説明

磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録再生装置

【課題】磁性層のパターン形成に、反応性プラズマもしくは反応性イオンによる磁気特性の改質を行う場合、磁性層の表面が酸化またはハロゲン化し、この酸化またはハロゲン化した磁性層が原因で、磁気記録媒体の腐食(磁性層に含まれるコバルト等の磁性粒子のマイグレーション)が発生する。本願発明は、この磁性層表面の酸化またはハロゲン化が原因で発生する磁気記録媒体の腐食を防ぐことを課題とする。
【解決手段】磁気的に分離した磁気記録パターンを有する磁気記録媒体の製造方法である。その方法は非磁性基板上に磁性層を形成する。この磁性層の磁気記録パターンに基づき、磁性層を分離する領域を反応性プラズマもしくは反応性イオンにさらして、その領域の磁性層を非磁性化する等により磁気特性を低下させ、次いで不活性ガスを照射することからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスク装置等に用いられる磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録再生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気ディスク装置、フレキシブルディスク装置、磁気テープ装置等の磁気記録装置の適用範囲は著しく増大されその重要性が増すと共に、これらの装置に用いられる磁気記録媒体について、その記録密度の著しい向上が図られつつある。特にMRヘッド、およびPRML技術の導入以来面記録密度の上昇はさらに激しさを増し、近年ではさらにGMRヘッド、TMRヘッドなども導入され1年に約100%ものペースで増加を続けている。これらの磁気記録媒体については、今後更に高記録密度を達成することが要求されており、そのために磁性層の高保磁力化と高信号対雑音比(SNR)、高分解能を達成することが要求されている。また、近年では線記録密度の向上と同時にトラック密度の増加によって面記録密度を上昇させようとする努力も続けられている。
【0003】
最新の磁気記録装置においてはトラック密度110kTPIにも達している。しかし、トラック密度を上げていくと、隣接するトラック間の磁気記録情報が互いに干渉し合い、その境界領域の磁化遷移領域がノイズ源となりSNRを損なうという問題が生じやすくなる。このことはそのままBit Error rateの低下につながるため記録密度の向上に対して障害となっている。
【0004】
面記録密度を上昇させるためには、磁気記録媒体上の各記録ビットのサイズをより微細なものとし、各記録ビットに可能な限り大きな飽和磁化と磁性膜厚を確保する必要がある。しかし、記録ビットを微細化していくと、1ビット当たりの磁化最小体積が小さくなり、熱揺らぎによる磁化反転で記録データが消失するという問題が生じる。
【0005】
また、トラック間距離が近づくために、磁気記録装置は極めて高精度のトラックサーボ技術を要求されると同時に、記録を幅広く実行し、再生は隣接トラックからの影響をできるだけ排除するために記録時よりも狭く実行する方法が一般的に用いられている。この方法ではトラック間の影響を最小限に抑えることができる反面、再生出力を十分得ることが困難であり、そのために十分なSNRを確保することがむずかしいという問題がある。
【0006】
このような熱揺らぎの問題やSNRの確保、あるいは十分な出力の確保を達成する方法の一つとして、記録媒体表面にトラックに沿った凹凸を形成し、記録トラック同士を物理的に分離することによってトラック密度を上げようとする試みがなされている。このような技術を以下にディスクリートトラック法、それによって製造された磁気記録媒体をディスクリートトラック媒体と呼ぶ。また、同一トラック内のデータ領域を更に分割した、いわゆるパターンドメディアを製造しようとする試みもある。
ディスクリートトラック媒体の一例として、表面に凹凸パターンを形成した非磁性基板に磁気記録媒体を形成して、物理的に分離した磁気記録トラック及びサーボ信号パターンを形成してなる磁気記録媒体が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
この磁気記録媒体は、表面に複数の凹凸のある基板の表面に軟磁性層を介して強磁性層が形成されており、その表面に保護膜を形成したものである。この磁気記録媒体では、凸部領域に周囲と物理的に分断された磁気記録領域が形成されている。
この磁気記録媒体によれば、軟磁性層での磁壁発生を抑制できるため熱揺らぎの影響が出にくく、隣接する信号間の干渉もないので、ノイズの少ない高密度磁気記録媒体を形成できるとされている。
【0008】
ディスクリートトラック法には、何層かの薄膜からなる磁気記録媒体を形成した後にトラックを形成する方法と、あらかじめ基板表面に直接、あるいはトラック形成のための薄膜層に凹凸パターンを形成した後に、磁気記録媒体の薄膜形成を行う方法がある(例えば、特許文献2,特許文献3参照。)。
【0009】
また、ディスクリートトラック媒体の磁気トラック間領域を、あらかじめ形成した磁性層に窒素、酸素等のイオンを注入し、または、レーザを照射することにより、その部分の磁気的な特性を変化させて形成する方法が開示されている(特許文献4〜6参照。)。
【特許文献1】特開2004−164692号公報
【特許文献2】特開2004−178793号公報
【特許文献3】特開2004−178794号公報
【特許文献4】特開平5−205257号公報
【特許文献5】特開2006−209952号公報
【特許文献6】特開2006−309841号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述のように、磁気的に分離した磁気記録パターンを有する、いわゆる、ディスクリートトラックメディアやパターンドメディアの製造工程においては、磁性層を、酸素やハロゲンを用いた反応性プラズマもしくは反応性イオンに晒すことにより磁気記録パターンを形成する場合がある。このような工程の例としては次がある。
(1)磁性層のパターン形成に、反応性プラズマもしくは反応性イオンによるイオンミリングを用いる場合がある。
(2)磁性層の表面に形成したレジストの除去を反応性プラズマもしくは反応性イオンを用いたイオンミリングで行う場合がある。
(3)磁性層のパターン形成に、反応性プラズマもしくは反応性イオンによる磁気特性の改質を用いる場合がある。
【0011】
本願発明者らの研究によると、磁気記録媒体の製造でこのような工程を含む場合、磁性層の表面が酸化またはハロゲン化し、この酸化またはハロゲン化した磁性層が原因で、磁気記録媒体の腐食(磁性層に含まれるコバルト等の磁性粒子のマイグレーション)が発生することが明らかになった。本願発明は、この磁性層表面の酸化またはハロゲン化が原因で発生する磁気記録媒体の腐食を防ぐことを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本願発明者らは鋭意努力研究した結果、本願発明に到達した。すなわち本発明は以下に関する。
(1)磁気的に分離した磁気記録パターンを有する磁気記録媒体の製造方法であって、非磁性基板上に磁性層を形成する工程、磁性層を分離する領域を反応性プラズマもしくは反応性イオンにさらす工程、磁性層に不活性ガスを照射する工程をこの順で有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
(2)磁気的に分離した磁気記録パターンを有する磁気記録媒体の製造方法であって、非磁性基板上に磁性層を形成する工程、磁性層を分離する領域の磁性層の表層部を除去する工程、該表層部を除去した磁性層の領域を反応性プラズマもしくは反応性イオンにさらす工程、磁性層に不活性ガスを照射する工程をこの順で有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【0013】
(3)磁性層の表層部を除去が、イオンミリングによるものである上記(2)に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(4)磁性層の表層部の除去深さが、0.1〜15nmである上記(2)または(3)に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(5)磁性層を分離する領域を反応性プラズマもしくは反応性イオンにさらす工程により、該領域の磁気特性を低下させることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0014】
(6)磁気特性の低下が、保磁力、残留磁化の低減である上記(5)に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(7)磁気特性の低下が、磁性層の非磁性化または非晶質化によるものである上記(5)に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(8)反応性プラズマもしくは反応性イオンが、酸素イオンを含有するプラズマもしくは反応性イオンであることを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
(9)反応性プラズマもしくは反応性イオンが、ハロゲンイオンを含有することを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0015】
(10)ハロゲンイオンが、CF4、SF6、CHF3、CCl4、KBrからなる群から選ばれた何れか1種以上のハロゲン化ガスを反応性プラズマ中に導入して形成したハロゲンイオンであることを特徴とする上記(9)に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(11)不活性ガスが、Ar、He、Xeからなる群から選ばれた何れか1種以上のガスであることを特徴とする上記(1)〜(10)のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(12)不活性ガスの照射が、イオンガン、ICP,RIEからなる群から選ばれた何れかの方法によることを特徴とする上記(1)〜(11)のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0016】
(13)非磁性基板に磁性層を形成する工程、磁性層の上にマスク層を形成する工程、マスク層の上にレジスト層を形成する工程、レジスト層に磁性層を磁気的に分離する磁気記録パターンを形成する工程、磁性層を磁気的に分離する領域のマスク層および残存している場合のレジスト層を除去する工程、マスク層で覆われていない箇所を反応性プラズマまたは反応性イオンにさらし磁気的に分離した磁気記録パターンを形成する工程、磁性層の上に形成したマスク層を全て除去する工程、磁性層に不活性ガスを照射する工程をこの順で有する磁気記録媒体の製造方法。
【0017】
(14)非磁性基板に磁性層を形成する工程、磁性層の上にマスク層を形成する工程、マスク層の上にレジスト層を形成する工程、レジスト層に磁性層を磁気的に分離する磁気記録パターンを形成する工程、磁性層を磁気的に分離する領域のマスク層および残存している場合のレジスト層を除去する工程、マスク層を除去した領域の磁性層の表層部を除去する工程、該表層部を除去した箇所を反応性プラズマまたは反応性イオンにさらし磁気的に分離した磁気記録パターンを形成する工程、磁性層の上に形成したマスク層を全て除去する工程、磁性層に不活性ガスを照射する工程をこの順で有する磁気記録媒体の製造方法。
【0018】
(15)磁性層に不活性ガスを照射する工程の後に、保護膜を形成する工程を有することを特徴とする上記(1)〜(14)のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
(16)上記(1)〜(15)のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法で製造した磁気記録媒体と、該磁気記録媒体を記録方向に駆動する駆動部と、記録部と再生部からなる磁気ヘッドと、磁気ヘッドを磁気記録媒体に対して相対運動させる手段と、磁気ヘッドへの信号入力と磁気ヘッドからの出力信号再生を行うための記録再生信号処理手段を組み合わせて具備してなることを特徴とする磁気記録再生装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、磁性層に含まれるコバルト等の磁性粒子のマイグレーションを防止することが可能となり、より耐環境性の高い磁気記録媒体を提供可能となる効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本願発明は、磁気的に分離した磁気記録パターンを有する磁気記録媒体の製造方法において、非磁性基板上に磁性層を形成する工程、磁気的に分離する磁性層の領域を反応性プラズマもしくは反応性イオンにさらす工程、磁性層に不活性ガスを照射する工程をこの順で有することを特徴とする。さらに好ましくは、本発明は磁気的に分離する磁性層の領域の表層部をイオンミリング等で除去し、その後反応性プラズマもしくは反応性イオンにさらす工程を含むものである。
本発明の磁気記録パターンを有する磁気記録媒体は、磁気記録パターン部を磁気的に分離する領域、即ち、磁気記録パターンのネガパターンに該当する箇所の磁性層を、好ましくはこの磁性層の表層部を除去した磁性層を、反応性プラズマもしくは反応性イオンにさらして磁気特性を改質することより得ることができる。
【0021】
ここで、本願発明者の研究によると、このような工程により磁性層の特に表層部が反応性プラズマもしくは反応性イオンにより酸化やハロゲン化して活性となり、その箇所が原因で、磁気記録媒体の耐環境特性が低下することが明らかになった。すなわち、活性化したCo等の磁性金属が、高温多湿の環境下において、炭素保護膜を突き抜けて磁気記録媒体の表面に析出し、ハードディスクドライブのヘッドを破損させることが判明した。
本願発明は、反応性プラズマもしくは反応性イオンにさらされて活性となった磁性層に不活性ガスを照射することにより、磁性層を安定化させ、高温多湿の環境下においても磁性合金のマイグレーション等の発生しない磁気記録媒体を製造することを趣旨とする。
【0022】
なお本願発明の磁気記録パターン部とは、磁気記録パターンが1ビットごとに一定の規則性をもって配置された、いわゆるパターンドメディアや、磁気記録パターンが、トラック状に配置されたメディアや、その他、サーボ信号パターン等を含んでいる。
この中で本願発明は、磁気的に分離した磁気記録パターンが、磁気記録トラック及びサーボ信号パターンである、いわゆる、ディスクリート型磁気記録媒体に適用するのが、その製造における簡便性から好ましい。
【0023】
本発明を、図1を用いて製造工程に即して詳細に説明する。
本発明の磁気記録媒体は、例えば、非磁性基板1の表面に軟磁性層、中間層、磁気パターンが形成された磁性層2、保護膜9を積層した構造を有し、さらに最表面には潤滑膜が形成されている。なお、本願発明の磁気記録媒体では、非磁性基板1、磁性層2、保護層9以外は適宜設ければ可能である。よって図1では、磁気記録媒体を構成する非磁性基板1、磁性層2、保護層9以外の層は省略している。
【0024】
本発明で使用する非磁性基板1としては、Alを主成分とした例えばAl−Mg合金等のAl合金基板や、通常のソーダガラス、アルミノシリケート系ガラス、結晶化ガラス類、シリコン、チタン、セラミックス、各種樹脂からなる基板など、非磁性基板であれば任意のものを用いることができる。中でもAl合金基板や結晶化ガラス等のガラス製基板またはシリコン基板を用いることが好ましい。またこれら基板の平均表面粗さ(Ra)は、1nm以下、さらには0.5nm以下であることが好ましく、中でも0.1nm以下であることが好ましい。
【0025】
上記のような非磁性基板の表面に形成される磁性層2は、面内磁性層でも垂直磁性層でもかまわないが、より高い記録密度を実現するためには垂直磁性層が好ましい。これら磁性層は主としてCoを主成分とする合金から形成するのが好ましい。
例えば、面内磁気記録媒体用の磁性層としては、非磁性のCrMo下地層と強磁性のCoCrPtTa磁性層からなる積層構造が利用できる。
【0026】
垂直磁気記録媒体用の磁性層としては、例えば軟磁性のFeCo合金(FeCoB、FeCoSiB、FeCoZr、FeCoZrB、FeCoZrBCuなど)、FeTa合金(FeTaN、FeTaCなど)、Co合金(CoTaZr、CoZrNB、CoBなど)等からなる裏打ち層と、Pt、Pd、NiCr、NiFeCrなどの配向制御膜と、必要によりRu等の中間膜、及び60Co−15Cr−15Pt合金や70Co−5Cr−15Pt−10SiO2合金(数字はモル%)からなる磁性層を積層したものを利用することがきる。
【0027】
磁性層の厚さは、3nm以上20nm以下、好ましくは5nm以上15nm以下とする。磁性層は使用する磁性合金の種類と積層構造に合わせて、十分なヘッド出入力が得られるように形成すればよい。磁性層の膜厚は再生の際に一定以上の出力を得るにはある程度以上の磁性層膜厚が必要であり、一方で記録再生特性を表す諸パラメーターは出力の上昇とともに劣化するのが通例であるため、最適な膜厚に設定する必要がある。
【0028】
通常、磁性層はスパッタ法により薄膜として形成する。
本願発明の磁気記録媒体は、例えば、図1に示すように、非磁性基板1に、少なくとも磁性層2を形成する工程A、磁性層2の上にマスク層3を形成する工程B、マスク層3の上にレジスト層4を形成する工程C、レジスト層4に磁気記録パターンのネガパターンを、スタンプ5を用いて転写する工程D(工程Dにおける矢印はスタンプ5の動きを示す。)、磁気記録パターンのネガパターンに対応する部分(工程Dの図の凹部)のマスクを除去する工程E(工程Dで凹部にレジストが残っている場合はレジスト及びマスクの除去工程)、レジスト層4側表面から磁性層2の表層部を部分的にイオンミリングする工程F(符号7は磁性層で部分的にイオンミリングした箇所を示す。また符号dは、磁性層でイオンミリングした深さを示す。)、磁性層のイオンミリングした箇所を反応性プラズマや反応性イオン10にさらして磁性層の磁気特性を改質する工程G(符号8は磁性層で磁気特性が改質した箇所を示す。)、レジスト層4およびマスク層3を除去する工程H、磁性層に不活性ガス11を照射する工程I、磁性層の表面を保護膜9で覆う工程Jをこの順で有する方法により製造することができる。
上記はイオンミリングする工程Fを含む好ましい方法であるが、この工程はなくても可能である。この場合はマスクが除去されて磁性層が露出した面が反応性プラズマや反応性イオンにさらされることになる。
【0029】
本願発明の磁気記録媒体の製造方法における工程Bで、磁性層2の上に形成するマスク層3は、Ta、W、Ta窒化物、W窒化物、Si、SiO2、Ta25、Re、Mo、Ti、V、Nb、Sn、Ga、Ge、As、Niからなる群から選ばれた何れか一種以上を含む材料で形成するのが好ましい。このような材料を用いることにより、マスク層3のミリングイオン6に対する遮蔽性を向上させ、また、マスク層3による磁気記録パターン形成特性を向上させることができる。さらに、これらの物質は、反応性ガスを用いたドライエッチングが容易であるため、図1の工程Hにおいて、残留物を減らし、磁気記録媒体表面の汚染を減少させることができる。
【0030】
本願発明の磁気記録媒体の製造方法では、これらの物質の中で、マスク層3として、As、Ge、Sn、Gaを用いるのが好ましく、Ni、Ti、V、Nbを用いるのがより好ましく、Mo、Ta、Wを用いるのが最も好ましい。マスク層3の厚さは一般的には1nm〜20nmの範囲が好ましい。
本願発明の磁気記録媒体の製造方法では、図1の工程C、Dで示した、レジスト層4に磁気記録パターンのネガパターン転写後の、レジスト層4の凹部の厚さを、0〜10nmの範囲内とするのが好ましい。レジスト層4の凹部の厚さをこの範囲とすることにより、図1の工程Eで示したマスク層3のエッチング工程において、マスク層3のエッジの部分のダレを無くし、マスク層3のミリングイオン6に対する遮蔽性を向上させ、また、マスク層3による磁気記録パターン形成特性を向上させることができる。レジスト層の厚さは一般的には10nm〜100nm程度である。
【0031】
本願発明の磁気記録媒体の製造方法では、図1の工程C、Dのレジスト層4に用いる材料を、放射線照射により硬化性を有する材料とし、レジスト層4にスタンプ5を用いてパターンを転写する工程に際して、または、パターン転写工程の後に、レジスト層4に放射線を照射するのが好ましい。このような製造方法を用いることにより、レジスト層4に、スタンプ5の形状を精度良く転写することが可能となり、図1の工程Eで示したマスク層3のエッチング工程において、マスク層3のエッジの部分のダレを無くし、マスク層の注入イオンに対する遮蔽性を向上させ、また、マスク層による磁気記録パターン形成特性を向上させることができる。本願発明の放射線とは、熱線、可視光線、紫外線、X線、ガンマ線等の広い概念の電磁波である。また、放射線照射により硬化性を有する材料とは、例えば、熱線に対しては熱硬化樹脂、紫外線に対しては紫外線硬化樹脂である。
【0032】
本願発明の磁気記録媒体の製造方法では、特に、レジスト層4にスタンプ5を用いてパターンを転写する工程に際して、レジスト層の流動性が高い状態で、レジスト層にスタンプを押圧し、その押圧した状態で、レジスト層に放射線を照射することによりレジスト層を硬化させ、その後、スタンプをレジスト層から離すことにより、スタンプの形状を精度良く、レジスト層に転写することが可能となる。レジスト層にスタンプを押圧した状態で、レジスト層に放射線を照射する方法としては、スタンプの反対側、すなわち基板側から放射線を照射する方法、スタンプの材料として放射線を透過できる物質を選択し、スタンプ側から放射線を照射する方法、スタンプの側面から放射線を照射する方法、熱線のように固体に対して伝導性の高い放射線を用いて、スタンプ材料または基板からの熱伝導により放射線を照射する方法を用いることができる。本願発明の磁気記録媒体の製造方法では、この中で特に、レジスト材としてノボラック系樹脂、アクリル酸エステル類、脂環式エポキシ類等の紫外線硬化樹脂を用い、スタンプ材料として紫外線に対して透過性の高いガラスもしくは樹脂を用いるのが好ましい。
【0033】
このような本発明の方法を用いることにより、磁気トラック間領域(磁性層を分離する領域)の磁気特性を低下、例えば保磁力、残留磁化を極限まで低減させることにより磁気記録の際の書きにじみをなくし、高い面記録密度の磁気記録媒体を提供することが可能となる。
前記のプロセスで用いられるスタンパーは、例えば、金属プレートに電子線描画などの方法を用いて微細なトラックパターンを形成したものが使用でき、材料としてはプロセスに耐えうる硬度、耐久性が要求される。たとえばNiなどが使用できるが、前述の目的に合致するものであれば材料は問わない。スタンパーには、通常のデータを記録するトラックの他にバーストパターン、グレイコードパターン、プリアンブルパターンといったサーボ信号のパターンも形成できる。
【0034】
本願発明では、工程Fに示すように、イオンミリング等により磁性層の表層の一部を除去することが好ましい。本願発明のように、磁性層の表層の一部を除去し、その後に、表面を反応性プラズマや反応性イオンにさらして磁性層の磁気特性を改質させた方が、磁性層の一部を除去しなかった場合に比べ、磁気記録パターンのコントラストがより鮮明になり、また磁気記録媒体のS/Nが向上した。この理由としては、磁性層の表層部を除去することにより、その表面の清浄化・活性化が図られ、反応性プラズマや反応性イオンとの反応性が高まったこと、また磁性層の表層部に空孔等の欠陥が導入され、その欠陥を通じて磁性層に反応性イオンが侵入しやすくなったことが考えられる。
【0035】
本願発明で、イオンミリング等により磁性層の表層の一部を除去する深さdは、好ましくは、0.1nm〜15nmの範囲内、より好ましくは、1〜10nmの範囲内とする。イオンミリングによる除去深さが0.1nmより少ない場合は、前述の磁性層の除去効果が現れず、また、除去深さが15nmより大きくなると、磁気記録媒体の表面平滑性が悪化し、磁気記録再生装置を製造した際の磁気ヘッドの浮上特性が悪くなる。
本願発明では、例えば磁気記録トラック及びサーボ信号パターン部を磁気的に分離する領域を、すでに成膜された磁性層を反応性プラズマや反応性イオンにさらして磁性層の磁気特性を改質(磁気特性の低下)することにより形成することを特徴とする。
【0036】
本願発明の、磁気的に分離した磁気記録パターンとは、図1の工程Gに示されているように、磁気記録媒体を表面側から見た場合、磁性層2が非磁性化等した領域8により分離された状態を指す。すなわち、磁性層2が表面側から見て分離されていれば、磁性層2の底部において分離されていなくとも、本願発明の目的を達成することが可能であり、本願発明の、磁気的に分離した磁気記録パターンの概念に含まれる。また、本願発明の磁気記録パターンとは、磁気記録パターンが1ビットごとに一定の規則性をもって配置された、いわゆるパターンドメディアや、磁気記録パターンが、トラック状に配置されたメディアや、その他、サーボ信号パターン等を含んでいる。
【0037】
この中で本願発明は、磁気的に分離した磁気記録パターンが、磁気記録トラック及びサーボ信号パターンである、いわゆる、ディスクリート型磁気記録媒体に適用するのが、その製造における簡便性から好ましい。
本願発明で、磁気記録パターンを形成するための磁性層の改質とは、磁性層をパターン化するために、磁性層の保磁力、残留磁化等を部分的に変化させることを指し、その変化とは、保磁力を下げ、残留磁化等を下げることを指す。
【0038】
さらに本願発明では、磁気記録トラック及びサーボ信号パターン部を磁気的に分離する箇所を、すでに成膜された磁性層を反応性プラズマや反応性イオンにさらして磁性層を非晶質化することにより実現することも可能である。本願発明における磁性層の磁気特性の改質は、磁性層の結晶構造の改変によって実現することも含む。
本願発明で、磁性層を非晶質化するとは、磁性層の原子配列を、長距離秩序を持たない不規則な原子配列の形態とすることを指し、より具体的には、2nm未満の微結晶粒がランダムに配列した状態とすることを指す。そしてこの原子配列状態を分析手法により確認する場合は、X線回折または電子線回折により、結晶面を表すピークが認められず、また、ハローが認められるのみの状態とする。
【0039】
本願発明の反応性プラズマとしては、誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)や反応性イオンプラズマ(RIE;Reactive Ion Plasma)が例示できる。
また、本願発明の反応性イオンとは、前述の誘導結合プラズマ、反応性イオンプラズマ内に存在する反応性のイオンが例示できる。
【0040】
誘導結合プラズマとは、気体に高電圧をかけることによってプラズマ化し、さらに高周波数の変動磁場によってそのプラズマ内部に渦電流によるジュール熱を発生させることによって得られる高温のプラズマである。誘導結合プラズマは電子密度が高く、従来のイオンビームを用いてディスクリートトラックメディアを製造する場合に比べ、広い面積の磁性膜において、高い効率で磁気特性の改質を実現することができる。
反応性イオンプラズマとは、プラズマ中にO2、SF6、CHF3、CF4、CCl4等の反応性ガスを加えた反応性の高いプラズマである。このようなプラズマを本願発明の反応性プラズマとして用いることにより、磁性膜の磁気特性の改質をより高い効率で実現することが可能となる。
【0041】
本願発明では、成膜された磁性層を反応性プラズマにさらすことにより磁性層を改質するが、この改質は、磁性層を構成する磁性金属と反応性プラズマ中の原子またはイオンとの反応により実現するのが好ましい。反応とは、磁性金属に反応性プラズマ中の原子等が侵入し、磁性金属の結晶構造が変化すること、磁性金属の組成が変化すること、磁性金属が酸化すること、磁性金属か窒化すること、磁性金属が珪化すること等が例示できる。
【0042】
本願発明では特に、反応性プラズマとして酸素原子を含有させ、磁性層を構成する磁性金属と反応性プラズマ中の酸素原子とを反応させることにより、磁性層を酸化させるのが好ましい。磁性層を部分的に酸化させることにより、酸化部分の残留磁化及び保磁力等を効率よく低減させることが可能となるため、短時間の反応性プラズマ処理により、磁気的に分離した磁気記録パターンを有する磁気記録媒体を製造することが可能となるからである。
磁性層を分離する領域を反応性プラズマ等により改質することについて、以上を纏めると改質には磁気特性の低下、例えば保磁力、残留磁化の低減、磁性層の非磁性化、非晶質化が含まれる。
【0043】
本願発明では、反応性プラズマに、ハロゲン原子を含有させるのが好ましい。またハロゲン原子としてはF原子を用いるのが特に好ましい。ハロゲン原子は、酸素原子と一緒に反応性プラズマ中に添加して用いても良いし、また酸素原子を用いずに反応性プラズマ中に添加しても良い。前述のように、反応性プラズマに酸素原子等を加えることにより、磁性層を構成する磁性金属と酸素原子等が反応して磁性層の磁気特性を改質させることが可能となる。この際、反応性プラズマにハロゲン原子を含有させることにより、この反応性をさらに高めることが可能となる。また、反応性プラズマ中に酸素原子を添加していない場合においても、ハロゲン原子が磁性合金と反応して、磁性層の磁気特性を改質させることが可能となる。この理由の詳細は明らかではないが、反応性プラズマ中のハロゲン原子が、磁性層の表面に形成している異物をエッチングし、これにより磁性層の表面が清浄化し、磁性層の反応性が高まることが考えられる。また、清浄化した磁性層表面とハロゲン原子とが高い効率で反応することが考えられる。このような効果を有するハロゲン原子としてF原子を用いるのが特に好ましい。
【0044】
本願発明では、その後、工程Hに示すように、レジスト4およびマスク3を除去する。この工程は、ドライエッチング、反応性イオンエッチング、イオンミリング、湿式エッチング等の手法を用いることができる。
本願発明では、その後、工程Iに示すように、工程F、G、Hの工程で活性化した磁性層に不活性ガスを照射し、磁性層を安定化させる。このような工程を設けることにより、磁性層が安定し、高温多湿環境下においても磁性粒子のマイグレーション等の発生が抑制される理由は明らかではないが、磁性層の表面に不活性元素が侵入することにより磁性粒子の移動が抑制されること、または、不活性ガスの照射により、磁性層の活性な表面が除去され、磁性粒子のマイグレーション等が抑制されることが考えられる。
【0045】
本願発明の不活性ガスとしては、Ar、He、Xeからなる群から選ばれた何れか1種以上のガスを用いることが好ましい。これらの元素は安定であり、磁性粒子のマイグレーション等の抑制効果が高いからである。
本願発明の不活性ガスの照射は、イオンガン、ICP,RIEからなる群から選ばれた何れかの方法を用いるのが好ましい。この中で特に、照射量の多さの点で、ICP,RIEを用いるのが好ましい。ICP,RIEについては前述したとおりである。
【0046】
本願発明では、工程Jに示すように、保護層9を形成後、潤滑材を塗布して磁気記録媒体を製造する工程を採用するのが好ましい。
保護膜9の形成は、一般的にはDiamond Like Carbonの薄膜をP−CVDなどを用いて成膜する方法が行われるが特に限定されるものではない。
保護膜としては、炭素(C)、水素化炭素(HxC)、窒素化炭素(CN)、アルモファスカーボン、炭化珪素(SiC)等の炭素質層やSiO2、Zr23、TiNなど、通常用いられる保護膜材料を用いることができる。また、保護膜が2層以上の層から構成されていてもよい。
【0047】
保護膜9の膜厚は10nm未満とする必要がある。保護膜の膜厚が10nmを越えるとヘッドと磁性層との距離が大きくなり、十分な出入力信号の強さが得られなくなるからである。
保護膜の上には潤滑層を形成することが好ましい。潤滑層に用いる潤滑剤としては、フッ素系潤滑剤、炭化水素系潤滑剤及びこれらの混合物等が挙げられ、通常1〜4nmの厚さで潤滑層を形成する。
【0048】
次に、本発明の磁気記録再生装置の構成を図2に示す。本発明の磁気記録再生装置は、上述の本発明の磁気記録媒体100と、これを記録方向に駆動する媒体駆動部101と、記録部と再生部からなる磁気ヘッド102と、磁気ヘッド102を磁気記録媒体100に対して相対運動させるヘッド駆動部103と、磁気ヘッド102への信号入力と磁気ヘッド104からの出力信号再生を行うための記録再生信号処理手段を組み合わせた記録再生信号系104とを具備したものである。これらを組み合わせることにより記録密度の高い磁気記録装置を構成することが可能となる。磁気記録媒体の記録トラックを磁気的に不連続に加工したことによって、従来はトラックエッジ部の磁化遷移領域の影響を排除するために再生ヘッド幅を記録ヘッド幅よりも狭くして対応していたものを、両者をほぼ同じ幅にして動作させることができる。これにより十分な再生出力と高いSNRを得ることができるようになる。
【0049】
さらに上述の磁気ヘッドの再生部をGMRヘッドあるいはTMRヘッドで構成することにより、高記録密度においても十分な信号強度を得ることができ、高記録密度を持った磁気記録装置を実現することができる。またこの磁気ヘッドの浮上量を0.005μm〜0.020μmと従来より低い高さで浮上させると、出力が向上して高い装置SNRが得られ、大容量で高信頼性の磁気記録装置を提供することができる。また、最尤復号法による信号処理回路を組み合わせるとさらに記録密度を向上でき、例えば、トラック密度100kトラック/インチ以上、線記録密度1000kビット/インチ以上、1平方インチ当たり100Gビット以上の記録密度で記録・再生する場合にも十分なSNRが得られる。
【実施例】
【0050】
以下実施例により本発明を具体的に説明する。
(実施例1)
HD用ガラス基板をセットした真空チャンバをあらかじめ1.0×10-5Pa以下に真空排気した。ここで使用したガラス基板はLi2Si25、Al23−K2O、Al23−K2O、MgO−P25、Sb23−ZnOを構成成分とする結晶化ガラスを材質とし、外径65mm、内径20mm、平均表面粗さ(Ra)は2オングストロームである。
【0051】
該ガラス基板にDCスパッタリング法を用いて、軟磁性層として65Fe−30Co−5B、中間層としてRu、磁性層として70Co−5Cr−15Pt−10SiO2(これらはモル比。)合金の順に薄膜を積層した。それぞれの層の膜厚は、FeCoB軟磁性層は600Å、Ru中間層は100Å、磁性層は150Åとした。
その上に、スパッタ法を用いてマスク層を形成した、マスク層にはTaを用いて膜厚は60nmとした。
その上に、レジストをスピンコート法により塗布した。レジストには、紫外線硬化樹脂であるノボラック系樹脂を用いた。また膜厚は100nmとした。
【0052】
その上に、磁気記録パターンのネガパターンを有するガラス製のスタンプを用いて、スタンプを1MPa(約8.8kgf/cm2)の圧力で、レジスト層に押圧した。その状態で、波長250nmの紫外線を、紫外線の透過率が95%以上であるガラス製のスタンプの上部から10秒間照射し、レジストを硬化させた。その後、スタンプをレジスト層から分離し、磁気記録パターンを転写した。レジスト層に転写した磁気記録パターンは、レジストの凸部が幅120nmの円周状、レジストの凹部が幅60nmの円周状であり、レジスト層の層厚は80nm、レジスト層の凹部の厚さは 約5nmであった。また、レジスト層凹部の基板面に対する角度は、ほぼ90度であった。
【0053】
その後、レジスト層の凹部の箇所、および、その下のTa層をドライエッチングで除去した。ドライエッチング条件は、レジストのエッチングに関しては、O2ガスを40sccm、圧力0.3Pa,高周波プラズマ電力300W、DCバイアス30W、エッチング時間10秒とし、Ta層のエッチングに関しては、CF4ガスを50sccm、圧力0.6Pa、高周波プラズマ電力500W、DCバイアス60W、エッチング時間30秒とした。
【0054】
その後、磁性層でマスク層に覆われていな箇所について、その表面をイオンミリングにより除去した。イオンミリングにはArイオンを用いた。イオンミリングの条件は、高周波放電力 800W、加速電圧 500V圧力 0.014Pa、Ar流量 5sccm、処理時間 40秒、電流密度 0.4mA/cm2とした。
イオンミリングを施した表面を反応性プラズマにさらし、その箇所の磁性層について磁気特性の改質を行った。磁性層の反応性プラズマ処理は、アルバック社の誘導結合プラズマ装置NE550を用いた。プラズマの発生に用いるガスおよび条件としては、O2を90cc/分を用い、プラズマ発生のための投入電力は200W、装置内の圧力は0.5Paとし、磁性層を300秒間処理した。
【0055】
その後、レジスト、マスク層をドライエッチングにより除去した。ドライエッチングの条件は、SF6ガスを100sccm、圧力2.0Pa、高周波プラズマ電力400w、処理時間、300秒とした。
その後、磁性層の表面に不活性ガスプラズマを照射した。不活性ガスプラズマの照射条件は、不活性ガス 5sccm、圧力0.014Pa、加速電圧 300V、電流密度 0.4mA/cm2、処理時間5、10、15、25秒とした。
その表面にCVD法にてカーボン(DLC:ダイヤモンドライクカーボン)保護膜を4nm成膜し、その後、潤滑材を塗布して磁気記録媒体を製造した。
【0056】
(比較例1)
実施例と同様に磁気記録媒体を製造した。この際、磁性膜の不活性ガスプラズマ照射は行わなかった。
(実施例2〜6)
実施例1において、Ar照射時間を変えた以外は実施例1と同様にして磁気記録媒体を製造した。
実施例2〜6におけるAr照射時間とCoコロージョン(ng)、電磁変換特性(SN;dB)の関係を表1、図3、図4に、実施例1、比較例1と共に示す。
【0057】
(耐環境性評価)
実施例、比較例で製造した磁気記録媒体について耐環境性評価を行った。耐環境性評価は、製造した磁気記録媒体を、温度80℃、湿度80%の環境下に48時間放置し、磁気記録媒体の表面に生ずるコロージョンを調べた。具体的には、3%硝酸水溶液を磁気記録媒体表面に100μリットルずつ10箇所滴下し、この磁気記録媒体をシャーレで覆って1時間放置し、その後、ピペットで液滴を回収し、この液滴に含まれるCoを定量分析した。液滴に含まれるCo量を表1及び図3に示す。
(電磁変換特性の評価)
実施例、比較例で製造した磁気記録媒体について電磁変換特性(SNR)の評価を行った。電磁変換特性の評価はスピンスタンドを用いて実施した。このとき評価用のヘッドには、記録には垂直記録ヘッド、読み込みにはTuMRヘッドを用いたて、750kFCIの信号を記録したときのSNR値および3T−squashを測定した。表1及び図4に評価結果を示す。
【0058】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0059】
本願発明によれば、耐環境性の高い磁気記録媒体を提供することが可能となる。すなわち、カーナビゲーションシステム等に内蔵される記憶装置のように、過酷な環境下でも安定して使用可能なハードディスクドライブを提供することが可能となり産業上の利用可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の磁気記録媒体の製造方法を示す模式図である。
【図2】本発明の磁気記録再生装置を示す模式図である。
【図3】実施例、比較例におけるコロージョン特性の結果を示す図である。
【図4】実施例、比較例における電磁変換特性の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
1 非磁性基板
2 磁性層
3 マスク層
4 レジスト層
5 スタンプ
6 ミリングイオン
7 部分的に磁性層を除去した箇所
d 磁性層の除去深さ
8 磁性層の改質を行った箇所
9 保護膜
10 反応性プラズマまたは反応性イオン
11 不活性ガス
100 磁気記録媒体
101 媒体駆動部
102 磁気ヘッド
103 ヘッド駆動部
104 記録再生信号系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気的に分離した磁気記録パターンを有する磁気記録媒体の製造方法であって、非磁性基板上に磁性層を形成する工程、磁性層を分離する領域を反応性プラズマもしくは反応性イオンにさらす工程、磁性層に不活性ガスを照射する工程をこの順で有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
磁気的に分離した磁気記録パターンを有する磁気記録媒体の製造方法であって、非磁性基板上に磁性層を形成する工程、磁性層を分離する領域の磁性層の表層部を除去する工程、該表層部を除去した磁性層の領域を反応性プラズマもしくは反応性イオンにさらす工程、磁性層に不活性ガスを照射する工程をこの順で有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
磁性層の表層部を除去が、イオンミリングによるものである請求項2に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
磁性層の表層部の除去深さが、0.1〜15nmである請求項2または3に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
磁性層を分離する領域を反応性プラズマもしくは反応性イオンにさらす工程により、該領域の磁気特性を低下させることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項6】
磁気特性の低下が、保磁力、残留磁化の低減である請求項5に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項7】
磁気特性の低下が、磁性層の非磁性化または非晶質化によるものである請求項5に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項8】
反応性プラズマもしくは反応性イオンが、酸素イオンを含有するプラズマもしくは反応性イオンであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項9】
反応性プラズマもしくは反応性イオンが、ハロゲンイオンを含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項10】
ハロゲンイオンが、CF4、SF6、CHF3、CCl4、KBrからなる群から選ばれた何れか1種以上のハロゲン化ガスを反応性プラズマ中に導入して形成したハロゲンイオンであることを特徴とする請求項9に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項11】
不活性ガスが、Ar、He、Xeからなる群から選ばれた何れか1種以上のガスであることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項12】
不活性ガスの照射が、イオンガン、ICP,RIEからなる群から選ばれた何れかの方法によることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項13】
非磁性基板に磁性層を形成する工程、磁性層の上にマスク層を形成する工程、マスク層の上にレジスト層を形成する工程、レジスト層に磁性層を磁気的に分離する磁気記録パターンを形成する工程、磁性層を磁気的に分離する領域のマスク層および残存している場合のレジスト層を除去する工程、マスク層で覆われていない箇所を反応性プラズマまたは反応性イオンにさらし磁気的に分離した磁気記録パターンを形成する工程、磁性層の上に形成したマスク層を全て除去する工程、磁性層に不活性ガスを照射する工程をこの順で有する磁気記録媒体の製造方法。
【請求項14】
非磁性基板に磁性層を形成する工程、磁性層の上にマスク層を形成する工程、マスク層の上にレジスト層を形成する工程、レジスト層に磁性層を磁気的に分離する磁気記録パターンを形成する工程、磁性層を磁気的に分離する領域のマスク層および残存している場合のレジスト層を除去する工程、マスク層を除去した領域の磁性層の表層部を除去する工程、該表層部を除去した箇所を反応性プラズマまたは反応性イオンにさらし磁気的に分離した磁気記録パターンを形成する工程、磁性層の上に形成したマスク層を全て除去する工程、磁性層に不活性ガスを照射する工程をこの順で有する磁気記録媒体の製造方法。
【請求項15】
磁性層に不活性ガスを照射する工程の後に、保護膜を形成する工程を有することを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法で製造した磁気記録媒体と、該磁気記録媒体を記録方向に駆動する駆動部と、記録部と再生部からなる磁気ヘッドと、磁気ヘッドを磁気記録媒体に対して相対運動させる手段と、磁気ヘッドへの信号入力と磁気ヘッドからの出力信号再生を行うための記録再生信号処理手段を組み合わせて具備してなることを特徴とする磁気記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−76146(P2009−76146A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−244754(P2007−244754)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】