磁気記録媒体の製造方法、磁気記録媒体、磁気記録装置、及び磁気記録媒体の製造装置
【課題】多層磁気記録層の形成に際して、層界面での磁性層と非磁性層との混合層の発生を抑制しつつ、磁性層又は非磁性層と残留ガスとの反応生成物の発生を抑制すること。
【解決手段】磁気記録媒体の製造方法であって、真空チャンバ内でスパッタ処理を繰り返し実行することにより、基板上に磁性層と非磁性層とを交互に複数積層した多層磁気記録層を形成する磁気記録層形成工程を含み、磁気記録層形成工程は、各磁性層又は各非磁性層の積層を終了してから次の非磁性層又は磁性層の積層を開始するまで、所定の時間だけ、スパッタ処理の放電を停止すると共に、真空チャンバ内の到達真空度が所定値以下となるように、所定の時間中に、真空チャンバ内を排気する。
【解決手段】磁気記録媒体の製造方法であって、真空チャンバ内でスパッタ処理を繰り返し実行することにより、基板上に磁性層と非磁性層とを交互に複数積層した多層磁気記録層を形成する磁気記録層形成工程を含み、磁気記録層形成工程は、各磁性層又は各非磁性層の積層を終了してから次の非磁性層又は磁性層の積層を開始するまで、所定の時間だけ、スパッタ処理の放電を停止すると共に、真空チャンバ内の到達真空度が所定値以下となるように、所定の時間中に、真空チャンバ内を排気する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、磁気記録媒体の製造方法、磁気記録媒体、磁気記録装置、及び磁気記録媒体の製造装置に関し、特に、多層磁性層の形成に際して、層界面での磁性層と非磁性層との混合層の発生を抑制しつつ、磁性層又は非磁性層と残留ガスとの反応生成物の発生を抑制した磁気記録媒体の製造方法、磁気記録媒体、磁気記録装置、及び磁気記録媒体の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、HDD(Hard Disc Drive)等の磁気記録装置は、コンピュータのみならず、映像記録機器や携帯型音楽再生装置等にも使用されるようになり、記録装置として一層の大容量化が要求されている。これに伴って、磁気記録装置に用いられる磁気記録媒体の高記録密度化の要求が高まっている。
【0003】
高記録密度化を実現するための磁気記録媒体として、垂直磁気記録方式の磁気記録媒体(以下、「垂直磁気記録媒体」と言う。)が既に実用化されている。(例えば、特許文献1及び2参照)。垂直磁気記録媒体は、垂直磁気異方性を有する磁性層(磁気記録層)を基板上に成膜した記録媒体である。垂直記録媒体では、磁気記録層の磁化容易軸が基板面に対して垂直方向に配向されており、磁化遷移領域において隣り合う磁化どうしが向き合っていない。このため、ビット長が短くなっても磁化が安定であり、高記録密度化に適していると言える。
【0004】
ところで、垂直磁気記録媒体の更なる高記録密度化を実現しようとすれば、磁気記録層を構成する磁性粒子の微細化、及び磁性粒子相互間の磁気的な孤立化が必要である。ところが、磁性粒子の微細化を過度に行うと、磁性粒子相互間の磁気的な相互作用が大きくなる。このため、垂直磁気記録媒体の熱に対する安定性が低下し、記録ヘッドにより一旦記録された磁化が、熱的擾乱によって経時的に消失してしまう、いわゆる熱擾乱現象が発生する。
【0005】
そこで、更なる高記録密度化の実現や熱擾乱現象の回避を図るべく、磁気記録層の層構成を改良した垂直磁気記録媒体が種々検討されている。例えば、磁気記録層として、Co等の磁性層とPd等の非磁性層とを交互に複数積層した多層磁気記録層を備えた垂直磁気記録媒体が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
多層磁気記録層は、真空チャンバ内でスパッタ処理を繰り返すことによって基板上に成膜される。すなわち、磁性層及び非磁性層の原材料となるターゲットを真空チャンバ内にそれぞれ設置し、Ar(アルゴン)ガス等のスパッタガスを真空チャンバ内に導入し、カソードに高周波電力を印加してプラズマ放電させることによって、ターゲットから放出されたスパッタ粒子が、磁性層又は非磁性層として交互に基板上に積層される。
【0007】
この多層磁気記録層によれば、加熱処理を必要とせずに比較的に大きい垂直磁気異方性Kuを得ることができるため、多層磁気記録層を備えた垂直磁気記録媒体の熱に対する安定性が高くなり、垂直磁気記録媒体の更なる高記録密度化を期待することができる。
【0008】
【特許文献1】特開2000−222707号公報
【特許文献2】特開2003−323709号公報
【特許文献3】特開2003−248914号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上述した従来の垂直磁気記録媒体では、積層直後の磁性層又は非磁性層が真空チャンバ内に残留するスパッタガス(以下、「残留ガス」と言う。)に所定の期間晒されることがある。この場合、磁性層又は非磁性層と残留ガスとの反応生成物が発生し、多層磁気記録層における層界面の清浄性が悪化する。多層磁気記録層における層界面の清浄性の悪化は、高記録密度化の妨げになる。
【0010】
したがって、垂直磁気記録媒体にて多層磁気記録層を形成する際には、上記反応生成物の発生を抑制するために、一般に、磁性層と非磁性層とを交互に連続的に成膜することで、成膜直後の磁性層又は非磁性層がスパッタガスに晒される時間を極力短縮していた。
【0011】
しかしながら、磁性層と非磁性層とを交互に連続的に成膜すれば、ターゲットから放出されたスパッタ粒子が真空チャンバ内に残存している間に、次のスパッタ粒子がターゲットから放出されることがある。この場合、真空チャンバ内に残存するスパッタ粒子と、次のスパッタ粒子とが空中で混合され、その混合された状態のスパッタ粒子が、磁性層又は非磁性層として成膜される。この結果、多層磁気記録層における層界面に磁性層と非磁性層との混合層が発生する。この混合層は、垂直磁気記録媒体の一軸異方性磁界Hkを劣化させる要因となり、高記録密度化の妨げとなる。
【0012】
開示の技術は、上述した従来技術による問題点を解消するためになされたものであり、多層磁気記録層の形成に際して、層界面での磁性層と非磁性層との混合層の発生を抑制しつつ、磁性層又は非磁性層と残留ガスとの反応生成物の発生を抑制した磁気記録媒体の製造方法、磁気記録媒体、磁気記録装置、及び磁気記録媒体の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本願の開示する磁気記録媒体の製造方法は、一つの態様において、真空チャンバ内でスパッタ処理を繰り返し実行することにより、基板上に磁性層と非磁性層とを交互に複数積層した多層磁気記録層を形成する磁気記録層形成工程を含み、前記磁気記録層形成工程は、各前記磁性層又は各前記非磁性層の積層を終了してから次の非磁性層又は磁性層の積層を開始するまで、所定の時間だけ、前記スパッタ処理の放電を停止すると共に、前記真空チャンバ内の到達真空度が所定値以下となるように、前記所定の時間中に、前記真空チャンバ内を排気する。
【0014】
この態様によれば、多層磁気記録層の形成に際して、層界面での磁性層と非磁性層との混合層の発生を抑制しつつ、磁性層又は非磁性層と残留ガスとの反応生成物の発生を抑制することができる。
【0015】
なお、本願の開示する磁気記録媒体の製造方法の構成要素、表現または構成要素の任意の組合せを、方法、装置、システム、コンピュータプログラム、記録媒体、データ構造などに適用したものも上述した課題を解決するために有効である。
【発明の効果】
【0016】
本願の開示する磁気記録媒体の製造方法の一つの態様によれば、多層磁気記録層の形成に際して、層界面での磁性層と非磁性層との混合層の発生を抑制しつつ、磁性層又は非磁性層と残留ガスとの反応生成物の発生を抑制することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に添付図面を参照して、本願の開示する磁気記録媒体の製造方法、磁気記録媒体、磁気記録装置、及び磁気記録媒体の製造装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【実施例1】
【0018】
まず、図1を参照して、実施例1に係る磁気記録媒体の製造方法により製造された磁気記録媒体1の構成について説明する。図1は、実施例1に係る磁気記録媒体の製造方法により製造された磁気記録媒体1の構成を示す模式的な断面図である。図1に示すように、磁気記録媒体1は、基板10上に、裏打ち層12と、密着層14と、下地層16と、磁気記録層18と、保護層20とを、順次成膜したものである。
【0019】
基板10は、外観視で略円盤状の部材であり、例えば、ガラス及びアルミニウム合金等の非磁性かつ非晶質な材料により形成されている。基板10としては、表面の平坦性が高く、機械的強度の高いものが望ましい。なお、基板10としては、非磁性かつ非晶質な材料により形成されたものに限らず、非磁性材料の表面を非晶質材料で被覆したものであってもよい。
【0020】
裏打ち層12は、基板10上に積層されており、記録時等に稼動する磁気ヘッド(図示せず)からの磁束を当該磁気ヘッドに還流させるために形成される。この裏打ち層12は、例えば、COZrNb等の軟磁性体により形成されている。
【0021】
密着層14は、裏打ち層12上に積層されており、当該密着層14上に形成される下地層16の結晶配向性や結晶粒径を制御するために形成される。密着層14としては、例えば、Ta等が用いられる。また、密着層14の膜厚は、特に限定されるものではないが、記録再生分解能の向上や生産性の観点から、下地層16の結晶構造制御のために必要とされる最小限の膜厚とすることが好ましく、下地層16の結晶成長が充分に得られる2.0nm以上が好ましい。
【0022】
下地層16は、密着層14上に積層されており、当該下地層16上に形成される磁気記録層18の結晶配向性や結晶粒径を制御するために形成される。下地層16としては、例えば、Pd等が用いられる。
【0023】
磁気記録層18は、下地層16上に積層されており、磁性層18aと非磁性層18bとを交互に複数積層した多層磁気記録層である。また、磁気記録層18は、グラニュラ構造、すなわち、基板10に対して磁化容易軸を垂直に配向した金属結晶粒を図示しないSiO2等の非磁性体で磁気的に分離した構造を有している。また、磁気記録層18は、磁気ヘッドで発生する磁界により垂直方向に磁化されて磁気情報を保持する。
【0024】
磁性層18aとしては、Co、Feのいずれかの金属、又はその合金を主成分とする材料を用いることができ、非磁性層18bとしては、Pd、Ptのいずれかの金属、又はその合金を主成分とする材料を用いることができる。
【0025】
保護層20は、磁気記録層18上に形成されており、例えば、C等の硬度の高い材料により形成される。
【0026】
なお、本実施例では、磁気記録層18を、裏打ち層12、密着層14、下地層16を介して基板10上に形成しているが、これに限らず、基板10が非磁性かつ非晶質な材料により形成されている場合には、裏打ち層12、密着層14、下地層16を形成せずに、磁気記録層18を基板10上に直接形成しても良い。
【0027】
ここで、本実施例1に係る磁気記録媒体1の製造方法は、裏打ち層12、密着層14、下地層16、保護層20を、図2に示すスパッタ装置30を用いてスパッタ処理を実行することによって成膜する。また、磁気記録層18を、図3に示すスパッタ装置50を用いてスパッタ処理を実行することによって成膜する。以下、これらスパッタ装置30、50について説明する。
【0028】
図2は、本実施例に係る磁気記録媒体1の製造方法において、裏打ち層12、密着層14、下地層16、保護層20を形成する際に使用されるスパッタ装置30の概略構成を示す説明図である。図3は、本実施例に係る磁気記録媒体1の製造方法において、磁気記録層18を形成する際に使用されるスパッタ装置50の概略構成を示す説明図である。
【0029】
なお、図示を省略するが、本実施例に係る磁気記録媒体1の製造装置は、その内部に、裏打ち層12、密着層14、及び下地層16をそれぞれ形成する3つのスパッタ装置30、磁気記録層18を形成するスパッタ装置50、及び保護層20を形成するスパッタ装置30をこの順番で連続して配置している。そして、基板10が搬出入部(図示せず)から搬入され、各スパッタ装置30、50を一巡して搬出入部から搬出されるまでの間に、裏打ち層12、密着層14、下地層16、磁気記録層18、及び保護層20よりなる積層膜が、図1に示すように、基板10上に順次形成される。
【0030】
図2に示すように、スパッタ装置30は、真空チャンバ31を有している。真空チャンバ31は、真空ポンプ32に接続されており、真空ポンプ32の吸引によって内部を真空状態に保持している。
【0031】
真空チャンバ31内には、ターゲット電極等の電圧印加部33が設けられており、この電圧印加部33上に、裏打ち層12、密着層14、下地層16、保護層20の原材料から成るターゲット34がそれぞれ取り付けられる。
【0032】
また、真空チャンバ31内には、基板ホルダ35が配置され、この基板ホルダ35上に、ターゲット34と対向するように基板10が配置されている。基板ホルダ35は、スパッタ処理中に回転駆動部36により低速回転される。
【0033】
また、真空チャンバ31には、Arガス等の不揮発性ガスを内部に充填したガスボンベ37が流量調整バルブ38を介して接続されている。さらに、真空チャンバ31には、当該真空チャンバ31内の圧力を検出する圧力検出器39が接続されている。
【0034】
そして、真空ポンプ32、電圧印加部33、回転駆動部36、流量調整バルブ38、及び圧力検出器39は、スパッタ装置30の全体を制御する制御部30aに接続されている。
【0035】
かかる構成のスパッタ装置30では、まず、基板10を真空チャンバ31内に搬送し、搬送した基板10を基板ホルダ35に固定する。その後、スパッタ装置30の制御部30aは、真空ポンプ32を駆動して、真空チャンバ31内を高真空度に排気する。次いで、制御部30aは、流量調整バルブ38を駆動して、ガスボンベ37内のArガス等の不揮発性ガス(スパッタガス)を真空チャンバ31内に導入する。次いで、制御部30aは、回転駆動部36を駆動して、基板10を自転させつつ、電圧印加部33によりターゲット34に電圧を印加することによって、ターゲット34をスパッタ放電させる。これにより、ターゲット34から放出されたスパッタ粒子が、裏打ち層12、密着層14、下地層16、及び保護層20として基板10上にそれぞれ成膜される。
【0036】
図3に示すスパッタ装置50は、図2に示すスパッタ装置30とほぼ同様の構成を有している。スパッタ装置50がスパッタ装置30と異なる点は、電圧印加部及び制御部の構成であり、その他の構成は、基本的にスパッタ装置30と同様であるので、図3にて図2と同一物には同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【0037】
図3に示すように、スパッタ装置50では、真空チャンバ31内に、2つの電圧印加部51、52が設けられている。また、これら2つの電圧印加部51、52上に、Co等の磁性層18aの原材料から成るターゲット53aと、Pd等の非磁性層18bの原材料から成るターゲット53bとがそれぞれ取り付けられている。
【0038】
そして、真空ポンプ32、電圧印加部51、52、回転駆動部36、流量調整バルブ38、及び圧力検出器39は、スパッタ装置50の全体を制御する制御部50aに接続されている。
【0039】
制御部50aは、ターゲット53a、53bからの放電を制御する放電制御部50bと、真空チャンバ31内の到達真空度を制御する到達真空度制御部50cとを有している。なお、真空チャンバ31内の到達真空度とは、真空チャンバ31内の真空度が最も高くなった状態における真空チャンバ31内の圧力値を意味する。
【0040】
かかる構成のスパッタ装置50では、放電制御部50bは、電圧印加部51、52を駆動してターゲット53a、53bに交互に電圧を印加することにより、ターゲット53a、53bを交互に放電させる。これにより、ターゲット53a、53bから放出されたスパッタ粒子が、基板上に交互に複数積層される。
【0041】
このようにして、スパッタ装置50は、真空チャンバ31内でスパッタ処理を繰り返し実行することにより、基板10上に磁性層18aと非磁性層18bとを交互に複数積層した多層磁気記録層である磁気記録層18を形成する。
【0042】
そして、特に、本実施例のスパッタ装置50では、放電制御部50bが、各磁性層18a又は各非磁性層18bの積層を終了してから次の非磁性層18b又は磁性層18aの積層を開始するまで、所定の時間だけ、電圧印加部51、52の駆動を停止して、ターゲット53a、53bの放電を停止する。これと共に、真空チャンバ31内の到達真空度が所定値以下となるように、到達真空度制御部50cが、ターゲット53a、53bの放電停止時間中に、真空ポンプ32を駆動させることにより真空チャンバ31内を排気する。
【0043】
図4は、図3に示すスパッタ装置50におけるターゲット53a及びターゲット53bの放電タイミングを示すタイミングチャートの一例である。図4に示すように、スパッタ装置50では、ターゲット53aとターゲット53bとに交互に電圧が印加される。そして、各磁性層18aの積層を終了してから次の非磁性層18bの積層を開始するまで、言い換えると、ターゲット53aの放電を終了してから次のターゲット53bの放電を開始するまで、ターゲット53a及びターゲット53bの両方の放電を停止する放電停止時間Tstopが設定される。一方、各非磁性層18bの積層を終了してから次の磁性層18aの積層を開始するまで、言い換えると、ターゲット53bの放電を終了してから次のターゲット53aの放電を開始するまで、放電停止時間Tstopが設定される。さらに、スパッタ装置50では、真空チャンバ31内の到達真空度が所定値以下となるように、放電停止時間Tstop中に、真空ポンプ32により真空チャンバ31内を排気する。
【0044】
このように、本実施例では、磁気記録層18を形成する際に、各磁性層18a又は各非磁性層18bを積層する毎に、スパッタ処理の放電停止時間Tstopを設定するので、ターゲットから放出されたスパッタ粒子が基板10側に到達するまでの時間を充分に確保することができる。これにより、次のターゲットの放電を行う際に、前回のターゲットの放電により放出されたスパッタ粒子が真空チャンバ31内に残存することが回避される。このため、前回のターゲットの放電により放出されたスパッタ粒子と、次のターゲットの放電により放出されるスパッタ粒子とが空中で混合することが回避される。したがって、磁気記録層18の磁性層と非磁性層との層界面における磁性層と非磁性層との混合層の発生が抑制される。
【0045】
また、本実施例では、真空チャンバ31内の真空到達度が所定値以下となるように、放電停止時間Tstop中に、真空チャンバ31内を排気するので、真空チャンバ31内におけるArガス等のスパッタガスの残存量を可及的に低減できる。これにより、放電停止時間Tstop中に層界面を覆うスパッタガスの量を低減できる。したがって、磁気記録層18の磁性層と非磁性層との層界面において、スパッタガスに起因する反応生成物の発生が抑制される。
【0046】
次に、図5及び図6を参照して、本実施例に係る磁気記録媒体1の製造方法について説明する。図5は、本実施例に係る磁気記録媒体1の製造工程を示すフローチャートであり、図6は、図5に示す磁気記録形成工程を示すフローチャートである。
【0047】
図5に示すように、磁気記録媒体1の製造工程では、まず、裏打ち層形成工程、密着層形成工程、及び下地層形成工程を実行することによって、基板10上に、裏打ち層12、密着層14、及び下地層16を順次成膜する(ステップS10〜ステップS12)。
【0048】
裏打ち層12、密着層14、及び下地層16の成膜は、図2に示すスパッタ装置30を用いたスパッタ処理によりそれぞれ実行される。すなわち、Arガス等のスパッタガスが、流量調整バルブ38を介して、ガスボンベ37から真空チャンバ31内へ導入され、真空チャンバ31内のArガスのガス圧が0.7Pa以下に保持される。かかるガス圧の下で、基板10を取り付けた基板ホルダ35が自転されると共に、電圧印加部33によりターゲット34に電圧が印加されることによって、ターゲット34がスパッタ放電される。これにより、ターゲット34から放出されたスパッタ粒子が、裏打ち層12、密着層14、及び下地層16として基板10上にそれぞれ成膜される。
【0049】
次いで、磁気記録層形成工程を実行することによって、下地層16上に、磁気記録層18を成膜する(ステップS13)。磁気記録層18の成膜は、図3に示すスパッタ装置50を用いたスパッタ処理により実行される。かかる磁気記録層形成工程については、図6を参照して後に詳細に説明する。
【0050】
次いで、保護層形成工程を実行することによって、磁気記録層18上に、保護層20を成膜する(ステップS14)。保護層20の成膜は、上述した裏打ち層12、密着層14、及び下地層16の成膜と同様に、図2に示すスパッタ装置30を用いたスパッタ処理により実行される。このようにして、図1に示す磁気記録媒体1が完成する。なお、必要に応じて、保護層20の上に、潤滑剤を塗布しても良い。
【0051】
ここで、ステップS13における磁気記録層形成工程について、図6に示すフローチャートを参照して具体的に説明する。図6は、図5に示す磁気記録層形成工程の詳細を示すフローチャートである。
【0052】
図6に示すように、磁気記録層形成工程では、まず、下地層16上に、Pd等の非磁性材料から成る非磁性層18bを積層する(ステップS20)。非磁性層18bの積層は、図3に示すスパッタ装置50を用いたスパッタ処理により実行される。すなわち、Arガス等のスパッタガスが、流量調整バルブ38を介して、ガスボンベ37から真空チャンバ31内へ導入され、真空チャンバ31内のスパッタガスのガス圧が0.7Pa以下に保持される。かかるガス圧の下で、基板10を取り付けた基板ホルダ35が自転されると共に、電圧印加部51によりターゲット53bに電圧が印加されることによって、ターゲット53bがスパッタ放電される。これにより、ターゲット53bから放出されたスパッタ粒子が、非磁性層18bとして下地層16上に成膜される。
【0053】
次いで、非磁性層18bの積層を終了、すなわち、ターゲット53bの放電を終了してから、次の磁性層18aの積層を開始、すなわち、ターゲット53aの放電を開始するまで、放電停止時間Tstop(図4参照)だけ、スパッタ処理の放電を停止する。これと共に、真空チャンバ31内の到達真空度が所定値以下となるように、放電停止時間Tstop中に、真空ポンプ32によって真空チャンバ31内を排気する(ステップS21)。
【0054】
ここで、放電停止時間Tstopとしては、1秒以上5秒以内に設定されることが好ましい。放電停止時間Tstopが、1秒未満である場合は、前回のターゲットの放電により放出されたスパッタ粒子(ここでは、ターゲット53bから放出されたスパッタ粒子)が真空チャンバ31内に残存し、この残存するスパッタ粒子が、次のターゲットの放電により放出されるスパッタ粒子(ここでは、ターゲット53aから放出されるスパッタ粒子)と混合する恐れがある。このため、磁気記録層18の磁性層18aと非磁性層18bとの層界面に、磁性層18aと非磁性層18bとの混合層が発生する恐れがある。一方、放電停止時間Tstopが、5秒を超える場合は、磁気記録層18の磁性層18aと非磁性層18bとの層界面が、真空チャンバ31内に残留するスパッタガスに長時間晒されることとなり、この層界面にスパッタガスとの反応生成物が発生する恐れがある。したがって、放電停止時間Tstopは、1秒以上5秒以内に設定されることが好ましい。
【0055】
また、放電停止時間Tstop中に真空チャンバ31内を排気する際、真空チャンバ31内の到達真空度は、1×10−8Torr以下とすることが好ましい。ここで、スパッタガスのガス圧を1×10−6Torr以下とした真空チャンバ31内に、基板10上の層表面を1秒間暴露した場合にこの層表面を覆うスパッタガスの量は、暴露量として、1L(ラングミュア)と定義される。そうすると、真空チャンバ31内の到達真空度が1×10−8Torr以下となるように、真空チャンバ31内を真空排気することによって、スパッタガスの暴露量は、放電停止時間1秒当たりで0.01Lまで低減される。このため、磁気記録層18の磁性層18aと非磁性層18bとの層界面に、スパッタガスに起因する反応生成物が発生することを可及的に抑制できる。
【0056】
次いで、Pd等の非磁性材料から成る非磁性層18b上に、Co等の磁性材料から成る磁性層18aを積層する(ステップS22)。磁性層18aの積層は、非磁性層18bと同様に、図3に示すスパッタ装置50を用いたスパッタ処理により実行される。すなわち、Arガス等のスパッタガスが、流量調整バルブ38を介して、ガスボンベ37から真空チャンバ31内へ導入され、真空チャンバ31内のスパッタガスのガス圧が0.7Pa以下に保持される。かかるガス圧の下で、基板10を取り付けた基板ホルダ35が自転されると共に、電圧印加部51によりターゲット53aに電圧が印加されることによって、ターゲット53aがスパッタ放電される。これにより、ターゲット53aから放出されたスパッタ粒子が、磁性層18aとして下地層16上に成膜される。
【0057】
次いで、磁性層18aの積層を終了、すなわち、ターゲット53aの放電を終了してから、次の非磁性層18bの積層を開始、すなわち、ターゲット53bの放電を開始するまで、放電停止時間Tstop(図4参照)だけ、スパッタ処理の放電を停止する。これと共に、真空チャンバ31内の到達真空度が所定値以下となるように、放電停止時間Tstop中に、真空ポンプ32によって真空チャンバ31内を排気する(ステップS23)。ここで、放電停止時間Tstopは、1秒以上5秒以内に設定されることが好ましく、放電停止時間Tstop中に真空チャンバ31内を排気する際、真空チャンバ31内の到達真空度は、1×10−8Torr以下とすることが好ましい。
【0058】
次いで、磁性層18a及び非磁性層18bを1ユニットとした積層数nが既定数に達したか否かを判定する(ステップS24)。積層数nが既定数に達していない場合には(ステップS24:No)、処理をステップS20に戻す。一方、積層数nが既定数に達した場合には(ステップS24:Yes)、磁気記録層形成処理を終了する。
【0059】
このようにして、磁気記録層形成工程にて、スパッタ装置50は、真空チャンバ31内でスパッタ処理を繰り返し実行することにより、基板10上に磁性層18aと非磁性層18bとを交互に複数積層した多層磁気記録層である磁気記録層18を形成する。
【0060】
次に、本実施例に係る製造方法により製造された磁気記録媒体1の効果について、従来の磁気記録媒体と比較して説明する。
【0061】
[実験例1]
基板10としてガラス基板を用意し、この基板10上に、Ta膜より成る密着層14、Pd膜より成る下地層16、磁気記録層18、C膜より成る保護層20を順次成膜した。また、磁気記録層18として、真空チャンバ内でスパッタ処理を繰り返し実行することにより、基板上に磁性層であるCo層と非磁性層であるPd層とを交互に積層した多層磁気記録層(Pd(0.35)/Co(0.3))8を形成した。なお、Co層及びPd層を1ユニットしたときの磁気記録層18の積層数をnとすると、n=8である。
【0062】
また、磁気記録層18の形成に際して、各Co層(磁性層)又は各Pd層(非磁性層)の積層を終了してから、次のPd層又はCo層の積層を開始するまで、放電停止時間として5秒間だけ、スパッタ処理の放電を停止した。これと共に、真空チャンバ内の到達真空度が1×10−8Torr以下となるように、放電停止時間5秒中に、真空チャンバ内を排気した。
【0063】
このようにして、図1に示す磁気記録媒体1のうち、裏打ち層12を有さない磁気記録媒体の部分モデル体を製造した。この部分モデル体のヒステリシスループを図7に示す。なお、図7の横軸は、印加磁界(Applied Field(kOe))であり、図7の縦軸は、磁化(Magnetization(kemu/cm3))である。また、磁気記録媒体の一軸異方性磁界Hkの値は、磁化が飽和磁化Msとなった際の印加磁界の値として求められる。図7に示すように、実験例1に係る磁気記録媒体の飽和磁化Msの値は、0.72kemu/cm3となり、一軸異方性磁界Hkの値は、14.1kOeとなった。
【0064】
[実験例2]
磁気記録層18として、多層磁気記録層(Pd(0.6)/Co(0.4))5を形成し、積層数n=5とした点以外は実験例1と同様にして、図1に示す磁気記録媒体1のうち、裏打ち層12を有さない磁気記録媒体の部分モデル体を製造した。この部分モデル体のヒステリシスループを図8に示す。図8に示すように、実験例2に係る磁気記録媒体の飽和磁化Msの値は、0.59kemu/cm3となり、一軸異方性磁界Hkの値は、14.1kOeとなった。
【0065】
[従来例1]
磁気記録層18の形成に際して、放電停止時間を設定せず、Co層とPd層とを交互に連続的に積層した点以外は実験例1と同様にして、図1に示す磁気記録媒体1のうち、裏打ち層12を有さない磁気記録媒体の部分モデル体を製造した。この部分モデル体のヒステリシスループを図9に示す。図9に示すように、従来例1に係る磁気記録媒体の飽和磁化Msの値は、0.73kemu/cm3となり、一軸異方性磁界Hkの値は、10.1kOeとなった。
【0066】
[従来例2]
磁気記録層18の形成に際して、放電停止時間を設定せず、Co層とPd層とを交互に連続的に積層した点以外は実験例2と同様にして、図1に示す磁気記録媒体1のうち、裏打ち層12を有さない磁気記録媒体の部分モデル体を製造した。この部分モデル体のヒステリシスループを図10に示す。図10に示すように、従来例2に係る磁気記録媒体の飽和磁化Msの値は、0.58kemu/cm3となり、一軸異方性磁界Hkの値は、12.1kOeとなった。
【0067】
実験例1と従来例1、及び実験例2と従来例2をそれぞれ比較すると、磁気記録層18の形成に際して、放電停止時間を設定すると共に、この放電停止時間中に真空チャンバ内を排気することによって、飽和磁化Msを維持しつつ一軸異方性磁界Hkを向上する効果が得られていることが分かる。これは、従来例1及び2よりも実験例1及び2の方が、磁気記録層18の形成に際して、層界面でのCo層とPd層との混合層の発生が抑制され、かつ、Co層又はPd層とスパッタガスとの反応生成物の発生が抑制されていることを意味している。
【0068】
次に、実験例2に係る磁気記録媒体と従来例2に係る磁気記録媒体とを用いて、Pd膜より成る下地層16の膜厚が、磁気記録媒体の飽和磁化Ms及び一軸異方性磁界Hkに与える影響を検証した結果について説明する。図11は、Pd膜より成る下地層16の膜厚と、飽和磁化Ms及び一軸異方性磁界Hkとの関係について説明するための図である。なお、図11の横軸は、Pd膜より成る下地層16の膜厚(nm)である。
【0069】
図11に示すように、膜厚3nmまで下地層16を薄膜化した場合、実験例2に係る磁気記録媒体の飽和磁化Msの値は、従来例2と同程度に維持されている。一方、実験例2に係る磁気記録媒体の一軸異方性磁界Hkの値は、従来例2に比べて大きい。すなわち、従来例2よりも実験例2の方が、下地層16を薄膜化した場合に、一軸異方性磁界Hkの低下を抑制できることが分かる。
【0070】
次に、実験例2に係る磁気記録媒体と従来例2に係る磁気記録媒体とを用いて、磁気記録層18の積層数nが、磁気記録媒体の飽和磁化Ms及び一軸異方性磁界Hkに与える影響を検証した結果について説明する。図12は、磁気記録層18の積層数nと、飽和磁化Ms及び一軸異方性磁界Hkとの関係について説明するための図である。なお、図12の横軸は、磁気記録層18が多層磁気記録層(Pd(0.6)/Co(0.4))nである場合の磁気記録層18の積層数nを示しており、磁気記録層18の積層数nが大きくなるほど、磁気記録層18の膜厚が大きくなることを示す。また、図12では、膜厚3nmのPd膜より成る下地層16上に、磁気記録層18を積層するものとする。
【0071】
図12に示すように、積層数n=4まで磁気記録層18を薄膜化した場合、実験例2に係る磁気記録媒体の飽和磁化Msの値は、従来例2と同程度に維持されている。一方、実験例2に係る磁気記録媒体の一軸異方性磁界Hkの値は、従来例2に比べて大きい。すなわち、従来例2よりも実験例2の方が、磁気記録層18を薄膜化した場合に、一軸異方性磁界Hkの低下を抑制できることが分かる。これは、磁気記録媒体全体を薄膜化した場合であっても、実験例2に係る磁気記録媒体が高い一軸異方性磁界Hkを維持することができることを意味している。
【0072】
以上説明してきたように、本実施例に係る磁気記録媒体の製造方法では、各磁性層又は各非磁性層を積層する毎に、放電停止時間を設定すると共に、この放電停止時間中に真空チャンバ内を排気することによって多層磁気記録層を形成する。このため、従来例に比べて、磁気記録層の層界面における磁性層と非磁性層との混合層の発生が抑制され、かつ、磁性層又は非磁性層層とスパッタガスとの反応生成物の発生が抑制される。その結果、磁気記録媒体の磁気特性が改善され、磁気情報(磁気データ)をより一層高密度に記録することが可能となる。
【実施例2】
【0073】
次に、図13を参照して、実施例2に係る磁気記録媒体の製造方法について説明する。図13は、実施例2に係る磁気記録媒体の製造工程を示すフローチャートである。本実施例が実施例1と異なる点は、ステップS13の磁気記録層形成工程と、ステップS14の保護層形成工程との間に、ステップS13aの磁性ビット形成工程を含む点である。その他の工程は基本的に実施例1と同様であるので、図13にて図5と同一の工程については、その詳しい説明を省略する。
【0074】
垂直磁気記録媒体には、熱的安定性を向上するために、基板上に成膜した磁気記録層を微細加工して、物理的に孤立した凸状の磁性粒子(磁性ドット)を形成したものがある。このように、磁気記録層を微細加工することにより、凸状の磁性ドットを形成した垂直記録媒体は、ビットパターンドメディア(BPM)と呼ばれている。
【0075】
本実施例に係る磁気記録媒体の製造工程では、図13に示すように、磁気記録層形成工程を終了した後、磁性ビット形成工程を実行する(ステップS13a)。この磁性ビット形成工程では、ステップS13の工程で成膜した磁気記録層18を微細加工することにより、凸状の磁性ドットを形成する。以下、この磁性ビット形成工程について具体的に説明する。
【0076】
図14は、図13に示す磁性ビット形成工程の一例を説明するための図である。図14に示すように、磁性ビット形成工程では、まず、磁気記録層18上に、所定の開口パターン19aを有するレジスト19を形成する(ステップS31)。レジスト19の形成は、例えば、磁気記録層18上にレジスト膜を形成し、フォトリソグラフィ法により不要部分を除去することにより行う。
【0077】
次いで、レジスト19をマスクとして、開口パターン19aを通して磁気記録層18にエッチングを施し、磁気記録層18のうち、開口パターン19aの下側の領域を除去する(ステップS32)。このようにして、磁気記録層18のうち、レジスト19の残っている部分の下側の領域に、凸状の磁性ドット18cが形成される。その後、レジスト19を除去する。
【0078】
図15は、図13に示す磁性ビット形成工程の他の一例を説明するための図である。図15に示すように、磁性ビット形成工程では、まず、磁気記録層18上に、所定の開口パターン21aを有するレジスト21を形成する(ステップS41)。レジスト21の形成は、フォトリソグラフィ法により行う。
【0079】
次いで、レジスト21をマスクとして、開口パターン21aを通して磁気記録層18にイオンを注入し、磁気記録層18のうち、開口パターン21aの下側の領域を非磁性体18dにする(ステップS42)。このようにして、磁気記録層18のうち、レジスト21の残っている部分の下側に、すなわち、磁気記録層18のうち、非磁性体18dを除く部分に、凸状の磁性ドット18eが形成される。その後、レジスト21を除去する。
【0080】
以上説明してきたように、本実施例に係る磁気記録媒体の製造方法では、実施例1と同様の製造方法により製造された磁気記録層18を微細加工して、磁性ドット18c、又は磁性ドット18eを形成している。つまり、磁気記録層18は、各磁性層又は各非磁性層を積層する毎に、放電停止時間を設定すると共に、この放電停止時間中に真空チャンバ内を排気することによって形成されたものである。このため、実施例1と同様に、従来に比べて、磁気記録層の層界面における磁性層と非磁性層との混合層の発生が抑制され、かつ、磁性層又は非磁性層層とスパッタガスとの反応生成物の発生が抑制される。その結果、磁気記録媒体の磁気特性が改善され、磁気情報(磁気データ)をより一層高密度に記録することが可能となる。
【0081】
(磁気記録装置)
図16は、実施例1又は実施例2に係る磁気記録媒体を備えた磁気記録装置を説明するための図である。
【0082】
図16に示すように、磁気記録装置60は、その筐体内に、円盤状の磁気ディスク61と、磁気ディスク61に対して磁気情報の読み書きを行う磁気ヘッド62と、磁気ヘッド62を保持するアーム63と、アーム63を磁気ディスク61の半径方向に駆動制御するアクチュエータ64とを有し、磁気ディスク61として、実施例1又は実施例2で既に説明した構造の磁気記録媒体を採用している。
【0083】
このように構成された磁気記録装置60は、実施例1又は実施例2で既に説明した構造の磁気記録媒体を使用しているので、従来装置に比べて磁気情報をより一層高密度に記録することができる。
【0084】
さて、これまで本発明の実施例について説明したが、本発明は上述した実施例以外にも、上記特許請求の範囲に記載した技術的思想の範囲内において種々の異なる実施例にて実施されてもよいものである。
【0085】
例えば、本実施例では、非磁性層の積層を終了してから、次の磁性層の積層を開始するまでの放電停止時間と、磁性層の積層を終了してから、次に非磁性層の積層を開始するまでの放電停止時間とを同一の時間としたが、これに限らず、これら2つの放電停止時間を互いに異なる時間としてもよい。
【0086】
以上の実施例を含む実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0087】
(付記1)磁気記録媒体の製造方法であって、
真空チャンバ内でスパッタ処理を繰り返し実行することにより、基板上に磁性層と非磁性層とを交互に複数積層した多層磁気記録層を形成する磁気記録層形成工程を含み、
前記磁気記録層形成工程は、
各前記磁性層又は各前記非磁性層の積層を終了してから次の非磁性層又は磁性層の積層を開始するまで、所定の時間だけ、前記スパッタ処理の放電を停止すると共に、
前記真空チャンバ内の到達真空度が所定値以下となるように、前記所定の時間中に、前記真空チャンバ内を排気することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【0088】
(付記2)前記所定の時間は、1秒以上5秒以内であることを特徴とする付記1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0089】
(付記3)前記磁気記録層形成工程は、
前記真空チャンバ内の到達真空度が1×10−8Torr以下となるように、前記所定の時間中に、前記真空チャンバ内を排気することを特徴とする付記1または2に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0090】
(付記4)前記磁性層が、Co、Feのいずれかの金属、又はその合金を主成分とする材料からなり、かつ、前記非磁性層が、Pd、Ptのいずれかの金属からなることを特徴とする付記1〜3のいずれか1つに記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0091】
(付記5)前記多層磁気記録層を微細加工することにより、凸状の磁性ドットを形成する磁性ドット形成工程をさらに含むことを特徴とする付記1〜4のいずれか1つに記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0092】
(付記6)磁気記録媒体であって、
真空チャンバ内でスパッタ処理を繰り返し実行することにより、基板上に磁性層と非磁性層とを交互に複数積層した多層磁気記録層を有し、
前記多層磁気記録層は、
各前記磁性層又は各前記非磁性層の積層を終了してから次の非磁性層又は磁性層の積層を開始するまで、所定の時間だけ、前記スパッタ処理の放電を停止すると共に、
前記真空チャンバ内の到達真空度が所定値以下となるように、前記所定の時間中に、前記真空チャンバ内を排気することによって形成されたことを特徴とする磁気記録媒体。
【0093】
(付記7)前記所定の時間は、1秒以上5秒以内であることを特徴とする付記6に記載の磁気記録媒体。
【0094】
(付記8)前記多層磁気記録層は、
前記真空チャンバ内の到達真空度が1×10−8Torr以下となるように、前記所定の時間中に、前記真空チャンバ内を排気することによって形成されたことを特徴とする付記6または7に記載の磁気記録媒体。
【0095】
(付記9)前記磁性層が、Co、Feのいずれかの金属、又はその合金を主成分とする材料からなり、かつ、前記非磁性層が、Pd、Ptのいずれかの金属からなることを特徴とする付記6〜8のいずれか1つに記載の磁気記録媒体。
【0096】
(付記10)前記多層磁気記録層は、微細加工によって凸状の磁性ドットに形成されることを特徴とする付記6〜9のいずれか1つに記載の磁気記録媒体。
【0097】
(付記11)磁気記録装置であって、
真空チャンバ内でスパッタ処理を繰り返し実行することにより、基板上に磁性層と非磁性層とを交互に複数積層した多層磁気記録層を有する磁気記録媒体と、
前記磁気記録媒体に対して磁気情報の読み書きを行う磁気ヘッドと、を備え、
前記多層磁気記録層は、
各前記磁性層又は各前記非磁性層の積層を終了してから次の非磁性層又は磁性層の積層を開始するまで、所定の時間だけ、前記スパッタ処理の放電を停止すると共に、
前記真空チャンバ内の到達真空度が所定値以下となるように、前記所定の時間中に、前記真空チャンバ内を排気することによって形成されたことを特徴とする磁気記録装置。
【0098】
(付記12)前記所定の時間は、1秒以上5秒以内であることを特徴とする付記11に記載の磁気記録装置。
【0099】
(付記13)前記多層磁気記録層は、
前記真空チャンバ内の到達真空度が1×10−8Torr以下となるように、前記所定の時間中に、前記真空チャンバ内を排気することによって形成されたことを特徴とする付記11または12に記載の磁気記録装置。
【0100】
(付記14)前記磁性層が、Co、Feのいずれかの金属、又はその合金を主成分とする材料からなり、かつ、前記非磁性層が、Pd、Ptのいずれかの金属からなることを特徴とする付記11〜13のいずれか1つに記載の磁気記録装置。
【0101】
(付記15)前記多層磁気記録層は、微細加工によって凸状の磁性ドットに形成されることを特徴とする付記11〜14のいずれか1つに記載の磁気記録装置。
【0102】
(付記16)磁気記録媒体の製造装置であって、
真空チャンバ内でスパッタ処理を繰り返し実行することにより、基板上に磁性層と非磁性層とを交互に複数積層した多層磁気記録層を形成するスパッタ装置を備え、
前記スパッタ装置は、
各前記磁性層又は各前記非磁性層の積層を終了してから次の非磁性層又は磁性層の積層を開始するまで、所定の時間だけ、前記スパッタ処理の放電を停止すると共に、
前記真空チャンバ内の到達真空度が所定値以下となるように、前記所定の時間中に、前記真空チャンバ内を排気することを特徴とする磁気記録媒体の製造装置。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】実施例1に係る磁気記録媒体の構成を示す模式的断面図である。
【図2】実施例1に係る磁気記録媒体の製造方法で使用されるスパッタ装置の概略構成を示す説明図である。
【図3】実施例1に係る磁気記録媒体の製造方法で使用されるスパッタ装置の概略構成を示す説明図である。
【図4】図3に示すスパッタ装置における複数のターゲットの放電タイミングを示すタイミングチャートの一例である。
【図5】実施例1に係る磁気記録媒体の製造工程を示すフローチャートである。
【図6】図5に示す磁気記録層形成工程の詳細を示すフローチャートである。
【図7】実験例1に係る磁気記録媒体(部分モデル体)のヒステリシスループを示す図である。
【図8】実験例2に係る磁気記録媒体(部分モデル体)のヒステリシスループを示す図である。
【図9】従来例1に係る磁気記録媒体(部分モデル体)のヒステリシスループを示す図である。
【図10】従来例2に係る磁気記録媒体(部分モデル体)のヒステリシスループを示す図である。
【図11】下地層の膜厚と、飽和磁化Ms及び一軸異方性磁界Hkとの関係について説明するための図である。
【図12】磁気記録層の積層数と、飽和磁化Ms及び一軸異方性磁界Hkとの関係について説明するための図である。
【図13】実施例2に係る磁気記録媒体の製造工程を示すフローチャートである。
【図14】図13に示す磁性ビット形成工程の一例を説明するための図である。
【図15】図13に示す磁性ビット形成工程の一例を説明するための図である。
【図16】実施例1又は実施例2に係る磁気記録媒体を備えた磁気記録装置の構成を説明するための図である。
【符号の説明】
【0104】
1 磁気記録媒体
10 基板
18 磁気記録層(多層磁気記録層)
18a 磁性層
18b 非磁性層
18c 磁性ドット
18e 磁性ドット
31 真空チャンバ
50 スパッタ装置
60 磁気記録装置
61 磁気ディスク(磁気記録媒体)
62 磁気ヘッド
【技術分野】
【0001】
この発明は、磁気記録媒体の製造方法、磁気記録媒体、磁気記録装置、及び磁気記録媒体の製造装置に関し、特に、多層磁性層の形成に際して、層界面での磁性層と非磁性層との混合層の発生を抑制しつつ、磁性層又は非磁性層と残留ガスとの反応生成物の発生を抑制した磁気記録媒体の製造方法、磁気記録媒体、磁気記録装置、及び磁気記録媒体の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、HDD(Hard Disc Drive)等の磁気記録装置は、コンピュータのみならず、映像記録機器や携帯型音楽再生装置等にも使用されるようになり、記録装置として一層の大容量化が要求されている。これに伴って、磁気記録装置に用いられる磁気記録媒体の高記録密度化の要求が高まっている。
【0003】
高記録密度化を実現するための磁気記録媒体として、垂直磁気記録方式の磁気記録媒体(以下、「垂直磁気記録媒体」と言う。)が既に実用化されている。(例えば、特許文献1及び2参照)。垂直磁気記録媒体は、垂直磁気異方性を有する磁性層(磁気記録層)を基板上に成膜した記録媒体である。垂直記録媒体では、磁気記録層の磁化容易軸が基板面に対して垂直方向に配向されており、磁化遷移領域において隣り合う磁化どうしが向き合っていない。このため、ビット長が短くなっても磁化が安定であり、高記録密度化に適していると言える。
【0004】
ところで、垂直磁気記録媒体の更なる高記録密度化を実現しようとすれば、磁気記録層を構成する磁性粒子の微細化、及び磁性粒子相互間の磁気的な孤立化が必要である。ところが、磁性粒子の微細化を過度に行うと、磁性粒子相互間の磁気的な相互作用が大きくなる。このため、垂直磁気記録媒体の熱に対する安定性が低下し、記録ヘッドにより一旦記録された磁化が、熱的擾乱によって経時的に消失してしまう、いわゆる熱擾乱現象が発生する。
【0005】
そこで、更なる高記録密度化の実現や熱擾乱現象の回避を図るべく、磁気記録層の層構成を改良した垂直磁気記録媒体が種々検討されている。例えば、磁気記録層として、Co等の磁性層とPd等の非磁性層とを交互に複数積層した多層磁気記録層を備えた垂直磁気記録媒体が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
多層磁気記録層は、真空チャンバ内でスパッタ処理を繰り返すことによって基板上に成膜される。すなわち、磁性層及び非磁性層の原材料となるターゲットを真空チャンバ内にそれぞれ設置し、Ar(アルゴン)ガス等のスパッタガスを真空チャンバ内に導入し、カソードに高周波電力を印加してプラズマ放電させることによって、ターゲットから放出されたスパッタ粒子が、磁性層又は非磁性層として交互に基板上に積層される。
【0007】
この多層磁気記録層によれば、加熱処理を必要とせずに比較的に大きい垂直磁気異方性Kuを得ることができるため、多層磁気記録層を備えた垂直磁気記録媒体の熱に対する安定性が高くなり、垂直磁気記録媒体の更なる高記録密度化を期待することができる。
【0008】
【特許文献1】特開2000−222707号公報
【特許文献2】特開2003−323709号公報
【特許文献3】特開2003−248914号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上述した従来の垂直磁気記録媒体では、積層直後の磁性層又は非磁性層が真空チャンバ内に残留するスパッタガス(以下、「残留ガス」と言う。)に所定の期間晒されることがある。この場合、磁性層又は非磁性層と残留ガスとの反応生成物が発生し、多層磁気記録層における層界面の清浄性が悪化する。多層磁気記録層における層界面の清浄性の悪化は、高記録密度化の妨げになる。
【0010】
したがって、垂直磁気記録媒体にて多層磁気記録層を形成する際には、上記反応生成物の発生を抑制するために、一般に、磁性層と非磁性層とを交互に連続的に成膜することで、成膜直後の磁性層又は非磁性層がスパッタガスに晒される時間を極力短縮していた。
【0011】
しかしながら、磁性層と非磁性層とを交互に連続的に成膜すれば、ターゲットから放出されたスパッタ粒子が真空チャンバ内に残存している間に、次のスパッタ粒子がターゲットから放出されることがある。この場合、真空チャンバ内に残存するスパッタ粒子と、次のスパッタ粒子とが空中で混合され、その混合された状態のスパッタ粒子が、磁性層又は非磁性層として成膜される。この結果、多層磁気記録層における層界面に磁性層と非磁性層との混合層が発生する。この混合層は、垂直磁気記録媒体の一軸異方性磁界Hkを劣化させる要因となり、高記録密度化の妨げとなる。
【0012】
開示の技術は、上述した従来技術による問題点を解消するためになされたものであり、多層磁気記録層の形成に際して、層界面での磁性層と非磁性層との混合層の発生を抑制しつつ、磁性層又は非磁性層と残留ガスとの反応生成物の発生を抑制した磁気記録媒体の製造方法、磁気記録媒体、磁気記録装置、及び磁気記録媒体の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本願の開示する磁気記録媒体の製造方法は、一つの態様において、真空チャンバ内でスパッタ処理を繰り返し実行することにより、基板上に磁性層と非磁性層とを交互に複数積層した多層磁気記録層を形成する磁気記録層形成工程を含み、前記磁気記録層形成工程は、各前記磁性層又は各前記非磁性層の積層を終了してから次の非磁性層又は磁性層の積層を開始するまで、所定の時間だけ、前記スパッタ処理の放電を停止すると共に、前記真空チャンバ内の到達真空度が所定値以下となるように、前記所定の時間中に、前記真空チャンバ内を排気する。
【0014】
この態様によれば、多層磁気記録層の形成に際して、層界面での磁性層と非磁性層との混合層の発生を抑制しつつ、磁性層又は非磁性層と残留ガスとの反応生成物の発生を抑制することができる。
【0015】
なお、本願の開示する磁気記録媒体の製造方法の構成要素、表現または構成要素の任意の組合せを、方法、装置、システム、コンピュータプログラム、記録媒体、データ構造などに適用したものも上述した課題を解決するために有効である。
【発明の効果】
【0016】
本願の開示する磁気記録媒体の製造方法の一つの態様によれば、多層磁気記録層の形成に際して、層界面での磁性層と非磁性層との混合層の発生を抑制しつつ、磁性層又は非磁性層と残留ガスとの反応生成物の発生を抑制することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に添付図面を参照して、本願の開示する磁気記録媒体の製造方法、磁気記録媒体、磁気記録装置、及び磁気記録媒体の製造装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【実施例1】
【0018】
まず、図1を参照して、実施例1に係る磁気記録媒体の製造方法により製造された磁気記録媒体1の構成について説明する。図1は、実施例1に係る磁気記録媒体の製造方法により製造された磁気記録媒体1の構成を示す模式的な断面図である。図1に示すように、磁気記録媒体1は、基板10上に、裏打ち層12と、密着層14と、下地層16と、磁気記録層18と、保護層20とを、順次成膜したものである。
【0019】
基板10は、外観視で略円盤状の部材であり、例えば、ガラス及びアルミニウム合金等の非磁性かつ非晶質な材料により形成されている。基板10としては、表面の平坦性が高く、機械的強度の高いものが望ましい。なお、基板10としては、非磁性かつ非晶質な材料により形成されたものに限らず、非磁性材料の表面を非晶質材料で被覆したものであってもよい。
【0020】
裏打ち層12は、基板10上に積層されており、記録時等に稼動する磁気ヘッド(図示せず)からの磁束を当該磁気ヘッドに還流させるために形成される。この裏打ち層12は、例えば、COZrNb等の軟磁性体により形成されている。
【0021】
密着層14は、裏打ち層12上に積層されており、当該密着層14上に形成される下地層16の結晶配向性や結晶粒径を制御するために形成される。密着層14としては、例えば、Ta等が用いられる。また、密着層14の膜厚は、特に限定されるものではないが、記録再生分解能の向上や生産性の観点から、下地層16の結晶構造制御のために必要とされる最小限の膜厚とすることが好ましく、下地層16の結晶成長が充分に得られる2.0nm以上が好ましい。
【0022】
下地層16は、密着層14上に積層されており、当該下地層16上に形成される磁気記録層18の結晶配向性や結晶粒径を制御するために形成される。下地層16としては、例えば、Pd等が用いられる。
【0023】
磁気記録層18は、下地層16上に積層されており、磁性層18aと非磁性層18bとを交互に複数積層した多層磁気記録層である。また、磁気記録層18は、グラニュラ構造、すなわち、基板10に対して磁化容易軸を垂直に配向した金属結晶粒を図示しないSiO2等の非磁性体で磁気的に分離した構造を有している。また、磁気記録層18は、磁気ヘッドで発生する磁界により垂直方向に磁化されて磁気情報を保持する。
【0024】
磁性層18aとしては、Co、Feのいずれかの金属、又はその合金を主成分とする材料を用いることができ、非磁性層18bとしては、Pd、Ptのいずれかの金属、又はその合金を主成分とする材料を用いることができる。
【0025】
保護層20は、磁気記録層18上に形成されており、例えば、C等の硬度の高い材料により形成される。
【0026】
なお、本実施例では、磁気記録層18を、裏打ち層12、密着層14、下地層16を介して基板10上に形成しているが、これに限らず、基板10が非磁性かつ非晶質な材料により形成されている場合には、裏打ち層12、密着層14、下地層16を形成せずに、磁気記録層18を基板10上に直接形成しても良い。
【0027】
ここで、本実施例1に係る磁気記録媒体1の製造方法は、裏打ち層12、密着層14、下地層16、保護層20を、図2に示すスパッタ装置30を用いてスパッタ処理を実行することによって成膜する。また、磁気記録層18を、図3に示すスパッタ装置50を用いてスパッタ処理を実行することによって成膜する。以下、これらスパッタ装置30、50について説明する。
【0028】
図2は、本実施例に係る磁気記録媒体1の製造方法において、裏打ち層12、密着層14、下地層16、保護層20を形成する際に使用されるスパッタ装置30の概略構成を示す説明図である。図3は、本実施例に係る磁気記録媒体1の製造方法において、磁気記録層18を形成する際に使用されるスパッタ装置50の概略構成を示す説明図である。
【0029】
なお、図示を省略するが、本実施例に係る磁気記録媒体1の製造装置は、その内部に、裏打ち層12、密着層14、及び下地層16をそれぞれ形成する3つのスパッタ装置30、磁気記録層18を形成するスパッタ装置50、及び保護層20を形成するスパッタ装置30をこの順番で連続して配置している。そして、基板10が搬出入部(図示せず)から搬入され、各スパッタ装置30、50を一巡して搬出入部から搬出されるまでの間に、裏打ち層12、密着層14、下地層16、磁気記録層18、及び保護層20よりなる積層膜が、図1に示すように、基板10上に順次形成される。
【0030】
図2に示すように、スパッタ装置30は、真空チャンバ31を有している。真空チャンバ31は、真空ポンプ32に接続されており、真空ポンプ32の吸引によって内部を真空状態に保持している。
【0031】
真空チャンバ31内には、ターゲット電極等の電圧印加部33が設けられており、この電圧印加部33上に、裏打ち層12、密着層14、下地層16、保護層20の原材料から成るターゲット34がそれぞれ取り付けられる。
【0032】
また、真空チャンバ31内には、基板ホルダ35が配置され、この基板ホルダ35上に、ターゲット34と対向するように基板10が配置されている。基板ホルダ35は、スパッタ処理中に回転駆動部36により低速回転される。
【0033】
また、真空チャンバ31には、Arガス等の不揮発性ガスを内部に充填したガスボンベ37が流量調整バルブ38を介して接続されている。さらに、真空チャンバ31には、当該真空チャンバ31内の圧力を検出する圧力検出器39が接続されている。
【0034】
そして、真空ポンプ32、電圧印加部33、回転駆動部36、流量調整バルブ38、及び圧力検出器39は、スパッタ装置30の全体を制御する制御部30aに接続されている。
【0035】
かかる構成のスパッタ装置30では、まず、基板10を真空チャンバ31内に搬送し、搬送した基板10を基板ホルダ35に固定する。その後、スパッタ装置30の制御部30aは、真空ポンプ32を駆動して、真空チャンバ31内を高真空度に排気する。次いで、制御部30aは、流量調整バルブ38を駆動して、ガスボンベ37内のArガス等の不揮発性ガス(スパッタガス)を真空チャンバ31内に導入する。次いで、制御部30aは、回転駆動部36を駆動して、基板10を自転させつつ、電圧印加部33によりターゲット34に電圧を印加することによって、ターゲット34をスパッタ放電させる。これにより、ターゲット34から放出されたスパッタ粒子が、裏打ち層12、密着層14、下地層16、及び保護層20として基板10上にそれぞれ成膜される。
【0036】
図3に示すスパッタ装置50は、図2に示すスパッタ装置30とほぼ同様の構成を有している。スパッタ装置50がスパッタ装置30と異なる点は、電圧印加部及び制御部の構成であり、その他の構成は、基本的にスパッタ装置30と同様であるので、図3にて図2と同一物には同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【0037】
図3に示すように、スパッタ装置50では、真空チャンバ31内に、2つの電圧印加部51、52が設けられている。また、これら2つの電圧印加部51、52上に、Co等の磁性層18aの原材料から成るターゲット53aと、Pd等の非磁性層18bの原材料から成るターゲット53bとがそれぞれ取り付けられている。
【0038】
そして、真空ポンプ32、電圧印加部51、52、回転駆動部36、流量調整バルブ38、及び圧力検出器39は、スパッタ装置50の全体を制御する制御部50aに接続されている。
【0039】
制御部50aは、ターゲット53a、53bからの放電を制御する放電制御部50bと、真空チャンバ31内の到達真空度を制御する到達真空度制御部50cとを有している。なお、真空チャンバ31内の到達真空度とは、真空チャンバ31内の真空度が最も高くなった状態における真空チャンバ31内の圧力値を意味する。
【0040】
かかる構成のスパッタ装置50では、放電制御部50bは、電圧印加部51、52を駆動してターゲット53a、53bに交互に電圧を印加することにより、ターゲット53a、53bを交互に放電させる。これにより、ターゲット53a、53bから放出されたスパッタ粒子が、基板上に交互に複数積層される。
【0041】
このようにして、スパッタ装置50は、真空チャンバ31内でスパッタ処理を繰り返し実行することにより、基板10上に磁性層18aと非磁性層18bとを交互に複数積層した多層磁気記録層である磁気記録層18を形成する。
【0042】
そして、特に、本実施例のスパッタ装置50では、放電制御部50bが、各磁性層18a又は各非磁性層18bの積層を終了してから次の非磁性層18b又は磁性層18aの積層を開始するまで、所定の時間だけ、電圧印加部51、52の駆動を停止して、ターゲット53a、53bの放電を停止する。これと共に、真空チャンバ31内の到達真空度が所定値以下となるように、到達真空度制御部50cが、ターゲット53a、53bの放電停止時間中に、真空ポンプ32を駆動させることにより真空チャンバ31内を排気する。
【0043】
図4は、図3に示すスパッタ装置50におけるターゲット53a及びターゲット53bの放電タイミングを示すタイミングチャートの一例である。図4に示すように、スパッタ装置50では、ターゲット53aとターゲット53bとに交互に電圧が印加される。そして、各磁性層18aの積層を終了してから次の非磁性層18bの積層を開始するまで、言い換えると、ターゲット53aの放電を終了してから次のターゲット53bの放電を開始するまで、ターゲット53a及びターゲット53bの両方の放電を停止する放電停止時間Tstopが設定される。一方、各非磁性層18bの積層を終了してから次の磁性層18aの積層を開始するまで、言い換えると、ターゲット53bの放電を終了してから次のターゲット53aの放電を開始するまで、放電停止時間Tstopが設定される。さらに、スパッタ装置50では、真空チャンバ31内の到達真空度が所定値以下となるように、放電停止時間Tstop中に、真空ポンプ32により真空チャンバ31内を排気する。
【0044】
このように、本実施例では、磁気記録層18を形成する際に、各磁性層18a又は各非磁性層18bを積層する毎に、スパッタ処理の放電停止時間Tstopを設定するので、ターゲットから放出されたスパッタ粒子が基板10側に到達するまでの時間を充分に確保することができる。これにより、次のターゲットの放電を行う際に、前回のターゲットの放電により放出されたスパッタ粒子が真空チャンバ31内に残存することが回避される。このため、前回のターゲットの放電により放出されたスパッタ粒子と、次のターゲットの放電により放出されるスパッタ粒子とが空中で混合することが回避される。したがって、磁気記録層18の磁性層と非磁性層との層界面における磁性層と非磁性層との混合層の発生が抑制される。
【0045】
また、本実施例では、真空チャンバ31内の真空到達度が所定値以下となるように、放電停止時間Tstop中に、真空チャンバ31内を排気するので、真空チャンバ31内におけるArガス等のスパッタガスの残存量を可及的に低減できる。これにより、放電停止時間Tstop中に層界面を覆うスパッタガスの量を低減できる。したがって、磁気記録層18の磁性層と非磁性層との層界面において、スパッタガスに起因する反応生成物の発生が抑制される。
【0046】
次に、図5及び図6を参照して、本実施例に係る磁気記録媒体1の製造方法について説明する。図5は、本実施例に係る磁気記録媒体1の製造工程を示すフローチャートであり、図6は、図5に示す磁気記録形成工程を示すフローチャートである。
【0047】
図5に示すように、磁気記録媒体1の製造工程では、まず、裏打ち層形成工程、密着層形成工程、及び下地層形成工程を実行することによって、基板10上に、裏打ち層12、密着層14、及び下地層16を順次成膜する(ステップS10〜ステップS12)。
【0048】
裏打ち層12、密着層14、及び下地層16の成膜は、図2に示すスパッタ装置30を用いたスパッタ処理によりそれぞれ実行される。すなわち、Arガス等のスパッタガスが、流量調整バルブ38を介して、ガスボンベ37から真空チャンバ31内へ導入され、真空チャンバ31内のArガスのガス圧が0.7Pa以下に保持される。かかるガス圧の下で、基板10を取り付けた基板ホルダ35が自転されると共に、電圧印加部33によりターゲット34に電圧が印加されることによって、ターゲット34がスパッタ放電される。これにより、ターゲット34から放出されたスパッタ粒子が、裏打ち層12、密着層14、及び下地層16として基板10上にそれぞれ成膜される。
【0049】
次いで、磁気記録層形成工程を実行することによって、下地層16上に、磁気記録層18を成膜する(ステップS13)。磁気記録層18の成膜は、図3に示すスパッタ装置50を用いたスパッタ処理により実行される。かかる磁気記録層形成工程については、図6を参照して後に詳細に説明する。
【0050】
次いで、保護層形成工程を実行することによって、磁気記録層18上に、保護層20を成膜する(ステップS14)。保護層20の成膜は、上述した裏打ち層12、密着層14、及び下地層16の成膜と同様に、図2に示すスパッタ装置30を用いたスパッタ処理により実行される。このようにして、図1に示す磁気記録媒体1が完成する。なお、必要に応じて、保護層20の上に、潤滑剤を塗布しても良い。
【0051】
ここで、ステップS13における磁気記録層形成工程について、図6に示すフローチャートを参照して具体的に説明する。図6は、図5に示す磁気記録層形成工程の詳細を示すフローチャートである。
【0052】
図6に示すように、磁気記録層形成工程では、まず、下地層16上に、Pd等の非磁性材料から成る非磁性層18bを積層する(ステップS20)。非磁性層18bの積層は、図3に示すスパッタ装置50を用いたスパッタ処理により実行される。すなわち、Arガス等のスパッタガスが、流量調整バルブ38を介して、ガスボンベ37から真空チャンバ31内へ導入され、真空チャンバ31内のスパッタガスのガス圧が0.7Pa以下に保持される。かかるガス圧の下で、基板10を取り付けた基板ホルダ35が自転されると共に、電圧印加部51によりターゲット53bに電圧が印加されることによって、ターゲット53bがスパッタ放電される。これにより、ターゲット53bから放出されたスパッタ粒子が、非磁性層18bとして下地層16上に成膜される。
【0053】
次いで、非磁性層18bの積層を終了、すなわち、ターゲット53bの放電を終了してから、次の磁性層18aの積層を開始、すなわち、ターゲット53aの放電を開始するまで、放電停止時間Tstop(図4参照)だけ、スパッタ処理の放電を停止する。これと共に、真空チャンバ31内の到達真空度が所定値以下となるように、放電停止時間Tstop中に、真空ポンプ32によって真空チャンバ31内を排気する(ステップS21)。
【0054】
ここで、放電停止時間Tstopとしては、1秒以上5秒以内に設定されることが好ましい。放電停止時間Tstopが、1秒未満である場合は、前回のターゲットの放電により放出されたスパッタ粒子(ここでは、ターゲット53bから放出されたスパッタ粒子)が真空チャンバ31内に残存し、この残存するスパッタ粒子が、次のターゲットの放電により放出されるスパッタ粒子(ここでは、ターゲット53aから放出されるスパッタ粒子)と混合する恐れがある。このため、磁気記録層18の磁性層18aと非磁性層18bとの層界面に、磁性層18aと非磁性層18bとの混合層が発生する恐れがある。一方、放電停止時間Tstopが、5秒を超える場合は、磁気記録層18の磁性層18aと非磁性層18bとの層界面が、真空チャンバ31内に残留するスパッタガスに長時間晒されることとなり、この層界面にスパッタガスとの反応生成物が発生する恐れがある。したがって、放電停止時間Tstopは、1秒以上5秒以内に設定されることが好ましい。
【0055】
また、放電停止時間Tstop中に真空チャンバ31内を排気する際、真空チャンバ31内の到達真空度は、1×10−8Torr以下とすることが好ましい。ここで、スパッタガスのガス圧を1×10−6Torr以下とした真空チャンバ31内に、基板10上の層表面を1秒間暴露した場合にこの層表面を覆うスパッタガスの量は、暴露量として、1L(ラングミュア)と定義される。そうすると、真空チャンバ31内の到達真空度が1×10−8Torr以下となるように、真空チャンバ31内を真空排気することによって、スパッタガスの暴露量は、放電停止時間1秒当たりで0.01Lまで低減される。このため、磁気記録層18の磁性層18aと非磁性層18bとの層界面に、スパッタガスに起因する反応生成物が発生することを可及的に抑制できる。
【0056】
次いで、Pd等の非磁性材料から成る非磁性層18b上に、Co等の磁性材料から成る磁性層18aを積層する(ステップS22)。磁性層18aの積層は、非磁性層18bと同様に、図3に示すスパッタ装置50を用いたスパッタ処理により実行される。すなわち、Arガス等のスパッタガスが、流量調整バルブ38を介して、ガスボンベ37から真空チャンバ31内へ導入され、真空チャンバ31内のスパッタガスのガス圧が0.7Pa以下に保持される。かかるガス圧の下で、基板10を取り付けた基板ホルダ35が自転されると共に、電圧印加部51によりターゲット53aに電圧が印加されることによって、ターゲット53aがスパッタ放電される。これにより、ターゲット53aから放出されたスパッタ粒子が、磁性層18aとして下地層16上に成膜される。
【0057】
次いで、磁性層18aの積層を終了、すなわち、ターゲット53aの放電を終了してから、次の非磁性層18bの積層を開始、すなわち、ターゲット53bの放電を開始するまで、放電停止時間Tstop(図4参照)だけ、スパッタ処理の放電を停止する。これと共に、真空チャンバ31内の到達真空度が所定値以下となるように、放電停止時間Tstop中に、真空ポンプ32によって真空チャンバ31内を排気する(ステップS23)。ここで、放電停止時間Tstopは、1秒以上5秒以内に設定されることが好ましく、放電停止時間Tstop中に真空チャンバ31内を排気する際、真空チャンバ31内の到達真空度は、1×10−8Torr以下とすることが好ましい。
【0058】
次いで、磁性層18a及び非磁性層18bを1ユニットとした積層数nが既定数に達したか否かを判定する(ステップS24)。積層数nが既定数に達していない場合には(ステップS24:No)、処理をステップS20に戻す。一方、積層数nが既定数に達した場合には(ステップS24:Yes)、磁気記録層形成処理を終了する。
【0059】
このようにして、磁気記録層形成工程にて、スパッタ装置50は、真空チャンバ31内でスパッタ処理を繰り返し実行することにより、基板10上に磁性層18aと非磁性層18bとを交互に複数積層した多層磁気記録層である磁気記録層18を形成する。
【0060】
次に、本実施例に係る製造方法により製造された磁気記録媒体1の効果について、従来の磁気記録媒体と比較して説明する。
【0061】
[実験例1]
基板10としてガラス基板を用意し、この基板10上に、Ta膜より成る密着層14、Pd膜より成る下地層16、磁気記録層18、C膜より成る保護層20を順次成膜した。また、磁気記録層18として、真空チャンバ内でスパッタ処理を繰り返し実行することにより、基板上に磁性層であるCo層と非磁性層であるPd層とを交互に積層した多層磁気記録層(Pd(0.35)/Co(0.3))8を形成した。なお、Co層及びPd層を1ユニットしたときの磁気記録層18の積層数をnとすると、n=8である。
【0062】
また、磁気記録層18の形成に際して、各Co層(磁性層)又は各Pd層(非磁性層)の積層を終了してから、次のPd層又はCo層の積層を開始するまで、放電停止時間として5秒間だけ、スパッタ処理の放電を停止した。これと共に、真空チャンバ内の到達真空度が1×10−8Torr以下となるように、放電停止時間5秒中に、真空チャンバ内を排気した。
【0063】
このようにして、図1に示す磁気記録媒体1のうち、裏打ち層12を有さない磁気記録媒体の部分モデル体を製造した。この部分モデル体のヒステリシスループを図7に示す。なお、図7の横軸は、印加磁界(Applied Field(kOe))であり、図7の縦軸は、磁化(Magnetization(kemu/cm3))である。また、磁気記録媒体の一軸異方性磁界Hkの値は、磁化が飽和磁化Msとなった際の印加磁界の値として求められる。図7に示すように、実験例1に係る磁気記録媒体の飽和磁化Msの値は、0.72kemu/cm3となり、一軸異方性磁界Hkの値は、14.1kOeとなった。
【0064】
[実験例2]
磁気記録層18として、多層磁気記録層(Pd(0.6)/Co(0.4))5を形成し、積層数n=5とした点以外は実験例1と同様にして、図1に示す磁気記録媒体1のうち、裏打ち層12を有さない磁気記録媒体の部分モデル体を製造した。この部分モデル体のヒステリシスループを図8に示す。図8に示すように、実験例2に係る磁気記録媒体の飽和磁化Msの値は、0.59kemu/cm3となり、一軸異方性磁界Hkの値は、14.1kOeとなった。
【0065】
[従来例1]
磁気記録層18の形成に際して、放電停止時間を設定せず、Co層とPd層とを交互に連続的に積層した点以外は実験例1と同様にして、図1に示す磁気記録媒体1のうち、裏打ち層12を有さない磁気記録媒体の部分モデル体を製造した。この部分モデル体のヒステリシスループを図9に示す。図9に示すように、従来例1に係る磁気記録媒体の飽和磁化Msの値は、0.73kemu/cm3となり、一軸異方性磁界Hkの値は、10.1kOeとなった。
【0066】
[従来例2]
磁気記録層18の形成に際して、放電停止時間を設定せず、Co層とPd層とを交互に連続的に積層した点以外は実験例2と同様にして、図1に示す磁気記録媒体1のうち、裏打ち層12を有さない磁気記録媒体の部分モデル体を製造した。この部分モデル体のヒステリシスループを図10に示す。図10に示すように、従来例2に係る磁気記録媒体の飽和磁化Msの値は、0.58kemu/cm3となり、一軸異方性磁界Hkの値は、12.1kOeとなった。
【0067】
実験例1と従来例1、及び実験例2と従来例2をそれぞれ比較すると、磁気記録層18の形成に際して、放電停止時間を設定すると共に、この放電停止時間中に真空チャンバ内を排気することによって、飽和磁化Msを維持しつつ一軸異方性磁界Hkを向上する効果が得られていることが分かる。これは、従来例1及び2よりも実験例1及び2の方が、磁気記録層18の形成に際して、層界面でのCo層とPd層との混合層の発生が抑制され、かつ、Co層又はPd層とスパッタガスとの反応生成物の発生が抑制されていることを意味している。
【0068】
次に、実験例2に係る磁気記録媒体と従来例2に係る磁気記録媒体とを用いて、Pd膜より成る下地層16の膜厚が、磁気記録媒体の飽和磁化Ms及び一軸異方性磁界Hkに与える影響を検証した結果について説明する。図11は、Pd膜より成る下地層16の膜厚と、飽和磁化Ms及び一軸異方性磁界Hkとの関係について説明するための図である。なお、図11の横軸は、Pd膜より成る下地層16の膜厚(nm)である。
【0069】
図11に示すように、膜厚3nmまで下地層16を薄膜化した場合、実験例2に係る磁気記録媒体の飽和磁化Msの値は、従来例2と同程度に維持されている。一方、実験例2に係る磁気記録媒体の一軸異方性磁界Hkの値は、従来例2に比べて大きい。すなわち、従来例2よりも実験例2の方が、下地層16を薄膜化した場合に、一軸異方性磁界Hkの低下を抑制できることが分かる。
【0070】
次に、実験例2に係る磁気記録媒体と従来例2に係る磁気記録媒体とを用いて、磁気記録層18の積層数nが、磁気記録媒体の飽和磁化Ms及び一軸異方性磁界Hkに与える影響を検証した結果について説明する。図12は、磁気記録層18の積層数nと、飽和磁化Ms及び一軸異方性磁界Hkとの関係について説明するための図である。なお、図12の横軸は、磁気記録層18が多層磁気記録層(Pd(0.6)/Co(0.4))nである場合の磁気記録層18の積層数nを示しており、磁気記録層18の積層数nが大きくなるほど、磁気記録層18の膜厚が大きくなることを示す。また、図12では、膜厚3nmのPd膜より成る下地層16上に、磁気記録層18を積層するものとする。
【0071】
図12に示すように、積層数n=4まで磁気記録層18を薄膜化した場合、実験例2に係る磁気記録媒体の飽和磁化Msの値は、従来例2と同程度に維持されている。一方、実験例2に係る磁気記録媒体の一軸異方性磁界Hkの値は、従来例2に比べて大きい。すなわち、従来例2よりも実験例2の方が、磁気記録層18を薄膜化した場合に、一軸異方性磁界Hkの低下を抑制できることが分かる。これは、磁気記録媒体全体を薄膜化した場合であっても、実験例2に係る磁気記録媒体が高い一軸異方性磁界Hkを維持することができることを意味している。
【0072】
以上説明してきたように、本実施例に係る磁気記録媒体の製造方法では、各磁性層又は各非磁性層を積層する毎に、放電停止時間を設定すると共に、この放電停止時間中に真空チャンバ内を排気することによって多層磁気記録層を形成する。このため、従来例に比べて、磁気記録層の層界面における磁性層と非磁性層との混合層の発生が抑制され、かつ、磁性層又は非磁性層層とスパッタガスとの反応生成物の発生が抑制される。その結果、磁気記録媒体の磁気特性が改善され、磁気情報(磁気データ)をより一層高密度に記録することが可能となる。
【実施例2】
【0073】
次に、図13を参照して、実施例2に係る磁気記録媒体の製造方法について説明する。図13は、実施例2に係る磁気記録媒体の製造工程を示すフローチャートである。本実施例が実施例1と異なる点は、ステップS13の磁気記録層形成工程と、ステップS14の保護層形成工程との間に、ステップS13aの磁性ビット形成工程を含む点である。その他の工程は基本的に実施例1と同様であるので、図13にて図5と同一の工程については、その詳しい説明を省略する。
【0074】
垂直磁気記録媒体には、熱的安定性を向上するために、基板上に成膜した磁気記録層を微細加工して、物理的に孤立した凸状の磁性粒子(磁性ドット)を形成したものがある。このように、磁気記録層を微細加工することにより、凸状の磁性ドットを形成した垂直記録媒体は、ビットパターンドメディア(BPM)と呼ばれている。
【0075】
本実施例に係る磁気記録媒体の製造工程では、図13に示すように、磁気記録層形成工程を終了した後、磁性ビット形成工程を実行する(ステップS13a)。この磁性ビット形成工程では、ステップS13の工程で成膜した磁気記録層18を微細加工することにより、凸状の磁性ドットを形成する。以下、この磁性ビット形成工程について具体的に説明する。
【0076】
図14は、図13に示す磁性ビット形成工程の一例を説明するための図である。図14に示すように、磁性ビット形成工程では、まず、磁気記録層18上に、所定の開口パターン19aを有するレジスト19を形成する(ステップS31)。レジスト19の形成は、例えば、磁気記録層18上にレジスト膜を形成し、フォトリソグラフィ法により不要部分を除去することにより行う。
【0077】
次いで、レジスト19をマスクとして、開口パターン19aを通して磁気記録層18にエッチングを施し、磁気記録層18のうち、開口パターン19aの下側の領域を除去する(ステップS32)。このようにして、磁気記録層18のうち、レジスト19の残っている部分の下側の領域に、凸状の磁性ドット18cが形成される。その後、レジスト19を除去する。
【0078】
図15は、図13に示す磁性ビット形成工程の他の一例を説明するための図である。図15に示すように、磁性ビット形成工程では、まず、磁気記録層18上に、所定の開口パターン21aを有するレジスト21を形成する(ステップS41)。レジスト21の形成は、フォトリソグラフィ法により行う。
【0079】
次いで、レジスト21をマスクとして、開口パターン21aを通して磁気記録層18にイオンを注入し、磁気記録層18のうち、開口パターン21aの下側の領域を非磁性体18dにする(ステップS42)。このようにして、磁気記録層18のうち、レジスト21の残っている部分の下側に、すなわち、磁気記録層18のうち、非磁性体18dを除く部分に、凸状の磁性ドット18eが形成される。その後、レジスト21を除去する。
【0080】
以上説明してきたように、本実施例に係る磁気記録媒体の製造方法では、実施例1と同様の製造方法により製造された磁気記録層18を微細加工して、磁性ドット18c、又は磁性ドット18eを形成している。つまり、磁気記録層18は、各磁性層又は各非磁性層を積層する毎に、放電停止時間を設定すると共に、この放電停止時間中に真空チャンバ内を排気することによって形成されたものである。このため、実施例1と同様に、従来に比べて、磁気記録層の層界面における磁性層と非磁性層との混合層の発生が抑制され、かつ、磁性層又は非磁性層層とスパッタガスとの反応生成物の発生が抑制される。その結果、磁気記録媒体の磁気特性が改善され、磁気情報(磁気データ)をより一層高密度に記録することが可能となる。
【0081】
(磁気記録装置)
図16は、実施例1又は実施例2に係る磁気記録媒体を備えた磁気記録装置を説明するための図である。
【0082】
図16に示すように、磁気記録装置60は、その筐体内に、円盤状の磁気ディスク61と、磁気ディスク61に対して磁気情報の読み書きを行う磁気ヘッド62と、磁気ヘッド62を保持するアーム63と、アーム63を磁気ディスク61の半径方向に駆動制御するアクチュエータ64とを有し、磁気ディスク61として、実施例1又は実施例2で既に説明した構造の磁気記録媒体を採用している。
【0083】
このように構成された磁気記録装置60は、実施例1又は実施例2で既に説明した構造の磁気記録媒体を使用しているので、従来装置に比べて磁気情報をより一層高密度に記録することができる。
【0084】
さて、これまで本発明の実施例について説明したが、本発明は上述した実施例以外にも、上記特許請求の範囲に記載した技術的思想の範囲内において種々の異なる実施例にて実施されてもよいものである。
【0085】
例えば、本実施例では、非磁性層の積層を終了してから、次の磁性層の積層を開始するまでの放電停止時間と、磁性層の積層を終了してから、次に非磁性層の積層を開始するまでの放電停止時間とを同一の時間としたが、これに限らず、これら2つの放電停止時間を互いに異なる時間としてもよい。
【0086】
以上の実施例を含む実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0087】
(付記1)磁気記録媒体の製造方法であって、
真空チャンバ内でスパッタ処理を繰り返し実行することにより、基板上に磁性層と非磁性層とを交互に複数積層した多層磁気記録層を形成する磁気記録層形成工程を含み、
前記磁気記録層形成工程は、
各前記磁性層又は各前記非磁性層の積層を終了してから次の非磁性層又は磁性層の積層を開始するまで、所定の時間だけ、前記スパッタ処理の放電を停止すると共に、
前記真空チャンバ内の到達真空度が所定値以下となるように、前記所定の時間中に、前記真空チャンバ内を排気することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【0088】
(付記2)前記所定の時間は、1秒以上5秒以内であることを特徴とする付記1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0089】
(付記3)前記磁気記録層形成工程は、
前記真空チャンバ内の到達真空度が1×10−8Torr以下となるように、前記所定の時間中に、前記真空チャンバ内を排気することを特徴とする付記1または2に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0090】
(付記4)前記磁性層が、Co、Feのいずれかの金属、又はその合金を主成分とする材料からなり、かつ、前記非磁性層が、Pd、Ptのいずれかの金属からなることを特徴とする付記1〜3のいずれか1つに記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0091】
(付記5)前記多層磁気記録層を微細加工することにより、凸状の磁性ドットを形成する磁性ドット形成工程をさらに含むことを特徴とする付記1〜4のいずれか1つに記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0092】
(付記6)磁気記録媒体であって、
真空チャンバ内でスパッタ処理を繰り返し実行することにより、基板上に磁性層と非磁性層とを交互に複数積層した多層磁気記録層を有し、
前記多層磁気記録層は、
各前記磁性層又は各前記非磁性層の積層を終了してから次の非磁性層又は磁性層の積層を開始するまで、所定の時間だけ、前記スパッタ処理の放電を停止すると共に、
前記真空チャンバ内の到達真空度が所定値以下となるように、前記所定の時間中に、前記真空チャンバ内を排気することによって形成されたことを特徴とする磁気記録媒体。
【0093】
(付記7)前記所定の時間は、1秒以上5秒以内であることを特徴とする付記6に記載の磁気記録媒体。
【0094】
(付記8)前記多層磁気記録層は、
前記真空チャンバ内の到達真空度が1×10−8Torr以下となるように、前記所定の時間中に、前記真空チャンバ内を排気することによって形成されたことを特徴とする付記6または7に記載の磁気記録媒体。
【0095】
(付記9)前記磁性層が、Co、Feのいずれかの金属、又はその合金を主成分とする材料からなり、かつ、前記非磁性層が、Pd、Ptのいずれかの金属からなることを特徴とする付記6〜8のいずれか1つに記載の磁気記録媒体。
【0096】
(付記10)前記多層磁気記録層は、微細加工によって凸状の磁性ドットに形成されることを特徴とする付記6〜9のいずれか1つに記載の磁気記録媒体。
【0097】
(付記11)磁気記録装置であって、
真空チャンバ内でスパッタ処理を繰り返し実行することにより、基板上に磁性層と非磁性層とを交互に複数積層した多層磁気記録層を有する磁気記録媒体と、
前記磁気記録媒体に対して磁気情報の読み書きを行う磁気ヘッドと、を備え、
前記多層磁気記録層は、
各前記磁性層又は各前記非磁性層の積層を終了してから次の非磁性層又は磁性層の積層を開始するまで、所定の時間だけ、前記スパッタ処理の放電を停止すると共に、
前記真空チャンバ内の到達真空度が所定値以下となるように、前記所定の時間中に、前記真空チャンバ内を排気することによって形成されたことを特徴とする磁気記録装置。
【0098】
(付記12)前記所定の時間は、1秒以上5秒以内であることを特徴とする付記11に記載の磁気記録装置。
【0099】
(付記13)前記多層磁気記録層は、
前記真空チャンバ内の到達真空度が1×10−8Torr以下となるように、前記所定の時間中に、前記真空チャンバ内を排気することによって形成されたことを特徴とする付記11または12に記載の磁気記録装置。
【0100】
(付記14)前記磁性層が、Co、Feのいずれかの金属、又はその合金を主成分とする材料からなり、かつ、前記非磁性層が、Pd、Ptのいずれかの金属からなることを特徴とする付記11〜13のいずれか1つに記載の磁気記録装置。
【0101】
(付記15)前記多層磁気記録層は、微細加工によって凸状の磁性ドットに形成されることを特徴とする付記11〜14のいずれか1つに記載の磁気記録装置。
【0102】
(付記16)磁気記録媒体の製造装置であって、
真空チャンバ内でスパッタ処理を繰り返し実行することにより、基板上に磁性層と非磁性層とを交互に複数積層した多層磁気記録層を形成するスパッタ装置を備え、
前記スパッタ装置は、
各前記磁性層又は各前記非磁性層の積層を終了してから次の非磁性層又は磁性層の積層を開始するまで、所定の時間だけ、前記スパッタ処理の放電を停止すると共に、
前記真空チャンバ内の到達真空度が所定値以下となるように、前記所定の時間中に、前記真空チャンバ内を排気することを特徴とする磁気記録媒体の製造装置。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】実施例1に係る磁気記録媒体の構成を示す模式的断面図である。
【図2】実施例1に係る磁気記録媒体の製造方法で使用されるスパッタ装置の概略構成を示す説明図である。
【図3】実施例1に係る磁気記録媒体の製造方法で使用されるスパッタ装置の概略構成を示す説明図である。
【図4】図3に示すスパッタ装置における複数のターゲットの放電タイミングを示すタイミングチャートの一例である。
【図5】実施例1に係る磁気記録媒体の製造工程を示すフローチャートである。
【図6】図5に示す磁気記録層形成工程の詳細を示すフローチャートである。
【図7】実験例1に係る磁気記録媒体(部分モデル体)のヒステリシスループを示す図である。
【図8】実験例2に係る磁気記録媒体(部分モデル体)のヒステリシスループを示す図である。
【図9】従来例1に係る磁気記録媒体(部分モデル体)のヒステリシスループを示す図である。
【図10】従来例2に係る磁気記録媒体(部分モデル体)のヒステリシスループを示す図である。
【図11】下地層の膜厚と、飽和磁化Ms及び一軸異方性磁界Hkとの関係について説明するための図である。
【図12】磁気記録層の積層数と、飽和磁化Ms及び一軸異方性磁界Hkとの関係について説明するための図である。
【図13】実施例2に係る磁気記録媒体の製造工程を示すフローチャートである。
【図14】図13に示す磁性ビット形成工程の一例を説明するための図である。
【図15】図13に示す磁性ビット形成工程の一例を説明するための図である。
【図16】実施例1又は実施例2に係る磁気記録媒体を備えた磁気記録装置の構成を説明するための図である。
【符号の説明】
【0104】
1 磁気記録媒体
10 基板
18 磁気記録層(多層磁気記録層)
18a 磁性層
18b 非磁性層
18c 磁性ドット
18e 磁性ドット
31 真空チャンバ
50 スパッタ装置
60 磁気記録装置
61 磁気ディスク(磁気記録媒体)
62 磁気ヘッド
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気記録媒体の製造方法であって、
真空チャンバ内でスパッタ処理を繰り返し実行することにより、基板上に磁性層と非磁性層とを交互に複数積層した多層磁気記録層を形成する磁気記録層形成工程を含み、
前記磁気記録層形成工程は、
各前記磁性層又は各前記非磁性層の積層を終了してから次の非磁性層又は磁性層の積層を開始するまで、所定の時間だけ、前記スパッタ処理の放電を停止すると共に、
前記真空チャンバ内の到達真空度が所定値以下となるように、前記所定の時間中に、前記真空チャンバ内を排気することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記所定の時間は、1秒以上5秒以内であることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記磁気記録層形成工程は、
前記真空チャンバ内の到達真空度が1×10−8Torr以下となるように、前記所定の時間中に、前記真空チャンバ内を排気することを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
前記磁性層が、Co、Feのいずれかの金属、又はその合金を主成分とする材料からなり、かつ、前記非磁性層が、Pd、Ptのいずれかの金属からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
前記多層磁気記録層を微細加工することにより、凸状の磁性ドットを形成する磁性ドット形成工程をさらに含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項6】
磁気記録媒体であって、
真空チャンバ内でスパッタ処理を繰り返し実行することにより、基板上に磁性層と非磁性層とを交互に複数積層した多層磁気記録層を有し、
前記多層磁気記録層は、
各前記磁性層又は各前記非磁性層の積層を終了してから次の非磁性層又は磁性層の積層を開始するまで、所定の時間だけ、前記スパッタ処理の放電を停止すると共に、
前記真空チャンバ内の到達真空度が所定値以下となるように、前記所定の時間中に、前記真空チャンバ内を排気することによって形成されたことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項7】
磁気記録装置であって、
真空チャンバ内でスパッタ処理を繰り返し実行することにより、基板上に磁性層と非磁性層とを交互に複数積層した多層磁気記録層を有する磁気記録媒体と、
前記磁気記録媒体に対して磁気情報の読み書きを行う磁気ヘッドとを備え、
前記多層磁気記録層は、
各前記磁性層又は各前記非磁性層の積層を終了してから次の非磁性層又は磁性層の積層を開始するまで、所定の時間だけ、前記スパッタ処理の放電を停止すると共に、
前記真空チャンバ内の到達真空度が所定値以下となるように、前記所定の時間中に、前記真空チャンバ内を排気することによって形成されたことを特徴とする磁気記録装置。
【請求項8】
磁気記録媒体の製造装置であって、
真空チャンバ内でスパッタ処理を繰り返し実行することにより、基板上に磁性層と非磁性層とを交互に複数積層した多層磁気記録層を形成するスパッタ装置を備え、
前記スパッタ装置は、
各前記磁性層又は各前記非磁性層の積層を終了してから次の非磁性層又は磁性層の積層を開始するまで、所定の時間だけ、前記スパッタ処理の放電を停止すると共に、
前記真空チャンバ内の到達真空度が所定値以下となるように、前記所定の時間中に、前記真空チャンバ内を排気することを特徴とする磁気記録媒体の製造装置。
【請求項1】
磁気記録媒体の製造方法であって、
真空チャンバ内でスパッタ処理を繰り返し実行することにより、基板上に磁性層と非磁性層とを交互に複数積層した多層磁気記録層を形成する磁気記録層形成工程を含み、
前記磁気記録層形成工程は、
各前記磁性層又は各前記非磁性層の積層を終了してから次の非磁性層又は磁性層の積層を開始するまで、所定の時間だけ、前記スパッタ処理の放電を停止すると共に、
前記真空チャンバ内の到達真空度が所定値以下となるように、前記所定の時間中に、前記真空チャンバ内を排気することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記所定の時間は、1秒以上5秒以内であることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記磁気記録層形成工程は、
前記真空チャンバ内の到達真空度が1×10−8Torr以下となるように、前記所定の時間中に、前記真空チャンバ内を排気することを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
前記磁性層が、Co、Feのいずれかの金属、又はその合金を主成分とする材料からなり、かつ、前記非磁性層が、Pd、Ptのいずれかの金属からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
前記多層磁気記録層を微細加工することにより、凸状の磁性ドットを形成する磁性ドット形成工程をさらに含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項6】
磁気記録媒体であって、
真空チャンバ内でスパッタ処理を繰り返し実行することにより、基板上に磁性層と非磁性層とを交互に複数積層した多層磁気記録層を有し、
前記多層磁気記録層は、
各前記磁性層又は各前記非磁性層の積層を終了してから次の非磁性層又は磁性層の積層を開始するまで、所定の時間だけ、前記スパッタ処理の放電を停止すると共に、
前記真空チャンバ内の到達真空度が所定値以下となるように、前記所定の時間中に、前記真空チャンバ内を排気することによって形成されたことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項7】
磁気記録装置であって、
真空チャンバ内でスパッタ処理を繰り返し実行することにより、基板上に磁性層と非磁性層とを交互に複数積層した多層磁気記録層を有する磁気記録媒体と、
前記磁気記録媒体に対して磁気情報の読み書きを行う磁気ヘッドとを備え、
前記多層磁気記録層は、
各前記磁性層又は各前記非磁性層の積層を終了してから次の非磁性層又は磁性層の積層を開始するまで、所定の時間だけ、前記スパッタ処理の放電を停止すると共に、
前記真空チャンバ内の到達真空度が所定値以下となるように、前記所定の時間中に、前記真空チャンバ内を排気することによって形成されたことを特徴とする磁気記録装置。
【請求項8】
磁気記録媒体の製造装置であって、
真空チャンバ内でスパッタ処理を繰り返し実行することにより、基板上に磁性層と非磁性層とを交互に複数積層した多層磁気記録層を形成するスパッタ装置を備え、
前記スパッタ装置は、
各前記磁性層又は各前記非磁性層の積層を終了してから次の非磁性層又は磁性層の積層を開始するまで、所定の時間だけ、前記スパッタ処理の放電を停止すると共に、
前記真空チャンバ内の到達真空度が所定値以下となるように、前記所定の時間中に、前記真空チャンバ内を排気することを特徴とする磁気記録媒体の製造装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2010−102759(P2010−102759A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271337(P2008−271337)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
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