説明

磁界センサ

【課題】空隙の磁束密度を高精度に測定することができる磁界センサを提供する。
【解決手段】フィルム型サーチコイル1は、絶縁フィルム2と、絶縁フィルム2の表面に固着し、両端を電気的に開放状態としたループ状のコイル3とを備える。このフィルム型サーチコイル1を、モータの空隙21に挿入し、絶縁フィルム2の裏面を空隙側面に接着剤等で貼着することで、コイル3を支持し配置位置を規定する。そして、コイル3に鎖交する被測定磁束の変化に応じてコイル3の両端に発生する誘導起電圧を測定し、測定した誘導起電圧に基づいて空隙磁束を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁機器における磁界の測定、特にモータや空隙付きコイル等の空隙における磁束の測定を行うための磁界センサに関する。
【背景技術】
【0002】
図7は、従来の磁界センサを示す斜視図である。この磁界センサは、モータのステータにおける歯およびヨークに鎖交する鎖交磁束を検出するものであり、この図7では、モータ鉄心の1つの歯及びヨークを抜き出して示している。
【0003】
図7に示すように、モータ鉄心110の一部である歯111とヨーク112とに、それぞれ磁界センサとしてサーチコイルA,Bを巻回している。この磁界センサは、コイルに鎖交する磁束Φの時間変化dΦ/dtとコイルの両端に発生する電圧(コイル電圧)Vとが下記(1)式に示す関係にあることを利用して、この(1)式を変形した(2)式に基づき、測定したコイル電圧Vから鎖交磁束、すなわち歯およびヨークを通る磁束Φを検出可能となっている。
V=N(dΦ/dt) ………(1)
Φ=(1/N)∫Vdt ………(2)
ここで、Nはコイルの巻数である。
【0004】
また、コイルの断面積をSとし、コイル鎖交磁束がコイル断面に直交するものとみなすと、コイルに鎖交する磁束密度の平均値Baveは次式により求められる。
Bave=Φ/S ………(3)
上記(3)式は、磁束、磁束密度の平均値、およびコイルの断面積の関係を示す一般式であり、図7に示す例では歯やヨークにおいても同様に成り立つ。
したがって、サーチコイルAの両端に発生する電圧Vyと、サーチコイルBの両端に発生する電圧Vtとに基づいて、上記(2)及び(3)式をもとに、歯111及びヨーク112の磁束密度がそれぞれ得られる。
【0005】
一般に、電磁機器の磁性コア(鉄心)の磁束密度は重要な設計事項である。すなわち、鉄心は磁束密度が高まると磁気飽和に至り、電磁機器の特性が非線形となって好ましくない場合が多い。
【0006】
一方、電磁機器の機能を実現するためには所定の磁束が必要であるため、磁束密度が低過ぎる場合には、上記(3)式から分かる通り、所定の磁束を得るために断面積Sを増大させなければならず、結果として電磁機器の大型化を招く。また、磁性コア内部で磁束が時間的に変化すると、いわゆるコアロス(鉄損)が発生するが、コアロスは磁束密度の増加に対して単調増加する。
【0007】
以上により、電磁機器の設計においては、磁気飽和が問題にならないレベルでコアロスが許容値に収まるように、適切に磁束密度を設定する必要がある。なお、磁気飽和のレベルは、通常の電磁鋼板では概ね1.5〜1.7T程度である。
【0008】
近年、電磁機器の磁束密度は、有限要素法等による磁界解析で詳細に算定することが可能となっている。ただし、磁束密度の大きさは、磁界解析では考慮することが困難な諸要素、例えば鉄心にかかる応力、鉄心の変形、鉄心の磁気特性の非線形性の影響を受けるため、完全に磁界解析で実機の状況を再現することは困難であり、実機での磁束密度の評価の必要性は高い。
【0009】
また、電磁機器の中には、例えばモータや空隙付きコイルのように、鉄心に空隙が存在するものがある。空隙の磁束密度も電磁機器の性能に与える影響は大きいため、この空隙磁束密度の測定も望まれる。
電動機の空隙近傍の歯部の磁束密度を検出する先行技術として、例えば特許文献1に記載の技術がある。この技術は、固定子歯の先端部にサーチコイルを巻きつけて、空隙磁束密度分布を検出するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭55−106056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1に記載のサーチコイルでは、固定子歯の先端部にコイルを巻きつける構成であるため、モータの空隙の磁束密度を精度良く測定することはできない。
空隙の磁束密度を高精度に測定するためには、図8に示すように、空隙121にコイル100を配置する必要がある。ところが、空隙は1mm以下の小さい幅になる場合が多いため、コイルを配置する上で構造的な制約が大きい。また、鉄心のような強固な支持物体として利用可能なものが存在しないため、サーチコイルの支持が難しい。
【0012】
サーチコイルの位置と形状を厳密に定めなければ、測定したコイル鎖交磁束がどの部位のものであるかを特定できないため、測定の意義が著しく損なわれる。したがって、コイルを確実に支持し、位置を固定する方法が問題となっている。
そこで、本発明は、空隙の磁束密度を高精度に測定することができる磁界センサを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、請求項1に係る磁界センサは、絶縁体のフィルムと、該フィルムの表面に固着し、両端を電気的に開放状態としたループ状の導体線とを備え、前記導体線に鎖交する被測定磁束の変化に応じて前記導体線の両端に発生する誘導起電圧に基づいて、前記被測定磁束を測定することを特徴としている。
また、請求項2に係る磁界センサは、請求項1に係る発明において、前記フィルムの裏面を、前記被測定磁束の通る空隙側面に貼着可能に構成されていることを特徴としている。
【0014】
さらに、請求項3に係る磁界センサは、請求項1又は2に係る発明において、前記導体線は、前記開放状態とした導体開部と対向する導体部を短辺とした長方形状の略コの字形に形成されており、前記被測定磁束の磁束密度分布が空間的に一定である一方向と、前記長方形状の長辺に相当する導体部が延在する方向とが一致し、前記一方向に直交し前記磁束密度分布が空間的に変化する方向と、前記長方形状の短辺に相当する導体部が延在する方向とが一致するように配置することを特徴としている。
【0015】
また、請求項4に係る磁界センサは、請求項1〜3の何れかに係る発明において、前記フィルムの表面に、複数個の同一形状の前記導体線を、前記開放状態とした導体開部がそれぞれ同一方向を向くように、連続的に所定の間隔で固着することを特徴としている。
さらにまた、請求項5に係る磁界センサは、請求項1〜3の何れかに係る発明において、前記フィルムの表面に、複数個の同一形状の前記導体線を、前記開放状態とした導体開部がそれぞれ同一方向を向き、且つ互いに隣接する前記導体線でループの一部を共有化するように、連続的に隙間無く固着することを特徴としている。
【0016】
また、請求項6に係る磁界センサは、請求項4又は5に係る発明において、前記同一形状の導体線が所望の個数となるように、前記フィルムを切断して使用されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明の請求項1に係る発明によれば、磁束の変化に応じて誘導起電圧を発生する導体線を、絶縁体のフィルムに固着した構成とするので、薄い磁界センサを実現することができる。そのため、モータの空隙のような比較的小さい隙間にも挿入することができ、構造的な制約が大きい箇所の磁束測定を精度良く行うことができる。
また、請求項2に係る発明によれば、フィルムの裏面を空隙側面に貼着可能とするので、導体線を簡便確実に支持することができると共に、導体線の位置の規定を適切に行うことができる。その結果、空隙磁束の測定を精度良く行うことができる。
【0018】
さらに、請求項3に係る発明によれば、磁束密度分布が空間的に一定である一方向と、長辺に相当する導体部が延在する方向とが一致するように配置するので、導体部に発生する誘起電圧を大きくすることができ、出力信号のS/N比を改善することができる。また、磁束密度分布が空間的に変化する方向と、短辺に相当する導体部が延在する方向とが一致するように配置するので、この方向の磁束密度測定の分解能を高めることができる。このように、磁束密度測定を精度良く行うことができる。
【0019】
また、請求項4に係る発明によれば、フィルム上に、複数個の同一形状の導体線を連続的に並べて形成するので、磁界センサの製造工程を複雑化することなく、磁束密度分布を高精度に測定する磁界センサとすることができる。
さらにまた、請求項5に係る発明によれば、フィルム上に、複数個の同一形状の導体線を連続的に隙間無く並べて形成するので、磁束密度分布測定の分解能を高めることができる。
【0020】
また、請求項6に係る発明によれば、フィルム型サーチコイルを必要に応じて切り出して使用することができる。このとき、切り出した分と残りの分が両方センサとして使用可能であるため、センサの共通化、コストの低減、及び資源の有効利用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す図である。
【図2】本発明の第2の実施形態を示す図である。
【図3】モータの空隙の周方向における磁束密度変化を示す図である。
【図4】本発明の第3の実施形態を示す図である。
【図5】第3の実施形態の変形例を示す図である。
【図6】本発明の応用例を示す図である。
【図7】従来例を示す斜視図である。
【図8】従来例の課題を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
(第1の実施形態)
(構成)
図1は、本発明における磁界センサの一実施形態を示す図である。
図中、符号1は本実施形態における磁界センサとしてのフィルム型サーチコイルである。このフィルム型サーチコイル1は、薄い絶縁フィルム2の表面に、コイル(導体線)3を固着した構成である。
【0023】
絶縁フィルム2の材料としてはポリイミド等を用い、一般的な厚さである数10μmのものを用いる。
また、絶縁フィルム2へのコイル3の固着は、例えば、フィルム全面に接着された導体の箔、例えば銅箔の上にコイル3のパターンをマスキングした後、エッチングすることで達成できる。これは、プリント配線板の製造技術に他ならない。なお、導体パターンを印刷により形成する技術を適用することもできる。
【0024】
いずれにせよ、携帯電話などの小型機器に用いられるプリント配線板の製造技術をもって、図1のフィルム型サーチコイル1を形成することが可能となる。
プリント配線板の製造技術において、配線位置の精度はマスキングや印刷の精度で規定され、その精度は一般に10μm程度である。したがって、この製造技術をもってフィルム型サーチコイル1を形成すると、コイル3の形状寸法についても10μm程度の精度を実現できる。
【0025】
ここで、コイル3の形状はループ状とし、その両端を電気的に開放状態とする。
なお、コイル3の形状は、その両端が電気的に開放されたループ状であれば、図1に示す形状に限定されない。
また、絶縁フィルム2の裏面(コイル3が固着された面とは反対側の面)は接着面となっており、例えば、絶縁フィルム2の裏面に接着剤を塗布したり、絶縁フィルム2の裏面に貼着した両面テープのセパレータを剥離して粘着面を露出したりすることで、被測定磁束の通る所望の箇所に当該裏面を貼着することが可能となっている。これにより、フィルム型サーチコイル1を確実に支持し、コイル3の配置位置を規定することができる。
【0026】
(動作)
次に、第1の実施形態の動作について説明する。
先ず、図1に示すフィルム型サーチコイル1を、被測定磁束が通る所望の箇所(空隙や空間等)に配置する。
本実施形態のフィルム型サーチコイル1は、薄い絶縁フィルム2の表面にコイル3を固着した構成であるため、比較的薄い構造を実現できる。そのため、サーチコイルを配置する上で構造的な制約が大きいような箇所にも、容易に配置することができる。
【0027】
コイル3のループ部に時間的に変化する磁束が鎖交すると、コイル3の両端には電圧が誘起される。このとき、コイル3の両端に誘起される電圧Vを測定し、測定した電圧Vに基づいて、上記(2)式をもとに上記ループに鎖交する磁束Φを得る。
このようにして、所望の箇所における磁束Φの測定が可能となる。
また、得られた磁束Φとコイル3の断面積Sとに基づいて、上記(3)式をもとにコイル3に鎖交する磁束密度Baveが得られる。
【0028】
(効果)
このように、上記第1の実施形態では、薄く、コイルの形状寸法が高精度なサーチコイルが実現可能である。そのため、モータの空隙のような小さい隙間にも挿入可能となり、そこでの磁束を精度良く測定することができる。
【0029】
また、フィルムの裏面を接着剤等で所望の箇所に貼り付けることが可能であるため、コイルの支持が簡便確実であり、所望の位置にサーチコイルを配置することができる。
さらに、フィルム上に形成された導体パターン(コイル)の上に更にフィルムを重ねて導体両面の絶縁を設けたり、フィルムと導体とが複数の層を成すように積層して巻数を増やしたりするなどのバリエーションも可能である。
【0030】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
この第2の実施形態は、上述した第1の実施形態におけるフィルム型サーチコイル1で、モータの空隙の磁束密度を測定するようにしたものである。
【0031】
(構成)
図2は、本発明の第2の実施形態を示す図である。ここで、図2(a)は、フィルム型サーチコイル1の配置図、図2(b)は、フィルム型サーチコイル1の詳細図である。
なお、以下の説明では、モータの回転方向を単に周方向、モータの回転軸方向を単に軸方向と称す。
【0032】
図2(a)において、符号11はモータのステータにおける歯、符号12はヨークである。そして、フィルム型サーチコイル1は、空隙21における所定位置Aの磁束密度を測定する。
フィルム型サーチコイル1は、絶縁フィルム2の裏面を接着剤等で空隙側面に貼り付けることで、空隙21内に配置する。
【0033】
モータの空隙の磁束密度は、モータの回転軸方向および径方向については空間的に略等しくなることが知られている。したがって、モータの空隙の磁束密度について必要な情報は、主に周方向の変化である。そのため、位置Aの周方向前後をコイル3が囲むように、フィルム型サーチコイル1を配置する。
【0034】
ここで、フィルム型サーチコイル1のコイル3は、図2(b)に示すように略「コの字」形とする。このとき、コイル3は、周方向幅ができるだけ狭くなるように形成すると共に、軸方向幅ができるだけ長くなるように形成する。すなわち、コイル3は、電気的に開放状態とした導体開部と対向する導体部を短辺とし、当該短辺に直交する2本の平行導体部を長辺とする長方形状のコの字形とする。
【0035】
そして、上記短辺が延在する方向と周方向とを一致又は略一致させると共に、上記長辺が延在する方向と軸方向とを一致又は略一致させるように、フィルム型サーチコイル1を空隙21に配置する。
【0036】
(動作)
次に、第2の実施形態の動作について説明する。
先ず、図2(b)に示すフィルム型サーチコイル1を、図2(a)に示す空隙21に、位置Aの周方向前後をコイル3が囲むように配置する。
そして、コイル3の両端に誘起される電圧Vを測定し、測定した電圧Vに基づいて、上記(2)式をもとにコイル3のループに鎖交する磁束Φを得る。次に、得られた磁束Φと、コイルの断面積Sとに基づいて、上記(3)式をもとに磁束密度Baveを算出する。このようにして、空隙21内の位置Aにおける磁束密度の測定が可能となる。
【0037】
本実施形態では、コイル3の周方向幅ができるだけ狭くなるように形成しているため、位置Aの磁束密度を高精度に測定することができる。以下、この点について説明する。
図3は、モータの空隙の周方向における磁束密度変化を示す図である。
この図3に示すように、磁束密度の周方向成分は空間的に変化するため、サーチコイルの幅の内部でも均一にはならない。
【0038】
ここで、周方向幅が比較的狭く設定された狭幅サーチコイルαと、周方向幅が比較的広く設定された広幅サーチコイルβとで、それぞれ空隙磁束密度を測定した場合について考える。この場合、狭幅サーチコイルαでは検出値としてB(α)、広幅サーチコイルβでは検出値としてB(β)をそれぞれ得る。
このとき、検出値B(α)は、狭幅サーチコイルαのコイル幅で決まる区間Z(α)における各位置の磁束密度の平均値となる。同様に、検出値B(β)は、広幅サーチコイルβのコイル幅で決まる区間Z(β)における各位置の磁束密度の平均値となる。
【0039】
したがって、サーチコイルのコイル幅が狭いほど、磁束密度の周方向の分解能が高まることになる。
ところが、サーチコイルの周方向幅(コイル幅)を狭くすると、コイルの断面積が減るため、鎖交磁束も減る。すると、上記(1)式より、コイルに誘起される電圧も低下し、結果として信号のS/N比が悪化する。
【0040】
そこで、本実施形態では、空隙21の磁束密度が軸方向で空間的に等しいことを利用し、図2(b)に示すように、軸方向に長いサーチコイルを形成する。
磁束密度分布が軸方向で等しい場合には、コイル3の誘起電圧はコイル3の軸方向長(長辺の長さ)に比例する。そのため、コイル3の軸方向長が長いほどコイル3の誘起電圧が大きくなってS/N比が改善する。また、コイル3の軸方向長を長くしても、上記(3)式により、鎖交磁束Φをコイル3の断面積Sで除算して磁束密度Baveに変換する際に精度が劣化しない。
【0041】
(効果)
このように、上記第2の実施形態では、モータの空隙でサーチコイルを確実に支持することができると共に、当該空隙の磁束密度を適切に測定することができる。
また、コイルの形状を略コの字形とし、コイルの周方向幅をできるだけ狭く形成するので、空隙における所望の位置の磁束密度を高精度に測定することができる。さらに、コイルの軸方向幅をできるだけ広く形成するので、S/N比を改善し、磁束密度の測定精度を確保することができる。
【0042】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
この第3の実施形態は、上述した第1の実施形態におけるフィルム型サーチコイル1で、モータの空隙における周方向の磁束密度分布を測定するようにしたものである。
【0043】
(構成)
図4は、本発明の第3の実施形態におけるフィルム型サーチコイル1の詳細図である。
この図4に示すように、1枚の絶縁フィルム2上に、複数個の略コの字形のコイル3を、導体開部がそれぞれ同一方向を向くように、連続的に所定の間隔で形成する。このとき、互いに隣接するコの字形コイル3の長辺が平行又は略平行になるように形成する。
【0044】
ここで、絶縁フィルム2上に形成するコの字形コイル3の個数は、磁束密度分布を測定する領域の広さに応じて決定する。
そして、このように形成されたフィルム型サーチコイル1を、モータの空隙に配置する。
【0045】
(動作)
次に、第3の実施形態の動作について説明する。
先ず、図4に示すフィルム型サーチコイル1を、モータの空隙に配置する。このとき、フィルム型サーチコイル1は、前述した第2の実施形態と同様に、コの字形コイル3の短辺が延在する方向が周方向と一致し、コの字形コイル3の長辺が延在する方向が軸方向と一致するように配置する。
【0046】
そして、絶縁フィルム2上に複数形成した各コの字形コイル3の両端にそれぞれ誘起される電圧Vを、同時に測定する。測定した電圧Vに基づいて、それぞれ上記(2)式をもとに各コの字形コイル3のループに鎖交する磁束Φを得る。次に、得られた磁束Φと、コイルの断面積Sとに基づいて、それぞれ上記(3)式をもとに磁束密度Baveを算出する。
このようにして、空隙内の周方向の磁束密度分布の時系列データを得ることができる。
【0047】
(効果)
このように、上記第3の実施形態では、絶縁フィルム上に複数個のコの字形コイルを並べて形成するので、モータの空隙の磁束密度分布を測定することができる。このとき、コの字形コイル相互間の距離を高精度に管理することができるため、当該磁束密度分布を高精度に測定することができる。
さらに、その製造工程は、絶縁フィルム上に単一のコの字形コイルを形成する場合と同様であるため、製造工程を複雑化することがない。
【0048】
(変形例)
なお、上記第3の実施形態においては、複数個のコの字形コイル3を所定の間隔で配置する場合について説明したが、図5に示すように配置することもできる。すなわち、1枚の絶縁フィルム2の表面に、複数個のコの字形コイル3を、導体開部がそれぞれ同一方向を向き、且つ互いに隣接するコの字形コイル3の長辺を共有化するように、連続的に隙間なく配置する。
【0049】
一般に、サーチコイルの端子は測定する周波数にて実質的に開放状態で電圧を測定するため、サーチコイルには当該周波数の電流は流れないものと見なせる。したがって、隣接するコの字形コイル3が長辺を共有化しても、個々のサーチコイルの端子電圧は相互に影響を受けない。すなわち、図5に示すような構成とした場合、各コの字形コイルが鎖交する磁束に応じた誘起電圧をそれぞれ発生することができる。
【0050】
これにより、図4に示す構成の場合と比べて、周方向磁束密度分布を隙間なく測定することが可能となり、磁束密度分布測定の周方向位置に関する分解能を大幅に高めることができる。
【0051】
(応用例)
なお、上記各実施形態においては、予め複数のループ状(コの字形)コイルが並べて形成された絶縁フィルムを、必要に応じて切り出して使用することが可能である。
図6は、本発明におけるフィルム型サーチコイルの応用例を示す図である。
【0052】
図6(a)に示すように、絶縁フィルム2の表面に、複数個のコの字形コイル3が所定の間隔で固着されたフィルム型サーチコイル1の場合には、隣接するコの字形コイル3の間のフィルム部を、コの字形コイル3の長辺と平行に破線Sで切断する。
また、図6(b)に示すように、絶縁フィルム2の表面に、複数個のコの字形コイル3が互いに隣接する長辺を共有化して固着されたフィルム型サーチコイル1の場合には、隣接するコの字形コイル3の長辺の間のフィルム部を、コの字形コイル3の長辺と平行に破線Sで切断する。このとき、絶縁フィルム2の切断によってコの字形コイル3の短辺が1つ切断されることになるが、サーチコイルの誘起電圧に影響を与えないことは明らかである。
【0053】
上記のように、1つのフィルム型サーチコイル1を2つに切断し分離した場合、切り出した分と残りの分の両方がセンサとして使用可能である。したがって、片方を廃棄する等の無駄は生じない。
このような使用法を適用することで、予め多数の同一形状のコイル3を連続的に並べて形成したフィルム型サーチコイル1を生産しておき、使用する個数だけコイル3をユーザが切り出して用いることができる。
【0054】
例えば、上述した第2の実施形態のように、モータの空隙における所定位置Aの磁界を測定する場合には、図6(a)に示すフィルム型サーチコイル1から、コの字形コイル3を1つだけ切り出して用いればよい。また、上述した第3の実施形態のように、モータの空隙における磁束密度分布を測定する場合には、図6(b)に示すフィルム型サーチコイル1からコの字形コイル3を必要な分だけ複数切り出して用いればよい。
【0055】
これにより、センサの共通化が測れ、コスト低減、資源の有効利用が可能となる。
また、上記各実施形態においては、フィルム型サーチコイル1でモータの磁束を測定する場合について説明したが、モータ以外の電磁機器の磁束測定にも利用可能である。
【符号の説明】
【0056】
1…フィルム型サーチコイル、2…絶縁フィルム、3…コイル(コの字形コイル)、11…歯、12…ヨーク、21…空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁体のフィルムと、該フィルムの表面に固着し、両端を電気的に開放状態としたループ状の導体線とを備え、
前記導体線に鎖交する被測定磁束の変化に応じて前記導体線の両端に発生する誘導起電圧に基づいて、前記被測定磁束を測定することを特徴とする磁界センサ。
【請求項2】
前記フィルムの裏面を、前記被測定磁束の通る空隙側面に貼着可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の磁界センサ。
【請求項3】
前記導体線は、前記開放状態とした導体開部と対向する導体部を短辺とした長方形状の略コの字形に形成されており、
前記被測定磁束の磁束密度分布が空間的に一定である一方向と、前記長方形状の長辺に相当する導体部が延在する方向とが一致し、前記一方向に直交し前記磁束密度分布が空間的に変化する方向と、前記長方形状の短辺に相当する導体部が延在する方向とが一致するように配置することを特徴とする請求項1又は2に記載の磁界センサ。
【請求項4】
前記フィルムの表面に、複数個の同一形状の前記導体線を、前記開放状態とした導体開部がそれぞれ同一方向を向くように、連続的に所定の間隔で固着していることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の磁界センサ。
【請求項5】
前記フィルムの表面に、複数個の同一形状の前記導体線を、前記開放状態とした導体開部がそれぞれ同一方向を向き、且つ互いに隣接する前記導体線でループの一部を共有化するように、連続的に隙間無く固着していることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の磁界センサ。
【請求項6】
前記同一形状の導体線が所望の個数となるように、前記フィルムを切断して使用されることを特徴とする請求項4又は5に記載の磁界センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−22070(P2011−22070A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168837(P2009−168837)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】