説明

磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法

【課題】研磨パッドの硬度を調整することなく、1次研磨工程でガラス基板の端部形状を隆起状態に仕上げること。
【解決手段】ガラス基板の表面を粗研磨する1次研磨工程と、ガラス基板の表面を精密研磨する2次研磨工程とを含み、1次研磨工程では、ガラス基板を外周端部が中央部よりも隆起した状態に仕上げ、2次研磨工程では、ガラス基板の前記隆起状態をなくすように研磨する磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法であって、1次研磨工程では、研磨中にガラス基板の外周端部を研磨パッド24と一時的に非接触状態とすることにより、ガラス基板の前記隆起状態を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハードディスク等の磁気記録媒体に格納される情報の高密度化に伴い、ヘッドの浮上高さが益々小さくなっており、数百nmの付着物でもヘッドクラッシュやサーマルアスペリティを引き起こすほどである。特に、DFH(Dynamic Flying Height)機構を搭載したヘッドの場合、ヘッドの浮上高さが数nmにまで微小なものとなり、磁気記録媒体の表面平滑性が強く求められる。そのため、磁気記録媒体用ガラス基板に求められる表面粗さ(Ra)は1Å以下のレベルにまでなっている。
【0003】
一般に、磁気記録媒体用ガラス基板は、円盤加工工程、ラップ工程、研磨工程、化学強化工程、最終洗浄工程、検査工程等を経て製造される。ここで、研磨工程は、ガラス基板の表裏両面を粗研磨する1次研磨(粗研磨)工程と、1次研磨工程に続いてガラス基板の表裏両面を精密研磨する2次研磨(精密研磨)工程とを含む。そして、ガラス基板は、2次研磨工程後は、外周端部まで平坦であることが望まれる。それにより、磁気記録媒体の表面平滑性が確保され、また、主面の有効面積が増大して磁気記録媒体の記録容量が増大するからである。
【0004】
しかしながら、2次研磨工程で用いられる研磨パッドは柔軟性の高いスウェードパッドであることが多く、そのため、2次研磨工程中はガラス基板が研磨パッドに沈み込む状態となり、どうしてもガラス基板の外周端部の角部が研磨パッドとの摩擦により取れてしまう傾向がある。そのため、図6(a)に例示するように、1次研磨工程でガラス基板50を主面51が外周端部まで平坦であるように仕上げると、図6(b)に例示するように、2次研磨工程後にはガラス基板50は外周端部の角部が取れて外周端部が中央部よりも垂れ下がった「ダレ」の状態となる(矢印X参照)。この状態は、主面51の有効面積が減少し、磁気記録媒体の記録容量が低下するので好ましくない。
【0005】
そこで、図7(a)に例示するように、1次研磨工程でガラス基板50を外周端部が中央部よりも隆起した「反り」の状態(符号51a参照)となるように仕上げることが考えられる。そうすると、図7(b)に例示するように、2次研磨工程後には前記「反り」51aが研磨パッドとの摩擦で取れて主面51が外周端部まで平坦な状態が得られる(矢印Y参照)。そして、特許文献1には、前記のような隆起状態を形成するために、研磨パッドの硬度を調整することが開示されている。しかし、研磨パッドの硬度は、本来、例えばガラス基板に最終的に求められる表面粗さ等が得られるように選択されるものであり、それをガラス基板の端部形状のために調整したのでは、ガラス基板の表面品質、ひいては磁気記録媒体の表面平滑性に影響が及んでしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−103061号公報(要約、段落0012、0015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、研磨パッドの硬度を調整することなく、1次研磨工程でガラス基板の端部形状を隆起状態に仕上げることができる磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、ガラス基板の表面を粗研磨する1次研磨工程と、ガラス基板の表面を精密研磨する2次研磨工程とを含み、1次研磨工程では、ガラス基板を外周端部が中央部よりも隆起した状態に仕上げ、2次研磨工程では、ガラス基板の前記隆起状態をなくすように研磨する磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法であって、1次研磨工程では、研磨中にガラス基板の外周端部を研磨パッドと一時的に非接触状態とすることにより、ガラス基板の前記隆起状態を形成することを特徴とする磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法である。
【0009】
この構成によれば、1次研磨工程では、研磨中にガラス基板の外周端部を研磨パッドと一時的に非接触状態とするので、ガラス基板の外周端部は中央部よりも研磨パッドによる研磨量が少なくなり、ガラス基板の外周端部は中央部よりも隆起した「反り」の状態となる。そのため、研磨パッドの硬度を調整することなく、1次研磨工程でガラス基板の端部形状を隆起状態に仕上げることができる。その結果、研磨パッドの選択の自由度が制限されず、ガラス基板の端部形状を隆起状態に仕上げるためにガラス基板の表面品質が影響を受けることがなく、良好なガラス基板の表面品質、ひいては磁気記録媒体の表面平滑性が保証される。
【0010】
本発明においては、研磨パッドの周縁部からガラス基板の外周端部を研磨パッド外に突出させることにより、ガラス基板の外周端部を研磨パッドと非接触状態とすることが好ましい。簡単な動作で前記非接触状態を研磨中に確実に実現することができるからである。
【0011】
本発明においては、研磨パッドのパッド面に凹部を形成し、この凹部にガラス基板の外周端部を突出させることにより、ガラス基板の外周端部を研磨パッドと非接触状態とすることが好ましい。簡単な動作で前記非接触状態を研磨中に確実に実現することができるからである。
【0012】
本発明においては、2次研磨工程後のガラス基板の表面粗さ(Ra)が1Å以下であることが好ましい。例えばDFH機構を搭載したヘッドにも対応し得る程度に良好な磁気記録媒体の表面平滑性が得られるからである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、研磨パッドの硬度を調整することなく、1次研磨工程でガラス基板の端部形状を隆起状態に仕上げることができる。そのため、2次研磨工程後には主面が外周端部まで平坦なガラス基板が得られると共に、ガラス基板の表面品質も良好に維持されて、磁気記録媒体に格納される情報の高密度化に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る磁気記録媒体用ガラス基板の斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る磁気記録媒体用ガラス基板の製造工程図である。
【図3】本発明の実施形態に係る1次研磨工程で用いられる研磨装置の主要部の構成を示す部分側面図である。
【図4】図3のA−A線に沿う矢視図であって下定盤の平面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る1次研磨工程で用いられる他の研磨装置の主要部の構成を示す図4に類似の平面図である。
【図6】(a)は、1次研磨工程でガラス基板を外周端部まで平坦に仕上げた状態を示す説明図、(b)は、2次研磨工程後にガラス基板の外周端部が垂れ下がった状態を示す説明図である。
【図7】(a)は、1次研磨工程でガラス基板の外周端部を隆起状態に仕上げた状態を示す説明図、(b)は、2次研磨工程後にガラス基板が外周端部まで平坦になった状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態を説明する。図1は、本実施形態に係る磁気記録媒体用ガラス基板の斜視図、図2は、本実施形態に係る磁気記録媒体用ガラス基板の製造工程図である。
【0016】
本実施形態では、ガラス基板50は、主たる工程として、円盤加工工程、ラップ工程、1次研磨(粗研磨)工程、2次研磨(精密研磨)工程、化学強化工程、最終洗浄工程、検査工程等を経て製造される。
【0017】
ガラス基板50に用いられるガラス素材は、二酸化ケイ素(SiO)を主成分とするガラス組成物で構成される。ガラス組成物は、マグネシウム、カルシウム及び/又はセリウムを含んでも含まなくてもよい。代表的なガラス組成物は、例えば、SiO、Al、B、LiO、NaO、KO、MgO、CaO、BaO、SrO、ZnO等を含む。
【0018】
円盤加工工程では、溶融したガラス素材を金型に流し込んでプレス成形することにより円盤状のガラス基板を作製する。このときのガラス基板の大きさとしては、例えば、外径が2.5インチ、1.8インチ、1.0インチ、0.8インチ等、板厚が、2mm、1mm、0.63mm等である。また、得られたガラス基板の中心部に、例えばダイヤモンドコアドリル等を用いて円孔を形成し、環状のガラス基板とする。さらに、状況に応じて、ガラス基板50の主面51と外周端面との間の角部を面取り加工して、ガラス基板50の外周端部に面取面を形成する。
【0019】
ラップ工程は、第1ラップ工程と第2ラップ工程とを含む。第1ラップ工程では、ガラス基板の表裏両面を研削し、ガラス基板の全体形状、すなわちガラス基板の平行度、平坦度及び厚み等を予備調整する。第2ラップ工程では、第1ラップ工程に続いて、ガラス基板の表裏両面を再び研削し、ガラス基板の全体形状、すなわちガラス基板の平行度、平坦度及び厚み等をさらに微調整する。ラップ工程では、例えばダイヤモンドペレットが貼り付けられた研削板を備える両面研削装置が用いられる。
【0020】
1次研磨工程では、次の2次研磨工程で最終的に求められる表面粗さ(Ra)が効率よく得られるように、ガラス基板の表裏両面を粗研磨する。この1次研磨工程では、後述するように、例えば研磨パッドとして発泡ウレタンパッドが貼り付けられた上下一対の定盤を備える両面研磨装置が用いられ、研磨液として例えば酸化セリウムを研磨砥粒として含む研磨液(スラリー)が用いられる。ただし、これに限定されるものではない。
【0021】
2次研磨工程では、1次研磨工程に続いて、最終的に求められる表面粗さが得られるように、ガラス基板の表裏両面を精密研磨する。この2次研磨工程では、例えば研磨パッドとしてポリウレタン製のスウェードパッドが貼り付けられた上下一対の定盤を備える両面研磨装置が用いられ、研磨液として例えばコロイダルシリカを研磨砥粒として含む研磨液(スラリー)が用いられる。ただし、これに限定されるものではない。
【0022】
2次研磨工程で用いる研磨砥粒としては、従来一般にガラス研磨の分野で採用されているものを用いることができる。例えば、コロイダルシリカの他、酸化セリウム、炭化ケイ素、ジルコニア、アルミナ等も使用できる。
【0023】
2次研磨工程で用いる研磨砥粒の粒径は、得られるガラス基板の表面粗さや平滑性等の観点から、平均粒子径が1〜100nmのものが好ましく、1〜80nmのものがより好ましく、1〜50nmのものがさらに好ましく、1〜20nmのものが特に好ましい。
【0024】
化学強化工程では、ガラス基板の表面に化学強化層を形成する。例えば、ガラス基板をナトリウムイオンやカリウムイオンの存在する化学強化液に浸漬することにより、ガラス基板の表層に存在するリチウムイオンやナトリウムイオンが化学強化液中のナトリウムイオンやカリウムイオンと置換され、ガラス基板の表層が化学強化層となる。化学強化層には圧縮応力がかかっている。このような化学強化層を形成することにより、最終的に得られるガラス基板50の耐衝撃性、耐振動性及び耐熱性等が向上する。
【0025】
最終洗浄工程では、ガラス基板に付着している異物を、例えば、フィルタリングした純水、イオン交換水、超純水、酸性洗剤、中性洗剤、アルカリ性洗剤、有機溶剤、界面活性剤を含んだ各種洗浄剤等を用いて、洗浄し、除去する。
【0026】
検査工程では、ガラス基板の平坦度や厚みあるいは表面粗さや表面品質等を検査する。そして、検査に合格したガラス基板のみが、ハードディスク等の磁気記録媒体の製造に用いられ、主面に磁気層等が形成される。
【0027】
次に、1次研磨工程で用いられる研磨装置を説明する。図3は、ガラス基板の表裏両面を同時研磨することが可能な両面研磨装置20の主要部の構成を示す部分側面図、図4は、図3のA−A線に沿う矢視図であって下定盤22の平面図である。
【0028】
図3に示すように、研磨装置20は、相互に平行になるように上下に間隔をおいて配置され、相互に逆方向に回転可能な円盤状の上定盤21と下定盤22とを備えている。この上下一対の定盤21,22の各対向面にガラス基板50の表裏両面を研磨するための研磨パッド(本実施形態では発泡ウレタンパッド)23,24が貼り付けられている。
【0029】
図4に示すように(図4は下定盤22及び下側の研磨パッド24を示すが、上定盤21及び上側の研磨パッド23も、下定盤22及び下側の研磨パッド24に準じて同様の構成である)、上下一対の定盤21,22の間には、回転可能な複数(図例では4つ)のキャリア27が配置され、各キャリア27には、複数のガラス基板50が嵌め込まれてセットされる複数の円孔が設けられている。図例の場合、円孔は、円盤状のキャリア27に外内2列に配列されている(外列は12個の円孔、内列は4個の円孔)。キャリア27は、ガラス基板50を円孔に保持した状態で、自転しながら定盤21,22の回転中心であるサンギヤ25に対して公転する。このような動作をしている上下定盤21,22及びキャリア27に対して、研磨砥粒(本実施形態では酸化セリウム)を含む研磨液が上定盤21の研磨パッド23とガラス基板50との間、及び、下定盤22の研磨パッド24とガラス基板50との間にそれぞれ供給され、これにより、ガラス基板50の表裏両面の粗研磨が実行される。
【0030】
図4に示すように、研磨パッド23,24は、円盤状のパッドの中心部に円孔が形成された環状のパッドである。そして、環状の研磨パッド23,24の外周縁部Aと定盤21,22の外周縦壁との間にスペース(外側環状スペース)S1が設けられ、また、環状の研磨パッド23,24の内周縁部Bとサンギヤ25との間にもスペース(内側環状スペース)S2が設けられている。そして、研磨中(キャリア27が自転及び公転中)に、キャリア27の外列の円孔に保持された12個のガラス基板50の外周端部が研磨パッド23,24の外周縁部A及び内周縁部Bから研磨パッド外の前記外側環状スペースS1及び内側環状スペースS2に順次突出する(この状態を「オーバーハング」という)。
【0031】
これにより、1次研磨工程では、外列のガラス基板50の外周端部が研磨中に研磨パッド23,24と一時的に非接触状態となる。そのため、外列のガラス基板50の外周端部は中央部よりも研磨パッド23,24による研磨量が少なくなり、外列のガラス基板50の外周端部は中央部よりも隆起した「反り」の状態(図7(a)の符号51a参照)となる。なお、状況に応じて、外列のガラス基板50は外側環状スペースS1と内側環状スペースS2とのいずれか一方のみにオーバーハングしてもよい。
【0032】
また、本実施形態では、図4に示すように、研磨パッド23,24のパッド面に、円形の凹溝24a,24bが外内2列に形成されている。そして、研磨中(キャリア27が自転及び公転中)に、キャリア27の内列の円孔に保持された4個のガラス基板50の外周端部が前記外側凹溝24a及び内側凹溝24bに順次突出する。
【0033】
これにより、1次研磨工程では、内列のガラス基板50の外周端部が研磨中に研磨パッド23,24と一時的に非接触状態となる。そのため、内列のガラス基板50の外周端部は中央部よりも研磨パッド23,24による研磨量が少なくなり、内列のガラス基板50の外周端部は中央部よりも隆起した「反り」の状態(図7(a)の符号51a参照)となる。なお、状況に応じて、内列のガラス基板50は外側凹溝24aと内側凹溝24bとのいずれか一方のみに突出してもよい。
【0034】
図4の例は、円盤状のキャリア27に複数のガラス基板50が外内2列に保持される場合であったが、図5に例示するように、円盤状のキャリア27に複数(図例では8つ)のガラス基板50が1列のみに保持されてもよい。そして、図5の例は、円孔に保持されたガラス基板50の外周端部が研磨パッド外の環状スペースS1,S2にオーバーハングするのではなく、パッド面の円形凹溝24a,24bに突出することにより、ガラス基板50の外周端部が研磨パッド23,24と一時的に非接触状態となる場合の例である。このような例は、例えば、研磨装置20の機械的構成上、研磨パッド23,24の外周縁部Aと定盤21,22の外周縦壁との間の外側環状スペースS1、及び、研磨パッド23,24の内周縁部Bとサンギヤ25との間の内側環状スペースS2が十分大きく取れない場合等に有効な方法である。さらに、図4の例のようにガラス基板50がキャリア27に2列に保持される場合や、あるいはガラス基板50がキャリア27に3列以上に保持されるような場合において、すべてのガラス基板50の外周端部が研磨パッド外のスペースS1,S2にオーバーハングするのではなく、パッド面の凹溝に突出することにより、ガラス基板50の外周端部が研磨パッド23,24と非接触状態となるものでも構わない。
【0035】
なお、2次研磨工程で用いられる研磨装置は、研磨パッドがポリウレタン製のスウェードパッドに変わり、研磨液の研磨砥粒がコロイダルシリカに変わることや、研磨パッド外のスペースがないことや、パッド面の凹溝がないこと等の他は、1次研磨工程で用いられる前記研磨装置20に準じて同様の構成である。そして、1次研磨工程では、ガラス基板50を外周端部が中央部よりも隆起した「反り」の状態(図7(a)の符号51a参照)となるように仕上げるのに対し、2次研磨工程では、研磨パッドが柔軟性の高いスウェードパッドであるため、2次研磨工程中はガラス基板50が研磨パッドに沈み込む状態となり、ガラス基板50の外周端部の前記「反り」51aが研磨パッドとの摩擦により取れてしまう。そのため、2次研磨工程では、ガラス基板50の前記隆起状態をなくすように研磨する。その結果、2次研磨工程後には、ガラス基板50の主面51が外周端部まで平坦な状態となる(図7(b)の矢印Y参照)。
【0036】
このように、本実施形態では、ガラス基板50の表面を粗研磨する1次研磨工程と、ガラス基板50の表面を精密研磨する2次研磨工程とを含み、1次研磨工程では、ガラス基板50を外周端部が中央部よりも隆起した状態51aに仕上げ、2次研磨工程では、ガラス基板50の前記隆起状態51aをなくすように研磨する磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法が提供される。そして、1次研磨工程では、研磨中にガラス基板50の外周端部を研磨パッド23,24と一時的に非接触状態とすることにより、ガラス基板50の前記隆起状態51aを形成する。
【0037】
これにより、1次研磨工程では、研磨中にガラス基板50の外周端部を研磨パッド23,24と一時的に非接触状態とするので、ガラス基板50の外周端部は中央部よりも研磨パッド23,24による研磨量が少なくなり、ガラス基板50の外周端部は中央部よりも隆起した「反り」の状態51aとなる。そのため、研磨パッド(発泡ウレタンパッド)23,24の硬度を調整することなく、1次研磨工程でガラス基板50の端部形状を隆起状態51aに仕上げることができる。その結果、研磨パッド23,24の選択の自由度が制限されず、ガラス基板50の端部形状を隆起状態51aに仕上げるためにガラス基板50の表面品質が影響を受けることがなく、良好なガラス基板50の表面品質、ひいては磁気記録媒体の表面平滑性が保証される。
【0038】
本実施形態によれば、研磨パッド23,24の硬度を調整することなく、1次研磨工程でガラス基板50の端部形状を隆起状態51aに仕上げることができる。そのため、2次研磨工程後には主面51が外周端部まで平坦なガラス基板50が得られると共に、ガラス基板50の表面品質も良好に維持されて、磁気記録媒体に格納される情報の高密度化に寄与することができる。
【0039】
本実施形態では、研磨パッド23,24の周縁部からガラス基板50の外周端部を研磨パッド外に突出させることにより、ガラス基板50の外周端部を研磨パッド23,24と非接触状態とする。これにより、簡単な動作で前記非接触状態を研磨中に確実に実現することができる。
【0040】
本実施形態では、研磨パッド23,24のパッド面に凹部24a,24bを形成し、この凹部24a,24bにガラス基板50の外周端部を突出させることにより、ガラス基板50の外周端部を研磨パッド23,24と非接触状態とする。これにより、簡単な動作で前記非接触状態を研磨中に確実に実現することができる。
【0041】
本実施形態では、2次研磨工程後のガラス基板50の表面粗さ(Ra)が1Å以下である。これにより、例えばDFH機構を搭載したヘッドにも対応し得る程度に良好な磁気記録媒体の表面平滑性が得られる。
【0042】
本実施形態では、1次研磨工程で、一対の円盤状の定盤21,22と、各定盤21,22の対向面に設けられた研磨パッド23,24と、一対の定盤21,22間に配置されて複数のガラス基板50を保持するキャリア27とを備え、キャリア27が自転しながら定盤21,22の回転中心に対して公転する構成の研磨装置20を用いる。これにより、ガラス基板50の外周端部を周方向に均一に隆起状態51aに仕上げることができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例を通して、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例により限定されるものではない。
【0044】
[ガラス基板の作製]
図2に示した製造工程に従い、下記の組成(質量%)のガラス素材を用いて、外径が65.0mm(2.5インチ)、内径(円孔の径)が20.0mm、板厚が0.830±0.001mmの環状のアルミノシリケート製ガラス基板を作製した。なお、化学強化は行わなかった。
【0045】
(ガラス素材の組成)
・SiO:50〜70%
・Al:0.1〜20%
・B:0〜5%
ただし、SiO+Al+B=50〜85%であり、また、LiO+NaO+KO=0.1〜20%であり、また、MgO+CaO+BaO+SrO+ZnO=2〜20%である。
【0046】
[1次研磨工程]
表1に示すように、実施例1では、図4に示した研磨装置20(キャリア27のガラス基板50の配列は外内2列配列、研磨パッド23,24は発泡ウレタンパッド、オーバーハングあり、パッド面の外側凹溝24a及び内側凹溝24bあり、ガラス基板1枚あたりの加工加重2.5kg)を用い、粒径約1.0μmの酸化セリウムを研磨砥粒として含む研磨液を用いて、1次研磨工程を行った。これに対し、比較例1、2では、オーバーハングなし、パッド面の外側凹溝24a及び内側凹溝24bなし、とした他は、表1に示す条件に従い、実施例1と同様にして1次研磨工程を行った。なお、表1において、「オーバーハング長」とあるのは、ガラス基板の外周端部が研磨パッドの周縁部から研磨パッド外に突出するときの最大長さのことである(表2において同じ)。また、表1において、「パッド面の円形凹溝」が「幅5mm」とあるのは、ガラス基板の外周端部が凹溝に突出するときの最大長さが5mmであることを意味する(表2において同じ)。
【0047】
表2に示すように、実施例2では、図5に示した研磨装置20(キャリア27のガラス基板50の配列は1列配列、研磨パッド23,24は発泡ウレタンパッド、オーバーハングなし、パッド面の外側凹溝24a及び内側凹溝24bあり、ガラス基板1枚あたりの加工加重2.5kg)を用い、粒径約1.0μmの酸化セリウムを研磨砥粒として含む研磨液を用いて、1次研磨工程を行った。これに対し、比較例3、4では、パッド面の外側凹溝24a及び内側凹溝24bなし、とした他は、表2に示す条件に従い、実施例2と同様にして1次研磨工程を行った。
【0048】
[2次研磨工程]
各実施例及び比較例において、研磨パッドをポリウレタン製のスウェードパッド(デュロメータA硬度85)に変え、研磨液の研磨砥粒を粒径約20nmのコロイダルシリカに変え、オーバーハングなし、パッド面の凹溝なし、とした他は、1次研磨工程で用いられる研磨装置(例えば図4に示した研磨装置20)に準じて同様の構成の研磨装置を用いて、加工時間25分の条件で、2次研磨工程を行った。
【0049】
[ガラス基板の評価]
各実施例及び比較例において、2次研磨工程後のガラス基板の評価を行った。
【0050】
(外周端部形状検査)
1回の研磨枚数100枚のうちからアトランダムに抜き出した20枚のガラス基板について外周端部形状を検査した。図7に例示するように、ガラス基板50の中心Oから半径方向にr1(22.25mm)の点とr2(27.25mm)の点とr3(31.25mm)の点とにおけるガラス基板50の主面51の高さを接針式計測機を用いて計測した。r1における主面51の高さとr2における主面51の高さとを結び、得られた直線を基準の高さとして、この基準の高さからr3における主面51の高さがどの程度ズレているかを算出した。r3における主面51の高さがプラス側にズレているときは「反り」が残っており、マイナス側にズレているときは「ダレ」が発生していることになる。ズレが小さいほどガラス基板50は外周端部まで平坦であると判断される。算出されたズレ量が±0.2μm以下のものを良品と判定し、良品率に応じて下記基準で判定した。結果を表1、表2に示す。
【0051】
(外周端部形状判定基準)
A:良品率が95%超、100%以下
B:良品率が90%超、95%以下
C:良品率が85%超、90%以下
D:良品率が85%以下
【0052】
(主面キズ検査)
1回の研磨枚数100枚のうちからアトランダムに抜き出した20枚のガラス基板について主面キズを検査した。光学式表面検査装置「OSA6300」を用いて、ガラス基板50の主面51にキズがあるか否かを検査し、検出されたキズの数が閾値(10個/1枚あたり)以下のものを良品と判定し、良品率に応じて下記基準で判定した。結果を表1、表2に示す。
【0053】
(主面キズ判定基準)
A:良品率が95%超、100%以下
B:良品率が90%超、95%以下
C:良品率が85%超、90%以下
D:良品率が85%以下
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
[結果の考察]
比較例1、3が主面キズ検査の結果に劣っていたのは、1次研磨工程でガラス基板に「反り」を形成するために選択した研磨パッドの硬度が高かったためと考えられる。比較例2、4が外周端部形状検査の結果に劣っていたのは、1次研磨工程で「反り」が形成されず、2次研磨工程で「ダレ」が発生したためと考えられる。これらに対し、実施例1、2は、1次研磨工程で研磨中にガラス基板の外周端部を研磨パッドと一時的に非接触状態としたことにより、かつ、研磨パッドの硬度をガラス基板に最終的に求められる表面粗さが得られるように選択したことにより、外周端部形状検査の結果も、主面キズ検査の結果も、良好であった。
【符号の説明】
【0057】
20 研磨装置
21,22 定盤
23,24 研磨パッド
24a,24b 凹溝
25 サンギヤ
27 キャリア
50 ガラス基板
51 主面
51a 隆起(反り)
A 研磨パッドの外周縁部
B 研磨パッドの内周縁部
S1 外側環状スペース
S2 内側環状スペース
X 垂れ下がった状態(ダレ)
Y 平坦な状態

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板の表面を粗研磨する1次研磨工程と、ガラス基板の表面を精密研磨する2次研磨工程とを含み、1次研磨工程では、ガラス基板を外周端部が中央部よりも隆起した状態に仕上げ、2次研磨工程では、ガラス基板の前記隆起状態をなくすように研磨する磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法であって、1次研磨工程では、研磨中にガラス基板の外周端部を研磨パッドと一時的に非接触状態とすることにより、ガラス基板の前記隆起状態を形成することを特徴とする磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
研磨パッドの周縁部からガラス基板の外周端部を研磨パッド外に突出させることにより、ガラス基板の外周端部を研磨パッドと非接触状態とすることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項3】
研磨パッドのパッド面に凹部を形成し、この凹部にガラス基板の外周端部を突出させることにより、ガラス基板の外周端部を研磨パッドと非接触状態とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項4】
2次研磨工程後のガラス基板の表面粗さ(Ra)が1Å以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−216253(P2012−216253A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79411(P2011−79411)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】