混合、加熱及び溶解し、冷却してベースグリースとした。酸化防止剤と磁性粉体の所定量を基油と混合し、ベースグリースに加えてよく混ぜ、3本ロールミルで混練してグリース組成物を製造した。
・比較例2及び3
比較例2は磁性紛体減量、比較例3は基油としてエーテル油にパラフィン油とナフテン油を加えたグリース組成物を製造した。
なお、実施例1〜6及び比較例1〜3の磁気粘性グリース組成物の混和ちょう度はJIS K 2220により測定し、280〜415の範囲とした。
【0017】
(a)基油
アルキルジフェニルエーテル油:株式会社MORESCO製、商品名LB-100(40℃動粘度;100mm2/s)
エステル油:花王株式会社製、商品名KL-279(40℃動粘度;30mm2/s)
パラフィン系鉱油:40℃動粘度;100mm2/s
ナフテン系鉱油:40℃動粘度;170mm2/s
合成炭化水素油:ポリ−α−オレフィン(40℃動粘度;412mm2/s)
尚、40℃における動粘度はJIS K 2220 23.に準拠して測定した。
【0018】
(c)磁性粉粒体
強磁性粉粒体:International Specialty Products社製、商品名CIP(粒径5〜12μm)
(d)酸化防止剤
アルキルジフェニルアミン
【0019】
2.評価方法
(1)磁気特性(kPa)
磁場を発生させるコイルを内蔵した2重円筒型回転粘度計を用いて測定した。なお、表には、磁束密度T(Tesla)=0.5および0.4の時のせん断応力を記載した。
◎:せん断応力が30kPa以上
○:せん断応力が20kPa以上30kPa未満
×:せん断応力が20kPa未満
(2)分散安定性
磁気粘性グリース10mlを容量10mlのメスシリンダーに詰めて室温下に静置し、一ヶ月後にメスシリンダー上部に浮いてきた油分量を測定した。Vol%を算出する(メスシリンダーに充填したグリース量(10ml)を100とする)。
◎:3.0未満、○:3.0〜5.0未満、×:5.0以上
(3)熱安定性
直径70mmのガラス製シャーレに磁気粘性グリースを5g程度秤量し、シャーレ底面全体にできるだけ均一に延ばす。これを150℃の空気循環式恒温槽に24時間静置する。24時間後に取り出し、室温まで冷却後に秤量し、静置前後の重量差を計算して蒸発減量を求めた。
◎:1.0%未満、○:1.0%以上2.0%未満、×:2.0%以上
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の磁気粘性グリース組成物は、繰り返し運動部の動作コントロール及び衝撃の吸収・反発の効果があることから、現在考えられる用途としては、自動車のバンパー、サスペンション、介護用ロボットの関節部、制震装置、リハビリ機器、安全ロック機構などである。
本発明の磁気粘性グリース組成物は、気体と気体、気体と液体、気体と固体、液体と液体、液体と固体、固体と固体などの間で発生する全ての衝撃力を吸収するため、幅広い用途に使用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(c)の成分を含有する磁気粘性グリース組成物:
(a) 基油中にエーテル系合成油を少なくとも30質量%含有する基油、
(b) 脂肪族ジウレア系増ちょう剤、及び
(c) 組成物の全量を基準として45〜95質量%の磁性粉体。
【請求項2】
(b) 脂肪族ジウレア系増ちょう剤が、下記式(1)で表される請求項1記載の磁気粘性グリース組成物。
R1NH-CO-NH-C6H4-p-CH2-C6H4-p-NH-CO-NHR1′ (1)
(式中、R1及びR1′は独立して炭素数6〜20の直鎖又は分岐アルキル基である。)
【請求項3】
(a) エーテル系合成油がアルキルジフェニルエーテル油である請求項1又は2記載の磁気粘性グリース組成物。
【請求項4】
(c) 磁性粉体が鉄及び鉄化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種類である請求項1〜3のいずれか1項記載の磁気粘性グリース組成物。
【請求項5】
(c) 磁性粉体の平均粒径が0.1〜10μmである請求項1〜4のいずれか1項記載の磁気粘性グリース組成物。
【請求項6】
(c) 磁性粉体が強磁性粉体である請求項1〜5のいずれか1項記載の磁気粘性グリース組成物。
【請求項7】
(c) 強磁性粉体が鉄粉である請求項6記載の磁気粘性グリース組成物。
【請求項8】
さらに(d)酸化防止剤を含有する請求項1〜7のいずれか1項記載の磁気粘性グリース組成物。
【請求項9】
(d) 酸化防止剤がアミン系酸化防止剤である請求項8記載の磁気粘性グリース組成物。
【請求項10】
(d) アミン系酸化防止剤がアルキルジフェニルアミン及び/又はα-ナフチルアミンである請求項9記載の磁気粘性グリース組成物。
【請求項11】
混和ちょう度が250〜450である請求項1〜10のいずれか1項記載の磁気粘性グリース組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項記載の磁気粘性グリース組成物を繰り返し運動部に封入した装置。

【公開番号】特開2013−104037(P2013−104037A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250547(P2011−250547)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度経済産業省「磁気粘性効果を利用した高機能グリースの開発および事業化」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000162423)協同油脂株式会社 (165)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】