説明

磁界検出素子の製造方法

【課題】薄膜磁性体に対する所定の角度による静磁界中でのアニーリング条件を適切に定めて所望の角度に一軸磁気異方性を付加して目的の特性を持つ素子を迅速且つ効率良く作製可能とする磁界検出素子の製造方法を提供すること。
【解決手段】このアニーリング工程では、薄膜磁性体1の一軸磁気異方性方向と長軸方向との成す角度をθとすべく、磁性体1に係る飽和磁化M,磁化飽和時の磁界H,長軸反磁界係数N,短軸反磁界係数N,外部磁界Hext,真空透磁率μの条件下でsinθcosθ−cosθsinθ−{(N−N)M/(μext)}sinθcosθ=0を満たすような長軸方向との成す角度θにあって、外部磁界HextをHext≧{H+2(M/μ)H(Ncosθ+Nsinθ)+(M/μ(Ncosθ+Nsinθ)}1/2の関係を満たすように印加してアニーリングする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として薄膜磁気インピーダンス型磁界検出素子を作製するための一過程にあって、薄膜磁性体に対して静磁界中でアニーリングにより一軸磁気異方性を付加するアニーリング工程を含む磁界検出素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、長軸と短軸とを持つ薄膜磁気インピーダンス型磁界検出素子を作製するためのプロセスには、素子の短軸方向に一軸磁気異方性を付加するため、薄膜磁性体に対して静磁界中でアニーリングにより一軸磁気異方性を付加するアニーリング工程があり、これによって巨大な磁気インピーダンス効果が発生し、磁界検出素子としての機能を持つようになる。従って、アニーリング工程におけるアニーリング条件は、薄膜磁気インピーダンス型磁界検出素子を設計する上で非常に重要な項目の一つとなっている。
【0003】
一軸磁気異方性の方向は磁界検出素子の特性を決定する重要なパラメータの1つであり、例えば一軸磁気異方性の方向が素子の長軸方向に対して20度以上で70度以下であれば、低バイアス磁気インピーダンス型磁界検出素子になること(特許文献1参照)、0度以上で30度以下であれば、高直線性・低バイアス型磁気インピーダンス型磁界検出素子になること(特許文献2参照)が示されている。即ち、現行の薄膜磁気インピーダンス型磁界検出素子を作製するプロセスでは、素子の短軸方向にほぼ平行に磁界を印加してアニーリングを行い、短軸方向の長さ/膜厚で定義されるアスペクト比を変えることにより一軸磁気異方性の方向を制御している。
【0004】
その他、アニーリングに関連する周知技術として、素子の長軸方向に対して45度の角度を成す一軸磁気異方性を付加するために、長軸方向に対して45度の角度を成す静磁界中でアニーリングを行うものもある(特許文献3,4参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2003−130932号公報(要約)
【特許文献2】特開2003−282995号公報(特許請求の範囲における請求項1乃至請求項3)
【特許文献3】特開2001−281309号公報(特許請求の範囲における請求項6)
【特許文献4】特開2001−281310号公報(特許請求の範囲における請求項5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1や特許文献2の記載内容を含めた従来の薄膜磁気インピーダンス型磁界検出素子を作製するプロセスの場合、薄膜磁性体に対して静磁界中でアニーリングして一軸磁気異方性を付加する工程を含んでいるが、実際にはアニーリング後に磁区観察を行って初めて一軸磁気異方性の方向を知ることができるものであるため、所望の角度に一軸磁気異方性を付加しようとするとアスペクト比を変えて試行錯誤して試作を行う工程を繰り返さなければならず、煩雑で手間がかかり過ぎるという難点がある他、素子のインピーダンス値がスペックとして決められていると従来では素子の長さを変えることによってのみ決められたインピーダンス値が得られるため、インピーダンス値によっては小型化への妨げとなるという難点もある。
【0007】
一方、特許文献3,4に係るアニーリング関連の技術の場合、反磁界の影響を小さくするために素子の短軸を長くすることにより、外部磁界の印加方向と同じ方向に一軸磁気異方性を付加しているが、この手法により作製される磁気検出素子は、短軸が長くなってしまうことにより小型化に不向きとなってしまうばかりでなく、素子インピーダンスを高くすることができないために駆動電力が高くなってしまうという欠点がある。又、ここで反磁界を無視できる程度に大きな外部磁界を印加することにより、外部磁界の印加方向と同じ方向に一軸磁気異方性を付加する手法も考えられるが、こうした手法によれば、外部磁界を印加するためのコイルが大型化されてしまい、消費電力が大きくなってしまうという難点がある。
【0008】
本発明は、このような問題点を解決すべくなされたもので、その技術的課題は、薄膜磁性体に対する所定の角度による静磁界中でのアニーリング条件を適切に定めて所望の角度に一軸磁気異方性を付加して目的の特性を持つ素子を迅速且つ効率良く作製可能とする磁界検出素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、長軸と短軸とを持つ薄膜磁性体に対して静磁界中でのアニーリングにより一軸磁気異方性を付加するアニーリング工程を含む磁界検出素子の製造方法において、アニーリング工程では、薄膜磁性体における一軸磁気異方性の方向と長軸の方向との成す角度を所望の角度θとするために、該薄膜磁性体における構成物質の飽和磁化をM,磁化が飽和するときの磁界をH,長軸の反磁界係数をN,短軸の反磁界係数をNとすると共に、外部磁界をHextとし、且つ真空の透磁率をμとした条件下でsinθcosθ−cosθsinθ−{(N−N)M/(μext)}sinθcosθ=0を満たすような該薄膜磁性体における該長軸の方向とのなす角度θにあって、該外部磁界HextをHext≧{H+2(M/μ)H(Ncosθ+Nsinθ)+(M/μ(Ncosθ+Nsinθ)}1/2なる関係が満たされるように印加しながらアニーリングする磁界検出素子の製造方法が得られる。
【0010】
又、本発明によれば、上記磁界検出素子の製造方法において、アニーリング工程では、所望の角度θを得るために薄膜磁性体の比透磁率をμとした条件下でtanθ={Ny(μ−1)+1}/{N(μ−1)+1}tanθを満たすような該薄膜磁性体における長軸の方向とのなす角度θにあって、外部磁界HextをHext<{H+2(M/μ)H(Ncosθ+Nsinθ)+(M/μ2(cosθ+Nsinθ)}1/2なる関係が満たされるように印加しながらアニーリングする磁界検出素子の製造方法が得られる。
【発明の効果】
【0011】
本発明による磁界検出素子の製造方法の場合、アニーリング工程で薄膜磁性体に対して一軸磁気異方性を付加するために行う静磁界中でのアニーリング時に所定の方程式で規定される角度で磁界印加しながらアニーリングすることにより、所望の方向に一軸磁気異方性を付加でき、しかも予め一軸磁気異方性の方向が判るために目的の特性を示す小型の磁界検出素子を迅速且つ効率良く容易に作製可能となる。しかも、長軸の長さだけでなく、短軸の長さや膜厚を変えることによって決められたインピーダンス値を達成できるため、素子を小型化することが容易である。又、本発明による磁界検出素子の製造方法は、磁界検出素子の短軸方向の長さが短い程有効であるため、磁界検出素子を小型化することができる。更に、本発明による磁界検出素子の製造方法は、外部磁界が小さい程有効であるため、外部磁界発生用のコイルを小型化し、システム全体を簡素化できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の最良の形態に係る磁界検出素子の製造方法は、従来技術のアニーリング工程における問題点を克服するもので、薄膜磁性体に対して一軸磁気異方性を付加するために行う静磁界中でのアニーリング時に所定の方程式で規定される角度で磁界印加しながらアニーリングするもので、予め一軸磁気異方性の方向が判ることにより目的の特性を持つ磁界検出素子を迅速且つ効率良く作製できるものである。
【0013】
その技術的概要は、アニーリング工程において、薄膜磁性体における一軸磁気異方性の方向と長軸の方向との成す角度を所望の角度θとするために、薄膜磁性体における構成物質の飽和磁化をM,磁化が飽和するときの磁界をH,長軸の反磁界係数をN,短軸の反磁界係数をNとすると共に、外部磁界をHextとし、且つ真空の透磁率をμとした条件下でsinθcosθ−cosθsinθ−{(N−N)M/(μext)}sinθcosθ=0を満たすような薄膜磁性体における長軸の方向とのなす角度θにあって、外部磁界HextをHext≧{H+2(M/μ)H(Ncosθ+Nsinθ)+(M/μ(Ncosθ+Nsinθ)}1/2なる関係が満たされるように印加しながらアニーリングするものである。又、ここでのアニーリング工程において、所望の角度θを得るために薄膜磁性体の比透磁率をμとした条件下でtanθ={N(μ−1)+1}/{N(μ−1)+1}tanθを満たすような薄膜磁性体における長軸の方向とのなす角度θにあって、外部磁界HextをHext<{H+2(M/μ)H(Ncosθ+Nsinθ)+(M/μ(Ncosθ+Nsinθ)}1/2なる関係が満たされるように印加しながらアニーリングするものである。
【0014】
そこで、以下は静磁界中でのアニーリング時に磁界印加する角度を定めるための技術的概要について説明する。
【0015】
図1は、本発明の磁界検出素子の製造方法で適用される磁界検出素子を成す薄膜磁性体1の基本構造(形状)を示した斜視図である。又、図2は、この薄膜磁性体1に作用する外部磁界Hext,実効磁界Heff,反磁界Hの関係を説明するために要部を部分的に拡大して示した一主面側の長手方向における平面図である。
【0016】
この薄膜磁性体1は、図1に示されるように外観寸法がa,b,cのx軸方向に延びた矩形板状のもので、図2に示されるように、所定の角度θで外部磁界Hextを印加すると、磁性体内部に発生する反磁界Hの影響により外部磁界Hextと内部に印加される磁界である実効磁界Heffの長軸方向に対する傾きθとが異なってしまう。即ち、ここでは実効磁界Heffとほぼ同じ方向に付加される一軸磁気異方性の方向は外部磁界Hextの方向と一致しないことを示している。
【0017】
図2中では、それぞれベクトルを表わすものとしてHeff=Hext+Hとなり、又薄膜磁性体1における磁化M,反磁界係数Nと真空の透磁率μとの関係で成立するH(ベクトル)=−NM(ベクトル)/μからHeff(ベクトル)=Hext(ベクトル)−NM(ベクトル)/μとなる。ここで、長軸方向をx方向,短軸方向をy方向として成分表示すると、薄膜磁性体1における長軸の反磁界係数をN,短軸の反磁界係数をNとした条件下ではHeffcosθ=Hextcosθ−(NM/μ)cosθなる関係式1と、Heffsinθ=Hextsinθ−(NM/μ)sinθなる関係式2とが得られる。
【0018】
又、磁化Mは、外部磁界Hextと薄膜磁性体における構成物質の飽和磁化M,比透磁率μ,磁化が飽和するときの磁界Hとの関係において、Hext≧H+Hの場合にはM=Mなる関係式3と、Hext<H+Hの場合にはM=μ(μ−1)Heffなる関係式4とが得られる。
【0019】
静磁界中でのアニーリングによって実効磁界Heffの方向に一軸磁気異方性が付加されることにより、薄膜磁性体内部にx方向に対してθだけ傾いた一軸磁気異方性を付加するためには上述した関係式1,関係式2,関係式3からHext≧H+Hの場合、即ち、外部磁界HextがHext≧{H+2(M/μ)H(Ncosθ+Nsinθ)+(M/μ(Ncosθ+Nsinθ)}1/2なる関係のときには、sinθcosθ−cosθsinθ−{(N−N)M/(μext)}sinθcosθ=0なる関係式5を満たす角度θで外部磁界Hextを印加しながらアニーリングすれば良い。
【0020】
又、関係式1,関係式2,関係式4からHext<H+Hの場合、即ち、外部磁界HextがHext<{H+2(M/μ)H(Ncosθ+Nsinθ)+(M/μ(Ncosθ+Nsinθ)}1/2なる関係のときには、tanθ={N(μ−1)+1}/{N(μ−1)+1}tanθなる関係式6を満たす角度θで外部磁界Hextを印加しながらアニーリングすれば良い。
【0021】
ここで、N,Nは、例えばPhys.Rev.67351(1945)に記載されている回転楕円体近似による方法、即ち、N={cosφcosθ/(sinθsinα)}{F(k,θ)−E(k,θ)},N={cosφcosθ/(sinθsinαcosα)}{E(k,θ)−F(k,θ)cosα−sinαsinθcosθ/cosφ}として計算できる。但し、ここではcosθ=c/a(0≦θ≦π/2),cosφ=b/a(0≦φ≦π/2),sinα={1−(b/a)}/{1−(c/a)}=sinφ/sinθ=k(0≦α≦π/2)が成立するものとしており、a,b,cが薄膜磁性体1の各辺を表わし、且つa≧b≧c≧0の関係にあるものとし、F(k,θ)とE(k,θ)とがそれぞれ第一種楕円関数と第二種楕円関数とを示すものとする。
【0022】
尚、本発明の磁界検出素子の製造方法は、磁性体と非磁性体とを交互に積層した薄膜磁性体においても有効である。この場合、計算には積層した薄膜磁性体の飽和磁化,磁化が飽和するときの磁界の値を用いる。又、本発明の磁界検出素子の製造方法は、磁界検出素子を短軸方向に複数本間隔をあけて並設した構造においても適用可能である。
【0023】
以下は、本発明の磁界検出素子の製造方法について、幾つかの実施例を挙げ、より具体例に説明する。尚、各実施例で関係式5及び関係式6に示されるものの計算は、アニーリング温度と同じ400℃におけるCoNbZr系アモルファス合金の飽和磁化0.52[wb/m],磁化が飽和するときの磁界1.6×10[A/m]の条件を適用した。薄膜磁性体1の材料にはCoNbZr系アモルファス合金を用い、アルゴンガス雰囲気下のRFスパッタ法によりガラス基板上に成膜した後、リフトオフ法でパターニングするものとする(尚、このパターニングはイオンミリング法によっても可能である)。その後、成膜中に付与された一軸磁気異方性を無くするため、成膜後に回転磁界中アニーリング(外部磁界を40[kA/m],温度を400℃,時間を2時間とする条件下)を行い、更に所望の方向に一軸磁気異方性を付加するために静磁界中でのアニーリング(外部磁界を40[kA/m],80[kA/m],240[kA/m]の何れか一つ,温度を400°C,時間を1時間とする条件下)を行うものとする。但し、ここでは図2に示されるように、薄膜磁性体1の長軸方向に対してθの角度で外部磁界Hextを印加しながら400℃の真空中でアニーリングし、一軸磁気異方性の方向は磁壁が傾いた方向と一致すると考えられるために薄膜磁性体1の長軸方向に対する磁壁の傾きを磁区観察結果から測定して関係式5に示されるもので計算した結果と比較した。又、磁区観察は、磁性コロイド溶液を用いたビッター法で行った。
【実施例1】
【0024】
実施例1では、磁界検出素子の薄膜磁性体1のサイズをa=1000μm,b=20μm,c=2.0μmであるとし、この場合において、上述したPhys.Rev.67351(1945)に記載の回転楕円体近似による方法で計算した長軸と短軸との反磁界係数とはそれぞれ0.0002と0.0908とである。
【0025】
図3は、実施例1に係る磁界検出素子(薄膜磁性体1)の製造に際してアニーリング工程で印加される異なる外部磁界Hextにあっての入射の角度θ(外部磁界Hextと長軸方向との成す角)に対する素子内部の所望する一軸磁気異方性の角度θ(実効磁界Heffと長軸方向との成す角)との関係を計算結果(実線で示されるもの)と実験結果(黒丸印で示されるもの)とで対比して示したもので、同図(a)は外部磁界Hext=40[kA/m]の場合に関するもの,同図(b)は外部磁界Hext=80[kA/m]の場合に関するもの,同図(c)は外部磁界Hext=240[kA/m]の場合に関するものである。
【0026】
図3(a)〜(c)において、外部磁界Hextの値である40[kA/m],80[kA/m],240[kA/m]は、何れも関係式5に当て嵌まるものであるが、各図からは実験結果と関係式5により計算した計算結果とがほぼ良好に一致していることが判る。
【実施例2】
【0027】
実施例2では、磁界検出素子の薄膜磁性体1のサイズをa=1000μm,b=50μm,c=2.0μmであるとし、この場合において、上述したPhys.Rev.67351(1945)に記載の回転楕円体近似による方法で計算した長軸と短軸との反磁界係数とはそれぞれ0.0004と0.0382とである。
【0028】
図4は、実施例4に係る磁界検出素子(薄膜磁性体1)の製造に際してアニーリング工程で印加される異なる外部磁界Hextにあっての入射の角度θ(外部磁界Hextと長軸方向との成す角)に対する素子内部の所望する一軸磁気異方性の角度θ(実効磁界Heffと長軸方向との成す角)との関係を計算結果(実線で示されるもの)と実験結果(黒三角印で示されるもの)とで対比して示したもので、同図(a)は外部磁界Hext=40[kA/m]の場合に関するもの,同図(b)は外部磁界Hext=80[kA/m]の場合に関するもの,同図(c)は外部磁界Hext=240[kA/m]の場合に関するものである。
【0029】
図4(a)〜(c)において、外部磁界Hextの値である40[kA/m],80[kA/m],240[kA/m]についても、何れも関係式5に当て嵌まるものであるが、各図からは実験結果と関係式5により計算した計算結果とがほぼ良好に一致していることが判る。
【実施例3】
【0030】
実施例3では、磁界検出素子の薄膜磁性体1のサイズをa=1000μm,b=100μm,c=2.0μmであるとし、この場合において、上述したPhys.Rev.67351(1945)に記載の回転楕円体近似による方法で計算した長軸と短軸との反磁界係数とはそれぞれ0.0006と0.0192とである。
【0031】
図5は、実施例3に係る磁界検出素子(薄膜磁性体1)の製造に際してアニーリング工程で印加される異なる外部磁界Hextにあっての入射の角度θ(外部磁界Hextと長軸方向との成す角)に対する素子内部の所望する一軸磁気異方性の角度θ(実効磁界Heffと長軸方向との成す角)との関係を計算結果 (実線で示されるもの)と実験結果(黒四角印で示されるもの)とで対比して示したもので、同図(a)は外部磁界Hext=40[kA/m]の場合に関するもの,同図(b)は外部磁界Hext=80[kA/m]の場合に関するもの,同図(c)は外部磁界Hext=240[kA/m]の場合に関するものである。
【0032】
図5(a)〜(c)において、外部磁界Hextの値である40[kA/m],8.0[kA/m],240[kA/m]についても、何れも関係式5に当て嵌まるものであるが、各図からは実験結果と関係式5により計算した計算結果とがほぼ良好に一致していることが判る。
【実施例4】
【0033】
実施例4では、磁界検出素子の薄膜磁性体1のサイズをa=200μm,b=100μm,c=2.0μmであるとし、この場合において、上述したPhys.Rev.67351(1945)に記載の回転楕円体近似による方法で計算した長軸と短軸との反磁界係数とはそれぞれ0.0086と0.0136とである。
【0034】
実施例4に係る磁界検出素子(薄膜磁性体1)の製造に際して、アニーリング時に16[kA/m]の外部磁界Hextを印加する場合、一軸磁気異方性の角度θが0度以上で90度以下の領域では、外部磁界HextがHext≧{H+2(M/μ)H(Ncosθ+Nsinθ)+(M/μ(Ncosθ+Nsinθ)}1/2であることにより、角度θを計算するためには関係式5を用いる。この関係式5を用いて所望の一軸磁気異方性の角度θ(実効磁界Heffと長軸方向との成す角)を得ることができる外部磁界Hextの印加角度θ(外部磁界Hextと長軸方向との成す角)を計算したところ、表1に示すような結果となった。
【0035】
【表1】

【0036】
又、静磁界中でのアニーリング時に3.2[kA/m]の外部磁界Hextを印加する場合、一軸磁気異方性の角度θが0度以上で90度以下の領域では、外部磁界HextがHext<{H+2(M/μ)H(Ncosθ+Nsinθ)+(M/μ(Ncosθ+Nsinθ)}1/2であることにより、角度θを計算するためには関係式6を用いる。ここでの薄膜磁性体1は、磁化が飽和していない実効磁界Heffの領域(Heff<H)で磁化が実効磁界Heffにほぼ比例しており、M=(M/H)Heffなる関係式7が得られる。従って、関係式4,関係式6,関係式7からtanθ={(N+μ)/(N+μ)}tanθなる関係式8が得られる。この関係式8を用いて所望の一軸磁気異方性の角度θ(実効磁界Heffと長軸方向との成す角)を得ることができる外部磁界Hextの印加角度θ(外部磁界Hextと長軸方向との成す角)を計算したところ、表2に示すような結果となった。
【0037】
【表2】

【実施例5】
【0038】
実施例5では、磁界検出素子の薄膜磁性体1のサイズをa=500μm,b=100μm,c=2.0μmであるとし、この場合において、上述したPhys.Rev.67351(1945)に記載の回転楕円体近似による方法で計算した長軸と短軸との反磁界係数とはそれぞれ0.0030と0.0078とである。
【0039】
実施例5に係る磁界検出素子(薄膜磁性体1)の製造に際して、アニーリング時に2.4[kA/m]の外部磁界Hextを印加する場合、一軸磁気異方性の角度θが0度以上で37度以下の領域では、外部磁界HextがHext≧{H+2(M/μ)H(Ncosθ+Nsinθ)+(M/μ(Ncosθ+Nsinθ)}1/2であることにより、角度θを計算するためには関係式5を用いる。又、一軸磁気異方性の角度θが37度超過で90度以下の領域では、外部磁界HextがHext<{H+2(M/μ)H(Ncosθ+Nsinθ)+(M/μ(Ncosθ+Nsinθ)}1/2であることにより、角度θを計算するためには関係式8を用いる。そこで、関係式6,関係式8を用いて所望の一軸磁気異方性の角度θ(実効磁界Heffと長軸方向との成す角)を得ることができる外部磁界Hextの印加角度θ(外部磁界Hextと長軸方向との成す角)を計算したところ、表3に示すような結果となった。
【0040】
【表3】

【0041】
以上に説明した各実施例を対比すれば、本発明による磁界検出素子の製造方法の場合、磁界検出素子(薄膜磁性体1)の短軸の長さが短い程有効であるために磁界検出素子(薄膜磁性体1)を小型化することができると共に、外部磁界Hextが小さい程有効であるために外部磁界Hextを発生するためのコイルを小型化することが容易であり、システム全体を簡素化できる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の磁界検出素子の製造方法は、地磁気センサ,紙幣判別機,過電流検知機等に利用されている細線構造の磁界検出素子を製造する方法としての適用が有効である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の磁界検出素子の製造方法で適用される磁界検出素子を成す薄膜磁性体1の基本構造(形状)を示した斜視図である。
【図2】図1に示す薄膜磁性体に作用する外部磁界,実効磁界,反磁界の関係を説明するために要部を部分的に拡大して示した一主面側の長手方向における平面図である。
【図3】実施例1に係る磁界検出素子の製造に際してアニーリング工程で印加される異なる外部磁界にあっての入射の角度に対する素子内部の所望する一軸磁気異方性の角度との関係を計算結果(実線で示されるもの)と実験結果(黒丸印で示されるもの)とで対比して示したもので、(a)は外部磁界が一形態の場合に関するもの,(b)は外部磁界が他形態の場合に関するもの,(c)は外部磁界が別形態の場合に関するものである。
【図4】実施例2に係る磁界検出素子の製造に際してアニーリング工程で印加される異なる外部磁界にあっての入射の角度に対する素子内部の所望する一軸磁気異方性の角度との関係を計算結果(実線で示されるもの)と実験結果(黒三角印で示されるもの)とで対比して示したもので、(a)は外部磁界が一形態の場合に関するもの,(b)は外部磁界が他形態の場合に関するもの,(c)は外部磁界が別形態の場合に関するものである。
【図5】実施例3に係る磁界検出素子の製造に際してアニーリング工程で印加される異なる外部磁界にあっての入射の角度に対する素子内部の所望する一軸磁気異方性の角度との関係を計算結果(実線で示されるもの)と実験結果(黒四角印で示されるもの)とで対比して示したもので、(a)は外部磁界が一形態の場合に関するもの,(b)は外部磁界が他形態の場合に関するもの,(c)は外部磁界が別形態の場合に関するものである。
【符号の説明】
【0044】
1 薄膜磁性体
a 長軸の長さ
b 短軸の長さ
c 膜厚
反磁界
ext 外部磁界
eff 実効磁界
θ 外部磁界と長軸方向との成す角
θ 実効磁界と長軸方向との成す角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長軸と短軸とを持つ薄膜磁性体に対して静磁界中でのアニーリングにより一軸磁気異方性を付加するアニーリング工程を含む磁界検出素子の製造方法において、前記アニーリング工程では、前記薄膜磁性体における前記一軸磁気異方性の方向と前記長軸の方向との成す角度を所望の角度θとするために、該薄膜磁性体における構成物質の飽和磁化をM,磁化が飽和するときの磁界をH,長軸の反磁界係数をN,短軸の反磁界係数をNとすると共に、外部磁界をHextとし、且つ真空の透磁率をμとした条件下でsinθcosθ−cosθsinθ−{(N−N)M/(μext)}sinθcosθ=0を満たすような該薄膜磁性体における該長軸の方向とのなす角度θにあって、該外部磁界HextをHext≧{H+2(M/μ)H(Ncosθ+Nsinθ)+(M/μ(Ncosθ+Nsinθ)}1/2なる関係が満たされるように印加しながらアニーリングすることを特徴とする磁界検出素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の磁界検出素子の製造方法において、前記アニーリング工程では、前記所望の角度θを得るために前記薄膜磁性体の比透磁率をμとした条件下でtanθ={N(μ−1)+1}/{N(μ−1)+1}tanθを満たすような該薄膜磁性体における前記長軸の方向とのなす角度θにあって、前記外部磁界HextをHext<{H+2(M/μ)H(Ncosθ+Nsinθ)+(M/μ(Ncosθ+Nsinθ)}1/2なる関係が満たされるように印加しながらアニーリングすることを特徴とする磁界検出素子の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−93202(P2006−93202A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−273220(P2004−273220)
【出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【出願人】(591074736)宮城県 (60)
【Fターム(参考)】