説明

磁気記録媒体の製造方法

【課題】縦じわ状の発生および磁性層の凹みの発生を抑制して原反の品質の安定化を実現すると共に原反の長尺巻取りによる生産効率の向上を実現する。
【解決手段】下層非磁性層形成工程と、上層磁性層形成工程と、バックコート層形成工程と、各層が形成された原反を巻き取る第1巻き取り工程と、原反に熱硬化処理を行う熱硬化工程と、原反に対してカレンダー加工を行うカレンダー工程と、カレンダー加工後の原反を巻き取る第2巻き取り工程とを含み、第1巻き取り工程において巻き取った原反の中央部の厚みが端部の厚みよりも10000ターン当たり0.25mm以上0.35mm以下の範囲内で厚くなるように(原反累積形状値がこの範囲内となるように)各層を形成し、第2巻き取り工程において巻き取った原反の中央部の厚みが端部の厚みよりも10000ターン当たり0.2mm以上0.3mm以下の範囲内で厚くなるようにカレンダー処理を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体の製造方法、特に表面平滑性及び電磁変換特性に優れる磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に磁気テープは、長尺広幅の可撓性支持体に磁性層を含む塗布層を形成して原反とし、これをコアに巻取り、その後、例えば1/2インチ幅等、所望の幅に多条に裁断(切断)することで得られる。近年、媒体としての高容量化が一層進み、支持体の厚み並びに磁性層の他、各層の厚みを薄膜化する傾向にある。これは一定容積内に巻き取るテープ長さを長くし、高容量化を図るためである。原反長さが長くなれば、コアに原反を巻き取る際、ターン数(原反がコアに巻回され積層する層数)も増え、原反幅方向に厚みの不均一な箇所があると積層され強調されることとなり、所望のテープ幅に切断する際に、原反幅方向で張力が不均等となり、切断後の磁気テープの幅がバラツキとなる。一方、コアに巻き取った原反に部分的に凹むような箇所があると、原反の長手方向に縦じわ状の変形が発生してしまいテープとなった際にヘッドへの当りが不均等となる。そのため、部分的な凹みが発生せず、中央部分がわずかに凸状となるような形状でコアに巻き取って原反とすることが好ましい。
【0003】
中央部を凸状として原反を製造する従来技術として、例えば特開昭61−293577号公報が挙げられる。これによれば、長尺広巾支持体上への塗布剤の塗布に際して、巾方向の塗布剤乾燥膜厚が端部より中央部に向うにしたがってより厚めになる如く塗布をすることが開示されている。同公報の実施例にあっては、長尺広巾支持体の長さが4000mで巾方向平均乾燥膜厚が1.0μmのときに、端部に対する中央部の厚みの偏差を0.1μmとしている。しかしながら、長尺広巾支持体の長さが10000mを超えるときには、厚みの偏差が0.1μmであっても、長尺広巾支持体をコア(巻芯)に巻き付けるターン数(巻き付け数)が10000回以上となり、このような場合には、偏差の累積による中央部の突出量(端部の厚みと中央部の厚みとの差が過大となる(例えば、ターン数が10000ともなると中央部が端部よりも周方向に1mm突出する)。
【0004】
特開2000−285445号公報には、積層するターン数を一定範囲に抑えることで、原反の転写や変形を防ぐ方法が開示されている。しかしながら、巻取りのコア径を極端に大きくしたり、巻き取る原反の長さを短くすることになり、コアに巻き取った原反のハンドリングが悪くなり、また原反長さが短くなることで製品に使えないコアへの原反の巻き始め部分や、最外周部分が製品化できる長さに対して、比率が大きくなることで生産効率は低下する。
【0005】
そのため、なるべく長尺の原反を巻き取ることが好ましいが、バックコート層の表面に微小突起が形成されていると、磁気テープ用支持体を巻き取って磁気テープ原反ロールを製造した段階で、その微小突起が対向する磁性層表面に押し付けられる。そして、その状態で磁気テープ原反ロールを長時間放置したり、加熱したりすると、磁性層表面に微小な凹みが形成されてしまうという問題がある。コンピュータのバックアップ用磁気テープに代表されるテープ状記録媒体のデータ記録層の表面に凹みがあると、データ読み取り/書き込み時におけるドロップアウト(信号欠落)の発生頻度が増大し、テープ状記録媒体の品質が低下してしまう。また、トラック幅が狭くなるにつれてかかる凹みの影響が大きくなることから、テープ状記録媒体の記録容量(記録密度)を増大させる上で大きな障害となる。そのため特開2007−004874号公報では、切断されハブに巻き取られたパンケーキを加熱してバックコート層の転写により発生した磁性層の凹みを回復させる処理方法が提案されているが、パンケーキを再度加熱することによる温度変化で、パンケーキに段落ちや、飛び出しが発生しやすくテープの側面を傷める結果となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−293577号公報(第2−3頁、第1−7図)
【特許文献2】特開2000−285445号公報(第2−12頁、第1−6図)
【特許文献3】特開2007−004874号公報(第5−12頁、第1−6図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、原反の長手方向における縦じわ状の変形の発生、およびバックコート層の転写による磁性層の凹みの発生を抑制して原反の品質の安定化を実現すると共に、原反の長尺巻取りによる生産効率の向上を実現し得る磁気記録媒体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、可撓性支持体の一方の面上に非磁性粉末および結合剤を少なくとも含む非磁性層用塗布液を塗布して乾燥させた後に硬化させて下層非磁性層を形成する下層非磁性層形成工程と、前記非磁性の上に強磁性粉末および結合剤を少なくとも含む磁性層用塗布液を塗布した後に乾燥させて上層磁性層を形成する上層磁性層形成工程と、前記可撓性支持体の他方の面上に非磁性粉末および結合剤を少なくとも含むバックコート層用塗布液を塗布した後に乾燥させてバックコート層を形成するバックコート層形成工程と、前記可撓性支持体の両面に前記各層が形成された原反をコアに巻き取る第1巻き取り工程と、前記コアに巻き取った前記原反に対して熱硬化処理を行う熱硬化工程と、前記コアに巻き取った前記原反を繰り出して、当該原反に対してカレンダー加工を行うカレンダー工程と、前記カレンダー加工を行った前記原反をコアに巻き取る第2巻き取り工程とを含んで、磁気記録媒体を製造する磁気記録媒体の製造方法であって、前記第1巻き取り工程において前記コアに巻き取った前記原反における幅方向の中央部の厚みが当該幅方向の端部の厚みよりも10000ターン当たり0.25mm以上0.35mm以下の範囲内で厚くなるように、前記各層の厚みを規定して当該各層を形成し、前記第2巻き取り工程において前記コアに巻き取った前記原反における幅方向の中央部の厚みが当該幅方向の端部の厚みよりも10000ターン当たり0.2mm以上0.3mm以下の範囲内で厚くなるように、前記カレンダー処理を実行することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法である。
【0009】
本発明は、前記カレンダー工程において、前記原反の前記幅方向に沿った長さ方向の中央部が当該長さの端部よりも大径のクラウン形状に形成された複数の金属ロールを用いて前記カレンダー加工を行うことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法である。
【0010】
本発明は、前記下層非磁性層形成工程における前記下層非磁性層を硬化させる処理は放射線による硬化処理であることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熱硬化処理時に、コアに巻き取った原反のロール形状を最終よりもやや大きめの中央凸形状とすることで、原反の長手方向に発生する縦じわ状の変形の発生を確実に防止することができるため、原反の品質を安定化することができる結果、歩留を向上することができる。また、原反の品質が安定化することで、ヘッドタッチの良いテープを製造できる。また、熱硬化処理後にカレンダー処理を行うことにより、バックコート層の転写による磁性層の凹みの発生を回避することができるため、ドロップアウトの発生頻度が抑えられ、テープ状記録媒体の記録容量(記録密度)を安定して確保できる結果、品質を向上することができる。また、原反巻取り長が長くなっても、品質の安定化が図れるため、製品のロスを削減することができる結果、コストダウンおよび生産効率の向上を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に用いる測定装置の斜視図である。
【図2】原反累積形状値の測定方法を説明する第1の説明図である。
【図3】原反累積形状値の測定方法を説明する第2の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
本発明で製造される磁気記録媒体の例としては、非磁性支持体(可撓性支持体)の一方の面上に下層非磁性層が設けられ、下層非磁性層上に厚み0.03〜0.30μmの上層磁性層が設けられ、非磁性支持体の他方の面上にバックコート層が設けられている。なお、本発明では、磁性層上に潤滑剤塗膜や磁性層保護用の各種塗膜などが必要に応じて設けられてもよい。また、非磁性支持体の磁性層が設けられる前記一方の面には、塗膜(下層非磁性層)と非磁性支持体との接着性の向上等を目的として、下塗り層(易接着層)が設けられてもよい。
【0015】
[下層非磁性層]
下層非磁性層は、カーボンブラック、カーボンブラック以外の非磁性無機粉末、及び結合剤樹脂を含む。
【0016】
非磁性層に含まれるカーボンブラックとしては、ゴム用ファーネスブラック、ゴム用サーマルブラック、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を用いることができる。比表面積は5〜600m/g、DBP吸油量は30〜400ml/100g、粒子径は10〜100nmが好ましい。使用できるカーボンブラックは具体的には「カーボンブラック便覧」、カーボンブラック協会編を参考にすることができる。
【0017】
カーボンブラック中に含まれる水溶性ナトリウムイオン及び水溶性カルシウムイオンは少ない方が好ましく、水溶性ナトリウムイオン含有量は500ppm以下、さらには300ppm以下が好ましい。水溶性カルシウムイオン含有量は300ppm以下、さらには200ppm以下が好ましい。上記範囲を上回ると、塗膜中に含まれる有機酸(特に脂肪酸)と塩を形成し、塗膜表面に吐出し、ドロップアウトやエラーレート増加の要因となる。
【0018】
カーボンブラック中に含まれる水溶性ナトリウムイオン及び水溶性カルシウムイオンを低減するには、カーボンブラックの製造工程中における反応停止流体として使用される水、あるいは造粒工程にて使用される水の純度を高めればよい。カーボンブラックの製造方法は、特開平11−181323号公報、特開平10−46047号公報、特開平8−12898号公報に記載されている。
【0019】
非磁性層にはカーボンブラック以外の各種無機粉末を用いることができ、例えば、針状の非磁性酸化鉄(α−Fe)、CaCO、酸化チタン、硫酸バリウム、α−Al等の無機粉末が挙げられる。これらの無機粉末中に含まれる水溶性ナトリウムイオン及び水溶性カルシウムイオンは少ない方が好ましく、水溶性ナトリウムイオン含有量は70ppm以下、さらには50ppm以下が好ましい。上記範囲を上回ると塗膜中に含まれる有機酸(特に脂肪酸)と塩を形成し、塗膜表面に吐出し、ドロップアウトやエラーレート増加の要因となる。無機粉末中に含まれる水溶性ナトリウムイオン及び水溶性カルシウムイオンを低減するには、水洗工程を加えればよい。
【0020】
カーボンブラックと前記カーボンブラック以外の無機粉末の配合比率は、質量比(カーボンブラック/無機粉末)で100/0〜5/95が好ましい。カーボンブラックの配合比率が5質量部を下回ると、表面電気抵抗に問題が生じる。
【0021】
下層非磁性層には、上記材料の他に結合剤として、熱可塑性樹脂、熱硬化性ないし反応型樹脂、放射線(電子線又は紫外線)硬化型樹脂等が、媒体の特性、工程条件に合わせて適宜組み合わせて選択されて使用される。
【0022】
熱可塑性樹脂としては、軟化温度が150℃以下、平均分子量5000〜200000、重合度50〜2000程度のものが用いられ、また、熱硬化性樹脂、反応型樹脂又は放射線硬化型樹脂としては、平均分子量5000〜200000、重合度50〜2000程度のものであって、塗布、乾燥、カレンダー加工後に加熱及び/又は放射線(電子線又は紫外線)照射することにより、縮合、付加等の反応により分子量が増大するものが用いられる。
【0023】
これらのうちで、好ましく用いられるものとしては、以下に示すようなニトロセルロース及びポリウレタン樹脂の組み合わせ、塩化ビニル系共重合体及びポリウレタン樹脂の組み合わせである。
【0024】
塩化ビニル系共重合体としては、塩化ビニル含有量60〜95質量%、特に60〜90質量%のものが好ましく、その平均重合度は100〜500程度であることが好ましい。
【0025】
このような塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−マレイン酸共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール−マレイン酸共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリート共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリート−マレイン酸共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール−グリシジル(メタ)アクリレート共重合体、塩化ビニル−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート−グリシジル(メタ)アクリレート共重合体、塩化ビニル−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート共重合体等が挙げられ、特に塩化ビニルとエポキシ(グリシジル)基を含有する単量体との共重合体が好ましい。
【0026】
塩化ビニル系共重合体は、分散性向上のために、硫酸基(−SOY)及び/又はスルホ基(−SOY)を極性基(以下、S含有極性基という)として含有するものが好ましい。前記S含有極性基において、Yは、H、アルカリ金属のいずれであってもよいが、Y=K、すなわち−SOK、−SOKであることが特に好ましい。塩化ビニル系共重合体は、前記S含有極性基のうちいずれか一方のみを含有していてもよく、両者を含有していてもよく、両者を含むときにはその含有比は任意である。
【0027】
上記塩化ビニル系樹脂と併用するポリウレタン樹脂とは、ポリエステルポリオール及び/又はポリエーテルポリオール等のヒドロキシ基含有樹脂とポリイソシアネート含有化合物との反応により得られる樹脂の総称であって、数平均分子量5000〜200000程度で、Q値(質量平均分子量/数平均分子量)1.5〜4程度のものである。
【0028】
ポリウレタン樹脂は、末端や側鎖に極性基を有するものであっても良く、特に硫黄及び/又は燐を含有する極性基を含有しているものが好ましい。
【0029】
ポリウレタン樹脂中に含まれる極性基として、−SOM、−SOM、−SR等のS含有基、−POM、−POM、−POM、−P=O(OM)(OM)、−OP=O(OM)(OM)等のP含有極性基、−COOM、−OH、−NR、−N+RX−(ここで、M、M、Mは、H、Li、Na、Kを示し、Rは、H又は炭化水素基を示し、Xはハロゲン原子を示す)、エポキシ基、−CN等が挙げられる。これらの極性基から選ばれる少なくとも1つの極性基が、共重合又は付加反応により導入されたポリウレタン樹脂を用いることが好ましい。これら極性基は、分子中に0.01〜3質量%含まれていることが好ましく、これら極性基は骨格樹脂の主鎖中に存在しても、分枝中に存在してもよい。
【0030】
またポリウレタン樹脂は、ガラス転移温度Tgが−20℃≦Tg≦80℃の範囲のものが好ましい。
【0031】
このようなポリウレタン樹脂は公知の方法により、特定の極性基含有化合物及び/又は特定の極性基含有化合物と反応させた原料樹脂等を含む原料を、溶剤中又は無溶剤中で反応させることにより得られる。
【0032】
塩化ビニル系共重合体及びポリウレタン樹脂に加えて、非磁性層において全結合剤の20質量%以下の範囲で、公知の各種樹脂が含有されてもよい。
【0033】
塩化ビニル系共重合体及びポリウレタン樹脂以外の熱可塑性樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン系共重合体、ポリアミド樹脂、ポリビニルブチラール、ニトロセルロース、スチレン−ブタジエン系共重合体、ポリビニルアルコール樹脂、アセタール樹脂、エポキシ系樹脂、フェノキシ系樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリカプロラクトン等の多官能性ポリエーテル類、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、ポリブタジエンエラストマー、塩化ゴム、アクリルゴム、イソプレンゴム、エポキシ変性ゴム等が挙げられる。
【0034】
また、熱硬化性樹脂としては、縮重合するフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン硬化型樹脂、尿素樹脂、ブチラール樹脂、ホルマール樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、シリコーン樹脂、アクリル系反応樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ−ポリアミド樹脂、飽和ポリエステル樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂等が挙げられる。
【0035】
これらの結合剤樹脂を硬化する架橋剤としては、各種ポリイソシアナート、特にジイソシアナートを用いることができ、特に、トリレンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、メチレンジイソシアナートの1種以上を用いることが好ましい。これらの架橋剤は、トリメチロールプロパン等の水酸基を複数有するもので変性した架橋剤又はジイソシアネート化合物3分子が結合したイソシアヌレート型の架橋剤として用いることが特に好ましく、結合剤樹脂に含有される官能基等と結合して樹脂を架橋する。架橋剤の含有量は、結合剤樹脂100質量部に対し、10〜30質量部とすることが好ましい。このような熱硬化性樹脂を硬化するには、一般に加熱オーブン中で50〜70℃にて12〜48時間加熱すればよい。
【0036】
さらに、上記結合剤樹脂を公知の手法により(メタ)アクリル系二重結合を導入して電子線感応変性を行ったものを使用することも可能である。この電子線感応変性を行うには、樹脂に対し、トリレンジイソシアネート(TDI)と2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(2−HEMA)との反応物(アダクト)を反応させるウレタン変性、エチレン性不飽和二重結合を1個以上及びイソシアネート基1個を1分子中に有し、かつウレタン結合を分子中に持たないモノマー(2−イソシアネートエチル(メタ)アクリレート等)を用いる改良型ウレタン変性、水酸基やカルボン酸基を有する樹脂に対し、(メタ)アクリル基とカルボン酸無水物あるいはジカルボン酸とを有する化合物を反応させるエステル変性がよく知られている。これらの中でも改良ウレタン変性が、塩化ビニル系樹脂の含有比率を上げても脆くならず、しかも分散性、表面性に優れた塗膜を得ることができるため好ましい。
【0037】
これら電子線硬化型結合剤樹脂を用いる場合、架橋率を向上させるために従来公知の多官能アクリレートを、結合剤樹脂100質量部に対して1〜50質量部、好ましくは5〜40質量部混合して使用してもよい。
【0038】
下層非磁性層に用いる結合剤樹脂の含有量は、下層非磁性層中のカーボンブラックとカーボンブラック以外の無機粉末の合計100質量部に対し、好ましくは10〜100質量部、より好ましくは12〜30質量部である。結合剤の含有量が少なすぎると、下層非磁性層における結合剤樹脂の比率が低下し、十分な塗膜強度が得られない。結合剤の含有量が多すぎると、下層非磁性層塗布液作成時に分散不良を起こし、平滑な下層非磁性層面を形成することができなくなる。
【0039】
下層非磁性層には必要に応じて潤滑剤を含有することが好ましい。潤滑剤としては、飽和、不飽和に関わらず、脂肪酸、脂肪酸エステル、糖類など公知のものを、単独であるいは2種以上混合して用いることができ、融点の異なる脂肪酸を2種以上混合し用いることや、融点の異なる脂肪酸エステルを2種以上混合し用いることも好ましい。これは、磁気記録媒体の使用される、あらゆる温度環境に応じた潤滑剤を、媒体表面に持続して供給する必要があるからである。
【0040】
具体的には、脂肪酸として、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、エルカ酸などの飽和直鎖脂肪酸や、イソセチル酸、イソステアリン酸などの飽和で側鎖を有する脂肪酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの不飽和脂肪酸などを適宜使用することができる。
【0041】
脂肪酸エステルとしては、ブチルステアレート、ブチルパルミテートなどの直鎖の飽和脂肪酸エステル、イソセチルステアレート、イソステアリルステアレートなどの側鎖を有する飽和脂肪酸エステル、イソステアリルオレエートなどの不飽和脂肪酸エステル、オレイルステアレートなどの不飽和アルコールの脂肪酸エステル、オレイルオレエートなどの不飽和脂肪酸と不飽和アルコールのエステル、エチレングリコールジステアレートなどの2価アルコールのエステル、エチレングリコールモノオレエート、エチレングリコールジオレエート、ネオペンチルグリコールジオレエートなどの2価アルコールと不飽和脂肪酸のエステル、またソルビタンモノステアレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエートなどの糖類と飽和又は不飽和脂肪酸とのエステルなどが挙げられる。
【0042】
下層非磁性層の潤滑剤の含有量は、目的に応じ適宜調整すればよいが、カーボンブラックとカーボンブラック以外の無機粉末を加えた合計質量に対し、1〜20質量%が好ましい。
【0043】
下層非磁性層形成用の塗布液は、上記各成分に有機溶剤を加えて調整する。用いる有機溶剤は特に制限はなく、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤や、トルエン等の芳香族系溶剤などの各種溶媒の1種又は2種以上を、適宜選択して用いればよい。有機溶剤の添加量は、カーボンブラック、カーボンブラック以外の各種無機粉末等、及び結合剤樹脂の合計量100質量部に対し100〜900質量部程度とすればよい。
【0044】
下層非磁性層の厚さは、通常0.1〜2.5μm、好ましくは0.3〜2.3μmである。非磁性層が薄すぎると、非磁性支持体の表面粗さの影響を受けやすくなり、その結果、非磁性層の表面平滑性が悪化して磁性層の表面平滑性も悪化しやすくなり、電磁変換特性が低下する傾向にある。また、光透過率が高くなるので、テープ端を光透過率の変化により検出する場合に問題となる。一方、非磁性層をある程度以上厚くしても性能は向上しない。
【0045】
[上層磁性層]
上層磁性層は、少なくとも強磁性粉末、及び結合剤樹脂を含有する。
【0046】
前記強磁性粉末の平均長軸長は0.1μm以下であることが好ましい。長軸の短い強磁性粉末を用いることにより塗膜の充填率が上がり、バックコート層からの転写を受けにくくなる。好ましい強磁性粉末の平均長軸長は0.03〜0.10μmである。強磁性粉末の平均長軸長が0.1μmを超えると、塗膜の充填率が上がらず、バックコート層からの転写を受けやすくなる。一方、平均長軸長が0.03μm未満では、磁気的異方性が弱まり配向しにくくなり、出力が低下しやすい。
【0047】
本発明において、強磁性粉末としては、金属磁性粉末又は六方晶形板状微粉末を用いることが好ましい。金属磁性粉末としては、保磁力Hcが118.5〜237kA/m(1500〜3000Oe)、飽和磁化σsが120〜160Am/kg(emu/g)、平均長軸長が0.03〜0.1μm、平均短軸長が10〜20nm、アスペクト比が1.2〜20であることが好ましい。また、金属磁性粉末を用いて作製した媒体のHcは118.5〜237kA/m(1500〜3000Oe)が好ましい。六方晶形板状微粉末としては、保磁力Hcが79〜237kA/m(1000〜3000Oe)、飽和磁化σsが50〜70Am/kg(emu/g)、平均板粒径が30〜80nm、板比が3〜7であることが好ましい。また、六方晶形板状微粉末を用いて作製した媒体のHcは94.8〜173.8kA/m(1200〜2200Oe)が好ましい。
【0048】
ここで、強磁性粉末の平均長軸長は、テープ片から磁性粉末を分別、採取して、透過型電子顕微鏡(TEM)により撮影した写真から、粉末の長軸長を計ることにより求めることができる。その手順の一例を以下に示す。
(1)テープ片からバックコート層を溶剤で拭き取り、除去する。
(2)非磁性支持体上に下層非磁性層と上層磁性層が残ったテープ片試料を、5%NaOH水溶液に浸漬し、加熱、攪拌する。
(3)非磁性支持体から脱落させた塗膜を水洗し、乾燥する。
(4)乾燥された塗膜をメチルエチルケトン(MEK)中で超音波処理し、マグネットスターラーを用いて磁性粉末を吸着させて集める。
(5)残渣から磁性粉末を分離、乾燥する。
(6)専用のメッシュに(4)及び(5)で得られた磁性粉末を採取し、TEM用試料を作製し、TEMにて写真撮影する。
(7)写真の磁性粉末の長軸長を計って平均する(測定回数:n=100)。
【0049】
金属磁性粉末は、第一鉄塩とアルカリを混合した水懸濁液に、酸化性ガスを吹き込むことによって得られるオキシ水酸化鉄を出発原料とする。このオキシ水酸化鉄の種類としては、α−FeOOHが好ましく、その製法としては、第一鉄塩を水酸化アルカリで中和してFe(OH)の水懸濁液とし、この懸濁液に酸化性ガスを吹き込んで針状のα−FeOOHとする第一の製法がある。一方、第一鉄塩を炭酸アルカリで中和してFeCOの水懸濁液とし、この懸濁液に酸化性ガスを吹き込んで紡錘状のα−FeOOHとする第二の製法がある。
【0050】
これらの方法で用いる第一鉄塩としては、塩化第一鉄、硝酸第一鉄、硫酸第一鉄のいずれを使用してもよい。また、第一の製法で用いる水酸化アルカリとしては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アンモニア水が使用可能である。また、第二の製法で用いる炭酸アルカリとしては、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム等が使用可能である。
【0051】
上記第一の製法を用いて、微細で枝分かれがなく、分散性、パッキング性に優れる金属磁性粉末を得るのに適したα−FeOOHを製造する条件は、第一鉄塩の中和に必要なアルカリ量の2〜10倍量のアルカリを使用し、アルカリ濃度の高い条件でFe(OH)の酸化反応を進めることである。アルカリ濃度の高い領域での反応は、枝分かれのない粒子を得るのに必要な条件である。また、粒子の大きさのコントロールは、一般に知られているように、反応温度、酸化性ガスの吹き込み量のコントロールによって可能であるが、その他として、第一鉄塩中にNi、Co、Al、Si等の金属塩を存在させておき、これをアルカリで中和してから酸化反応を進めることによっても、粒子の寸法をコントロールすることが可能である。
【0052】
第二の製法では、生成する紡錘状のα−FeOOHは枝分かれがなく、粒度の揃った微細な粒子が得やすい。また第二の製法における粒子の大きさのコントロールは、水懸濁液中の鉄の濃度、反応温度、酸化性ガスの吹き込み量を変化させることにより可能である。また、第一の製法と同じようにNi、Co等の添加によっても粒子の形状をコントロールすることができる。
【0053】
以下、第一の製法で得た針状のα−FeOOHを原料とする金属磁性粉末の製造方法を例として説明する。先ず、第一鉄塩を中和に必要な量の2倍量以上の水酸化アルカリで中和して、Fe(OH)のアルカリ懸濁液とし、これに酸化性ガスを吹き込んで針状のα−FeOOHを得る。この時、α−FeOOHの針状比及び形状をコントロールするために、Ni、Co、Zn、Cr、Mn、Zr、Al、Si、P、Ba、Ca、Mg、Cu、Sr、Ti、Mo、Ag、稀土類元素等の金属をドープしておくことができる。これらの異種金属の添加方法は、第一鉄塩中に均一に混合しておいても良く、また反応の途中で添加しても良い。添加量については所望する形状、大きさにより、経験的に決められる。
【0054】
なお、本方法では、第一鉄塩をアルカリで中和してFe(OH)の懸濁液を生成させ、これを酸化してα−FeOOHを製造するのであるが、この時使用するアルカリ量を中和当量の2倍以上使用することにより、金属磁性粉末とした時に保磁力の高い原料α−FeOOHが得られる。このようなアルカリの過剰量は、多ければ多いほどα−FeOOHの枝分かれは少なくなるが、10倍以上加えてもそれ以上の効果は発現しないため、10倍以上の過剰量を加える反応は効率的でない。
【0055】
また、好ましい金属磁性粉末を得るのに必要なα−FeOOH粒子の大きさは、その比表面積BET値が60〜130m/gの範囲となる大きさとすることが必要である。この比表面積が60m/g未満では、粒子が大きすぎて高保磁力は得られないし、単波長領域用の磁性材料として好ましくない。また、比表面積が130m/gを超えると、粒子が細かくなりすぎ超常磁性が発現するためかも知れないが、高保磁力は得られないし、また粒子の不揃いによるためかも知れないが、保磁力分布の広いものになってしまう。
【0056】
次に、Ni、Co、Zn、Cr、Mn、Zr、Al、Si、P、Ba、Ca、Mg、Cu、Sr、Ti、Mo、Ag、稀土類元素等がドープされているか又はドープされていないα−FeOOHに、Ni、Co、Al、Si及び稀土類元素の内の1種以上を含有させる。この際の含有方法としては、各種金属塩を酸又はアルカリで中和して、粒子表面上に水酸化物の微小な結晶の膜として被着させる方法が一般的である。Ni、Co、稀土類元素は、α−FeOOHを生成させる反応で必要量ドープされている場合は、新たにα−FeOOH粒子の表面に被着させなくてもよい場合もあるが、これらの元素を多量に含有させる必要がある場合は、ドープされる量に限界があるので、さらに表面にこれらの元素を被着させる。なお、金属磁性粉末中の各金属元素の含有量は以下の範囲が好ましい。以下の数値は鉄を100としたときの各金属の質量比である。
【0057】
Ni=0.3〜8.0Co=3.0〜45.0Al=0.5〜8.0Si=0.5〜8.0稀土類元素=0.2〜10.0但し、Al+Si=2.0〜15.0
【0058】
稀土類元素は、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Dy、及びYのうちの少なくとも1種であり、これらの組合せでも有効である。添加する金属は、塩化物、硫酸塩、硝酸塩等の水溶性塩の使用が便利である。Siの場合は、メタ珪酸ソーダ、オルト珪酸ソーダ、水ガラスが使用できる。被着の順序は、まず合金化して金属磁性粉末の磁気特性をコントロールするNi及びCoを先に被着し、次に熱による粒子の焼結を防止するAlとSiを被着することが好ましい。稀土類元素の場合は、α力を高める効果があり、Al及び/又はSiを被着する時に被着しても効果はあるが、内部に存在させた方が効果は大きい。
【0059】
次に、上記各金属を所定量被着した後、これを十分に水洗して乾燥し、非還元性雰囲気中で、300〜800℃の温度で熱処理をする。熱処理温度が300℃未満では、α−FeOOHが脱水して生じたα−Fe粒子中の空孔が多くなり、その結果、還元後の金属磁性粉末の特性が劣ることとなる。また、熱処理温度が800℃を超えると、α−Fe粒子の融解が始まり粒子の形状が変化したり、あるいは焼結が進行し、その結果、得られた金属磁性粉末の特性は劣化する。
【0060】
次に、熱処理後の金属磁性粉末を水素ガス気流下で300〜600℃の温度で還元し、公知の方法で粒子の表面に酸化皮膜を形成させて金属磁性粉末を得る。金属磁性粉末中に含まれる水溶性ナトリウムイオン及び水溶性カルシウムイオンを低減するには、上記製造法において使用される水の純度を高めたり、ナトリウムあるいはカルシウムを含まないアルカリを使用すればよい。
【0061】
六方晶フェライトの製法としては、以下の方法等が挙げられ、いずれの製法を用いてもよい。
(1)酸化バリウム、酸化鉄、鉄を置換する金属酸化物、及びガラス形成物質として酸化ホウ素等を所望のフェライト組成になるように混合した後、溶融し、急冷して非晶質体とし、次いで、再加熱処理した後、洗浄、粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得るガラス結晶化法。
(2)バリウムフェライト組成金属塩溶液をアルカリで中和し、副生成物を除去した後、100℃以上で液相加熱し、その後、洗浄、乾燥、粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得る水熱反応法。
(3)バリウムフェライト組成金属塩溶液をアルカリで中和し、副生成物を除去した後、乾燥し、1100℃以下で処理し、粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得る共沈法。
【0062】
六方晶フェライト粉末中に含まれる水溶性ナトリウムイオン及び水溶性カルシウムイオンを低減するには、上記製造法(1)〜(3)にて使用される水の純度を高めたり、ナトリウムあるいはカルシウムを含まないアルカリを使用すればよい。
【0063】
強磁性粉末中に含まれる水溶性ナトリウムイオン含有量は70ppm以下、さらには50ppm以下が好ましい。水溶性カルシウムイオン含有量は30ppm以下、さらには20ppm以下が好ましい。上記範囲を上回ると塗膜中に含まれる有機酸(特に脂肪酸)と塩を作り、塗膜表面に吐出し、ドロップアウトやエラーレート増加の要因となる。
【0064】
このような強磁性粉末は、磁性層を基準として70〜90質量%程度含まれていればよい。強磁性粉末の含有量が多すぎると、結合剤の含有量が減少するためカレンダ加工による表面平滑性が悪化しやすくなり、一方、強磁性粉末の含有量が少なすぎると、高い再生出力を得られない。
【0065】
磁性層用の結合剤として、特に制限なく、熱可塑性樹脂、熱硬化性ないし反応型樹脂、放射線(電子線又は紫外線)硬化型樹脂等が、媒体の特性、工程条件に合わせて適宜組み合わせて選択されて使用される。下層非磁性層で説明した結合剤と同様のものの中から、適宜選択して使用することができる。
【0066】
磁性層に用いる結合剤樹脂の含有量は、強磁性粉末100質量部に対し、好ましくは5〜40質量部、特に好ましくは10〜30質量部である。結合剤の含有量が少なすぎると、磁性層の強度が低下し、走行耐久性が悪化しやすくなる。一方、結合剤の含有量が多すぎると、強磁性粉末の含有量が低下するため、電磁変換特性が低下する傾向にある。
【0067】
さらに磁性層中には、磁性層の機械的強度を高めるためと、磁気ヘッドの目詰まりを防ぐために、モース硬度6以上の研磨材を含有させる。研磨材としては、例えば、α−アルミナ(モース硬度9)、酸化クロム(モース硬度9)、炭化珪素(モース硬度9.5)、酸化珪素(モース硬度7)、窒化アルミニウム(モース硬度9)、窒化硼素(モース硬度9.5)等のモース硬度6以上、好ましくはモース硬度9以上の研磨材を少なくとも1種含有させることが好ましい。これらは通常、不定形状であり、磁気ヘッドの目詰まりを防ぎ、塗膜の強度を向上させる。
【0068】
研磨材の平均粒径は、例えば0.01〜0.2μmであり、0.05〜0.2μmであることが好ましい。平均粒径が大きすぎると、磁性層表面からの突出量が大きくなって、電磁変換特性の低下、ドロップアウトの増加、ヘッド摩耗量の増大等を招く。平均粒径が小さすぎると、磁性層表面からの突出量が小さくなって、ヘッド目詰まりの防止効果が不十分となる。
【0069】
平均粒径は、通常、透過型電子顕微鏡により測定する。研磨材の含有量は、強磁性粉末100質量部に対し、3〜25質量部、好ましくは5〜20質量部含有すればよい。
【0070】
また、磁性層中には、必要に応じ、界面活性剤等の分散剤、高級脂肪酸、脂肪酸エステル、シリコンオイル等の潤滑剤、その他の各種添加物を添加してもよい。
【0071】
磁性層形成用の塗布液は、上記各成分に有機溶剤を加えて調製する。用いる有機溶剤は特に制限はなく、下層非磁性層に使用するものと同様のものが使用可能である。
【0072】
磁性層の厚さは0.03〜0.30μm、更に好ましくは0.10〜0.25μmとする。磁性層が厚すぎると、自己減磁損失や厚み損失が大きくなる。
【0073】
本発明において、磁性層表面の平滑性は重要である。磁性層表面の中心線平均粗さ(Ra)は、好ましくは1.0〜8.0nm、より好ましくは2.0〜7.0nmとする。Raが1.0nm未満では表面が平滑すぎて、走行安定性が悪化して走行中のトラブルが生じやすくなる。一方、8.0nmを越えると、磁性層表面が粗くなり、MR型ヘッドを用いた再生システムでは、再生出力等の電磁変換特性が劣化する。
【0074】
磁性層表面の十点平均中心線平均粗さ(Rz)は、好ましくは5〜25nm、より好ましくは5〜20nmとする。Rzが5nm未満では表面が平滑すぎて、走行安定性が悪化して走行中のトラブルが生じやすくなる。一方、25nmを越えると、磁性層表面が粗くなり、MR型ヘッドを用いた再生システムでは、再生出力等の電磁変換特性が劣化する。
【0075】
最近の高密度記録対応の記録波長が短くなるにつれて、磁性層の出力やエラーレート等の正確な評価においては、上記の磁性層表面の表面粗さ(Ra及びRz)に加えてさらに、微小領域(例えば、10μm×10μm程度)での表面粗さをも考慮することが好ましい。最短記録波長が0.6μm以下の記録再生システムの場合には、微小領域のみの表面粗さという観点から、磁性層の表面粗さとしてのAFM表面粗さRa値は6.0nm以下とすることが好ましく、2.0〜6.0nmがより好ましく、2.0〜5.0nmがさらに好ましい。AFM表面粗さRaが6.0nmを超えると、スペーシングが増え、特にエラーレートの低下を招きやすい。一方、2.0nm未満であると、耐スクラッチ性や摩擦が悪化し、走行信頼性の低下を招くことがある。
【0076】
磁性層表面のAFM表面粗さRa値は、原子間力顕微鏡を用いて測定された表面粗さ曲線より、JIS−B−0601で定義されるRaを求めたものである。より詳しくは、曲率半径10nm以下、好ましくは2〜10nmの探針を使い、10μm×10μmの範囲で測定し、画像処理を施し、中心線平均表面粗さRaを求める。
【0077】
本発明において、磁性層表面における深さ30nm以上の凹みの数は表面積1cm当たり5個以下とすることが好ましい。深さ30nm以上の凹みは、スペーシングロスとなり、エラーレートの悪化を招きやすい。この凹みの数が表面積1cm当たり6個以上存在すると、エラーレートが増加してしまう。この凹みの数の下限値は、特に限定されず小さいほど好ましいが、実施例では0.1個/cmが示されている。
【0078】
この凹みの数は、光干渉型三次元粗さ計にて、直径10〜60μm、深さ30nm以上の凹みを測定し、光学顕微鏡(倍率50〜100倍)の干渉強度を調整し、上記凹みの個数を、例えば1/2インチ幅テープ1〜5cm長さにおいて3視野以上数え、相加平均にて求める。
【0079】
[バックコート層]
バックコート層は、走行安定性の改善や磁性層の帯電防止等のために設けられ、カーボンブラック、カーボンブラック以外の非磁性無機粉末、及び結合剤樹脂を含む。
【0080】
バックコート層は、バックコート層を基準として30〜80質量%のカーボンブラックを含有することが好ましい。カーボンブラックの含有量が少なすぎると帯電防止効果が低下する傾向があり、さらに走行安定性が低下しやすくなる。また、媒体の光透過率が高くなりやすいので、テープ端を光透過率の変化で検出する方式では問題となる。一方、カーボンブラックの含有量が多すぎると、バックコート層の強度が低下し、走行耐久性が悪化しやすくなる。カーボンブラックは、通常使用されるものであればどのようなものであってもよく、その平均粒径は、5〜500nm程度が好ましい。平均粒径は、通常、透過型電子顕微鏡により測定する。
【0081】
カーボンブラック中に含まれる水溶性ナトリウムイオン及び水溶性カルシウムイオンは少ない方が好ましく、水溶性ナトリウムイオン含有量は500ppm以下、さらには300ppm以下が好ましい。水溶性カルシウムイオン含有量は300ppm以下、さらには200ppm以下が好ましい。上記範囲を上回ると塗膜中に含まれる有機酸(特に、脂肪酸)と塩を形成し、塗膜表面に吐出し、ドロップアウトやエラーレート増加の要因となる。
【0082】
バックコート層には、前記カーボンブラック以外に、機械的強度をコントロールするために、各種非磁性無機粉末を用いることができ、無機粉末として例えば、α−Fe、CaCO、酸化チタン、硫酸バリウム、α−Al等を挙げることができる。非磁性無機粉末の含有量は、カーボンブラック100質量部に対し、好ましくは0.1〜20質量部、より好ましくは0.5〜15質量部である。非磁性無機粉末の平均粒径は、0.01〜0.5μmであることが好ましい。このような非磁性無機粉末の含有量が少なすぎると、バックコート層の機械的強度が不十分となりやすく、多すぎるとテープ摺接経路のガイド等の摩耗量が多くなりやすいことや、磁性層へのキズを生じせしめることとなる。
【0083】
バックコート層には、上記材料の他に結合剤として、熱可塑性樹脂、熱硬化性ないし反応型樹脂、放射線(電子線又は紫外線)硬化型樹脂等が、媒体の特性、工程条件に合わせて適宜組み合わせて選択されて使用される。下層非磁性層で説明した結合剤と同様のものの中から、適宜選択して使用することができる。
【0084】
バックコート層に用いる結合剤樹脂の含有量は、バックコート層中のカーボンブラックと非磁性無機粉末の合計100質量部に対し、好ましくは15〜200質量部、より好ましくは50〜180質量部である。結合剤樹脂の含有量が多すぎると、テープ摺接経路のガイドロール等との摩擦が大きくなりすぎて走行安定性が低下し、走行事故を起こしやすくなる。また、磁性層とのブロッキング等の問題が発生する。結合剤樹脂の含有量が少なすぎると、バックコート層の強度が低下して走行耐久性が低下しやすくなる。
【0085】
バックコート層には、必要に応じ、界面活性剤等の分散剤、高級脂肪酸、脂肪酸エステル、シリコンオイル等の潤滑剤、その他の各種添加物を添加してもよい。
【0086】
潤滑剤としては、下層非磁性層で説明した潤滑剤と同様のものの中から、適宜選択して使用することができる。バックコート層の潤滑剤の含有量は、目的に応じ適宜調整すればよいが、カーボンブラックとカーボンブラック以外の無機粉末を加えた合計質量に対し、1〜20質量%が好ましい。
【0087】
バックコート層形成用の塗布液は、上記各成分に有機溶剤を加えて調整する。用いる有機溶剤は特に制限はなく、下層非磁性層に使用するものと同様のものが使用可能である。有機溶剤の添加量は、カーボンブラック、カーボンブラック以外の各種無機粉末等、及び結合剤樹脂の合計量100質量部に対し740〜1600質量部程度とすればよい。
【0088】
バックコート層の厚さ(カレンダー加工後)は、1.0μm以下、好ましくは0.1〜1.0μm、より好ましくは0.2〜0.8μmである。バックコート層が厚すぎると、テープ摺接経路のガイドロール等との摩擦が大きくなりすぎて、走行安定性が低下する傾向にある。一方、バックコート層が薄すぎると、媒体の走行時にバックコート層の削れが発生しやすい。また、バックコート層が薄すぎると、非磁性支持体の表面粗さの影響でバックコート層の表面平滑性が低下する。このため、バックコート層を熱硬化する際にバックコート層表面の粗さが磁性層表面に転写され、高域出力、S/N、C/Nの低下を招きやすい。
【0089】
[非磁性支持体]
非磁性支持体として用いる材料には特に制限はなく、目的に応じて各種可撓性材料、各種剛性材料から選択し、各種規格に応じてテープ状などの所定形状および寸法とすればよい。例えば、可撓性材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル類、ポリプロピレン等のポリオレフィン類、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネートなどの各種樹脂が挙げられる。
【0090】
これら非磁性支持体の厚さは3.0〜15.0μmであることが好ましい。非磁性支持体の形態については特に制限はなく、テープ状、シート状、カード状、ディスク状等のいずれであっても良く、形態に応じて、また必要に応じて種々の材料を選択して使用することができる。
【0091】
本発明で使用される非磁性支持体の表面粗さは、中心線平均表面粗さRaで20nm以下、好ましくは15nm以下である。非磁性支持体の表面粗さは、必要に応じて非磁性支持体に添加されるフィラーの大きさと量により自由に制御される。これらフィラーの例としては、Ca、Si、Ti、Alなどの酸化物や炭酸塩の他、アクリル系などの有機樹脂微粉末が挙げられ、好ましくは、Alと有機樹脂微粉末の組み合わせである。
【0092】
[製造方法]
上記のように構成される磁気記録媒体を本発明の方法により製造する。まず、非磁性支持体の一方の面上に非磁性層用塗布液を塗布、乾燥し、硬化させて下層非磁性層を形成する工程と、硬化された下層非磁性層上に磁性層用塗布液を塗布、乾燥して、上層磁性層を形成する工程と、非磁性支持体の他方の面上にバックコート層用塗布液を塗布、乾燥して、バックコート層を形成する工程とを行う。
【0093】
前記バックコート層用塗布液、下層非磁性層用塗布液及び磁性層用塗布液を製造する工程は、それぞれ、少なくとも混練工程、分散工程、及びこれらの工程の前後に必要に応じて行われる混合工程、粘度調整工程及び濾過工程からなる。個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていても構わない。本発明に使用する強磁性粉末、非磁性無機粉末、結合剤、研磨材、カーボンブラック、潤滑剤、溶剤などすべての材料は、どの工程の最初又は途中で添加しても構わない。また、個々の材料を2つ以上の工程で分割して添加しても構わない。
【0094】
塗布液の混練・分散には、従来公知の製造技術を一部又は全部の工程に用いることができることはもちろんであるが、混練工程では連続ニーダや加圧ニーダなど強い混練力をもつものを使用することが好ましい。連続ニーダ又は加圧ニーダを用いる場合は、強磁性粉末あるいは非磁性無機粉末、結合剤及び少量の溶剤が混練処理される。混練時のスラリー温度は、50℃〜110℃が好ましい。
【0095】
また、各工程において塗布液の分散には、高比重の分散メディアを用いることが望ましく、ジルコニア、チタニア等のセラミック系メディアが好適である。従来より用いられているガラスビーズは、分散時のビーズ摩耗により不純物として塗布液中に水溶性ナトリウムイオン及び水溶性カルシウムイオンが混入するため使用することは好ましくない。
【0096】
まず、非磁性支持体の一方の面上に非磁性層用塗布液を塗布、乾燥し、硬化させて下層非磁性層を形成する。次に、硬化された下層非磁性層上に磁性層用塗布液を塗布、乾燥して、上層磁性層を形成する。このように、非磁性層及び磁性層をいわゆるウェット・オン・ドライ塗布方式で形成する場合と、非磁性層が湿潤状態のうちに磁性層が塗布されるウェット・オン・ウェット塗布方式の場合に比べ、非磁性層と磁性層の界面の均一性の点で好ましい。前記非磁性支持体の他方の面上にバックコート層用塗布液を塗布、乾燥して、バックコート層を形成する。
【0097】
塗布方法としては、グラビアコート、リバースロールコート、ノズルコート、バーコート等の公知の種々の塗布手段を用いることができる。
【0098】
下層非磁性層の形成、上層磁性層の形成及びバックコート層の形成の順序については、上述の形態のように、下層非磁性層の形成、上層磁性層の形成、続いてバックコート層の形成の順序で行うことが一般的に好ましい。
【0099】
最終的に1/2インチに切断される磁気テープは、ドライブでのヘッド当りが良くなるように、磁性層面側を外側に凸状とする。これは、バックコート層に収縮性を持たせることにより、支持体の反対面側に設けられる磁性層面側が外側向けて凸となるようにする。一般に下層非磁性層、上層磁性層およびバックコート層の各層とも、その塗膜には収縮性がある。最終的に磁性層面を凸状とするには、下層非磁性層、上層磁性層の収縮力よりも支持体を挟んで設けられるバックコート層に最も大きな収縮力を付与する設計となる。
【0100】
最初にバックコート層を塗布してしまうと、支持体の一面側にのみバックコート層が設けられるので、支持体自体が幅方向で大きくカールする。このような支持体の他方の面に下層非磁性層を設けようとすると支持体幅方向での塗布厚みのばらつきが大きくなり、問題となる。
【0101】
そのため、先にバックコート層よりも収縮力の小さな下層非磁性層を最初に塗布することが好ましい。
【0102】
下層非磁性層を設けた後は、その上に磁性層を設けることが好ましい。上層磁性層は、最も塗布精度が厳しく、厚みが厚すぎると、自己減磁損失や厚み損失が大きくなる。
また、厚みが薄いと磁化量が小さくなり十分な出力が得られなくなる。塗布液を塗布し、乾燥して各塗布層を設ける際の乾燥時の熱履歴、あるいは塗布層を設けた後にロール状に巻き取った際の応力により、支持体のひずみは工程を経るたびに大きくなり、塗布精度の観点から、次に上層磁性層を塗布することが好ましい。
【0103】
以上のような理由から、バックコート層の塗布は、三層のうち、一番最後に行うことになる。上述の通り、支持体のひずみが一番大きくなった状態でバックコート層の塗布を行うため、バックコート層の塗布には、支持体のひずみがあっても確実に塗布できる塗布方法を用いることが好ましい。本発明においては、バックコート層塗布にバーコート法を用いる。
【0104】
非磁性支持体両面に各層が形成された磁気テープ原反をロール状態で熱硬化処理を行って、上層磁性層及びバックコート層を硬化させる。ロール状態のテープ原反を、40〜80℃、好ましくは50〜70℃とされた熱処理室にて所定時間、好ましくは24時間以上、例えば24時間〜48時間保持する。この熱硬化処理において、磁性層面とバックコート層面とが接触した状態であるので、バックコート層面に存在する微小突起によって、磁性層表面に凹みが生じてしまいやすい。
【0105】
そこで、本発明では、熱硬化処理後に各層を一括でカレンダー処理を行う。この段階でのカレンダー処理によって、平坦な表面の磁性層とする。
【0106】
カレンダー処理は以下のカレンダー処理ロール、カレンダー処理条件で行うとよい。
【0107】
カレンダー処理ロールとしては、エポキシ、ポリエステル、ナイロン、ポリイミド、ポリアミド、ポリイミドアミド等の耐熱性のあるプラスチック弾性ロール(カーボン、金属やその他の無機化合物が練り込まれているものでもよい)と金属ロールの組み合わせを使用する。また、金属ロール同士で処理することが、より平坦な磁性層表面が得られるので好ましい。磁性層表面と接する側には、より平坦な表面を得るために金属ロールを配置する。バックコート層表面と接する側には、通常、プラスチック弾性ロールを配置するが、金属ロールを配置することが好ましい。
【0108】
処理温度は、好ましくは70℃以上、さらに好ましくは90℃以上110℃以下である。線圧力は好ましくは198kN/m(200kg/cm)以上、さらに好ましくは245kN/m(250kg/cm)以上392kN/m(400kg/cm)以下、処理速度は20m/min〜900m/minの範囲である。
【0109】
下層非磁性層と上層磁性層とバックコート層の各層の形成後におけるカレンダー処理では、非磁性支持体ベースとカレンダー処理ロールとが直接接することがなく、ベースやベース中に含まれるフィラーが削られることがない。そのため、カレンダー処理が非常にうまく行われる。非磁性支持体ベースとカレンダー処理ロールとが直接接すると、ベースやベース中に含まれるフィラーが削られ、削られたフィラーがカレンダーロールのニップ部に付着する。ニップ部のフィラーの存在によって、磁性層に凹みが生じてしまうことがある。特にフィラー等の削れによる下層非磁性層や上層磁性層に生じる凹みは、直径10〜60μmと大きいものの、その深さは30〜100nmと浅い。しかしながら、最短記録波長が0.6μm以下の記録再生システムにおいては、顕著にエラーレートに影響する。
【0110】
特開2004−319017号公報記載の手法では、熱硬化処理前にカレンダー処理がなされているので、熱硬化処理後、カレンダー処理される前に非磁性層、磁性層はカレンダー処理済みで塗膜はすでに圧縮されており、つぶれしろが少なくなっている。磁性層表面の十点平均中心線粗さ(Rz)は、好ましくは5〜25nmであるが、バックコート層に含まれるカーボンブラックの平均粒径は、最大500nm、前記カーボンブラック以外に、機械的強度をコントロールするために各種非磁性無機粉末を用いる場合も平均粒径として最大0.5μmである。カーボンブラックあるいは非磁性無機粉末がバックコート層表面に露出する最大高さは、粒径の約1/2(であるので)、熱硬化処理時の接触により磁性層表面に深さが250nm程度の凹みを生じる可能性がある。カレンダー処理により、このような凹みを緩和するためには凹み周辺部が圧縮され、凹み深さが緩和されれば良いが、熱硬化処理後のカレンダー処理の前に、下層非磁性層および磁性層ともカレンダー処理済みで塗膜はすでに圧縮されており、つぶれしろが小さく磁性層表面の凹みに対しての緩和効果を大きく望むことはできない。
【0111】
そのため、本願では、熱硬化処理前のカレンダー処理は行わずに、熱硬化処理を先に行い、熱硬化処理後に、各層を一括でカレンダー処理を行う工程とした。これにより、熱硬化処理後には、非磁性層、磁性層およびバックコート層は、カレンダー処理が1度も行われていないので、磁性層表面、バックコート層表面とも荒れた状態であるが、各塗膜の充填度は低い状態(ポーラス)であり、この後、カレンダー処理を行う際のつぶれしろが確保された状態でカレンダー処理を行うことができる。
【0112】
また、下層非磁性層に用いる結合剤樹脂を放射線硬化型結合剤樹脂とすれば、下層非磁性層の硬化処理の際、外部より照射する放射線の照射線量を調整することで、下層非磁性層の硬化度合いを調整することができる。下層非磁性層の硬化度合いが低ければ、カレンダー処理の際、下層非磁性層の圧縮を効果的に行うことができ、磁性層面とバックコート層面とが接触してバックコート層面に存在する微小突起によって、磁性層表面に生じた凹みを緩和することができる。
【0113】
本願の製造方法では、非磁性層、磁性層、バックコート層のいずれかの層を支持体幅方向中央部が若干厚くなるように塗布液を塗布する。このように塗布液を塗布することにより、コアに巻き取った原反の形状(以下、「原反累積形状」ともいう)が、原反の幅方向における中央部が端部よりも突出する形状となるようにし、その突出量(コアに巻き取った原反の幅方向における中央部の厚みと端部の厚みとの差:以下、「原反累積形状値」ともいう)を所定の範囲内とさせている。ただし、非磁性下層、磁性層、バックコート層のすべてで支持体幅方向中央部が若干厚くなっている必要はなく、前記3層の和で支持体幅方向中央部が若干厚くなっていれば良い。例えば、非磁性層、磁性層を塗り終わった時点での原反累積形状値が10,000ターンあたり+0.35mmとなったとすれば、バックコート層は、そのまま支持体幅方向の厚み分布が均一(フラット)になるように塗布しても構わないが、原反累積形状値の許容上限であると判断して、バックコート層は支持体幅方向中央部でやや薄くなるように塗布して、熱硬化処理前の原反累積形状値が10,000ターンあたり+0.30mm程度となるように調整して塗布しても構わない。また、支持体の形状も、原反累積形状値に大きな影響を与えるため、支持体自体の累積形状の把握も重要である。支持体自体の累積形状が支持体幅方向中央部で凸あるいは凹となる場合もあり、用いる支持体の累積形状を把握した上で各塗布層の支持体幅方向の厚みパターンを設定して、熱硬化処理前のコアに巻き取った原反累積形状値が原反10,000ターンあたり所定の範囲内(例えば、+0.25mm〜+0.35mm)となるようにする必要がある。
【0114】
支持体自体がコアに巻かれた累積形状が、支持体の幅方向における中央部が端部よりも突出し、その累積形状値が支持体10,000ターン当たり+0.25mm〜+0.35mmの範囲であれば、この支持体に塗布する非磁性層、磁性層、バックコート層の各層を支持体幅方向に厚みが均一(フラット)なパターンで塗布しても構わない。支持体自体の累積形状が、端部から中央部に向かうに従って徐々に突出したり、端部から中央部に向かうに従って徐々に凹んだりする単純な形状ではない場合もあり得る。この場合には、例えば、突出部分には部分には非磁性層を薄く、凹んだ部分には非磁性層を厚く塗布するなどして、非磁性層、磁性層およびバックコート層の形成が終了して、この原反をコアに巻き取った時点において、累積形状が端部から中央部に向かうに従って滑らかに突出する形状となるように調整する。
【0115】
塗布液の厚みが支持体幅方向中央部で厚くなるように塗布する方法としては、例えばノズルコートの場合、塗布液が流出するスリット間隙を支持体幅方向中央部は広く、支持体両端部では狭く調整することにより、中央部分を流れる塗布液量は多く、両端部は少なくなるので支持体幅方向の塗布厚みのパターンを凸とすることができる。
【0116】
ノズルの上流側および下流側に位置するガイドロールにより支持体を支持し、これらガイドロールの間にノズル先端部を支持体表面に押圧し、スリットから押し出した塗布液を支持体表面に塗布する場合にあっては、上記の手法の他、上流側ガイドロールおよび/または下流側ガイドロールの形状を逆クラウン(ガイドロール径が支持体幅方向中央部が径小、支持体幅方向両端部が径大)形状とすることにより、支持体幅方向中央部の支持体張力を低め、支持体幅方向両端部の支持体張力を高めに調整することで支持体幅方向の塗布厚みパターンは凸とすることができる。
【0117】
支持体幅方向の張力に差をつけて塗布厚みを調整する手法にあっては、支持体幅方向の一部分あるいは数箇所に張力調整機構を設けて、塗布厚みを支持体幅方向に単なる凸や単なる凹ではなく、M字パターンやWパターンやサインカーブ状のようにコントロールすることもできる。具体的には、押し出し塗布ヘッド塗布部近傍に支持体幅よりも狭幅のタッチロールを部分的に接触させて支持体を部分的に押圧したり、支持体幅よりも狭幅の吹き出し口より気体を噴出させて支持体を部分的に押圧することで、ノズルの塗布部分で支持体の張力は部分的に強くなり、その結果、塗布厚みを部分的に薄くすることができる。支持体幅方向で所望のパターンとするには、これら支持体張力調整機構を支持体幅方向に複数設け、個々に調整することで達成できる。気体を噴出させる代わりに吸引ノズルを支持体の他面近傍に開口させて、支持体幅方向の一部を吸引して支持体の張力を部分的に強くすることもできる。
【0118】
リバースロールによる塗布にあっては、アプリケーターロールとメタリングロールの円筒度を調整し、アプリケータロールはストレート形状、メタリングロールは逆クラウン形状とすれば、両ロール間のギャップは支持体幅方向中央部が幅広、支持体幅方向両端部が幅狭となり、これによって塗布される塗布層の厚みパターンは、支持体幅方向中央部が凸となるように塗布することができる。また、アプリケーターロールおよび/またはメタリングロールに熱風あるいは冷風を吹き付け、ロールの熱膨張あるいは熱収縮を利用してアプリケーターロールおよび/またはメタリングロールの形状を変化させ、支持体幅方向の塗布厚みパターンを調整することもできる。
【0119】
バーコートにあっては、支持体表面にあらかじめ塗布された過剰の塗布液をバー表面に形成された溝により計量する機構であるので、支持体とバーの接触強さを調整すれば、同様に支持体幅方向の厚みパターンを調整することができる。具体的には、バーを支持体表面に向けて支持体幅方向中央部が凹みとなるように弓なり状とすれば、バー外周面と支持体表面の接触状態は、支持体幅方向中央部では弱めに、支持体両端部では強めとすることができる。これによりバーによる塗布液の掻き落とし量は、支持体幅方向中央部では少なめに、支持体両端部では多めになり、支持体幅方向の塗布量としては、支持体幅方向中央部が凸となる。バーの上流側ガイドロールおよび/または下流側ガイドロールを逆クラウン形状とすれば、支持体幅方向に張力差を生じ、支持体中央部では張力は低めに、支持体両端部では張力は強めとなり、支持体幅方向の塗布量としては、支持体幅方向中央部が凸となる。
【0120】
また、支持体幅方向の所望する部位で支持体の張力に差をつけて塗布厚みを調整する手法にあっては、支持体幅方向の複数箇所に張力調整機構を設ければ、塗布厚みを支持体幅方向に単なる凸や単なる凹ではなく、M字パターンやWパターンやサインカーブ状のようにコントロールすることもできる。これは、前述のごとく、支持体幅よりも幅狭のタッチロールや気体噴出機構や吸引機構を複数用い、個々に調整することで、支持体幅方向に任意に張力分布を生じさせ、支持体幅方向に所望の塗布厚みパターンとなる。塗布層を設けるための塗布方法は、ノズルコート、リバースロールコート、バーコートに限らず、種々の塗布方法を用いることができる。
【0121】
<原反累積形状値の測定方法>
コアに巻き取ったロール状の原反の原反累積形状値の測定方法としては、マイクロメータを用いてロール状の原反の外径を直接測定する方法、リニアガイド機構とセンサーを組み合わせてロール状の原反の外周面の形状を測定する方法、リニアガイド機構と投光部と受光部を備えたレーザーセンサーを組合せて測定する方法、等がある。いずれの方法を適用することも可能であるが、構成がシンプルで使い勝手が良い点から、リニアガイド機構とセンサーの組み合わせが好適である。センサーとしては、非接触式、接触式いずれのセンサーでも使用可能であるが、本願では、以下、接触式センサーの場合を例として説明する。接触式のセンサーの一例としては、ミツトヨ(株)製LGFタイプを挙げることができる。
【0122】
次に、コアに巻き取ったロール状の原反の原反累積形状値を測定する測定装置の構成、およびこの測定装置を用いて原反累積形状値を測定する手順を図1を参照して説明する。
【0123】
測定装置は、ベースプレート1、コア8の両端部を支持して原反9を固定するためのVブロック2,2、原反9の外周面形状を測定する接触式センサー7よりなり、原反9の支持体幅方向に接触式センサー7を移動させるためのX軸リニアガイド機構4は、ベースプレート1より立ち上がった支柱3,3により固定されている。このX軸リニアガイド機構4にはさらにZ軸リニアガイド移動機構5が設けられており、ホルダー6およびこのホルダー6に固定される接触式センサー7は、Z軸方向に移動可能な構成となっている。Z軸リニアガイド機構5は、測定対象となる原反9の外径に合せて、接触式センサー7の測定範囲内で測定可能とするため機構であって、原反9の外周面の測定時には、所定位置で固定された状態となる。また、原反9の測定準備の際、あるいは測定終了後に原反9を着脱する際に作業の妨げとならないように接触式センサー7を図1において上方へ退避させる。なお、X軸リニアガイド機構4の移動方向は水平に、Z軸リニアガイド機構5の移動方向は垂直に、それぞれなるように調整して取り付けられている。
【0124】
測定は、まず、コア8に巻回された原反9をコア8の両端部がVブロック2,2により支持されるようにセットする。X軸リニアガイド機構4により測定開始点(原反の支持体幅方向一端部近傍)に接触式センサー7を移動させる。その後、Z軸リニアガイド機構5を下降させて接触式センサー7を上方に退避した位置から、原反9と接触する位置まで降下させ、さらに接触式センサー7の接触状態をセンサーの測定範囲の中間位置となるようにZ軸方向(高さ方向)に微調整を行う。接触式センサー7は図示しない駆動機構によりX軸リニアガイド機構4に沿ってX軸方向に駆動され、原反9の支持体幅方向に原反9の外周面形状を測定する。
【0125】
測定データは、接触式センサー7より出力されるZ軸方向の変位量とX軸リニアガイド機構4より出力されるX軸位置情報をPC等に取り込んで処理される。一例として測定開始時の接触式センサー7のX軸方向位置をX=0mmとして、0.5mmおきにZ軸方向の変位量を取り込む。原反幅方向の測定長は、最終的に裁断されてテープとして製品化される有効幅分を測定する。例えば、裁断により1/2インチ幅にテープ化され、支持体幅方向に50本取りの場合は、12.65mm×50=632.5mmとなる。従って、出来上がった原反幅よりテープとして製品化される有効幅分を差し引きして、その半分の長さ分、原反の支持体幅方向の一端部より支持体幅中央側へオフセットした位置をX軸方向の測定開始位置として設定し、その位置よりX軸方向に沿ってテープとして製品化される有効幅分を測定長としてトレースする。なお、コア8がVブロック2,2にセットされた際、コア8の中心軸A−Aは水平となるようにVブロック2,2は調整されており、またコア8の中心軸A−Aを含む基準鉛直面10の面内に接触式センサー7の測定ラインB−Bがくるように、前後方向も調整されており、異なる原反に載せ替えても、コア8の中心軸A−Aを含む基準鉛直面10の面内で原反9の外周面形状をコア中心A−A基準に半径方向の変位として測定することができる。
【0126】
原反の巻き取りに用いるコアは、その円筒度がなるべく0に近いストレート形状のものを用い、さらに用いる各コア間で精度のばらつきがないようにすることが好ましい。これは、原反の累積形状はコアに原反を巻取った状態で測定するため、コアに精度のばらつきがあると、各層の塗布厚みの幅方向パターンの設定に影響し、設定が煩雑になることを避けるためである。コアの加工精度にも限界があるため、円筒度が0とはならないが円筒度は、0.05mm以下が好ましい。
【0127】
図2に示すように、測定データから原反の累積形状の凹凸判断と、半径差の算出は測定データを原反の幅方向をX軸とし、原反半径方向変位量△ZをY軸とするXY平面上にプロットしてグラフとし、原反半径方向変位量△Zの最大値あるいは最小値を読み取って、原反累積形状値とする。同図に示すように、測定開始位置および測定終了位置での原反半径方向変位量ΔZがいずれも0の場合は、単純に最大値あるいは最小値を読み取ればよいが、図3に示すように、測定終了位置での原反半径方向変位量△Zが0ではない場合は、測定開始位置と測定終了位置のデータを線で結び、この線を基準に補正して原反半径方向変位量△Zの最大値あるいは最小値を読み取る。原反累積形状値がプラスのときは、幅方向の中央部の外径が幅方向の端部の外径よりも大径であることを表し、それとは逆に、原反累積形状値がマイナスのときは、幅方向の中央部の外径が幅方向の端部の外径よりも小径であることを表している。なお、本願で定義する原反累積形状値は、巻き取った状態の原反の厚みの差(巻き取った状態の原反の半径の差)である。
【実施例】
【0128】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0129】
<下層非磁性層用塗布液の調製>
(バインダー溶液調製)
電子線硬化型塩化ビニル系樹脂 NV30wt%(塩化ビニル−エポキシ含有モノマー共重合体,平均重合度=310,エポキシ含有量=3wt%,S含有量=0.6wt%,アクリル含有量=6個/1分子,Tg=60℃) 45質量部
電子線硬化型ポリエステルポリウレタン樹脂(NV40wt%)(極性基−OSONa含有ポリエステルポリウレタン,数平均分子量=26000) 16質量部
メチルエチルケトン(MEK) 2質量部
トルエン 2質量部
シクロヘキサノン 2質量部
【0130】
上記組成物をハイパーミキサーに投入、撹拌し、バインダー溶液とした。
【0131】
(混練)
下記組成物を加圧ニーダーに投入し、2時間混練を行った。
【0132】
針状α−Fe(戸田工業社製:DB−65,平均長軸長=0.11μm,BET(比表面積)=53m/g) 85質量部
カーボンブラック(三菱化学社製:#850B,平均粒径=16nm,BET=200m2/g,DPB吸油量=70ml/100g) 15質量部
α−Al(住友化学工業社製:HIT−60A,平均粒径=0.20μm) 5質量部
o−フタル酸 2質量部
バインダー溶液 67質量部
【0133】
混練後のスラリーに下記組成物を投入して分散処理に最適な粘性に調整した。
【0134】
MEK 40質量部
トルエン 40質量部
シクロヘキサノン 40質量部
【0135】
(分散)
上記スラリーを、ジルコニアビーズ(東レ社製トレセラムφ0.8mm)を75%充填した横型ピンミルにて分散処理を行った。
【0136】
(粘度調整液)
下記組成物をハイパーミキサーに投入、撹拌し、粘度調整液とした。
【0137】
ステアリン酸 1質量部
ステアリン酸ブチル 1質量部
MEK 30質量部
トルエン 30質量部
シクロヘキサノン 30質量部
【0138】
(粘度調整及び最終塗布液)
分散後のスラリーに上記溶液を混合撹拌した後、ジルコニアビーズ(東レ社製トレセラムφ0.8mm)を75%充填した横型ピンミルにて再度分散処理を行い、塗布液とした。上記塗布液を絶対濾過精度=1.0μmのデプスフィルターを用いて循環濾過を行い、下層非磁性層用の最終塗布液とした。
【0139】
<磁性層用塗布液の調製>
(バインダー溶液調製)
塩化ビニル系樹脂(日本ゼオン社製:MR−110) 11質量部
ポリエステルポリウレタン樹脂(東洋紡績社製:UR−8300) 17質量部
MEK 7質量部
トルエン 7質量部
シクロヘキサノン 7質量部
【0140】
上記組成物をハイパーミキサーに投入し、混合・撹拌し、バインダー溶液とした。
【0141】
(混練)
下記組成物を加圧ニーダーに投入し、2時間混練を行った。
【0142】
α−Fe磁性粉(Hc=1885Oe,Co/Fe=20at%,σs=138emu/g,BET=58m/g,平均長軸長=0.10μm) 100質量部
α−Al(住友化学工業社製:HIT−60A,平均粒径=0.20μm) 6質量部
α−Al(住友化学工業社製:HIT−82,平均粒径=0.13μm) 6質量部
リン酸エステル(東邦化学社製:フォスファノールRE610) 2質量部
バインダー溶液 49質量部
【0143】
混練後のスラリーに下記組成物を投入して分散処理に最適な粘性に調整した。
【0144】
MEK 100質量部
トルエン 100質量部
シクロヘキサノン 75質量部
【0145】
(分散)
上記スラリーを、ジルコニアビーズ(東レ社製トレセラムφ0.8mm)を75%充填した横型ピンミルにて分散処理を行った。
【0146】
(粘度調整液)
下記組成物をハイパーミキサーに投入し、1時間混合・撹拌し、粘度調整液とした。
【0147】
ステアリン酸 1質量部
ステアリン酸ブチル 1質量部
MEK 100質量部
トルエン 100質量部
シクロヘキサノン 250質量部
【0148】
(粘度調整)
分散後のスラリーに上記溶液を混合撹拌した後、ジルコニアビーズ(東レ社製トレセラムφ0.8 mm)を75%充填した横型ピンミルにて再度分散処理を行い、塗布液とした。上記塗布液を絶対濾過精度=1.0μmのデプスフィルターを用いて循環濾過を行った。
【0149】
(最終塗布液)
濾過後の塗布液100質量部にイソシアネート化合物(日本ポリウレタン製、コロネートL)0.82質量部を加え撹拌・混合し、絶対濾過精度=1.0μmのデプスフィルターを用いて循環濾過を行い、磁性層用の最終塗布液とした。
【0150】
<バックコート層用塗布液1の調製>
(バインダー溶液1)
ニトロセルロース(旭化成工業社製:BTH1/2 固形分濃度70wt%) 77質量部
ポリエステルポリウレタン樹脂(東洋紡績社製:UR−8300 固形分濃度30wt%) 120質量部
MEK 275質量部
トルエン 275重量部
シクロヘキサノン 100重量部
【0151】
上記組成物をハイパーミキサーに投入、撹拌し、バインダー溶液とした。
【0152】
(分散)
下記組成物をボールミルに投入し、24時間分散を行った。
【0153】
(カーボンブラック1)
カーボンブラック(三菱化学(株)製:#950B,平均粒径=17nm,BET=250m/g,DBP給油量=70ml/100g) 100質量部
バインダー溶液 1847重量部
【0154】
(粘度調整液1)
下記組成物をハイパーミキサーに投入、撹拌し、粘度調整液とした。
【0155】
MEK 430質量部
トルエン 430重量部
シクロヘキサノン 100重量部
【0156】
(粘度調整)
分散後のスラリーに上記溶液を混合撹拌した後、再度ボールミルにて分散処理を3時間行った。上記塗布液を絶対濾過精度=3.0μmのデプスフィルターを用いて循環濾過を行った。
【0157】
(最終塗布液)
濾過後の塗布液にイソシアネート化合物(日本ポリウレタン社製、コロネート3041 固形分濃度50wt%)を濾過後の塗布液100重量部に対して0.0189質量部の比率で加え、撹拌・混合し、塗布液の固形分濃度を10.7wt%とし、絶対濾過精度=3.0μmのデプスフィルターを用いて循環濾過を行い、バックコート塗布液1とした。
【0158】
<磁気記録テープの製造>
非磁性支持体としての、幅520mm、長さ10810m、厚さ5.0μmのPEN(ポリエチレンナフタレート)フィルムの一面上に、ノズルコートで上記下層非磁性層用塗布液を塗布幅500mm、乾燥後の平均厚みが1.3μmとなるように(ライン速度200m/minで)塗布し、温度100℃の熱風が風速15m/secで供給される炉中にて乾燥し、次いで、照射量4.5Mradの条件にて電子線照射して硬化処理を行い、下層非磁性層を形成した。
【0159】
次に、硬化させた下層非磁性層の上に、ノズルコートで上記磁性層用塗布液を塗布幅496mm、乾燥後の平均厚みが0.10μmとなるようにライン速度200m/minで塗布し、塗膜が湿潤状態のうちに5000Oeのソレノイドで磁場配向処理を行い、温度100℃の熱風が風速15m/secで供給される炉中にて乾燥して上層磁性層を形成した。次いで、上記ポリエチレンナフタレートフィルムの他面上に、バックコートで上記バックコート層用塗布液を乾燥後の平均厚みが0.42μmとなるように塗布し、乾燥第一工程は温度80℃、以降の乾燥第二工程は温度100℃の熱風が風速15m/secで供給される炉中にて乾燥した。このようにして、両面に各層が形成された原反を得た。続いて、このようにして可撓性支持体の一方の面に下層非磁性層および上層磁性層が形成され、他方の面にバックコート層が形成された原反を外径が166.7mmの6インチコアに巻き取った。
【0160】
このようにして得られた原反の原反累積形状値を上記の測定装置にて測定し、その後、常温に12時間放置した後、60℃の熱処理炉内に60時間保管し熱硬化処理を行った。熱硬化処理の終了した原反を常温に36時間放置した後、カレンダー加工を行った。
【0161】
カレンダー処理は、内部に加熱機構を有するヒートロール4本と従動ロール3本とを真っ直ぐに組合せた7本の金属ロールによって構成されるカレンダー装置で行った。また、ニップ数を6ニップとし、ヒートロールの温度設定を110℃、線圧を330Kg/cm(=323kN/m)とした。この場合、カレンダーロールはロールの両端の軸を介して加圧するため、撓みが発生する。フラットロールを用いると、ロール面長の幅方向両端部での当りが強くなる。このため、ロールの胴部を中央部が大径のクラウン形状とすることが一般的である。本願では、感圧紙を用いニップ幅を計測してロール幅方向で均一加重となるように試行してロールのクラウン量を決定した。処理速度は150m/minとした。このようにして、カレンダー処理の終了した原反を、上記6インチコアに巻き取り、巻き取った原反の原反累積形状値を上記の測定装置器にて測定した。その後、巻き取った原反を、常温で24時間放置した後、1/2インチ(12.65mm)幅に切断してパンケーキ状の磁気記録テープとした。
【0162】
次に、原反累積形状値が異なる原反を切断して製造した複数種類の磁気記録テープについて、テープ幅NG、縦じわNG、エラーレート、バラツキ、エラーNGを評価項目として評価した。この場合、各塗布液の塗布後(各層の形成後であつて、熱硬化処理前)における10000ターン(ターンは、原反をコアに巻き付ける巻き付け回数)当たりの原反累積形状値(以下、「第1原反累積形状値」ともいう)およびカレンダー後における10000ターン当たりの原反累積形状値(以下、「第2原反累積形状値」ともいう)がそれぞれ0.25mm、0.20mmの原反を用いた磁気記録テープを実施例1とし、第1原反累積形状値および第2原反累積形状値がそれぞれ0.30mm、0.25mmの原反を用いた磁気記録テープを実施例2とし、第1原反累積形状値および第2原反累積形状値がそれぞれ0.35mm、0.30mmの原反を用いた磁気記録テープを実施例3とした。また、第1原反累積形状値および第2原反累積形状値がそれぞれ0.20mm、0.15mmの原反を用いた磁気記録テープを比較例1とし、第1原反累積形状値および第2原反累積形状値がそれぞれ0.40mm、0.35mmの原反を用いた磁気記録テープを比較例2とした。また、第1原反累積形状値が0.45mmの原反を比較例3とした。この比較例3については、後述する理由から、パンケーキ状の磁気記録テープを作製しなかった。
【0163】
また、比較例4としての磁気記録テープを、次のようにして製造した。まず、上記した実施例1〜3および比較例1,2を製造する際の製造方法と同様にして、上記ポリエチレンナフタレートフィルムの一面に下層非磁性層および上層磁性層を形成した。次いで、ポリエチレンナフタレートフィルムの他面上に上記バックコート層用の塗布液を塗布した後に乾燥処理を行い、バックコート層を形成した。続いて、上記した条件で、カレンダー処理を行い、その後に、上記した条件で熱硬化処理を行って原反とした。次いで、その原反を6インチコアに巻き取り、その後のカレンダー処理は行わずに、1/2インチ幅に切断してパンケーキ状の磁気記録テープとした。
【0164】
上記実施例1〜3および比較例1〜4の各磁気記録テープについて、テープ幅NG、縦じわNG、エラーレート、バラツキ、エラーNGを評価項目として評価した。その結果を表1に示す。

【0165】
なお、10000ターン当たりの第1原反累積形状値および第2原反累積形状値の算出に際しては、
原反全厚(平均)×(原反長さ)=π/4×((原反外径)−(巻取コア外径)
の関係より原反外径を求め、
ターン数=((原反外径)/2−(巻取コア外径)/2)/テープ全厚(平均)
の式より算出する。
例えば、原反全厚(平均)=6.82μm バックコート層塗設後、仕上がり長10,080mとすると、原反外径=0.3397m
∴ターン数=(0.3397/2−0.1667/2)/6.82E−6=12,680(ターン)と計算される。
【0166】
比較例1は、カレンダー加工時に原反の破断もなく、加工は完了したが、1/2インチ幅にテープ化したうちの12%のパンケーキに縦じわが認められ、この後、サーボ信号を書き込んで確認したが、エラーが発生し製品とならなかった。なお、この縦じわは、熱硬化処理後の原反で既に認められた。
【0167】
比較例2は、第1原反累積形状値が0.40mmで熱効果処理後の原反に縦じわもなく、良好のようであったが、カレンダー加工時に中央部がややたるみ気味であったのと、カレンダー処理での若干の強弱が原反幅方向で認められた。切断後、テープの幅を確認したところ10%が規格外れ(原反幅方向中央部)となり、歩留低下となった。また、中央部に比して原反両端部の加工がやや弱めで両端部で6%がエラーレート−6.5未満となりNGとなった。
【0168】
比較例3は、原反が各原反累積形状値が比較例2よりも大きくなるように製造したが、塗布後の巻き取り時に中央部が突出する形となり、タッチロールが全幅でうまく当接せず、原反がエアーを巻き込みながら巻き取られた。このため、原反がゆる巻き状態となり、巻きズレが発生しNGとなった。
【0169】
比較例4は、カレンダー処理工程と熱処理工程との順を入れ替えて実施したが、出来上がった原反における磁性層表面にバックコート層の形状の転写や、凹みが顕著に認められた。エラーレートを確認したところ、−5.8の値であり、製品化できないレベルであった。実施例1〜3については、いずれの評価項目についても、良好であった。これらの結果から、各層の形成後に原反をコアに巻き取る第1巻き取り工程における原反累積形状値を10000ターン当たり0.25mm以上0.35mm以下の範囲内とし、カレンダー加工後に原反をコアに巻き取る第2巻き取り工程における原反累積形状値を10000ターン当たり0.2mm以上0.3mm以下の範囲内とすることにより、良好な磁気記録テープを製造することができことが理解される。
【符号の説明】
【0170】
1 ベースプレート
2,2 ブロック
3,3 支柱
4 X軸リニアガイド機構
5 Z軸リニアガイド移動機構
6 ホルダー
7 接触式センサー
8 コア
9 原反
10 基準鉛直面
ΔZ 原反半径方向変位量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性支持体の一方の面上に非磁性粉末および結合剤を少なくとも含む非磁性層用塗布液を塗布して乾燥させた後に硬化させて下層非磁性層を形成する下層非磁性層形成工程と、
前記非磁性の上に強磁性粉末および結合剤を少なくとも含む磁性層用塗布液を塗布した後に乾燥させて上層磁性層を形成する上層磁性層形成工程と、
前記可撓性支持体の他方の面上に非磁性粉末および結合剤を少なくとも含むバックコート層用塗布液を塗布した後に乾燥させてバックコート層を形成するバックコート層形成工程と、
前記可撓性支持体の両面に前記各層が形成された原反をコアに巻き取る第1巻き取り工程と、
前記コアに巻き取った前記原反に対して熱硬化処理を行う熱硬化工程と、
前記コアに巻き取った前記原反を繰り出して、当該原反に対してカレンダー加工を行うカレンダー工程と、
前記カレンダー加工を行った前記原反をコアに巻き取る第2巻き取り工程とを含んで、磁気記録媒体を製造する磁気記録媒体の製造方法であって、
前記第1巻き取り工程において前記コアに巻き取った前記原反における幅方向の中央部の厚みが当該幅方向の端部の厚みよりも10000ターン当たり0.25mm以上0.35mm以下の範囲内で厚くなるように、前記各層の厚みを規定して当該各層を形成し、
前記第2巻き取り工程において前記コアに巻き取った前記原反における幅方向の中央部の厚みが当該幅方向の端部の厚みよりも10000ターン当たり0.2mm以上0.3mm以下の範囲内で厚くなるように、前記カレンダー処理を実行することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記カレンダー工程において、前記原反の前記幅方向に沿った長さ方向の中央部が当該長さの端部よりも大径のクラウン形状に形成された複数の金属ロールを用いて前記カレンダー加工を行うことを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記下層非磁性層形成工程における前記下層非磁性層を硬化させる処理は放射線による硬化処理であることを特徴とする請求項1または2記載の磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−216152(P2011−216152A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83328(P2010−83328)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】