説明

神経変性状態の処置

神経変性疾患の療法処置を必要とする患者に、療法有効量の、グリセロール部分および脂肪酸部分を含む脂質グリセリドを投与することを含む患者の処置方法であって、脂肪酸部分がγ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸およびアラキドン酸よりなる群から選択され、選択した脂肪酸部分がグリセロール部分のsn-2位に結合していることを特徴とする方法を提供する。好ましくは、本発明方法は患者のTGF-β1レベルを療法レベルに維持または上昇させるのに十分な期間、十分な用量で、脂質を投与するものである。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、神経変性状態、特にトランスフォーミング増殖因子(TGF-β)、殊にTGF-β1を増加させることが有益となる状態を処置する方法に関する。より詳細には本発明は、神経変性状態、特に脱髄性疾患、たとえば多発性硬化症、アルツハイマー病およびパーキンソン病、ならびに頭部外傷、発作および頭蓋内出血に伴う変性性後遺症を処置し、これによってたとえば再有髄化により神経機能が損傷状態から改善または回復する方法を提供する。
【0002】
さらに、そのような状態を効果的に処置できる医薬、より具体的には神経機能の回復に関して従来達成できなかったレベルの成果を達成できる医薬の製造のための、不飽和脂肪酸部分を含む既知化合物および新規化合物の新規な用途が提供される。
【0003】
本発明者らの出願中の未公開特許出願PCT/GB04/002089(本明細書に援用する)は、植物油および真菌油を神経変性疾患の処置に使用することに関する。これらの油はそれらの脂質のsn-2位に、一般にその油のsn-2脂肪酸の40%を超える高い割合の必須脂肪酸γ-リノレン酸(GLA)を含む。
【0004】
n-3およびn-6不飽和パターンの必須脂肪酸(EFA)が自己免疫疾患を含めたヒトの多様な生理障害に有益な作用をもつことは、文献に詳細に報告されている(WO 02/02105)。Harbige (1998) Proc. Nut. Soc. 57, 555-562は、自己免疫疾患状態における食事のn-3およびn-6酸補充について概説し、特にγ-リノレン酸(GLA)および/またはリノール酸(LA)に富む油の有益性の証拠を指摘した。
【0005】
Batesらは、1957年にリノール酸とγ-リノレン酸の残基の混合物を含む脂質油が炎症および自己免疫疾患の治療に際してより有効である可能性が示唆されてはいるが、1日3gの油(マツヨイグサ(Naudicelle Evening Primrose)油、7:1 LA:GLA)で、再発患者が被験油において対照より増悪することを見いだしたと指摘した。
【0006】
多発性硬化症(MS)の病因は依然として未知であるが、多発性硬化症患者は正常より高い神経抗原自己反応性T細胞レベルをもつことが研究により示された。これらのT細胞は特にミエリン塩基性タンパク質(MBP)およびミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)に反応し、健全な対照と比較して亢進した活性化状態にある。実際の軸索損傷プロセス、たとえば多発性硬化症における慢性炎症、脱髄およびアストログリア増加は複雑であるが、白質の炎症および脱髄が疾患重症度を決定すると考えられ、一方、最近の研究で多発性硬化症における軸索損傷はこの疾患の初期段階で開始し、能力障害に関与することが示唆された(De Stefano et al., 2001)。
【0007】
実験的自己免疫性脳脊髄炎(experimental autoimmune encephalomyelitis、EAE)は、多発性硬化症の免疫仲介作用について最も多く用いられている動物モデルである。モルモットにおける研究で、リノール酸はEAEの発症および重症度を部分的に抑制することが示された(Meade et al. (1978))。(Harbige et al. (1995), 1997b)は、EAEの臨床発現および組織病理発現に対するリノール酸およびγ-リノレン酸の疾患改変効果を立証した。γ-リノレン酸は用量に応じて急性ラットEAEにおいて完全防御性であり、一方リノール酸は臨床重症度に対して用量依存作用をもつが根絶はしなかった。
【0008】
これらの実験所見にもかかわらず、ヒト疾患である多発性硬化症は著しく複雑であり、T細胞その他の免疫反応因子の活動によって増悪と改善という逆の可能性のあることが認識されている。リノール酸のみを用いて得た結果に基づけば、n-6脂肪酸は自己免疫疾患および炎症性疾患を促進すると考えられる。γ-リノレン酸をex vivo供給したマウスにおいては、TGF-β1およびPGE2産生が非特異的に増加することが示された。TGF-β1は、急性および再発性のEAEを防御し(Racke et al. (1993);Santambrogio et al. (1993))、PG阻害薬、たとえばインドメタシンはこの疾患を促進し、したがって悪化させる(Ovadia & Paterson (1982))と報告されている。
【0009】
サイトカインは多発性硬化症の発病に関与することが指摘され、多数の研究がこの疾患の再発期と一致したミエリン毒性炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1βおよびIFN-γ)の増加を示している。逆に、抗炎症性および免疫抑制性サイトカインであるトランスフォーミング増殖因子-ベータ1(TGF-β1)のレベルは再発期に減少し、患者が寛解期に入るのに伴って増加するように思われる。したがって、多発性硬化症の再発-寛解に際しては生物活性TGF-β1と前炎症性TNF-α、IL-1βおよびIFN-γのバランスが調節異常になると思われる。
【0010】
EAEからの自然回復期には、TGF-β1分泌T細胞がEAEエフェクター細胞を阻害し、TGF-β1がCNSに発現し、EAEの経口耐性誘発防御の場合はTGF-βおよびPGE2が脳に発現する((Karpus & Swanborg (1991);Khoury et al.(1992))。Harbige(1998)は、EAEに対する食事γ-リノレン酸の作用は、TGF-β1が関与するTh3-様機序、およびおそらくスーパーオキシドジスムターゼ抗酸化活性により仲介されると結論した。
【0011】
ボリジ(ルリチシャ、borage)油(脂肪酸含量100%当たり、一般に20〜23%のγ-リノレン酸および34〜40%のリノール酸)およびムコール・ジャバニカス(Mucor javanicus)真菌油(図1参照)は、多発性硬化症の候補薬を同定するのに用いたEAE動物モデルにおいて有効であることが示されたが、ヒトの疾患に有意に有効であることは全く示されていない。低レベルのγ-リノレン酸を含む高レベルのリノール酸(EPO(マツヨイグサ油)、すなわちリノール酸:γ-リノレン酸比7:1)はラットにおいてEAEの発症および重症度を部分的に抑制したが、前記のBatesのマツヨイグサ(Naudicelle)研究では患者を悪化させた。多発性硬化症患者が30年以上にわたってボリジ油、および他のGLA/LA含有油、たとえばマツヨイグサ油を使用したにもかかわらず、大部分の患者はこの疾患から回復せず、有意の改善を示すことなく原疾患が進行し続けて死亡した。
【0012】
特に、γ-リノレン酸およびリノール酸に富むボリジ油を多発性硬化症において免疫抑制をもたらす手段として使用することが示唆された(US 4,058,594)。重要な点として、示唆された用量は2.4g/日の油であるが、有効性の実証は示されていない。これは、PCT/ GB04/ 002089の研究でヒトにおいてインビボで無効であることが認められた5g/日の低用量よりはるかに低い。
【0013】
T細胞の枯渇薬(depleters)および調節薬(modulators)、たとえばシクロホスファミドを含めた、より劇的な他の免疫抑制剤処置もEAEモデルにおいて有効であることが示されたが、これらをヒトの多発性硬化症に用いた場合、疾患の症状は改善されたけれども原疾患は進行し続けた。T細胞はヒトにおいて有益なサイトカイン、たとえばTGF-β1を実際に産生するが、有害なサイトカインも産生する。英国Institute of NeurologyのDavid Bakerは、EAEに有効なものと多発性硬化症に有効なものの相異を、英国多発性硬化症学会の2004年5月10日、英国多発性硬化症フロンティア学会で、”あらゆるものがEAEを停止するが、多発性硬化症を停止させるものはない”と題する報文にまとめた。
【0014】
免疫抑制だけで多発性硬化症を治癒できないのは明らかである。多発性硬化症患者には自己免疫疾患のほかに根本的な代謝障害があり、これが膜の異常、サイトカインの調節異常、続いて免疫攻撃および病変を引き起こすのがその原因であることは、ほとんど確実である。患者の再発-弛張性疾患は寛解するが、原疾患である脱髄は進行する。
【0015】
多発性硬化症の’最高標準’処置は、依然としてインターフェロン、たとえばβ-アベネックス(β-Avenex、登録商標)、レビフ(Rebif、登録商標)その他のインターフェロン製剤によるものである。この最高標準処置はたとえば約30%の患者の要望に対処できるにすぎず、これらの場合ですら症状改善は再発重症度の軽減に限定される。ある割合の患者においては症状が軽減するが、疾患は進行し続け、原疾患である変性のためさらに能力障害が起き、死に至る。
【0016】
本発明者らは未公開PCT/GB 04/002089の研究において意外にも、高レベルのsn-2 γ-リノレン酸(sn-2位の残基の>40%がγ-リノレン酸残基である)を含有し、付随する脂肪酸残基含量が適切であるトリグリセリド油による’高用量’処置によれば、多発性硬化症のほぼすべての症状において現在の最高標準処置で得られるものより優れた顕著な改善レベルを達成できると判断した。そのような成果は、マツヨイグサ(Naudicelle)の研究のように他のγ-リノレン酸含有製剤の従来の使用が成功しなかったことからみて、特に意外である。
【0017】
PCT/GB 04/002089の研究は、18カ月間にわたって高用量(15 g/日)の特定の高sn-2 γ-リノレン酸含有ボリジ油を摂取している患者が、有意(p<0.001)かつ顕著なEDSSスコア改善、再発速度の低下、筋痙縮および痛みを伴う感覚症状の症状軽減、ならびに客観的な認知機能尺度の改善を呈したことを示す。5 g/日の低用量のこのボリジ油は効果がなかった。
【0018】
最高用量のこのボリジ油を摂取している患者は、試験期間中、その末梢血単核細胞(PBMC)のTGF-β1産生レベルを維持し、患者の前炎症性サイトカインTNF-αおよびIL-1βは有意かつ顕著に低下し(<70%)、PBMC膜の長鎖ω-6脂肪酸であるジホモ-γ-リノレン酸(DHLA)およびアラキドン酸(AA)を維持または増加した;これは、試験期間にわたってこれらの脂肪酸の損失を示したプラセボ摂取患者と対照的である。
【0019】
これは免疫抑制であって活発な病変および神経変性の亢進を低下させると予想されたであろうが、この高sn-2 GLA油処置は明らかに、処置しなければ多発性硬化症において特異的に失われる重要な膜脂質成分の維持および/または増加を目標としていた;これは、現在の療法では他の形で効果的に処置できない代謝異常の補正と一致する。低用量(5 g/日)ではその効果がなかったという事実は、このような判断を支持する。
【0020】
γ-リノレン酸(18:3n-6、またはGLA)は、インビボで速やかに長鎖ω-6多不飽和脂肪酸であるジホモ-γ-リノレン酸およびアラキドン酸に変換されることが知られている(Phylactos et al. 1994、Harbige et al. 1995, 2000)。したがって本発明者らは、多発性硬化症において膜の長鎖ω-6脂肪酸レベルを高める方法を調べるために、慢性再発性実験的自己免疫性脳脊髄炎(chronic relapsing experimental autoimmune encephalomyelitis、CREAE)として知られる多発性硬化症のインビボ実験動物モデルにおいて、以下の数種類のGLA含有油をGLA送達系として用いて本発明者らが得た結果をまとめた:真菌(ムコール・ジャバニカス(Mucor javanicus))および植物(ボリジ(ボラゴ・オフィシアナリス、Borago officianalis)、マツヨイグサ(Oenothera spp.)またはクロフサスグリ(Ribes spp.))の両方、ならびに合成トリ-GLA油。
【0021】
ラットにEAEを誘発しても脱髄の組織病理学的特徴が生じることはなく(Brosman et al. 1988)、急性単相性疾患パターンが誘発される;これは、CNS脱髄を特徴としかつ大部分の症例で臨床的に再発-弛張する多発性硬化症とは異なる。しかし、慢性再発性脱髄性EAEモデル(CREAE)は脱髄と再発期を特徴とする。ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)は多発性硬化症において重要な神経抗原標的であるという立証(Genain et al. 1999)、および多発性硬化症ではMBP(ミエリン塩基性タンパク質)と比較してこの神経抗原に対する末梢血自己反応性リンパ球の反応がはるかに大きいという立証(Kerlero de Rosbo et al. 1993, 1997)により、MOG誘発CREAEは多発性硬化症にみられるものと近似する特徴を備えた選択動物モデルとなった(Fazakerely et al. 1997、Genain et al. 1999、Amor et al. 1994)。
【0022】
本発明者らのCREAE試験およびラットEAE給餌試験から得た証拠は、富化クロフサスグリ実油(72% w/w 18:3n-6、GLA)がEAEに対して防御しなかったことを指摘する(表3参照)。重要な点であるが、クロフサスグリ実油(seed oil)はsn-2 GLAが少なく、大部分のGLAがsn-1およびsn-3位にある(Lawson and Hughes 1988)。さらに、3つのGLA部分を含有する特定構造のトリアシルグリセロール(TG-GLA)は、CREAEに用いたボリジ油と類似の防御効果をもたらした(表2参照)。これも、sn-2 GLAが重要であることと一致する;すなわち、外側の対sn-1およびsn-3 GLAはインビボで酵素により除去されて、おそらく酸化を受け、sn-2 GLAのみが残るのであろう。この選択的加水分解は、特異的リパーゼがインビボでトリアシルグリセロール分子からsn-1およびsn-3脂肪酸を除去するが、sn-2位は明らかに保護されるという既知の能力から生じる(Lawson and Hughes 1988、Kyle 1990)。
【0023】
このまとめから本発明者らは、sn-2-γ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸またはアラキドン酸残基をもつグリセリドは多発性硬化症の代謝補正において、本発明者らが以前に試みた高sn-2-γ-リノレン酸のボリジ油より優れていると想定した。これによってより低い用量の脂質摂取ですみ、および/またはおそらく処置時間も短縮され、その結果有益な効果が得られるであろう。
【0024】
EP 0520624(Efamol Holdings)の表3は、マツヨイグサ油とボリジ油のトリグリセリド含量を比較して、多様なGLA応答性の障害に対して前者が後者より療法効果が高いことを教示している。この明細書は、ボリジ油が27種類の異なるトリグリセリド成分を含み、そのうちわずか20%がsn-2 GLAをもつことを指摘している。3頁40〜42行に、GLAを異なる油源として供給した場合、等量のGLAが実際には著しく異なる作用をもつ可能性があることを生物試験が示したと記載されている。きわめて重要であるが、これは次いで、PGE1の増加(EP 0520624、図面の4頁と表2)、したがって抗炎症作用におけるマツヨイグサ油の優れた効果に関係するものとして、ボリジ油ではなくマツヨイグサ油(EPO)中に存在する特定の1画分に読者の関心を向ける:この画分はジ-リノエオイル-モノ-γ-リノレニル-グリセロール(DLGM)と同定され、マツヨイグサ油中の総トリグリセリドの18〜19%であると述べられている。決定的に、6頁にはGLAの位置sn-1、2または3はこの効果にとって重要ではないと明確に教示されている。
【0025】
Dines et al. (1994) Proceedingd of the Physiological Society, 1994年9月14-16日, アバディーン会合では、EP 0520624が支持したタイプのγ-リノレン酸含有油で糖尿病性神経障害の神経損傷を処置する研究について報告し、この場合もボリジ油はこの神経変性の処置にさほど有効でなく、これに対しマツヨイグサ油は有効であったと明記している。この報文は、ボリジ油はGLA活性を妨害する他の成分を含有すると結論している。
【0026】
本発明者らは、高sn-2-γ-リノレン酸のボリジ油についての彼らの結果からみて、EAE、CREAEおよびヒト疾患である多発性硬化症の処置に有効なのは実際にはグリセリド、特にトリグリセリド中の、sn-2-γ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸またはアラキドン酸残基の存在であることを立証することに着手した。
【0027】
第1態様において本発明は、神経変性疾患の療法処置を必要とする患者に、療法有効量の、1以上の脂肪酸部分でエステル化されたグリセロール部分を含む特定構造の脂質グリセリドを投与することを含む患者の処置方法であって、該脂質が、γ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸およびアラキドン酸よりなる残基群から選択される脂肪酸部分をsn-2位に有することを特徴とする方法を提供する。
【0028】
特に有利には、処置される神経変性疾患は脱髄を伴うものである。本発明方法は、原疾患である神経変性を特異的に抑制し、神経機能を回復させる。特に、本発明方法は神経膜組成を正常化し、PBMC(末梢血単核細胞)が自然放出した健全なTGF-β1/TNFα比、およびTGF-β1とPBMCが放出した他のサイトカインとの健全な比を回復させる。最も有利には、本発明方法はあらゆるタイプの多発性硬化症における神経変性、特に再発性弛張性(remitting)、原発性進行性および慢性進行性の多発性硬化症を抑制し、たとえばMRIもしくはCATスキャンまたはEDSSスコアにより測定した神経機能を一部または完全に回復させる。この方法は、脱髄または神経損傷を伴う、発作後脳障害、頭部外傷および頭蓋内出血の処置にも使用できる。さらに、アルツハイマー病およびパーキンソン病などにおける他の慢性脱髄の処置にも適用できる。
【0029】
好ましくは、患者のTGF-β1レベルを療法レベルに維持または上昇させるのに十分な期間、十分な用量で、脂質を投与する。療法レベルとは、少なくとも健康な対象と一致するレベルを意味する。好ましくは投与量は、1日1回投与の18カ月後に患者の血液より単離した末梢血単核細胞(PBMC)から自然放出されたTGF-β1/TNFα比を0.4〜3.0、少なくとも0.5、より好ましくは少なくとも0.75、最も好ましくは少なくとも1にする量である。好ましくは用量は、1日1回投与の18カ月後に患者の血中のTGF-β1/IL-1β比を少なくとも0.5、より好ましくは少なくとも0.75、最も好ましくは少なくとも1にする量である。好ましくは12カ月後、より好ましくは6カ月後に、これらのレベルになる。
【0030】
一般に、1日の脂質投与量は0.5〜30gの経口投与、より好ましくは1〜20g、最も好ましくは1〜18g、一般に3〜5gである。
sn-2部分がγ-リノレン酸残基のものである場合、特にsn-1およびsn-3部分が比較的不活性であり、たとえば飽和脂肪酸のように代謝利用される酸である場合、投与量はこれらの範囲の上限側であってよい。sn-2部分がジホモ-γ-リノレン酸残基のものである場合は投与量はこれより少ない。一方、sn-2部分がアラキドン酸残基のものである場合は有効性はより高いが、高用量では不都合な副作用の可能性があるため投与はより慎重でなけれぱならない。
【0031】
より好ましくは本発明方法は、脂質が一般式I:
【0032】
【化1】

【0033】
(式中、R1およびR3は独立して水素およびアシル基から選択され、R2はγ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸およびアラキドン酸の残基よりなる群から選択される)
の、少なくとも1つのsn-2-γ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸またはアラキドン酸部分を含むモノグリセリド、ジグリセリドまたはトリグリセリドであることを特徴とする。
【0034】
本発明の目的に関して、アシル基は、置換されていてもよいアルキルおよびアルケニル鎖から選択される炭化水素鎖の末端に少なくとも1つのカルボニル基を含むものと定義され、カルボニル基はその炭素により式1に示すグリセロール残基の酸素に直接結合している。
【0035】
好ましいアシル基R1およびR3は、式-CO-(CH2)n-CH3(nは1〜22、より好ましくは4〜16、さらに好ましくは5〜12、最も好ましくは6〜10から選択される整数である)の飽和脂肪酸部分である。特に好ましくは、アシル基はカプリル酸およびカプリン酸の基であり、特にsn-2 位にγ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸およびアラキドン酸部分をもつ1,3-ジカプリルまたは1,3-ジカプリングリセロールである。
【0036】
本発明に用いるのに好ましいグリセリドはトリグリセリドである。
US 4701469には、本発明が本発明方法に使用できると判定した有効なあるトリグリセリドが栄養剤用(nutraceutical use)として記載されているが、それは具体的にはsn-2酸がEFA(必須脂肪酸)である1,3-ジオクタニルトリグリセリドを記載しているにすぎず、1,3-ジオクタノイルエイコサペンタグリセロールが好ましいと記載されている。これらは特に免疫調節に有用であると述べられ、多数の疾患が詳述されているが、神経変性および多発性硬化症における免疫抑制の用途は挙げられていない。
【0037】
式Iの化合物に含まれるものとして最も好ましい基R1〜R3は、単純飽和脂肪酸、または構造機能もしくは代謝機能をもつ天然脂肪酸、たとえば中鎖または長鎖脂肪酸であるが、他も可能である。特に好ましい脂肪酸は、代謝により主にエネルギー産生に利用されるものである。脂肪酸が構造性である場合、それは膜に利用され、γ-リノレン酸、リノール酸、ジホモ-γ-リノレン酸およびアラキドン酸残基であることが好都合である。残基とは、脂肪酸のカルボキシル基がエステル化されてグリセロール分子のヒドロキシ基の1つになった後に残存する部分を意味する。
【0038】
sn-1およびsn-3に関して他の好ましい酸は、主に構造膜プールに向けられる脂肪酸と異なり、ヒトにおいて代謝されてエネルギーを生成する脂肪酸から選択される:そのような好ましい酸には、オレイン酸およびパルミチン酸が含まれる。
【0039】
sn-1およびsn-3脂肪酸鎖(R1およびR3)が不飽和である場合、他の必須脂肪酸、たとえばn-3酸、たとえばステアリドン酸、エイコサペンタエン酸およびドコサヒエキサン酸であってもよい。脂肪酸が置換されていてもよい場合、これらは好ましくはヒドロキシ、オキソ、カルボキシル、アルキル、アルケニルおよびアルコキシ基による。炭化水素鎖は、好ましくは炭素原子1〜30個の長さ、より好ましくは炭素原子4〜28個の長さ、さらに好ましくは炭素原子4〜24個の長さのものである。最も好ましくは炭化水素鎖は脂肪酸、特に好ましくは単一不飽和または多不飽和脂肪酸のものである。
【0040】
本発明方法に用いる好ましい脂質の多くは既知であり、当技術分野で既知の化学的方法により製造できる。たとえば多くは市販されており、たとえばトリγ-リノレニンであり、TLGとして知られるが、本明細書中では基R1R2R3の同一性を反映させてGGGと呼ぶ;ここでGはγ-リノレン酸残基を表わす。
【0041】
GGGはNu-Check-Prep Inc.から市販されている。EP 0300844には、塩基触媒作用によりトリアセチンをγ-リノレン酸メチルでエステル交換して、80%のGGG、未反応のγ-リノレン酸メチル、および10%のモノ-およびジ-グリセリドを含有する混合物を得ることによる合成が記載されている。
【0042】
トリアラキジンは既知であり、少量がたとえばSigmaから市販されている。AAAは、アラキドン酸から固定化リパーゼを用いて合成され、血管新生促進活性について特許付与されている;US 4888324。
【0043】
ただし、トリおよびジ−γ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸またはアラキドン酸−ジまたはトリグリセリドを使用できるが、モノ−γ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸またはアラキドン酸 sn-2エステル−トリグリセリドの使用が好ましい。それらは免疫調節性および前炎症性の脂肪酸であるγ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸またはアラキドン酸の投与が少なく、一方では目的とする膜正常化および疾患改善効果に関してsn-2 γ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸またはアラキドン酸部分がもたらす高活性を維持しているからである。
【0044】
好ましい新規脂質は、本明細書の実施例に示すプロセスおよび方法により得ることができる。最も好ましい脂質は、γ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸またはアラキドン酸部分が1つだけグリセロールのsn-2にエステル化され、それを囲むsn-1酸およびsn-3酸は不飽和中鎖酸または長鎖酸である脂質である。
【0045】
したがって本発明の他の態様は、式IIの化合物を含む新規な脂質を提供する:
【0046】
【化2】

【0047】
式中、R1とR3は同一であって式-C(O)(CH2)nCH3であり、nは4〜14、より好ましくは6〜10、最も好ましくは7、8または9から選択され、R2はγ-リノレニル、ジホモ-γ-リノレニルおよびアラキドニルから選択される。
【0048】
本発明の他の態様は、一般式IIIの化合物:
【0049】
【化3】

【0050】
(式中、R1とR3は同一であって式-C(O)(CH2)nCH3であり、nは4〜14、より好ましくは6〜10、最も好ましくは7、8または9から選択され、R2はγ-リノレニル残基、ジホモ-γ-リノレニル残基またはアラキドニル残基である)の合成方法であって、
1,3-ジヒドロキシアセトンを式X-C(O)(CH2)nCH3の化合物(Xは、Cl、BrおよびIから選択される)と反応させて、対応する1,3-ジ-(C(O)(CH2)nCH3) 2-ケト化合物にし、このケト基を還元して対応する1,3-ジ-(C(O)(CH2)nCH3) 2-オールにし、これをγ-リノレニルクロリドまたはジホモ-γ-リノレニルクロリドまたはアラキドニルクロリドと反応させることを含む方法を提供する。
【0051】
本発明のさらに他の態様は、一般式IVの化合物:
【0052】
【化4】

【0053】
(式中、R1〜R3は同一であって、γ-リノレニル残基、ジホモ-γ-リノレニル残基またはアラキドニル残基から選択される)の合成方法であって、
対応するγ-リノレニルクロリドまたはジホモ-γ-リノレニルクロリドまたはアラキドニルクロリドをグリセロールと反応させることを含む方法を提供する。
【0054】
これらの若干の化合物の合成を下記および図面に示す反応経路に記載する。
たとえば、GLAおよび結合剤、たとえばDCCI/DMAP(1,1-ジシクロヘキシルカルボジイミド/4-ジメチルアミノピリジン)結合試薬を用いるグリセロールの1工程エステル化を実施できる。この方法では良好な収率が得られるが、不純物が生成し、これらは除去しなければ最終油を混濁させる。これは、容易に除去できる水溶性副生物を生成するEDCI(1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩)などの結合剤を用いることにより回避される。特開平5-10638 A2(1993年11月22日公開)6頁に、DCCIを用いるトリ-α-リノレニン(LnLnLn、ここでLnはリノール酸)の製造が記載されている。これは類似するが、異なる反応である。
【0055】
他の方法は、ジクロロメタン/ピリジン中でのGLA-Cl(γ-リノレン酸とオキサリルクロリドから製造)とグリセロールの反応を用いる2工程シーケンスを提供し、良好な収率で250gまでスケールアップされ、カラムクロマトグラフィーにより精製する。特開平4-328199 A2(1992年11月17日公開)(日本)フラッシュクロマトグラフィーによるa-リノレン酸トリグリセリドの濃縮 Ando Yukiki, Watanebe Yoichi, Takagi Yoshiaki(Nisshin Oil Mills Ltd、日本)5頁には、関連するが異なるトリ-α-リノレニン(LnLnLn)精製法が記載されている。
【0056】
比較例トリカプリン(グリセロールトリデカネート)は、Sigmaから市販されている既知化合物である。これは、デカン酸メチルとナトリウムグリセロキシドの反応、続いてカラムクロマトグラフィーによる粗生成物の精製により製造されている(E.S. Lutton and A.J. Fehl, Lipids, 5, 90-99 (1970)を参照)。
【0057】
別法は、グリセロールとデカン酸の酸触媒反応、続いて4回の結晶化を伴う(L.H. Jenson and A.J.Mabis, Acta Cryst., 21, 770 (1966)を参照)。
本発明者らはさらに、グリセロールを3当量より多いデカノイルクロリドと反応させ、トリカプリン生成物を再結晶により精製する、改良法を提供する。
【0058】
本発明の他の態様は、本発明方法について述べた神経変性疾患の処置に用いる医薬の製造のための、前記トリグリセリドの使用を提供する。特に好ましい医薬は、あらゆるタイプの多発性硬化症における神経変性、特に再発性弛張性、原発性進行性および慢性進行性の多発性硬化症を抑制および復帰させ(reversing)、たとえばMRIもしくはCATスキャンまたはEDSSスコアにより測定した神経統合機能を一部または完全に回復させるためのものである。他のTGF-β1関連疾患も前記に従って処置できる。
【0059】
本発明に使用する脂質は、医薬において既知のいずれかの一般的なビヒクルにより投与できる。それらを生の油として、または食物との混合物中において、それらの油を収容したカプセル剤の形で、または腸溶コーティングした形で投与するのが、最も好都合である。他の形態は当業者に自明であろう;Remington Pharmaceutical Sciences 第19版を参照。
【0060】
他の有益な薬剤が本発明に使用する脂質と組み合わせられ、あるいは本発明の脂質による処置方式の一部を構成できることは、当業者には理解されるであろう。それらは、イオンチャンネル遮断薬、たとえばナトリウムチャンネル遮断薬、インターフェロン(α、βまたはγ)、T細胞枯渇薬、ステロイド、または他の寛解薬であってよい。さらに、免疫反応および炎症反応を調節する場合、これらの系の複雑な性質からみてそのような組合わせは慎重に行う必要があることも理解されるであろう。ただし本発明の油に対する応答には遅れがあるので、より短時間作用性の薬剤は、TGF-β1レベルが正常化する前の初期の数カ月間の処置において、その追加処置がこの正常化プロセスを妨げない限り有益であろう。
【0061】
本発明に使用するための特定構造の脂質の合成を、比較例の合成と共に後記に述べる。これらの脂質のうちあるものは新規であり、他は既知であるが本発明の処置には使用されていない。
【0062】
以下の表、実施例および図を参照して本発明を記載する。これらは例示にすぎず、限定ではない。本発明の範囲に含まれる他の態様は、これらを考慮して当業者が容易に実施できるであろう。
【0063】

表1:総脂肪酸含量に対する各種トリグリセリドの組成%およびEAEにおける防御効果を示す。
表2:PCT/GB 04/002089に記載された高sn-2 GLAボリジ油(Borage Oil)試験における3つの処置グループのパラメーターを示す。
表3:各種形態のGLAがSJLマウスのEAE発症率および臨床スコアに及ぼす効果を示す:より低いスコアは療法効果の改善の指標となる。
表4:富化したクロフサスグリ油、すなわち高GLAであるがsn-2 GLAは低い植物油が、EAEにおいて真菌油およびボリジ油に匹敵できないことを示す。
【0064】
実施例
高sn-2 ボリジ油(PCT/GB04/002089)試験
28人の活動性再発性-弛張性(その前18カ月間に2回の再発)多発性硬化症患者(年齢18〜65歳)を二重盲検プラセボ対照付き試験に参加させ、カプセル入りボリジ油が臨床活動性および試験パラメーターに及ぼす効果を18カ月間にわたって調べた。この油は高sn-2 γ-リノレン酸(GLA)含量(>40%のsn-2残基がγ-リノレン酸)、低モノエン(たとえばエルシン酸)含量のものであり、既知の免疫調節薬であるビタミンEを添加されていなかった。
【0065】
患者は2つの市内病院の神経科外来患者診療室から動員された;病院インフォームドコンセントを初回(ベースライン)来院時に得た。除外基準には、あらゆる形のステロイドまたは免疫抑制薬による処置、妊娠、高脂血症、アスピリンまたは関連薬物の常用、およびその前3カ月以内のビタミンまたは脂肪酸の補充が含まれる。
【0066】
以下のすべての基準を満たす患者のみを試験に採用した:(a)いかなる時点であっても先入観なしに承諾を撤回できることを十分に理解した上で、処置前にインフォームドコンセントを得ることができる;(b)年齢18〜60歳の男女外来患者;(c)臨床的に確定した再発性多発性硬化症の診断が確認されている;(d)過去2年間に立証された臨床再発が少なくとも3回ある;(e)0.0〜5.5のベースライン拡張能力障害評点尺度(Extended Disability Scoring Scale、EDSS)スコアをもち、ただし再燃増悪が十分に立証されている;ならびに(f)病歴、身体検査および臨床検査、尿検査および血液検査により確認して、多発性硬化症関連症状以外は健康である。
【0067】
調剤部により、それぞれ12人の患者を含む3グループの1つにランダムに患者を配属させた:
・第1臨床グループ(n=12):プラセボ(5gのポリエチレングリコール400)を摂取する;
・第2臨床グループ(n=12):低用量(5g)の精製ボリジ(ボラジ・オフィシナリス、Borage officinalis)を摂取する;
・第3臨床グループ(n=12):高用量(15g)の精製ボリジを摂取する。
【0068】
補給は毎日、1gの油カプセル(低用量については5個/日、高用量については15個/)の形で18カ月間行われた。ボリジ油およびω-6多不飽和脂肪酸は、一般にヒトが摂取するのに安全であると認められている(generally recognized as safe、GRAS)食物成分である。EC条例下では分類または表示の必要がない。臨床評価には下記のものが含まれる:拡張能力障害尺度スコア(Extended Disability Scale Score、EDSS)および臨床再発記録。実験室試験のために、補給の1、3、6、12、15および18カ月目に静脈血(50ml)を採取した。
【0069】
処置前データとの比較およびグループ間データ比較のために、来院毎に下記の生化学的および免疫学的パラメーターを調べた:
・刺激および非刺激ex vivo末梢血単核細胞のサイトカイン産生:多発性硬化症の発病に関係することが指摘されているTGF-β1、IFN-γ、TNF-α、IL-1β、IL-6およびIFN-βの変化。サイトカインおよび関連遺伝子の発現;
・血清中の可溶性接着分子、特にICAM-1およびVCAM-1;
・末梢血単核細胞膜の脂肪酸および血漿リン脂質の脂肪酸の組成;
結果を表1および2ならびに図1〜5に示す。
【0070】
第1転帰パラメーターは、ベースライン(0カ月目)と処置終了時(18カ月目)の間での臨床再発回数であった。第2転帰パラメーターには下記のものを含めた:1回目の臨床再発時期;再発の重症度:EDSSスコアおよびステロイド処置の使用により評価;ならびにベースラインと比較した3、6、9、12および18カ月目のEDSSの変化:少なくとも3カ月間持続する少なくとも1.0ポイントのEDSS増加、または少なくとも3カ月間持続するベースラインからの少なくとも1.5ポイントのEDSS増加として規定。
【0071】
11人の患者がプラセボグループであり、7人の患者が低用量ボリジ油を摂取し、10人の患者が高用量ボリジ油を摂取した。被験薬物は十分に耐容され、18カ月の試験期間中、重篤な有害事象はなかった。
【0072】
PBMCの単離および培養
ヘパリン添加した全血を等体積のハンクスの平衡塩類溶液(Sigma、英国)で希釈し、得られた希釈血液をLymphoprep(Nycomed、ノルウェー、オスロ)に積層した。800gで30分間の密度勾配遠心分離の後、PBMCを界面から分離し、ハンクス液に希釈した。次いで細胞を250gで10分間の遠心分離により2回洗浄した。次いで、2mMのL-グルタミン、100Uのペニシリンおよび100μgのストレプトマイシン(Sigma、英国)ならびに10%の自己血漿を補充したRPMI-1640培地(Sigma、英国)からなる培地に、得られた最終ペレットを再懸濁した。2×106個/mlのPBMC(トリパンブルー排除により判定して>95%が生存)を組織培養試験管(Bibby Sterilin Ltd、英国ストーン)に添加し、5% CO2、37℃で24時間インキュベートした。最大サイトカイン産生(データは示さない)を調べるために、予備動態実験で抗原濃度、細胞密度および培養時間をすべて測定した。その後の分別計数のために、ルーティンな細胞遠心分離調製物も調製した。インキュベーションの後、250gで10分間の遠心分離により細胞を培養物から除去し、次いで得られた上清を分離し、小分けして-70℃に保存した。
【0073】
血漿試料の調製
10mlのヘパリン添加血液を250gで10分間、遠心分離した。次いで得られた血漿層を分離し、小分けして-70℃に保存した。
【0074】
前炎症性サイトカインの検出
ELISA方式でサイトカインを検出できる市販のペア抗体(R & D systems Ltd、英国アビンドン)により、細胞培養上清および血漿中のTNF-α、IL-1βおよびIFN-γを検出した。ELISA感度は、TNF-αおよびIFN-γについては15.6〜1000 pg/ml、IL-1βについては3.9〜250 pg/mlであった。
【0075】
生物活性TGF-β1の検出
感度15.6〜1000 pg/mlの市販のEmaxELISA系(Promega、英国サウザンプトン)により、細胞培養上清および血漿中の生物活性TGF-β1を検出した。
【0076】
統計分析
スチューデントのt-検定およびマン-ホイットニー(Mann-Whitney)のU-検定によりサイトカイン産生の相異を比較し、p値が0.05未満の場合は有意であるとみなした。
【0077】
結果
2人の患者が下痢を発症し、両者とも高用量のボリジ油を摂取していたことがのちに確認された。下痢は1人の患者では軽度であったが、2人目の患者では中等度であり、その後、被験薬物を中断した。コードは破られず、下痢は薬物中断後に止まったが、再挑戦すると再発現した。したがってこの患者を試験から除いた。高用量のボリジ油で処置した残りの患者は、第1および第2転帰基準のすべてにおいて卓越した臨床改善を示した。たとえば6カ月間の処置後の患者の平均EDSSスコアは、ベースラインEDSSから改善した(図1)。より重要な点は、平均臨床再発回数がプラセボグループにおける再発回数と比較して6カ月間の処置後に有意に減少したことである(図2)。これに対し、低用量のボリジ油を摂取した患者はプラセボグループと比較して臨床改善を示さなかった。高用量のボリジ油は、多発性硬化症の疾患活動性に対するその有益な効果のほかに、筋痙縮(硬直)および痛みを伴う感覚症状をある程度は症状軽減し、認知機能も改善した。
【0078】
図から分かるように、9、12および18カ月後の再発率は高用量グループではゼロに低下した。15カ月目にみられた上昇はこのグループから脱落した患者によるものであった。
高用量の高sn-2 GLAボリジ油の療法有益性を説明するために、3つの簡単な病歴を以下に示す。最初の2例はこの試験からのものであるが、第3例は試験後患者であり、この患者についてはMRI試験を行った。
【0079】
患者1(処置):
第1患者は、臨床活動性、再発性弛張性の多発性硬化症を9年間患っている48歳の女性であった。彼女は元は地方保険局でフルタイム管理者として働いていたが、重篤な多発性硬化症のためその職務を果たすことができなくなった。したがって彼女はその後パートタイム秘書として働いたが、筋硬直および感覚障害のため、なお運動が困難であった。彼女は平均して9カ月毎に1回の重篤な臨床再発も経験していた。これらの再発の大部分は、ステロイド療法のために入院する結果となった。活動性多発性硬化症を考慮して、彼女はボリジ油試験に動員された。試験に関連する有害事象はなく、4カ月間の投薬を受けた後、彼女の歩行および感覚症状に良好な改善がみられた。
【0080】
療法処置の約9カ月後、彼女はフルタイム勤務を開始するのに十分なほど良好になった。さらに、彼女は18カ月間の臨床試験中、再発のない状態を維持した。試験終了後、処置コードから彼女が高用量ボリジ油を摂取していたことが明らかになった。
【0081】
患者2(対照):
第2症例も、臨床活動性、再発性弛張性の多発性硬化症を8年間患っている46歳の女性であった。彼女は元は店員として働いていたが、多発性硬化症と診断された後に解雇された。
【0082】
彼女の症状には、運動障害および両足の痛みを伴う感覚症状が含まれていた。彼女は臨床試験前の2年間に3回の臨床再発を経験し、ステロイド療法のために入院した。その結果、彼女はボリジ油試験に動員されたが、彼女の歩行は悪化し続けた。試験開始から6カ月間は杖を使用し、下肢痙縮を軽減するためのバクロフェン(Baclofen)処置も受けた。ボリジ油試験開始後、約10カ月目に、重篤な臨床再発のため入院し、ステロイドで処置された。その後、彼女は膀胱障害を発症し、長時間の移動には車椅子を使用し始めた。18カ月間の試験後、処置コードを破り、彼女がプラセボを摂取していたことが分かった。それ以来、彼女は50ヤードを超える移動には歩行フレームを使用し始めた。
【0083】
患者3:処置(試験に追加):
第3症例は、2001年4月に確定多発性硬化症と診断された28歳の男性であった。彼の症状は1999年に始まり、当時、身体の各部位、特に胸部および腹部の左側に生じる広汎性難治性疼痛を訴えていた。それに続いて手足に変動性の脱力感を伴う間欠性麻痺が起きた。頻尿および尿しぶりの形の窮迫性膀胱症状もあった。2001年の多発性硬化症の診断は、彼の再発性弛張性症状(relapsing remitting symptoms)に基づくものであり、陽性の脳脊髄液分析および脳の磁気共鳴イメージング(MRI)によりこれが確認され、MRIは両大脳半球に多数の白質異常部位を示した。症状は各種の薬物療法に反応しなかった。
【0084】
2003年4月、本発明の高用量ボリジ油の経口補給を開始した。この患者は、この経口補給開始から3カ月以内に劇的な症状改善を報告した。痛みを伴う感覚症状は完全に消失した。2003年5月以来、彼はしびれ感や脱力感を報告することがなく、膀胱制御に有意の改善を認めた。この経口補給は有害事象を引き起こさなかった。報告されたN氏の症候群の改善を立証するために、反復MRIを行った。この反復MRIは白質異常のサイズおよび分布の縮小を示した。
【0085】
実施例:特定構造のsn-2脂質
以下の例では、より高純度の出発物質γ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸およびアラキドン酸、たとえばSigma Aldrichから入手できるものを用いると、より高純度が得られる。GLA 95は95%純度のγ-リノレン酸を表わす。
【0086】
合成例1:トリ-γ-リノレニンの合成
1)酸塩化物法
2.0 g(7.2 mmol, 3.1当量)のGLA 95(95%純度のγ-リノレン酸)を10mlのDCMに溶解した。5mlのDCM中における1.01 g(0.71ml, 8.0 mmol, 3.4当量)のオキサリルクロリドを、2〜3分間かけて窒素下で滴加した。室温で一夜撹拌した。反応混合物を真空濃縮して、DCMおよび過剰のオキサリルクロリドを除去した。次いでこの酸塩化物を2〜3分間かけて窒素下で、215 mg(2.3 mmol, 1当量)のグリセロール、0.58ml(3.1当量)のピリジンおよび10mlのDCMの撹拌混合物に滴加した。混合物を室温で一夜撹拌した。生成した塩酸ピリジンを次いで濾別し、DCMで洗浄した。溶液を4mlずつ1回の水、0.1N HCl、5%炭酸水素ナトリウムおよび5% NaClで洗浄した。硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過し、真空濃縮すると、黄色の油が得られた。この油をシリカカラム上でヘキサン中の10%エーテルを溶離溶媒として用いて精製した。透明な無色の油が得られ、その試料をエステル交換し、続いてGCにより分析した。生成物は96.3%のGLAを含有していた。
【0087】
2)DCCI法
2.19 g(3.15当量)のGLA 95、230mg(1当量)のグリセロール、153mg(0.5当量)のDMAPを、10mlのDCM中で窒素下に撹拌した。DCM 5ml中のDCCI 1.85g(3.6当量)を添加した。反応混合物を室温で窒素下に一夜撹拌した。生成したDCUを濾過し、DCMで洗浄した。DCMを5mlずつ1回のN HCl、5%炭酸水素ナトリウムおよび水で洗浄した。硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過し、真空濃縮すると油が得られた。次いでこの油をシリカカラム上でヘキサン中の10%エーテルを溶離溶媒として用いて精製した。わずかに混濁した油1.47g(67%)が得られた。この生成物の試料をエステル交換し、GC分析した。生成物は95.8%のGLAを含有していた。
【0088】
スケールアップ
20g(0.072 mol, 3.1当量)のGLA 95(γ-リノレン酸, 95%)を100mlのDCMに溶解した。13.7g(9.3ml, 0.11 mol, 4.78当量)のオキサリルクロリドを、3〜4分間かけて窒素下で添加した。反応混合物を窒素下で一夜撹拌した。次いでそれを真空濃縮してDCMおよび過剰のオキサリルクロリドを除去した。次いでこの油を約5分間かけて、2.14g(0.023 mol, 1当量)のグリセロール、100mlのDCMおよび5.8ml(5.68g, 0.072 mol, 3.1当量)のピリジンの撹拌混合物に窒素下で滴加した。85mg(0.7 mmol, 0.03当量)のDMAP(4-ジメチルアミノピリジン)触媒を添加した。この混合物を室温で一夜撹拌した。塩酸ピリジンを濾別し、DCMで洗浄した。DCM溶液を25mlずつ1回の水、10%炭酸水素ナトリウム、0.1N HCl、5% NaClで洗浄した(この過程で、特に最初に、エマルションが生成した)。DCMを硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過し、真空濃縮すると、褐色の油(約21g)が得られた。
【0089】
この油をシリカカラム上で、まずヘキサン中の5%エーテル、次いで10%エーテルを用いて精製した。15.6g(収率77%)の透明な油が得られた。tlcによれば、この物質は少量の遊離GLAを含有していた(この物質を後日、再精製した)。
【0090】
大幅スケールアップ
上記の反応を10倍の規模で繰り返した。したがって、200gのGLA 95、1 LのDCM、137gのオキサリルクロリド、および21.4gのグリセロールを用いた。酸塩化物の添加に際して、反応混合物を冷水浴内で冷却し、温度を35℃より低く維持した。250gの褐色の油が生成した。これをまず500gのシリカカラム上で精製した。この油を200mlのヘキサンに溶解し、次いでヘキサン中の5%エーテル、次いで10%エーテルを用いて精製した。画分を採集し、tlcにより分析すると、最終的に2バッチの油が得られた。第1のA(66g)は少量の初期流出不純物および少量のGLAを含有し(TGLより低速で流出)、第2画分B(99g)は初期流出不純物を含有せず、少量のGLAを含有していた。
【0091】
この大規模反応を169gのGLAを用いて繰り返し、前記と同様に2画分を得た。今回は85gの’A’画分および54gの’B’画分が得られた。両バッチの’A’を合わせて500gのシリカカラム上で再精製した。’B’画分を同様に処理した(小規模反応からの物質15gもこのバッチに添加した)。
【0092】
前記で得た画分のうち若干を再び再精製して、最終的に259gの油を得た。この油を高真空下のロータリーエバポレーターで定重量256gになるまで吸引した。これにより全収率65%となる。
【0093】
生成物の分析
GC
少量の試料をエステル交換し、GC分析した:
GLA含量は97.1%であった。主な不純物はリノール酸1.91%であった;
注釈:合成に用いた最初のGLA 95は、96.2%のGLAおよび2.42%のリノール酸を含有していた。
【0094】
HPLC
逆相カラム(Hypersil C18 4.6×100mm)を用い、80/20アセトニトリル/THFで溶離する、HPLC法を開発した。検出を210nmのUVにより行った。これにより生成物は3成分の混合物であることが示された。主ピーク(93.6%)が目的生成物であった。より低速で流出する不純物(生成物の5.0%となる)はGGLIトリグリセリド(L1=リノール酸)であると思われた。第2不純物はこれよりわずかに高速で流出し、生成物の1.4%であった。
注釈:210nmにおける吸収は脂肪酸含量の異なるトリグリセリド間でかなり変動する。たとえばトリ-γ-リノレニンはトリリノレニンの吸収より5〜6倍大きい。
【0095】
まとめ
254gのグリセロールトリ-6,9,12-リノレネート(γ-リノレン酸トリグリセリド、トリ-γ-リノレニン、GGG)を、96.2% GLAから2工程の酸塩化物経路で製造した。それは透明な淡黄色の油であり、窒素下でフリーザー内に保存された。GLA含量は97.1%であり、C20:1、C22:1またはC24:1酸は検出されなかった。HPLC純度は93.6%であった。
高純度GGGの合成は、GLA 98(98% γ-リノレン酸:Scotia)以上の出発物質を用いて容易に達成される。
【0096】
比較脂質1:トリカプリン(グリセロールトリデカノエート)の合成
小規模
グリセロール(3.0g, 0.0325 mol, 1当量)、ピリジン(8.1ml, 0.10 mol, 3.1当量)およびジクロロメタン(100ml)を室温で窒素下に撹拌した。次いで、温度を30〜35℃に維持するために水浴内で外部冷却しながら、デカノイルクロリド(21ml, 19.25g, 0.10 mol, 3.1当量)を5分間かけて滴加した。添加が終了した時点で4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)(0.12g, 1 mmol, 0.03当量)を添加し、混合物を窒素下に室温で一夜撹拌した。沈殿した塩酸ピリジンを濾別し、ジクロロメタンで洗浄した。次いで洗液と濾液を合わせて、5%塩化ナトリウム、5%炭酸水素ナトリウム、0.1N塩酸、および5%塩化ナトリウムの各水溶液(20ml)で洗浄した。次いでジクロロメタン層をMgSO4で乾燥させ、溶媒を真空中で除去した。残留する油を放置すると結晶化した。この物質をイソプロパノール(40ml)から再結晶して、15.6g(収率86%)のろう状白色固体を得た。
【0097】
分析
GC−純度99.8%
HPLC
(C18 4.6×100mm、ACN/THF 85/15、1ml/分, λ210nm)−純度94.9%
【0098】
大規模
上記を15倍の規模で繰り返した。グリセロール(45.0g, 0.49 mol, 1当量)、ピリジン(121.5ml, 1.50 mol, 3.1当量)およびジクロロメタン(1.5L)を室温で窒素下に撹拌した。次いで、温度を30〜35℃に維持するために水浴内で外部冷却しながら、デカノイルクロリド(315ml, 288.8g, 1.50 mol, 3.1当量)を15分間かけて滴加した。添加が終了した時点で4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)(1.8g, 15 mmol, 0.03当量)を添加し、混合物を窒素下に室温で一夜撹拌した。沈殿した塩酸ピリジンを濾別し、ジクロロメタンで洗浄した。次いで洗液と濾液を合わせて、5%塩化ナトリウム、5%炭酸水素ナトリウム、0.1N塩酸、および5%塩化ナトリウムの各水溶液(300ml)で洗浄した。次いでジクロロメタン層をMgSO4で乾燥させ、溶媒を真空中で除去した。残留する油を放置すると結晶化した。この物質をイソプロパノール(400ml)から再結晶して、228g(収率86%)のろう状白色固体を得た。
【0099】
分析
GC−純度99.8%
HPLC
(C18 4.6×100mm、ACN/THF 85/15、1ml/分, λ210nm)−純度94.9%
さらにバッチを調製し、上記の小規模バッチと合わせてイソプロパノールから再結晶し、44gの生成物を得た。前記のバッチを合わせて(268g)再分析した:
GC
純度99.9%
HPLC
97.9%。
【0100】
まとめ
263gのグリセロールトリデカノエート(トリカプリン、CCC)を、デカノイルクロリド(98%)から1工程法(反応経路を後記に示す)により製造した。それは白色低融点の固体であり、窒素下でフリーザー内に保存された。C含量は脂肪酸含量99.9%であり、HPLC純度は97.9%であった。
【0101】
合成例2:1,3-ジカプリン2-γ-リノレノエート(グリセロール1,3-ジデカノエート2-オクタデカトリ(6-Z,9-Z,12-Z)エノエートまたはCGC)
このトリグリセリドは新規である。CGCとは異なる、それの異性体CLnC(Ln=α-リノレン酸)が、ヤシ油の成分として同定されている(K.Long et al. Biotechnol. Lett., 20, 369-372 (1998)およびH.Mu, P.Kalo et al., Eur. J. Lipid Sci. Technol., 102, 202-211 (2000)を参照)。さらにCLxC(Lx=二重結合の位置が特定されていないリノレン酸)が記載されている(J.Gresti et al. J. Dairy Sci., 76, 1850-1869 (1993)を参照)。
【0102】
CGCの合成に用いる2種類の中間体は既知である(L.El Kihel et al. Arzneim - Forsch./ Drug Res., 46, 1040-1044 (1996)およびUS 4178299を参照)。以下に記載する最終工程は新規であり、最初の2工程も大規模製造についてこれまでに報告されているものより適切なので進歩性がある。
【0103】
1,3-ジカプリンとGLA-クロリドをジクロロメタン-ピリジン中で反応させることによりCGCを製造した。1,3-ジカプリンは1,3-ジデカノイルオキシプロパン-2-オンの水素化ホウ素ナトリウム還元により製造され、後者はデカノイルクロリドと1,3-ジヒドロキシアセトンの反応により製造された。中間体1,3-ジカプリンは酸、塩基および熱に曝露されるとアシル移動反応を行う可能性があるので、慎重に取り扱わなければならない。1,3-ジカプリンを製造するための旧法は記載がある(A.P.J. Mank et al. Chem. Physics Lipids, 16, 107-114 (1976)を参照)。
【0104】
デカン酸をグリシドールエステル(エピクロロヒドリンから)に触媒付加することによる万能な融通性のある1,3-ジグリセリドおよびトリグリセリドの合成法は、より苛酷な反応条件およびアシル移動反応の問題のため、有用性がより低い。最終生成物CGCをシリカ上での慎重なカラムクロマトグラフィーで精製することにより、副生物を除去した。
【0105】
小規模
1,3-ジデカノイルオキシプロパン-2-オン
ジデカノイルクロリド(40.0ml, 36.8g, 0.19 mol, 1.98当量)を10〜15分間かけて、1,3-ジヒドロキシアセトン二量体(8.68g, 0.048 mol, 1.0当量)、ピリジン(15.6ml, 0.19 mol)、4-ジメチルアミノピリジン(0.18g, 0.0014 mol, 0.03当量)およびジクロロメタン(DCM、150ml)の撹拌懸濁液に、室温で窒素下に滴加した。氷水浴内での冷却によって、反応混合物の温度を30℃より低く維持した。反応混合物を室温で窒素下に一夜撹拌した。生成した塩酸ピリジンを濾別し、DCMで洗浄した。次いで濾液と洗液を合わせて、25mlずつ1回の5% NaCl、5% NaHCO3、0.1N HCl、5% NaClで洗浄した。次いでこの溶液をMgSO4で乾燥させ、真空濃縮すると、黄色の半固体が得られた。次いでこれをメタノール(150ml)から結晶化して白色固体を得た。収量は28.2g(73%)であった。
【0106】
1,3-ジカプリン
上記のケトン(28.2g, 0.071 mol)をテトラヒドロフラン(THF, 200ml)に溶解した。次いで水(10ml)を添加し、この溶液を5℃に冷却し、水素化ホウ素ナトリウム(5.38g, 0.14 mol)を10℃より低い温度で少量ずつ添加した。反応混合物を室温で1時間撹拌し、次いで真空濃縮してTHFを除去した。残留物を酢酸エチルと5%塩化ナトリウム溶液の間で分配した。水相を酢酸エチルで再抽出し、抽出液を合わせてMgSO4で乾燥させ、真空濃縮すると、ろう状固体が得られた。これをヘキサンから2回結晶化して、11.2g(40%)の白色固体を得た(HPLCによる純度99%+)。
【0107】
1,3-ジカプリン2-γ-リノレノエート(CGC)
γ-リノレン酸(GLA 95, 8.34g, 0.03 mol)をジクロロメタン(DCM, 60ml)に溶解した。得られた溶液を室温で窒素下に撹拌し、オキサリルクロリド(3.9ml, 5.67g, 0.044 mol)を5分間かけて滴加した。混合物を室温で一夜撹拌し、次いで真空濃縮して、DCMおよび過剰のオキサリルクロリドを除去した。次いで残留する油性の酸塩化物(GLA-Cl)を15分間かけて(氷/水冷却)、1,3-ジカプリン(11.2g, 0.028 mol)、DCM(50ml)、ピリジン(2.42ml, 2.37g, 0.03 mol)および4-ジメチルアミノピリジン(0.10g, 0.0008 mol, 0.03当量)の撹拌溶液に、10〜15℃で滴加した。氷水冷却によりこの温度を維持した。反応混合物を室温で窒素下に一夜撹拌した。塩酸ピリジンを濾別し、DCMで洗浄した。次いで洗液と濾液を合わせて、20mlずつ1回の5% NaCl、5% NaHCO3、0.1N HCl、5% NaClで洗浄した。次いでこの溶液をMgSO4で乾燥させ、溶媒を真空中で除去した。残留する褐色の油をシリカ上でのカラムクロマトグラフィーにより精製した。ヘキサン、次いで5%エーテル/ヘキサンで溶離して、10.3g(56%)の無色の油を得た。構造を13C NMRおよびGLCにより確認した。HPLCにより純度を測定した。
【0108】
大規模
1,3-ジデカノイルオキシプロパン-2-オン
ジデカノイルクロリド(272ml, 250g, 1.3 mol, 2当量)を10〜15分間かけて、1,3-ジヒドロキシアセトン二量体(59.1g, 0.65 mol, 1.0当量)、ピリジン(106ml, 103.7g, 1.3 mol)、4-ジメチルアミノピリジン(2.38g, 0.02 mol, 0.03当量)およびジクロロメタン(DCM、750ml)の撹拌懸濁液に、室温で窒素下に滴加した。氷水浴内での冷却によって、反応混合物の温度を30℃より低く維持した。反応混合物を室温で窒素下に一夜撹拌した。生成した塩酸ピリジンを濾別し、DCMで洗浄した。次いで濾液と洗液を合わせて、150mlずつ1回の5% NaCl、5% NaHCO3、0.1N HCl、5% NaClで洗浄した。次いでこの溶液をMgSO4で乾燥させ、真空濃縮すると、黄色の半固体が得られた。次いでこれをメタノール(500ml)から結晶化して白色固体を得た。収量は158g(60%)であった。
【0109】
1,3-ジカプリン
上記のケトン(158g, 0.40 mol)をテトラヒドロフラン(THF, 2.25 L)に溶解した。次いで水(50ml)を添加し、この溶液を5℃に冷却し、水素化ホウ素ナトリウム(5.66g, 1.5当量)を10℃より低い温度で少量ずつ添加した。反応混合物をHPLCによりモニターした(C18, ACNにより1ml/分で溶離, λ210nm)(注釈:実際には、すべての出発物質(SM)が反応したので、4.5gの水素化ホウ素ナトリウムを添加したにすぎない)。反応混合物を室温で1時間撹拌し、次いで真空濃縮してTHFを除去した。残留物を酢酸エチルと5%塩化ナトリウム溶液の間で分配した。水相を酢酸エチルで再抽出し、抽出液を合わせてMgSO4で乾燥させ、真空濃縮すると、ろう状固体が得られた。これをヘキサンから2回結晶化して96g(60%)の白色固体を得た(HPLCによる純度98%)。
【0110】
1,3-ジカプリン2-γ-リノレノエート(CGC)
γ-リノレン酸(GLA 95, 120.2g, 0.43 mol)をジクロロメタン(DCM, 750ml)に溶解した。得られた溶液を室温で窒素下に撹拌し、オキサリルクロリド(55.7ml, 82.3g, 0.65 mol, 1.5当量)を15〜20℃で15分間かけて滴加した。混合物を室温で一夜撹拌し、次いで真空濃縮して、DCMおよび過剰のオキサリルクロリドを除去した。次いで残留する油性の酸塩化物(GLA-Cl)を30〜40分間かけて10〜15℃で(氷/水冷却)、1,3-ジカプリン(164.7g, 0.41 mol)、DCM(650ml)、ピリジン(33.3ml, 32.5g, 0.41 mol)および4-ジメチルアミノピリジン(1.50g, 0.012 mol, 0.03当量)の撹拌溶液に、10〜15℃で滴加した。反応混合物を室温で窒素下に一夜撹拌した。塩酸ピリジンを濾別し、DCMで洗浄した。洗液と濾液を合わせて、150mlずつ1回の5% NaCl、5% NaHCO3、0.1N HCl、5% NaClで洗浄した。次いでこの溶液をMgSO4で乾燥させ、溶媒を真空中で除去して褐色の油(275g)を得た。
【0111】
上記の3反応の規模は、それぞれを実施した最大であった。水素化ホウ素還元により、1,3-ジカプリンのほかに副生物が変動生成量で生成した。この副生物の存在は、単離した純粋な1,3-ジカプリンの収量に大きな影響を与えた;この副生物は、粗生成物の2回の結晶化によってようやく除去できた。最終生成物CGCはカラムクロマトグラフィーにより精製されるので、最終工程に使用する1,3-ジカプリンは可能な限り純粋であることが必要である。
【0112】
上記の反応から約440gのCGC生成物が褐色の油として生成した。これを一連のシリカカラム上で、ヘキサン、続いて2〜3%エーテル/ヘキサンを用いて精製した。この精製には7または8本のカラム、3〜4キロのシリカ、25〜30 Lの溶媒(溶媒の再利用によりこの数値を低く維持した−実際には100 L以上を用いた)の使用が必要であった。
【0113】
得られた生成物、すなわち透明でほぼ無色の油(264g)は、HPLC(C18 4.6×100mm、85/15 ACN/THF、1ml/分で溶離, λ210nmのUV検出)によれば96.4%の純度であった。GCは66.1/33.9のC/G比を示した。NMR分析は、生成物が適正なCGC構造をもち、少なくとも95%の純度であることを示した:δc(500 MHz, CDCl3)172.65(2-GLA カルボニル)、173.25(1,3-カプンカルボニル)。信号比2.04:1。173.0には信号がなく、1,3-GLAが存在しないことを示した。172.79の痕跡信号は、GLAまたは2-カプリン酸中のオレイン酸不純物であろう。
【0114】
まとめ
264gのグリセロール1,3-ジデカノエート-2-γ-リノレノエート(1,3-ジカプリン-2-GLA, CGC)を、デカノイルクロリド(98%)から3工程法により製造した(反応経路を後記に示す)。それはほぼ無色の油(わずかに黄色)であり、窒素下でフリーザー内に保存された。HPLC純度は96.4%であった。
【0115】
合成例3
1,3-ジデカノエート-2-ジホモ-γ-リノレノエート(グリセロール1,3-ジデカノエート2-エイコサ(8Z,11Z,14Z)-トリエノエートまたはC(DHLA)C)
このトリグリセリドは新規であると思われる−それについての参考文献は見つかっていない。
【0116】
DHLA(3.93g, 12.8 mmol, 1当量)をジクロロメタン(DCM, 20ml)に溶解し、室温で窒素雰囲気下に撹拌した。オキサリルクロリド(1.69ml, 2.46g, 19.4 mmol, 1.5当量)を1〜2分間かけて滴加し、室温で一夜撹拌した。得られた溶液を真空濃縮して、DCMおよび過剰のオキサリルクロリドを除去した。次いで残留する油性の酸塩化物(DHLA-Cl)を5分間かけて25℃で、1,3-ジカプリン(4.91g, 12.2 mmol, 0.95当量)、ピリジン(0.98ml, 0.96g, 12.1 mmol, 0.95当量)および4-ジメチルアミノピリジン(DMAP, 8mg, 0.07 mmol, 0.03当量)の撹拌混合物に滴加した。添加中に反応温度が32℃に上昇した。反応物を30〜35℃で撹拌し、HPLCによりモニターした。1.5時間後に反応を停止した。沈殿した塩酸ピリジンを濾別し、DCMで洗浄した。次いで濾液と洗液を合わせて、10mlずつ1回の5% NaCl、5% NaHCO3、0.1N HCl、5% NaClで洗浄した。次いでこの溶液をMgSO4で乾燥させ、真空濃縮すると、粗生成物が黄橙色の油(8.9g, HPLCによる純度86%)として得られた。この油をシリカゲル(250g)上でクロマトグラフィー処理した。ヘキサン、そしてジエチルエーテル/ヘキサン(2〜6%)で溶離すると、精製された生成物が淡黄色の油として得られた。ヘキサン溶液を脱色用カーボンで処理し、溶媒を真空中で除去して、C(DHLA)C)を透明な無色の油(6.48g, HPLCによる純度98.9%)として得た。
【0117】
合成例4
トリアラキジン(グリセロールトリエイコソテトラ5-Z,8-Z,11-Z,14-Z-エノエート)またはAAA
アラキドン酸(50.9g, 0.17 mol, 3当量)をジクロロメタン(DCM, 175ml)に溶解し、室温で窒素雰囲気下に撹拌した。次いでこの撹拌溶液にオキサリルクロリド(21.9ml, 31.9g, 0.25 mol, 4.4当量)を5分間かけて添加し、温度が4℃上昇した。得られた黄緑色混合物を室温で一夜撹拌し、次いで真空濃縮して、DCMおよび過剰のオキサリルクロリドを除去した。次いで残留する油性の酸塩化物(A-Cl)を15分間かけて、グリセロール(5.11g, 0.055 mol, 1当量)、ピリジン(13.5ml, 13.2g, 0.17 mol, 3当量)および4-ジメチルアミノピリジン(DMAP, 0.20g, 0.002 mol, 0.03当量)の予熱した(25℃)撹拌混合物に滴加した。添加中に反応混合物の温度が42℃に上昇し、緩和な還流がみられた。混合物を30〜40℃で撹拌し、HPLCによりモニターした。2時間後、それ以上の生成物形成はみられなかった。沈殿した塩酸ピリジンを濾別し、DCMで洗浄した。次いで濾液と洗液を合わせて、50mlずつ1回の5% NaCl、5% NaHCO3、0.1N HCl、5% NaClで洗浄した。次いでこの溶液をMgSO4で乾燥させ、真空濃縮すると、粗生成物が黄橙色の油(57g)として得られた。この油をシリカゲル(約600g)上でのカラムクロマトグラフィーにより精製した。ヘキサン、そしてジエチルエーテル(2〜4%)-ヘキサンで溶離すると、22.8g生成物が油として得られた。39.8gのアラキドン酸から第2バッチ(17.8g)を製造した。これら2バッチを合わせて残留溶媒を真空中で除去し、流動性淡黄色の油40.5g(43%)を得た。HPLC純度84.8%、GLC分析94.3%AA(アラキドン酸)。
【0118】
比較脂質2
1,3-ジ(オクタデカ-6Z,9Z,12Z-エノイルオキシ)プロパン-2-オン(1,3-ジ(γ-リノレノイルオキシ)プロパン-2-オン、GonG)GCG製造工程1の中間体
γ-リノレン酸(GLA 95, 197g, 0.71 mol, 2.2当量)を、2 Lの三口フラスコに入れたジクロロメタン(DCM, 600ml)に溶解した。得られた溶液を室温で窒素下に撹拌した。オキサリルクロリド(93ml, 136g, 1.07 mol, 3.3当量)を15〜20℃で15分間かけて滴加した。褐色混合物を室温で一夜撹拌し、次いで真空濃縮して、DCMおよび過剰のオキサリルクロリドを除去した。次いで残留する油性の酸塩化物(GLA-Cl)を20分間かけて25℃で、1,3-ジヒドロキシアセトン二量体(28.99g, 0.32 mol, 1.0当量)、ピリジン(52ml, 50.9g, 0.64 mol, 2.0当量)、4-ジメチルアミノピリジン(2.36g, 0.02 mol, 0.06当量)およびジクロロメタン(DCM, 600ml)の撹拌混合物に、室温で窒素下に滴加した。反応混合物の温度を40℃にまで自然上昇させ、混合物をさらに2時間、窒素下で撹拌した(HPLCによりモニター)。生成した塩酸ピリジンを濾別し、DCMで洗浄した。次いで濾液と洗液を合わせて、150mlずつ1回の5% NaCl、5% NaHCO3、0.1N HCl、5% NaClで洗浄した。次いでこの溶液をMgSO4で乾燥させ、真空濃縮して、約200gの黄色の油を得た。この物質をシリカ(600g)上でのカラムクロマトグラフィーにより部分精製した。ヘキサン、次いでエーテル-ヘキサン混合物(2〜15%)で溶離すると、42gの淡黄色の油が得られた。この油を再びシリカ(600g)上でクロマトグラフィー処理し、ヘキサン、次いで1〜10%のエーテル-ヘキサンで溶離して、生成物(純度95.9%)を淡黄色の油として得た。収量は42g(17%)であった。
【0119】
1,3-ジ(オクタデカ-6Z,9Z,12Z-エノイルオキシ)プロパン-2-オール(1,3-ジ(γ-リノレノイルオキシ)プロパン-2-オールまたは1,3-ジ-γ-リノレニン、GolG)GCG製造工程2の中間体
13-ジ(γ-リノレノイルオキシ)プロパン-2-オン(GonG, 25.5g, 0.04 mol, 1当量)をテトラヒドロフラン(THF, 375ml)および水(12.7ml)に溶解した。この溶液を-20℃で激しく撹拌し、反応温度を-15℃より低く維持するように注意した。水素化ホウ素ナトリウム(790mg, 0.02 mol, 1.25当量)を、この撹拌溶液に少量ずつ3分間かけて添加した。反応混合物をさらに10分間、-20℃で撹拌し、次いでヘキサン(380ml)を添加した。次いでまだ低温の混合物を水(2回, 200ml)で洗浄し、MgSO4で乾燥させ、真空濃縮して、表題化合物を褐色の油(27.8g)(HPLCによる純度82.6%、移動反応した物質は1%未満)として得た。さらにバッチを調製し、最初のものと合わせて50gの粗生成物を得た。この物質をシリカ(400g)上でのカラムクロマトグラフィーにより部分精製した。ヘキサン、そしてジエチルエーテル-ヘキサン混合物(5〜20%)で溶離すると、36.1gの生成物が淡色の油として得られた(純度91.5%);
(N.B. 移動反応を行ってGGolを生成すると思われるので、化合物をシリカ上に一夜放置しないように注意すべきである)。
【0120】
1,3-ジ-γ-リノレニン2-デカノエート(グリセロール1,3-ジオクタデカ-(6Z,9Z,12Z)-トリエノエート2-デカノエートまたはGCG)
デカノイルクロリド(13.5ml, 12.4g, 0.065 mol, 1.1当量)を、1,3-ジ-γ-リノレニン(36.1g, 0.059 mol, 1当量)、乾燥ピリジン(5.7ml, 5.6g, 0.07 mol, 1.1当量)、4-ジメチルアミノピリジン(0.2g, 0.002 mol, 0.03当量)およびジクロロメタン(DCM, 150ml)の撹拌溶液に、約10分間かけて添加した。添加中、温度を17〜23℃に維持した。次いで反応物を30〜35℃で撹拌し、HPLCによりモニターした。1〜2mlのデカノイルクロリドを1、1.5および2時間後に追加した。HPLCにより判定して、追加により生成物への転化が増加するように思われた。3時間後、反応混合物を濾過し、濾液をDCMで洗浄した。次いで濾液と洗液を合わせて、50mlずつ1回の5% NaCl、5% NaHCO3、0.1N HCl、5% NaClで洗浄した。次いでDCM抽出液をMgSO4で乾燥させ、真空濃縮すると、粗生成物が黄橙色の油(HPLCによる純度90%)として得られた。この油をシリカゲル(600g)上でのカラムクロマトグラフィーにより精製した。ヘキサン、そしてジエチルエーテル/ヘキサン(1.5〜2.5%、次いで3.5%)で溶離すると、生成物(GCG)が透明な油(35.5g, HPLCによる純度96.1%)として得られた。ごく少量の不純物を含有する若干の画分についての追加のクロマトグラフィーにより、さらに7.5gの純粋な脂質が得られた。
【0121】
合成例5
1,3-ジカプリン2-アラキドネート(グリセロール1,3-ジオクタノエート2-エイコサテトラ(5-Z,8-Z,11-Z,14-Z)エノエートまたはCAC)
このトリグリセリドは既知である。CACは、サフラワー油をラットに投与した後にリンパ脂質の成分として同定された。WO 03 013,497には、脳機能低下により起きる疾患(ただし具体的には認知増強)に有用なアラキドン酸含有トリグリセリド(モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)により産生)が記載されている。CACの合成に用いられる2種類の中間体は既知である。
【0122】
1,3-ジカプリンからのCACの合成、およびこれの精製はすべて新規である。
本発明においては、1,3-ジカプリンとアラキドニルクロリドをジクロロメタン-ピリジン中で反応させることによりCACを製造した。1,3-ジカプリンは1,3-ジデカノイルオキシプロパン-2-オンの水素化ホウ素ナトリウム還元により製造され、1,3-ジデカノイルオキシプロパン-2-オンはデカノイルクロリドと1,3-ジヒドロキシアセトンの反応により製造された。中間体1,3-ジカプリンは酸、塩基および熱に曝露されるとアシル移動反応を行う可能性があるので、慎重に取り扱わなければならない。デカン酸をグリシドールエステル(エピクロルヒドリンから)に触媒付加することにより1,3-ジカプリンを製造するための旧法は、より苛酷な反応条件およびアシル移動反応の問題のため、有用性がより低いと思われた。最終生成物CACをシリカ上での慎重なカラムクロマトグラフィーで精製することにより、副生物を除去した。
【0123】
1,3-ジカプリン2-アラキドネート(CAC)
アラキドン酸(AA 96, 8.34g, 0.03 mol)をジクロロメタン(DCM, 60ml)に溶解した。得られた溶液を室温で窒素下に撹拌し、オキサリルクロリド(3.9ml, 5.67g, 0.044 mol)を5分間かけて滴加した。混合物を室温で一夜撹拌し、次いで真空濃縮して、DCMおよび過剰のオキサリルクロリドを除去した。次いで残留する油性の酸塩化物(GLA-Cl)を15分間かけて(氷/水冷却)、1,3-ジカプリン(11.2g, 0.028 mol)、DCM(50ml)、ピリジン(2.42ml, 2.37g, 0.03 mmol)および4-ジメチルアミノピリジン(0.10g, 0.0008 mol, 0.03当量)の撹拌溶液に、10〜15℃で滴加した。氷水冷却によりこの温度を維持した。反応混合物を室温で窒素下に一夜撹拌した。塩酸ピリジンを濾別し、DCMで洗浄した。洗液と濾液を合わせて、20mlずつ1回の5% NaCl、5% NaHCO3、0.1N HCl、5% NaClで洗浄した。次いでこの溶液をMgSO4で乾燥させ、溶媒を真空中で除去した。残留する褐色の油をシリカ上でのカラムクロマトグラフィーにより精製した。ヘキサン、次いで5%エーテル/ヘキサンで溶離して、10.3g(56%)の無色の油を得た。構造を13C NMRおよびGLCにより確認した。HPLCにより純度を測定した。
【0124】
大規模
1,3-ジデカノイルオキシプロパン-2-オン
ジデカノイルクロリド(272ml, 250g, 1.3 mol, 2当量)を10〜15分間かけて、1,3-ジヒドロキシアセトン二量体(59.1g, 0.65 mol, 1.0当量)、ピリジン(106ml, 103.7g, 1.3 mol)、4-ジメチルアミノピリジン(2.38g, 0.02 mol, 0.03当量)およびジクロロメタン(DCM、750ml)の撹拌懸濁液に、室温で窒素下に滴加した。氷水浴内での冷却によって、反応混合物の温度を30℃より低く維持した。反応混合物を室温で窒素下に一夜撹拌した。生成した塩酸ピリジンを濾別し、DCMで洗浄した。次いで濾液と洗液を合わせて、150mlずつ1回の5% NaCl、5% NaHCO3、0.1N HCl、5% NaClで洗浄した。次いでこの溶液をMgSO4で乾燥させ、真空濃縮すると、黄色の半固体が得られた。次いでこれをメタノール(500ml)から結晶化して白色固体を得た。収量は158g(60%)であった。
【0125】
1,3-ジカプリン
上記のケトン(158g, 0.40 mol)をテトラヒドロフラン(THF, 2.25 L)に溶解した。次いで水(50ml)を添加し、この溶液を5℃に冷却し、水素化ホウ素ナトリウム(5.66g, 1.5当量)を10℃より低い温度で少量ずつ添加した。反応混合物をHPLCによりモニターした(C18, ACNにより1ml/分で溶離, λ210nm)(注釈:実際には、すべての出発物質(SM)が反応したので、4.5gの水素化ホウ素ナトリウムを添加したにすぎない)。反応混合物を室温で1時間撹拌し、次いで真空濃縮してTHFを除去した。残留物を酢酸エチルと5%塩化ナトリウム溶液の間で分配した。水相を酢酸エチルで再抽出し、抽出液を合わせてMgSO4で乾燥させ、真空濃縮すると、ろう状固体が得られた。これをヘキサンから2回結晶化して96g(60%)の白色固体を得た(HPLCによる純度98%)。
【0126】
1,3-ジカプリン2-アラキドネート(CAC)
アラキドン酸(AA 96, 78.8g, 0.26 mol)をジクロロメタン(DCM, 425ml)に溶解した。得られた溶液を室温で窒素下に撹拌し、オキサリルクロリド(33.9ml, 49.4g, 0.39 mol, 1.5当量)を15〜20℃で15分間かけて滴加した。混合物を室温で一夜撹拌し、次いで真空濃縮して、DCMおよび過剰のオキサリルクロリドを除去した。次いで残留する油性の酸塩化物(GLA-Cl)を30〜40分間かけて10〜15℃で(氷/水冷却)、1,3-ジカプリン(94.2g, 0.24 mol)、DCM(450ml)、ピリジン(19.1ml, 18.6g, 0.24 mol)および4-ジメチルアミノピリジン(1.72 1.50g, 0.014 mol, 0.06当量)の撹拌溶液に、10〜15℃で滴加した。反応混合物を室温で窒素下に一夜撹拌した。塩酸ピリジンを濾別し、DCMで洗浄した。洗液と濾液を合わせて、150mlずつ1回の5% NaCl、5% NaHCO3、0.1N HCl、5% NaClで洗浄した。次いでこの溶液をMgSO4で乾燥させ、溶媒を真空中で除去して褐色の油(171g)を得た。
【0127】
上記の3反応の規模は、それぞれを実施した最大であった。水素化ホウ素還元により、1,3-ジカプリンのほかに副生物が変動生成量で生成した。この副生物の存在は単離した純粋な1,3-ジカプリンの収量に大きな影響を与えた;この副生物は粗生成物の2回の結晶化によってようやく除去できた。最終生成物CACはカラムクロマトグラフィーにより精製されるので、最終工程に使用する1,3-ジカプリンは可能な限り純粋であることが必要である。
【0128】
上記の反応から412gのCAC生成物が褐色の油として生成した。これを一連のシリカカラム上で、ヘキサン、続いて1〜3%エーテル/ヘキサンを用いて精製した。この精製には7または8本のカラム、3〜4キロのシリカおよび100 Lの溶媒の使用が必要であった。
【0129】
得られた生成物、すなわち透明でごく淡い黄色の油(295g)は、HPLC(C18 4.6×100mm、ACN/THF 85/15、1ml/分で溶離, λ210nmのUV検出)によれば95.8%の純度であった。GCは、66.3/32.1のC/A比を示した(1.6%の不純物はA中の5%の不純物から持ち込まれた)。
【0130】
まとめ
295gのグリセロール1,3-ジデカノエート-2-アラキドネート(1,3-ジカプリン-2-GLA, CAC)を、デカノイルクロリド(98%)およびアラキドン酸(95%)から3工程法により製造した(反応経路を後記に示す)。それはごく淡い黄色の油であり、窒素下でフリーザー内に保存された。HPLC純度は95.8%であった。
【0131】
合成例7
1,3-ジオレオイン2-γ-リノレノエート(グリセロール1,3-ジオクタデカ-9Z-エノエート2-オクタデカトリ(6-Z,9-Z,12-Z)エノエートまたはOGO)
このトリグリセリドは既知である:カーボン-14標識形は普通の化学合成により製造され、普通の非標識形はリパーゼを用いる生化学合成により製造された。ボリジ油の主成分はOGOではなく、その異性体OOGである(9%)。CGCの合成に用いられる2種類の中間体は既知である。最終工程は新規である。
【0132】
CGCの使用、1,3-ジオレオインからの合成、および精製は、すべて新規であると考えられる。特許および物品コストの理由で、一般にトリグリセリドCXCの方がOXOより好ましい。
【0133】
本発明においては、1,3-ジオレオインとGLA-クロリドをジクロロメタン-ピリジン中で反応させることによりOGOを製造した。1,3-ジオレインは1,3-ジオレオイルオキシプロパン-2-オンの水素化ホウ素ナトリウム還元により製造され、1,3-ジオレオイルオキシプロパン-2-オンはオレオイルクロリドと1,3-ジヒドロキシアセトンの反応により製造された。中間体1,3-ジオレオリンは酸、塩基および熱に曝露されるとアシル移動反応を行う可能性があるので、慎重に取り扱わなければならない。モノ-トリチルグリセロールまたはグリシジルエステルを経て1,3-ジオレオインを製造するための旧法7,8は、工程数がより多いことおよびアシル移動反応の問題のため、有用性がより低いと思われた。最終生成物OGOをシリカ上での慎重なカラムクロマトグラフィーで精製することにより、副生物を除去した。
【0134】
小規模
1,3-ジオレオイルプロパン-2-オン
155.1gのオレイン酸(155.1g, 0.55 mol, 1.0当量, Croda 094 RV05192)を、ジクロロメタン(DCM, 500ml)に溶解した。この溶液を室温(RT)で窒素下に撹拌し、104.4g(1.5当量, 71ml)のオキサリルクロリド(104.4g, 71.8ml, 0.82 mol, 1.5当量)を15〜20℃で約20分間かけて滴加した。反応混合物を室温で一夜撹拌した。過剰のオキサリルクロリドおよびDCMを真空中で除去し、残留する油性の酸塩化物を15〜20分間かけて、1,3-ジヒドロキシアセトン二量体(22.5g, 0.24 molのモノマー)、ピリジン(40.4ml)、4-ジメチルアミノピリジン(1.83g)およびジクロロメタン(DCM, 500ml)の撹拌懸濁液に、室温で窒素下に滴加した。氷/水浴内での冷却によって、反応混合物の温度を20℃より低く維持した。反応混合物を室温で窒素下に一夜撹拌した。生成した塩酸ピリジンを濾別し、DCMで洗浄した。濾液と洗液を合わせて、150mlずつ1回の5% NaCl、5% NaHCO3、0.1N HCl、5% NaClで洗浄した。次いでこの溶液をMgSO4で乾燥させ、真空濃縮して橙/褐色の半固体を得た。これをメタノール中で摩砕処理し、冷蔵庫内に一夜保存した。次いで沈殿した固体(HPLCによる純度90%)をジイソプロピルエーテル(DIPE)およびメタノールから結晶化すると、51.3gの灰白色固体が得られた。これはHPLCによる純度95%であった。DIPE/メタノールからさらに結晶化して、純度98%の生成物41g(27%)を得た。
【0135】
1,3-ジオレイン
上記のケトン(32.8g, 0.053 mol)をテトラヒドロフラン(THF, 250ml)に溶解した。次いで水(10ml)を添加し、この溶液を5℃に冷却し、水素化ホウ素ナトリウムを10℃より低い温度で少量ずつ添加した。反応をHPLC(C18, ACN/THF 90/10により2ml/分で溶離, λ210nm)により追跡し、すべての出発ケトンが反応した後、水素化ホウ素ナトリウムの添加を止めた(830mg, 0.022 molを添加)。次いで混合物を真空濃縮してTHFを除去した。残留物を酢酸エチルと水の間で分配した。水相を酢酸エチルで再抽出し、抽出液を合わせてMgSO4で乾燥させ、真空濃縮すると、油(約33g)が得られた。これを冷却すると凝固した。生成物(HPLCによる純度68%)を100mlのヘキサンから-20℃(フリーザー内)で一夜結晶化させた。この生成物(純度92%, 21.1g)をヘキサン(50ml)から再結晶して18.28g(収率56%)の生成物を得た。HPLCによる純度97.5%。
【0136】
1,3-ジオレイン2-γ-リノレノエート(O-G-O)
γ-リノレン酸(GLA 95, 41.2g, 0.15 mol, 1.1当量)をジクロロメタン(DCM, 250ml)に溶解した。得られた溶液を室温で窒素下に撹拌し、オキサリルクロリド(19.1ml, 28.2g, 0.22 mol, 1.65当量)を5分間かけて滴加した。混合物を室温で一夜撹拌し、次いで真空濃縮して、DCMおよび過剰のオキサリルクロリドを除去した。次いで残留する油性の酸塩化物(GLA-Cl)を15分間かけて(氷/水冷却)、1,3-ジオレイン(83.5g, 0.13 mol)、DCM(250ml)、ピリジン(10.9ml, 10.6g, 0.14 mol)および4-ジメチルアミノピリジン(0.49g, 0.004 mol, 0.15当量)の撹拌溶液に、10〜15℃で滴加した。氷水冷却によりこの温度を維持した。反応混合物を室温で窒素下に一夜撹拌した。塩酸ピリジンを濾別し、DCMで洗浄した。次いで洗液と濾液を合わせて、80mlずつ1回の5% NaCl、5% NaHCO3、0.1N HCl、5% NaClで洗浄した。次いでこの溶液をMgSO4で乾燥させ、溶媒を真空中で除去した。残留する褐色の油をシリカ上でのカラムクロマトグラフィーにより精製した。ヘキサン、次いで5%エーテル/ヘキサンで溶離して、63.6g(54%)の無色の油を得た。HPLCにより純度を測定した。
【0137】
まとめ
64gのグリセロール1,3-オレオエート-2-γ-リノレノエート(1,3-ジオレエート-2-GLA, OGO)を、オレオイルクロリド(98%)から3工程法により製造した(反応経路を後記に示す)。それはほぼ無色の油(わずかに黄色)であり、窒素下でフリーザー内に保存された。HPLC純度は89.4%であった。
【0138】
特定構造の脂質の13C NMRデータ
【0139】
【数1】

【0140】
実験法
NOE抑制したプロトンデカップリング13C NMRスペクトルを、21℃で、125.728 MHzにおいて作動するJoel 500 MHz分光計により5mmの広帯域プローブに収集した。デカップリングのために選択した様式はワルツ(Waltz)デカップリングであり、14.89秒の捕捉時間の間のみゲート開放した。緩和遅れ(relaxation delay)を30秒に設定し、パルス角度は90°であった。用いたスペクトルウインドウは約35 ppm(173.5〜172.6 ppm)、170 ppmのオフセットであった。スペクトルは77.0 ppmのCDCl3を内標準とした。一般に、適切なS-N比を得るために収集した走査概数は、試料の濃度および純度に応じて300〜1200であった。実験の全捕捉時間は2〜8時間、たとえば走査数1272;データ点65,536であった。捕捉時間を短縮するために、可能な場合は20% w/vにまで濃縮した溶液を用いた。引用した化学シフトは溶液の濃度と共に変動する。
【0141】
生物学的試験
慢性再発性実験的自己免疫性脳脊髄炎(CREAE)試験
EAEの誘発および臨床評価
C57B1/6およびSJLマウスにおいてCREAEを誘発した。動物に100μgの神経抗原ペプチドMOG 35-55(アミノ酸配列MEVGWYRSPFSRVVHLYRNGK, Genemed Synthesis, Inc)または1mgのマウス脊髄ホモジェネート(SCH)[リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中]を、480μgの結核菌(mycobacteria tuberculosis)および60μgのマイコバクテリア・ブチリシウム(mycobacteria butyricium)(DIFCO, 米国デトロイト)を補充した完全フロイントアジュバント(DIFCO, 米国デトロイト)中に室温で10分間の音波処理により乳化して、0および7日目に、先の記載(Morris-Downess, MM., et al. 2002)に従って皮下注射した。さらに最適化のために、MOG神経抗原による免疫化の1時間および24時間後、SCHについては0、1、7および8日目に、PBSに溶解した200ngの百日咳菌(Bordetella pertussis)毒素をも疾患マウスに投与した(腹腔内)。
【0142】
動物を5日目以降、秤量し、臨床神経徴候を2人の熟練した研究者が毎日検査して、これまでに確証されている等級方式(Morris-Downess, MM., et al. 2002その他)に従って等級付けした:0=正常;1=尾と足を引きずる;2=立直り反射障害;3=部分的な後足麻痺;4=完全な後足麻痺;5=瀕死;6=死亡。一般にみられるものより低い重症度の臨床徴候を示す動物を、指示した等級より0.5低いスコアとした。
【0143】
参考文献
Morris-Downess, MM., et al.(2002). マウスの実験的アレルギー性脳脊髄炎における抗ミエリン抗体の病理学的作用および調節作用. J. Neuroimmunol. 125. 114-124。
【0144】
グループ平均EAEスコアを各試験グループについて、非パラメーター統計分析(マン-ホイットニーU-検定)により各対照グループと比較した。
すべてのMOG-CREAE試験が処理対照グループ(前記試験から選択したC-C-Cまたは食塩水)を含んでいた。特定構造の脂質それぞれを3種類の用量レベルで試験し、すべての処理が接種の7日後から2週間の経口投与であった。すべての処理グループに10匹の動物を含む。試験終了時(21日目)に脳および脊髄を摘出し、それらの試料の半量をCNS血管周囲単核白血球浸潤部位および脱髄の徴候を調べるために処理した。
【0145】
試験は下記のとおりであった
試験2:SJLマウスにおける脊髄ホモジェネート(SCH)EAE
EAE誘発:1mgのSCH、0日目+7日目(皮下)、200ngの百日咳菌毒素、0、1、7および8日目(腹腔内)、マウス10匹/グループ。マウスを7日目から21日目までCCCまたはCGCで処理した;
試験3:SJLマウスにおけるSCH EAE:PSD 7日目から21日目まで(両日を含む)処理を行った;
試験4:C57BLマウスにおけるMOG EAE:PSD 7日目から21日目まで(両日を含む)処理を行った;
試験5:SJLマウスにおけるSCH EAE:PSD 5日目から18日目まで(両日を含む)処理を行った;
試験6:C57BLマウスにおけるMOG EAE:PSD 5日目から21日目まで(両日を含む)処理を行った。ただし、C-DHLA-Cグループでは5日目から15日目まで処理を行った。PSD 25日目に動物を選別した[非処理グループから5匹、対照CCC処理グループから3匹、GGG 150ul処理グループから5匹、GGG 350ul処理グループから2匹を、組織病理学的分析用にPSD 25日目にサンプリングした];
試験7:SJLマウスにおけるSCH EAE
PSD 6日目から20日目まで(両日を含む)処理を行った;
試験2−SJLマウスにおける脊髄ホモジェネート(SCH):下記を試験した
【0146】
【数2】

【0147】
[重篤な疾患を観察した]
試験3−SCH/SJLマウス:下記を試験した
【0148】
【数3】

【0149】
[重篤な疾患を観察した]
試験4:MOG/C57BLマウス:下記を試験した
【0150】
【数4】

【0151】
試験6:MOG/C57BLマウス:下記を試験した
【0152】
【数5】

【0153】
[病理所見:CCC;GGG]。
提出された脳および脊髄の試料の組織学的検査は、実験的アレルギー性脳脊髄炎に典型的な病変を示した。
【0154】
局在性および散在性病変は、神経膠症、ミエリン空胞化、軸索変性、ならびにリンパ球、マクロファージおよび好中球を伴う血管周囲カッフィングを特徴としていた。
脊髄病変は大部分が軟膜下白質に局在し、脳病変は大部分が小脳白質内に起きていた。病変は脊髄の方が脳より重篤であり、脳病変を伴うすべての動物が脊髄に病変を伴っていたが、脊髄病変を伴う動物が必ずしもすべて脳に病変を伴うわけではなかった。
【0155】
マウス個体間の病変の重症度の変動を、半定量的5点等級方式によりまとめる。
非処理マウスは組織学的スコア3〜4をもち、これらはEAEスコア1.5〜3と相関していた。1匹のマウスはほとんど病理学的変化を示さず、スコアはゼロであった。GGG処理マウスにおいては、大部分が異常を示さなかった。このグループのうち2匹のマウスは、それぞれ2および3の組織学的スコアをもち、これらはEAE重症度スコア1および1.5と相関していた。
【0156】
前記4試験の結果を以下の図11〜20に示す。
これらは、化合物G-G-G、A-A-A、C-G-C、C-DHLA-C、およびC-A-CがすべてCREAEの重症度を軽減できるのに対し、化合物G-C-GおよびC-C-Cはこの症状を処理できないことを示す。化合物O-G-Oは用量を調整すれば有効であると考えられる。
【0157】
説明中に注釈したように、アラキドン酸化合物は有効であるが、若干の動物を死に至らせる。生存動物は疾患がより軽減していた。これらの化合物の用量をさらに減少させると、満足すべき処置を行って生存させることができると考えられる。
【0158】
若干の試験は、化合物C-G-CおよびG-G-Gについてベル形の応答曲線を示す。これは、前記のように、きわめて高い用量は最適ではないことを示唆する。そのような用量は、たとえば用量漸増、およびPBMCからのTGF-β1/TNF-α自然放出比の変化をモニターすることにより、当業者が簡単に判定できる。
【0159】
PCT/GB 04/002089により高sn-2 γ-リノレン酸が得られること、CREAEに低sn-2のクロフサスグリ油およびG-C-Gが効果をもたないこと、ならびにC-G-CおよびC-DHLA-Cが低用量で有効であることからみて(図20)、γ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸およびアラキドン酸の脂質は、病変が修復され、難治性症状が消散するという点で、現在の療法の転帰のいずれよりも優れた新規な多発性硬化症処置法を提供することが分かる:数年間にわたってEDSSを低下させることは、これまで他の療法では達成できなかった。
【0160】
参考文献
【0161】
【数6】

【0162】
【数7】

【0163】
【数8】

【0164】
【数9】

【0165】
【数10】

【0166】
【数11】

【0167】
【数12】

【0168】
【数13】

【0169】
【数14】

【0170】
【数15】

【0171】
【表1】

【0172】
【表2】

【0173】
【表3】

【0174】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0175】
【図1】プラセボおよび高sn-2 γ-リノレン酸 PCT/GB 04/002089被験油で処置したヒト多発性硬化症患者における、18カ月目の末梢血単核細胞による自然サイトカイン産生を示す。
【図2】プラセボおよび低用量(5 g/日)高sn-2 GLAボリジ油が高用量(15 g/日)と比較してヒト多発性硬化症患者のEDSSスコアに及ぼす影響を、処置月数をx軸とするヒストグラムとして表わしたものを示す。
【図3】プラセボ、低および高sn-2 GLAボリジ油がヒト多発性硬化症患者の平均再発率(%)に及ぼす影響を、月数をx軸とするヒストグラムとして示す。
【図4】本発明の方法および使用に用いる単一脂肪酸トリアシルグリセリドの合成のための反応経路を示す。
【図5】対照化合物トリカプリンの合成のための反応経路を示す。
【図6】本発明の混合脂肪酸トリアシルグリセリドであるCGCの合成のための反応経路を示す。
【図7】本発明の混合脂肪酸トリアシルグリセリドであるC-DHGLA-Cの合成のための反応経路を示す。
【図8】対照化合物GCG、すなわち1,3-ジカプリル, 2-γ-リノレン酸の合成のための反応経路を示す。
【図9】本発明の混合脂肪酸トリアシルグリセリドであるC-AA-Cの合成のための反応経路を示す。
【図10】実施例に提示したSJLおよびC57BLマウスにおけるEAE試験の結果を示す(DHLA=DHGLA:A=AA)。
【図11】実施例に提示したSJLおよびC57BLマウスにおけるEAE試験の結果を示す(DHLA=DHGLA:A=AA)。
【図12】実施例に提示したSJLおよびC57BLマウスにおけるEAE試験の結果を示す(DHLA=DHGLA:A=AA)。
【図13】実施例に提示したSJLおよびC57BLマウスにおけるEAE試験の結果を示す(DHLA=DHGLA:A=AA)。
【図14】実施例に提示したSJLおよびC57BLマウスにおけるEAE試験の結果を示す(DHLA=DHGLA:A=AA)。
【図15】実施例に提示したSJLおよびC57BLマウスにおけるEAE試験の結果を示す(DHLA=DHGLA:A=AA)。
【図16】実施例に提示したSJLおよびC57BLマウスにおけるEAE試験の結果を示す(DHLA=DHGLA:A=AA)。
【図17】実施例に提示したSJLおよびC57BLマウスにおけるEAE試験の結果を示す(DHLA=DHGLA:A=AA)。
【図18】実施例に提示したSJLおよびC57BLマウスにおけるEAE試験の結果を示す(DHLA=DHGLA:A=AA)。
【図19】実施例に提示したSJLおよびC57BLマウスにおけるEAE試験の結果を示す(DHLA=DHGLA:A=AA)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経変性疾患の療法処置を必要とする患者に、療法有効量の、1以上の脂肪酸部分でエステル化されたグリセロール部分を含む特定構造の脂質グリセリドを投与することを含む患者の処置方法であって、該脂質が、γ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸およびアラキドン酸よりなる群から選択される脂肪酸部分をsn-2位に有することを特徴とする方法。
【請求項2】
神経変性疾患が脱髄を伴う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
処置により、原疾患である神経変性が特異的に抑制され、神経機能が回復する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
γ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸およびアラキドン酸脂質含量に関して神経膜組成を正常化する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
末梢血単核細胞放出による自然放出から測定した健全なTGF-β1/TNFα比を回復させる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
疾患が多発性硬化症である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
疾患が、再発性弛張性(remitting)多発性硬化症、原発性進行性多発性硬化症または慢性進行性多発性硬化症である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
疾患が多発性硬化症であり、MRIスキャン、CATスキャンまたはEDSSスコアのうち1以上によって測定した神経機能または神経統合性が処置により一部または完全に回復する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
処置が、脱髄または神経損傷を伴う、発作後脳障害、頭部外傷および頭蓋内出血、アルツハイマー病またはパーキンソン病の処置である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
患者のTGF-β1レベルを療法レベルに維持または上昇させるのに十分な期間、十分な用量で、脂質を投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
1日1回投与の18カ月後に患者の血液より単離した末梢血単核細胞から自然放出されたTGF-β1/TNFα比0.4〜3.0、少なくとも0.5、より好ましくは少なくとも0.75、最も好ましくは少なくとも1に、患者のTGF-β1レベルを維持または上昇させるのに十分な期間、十分な用量で、脂質を投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
用量が、1日1回投与の18カ月後に患者の血液より単離した末梢血単核細胞(PBMCs)におけるTGF-β1/IL-1β比を少なくとも0.75にする量である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
脂質の投与量が1日0.5〜30g、一般に3〜5gである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
脂質が、少なくとも1つのsn-2 γ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸またはアラキドン酸部分を含むモノグリセリド、ジグリセリドまたはトリグリセリドであり、脂質が一般式I:
【化1】

(式中、R1およびR3は独立して水素およびアシル基から選択され、R2はγ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸およびアラキドン酸の残基よりなる群から選択され、それらのカルボニル炭素がグリセロール部分の酸素に結合している)
のものである、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
R1およびR3が式-CO-(CH2)n-CH3(nは1〜22から選択される整数である)の飽和脂肪酸部分である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
R1とR3が同一であり、nが5〜12の整数である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
nが6〜10の整数である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
R1およびR3が、必須脂肪酸、または人体により代謝可能な生理的に許容できる脂肪酸よりなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
R1、R2およびR3がすべて同一であり、γ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸およびアラキドン酸残基よりなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
1以上の脂肪酸部分でエステル化されたグリセロール部分を含む特定構造の脂質グリセリドを含む医薬組成物であって、該脂質が、γ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸よりなる群から選択される脂肪酸部分をsn-2位に有することを特徴とする組成物。
【請求項20】
1以上の脂肪酸部分でエステル化されたグリセロール部分を含む特定構造の脂質グリセリドを含むことを特徴とする、神経変性を処置するための医薬組成物であって、該脂質が、γ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸およびアラキドン酸よりなる群から選択される脂肪酸部分をsn-2位に有することを特徴とする組成物。
【請求項21】
1以上の脂肪酸部分でエステル化されたグリセロール部分を含む特定構造の脂質グリセリドを含む、脱髄性疾患を処置するための医薬組成物であって、該脂質が、γ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸およびアラキドン酸よりなる群から選択される脂肪酸部分をsn-2位に有することを特徴とする組成物。
【請求項22】
式IIの脂質:
【化2】

(式中、R1とR3は同一であって-C(O)(CH2)nCH3であり、nは4〜14、より好ましくは6〜10、最も好ましくは7、8または9から選択され、R2はγ-リノレニル、ジホモ-γ-リノレニルおよびアラキドニル残基から選択される)。
【請求項23】
神経変性疾患の処置に用いる医薬の製造のための、1以上の脂肪酸部分でエステル化されたグリセロール部分を含む特定構造の脂質グリセリドの使用であって、該脂質が、γ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸およびアラキドン酸よりなる群から選択される脂肪酸部分をsn-2位に有することを特徴とする使用。
【請求項24】
変性疾患が脱髄性疾患である、請求項23に記載の使用。
【請求項25】
疾患が多発性硬化症である、請求項23に記載の使用。
【請求項26】
医薬が、脂質γ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸およびアラキドン酸レベルに関して神経膜組成を正常化する、請求項23に記載の使用。
【請求項27】
医薬が、患者の末梢血単核細胞から自然放出されたTGF-β1/TNFα比を健全なレベルに回復させる、請求項23に記載の使用。
【請求項28】
処置が、多発性硬化症の処置、または頭部外傷、発作および頭蓋内出血に伴う変性性後遺症の処置、またはアルツハイマー病もしくはパーキンソン病により起きる神経損傷の処置である、請求項23に記載の使用。
【請求項29】
医薬がCNS病変を修復する、請求項23に記載の使用。
【請求項30】
医薬が筋痙縮および/または痛みを軽減する、請求項23に記載の使用。
【請求項31】
医薬が再発を排除する、請求項23に記載の使用。
【請求項32】
医薬が1年の処置期間でEDSSスコアを少なくとも1単位改善する、請求項23に記載の使用。
【請求項33】
医薬が、患者の2.5より高いEDSSを1年の処置期間で2未満に回復するのに十分である、請求項23に記載の使用。
【請求項34】
膀胱制御が改善される、請求項23に記載の使用。
【請求項35】
一般式IIIの化合物:
【化3】

(式中、R1とR3は同一であって-C(O)(CH2)nCH3であり、nは4〜14、より好ましくは6〜10、最も好ましくは7、8または9から選択され、R2はγ-リノレニル残基、ジホモ-γ-リノレニル残基またはアラキドニル残基である)の合成方法であって、
1,3-ジヒドロキシアセトンを式X-C(O)(CH2)nCH3の化合物(Xは、Cl、BrおよびIから選択される)と反応させて、対応する1,3-ジ-(C(O)(CH2)nCH3) 2-ケト化合物にし、このケト基を還元して対応する1,3-ジ-(C(O)(CH2)nCH3) 2-オールにし、これをγ-リノレニルハライド、ジホモ-γ-リノレニルハライドまたはアラキドニルハライド(ハライドはクロリド、ブロミドまたはヨージドである)と反応させることを含む方法。
【請求項36】
一般式IVの化合物:
【化4】

(式中、R1〜R3は同一であって、γ-リノレニル残基、ジホモ-γ-リノレニル残基またはアラキドニル残基から選択される)の合成方法であって、
対応するγ-リノレニルハライド、ジホモ-γ-リノレニルハライドまたはアラキドニルハライド(ハライドはクロリド、ブロミドまたはヨージドである)をグリセロールと反応させることを含む方法。
【請求項37】
グリセロール1,3-ジデカノエート-2-オクタデカトリ(6-Z,9-Z,12-Z)エノエート、
グリセロール1,3-ジデカノエート-2-エイコサ-(8Z,11Z,14Z)-トリエノエート、
グリセロールトリエイコソテトラ 5-Z,8-Z,11-Z,14Z-エネオエート
よりなる群から選択される脂質。
【請求項38】
療法に使用するための、請求項37に記載の脂質。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公表番号】特表2007−502805(P2007−502805A)
【公表日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−523678(P2006−523678)
【出願日】平成16年8月13日(2004.8.13)
【国際出願番号】PCT/GB2004/003524
【国際公開番号】WO2005/018632
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(500431508)ビーティージー・インターナショナル・リミテッド (41)
【Fターム(参考)】