説明

磁気記録媒体及びその製造方法、並びに磁気信号再生手段及び磁気信号再生方法

【課題】 サーボ信号とデータ信号とを別々の層に分けて記録することでデータ信号領域を最大限に確保するとともに、外乱或いは読み取り/書き込み時の制御ミスによってもサーボ信号が破壊されることがない磁気記録媒体及びその製造方法、並びに磁気信号再生手段及び磁気信号再生方法を提供する。
【解決手段】 本発明の磁気記録媒体1は、非磁性体の基板2と、この基板2の上方に、サーボ信号を記録するための第一記録層5と、データ信号を記録するための第二記録層7と、を少なくとも有してなる磁気記録媒体1であって、前記第一記録層5の保磁力が前記第二記録層7の保磁力よりも大きく、かつ、前記第一記録層5の残留磁束密度が前記第二記録層7の残留磁束密度よりも小さいことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体及びその製造方法、並びに磁気信号再生手段及び磁気信号再生方法に係り、より詳しくは、サーボ信号を記録するための第一記録層と、データ信号を記録するための第二記録層とを積層させてなる磁気記録媒体及びその製造方法、並びに、かかる磁気記録媒体に記録された磁気信号の再生手段及びその再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大容量化するコンピュータのデータ、或いは動画や画像等のデータ(以下、これらのデータを総称して単に「データ」という。また、データを記録媒体に記録するために信号化したものを「データ信号」という。)を記録するために、磁気記録媒体を用いた記録装置が広く普及している。
【0003】
従来の磁気記録媒体の模式図を図8(a)に示す。この磁気記録媒体101は、基材となる基板102と、記録感度を向上させるための軟磁性層103と、軟磁性層103と後記の記録層107との密着性を向上させる下地層104と、一層からなるデータ信号を記録するための記録層107と、この記録層107を保護するための保護層108と、を順次積層した構成となっている。
【0004】
また、図8(b)に示すように、記録層107は、データ信号を記録するためのデータ信号領域107dと、データ信号のトラッキング位置などが記されたサーボ信号を記録するためのサーボ信号領域107sとを単一の記録層107に形成した構成となっている。
【0005】
サーボ信号は、サーボフォロイングの精度を確保し、図9に示すヘッド201による読み取り/書き込みを高精度に制御するためには必須のものである。従って、磁気記録媒体101の面内記録密度を高密度化するためには、このサーボ信号もそれに比例して多く記録して、読み取り/書き込みを高精度に制御する必要がある。
しかし、記録層107にデータ信号領域107dとサーボ信号領域107sとを形成した構成とすると、記録層107に記録できるデータ信号の記録容量が、サーボ信号領域107dを形成した分だけ減少する。このサーボ信号領域107sが占める領域は、記録層107全面の5〜10%に及ぶといわれている。なお、このサーボ信号の記録はユーザーが行うことはできないので、サーボ信号は外乱による信号強度の劣化が生じ難いことが要求される。
【0006】
サーボ信号領域107sの存在によるデータの記録容量の減少分は、今後のデータの大容量化と、それに対応すべく記録容量を向上させた磁気記録媒体の提供が求められている産業界の要望とを鑑みれば、決して軽いものであるとはいえない。
【0007】
このような状況の中、データ信号の記録容量を大きくする有効な手段として、データ信号領域107dとサーボ信号領域107sとを記録層において別層(二層)とし、一方の記録層にはサーボ信号のみを記録し、他方の記録層にデータ信号のみを記録する構成とすることが考えられる。
【0008】
このような構成の磁気記録媒体としては、例えば、特許文献1の「磁気ディスク装置」に記載されている磁気記録媒体151(図10を参照。なお、特許文献1では「2層媒体」と記載)を挙げることができる。この磁気記録媒体151は、基板152、下地層153、下の記録層(下層部154)、分離層155、下地層156、上の記録層(上層部157)及びカーボン保護膜158で構成されている。
かかる磁気記録媒体151は、サーボ信号を高保磁力の下層部154に記録し、データ信号の記録を低保磁力の上層部157に記録することにより、サーボ信号の消滅や異なる信号の上書きなどによるサーボ信号の破壊を防止することを目的として成されたものであるが、その磁気記録媒体151の構成から、データの記録容量を向上させることが可能であると考える。
【0009】
特許文献1に記載されている磁気記録媒体151について説明すると、高い保磁力の下層部154と低い保磁力の上層部157に用いる金属磁性膜として、いずれもCo(コバルト)を主体とし、Pt(白金)、Cr(クロム)、Ta(タンタル)或いはB(ホウ素)といった金属を数%〜十数%添加した合金材料(例えば、CoCrPtTaやCoCrPtBなど)からなる金属磁性膜を用いている。そして、サーボ信号が記録される下層部154の金属磁性膜は、上層部157の金属磁性膜よりも保磁力を高くするために、金属磁性膜に添加する元素の組成を異ならせる旨が記載されている。
【0010】
また、その保磁力についても具体的に記載されており、かかる磁気記録媒体151では、データ信号を記録する記録層の上層部157が3kOe(キロエルステッド;なお、1Oe=(1/4π)×103A/m(アンペア毎メートル)の関係にある)であるのに対し、サーボ信号を記録する下層部154の保磁力は6kOeであり、データ信号の記録時にサーボ信号が容易に破壊されないよう、相対的に下層部154の保磁力が大きくなる構成となっている。
【0011】
なお、前記したように光記録方式によってデータ信号の読み取り/書き込みを行う光記録媒体(図示せず)などでは、記録層を上層部と下層部の二層に分けた場合であっても、レーザー光の焦点をそれぞれにフォーカスすることで容易かつ確実に読み取り/書き込みを行うことが可能である。
【特許文献1】特開2003−228801号公報(段落0009〜0014、図1及び図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、従来の磁気によって記録等を行う磁気記録媒体151では、データ信号を読み取り/書き込みする際に上層部157のみに磁力を影響させ、下層部154には磁力を影響させないといった、数十μm〜数百μmの精度で空間的な磁力の影響範囲を制御することは極めて困難である。
また、特許文献1に記載されている磁気記録媒体151においてサーボ信号が記録されている下層部154は、実用的には十分な大きさの保磁力を有しているとは言い難く、データ信号の読み取り/書き込み時に常用されている強度の磁力が作用しただけで容易にサーボ信号が破壊され得る。
【0013】
そのため、特許文献1に記載される磁気記録媒体151では、読み取り/書き込み時の制御ミスや外乱によって上層部157に記録されたデータのみならず、下層部154に記録されたサーボ信号をも破壊してしまう可能性が高かった。
【0014】
他方、磁気記録媒体の面内記録密度の高密度化を図るには、サーボ信号を多く記録し、サーボ信号領域107s(図8参照)を大きくする必要があるが、サーボ信号領域107sを大きくし過ぎるとデータ信号領域107dが減少するという問題があった。
【0015】
本発明は前記課題に鑑みてなされたものであり、サーボ信号とデータ信号とを別々の層に分けて記録することでデータ信号領域を最大限に確保するとともに、外乱或いは読み取り/書き込み時の制御ミスによってもサーボ信号が破壊されることがない磁気記録媒体及びその製造方法、並びに磁気信号再生手段及び磁気信号再生方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、鋭意研究した結果、サーボ信号を記録する第一記録層に用いる磁性体の性質と、データを記録する第二記録層に用いる磁性体の性質とを異ならしめ、かつ、これらを別層にして構成することで前記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明に係る磁気記録媒体は、非磁性体の基板と、この基板の上方に、サーボ信号を記録するための第一記録層と、データ信号を記録するための第二記録層と、を少なくとも有してなる磁気記録媒体であって、前記第一記録層の保磁力が前記第二記録層の保磁力よりも大きく、かつ、前記第一記録層の残留磁束密度が前記第二記録層の残留磁束密度よりも小さいことを特徴とする(請求項1)。
【0018】
このように、第一記録層の保磁力を第二記録層の保磁力より大きくすることにより、外乱或いはデータの読み取り/書き込み時の制御ミスが生じた場合であっても、記録されているサーボ信号の破壊を防止することができる。
また、第一記録層と第二記録層の記録密度を変えることで、再生手段によって読み取る信号周波数を異ならしめることができる。従って、低周波の信号周波数のみを再生手段によって読み取ることで、容易にサーボ信号を読み取ることができる。また、第二記録層の残留磁束密度を大きくしているので、S/N比などが良好な状態のデータ信号を読み取ることができる。
【0019】
また、本発明に係る磁気記録媒体は、前記基板の上方に、少なくとも軟磁性層、第一下地層、第二下地層、及び保護層の群から選択されたいずれかの層を含み、かつ、これらの層は、下記(a)〜(b)の積層位置、すなわち、(a)前記軟磁性層の積層位置と第一下地層の積層位置は、前記第一記録層の下方であり、(b)前記第二下地層の積層位置は、前記第二記録層の下方であり、(c)保護層の積層位置は、前記第二記録層の上方である、ことを特徴とする(請求項2)。
【0020】
このように、本発明に係る磁気記録媒体においては、必要に応じて第一記録層の下方に軟磁性層及び/または第一下地層を形成することができ、また、第二記録層の下方に第二下地層を形成することができ、さらに、第二記録層の上方に保護層を形成することができる。そして、これらの層を適宜形成することで、各記録層の磁気反応性を向上させたり、磁気記録媒体の表面を保護するなど、所定の効果を付与することができる。
【0021】
また、本発明に係る磁気記録媒体は、前記第一記録層が100℃以上250℃以下のキュリー温度を有し、かつ、この第一記録層が8kOe以上の保磁力を有するのが望ましい(請求項3)。
【0022】
このように、第一記録層のキュリー温度を比較的低い適切な範囲に規定しているので、第一記録層にサーボ信号を記録する場合に磁気記録媒体を加熱した場合であっても、第二記録層の残留磁束密度が劣化するなどの悪影響を最小限に抑えることができる。また、第一記録層の保磁力を高く設定しているので、第二記録層のデータ信号を読み取り/書き込みする際に印加された磁力を第一記録層が受けた場合であっても第一記録層に記録されたサーボ信号が破壊されることはない。
【0023】
また、本発明に係る磁気記録媒体は、前記第一記録層が、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)及びSm(サマリウム)からなる希土類元素から選択される少なくとも一種と、Fe(鉄)及びCo(コバルト)からなる遷移金属元素から選択される少なくとも一種と、を組み合わせたアモルファス合金を含む磁性体からなり、前記希土類元素と前記遷移金属元素との組成比率を15:85〜50:50とするのが望ましい(請求項4)。
【0024】
かかる希土類元素、及び遷移金属元素の中から好適な元素を選択し、さらに、それぞれを適切な組成比率で構成したアモルファス合金を含む磁性体を用いることにより、高い保磁力と低い残留磁束密度とを備えた第一記録層を形成することができる。また、このような組成からなる第一記録層に磁界を印加して、サーボ信号を記録するためには特定の温度(キュリー温度)まで加熱しなければならない。そのため、室温近傍で行う通常のデータ信号の読み込み/書き換え等によるサーボ信号の書き換え等を防止することができる。
【0025】
さらに、本発明に係る磁気記録媒体の製造方法は、非磁性体の基板の上方に第一記録層を積層する第一工程と、前記第一記録層の上方に第二記録層を積層して記録層積層化基板を作製する第二工程と、記録したいサーボ信号に対応した凹凸が、予め転写面に形成されているマスターディスクの当該転写面と、前記記録層積層化基板の第二記録層側とを着接し、前記記録層積層化基板の基板側から前記第一記録層のキュリー温度まで加熱する第三工程と、前記転写面の凹凸を通じて、加熱されている前記記録層積層化基板に磁界を印加しつつ、当該記録層積層化基板を冷却する第四工程と、前記第二記録層に記録されたサーボ信号を消磁する第五工程と、を含んでいることを特徴とする(請求項5)。
【0026】
本発明に係る磁気記録媒体の製造方法では、第一工程で非磁性体の基板の一方の面に第一記録層を積層し、さらに、第二工程で第一記録層の上方に第二記録層を積層することで記録層積層化基板を作製する。そして、第三工程でサーボ信号に対応した凹凸が形成されているマスターディスクの転写面と、記録層積層化基板の第二記録層側とを着接する。そして、記録層積層化基板の基板側から第一記録層のキュリー温度に達するまで加熱することにより、第一記録層の磁性を一旦消磁する。次いで、第四工程でマスターディスクと着接した状態の記録層積層化基板に磁界を印加しつつ冷却することで、その転写面の凹凸に対応したサーボ信号が記録層積層化基板の第一記録層及び第二記録層に記録される。次に、第五工程で第二記録層に記録されたサーボ信号を消磁して、いわゆる初期化を行い、磁気記録媒体を作製する。
【0027】
本発明の磁気信号再生手段は、請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載の磁気記録媒体に記録された磁気信号を再生する手段であって、少なくとも第一記録層及び第二記録層に記録された磁気信号を、低い信号周波数と高い信号周波数との重畳状態の再生信号として読み取る磁気信号読取手段と、前記磁気信号読取手段によって読み取られた重畳状態の前記再生信号を、低い信号周波数と高い信号周波数とに分離する再生信号分離手段と、を有することを特徴とする(請求項6)。
【0028】
このように、本発明の磁気信号再生手段においては、磁気信号読取手段によって磁気記録媒体に記録されている磁気信号を再生信号として読み取ることができる。しかしながら、かかる磁気信号読取手段によって読み取られた再生信号は、低い信号周波数と高い信号周波数とが重畳した状態であるために、磁気記録媒体に記録されている正確なサーボ信号及びデータ信号として再生することができない。そこで、再生信号分離手段によって、この再生信号を低い信号周波数と高い信号周波数に分離することで、磁気記録媒体に記録されている正確なサーボ信号及びデータ信号として再生することができる。
【0029】
また、本発明の磁気信号再生方法は、請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載の磁気記録媒体に記録された磁気信号を再生する方法であって、少なくとも第一記録層及び第二記録層に記録された磁気信号を、低い信号周波数と高い信号周波数との重畳状態の再生信号として読み取る磁気信号読取ステップと、前記磁気信号読取ステップによって読み取られた重畳状態の前記再生信号を、低い信号周波数と高い信号周波数とに分離する再生信号分離ステップと、を有することを特徴とする(請求項7)。
【0030】
このように、本発明の磁気信号再生方法では、磁気信号読取ステップによって低い信号周波数と高い信号周波数との重畳状態の再生信号を読み取り、次いで、再生信号分離ステップによって低い信号周波数と高い信号周波数とを分離することができるので、サーボ信号とデータ信号とが重畳した再生信号を得た場合であっても正確なサーボ信号及びデータ信号として再生することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の磁気記録媒体によれば、サーボ信号を記録する第一記録層とデータを記録する第二記録層とを分けたので、データを記録できる容量を向上させることができる。また、保磁力の大きい第一記録層に記録されたサーボ信号は、キュリー温度まで加熱しないと磁性を変化させることができないので、外乱やデータ信号の読み取り/書き込み時の不適切な制御によるサーボ信号の破壊(例えば、書き換えや消滅など)を防止することができる。さらに、第一記録層の残留磁束密度と第二記録層の残留磁束密度が異なるので、これに基づいて得られる信号周波数も異ならしめることができるので、サーボ信号とデータ信号を正確に得ることができる。
【0032】
本発明の磁気記録媒体の製造方法によれば、サーボ信号を記録する第一記録層とデータを記録する第二記録層とを分けた磁気記録媒体を製造することができる。
【0033】
本発明の磁気信号再生手段及び磁気信号再生方法によれば、磁気記録媒体からサーボ信号とデータ信号とが重畳した状態で得られる再生信号をそれぞれの信号に分離して、正確なサーボ信号及びデータ信号として再生することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
次に、適宜図面を参照しつつ本発明に係る磁気記録媒体とその製造方法について詳細に説明することとする。参照する図面において図1は、本発明の磁気記録媒体における最良の実施形態の構成例を示す断面説明図である。図2は、第一記録層のヒステリシス曲線と第二記録層のヒステリシス曲線を示した図である。
【0035】
[磁気記録媒体1の構成]
(磁気記録媒体1)
図1の断面説明図に示すように、本発明の最良の実施形態に係る磁気記録媒体1は、基板2上に軟磁性層3、第一下地層4、第一記録層5、第二下地層6、第二記録層7、保護層8の順に積層された構成となっている。このうち、基板2、第一記録層5、及び第二記録層7は、必須の構成要素であり、軟磁性層3、第一下地層4、第二下地層6、保護層8は、付加的な構成要素であって、これらのうちの1つ又は複数の構成要素を適宜省略して磁気記録媒体1を作製することも可能である。
【0036】
本発明の最良の実施形態に係る磁気記録媒体1の構成要素のうち、まず、必須の構成要素である基板2、第一記録層5、及び第二記録層7について説明する。
【0037】
(基板2)
基板2は、磁気記録媒体1の基材となるものであり、アルミニウム、アルミニウム合金、ガラスなどの非磁性体で構成される。
【0038】
(第一記録層5)
第一記録層5は、サーボ信号を記録するための記録層であり、図1に示すように、基板2よりも上方の層として積層される。より好ましくは、基板2と第二記録層7との間に第一記録層5を積層する構成とするのがよい。
この第一記録層5は、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、及びサマリウム(Sm)からなる希土類元素から選択される少なくとも一種と、鉄(Fe)及びコバルト(Co)からなる遷移金属元素から選択される少なくとも一種と、を組み合わせたアモルファス合金を含む磁性体で構成し、さらに、この希土類元素と遷移金属元素との組成比率を15:85〜50:50とするのがよい。具体的には、Gd23Fe72Co5、Tb24Fe59Co17、Tb20Co80、Sm50Co50などの磁性体を好適に用いることができる。なお、遷移金属元素を複数用いている場合は、これらの遷移金属元素比率を任意に設定することができる。
【0039】
このような磁性体を用いて第一記録層5を構成すると、後記で説明する第二記録層7(図1参照)と比較して高い保磁力(Oe:エルステッド)と、低い残留磁束密度(G:ガウス)とを併せ持つ記録層を得ることができるとともに、キュリー温度を100〜250℃と、比較的低い温度にすることができる。従って、かかる磁性体からなる第一記録層5は保磁力Hc1が高く、また、その磁性体の性質から、一度キュリー温度まで加熱して磁化すれば、再びキュリー温度まで加熱して磁界を印加しない限り磁性を失うことはない。従って、この第一記録層5にサーボ信号を記録すると、室温付近(概ね30℃)で行われるデータ信号の読み取り/書き込みで印加される磁力によってサーボ信号が破壊されることがない。
【0040】
本発明の磁気記録媒体1に使用する第一記録層5と第二記録層7における磁界の強さと磁束密度の関係から求められるヒステリシス曲線を図2に示す。
第一記録層5は、残留磁束密度Br1,−Br1が低く、保磁力Hc1,−Hc1が高いことが必要であるので、横に長いヒステリシス曲線となる。
一方、第二記録層7は、残留磁束密度Br2,−Br2が高く、保磁力Hc2,−Hc2が低いことが必要であるので、縦に長いヒステリシス曲線となる。
なお、残留磁束密度Br1,−Br1と、保磁力Hc1,−Hc1において、マイナス符号は、反対方向への磁化を示しており、その絶対値は同じ値となる。これは残留磁束密度Br2,−Br2と、保磁力Hc2,−Hc2においても同様である。以下、本願明細書においては、残留磁束密度と保磁力を簡単に示すため、単に残留磁束密度Br1,残留磁束密度Br2、保磁力Hc1,保磁力Hc2とを示すこととする。
【0041】
ここで、第二記録層7の磁束密度が飽和したときの磁界の強さ[Oe]をHs,−Hsとした場合に、この磁界の強さHsと−Hsの間で示される磁界範囲を、データ信号の書き込みで使用できる磁界範囲とすることができる。すなわち、この磁界範囲内であれば、第一記録層5の磁化は変化しないで第二記録層7の磁化のみを変化させることができる。
【0042】
前記で説明したように、この第一記録層5には、低密度のサーボ信号を、後記する第二記録層7には、高密度のデータ信号を記録するので、ヘッド21(図6参照)で読み取られるサーボ信号の周波数は低くなる。従って、後記する再生信号の分離手段を用いることにより、高い信号周波数で再生されるデータ信号とサーボ信号とを容易に分離することができる。
【0043】
前記の組成の磁性体からなる第一記録層5にサーボ信号を記録するためには、前記のキュリー温度まで加熱する必要があるが、このキュリー温度が比較的低い温度範囲、すなわち、100℃〜250℃であるので、当該温度まで加熱した場合であっても第二記録層7の磁性の低下といった悪影響や基板2の反りといった悪影響を最小限に留めることができる。キュリー温度が100℃未満であると、磁気記録媒体が常用される温度に近くなるために、データ信号の読み取り/書き込み時にサーボ信号を記録している第一記録層5の磁性の低下を招く虞や、サーボ信号が書き換えられる虞がある。一方、キュリー温度が250℃を超えると、加熱温度が高過ぎるために第二記録層7の磁性の低下を招く虞がある。そのため、本発明における第一記録層5のキュリー温度は、100℃〜250℃の温度範囲とするのが好ましい。また、第二記録層7のキュリー温度は第一記録層5のキュリー温度よりも十分高いものを用いるのが好ましい。第一記録層5をキュリー温度まで加熱した際に第二記録層7の磁性が低下するなどの悪影響を抑えるためである。
なお、キュリー温度とは、磁性体を加熱して特定の温度に達したときに磁性が消失することをいい、このときに外部から磁界を与えておくと、温度が下がったときにその磁界の向きに再度磁化する。本発明では、かかる現象を利用してサーボ信号を記録している。
【0044】
また、第一記録層5の保磁力Hc1が8kOe未満であると保磁力が十分に高いとはいえず、データ信号の読み取り/書き込み時の印加によってサーボ信号が破壊される虞がある。そのため、本発明における第一記録層5の保磁力Hc1は、データ信号の読み取り/書き込み時の印加(磁界の強度)より大きい8kOe以上とする。
【0045】
(第二記録層7)
第二記録層7は、データ信号を記録するための記録層であり、図1に示すように、第一記録層5よりも上の層として積層される。この第二記録層7は、従来、磁気記録媒体で用いられている磁性体を適宜選択して積層することができる。具体的には、CoCrPtからなる記録層や、CoCrPtX(X=B,Nb,Ta,O,C)からなる記録層などを挙げることができる。より具体的には、Co70Cr20Pt10、Co66Cr20Pt104、Co68Cr20Pt10Ta2などを例示することができるほか、Co76Pt19Cr5とSiO2とを70:30の比率で構成した磁性体も用いることができる。
【0046】
この第二記録層7は、保磁力Hc2が第一記録層5より小さい、8kOe未満であって、かつ、前記の第一記録層5よりも高い残留磁束密度を有することを要する。
第二記録層7の保磁力Hc2が8kOe以上であると、保磁力Hc2が高過ぎるために第二記録層7を加熱しないでデータ信号を書き換えることができなくなる。従って、本発明では、第二記録層7の保磁力Hc2を8kOe未満とする。
【0047】
また、第二記録層7の残留磁束密度が第一記録層5よりも低いと、かかる磁気記録媒体1に記録されている磁気信号を再生した場合に、第一記録層5に記録されているサーボ信号と第二記録層7に記録されているデータ信号とを分離して認識することが困難になり、不適である。従って、本発明では第二記録層7の残留磁束密度Br2は第一記録層5の残留磁束密度Br1よりも高いことを要する。
【0048】
なお、第二記録層7は前記したように、データ信号を記録する層であるので、熱緩和の観点からはできるだけ厚くした方がよい。しかし、厚さが厚くなりすぎるとヘッド21と軟磁性層3の距離が離れてしまい、十分な磁力と大きな磁界勾配が得られなくなるため磁界分布の観点からはできるだけ薄くした方がよい。このため、熱緩和が小さく、かつ良好な磁界勾配を得ることができる厚さとして、5nm〜20nmの範囲で第二記録層7を形成するのが好ましい。
【0049】
このように、本発明の磁気記録媒体1では、第一記録層5と第二記録層7を備えているので、第一記録層5にサーボ信号領域を設けることができ、第二記録層7にデータ信号領域を設けることができる。その結果、同一面にサーボ信号領域とデータ信号領域を構成していた従来の磁気記録媒体と比較してデータの記録容量を多くすることができる。
【0050】
なお、本発明の磁気記録媒体1にデータ等を記録する方式として垂直磁気記録方式や水平磁気記録方式がある。本発明の磁気記録媒体1の記録方式としては、記録密度の高密度化を図る観点から垂直磁気記録方式を採用することが好ましいが、水平磁気記録方式を採用することも可能である。
なお、垂直磁気記録方式とは、磁気記録媒体の記録層を構成する磁性体の磁化容易軸が、記録面に対して垂直方向である磁気記録媒体を用いて、記録面に垂直に磁性体の磁化を行うことでデータ信号の記録を行う磁気記録方式をいい、磁化遷移領域において隣り合った磁化同士が相互に向き合うことがなく、磁化が安定しているために高密度磁気記録媒体の具現が可能である。これに対し、水平磁気記録方式とは、磁気記録媒体の記録層を構成する磁性体の磁化容易軸が、記録面に対して平行方向である磁気記録媒体を用いて、記録面の円周方向に磁性体の磁化を行うことでデータ信号の記録を行う磁気記録方式をいう。
【0051】
次に、付加的な構成要素である軟磁性層3、第一下地層4、第二下地層6、及び保護層8について説明する。
【0052】
(軟磁性層3)
軟磁性層3は、ヘッド21(図6参照)の記録磁極21bから発生する記録磁界(磁力)が有効にヘッド21のリターン磁極(不図示)に返すための磁気回路の一部として機能する。記録磁極21bに大きな磁界を発生させるためには、特性として磁力(飽和磁束密度)が大きく、保磁力の比較的小さな磁性体を用いることが好ましい。このような磁性体としては、例えば、Ni90Fe10やFe9010などを用いることができる。
【0053】
(第一下地層4及び第二下地層6)
第一下地層4及び第二下地層6は、それぞれ第一記録層5及び第二記録層7が良好な磁気特性を示すように付加される層である。このような作用を有する第一下地層4として具体的には、チッ化ケイ素(Si34)などを用いることができる。また、第二下地層6として具体的には、Cr,Ti,Ti90Cr10,Ruなどを用いることができる。このような第一下地層4及び第二下地層6を用いると、第一下地層4及び第二下地層6は、第一記録層5及び第二記録層7をエピタキシャル成長させ易いので所要の磁気特性を得ることが容易となる。
【0054】
(保護層8)
保護層8は、磁気記録媒体1の第二記録層7及び第一記録層5などによって構成される記録面(図1においては上方の面を示す。)を保護するための層であり、第二記録層7及び第一記録層5への異物の接触等による悪影響から防御する役割を果たすほか、これら記録層に含まれる磁性体の金属元素等の酸化を防止する。そのため硬度が高い物質であって、酸化の影響を受け難い物質を用いることが好ましい。保護層8として、具体的には、Diamond Like Carbon(DLC)や紫外線等で硬質化する高分子樹脂などを好適に用いることができる。
【0055】
[磁気記録媒体の製造方法]
次に、本発明の磁気記録媒体の製造方法について図3を参照して詳細に説明する。図3は、前記した磁気記録媒体1の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【0056】
磁気記録媒体1の製造方法は、以下に説明する各工程を含んでなる。
まず、非磁性体の基板2の一方の面に第一記録層5を積層する(第一工程)。次に、第二記録層7を積層して(第二工程)、記録層積層化基板9(図4(a))を作製する。
【0057】
このようにして作製された記録層積層化基板9の第二記録層7側に、予め用意してあるマスターディスク10の転写面10tを着接して、この記録層積層化基板9の基板2側から第一記録層5のキュリー温度まで加熱する(第三工程)。前記したように、記録層を構成する磁性体は、加熱するに従って磁性が弱くなり、特定の温度(キュリー温度)に達するとその磁性が消滅する。なお、本発明においては、厳密にキュリー温度まで加熱する必要はなく、第二記録層4や基板2など、その他の構成要素を勘案して、キュリー温度の近傍で適宜加熱温度を変更し、設定することもできる。
【0058】
次に、マスターディスク10の転写面10tの凹凸を通じて、加熱されている記録層積層化基板9に、一定方向の磁界を印加しつつ、この記録層積層化基板9を冷却する(第四工程;図4(a)参照)。このように、キュリー温度から温度を下げる際に、外部から磁界を印加することで、磁性体にはその磁界に則した磁性が付与され、これを維持することができる。なお、このときの一定方向の磁界としては、第二記録層7に記録するデータ信号に用いる磁束密度より低い磁束密度の磁界とするのがよい。この工程により、記録層積層化基板9とマスターディスク10の転写面10tの凹凸とが接している部分における第二記録層7及び第一記録層5を一定方向に磁化することができる。すなわち、サーボ信号を記録することができる。
【0059】
そして、サーボ信号が記録されている記録層積層化基板9の第一記録層5及び第二記録層7のうち、第二記録層7に記録されたサーボ信号のみを消磁することで、いわゆる磁気記録媒体1の初期化を行う(第五工程;図4(b)参照)。第二記録層7に記録されたサーボ信号のみを消磁する方法としては、例えば、サーボ信号を記録する際に使用した磁界の方向とは逆の磁界を印加する方法を挙げることができる。
このように、第一工程から第五工程を行うことで、本発明で規定するところの磁気記録媒体1を具現することができる。
【0060】
ここで、図4においては記録層積層化基板9の構成を、基板2、第一記録層5及び第二記録層7により簡略的に示しているが、図1に示したように、基板2に軟磁性層3、第一下地層4、第一記録層5、第二下地層6、第二記録層7及び保護層8とを積層した記録層積層化基板9を作製するには、前記した製造方法の第一工程及び第二工程において下記(a)〜(d)の各工程を行えばよい。
【0061】
すなわち、(a)第一工程において、第一記録層5を積層する前に軟磁性層3を積層する工程と、(b)第一記録層5を積層する前に第一記録層5の下地となる第一下地層4を積層する工程と、を行うことにより、それぞれ第一記録層5の下層として、軟磁性層3と第一下地層4とを積層することができる。また、(c)第二工程において第二記録層を積層する前に第二記録層の下地となる第二下地層を積層する工程と、(d)第二工程において第二記録層を積層した後に保護層を積層する工程と、を行うことにより、それぞれ第二記録層7の下層として第二下地層6と、第二記録層7の上層として保護層8を積層することができる。
【0062】
このように、第一工程及び第二工程において前記の工程を加えることで、基板2上に軟磁性層3、第一下地層4、第一記録層5、第二下地層6、第二記録層7及び保護層8とを積層した磁気記録媒体1を作製することが可能である。なお、これらの層を積層するには従来公知の手段を用いることができ、軟磁性層3、第一下地層4、第一記録層5、第二下地層6、第二記録層7などは、スパッタリングを行うことで均一な厚さを有する薄層としてこれらを積層することが可能であるので好適である。
【0063】
なお、付加的な構成要素である軟磁性層3、第一下地層4、第二下地層6、及び保護層8のうちいずれかを積層する必要がないときは、前記(a)〜(d)の工程のうち、適宜の工程を省くことで所望の構成の磁気記録媒体1を具現することが可能である。
【0064】
[マスターディスク10]
次に、サーボ信号を記録するためのマスターディスク10(図4(a)参照)について説明する。
本発明において使用することのできるマスターディスク10は、下記の手法によりサーボ信号に対応した凹凸を、その転写面10tに形成することができる。例えば、ポジ型の感光性耐蝕皮膜材料(フォトレジスト)を塗布した円形の金属盤を回転させつつ、サーボ信号に対応して変調したレーザー光や電子ビームなどを照射して、露光した部分のレジストを現像液で溶解・除去し、この溶解・除去した部分にメッキを行った後、残りのフォトレジストを剥離することで、サーボ信号に対応した凹凸が形成されたマスターディスク10を得ることができる。
【0065】
[磁気信号再生手段及び磁気信号再生方法]
図5(b)を参照して本発明の磁気記録媒体1に記録された磁気信号を再生する磁気信号再生手段20について説明する前に、図5(a)を参照して、従来の磁気記録媒体101に記録された磁気信号再生手段200について簡単に説明する。
従来の磁気記録媒体101に記録された磁気信号を再生する手段は、磁気記録媒体101と、ヘッド201と、アンプ202と、信号処理装置203と、ボイスコイルモータ204a及びその制御部204bと、スピンドルモータ205a及びその制御部205bとを含む構成となっている。なお、ヘッド201(図9を参照)は、記録層107に記録された磁気信号を読み取り、再生するための装置であり、再生素子201aと記録磁極201bとを有する。再生素子201aは、記録層のデータ信号領域に記録されているデータ信号と、同じく記録層のサーボ信号領域に記録されているサーボ信号を再生する。また、記録磁極201bは、その先端から記録磁界を印加して磁気記録媒体101の記録層のデータ信号領域に記録されているデータ信号の書き込みや消磁等を行う。
【0066】
図5(a)に戻って説明を続ける。この従来の磁気信号再生手段200においては、まず、ヘッド201の再生素子201aが、磁気記録媒体101に記録された磁気信号(データ信号及びサーボ信号)を再生信号として読み取る。読み取られた再生信号はアンプ202に入力され、このアンプ202によって信号強度が増幅される。このようにして増幅された再生信号は、信号処理装置203に入力される。信号処理装置203では、データ信号とサーボ信号に基づいて適宜の動作を行わせる。従って、データ信号は、図示しないCPU(中央処理装置)などに出力され、サーボ信号は、ボイスコイルモータ204aの制御部204b、及びスピンドルモータ205aの制御部205bに出力される。サーボ信号を入力した制御部204bは、入力されたサーボ信号に基づいてボイスコイルモータ204aを適宜制御して読み取り位置の調節を行い、サーボ信号を入力した制御部205bは、入力されたサーボ信号に基づいてスピンドルモータ205aを適宜制御して磁気記録媒体101の回転速度を調節する。
【0067】
ここで、従来の磁気記録媒体101においては、同一面にサーボ信号領域とデータ信号領域とが配設されている(図9参照)。従って、ヘッド201が一度に読み取る再生信号はサーボ信号又はデータ信号のいずれか一方のみである。
しかし、本発明の磁気記録媒体1では、図6に示すように、サーボ信号は第一記録層5に記録され、データ信号は第二記録層7に記録されているため、前記のヘッド201と同様の構成であるヘッド21にて読み取られる再生信号は、サーボ信号とデータ信号とが重畳したものであり、図5(a)に示す従来の磁気信号再生手段200を用いてもサーボ信号とデータ信号を正確に再生することができない。
そこで、本発明においては、かかる磁気記録媒体1の磁気信号を、下記の再生手段によって再生する。
【0068】
本発明における磁気記録媒体1に記録されている磁気信号再生手段20は、図5(b)に示すように、磁気記録媒体1と、再生素子21a及び記録磁極21bを含んで構成されるヘッド21と、アンプ22と、信号処理装置23と、ボイスコイルモータ24a及びその制御部24bと、スピンドルモータ25a及びその制御部25bと、さらに、フィルタ26とを含む構成となっている。なお、フィルタ26以外の構成は、前記の磁気信号再生手段200と同様であるので、説明を省略する。
【0069】
(フィルタ26)
図5(b)に示すように、フィルタ26は、アンプ22と信号処理装置23との間に配設される。そして、このフィルタ26は、低い信号周波数を通過(高い周波数を遮断)させるためのローパスフィルタ(LPF)26aと、高い信号周波数を通過(低い信号周波数を遮断)させるためのハイパスフィルタ(HPF)26bで構成されている。なお、前記したように、本発明の磁気記録媒体1から再生される再生信号は、低い信号周波数のサーボ信号と高い信号周波数のデータ信号が重畳した波形として得ることができる。
【0070】
そして、図5(b)及び図7に示すように、再生信号は、磁気信号読取手段であるヘッド21によって読み取られてアンプ22に出力される(磁気信号読取ステップ)。アンプ22は、入力された再生信号を増幅して、再生信号分離手段である信号処理装置23に出力する。なお、このときの再生信号は、図7(a)に示すように、サーボ信号とデータ信号とが重畳した波形となっている。
【0071】
信号処理装置23では、増幅して入力された再生信号を、フィルタ26のLPF26aを経由させることによって低い信号周波数のサーボ信号のみを分離することができる(同図(b);請求項7でいうところの「再生信号分離ステップ」)。また、同様に、アンプ22から入力した重畳した状態の再生信号を、フィルタ26のHPF26bを経由させることによって高い信号周波数のデータ信号のみを分離することができる(同図(c);請求項7でいうところの「再生信号分離ステップ」)。このように、フィルタ26のLPF26aとHPF26bによって分離して再生したサーボ信号及びデータ信号を、信号処理装置23に出力する。サーボ信号及びデータ信号を入力した信号処理装置23は、前記の従来の磁気再生手段200と同様、データ信号を図示しないCPUへ出力し、サーボ信号をボイスコイルモータ24aとその制御部24b、及び、スピンドルモータ25aとその制御部25bに出力する。
このように、本発明の磁気記録媒体1に記録された重畳した状態の磁気信号は、再生手段20によって好適に分離・再生することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の磁気記録媒体における最良の実施形態の構成例を示す断面説明図である。
【図2】第一記録層のヒステリシス曲線と第二記録層のヒステリシス曲線を示した図である。
【図3】磁気記録媒体の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図4】本発明の磁気記録媒体の製造方法の一部を説明する図であって、(a)は、第三工程及び第四工程を説明するための説明図であり、(b)は、第五工程を説明するための説明図である。
【図5】磁気信号再生手段を説明するためのブロック図であって、(a)は、従来の磁気信号再生手段のブロック図であり、(b)は、本発明で用いる磁気信号再生手段のブロック図である。
【図6】本発明の磁気記録媒体に記録された磁気信号を読み取る様子を示した図である。
【図7】(a)は、本発明の磁気記録媒体から再生された、サーボ信号とデータ信号とが重畳した波形の再生信号であり、(b)は、LPFによって、低い信号周波数のみを分離・再生した再生信号であり、(c)は、HPFによって高い信号周波数のみを分離・再生した再生信号である。
【図8】従来の磁気記録媒体について説明する図であって、(a)は、従来の磁気記録媒体の構成断面図であり、(b)は、記録層におけるサーボ信号領域とデータ信号領域とを模式的に示した模式図である。
【図9】従来の磁気記録媒体に記録された磁気信号を読み取る様子を示した図である。
【図10】上層部と下層部の記録層を有する従来の磁気記録媒体の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0073】
1 磁気記録媒体
2 基板
3 軟磁性層
4 第一下地層
5 第一記録層
6 第二下地層
7 第二記録層
8 保護層
9 記録層積層化基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性体の基板と、この基板の上方に、サーボ信号を記録するための第一記録層と、データ信号を記録するための第二記録層と、を少なくとも有してなる磁気記録媒体であって、
前記第一記録層の保磁力が前記第二記録層の保磁力よりも大きく、かつ、
前記第一記録層の残留磁束密度が前記第二記録層の残留磁束密度よりも小さいことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記基板の上方に、少なくとも軟磁性層、第一下地層、第二下地層及び保護層の群から選択されたいずれかの層を含み、かつ、これらの層は、下記(a)〜(b)の積層位置、すなわち、
(a)前記軟磁性層の積層位置と第一下地層の積層位置は、前記第一記録層の下方であり、
(b)前記第二下地層の積層位置は、前記第二記録層の下方であり、
(c)保護層の積層位置は、前記第二記録層の上方である、
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記第一記録層が100℃以上250℃以下のキュリー温度を有し、かつ、この第一記録層が8kOe以上の保磁力を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記第一記録層が、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)及びSm(サマリウム)からなる希土類元素から選択される少なくとも一種と、Fe(鉄)及びCo(コバルト)からなる遷移金属元素から選択される少なくとも一種と、を組み合わせたアモルファス合金を含む磁性体からなり、前記希土類元素と前記遷移金属元素との組成比率が、15:85〜50:50であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
非磁性体の基板の一方の面に第一記録層を積層する第一工程と、
前記第一記録層の上方に第二記録層を積層して記録層積層化基板を作製する第二工程と、
記録したいサーボ信号に対応した凹凸が、予め転写面に形成されているマスターディスクの当該転写面と、前記記録層積層化基板の第二記録層側とを着接し、前記記録層積層化基板の基板側から前記第一記録層のキュリー温度まで加熱する第三工程と、
前記転写面の凹凸を通じて、加熱されている前記記録層積層化基板に磁界を印加しつつ、当該記録層積層化基板を冷却する第四工程と、
前記第二記録層に記録されたサーボ信号を消磁する第五工程と、
を含んでいることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載の磁気記録媒体に記録された磁気信号を再生する手段であって、
少なくとも第一記録層及び第二記録層に記録された磁気信号を、低い信号周波数と高い信号周波数との重畳状態の再生信号として読み取る磁気信号読取手段と、
前記磁気信号読取手段によって読み取られた重畳状態の前記再生信号を、低い信号周波数と高い信号周波数とに分離する再生信号分離手段と、
を有することを特徴とする磁気信号再生手段。
【請求項7】
請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載の磁気記録媒体に記録された磁気信号を再生する方法であって、
少なくとも第一記録層及び第二記録層に記録された磁気信号を、低い信号周波数と高い信号周波数との重畳状態の再生信号として読み取る磁気信号読取ステップと、
前記磁気信号読取ステップによって読み取られた重畳状態の前記再生信号を、低い信号周波数と高い信号周波数とに分離する再生信号分離ステップと、
を有することを特徴とする磁気信号再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−18949(P2006−18949A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−197260(P2004−197260)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】