説明

磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法

【課題】磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法において、ガラス基板の端面研磨装置間の移動やブラシの交換をすることなく、端面の加工傷を短時間で除去し、かつ端面を高品質に平滑化することが可能な端面研磨工程を提供する。
【解決手段】端面研磨工程では、回転自在の軸心31aと、剛性が相対的に高く、軸心31aからブラシ部の先端までの長さが相対的に短い第1ブラシ部31cと、剛性が相対的に低く、軸心31aからブラシ部の先端までの長さが相対的に長い第2ブラシ部31dとを有するブラシを用いてガラス基板の端面13を研磨する。端面研磨工程は、第1ブラシ部31cと第2ブラシ部31dとをガラス基板の端面13に接触させてブラシを軸心周りに回転させる第1研磨段階と、ガラス基板の端面13とブラシの軸心31aとの間の距離が第1研磨段階よりも長くなった状態で、第2ブラシ部31dのみをガラス基板の端面13に接触させてブラシを軸心周りに回転させる第2研磨段階とをこの順に含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスク等の磁気記録媒体に用いるためのガラス基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ハードディスクドライブ(HDD)に内蔵されるハードディスク(HD)等の磁気記録媒体に用いるためのガラス基板は、ガラス素材を溶融するガラス溶融工程、溶融したガラス素材を金型でプレス成形することにより円盤状のガラス基板を作製するプレス成形工程、得られたガラス基板の中心に円孔を形成するコアリング工程、得られた環状のガラス基板の主面(記録面)を研削加工してガラス基板の厚みや平坦度等を予備調整する第1ラッピング工程、ガラス基板の内周端面及び外周端面を研削加工してガラス基板の外径寸法や真円度等を微調整する端面研削工程、ガラス基板の内周端面及び外周端面を研磨して平滑化する端面研磨工程、ガラス基板の主面を再び研削加工してガラス基板の厚みや平坦度等を微調整する第2ラッピング工程、ガラス基板の主面を研磨して平滑化するポリッシング工程、及び、ガラス基板を洗浄する洗浄工程等を経て製造される。
【0003】
この他に、ガラス基板の表面を強化する化学強化工程や、ガラス基板の厚みや平坦度等を検査する検査工程等が行われる場合がある。また、端面研削工程等において、ガラス基板の内周端面及び外周端面が面取り加工される場合がある。
【0004】
従来、端面研磨工程は、ガラス基板の内周端面及び/又は外周端面に回転するブラシを接触させることにより、それまでの加工作業で端面に生じた加工傷を除去し、さらに端面を平滑化するものである。端面の加工傷を除去するためには、加工傷は相対的に粗いので、剛性が相対的に高い毛のブラシを用いて研磨速度(研磨レート)を高めることが好ましい。これにより、研磨代が大きくても短時間で加工傷を除去することができる。しかし、剛性が相対的に高い毛のブラシを用いると、ブラシ傷が残るので、端面の平滑化が困難になる。一方、端面を平滑化するためには、剛性が相対的に低い毛のブラシを用いてブラシ傷が残らないようにすることが好ましい。しかし、剛性が相対的に低い毛のブラシを用いると、研磨速度が低くなるので、生産性が低下する。つまり、端面の加工傷を短時間で除去することと、端面を高品質に平滑化することとの両立が困難という問題があった。
【0005】
この問題に対処するため、特許文献1には、研磨ブラシを用いてガラス基板の端面を研磨する端面研磨工程を、第1の研磨工程と第2の研磨工程とに分け、それぞれ異なる研磨条件でガラス基板の端面を研磨することが記載されている。具体的には、第2の研磨工程では、第1の研磨工程よりも剛性が低い研磨ブラシを用いることが記載されている。これによれば、剛性が相対的に高い研磨ブラシを用いる第1の研磨工程では、研磨代が相対的に大きい端面の加工傷を短時間で除去することができ、剛性が相対的に低い研磨ブラシを用いる第2の研磨工程では、ブラシ傷が残らないように端面を平滑化することができる。
【0006】
また、特許文献2には、ガラス基板の内周端面の斜面部(面取り部)を研磨ブラシを用いて研磨した後、内周端面の側壁部を研磨パッドを用いて研磨することが記載されている。具体的には、ガラス基板の円孔に研磨ブラシを挿入して内周端面を研磨した後、ガラス基板の円孔に研磨パッドを挿入して内周端面を研磨することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−273777号公報(段落0019、0041)
【特許文献2】特開2007−197235号公報(段落0010、0041)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載の技術では、第1の研磨工程と第2の研磨工程とを行うためには、例えば、第1の研磨工程を行うための剛性が相対的に高い研磨ブラシが備えられた端面研磨装置から、第2の研磨工程を行うための剛性が相対的に低い研磨ブラシが備えられた端面研磨装置へガラス基板を移動しなければならない。あるいは、単一の端面研磨装置において、第1の研磨工程を行うための研磨ブラシと第2の研磨工程を行うための研磨ブラシとを交換しなければならない。そのため、ガラス基板の端面研磨装置間の移動やブラシの交換に時間がかかり、生産性が低下する可能性がある。また、ガラス基板の端面研磨装置間の移動の際にガラス基板に傷がつき、収率が低下して生産コストが上昇する可能性がある。
【0009】
また、特許文献2に記載の技術では、研磨ブラシを用いて研磨した後は、研磨ブラシを円孔から抜き取り、代わりに、研磨パッドを円孔に挿入するので、ブラシとパッドとの交換に時間がかかり、生産性が低下する。
【0010】
本発明は、磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法において、ガラス基板の端面研磨装置間の移動やブラシの交換をすることなく、端面の加工傷を短時間で除去し、かつ端面を高品質に平滑化することが可能な端面研磨工程を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ガラス基板の内周端面及び/又は外周端面をブラシを用いて研磨する端面研磨工程を含む磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法であって、ブラシは、回転自在の軸心と、軸心の周囲に配置されたブラシ部とを有し、ブラシ部は、剛性が相対的に高く、軸心からブラシ部の先端までの長さが相対的に短い第1のブラシ部と、剛性が相対的に低く、軸心からブラシ部の先端までの長さが相対的に長い第2のブラシ部とを少なくとも備え、端面研磨工程は、第1の研磨段階と、第2の研磨段階とをこの順に含み、第1の研磨段階では、第1のブラシ部と第2のブラシ部とをガラス基板の端面に接触させてブラシを軸心周りに回転させ、第2の研磨段階では、ガラス基板の端面とブラシの軸心との間の距離が第1の研磨段階よりも長くなった状態で、第2のブラシ部のみをガラス基板の端面に接触させてブラシを軸心周りに回転させることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、端面研磨工程の第1研磨段階では、剛性が相対的に高い第1ブラシ部と、剛性が相対的に低い第2ブラシ部との両方で、ガラス基板の内周端面及び/又は外周端面を研磨するので、研磨代が相対的に大きい端面の加工傷を短時間で除去することができる。次に、端面研磨工程の第2研磨段階では、剛性が相対的に低い第2ブラシ部のみで、ガラス基板の内周端面及び/又は外周端面を研磨するので、ブラシ傷が残らないように端面を高品質に平滑化することができる。しかも、第1研磨段階から第2研磨段階への切替えが、ガラス基板の端面とブラシの軸心との間の距離が長くなることなので、ガラス基板を単一の端面研磨装置にセッティングしたままでよく、ガラス基板を端面研磨装置間で移動させたりブラシを交換する必要がない。その結果、生産性の低下や生産コストの上昇を抑制できる。
【0013】
なお、ガラス基板の端面とブラシの軸心との間の距離が長くなった状態は、例えば、ガラス基板の端面とブラシの軸心との間の距離が長くなるようにガラス基板及び/又はブラシを相対移動させることによって達成することができるが、ガラス基板及び/又はブラシを相対移動させなくても達成することができる。すなわち、第1ブラシ部による研磨が支配的である第1研磨段階での端面研磨が進むにつれて、ガラス基板の端面が徐々に後退し、ガラス基板の端面とブラシの軸心との間の距離が徐々に長くなるからである。そして、ガラス基板の端面と第1ブラシ部との接触量が少なくなり、第1ブラシ部が伸びた状態となって、第2ブラシ部による研磨が支配的となったときに、第1研磨段階から第2研磨段階への切替えが起ったことになる。
【0014】
本発明においては、端面研磨工程では、複数のガラス基板を中心を合わせつつ厚み方向に積み重ねて(束ねて)研磨することが好ましい。複数のガラス基板の端面を一度に研磨することができ、研磨効率が上がり、生産性が向上するからである。
【0015】
本発明においては、端面研磨工程では、砥粒を含む研磨液の槽にガラス基板及びブラシを浸漬して研磨することが好ましい。ガラス基板とブラシとの接触部(研磨部)に研磨液を常に供給することが容易にできるからである。
【0016】
また、本発明においては、端面研磨工程では、砥粒を含む研磨液をガラス基板とブラシとの接触部に供給しつつ研磨することも好ましい。研磨部に常に一定の径の砥粒を供給することができ、バッチ数が増えてもガラス基板の品質が安定するからである。
【0017】
その場合に、端面研磨工程では、端面研磨の進み具合に応じて研磨液に含まれる砥粒の径を小さいものに変更することが好ましい。第2研磨段階で砥粒の径が小さくなるので、端面をより一層高品質に平滑化することができるからである。
【0018】
本発明によれば、ガラス基板の端面は、面取り加工されていることが好ましい。ガラス基板の主面と端面との間の角部の欠け(チッピング)等が抑制されるからである。また、複数のガラス基板を束ねて研磨するときに、第1研磨段階において、剛性が相対的に高い第1ブラシ部で端面研磨を支配的に行いつつ、長さが相対的に長い第2ブラシ部で研磨屑を面取り加工部(チャンファ面)から掻き出すことができるからである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法の端面研磨工程において、ガラス基板の端面研磨装置間の移動やブラシの交換をすることなく、端面の加工傷を短時間で除去し、かつ端面を高品質に平滑化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る磁気記録媒体用ガラス基板の製造工程図である。
【図2】本発明の実施形態に係る磁気記録媒体用ガラス基板の断面斜視図である。
【図3】本発明の実施形態に係る端面研磨工程で用いられ得る端面研磨装置(浸漬型)の概略構成を示す縦断面図である。
【図4】図3に示した端面研磨装置におけるガラス基板及びブラシの回転方向を示す平面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る端面研磨工程の(a)第1研磨段階におけるガラス基板とブラシとの接触部(研磨部)の拡大図、(b)第2研磨段階における研磨部の拡大図である。
【図6】第1ブラシ毛の長さ、第2ブラシ毛の長さ、ガラス基板の内周端面とブラシの軸心との間の距離等の各種寸法関係の説明図である。
【図7】本発明の実施形態で用いられ得るブラシの説明図であって、(a)ブラシ毛が軸心に螺旋状に植毛された螺旋ブラシの側面図、(b)ブラシ毛が軸心に並列状に植毛された羽根ブラシの斜視図、(c)ブラシ毛が軸心に無秩序に植毛された密集ブラシの平面図である。
【図8】本発明の実施形態で用いられ得るブラシのブラシ毛の説明図であって、(a)〜(e)は第1ブラシ毛と第2ブラシ毛とを相互に異なるパターンで備えるブラシ毛の展開図である。
【図9】本発明の実施形態で用いられ得るブラシのブラシ毛の説明図であって、(a)〜(f)は相互に異なる形状のブラシ毛の展開図である。
【図10】本発明の実施形態に係る端面研磨工程で用いられ得る端面研磨装置(シャワー型)の概略構成を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態を説明する。図1は、本実施形態に係る磁気記録媒体用ガラス基板の製造工程図、図2は、本実施形態に係る磁気記録媒体用ガラス基板の断面斜視図である。
【0022】
本実施形態では、磁気記録媒体用ガラス基板10は、ガラス溶融工程(ステップS1)、プレス成形工程(ステップS2)、コアリング工程(ステップS3)、第1ラッピング工程(ステップS4)、端面研削工程(ステップS5)、端面研磨工程(ステップS6)、第2ラッピング工程(ステップS7)、ポリッシング工程(ステップS8)、及び、洗浄工程(ステップS9)を経て製造される。
【0023】
ガラス溶融工程(S1)では、ガラス素材を溶融する。ガラス素材は、二酸化ケイ素(SiO)を主成分とするガラス組成物で構成される。ガラス組成物は、マグネシウム、カルシウム及び/又はセリウムを含んでも含まなくてもよい。代表的なガラス組成物は、例えば、SiO、Al、B、LiO、NaO、KO、MgO、CaO、BaO、SrO、ZnO等を含む。
【0024】
プレス成形工程(S2)では、溶融したガラス素材を金型に流し込んでプレス成形することにより円盤状のガラス基板を作製する。このときのガラス基板の寸法としては、例えば、外径が2.5インチ、1.8インチ、1.0インチ、0.8インチ等、厚みが、2mm、1mm、0.63mm等である。
【0025】
コアリング工程(S3)では、得られたガラス基板の中心に例えばダイヤモンドコアドリルを用いて円孔を形成する。第1ラッピング工程(S4)では、得られた環状のガラス基板10の主面(記録面)11,12を研削加工してガラス基板10の厚みや平行度及び平坦度等を予備調整する。第1ラッピング工程の研削加工には、例えばダイヤモンドペレットが貼り付けられた研削板を備える両面研削装置が用いられる。
【0026】
端面研削工程(S5)では、ガラス基板10の内周端面13及び外周端面14を研削加工してガラス基板10の外径寸法や真円度等を微調整する。端面研削工程では、また、ガラス基板10の内周端面13及び外周端面14を例えばダイヤモンド砥石を用いて面取り加工し、チャンファ面16を形成する。内周端面13及び外周端面14において、チャンファ面16,16に挟まれた部分を側壁面15と呼ぶ。
【0027】
端面研磨工程(S6)では、ガラス基板10の内周端面13及び外周端面14を研磨して平滑化する。後述するように、端面研磨工程では、図3に示す端面研磨装置20が用いられ、第1研磨段階と第2研磨段階とが行われる。
【0028】
第2ラッピング工程(S7)では、ガラス基板10の主面11,12を再び研削加工してガラス基板10の厚みや平行度及び平坦度等を微調整する。第2ラッピング工程の研削加工には、例えばダイヤモンドペレットが貼り付けられた研削板を備える両面研削装置が用いられる。ポリッシング工程(S8)では、ガラス基板10の主面11,12を研磨して平滑化する。ポリッシング工程の研磨には、例えば研磨パッドとしてスウェードパッドが貼り付けられた上下一対の定盤を備える両面研磨装置が用いられる。
【0029】
洗浄工程(S9)では、ガラス基板10に付着している異物を、例えば、フィルタリングした純水、イオン交換水、超純水、酸性洗剤、中性洗剤、アルカリ性洗剤、有機溶剤、界面活性剤を含んだ各種洗浄剤等を用いて、洗浄し、除去する。
【0030】
この他に、ガラス基板10の表面を強化する化学強化工程や、ガラス基板10の厚みや平坦度等を検査する検査工程等を行ってもよい。そして、これらの工程を経て製造されたガラス基板10は、最終的に主面11,12に磁気層が形成されて、ハードディスク(HD)等の磁気記録媒体とされる。
【0031】
以下、本実施形態の特徴部分である端面研磨工程(S6)を詳しく説明する。図3は、本実施形態に係る端面研磨工程で用いられ得る端面研磨装置(浸漬型)の概略構成を示す縦断面図、図4は、前記端面研磨装置におけるガラス基板及びブラシの回転方向を示す平面図、図5(a)は、本実施形態に係る端面研磨工程の第1研磨段階におけるガラス基板とブラシとの接触部(研磨部)の拡大図、図5(b)は、同じく第2研磨段階における研磨部の拡大図である。
【0032】
図3に示すように、浸漬型の端面研磨装置20は、研磨液槽21を有し、この研磨液槽21の中に、砥粒(遊離砥粒:図示せず)を含む研磨液22が溜められている。そして、この研磨液22の中に、ガラス基板10が浸漬されている。ガラス基板10は、複数のガラス基板10…10を中心を合わせつつ厚み方向に積み重ねたガラス基板10の束として浸漬されている。ガラス基板10の束は治具23で保持され、円孔を中心に回転自在に端面研磨装置20にセッティングされている。
【0033】
研磨液22の中に、さらに、複数(図例では3つ)のブラシ31,32,33が浸漬されている。各ブラシ31,32,33は、回転自在の軸心31a,32a,33aと、軸心の周囲に配置されたブラシ部31b,32b,33bとを有している。そして、ブラシ31は、ガラス基板10の束の円孔の中に配置され、ブラシ32,33は、ガラス基板10の束の外周端面14の側方に配置されている。各ブラシ31,32,33は、駆動モータ31m,32m,33mにより回転される。
【0034】
図4に示すように、ガラス基板10は矢印a方向に回転され、ブラシ31は矢印b方向に回転され、ブラシ32は矢印c方向に回転され、ブラシ33は矢印d方向に回転される。この結果、ガラス基板10とブラシ31,32,33とが接触したときには、その接触部(研磨部)では、ガラス基板10の回転方向とブラシ31,32,33の回転方向とは相互に逆向きになる。
【0035】
なお、本実施形態では、低回転で研磨効率を上げるために、ガラス基板10の回転方向とブラシ31〜33の回転方向とは相互に逆向きとしたが、ブラシ31,32,33の先端とガラス基板10の端面13,14との間に研磨に十分な速度差が生じるのであれば、同じ向きでも構わない。例えば、ガラス基板10の周速度に比べてブラシ31,32,33の周速度が十分研磨が行える程度に大きい場合や、その逆に、ブラシ31,32,33の周速度に比べてガラス基板10の周速度が十分研磨が行える程度に大きい場合等が該当する。
【0036】
本実施形態では、ブラシ31,32,33は軸心31a,32a,33aを中心に回転自在であると共に、図3において、図外の駆動機構により、横方向(水平方向)及び縦方向(上下方向)に移動自在に構成されている。そして、ブラシ31,32,33が横方向に移動されて、ブラシ31,32,33がガラス基板10と接触したときには、その接触部において、ガラス基板10の内周端面13及び外周端面14がブラシ31,32,33によって研磨されることになる。
【0037】
本実施形態では、研磨液22は遊離砥粒を含むスラリーである。砥粒としては、特に限定されず、従来一般にガラス研磨の分野で採用されているものを用いることができる。例えば、酸化セリウム、炭化ケイ素、シリカ、ジルコニア、アルミナ等が好ましく用いられ得る。これらの中では、コストや得られる平滑度等の観点から、酸化セリウムがより好ましい。砥粒の粒径は、得られる平滑度等の観点から、平均粒子径が1〜3μm程度のものが好ましく、0.9〜1.3μm程度のものがより好ましい。
【0038】
本実施形態では、図5(図例はブラシとしてブラシ31を例示するが他のブラシ32,33でも同様/図例はガラス基板10の端面として内周端面13を例示するが外周端面14でも同様)に示すように、ブラシ31のブラシ部31bは、ブラシ毛で構成されている。ブラシ毛31bの素材は、特に限定されないが、例えば、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリカーボネート等が好ましく用いられ得る。ブラシ毛31bをこのような合成樹脂で作製することによって、ブラシ毛31bの中に、研磨液22で使用される砥粒と同様の砥粒を含ませておくことができる。
【0039】
図5に示すように、ブラシ毛31bは、ブラシ31の軸心31aからブラシ毛の先端までの長さが相対的に短い第1ブラシ毛(第1ブラシ部)31cと、ブラシ31の軸心31aからブラシ毛の先端までの長さが相対的に長い第2ブラシ毛(第2ブラシ部)31dとを備えている。そして、第1ブラシ毛31cは剛性が相対的に高く、第2ブラシ毛31dは剛性が相対的に低くされている。
【0040】
端面研磨工程では、第1研磨段階と第2研磨段階とがこの順に行われる。第1研磨段階では、図5(a)に示すように、ガラス基板10の端面13とブラシ31の軸心31aとの間の距離を相対的に短くした状態で、第1ブラシ毛31cと第2ブラシ毛31dとをガラス基板10の端面13に接触させてブラシ31を軸心31a周りに回転させる。これにより、剛性が相対的に高い第1ブラシ毛31cと、剛性が相対的に低い第2ブラシ毛31dとの両方で、ガラス基板10の端面13が研磨されるので(第1ブラシ毛31cによる研磨が支配的である)、研磨代が相対的に大きい端面13の加工傷を短時間で除去することができる。
【0041】
次に、第2研磨段階では、図5(b)に示すように、ガラス基板10の端面13とブラシ31の軸心31aとの間の距離を相対的に長くした状態で、第2ブラシ毛31dのみをガラス基板10の端面13に接触させてブラシ31を軸心31a周りに回転させる。これにより、剛性が相対的に低い第2ブラシ毛31dのみで、ガラス基板10の端面13が研磨されるので、ブラシ傷が残らないように端面13を高品質に平滑化することができる。
【0042】
なお、ガラス基板10の端面13とブラシ31の軸心31aとの間の距離を相対的に短くした状態あるいは長くした状態は、ブラシ31及び/又はガラス基板10を横方向(水平方向)に移動してブラシ31とガラス基板10との横方向(水平方向)の相対位置を調整することにより達成される。もっとも、第1ブラシ毛31cによる研磨が支配的である第1研磨段階での端面研磨が進むにつれて、ガラス基板10の端面13が徐々に後退し、ガラス基板10の端面13とブラシ31の軸心31aとの間の距離が徐々に長くなるから、ブラシ31及び/又はガラス基板10を横方向(水平方向)に相対移動させなくても、第1研磨段階から第2研磨段階への切替えが自動的に達成されることになる。すなわち、第1研磨段階での端面研磨が進み、ガラス基板10の端面13と第1ブラシ毛31cとの接触量が少なくなり、第1ブラシ毛31cが伸びた状態となって、第2ブラシ毛31dによる研磨が支配的となったときに、第1研磨段階から第2研磨段階への切替えが起ったことになる。
【0043】
なお、図5は、ガラス基板10の端面13の側壁面15と第1ブラシ毛31cとが対応し、チャンファ面16と第2ブラシ毛31dとが対応するように示されているが、これに限らず、例えば、図5(a)において、側壁面15にも第2ブラシ毛31dが接触し、チャンファ面16にも第1ブラシ毛31cが接触してもよいし、図5(b)において、側壁面15にも第2ブラシ毛31dが接触してもよい。
【0044】
図4を再び参照する。例えばブラシ32が図面上左へ移動すると、ブラシ32はガラス基板10の外周端面14に接触する。ガラス基板10がa方向に回転し、ブラシ32がc方向に回転しているので、ブラシ32とガラス基板10とが1点で接触していても、ガラス基板10の外周端面14は全周に亘って研磨される。他のブラシ31,33についても同様である。さらに、ガラス基板10の円孔の中に配置されたブラシ31については、ブラシ31の径、すなわち、図6を参照すると、長さが相対的に短い第1ブラシ毛31c及び長さが相対的に長い第2ブラシ毛31dを含むブラシ毛31b全体の外径(R2)が、ガラス基板10の内径(r)、すなわち、円孔の径よりも小さいことが好ましい(図6における「(i)R2<rが好ましく」参照)。これにより、端面研磨工程において、第1研磨段階であれ、第2研磨段階であれ、ブラシ31を円孔の中心からいずれかの側に偏倚させたときに、ブラシ31とガラス基板10とが1点でのみ接触することが確保されるからである。もっとも、同じく図6を参照すると、状況に応じて、ブラシ毛31bのうち、第1ブラシ毛31cの外径(R1)は円孔の径(r)よりも小さいが、第2ブラシ毛31dの外径(R2)が円孔の径(r)と同じかそれよりも大きくても構わない場合がある(図6における「(ii)R1<r,R2≧rでもよい」参照)。これによれば、端面研磨工程において、ブラシ31を円孔の中心に戻したときでも、ブラシ31の第2ブラシ毛31dとガラス基板10の内周端面13とが全周に亘って接触し、第2研磨段階が行われることになる。そして、ブラシ31を円孔の中心からいずれかの側に偏倚させたときに、第1ブラシ毛31cが内周端面13と1点で接触し、第1研磨段階が行われることになる。
【0045】
図6において、第1ブラシ毛31cの長さ(ブラシ31の軸心31aから第1ブラシ毛31cの先端までの長さ)H1は、軸心31aの直径をRとすると、「(R1−R)/2」で表される。同様に、第2ブラシ毛31dの長さ(ブラシ31の軸心31aから第2ブラシ毛31dの先端までの長さ)H2は、軸心31aの直径をRとすると、「(R2−R)/2」で表される。図6において、符号xは、ガラス基板10の内周端面13とブラシ31の軸心31aとの間の距離を表し、符号yは、ブラシ31を円孔内でいずれかの側に偏倚させたときの接触部(研磨部)におけるブラシ毛31bのオーバーラップ量を表し(図例は第2ブラシ毛31dのみがオーバーラップしている場合(第2研磨段階)を示しているが、第1研磨段階では第1ブラシ毛31c及び第2ブラシ毛31dの両方がオーバーラップする。)、ここで「x+y=H2」の関係がある。
【0046】
本実施形態では、第1研磨段階から第2研磨段階への切替えが、ガラス基板10の内周端面13及び外周端面14とブラシ31,32,33の軸心31a,32a,33aとの間の距離が長くなることなので、ガラス基板10を単一の端面研磨装置20にセッティングしたままでよく、ガラス基板10を端面研磨装置間で移動させたりブラシを交換する必要がない。その結果、作業数が多くなることによる生産性の低下や、収率が低下することによる生産コストの上昇を抑制できる。
【0047】
本実施形態では、端面研磨工程において、複数のガラス基板10…10を中心を合わせつつ厚み方向に積み重ねて(束ねて)研磨するので、複数のガラス基板10…10の内周端面13…13及び外周端面14…14を一度に研磨することができ、研磨効率が上がり、生産性が向上する。
【0048】
本実施形態では、端面研磨工程において、浸漬型の端面研磨装置20を用い、砥粒(遊離砥粒)を含む研磨液22の槽21にガラス基板10及びブラシ31,32,33を浸漬して研磨するので、ガラス基板10とブラシ31,32,33との接触部(研磨部)に研磨液22を常に供給することが容易にできる。
【0049】
本実施形態では、ガラス基板10の内周端面13及び外周端面14は、面取り加工されてチャンファ面16が形成されているので、ガラス基板10の主面11,12と端面13,14との間の角部の欠け(チッピング)等が抑制される。また、端面研磨工程において、複数のガラス基板10…10を束ねて研磨するときに、第1研磨段階において、剛性が相対的に高い第1ブラシ毛で端面研磨を支配的に行いつつ、長さが相対的に長い第2ブラシ毛で研磨屑を面取り加工部(チャンファ面16)から掻き出すことができる(図5(a)参照)。
【0050】
なお、ガラス基板10の端面13,14にチャンファ面16が形成されている場合に、端面研磨工程の第1研磨段階において、第1ブラシ毛及び第2ブラシ毛の両方が側壁面15及びチャンファ面16の両方に接触してもよく、第1ブラシ毛が側壁面15にのみ接触しつつ第2ブラシ毛が側壁面15及びチャンファ面16の両方に接触してもよく、第1ブラシ毛及び第2ブラシ毛の両方が側壁面15にのみ接触してもよい。また、端面研磨工程の第2研磨段階において、第2ブラシ毛が側壁面15及びチャンファ面16の両方に接触してもよく、第2ブラシ毛が側壁面15にのみ接触してもよい。
【0051】
端面研磨工程において、複数のガラス基板10…10を束ねて研磨するときに、各ガラス基板10の端面13,14の品質の均一化を図る観点から、端面13,14に接触して回転しているブラシ31,32,33を縦方向(上下方向)に往復移動させることが好ましい。
【0052】
本実施形態では、端面研磨工程において、ガラス基板10の内周端面13と外周端面14とを複数のブラシを用いて同時に研磨するようにしたが、これに限らず、内周端面13と外周端面14とを別々に研磨してもよい。また、ブラシの数も限定されない。
【0053】
本実施形態では、端面研磨工程において、第1研磨段階と第2研磨段階とを行うようにしたが、これに限らず、第2研磨段階の後に、第3研磨段階、第4研磨段階、…を行ってもよい。つまり、端面13,14の加工傷を除去するための研磨、及び/又は、端面13,14を平滑化するための研磨を複数の段階に分けて行ってもよい。例えば、第1ブラシ毛と第2ブラシ毛との両方を使ってガラス基板10の端面13,14を研磨する場合に(加工傷を除去するための研磨)、ブラシの回転速度、端面13,14とブラシの軸心との間の距離、研磨液22の砥粒の粒径等を変化させることにより、異なる研磨条件で段階的に研磨してもよく、同様に、第2ブラシ毛のみを使ってガラス基板10の端面13,14を研磨する場合に(端面を平滑化するための研磨)、ブラシの回転速度、端面13,14とブラシの軸心との間の距離、研磨液22の砥粒の粒径等を変化させることにより、異なる研磨条件で段階的に研磨してもよい。また、これに合わせて、ブラシの方も、第1ブラシ毛及び第2ブラシ毛と長さや剛性が異なる第3ブラシ毛、第4ブラシ毛、…をさらに備えてもよい。
【0054】
本実施形態では、ブラシ毛の中に砥粒を含ませておく場合、長さが相対的に長いブラシ毛ほど粒径のより小さい砥粒を含ませておくことが、端面をより一層高品質に平滑化することができるので好ましい。
【0055】
本実施形態では、端面研磨工程における研磨代(第1研磨段階及び第2研磨段階を通しての総研磨量)は、例えば30〜60μm程度である。
【0056】
次に、図7、図8を参照して、本実施形態で用いられ得るブラシの具体的態様を説明する。なお、図7、図8は、ブラシとしてブラシ31を例示するが他のブラシ32,33でも同様である。
【0057】
本実施形態で用いられ得るブラシとしては、図7(a)に例示するように、ブラシ毛31bが軸心31aに螺旋状に植毛された螺旋ブラシでもよいし、図7(b)に例示するように、ブラシ毛31bが軸心31aに並列状に植毛された羽根ブラシでもよいし、図7(c)に例示するように、ブラシ毛31bが軸心31aに無秩序に植毛された密集ブラシでもよい。また、軸心31aへのブラシ毛31bの固定方法は、植毛式に限るものではなく、その他の方法、例えば、チャネル式、ねじり式、あるいはこれらの組み合わせ等、ブラシ毛を軸心に固定するために従来一般に用いられる方法を限定なく採用することができる。
【0058】
図7(a)に例示した螺旋ブラシにおいては、ブラシ毛31bの螺旋は2条であるが、1条でもよく、3条以上でもよい。条間のピッチも特に限定されないが、複数のガラス基板10…10を束ねて研磨するときに、各ガラス基板10の端面13,14の品質の均一化を図る観点から、ブラシの軸方向に連続して同じピッチであることが好ましい。
【0059】
ブラシ毛31bの螺旋が1条の場合は、その1条の中に第1ブラシ毛及び第2ブラシ毛が混在しなければならない。ブラシ毛31bの螺旋が2条以上の場合は、第1ブラシ毛のみを含む条と、第2ブラシ毛のみを含む条とに分けることができる。もちろん、ブラシ毛31bの螺旋が2条以上の場合においても、第1ブラシ毛及び第2ブラシ毛が混在した条を用いることができる。これらの場合においても、複数のガラス基板10…10を束ねて研磨するときに、各ガラス基板10の端面13,14の品質の均一化を図る観点から、第1ブラシ毛と第2ブラシ毛との比率(比率それ自体は問題ではない)は、ブラシの軸方向に連続して同じ比率であることが好ましい。第1ブラシ毛及び第2ブラシ毛が混在した条の具体例は図8を参照して後述する。
【0060】
図7(b)に例示した羽根ブラシにおいては、ブラシ毛31bの列は4列であるが、これに限定されない。状況に応じて1列でもよいが、通常は2列以上が好ましい。また、ブラシ毛31bの列は等間隔(等角度)で軸心31aに割り付けられているが(対称)、相互に異なる間隔(角度)で割り付けられてもよい(非対称)。対称の場合は、ブラシの製造が容易となる。非対称の場合は、ブラシ毛31bがガラス基板10の端面13,14に一定周期で当接を繰り返すことに起因して発生する共振振動の防止が図られる。また、図7(b)においては、ブラシ毛31bは軸心31aに垂直に(法線方向に)植毛されているが、ブラシ毛31bの先端がブラシの回転方向の下流側に傾斜して植毛されてもよい。ただし、ブラシが正・逆の両方向に回転される場合は、ブラシ毛31bは軸心31aに垂直に植毛されることが好ましい。
【0061】
ブラシ毛31bの列が1列の場合は、その1列の中に第1ブラシ毛及び第2ブラシ毛が混在しなければならない。ブラシ毛31bの列が2列以上の場合は、第1ブラシ毛のみを含む列と、第2ブラシ毛のみを含む列とに分けることができる。もちろん、ブラシ毛31bの列が2列以上の場合においても、第1ブラシ毛及び第2ブラシ毛が混在した列を用いることができる。これらの場合においても、複数のガラス基板10…10を束ねて研磨するときに、各ガラス基板10の端面13,14の品質の均一化を図る観点から、第1ブラシ毛と第2ブラシ毛との比率(比率それ自体は問題ではない)は、ブラシの軸方向に連続して同じ比率であることが好ましい。第1ブラシ毛及び第2ブラシ毛が混在した列の具体例は図8を参照して後述する。
【0062】
図7(c)に例示した密集ブラシにおいては、ブラシ毛31bの密度は特に限定されないが、複数のガラス基板10…10を束ねて研磨するときに、各ガラス基板10の端面13,14の品質の均一化を図る観点から、ブラシの軸方向に連続して同じ密度であることが好ましい。
【0063】
図8(a)〜(e)は、本実施形態で用いられ得るブラシのブラシ毛の展開図である。より詳しくは、第1ブラシ毛と第2ブラシ毛とが相互に異なるパターンで混在するブラシ毛の展開図である。例えば、図8(a)〜(e)に示す各ブラシ毛31bを条として軸心31aに螺旋状に巻き付けることにより、図7(a)に例示した螺旋ブラシが得られる。また、図8(a)〜(e)に示す各ブラシ毛31bを列として軸心31aに並列状に取り付けることにより、図7(b)に例示した羽根ブラシが得られる。
【0064】
図8(a)は、第1ブラシ毛31cと第2ブラシ毛31dとが1本おきに交互に1:1の比率で配置されている例である。図8(b)は、第1ブラシ毛31cと第2ブラシ毛31dとが複数本(図例では2本)おきに交互に1:1の比率で配置されている例である。図8(c)は、第1ブラシ毛31cと第2ブラシ毛31dとが規則的に1:2の比率で配置されている例である。図8(d)は、第1ブラシ毛31cと第2ブラシ毛31dとが不規則に配置されている例である(第1ブラシ毛と第2ブラシ毛との比率は問わない)。図8(e)は、1本の毛が軸心31a側の第1ブラシ毛31cと反軸心31a側の第2ブラシ毛31dとで構成されている例である。図7(a)に例示した螺旋ブラシ又は図7(b)に例示した羽根ブラシを製造するときは、これらのブラシ毛31bの1つ又は2つ以上を組み合わせて使用してもよく、さらに、第1ブラシ毛のみを含むブラシ毛及び/又は第2ブラシ毛のみを含むブラシ毛を組み合わせて使用してもよい。
【0065】
本実施形態では、第2ブラシ毛31dが第1ブラシ毛31cよりも長いことを条件に、第1ブラシ毛31cの長さは例えば3〜7mm程度、第2ブラシ毛31dの長さは例えば5〜9mm程度である。第1ブラシ毛31cと第2ブラシ毛31dとの長さの比率は特に限定されないが、2:3(例えば第1ブラシ毛31cが4mm:第2ブラシ毛31dが6mm)程度が好ましい。図8(e)の場合は、太い部分の長さが例えば3〜7mm程度、全体の長さが例えば5〜9mm程度が好ましい。
【0066】
本実施形態では、第1ブラシ毛31cが第2ブラシ毛31dよりも剛性が高くされている。そのためには、例えば、第1ブラシ毛31cと第2ブラシ毛31dとを同じ素材で作製し、図5、図8に示したように、第1ブラシ毛31cを第2ブラシ毛31dよりも径を太くすればよい。例えば、第1ブラシ毛31cが第2ブラシ毛31dよりも径が太いことを条件に、第1ブラシ毛31cの太さ(径)は例えば0.3〜0.7mm程度、第2ブラシ毛31dの太さ(径)は例えば0.1〜0.5mm程度である。あるいは、第1ブラシ毛31cを第2ブラシ毛31dよりも剛性が高い素材で作製すればよい。例えば、第1ブラシ毛31cを第2ブラシ毛31dよりも剛性が高い樹脂で作製してもよく、第1ブラシ毛31cの表面をコーティング処理して剛性を高めてもよく、第1ブラシ毛31cに弾性に富む金属の芯材を埋め込んでもよく、これらを組み合わせてもよい。
【0067】
図9を参照してさらに説明する。図5、図8に示したブラシ毛31bは、第1ブラシ毛31cであれ、第2ブラシ毛31dであれ、ブラシ毛の先端の形状を平坦形状としたが、これに限るものではなく、例えば、図9(a)に示すように、角形状でもよく、図9(b)に示すように、円弧形状でもよい。また、図9(c)に示すように、先端が本体部分よりも膨出した形状でもよい(基部や中間部が膨出形状でもよい)。さらに、図5、図8に示したブラシ毛31bは、第1ブラシ毛31cであれ、第2ブラシ毛31dであれ、ブラシ毛の太さを基部から先端まで一定としたが、これに限るものではなく、例えば、図9(d)に示すように、基部が先端よりも太くてもよく、図9(e)に示すように、先端が基部よりも太くてもよい(中間部が先端や基部よりも太くてもよい)。さらに、図5、図8に示したブラシ毛31bは、第1ブラシ毛31cであれ、第2ブラシ毛31dであれ、ブラシ毛の形状を直毛形状としたが、これに限るものではなく、例えば、図9(f)に示すように、波形状等、従来一般に用いられる他の形状とすることもできる。そして、これらの各形状を状況に応じて種々組み合わせて用いても構わない。
【0068】
本実施形態では、端面研磨工程において、図3に示した浸漬型の端面研磨装置20を用いたが、これに代えて、図10に示すようなシャワー型の端面研磨装置50を用いてもよい。この端面研磨装置50では、研磨液噴出ノズル51から砥粒(遊離砥粒)を含む研磨液がガラス基板10とブラシ31,32,33との接触部(研磨部)に供給されつつ(矢印参照)、端面13,14が研磨される。これによれば、研磨部に常に一定の径の砥粒を供給することができ、バッチ数が増えてもガラス基板10の品質が安定するという利点がある。
【0069】
シャワー型の端面研磨装置50を用いる場合、端面研磨の進み具合に応じて研磨液に含まれる砥粒の径を小さいものに変更することが好ましい。第2研磨段階で砥粒の径が小さくなるので、端面をより一層高品質に平滑化することができるからである。
【0070】
研磨液に含まれる砥粒の径を途中で変更する場合、図7(b)に示した羽根ブラシは、前に使用された研磨液がブラシ及び研磨部に残り難い構造なので好ましい。また、図7(a)に示した螺旋ブラシも、スクリューフィーダーの要領で前に使用された研磨液がブラシから排出されるから、前に使用された研磨液がブラシ及び研磨部に残り難く、好ましく用いられ得る。
【0071】
なお、使用後の研磨液は回収されて再調製された後、循環使用される。
【実施例】
【0072】
以下、実施例を通して、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例により限定されるものではない。
【0073】
(ガラス基板の作製)
図1に示した製造工程に従い、従来一般に使用されるアルミノシリケートガラスの素材を用いて、ガラス溶融工程(S1)、プレス成形工程(S2)、コアリング工程(S3)、第1ラッピング工程(S4)及び端面研削工程(S5)を行い、外径が約65mm(2.5インチ)、内径(円孔の径)が約20mmの環状のアルミノシリケートガラス基板を作製した。チャンファ面は形成しなかった。
【0074】
(端面研磨工程の実行)
図10に示したようなシャワー型の端面研磨装置を用い、得られたガラス基板の端面研磨を行った。すなわち、ガラス基板を100枚束ねて端面研磨装置にセッティングし、ガラス基板の束の円孔の中にブラシを配置し、回転するブラシをガラス基板の内周端面に接触させて内周端面の研磨を行った。研磨量は40μmとした。この端面研磨工程中、酸化セリウムを含有する研磨液をガラス基板とブラシとの接触部(研磨部)に連続供給した。
【0075】
(実施例)
実施例は、ブラシとして、図7(a)に示したような螺旋ブラシ(ただし螺旋は1条)を用いた。また、ブラシ毛として、図8(a)に示したような、第1ブラシ毛と第2ブラシ毛とが1本おきに交互に1:1の比率で配置されたブラシ毛を用いた。ブラシ毛はナイロン製で、第1ブラシ毛の長さは4mm及び太さ(径)は0.5mm、第2ブラシ毛の長さは6mm及び太さ(径)は0.1mmであった。そして、ガラス基板の内周端面とブラシの軸心との間の距離を2mmとして第1研磨段階を行い、その後、ガラス基板の内周端面とブラシの軸心との間の距離を5mmとして第2研磨段階を行った。評価として、研磨量が40μmとなるまでに要した研磨時間を計測した。また、研磨後の内周端面の表面粗さ(Ra)を表面粗さ測定機を用いて測定した(測定条件:AFMにて1μmの範囲を任意で10点測定し平均化した値(算術的平均粗さRa)を表面粗さとした)。その結果、研磨時間は35分(第1研磨段階25分、第2研磨段階10分)、表面粗さ(Ra)は0.4nm(100枚のうち10枚をランダムに抜き出して測定した平均値)であった。このことから、実施例は、ガラス基板の端面研磨装置間の移動やブラシの交換をすることなく、端面の加工傷が短時間で除去され、かつ端面が高品質に平滑化されたことが分かった。本実施例ではアルミノシリケートガラスを用いたが、例えばボロシリケートガラス等、その他の従来一般に使用されるガラスを用いても同様の結果が期待される。
【0076】
(比較例1)
比較例1もまた、ブラシとして、図7(a)に示したような螺旋ブラシ(ただし螺旋は1条)を用いた。ただし、ブラシ毛として、長さが6mm及び太さ(径)が0.1mmのナイロン製のブラシ毛のみを用いた。そして、ガラス基板の内周端面とブラシの軸心との間の距離を5mmとして端面研磨を行い、実施例と同様の評価を行ったところ、研磨時間は130分、表面粗さ(Ra)は0.4nm(100枚のうち10枚をランダムに抜き出して測定した平均値)であった。このことから、比較例1は、研磨速度が低くなり、生産性が低下したことが分かった。
【0077】
(比較例2)
比較例2もまた、ブラシとして、図7(a)に示したような螺旋ブラシ(ただし螺旋は1条)を用いた。ただし、ブラシ毛として、長さが4mm及び太さ(径)が0.5mmのナイロン製のブラシ毛のみを用いた。そして、ガラス基板の内周端面とブラシの軸心との間の距離を2mmとして端面研磨を行い、実施例と同様の評価を行ったところ、研磨時間は25分、表面粗さ(Ra)は1.8nm(100枚のうち10枚をランダムに抜き出して測定した平均値)であった。このことから、比較例2は、端面にブラシ傷が残り、端面の平滑化が困難であったことが分かった。
【符号の説明】
【0078】
10 磁気記録媒体用ガラス基板
11,12 主面(記録面)
13 内周端面
14 外周端面
15 側壁面
16 チャンファ面
20 浸漬型端面研磨装置
21 研磨液槽
22 研磨液
31,32,33 ブラシ
31a,32a,33a 軸心
31b,32b,33b ブラシ部(ブラシ毛)
31c 第1ブラシ部(第1ブラシ毛)
31d 第2ブラシ部(第2ブラシ毛)
50 シャワー型端面研磨装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板の内周端面及び/又は外周端面をブラシを用いて研磨する端面研磨工程を含む磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法であって、
ブラシは、回転自在の軸心と、軸心の周囲に配置されたブラシ部とを有し、
ブラシ部は、剛性が相対的に高く、軸心からブラシ部の先端までの長さが相対的に短い第1のブラシ部と、剛性が相対的に低く、軸心からブラシ部の先端までの長さが相対的に長い第2のブラシ部とを少なくとも備え、
端面研磨工程は、第1の研磨段階と、第2の研磨段階とをこの順に含み、
第1の研磨段階では、第1のブラシ部と第2のブラシ部とをガラス基板の端面に接触させてブラシを軸心周りに回転させ、
第2の研磨段階では、ガラス基板の端面とブラシの軸心との間の距離が第1の研磨段階よりも長くなった状態で、第2のブラシ部のみをガラス基板の端面に接触させてブラシを軸心周りに回転させることを特徴とする磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
端面研磨工程では、複数のガラス基板を中心を合わせつつ厚み方向に積み重ねて研磨することを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項3】
端面研磨工程では、砥粒を含む研磨液の槽にガラス基板及びブラシを浸漬して研磨することを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項4】
端面研磨工程では、砥粒を含む研磨液をガラス基板とブラシとの接触部に供給しつつ研磨することを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項5】
端面研磨工程では、端面研磨の進み具合に応じて研磨液に含まれる砥粒の径を小さいものに変更することを特徴とする請求項4に記載の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項6】
ガラス基板の端面は、面取り加工されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−142051(P2012−142051A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293774(P2010−293774)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】