説明

磁石発電機

【課題】この発明に係る磁石発電機は、リラクタの加工工数が大幅に削減され、また内径寸法精度が高いフライホイールを得る。
【解決手段】この発明に係る磁石発電機では、突起状のリラクタ20を有する椀状のフライホイール3と、複数個の永久磁石と、フライホイール3の内径側に設けられた固定子鉄心と、この固定子鉄心に導線が巻回されて構成された発電コイルとを備え、フライホイール3の回転により、永久磁石と発電コイルとの電磁誘導作用により発電する磁石発電機において、フライホイール3は、鍛造加工により形成されているとともに、リラクタ20の周方向の両側の根元部の曲率半径R1は、リラクタ20の底部側の根元部の曲率半径R2よりも小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、周方向に間隔をおいて複数形成されたリラクタを有するフライホイールの回転により、リラクタと対向する信号発電子から発生する信号電圧によりフライホイールの回転の回転が検出される磁石発電機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鍛造加工により形成されたフライホイールの外周に周方向に突条を成形し、突条の所定部分に複数の切り欠きを切削加工により形成して隣接した切り欠きをリラクタとした磁石発電機が知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、鋳造加工により形成されたフライホイールの円筒外周面を切削加工してリラクタを形成した磁石発電機も知られている。
【0003】
また、フライホイールの円筒部を内側から打ち出し加工して径方向に突出したリラクタを形成した磁石発電機も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平11−355989号公報(図1)
【特許文献2】特開2000−166202号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の磁石発電機のフライホイールでは、リラクタを切削加工する場合、フライホイールの周方向の両側のリラクタの部位ではエンドミルを用い、フライホイールの軸方向のリラクタの部位ではバイトを用いて行っており、リラクタの加工に多くの時間を要してしまうという問題点があった。
また、フライホイールの小型、軽量化による薄肉化の下、フライホイールの円筒部を内側から打ち出し加工した場合、フライホイールの所定の内径寸法精度が得られず、回転子と固定子との間の安定したエアギァップの確保が困難となり、高出力の電流が得られないという問題点があった。
【0006】
この発明は、上記のような問題点を解決することを課題とするものであって、フライホイールの加工工数が大幅に削減され、また内径寸法精度が高いフライホイールを有する等の磁石発電機を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る磁石発電機は、円筒部、底部及び円筒部の外周面に周方向に間隔をおいて複数形成された突起状のリラクタを有する椀状のフライホイールと、前記円筒部の内周壁面に固定された複数個の永久磁石と、前記フライホイールの内径側に設けられ外周面が前記永久磁石と対面した固定子鉄心と、この固定子鉄心に導線が巻回されて構成された発電コイルとを備え、前記フライホイールの回転により、前記永久磁石と前記発電コイルとの電磁誘導作用により発電する磁石発電機において、前記フライホイールは、鍛造加工により形成されているとともに、前記リラクタの前記周方向の両側の根元部の曲率半径R1は、前記リラクタの前記底部側の根元部の曲率半径R2よりも小さい。
【発明の効果】
【0008】
この発明による磁石発電機によれば、フライホイールの加工工数が大幅に削減され、また内径寸法精度が高いフライホイールを有する等の効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、この発明の各実施の形態について図に基づいて説明するが、各図において同一、または相当部材、部位については、同一符号を付して説明する。
【0010】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1による磁石発電機を示す正面図、図2は図1の側断面図である。
この磁石発電機は、内燃機関と連結された回転子1と、この回転子1と対面し固定部材(図示せず)に取り付けられた固定子2を備えている。
回転子1は、椀状のフライホイール3及び永久磁石4を備えている。
フライホイール3は、円筒部5、ボス部7、ボス部7と円筒部5とをつなぐ底部6及び円筒部5の外周面に等分間隔で形成された信号発生用リラクタ20とから構成されている。フライホイール3は、回転軸線A−Aを中心として回転する。ボス部7は、内燃機関により回転駆動される回転軸(図示せず)に固定される。
【0011】
フライホイール3の円筒部5の内周壁面には、例えば4個の永久磁石4が固定されている。永久磁石4は、N極、S極及びN極の順に着磁された磁石と、S極、N極及びS極の順に着磁された磁石が各2個ずつ交互に、回転軸線A−Aの周りに、互いに等しい角度間隔で配置されている。複数個の永久磁石4は、隣接する永久磁石4が互いに逆極性に着磁されており、永久磁石7の内周側空間では、交互に方向が変化する磁界を発生するようになっている。
各永久磁石4の各内周面には、筒状の保護環8が密着して嵌め込まれている。各永久磁石4の回転軸線A−A方向の両端側、及び隣接した各永久磁石7間には、樹脂材9が充填されている。この樹脂材9によって、複数個の永久磁石4と保護環8とがフライホイール3の円筒部5の内周壁面に固定されている。
【0012】
固定子2は、中空円柱状の固定子鉄心12及び発電コイル13を有する。固定子鉄心12の外周部には、径外側方向に放射状に等分間隔で突出した各ティースが形成されている。このティースの周側面にそれぞれ導線が巻回されて発電コイル13が構成されている。この発電コイル13には、接続リード14が接続されている。
【0013】
外周部に複数個のティースが形成された固定子鉄心12は、冷間圧延鋼板である中空の薄板磁性鋼板を回転軸線A−Aの方向に多数枚積層して構成された積層鉄心15と、この積層鉄心15の両側面にそれぞれ密着して重ねられた第1の端板16、第2の端板17とから構成されている。
第1の端板16、第2の端板17は、発電コイル11の保持のために外周縁部が発電コイル13側に折曲しており、冷間圧延鋼板等で構成されている。
積層鉄心15及び第1の端板16、第2の端板17には、回転軸線A−Aと平行に貫通した貫通孔18が3カ所形成されている。この貫通孔18に貫通したボルト(図示せず)及びボルトの端部に螺着されたナット(図示せず)により、積層鉄心15、並びに積層鉄心15の両側面側に密着された、第1の端板16及び第2の端板17が一体化されている。
【0014】
突起状のリラクタ20に対向できる位置には、ブラケット(図示せず)に固定された信号発電子21が設けられている。信号発電子21は、鉄心と、鉄心に巻装された信号コイルとを備えている。
【0015】
図3は図1に示したフライホイール3の要部拡大図、図4は図3のフライホイール3を矢印Bの方向から視たときの図、図5は図4の側断面図である。
このフライホイール3は、クロムモリブデン鋼で構成され、熱間鍛造で一体形成された後、リラクタ20は、室温で冷間鍛造により、所定の形状に形成されている。その後、図3の黒塗りで示したリラクタ20の頂部を旋盤加工により切削することで、リラクタ20は所定の高さに調整されている。なお、クロムモリブデン鋼は一例であり、例えば構造用炭素鋼であってもよい。
このようにして鍛造により形成されたフライホイール3では、フライホイール3の周方向のリラクタ20の両側の根元部の曲率半径R1(周方向傾斜θ1)は、フライホイール3の底部6側のリラクタ20の根元部の曲率半径R2(軸方向傾斜θ2)よりも小さい。
この実施の形態では、曲率半径R1は、例えば1.5mmであり、曲率半径R2は、例えば6mmである。
【0016】
上記構成の磁石発電機では、内燃機関により回転駆動される回転軸に連動してフライホイ−ル3が回転し、その際に永久磁石4により生じる交番磁界により、発電コイル13には電力が生じる。この際の交流出力は、図示しない整流用ダイオードにより整流され、車載バッテリなどの負荷に給電される。
また、フライホイール3の回転に伴い、リラクタ20が信号発電子21の鉄心の磁極部に対向する際に、鉄心に生じる磁束変化により信号コイルに信号電圧が誘起され、この信号電圧により回転角度や回転速度が検出される。
【0017】
図6は、本願発明者が上記曲率半径R1と信号発電子21の検出精度との関係を実験により求めたときの特性図である。
この特性図は、リラクタ20の全高が約1.5mmで、上記曲率半径R1の値を1.8mm、1.5mm、1.0mm、0.4mm、0mmとそれぞれ変化させたときの信号発電子21の信号電圧の変化を示す図である。
曲線aは曲率半径R1が1.8mm、曲線bは曲率半径R1が1.5mm、曲線cは曲率半径R1が1.0mm、曲線dは曲率半径R1が0.4mm、曲線eは曲率半径R1が0mmのときの信号電圧曲線を示している。
また、図6中の下図における符号a1、b1、c1、d1及びe1は、曲線a、b、c、d、eに対応した、リラクタ20の周方向の両側の根元部を示している。
【0018】
この実験結果から、信号発電子21の検出精度は、リラクタ20の根元部の曲率半径R1の値の影響を受け、根元部の曲率半径R1が1.5mmのときが最大許容値であり、それよりも大きな値のときには、所望の検出精度が得られないことが分かった。
即ち、信号電圧波形の面積は、リラクタ20の径方向の投影面積に対応して一定であり、根元部の曲率半径R1が大きくなるとリラクタ20の裾野が拡がり、それだけ信号電圧のピークの値が低くなったと考えられる。
当然、信号電圧のピーク値は、リラクタ高さに比例して大きくなるため、生産性(曲率半径R1,R2の設定)を優先した場合の検出精度の確保は、リラクタ高さを大きくすることで可能となる。
【0019】
上記実施の形態による磁石発電機によれば、フライホイール3は鍛造加工で形成されているので、フライホイール3は、高い内径寸法精度が得られ、回転子1と固定子2との間の安定したエアギァップを確保され、出力が向上する。
また、フライホイール3の鍛造加工時に、同時にリラクタ20も形成され、切削加工してリラクタを形成した従来のものと比較して大幅に加工工数は削減される。
また、フライホイール3は、クロムモリブデン鋼で構成されており、巣穴が生じ易い鋳鉄で構成されたフライホイールと比較して回転剛性が高い。
【0020】
また、フライホイール3の周方向のリラクタ20の根元部の曲率半径R1は、1.5mmで、フライホイール3の底部6側のリラクタ20の根元部の曲率半径R2は、6mmである。即ち、周方向のリラクタ20の根元部の曲率半径R1は、底部6側のリラクタ20の根元部の曲率半径R2よりも小さい。
フライホイール3を鍛造加工する場合、底部6側のリラクタ20の根元部では、曲率半径R2が6mmのときには良好なファイバーフローが得られるので、底部6側のリラクタ20の根元部での内部欠陥が起こりにくい。なお、良好なファイバーフローを確保できる曲率半径R2の範囲は3〜6mmである。
また、周方向のリラクタ20の根元部の曲率半径R1は、1.5mmであり、上述したように、リラクタ20と対向する信号発電子21は所望の検出精度を得ることができる。
なお、1.5mmの値は、3〜6mmから外れているが、周方向のリラクタ20の根元部における鍛造加工される際の加圧方向は、底部6側のリラクタ20の根元部における加圧方向と異なり、曲率半径Rが3mm以下でも、良好なファイバーフローが得られ、根元部での内部欠陥は起こりにくい。
【0021】
従って、この磁石発電機では、周方向のリラクタ20の根元部の曲率半径R1が底部6側のリラクタ20の根元部の曲率半径R2よりも小さいものの、内部欠陥の発生が抑制された状態で所望の検出精度が確保される。
【0022】
実施の形態2.
図7は実施の形態2のフライホイール3を示す正面図である。
この実施の形態では、フライホイール3の底部6に換気穴22が形成されている。この換気穴22は、フライホイール3の鍛造加工時に、リラクタ20とともに同時に形成されている。
他の構成は実施の形態1と同様である。
【0023】
この実施の形態では、換気穴22は、フライホイール3の鍛造加工時に、リラクタ20とともに同時に形成され、切削加工により換気穴を形成した従来のものと比較してフライホイール3の加工工数が大幅に削減される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の実施の形態1の磁石発電機を示す正面図である。
【図2】図1の磁石発電機の側断面図である。
【図3】図1に示したフライホイールの要部拡大図である。
【図4】図3のフライホイールを矢印Bの方向から視たときの図である。
【図5】は図4の側断面図である。
【図6】本願発明者が曲率半径R1と信号発電子の検出精度との関係を実験により求めたときの特性図である。
【図7】実施の形態2の磁石発電機におけるフライホイールの正面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 回転子、2 固定子、3 フライホイール、4 永久磁石、5 円筒部、6 底部、20 リラクタ、21 信号発電子、22 換気穴。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒部、底部、及び円筒部の外周面に周方向に間隔をおいて複数形成された突起状のリラクタを有する椀状のフライホイールと、
前記円筒部の内周壁面に固定された複数個の永久磁石と、
前記フライホイールの内径側に設けられ外周面が前記永久磁石と対面した固定子鉄心と、
この固定子鉄心に導線が巻回されて構成された発電コイルとを備え、
前記フライホイールの回転により、前記永久磁石と前記発電コイルとの電磁誘導作用により発電する磁石発電機において、
前記フライホイールは、鍛造加工により形成されているとともに、前記リラクタの前記周方向の両側の根元部の曲率半径R1は、前記リラクタの前記底部側の根元部の曲率半径R2よりも小さいことを特徴とする磁石発電機。
【請求項2】
前記フライホイールは、前記底部に換気穴が形成されており、この換気穴は、前記リラクタと同時に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の磁石発電機。
【請求項3】
前記リラクタの全高が1.5mm以上で、前記曲率半径R1が1.5mm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の磁石発電機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate