説明

神経変性疾患の治療のための化合物

【課題】コンフォメーション病を治療するためのポリペプチド等の提供。
【解決手段】コンフォメーション病の原因タンパク質と結合して、当該タンパク質の病原性作用を不活性化する、特定のアミノ酸配列を含むポリペプチド;当該ポリペプチドをコードする核酸;またはそのような核酸を発現可能に含有する、組換え発現ベクターもしくは組換えウィルス。変異型SOD1タンパク質によって惹起されるALS発症の分子機構を利用して、細胞内で生じる異常を回復させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンフォメーション病を治療するための医薬組成物を開発することを目的とする。本発明はまた、コンフォメーション病を治療するために使用することができる新規化合物を提供するためのスクリーニング方法を提供することにも関する。
【背景技術】
【0002】
細胞内における正常な高次構造を持たない異常タンパク質は、通常、細胞の機能を妨げないために分子シャペロン系を介してリフォールディングされるか、あるいはタンパク質分解系により排除される。近年、この分解系(ユビキチン・プロテアゾームシステム)の破綻が、筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis;ALS)を始めポリグルタミン病、アルツハイマー病、パーキンソン病、プリオン病を含む多くの神経変性性疾患において、発症原因の一つであることが明らかになり、このような神経変性性疾患はコンフォメーション病と総称され注目されている。これらの病気においては、細胞の外的・内的刺激によって誘導された異常タンパク質が、細胞内に過度に蓄積し、最終的には細胞のアポトーシスが誘導される。
【0003】
これらのコンフォメーション病において異常蓄積するタンパク質は、それぞれの疾患によって異なっている。具体的には、ALSでは変異型SOD1タンパク質、ハンチントン病などのポリグルタミン病ではポリグルタミン、アルツハイマー病ではアミロイドβタンパク質やTauタンパク質、パーキンソン病ではα-シヌクレイン、プリオン病では異常プリオンが、それぞれ異常蓄積することが知られている。いずれの場合にも、異常蓄積するタンパク質が特徴的なβシート構造を有しているという特徴を有している。
【0004】
しかしながら、細胞内異常タンパク質の分解系であるユビキチン・プロテアゾームシステムが破綻することと、これらのコンフォメーション病とのあいだの詳細な関係を含め、実際にどのような分子機構によってこれらの疾患において神経細胞が傷害され、変性していくのかという一連のメカニズムについては、様々な角度から数多くの研究がなされているものの、その全体像を明らかにするには至っていない。
【0005】
上述したようなコンフォメーション病の一例として、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を挙げることができる。ALSは、大脳、脳幹、脊髄の運動ニューロンが選択的かつ系統的に侵されて、結果として筋肉が萎縮していく進行性の神経変性疾患である。中高年期に発症し、外眼筋を除く全身の随意筋に筋萎縮、筋力低下を来しておよそ2〜5年で呼吸不全に至り、人工呼吸器を装着しなければ死亡する。ALSのうちの約90%は孤発性で、残りの約10%は遺伝性の家族性ALSであるが、家族性ALSのうちの約20%がスーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)遺伝子の変異が原因で発症することが知られている。
【0006】
スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)には、SOD1(Cu/Zn SOD)、SOD2(Mn SOD)およびSOD3(細胞外SOD)という3種類のサブタイプがあるが、その遺伝子の変異が家族性ALSの原因となることが知られているのはSOD1だけである。現在までに家族性ALSにおけるSOD1遺伝子の変異は100種類以上が報告されているが、その変異によりALSが発症する原因は、遺伝子の変異に基づくSOD活性の低下(loss of function)ではなく、現在ではその病態発症機構は、変異型SOD1タンパク質が細胞内に発現し、細胞内に変異型SOD1タンパク質が蓄積した結果、何らかの細胞毒性を発揮し、運動神経が変性を来すことによるものと考えられている。
【0007】
しかしながら、細胞内に変異型SOD1タンパク質が発現し蓄積した結果、実際にどのような分子機構によって細胞が傷害され、変性していくのかという一連のメカニズムについて、またこの細胞傷害を防止するメカニズムについては、未だ明らかになっていない。
【0008】
近年、変異型SOD1タンパク質トランスジェニック(Tg)マウス用いた解析およびin vitroの実験から、ALSの病態進行には、TNF-α、Fasリガンドなどの炎症性サイトカインや活性酸素種の関与が示唆されている。例えば、ALSの病態進行に伴い、TNF-αなどの炎症に関与する遺伝子の発現が増加すること、また、変異型SOD1タンパク質トランスジェニックマウス由来の運動神経においては、野生型マウスに比べFasリガンドに対する感受性が増加して細胞死が誘導されやすくなっていることなどが報告されている。
【0009】
本発明の発明者らは、これまで、ASK1がJNK/p38経路を活性化するMAPKKKファミリーの1つであり(非特許文献1)、FasリガンドやTNF-α、IL-1などの炎症性サイトカイン、あるいはポリグルタミンを過剰発現させた細胞において、異常タンパク質蓄積に伴う小胞体ストレスシグナルによって強く活性化されること、そしてその際に見られる細胞死に関与していることを報告してきた(非特許文献2)。しかしながら、ASK1が関与する細胞死の分子メカニズムが、ALSをはじめとしたコンフォメーション病の病態に関わっているかどうかは、不明な点が多い。
【0010】
また、ユビキチン・プロテアゾームシステムの破綻と上述したコンフォメーション病との詳細な関係はもちろんのこと、ALSの患者の神経細胞内に変異型SOD1タンパク質が発現した結果、実際にどのような分子機構によって細胞が傷害され、変性していくのかという一連のメカニズムについても、様々な角度から数多くの研究がなされているものの、その全体像を明らかにするには至っていない。
【0011】
【非特許文献1】Ichijo et al Science 1997 275(5296): 90-94
【非特許文献2】Nishitoh et al. Genes Dev. 2002 16(11): 1345-55
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、コンフォメーション病の発症の分子機構の一端を解明し、また、解明されたコンフォメーション病の発症の分子機構を利用して、細胞内で生じる異常を回復させることを課題とする。
【0013】
本発明はまた、変異型SOD1タンパク質によって惹起される家族性ALSにおけるASK1-MAPK経路の役割について検討し、ALS発症の分子機構を解明することを課題とする。本発明はまた、解明されたALS発症の分子機構を利用して、細胞内で生じる異常を回復させることもまた、課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の発明者らは、FLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列を含むポリペプチドが、細胞内の変異型SOD1タンパク質またはポリグルタミンなど、コンフォメーション病の原因となる異常蓄積されるタンパク質と結合して、これらのタンパク質の病原性作用を不活性化することを見いだした。より具体的には、本発明の発明者らは、FLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列を含むポリペプチドを、変異型SOD1タンパク質またはポリグルタミンなど、コンフォメーション病の原因となる異常蓄積されるタンパク質を発現する細胞中で発現させることにより、当該異常蓄積されるタンパク質を発現する細胞中で生じていた小胞体中での異常構造のタンパク質の蓄積を防止することができること、コンフォメーション病の特徴である小胞体ストレス(異常構造のタンパク質が小胞体内で蓄積することにより生じる)を防止することができること、を見いだした。
【0015】
すなわち、本発明は、細胞内の変異型SOD1タンパク質やポリグルタミンなどのコンフォメーション病の原因タンパク質と結合して、当該タンパク質の病原性作用を不活性化する、FLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列を含むポリペプチド;当該ポリペプチドをコードする核酸;またはそのような核酸を発現可能に含有する、組換え発現ベクターもしくは組換えウィルス;を提供することにより、上述の課題を解決することができることを明らかにした。
【0016】
本発明はその一態様において、細胞内のコンフォメーション病の原因タンパク質と結合して、当該タンパク質の病原性作用を不活性化する、FLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列を含むポリペプチドを提供する。ここにいうFLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列を含むポリペプチドは、Derlin-1(SEQ ID NO: 6)に由来するポリペプチドである。このDerlin-1タンパク質は、細胞内オルガネラの小胞体の膜に存在する膜タンパク質であり、その疎水性解析の結果から、4回膜貫通型の膜タンパク質であることが知られている。そして、本発明のFLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列からなるポリペプチドは、このDerlin-1タンパク質のC末端側細胞質領域に存在する12アミノ酸からなるポリペプチドである。
【0017】
本発明においては、FLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列を含むポリペプチドは、FLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列を含む限りは、その両端に付加されるアミノ酸配列を限定されない。本発明において好ましくは、FLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列を含むポリペプチドは、Derlin-1タンパク質(SEQ ID NO: 6)またはその部分ペプチドであってFLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列を含むもの、より好ましくはDerlin-1(CT1)(SEQ ID NO: 10)またはその部分ペプチドであってFLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列を含むものである。このようなポリペプチドのうち好ましいものには、Derlin-1タンパク質(SEQ ID NO: 6)もしくはFLYRWLPSRRGG(Derlin-1(CT4);SEQ ID NO: 16)だけでなく、Derlin-1(CT1)(SEQ ID NO: 10)、Derlin-1(CT2)(SEQ ID NO: 12)、またはDerlin-1(CT3)(SEQ ID NO: 14)もまた含まれる。
【0018】
これらのポリペプチドは、いずれもFLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列を含むことから、FLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同様に、細胞内のコンフォメーション病の原因タンパク質と結合して、当該タンパク質の病原性作用を不活性化することができる。したがって、本発明においてはまた、FLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列を含むポリペプチドを、細胞内のコンフォメーション病の原因タンパク質不活性化剤として使用することもできる。
【0019】
本発明においてコンフォメーション病という場合、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ポリグルタミン病、アルツハイマー病、パーキンソン病、またはプリオン病のことをいう。これらの疾患の原因タンパク質は、ALSの場合には変異型SOD1タンパク質、ポリグルタミン病の場合にはポリグルタミン、アルツハイマー病の場合にはアミロイドβタンパク質またはTauタンパク質、パーキンソン病の場合にはαシヌクレイン、そしてプリオン病の場合には異常プリオンタンパク質と異なっている。しかしながら、これらのすべてが特徴的なβシート構造を有していると考えられている点で共通している。したがって、同様な特徴的なβシート構造を有するタンパク質が原因となって発症する他の疾患もまた、本発明におけるコンフォメーション病に含まれ、そしてそのようなタンパク質が本発明におけるコンフォメーション病の原因タンパク質に含まれる。
【0020】
本発明において標的となるコンフォメーション病の原因タンパク質は、ALS、またはポリグルタミン病であり、そしてそれぞれの場合の標的タンパク質は、変異型SOD1タンパク質、またはポリグルタミンであることが好ましい。
【0021】
本発明は別の一態様において、FLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列を含む、細胞内のコンフォメーション病の原因タンパク質の病原性作用を不活性化するポリペプチドをコードする核酸を提供する。FLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする核酸は、tttttgtacc gctggctgcc cagtaggaga ggagga(SEQ ID NO: 15)のヌクレオチド配列またはこの配列と縮重の関係にあるヌクレオチド配列を含む。本発明においては、上述したとおり、この核酸によりコードされるポリペプチドが、細胞内のコンフォメーション病の原因タンパク質の病原性作用を不活性化するという作用を有することを特徴としている。例えばこのような核酸には、Derlin-1をコードする核酸(SEQ ID NO: 5)、Derlin-1(CT1)をコードする核酸(SEQ ID NO: 9)、Derlin-1(CT2)をコードする核酸(SEQ ID NO: 11)、Derlin-1(CT3)をコードする核酸(SEQ ID NO: 13)、およびDerlin-1(CT4)をコードする核酸(SEQ ID NO: 15)、またはこの配列と縮重の関係にあるヌクレオチド配列を有する核酸が含まれる。
【0022】
これらの核酸は、いずれもFLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードすることを特徴としており、当該核酸を組換え発現ベクター中に組み込んでまたは組換えウィルス中に組み込んで、in vitroまたはin vivoにて細胞にトランスフェクションすることにより、FLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列を含むポリペプチドを発現することができる。したがって、本発明においては、これらの核酸を発現可能に含有する組換え発現ベクターまたはこれらの核酸を発現可能に含有する組換えウィルスもまた、提供することができる。このような組換え発現ベクターまたは組換えウィルスは、当該技術分野における周知の方法を用いて作製することができ、そしてこれらをin votroでの本発明のポリペプチド産生のため、またはコンフォメーション病の遺伝子治療において使用することができる。
【0023】
本発明の組換え発現ベクターを作製するために使用することができるベクターとしては、pREP9ベクター(Invitrogen)、pCDNA3.0ベクター(Invitrogen)、pCDNA3.1ベクター(Invitrogen)などがあるが、これらのものには限定されない。本発明の組換え発現ウィルスを作製するために使用することができるウィルスとしては、アデノウィルス、アデノ随伴ウィルス、レトロウィルス(Invitrogen)などがあるが、これらのものには限定されない。
【0024】
本発明はまた、FLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列を含むポリペプチドまたは当該ポリペプチドを細胞内で発現するための構築物を含む、コンフォメーション病を治療するための医薬組成物を提供することにより、上述の課題を解決することができることもまた、明らかにした。
【0025】
ここで、生体外で調製されたFLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列を含むポリペプチドを投与する場合、神経細胞に当該ポリペプチドを送達することができるいずれの方法ならびに投与経路を使用使用することも可能であり、例えばリポソーム等の脂質中に目的とするポリペプチドを封入、あるいはアンテナペディア配列と融合するなどの修飾を付加した細胞浸透性合成ペプチドにし、これを静脈内、脳脊髄液内の経路、または筋肉から運動神経への逆行性経路などを介して投与することができる。
【0026】
また、FLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列を含むポリペプチドを細胞内で発現するための構築物は、遺伝子治療を目的としたものであればどのようなものであってもよく、例えば、遺伝子治療に使用するために好ましいものとして前述した、レンチウィルス(Invitrogen)などが好ましい。例えばベクターの場合にはリポソームなどの脂質膜中に目的とするベクターを封入して、ウィルスの場合にはそのまま、静脈内、脳脊髄液内の経路、または筋肉から運動神経への逆行性経路などを介して投与することができる。
【0027】
本発明は、さらに、コンフォメーション病の原因タンパク質(例えば変異型SOD1タンパク質やポリグルタミンなど)に対して、本発明のFLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列を含むポリペプチド(例えば、Derlin-1(CT4))と同等またはそれ以上の生物学的作用を有する化合物を探索することにより、コンフォメーション病の患者を治療するためのその他の化合物をスクリーニングすることができる。
【0028】
その様な生物学的活性を利用したスクリーニングの一方法としては、組換え変異型SOD1タンパク質とリコンビナントDerlin-1(CT4)タンパク質とを用いたELISA法などが考えられる。
【0029】
具体的には、本発明においては、(i)コンフォメーション病の原因タンパク質(例えば変異型SOD1タンパク質やポリグルタミンなど)と被検化合物とのあいだで生じる結合を測定する工程;(ii)コンフォメーション病の原因タンパク質とDerlin-1(CT1)(SEQ ID NO: 10)またはその部分ペプチドであって、FLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列を含むポリペプチド(例えば、Derlin-1(CT1)(SEQ ID NO: 10)、Derlin-1(CT2)(SEQ ID NO: 12)、Derlin-1(CT3)(SEQ ID NO: 14)、またはDerlin-1(CT4)(SEQ ID NO: 16))とのあいだで生じる結合を測定する工程;(iii)工程(i)において被検化合物について得られた結果を、工程(ii)において前記ポリペプチドについて得られた結果と比較する工程;(iv)前記原因タンパク質と前記ポリペプチドとのあいだで生じる結合と同等かそれ以上の結合が、細胞質内で前記原因タンパク質と被検化合物とのあいだで生じている場合、被検化合物を、コンフォメーション病の原因タンパク質の病原性作用を不活性化する能力を有する化合物であるとして選択する工程;を含む、コンフォメーション病の原因タンパク質と結合して、当該タンパク質の病原性作用を不活性化する能力を有する化合物であるとして選択することができる。
【0030】
本発明においてはまた、(i)コンフォメーション病の原因タンパク質(例えば変異型SOD1タンパク質やポリグルタミンなど)を発現する細胞の細胞質に対して被検化合物を投与し、細胞内で生じる小胞体ストレスのマーカー(例えば、小胞体膜に存在するセリン・スレオニンキナーゼ型小胞体ストレス受容体IRE1およびPERKのリン酸化または転写因子CHOP(C/EBP homologous protein 10)のタンパク質発現レベル)の変化を測定する工程;(ii)コンフォメーション病の原因タンパク質を発現する細胞にDerlin-1(CT1)(SEQ ID NO: 10)またはその部分ペプチドであって、FLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列を含むポリペプチド(例えば、Derlin-1(CT1)(SEQ ID NO: 10)、Derlin-1(CT2)(SEQ ID NO: 12)、Derlin-1(CT3)(SEQ ID NO: 14)、またはDerlin-1(CT4)(SEQ ID NO: 16))を発現させ、細胞内で生じる小胞体ストレスのマーカーの変化を測定する工程;(iii)工程(i)において被検化合物について得られた結果を、工程(ii)において前記ポリペプチドについて得られた結果と比較する工程;(iv)被検化合物が、前記ポリペプチドにより生じるIRE1およびPERKのリン酸化の低下またはCHOPタンパク質の発現量の低下と同等またはそれを超える作用を有する場合、被検化合物を、コンフォメーション病の原因タンパク質の病原性作用を不活性化する能力を有する化合物であるとして選択する工程;を含む、コンフォメーション病の原因タンパク質の病原性作用を不活性化する能力を有する化合物であるとして選択することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の12アミノ酸からなるDerlin-1(CT4)タンパク質(SEQ ID NO: 16)またはそれを含むタンパク質を、ALSやポリグルタミン病など、コンフォメーション病と呼ばれる疾患の患者の神経細胞内に異常蓄積するタンパク質の病原性作用を不活性化するために使用することができる。より具体的には、本発明の12アミノ酸からなるDerlin-1(CT4)タンパク質(SEQ ID NO: 16)またはそれを含むタンパク質をコンフォメーション病の患者の神経細胞内に存在させることにより、小胞体ストレスを解消し、小胞体ストレスの結果として生じていた神経細胞の細胞死を防止することにより、結果としてコンフォメーション病の患者を治療することができる。また、Derlin-1(CT4)と同等またはそれ以上の生物学的作用を有する化合物を探索することにより、コンフォメーション病の患者を治療するためのその他の化合物をスクリーニングすることができる。
【発明の実施の形態】
【0032】
ALSの病態におけるASK1の関与
変異型SOD1タンパク質(SOD1 G93A)を過剰発現するトランスジェニックマウスは、モデル動物の一つとしてALSの解析に広く用いられている。このG93A-SOD1トランスジェニックマウスとASK1ノックアウトマウスとの交配実験を行ったところ、SOD1(G93A)Tg・ASK1-/-マウスにおいては、SOD1(G93A)Tg・ASK1+/+マウスと比較して、個体生存率が上昇することを見出した。この結果から、個体レベルにおいて、変異型SOD1タンパク質によって惹起されるALSの病態進行に、ASK1が何らかの形で関与していることが示唆された。
【0033】
また細胞レベルでは、マウス胎児由来の運動神経初代培養系において、アデノウイルス法により変異型SOD1タンパク質(SOD1 A4V、SOD1 G85R、SOD1 G93A)を過剰発現させたところ、細胞死が惹起されることが確認され、さらにASK1-/-ノックアウトマウス由来細胞においてはその神経細胞死が抑制されていることが確認された。
【0034】
これらのことから、変異型SOD1タンパク質を発現させた細胞で生じる細胞死は、ALSの病態の発症過程のモデルとして使用されているが、この細胞死のシグナルが、ASK1を介して伝達されることが明らかになった。
【0035】
ALSの病態の分子的メカニズム
本発明では、次に、ALSに関する具体的な変異型SOD1タンパク質のうち、SOD1 A4V、SOD1 G85R、SOD1 G93Aの3種類と野生型SOD1タンパク質(SOD1 WT)とを比較することによって、ALSにおいて運動神経細胞死の原因と考えられる分子メカニズムについて検討した。
【0036】
具体的には、変異型SOD1タンパク質を細胞内で発現させたところ、小胞体ストレスの指標でもあるIRE1、PERKの活性化(すなわちリン酸化)が生じ、さらには小胞体ストレス特異的にタンパク質誘導されることが知られている転写因子CHOPのタンパク質発現レベルも上昇した。このことから、細胞内で変異型SOD1タンパク質が発現されることにより、小胞体ストレスが引き起こされていることが明らかになった。しかしながら、一般に小胞体ストレス惹起のメカニズムとして知られているプロテアゾーム(タンパク質分解系)の抑制は、細胞内で変異型SOD1タンパク質が発現されることにより生じる小胞体ストレスにおいては関与していないことが明らかになった。
【0037】
さらに、これらの変異型SOD1タンパク質を発現させた細胞においては、小胞体内で分解されずに残存する異常構造のタンパク質の蓄積が顕著に増加し、その結果として小胞体ストレスが生じることが示唆された。このような小胞体内での異常構造のタンパク質の蓄積は、当該異常構造のタンパク質をコードする核酸のmRNA転写レベルでの発現量の上昇により生じたものではなく、そのような異常タンパク質の小胞体関連分解(ERAD)が正常に起こらないことにより生じたものであることもまた、明らかになった。
【0038】
変異型SOD1タンパク質の発現による細胞死シグナルの発生を阻害する物質の探索
本発明においては、小胞体関連分解(ERAD)に関与していることが知られている、VCP、Ufd1、Npl4、VIMP、Derlin-1の4種類のタンパク質と、変異型SOD1タンパク質とのあいだの関係について研究を進め、これら4種類のERADに関与しているタンパク質のうち、Derlin-1が、変異型SOD1タンパク質と結合していることを明らかにした。そして、Derlin-1と変異型SOD1タンパク質とのあいだの結合ならびに相互作用を詳細に検討したところ、FLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列を含むポリペプチドが、細胞内の変異型SOD1タンパク質と結合して、変異型SOD1タンパク質の病原性作用を不活性化することを見いだした。
【0039】
具体的には、本発明は、上述のFLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列を含むポリペプチドが細胞質内の変異型SOD1タンパク質と結合することにより、変異型SOD1タンパク質と小胞体膜タンパク質Derlin-1タンパク質のC末端側に位置する細胞質領域との結合を妨害し、小胞体内に存在する異常構造のタンパク質の細胞質への輸送および当該異常構造のタンパク質の細胞質内での分解を促進して、細胞内での異常構造のタンパク質の蓄積を防止し、小胞体ストレスを解消する作用を有することを明らかにした。このような作用を有する結果、本発明のポリペプチドは、ALSにより生じる神経細胞死を防止し、ALSを治療するために使用することができることを明らかにした。
【0040】
本発明のポリペプチドのコンフォメーション病への適用
上述した変異型SOD1タンパク質が関与するALSに関して得られた、FLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列を含むポリペプチドに関する知見が、ALS以外の他のコンフォメーション病に関しても当てはまるものかどうかを調べた。すなわち、本発明では、別の代表的なコンフォメーション病であるポリグルタミン病の原因と考えられるポリグルタミンと、FLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列を含むポリペプチドとの関係を検討した。その結果、FLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列からなるポリペプチドが、細胞質内のポリグルタミンと結合することを見いだした。
【0041】
この結果から、ALSに関して変異型SOD1タンパク質とFLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列を含むポリペプチドとのあいだの相互作用から生じる、FLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列を含むポリペプチドの小胞体ストレスの抑制という作用が、ポリグルタミン病をはじめ、他のコンフォメーション病の原因タンパク質とFLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列を含むポリペプチドとのあいだでも同様に発揮されることが示唆された。
【実施例】
【0042】
実施例1:変異型SOD1タンパク質による小胞体ストレス誘導
変異型SOD1タンパク質の細胞内発現が、小胞体ストレス特異的に活性化されるCaspase12を活性化することは既に報告されているが、小胞体膜に存在するセリン・スレオニンキナーゼ型小胞体ストレス受容体IRE1およびPERKを活性化するか否かに関しては報告がない。
【0043】
そこで、本実施例においては、これら2つの受容体の活性化をそのリン酸化の程度を測定することによって検討した。また同時に、小胞体ストレス特異的にタンパク質誘導されることが知られている転写因子CHOP(C/EBP homologous protein 10)のタンパク質発現レベルについても検討した。
【0044】
運動神経系細胞であるNSC34細胞は、Dr. Neil R. Cashman教授(University of Toronto)から入手した。このNSC34細胞に対して、野生型SOD1タンパク質(SOD1 WT;SEQ ID NO: 2)、または3種類の変異型SOD1タンパク質(SOD1 A4V、SOD1 G85R、またはSOD1 G93A)を発現する様にそれぞれの遺伝子(野生型SOD1タンパク質をコードする核酸をSEQ ID NO: 1として示す)で形質転換したアデノウィルスを感染させ、細胞内でそれぞれのSOD1タンパク質を発現させた。
【0045】
これらの変異型SOD1タンパク質、SOD1 A4V、SOD1 G85R、またはSOD1 G93Aは、それぞれ、SEQ ID NO: 2の野生型SOD1タンパク質の4番目アミノ酸がアラニンからバリンに置換された変異型SOD1タンパク質、SEQ ID NO: 2の野生型SOD1タンパク質の83番目アミノ酸がグリシンからアルギニンに置換された変異型SOD1タンパク質、およびSEQ ID NO: 2の野生型SOD1タンパク質の93番目アミノ酸がグリシンからアラニンに置換された変異型SOD1タンパク質、を示す。
【0046】
アデノウィルス感染後48時間後に、IRE1、PERKの活性化を、抗IRE1抗体(Dr. David Ron教授より供与:Skirball Institute of New York University's School of Medicine)、抗PERK抗体(Dr. David Ron教授より供与:Skirball Institute of New York University's School of Medicine)を使用する免疫沈降後ウエスタンブロッテイング(IP-IB)法にて(図1中においては、それぞれIP-IB:IRE1、IP-IB:PERKと示す)、そして転写因子CHOPの発現誘導を、抗CHOP抗体(Dr. David Ron教授より供与:Skirball Institute of New York University's School of Medicine)を使用するウェスタンブロッティング法にて(図1中においては、IB:CHOPと示す)、それぞれ検討した。野生型または変異型SOD1タンパク質の発現を確認するため、抗SOD1抗体(Stressgen BIOTECHNOLOGIES)を使用して、ウェスタンブロッティング法にて検出を行った(図1中においては、IB:SOD1と示す)。小胞体ストレスの陽性対照として、タンパク質の糖鎖修飾阻害により小胞体ストレスを誘導することが知られている小胞体ストレス誘導剤、ツニカマイシン(Wako Pure Chemical Industries, Ltd.)を用いて刺激を行った(2.5μg/ml×2時間)。
【0047】
結果を図1に示す。野生型SOD1タンパク質(SOD1 WT)、または3種類の変異型SOD1タンパク質(SOD1 A4V、SOD1 G85R、またはSOD1 G93A)を発現する様に形質転換したアデノウィルスにより感染された細胞内では、それぞれのSOD1タンパク質が発現していた(図1、溶解物IB:SOD1を参照)。
【0048】
そして、IRE1、PERK共に、細胞内で変異型SOD1タンパク質を発現させた場合には、リン酸化に伴うバンドの上方へのシフトアップが認められたが、野生型SOD1タンパク質を発現させた場合には上方へのシフトアップ(すなわちリン酸化)は認められなかった(図1、IP-IB:IRE1およびIP-IB:PERKを参照)。
【0049】
また、CHOPタンパク質の発現誘導は、野生型SOD1タンパク質を発現させた場合には誘導されなかったが、変異型SOD1タンパク質を発現させた場合には誘導されることが認められた(図1、IB:CHOPを参照)。
【0050】
変異型SOD1タンパク質を発現した細胞内でのIRE1およびPERKのリン酸化、ならびにCHOPタンパク質の発現誘導は、いずれも、小胞体ストレスの陽性対照である小胞体ストレス誘導剤、ツニカマイシンにより細胞内で引き起こされた反応と同様であった。このことから、変異型SOD1タンパク質の種類にかかわらず、変異型SOD1タンパク質を細胞内で発現させることに依存して、小胞体ストレスが惹起されることが明らかになった。
【0051】
実施例2:変異型SOD1タンパク質のプロテアゾーム活性に対する作用
本発明の発明者らはこれまで、神経変性疾患の一つ、ポリグルタミン病の病態分子機構に小胞体ストレスが関係することを明らかにしており、その際の小胞体ストレス惹起のメカニズムとして、異常タンパク質(ポリグルタミンタンパク質)発現によるプロテアゾーム(タンパク質分解系)の抑制が関与することを報告した(Nishitoh et al. Genes & Dev. 2005)。
【0052】
そこで、本実施例においては、変異型SOD1タンパク質による小胞体ストレス惹起において、プロテアゾーム活性抑制がどのように関与しているのかを検討するため、実施例1において用いた細胞条件でのプロテアゾーム活性を測定した。
【0053】
NSC34細胞に対して、実施例1で作製した野生型SOD1タンパク質(SOD1 WT)または3種類の変異型SOD1タンパク質(SOD1 A4V、SOD1 G85R、またはSOD1 G93A)を発現する様に形質転換したアデノウィルスを感染させ、2日、4日、および5日後に、プロテアゾームの蛍光基質Suc-LLVY-AMC(Suc-Leu-Leu-Val-Tyr-AMC;Bachem)を用いて、細胞溶解液中のプロテアゾーム活性を測定した。陰性対照として、プロテアゾーム阻害剤であるラクタシスチン(CALBIOCHEM)(2μM×2時間)を用いてNSC34細胞を刺激した。
【0054】
結果を図2に示す。野生型SOD1タンパク質(SOD1 WT)または3種類の変異型SOD1タンパク質(SOD1 A4V、SOD1 G85R、またはSOD1 G93A)を発現させた細胞のいずれの細胞においても、そして感染後2日、4日、および5日後のいずれにおいても、変異型SOD1タンパク質によるプロテアゾーム活性の抑制は認められなかった。すなわち、変異型SOD1タンパク質を発現させた細胞中では小胞体ストレスが誘導されているにもかかわらず(実施例1を参照)、プロテアゾーム活性の抑制は認められなかった。従って、小胞体ストレス惹起に、プロテアゾームの活性抑制は関与しないことが示唆された。
【0055】
実施例3:変異型SOD1タンパク質の、小胞体内構造異常タンパク質蓄積に対する作用
実施例1の結果により変異型SOD1タンパク質を発現させた細胞中では、小胞体ストレスの誘導が確認されたが、本実施例においては、実際に小胞体内腔に異常タンパク質が蓄積するか否かを検討した。
【0056】
NSC34細胞に対して、野生型SOD1タンパク質(SOD1 WT)または3種類の変異型SOD1タンパク質(SOD1 A4V、SOD1 G85R、またはSOD1 G93A)と、小胞体関連分解(endoplasmic reticulum-associated degradation:ERAD)の基質であり、プロテアソームで分解されているα1-アンチトリプシン(α1-AT)の変異体、NHKタンパク質(SEQ ID NO: 4)とを、当該技術分野における常法にしたがって、FuGENE 6トランスフェクション試薬(Roche)を使用したトランスフェクション法により細胞内で一過性過剰発現させた。このNHKは、小胞体内腔に蓄積するタンパク質であることが知られている。
【0057】
NHKタンパク質の発現は、NHKタンパク質をコードする核酸(SEQ ID NO: 3)をpREP9(Invitrogen)ベクター中に組み込んで発現ベクターを作製し、上述のNSC34細胞にSOD1タンパク質の発現ベクターと共にトランスフェクションすることにより行った。発現開始後24時間後に、抗α1-AT抗体(The Binding Site Limited)を用いて、全細胞溶解物を免疫沈降した後ウエスタンブロッテイング(IP-IB)法により処理し、それぞれの細胞内でのNHKタンパク質の蓄積量を測定した。
【0058】
結果を図3に示す。野生型SOD1タンパク質を発現させたNSC34細胞と比較して、変異型SOD1タンパク質を発現させた細胞において、NHKタンパク質の発現量が増加していた。このようなNHKタンパク質の発現量増加は、3種類の変異型SOD1タンパク質(SOD1 A4V、SOD1 G85R、またはSOD1 G93A)の種類には依存しなかった。この結果から、細胞内で変異型SOD1タンパク質を発現することにより、小胞体内で分解されずに残存するNHKタンパク質の蓄積が顕著に増加し、その結果小胞体ストレスが生じることが示唆された。
【0059】
実施例4:変異型SOD1タンパク質の、NHK mRNA合成量に対する影響
細胞内で変異型SOD1タンパク質を発現することにより小胞体内で分解されずに残存するNHKタンパク質の蓄積が顕著に増加するという実施例3において示された結果が、NHK遺伝子の転写過程の亢進によるものか否かを検討するために、本実施例においては、RT-PCR法により細胞内でのNHK遺伝子のmRNA発現量を測定した。
【0060】
NSC34細胞に対して、野生型SOD1タンパク質(SOD1 WT)をコードする遺伝子(SEQ ID NO: 1)または3種類の変異型SOD1タンパク質(SOD1 A4V、SOD1 G85R、またはSOD1 G93A)をコードする遺伝子およびNHK遺伝子(SEQ ID NO: 3)を、当該技術分野における常法にしたがって、FuGENE 6トランスフェクション試薬(Roche)を使用したトランスフェクション法を用いて形質転換し、それぞれのタンパク質の一過性過剰発現を行った。トランスフェクションに使用する発現ベクターは、pCDNA3.0(Invitrogen)のBamHI-XbaIクローニング部位に、使用する核酸(すなわち、野生型SOD1遺伝子(SEQ ID NO: 1)または3種類の変異型SOD1タンパク質遺伝子(SOD1 A4V、SOD1 G85R、またはSOD1 G93A)、またはNHK遺伝子(SEQ ID NO: 3))を挿入することにより作製した。
【0061】
一過性発現の開始後、24時間後に、ISOGENE(ニッポンジーン)を使用してそれぞれの細胞からmRNAを抽出し、これを鋳型として、RT-PCR反応を行った。このRT-PCR反応においては、小胞体ストレス特異的にタンパク質誘導されることが知られている転写因子CHOPをコードする遺伝子の発現量を同時に定量した。また、mRNAの定量コントロールとして、G3PDH遺伝子を使用して発現量を定量した。
【0062】
RT反応は、Superscript II(Roche社)を用いてmRNA(5μg)をcDNAに逆転写した後、そうち1/20量(0.5μl)を含有する200μlチューブに、5μLのPCR反応溶液(MgCl2を含む10×PCRバッファー)に対して、200μMの各dATP、dCTP、dCTPおよびdGTP、50 nMの各フォワードプライマーおよびリバースプライマー、2.5単位のTaq(Promega)を加えることにより、MyCycler(BIO-RAD社)を使用して実行した。なお、G3PDH遺伝子を用いたmRNAの定量コントロールは、5μgのtotal mRNAを使用してRT反応を行うことによって行った。
【0063】
RT反応は42℃で50分のインキュベーションにより行い、その後70℃にて15分間インキュベーションした後、20サイクルの3-ステップPCRプロトコル:94℃にて10秒間(変性)その後60℃にて30秒間(アニーリング)、72℃にて30秒間(伸長)を行った。
【0064】
上述のRT-PCR法において使用した各遺伝子を増幅する際に使用したフォワードプライマーおよびリバースプライマーの配列は、以下の通りである:
NHK遺伝子:
フォワードプライマーT7:5'-taatacgactcactataggg-3'(SEQ ID NO: 19)
リバースプライマーNHKas:5'-taatacgactcactataggggatattggtgctgttggact-3'(SEQ ID NO: 20)
CHOP遺伝子:
フォワードプライマーCHOPs:5’-aaggtctatgaaggtgaacgacccc-3’(SEQ ID NO: 21)
リバースプライマーCHOPas:5’-gaccccaagacatgtgagcaactgc-3’(SEQ ID NO: 22)
G3PDH遺伝子(mRNAの定量コントロール):
フォワードプライマーG3PDH:5’-actactcttgaccctgcgtccctag-3’(SEQ ID NO: 23)
リバースプライマーG3PDHas:5’-catgtgcagtgcagtgcagggtcac-3’(SEQ ID NO: 24)。
【0065】
結果を図4に示す。野生型SOD1タンパク質を発現させたか変異型SOD1タンパク質を発現させたかにかかわらず、細胞内で発現しているNHK遺伝子のmRNA発現量はほぼ一定であった。一方、CHOP遺伝子のmRNAの発現誘導について検討すると、野生型SOD1タンパク質を発現させた細胞内ではわずかしかCHOP遺伝子のmRNAが発現していなかったのに対して、変異型SOD1タンパク質を発現させた細胞内では、CHOP遺伝子のmRNAの発現誘導が認められ、変異型SOD1タンパク質を発現させた細胞内で小胞体ストレスが誘導されていることが確認された。このことから、変異型SOD1タンパク質を発現させた細胞内における、NHKタンパク質の蓄積が増加するという現象が、NHK遺伝子のmRNA転写レベルでの発現量の上昇により生じたものではないことが明らかとなった。
【0066】
実施例5:変異型SOD1タンパク質の、小胞体関連分解(ERAD)抑制に対する作用
変異型SOD1タンパク質を発現させた場合に、小胞体内腔に異常タンパク質が蓄積し、その結果小胞体ストレスが惹起されたこと、さらにその異常タンパク質の小胞体内への蓄積が、mRNA発現量の増加により引き起こされたものでないことから判断して、小胞体内腔に異常タンパク質が蓄積するという現象が、当該異常タンパク質の分解経路が抑制されていることにより引き起こされると考えられる。そこで本実施例においては、小胞体関連分解(ERAD)の基質としてNHKタンパク質を用いて、その分解を経時的に検討した。
【0067】
NSC34細胞に対して、実施例4において作製した発現ベクターを使用して、野生型SOD1タンパク質(SOD1 WT)または3種類の変異型SOD1タンパク質(SOD1 A4V、SOD1 G85R、またはSOD1 G93A)をコードする遺伝子と、NHK遺伝子とを、当該技術分野における常法にしたがって、FuGENE 6トランスフェクション試薬(Roche)を使用したトランスフェクション法により形質転換し、それぞれのタンパク質の一過性過剰発現を行った。
【0068】
一過性過剰発現の開始後24時間後に、メタボリックラベルの方法により[35S]メチオニン・システインで30分間タンパク質をアイソトープ標識([35S]Promix:アマシャム社)した後、通常培地(10%血清含有DMEM;ナカライ社)に置換した。0、2、4、および8時間後に細胞を回収し、抗α1-AT抗体を用いてNHKタンパク質を免疫沈降した後、それぞれの細胞内でのNHKタンパク質由来の[35S]を、BASイメージングプレート(富士フイルム社)に感光させ、イメージスキャナーBAS1500(富士フイルム社)を用いて検出することにより、NHKタンパク質の分子量の変化を検出した(図5、上図)。さらに、図5、上図のX線フィルムのバンド濃度を、イメージスキャナーBAS1500および解析ソフトウェアImage Analyzer(富士フイルム社)を用いて定量化することにより、アイソトープ標識されたNHKタンパク質を定量した(図5、下図)。
【0069】
NHKタンパク質は糖鎖修飾をうけるタンパク質であり、ERADの過程において、小胞体内腔から細胞質側に移動することによって脱糖鎖された後に、ユビキチン・プロテアゾーム経路により分解されることが知られている。
【0070】
野生型SOD1タンパク質(SOD1 WT)を発現させた細胞においては、タンパク質を[35S]標識後、2時間後においてNHKタンパク質が下方へバンドシフトすることが認められた(図5、上図)。このことは、野生型SOD1タンパク質(SOD1 WT)を発現させた細胞においては、NHKタンパク質が、2時間の時点で小胞体内腔のNHKタンパク質の一部が小胞体内腔から細胞質側に移動し、そして脱糖鎖されたことを意味している。
【0071】
一方、3種類の変異型SOD1タンパク質を発現させた細胞では、2時間では下方へのシフトが認められず、4〜8時間後に初めてNHKタンパク質が下方へバンドシフトすることが認められた(図5、上図)。このことは、変異型SOD1タンパク質(SOD1 A4V、SOD1 G85R、またはSOD1 G93A)を発現させた細胞においては、2時間以内には小胞体内腔から細胞質側に移動することができず、4時間後の時点では小胞体内腔のNHKタンパク質の一部が小胞体内腔から細胞質側に移動し、そして脱糖鎖されたことを意味している。従って、変異型SOD1タンパク質を発現する細胞中では、野生型SOD1タンパク質を発現する細胞と比較して、NHKタンパク質の小胞体膜貫通が抑制されていると考えられる。
【0072】
さらに、8時間後について比較すると、野生型SOD1タンパク質(SOD1 WT)を発現させた細胞では、NHKタンパク質自体がほとんど認められないのに対して、変異型SOD1タンパク質を発現させた細胞ではいずれも、NHKタンパク質のバンドが確認された。図5下図の、NHKタンパク量を定量化したグラフからも明らかなように、NHKタンパク質のタンパク質分解が遅延していることから、細胞内で変異型SOD1タンパク質が発現することにより、ERADが抑制されることが明らかになった。このERAD抑制が、小胞体ストレス誘導の原因と考えられる。
【0073】
実施例6:in vitroでの変異型SOD1タンパク質とDerlin-1との結合
ERADに関与する分子として、現在までにVCP、Ufd1、Npl4、VIMP、Derlin-1などのタンパク質が報告されている。一方、変異型SOD1タンパク質はその構造変化に伴い、様々なタンパク質との相互作用を持つようになることが知られているが、そのような相互作用が、細胞毒性を示す一要因であると考えられている。そこで、本実施例においては、変異型SOD1タンパク質が小胞体ストレスを誘導する分子メカニズムとして、変異型SOD1タンパク質とERADコンポーネントとの結合が関与すると予想し、その結合を検討した。
【0074】
本実施例においては、ヒスチジンタグを融合した組換え野生型SOD1タンパク質(His-SOD1 WT)または組換え変異型タンパク質(His-SOD1 G93A)をコードする核酸を、発現ベクターpTrcHis(Invitrogen)に挿入し、この発現ベクターを大腸菌BL21(Stratagene)に遺伝子導入した後、1 mM IPTG(Takara社)添加により発現誘導させたタンパク質をNi-NTA-セファロースビーズ(キアゲン社)をキットに添付されている説明書に従って使用して、His-SOD1 WTまたはHis-SOD1 G93Aを用いて精製した。
【0075】
一方、組換えVCP(GenBank Accession No. NM_007126)、Ufd1(GenBank Accession No. NM_005659)、Npl4(GenBank Accession No. NM_017921)、VIMP(GenBank Accession No. AY618665)、またはDerlin-1(SEQ ID NO: 6;GenBank Accession No. NM_024295)をコードする核酸を、発現ベクターpCDNA3.0(Invitrogen)、に挿入し、この発現ベクターをTNTシステム(Promega社)をキットに添付されている説明書に従って使用して、in vitroにて転写/翻訳を行うことにより[35S]メチオニン存在下で作製することにより、[35S]標識したVCP、Ufd1、Npl4、VIMP、またはDerlin-1を調製した。
【0076】
[35S]標識VCP(1μl)、Ufd1(3μl)、Npl4(3μl)、VIMP(10μl)、またはDerlin-1(3μl)と、Ni-NTA-セファロースビーズで精製したHis-SOD1 WT(20μl)またはHis-SOD1 G93A(50μl)とを混合した後、PBS中にて、プルダウン法を行うことにより、His-SOD1 WTまたはHis-SOD1 G93Aと、[35S]標識VCP、Ufd1、Npl4、VIMP、またはDerlin-1との間の結合を調べた。
【0077】
この結果、His-SOD1 WTおよびHis-SOD1 G93Aとも、Derlin-1に対しては結合するが、他のERADに関与する分子であるVCP、Ufd1、Npl4、およびVIMPに対しては結合しないことが示された(図6a)。このことから、変異型SOD1タンパク質は、ERADに関与するDerlin-1と結合することにより、小胞体ストレスを誘導することが示唆された。
【0078】
なお、図6bにおいては、上述の実験においてSOD1タンパク質に混合した[35S]標識VCP、Ufd1、Npl4、VIMP、またはDerlin-1のタンパク質量を[35S]により測定した結果を示している。
【0079】
実施例7:細胞内での変異型SOD1タンパク質とDerlin-1の結合
本実施例においては、実施例6で確認されたDerlin-1とHis-SOD 1G93Aとの結合が、細胞内でも確認されるか否か、さらにDerlin-1がSOD1 G93A以外の変異型SOD1タンパク質にも結合するか否か、をそれぞれ検討した。
【0080】
HAタグを付加したDerlin-1-HA、およびFlagタグを付加した野生型SOD1タンパク質(Flag-SOD1 WT)、または変異型SOD1タンパク質(それぞれFlag-A4V、Flag-G85R、またはFlag-G93A)をコードする核酸をそれぞれpCDNA3.0(Invitrogen)に挿入して発現ベクターを構築し、それぞれのベクターをHEK293細胞(RIKEN)にトランスフェクションすることにより、それぞれのタンパク質を一過性過剰発現させた。細胞内にて産生されたそれぞれのタンパク質を、抗Flag抗体(Sigma社)を用いて免疫沈降(IP:Flag)した後、抗HA抗体(Roche社)を使用してウエスタンブロッテイング(IB:HA)したものを図7上段パネルに示す。対照として、抗Flag抗体にて免疫沈降後ウエスタンブロッテイングしたもの(IP-IB:Flag)を図7中段パネルに、細胞溶解物を抗HA抗体にてウエスタンブロッテイングしたもの(IB:HA)を図7下段パネルに、それぞれ示す。
【0081】
その結果、Derlin-1は、変異型SOD1タンパク質であればいずれのもの(Flag-A4V、Flag-G85R、またはFlag-G93A)に対しても結合したが、野生型SOD1タンパク質(Flag-SOD1 WT)に対してはほとんど結合しなかった。このことから、野生型SOD1タンパク質が変異を起こすことにより、ERADに関与するタンパク質のうち、Derlin-1と結合する、という能力を新たに獲得するに至ることがわかり、SOD1における変異が、機能獲得型の変異であることが示唆された。
【0082】
実施例8:ALSモデルマウス脊髄での、SOD1 G93AとDerlin-1の結合
本実施例においては、実施例6および7で見られた結合が、筋萎縮性側索硬化症(ALS)病態を発症している生体内においても確認されるか否かを、マウスモデル動物を用いて検討した。
【0083】
ヒトSOD1プロモーターの制御下にて、ヒトSOD1(G93A)を過剰発現するSOD1 G93Aトランスジェニックマウスは、The Jackson Laboratoryより購入した。このトランスジェニックマウスは、モデル動物の一つとしてALSの解析に広く用いられているものである。表現型としては生後6〜8ヵ月で後肢の脱力および筋力の低下ならびに筋萎縮を来し、やがて呼吸筋麻痺が原因で呼吸不全により生後8〜10ヵ月で死亡する。また、死亡周辺期では脊髄において運動神経細胞の顕著な(約50%)脱落とともにアストログリオーシスを認める、などの特徴を有していることが知られている。30週齢のSOD1 G93Aトランスジェニックマウスまたは対照としての30週齢の野生型C57BL/6Jマウスより摘出した脊髄を、それぞれ細胞溶解液(150 mM NaCl、5 mM EGTA、1.0% Triton X-100、20 mM Tris(pH 7.5)、12 mM β-グリセロホスフェート、1 mM PMSF、1.5% Aprotinin)により溶解した後、抗SOD1抗体にて免疫沈降(IP)した後、抗Derlin-1抗体(Dr. Tom A. Rapoport教授 Harvard Medical School)を用いてウェスタンブロッティングしたもの(IB:Derlin-1)を図8上段パネルに示す。対照として、抗SOD1抗体にて免疫沈降した後、抗SOD1抗体にてウエスタンブロッテイングしたもの(IB:SOD1)を図8中段パネルに、細胞溶解物を抗Derlin-1抗体にてウエスタンブロッテイングしたもの(IB:Derlin-1)を図8下段パネルに、それぞれ示す。
【0084】
内在性SOD1タンパク質と内在性Derlin-1タンパク質との結合が、野生型マウスでは認められなかったが、SOD1 G93Aトランスジェニックマウスにおいては認められた。従って、変異型SOD1タンパク質を発現しているALS病態を発症した個体においては、変異型SOD1タンパク質とDerlin-1タンパク質とが結合していることが確認された。
【0085】
実施例9:Derlin-1の細胞内発現領域の解析
Derlin-1タンパク質は小胞体に局在していることが知られており、そのアミノ酸配列より、N末端とC末端が細胞質側に存在する4回膜貫通型タンパク質と予想されている。一方、SOD1タンパク質は、主として細胞質中に存在するタンパク質であることから、Derlin-1側のSOD1タンパク質との結合に関して、小胞体膜の細胞質側に存在するDerlin-1の領域のうち、最もアミノ酸配列が長いC末端が結合領域であることが予想された。そこで本実施例においては、C末端を欠失させたDerlin-1(ΔC)(SEQ ID NO: 8)とC末端領域のみのDerlin-1(CT1)(SEQ ID NO: 10)をそれぞれ細胞内で発現させ、細胞内発現領域を明らかにした。
【0086】
pCDNA3.0(Invitrogen)のBamHI-XbaIクローニング部位に、C末端を欠失させたDerlin-1(ΔC)をコードする核酸断片(SEQ ID NO: 7)またはC末端のみのDerlin-1(CT1)をコードする核酸断片(SEQ ID NO: 9)を挿入することにより、哺乳動物細胞発現ベクターを作製した。対照としては、pCDNA3.0のBamHI-XbaIクローニング部位に、野生型Derlin-1タンパク質の全長をコードする核酸断片を挿入した。なお、全てのコンストラクトにC末端HAタグを付加し、またDerlin-1(CT1)は65アミノ酸と短いため、そのN末端に黄色蛍光タンパク質(Venus [YFP変異体]:約36 kDa)を付加した(図9a)。
【0087】
3種類のDerlin-1タンパク質、すなわち、野生型Derlin-1タンパク質(Derlin-1(WT)-HA)、または変異型Derlin-1タンパク質(Derlin-1(ΔC)-HA、YFP-Derlin-1(CT1)-HA)の細胞内発現パターンを、検討した。これらのタンパク質を発現する発現ベクターをHEK293細胞(RIKEN)に一過性過剰発現させ、抗HA抗体にて細胞免疫染色を行い、蛍光顕微鏡(Leica)を使用して検出を行うことにより、細胞内のこれらのタンパク質を検出した。
【0088】
Derlin-1(WT)-HA、Derlin-1(ΔC)-HAはいずれも、核周囲の小胞体と予想される細胞内オルガネラに一致した発現を示し、膜貫通領域を持たないYFP-Derlin-1(CT1)-HAは細胞質内に一様な散在性発現パターンを示した(図9b)。このことから、Derlin-1タンパク質は、小胞体膜に存在する膜タンパク質であることが示唆される。
【0089】
実施例10:変異型Derlin-1と変異型SOD1タンパク質との結合
本実施例においては、野生型または変異型SOD1タンパク質がDerlin-1タンパク質に結合する際の、Derlin-1側の結合領域を決定することを目的として行った。
【0090】
HEK293細胞に対して、実施例9において作製したDerlin-1(ΔC)-HAまたはDerlin-1(CT1)-HAの発現ベクターと、実施例7において作製したSOD1発現ベクターのいずれか(Flag-SOD1 WT、Flag-A4V、Flag-G85R、またはFlag-G93Aのいずれかを発現するもの)とをコトランスフェクションすることにより、Derlin-1(ΔC)-HAまたはDerlin-1(CT1)-HAのいずれかと、Flag-SOD1 WT、Flag-A4V、Flag-G85R、またはFlag-G93Aのいずれかとを、一過性に過剰発現させた。
【0091】
細胞内にて産生されたそれぞれのタンパク質は、実施例7に記載した方法と同様に、抗Flag抗体にて免疫沈降(IP:Flag)後、抗HA抗体にてウエスタンブロッテイング(IB:HA)することにより検出した(図10上段パネル)。対照として、SOD1タンパク質が発現していることを、抗Flag抗体にて免疫沈降後ウエスタンブロッテイングすることにより(IP-IB:Flag;図10中段パネル)、およびDerlin-1(ΔC)-HAおよびDerlin-1(CT1)-HAが発現していることを、細胞溶解物を抗HA抗体にてウエスタンブロッテイングすることにより(IB:HA;図10下段パネル)、それぞれ検出し、コトランスフェクションが成功していることを確認した。
【0092】
この結果、Derlin-1(CT1)-HAは、野生型SOD1タンパク質と比較して、変異型SOD1タンパク質とより強力に結合したが、Derlin-1(ΔC)-HAは野生型SOD1タンパク質とも変異型SOD1タンパク質とも結合が認められなかった。従って、変異型SOD1タンパク質がDerlin-1タンパク質に結合する部位は、少なくともDerlin-1(CT1)の65アミノ酸の領域の中にあることが明らかになった。
【0093】
実施例11:Derlin-1の変異型SOD1タンパク質結合ペプチド領域の決定
本実施例においては、Derlin-1のC末端側領域におけるSOD1タンパク質との結合領域を、さらに詳細に決定するために、図11aに示すようにDerlin-1(CT2)(SEQ ID NO: 12)、Derlin-1(CT3)(SEQ ID NO: 14)、Derlin-1(CT4)(SEQ ID NO: 16)、およびDerlin-1(CT5)(SEQ ID NO: 18)のタンパク質を作成し、これらと変異型SOD1タンパク質との結合を調べた。
【0094】
pCDNA3.0のBamHI-XbaIクローニング部位に、Derlin-1(CT2)をコードする核酸断片(SEQ ID NO: 11)、Derlin-1(CT3)をコードする核酸断片(SEQ ID NO: 13)、Derlin-1(CT4)をコードする核酸断片(SEQ ID NO: 15)、またはDerlin-1(CT5)をコードする核酸断片(SEQ ID NO: 17)を挿入することにより、哺乳動物細胞発現ベクターを作成した。対照としては、pCDNA3.0のBamHI-XbaIクローニング部位に、野生型Derlin-1タンパク質の全長をコードする核酸断片(SEQ ID NO: 5)を挿入した。なお、全てのコンストラクトにC末端HAタグを付加した。またDerlin-1(CT2)、Derlin-1(CT3)、Derlin-1(CT4)、およびDerlin-1(CT5)はそれぞれ、47アミノ酸、22アミノ酸、12アミノ酸、および10アミノ酸と短いため、それぞれのN末端に黄色蛍光タンパク質(Venus [YFP変異体]:約36 kDa)を付加した(図11a)。
【0095】
HEK293細胞に対して、上述したそれぞれの発現ベクター(Venus-Derlin-1(CT2)-HA、Venus-Derlin-1(CT3)-HA、Venus-Derlin-1(CT4)-HA、またはVenus-Derlin-1(CT5)-HAのいずれかを発現するもの)および実施例7において作製したSOD1発現ベクター(Flag-SOD1 WT、Flag-A4V、Flag-G85R、またはFlag-G93Aのいずれかを発現するもの)をコトランスフェクションして、Venus-Derlin-1(CT2)-HA、Venus-Derlin-1(CT3)-HA、Venus-Derlin-1(CT4)-HA、またはVenus-Derlin-1(CT5)-HAのいずれかと、Flag-SOD1 WT、Flag-A4V、Flag-G85R、またはFlag-G93Aのいずれかとを、一過性過剰発現させた。
【0096】
細胞内にて産生されたそれぞれのタンパク質は、実施例7に記載した方法と同様に、抗Flag抗体にて免疫沈降(IP:Flag)後、抗HA抗体にてウエスタンブロッテイング(IB:HA)することにより検出した(図11b、上段パネル)。対照として、SOD1タンパク質が発現していることを、抗Flag抗体にて免疫沈降後ウエスタンブロッテイングすることにより(IP-IB:Flag;図11b、中段パネル)、およびDerlin-1(ΔC)-HAおよびVenus-Derlin-1(CT1)-HAが発現していることを、細胞溶解物を抗HA抗体にてウエスタンブロッテイングすることにより(IB:HA;図11b、下段パネル)、それぞれ検出し、コトランスフェクションが成功していることを確認した。
【0097】
この結果、Venus-Derlin-1(CT5)-HAと変異型SOD1タンパク質とのあいだでは結合が認められなかったが、Venus-Derlin-1(CT2)-HA、Venus-Derlin-1(CT3)-HA、およびVenus-Derlin-1(CT4)-HAは、変異型SOD1タンパク質と結合した(図11b、上段パネル)。Derlin-1(CT2)、Derlin-1(CT3)、およびDerlin-1(CT4)に共通するアミノ酸配列は、Derlin-1(CT4)のアミノ酸配列であることから、結合領域は、少なくともCT4領域(12アミノ酸:FLYRWLPSRRGG;SEQ ID NO: 16)であることがわかった。
【0098】
実施例12:Derlin-1(CT4)によるERAD抑制回避
Derlin-1がCT4ペプチド領域(12アミノ酸)を介して変異型SOD1タンパク質に特異的に結合したことから、この結合がALS病態発症の分子メカニズムの一つであると考えられる。そこで、本実施例においては、Derlin-1(CT4)を発現させることによって、変異型SOD1タンパク質依存的な細胞障害機能を抑制できるか否かを検討した。
【0099】
実施例3(図3)において、細胞内で変異型SOD1タンパク質を発現することにより、小胞体内で分解されずに残存するNHKの蓄積が顕著に増加することが明らかになったことから、小胞体内のNHKの蓄積に対して、Derlin-1(CT4)、Derlin-1(CT5)が影響するか否かを検討した。
【0100】
NSC34細胞に対して、実施例7において作製した野生型SOD1タンパク質(SOD1 WT)または変異型SOD1タンパク質(SOD1 G93A)を発現するベクターのいずれか、実施例11において作製したVenus-Derlin-1(CT4)-HA発現ベクター、またはVenus-Derlin-1(CT5)-HA発現ベクターのいずれか、および実施例3において作製したNHKタンパク質発現ベクターとを、当該技術分野における常法にしたがって、FuGENE 6トランスフェクション試薬(Roche)を使用したトランスフェクション法により細胞内で一過性過剰発現させた。発現開始後24時間後に、抗α1-AT抗体(The Binding Site Ltd.)を用いて、全細胞溶解物を免疫沈降(IP)した後、ウエスタンブロッテイング(IB)法により処理し、それぞれの細胞内でのNHKタンパク質の蓄積量を測定した(図12、IB:α1AT)。
【0101】
結果を図12に示す。変異型SOD1タンパク質(SOD1 G93A)の発現によって小胞体内に蓄積したNHKタンパク質が、Derlin-1(CT4)を発現させることにより抑制されていた。これに対して、このような発現量の減少は、変異型SOD1タンパク質に結合しないDerlin-1(CT5)によっては見られなかった。従って、この結果から、細胞質内にDerlin-1(CT4)を存在させることにより、Derlin-1(CT4)が変異型SOD1タンパク質に結合することによって、Derlin-1の機能阻害を回避でき、結果として小胞体内に蓄積する異常タンパク質蓄積を回避できることが示された。
【0102】
実施例13:変異型SOD1タンパク質によるASK1の活性化
これまでの我々の報告により、小胞体ストレスによって細胞内に伝達されるシグナル経路として、ストレス応答性MAPキナーゼ経路の一つASK1が活性化されることが明らかとなっている(Nishitoh et al. Genes Dev. 2002 16(11): 1345-1355)。そこで本実施例においては、細胞内で変異型SOD1タンパク質が発現したとき、その小胞体ストレスのシグナルがどのような経路で細胞内を伝達されるかを検討した。
【0103】
NSC34細胞に対して、実施例1で作製した野生型SOD1タンパク質(SOD1 WT;SEQ ID NO: 2)、または3種類の変異型SOD1タンパク質(SOD1 A4V、SOD1 G85R、またはSOD1 G93A)を発現する様にそれぞれの遺伝子で形質転換したアデノウィルスを感染させ、細胞内でそれぞれのSOD1タンパク質を発現させた。
【0104】
アデノウィルス感染後48時間後に、ASK1の活性化を、[32P]ATP(アマシャム)を用いたin vitro キナーゼアッセイ(IVK)の方法により検討した。具体的には、NSC34細胞を細胞溶解液(150 mM NaCl、5 mM EGTA、1.0% Triton X-100、20 mM Tris (pH 7.5)、12 mM β-グリセロホスフェート、1 mM PMSF、1.5% Aprotinin)により溶解した後、抗ASK1抗体(一條教授(東京大学)より分譲を受けた:Saitoh et al. EMBO J. 1998 17(9): 2596-2606)にて免疫沈降(IP)した後、GST-MKK6(キナーゼ不活性変異型)(GST-MKK6KN)を基質として[32P]ATPによるリン酸化反応を行った。
【0105】
タンパク質が取り込んだ[32P]ATPは、BASイメージングプレート(富士フイルム社)に感光させることにより、イメージスキャナーBAS1500(富士フイルム社)を用いてASK1及びGST-MKK6KNのリン酸化の変化を検出した(図13、IVKを参照)。野生型SOD1タンパク質(SOD1 WT)、または3種類の変異型SOD1タンパク質(SOD1 A4V、SOD1 G85R、またはSOD1 G93A)を発現する様に形質転換したアデノウィルスにより感染された細胞内では、それぞれのSOD1タンパク質が発現していた(図13、IB:SOD1を参照)。
【0106】
図13、IVKの上段は、ASK1の自己リン酸化を、図13、IVKの下段はGST-MKK6KNのリン酸化をしめしており、いずれも変異型SOD1タンパク質(SOD1 A4V、SOD1 G85R、またはSOD1 G93A)によってリン酸化の上昇、すなわちASK1の活性化が認められる。
【0107】
実施例14:変異型SOD1タンパク質によるTRAF2-ASK1の結合
これまでに、小胞体ストレスのシグナルにおいてASK1が活性化される際には、小胞体受容体IRE1とアダプター分子TRAF2とASK1の複合体形成が起こることが示されている(Nishitoh et al. Genes Dev. 2002 16(11): 1345-1355)。そこで、変異型SOD1タンパク質によって起こるASK1の活性化が、小胞体ストレスを介しているか否かを検討するために、細胞内在性ASK1と細胞内在性TRAF2の結合について検討した。
【0108】
実施例13と同様に、NSC34細胞に対して、野生型SOD1タンパク質(SOD1 WT;SEQ ID NO: 2)、または3種類の変異型SOD1タンパク質(SOD1 A4V、SOD1 G85R、またはSOD1 G93A)を発現する様にそれぞれの遺伝子で形質転換したアデノウィルスを感染させ、細胞内でそれぞれのSOD1タンパク質を発現させた。これらの細胞溶解液を抗TRAF2抗体(図14中、「IP:T2」と表示)(キアゲンにて作製)または免疫前ウサギ血清(図14中、IP:C」と表示)にて免疫沈降後、抗ASK1抗体にてウエスタンブロッテイングを行った(図14上段中、「IB-ASK1」と表示)。
【0109】
各細胞溶解液サンプルにおけるタンパク質の発現量を検討するため、ASK1については抗ASK1抗体にて免疫沈降後ウエスタンブロッテイング法により(図14下段中、「IP-IB:ASK1」と表示)、TRAF2、SOD1については各細胞溶解液サンプルを抗TRAF2(キアゲンにて作製)、抗SOD1抗体(Stressgen)にてウエスタンブロッティングすることにより(図14下段中、それぞれ、「IB:TRAF2」、および「IB:SOD1」と表示)、検討した。
【0110】
その結果、変異型SOD1タンパク質(SOD1 A4V、SOD1 G85R、またはSOD1 G93A)を発現した細胞においてのみ、ASK1とTRAF2の結合が確認された。従って、変異型SOD1タンパク質を発現させることによって小胞体ストレスが誘導され(実施例1を参照)、TRAF2とASK1が結合し、その結果ASK1が活性化されたことが示唆された。
【0111】
実施例15:変異型SOD1タンパク質の過剰発現によって惹起される細胞死における、ASK1の必要性
実施例14において変異型SOD1タンパク質の発現によってASK1が活性化されることが明らかになったことから、本実施例においては、変異型SOD1タンパク質による細胞死において、ASK1が必要な分子として機能しているか否かを、野生型(ASK1+/+)マウス由来の運動神経細胞とASK1ノックアウト(ASK1-/-)マウス由来の運動神経細胞を用い、その比較により調べた。
【0112】
C57BL/6マウスの妊娠12.5日後の胎仔より脊髄を摘出し、0.05%トリプシン溶液中で37℃、15分間静置することにより、運動神経細胞を単離した。単離した細胞を0.1%ポリエチレンイミン(Sigma)でコートした培養ディッシュに播種し、DMEM/F12Ham(10% FBS、1% G5-サプリメント)中で1時間培養した後、アデノウイルスを20〜600 MOIで感染させ、7倍量のDMEM/F12Ham(2%ウマ血清、10μg/ml BSA、10μg/mlインスリン、26 ng/ml亜セレン酸ナトリウム、20 ng/ml T3、100μg/ml コンアルブミン、20μg/mlヒドロコルチゾン、13 ng/mlプロゲステロン、100 pg/ml BDNF、10 ng/ml CNTF、100 pg/ml NT-3、100 U/mlペニシリン/ストレプトマイシン)をさらに加えて一晩培養した。
【0113】
翌日、アデノウイルスを除き培地交換を行いDMEM/F12Ham(2%ウマ血清、10μg/ml BSA、10μg/mlインスリン、26 ng/ml亜セレン酸ナトリウム、20 ng/ml T3、100μg/ml コンアルブミン、20μg/mlヒドロコルチゾン、13 ng/mlプロゲステロン、100 pg/ml BDNF、10 ng/ml CNTF、100 pg/ml NT-3、100 U/mlペニシリン/ストレプトマイシン)中で培養し実験に用いた。細胞生存率はCell Counting Kit-8(Dojindo)を用いてMTT法により測定した。
【0114】
運動神経細胞を8×105cells/wellで24ウェルプレートに播種し、組み換えアデノウイルスを感染させてから7日後に培養液にCell Counting Kit-8を加えて37℃、5%CO2中3時間インキュベートした後、450 nmにおける吸光度を測定した。測定はduplicateで行い、LacZ感染群を1としLacZ感染群との比較において、細胞生存率を算出した(図15、上段グラフ)。このとき、ASK1+/+マウス由来の細胞とASK1-/-マウス由来の細胞とで各種SOD1の発現量に差がないことをウエスタンブロッティングにより確認した(図15中、「IB:SOD1」と表示)。
【0115】
ASK1-/-マウス由来の細胞においては、ASK1+/+マウス由来の細胞で観察されるアデノウイルス感染より7日後にみられるいずれの変異型SOD1タンパク質による細胞死も抑制され、細胞生存率が上昇していた。したがって、いずれの変異型SOD1タンパク質によって引き起こされる細胞死においても、細胞死のシグナル伝達の過程において、ASK1が必要な分子として関与していることが示された。
【0116】
実施例16:Derlin-1(CT4)による小胞体ストレス誘導回避とASK1活性化抑制
細胞質内にDerlin-1(CT4)を存在させて、Derlin-1(CT4)が変異型SOD1タンパク質に結合することによって、小胞体膜状の内在性Derlin-1の機能阻害を回避でき、結果として小胞体内に蓄積する異常タンパク質の蓄積を回避できたことから(実施例12)、さらにDerlin-1(CT4)が変異型SOD1タンパク質(SOD1 G93A)依存的なIRE1(小胞体ストレス受容体)の活性化(実施例1)、ならびにその下流で起こるASK1の活性化(実施例13)を回避できるか否かを検討した。
【0117】
NSC34細胞に対して、野生型SOD1タンパク質(SOD1 WT;SEQ ID NO: 2)、または変異型SOD1タンパク質(SOD1 G93A)を発現する様にそれぞれの遺伝子(野生型SOD1タンパク質をコードする核酸をSEQ ID NO: 1として示す)で形質転換したアデノウィルスと、Venus-Derlin-1(CT4)-HAまたはVenus-HAを発現する様にそれぞれの遺伝子で形質転換したアデノウィルスとを共感染させ、細胞内でそれぞれのSOD1タンパク質と、Venus-Derlin-1(CT4)-HAまたは陰性対照としてのVenus-HAとを発現させた。
【0118】
アデノウィルス感染後48時間後に、ASK1の活性化を、[32P]ATP(アマシャム)を用いたin vitroキナーゼアッセイ(図16中においては、IVKと示す)の方法により検討した。具体的には、NSC34細胞を細胞溶解液(150 mM NaCl、5 mM EGTA、1.0% Triton X-100、20 mM Tris(pH 7.5)、12 mM β-グリセロホスフェート、1 mM PMSF、1.5% Aprotinin)により溶解してから抗ASK1抗体にて免疫沈降(IP)した後、GST-MKK6(キナーゼ不活性変異型)(GST-MKK6KN)を基質として[32P]ATPによるリン酸化反応を行った。
【0119】
タンパク質が取り込んだ[32P]ATPは、BASイメージングプレート(富士フイルム社)に感光させた後、イメージスキャナーBAS1500(富士フイルム社)を用いてASK1およびGST-MKK6KNのリン酸化の変化を検出した(図16、IVKを参照)。
【0120】
また、IRE1の活性化については、アデノウィルス感染後48時間後に、抗IRE1抗体を使用する免疫沈降後ウエスタンブロッテイング(IP-IB)法にて(図16中においては、IP-IB:IRE1と示す)検討した。野生型または変異型SOD1(SOD1 G93A)タンパク質の発現を確認するため、抗SOD1抗体を使用して、ウェスタンブロッティング法にて検出を行った(図16中においては、IB:SOD1と示す)。
【0121】
図16、IVKの上段は、ASK1の自己リン酸化とGST-MKK6KNのリン酸化、すなわちASK1の活性化を示し(*は非特異的タンパク質のリン酸化バンド)、また図16、中段はIRE1のリン酸化に伴うバンドの上方へのシフトアップすなわち活性化を示している。ASK1とIRE1のいずれも変異型SOD1タンパク質(SOD1 G93A)によるリン酸化の増加、すなわち活性化がDerlin-1(CT4)によって抑制されているのが認められる。
【0122】
これに対して、このような活性化の抑制は、変異型SOD1タンパク質に結合しない陰性対照(Venus-HA)の発現(図16中においては、Cont.と示す)によっては見られなかった。従って、この結果から、細胞質内にDerlin-1(CT4)を存在させることにより、Derlin-1(CT4)が変異型SOD1タンパク質に結合することによって、Derlin-1の機能阻害を回避でき、結果として小胞体ストレス誘導、それに伴うASK1の活性化を回避できることが示された。
【0123】
実施例17:変異型SOD1タンパク質(G93A)トランスジェニックマウスとASK1-/-マウスの交配実験
実施例15において細胞レベルにおいては変異型SOD1タンパク質依存的神経細胞死にASK1が必要な分子として関与していることが明らかになったことから、本実施例においては、次に、細胞レベルでのこのASK1の関与が、個体レベルでの変異型SOD1タンパク質によるALS病態進行ならびに神経細胞死にどのように反映されるかを検討し、SOD1(G93A)トランスジェニックマウスの病態進行におけるASK1の役割を調べ、ALSにおけるASK1の役割を明らかにすることを目的として、SOD1(G93A)トランスジェニックマウスとASK1-/-マウスの交配実験を行い、個体生存率について観察を行った。
【0124】
ASK1ノックアウト(ASK1-/-)マウスは当研究室で以前に作製したものを用いた(Tobiume et al. EMBO Rep. 2001 2(3):222-8)。
個体生存率は死亡した週齡により決定した。ASK1-/-マウスと交配したマウス(20匹)(図中、「G93A・ASK1-/-」と表示)では、ASK1+/+マウスと交配したマウス(20匹)(図中、「G93A」と表示)と比較して、SOD1(G93A)トランスジェニックマウスの寿命を延長する効果がみられ、個体生存率が上昇することが明らかになった(図17)。この結果から、個体レベルで変異型SOD1タンパク質によって惹起されるALSの病態進行において、個体生存率という観点からはASK1が大きな役割を果たしていることが示唆された。
【0125】
実施例18:G93Aトランスジェニックマウスにおける運動神経細胞の生存に対する、ASK1の必要性
ALS発症と病態進行は運動神経細胞の変性・脱落が原因であることが報告されていることから、さらに個体レベルで実際に病態発症前後の脊髄組織内で起こっている神経細胞死に対するASK1の役割についても検討した。病態発症時期である生後30週と発症後個体が死亡し始める時期である34週において、SOD1(G93A) ・ASK1+/+マウスおよびSOD1(G93A) ・ASK1-/-マウスの腰部脊髄切片を作製しニッスル染色を行い(図18)、脊髄前角部の運動神経細胞数を計測した(図19)。
【0126】
ニッスル染色法:マウスを4%パラホルムアルデヒドにて還流固定した後、脊髄を摘出してさらに1日間4%パラホルムアルデヒド(PBS中)により固定し、パラフィンに包埋して14μmの切片を作製した。脱パラフィン後、クレシル・バイオレットを用いてニッスル染色を行った。
【0127】
G93Aトランスジェニックマウスの個体死が観察され始める34週齡(実施例17を参照)における脊髄切片像を比較すると、前角部全体における野生型(WT)マウスでみられる矢頭で示すような、ニッスル染色陽性で突起を有する細胞体の大きな運動神経細胞が、G93Aマウスでは大きく減少していたのに対し、G93A・ASK1-/-マウスではG93Aマウスでみられた運動神経細胞の減少が有意に抑制されていた(図18)。したがって、G93Aトランスジェニックマウスの病態進行時にみられる脊髄組織内の運動神経細胞死において、ASK1が重要な分子として機能していることが明らかになった。
【0128】
また、組織切片中で30週齢および34週齢の各マウス脊髄前角部の運動神経細胞数を計測した。各マウスにつき、5匹ずつからサンプルを採取し、上述したようにニッスル染色した後、顕微鏡下でニッスル染色陽性で突起を有する細胞体の大きな運動神経細胞の数を測定した。結果を5匹ずつのサンプルから得られた運動神経細胞の数の平均値±標準誤差で示した。検定はStudent's t-testを用いて行い、p<0.05の場合に差が有意であると判断した。
【0129】
G93Aトランスジェニックマウスにおいては、30週齢から34週齢にかけて、急速に運動神経の数が減少していることが示され、その運動神経数の減少が、G93AトランスジェニックマウスとASK1-/-マウスとの交配により有意に抑制された(*は差が有意であることを示す;p<0.05)こともまた、数値的に示された(図19)。
【0130】
実施例19:Derlin-1とポリグルタミンの相互作用
本実施例は、変異型SOD1タンパク質とDerlin-1とのあいだで明らかになった関係が、他のコンフォメーション病の原因タンパク質とDerlin-1とのあいだでも同様に成り立つか否かを明らかにすることを目的として、ポリグルタミン病の原因タンパク質であるポリグルタミンとDerlin-1とのあいだの結合を調べた。
【0131】
本実施例においては、Q79タンパク質(グルタミンが79個連続したポリペプチド:病態を発症するポリグルタミンタンパク質)またはQ35タンパク質(グルタミンが35個連続したポリペプチド:病態を発症しないポリグルタミンタンパク質)が、Derlin-1(CT1)タンパク質またはDerlin-1(CT4)タンパク質に結合するか否かを決定することを目的として行った。pCDNA3.0(Invitrogen)のBamHI-XbaIクローニング部位に、N末端にFlagタグを付加させたQ79タンパク質またはQ35タンパク質をコードする核酸断片(すなわち、CAGが79回または35回繰り返された核酸断片)を挿入することにより、哺乳動物細胞発現ベクターを作製した。このベクターをpolyQ発現ベクターと呼ぶ。
【0132】
HEK293細胞に対して、Derlin-1(CT1)-HA、Derlin-1(CT4)-HAまたはDerlin-1(CT5)-HAの発現ベクターと、polyQ発現ベクターのいずれか(Flag-Q79タンパク質またはFlag-Q35タンパク質を発現するもの)とをコトランスフェクションすることにより、Derlin-1(CT1)-HA、Derlin-1(CT4)-HAまたはDerlin-1(CT5)-HAと、Flag-Q79タンパク質またはFlag-Q35タンパク質とを、一過性に過剰発現させた。
【0133】
細胞内にて産生されたそれぞれのタンパク質は、実施例7に記載した方法と同様に、抗Flag抗体を用いて免疫沈降(IP:Flag)後、抗HA抗体を使用してウエスタンブロッテイング(IB:HA)することにより検出した(図20a)およびb)上段パネル)。対照として、細胞溶解物を抗HA抗体にてウエスタンブロッテイングすることにより、細胞内でDerlin-1(CT1)-HA、Derlin-1(CT4)-HAまたはDerlin-1(CT5)-HAが発現していることを検出し(溶解物 IB:HA;図20a)およびb)下段パネル)、コトランスフェクションが成功していることを確認した。
【0134】
この結果、Derlin-1(CT1)-HAおよびDerlin-1(CT4)-HAは、Q79タンパク質に対してより強く結合することが認められた。従って、Q79タンパク質は、変異型SOD1タンパク質と同様に、Derlin-1(CT1)領域およびDerlin-1(CT4)領域に結合することが明らかになった。また、このような結合はDerlin-1(CT5)-HAでは見られなかった(図20b)。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明の12アミノ酸からなるDerlin-1(CT4)タンパク質またはそれを含むタンパク質を、ALSやポリグルタミン病など、コンフォメーション病と呼ばれる疾患の患者の神経細胞内に異常蓄積するタンパク質を除去するために使用することができる。より具体的には、本発明の12アミノ酸からなるDerlin-1(CT4)タンパク質またはそれを含むタンパク質をコンフォメーション病の患者の神経細胞内に投与することにより、小胞体ストレスを解消し、結果としてコンフォメーション病の患者を治療することができる。また、この12アミノ酸と立体構造上似た化合物を探索することにより、またはDerlin-1(CT4)と同等またはそれ以上の生物学的作用を有する化合物を探索することにより、コンフォメーション病の患者を治療するためのその他の化合物をスクリーニングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】図1は、変異型SOD1タンパク質の細胞内発現が、小胞体膜に存在するセリン・スレオニンキナーゼ型小胞体ストレス受容体IRE1およびPERKを活性化することを示す。
【図2】図2は、野生型SOD1タンパク質または変異型SOD1タンパク質を発現させた細胞のいずれの細胞においても、SOD1タンパク質によるプロテアゾーム活性の抑制は認められないことを示す。
【図3】図3は、野生型SOD1タンパク質を発現させたNSC34細胞と比較して、変異型SOD1タンパク質を発現させた細胞において、NHKタンパク質の発現量が増加し、この発現量増加が、変異型SOD1タンパク質の種類には依存しないことを示す。
【図4】図4は、変異型SOD1タンパク質を発現させた細胞内で小胞体ストレスが誘導されていることを示す。
【図5】図5は、変異型SOD1タンパク質を発現する細胞中では、野生型SOD1タンパク質を発現する細胞と比較して、NHKタンパク質の小胞体膜貫通が抑制されていることを示す。
【図6】図6は、変異型SOD1タンパク質が、ERADに関与するタンパク質のうち、Derlin-1と結合することにより、小胞体ストレスを誘導することを示す。
【図7】図7は、野生型SOD1タンパク質が変異を起こすことにより、ERADに関与するタンパク質Derlin-1と結合する、という能力を新たに獲得することを示す。
【図8】図8は、変異型SOD1タンパク質を発現しているALS病態を発症した個体においては、変異型SOD1タンパク質とDerlin-1タンパク質とが結合していることを示す。
【図9】図9は、Derlin-1およびその改変体の構造(図9a)ならびにDerlin-1の細胞内局在を示す。
【図10】図10は、変異型SOD1タンパク質がDerlin-1タンパク質に結合する部位は、少なくともDerlin-1(CT1)の65アミノ酸の領域の中にあることを示す。
【図11】図11は、Derlin-1およびその改変体の構造(図11a)ならびにDerlin-1上の変異型SOD1タンパク質との結合領域は、少なくとも12アミノ酸からなるCT4領域であることを示す。
【図12】図12は、変異型SOD1タンパク質の発現によって小胞体内に蓄積したNHKタンパク質が、Derlin-1(CT4)を発現させることにより抑制されることを示す。
【図13】図13は、変異型SOD1タンパク質の発現によってASK1が活性化されることを示す。
【図14】図14は、変異型SOD1タンパク質の発現によってTRAF2とASK1が細胞内在性に結合することを示す。
【図15】図15は、変異型SOD1タンパク質の発現によっておこる運動神経細胞死に、ASK1が重要な役割を持つことを示す。
【図16】図16は、変異型SOD1タンパク質(SOD1 G93A)の発現による小胞体ストレス誘導とASK1活性化が、Derlin-1(CT4)を発現させることにより抑制されることを示す。
【図17】図17は、G93AトランスジェニックマウスをASK1ノックアウトマウス(ASK-/-マウス)と交配することにより、G93Aトランスジェニックマウスにおける生存日数が延長されることを示す。
【図18】図18は、G93AトランスジェニックマウスをASK1ノックアウトマウス(ASK-/-マウス)と交配することにより、G93Aトランスジェニックマウスで認められる運動神経細胞死が抑制されることを示す。
【図19】図19は、図18で見られた運動神経細胞数を数えた結果を示す。結果は平均値±標準誤差で示した。検定はStudent's t-testを用いて行った。
【図20】図20a)およびb)は、Q79タンパク質が、変異型SOD1タンパク質と同様に、Derlin-1(CT1)領域およびDerlin-1(CT4)領域に結合すること、そしてDerlin-1(CT1)-HAおよびDerlin-1(CT4)-HAが、Q35タンパク質よりもQ79タンパク質に対してより強く結合すること、その一方でDerlin-1(CT5)-HAはPolyQには結合しないことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内のコンフォメーション病の原因タンパク質と結合して、当該タンパク質の病原性作用を不活性化する、FLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列を含むポリペプチド。
【請求項2】
前記ポリペプチドが、Derlin-1(CT1)(SEQ ID NO: 10)またはその部分ペプチドであって、Derlin-1(CT4)(SEQ ID NO: 16)の配列を含む、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
前記ポリペプチドが、Derlin-1(CT1)(SEQ ID NO: 10)、Derlin-1(CT2)(SEQ ID NO: 12)、Derlin-1(CT3)(SEQ ID NO: 14)、およびDerlin-1(CT4)(SEQ ID NO: 16)からなる群から選択される、請求項2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
コンフォメーション病が、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ポリグルタミン病、アルツハイマー病、パーキンソン病、およびプリオン病からなる群から選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項5】
コンフォメーション病の原因タンパク質が、ALSの原因タンパク質である変異型SOD1タンパク質、ポリグルタミン病の原因タンパク質であるポリグルタミン、アルツハイマー病の原因タンパク質であるアミロイドβタンパク質またはTauタンパク質、パーキンソン病の原因タンパク質であるαシヌクレイン、およびプリオン病の原因タンパク質である異常プリオンタンパク質からなる群から選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項6】
コンフォメーション病の原因タンパク質が、ALSの原因タンパク質である変異型SOD1タンパク質、またはポリグルタミン病の原因タンパク質であるポリグルタミンである、請求項5に記載のポリペプチド。
【請求項7】
FLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列を含む、細胞内のコンフォメーション病の原因タンパク質の病原性作用を不活性化するポリペプチドをコードする核酸。
【請求項8】
前記ポリペプチドが、Derlin-1(CT1)(SEQ ID NO: 10)またはその部分ペプチドであって、Derlin-1(CT4)(SEQ ID NO: 16)、請求項7に記載の核酸。
【請求項9】
前記ポリペプチドが、Derlin-1(CT1)(SEQ ID NO: 10)、Derlin-1(CT2)(SEQ ID NO: 12)、Derlin-1(CT3)(SEQ ID NO: 14)、およびDerlin-1(CT4)(SEQ ID NO: 16)からなる群から選択される、請求項8に記載の核酸。
【請求項10】
tttttgtacc gctggctgcc cagtaggaga ggagga(SEQ ID NO: 15)のヌクレオチド配列またはこの配列と縮重の関係にあるヌクレオチド配列を含む、請求項7〜9のいずれか1項に記載の核酸。
【請求項11】
前記核酸が、Derlin-1(CT1)をコードする核酸(SEQ ID NO: 9)、Derlin-1(CT2)をコードする核酸(SEQ ID NO: 11)、Derlin-1(CT3)をコードする核酸(SEQ ID NO: 13)、およびDerlin-1(CT4)をコードする核酸(SEQ ID NO: 15)、またはこの配列と縮重の関係にあるヌクレオチド配列を有する核酸からなる群から選択される、請求項10に記載の核酸。
【請求項12】
請求項7〜11のいずれか1項に記載の核酸を発現可能に含有する、組換え発現ベクター。
【請求項13】
FLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列を含むポリペプチドを細胞内で発現するための、請求項12に記載の組換え発現ベクター。
【請求項14】
遺伝子治療用である、請求項12または13に記載の組換え発現ベクター。
【請求項15】
請求項7〜11のいずれか1項に記載の核酸を発現可能に含有する、組換えウィルス。
【請求項16】
FLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列を含むポリペプチドを細胞内で発現するための、請求項15に記載の組換えウィルス。
【請求項17】
ウィルスが、アデノウィルス、アデノ随伴ウィルス、レンチウィルス、レトロウィルス、からなる群から選択される、請求項15または16に記載の組換えウィルス。
【請求項18】
遺伝子治療用である、請求項15〜17のいずれか1項に記載の組換えウィルス。
【請求項19】
FLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列を含むポリペプチドを含む、細胞内のコンフォメーション病の原因タンパク質不活性化剤。
【請求項20】
前記ポリペプチドが、Derlin-1(CT1)(SEQ ID NO: 10)またはその部分ペプチドであって、Derlin-1(CT4)(SEQ ID NO: 16)の配列を含む、請求項19に記載の不活性化剤。
【請求項21】
前記ポリペプチドが、Derlin-1(CT1)(SEQ ID NO: 10)、Derlin-1(CT2)(SEQ ID NO: 12)、Derlin-1(CT3)(SEQ ID NO: 14)、およびDerlin-1(CT4)(SEQ ID NO: 16)からなる群から選択される、請求項20に記載の不活性化剤。
【請求項22】
コンフォメーション病が、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ポリグルタミン病、アルツハイマー病、パーキンソン病、およびプリオン病からなる群から選択される、請求項19〜21のいずれか1項に記載の不活性化剤。
【請求項23】
コンフォメーション病の原因タンパク質が、ALSの原因タンパク質である変異型SOD1タンパク質、ポリグルタミン病の原因タンパク質であるポリグルタミン、アルツハイマー病の原因タンパク質であるアミロイドβタンパク質またはTauタンパク質、パーキンソン病の原因タンパク質であるαシヌクレイン、およびプリオン病の原因タンパク質である異常プリオンタンパク質からなる群から選択される、請求項19〜23のいずれか1項に記載の不活性化剤。
【請求項24】
コンフォメーション病の原因タンパク質が、ALSの原因タンパク質である変異型SOD1タンパク質、またはポリグルタミン病の原因タンパク質であるポリグルタミンである、請求項23に記載の不活性化剤。
【請求項25】
FLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列を含むポリペプチドまたは当該ポリペプチドを細胞内で発現するための構築物を含む、コンフォメーション病を治療するための医薬組成物。
【請求項26】
前記構築物が、FLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列を含むポリペプチドを細胞内で発現させるための組換え発現ベクターまたは組換えウィルスである、請求項25に記載のコンフォメーション病を治療するための医薬組成物。
【請求項27】
前記ポリペプチドが、Derlin-1(CT1)(SEQ ID NO: 10)またはその部分ペプチドであって、Derlin-1(CT4)(SEQ ID NO: 16)の配列を含む、請求項25または26に記載の不活性化剤。
【請求項28】
前記ポリペプチドが、Derlin-1(SEQ ID NO: 6)、Derlin-1(CT1)(SEQ ID NO: 10)、Derlin-1(CT2)(SEQ ID NO: 12)、Derlin-1(CT3)(SEQ ID NO: 14)、およびDerlin-1(CT4)(SEQ ID NO: 16)からなる群から選択される、請求項25〜27のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項29】
コンフォメーション病が、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ポリグルタミン病、アルツハイマー病、パーキンソン病、およびプリオン病からなる群から選択される、請求項25〜28のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項30】
(i)コンフォメーション病の原因タンパク質と被検化合物とのあいだで生じる結合を測定する工程;
(ii)コンフォメーション病の原因タンパク質とDerlin-1(CT1)(SEQ ID NO: 10)またはその部分ペプチドであって、FLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列を含むポリペプチドとのあいだで生じる結合を測定する工程;
(iii)工程(i)において被検化合物について得られた結果を、工程(ii)において前記ポリペプチドについて得られた結果と比較する工程;
(iv)前記原因タンパク質と前記ポリペプチドとのあいだで生じる結合と同等かそれ以上の結合が、細胞質内で前記原因タンパク質と被検化合物とのあいだで生じている場合、被検化合物を、コンフォメーション病の原因タンパク質の病原性作用を不活性化する能力を有する化合物であるとして選択する工程;
を含む、コンフォメーション病の原因タンパク質と結合して、当該タンパク質の病原性作用を不活性化する能力を有する化合物をスクリーニングする方法。
【請求項31】
(i)コンフォメーション病の原因タンパク質を発現する細胞の細胞質に対して被検化合物を投与し、細胞内で生じる小胞体ストレスのマーカー(例えば、小胞体膜に存在するセリン・スレオニンキナーゼ型小胞体ストレス受容体IRE1およびPERKのリン酸化または転写因子CHOP(C/EBP homologous protein 10)のタンパク質発現レベル)の変化を測定する工程;
(ii)コンフォメーション病の原因タンパク質を発現する細胞にDerlin-1(CT1)(SEQ ID NO: 10)またはその部分ペプチドであって、FLYRWLPSRRGG(SEQ ID NO: 16)のアミノ酸配列を含むポリペプチドを発現させ、細胞内で生じる小胞体ストレスのマーカーの変化を測定する工程;
(iii)工程(i)において被検化合物について得られた結果を、工程(ii)において前記ポリペプチドについて得られた結果と比較する工程;
(iv)被検化合物が、前記ポリペプチドにより生じるIRE1およびPERKのリン酸化の低下またはCHOPタンパク質の発現量の低下と同等またはそれを超える作用を有する場合、被検化合物を、コンフォメーション病の原因タンパク質の病原性作用を不活性化する能力を有する化合物であるとして選択する工程;
を含む、コンフォメーション病の原因タンパク質の病原性作用を不活性化する能力を有する化合物をスクリーニングする方法。

【図17】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2007−151478(P2007−151478A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−352454(P2005−352454)
【出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】