説明

神経保護および/または神経再生剤としての非免疫抑制性イムノフィリンリガンド

本発明は、一つには、神経系疾患の治療における、非免疫抑制イムノフィリンリガンド、例えばメリダマイシンの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
本発明は、概して、神経保護および/または神経再生剤に関する。
【0002】
イムノフィリンは、例えば、細菌、酵母および種々の哺乳動物細胞の、免疫系および神経系に見出されるタンパク質である。イムノフィリンの種類は、シクロフィリンおよびFK506−結合タンパク質(例えばFKBP)を包含する。シクロスポリンAは、シクロフィリンに結合するマクロライドイムノフィリンリガンドである。他のマクロライドイムノフィリンリガンド、例えば、メリダマイシン、FK506およびラパマイシンは、FKBPに結合することが分かっている。
【0003】
イムノフィリンの細胞内機能を説明する1つの方法は、それらの酵素活性の同定による。例えばFKBPの機能は、それらのロタマーゼ(即ち、ペチジ−プロリル シス−トランスイソメラーゼ)(petidy-prolyl cis-trans isomerase)活性によって説明できる。
【0004】
FK506およびラパマイシンは、免疫抑制性イムノフィリンリガンドである。一方、メリダマイシンは、非免疫抑制性である。Salituro, et al., Tetrahedron Letters, Vol. 36, No. 7, 997-1000(1995)。実際に、メリダマイシンは、FK506およびラパマイシンの両方の拮抗物質である(WO 94/18207)。
【0005】
他の非免疫抑制性イムノフィリンは、スタイナーら(米国特許第6500843号)によって開示され、彼らは、FKBP型イムノフィリンに親和性を有する神経栄養性ピペコリン酸誘導化合物を、イムノフィリンタンパク質に関連した酵素活性の阻害物質、特に神経成長または再生を刺激または促進するペプチジル−プロリルイソメラーゼまたはロタマーゼ酵素活性の阻害物質として使用することを記載している。
【0006】
メリダマイシンは、以下のような使用について同定されている:マクロフィリン結合免疫抑制剤、例えば、FK506またはラパマイシン、の過剰服用の解毒剤;ステロイド増強剤および/または生体産生MIP(マクロファージ感染性増強剤)またはMIP様因子によって生じる感染または感染症用の抗感染剤(WO 94/18207)。さらに、メリダマイシンは、炎症性/過剰増殖性皮膚疾患の治療にも有効であるだろう(WO 94/18207)。
【0007】
神経栄養性、例えば、神経保護性および/または神経再生性の薬剤を見出すことが望ましい。従って、当分野において、例えば神経系疾患の治療用の、非免疫抑制性かつ比較的低い毒性の化合物、およびそのような化合物を含む治療薬を提供することが必要とされている。
【発明の開示】
【0008】
(発明の概要)
1つの態様において、本発明は、イムノフィリンリガンド、特に非免疫抑制性リガンド、例えばメリダマイシン、または、薬学的に許容されるその塩の、神経系疾患の治療における使用に関する。本発明は、メリダマイシンまたは薬学的に許容されるその塩を含有し、1またはそれ以上の薬学的に許容される担体、賦形剤または希釈剤をさらに含む、医薬を包含する組成物の製造に有用である。
【0009】
1つの態様において、本発明は、有効量のメリダマイシン化合物を哺乳動物に投与することを含む、神経系疾患の治療法を提供する。そのような治療法は、神経系疾患に罹患している哺乳動物を同定することをさらに含みうる。ある実施形態において、本発明の方法は、メリダマイシン化合物の投与前、投与後、または投与の前および後の両方において、哺乳動物における神経変性の程度を評価することを含む。
【0010】
本発明に含まれる治療の本質に関して限定することを意図するものではないが、中枢神経系の疾患の治療にメリダマイシン化合物を使用することが好ましい。中枢神経系に影響する疾患は、下記の疾患を包含するがそれらに限定されない:てんかん、脳卒中、脳虚血、脳性麻痺、アルパーズ病、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症、レヴィー小体認知症、レット症候群、神経障害性疼痛、脊髄外傷または外傷性脳損傷。
【0011】
本発明の医薬の製造において、メリダマイシン化合物またはその塩を、1またはそれ以上の薬学的に許容される担体、賦形剤または希釈剤と混合することができる。本発明の化合物を含有する薬学的に許容される製剤は、固体剤形、液体剤形、エアロゾル等を包含するがそれらに限定されない任意の好適な送達媒体であってよい。
【0012】
本発明のさらに他の態様および利点は、以下の本発明の詳細な説明から容易に明らかである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(発明の詳細な説明)
本発明は、メリダマイシンおよび薬学的に許容されるその塩の作用の、神経栄養剤、即ち、神経保護および/または神経再生活性を示す化合物としての使用を提供する。
【0014】
本明細書に使用される「メリダマイシン」という用語は、式(I)の中心構造を有する化合物、および薬学的に許容されるその塩を意味する。
【化3】

【0015】
「薬学的に許容される塩」という用語は、有機および無機酸、例えば、酢酸、乳酸、クエン酸、桂皮酸、酒石酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、マロン酸、マンデル酸、リンゴ酸、蓚酸、プロピオン酸、塩酸、臭化水素酸、リン酸、硝酸、硫酸、グリコール酸、ピルビン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、サリチル酸、安息香酸、および同様に公知の許容される酸から誘導される塩を意味する。
【0016】
便宜上、本明細書を通して、式(I)の化合物に関して記載する。しかし、その塩、または本明細書において定義されるメリダマイシンを、式(I)に関して記載するように、生成または使用しうるものと理解される。本発明によれば、「メリダマイシン」または「メリダマイシン化合物」という用語は、下記の物理化学的特徴を有する化合物も包含する:
見掛け(apparent)分子式:C45H75O12N
分子量:陽イオンエレクトロスプレー m/z = 844.8(M+Na)+; 陰イオンエレクトロスプレー MS m/z = 821.1(M-H)-; 高分解能フーリエ変換 MS m/z = 822.53637(M+H)+
紫外吸収スペクトル:λmax nm(アセトニトリル/水)=210 nm、端吸収
旋光度[α]25D - 1.4(c 1.0, MeOH)
陽子磁気共鳴スペクトル:(400mHz CH3OD):図1参照。
【0017】
式(I)において立体化学に関係なく示されているが、式(I)の化合物は1またはそれ以上のキラル中心を含有しうる。「式(I)の化合物」という場合、それらの全ての立体異性体を含む該構造式のあらゆる化合物を包含するものと理解される。
【0018】
1つの実施形態において、該化合物を製造する方法は、16S rDNA配列比較によってストレプトミセス属に分類される放線菌株の単離物(細胞)を利用する。放線菌株の単離物は、寒天培地、例えば、本明細書に記載されるATCC寒天培地No.172または174(ATCC Media Handbook, 1st edition, 1984)で増殖させた場合に、気中菌糸体を産生せず、淡褐色(tan)菌糸体を産生し、可溶性色素を産生しない。または、他の好適な培地を、例えばSigma(St.Louis, MO)から商業的に購入してもよい。さらなる実施形態において、放線菌株の単離物が、式Iの化合物である少なくとも1つの化合物を産生する。さらなる実施形態において、放線菌株の単離物が、式Iの化合物の両方を産生する。
【0019】
式(I)の化合物は、好ましくは、土壌放線菌株LL-C31037(NRRL 30721)またはBD240の発酵ブロスの精製によって得る。「式(I)の化合物」は、その全ての異性体を包含する式(I)の構造のあらゆる化合物を包含するものと理解される。例えば、メリダマイシンを、本明細書に記載するように、菌株LL-C31037またはBD240の発酵の抽出物から精製した。
【0020】
神経保護化合物(I)の製造について、本発明は、特定の生物、例えば、LL-C31037およびBD240として指定されるストレプトミセス種に限定されない。実際に、この生物の天然発生変異体の使用、ならびに、当業者に公知の種々の変異誘発手段、例えば、ナイトロジェンマスタード、X線、紫外線、N'−メチル−N'−ニトロ−N−ニトロソグアニジンまたはアクチノファージへの暴露によって、この生物から作製される誘発変異体の使用を包含することが望ましく、かつそれを意図している。さらに、当業者に公知の遺伝子技術、例えば、接合、導入および遺伝子工学技術によって作製される種間および種内遺伝子組換え体を包含することも望ましく、かつそれを意図している。
【0021】
式(I)の化合物の製造法は、好ましくは、放線菌株LL-C31037およびBD240の発酵における増殖を含む。
【0022】
1つの実施形態において、本発明は放線菌株LL-C31037を使用し、該菌株は、ブダペスト条約の規定により、Agricultural Research Service Culture Collection(NRRL), 1815 North University Avenue, Peoria, Illinois 61604に2004年3月1日に寄託され、NRRL表示番号30721を付与された。他の実施形態において、本発明は放線菌株BD240を使用し、該菌株は、ブダペスト条約の規定により、Agricultural Research Service Culture Collection(NRRL), 1815 North University Avenue, Peoria, Illinois 61604に2005年1月19日に寄託され、NRRL表示番号30810を付与された。本発明は、さらに、式(I)の化合物を産生する能力を特徴とする本発明の新規菌株の単離物、ならびにそれらの誘導体、変異体、組換え体および改質形態(modified forms)も使用しうる。1つの実施形態において、それらの誘導体、変異体、組換え体および改質形態は、1またはそれ以上の下記特徴をさらに有する:気中菌糸体を産生しない;淡褐色の基質菌体(substrate mycelium)を産生する;および可溶性色素を産生しない。
【0023】
例えば放線菌株LL-C31037に関する付加的開示が、同一出願人による米国仮特許出願第60/549,480号(出願日:2004年3月2日、発明の名称:「Macrolides And Compositions And Methods For Producing Same」、代理人事件番号:AM101593)に示されている。該菌株、および放線菌BD240に関する付加的開示が、同じ発明の名称および代理人事件番号を有し、本出願と同時に出願された対応する米国非仮出願に示されており、その開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0024】
新規化合物(I)を包含するマクロライド化合物を生成するために、ストレプトミセス種LL-C31037およびBD240を培養する発酵条件は、フラスコ中で行うことができる。またはより多くの量の生成を、同様の条件下に発酵槽で行うこともできる。
【0025】
ストレプトミセス種LL-C31037およびBD240の培養、およびマクロライド化合物の生成に有効な培地は、下記を含有する:同化性炭素源、例えば、デキストロース、スクロース、グリセロール、糖蜜、デンプンガラクトース、フルクトース、コーンスターチ、麦芽エキスおよびそれらの組合せ;同化性窒素源、例えば、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、アミノ酸、タンパク質加水分解物、コーンスティープリカー、カザミノ酸、酵母エキス、ペプトン、トリプトンおよびそれらの組合せ;ならびに、無機陰イオンおよび陽イオン、例えば、カリウム、ナトリウム、硫酸、カルシウム、マグネシウム、塩化物。微量元素、例えば、亜鉛、コバルト、鉄、ホウ素、モリブデンおよび銅が、培地の他の成分の不純物として供給される。タンクおよびボトルにおける通気は、発酵培地の中または表面に滅菌空気を通すことによって供給される。機械インペラーが、タンクにおけるさらなる撹拌を与える。消泡剤、例えば、ポリプロピレングリコールを、必要であれば添加することができる。
【0026】
増殖培地において式(I)の神経保護および神経再生化合物を生成するための、本明細書に記載するような放線菌株の管理条件下の培養の発酵条件。
【0027】
1つの実施形態において、発酵生成培地は、下記物質を組み合わすことによって作製される:デキストロース 約1から約2重量(wt)%、ダイズ源 約1から約3wt%、酵母 約0.25から約1wt%、カルシウム源 約0.1wt%、マルトデキストリン 約5から約10wt%、好ましくは6から8wt%、および任意に、プロリン 0から0.5wt%。任意に、他の成分も含有してよい。好適には、培地を、pH 約6.5から7.5、好ましくは約6.8から7に調節する。一般に、好適な撹拌および通気を行いながら培養物を発酵させる。または、他の好適な発酵培地を、当業者によって、他の適切な炭素源または他の成分で置き換えて作製してもよく、かつ/または商業的に購入してもよい。一般に、例えば、Sigma Aldrich(St. Louis, MO);G. J. Tortora et al, Microbiology:An Introduction Media Update(Benjamin Cummings Publishing Co.;Oct.1, 2001);Mainteining Cultures for Biotechnology and Industry, eds. J. C. Hunter-Cevera and A. Bet(Academic Press, Jan 25, 1996)参照。
【0028】
発酵から、約5から10日後、好ましくは約7日後に、培養物からの細胞を、遠心によってペレット化する。1つの実施形態において、細胞を好適な溶媒、例えば、エチルアセテートで抽出する。抽出物を真空濃縮し、最少量の好適な溶媒、例えばメタノールに再懸濁させる。溶液を、逆相シリカカラムに装填し、水中20%から100%のメタノールで溶離する。60%メタノールから100%メタノールから溶離する画分を、真空濃縮する。プロリルメリダマイシンを含有する画分を、好適な方法、例えば、クロマトグラフィー法によって分離する。
【0029】
別の実施形態において、上清を好適な樹脂と混合し、約8から16時間静止させる。次に、樹脂を、好適な溶媒、例えば、メタノールで洗浄し、濾液を収集する。細胞ペレットに、エチルアセテート−メタノール混合物を添加する。これを繰り返し振り、遠心し、上清を収集する。細胞上清、およびブロス(broth)メタノール濾液を合わせ、真空濃縮する。粗抽出物をシリカに吸収し、真空液体クロマトグラフィー(VLC)によって分画する。化合物を、好適な溶媒、例えば、ジクロロメタン中のメタノールで溶離する。この抽出物を濃縮し、シリカに吸収し、フラッシュシリカカラムにロードする。化合物を好適な溶媒で溶離し、濃縮し、カラムクロマトグラフィーによってさらに精製する。
【0030】
粗または半精製物質中の式Iの化合物の存在は、従来法、例えば、画分の液体クロマトグラフィー質量分析(LCMS)解析によって確認できる。これらの画分を溜め、クロマトグラフィー法、および任意に、例えば真空での、濃縮によって、さらに精製してよい。
【0031】
得られた精製化合物は、実験室および/または臨床目的における化合物の取扱いおよび製剤化を可能にするのに必要な細胞および細胞物質、副生成物、試薬および他の異物を含有しない。本発明に使用される化合物の純度は、80wt%より大きく、より好ましくは少なくとも90wt%、さらに好ましくは95wt%より大きく、さらに好ましくは少なくとも99wt%の純度であることが好ましい。1つの実施形態において、本発明は、そのような化合物がどのように生成されたかに関係なく、本発明に有用な化合物を含有する組成物を提供する。
【0032】
本明細書において使用される「有効量」および「治療有効量」という用語は、患者に投与した場合に、患者が罹患していると考えられる症状を少なくとも部分的に改善するのに有効な、式(I)の化合物の量を意味する。治療的適用において限定するものではないが、式(I)の化合物を、中枢神経系の疾患の治療に使用することが望ましい。中枢神経系に影響する疾患は、下記の疾患を包含するがそれらに限定されない:てんかん、脳卒中、脳虚血、脳性麻痺、アルパーズ病、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、レヴィー小体認知症、レット症候群、神経障害性疼痛、脊髄外傷または外傷性脳損傷。
【0033】
本明細書において使用される「対象」または「患者」という用語は、ヒトまたは非ヒト動物であってよい哺乳動物を意味する。
【0034】
本明細書において使用される「投与する」、「投与すること」または「投与」という用語は、化合物または組成物を患者に直接的に投与するか、または、化合物のプロドラッグ誘導体または類似体(これは、患者の体内で、相当量の活性化合物または物質を形成する)を患者に投与することを意味する。
【0035】
本発明における神経系疾患は、下記疾患を包含するがそれらに限定されない神経変性に関連した種々の末梢神経障害性および神経系の疾患を包含するが、それらに限定されない:三叉神経痛、舌咽神経痛、ベル麻痺、重症筋無力症、筋ジストロフィ、筋萎縮性側索硬化症(ASL)、多発性硬化症、進行性筋萎縮症、進行性延髄遺伝性筋萎縮症、ヘルニア様、破裂性または脱出性脊椎骨椎間板症候群、頸椎症、神経叢障害、胸郭出口破壊症候群、末梢神経障害(例えば、鉛、アクリルアミド、γ−ジケトン(グルー−スニッファー神経障害(glue-sniffer's neuropathy))、カーボンジスルフィド、ダプソン、マダニ、ポルフィリン症、ギラン−バレー症候群、認知症、アルツハイマー病、パーキンソン病およびハンチントン舞踏病によって生じる末梢神経障害)。
【0036】
中枢神経系の疾患の治療にメリダマイシンを使用することが望ましい。中枢神経系に影響する疾患は、下記の疾患を包含するがそれらに限定されない:てんかん、脳卒中、脳虚血、脳性麻痺、アルパーズ病、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、レヴィー小体認知症、レット症候群、神経障害性疼痛、脊髄外傷または外傷性脳損傷。
【0037】
神経栄養療法が適切であることが示されている特定の状態は、中枢神経系疾患、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、外傷性脳損傷、脊髄損傷、てんかん、老化、炎症性疾患、関節リウマチ、自己免疫疾患、呼吸窮迫、気腫、乾癬、成人呼吸窮迫症候群、中枢神経系外傷および脳卒中に伴うものである。
【0038】
本発明の化合物は、認知強化の付与、並びに老人性認知症、レヴィー小体認知症、軽度認知障害、アルツハイマー病、認知低下、神経変性疾患の治療または抑制、神経保護または認知強化の付与にも有効である。
【0039】
特定の疾患状態または障害の治療または抑制のために投与する場合、有効投与量は、使用される特定の化合物、投与法、治療を受けている症状、その重症度、ならびに、治療を受けている個々の患者に関する種々の身体的要因に依存して変化しうるものと理解される。本発明化合物の有効投与は、月1回、週1回または毎日、または他の好適な間隔で行いうる。例えば、非経口投与は、週1回ベースにおいて、1週につき約10mgから約1000mg、約50mgから約500mg、または約100mgから約250mgの投与量で送達され得る。好適な経口投与量は、約0.1mg/日より多くてよい。好ましくは、投与は、単回投与または2回もしくはそれ以上の分割投与において、約10mg/日より多く、特に約50mg/日より多い。経口投与は、一般に、約1,000mg/日を超えず、特に約600mg/日を超えない。計画日用量は、投与経路によって変化すると考えられる。
【0040】
そのような投与量は、本明細書の活性化合物を被投与者の血流に向けるのに有効な任意の方法で投与され、そのような投与法は、経口、インプラント、非経口(静脈内、腹腔内および皮下注射を含む)、直腸、鼻腔内、膣および経皮投与を包含する。
【0041】
本発明の活性化合物を含有する経口製剤は、錠剤、カプセル剤、バッカル(buccal)型、トローチ剤、ロゼンジ剤および経口液、懸濁剤または液剤を包含する一般に使用される任意の経口剤形を含みうる。カプセル剤は、活性化合物と、不活性充填剤および/または希釈剤、例えば、薬学的に許容されるデンプン(例えば、トウモロコシ、バレイショまたはタピオカデンプン)、砂糖、人工甘味料、粉末セルロース、例えば、結晶性または微結晶性セルロース、小麦粉、ゼラチン、ゴム等との混合物を含有しうる。有効な錠剤製剤は、従来の圧縮法、湿式造粒法または乾式造粒法によって製造でき、薬学的に許容される希釈剤、結合剤、潤滑剤、崩壊剤、表面改質剤(界面活性剤を含む)、懸濁化または安定化剤(マグネシウムステアレート、ステアリン酸、タルク、ソジウムラウリルスルフェート、微結晶性セルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、アルギン酸、アラビアゴム、キサンタンゴム、ソジウムシトレート、複合シリケート(complex silicates)、カルシウムカーボネート、グリシン、デキストリン、スクロース、ソルビトール、ジカルシウムホスフェート、カルシウムスルフェート、ラクトース、カオリン、マンニトール、ソジウムクロライド、タルク、ドライスターチおよび粉末砂糖を含むがこれらに限定されない)を使用しうる。好ましい表面改質剤は、ノニオンおよびアニオン表面改質剤を包含する。表面改質剤の代表例は、ポロキサマー188、ベンザルコニウムクロライド、カルシウムステアレート、セトステアリルアルコール、セトマクロゴール乳化ろう、ソルビタンエステル、コロイドルシリコンジオキシド、ホスフェート、ソジウムドデシルスルフェート、マグネシウムアルミニウムシリケートおよびトリエタノールアミンを包含するがそれらに限定されない。本発明における経口製剤は、活性化合物の吸収を変化させるために、一般的な遅延または持続放出製剤を使用しうる。経口製剤は、適切な可溶化剤または乳化剤を必要であれば含有する水またはフルーツジュースに、活性成分を添加することからなってもよい。
【0042】
ある場合には、化合物を、エアロゾル剤形で、気道に直接的に投与することが望ましいこともある。
【0043】
本発明化合物は、非経口または腹腔内投与してもよい。遊離塩基または薬理的に許容される塩としてのこれらの活性化合物の溶液または懸濁液は、界面活性剤、例えばヒドロキシ−プロピルセルロースと適切に混合した水において調製することができる。分散液も、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、およびそれらの油中混合物において、調製することができる。保存および使用の通常条件下に、これらの調製物は、微生物の増殖を防止する防腐剤を含有する。
【0044】
注射使用に好適な医薬剤形は、滅菌水性溶液または分散液、および滅菌した注射可能溶液または分散液の即時調製用の滅菌粉末を包含する。全ての場合に、該剤形は、滅菌性にすべきであり、かつ容易に注射が可能な程度に流動性にすべきである。該剤形は、製造および保存条件下に安定性にすべきであり、かつ、微生物、例えば、細菌および真菌の汚染作用に対して保護すべきである。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレグリコール)、適切なそれらの混合物、および植物油を含有する溶媒または分散媒であってよい。
【0045】
本発明の開示のために、経皮投与は、体の表面、および上皮および粘膜組織を含む体の通路の内層への全ての投与を包含するものと理解される。そのような投与は、ローション剤、クリーム剤、フォーム剤(foams)、貼付剤、懸濁剤、液剤および坐剤(直腸および膣)における本化合物または薬学的に許容されるその塩を使用して行いうる。
【0046】
経皮投与は、活性化合物、および、活性化合物に不活性であり、皮膚に非毒性であり、かつ皮膚から血流への全身的吸収用の物質の送達を可能にする担体を含有する経皮パッチの使用によって行いうる。担体は、クリームおよび軟膏、ペースト、ゲルおよび密封手段(occlusive devices)などのあらゆる形態であってもよい。クリームおよび軟膏は、水中油または油中水型のいずれの型の粘稠液体または半固体エマルジョンであってよい。活性成分を含有する石油または親水性石油に分散した吸収性粉末から成るペーストも好適である。種々の密封手段、例えば、担体の有無において活性成分を含有するレザバーを覆う半透膜、または活性成分を含有するマトリックスは、活性成分を血流に放出するために使用しうる。他の密封手段は、文献において公知である。
【0047】
坐剤製剤は、カカオ脂(坐剤の融点を変化させるためにワックスを添加するかまたは添加しない)、およびグリセリンを包含する従来物質から形成しうる。水溶性坐剤基剤、例えば、種々の分子量を有するポリエチレングリコールも使用しうる。
【0048】
本発明は、送達用に製剤された化合物を含有する包装容器を含む製品も提供する。別の態様において、本発明は、例えば、本発明化合物の送達用の、針、注射器および他の包装容器を含有するキットを提供する。任意に、そのようなキットは、薬剤投与説明書、希釈剤、および/または固体剤形の本発明化合物の混合用の担体を含有してよい。
【0049】
本発明化合物の製造に使用される試薬は、商業的に入手できるか、または文献に記載の一般的手順によって調製できる。
【0050】
本発明の代表的な調製例を、以下の実施例に記載する。
【実施例1】
【0051】
放線菌株LL-C31037の発酵条件
放線菌株LL-C31037の制御条件下の培養のための発酵条件は、増殖培地において、式(I)の神経保護および神経再生化合物を生成する。
【0052】
放線菌株は、培養物保存機関Wyeth Research, Pearl River, New York 10965に培養物LL-C31037として保存されている。この微生物の生存培養物は、ブダペスト条約により、Patent Culture Collection, Northern Regional Research Laboratory(NRRL), U.S. Department of Agriculture, Peoria, IL 61604に寄託され、その永久収集に追加されている。培養物LL-C31037は、NRRLアクセッション番号30721を付与され、2004年3月1日に寄託されている。
【0053】
寒天プレート、例えば、ATCC寒天培地No.172における、放線菌株LL-C31037の培養物は、気中菌糸体を産生しない。基質菌体は淡褐色であり、可溶性色素は産生されない。増幅遺伝子の分離および直接塩基配列決定後に、菌株LL-C31037について16S rDNA配列を決定した。ヌクレオチド配列を、先に調査されたストレプトミセス属菌株の配列と整列化し、2つのネイバー−ジョイニングツリーアルゴリズム(two neighbor-joining tree algorithms)を使用して系統樹を得た。16S rDNA配列は、ストレプトミセス属の菌株の分類を裏付けた。
【0054】
化合物(I)の生成のためにストレプトミセス種LL-C31037を培養する発酵条件を、フラスコで行った。または、より多くの量の生成を、同様の条件下に発酵槽で行った。
【0055】
A. フラスコ発酵
下記の配合のシード培地(seed medium)を、以下の物質を合わすことによって作製した:デキストロース(オートクレーブ処理後に添加)、1%;可溶性デンプン、2%;イーストエキス、0.5%;N-Zアミン型A(Sheffield)、0.5%;カルシウムカーボネート、0.1%;pH7.0。
【0056】
25x150 mmガラス管中のシード培地10 mLに、ATCC寒天培地No.172で培養した白金耳量(loopful)2杯分のLL-C31037の細胞塊を接種した。寒天培養物からの充分な接種物を使用して、72時間の増殖後に、混濁したシードを得た。一次シード管を、軌道2インチのジャイロ−ロータリーシェーカーを使用して200rpmにおいて28℃で72時間インキュベートした。次に、一次シード(7mL)を使用して、シード培地30mLを含有する250mLエルレンマイヤー(Erlenmeyer)フラスコに接種した。この二次シードフラスコを、ジャイロ−ロータリーシェーカー(軌道2インチ)を使用して200rpmにおいて28℃で24時間インキュベートした。
【0057】
下記配合の発酵生成培地を、以下の物質を合わすことによって作製した:デキストロース(オートクレーブ処理後に添加)、1%;マルトリン M180、6%;大豆粉、1%;イーストエキス、0.6%;Gamaco(CaCO3)、0.1%;pH7.0。
【0058】
第二シード培養物1mLを、250mLエルレンマイヤーフラスコ中の発酵生成培地50mLに接種した。これらの生成フラスコを、ジャイロ−ロータリーシェーカー(軌道2インチ)を使用して200rpmにおいて26℃で7日間インキュベートした。
【0059】
B. 発酵槽発酵
下記配合のシード培地を、以下の物質を合わすことによって作製した:デキストロース(オートクレーブ処理後に添加)、2%;可溶性デンプン、2%;イーストエキス(Difco)、0.3%;小麦加水分解物WGE80M(DMV International)、0.5%;大豆加水分解物SE50MAF(DMV International)、1.5%;pH6.8から7.0。
【0060】
凍結シード培養物1mLを、4Lエルレンマイヤーフラスコ中のシード培地1Lに接種した。このシードフラスコを、ジャイロ−ロータリーシェーカー(軌道2インチ)を使用して250rpmにおいて30℃で72時間インキュベートした。
【0061】
下記配合の発酵生成培地を、以下の物質を合わすことによって作製した:デキストロース(オートクレーブ処理後に添加)、2%;マルトリン M500、8%;ヌートリソイ(nutrisoy)(GPC)、1%;イーストエキス(Difco)、0.6%;Gamaco(CaCO3)、0.1%;Macol P2000、0.2%;pH6.8から7.0。
【0062】
シード培養物1Lを、70L発酵槽中の発酵生成培地60Lに接種した。発酵を、350から550rpmで撹拌し、0.5から0.75 volvol-1min-1(VVM)で通気しながら26℃で5日間インキュベートした。
【実施例2】
【0063】
放線菌株BD240の発酵条件
放線菌株BD240の制御条件下の培養のための発酵条件は、増殖培地において、式(I)の神経保護および神経再生化合物を生成する。
【0064】
放線菌株は、培養物保存機関Wyeth Research, Pearl River, New York 10965に培養物BD240として保存されている。この微生物の生存培養物は、ブダペスト条約により、Patent Culture Collection, Northern Regional Research Laboratory(NRRL), U.S. Department of Agriculture, Peoria, IL 61604に寄託され、その永久収集に追加されている。培養物BD240は、NRRLアクセッション番号30810を付与され、2005年1月19日に寄託されている。
【0065】
寒天プレート、例えば、ATCC寒天培地No.174における、放線菌株BD240の培養物は、気中菌糸体を産生しない。基質菌体は淡褐色であり、可溶性色素は産生されない。増幅遺伝子の分離および直接塩基配列決定後に、菌株BD240について16S rDNA配列を決定した。ヌクレオチド配列を、先に調査されたストレプトミセス属菌株の配列と整列化し、2つのネイバー−ジョイニングツリーアルゴリズムを使用して系統樹を得た。16S rDNA配列は、ストレプトミセス属の菌株の分類を裏付けた。
【0066】
化合物(I)の生成のためにストレプトミセス種BD240を培養する発酵条件は、フラスコで行った。または、より多くの量の生成を、同様の条件下に発酵槽で行った。
【0067】
A. フラスコ発酵
下記の配合のシード培地を、以下の物質を合わすことによって作製した:デキストロース(オートクレーブ処理後に添加)、1%;可溶性デンプン、2%;イーストエキス(Difco)、0.3%;小麦加水分解物WGE80M(DMV International)、0.5%;大豆加水分解物SE50MAF(DMV International)、1.5%;pH6.8から7.0。
【0068】
25x150 mmガラス管中のシード培地10mLに、BD240の凍結シード培養物0.2 mLを接種した。シード管を、軌道2インチのジャイロ−ロータリーシェーカーを使用して200rpmにおいて30℃で48時間インキュベートした。
【0069】
下記配合の発酵生成培地を、以下の物質を合わすことによって作製した:デキストロース(オートクレーブ処理後に添加)、1%;マルトリン M180、6%;大豆粉、1%;イーストエキス、0.6%;Gamaco(CaCO3)、0.1%;L−プロリン、0.4%;3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸、20.9g/L;pH7.0。
【0070】
シード培養物(0.5mL)を、250mLエルレンマイヤーフラスコ中の発酵生成培地25mLに接種した。これらの生成フラスコを、ジャイロ−ロータリーシェーカー(軌道2インチ)を使用して250rpmにおいて26℃で5日間インキュベートした。
【0071】
B. 発酵槽発酵
下記配合のシード培地を、以下の物質を合わすことによって作製した:デキストロース(オートクレーブ処理後に添加)、1%;可溶性デンプン、2%;イーストエキス(Difco)、0.3%;小麦加水分解物(WGE80M、DMV International)、0.5%;大豆加水分解物SE50MAF(DMV International)、1.5%;pH6.8から7.0。
【0072】
凍結シード培養物(0.5mL)を、2Lエルレンマイヤーフラスコ中のシード培地250mLに接種した。このシードフラスコを、ジャイロ−ロータリーシェーカー(軌道2インチ)を使用して200rpmにおいて30℃で48時間インキュベートした。
【0073】
下記配合の発酵生成培地を、以下の物質を合わすことによって作製した:デキストロース(オートクレーブ処理後に添加)、1%;マルトリン M180、6%;大豆粉、1%;イーストエキス(Difco)、0.6%;Gamaco(CaCO3)、0.1%;L−プロリン、0.4%;Macol P2000、0.1%;pH6.8から7.0。
【0074】
シード培養物250mLを、10L発酵槽中の発酵生成培地8Lに接種した。発酵を、480から650rpmで撹拌し、1.0 volvol-1min-1(VVM)で通気しながら26℃で7日間インキュベートした。
【実施例3】
【0075】
BD240からの化合物(I)の精製
BD240の培養物10Lからの細胞を、遠心によってペレット化した。5% Diaion-HP20樹脂を上清に添加し、これを室温で一晩撹拌した。HP20樹脂をメタノールで洗浄し、濾液を収集した。細胞ペレットに、80:20エチルアセテートメタノールを添加した。これを繰り返し振り、遠心し、上清を収集した。細胞上清およびブロスメタノール濾液を合わし、真空濃縮した。
【0076】
粗抽出物をシリカ(32から63μ、60Å)に吸収し、VLCによって分画した。化合物を、ジクロロメタン中の5%メタノールで溶離した。この物質を、真空濃縮し、シリカ(32から63μ、60Å)に吸収し、フラッシュシリカカラム(60mmx250mm)にロードした。化合物を、ジクロロメタン中の2%メタノールで溶離した。この物質を、真空濃縮し、Sephadex LH-20(60x400mm、メタノール)にロードした。カラムを先ず300mLメタノールで洗浄し、30mL画分を収集し、LCMSでモニターした。目的とする化合物を含有する初期画分を、収集し、濃縮した。この半純粋物質を、分取HPLC(YMC ODS-A 50x250 mm 10μカラム、A:水、B:メタノール、勾配:200分間で55%Bから70%B、30mL/分)によってクロマトグラフィーに付した。化合物Iを、画分のLCMS分析によって同定した。関心のあるこれらの画分を溜め、真空濃縮して、純粋な化合物I(tR=150分、220mg)を得た。
【0077】
同様の方法を使用して、放線菌株LL-C31037から化合物Iを精製することができる。
【実施例4】
【0078】
神経細胞培養物における化合物(I)の神経保護特性
ポングら、J Neurochem.69:986-994(1997)において先に記載されているように、中脳ドパミン作用性神経細胞培養物を調製した。胎齢15日(E15)のラット胎児を集め、氷冷燐酸緩衝生理食塩水(PBS)中で解剖した。中脳ドパミン作用領域を有する腹側組織片を切り離した。切り離した組織片を合わし、アール平衡塩溶液(Worthington Biochemical, Freehold, NJ, U.S.A.)中20IU/mLパパインを含有する酵素的分離培地に移し、37℃で60分間インキュベートした。酵素的分離後に、パパイン溶液を吸引し、2,000IU/mL DNアーゼおよび10mg/mLオボムコイドプロテアーゼ阻害剤を含有する完全培地[0.1mg/mLアポトランスフェリンおよび2.5μg/mLインスリンを補充した、等量の最小必須培地(MEM)およびF-12栄養混合物(Gibco BRL)]中で、火造りした(fire-polished)ガラスパスツールピペットを用いて、組織を機械的にすりつぶした。
【0079】
A. 高親和性ドパミン取り込みアッセイ
ドパミン取り込み実験のために、完全培地中の単細胞懸濁液を、ポリ−L−オルニチンおよびラミニンで被覆した24穴プレートに接種した。実験前に、培養物を7日間維持した。培養物を、種々の濃度の式(I)の化合物(PBSで洗浄し、培地で1nMから1000nMの濃度に希釈)で24時間前処理し、次に、10μM 神経毒1−メチル−4−フェニルピリジニウム(MPP+)に1時間暴露して、細胞培養物中の式(I)の化合物の神経保護作用を評価した。1時間のインキューベーション後、培地を3回交換し、新しい化合物をさらに48時間添加した。
【0080】
より詳しくは、MPP+暴露後の中脳ドパミン作用性神経細胞培養物の48時間増殖後、高親和性3H−ドパミン取り込みを、Prochiantz et al., Nature 293:570-572(1981)に記載の改変法によって行った。5.6mM グルコースおよび1mM アスコルビン酸を含有する予熱燐酸緩衝生理食塩水(PBS)で、培養物を洗浄した。次に、培養物を、50nM 3H−ドパミン(31Ci/mmol、Du Pont-NEN、Wilmington、DE、U.S.A.)と共に37℃で15分間インキュベートした。培養物を、緩衝液で2回洗浄し、0.5N NaOHで溶解させた。Ultima Goldシンチレーションカクテルを含有するシンチレーションバイアルに溶解物を移し、液体シンチレーションカウンターで放射能を測定した。または、培養物溶解物を緩衝液で2回洗浄し、Optiphase Supermixシンチレーションカクテル(Wallac Scintillation Products, Gaithersburg, MD, USA)と共に室温で2時間インキュベートし、液体シンチレーションカウンターで放射能を測定することもできる。
表1
MPP+誘発毒性後の培養ドパミン作用性神経細胞における3H−ドパミン取り込み(%無処理対照)
処理 3H−ドパミン取り込み(%無処理対照)
無処理対照 100%
10μM MPP+ 40%
1 nM メリダマイシン 47%
10 nM メリダマイシン 51%
100 nM メリダマイシン 51%
1000 nM メリダマイシン 64%
【0081】
3H−ドパミン取り込み細胞アッセイにおけるMPP+誘発神経毒性を測定した。細胞培養物における神経保護作用を、MPPの存在下の培養物への化合物(1nMから1000nM)の添加によって測定した。表1に示すように、化合物は、培養したドパミン作用性神経細胞において、MPP+誘発神経毒性に対して神経保護性であり、10ng/mL GDNFによって付与される最大保護(84%取り込み)に対して、EC50 555 nMであった。
【実施例5】
【0082】
神経細胞培養物における化合物(I)の神経再生特性
分離した皮質神経細胞の培養物を、先に記載のように調製した[Pong et al., Exp Neurol. 2001 Sep;171(1):84-97(2001)]。簡単に言えば、胎齢15日のラット胎児を集め、氷冷PBS中で解剖した。切り離した皮質を集め、パパインを含有する酵素的分離培地に移した。30分後、火造りしたガラスパスツールピペットを用いて、組織を機械的にすりつぶした。完全培地中の単細胞懸濁液を、ポリ−L−オルニチンおよびラミニンで被覆した96穴プレートに接種した。24時間後、培養物を、種々の濃度の式(I)の化合物で72時間処理した。次に、培養物を固定し、神経フィラメント一次抗体およびペルオキシダーゼ標識二次抗体で染色した。ペルオキシダーゼ基質(K-Blue Max)を添加し、比色変化を比色プレートリーダーで測定した。
【0083】
分離した皮質神経細胞の培養物を、先に記載のように調製した(Pong et al., 2001)。簡単に言えば、胎齢15日のラット胎児を集め、氷冷PBS中で解剖した。切り離した皮質を集め、パパインを含有する酵素的分離培地に移した。30分後、火造りしたガラスパスツールピペットを用いて、組織を機械的にすりつぶした。完全培地中の単細胞懸濁液を、ポリ−L−オルニチンおよびラミニンで被覆した96穴プレートに接種した。24時間後、培養物を、種々の濃度の化合物で72時間処理した。次に、培養物を固定し、神経フィラメント一次抗体およびペルオキシダーゼ標識二次抗体で染色した。ペルオキシダーゼ基質(K-Blue Max)を添加し、比色変化を比色プレートリーダーで測定した。
表2
培養した皮質神経細胞における神経フィラメント含有量(無処理対照に対する倍増加)
処理 神経フィラメント含有量(無処理対照に対する倍増加)
無処理対照 1.0
10 nM メリダマイシン 1.71
100 nM メリダマイシン 2.24
1μM メリダマイシン 2.32
10μM メリダマイシン 2.56
【0084】
表2に示すように、神経細胞への化合物の添加は、培養した皮質神経細胞における神経細胞生存率を増加させ、EC50 12nMであった。
【実施例6】
【0085】
培養した皮質神経細胞における化合物(I)の神経再生特性
分離した皮質神経細胞の培養物を、先に記載のように調製した(前記Pong et al., 2001)。簡単に言えば、胎齢15日のラット胎児を集め、氷冷PBS中で解剖した。切り離した皮質を集め、パパインを含有する酵素的分離培地に移した。30分後、火造りしたガラスパスツールピペットを用いて、組織を機械的にすりつぶした。完全培地中の単細胞懸濁液を、ポリ−L−オルニチンおよびラミニンで被覆した96穴プレートに接種した。24時間後、培養物を、種々の濃度の式(I)の化合物で72時間処理した。次に、培養物を固定し、抗チューブリン一次抗体(TUJ-1)および蛍光標識二次抗体で染色した。Cellomics ArrayScanでEnhanced Neurite Outgrowth(ENO)アルゴリズムを使用して神経突起成長を測定し、細胞当たりの全神経突起長さとして示した。
表3
培養した皮質神経細胞における全神経突起長さ(%対照より以上)
処理 全神経突起長さ(%対照より以上)
10 nM 化合物 19%
100 nM 化合物 40%
1μM化合物 113%
10μM化合物 152%
【実施例7】
【0086】
培養した後根神経節における化合物(I)の神経再生特性
分離した後根神経節の培養物を、先に記載のように調製した[A. Wood et al., 「Stimulation of neurite outgrowth by immunophilin ligands: quantitative analysis by Cellomics Array scan」 Society for Neuroscience(2004), abstract 104.3]。簡単に言えば、生後3から5日の子ラットを安楽死させた。脊柱を除去し、各後根神経節(DRG)を切り離した。切り離したDRGを集め、パパインを含有する酵素的分離培地に移した。60分後、火造りしたガラスパスツールピペットを用いて、組織を機械的にすりつぶした。完全培地中の単細胞懸濁液を、ポリ−L−オルニチンおよびラミニンで被覆した96穴プレートに接種した。24時間後、培養物を、種々の濃度の式(I)の化合物で72時間処理した。次に、培養物を固定し、抗チューブリン一次抗体(TUJ-1)および蛍光標識二次抗体で染色した。Cellomics ArrayScanでEnhanced Neurite Outgrowth(ENO)アルゴリズムを使用して神経突起成長を測定し、細胞当たりの全神経突起長さとして示した。
表4
培養した後根神経節における全神経突起長さ(%対照より以上)
処理 全神経突起長さ(%対照より以上)
10 nM 化合物 4%
100 nM 化合物 9%
1μM 化合物 14%
10μM 化合物 24%
【0087】
本明細書において、物理的特性、例えば分子量、または化学的特性、例えば化学式に関して、範囲が使用されている場合、範囲の全組合せおよび半組合せおよびその中の特定の実施形態を包含するものとする。本明細書に引用されている全ての文献、および寄託物は、参照により本明細書に組み込まれる。本発明を特定の実施形態に関して記載したが、本発明の要旨を逸脱せずに変更を加えうるものと理解される。そのような変更は、添付の請求の範囲の範囲に含まれるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】図1は、400 MHzにおけるCH3OD中の式(I)の化合物の陽子NMRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効量のメリダマイシンまたはその塩を哺乳動物に投与することを含む、神経系疾患の治療法。
【請求項2】
メリダマイシンが式(I)の構造を有する、請求項1に記載の方法。
【化1】

【請求項3】
メリダマイシンが1またはそれ以上の下記特徴:
見掛け(apparent)分子式:C45H75O12N
分子量:陽イオンエレクトロスプレー m/z = 844.8(M+Na)+; 陰イオンエレクトロスプレー MS m/z = 821.1(M-H)-; 高分解能フーリエ変換 MS m/z = 822.53637(M+H)+
紫外吸収スペクトル:λmax nm(アセトニトリル/水)=210 nm、端吸収;
旋光度[α]25D - 1.4(c 1.0, MeOH);および
図1の陽子磁気共鳴スペクトル
を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
神経系疾患に罹患している哺乳動物を同定することをさらに含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
哺乳動物における神経変性の程度を評価することをさらに含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
化合物を投与する前に評価を行う、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
化合物を投与した後に評価を行う、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
神経系疾患が、てんかん、脳卒中、脳虚血、脳性麻痺、アルパーズ病、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、レヴィー小体認知症、レット症候群、神経障害性疼痛、脊髄外傷または外傷性脳損傷である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
神経系疾患が、老年認知症、レヴィー小体認知症、軽度認知障害、アルツハイマー病または認知低下である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
化合物を、1またはそれ以上の薬学的に許容される担体、賦形剤または希釈剤と混合する、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
神経系疾患の治療薬の製造における、メリダマイシンまたはその塩の使用。
【請求項12】
メリダマイシンが式(I)の構造を有する、請求項11に記載の使用。
【化2】

【請求項13】
メリダマイシンが1またはそれ以上の下記特徴:
見掛け分子式:C45H75O12N
分子量:陽イオンエレクトロスプレー m/z = 844.8(M+Na)+; 陰イオンエレクトロスプレー MS m/z = 821.1(M-H)-; 高分解能フーリエ変換 MS m/z = 822.53637(M+H)+
紫外吸収スペクトル:λmax nm(アセトニトリル/水)=210 nm、端吸収
旋光度[α]25D - 1.4(c 1.0, MeOH);および
図1の陽子磁気共鳴スペクトル
を有する、請求項11に記載の使用。
【請求項14】
神経系疾患が、てんかん、脳卒中、脳虚血、脳性麻痺、アルパーズ病、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、レヴィー小体認知症、レット症候群、神経障害性疼痛、脊髄外傷または外傷性脳損傷である、請求項11から13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
神経系疾患が、老年認知症、レヴィー小体認知症、軽度認知障害、アルツハイマー病または認知低下である、請求項11から13のいずれか一項に記載の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2007−526312(P2007−526312A)
【公表日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−501867(P2007−501867)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【国際出願番号】PCT/US2005/006246
【国際公開番号】WO2005/084673
【国際公開日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(591011502)ワイス (573)
【氏名又は名称原語表記】Wyeth
【Fターム(参考)】