説明

磁気記録媒体

【課題】微粒子の六方晶系フェライト磁性粉末の本来の低ノイズを実現することにより、高いSNRを達成する高密度記録に適した磁気記録媒体を得る。
【解決手段】磁気記録媒体において、磁性粉末として、板状比が1〜2の範囲にあり、平均粒子サイズが10〜20nmで、かつ保磁力が79.6〜318.4kA/m(1,000〜4,000エルステッド)の範囲に、飽和磁化量が20〜60Am/kg(20〜60emu/g)の範囲にある板状の六方晶系フェライト磁性粉末を含有させる。特に、従来の板状の六方晶系フェライト磁性粉末は板状比の高いものが用いられていたのに対して、板状比が1〜2と小さい六方晶系フェライト磁性粉末を用いる。前記六方晶系フェライト磁性粉末は、バリウムフェライトあるいはストロンチウムフェライトの中から選ばれた少なくとも一種である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体に関し、さらに詳しくは、磁性粉末として六方晶フェライト粉末を用いたデジタルビデオテープ、コンピユータ用のバックアップテープなどの超高密度記録に最適な磁気記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塗布型磁気記録媒体、つまり非磁性支持体上に磁性粉末と結合剤を含有する磁性層を有する磁気記録媒体は、記録再生方式がアナログ方式からデジタル方式への移行に伴い、一層の記録密度の向上が要求されている。とくに、高記録密度用のビデオテープやコンピュータ用のバックアップテープなどにおいては、この要求が、年々、高まってきている。
【0003】
記録密度の向上に不可欠な短波長記録に対応するためには、記録時の厚み損失を小さくするため、磁性層の厚さを200nm以下、特に100nm以下に薄膜化するのが効果的である。このような高記録密度媒体に用いられる再生用磁気ヘッドとしては、高出力が得られるMRヘッドが一般に用いられているが、将来はさらに高感度なGMRヘッドが使用されると考えられる。
【0004】
また、ノイズ低減のため、磁性粉末においては、年々、微粒子化がはかられ、現在、粒子径が45nm程度の針状のメタル磁性粉末が実用化されている。さらに短波長記録時の減磁による出力低下を防止するために、年々、高保磁力化がはかられ、鉄−コバルト合金化により238.9kA/m(3,000エルステッド)程度の保磁力が実現されている(特許文献1−3参照)。しかしながら針状磁性粒子を用いる磁気記録媒体においては、保磁力が粒子の針状形状に基づく形状磁気異方性に依存することから、上記粒子径からのさらに大幅な微粒子化は困難になってきている。
【0005】
即ち針状メタル磁性粉末は、針状形状にすることによる形状磁気異方性により保磁力を発現しているが、微粒子化に伴い必然的に針状比(粒子長さ/幅)が小さくなり、保磁力が低下する。この保磁力の低下は、高記録密度化する上で、致命的な問題となる。このように針状メタル磁性粉末は、微粒子化に伴い保磁力が低下する本質的な問題があり微粒子化に限界がある。
【0006】
そこで、上記針状の磁性粉末とは全く異なる磁性粉末として、板状で、かつ板面に垂直な方向に磁化容易軸を有する六方晶系フェライト磁性粉末が提案されている(特許文献4〜6)。
【0007】
この板状の六方晶系フェライト磁性粉末は、保磁力を結晶磁気異方性に基づいているため、微粒子になっても高い保磁力を維持できるため、高密度記録領域において高い出力と同時にノイズが低く、その結果高いノイズ対出力比(SNR)が得られ高密度記録媒体に適した磁性粉末であることが示されている。
【0008】
【特許文献1】特開平3−49026号公報
【特許文献2】特開平10−83906号公報
【特許文献3】特開平10−34085号公報
【特許文献4】特開平6−290924号公報
【特許文献5】特開2005−340690号公報
【特許文献6】特開2002−298331号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献4〜6の六方晶系フェライト磁性粉末は微粒子でありながら高い保磁力を有するため、高密度記録用の磁性粉末として優れた特性を有する。一方、最近は再生ヘッドの高感度化が著しく、再生出力は高い値が比較的容易に得られるが、同時にノイズ出力も増加するため、結果として高いSNRが得られないなどの問題が発生する。すなわち、このノイズの増加を防止するため磁性粉末の微粒子化が必須となる。六方晶系フェライト磁性粉末は、微粒子化により、粒子1個の計算上の体積は小さいが、粒子が板状形状を有しているため、粒子同士が積層凝集しやすく、その結果、粒子の体積に見合った低ノイズが実現されていないのが現状である。
【0010】
この板状粒子の積層化による磁気凝集力は極めて強く、分散工程での解砕も困難なため、粒子そのものの体積は小さいにも関わらず、十分な低ノイズが実現されていないのが現状である。
【0011】
本発明は、微粒子の六方晶系フェライト磁性粉末の本来の低ノイズを実現することにより、高いSNRを達成する高密度記録に適した磁気記録媒体を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の目的に対し鋭意検討した結果、磁性粉末として、板状比が1〜2の範囲にあり、平均粒子サイズが10〜20nmで、かつ保磁力が79.6〜318.4kA/m(1,000〜4,000エルステッド)の範囲に、飽和磁化量が20〜60Am/kg(20〜60emu/g)の範囲にある板状の六方晶系フェライト磁性粉末が、上述の目的に適合して本来の低ノイズを実現し、高いSNRを達成できることを見出した。特に、従来の板状の六方晶系フェライト磁性粉末は板状比の高いものが用いられていたのに対して、本発明では板状比が1〜2と小さい六方晶系フェライト磁性粉末を用いることに特徴がある。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、磁性粉末として、板状比が1〜2の六方晶系フェライト磁性粉末を使用することにより、板状六方晶系フェライト磁性粉末の欠点であった磁性粉末同士の積層凝集を防止でき、六方晶系フェライト磁性粉末本来の低ノイズを実現し、GMRヘッド等の高感度ヘッドが用いられるシステムにこの磁気記録媒体を適用した場合、高いSNRを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本実施の形態における磁性層は、磁性粉末として、板状比が1〜2の範囲に、平均粒子サイズが10〜20nmの範囲に、保磁力が79.6〜318.4kA/m(1,000〜4,000エルステッド)の範囲に、飽和磁化量が20〜60Am/kg(20〜60emu/g)の範囲にある板状の六方晶系フェライト磁性粉末を含有させたことにより、この磁性粉末本来の低ノイズを実現し、GMRヘッド等の高感度ヘッドが用いられるシステムにこの磁気記録媒体を適用した場合、高いSNRを得ることができる。
【0015】
なお、ここで言う板状比とは、板状粒子の平面方向の最大長さを厚さで割った値(長さ/厚さ)を示す。また平均粒子サイズとは、透過型電子顕微鏡にて撮影した写真の粒子サイズを実測し、300個の平均値により求められる。
【0016】
この六方晶系フェライト磁性粉末の板状比が2より大きいと、磁性粉末同士が積層しやすく、その結果積層した磁性粉末が1個の磁性粉末として挙動する結果、ノイズが高くなる。また板状比が1の磁性粉末は、球状、立法状のものも含む。
【0017】
また六方晶系フェライト磁性粉末の平均粒子サイズは、10nmより小さいと、均一に分散することが困難になり、ノイズ低減の効果は小さくなる。また20nmより大きいと、均一に分散できても、1個の磁性粉末そのもの粒子サイズが大きすぎるため、ノイズが高くなる。
【0018】
また本発明の磁気記録媒体の磁気特性としては、例えば長手配向媒体とする場合には、長手方向の保磁力(Hc)が119.4〜258.2kA/m(1,500〜4,500エルステッド)で、角形比(Br/Bm)は0.65〜0.92で、残留磁化(Mr)と磁性層厚さ(t)の積であるMr・tが0.1〜2.0memu/cmの範囲になるように磁性層厚さと充填度合いを設定すること好ましい。また垂直配向媒体とする場合には、垂直方向の保磁力(Hc)が79.6〜318.4kA/m(1,000〜4,000エルステッド)で、角形比(Br/Bm)は0.60〜0.85で、Mr・tが0.05〜1.5memu/cm2の範囲になるように磁性層厚さと充填度合いを設定することが好ましい。さらに無配向媒体とする場合には、長手方向の保磁力(Hc)が79.6〜318.4kA/m(1,000〜4,000エルステッド)で、角形比(Br/Bm)は0.40〜0.65で、Mr・tが0.08〜1.8memu/cmの範囲になるように磁性層厚さと充填度合いを設定することが好ましい。
【0019】
いずれの配向状態の磁気記録媒体においても、本発明の六方晶系フェライト磁性粉末
を用いることにより、ノイズの低い、高いSNRを有する磁気記録媒体が得られる。
【0020】
上記の六方晶系フェライト磁性粉末としては、バリウムフェライト磁性粉末、及びストロンチウムフェライト磁性粉末からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、特にバリウムフェライト磁性粉末が好ましい。これらの六方晶系フェライト磁性粉末は、大きな磁気異方性を有するため、特に短波長領域で出力の低下を抑えられる特徴がある。上記六方晶系フェライト系磁性粉末は、所定の元素以外にAl、Si、S、Sc、Ti、V、Cr、Cu、Y、Mo、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、Ta、W、Re、Au、Bi、La、Ce、Pr、Nd、P、Co、Mn、Zn、Ni、B、Ge、Nbなどの元素を含んでいてもよい。これらの元素添加は、六方晶系フェライト磁性粉末の粒子サイズや磁気特性を制御する上で必要である。
【0021】
次に本発明の六方晶系フェライト磁性粉末の製造方法について説明するが、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を使用することができる。このような製造方法としては、例えば、六方晶系フェライト磁性粉末の構成元素であるバリウム(Ba)塩かストロンチウム(Sr)塩のいずれか一種以上の金属塩と鉄塩とを含む金属塩の水溶液にアルカリ水溶液を添加して共沈物を作る。次にこの共沈物を水熱処理することによって、六方晶系フェライト磁性粉末のプリカーサを合成する。バリウム塩、ストロンチウム塩、鉄塩としては、これらの金属の塩化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩が好適に使用される。
【0022】
このとき、これらの金属塩と共に、コバルト(Co)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)などの金属イオンを適当量添加することにより、保磁力と同時に粒子サイズを任意に制御できる。特に粒子サイズの小さな六方晶系フェライト磁性粉末を得るためには、これらの金属イオンの添加は不可欠である。
【0023】
またアルカリとしては通常水酸化ナトリウムが使用され、添加する金属塩のモル等量以上で、過剰アルカリ濃度が0.01モル/L以上とするのが好ましい。このアルカリ濃度は、板状比の小さい六方晶系フェライト磁性粉末を得る上で特に重要で、アルカリ濃度が高過ぎると板状比が大きくなる傾向にある。一方アルカリ濃度が低くなると、板状比の小さいものが生成しやすいが、結晶性が低くなり、磁気特性が低下する傾向にある。特に金属塩に対して等量モル以下になると、六方晶系フェライト磁性粉末以外のものが生成しやすくなる。
【0024】
したがって、目的とする板状比が1〜2の六方晶系フェライト磁性粉末を得るには、比較的低いアルカリ濃度で、まず六方晶系フェライト磁性粉末のプリカーサを合成し、その後の熱処理条件により、粒子形状を維持しながら、結晶性を上げて目的とする磁気特性を有する磁性粉末に仕上げることが有効である。
【0025】
水熱処理は、通常オートクレーブを用いて行われ、オートクレーブ中での加熱処理は、200〜350℃で1〜6時間処理することが好ましい。この水熱処理温度が低過ぎると、目的とする形状の六方晶系フェライト磁性粉末のプリカーサが得られず、また高過ぎても特に問題となることはないが、エネルギー効率が悪くなるだけであまり意味がない。また処理時間についても処理温度と同様の傾向で、この処理時間が短か過ぎると、目的とする形状の六方晶系フェライト磁性粉末のプリカーサが得られず、また長過ぎても特に問題となることはないが、エネルギー効率が悪くなるだけであまり意味がない。
【0026】
このようにして作製された六方晶系フェライト磁性粉末のプリカーサは、次に融剤を用いて、融剤の融点以上の温度で加熱処理することにより、溶融した融剤中で六方晶系フェライト磁性粉末が結晶成長して生成する。融剤は六方晶系フェライト磁性粉末を結晶成長させるための母材であると同時に、六方晶系フェライト磁性粉末同士の焼結を防止する。その結果、目的とする粒子形状と磁気特性を有し、かつ粒子サイズ分布のシャープな六方晶系フェライト磁性粉末が得られる。
【0027】
ここで使用される融剤としては、500〜1,000℃で溶融し、かつ六方晶系フェライト粒子と固溶しないものが好ましく使用され、溶融温度がこれより低いものでは六方晶系フェライト粒子の熱処理が不充分となり、六方晶系フェライト粒子の結晶性を充分に向上して、磁気特性を向上させることができない。一方溶融温度が高いものでは融剤中での六方晶系フェライト粒子の結晶成長が顕著になり過ぎて、粒子が粗大化する傾向になる。また六力晶糸フエライト粒子と固溶するものは、飽和磁化量を低下しやすいため好ましくない。このような融剤としては、例えば、ナットリウム(Na)やカリウム(K)、リチウム(Li)の硫酸塩、塩化物、臭化物、沃化物やホウ酸などが好適なものとして使用され、特にNaClやKCl、KBrは水によく溶解するため、加熱処理後、水洗することによりこれらの融剤を除去しやすく、磁性粉末中に不純物として残らないため好ましい。
【0028】
この融剤による加熱処理は、750〜900℃の範囲内の温度で1〜4時間行うのが好ましく、処理温度が低すぎたり、処理時間が短かすぎると、熱処理が不充分となり、六方晶系フェライト磁性粉末の結晶性が充分に向上せず磁気特性の向上も不充分になる。また、処理温度が高すぎたり、処理時間が長すぎると、融剤が粒子表面固着して磁気特性の中でも飽和磁化量をかえって低下させる傾向がある。
【0029】
また他の製造方法として、上述した六方晶系フェライト構成元素と融剤を混合した溶解物を急冷することにより、六方晶系フェライト粒子の成長を抑制し、この急冷物を400〜700℃で加熱処理することにより、融剤中で適度な大きさに六方晶系フェライト粒子に結晶成長させ、その後融剤を溶解除去することにより六方晶系フェライト粒子を得ることもできる。このような方法により、平均粒子サイズが10〜20nmの平板状の六方晶系フェライト磁性粉末を得ることができる。
【0030】
以下に、本発明の磁気記録媒体について説明する。
【0031】
本発明に使用する非磁性支持体としては、従来から使用されている磁気記録媒体用の非磁性支持体をいずれも使用できる。たとえば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類、ポリオレフィン類、セルローストリアセテート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルフオン、アラミド、芳香族ポリアミドなどからなる厚さが通常2〜15μm、特に2〜7μmのプラスチツクフイルムが好ましく用いられる。
【0032】
磁性層の厚さは、長手記録の本質的な課題である減磁による出力低下の問題を解決するため、300nm以下とすることが好ましい。磁性層厚さが300nm以上では、厚さ損失により再生出力が低下したり、残留磁化(Mr)と磁性層厚さ(t)の積であるMr・tが大きくなりすぎて、特に再生ヘッドにGMRヘッドを使用する場合には、再生出力の飽和による再生出力の歪が起こりやすい。一方磁性層厚さが10nm未満では、均一な磁性層が得られにくい。
また磁気特性としては、例えば長手配向媒体とする場合には、長手方向の保磁力(Hc)が119.4〜258.2kA/m(1,500〜4,500エルステッド)で、角形比(Br/Bm)は0.65〜0.92で、残留磁化(Mr)と磁性層厚さ(t)の積であるMr・tが0.1〜2.0memu/cmの範囲になるように磁性層厚さと充填度合いを設定すること好ましい。また、垂直配向媒体とする場合には、垂直方向の保磁力(Hc)が79.6〜318.4kA/m(1,000〜4,000エルステッド)で、角形比(Br/Bm)は0.60〜0.85で、Mr・tが0.05〜1.5memu/cmの範囲になるように磁性層厚さと充填度合いを設定することが好ましい。さらに無配向媒体とする場合には、長手方向の保磁力(Hc)が79.6〜318.4kA/m(1,000〜4,000エルステッド)で、角形比(Br/Bm)は0.40〜0.65で、Mr・tが0.08〜1.8memu/cmの範囲になるように磁性層厚さと充填度合いを設定することが好ましい。
これらの保磁力範囲が好ましいのは、保磁力が低過ぎると、短波長領域で反磁界による減磁により出力低下が起こりやすくなり、また保磁力が高過ぎると、磁気ヘッドによる記録が困難になるためである。またMr・tは、上記の範囲より小さいと、GMRヘッドのような高感度ヘッドを使用した場合でも再生出力が小さく、また上記の範囲より大きいと、GMRヘッドのような高感度ヘッドを使用した場合に、出力が飽和して歪みやすくなるためである。
いずれの配向状態の磁気記録媒体においても、本発明の板状比が1〜2の低板状比の六方晶系フェライト磁性粉末を使用することにより、この磁性粉末本来の低ノイズが得られ、その結果高いSNRが得ることができる。
【0033】
また、磁性層の平均面粗さとしては、Raが1.0〜3.2nmの範囲が好ましく、この範囲のときにヘッドとのコンタクトがよくなり、高いSNRが得られる。一方Raがこの範囲以下になると、ヘッドの張り付きなどにより摺動性が低下する傾向があり、またこの範囲以上では、ヘッドのコンタクトが悪くなり出力が低下しやすくなる。
また磁性層には、導電性向上と表面潤滑性向上を目的にカーボンブラックや、研磨性向上を目的にアルミナ等を含ませることが好ましい。このカーボンブラックやアルミナとしては従来公知のものを使用できる。
【0034】
下塗層は必須の構成要素ではないが、耐久性の向上を目的として、非磁性支持体と磁性層との間に設けることが好ましい。下塗層の厚さとしては、0.1〜3.0μmが好ましく、0.1μm以下では、磁気テープの耐久性が悪くなる場合があり、3.0μm以上では、磁気テープの耐久性の向上効果が飽和するばかりでなく、テープ全厚が厚くなって、1巻当りのテープ長さが短くなり、記憶容量が小さくなる。
【0035】
下塗層に含ませる無機粒子としては特に限定されるものではないが、例えば非磁性の酸化鉄を用いる場合には、針状のものでは平均長さが50〜200nmのものが好ましく、粒状または無定形のものでは平均粒径5〜200nmのものが好ましく用いられる。また、磁性層を垂直配向して垂直記録媒体として使用する場合には、下塗層には磁性粒子を使用することが好ましい。この際、磁性粒子の種類に特に限定はなく酸化鉄、金属あるいは合金が使用できるが、磁性層からの磁束を下塗層で閉じて、表面からのみ強い磁束を発生させることが目的であるため、下塗層に使用する磁性粒子はできるだけ保磁力が小さく、かつ飽和磁化の大きいものが好ましい。
また、さらに垂直記録媒体として使用する場合には、下塗層の磁性層と、信号記録するための上層の磁性層との間に、さらに中間層を形成することもできる。この中間層は、上層と下塗層間の磁気的相互作用を制御し、垂直磁化成分をより有効に活用するために有効である。
【0036】
下塗層、磁性層に使用する結合剤は特に限定されるものではなく、通常磁気記録媒体に使用されているものが使用できる。例えば、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、塩化ビニル−ビニルアルコール共重合樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合樹脂、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合樹脂などの塩化ビニル系樹脂、ニトロセルロース、エポキシ樹脂などの中から選ばれる少なくとも1種と、ポリウレタン樹脂との組み合わせがある。とくに、塩化ビニル系樹脂とポリウレタン樹脂とを併用するのが好ましい。
またこれらの結合剤とともに、結合剤中に含まれる官能基などと結合させて架橋する熱硬化性の架橋剤を併用するのが望ましい。この架橋剤としては、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどや、これらのイソシアネート類とトリメチロールプロパンなどの水酸基を複数個有するものとの反応生成物、上記イソシアネート類の縮合生成物などの各種のポリイソシアネートが好ましい。
【0037】
磁性層、下塗層に含ませる潤滑剤には、従来公知の脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アミドなどがいずれも用いられる。その中でも、炭素数10以上、好ましくは12〜30の脂肪酸と、融点35℃以下、好ましくは10℃以下の脂肪酸エステルとを併用するのが、特に好ましい。
【0038】
バックコート層は、必須の構成要素ではないが、磁気テープの場合、非磁性支持体の磁性層形成面の反対面にバックコート層を形成するのが望ましい。バックコート層の厚さは、0.2〜0.8μmが好ましく、0.3〜0.8μmがより好ましい。この範囲が好ましいのは、0.2μm未満では走行性の向上効果が不十分で、0.8μmを超えるとテープ全厚が厚くなり、1巻当たりの記憶容量が小さくなるためである。
【0039】
磁性塗料、下塗塗料、バックコート塗料の調製にあたり、溶剤としては、従来から使用されている有機溶剤をすべて使用することができる。たとえば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶剤、アセトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの炭酸エステル系溶剤、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶剤などを使用でき、その他、ヘキサン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミドなどの各種の有機溶剤が用いられる。
【0040】
磁性塗料、下塗塗料、バックコート塗料の調製にあたり、従来から公知の塗料製造工程を使用でき、とくにニーダなどによる混練工程や一次分散工程を併用するのが好ましい。一次分散工程では、サンドミルを使用することにより、磁性粉末などの分散性の改善とともに、表面性状を制御できるので、望ましい。
【0041】
また、非磁性支持体上に、磁性塗料、下塗塗料、バックコート塗料を塗布する際には、グラビア塗布、ロール塗布、ブレード塗布、エクストルージヨン塗布などの従来から公知の塗布方法が用いられる。とくに、下塗塗料および磁性塗料の塗布方法は、非磁性支持体上に下塗塗料を塗布し乾燥したのちに磁性塗料を塗布する、逐次重層塗布方法か、下塗塗料と磁性塗料とを同時に塗布する、同時重層塗布方法(ウェットオンウェット)かのいずれを採用してもよい。塗布時における薄層磁性層のレベリングを考えると、下塗塗料が湿潤状態のうちに磁性塗料を塗布する、同時重層塗布方式を採用するのがとくに好ましい。
【0042】
以下、本発明の実施例を記載して、より具体的に説明する。なお、以下において部とあるのは重量部を意味するものとする。また磁性粉末として使用する六方晶系フェライト磁性粉末として、一般式BaO・6FeOで表されるバリウムフェライト磁性粉末を用いた例について説明するが、バリウムフェライト磁性粉末に限定されるものではないことは、言うまでもない。
【実施例1】
【0043】
<バリウムフェライト磁性粉末の作製>
1モルの塩化第二鉄と、1/8モルの塩化バリウムおよび1/20モルの塩化コバルトと1/20モルの塩化チタンを1Lの水に溶解した混合溶液を、2.8モルの水酸化ナトリウムを溶解した1Lの水酸化ナトリウム水溶液に加えて攪拌した。次いでこの一懸濁液を1日間熟成した後、沈機物をオートクレーブ中に入れ、250℃で4時間、加熱反応させてバリウムフェライトのプリカーサを得た。
【0044】
このバリウムフェライトプリカーサをpHが8以下になるまで十分に水洗した後、バリウムフェライトプリカーサを含む全体の容量が1Lになるように沈降させて懸濁液を作り、上澄液を除去した後、この懸濁液中に融剤として500gのNaClを添加して攪拌し、溶解した。次に、このNaClを溶解したバリウムフェライトプリカーサの懸濁液を面積の広いハツトに入れ、乾燥機で100℃に加熱して、水を蒸発させた。
【0045】
このようにして得られたバリウムフェライトプリカーサとNaClの混合物を解砕し混合したものを坩堝に入れ、まず830℃で20分間加熱して融剤であるNaClを溶解し、次に温度を800℃まで下げ、800℃で約10時間加熱処理し、その後、室温まで冷却した。次に、水洗によりNaClを溶解して除去し、バリウムフェライト磁性粉末を取り出した。得られたバリウムフェライト磁性粉末は、板状比が約1.5で平均粒子サイズが16nmであった。
【0046】
また、このバリウムフェライト磁性粉末について、1,270kA/m(16,000エルステッド)の磁界を印加して測定した飽和磁化は37.4Am2/kg(37.4emu/g)、保磁力は137.7kA/m(1,730エルステッド)であった。
<磁性塗料の作製>
磁性粉末として上記のバリウムフェライト磁性粉末を使用し、以下の組成の磁性塗料成分をニーダで混練したのち、サンドミルで滞留時間を60分とした分散処理を行い、これにポリイソシアネート(日本ポリウレタン工業社製の「コロネートL」)5重量部を加え、撹拌ろ過して磁性塗料を調製した。
【0047】
バリウムフェライト磁性粉末 74重量部
塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合樹脂 13重量部
(含有-SONa基:0.7×10-4当量/g)
ポリエステルポリウレタン樹脂 8重量部
(含有-SONa基:1.0×10-4当量/g)
α−アルミナ(平均粒径:80nm) 4重量部
シクロヘキサノン 156重量部
トルエン 156重量部
<下層用塗料の作製>
下記の下層用塗料成分をニーダで混練したのち、サンドミルで滞留時間を45分として分散し、下層用塗料を調整した。
【0048】
酸化鉄粉末(平均粒径:55nm) 70重量部
アルミナ粉末(平均粒径:80nm) 10重量部
カーボンブラツク(平均粒径:25nm) 20重量部
塩化ビニル−ヒドロキシプロピルメタクリレート共重合樹脂 10重量部
(含有-SONa基:0.7×10-4当量/g)
ポリエステルポリウレタン樹脂 5重量部
(含有-SONa基:1.0×10-4当量/g)
メチルエチルケトン 130重量部
トルエン 80重量部
ミリスチン酸 1重量部
ステアリン酸ブチル 1.5重量部
シクロヘキサノン 65重量部
<磁気テープの作製>
上記下層用塗料を、非磁性支持体であるポリエチレンテレフタレートフイルムに、乾燥およびカレンダ処理後の下層厚さが2μmとなるように塗布し、この上にさらに、上記の磁性塗料を、磁場配向処理、乾燥およびカレンダ処理後の磁性層厚さが120nmとなるように塗布厚さを調整しながら塗布した。
【0049】
つぎに、この非磁性支持体の下塗層および磁性層の形成面とは反対面側に、バツクコート層用塗料を、乾燥およびカレンダ処理後のバツクコート層の厚さが700nmとなるように塗布し、乾燥した。バツクコート層用塗料は、下記のバツクコート塗料成分を、サンドミルで滞留時間45分分散したのち、ポリイソシアネート8.5部を加え、撹拌ろ過して調製したものである。
【0050】
カーボンブラツク(平均粒径:25nm) 40重量部
カーボンブラツク(平均粒径:370nm) 1重量部
硫酸バリウム 4重量部
ニトロセルロース 28重量部
ポリウレタン樹脂(-SONa基含有) 20重量部
シクロヘキサノン 100重量部
トルエン 100重量部
メチルエチルケトン 100重量部
このようにして得た磁気シートを、5段カレンダ(温度70℃、線圧150kg/cm)で鏡面化処理し、これをシートコアに巻いた状態で、60℃,40%RH下、48時間エージングした。その後、1/2インチ幅に裁断した。
【実施例2】
【0051】
実施例1におけるバリウムフェライト磁性粉末の作製において、塩化コバルトと塩化チタンの添加量を共に1/20モルから1/15モルに、さらに水酸化ナトリウムの添加量を2.8モルから2.5モルに変更し、水熱処理温度を250℃で4時間から、300℃で4時間に変更してバリウムフェライト磁性粉末のプリカーサを作製した。このプリカーサの融剤中での処理条件を、まず830℃で20分間加熱して融剤であるNaClを溶解した後、次に温度を820℃まで下げ、820℃で約10時間加熱処理に変更した以外は、実施例1と同条件でバリウムフェライト磁性粉末を作製した。
【0052】
このバリウムフェライト磁性粉末は、板状比が約1.1で平均粒子サイズが14nmのほぼ立法形状であった。また、このバリウムフェライト磁性粉末の飽和磁化は35.1Am2/kg(35.1emu/g)、保磁力は125.8kA/m(1,580エルステッド)であった。このバリウムフェライト磁性粉末を用いて、実施例1と同様にして、磁気テープを作製した。
【実施例3】
【0053】
実施例1におけるバリウムフェライト磁性粉末の作製において、水酸化ナトリウムの添加量を2.8モルから、3.5モルに、さらに水熱処理温度を250℃で4時間から、230℃で4時間に変更してバリウムフェライト磁性粉末のプリカーサを作製した。このプリカーサの融剤中での処理条件を、まず830℃で20分間加熱して融剤であるNaClを溶解した後、次に温度を780℃まで下げ、780℃で約10時間加熱処理に変更した以外は、実施例1と同条件でバリウムフェライト磁性粉末を作製した。
【0054】
このバリウムフェライト磁性粉末は、板状比が約1.8で平均粒子サイズが17nmであった。また、このバリウムフェライト磁性粉末の飽和磁化は39.1Am2/kg(39.1emu/g)、保磁力は149.6kA/m(1,880エルステッド)であった。このバリウムフェライト磁性粉末を用いて、実施例1と同様にして、磁気テープを作製した。
(比較例1)
実施例1におけるバリウムフェライト磁性粉末の作製において、水酸化ナトリウムの添加量を2.8モルから、5.0モルに、さらに水熱処理温度を250℃で4時間から、280℃で4時間に変更してバリウムフェライト磁性粉末のプリカーサを作製した。このプリカーサの融剤中での処理条件を、まず830℃で20分間加熱して融剤であるNaClを溶解した後、次に温度を780℃まで下げ、780℃で約10時間加熱処理に変更した以外は、実施例1と同条件でバリウムフェライト磁性粉末を作製した。
【0055】
このバリウムフェライト磁性粉末は、板状比が約5で平均粒子サイズが23nmの平板状であった。また、このバリウムフェライト磁性粉末の飽和磁化は42.3Am/kg(42.3emu/g)、保磁力は157.6kA/m(1,980エルステッド)であった。このバリウムフェライト磁性粉末を用いて、実施例1と同様にして、磁気テープを作製した。
【0056】
上記の実施例1〜3および比較例1の各磁気テープについて、下記の要領で磁気特性として長手方向の保磁力(Hc)、角形比(Br/Bm)および電磁変換特性を測定した。これらの結果は、表1にまとめて示す。
<電磁変換特性の測定>
電磁変換特性は回転ドラム装置を用いて測定した。測定条件は、記録ヘッドとして、
トラック幅:12μm、ギャップ長:0.15μm、Bs:1.2TのMIGヘッドを使用し、再生ヘッドとして、トラック幅が2.5μmでSH−SH幅が0.15μmのスピンバルブタイプのGMRヘッドを使用した。テープとヘッドの相対速度は3.4m/秒であり、スペクトルアナライザーを使用して169kfciの記録密度における再生出力(S)とブロードバンドノイズ(N)を測定し、SNRを求めた。なお再生出力、ノイズレベルおよびSNRは、比較例1のテープの値を0dBとして、相対値として示した。
【0057】
【表1】

【0058】
実施例1〜3の各磁気テープは、バリウムフェライト磁性粉末として板状比が1〜2の低板状比の磁性粉末を用いており、板状比が5と大きいバリウムフェライト磁性粉末を用いた比較例1の磁気テープに比べて配向性に劣るため出力は低い。しかし出力の低下以上にノイズ低減の効果が大きく、結果として比較例1の磁気テープに比べて高いSNRが得られる。これは本発明のバリウムフェライト磁性粉末の板状比が小さいため、粒子同士が積層して凝集しにくく、その結果個々の粒子が持つ本来の低いノイズが実現されているためである。
【0059】
一方比較例1の磁気テープは、従来の板状比の大きいバリウムフェライト磁性粉末を用いており、比較的高い出力が得られる反面、粒子の積層凝集によるノイズが増加し、結果として高いSNRを得られない。
【0060】
以上のように本発明は、磁性粉末として、板状比が1〜2の範囲に、平均粒子サイズが10〜20nmの範囲にある低板状比の六方晶系フェライト磁性粉末を用いることにより、板状磁性粉末の課題である積層凝集を防止しすることにより、ノイズを低減させることができ、その結果、大きなSNRを得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体上に磁性粉末と結合剤を含有する磁性層を有する磁気記録媒体において、磁性粉末として、板状比が1〜2の範囲に、平均粒子サイズが10〜20nmの範囲に、保磁力が79.6〜318.4kA/m(1,000〜4,000エルステッド)の範囲に、飽和磁化量が20〜60Am/kg(20〜60emu/g)の範囲にある板状の六方晶系フェライト磁性粉末を含有させたことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気記録媒体において、前記六方晶系フェライト磁性粉末がバリウムフェライトあるいはストロンチウムフェライトの中から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の磁気記録媒体において、前記非磁性支持体と前記磁性層の間に、少なくとも一層の無機粉末および結合剤を含有する下塗り層有し、前記磁性層の厚さが0.3μm以下であることを特徴とする磁気記録媒体。

【公開番号】特開2011−181116(P2011−181116A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−135248(P2008−135248)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】