説明

磁気記録媒体

【課題】極めて粒子サイズが小さく、かつ粒状の形状であるにもかかわらず、極めて高い保磁力と、高密度記録に最適な飽和磁化を有する窒素含有磁性粉末の特性を最大限に引き出すための磁性塗膜を得ることを目的とする。
【解決手段】 非磁性支持体上に磁性粉末と結合剤を含有する磁性層を有する磁気記録媒体において、
上記磁性層が磁性粉末と非磁性粉末を含有し、
磁性粉末が鉄および窒素を少なくとも構成元素とし、かつFe16相を少なくとも含む平均粒子サイズが10〜20nmの粒状の磁性粉末であり、非磁性粉末の平均粒子サイズが10〜30nmであり、かつ磁性層に含まれる磁性粉末と非磁性粉末の合計含有量に対する磁性粉末の含有量が40〜90重量%の範囲にあることを特徴とする磁気記録媒体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄と窒素を少なくとも構成元素とする粒状の磁性粉末を用いた磁気記録媒体、詳しくは、デジタルビデオテープ、コンピユータ用のバックアップテープなどの超高密度記録に最適な磁気記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塗布型磁気記録媒体、つまり非磁性支持体上に磁性粉末と結合剤を含有する磁性層を有する磁気記録媒体は、記録再生方式がアナログ方式からデジタル方式への移行に伴い、一層の記録密度の向上が要求されている。とくに、高記録密度用のビデオテープやコンピュータ用のバックアップテープなどにおいては、この要求が、年々、高まってきている。
【0003】
記録密度の向上に不可欠な短波長記録に対応するためには、記録時の厚み損失を小さくするため、磁性層の厚さを300nm以下、特に100nm以下に薄膜化するのが効果的である。このような高記録密度媒体に用いられる再生用磁気ヘッドとしては、高出力が得られるMRヘッドが一般に用いられる。
【0004】
また、ノイズ低減のため、磁性粉末においては、年々、微粒子化がはかられ、現在、粒子径が45nm程度の針状のメタル磁性粉末が実用化されている。さらに短波長記録時の減磁による出力低下を防止するために、年々、高保磁力化がはかられ、鉄−コバルト合金化により238.9kA/m(3000Oe)程度の保磁力が実現されている(特許文献1−3参照)。しかしながら針状磁性粒子を用いる磁気記録媒体においては、保磁力が粒子の針状形状に基づく形状磁気異方性に依存することから、上記粒子径からのさらに大幅な微粒子化は困難になってきている。
【0005】
即ち針状メタル粒子は、針状形状にすることによる形状磁気異方性により保磁力を発現しているが、微粒子化に伴い必然的に針状比(粒子長さ/幅)が小さくなり、保磁力が低下する。この保磁力の低下は、高記録密度化する上で、致命的な問題となる。このように針状メタル磁性粒子は、微粒子化に伴う保磁力の低下と言う本質的な問題があり微粒子化に限界がある。
【0006】
そこで、上記針状の磁性粉末とは全く異なる磁性粉末として、Fe16相を主相としたBET比表面積が10m/g程度の窒化鉄系磁性粉末を用いた媒体が提案されている(特許文献4参照)。このFe16相を主相としたBET比表面積が10m/g程度の窒化鉄系磁性粉末は、高保磁力は得られるが、粒子サイズが大きく高密度記録媒体には適さない。
【0007】
一方、本発明者らにより希土類元素および/またはシリコン、アルミニウムの中から選ばれる少なくとも一つの元素と鉄および窒素を少なくとも構成元素とし、かつFe16相を少なくとも含む平均粒子サイズが5〜50nmの粒状ないし楕円状の磁性粉末を用いた記録媒体が提案されている(特許文献5参照)。この記録媒体は、磁性粉末が5〜50nmの微粒子で粒状ないし楕円状でありながら高保磁力を有するため、高密度記録領域における高い出力と同時にノイズが低く、その結果高いノイズ対出力比(SNR)を示す。
【0008】
【特許文献1】特開平3−49026号公報(第4頁)
【特許文献2】特開平10−83906号公報(第3頁)
【特許文献3】特開平10−340805号公報(第2頁)
【特許文献4】特開2000−277311号公報(第3頁、図4)
【特許文献5】特開2004−273094号公報(第3頁、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献5の窒化鉄系磁性粉末は、球状の微粒子でありながら高い保磁力と適度な飽和磁化を有し、高密度記録用の磁性粉末として最適な特性を有する。一方、最近は再生ヘッドの高感度化が著しく、特許文献5のような磁性粉末も、磁性層中の磁性粉末の充填度や分散状態などを最適化しないと、出力が向上しても、同時にノイズも増加して、結果として高いSNRが得られないなどの問題が発生する。すなわち、このような微粒子で球状の磁性粉末の特性を最大限に引き出すためには、最適な塗膜設計が必要になる。
【0010】
本発明は、磁性粉末として、極めて粒子サイズが小さく、かつ粒状の形状であるにもかかわらず、極めて高い保磁力と、高密度記録に最適な飽和磁化を有する窒素含有磁性粉末の特性を最大限に引き出すための磁性塗膜を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の目的に対し鋭意検討した結果、以下の構成を持つ磁気記録媒体が課題を解決できることを見出した。すなわち、非磁性支持体上に磁性粉末と結合剤を含有する磁性層を有する磁気記録媒体において、上記磁性層が磁性粉末と非磁性粉末を含有し、磁性粉末が鉄および窒素を少なくとも構成元素とし、かつFe16相を少なくとも含む平均粒子サイズが10〜20nmの粒状の磁性粉末であり、非磁性粉末の平均粒子サイズが10〜30nmであり、かつ磁性層に含まれる磁性粉末と非磁性粉末の合計含有量に対する磁性粉末の含有量が40〜90重量%の範囲にあることを特徴とする磁気記録媒体である。
【発明の効果】
【0012】
本発明はFe16相を少なくとも含む平均粒子サイズが10〜20nmの粒状の磁性粉末と同時に、磁性粉末と非磁性粉末の合計含有量に対して磁性粉末の含有量が40〜90重量%の範囲になるように非磁性粉末を含有させることにより、磁気記録媒体としてのノイズを低減させることができる。これは非磁性粉末を含有させることによる出力の低下以上にノイズ低減効果が大きく、その結果優れたSNRを得ることができる。この効果は、再生ヘッドにGMRヘッドやTMRヘッドのような高感度ヘッドを使用した場合に、より顕著になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明者らは、従来の形状磁気異方性に基づく磁性粉末とは異なる観点で、磁気特性の向上を目指すべく各種の磁性粉末を合成し、その形状や磁気異方性を調べた結果、磁性粉末が鉄および窒素を少なくとも構成元素とし、かつFe16相を少なくとも含む平均粒子サイズが10〜20nmの磁性粉末が、粒状の磁性粉末が高い磁気異方性を示すことがわかった。なお本明細書において、粒状とは、球状、楕円体状等の形状を意味し、長軸径と短軸径との軸比が2以下の形状を意味する。また、平均粒子サイズとは、透過型電子顕微鏡(TEM)にて撮影した写真の粒子の最大差し渡し長さを粒子サイズとし、粒子300個の粒子サイズの平均値により求められる。
【0014】
さらにこの磁性粉末に希土類元素、アルミニウム、シリコンの内の少なくとも1種の元素を含有させることにより、微粒子でかつ粒子サイズ分布の良好な磁性粉末となることを見出した。このときの鉄に対する窒素の含有量は1.0〜20.0原子%が好ましく、窒素が少なすぎると、Fe16相の形成量が少なく、保磁力増加の効果が少なくなり、多すぎると、非磁性窒化物が形成されやすく、保磁力増加の効果が少なくなり、また飽和磁化が過度に低下する。また磁性粉末中の希土類元素、アルミニウム、シリコンの内の少なくとも1種の元素の含有量は、鉄に対してそれぞれ0.05〜20.0原子%であることが好ましく、この範囲より少ないと形状保持効果が小さく、一方多すぎると非磁性成分が多くなり、飽和磁化が低下する。また希類土元素としては、イットリウム、サマリウム、ネオジムの中から選ばれる少なくともひとつの元素であることが好ましいことも見出した。
【0015】
本発明の磁性粉末において、Fe16相の存在位置については特に限定されないが、磁性粉末の内部に存在させ、希土類元素やアルミニウム、シリコンなどの元素を外層部分に主に存在させることが好ましい。このような構造にすることにより、磁気記録媒体用の磁性粉末として使用する場合に、より化学的に安定な磁性粉末となる。またFe16相のみとする必要はなく、例えばFe16相とα−Fe相の混相としてもよい。このα−Fe相も内部に存在させることも、希土類元素やアルミニウム、シリコンなどの元素を主に含む外層部分に存在させることも、またFe16相と外層の界面に存在させることもできる。
【0016】
特にα−Fe相を内部のFe16相と、希土類元素やアルミニウム、シリコンなどの元素を主に含む外層との界面に形成させると化学的安定性等において、より優れた磁性粉末となる。本発明の磁性粉末は従来の針状粒子とは異なり、粒状の形状を有するため、磁性塗料を非磁性支持体上に塗布して磁性層を形成したときに、磁性粉末が針状磁性粉末に比べて高充填されやすい特徴がある。この特徴は、磁気記録媒体として高い磁束密度が得られやすいため、高出力が得られる利点がある。しかしながら磁性粉末が高充填される結果、粒子間に生じる磁気的相互作用も大きくなり、その結果粒子が磁気クラスターを形成し、記録再生時において、この磁気クラスターがあたかも1個の粒子のような挙動を示す。このクラスターの形成はノイズの原因となり、高密度記録をする上で、大きな問題となる。この磁気クラスターサイズは、再生用ヘッドにGMRヘッドやTMRヘッドなどの高感度ヘッド使用する時に、特に問題となる。即ち、高感度ヘッドを使用すると比較的容易に高い出力を得られるが、同時にノイズ出力も大きくなるため、大きいSNRを得るためには、媒体のノイズを低減することが極めて重要な課題となる。この媒体ノイズは、磁気クラスターサイズの影響を大いに受け、低ノイズを実現するためには、磁気クラスターサイズを極力小さくすることが必須となる。
【0017】
本発明者らは、本発明の磁性粉末の特徴を最大限に発揮して、高いSNRを得るためには、本発明の磁性粉末に、さらに磁性粉末と非磁性粉末の合計含有量に対する磁性粉末の含有量が40〜90重量%の範囲になるように非磁性粉末を添加すると、磁性粉末間に適度に非磁性粉末が介在し、その結果磁性粉末間の磁気的相互作用が弱くなり、磁気クラスターサイズが小さくなって、ノイズが顕著に低減することを見出した。さらにこの非磁性粉末自身が、磁気凝集を形成しやすい磁性粉末を分散させる分散体としての効果を有することも見出した。
【0018】
またこのときの非磁性粉末としては、非磁性粉末であれば特に限定されるものではないが、ヘマタイト(α−Fe)、ゲーサイト(α−FeOOH)アルミナ(Al)、シリカ(SiO)および二酸化チタン(TiO)の中から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。またこの非磁性粉末の粒子サイズとしては、平均粒子サイズが10〜30nmの範囲にあることが好ましいことがわかった。この粒子サイズが10nmより小さいと、非磁性粉末といえども分散させることが困難になり、磁性粒子間に介在して、磁気的相互作用を弱める効果は少なくなる。一方、粒子サイズが30nmより大きくなると、磁性粒子に比べて粒子サイズが大き過ぎるため磁性粒子を分散させる効果が弱くなり、磁性粒子間に介在して磁気的相互作用を弱める効果も弱くなる。
【0019】
この非磁性粉末の形状は特に限定されるものではなく、球状、楕円状、針状、サイコロ状、板状など任意の形状のものが使用可能であるが、本発明の磁性粉末の形状が粒状であるため、同時に含有させる非磁性粉末の形状も粒状のもの使用すると磁性粉末を分散させて粒子間に介在する効果が大きくなるため好ましい。
【0020】
本発明に使用する磁性粉末は、飽和磁化としては30〜100Am/kg(30〜1020emu/g)の範囲のものが、また保磁力は79.6〜318.5kA/m(1,000〜4,000エルステッド)の範囲のものが好ましい。
【0021】
また本発明の磁性粉末を用いた磁気記録媒体の磁気特性としては、例えば長手配向媒体とする場合には、長手方向の保磁力(Hc)が119.4〜358.2kA/m(1,500〜4,500エルステッドで、角形(Br/Bm)は0.65〜0.92で、飽和磁束密度と磁性層厚さの積(Bm・t)が0.001〜0.1μTmの範囲とすることが好ましい。また垂直配向媒体とする場合には、垂直方向の保磁力(Hc)が79.6〜318.5kA/m(1,000〜4,000エルステッド)で、角形(Br/Bm)は0.60〜0.85で、飽和磁束密度と磁性層厚さの積(Bm・t)が0.001〜0.1μTmの範囲とすることが好ましい。さらに無配向媒体とする場合には、長手方向の保磁力(Hc)が79.6〜318.5kA/m(1,000〜4,000エルステッド)で、角形(Br/Bm)は0.40〜0.65で、飽和磁束密度と磁性層厚さの積(Bm・t)が0.001〜0.1μTmの範囲とすることが好ましい。
【0022】
いずれの配向状態の磁気記録媒体においても、磁性層中の磁性粉末と非磁性粉末の合計含有量に対する磁性粉末の含有量が40〜90重量%の範囲になるよう非磁性粉末を含有させ、磁性粉末間に介在させることにより、磁性粉末間の磁気的相互作用を弱くして磁気クラスターサイズを小さくすることにより、ノイズが顕著に低下し、高いSNRが得られることが分かった。
【0023】
このように本発明の磁性粉末に非磁性粉末を特定量含有させるとノイズが顕著に低減する理由は以下の通りであると考えられる。通常磁性粉末は磁性層中に高充填するほど磁束密度が大きくなり、再生出力が大きくなる。これは従来の塗膜の基本的設計指針であり、従来針状磁性粉末を用いた磁気記録媒体においては磁性粉末をできる限り高充填する努力がなされてきた。一方本発明の磁性粉末は形状が粒状であるため、針状磁性粉末に比べて本質的に高充填されやすい特徴がある。この特徴は高い再生出力が得られる反面、磁性粉末が磁気クラスターを形成しやすくなる。磁気クラスター内では、個々の粒状粒子間に強い磁気的相互作用が働き、記録再生時において、この磁気クラスターがあたかも1個の粒子のように振舞う。この磁気クラスターの形成は、記録再生においては磁性層内に粒子サイズの大きな磁性粉末が存在することと同等の現象を引き起こし、ノイズが高くなる。この磁気クラスターサイズは、高密度記録媒体においては、SNRに大きな影響を与える。即ち高充填することによる再生出力の増加以上に、磁気クラスター形成によりノイズが増加し、SNRは逆に低下する。この現象は、再生ヘッドがMRヘッドからGMRヘッドさらにはTMRヘッドのように高感度化するにしたがいより顕著になる。本発明の磁性粉末は、従来の針状磁性粉末とは異なり粒状であり、さらに再生ヘッドがMRヘッドからGMRヘッドやTMRヘッドのような高感度ヘッドに変遷するに伴い、従来の針状磁性粉末を用いた媒体とは異なる塗膜設計が要求される。
【0024】
本発明者らは、本発明の磁性粉末の特徴を最大限に発揮して、高いSNRを得るためには、磁性層中に磁性粉末と同時に特定量の非磁性粉末を含有させると、磁性粒子間に非磁性粒子が介在して磁性粉末が非磁性粉末で希釈されたような状態になって粒子間の磁気的相互作用が弱くなり、結果的にノイズが顕著に低減して高いSNRが得られることが分かった。さらにこの非磁性粉末自身が、磁気凝集を形成しやすい磁性粉末を分散させる効果を有することも分かった。即ち本発明は、従来の針状磁性粉末を用いた磁気記録媒体の高性能化のための基本設計とは、全く異なる基本設計の元になされたものである。
【0025】
次に本発明の窒化鉄系磁性粉末の製造方法について、説明する。磁性粉末用出発原料としては、鉄系酸化物または水酸化物を使用できる。たとえば、ヘマタイト、マグネタイト、ゲータイトなどが好適なものとして挙げられる。平均粒子サイズとしては、とくに限定されないが、10〜25nm程度が望ましい。粒子サイズが小さすぎると、還元処理時に粒子間焼結が生じやすく、また大きすぎると、最終的に得られた磁性粉末の粒子サイズが大きすぎてノイズが高くなり、高いSNRが得られにくくなる。
【0026】
この出発原料に希土類元素やアルミニウム、シリコンなどを被着処理することも出来るし、またあらかじめこれらの元素を出発原料に添加しておくこともできる。被着処理するには、例えばアルカリまたは酸の水溶液中に出発原料を分散させ、これに希土類元素やアルミニウム、シリコンの塩を溶解させ、中和反応などにより原料粉末にこれらの元素を含む水酸化物や水和物を沈殿析出させることにより被着処理できる。
【0027】
つぎに、このような原料を、水素気流中で加熱還元する。還元ガスは、とくに限定されず、水素ガス以外に、一酸化炭素ガスなどの還元性ガスを使用してもよい。還元温度としては、300〜500℃とするのが望ましい。還元温度が300℃より低くなると、還元反応が十分進まなくなり、また、500℃を超えると、粉末粒子の焼結が起こりやすくなり、好ましくない。
【0028】
このような加熱還元処理後、窒化処理を施すことにより、本発明の鉄と窒素を構成元素とする磁性粉末が得られる。窒化処理としては、アンモニアを含むガスを用いて行うのが望ましい。アンモニアガス単体のほかに、水素ガス、ヘリウムガス、窒素ガス、アルゴンガスなどをキャリアーガスとした混合ガスを使用してもよい。窒素ガスは安価なため、特に好ましい。
【0029】
窒化処理温度は、100〜300℃とするのが良い。窒化処理温度が低すぎると窒化が十分進まず、保磁力増加の効果が少ない。高すぎると、窒化が過剰に促進され、FeNやFeN相などの割合が増加するため保磁力が低下し、さらに飽和磁化の過度な低下を引き起こしやすい。
【0030】
このような窒化処理にあたり、得られる磁性粉末中の鉄に対する窒素の含有量が1.0〜20.0原子%となるように、窒化処理の条件を選択することが望ましい。上記窒素の量が少なすぎると、Fe16の生成量が少ないため、保磁力向上の効果が少なくなる。また上記窒素の量が多すぎると、FeNやFeN相などが形成されやすくなり、保磁力が低下してさらに飽和磁化の過度な低下を引き起こしやすい。
【0031】
次に上述した磁性粉末と共に添加する非磁性粉末としては、特に限定されるものではなく、通常磁気記録媒体に使用されるものは使用でき、αヘマタイト(α−Fe)、ゲーサイト(α−FeOOH)アルミナ(Al)、シリカ(SiO)および二酸化チタン(TiO)などが好ましいものとして使用できる。尚、ここでいう非磁性とは、飽和磁化が1emu/g以下であることを指す。
【0032】
たとえばαヘマタイトを使用する場合には、希土類元素やアルミニウム、シリコンなどで被着処理した10〜30nmの粒状のマグネタイト粒子を原料に使用することができる。このマグネタイト粒子を空気中300℃以上の温度で空気中加熱酸化してαヘマタイトとすることができる。また希土類元素やアルミニウム、シリコンなどが被着処理されているか、あるいはあらかじめこれらの元素を添加した粒子サイズが10〜30nmの粒状の水酸化鉄を原料に使用することもできる。この水酸化鉄粒子を空気中200〜300℃で加熱脱水するとαヘマタイトとなる。これらマグネタイトあるいは水酸化鉄粒子を原料に用いてαヘマタイトとするときの加熱温度は、高過ぎるとαヘマタイト粒子間で凝集が生じやすくなり、分散性が低下しやすくなり、磁性粒子間に介在させて磁性粉末のクラスターサイズを低減させる本来の効果が小さくなる。一方低過ぎると、特にマグネタイト粒子を原料に用いる場合には、十分にαヘマタイトに変換されず磁性を有するマグネタイトが残存するため好ましくない。
【0033】
本発明の磁気記録媒体は、上記の磁性粉末と非磁性粉末を、磁性粉末と非磁性粉末の合計含有量に対する磁性粉末の含有量が40〜90重量%の範囲になるように添加する。この含有量にすることにより、磁性粉末間に適度に非磁性粉末が介在し、その結果磁性粉末間の磁気的相互作用が弱くなり、磁気クラスターサイズが小さくなって、ノイズが顕著に低減する。非磁性粉末の含有量がこの範囲より少ないと、磁性粉末の磁気的相互作用を弱める効果が少なくなり、一方非磁性粉末の含有量がこの範囲より多いと、磁束密度が低くなりすぎ、再生出力が低下し過ぎて、高いSNRが得られなくなる。
【0034】
また非磁性粉末の粒子サイズとしては、平均粒子サイズが10〜30nmの範囲にあることが好ましい。この粒子サイズが10nmより小さいと、非磁性粉末といえども分散させることが困難になり、磁性粒子間に介在して、磁気的相互作用を弱める効果は少なくなる。一方、粒子サイズが30nmより大きくなると、磁性粒子に比べて粒子サイズが大き過ぎるため磁性粒子を分散させる効果が弱くなり、磁性粒子間に介在して磁気的相互作用を弱める効果も弱くなる。
【0035】
このように磁性粉末とともに非磁性粉末を上記の含有量割合になるように結合剤、有機溶剤とともに混合し、さらにこれらの粉末に最適な分散方法により作製した磁性塗料を、非磁性支持体上に塗布し乾燥することにより、作製できる。
【0036】
また上記した磁性塗料を、α−ヘマタイトや二酸化チタンなどの非磁性粒子と結合剤を含有する下層上に形成して形成した重層塗膜とすることにより、本発明の磁性粉末の特徴をより発揮して高いSNRが得られる。
【0037】
以下に、本発明の磁気記録媒体について説明する。
【0038】
本発明に使用する非磁性支持体としては、従来から使用されている磁気記録媒体用の非磁性支持体をいずれも使用できる。たとえば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類、ポリオレフィン類、セルローストリアセテート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルフオン、アラミド、芳香族ポリアミドなどからなる厚さが通常2〜15μm、特に2〜7μmのプラスチツクフイルムが好ましく用いられる。
【0039】
磁性層の厚さは、長手記録の本質的な課題である減磁による出力低下の問題を解決するため、10〜300nm以下とする必要である。磁性層厚さが300nm以上では、厚さ損失により再生出力が小さくなったり、残留磁束密度と厚さの積が大きくなりすぎて、特に再生ヘッドにGMRヘッドを使用する場合には、再生出力の飽和による再生出力の歪が起こりやすい。10nm未満では、均一な磁性層が得られにくい。
【0040】
また磁気特性としては、例えば長手配向媒体とする場合には、長手方向の保磁力(Hc)が119.4〜358.2kA/m(1,500〜4,500エルステッドで、角形(Br/Bm)は0.65〜0.92の範囲に、垂直配向媒体とする場合には、垂直方向の保磁力(Hc)が79.6〜318.5kA/m(1,000〜4,000エルステッド)で、角形(Br/Bm)は0.60〜0.85の範囲に、また無配向媒体とする場合には、長手方向の保磁力(Hc)が79.6〜318.5kA/m(1,000〜4,000エルステッド)で、角形(Br/Bm)は0.40〜0.65の範囲にすることが好ましい。これらの保磁力範囲が好ましいのは、保磁力が低過ぎると、短波長領域で反磁界による減磁により出力低下が起こりやすくなり、また保磁力が大き過ぎると、磁気ヘッドによる記録が困難になるためである。また飽和磁束密度と磁性層厚さの積(Bm・t)は、長手配向、垂直配向、無配向に関わらず0.001〜0.1μTmの範囲とすることが好ましい。この範囲が好ましいのは、0.001μTm未満では、GMRのような高感度ヘッドを使用した場合でも再生出力が小さく、また1μTmを超えると、GMRのような高感度ヘッドを使用した場合に、出力が飽和して歪みやすくなるためである。
【0041】
いずれの配向状態の磁気記録媒体においても、磁性層中の磁性粉末と非磁性粉末の合計含有量に対する磁性粉末の含有量が40〜90重量%の範囲になるよう非磁性粉末を含有させ、磁性粉末間に介在させることにより、磁性粒子間の磁気的相互作用を弱くして磁気クラスターサイズを小さくすることにより、ノイズが顕著に低下し、高いSNRが得られる。
【0042】
また、磁性層の平均面粗さとしてはRaが1.0〜3.2nmの範囲が好ましく、この範囲のときにヘッドとのコンタクトがよくなり、高いSNRが得られる。一方Raがこの範囲以下になると、ヘッドの張り付きなどにより摺動性が低下する傾向があり、またこの範囲以上では、ヘッドのコンタクトが悪くなり出力が低下しやすくなる。
【0043】
本発明の磁性粉末は、従来の針状粒子とは異なり粒状の形状を有する。そのため磁性塗料を非磁性支持体上に塗布して磁性層を形成したときに、磁性粉末が針状磁性粉末に比べて高充填されやすい特徴がある。この特徴は、磁気記録媒体として高い磁束密度得られやすいため、高出力が得られる利点がある。しかしながら粒子が高充填する結果、粒子間に生じる磁気的相互作用が大きくなり、粒子が磁気クラスターを形成し、記録再生時において、この磁気クラスターがあたかも1個の粒子のような挙動を示し、ノイズの原因となる。再生用の磁気ヘッドに、GMRヘッドのような高感度ヘッドを使用すると、このノイズの影響が極めて大きくなり、大きな磁気クラスターを形成している磁気媒体では、高充填化によりSNRは逆に低下する傾向を示す。
【0044】
本発明者らは、本発明の磁性粉末の特徴を最大限に発揮して、高いSNRを得るためには、磁性粉末間の磁気的相互作用を極力小さくして、磁気クラスターサイズを小さくすることが、高いSNRを得る上で最も効果的であることを見出した。この磁気クラスターサイズを小さくする手段として、磁性層中の磁性粉末の含有量を少なくすることが有効であるが、磁性粉末に対して相対的にバインダーを増やすことにより磁性粉末を少なくしても磁性粉末同士は凝集しやすく、結果的に磁気クラスターサイズの低減効果は小さい。本発明者らは、この磁性粉末同士を凝集させることなく磁気クラスターサイズを小さくするためには、磁性粉末と同時に非磁性粉末を特定量含有させることが最も効果的であることを見出した。すなわち磁性粉末と同時に非磁性粉末を含有させることにより、この非磁性粉末が磁性粉末の分散媒体として作用し、かつ磁性粉末を分散した後に、この非磁性粉末が磁性粉末間に介在し、磁性粉末同士が再凝集することを防止する作用を有することを見出した。
【0045】
また磁性層には、導電性向上と表面潤滑性向上を目的にカーボンブラックや、研磨性向上を目的にアルミナ等を含ませることが好ましい。このカーボンブラックやアルミナとしては従来公知のものを使用できる。
【0046】
下塗層は必須の構成要素ではないが、耐久性の向上を目的として、非磁性支持体と磁性層との間に設けることが好ましい。下塗層の厚さとしては、0.1〜3.0μmが好ましく、0.1μm以下では、磁気テープの耐久性が悪くなる場合があり、3.0μm以上では、磁気テープの耐久性の向上効果が飽和するばかりでなく、テープ全厚が厚くなって、1巻当りのテープ長さが短くなり、記憶容量が小さくなる。
【0047】
下塗層に含ませる無機粒子としては特に限定されるものではないが、例えば非磁性の酸化鉄を用いる場合には、針状のものでは平均長さが50〜200nmのものが好ましく、また粒状または無定形のものでは平均粒子サイズ5〜200nmのものが好ましく用いられる。
【0048】
また、磁性層を垂直配向して垂直記録媒体として使用する場合には、下塗層には磁性粒子を使用することが好ましい。この際、磁性粒子の種類に特に限定はなく酸化鉄、金属あるいは合金が使用できるが、磁性層からの磁束を下塗層で閉じて、表面からのみ強い磁束を発生させることが目的であるため、下塗層に使用する磁性粒子はできるだけ保磁力が小さく、かつ飽和磁化の大きいものが好ましい。また好ましい粒子サイズや粒子形は、非磁性粒子を使用する場合と同様である。
【0049】
またさらに垂直記録媒体として使用する場合には、下塗層の磁性層と、信号記録するための上層の磁性層の間に、さらに中間層を形成することもできる。この中間層は、上層と下塗層間の磁気的相互作用を制御し、垂直磁化成分をより有効に活用するために有効である。
【0050】
下塗層、磁性層に使用する結合剤は特に限定されるものではなく、通常磁気記録媒体に使用されているものが使用できる。例えば、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、塩化ビニル−ビニルアルコール共重合樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合樹脂、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合樹脂などの塩化ビニル系樹脂、ニトロセルロース、エポキシ樹脂などの中から選ばれる少なくとも1種と、ポリウレタン樹脂との組み合わせがある。とくに、塩化ビニル系樹脂とポリウレタン樹脂とを併用するのが好ましい。
【0051】
またこれらの結合剤とともに、結合剤中に含まれる官能基などと結合させて架橋する熱硬化性の架橋剤を併用するのが望ましい。この架橋剤としては、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどや、これらのイソシアネート類とトリメチロールプロパンなどの水酸基を複数個有するものとの反応生成物、上記イソシアネート類の縮合生成物などの各種のポリイソシアネートが好ましい。
【0052】
磁性層、下塗層に含ませる潤滑剤には、従来公知の脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アミドなどがいずれも用いられる。その中でも、炭素数10以上、好ましくは12〜30の脂肪酸と、融点35℃以下、好ましくは10℃以下の脂肪酸エステルとを併用するのが、特に好ましい。
【0053】
バックコート層は、必須の構成要素ではないが、磁気テープの場合、非磁性支持体の磁性層形成面の反対面にバックコート層を形成するのが望ましい。バックコート層の厚さは、0.2〜0.8μmが好ましく、0.3〜0.8μmがより好ましい。この範囲が好ましいのは、0.2μm未満では走行性の向上効果が不十分で、0.8μmを超えるとテープ全厚が厚くなり、1巻当たりの記憶容量が小さくなるためである。
【0054】
磁性塗料、下塗塗料、バックコート塗料の調製にあたり、溶剤としては、従来から使用されている有機溶剤をすべて使用することができる。たとえば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶剤、アセトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの炭酸エステル系溶剤、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶剤などを使用でき、その他、ヘキサン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミドなどの各種の有機溶剤が用いられる。
【0055】
磁性塗料、下塗塗料、バックコート塗料の調製にあたり、従来から公知の塗料製造工程を使用でき、とくにニーダなどによる混練工程や一次分散工程を併用するのが好ましい。一次分散工程では、サンドミルを使用することにより、磁性粉末などの分散性の改善とともに、表面性状を制御できるので、望ましい。
【0056】
また、非磁性支持体上に、磁性塗料、下塗塗料、バックコート塗料を塗布する際には、グラビア塗布、ロール塗布、ブレード塗布、エクストルージヨン塗布などの従来から公知の塗布方法が用いられる。とくに、下塗塗料および磁性塗料の塗布方法は、非磁性支持体上に下塗塗料を塗布し乾燥したのちに磁性塗料を塗布する、逐次重層塗布方法か、下塗塗料と磁性塗料とを同時に塗布する、同時重層塗布方法(ウェットオンウェット)かのいずれを採用してもよい。塗布時における薄層磁性層のレベリングを考えると、下塗塗料が湿潤状態のうちに磁性塗料を塗布する、同時重層塗布方式を採用するのがとくに好ましい。
【実施例】
【0057】
以下、本発明の実施例を記載して、より具体的に説明する。なお、以下において部とあるのは重量部を意味するものとする。また磁性粉末とともに添加する非磁性粉末として、粒状のαヘマタイト粒子を用いた例について説明するが、αヘマタイト粒子に限定されるものではないことは、言うまでもない。
【0058】
<実施例1>
(A)窒化鉄系磁性粉末の作製
形状がほぼ球状に近い平均粒子サイズが約17nmのマグネタイト粒子10gを500ccの水に、超音波分散機を用いて、30分間分散させた。この分散液にY/Fe:2.0at%になるように硝酸イットリウムを加えて溶解し、30分間撹拌した。この分散液に、Al/Fe:20.0at%になるようにアルミン酸ナトリウムおよび水酸化ナトリウムの水溶液をpHが7〜8になるように調整しながら滴下し、マグネタイト粒子の表面にアルミニウムおよびイットリウムの水酸化物を被着させた。その後、分散液をろ過し、固形分を水洗した後、空気中110℃で乾燥した。
【0059】
その後、この粉末を水素気流中450℃で6時間、さらに460℃で1時間加熱還元し、粒子内部が鉄で表面がアルミニウムとイットリウムの化合物で被覆されたアルミニウムーイットリウム−鉄系磁性粉末を得た。つぎに、水素ガスを流した状態で、約1時間かけて、140℃まで降温した。140℃に到達した状態で、ガスをアンモニアガスに切り替え、温度を140℃に保った状態で、20時間窒化処理を行った。その後、アンモニアガスを流した状態で、140℃から40℃まで降温し、40℃で、アンモニアガスから酸素と窒素の混合ガスに切り替え、2時間安定化処理を行った。さらに混合ガスを流した状態で温度を60℃まで昇温し、60℃で2時間安定化処理を行った。
【0060】
ついで、混合ガスを流した状態で、60℃から40℃まで降温し、40℃で約24時間保持した後、混合ガスを流した状態で室温まで冷却し、空気中に取り出した。
【0061】
このようにして得られたアルミニウムーイットリウム−窒化鉄系磁性粉末は、そのアルミニウム、イットリウムおよび窒素の含有量を蛍光X線により測定したところ、それぞれ18.1at%、1.8at%および10.3at%であった。また、X線回折パターンより、Fe16相を示すプロファイルを得た。
【0062】
さらに、高分解能分析透過電子顕微鏡で粒子形状を観察したところ、ほぼ球状の粒子で平均粒子サイズが15.5nmであり、内部がFe16構造の窒化鉄で、表面がアルミニウムとイットリウムからなる酸化物層で構成されたコアシェル構造であることがわかった。またBET法により求めた比表面積は、103.2m/gであった。
【0063】
また、この磁性粉末について、1,270kA/m(16kOe)の磁界を印加して測定した飽和磁化は62.4Am/kg(62.4emu/g)、保磁力は175.9kA/m(2,210エルステッド)であった。
【0064】
(B)非磁性粉末の作製
上述した磁性粉末の原料に用いたアルミニウムとイットリウムの水酸化物を被着した、形状がほぼ球状に近い平均粒子サイズが約17nmのマグネタイト粒子を出発物質に使用した。このマグネタイト粒子を、空気中でまず350℃で2時間加熱酸化処理を行い、さらに空気中で400℃で30分間加熱酸化処理を行い、αヘマタイト粒子を作製した。このαヘマタイト粒子は、X線回折からα−Fe構造のαヘマタイトであり、また飽和磁化は1emu/g以下であり、ほとんど非磁性であることを確認した。このαヘマタイト粒子の平均粒子サイズは、18nmであった。
【0065】
(C)磁性塗料の作製
磁性粉末として上記(A)で作製した窒化鉄系磁性粉末を、非磁性粉末として上記(B)で作製したαヘマタイト粒子を使用し、以下の組成の磁性塗料成分をニーダで混練したのち、サンドミルで滞留時間を60分とした分散処理を行い、これにポリイソシアネート(日本ポリウレタン工業社製の「コロネートL」)6重量部を加え、撹拌ろ過して磁性塗料を調製した。
【0066】
(A)で作製したAl−Y−窒化鉄系磁性粉末 49重量部
(B)で作製したαヘマタイト粒子 21重量部
塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合樹脂 15重量部
(含有−SONa基:0.7×10−4当量/g)
ポリエステルポリウレタン樹脂 9重量部
(含有−SONa基:1.0×10−4当量/g)
α−アルミナ(平均粒子サイズ:80nm) 4重量部
シクロヘキサノン 156重量部
トルエン 156重量部
【0067】
(D)下層用塗料の作製
下記の下層用塗料成分をニーダで混練したのち、サンドミルで滞留時間を45分として分散し、下層用塗料を調整した。
【0068】
酸化鉄粉末(平均粒子サイズ:55nm) 70重量部
アルミナ粉末(平均粒子サイズ:80nm) 10重量部
カーボンブラック(平均粒子サイズ:25nm) 20重量部
塩化ビニル−ヒドロキシプロピルメタクリレート共重合樹脂 10重量部
(含有−SONa基:0.7×10−4当量/g)
ポリエステルポリウレタン樹脂 5重量部
(含有−SONa基:1.0×10−4当量/g)
メチルエチルケトン 130重量部
トルエン 80重量部
ミリスチン酸 1重量部
ステアリン酸ブチル 1.5重量部
シクロヘキサノン 65重量部
【0069】
(E)磁気テープの作製
上記下層用塗料を、非磁性支持体であるポリエチレンテレフタレートフイルムに、乾燥およびカレンダ処理後の下層厚さが2μmとなるように塗布し、この上にさらに、上記の磁性塗料を、磁場配向処理、乾燥およびカレンダ処理後の磁性層厚さが100nmとなるように塗布厚さを調整しながら塗布した。
【0070】
つぎに、この非磁性支持体の下塗層および磁性層の形成面とは反対面側に、バックコート塗料を、乾燥およびカレンダ処理後のバックコート層の厚さが700nmとなるように塗布し、乾燥した。バックコート塗料は、下記のバックコート塗料成分を、サンドミルで滞留時間45分で分散したのち、ポリイソシアネート8.5部を加え、撹拌ろ過して調製したものである。
【0071】
カーボンブラック(平均粒子サイズ:25nm) 40重量部
カーボンブラック(平均粒子サイズ:370nm) 1重量部
硫酸バリウム 4重量部
ニトロセルロース 28重量部
ポリウレタン樹脂(SONa基含有) 20重量部
シクロヘキサノン 100重量部
トルエン 100重量部
メチルエチルケトン 100重量部
このようにして得た磁気シートを、5段カレンダ(温度70℃、線圧150kg/cm)で鏡面化処理し、これをシートコアに巻いた状態で、60℃,40%RH下、48時間エージングした。その後、1/2吋幅に裁断した。
【0072】
<実施例2>
実施例1における磁性塗料の作製(C)において、(A)で作製したAlーY−窒化鉄系磁性粉末と(B)で作製したαヘマタイト粒子の割合を、それぞれ49重量部と21重量部から59.5重量部と10.5重量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、磁気テープを作製した。
【0073】
<実施例3>
実施例1における磁性塗料の作製(C)において、(A)で作製したAlーY−窒化鉄系磁性粉末と(B)で作製したαヘマタイト粒子の割合を、それぞれ49重量部と21重量部から35重量部と35重量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、磁気テープを作製した。
【0074】
<実施例4>
実施例1における磁性塗料の作製(C)において、(A)で作製したAlーY−窒化鉄系磁性粉末と(B)で作製したαヘマタイト粒子の割合を、それぞれ49重量部と21重量部から52.5重量部と22.5重量部に、かつ塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合樹脂、ポリエステルポリウレタン樹脂およびポリイソシアネート使用量を、それぞれ15重量部、9重量部および6重量部から、12.5重量部、7.5重量部および5重量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、磁気テープを作製した。
【0075】
<実施例5>
実施例1における磁気テープの作製において、磁場配向処理を省いた以外は、実施例1と同様にして、磁気テープを作製した。
【0076】
<比較例1>
実施例1における磁性塗料の作製において、(A)で作製したAlーY−窒化鉄系磁性粉末と(B)で作製したαヘマタイト粒子の割合を、それぞれ49重量部と21重量部から70重量部と0重量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、磁気テープを作製した。即ち、αヘマタイト粒子を用いることなく、AlーY−窒化鉄系磁性粉末のみを使用して、磁気テープを作製した。
【0077】
<比較例2>
実施例4における磁性塗料の作製において、(A)で作製したAlーY−窒化鉄系磁性粉末と(B)で作製したαヘマタイト粒子の割合を、それぞれ52.5重量部と22.5重量部から75重量部と0重量部に変更した以外は、実施例4と同様にして、磁気テープを作製した。即ち、αヘマタイト粒子を用いることなく、AlーY−窒化鉄系磁性粉末のみを使用して、磁気テープを作製した。
【0078】
上記の実施例1〜5および比較例1、2の各磁気テープについて、下記の要領で磁気特性として長手方向の保磁力(Hc)、角形(Br/Bm)および電磁変換特性を測定した。これらの結果は、表1にまとめて示す。
【0079】
<電磁変換特性の測定>
電磁変換特性は回転ドラム装置を用いて測定した。測定条件は、記録ヘッドとして、
トラック幅:12μm、ギャップ長:0.17μm、Bs:1.2TのMIGヘッドを使用し、再生ヘッドとして、トラック幅が2.5μmのスピンバルブタイプのGMRヘッドを使用した。テープとヘッドの相対速度は3.4mであり、スペクトルアナライザーを使用して250kfciの記録密度における再生出力(S)とブロードバンドノイズ(N)を測定し、SNRを求めた。なお再生出力、ノイズレベルおよびSNRは、比較例1のテープの値を0dBとして、相対値として示した。
【0080】
【表1】

【0081】
実施例1〜5の各磁気テープは、いずれも磁性層中に非磁性粉末であるαヘマタイト粒子を含有しているため、非磁性粉末を含まない比較例1、2の磁気テープに比べて磁束密度が小さくなり、その結果出力も小さくなる。一方、非磁性粉末を含有させることによるノイズ低減の効果は大きく、出力の低下分以上にノイズが低減し、その結果SNRとしては、非磁性粉末を含有させた実施例1〜5の磁気テープは、非磁性粉末を含有しない比較例1、2の磁気テープより高いSNRが得られることがわかる。
【0082】
これは非磁性粉末が、磁性層中で本発明のFe16相を少なくとも含む平均粒子サイズが10〜20nmの粒状の磁性粉末間に介在して、磁性粉末同士の磁気的凝集することによる磁気クラスターの生成を防止すると同時に、磁性塗料作製において、非磁性粒子自身が分散体として作用し、磁性粉末の分散を促進する作用があるためと考えられる。
【0083】
特にこの非磁性粉末を含有させることによるSNRへの効果は、再生ヘッドにGMRヘッドやTMRヘッドのような高感度ヘッドを使用した場合により顕著になる。これは高感度再生ヘッドでは、容易に高出力が得られるが、同時にノイズも高くなるためである。したがって出力向上よりもノイズ低減の効果が大きい本発明の磁気記録媒体は、高感度再生ヘッドにより適した磁気記録媒体であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体上に磁性粉末と結合剤を含有する磁性層を有する磁気記録媒体において、
上記磁性層が磁性粉末と非磁性粉末を含有し、
磁性粉末が鉄および窒素を少なくとも構成元素とし、かつFe16相を少なくとも含む平均粒子サイズが10〜20nmの粒状の磁性粉末であり、非磁性粉末の平均粒子サイズが10〜30nmであり、かつ磁性層に含まれる磁性粉末と非磁性粉末の合計含有量に対する磁性粉末の含有量が40〜90重量%の範囲にあることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
磁性粉末中の鉄に対する窒素の含有量が1.0〜20.0原子%であることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
磁性粉末が窒素とさらに希土類元素、アルミニウム、シリコンの内の少なくとも1種の元素を含有する請求項1もしくは2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
磁性粉末中の希土類元素、アルミニウム、シリコンの内の少なくとも1種の元素の含有量が、鉄に対してそれぞれ0.05〜20.0原子%であることを特徴とする請求項3に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
希類土元素がイットリウム、サマリウム、ネオジムの中から選ばれる少なくともひとつの元素であることを特徴とする請求項4に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
非磁性粉末がヘマタイト(α−Fe)、ゲーサイト(α−FeOOH)アルミナ(Al)、シリカ(SiO)および二酸化チタン(TiO)の中から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
非磁性粉末が粒状であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
非磁性支持体と磁性層の間に、少なくとも1層の無機粉末および結合剤を含有する下塗り層有し、磁性層の厚さが10〜300nmである請求項1〜7のいずれかに記載の磁気記録媒体。

【公開番号】特開2009−26390(P2009−26390A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−189018(P2007−189018)
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】