説明

磁界測定調整装置

【課題】3軸センサの支持位置と角度調整もしくは磁界測定値の補正のための磁界を形成する。
【解決手段】Y軸を間に挟んで、互いに鏡像の関係になるように、磁石片を支持するための回転テーブル56を備える。回転テーブル56は、Y軸に直角に交わる公転軸芯70に垂直な支持面57を持つ。磁石片は、回転テーブルの支持面に着脱可能な支持台50により支持されている。支持台50はY軸と公転軸芯70を通る面に平行な対向面63と、回転テーブル56の支持面57に平行で対向面63に直角に交わる一対の支持側面65を有する。これら一対の支持側面65のうちのいずれの面を支持面57に接するように支持台56を支持しても、自転軸芯78が対向面63の同一位置にあるように、支持台50を支持面57に固定する位置決め機構(64と66)を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高精度に3軸方向の磁界を測定するために使用される磁界測定調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、永久磁石が設計どおりのバタンに着磁されているかどうかを確認するために、磁気センサが使用される。この磁気センサをプローブ先端に取り付けて、測定対象物近傍の磁界を精密に測定するための装置が開発されている(特許文献1参照)(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−286723号公報
【特許文献2】特開2009−168724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
既知の従来の技術には、次のような解決すべき課題があった。
例えば、3軸方式の磁気センサは一辺が50ミクロン程度の素子で、数ミリメートル幅の棒状の基板先端付近に搭載されている。この棒状の基板に磁気検出出力取り出し用の電極を取り付け、保護用の樹脂を被覆したものが磁気測定用プローブである。磁界測定機構中でこのプローブの先端を移動させて、測定対象物の近傍磁界を3次元的に測定する。
【0005】
しかしながら、磁界測定機構中で設定された3軸に対して、磁気センサの検出素子の想定する測定系の3軸とが一致しないと、測定値に誤差が生じる。その調整に使用する磁界の形成が非常に重要になる。
上記の課題を解決するために、本発明は、3軸方向の磁界を精密に測定する磁界測定機構の調整のために使用する、磁気測定調整装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下の構成はそれぞれ上記の課題を解決するための手段である。
〈構成1〉
互いに直交する3軸方向の磁界を個別に測定できる3軸センサの支持位置と角度調整もしくは磁界測定値の補正のために使用するものであって、磁界測定機構中で設定された3軸のうちのいずれかの基準となる軸を間に挟んで、互いに鏡像の関係になるように、磁石片を支持するための回転テーブルを備え、前記回転テーブルは、前記基準となる軸に直角に交わる公転軸芯に垂直な支持面を持ち、前記公転軸芯を軸に回転駆動されるもので、前記磁石片は、前記回転テーブルの支持面に着脱可能な支持台により支持されており、前記回転テーブルの回転とともに前記公転軸芯を軸に公転し、前記磁石片から前記基準となる軸に向かう磁力線の一部が、前記公転軸芯と交わるように、前記磁石片の位置が定められており、前記支持台は前記基準となる軸と前記公転軸芯を通る面に平行な対向面と、前記回転テーブルの支持面に平行で前記対向面に直角に交わる一対の支持側面を有し、前記公転軸芯から前記対向面に向かう垂直な直線を自転軸芯としたとき、前記一対の支持側面のうちのいずれの面を前記支持面に接するように前記支持台を支持しても、前記自転軸芯が前記対向面の同一位置にあるように、前記支持台を前記支持面に固定する位置決め機構を設けたことを特徴とする磁界測定調整装置。
【0007】
〈構成2〉
構成1に記載の磁界測定調整装置において、前記回転テーブルの支持面には、前記3軸のうちの前記支持面に平行な軸と平行な位置決め面を備えたことを特徴とする磁界測定調整装置。
【0008】
〈構成3〉
互いに直交する3軸方向の磁界を個別に測定できる3軸センサの支持位置と角度調整もしくは磁界測定値の補正のために使用するものであって、磁界測定機構中で設定された3軸のうちのいずれかの基準となる軸を間に挟んで、互いに鏡像の関係になるように、磁石片を支持するための回転テーブルを備え、前記回転テーブルは、前記基準となる軸に直角に交わる公転軸芯とこの公転軸芯に垂直な支持面を持ち、前記公転軸芯を軸に回転駆動されるもので、前記磁石片は、前記回転テーブルの支持面の内部に埋め込まれており、前記回転テーブルの回転とともに前記公転軸芯を軸に回転し、前記磁石片から前記支持面の外部に向かう磁力線の一部が前記公転軸芯と交わるように、前記磁石片の位置が定められていることを特徴とする磁界測定調整装置。
【発明の効果】
【0009】
〈構成1の効果〉
回転テーブルの支持面に磁石片を支持し、回転テーブルを回転させて、磁界測定機構中で設定された3軸のうちのいずれかの基準となる軸を間に挟んで、互いに鏡像の関係になるように、磁石片を支持し、磁界測定調整のための磁界を形成できる。
〈構成2の効果〉
回転テーブルの支持面に、磁界測定機構中で設定された3軸のうちの支持面に平行な軸と平行な位置決め面を設けると、磁石片の支持台を除去した後に、磁界測定のための試料を正確に位置決めして測定を開始できる。
〈構成3の効果〉
回転テーブルに磁石片が埋め込まれていると、磁石片が回転するときに3軸センサを支持するプローブ等に衝突することがない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】特許文献1の磁界測定装置の平面図である。
【図2】磁石の発生する磁力線と磁界測定値と3軸センサの傾きとの関係を説明する説明図である。
【図3】上記の測定誤差を補正することができる装置の原理図である。
【図4】第1の測定結果と第2の測定結果の比較説明図である。
【図5】磁界測定値の補正係数の求め方を示す説明図である。
【図6】具体的な磁界測定方法のフローチャートである。
【図7】補正係数の計算処理動作フローチャートである。
【図8】実施例1の磁界測定調整装置の説明図である。
【図9】実施例2の磁界測定調整装置の説明図である。
【図10】実施例3の磁界測定調整装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を実施例毎に詳細に説明する。
【実施例1】
【0012】
図1〜図7は、本発明の磁界測定調整装置を使用する装置の動作例を示す説明図である。図8は、実施例1の磁界測定調整装置の説明図である。(a)はその斜視図、(b)は磁石片が互いに鏡像の関係になる状態を示す平面図、(c)は磁石片の自転軸芯を示す斜視図である。
【0013】
図1〜図7については、後記の[参考使用例]の項で説明をする。その説明に先だって、図8〜図10の実施例の装置を説明する。図8(a)の斜視図に示した装置は、互いに直交する3軸方向の磁界を個別に測定できる3軸センサ14の、支持位置と角度調整もしくは磁界測定値の補正のために使用するものである。3軸センサ14はアーム16に支持されており、磁界測定機構中で設定された3軸方向に駆動されるよう構成されている。磁界測定機構中で設定された3軸を、図8(a)でX−Y−Zと表示した。なお、3軸センサ14やアーム16を実線で示したが、これらは磁界測定調整装置を使用する磁界測定機構の一部で、磁界測定調整装置には含まれない。
【0014】
実施例1の磁界測定調整装置は、磁界測定機構中で設定された3軸(X軸、Y軸、Z軸)のうちのいずれかの基準となる軸(ここではY軸)を間に挟んで、互いに鏡像の関係になるように、磁石片28(図8(b)中の破線)を支持するための回転テーブル56を備える。回転テーブル56の支持面57上に、支持台50が支持されている。図8(b)に示すように、磁石片28は、支持台50の内部に埋め込まれている。支持台50は、例えば、非磁性体のケースにより構成されている。
【0015】
回転テーブル56は、基準となるY軸に直角に交わる公転軸芯70に垂直な支持面57を持ち、公転軸芯70を軸に回転駆動される。回転テーブル56の回転軸68は、図示しない磁界測定装置の軸受けにより支持されて、矢印72の方向に自由に回転駆動される。この装置は、公転軸芯70がZ軸と一致するように、精密に調整されている。なお、回転テーブル56を磁界測定調整のためにだけ使用する場合には、回転テーブル56を軸受けに自由に着脱可能に支持しておくとよい。実際に磁界を測定する試料は回転テーブル56を除去してから別の台に載せるようにするとよい。また、後で説明するように、回転テーブル56から支持台50を取り外して、回転テーブル56に試料88を載せてもよい。
【0016】
磁石片28は、回転テーブル56の支持面57に着脱可能な支持台50により支持されている。磁石片28は、回転テーブル56の回転とともに公転軸芯70を軸に公転する。磁石片28から基準となるY軸に向かう磁力線の一部が、公転軸芯70と交わるように、磁石片28の位置が定められている。これにより、Z軸上に配置された3軸センサ14が磁石片28により形成された磁界を検出できる。
【0017】
図8(b)や(c)に示すように、支持台50は、対向面63と一対の支持側面65を有する。対向面63は、基準となるY軸と公転軸芯70とを通る面に平行な面である。一対の支持側面65は、回転テーブル56の支持面57に平行で対向面63に直角に交わる面である。回転テーブル56は、支持台50の一対の支持側面65のうちのいずれか一方の面と支持面57が接するように支持台50を支持する。
【0018】
この実施例の装置は、支持台50を自転させる機能を持つ。その自転軸芯78を図8(c)に示す。公転軸芯70から対向面63に向かう垂直な直線を自転軸芯78と呼ぶことにする。このとき、一対の支持側面65のうちのいずれの面を回転テーブル56の支持面57に接するように支持台50を支持しても、自転軸芯78が対向面63の同一位置にあるように、支持台50を支持面57に固定する。例えば、支持台が精密に立方体もしくは直方体に加工されているとき、対向面63の2ほんの対角線の交点を自転軸芯78に設定するとよい。ピン66と位置決め孔64がその位置決め機構である。
【0019】
図8の(b)に示すように、例えば、回転テーブル56を、Y軸とX軸の交点54を通る公転軸芯70を軸に180度回転すると、左側に位置していた支持台50が図のように右側に移動する。この図では、いずれも実線で描いたが、同一物が移動した前後の2種の状態を示している。磁石片28の形成する磁力線がX−Z平面上で、Z軸の両側に対称に形成されるならば、そのままで、Y軸を間に挟んで、互いに鏡像の関係になるように、磁石片28を支持したことになる。即ち、X−Z平面上で、磁束に対する3軸センサ14の傾きを調整できる。また、あるいは、測定値を補正する補正係数を取得できる。他の軸を基準にした場合も全く同様である。補正係数の計算方法は後で説明する。
【0020】
一方、図8(b)において、支持台50の内部に埋め込まれた磁石片28の形成する磁力線を、Y軸に沿ってY軸の両側で対称に形成したい場合がある。Y−Z平面上に鏡を置いたとき、Y軸の両側のどこででも、磁力線が対称に分布しているようにしたい場合である。この場合には、図8(b)に示すように支持台50を公転軸芯70を軸に180度回転させてから、図8(c)に示すように、支持台50を自転軸芯78を軸にして矢印76方向に180度自転させる。矢印74方向にみたとき、支持台50の上下が反転する。
【0021】
即ち、回転テーブル56の支持面57に接していた支持側面65の代わりに、その反対側にある支持側面65が支持面57に接するように、支持台50を自転させる。例えば、位置決め孔64を自転軸芯78に対して対称の位置に配置し、支持台50の一対の支持側面65にそれぞれ一対のピン66を立設して、位置決め孔64に嵌り合うようにしておく。これにより、支持台50を簡単に自転軸芯78を軸にして自転させることができる。一対のピン66と位置決め孔64とは正確に機械加工できるから、簡単な構造で精度の高い位置決め機構が実現する。
【実施例2】
【0022】
図9は実施例2の磁界測定調整装置の説明図である。(a)は回転テーブル全体の斜視図、(b)は回転テーブル上に試料を位置決めした状態の斜視図である。
図の回転テーブル56の基本構造は、実施例1のものと同様である。実施例2の回転テーブル56には、その支持面57上に、X軸方向段部84とY軸方向段部86とが設けられている。X軸方向段部84は、支持面57に高低差のある段を設けることにより、X軸に平行な面を形成している。Y軸方向段部86は、支持面57に高低差のある段を設けることにより、Y軸に平行な面を形成している。いずれも、3軸のうちの支持面57に平行なXまたはY軸と平行な位置決め面である。
【0023】
実施例2の回転テーブル56は、調整終了後に支持台50を除去してから、試料88を回転テーブル56に載せて、3軸センサ14を用いて磁界分布の測定ができる。このとき、試料88の基準面を、X軸方向段部84またはY軸方向段部86に密着させれば、試料88の基準面を基準にした測定ができる。試料88にX軸方向とY軸方向の2つの直交する基準面があれば、これらの基準面を、X軸方向段部84とY軸方向段部86に密着させて、試料88の正確な位置決めができる。なお、X軸方向段部84とY軸方向段部86は、支持面57上に、例えば、柱や壁、あるいはピン等により形成してもよい。
【実施例3】
【0024】
図10は実施例3の説明図で、(a)は斜視図、(b)は主要部縦断面図である。
図10の回転テーブル56も、実施例1と同様の目的で使用される。しかしながら、実施例3の場合には、磁石片28が回転テーブル56の支持面57の内部に埋め込まれている。従って、回転テーブル56から磁石片28を取り外すことができない構造になっている。故に、3軸センサの調整後は磁界測定装置から除去される。図10の回転テーブル56には非磁性体が使用される。
【0025】
この回転テーブル56も、回転軸68を軸にして、図10(a)の矢印80に示す方向に回転できる。従って、例えば、図1で説明したY軸を挟んで、互いに鏡像の関係になるように、磁石片28を支持することができる。回転テーブル56は、実施例1と同様に、基準となる軸(Y軸)に直角に交わる公転軸芯70とこの公転軸芯70に垂直な支持面57を持ち、公転軸芯70を軸に回転駆動される。磁石片28は、回転テーブル56の回転とともに公転軸芯70を軸に回転する。
【0026】
ここで、この実施例の場合、図10の(b)に示すように、磁石片28の磁極が支持面57の方向を向いているので、磁力線82の多くは支持面57に垂直な方向を向いている。しかしながら、磁石片28から支持面57の外部に向かう磁力線の一部が、公転軸芯70と交わるように、磁石片28の位置決めをする。これにより、磁石片28を実施例1のように配置した場合と同様に、3軸センサ14の調整をすることができる。また、図の(b)に示すように、3軸センサ14を支持するアーム16を支持面57に平行に配置することがある。このとき、回転テーブル56に磁石片28が埋め込まれていると、磁石片28が回転するときにアーム16等に衝突することがない。実施例1の支持台50と比較してみると、それが良くわかる。
【0027】
[使用例]
以下、上記の磁界測定調整装置の使用例を説明する。以下は、上記特許文献2に記載されたものである。3軸センサは、3個の磁気センサをそれぞれ測定系の3軸方向に向けて、プローブの先端に固定したものである。3個の磁気センサは、素子の製造段階で相互に精密に軸合わせ(角度合わせ)されている。一方、この磁気センサを用いて磁界測定をする磁界測定機構は、測定対象物を支持し、移動させたり回転したりする。その磁界測定機構中で設定された3軸も、相互に精密に軸合わせ(角度合わせ)されている。しかし、磁気センサの検出素子の想定する測定系の3軸とは必ずしも一致しない。両者が一致しないと、測定対象物の磁界測定機構のX軸方向の磁界を測定したはずなのに、実際に検出素子の想定する測定系のX軸方向の磁界の測定値を取得してしまう。そこで、測定対象物の磁界測定に先だって、磁石片を使用して調整をする。
【0028】
図1は磁界測定装置を示す平面図である。図2はその測定値の性質を示す説明図である。
これらの図を用いて、磁界測定装置の動作原理を説明する。3軸センサ14は、磁界測定機構18中を3軸方向に自在に移動できるようにアーム16に支持されている。磁界測定機構18のアクチュエータ20は、アーム16を、磁界測定機構18中で設定された互いに直交する3軸方向に移動させる機構群を備える。この機構群は、従来から、各種工作機械や測定装置に多用されているものであり、詳細な説明を省略する。
【0029】
3軸センサ14は、互いに直交する3軸方向の磁界を個別に測定できる検出素子12を搭載したものである。ここでは、アーム16を磁界測定機構18のX軸方向に移動する例を説明する。この装置には、磁界測定値の補正処理のために、磁石片28が設けられている。磁石片28は、3軸センサ14の側方からY軸方向に向けて磁力線を発生する磁石である。一点鎖線は、磁力線を示す。
【0030】
図2は、磁石の発生する磁力線と磁界測定値と3軸センサ14の傾きとの関係を説明する説明図である。
図のように、アーム16をX軸方向に移動させて3軸センサ14により磁石片28の前方の磁界を測定する。Y軸方向の磁界は、3軸センサ14が磁石片28の正面に位置したときに最大値になる。一方、X軸方向の磁界は、図のように、磁石片28の正面でゼロになり、その前後では向きを反転して次第に絶対値が大きくなる。
【0031】
ここで、3軸センサ14の測定系のX軸方向がアーム16の移動するX軸方向に対して傾斜していると、X軸方向磁界のゼロクロス点を測定する位置は、若干磁石片28の正面の位置からシフトする。Y軸方向磁界の最大値を測定する位置も、若干磁石片28の正面の位置からシフトする。このとき、3軸センサ14で測定したX軸方向の磁界測定値は、磁界測定機構18のX軸方向の磁界を測定したものでなくなる。即ち、微妙に測定誤差が生じる。
【0032】
図3は、上記の測定誤差を補正することができる装置の原理図である。
図に示すように、この装置は、3軸センサ14を支持するアーム16と、磁石片28を支持する回転テーブル56を備える。3軸センサ14を図のX軸方向に移動させて上記の測定を行う。このとき、X軸上に、一対の基準点22を設定する。一対の基準点22間を結ぶ線を基準線24とする。基準線24と直交する線を交差直線25とする。
この交差直線25上に、基準線24を間に挟んで第1固定点30と第2固定点32とを設定する。
【0033】
磁石片28は、基準線24に並行で、基準線24と交差直線25を含む面に垂直な側面62を持つ支持板60に固定されている。基準線24や交差直線に対して支持板60の側面62の向きを調整すると、磁石片28を目的とする状態に正確に支持できる。
【0034】
第1固定点30と第2固定点32に、磁石片28を支持するように構成された第1固定手段34と第2固定手段36とを設ける。各固定手段は、磁石片28を一定の方向に向けて一定の姿勢で保持する皿やピンやクランプにより構成するとよい。なお、全く同一の特性の磁石片28を一対用意するのは困難である。従って、1個の磁石片28を第1固定手段34を用いて第1固定点30に支持し第1の測定結果を得る。次に、磁石片28を第2固定点32側に移動し、第2固定手段36を用いて支持して第2の測定結果を得る。
【0035】
このとき、磁石片28が発生する磁力線は、基準線24に対して左右対称であることが好ましい。従って、磁石片28を第1固定手段34で固定したときと第2固定手段36で固定したときとでは、互いに鏡像の関係になるように、磁石片28の位置や向きを選定することが好ましい。磁石片28が互いに鏡像の関係になるように支持できればよい。
【0036】
センサ駆動手段26は、アクチュエータ20(図)を駆動して、基準線24に沿って3軸センサ14を直線的に移動させる。1回目は、第1固定点30に磁石片28を支持した状態で、基準線24上を一方から他方に向かって3軸センサ14を移動させる。これを元に戻して、第2固定点32に磁石片28を支持した状態で、同じ動作を繰り返す。この動作により、3軸センサ14は、基準線24の方向と交差直線25の方向の磁界を測定した結果を、第1の測定結果38及び第2の測定結果40として測定結果記憶手段42に記憶させることができる。
【0037】
図4は、第1の測定結果と第2の測定結果の比較説明図である。
図のグラフの形式は図2と同様である。図のように、第1の測定結果38と第2の測定結果40とは、極性が反転しているが、ほぼ同レベルの磁界測定値が得られている。基準線24と第1固定点30との間の距離と基準線24と第2固定点32との間の距離が等しくなければ、磁界測定値の絶対値は若干相違するが、Y軸方向磁界の最大値の位置とX軸方向磁界のゼロクロス点44の位置は、一致するはずである。しかしながら、磁界測定機構18中で設定された3軸方向と、3軸センサ14の検出素子の想定する測定系の3軸とが一致しないと、図のようにゼロクロス点44の位置にずれが生じる。
【0038】
ここで、例えば、3軸センサ14の支持角度を調整して、磁界測定機構18中で設定された3軸方向と3軸センサ14の検出素子の想定する測定系の3軸とを一致させることができる。図のゼロクロス点44のX軸方向の位置が一致するように支持角度調整をするとよい。
【0039】
しかし、この調整には熟練を要し、精度の高い調整機構が必要になる。機械的に角度を調整する方法のほかに、角度の狂いは許容してそのまま測定をし、磁界測定値をその後に数字的に補正すれば、高精度の測定が可能である。
【0040】
図5は、磁界測定値の補正係数の求め方を示す説明図である。
図において、磁界測定機構18中で設定されたX軸とY軸に対して、3軸センサ14の測定系のX軸とY軸を、P、Qと表した。3軸センサ14の測定系は、磁界測定機構18中のX−Y平面上でβだけ傾斜している。
【0041】
このとき、磁界ベクトルAを3軸センサ14で測定すると、そのX軸方向磁界はGx、Y軸方向磁界はGyとなる。ベクトルAは、磁界測定機構18中のX軸に対してαだけ傾いている。このとき、Gx、Gyと、ベクトルAの絶対値と角度α、βの関係は、(b)の式のようになる。真の測定値は、Hx、Hyである。
【0042】
(b)の関係式から、X軸補正係数は(c)に示すようになる。また、Y軸補正係数は(d)に示すようになる。これにより、基準線24の方向と交差直線25の方向の磁界測定値を求めるための補正係数46が求められる。論理的にはこのとおりであるが、コンピュータが処理する場合には演算処理が比較的複雑になる。そこで、予めこのような角度ずれを想定した補正係数を多数算出して保持しておく。
【0043】
βの考えられる最大値が5度とすれば、例えば、0.1度刻みで対応する補正値を準備しても、50個程度である。すべての補正値を当てはめてみて、第1の測定結果38と第2の測定結果40の測定値のゼロクロス点44がX軸方向にみて一致したとき、その補正値を採用するとよい。図3に示した補正係数演算手段48は、こうした演算処理を実行するコンピュータにより構成するとよい。
【0044】
なお、図3に示した回転テーブル56は、基準線24と交差直線の交点54上に、基準線24と交差直線を含む面に対して垂直な回転軸を持つものにすることができる。この回転テーブル56は磁界測定の対象物を置いて回転させる等のために使用される。その周辺部に、第1固定手段を設ける。第1固定手段34は皿やクランプ等の支持台50である。回転テーブル56を180度回転させて、回転テーブル56の回転とともに支持台50が移動すると、第1固定点30から第2固定点32に移動させることができる。これにより、位置精度調整済みの移動機構を用いれば、第1固定点30と第2固定点32における磁石片28の位置決めをスピーディーに正確に行える。
【0045】
図6は具体的な磁界測定方法のフローチャートである。
磁界測定は、具体的にはこの図に示すように進められる。まず、ステップS11で、磁石を初期状態にセットする。即ち、磁石片28を第1固定点30に支持する。次に、ステップS12で、3軸センサ14を基準点22にセットをする。続いて、ステップS13で、3軸センサ14をX軸に沿って移動する。即ち、基準線24上を移動させる。ステップS14では、X軸とY軸方向の磁界測定をする。
【0046】
磁界測定が終了すると、第1の測定結果38が取得される。ステップS15では、中央のゼロクロス点44(第1)の検出をする。ステップS16では、磁石片28を180度公転させる。こうして、磁石片28を第2固定点32の位置に支持する。ステップS17では、磁石片28の3軸センサ14に面した面の向きは変えずに、交差直線25を軸にして180度自転させる。これで、磁石片28を鏡像関係にセットできる。ステップS18で、磁石片28を基準点22にセットする。ステップS19で、3軸センサ14をX軸に沿って移動する。ステップS20では、X軸とY軸方向の磁界測定をする。これで、第2の測定結果40が取得できる。ステップS21で、中央のゼロクロス点44(第2)の検出をする。
【0047】
図7は、補正係数の計算処理動作フローチャートである。
ステップS31では、取得されたゼロクロス点(第1と第2)のX軸上の位置を比較する。ステップS32では、X軸上の位置が一致しているかどうかという判断をする。この判断の結果がイエスのときは補正の必要が無いから処理を終了する。ノーのときはステップS33の処理に移行する。ステップS33では、既に説明した多数の補正係数を保存した補正値テーブルを参照する。ステップS34では、取得した補正係数で第1の測定結果38と第2の測定結果40の測定値を補正する。ステップS35では、ゼロクロス点(第1と第2)の比較をする。ステップS36では、X軸上の位置が一致しているかどうかという判断をする。この判断の結果がイエスのときはステップS37の処理に移行し、使用した補正値を、実際の測定時に使用する補正係数としてセットする。ノーのときはステップS33の処理に戻り、ステップS33からステップS36の処理で、補正係数の探索を繰り返す。
【0048】
図6と図7のステップS37までの処理で、3軸センサをX軸方向に移動させて、X−Y平面上の3軸センサのZ軸方向から見たときの角度ずれ補正係数を取得した。全く同様の要領で、3軸センサをY軸方向に移動させて、Y−Z平面上の3軸センサのX軸方向から見たときの角度ずれ補正係数を取得する(図7ステップS38)。さらに、3軸センサをZ軸方向に移動させて、Z−X平面上の3軸センサのY軸方向から見たときの角度ずれ補正係数を取得する(図7ステップS39)。なお、Z軸方向から見たときの角度ずれは、Y軸上に磁石片を配置してセンサをX軸方向に移動する。X軸方向から見たときの角度ずれは、Y軸上に磁石片を配置してセンサをZ軸方向に移動する。Y軸方向から見たときの角度ずれは、X軸上に磁石片を配置してセンサをZ軸方向に移動するとよい。この方法によれば、マグネットをX−Y平面上にだけ配置して補正係数の取得ができる。従って、Z軸上にマグネットを配置するための特別の機構は不用になり、特許文献1に記載されたような既知の構成の装置をそのまま使用できる。以上のようにして、Z軸方向、X軸方向、Y軸方向からみたときの角度ずれ補正係数を取得して装置にセットする。
【0049】
以上の演算処理で得られた補正係数を使用すると、実際の測定対象物を回転テーブル56等の上に固定して、アクチュエータ20を使用して、3軸センサ14を移動させながら、得た磁界測定値を補正して、精密な3次元磁界を測定することができる。
【符号の説明】
【0050】
12 検出素子
14 3軸センサ
16 アーム
18 磁界測定機構
20 アクチュエータ
22 基準点
24 基準線
25 交差直線
26 センサ駆動手段
28 磁石片
30 第1固定点
32 第2固定点
34 第1固定手段
36 第2固定手段
38 第1の測定結果
40 第2の測定結果
42 測定結果記憶手段
44 ゼロクロス点
46 補正係数
48 補正係数演算手段
50 支持台
54 交点
56 回転テーブル
57 支持面
60 支持板
62 側面
63 対向面
64 位置決め孔
65 支持側面
66 ピン
68 回転軸
70 公転軸芯
72 矢印
74 矢印
76 矢印
78 自転軸芯
80 矢印
82 磁力線
84 X軸方向段部
86 Y軸方向段部
88 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直交する3軸方向の磁界を個別に測定できる3軸センサの支持位置と角度調整もしくは磁界測定値の補正のために使用するものであって、
磁界測定機構中で設定された3軸のうちのいずれかの基準となる軸を間に挟んで、互いに鏡像の関係になるように、磁石片を支持するための回転テーブルを備え、
前記回転テーブルは、前記基準となる軸に直角に交わる公転軸芯に垂直な支持面を持ち、前記公転軸芯を軸に回転駆動されるもので、
前記磁石片は、前記回転テーブルの支持面に着脱可能な支持台により支持されており、前記回転テーブルの回転とともに前記公転軸芯を軸に公転し、前記磁石片から前記基準となる軸に向かう磁力線の一部が、前記公転軸芯と交わるように、前記磁石片の位置が定められており、
前記支持台は前記基準となる軸と前記公転軸芯を通る面に平行な対向面と、前記回転テーブルの支持面に平行で前記対向面に直角に交わる一対の支持側面を有し、前記公転軸芯から前記対向面に向かう垂直な直線を自転軸芯としたとき、
前記一対の支持側面のうちのいずれの面を前記支持面に接するように前記支持台を支持しても、前記自転軸芯が前記対向面の同一位置にあるように、前記支持台を前記支持面に固定する位置決め機構を設けたことを特徴とする磁界測定調整装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁界測定調整装置において、
前記回転テーブルの支持面には、前記3軸のうちの前記支持面に平行な軸と平行な位置決め面を備えたことを特徴とする磁界測定調整装置。
【請求項3】
互いに直交する3軸方向の磁界を個別に測定できる3軸センサの支持位置と角度調整もしくは磁界測定値の補正のために使用するものであって、
磁界測定機構中で設定された3軸のうちのいずれかの基準となる軸を間に挟んで、互いに鏡像の関係になるように、磁石片を支持するための回転テーブルを備え、
前記回転テーブルは、前記基準となる軸に直角に交わる公転軸芯とこの公転軸芯に垂直な支持面を持ち、前記公転軸芯を軸に回転駆動されるもので、
前記磁石片は、前記回転テーブルの支持面の内部に埋め込まれており、前記回転テーブルの回転とともに前記公転軸芯を軸に回転し、前記磁石片から前記支持面の外部に向かう磁力線の一部が前記公転軸芯と交わるように、前記磁石片の位置が定められていることを特徴とする磁界測定調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−149942(P2012−149942A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7698(P2011−7698)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(504004913)株式会社アイエムエス (4)
【Fターム(参考)】