説明

磁気記録テープ用ポリエステルフィルム

【課題】 密度での記録が可能である大容量磁気記録テープ用ポリエステルフィルムとして、電磁変換特性に優れ、かつ磁気テープを繰り返し使用した際にドロップアウト個数が少なく耐久性が改良され、特にDVCAM、HDV用途などの高画質、高信頼性が要求される用途に好適なベースとなるポリエステルフィルムを提供すること。
【解決手段】ポリエステル層上に水溶性ポリエステル樹脂と観察平均粒径が25〜60nmとなる不活性粒子とを含む皮膜層が設けられ、この皮膜層が設けられた側に磁性層を形成する磁気記録テープ用ポリエステルフィルムであって、前記皮膜層は水溶性ポリエステル樹脂を皮膜層の総質量に対し70〜85質量%含有し、かつ7〜25mg/mの固形分質量にて設けられてなり、前記皮膜層が設けられた側の表面(以下、表面Iという)の前記不活性粒子に起因する突起の個数密度が0.5万〜50万個/mmであり、表面Iの平均面粗さRaが2.5〜5.5nmであり、表面Iの十点平均粗さRz(nm)とRaとが25>Rz/Ra>13を満足している磁気記録テープ用ポリエステルフィルムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気記録テープ用ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートフイルムに代表されるポリエステルフィルムは、その優れた物理的、化学的特性の故に広い用途に、特に磁気記録媒体のベースフィルムとして用いられている。
【0003】
金属薄膜型磁気記録媒体の一つとして、1995年に実用化された民生用デジタルビデオテープ、デジタルビデオカセット(DVC)テープは、厚さ6〜7μmのベースフィルムの片側表面上に、Coの金属磁性薄膜を真空蒸着により設け、その表面にダイヤモンド状カーボン膜をコーティングしてなり、DVミニカセットを使用したカメラ一体型ビデオの場合には基本仕様(SD仕様)で1時間の録画時間をもつ。また、この民生用DVフォーマットを用いて、テープ走行速度を1.5倍に上げ、記録トラック幅をDVの10μmから15μmへと広幅化し、業務用途に要求される高画質、高信頼性を実現した同一テープ幅(1/4インチ)のDVCAMフォーマットが1996年に開発された。DVCAMフォーマットは高画質・高音質で小型・軽量化を実現した業務用VTRとして、また優れたダンピング特性、高品位の編集性能など業務用途に優れ、企業、プロダクション、ケーブルテレビ、ビデオジャーナリストの間で極めて高い評価を得ている。そのベースフィルムとしては、(1)ポリエステルフィルムの片面Aに高さ10〜50nmの微細表面突起が300万〜9,000万個/mm設けられてなるポリエステルフィルムであって、該ポリエステルフィルムの表面Aに存在する高さ50〜120nmの表面突起が4万個/mm以下、高さ120nmを越える表面欠陥が400個/100cm以下であるポリエステルフィルム(例えば特許文献1参照)、(2)ポリエステル層Aの一方の面が、水性ポリエステル樹脂からなる連続皮膜Cで被覆されたポリエステルフィルムであり、皮膜Cが平均粒径10〜50nm、体積形状係数0.1〜π/6の不活性粒子Cを0.5〜30重量%含有し、皮膜Cの厚みが3〜50nmであり、皮膜Cを形成する水性ポリエステル樹脂が1万以上100万以下の数平均分子量を有し、該フィルムの皮膜C側の表面粗さWRaが0.1〜4nmであり、かつ該フィルムを120℃で30分間保持したときに皮膜Cの表面に析出する異物の数が1,000個/mm以下であるポリエステルフィルム(例えば特許文献2参照)等が用いられている。
【0004】
さらに、2001年秋にMICRO MV規格のDVミニカセットに比べ容積比30%の大きさで1時間の録画時間を有するビデオ規格が登場した。この新しいビデオ規格はDVCと同じ蒸着テープを用いるデジタル記録であるが、画像圧縮方式はDVC規格のDV圧縮ではなくMPEG2圧縮であり、テープ幅は6.35mmから3.8mmに、最短記録波長は0.49μmから0.29μmに、トラックピッチはDVの10μm、DVLPの6.7μmから5μmと変わり、大幅に高密度化されている。蒸着テープの磁性層はDVCのCo酸化膜厚さの160〜220nmからMICRO MVテープではCo酸化膜厚さが50nmと大幅に薄膜化されている。この高密度記録、再生を可能としたのは再生用に磁気抵抗効果型磁気ヘッド(MRヘッド)を適用したからである。このMRヘッドは、磁気記録媒体からの微小な漏洩磁束を高感度に検出することができるという特性を有するため、磁気記録層の薄層化を進めることにより、低ノイズ化することが可能になり、面記録密度の向上を図ることが可能になる。
【0005】
しかしながら、このMRヘッドの適用にあたり、デジタル記録方式の上記(1)、(2)のようなベースフィルムを用いることは可能であるが、(2)のような連続皮膜を有するベースフィルムから作成した磁気テープでは、記録ヘッドによる磁気テープ表面の摩耗耐久性と磁気テープ表面の磁性層による再生MRヘッドの走行耐久性の問題の両立が困難である。すなわちMRヘッドの金属薄膜の膜厚は20nm程度と非常に薄く、非常に削れやすいので、DVCテープ、特にDVCAMやHDV用途などの高画質、高信頼性が要求される用途に適用した場合、上記(2)の従来ベースから作成したテープではMRヘッドの走行寿命が極端に短くなり(連続再生100時間程度)、頻繁なMRヘッド交換が必要となる。また、磁気テープの磨耗耐久性も低下する。再生MRヘッドの走行耐久性を向上させるために上記(1)のように50〜120nmの表面突起を有するベースフィルムから磁気テープを作製する手法では、MRヘッドの走行耐久性は向上するものの、磁気ヘッドとのスペーシングロスにより電磁変換特性が低下表面の皮膜層中微細粒子が脱落し、磁気テープのドロップアウトが増加する問題が発生する。上記(1)、(2)のようなベースフィルムはいずれも、ポリエステルフィルムの片側表面に高分子化合物と微細粒子からなる皮膜が形成されており、磁気テープの耐摩耗性の向上には、テープ走行中の削れによる微細粒子の脱落という問題があった。
【0006】
さらに微細粒子の脱落を軽減させる方法として、(3)ポリエステルフィルムの一方の片側表面に微細粒子と有機化合物を含有する被膜が形成されており、該被膜の表面Aに前記微細粒子による微細表面突起が存在し、該微細粒子の粒径が10〜50nmであり、該微細表面突起の個数が300万〜9,000万個/mmであり、該微細粒子が前記被膜の表面Aよりd/2(nm)以下(ここでdは前記微細粒子の粒径(nm)である)の高さで露出しているポリエステルフィルム(例えば特許文献3参照)がある。(3)のベースフィルムをDVCAM用途などに用いることは可能であるが、粒子の脱落を軽減させるために被膜層を厚くすると、微細粒子が突出せず、結果として磁気テープの表面が平滑となり、磁気ヘッドの走行寿命が極端に短くなる。すなわち、(3)のベースフィルムのように、表面の被膜を厚くすることなく被膜層中の微細粒子の脱落を防止することで磁気ヘッドおよび磁気テープの磨耗耐久性を向上させ、かつ電磁変換特性を両立する手段が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−25105号公報
【特許文献2】特開2002−160336号公報
【特許文献3】特開2002−50025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記した従来の問題を解決し、高密度での記録が可能である大容量磁気記録テープ用ポリエステルフィルムとして、磁気ヘッドとの走行耐久性、スチル耐久性を大幅に改良し、繰り返し使用してもドロップアウトが増加することがなく、特にDVCAM、HDVなどの高画質、高信頼性が要求される業務用VTR用途に好適なベースとなるポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するための本発明は以下の特徴を有する。
【0010】
(1)ポリエステル層上に水溶性ポリエステル樹脂と観察平均粒径が25〜60nmとなる不活性粒子とを含む皮膜層が設けられ、この皮膜層が設けられた側に磁性層を形成する磁気記録テープ用ポリエステルフィルムであって、前記皮膜層は水溶性ポリエステル樹脂を皮膜層の総質量に対し70〜85質量%含有し、かつ7〜25mg/mの固形分質量にて設けられてなり、前記皮膜層が設けられた側の表面(以下、表面Iという)の前記不活性粒子に起因する突起の個数密度が0.5万〜50万個/mmであり、表面Iの平均面粗さRaが2.5〜5.5nmであり、表面Iの十点平均粗さRz(nm)とRaとが25>Rz/Ra>13を満足している磁気記録テープ用ポリエステルフィルム。
【0011】
(2)水溶性ポリエステル樹脂がスルホン酸基又はその塩を含有している、上記(1)に記載の磁気記録テープ用ポリエステルフィルム。
【0012】
(3)不活性粒子が球状シリカ粒子である、上記(1)または(2)に記載の磁気記録テープ用ポリエステルフィルム。
【0013】
(4)不活性粒子がスチレン、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、ジビニルベンゼンの重合体およびジビニルベンゼンの共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種の高分子粒子である、上記(1)または(2)に記載の磁気記録テープ用ポリエステルフィルム。
【0014】
(5)水溶性ポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)が5,000〜40,000である、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の磁気記録テープ用ポリエステルフィルム。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電磁変換特性に非常に優れ、且つ磁気ヘッドとの走行耐久性が良好な超高密度磁気記録テープの製造が可能となる。
【0016】
また、本発明の磁気記録テープ用ポリエステルフィルムを用いると、超高密度にデジタル記録することが可能であり、かつ繰り返し走行させても走行耐久性が良好であるMRヘッド対応の磁気記録テープを製造することができる。特に、DVCAM、HDV用途などの高画質、高信頼性を実現するため厳しい耐久性が要求される用途のベースフィルムとして使用すると優れた結果を得ることができ、好適である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明においてポリエステル層(ポリエステルフィルム)を構成するポリマー(構成成分)は、分子配向により高強度フィルムを形成するポリエステルであればよい。中でもポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(ポリエチレン−2,6−ナフタレート)を構成成分として含んでいることが好ましい。このポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートは、それぞれ、全構成成分の80モル%以上がエチレンテレフタレートまたはエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートであることが好ましい。エチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート以外の共重合成分としては、例えばジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、p−キシレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどのジオール成分、アジピン酸、セバシン酸、テレフタル酸(ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートの場合)、フタル酸、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸(ポリエチレンテレフタレートの場合)、2,7−ナフタレンジカルボン酸などのジカルボン酸成分、トリメリット酸、ピロメリット酸などの3官能以上の多価カルボン酸成分、p−オキシエトキシ安息香酸などが挙げられる。上記ポリエステルは、また、ポリエステルとは非反応性のスルホン酸のアルカリ金属塩誘導体、該ポリエステルに実質的に不溶なポリアルキレングリコールなどの少なくとも一つが5質量%を超えない範囲で混合してもよい。
【0018】
本発明において磁性面を形成する側の表面(ポリエステル層上に後述する皮膜層が設けられた面。以下、表面Iという)とは、磁気テープを製造する際に磁性層を設け、磁気記録をする側の面である。
【0019】
本発明におけるポリエステル層は単層構造のフィルムであっても、共押出法等による二層以上の多層構造を有するフィルムであってもよい。例えば、二層構造フィルムの場合は、磁性層形成面側ポリエステル(以下ポリエステルPとする)とその反対側のポリエステル(走行面側、以下ポリエステルQとする)からなり、ポリエステルPは実質的に不活性粒子を含有してもしなくてもよいが、ポリエステルP内の不活性粒子同士の凝集の観点から、不活性粒子を含有しないことが好ましい。不活性粒子を含む場合は、ポリエステルP内の不活性粒子の凝集による粗大突起が磁気テープの精密な表面設計を妨げる要因となる。この粗大突起の影響で、磁気テープにした際に電磁変換特性が大幅に低下することがある。ポリエステルQはフィルムの巻取り性の観点より不活性粒子を含有することが好ましい。ポリエステルP、Qは同じ種類でも異なる種類であってもよい。
【0020】
ポリエステルPに不活性粒子を含有させる場合、ポリエステルに含有させる好ましい不活性粒子としては、例えば、(1)耐熱性ポリマー粒子(例えば、架橋シリコーン樹脂、架橋ポリスチレン樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、架橋ポリエステルなどからなる粒子)、(2)金属酸化物(例えば、酸化アルミニウム、二酸化チタン、二酸化ケイ素(シリカ)、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウムなど)、(3)金属の炭酸塩(例えば、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなど)、(4)金属の硫酸塩(例えば、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなど)、(5)炭素(例えば、カーボンブラック、グラファイト、ダイヤモンドなど)、および(6)粘土鉱物(例えば、カオリン、クレー、ベントナイトなど)などのような無機化合物からなる粒子が挙げられる。これらのうち、架橋シリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン樹脂粒子、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂粒子、ポリアミドイミド樹脂粒子、その他酸化アルミニウム(アルミナ)、二酸化チタン、二酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、合成炭酸カルシウム、硫酸バリウム、ダイヤモンド、またはカオリンからなる粒子が好ましい。さらに好ましくは、架橋シリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン樹脂粒子、その他酸化アルミニウム(アルミナ)、二酸化チタン、二酸化ケイ素、または炭酸カルシウムからなる粒子である。これらの不活性粒子は1種または2種以上を混合して使用してもよい。また界面活性化剤、帯電防止剤、各種エステル成分等、異なる成分を添加させてもよい。
【0021】
ポリエステルQに含有させる好ましい不活性粒子としては、例えば、(1)耐熱性ポリマー粒子(例えば、架橋シリコーン樹脂、架橋ポリスチレン樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、架橋ポリエステルなどからなる粒子)、(2)金属酸化物(例えば、酸化アルミニウム、二酸化チタン、二酸化ケイ素(シリカ)、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウムなど)、(3)金属の炭酸塩(例えば、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなど)、(4)金属の硫酸塩(例えば、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなど)、(5)炭素(例えば、カーボンブラック、グラファイト、ダイヤモンドなど)、および(6)粘土鉱物(例えば、カオリン、クレー、ベントナイトなど)などのような無機化合物からなる粒子が挙げられる。これらのうち、架橋シリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン樹脂粒子、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂粒子、ポリアミドイミド樹脂粒子、その他酸化アルミニウム(アルミナ)、二酸化チタン、二酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、合成炭酸カルシウム、硫酸バリウム、ダイヤモンド、またはカオリンからなる粒子が好ましい。さらに好ましくは、架橋シリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン樹脂粒子、その他酸化アルミニウム(アルミナ)、二酸化チタン、二酸化ケイ素、または炭酸カルシウムからなる微粒子である。これらの不活性粒子は1種または2種以上を混合して使用してもよい。また界面活性化剤、帯電防止剤、各種エステル成分等、異なる成分を添加させてもよい。
【0022】
本発明においては、ポリエステル層上に後述する皮膜層を設けて表面Iを構成しており、その皮膜層は、水溶性ポリエステル樹脂を皮膜層の総質量に対し70〜85質量%含有し、その他の水溶性または水分散性高分子を構成成分とすることが好ましい。
【0023】
水溶性ポリエステル樹脂としては、酸成分とグリコール成分が重縮合したポリエステルであって、スルホン酸基又はその塩を含有していることが好ましく、例えば酸成分としてジカルボン酸成分のみならずスルホン酸基のような機能性酸成分を全カルボン酸成分の5モル%以上共重合せしめること、及び/又は、グリコール成分としてポリアルキレンエーテルグリコール成分を2〜70質量%共重合せしめることによって水溶性を付与したものが好ましいが、これらに限定されるものではない。スルホン酸基又はジカルボン酸としては、好ましくは5−スルホイソフタル酸、2−スルホテレフタル酸などや、それらの金属塩、ホスホニウム塩などが使用でき、5−ナトリウムスルホイソフタル酸が特に好ましい。5−ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合せしめる際の他のジカルボン酸成分としてはイソフタル酸、テレフタル酸などが好ましく、グリコール成分としてはエチレングリコール、ジエチレングリコールなどが好ましい。また、ポリエステル鎖にアクリル重合体鎖を結合させたグラフトポリマー又はブロックコポリマー、あるいは2種のポリマーがミクロな粒子内で特定の物理的構成(IPN、コアシェル)を構成したアクリル変性ポリエステル樹脂も含まれる。
【0024】
表面I側に設けられた皮膜層の水溶性ポリエステル樹脂以外の構成成分の水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリエステルエーテル共重合体、水溶性ポリエステル共重合体等が好ましく挙げられ、なかでも、上記水溶性ポリエステルにセルロース誘導体の高分子ブレンド体が特に好ましい。セルロース誘導体は特にフィルム表面の微細凹凸構造の形成に寄与し、水溶性ポリエステル共重合体はセルロース誘導体とポリエステルフィルム表面との接着性向上に寄与および不活性粒子が削れて脱落することを防止する役割がある。
【0025】
水分散性高分子としては、ポリメタクリル酸メチルエマルジョン、ポリアクリル酸エステルエマルジョン等が使用できるがこれらに限定されない。
【0026】
本発明においては、表面I側に設けられた皮膜層中には観察平均粒径が25〜60nmとなる不活性粒子を含んでいる。この不活性粒子による突起は、磁気記録媒体用ベースフィルム、特にベースフィルム上に強磁性金属薄膜層を設けるようなDVC用途としては、一般的なものに比べ粒径が大きい。これは、磁気テープの繰り返し使用による、磁気ヘッドへのセルフクリーニング効果を目的としており、これによりドロップアウトが少なく、耐久性に優れた磁気記録テープを得ることができる。
【0027】
表面I側に設けられた皮膜層中に含まれる上記不活性粒子の材質としては、ポリスチレン、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、およびジビニルベンゼンから選ばれた、各単量体の重合体、あるいは共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ベンゾグアナミン、シリコーン等の有機質、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、カオリン、炭酸カルシウム、タルク、グラファイト等の無機質のいずれを用いてもよい。一般に無機質からなる粒子は硬度が高く変形しにくいため磁気ヘッドのクリーニング性に優れており、また種々のサイズの微粒子の製造が容易であることから無機質、特にシリカからなる球状シリカ粒子が好ましい。一方、有機質からなる粒子は分散性に優れており粒子同士の凝集が少ない。中でも、スチレン、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、ジビニルベンゼンの重合体およびジビニルベンゼンの共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種の高分子粒子であることが好ましい。
【0028】
また、本発明においては、上記した不活性粒子は、磁気テープにした際、磁気ヘッドとの摩擦を低減させ走行耐久性を維持する他、繰り返しの使用における磁気ヘッドへのセルフクリーニング性を向上させる役割を果たす。その観察平均粒径は上記したとおり25〜60nmである。この観察平均粒径は表面I側のフィルム上から観測される粒径の平均値であり、表面I側の皮膜中の不活性粒子に起因する突起のうち、個々の粒径が25〜60nmの範囲にある突起の平均の粒径を意味する。
【0029】
観察平均粒径が25nm未満であると、磁気テープの繰り返しの使用における、クリーニング効果が向上せず、耐久性が向上しない。一方、観察平均粒径が60nmを超えると、磁気テープの表面が粗くなり、電磁変換特性が著しく低下する。また、繰り返し使用により、不活性粒子が削れて脱落し、ドロップアウトが増加することがある。この観察平均粒径は35〜50nmが特に好ましい。
【0030】
また、不活性粒子に起因する突起密度は0.5〜50万個/mmであり、より好ましくは3〜10万個/mmである。突起密度が0.5万個/mm未満であると、粒子の存在密度が小さすぎるため、クリーニング効果が期待できない。また、50万個/mmを超えると、磁気テープの表面が粗くなり、電磁変換特性が著しく低下する上、磁気テープ繰り返しの走行で、粒子の脱落が発生し、表面が削れてのドロップアウトが増加する傾向がある。この不活性粒子に起因する突起の凝集率は10%未満であり、より好ましくは5%未満である。該突起の凝集率が10%以上であると、粗大突起により磁気ヘッドとのスペーシングロスが大きくなり電磁変換特性が著しく低下する上、磁気テープの走行で粒子の脱落によるドロップアウトの原因となる。
【0031】
また、本発明では不活性粒子を含む塗液をフィルム上に塗布して皮膜層を形成するにあたり、塗液中に平均粒径(以下、材料平均粒径という)が異なる2種以上の不活性粒子を含有せしめて、上述の観察平均粒径が25〜60nmの範囲の不活性粒子による突起を形成させてもよい。例えば、材料平均粒径が20nm未満の不活性粒子(以下、小径粒子とする)と材料平均粒径が40nm程度の不活性粒子を含む塗液を同時にフィルム表面に塗布することで、表面I上に上述の観察平均粒径を有する突起を形成させることができる。
【0032】
小径粒子の材質としては、ポリスチレン、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、およびジビニルベンゼンから選ばれた、各単量体の重合体、あるいは共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ベンゾグアナミン、シリコーン等の有機質、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、カオリン、炭酸カルシウム、タルク、グラファイト等の無機質のいずれを用いてもよい。小径粒子の材料平均粒径は20nm未満であることが好ましく、より好ましくは10〜18nmである。小径粒子に起因する突起密度は1,000万個/mm〜1億個/mmであることが好ましく、より好ましくは2,000万個/mm〜8,000万個/mmの範囲であるが、用途によっては個数が0個でもよい。小径粒子に起因する突起の凝集率は、20%未満であることが好ましく、より好ましくは12%未満である。凝集率が20%以上であると結果的に粗大突起となり、電磁変換特性が低下する。
【0033】
表面Iを形成する皮膜層は固形分質量が7〜25mg/mとなる範囲で設けられている。皮膜層の量は皮膜の厚みに比例し、その固形分質量が7mg/mを下回ると上述の不活性粒子がフィルムの加工工程および磁気テープにした際脱落しやすくなり、結果的に歩留まりを低下させたり、ドロップアウトを増加させたりする。固形分質量が25mg/mを上回ると微細粒子が皮膜内に埋まりがちとなり、磁気テープ表面が平滑となるため十分なクリーニング効果が得られず、耐久性が向上しない。
【0034】
上述のように、本発明のポリエステルフィルムの表面I側に形成される皮膜層は、水溶性ポリエステル樹脂を主成分とし、好ましくは水溶性高分子との高分子ブレンド体からなる。この水溶性ポリエステル樹脂は皮膜層の総質量に対し70〜85質量%で形成されていることが好ましい。水溶性ポリエステル樹脂の含有量が70質量%未満であると、皮膜層中の不活性粒子が脱落しがちとなり、磁気テープで繰り返し走行した際のドロップアウトが増加する。皮膜層中の不活性粒子の脱落は皮膜層を厚くすれば防止できると推測できるが、厚くすると皮膜層中の不活性粒子が皮膜内に埋まりがちとなり、耐久性が向上しない。すなわち上述の皮膜層の量と皮膜層の総質量に対する水溶性ポリエステル樹脂の量が重要であり、皮膜層中の観察平均粒径25〜60nmの不活性粒子の脱落を防ぐため、皮膜層の総質量に対する水溶性ポリエステル樹脂量を上記範囲とする。水溶性ポリエステル樹脂の含有量が70質量%未満であると皮膜層を厚くしても、粒子の脱落を防ぐことは困難であり、磁気テープの繰り返し走行によるドロップアウトの増加の原因になる。水溶性ポリエステル樹脂量が皮膜層の総質量に対して85質量%より多い場合、水溶性ポリエステル樹脂に加えて、セルロース誘導体などの高分子ブレンド体で、セルロース誘導体に起因するフィルム表面の凹凸の形成が不十分となり、磁気テープの走行耐久性が低下する傾向にある。表面I側に形成された皮膜層の総質量に対する水溶性ポリエステル樹脂の含有量は75〜80質量%がより好ましい。
【0035】
また、表面I側に設けた皮膜中の水溶性ポリエステル樹脂の分子量は数平均分子量(Mn)で5,000〜40,000であることが好ましい。数平均分子量(Mn)が5,000未満であると上述のポリエステル量で上述のような粒子の脱落を防止する効果が得られにくくなる。また40,000を超えると水溶性ポリエステル樹脂の置換基にもよるが粘度が高くなりがちであり、製膜工程でフィルム上に塗布する際のハンドリング性が劣る傾向にある。
【0036】
本発明において、表面Iの平均面粗さRa値は2.5〜5.5nmであり、より好ましくは3.5nm以上5nm未満である。Ra値が5.5nmを超えると、磁気テープの磁気ヘッドとの走行耐久性は向上するが、電磁変換特性が低下する。また、Ra値が2.5nm未満であると、電磁変換特性は良好であるが、磁気テープの繰り返し使用における磁気ヘッドとの摩擦が増え走行耐久性が低下する。表面Iの十点平均粗さRz(nm)とRa(nm)の比率は25>Rz/Ra>13である。Ra値が上述の範囲であっても、Rz/Ra値が13未満であれば、電磁変換特性は良いが走行耐久性が低下しがちなる。Rz/Ra値が25より大きい場合は、磁気テープにして走行させた際、磁気ヘッドとのスペーシングロスが大きくなりすぎるため、電磁変換特性が著しく低下する。Rz/Ra値は特に耐久性が要求される用途のテープのベースフィルム設計の表面粗さの指標となり、好ましくは20>Rz/Ra>14の範囲である。
【0037】
本発明において、表面Iの反対側の表面(以下表面IIという)には、シリコーン等の潤滑剤が含まれた、表面Iより平均面粗さRaの粗い被覆層が設けられるか、より多くの不活性粒子を含有するポリエステルQ層が積層された二層構造とするか、あるいは更にその上に粗い被覆層が設けられたものが特に好ましく用いられる。表面II側に設けられた被覆層(または上述のポリエステルQ層)により、フィルム−フィルム相互の滑り性が向上し、加工工程でのフィルムの巻取り、巻き出し等のハンドリング性が良くなる。
【0038】
表面II側に設ける被覆層としては、易滑性であって削られにくく、かつ、ポリエステルフィルムからの分解物を通さない機能を有するものであればよく、主として、水溶性高分子及び/又は水分散性高分子から構成され、好ましくは、水溶性高分子及び/又は水分散性高分子にシリコーン及びシランカップリング剤とが加わった組成物から形成されることが好ましい。被覆層に用いられる水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリエステルエーテル共重合体、水溶性ポリエステル共重合体等が使用できる。また、水分散性高分子のエマルジョンとしては、ポリメタクリル酸メチルエマルジョン、ポリアクリル酸エステルエマルジョン等が使用できる。
【0039】
シリコーンとしては、ポリジメチルシロキサン等のシロキサン結合を分子骨格にもつ有機ケイ素化合物が共有結合で多数つながった重合体が使用できる。シリコーンにより被覆層の易滑性が向上し、表面II側のフィルムの走行性、耐削れ性が確保される。またポリエステルフィルムを巻いたときのフィルム間のブロッキングが防止される。なおフッ素化合物を易滑剤として用いてもよい。
【0040】
シランカップリング剤としては、その分子中に2個以上の異なった反応基をもつ有機ケイ素単量体が挙げられ、その反応基の一つはメトキシ基、エトキシ基、シラノール基などであり、もう一つの反応基はビニル基、エポキシ基、メタアクリル基、アミノ基、メルカプト基などである。反応基としては水溶性高分子の側鎖、末端基およびポリエステルと結合するものが選ばれるが、シランカップリング剤としてビニルトリクロルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等が適用できる。シランカップリング剤はシリコーンの易滑剤層からの遊離防止に寄与し、さらに、被覆層とポリエステルとの接着性向上にも寄与する。
【0041】
本発明における磁気記録テープ用ポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムと皮膜層や被覆層を含む総厚みが4〜9μmであることが好ましく、さらには5〜8μmであることが好ましい。
【0042】
本発明におけるポリエステルフィルム(ポリエステル層)は種々の方法により製造することが可能である。例えば、二層構造の積層ポリエステルフィルムを得るには、共押出し法により製造するのが好ましく、表面Iおよび表面IIの皮膜層や被覆層の形成は塗布法により行うのが好ましい。
【0043】
以下、本発明におけるポリエステルフィルムの製造方法の例を説明する。
【0044】
押出機にて必要に応じて不活性粒子を含有させたポリエステルPを溶融状態にしてさらにそのままフィルターにて高精度濾過し、また、二層構造からなるポリエステルフィルムを得るには、別の押出機にて不活性粒子を含有させたポリエステルQを溶融状態にしてさらに別のフィルターにて高精度濾過したのち、フィードブロックにそれぞれ導き、溶融状態にて複合積層せしめる。ポリエステルPとポリエステルQとの積層厚みの比は、各層の押出機の押出量を調整することにより、所望の積層厚み比にすることができる。このようにして溶融、好ましくは積層せしめた後、融点(Tm)〜(Tm+70)℃の温度で口金より押出もしくは共押出ししたのち、10〜50℃のキャスティングドラム上で急冷固化して未延伸積層フィルムシートを得る。その後、上記未延伸積層フィルムを常法に従い、一軸方向(縦方向または横方向)に(Tg)〜(Tg+80)℃の温度(ただし、Tgはポリエステルのガラス転移温度)で2〜8倍の倍率で、好ましくは3〜7.5倍で延伸する。さらに表面I、必要に応じて表面IIに皮膜層や被覆層を形成するための塗液をフィルム表面に塗布して乾燥し、その後上記延伸方向とは直角方向に(一軸延伸方向とは直交する方向に)延伸配向させ、熱固定する製造方法により、本発明におけるフィルムを製造することができる。
【0045】
表面I側の皮膜層を形成するために塗布する塗液の固形分濃度としては0.1〜2質量%が好ましく、より好ましくは0.6〜1.6質量%である。そして塗液には本発明の効果を妨げない範囲で、他の成分、例えば他の界面活性剤、安定剤、分散剤、紫外線吸収剤、増粘剤、帯電防止剤などを添加することができる。皮膜層中に含まれる粒子に起因する突起の凝集率を10%未満とするためには、塗液のpHは8〜11に調整することが好ましい。より好ましくはpH9〜10.5である。pHが8未満であると、粒子同士が凝集しやすい傾向にあり、粗大突起の原因になる。塗液のpHを調整するには塩酸、水酸化ナトリウム水溶液などの酸・塩基成分を適量使用すればよい。また、フィルムに塗布する直前の塗液温度は12℃〜28℃、より好ましくは19℃から25℃に調整して塗布することが好ましい。塗液温度が28℃を超える状態でフィルムに塗布すると、上記皮膜成分の水溶性高分子、水分散性高分子、シランカップリング剤などの固形物が発生することがある。また、塗液温度が12℃未満であると、粒子の凝集が発生しやすい傾向にある。
【0046】
表面II側の被覆層を形成するために塗布する塗液の固形分濃度としては0.01〜1質量%が好ましく、より好ましくは0.3〜0.8質量%である。そして塗液には本発明の効果を妨げない範囲で、他の成分、例えば他の界面活性剤、安定剤、分散剤、紫外線吸収剤、増粘剤、帯電防止剤などを添加することができる。
【0047】
二軸延伸は例えば逐次二軸延伸法又は同時二軸延伸法で行うことができるが、所望するならば熱固定前にさらに縦方向あるいは横方向、またはその両方(縦と横方向)に再度延伸させ機械的強度を高めた、いわゆる強力化タイプとすることもできる。
【0048】
表面I側の皮膜層を形成するためには、前述した通り、1軸方向への延伸を終えた段階で所定組成・濃度の塗液を基層フィルム上に塗布する方法をとればよい。その塗布方法としては、ドクターブレード方式、グラビア方式、リバースロール方式、メイヤーバー方式のいずれであってもよい。表面IのRa値は皮膜層中の不活性粒子の量や材料平均粒径を調整することにより制御することができる。表面IIの被覆層の形成に関しても同様の方法を用いればよい。また、皮膜層や被覆層の厚みは、塗液の固形分濃度、塗布厚みの調整により所望値に制御することができる。
【0049】
本発明の磁気記録テープ用ポリエステルフィルムは磁気記録媒体のベースフィルムとして、特にデジタルデータを記録しMRヘッドで再生する磁気テープ用途に使用すると、高密度で記録が可能であり、かつ耐久性に優れた結果を得ることができる。特に業務用VTRなどの高画質、高信頼性が要求される用途のベースフィルムとして好適に使用することができる。
【実施例】
【0050】
本実施例で用いた測定法を以下に示す。
【0051】
(1)表面I側の皮膜層中の不活性粒子の測定
A.表面I側の皮膜層中の不活性粒子の観察平均粒径の測定
表面Iから観察平均粒径を求める場合は、皮膜表面I上に金属スパッター装置により金属蒸着層を20〜30nm(この時のスパッターの蒸着膜厚をxnmとする)で設け、走査型電子顕微鏡を用い、加速電圧5kVで入射方向垂直の条件下、倍率10万倍で観測し、面積円相当径が25〜60nmとなる少なくとも100個の突起(粒子に起因するもの)について平均値を算出し、この平均値から2xnmを減じた値をもって観察平均粒径とする。このとき、ある突起がその周辺(突起の長径程度の距離範囲内)に他の突起が存在する場合があり(粒子測定に関するC項を参照、凝集状態)、この場合、凝集状態での面積円相当径が25〜60nmであれば、その粒子群による突起を1つの突起とみなし、同手法により観察平均粒径を求める。
【0052】
B.表面Iの不活性粒子に起因する突起の個数密度の測定
表面I側の皮膜層上の、不活性粒子の個数密度は、上述A.の手法において、電子顕微鏡(好ましくは走査型電子顕微鏡)により、3万倍の拡大倍率で観察し、10枚以上の写真撮影を行うことにより測定し、撮影された写真から観察される面積円相当径が25〜60nmである突起の個数をカウントする。このとき、ある突起がその周辺(突起の長径程度の距離範囲内)に他の突起が存在する場合があり(粒子測定に関するC項を参照、凝集状態)、この場合、凝集状態での面積円相当径が25〜60nmであれば、その粒子群による突起を1つの突起とみなし、1mmあたりの粒子数に換算して、個数密度とした。
【0053】
C.表面Iの粒子に起因する突起の凝集率の測定
上記のBの突起の個数密度の観測の際に、ある突起がその周辺(突起の長径程度の距離以内)に他の突起が存在するか否かを確認し、存在する場合はその突起を凝集状態で存在する突起とみなす。この凝集状態で存在する粒子群の突起の個々の粒子数をカウントし、同じ視野内で全突起の個々の粒子数の全数で割り、凝集率(%)を求める。
【0054】
例えば、単独分散の粒子が10個、2個集まった粒子群が3個(個々の粒子は2×3=6個)、3個集まった粒子群が3個(個々の粒子は3×3=9個)存在した場合は、凝集率=((6+9)/(10+6+9))×100=60%となる。
【0055】
(2)フィルムの平均面粗さRa値、十点平均粗さRz値
フィルムの表面(I、II)の平均面粗さRa値、十点平均粗さRz値は、原子間力顕微鏡(走査型プローブ顕微鏡)を用いて測定した。具体的には、セイコーインスツルメント(株)製の卓上小型プローブ顕微鏡(“Nanopics”1000)を用い、ダンピングモードで、フィルムの表面を40μm角の範囲で原子間力顕微鏡計測走査を行い、得られる表面のプロファイル曲線よりJIS・B0601・1996・Raに相当する算術平均粗さよりRa値を、十点平均粗さよりRz値を求めた。なお、測定条件の詳細は以下のとおりである。
【0056】
測定面 表面I 表面II
測定モード ダンピングモード ダンピングモード
測定方向 幅方向 幅方向
測定領域 40×40μm 40×40μm
スキャンスピード 380s/FRAME 380s/FRAME
スキャン回数 512本 512本
振幅モード LL(20%) HH(100%)
(3)フィルム全体の総厚み
フィルム全体の総厚みはマイクロメーターにてランダムに10点測定し、その平均値を用いた。
【0057】
(4)表面I側の皮膜層の固形分質量および水溶性ポリエステル樹脂量
フィルムの表面Iにおける皮膜形成用の塗液を塗布する際、一定時間内の塗布により消費される塗液の量を求める。その一定時間内に水溶液が塗布された面積を、塗布幅とフィルム速度と塗布時間とから算出し、塗布時の水溶液消費量を塗布面積で除し、さらに、塗布した水溶液中の固形分濃度より、皮膜層の固形分量(単位:mg/m)を算出した。皮膜層の総質量に対するポリエステル樹脂の量(質量%)は、塗布時の水溶液の固形分濃度の換算より算出した。
【0058】
(5)磁気テープの特性
磁気テープの特性は以下のようにして評価した。
【0059】
本発明のフィルムの表面Iに、真空蒸着装置を用いて、コバルト−酸素皮膜を50nmの膜厚で形成した。次いで、コバルト−酸素皮膜層上に、スパッタリング法によりダイヤモンド状カーボン膜を10nmの厚さで形成させ、フッ素含有脂肪酸エステル系潤滑剤を3nmの厚さで塗布した。続いて表面II上に、カーボンブラック、ポリウレタン、シリコーンからなるバックコート層を500nmの厚さで設け、スリッターにより3.8mm幅にスリットし、リールに巻き取り磁気テープ(MICRO MVテープ)を作製した。
【0060】
A.耐久性の評価
磁気テープ(MICRO MVテープ)の走行耐久性は、市販のMICRO MV方式ビデオカメラ(MICRO MVビデオカメラ)を用いて静かな室内で録画し、1分間の再生をして画面にあらわれたブロック状のモザイク個数(ドロップアウト(DO)個数)を数えることによって、評価した。DO個数は常温(25℃)でテープ製造後の初期特性(初回のDO個数)を最初に調べた。次にテープの再生を全長にわたり200回くり返し、200回目の再生時のDO個数を測定した。
【0061】
B.電磁変換特性(C/N)の評価
上記で作製したテープについて、市販のMICRO MV方式ビデオカメラ(MICRO MVビデオカメラ)を用いて、7MHz±1MHzのC/Nの測定を行った。このC/Nを市販のMICRO MVテープと比較して、以下のように判定した。
【0062】
+3dB以上 :◎
+2dB以上〜+3dB未満 :○
+1dB以上〜+2dB未満 :△
+1dB未満 :×
次に実施例に基づき、本発明を説明する。
【0063】
[実施例1]
(ポリエステルPの製造方法)
テレフタル酸ジメチル100質量部、エチレングリコール70質量部、酢酸カルシウム0.09質量部を反応器に入れて180〜210℃にてエステル交換反応を施し、メタノールを留出させた。エステル交換反応が終了した時点でリン酸0.02質量部および三酸化アンチモン0.03質量部を添加し、引き続いて系内を徐々に減圧し、60分で1mmHg以下とした。それと同時に徐々に昇温し290℃とした。重縮合反応を2時間実施し、実質的に不活性粒子を含有しないポリエチレンテレフタレート(PET;ポリエステルP)を得た。
【0064】
(ポリエステルQの製造方法)
テレフタル酸ジメチル100質量部、エチレングリコール70質量部、酢酸カルシウム0.09質量部を反応器に入れて180〜210℃にてエステル交換反応を施し、メタノールを留出させた。エステル交換反応が終了した時点でリン酸0.02質量部および三酸化アンチモン0.03質量部を添加し、引き続いて系内を徐々に減圧し、60分で1mmHg以下とした。それと同時に徐々に昇温し290℃とした。重縮合反応を2時間実施し、その後吐出ノズルより水中に押出しカッターによって直径約5mm長さ約7mmの円柱状のチップとした。こうして得られたポリマーに数平均粒径(材料平均粒径)300nmのポリスチレン球を0.50wt%含有させポリエステルQを得た。
【0065】
得られたポリエステルP、ポリエステルQを、それぞれ170℃で3時間乾燥後、2台の押出し機に、厚みの比が6:1となるように調整して共押出しにより供給し、溶融温度280〜300℃にて溶融し、平均目開き1μmの鋼線フィルターで高精度ろ過したのち、マルチマニホールド型共押出しダイを用いて、ポリエステルPの片面にポリエステルQを積層させ、温度25℃のキャスティングドラム上にて急冷して未延伸フィルムを得た。次にこのようにして得られた未延伸フィルムを予熱し、ロール延伸法にて110℃で3倍に縦延伸した。
【0066】
縦延伸後の工程にて、表面I側の表面に表1の組成・濃度の水溶液を固形分塗布量が12mg/mとなるようメイヤーバー方式にて塗布した。
【0067】
表面I側への塗布水溶液の組成(以下、表1に記載)
水 99.2質量%
メチルセルロース 0.13質量%
水溶性ポリエステル樹脂(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1重縮合体) 0.60質量%
材料平均粒径45nmの球状シリカ粒子 1.3×10−3質量%
材料平均粒径18nmの球状シリカ粒子 3.6×10−2質量%
また、表面II側に被覆層Bを設けるため、ポリエステル層Qの外側に下記組成・濃度の水溶液を固形分塗布量が45mg/mとなるようエアナイフ方式にて塗布した。
【0068】
表面II側への塗布水溶液の組成
水 99.44質量%
メチルセルロース 0.26質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.29質量%
アミノエチルシランカップリング剤 1.1×10−3質量%
その後、ステンターにて横方向に110℃で4倍に延伸した。得られた二軸延伸フィルムを220℃の熱風で4秒間熱固定し、二軸配向ポリエステルフィルムを得た。これをスリッターで小幅にスリットし、円筒コアーにロール状に巻取り、厚さ6.3μmのポリエステルフィルムを作製した。
【0069】
得られたポリエステルフィルムの特性を表2に示す。
【0070】
[実施例2〜13、比較例1〜12]
実施例1の表面I側の塗布水溶液を表1のように変える以外は、実施例1と同様にして厚さ6.3μmのポリエステルフィルムを得た。
【0071】
得られたポリエステルフィルムの特性を表2に示す。
【0072】
[比較例13]
実施例1の表面I側の塗布水溶液の水溶性ポリエステル樹脂を「テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1重縮合体」から「アクリル変性ポリエステル」に変える以外は実施例1と同様にして厚さ6.3μmのポリエステルフィルムを得た。
【0073】
得られたポリエステルフィルムの特性を表2に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
表2から明らかなように、本発明によるポリエステルフィルムをベースフィルムに用いて製造された磁気記録テープは、電磁変換特性に非常に優れ、繰り返し走行させても走行耐久性の良好な磁気記録テープであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル層上に水溶性ポリエステル樹脂と観察平均粒径が25〜60nmとなる不活性粒子とを含む皮膜層が設けられ、この皮膜層が設けられた側に磁性層を形成する磁気記録テープ用ポリエステルフィルムであって、前記皮膜層は水溶性ポリエステル樹脂を皮膜層の総質量に対し70〜85質量%含有し、かつ7〜25mg/mの固形分質量にて設けられてなり、前記皮膜層が設けられた側の表面(以下、表面Iという)の前記不活性粒子に起因する突起の個数密度が0.5万〜50万個/mmであり、表面Iの平均面粗さRaが2.5〜5.5nmであり、表面Iの十点平均粗さRz(nm)とRaとが25>Rz/Ra>13を満足している磁気記録テープ用ポリエステルフィルム。
【請求項2】
水溶性ポリエステル樹脂がスルホン酸基又はその塩を含有している、請求項1に記載の磁気記録テープ用ポリエステルフィルム。
【請求項3】
不活性粒子が球状シリカ粒子である、請求項1または2に記載の磁気記録テープ用ポリエステルフィルム。
【請求項4】
不活性粒子がスチレン、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、ジビニルベンゼンの重合体およびジビニルベンゼンの共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種の高分子粒子である、請求項1または2に記載の磁気記録テープ用ポリエステルフィルム。
【請求項5】
水溶性ポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)が5,000〜40,000である、請求項1〜4のいずれかに記載の磁気記録テープ用ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2011−210294(P2011−210294A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74294(P2010−74294)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】