説明

神経変性疾患の治療方法

本発明は、IGF-1シグナル伝達経路の活性を低下させる薬剤を患者に投与することを含む、アルツハイマー病に苦しむ患者の治療方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2008年12月23日に出願された米国特許仮出願第61/140,469号の恩典を主張する。上記出願の全教示は参照により本明細書に援用される。
【0002】
政府支援
本発明は、国立老化研究所により授与された補助金番号P01 AG031097のもと、政府支援によってなされたものである。政府は本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
アルツハイマー病(AD)は、老化に伴う最も一般的な神経変性障害である。ADの症状としては、認知機能の悪化、記憶障害および人格の変化が挙げられる。アミロイドβ(Aβ)の沈着がアルツハイマー病の指標であると考えられている。Aβは、アミロイド前駆体タンパク質(APP)のタンパク質分解により生じる。セリンプロテアーゼβアミロイド切断酵素(BACE)は、APPを切断し、その後プレシニリン1により生じた断片の膜切断が起こる。これらの事象によりAβ1-40および高度にアミロイド生成性のAβ1-42を含む凝集性ペプチドAβのサブセットが放出される。ヒトにおいてAβ凝集がアルツハイマー病を引き起こすことを示す多くの証拠があるが、疾患発症を引き起こす機構は充分にはわかっていない。
【0004】
ADの治療のために、現在ADの治療用に市販されているいくつかの抗コリン作動性剤を含むいくつかの薬物が開発されている。しかしながら、当該技術分野には、アルツハイマー病の治療のためのさらなる治療戦略を開発する必要性がある。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、低下されたIGFシグナル伝達がAβ毒性を防ぐという驚くべき発見に基づくものである。例えば、実施例1には、アルツハイマー病のモデルマウスにおいて、IGFシグナル伝達が低下されたマウスは神経学的アルツハイマー様疾患から保護されたことが示されている。
【0006】
一態様において、本発明は、機能獲得疾患(gain of function disease)に苦しむ患者に、治療有効量の、IGF-1シグナル伝達を低減する薬剤を投与する工程を含む、該患者の治療方法であって、機能獲得疾患が神経変性疾患である方法に関する。
【0007】
別の態様において、本発明は、前記患者に治療有効量の、IGF-1シグナル伝達を低減する薬剤を投与する工程を含む、アルツハイマー病の治療方法に関する。
【0008】
さらに別の態様において、本発明は、Aβ高凝集の誘導を必要とする患者に治療有効量のIGF-1シグナル伝達を低減する薬剤を投与する工程を含む、該患者におけるAβ高凝集を誘導する方法である。
【0009】
さらなる態様において、本発明は、Aβタンパク質毒性の低減を必要とする患者に、治療有効量のIGF-1シグナル伝達を低減する薬剤を投与する工程を含む、該患者におけるAβタンパク質毒性を低減する方法である。
【0010】
さらなる態様において、IGF-1シグナル伝達を低減する薬剤は、天然リガンドのIGF-1Rへの結合を阻害する薬剤、血清中のIGF-1のレベルを低減する薬剤、神経系においてIGF-1のレベルを低減する薬剤、IGF-1Rまたはそのリガンドの発現を低減する薬剤、IGF-1Rのリン酸化を阻害する薬剤、およびFOXO転写因子を活性化する薬剤からなる群より選択される。特定の局面において、IGF-1シグナル伝達を低減する薬剤は、FOXO転写因子を活性化する薬剤である。
【0011】
別の態様において、天然リガンドのIGF-1Rへの結合を阻害する薬剤は、レセプターアンタゴニストである。
【0012】
さらなる態様において、FOXO転写因子を活性化する薬剤は、FOXO転写因子の脱アセチル化を増加させる薬剤、FOXO転写因子のリン酸化を低減させる薬剤、FOXO転写因子の核移行を促進する薬剤およびFOXO転写共制御因子への結合を増大させる薬剤からなる群より選択される。
【0013】
さらなる態様において、本発明は、IGF-1シグナル伝達の指標を試験薬剤と接触させる工程を含む、Aβ毒性を低減する薬剤を同定する方法であって、IGF-1シグナル伝達の低下は試験薬剤がAβ毒性を低減することを示す。
【図面の簡単な説明】
【0014】
本発明の前述およびその他の事柄、特徴および利点は、添付の図面に示されるように、本発明の好ましい態様の以下のより具体的な説明から明白であろう。添付の図面において、同様の参照記号は異なる図面を通じて同じ部分を参照する。図面は必ずしも同じ縮尺ではなく、本発明の原理の説明に重点が置かれる。
【0015】
【図1−1】図1A〜Eは、IGFシグナル伝達の減少によりマウスのAβ関連挙動障害が防がれたことを示す。(A) 1つのIgf1rコピーを有する長期生存マウスを、2種類のAD関連変異遺伝子、APPswe(ヒトAβ配列を含む)およびPS1ΔE9を有するトランスジェニックアルツハイマー病(AD)モデルマウスと交配し、4種類の遺伝子型の子を得た:(1) 野生型、2つのIgf1rコピーを有し、AD関連導入遺伝子を有さない(WT)、(2) 1つのIgf1rコピーを有し、AD関連導入遺伝子を有さない長期生存マウス(Igf1r+/-)、(3) 2つのIgf1rコピーおよび両方のAD関連導入遺伝子を有するADモデルマウス(AD)、ならびに(4) 1つのIgf1rコピーおよび両方のAD関連導入遺伝子を有するマウス(AD;Igf1r+/-)。
【図1−2】図1A〜Eは、IGFシグナル伝達の減少によりマウスのAβ関連挙動障害が防がれたことを示す。(B) 全ての遺伝子方のマウスにおいて、獲得期間(session)によりキュープラットフォームに到着する待機時間が有意に減少し(p=0、F=35.49、df=3)(p>0.05、F=1.84、df=3、AD、AD;Igf1r+/-、WTおよびIgf1r+/-それぞれについてn=8、15、16、18)、学習に障害がないことが示された。(C) ADマウスと他の遺伝子型のその対応マウス間で、水没プラットフォーム試験において(p=5E-4、[ANOVA]の二元配置分散分析、F=7.71、df=3)および獲得日数を通じて(p=0.032、F=2.97、df=3、AD、AD;Igf1r+/-、WTおよびIgf1r+/-それぞれについてn=8、15、16、18)有意差が観察された。ADマウスは水没プラットフォームについて長期間試験した(p<0.05、フィッシャーLSD)。3種類の他の遺伝子型に差は見られなかった。
【図1−3】図1A〜Eは、IGFシグナル伝達の減少によりマウスのAβ関連挙動障害が防がれたことを示す。(D) AD;Igf1r+/-動物は、以前のプラットフォームの位置を渡るのにADマウスよりも有意に多くの回数を要した(p=0.024、Kruskal-Wallis、χ2=9.38、df=3)。(E) 全ての遺伝子型のプラーク形成の齢よりも高齢のマウスをRota Rod課題で試験した。異なる遺伝子型の動物は、その挙動において大きく異なった(p<0.01、一元配置ANOVA、df=3、F=4.25;AD、AD;Igfr+/-、Igf1r+/-および野生型それぞれについてn=31、32、29および28匹)。ADマウスは、4つの遺伝子型の中で最も悪い成績を示したが、AD;Igfr+/-マウスは、AD動物よりも有意に良好な成績を示したので、部分的に回復が見られた(p<0.05、Tuckey LSD)。AD;Igfr+/-動物と二つの対照遺伝子型の間には統計学的な差は見られなかった。全ての挙動試験において、11〜15ヶ月齢のマウスを試験して、齢適合を対照とした。エラーバーは平均および平均の標準偏差を表す(±SEM)。
【図2−1】図2A〜Iは、IGFシグナル伝達の低下によりAβ関連神経炎症が低減されたことを示す;(A〜H) GFAP抗体を使用した免疫組織化学により、齢適合ADマウス(CおよびG)と比較した12〜13ヶ月齢のAD;Igf1r+/-マウス(DおよびH)の脳切片中の星状細胞増加症の低下が示される。
【図2−2】図2A〜Iは、IGFシグナル伝達の低下によりAβ関連神経炎症が低減されたことを示す;(I) 画像解析によりGFAPシグナルの差の有意性を確認した(遺伝子型当たり6匹マウスおよび1動物当たり3切片を解析した、p<0.05;エラーバーは平均±SEMを表す)。
【図3−1】図3A〜Kは、IGFシグナル伝達の低下によりAβ関連の神経減少およびシナプス減少が保護されたことを示す。(A〜H) NeuN抗体を使用した免疫組織化学により、12〜13ヶ月齢AD;Igf1r+/-(DおよびH)、WT(AおよびE)、ならびにIgf1+/-(BおよびF)マウスの脳における神経密度は同等であったが、齢適合AD動物の脳(CおよびG)では顕著な神経減少が観察されたことが示された。
【図3−2】図3A〜Kは、IGFシグナル伝達の低下によりAβ関連の神経減少およびシナプス減少が保護されたことを示す。(I) NeuNシグナルの画像解析により、AD動物の皮質および海馬の両方で、齢適合WT動物と比較して、神経密度が有意に低下したことが示された(皮質:p<0.001、一元配置ANOVA、F=16.03;海馬:p<0.05、Kruskal-Wallis χ2=9.36、df=3)。AD;Igf1r+/-とIgf1+/-マウスの脳の間では有意差は観察されなかった(遺伝子型当たり6匹のマウスおよび動物1匹あたり3枚の切片を解析した)。
【図3−3】図3A〜Kは、IGFシグナル伝達の低下によりAβ関連の神経減少およびシナプス減少が保護されたことを示す。(JおよびK) シナプトフィシン抗体を使用した免疫組織化学により、前頭(J)および海馬(K)脳領域の両方において、AD;Igf1r+/-マウスは、齢適合ADマウスと比べて有意に高いシナプス密度を示したことが明らかになった(AD n=7、AD;Igf1r+/- n=5)。エラーバーは平均±SEMを表す。
【図4−1】図4A〜Bは、IGFシグナル伝達の低下により、Aβ高凝集が促進されたことを示す。(A) チオフラビン-Sアミロイド標識によりAD(パネルIIIおよびVII)ならびにAD;Igf1r+/-動物(パネルIVおよびVIII)の脳において同様のプラーク負荷が示された。画像解析によりチオフラビン-Sシグナルは、ADおよびAD;Igf1r+/-マウスの脳において同様であるが、WTおよびIgf1+/-マウス(パネルIX)とは有意に異なることが示された。遺伝子型当たり6匹の12〜13ヶ月齢動物を解析した。
【図4−2】図4A〜Bは、IGFシグナル伝達の低下により、Aβ高凝集が促進されたことを示す。(B) Aβ特異的抗体(82E1)を使用して、Aβプラークシグナル密度を測定した。AD;Igf1r+/-動物(パネルIVおよびVIII)の脳におけるシグナル/面積比は、齢適合AD動物(パネルIIIおよびVII)の脳と比較して、有意に高く(パネルIX、p<0.05)、AD;Igf1r+/-マウスの脳においてより高いプラーク緻密化が示された(遺伝子型当たり6匹のマウスおよび動物当たり3枚の切片を解析した;DG、歯状回;NC、新皮質)。エラーバーは平均±SEMを表す。
【図5−1】図5A〜Cは、AD;Igf1r+/-マウスの脳における高密度充填Aβ凝集を示す電子顕微鏡データおよびインビトロ動的凝集アッセイを示す。(A)齢が異なるADおよびAD;Igf1r+/-マウス脳における免疫金標識Aβアミロイドの電子顕微鏡写真。金標識アミロイドおよび原線維Aβ構造は、高倍率電子顕微鏡写真で観察し得る(右パネル)。両遺伝子型において、アミロイド負荷は同様に、齢に伴って増加したが、高次凝集アミロイドはAD;Igf1r+/-皮質において存在し(矢印)、AD動物の皮質においては存在しなかった。白色スケールバーは1μm、黒色バーは200nmを表す。
【図5−2】図5A〜Cは、AD;Igf1r+/-マウスの脳における高密度充填Aβ凝集を示す電子顕微鏡データおよびインビトロ動的凝集アッセイを示す。(B) 不偏自動画像加工によりAD;Igf1r+/-マウス(黒)の金粒子標識Aβプラーク周辺の目的の領域(ROI)のメジアン強度は、齢適合AD動物(赤)のプラーク強度と比べて有意に高いことが示され(p<0.04)、AD;Igf1r+/-においてAβプラークの高い凝集状態が確認された(ADについて135枚の画像[34,087 ROI]およびAD;Igf1r+/-について101枚の画像[26,066 ROI]を集めて解析した)。(C) 線維原負荷を評価するために、インビトロ動的凝集アッセイを使用して、12〜13ヶ月齢AD;Igf1r+/-マウスの脳のホモジネート(青)加速チオフラビン-T(ThT)を齢適合AD脳のホモジネート(茶)よりも有意に(p=0.035)早いインビトロ動的凝集でモニタリングして、AD;Igf1r+/-マウスの脳においてより多くのAβシーディングコンピテント集合体を示した。挿入図:(C)で得られた結果の統計学的解析。エラーバーは平均±SEMを表す。
【図6−1】図6A〜Eは、AD脳は、AD;Igf1r+/-動物の脳よりも多くの可溶性Aβオリゴマーを含むことを示す。(AおよびB) ELISAアッセイにより、12〜13ヶ月齢ADマウスの脳ホモジネートにおいて、齢適合AD;Igf1r+/-動物の脳と比較して、有意に多くの可溶性Aβ1-40(A)(p<0.001)およびAβ1-42(B)(p<0.005)が検出された。エラーバーは平均±SEMを表す(A、BおよびD)。
【図6−2】図6A〜Eは、AD脳は、AD;Igf1r+/-動物の脳よりも多くの可溶性Aβオリゴマーを含むことを示す。(CおよびD) ウェスタンブロット解析により、ADとAD;lgf1r+/-の脳ホモジネートの間にSDS感受性Aβモノマーおよび小オリゴマー集合体の量の検出可能な差は見られなかった。アスタリスク(*)は、WTまたはIgfr1+/-マウスとの有意差を示す。エラーバーは平均±SEMを表す(A、BおよびD)。
【図6−3】図6A〜Eは、AD脳は、AD;Igf1r+/-動物の脳よりも多くの可溶性Aβオリゴマーを含むことを示す。(E) 天然SECにより、Aβ二量体は主に16〜17ヶ月例AD;Igf1r+/-マウスの脳(パネルiii)において巨大構造と結合するが、齢適合AD動物の脳(パネルii、矢じり)ではより多くの可溶性物が示された(パネルは解析された6匹のADおよび6匹のAD;Igf1r+/-動物を表す)。全試料をゲルおよびその後の6E10を使用するWB解析に負荷して、カラムに当量のタンパク質が負荷されたことを確認した(パネルi)。
【図7】図7は、IGF-1シグナル伝達がAβの毒性の軽減においていくつかの役割を果たし得ることを示す模式図である。APPの消化によりAβモノマーが生じ、インビボでは自然に凝集して毒性オリゴマーを形成する。少なくとも2つの生物学的メカニズムによりAβオリゴマーを解毒できる:(1) 毒性オリゴマーのモノマーへの変換(脱凝集)、および(2) 毒性オリゴマーの、毒性の低いより巨大な構造への変換(積極的凝集)。シナリオ1において、IGF-1シグナル伝達は、タンパク質脱凝集酵素を低減するように正常に機能している。そのため、IGF-1シグナル伝達の減少により、オリゴマーの量が低下し、タンパク質脱凝集酵素の活性化によりAβの多くのモノマー形態が生じる。発明者らはオリゴマーの量は少ないが、モノマーの量は同等であることを見出したので、発明者らの結果はこのシナリオには一致しない。代替的に、シナリオ2において、IGF-1シグナル伝達は、毒性種をより大きく毒性の低い形態に変換する保護タンパク質凝集酵素を減少させるように正常に機能し得る。従って、IGF-1シグナル伝達の減少により、凝集酵素活性が上がり、毒性オリゴマーの負荷が低下して毒性の低い線維の凝集が増加する。シナリオ2に賛同して、発明者らはAD;Igf1r+/-動物において可溶性オリゴマーが少なくなりアミロイドプラークが高度に凝集することを観察した。代替的に、(3) IGF-1シグナル伝達は、毒性Aβ集合体に応答して、タンパク毒性および神経炎症を促進し得る。これらの結果も、保護されたAD;Igf1r+/-動物の脳において神経炎症があまり観察されないというこの推定の機構と一致する。さらに、この低炎症率は、これらの動物における凝集の増加によるAβオリゴマーの減少と直接関連し得る。シナリオ4では、反応性酸素種(ROS)などの毒性二次因子の減少が、毒性Aβ集合体の産生と協調して、神経の減少を促進し得る。この機構と一致して、Igf1r+/-マウスは、野生型マウスよりも酸化的傷害に対して抵抗性になる。それと共に、IGF-1シグナル伝達は、Aβ産生に応答して、多くの段階で神経減少および神経変性への経路に影響を及ぼし、干渉は、互いに排他的ではない。発明者らのデータは、IGF-1シグナル伝達の低下により、毒性Aβ構造、主に二量体の負荷が低減され、それにより多くのプラークが凝集し、神経炎症および神経減少が低減されるモデルと一致する。
【図8−1】図8A〜HはAPPの産生およびAPPのプロセッシングは、IGFシグナル伝達の低下に影響を受けないことを示す。定量的RT-PCR(qPCR)により、IGFシグナル伝達の低下は、実験マウスにおいてヒトAPPswe導入遺伝子の発現レベルに影響しないことが示される。A〜B.アクチンレベルに対して標準化されたヒトAbのqPCR。
【図8−2】図8A〜HはAPPの産生およびAPPのプロセッシングは、IGFシグナル伝達の低下に影響を受けないことを示す。定量的RT-PCR(qPCR)により、IGFシグナル伝達の低下は、実験マウスにおいてヒトAPPswe導入遺伝子の発現レベルに影響しないことが示される。C.アクチンレベルに対して標準化されたヒトAbのqPCR。D:B-アクチン対照は、反応の直線性を示す。
【図8−3】図8A〜HはAPPの産生およびAPPのプロセッシングは、IGFシグナル伝達の低下に影響を受けないことを示す。定量的RT-PCR(qPCR)により、IGFシグナル伝達の低下は、実験マウスにおいてヒトAPPswe導入遺伝子の発現レベルに影響しないことが示される。E:B-アクチン対照は、反応の直線性を示す。
【図8−4】図8A〜HはAPPの産生およびAPPのプロセッシングは、IGFシグナル伝達の低下に影響を受けないことを示す。定量的RT-PCR(qPCR)により、IGFシグナル伝達の低下は、実験マウスにおいてヒトAPPswe導入遺伝子の発現レベルに影響しないことが示される。F. 12〜13ヶ月齢AdおよびAD;Igf1r+/-マウスの脳は、同等の量のAPPプロセッシング酵素およびその産物を含む。4種類全ての遺伝子型のマウスの脳のホモジネートにおけるAB、APP、C末端断片(APP CTF)、aセクレターゼ(ADAM17)およびBセクレターゼ(BACE1)の量のウェスタンブロット解析。12〜13ヶ月齢のADおよびAD;IGF1r+/-マウスの脳は、同等の量のAPPプロセッシング酵素とその産物を含む。G: 図22Fに示されるウェスタンブロットの定量により、AbおよびAPP CTFの全量は、WTおよびIGF1r+/-齢適合動物と比較して、ADおよびAD;IGF1r+/-マウスでは高いが、ADとAD;IGF1r+/-脳試料間では有意差は検出され得ないことが示された。H: 全ての遺伝子型のマウスの脳中で、ADAM17とBACE1の量に差は見られなかった。
【図9−1】図9A〜Dは、IGFシグナル伝達の低下に関するADマウスの初期挙動解析を示す。A. IGFシグナル伝達の低下により、WTおよびADマウスと比較すると、Igf1r+/-およびAD:Igf1r+/-マウスの両方において16〜17ヶ月齢に体重の低下が生じる。Bは、以前の水迷路実験の結果を示し、ADおよびAD;IGF1r+/-マウスの方向障害は9ヶ月齢以降で見られることが示される。遺伝子型あたり8匹の動物を、水迷路中で、水面から1.5cm沈めて隠したプラットフォームを見つけるように訓練した。訓練後2日目および3日目の平均待機時間を、WTおよびAD動物(B)、ならびにIgf1r+/-およびAD;Igf1r+/-マウス(C)について示す。全ての遺伝子型のマウスは、Ethovisionソフトウェアで測定した場合とほぼ同じ速度で水迷路を泳いだ(図1B、Cに相当)。
【図9−2】図9A〜Dは、IGFシグナル伝達の低下に関するADマウスの初期挙動解析を示す。Cは、以前の水迷路実験の結果を示し、ADおよびAD;IGF1r+/-マウスの方向障害は9ヶ月齢以降で見られることが示される。遺伝子型あたり8匹の動物を、水迷路中で、水面から1.5cm沈めて隠したプラットフォームを見つけるように訓練した。訓練後2日目および3日目の平均待機時間を、WTおよびAD動物(B)、ならびにIgf1r+/-およびAD;Igf1r+/-マウス(C)について示す。全ての遺伝子型のマウスは、Ethovisionソフトウェアで測定した場合とほぼ同じ速度で水迷路を泳いだ(図1B、Cに相当)。
【図10−1】図10Aは、IGFシグナル伝達の低下は、Ab発現により神経減少を保護することを示す。A: 若年期(A、4〜5ヶ月)、壮年期(B、12〜13ヶ月)および老年期(C、16〜17ヶ月)の齢において、AD;IGF1r+/-マウスの全神経数は、皮質および海馬CA1領域の両方でAD動物のものよりも有意に(P<0.05)高かった。
【図10−2】図10Bは、IGFシグナル伝達の低下は、Ab発現により神経減少を保護することを示す。B: 若年期(A、4〜5ヶ月)、壮年期(B、12〜13ヶ月)および老年期(C、16〜17ヶ月)の齢において、AD;IGF1r+/-マウスの全神経数は、皮質および海馬CA1領域の両方でAD動物のものよりも有意に(P<0.05)高かった。
【図10−3】図10Cは、IGFシグナル伝達の低下は、Ab発現により神経減少を保護することを示す。C: 若年期(A、4〜5ヶ月)、壮年期(B、12〜13ヶ月)および老年期(C、16〜17ヶ月)の齢において、AD;IGF1r+/-マウスの全神経数は、皮質および海馬CA1領域の両方でAD動物のものよりも有意に(P<0.05)高かった。
【図11】図11は、Aβ抗体6E10を使用した免疫組織化学を示し、Aβプラークは、ADおよびAD;IGF1r+/-マウスの脳において、同様の時間的様式で存在することが示された。4〜5ヶ月齢マウスの脳ではプラークは検出されず、8〜9ヶ月齢の動物の脳ではいくつかの分散したプラークが検出され、12〜13ヶ月齢の動物の脳では多くのプラークが見られた(スケールバー200μm)。挿入図:AD;IGF1r+/-マウス皮質で検出されたプラークを、AD動物の皮質で見られたものとより詳細に比較した。
【図12】図12A〜Bは、アミロイドプラークのチオフラビン-S染色およびプロテイナーゼK処理を示す。A. Aβ抗体(82E1、赤チャンネル)およびチオフラビン-S(緑チャンネル)を使用したAβプラークの二重標識により、ADおよびAD:Igf1r+/-マウスにおけるチオフラビン-Sプラーク標識(核をDAPI(青)で標識する)の特異性を確認する。B. プロテイナーゼK処理によりAD:IGF1r+/-動物と比較した高感度のAD動物のプラークを示す。Aβ抗体82E1によりプラークを染色した。
【図13−1】図13A〜Kは、この試験に使用した動物の脳の胞埋後の免疫電子顕微鏡検査(EM)およびEM定量を示す。A. 胞埋後免疫電子顕微鏡検査により、12〜13ヶ月齢のAD;Igf1r+/-(右パネル)のAbプラークはそのAD動物のもの(左パネル)と比較して高次であり高密度であることが示される。図5Aに対応。B. バックグラウンドAb抗体はない。
【図13−2】図13A〜Kは、この試験に使用した動物の脳の胞埋後の免疫電子顕微鏡検査(EM)およびEM定量を示す。C. ABプラーク密度の電子顕微鏡解析。パネルD、EおよびFに示される画像の中位対象サイズおよび対象閾値サイン。影の領域は、異なる閾値領域、ならびにその断片化された対象の大きさおよび断片化された対象の総数に対応する。D. Cにおけるth1、th2およびth3閾値レベルについての断片化された対象(丸)(図5Bに対応)。
【図13−3】図13A〜Kは、この試験に使用した動物の脳の胞埋後の免疫電子顕微鏡検査(EM)およびEM定量を示す。E〜F. Cにおけるth1、th2およびth3閾値レベルについての断片化された対象(丸)(図5Bに対応)。
【図13−4】図13A〜Kは、この試験に使用した動物の脳の胞埋後の免疫電子顕微鏡検査(EM)およびEM定量を示す。G. 矢印で示されたピクセル線に沿って測定された免疫金標識曲線、底部。0.05%の閾値は、強度プロフィール(灰色の曲線、上部)の逆曲線に適用され、金粒子断片閾値は、第1の2つの非ゼロを見出すことにより推定される(スキャンの中心から左右に離れる、点線)。H. 四角は、断片化された金粒子に対応するピクセルを示す。
【図13−5】図13A〜Kは、この試験に使用した動物の脳の胞埋後の免疫電子顕微鏡検査(EM)およびEM定量を示す。I. 中位強度推定するために使用した得られたマスク。スケールバーは、b〜dにおいて100nmおよびe〜gにおいて10nm。図5Bに対応。J. それぞれの金粒子とその最も近い隣り合うものの距離をADおよびAD:Igf1r+/-マウスの脳の全ての画像中で測定した。両方の遺伝子型における距離分布はほぼ同じであり、遺伝子型において抗体の接近性に差はないことが示された。
【図13−6】図13A〜Kは、この試験に使用した動物の脳の胞埋後の免疫電子顕微鏡検査(EM)およびEM定量を示す。K.同様の有効性のインビトロ動的Ab凝集アッセイで生じた4〜5ヶ月齢(プラーク形成前)のADおよびAD;Igf1r+/-マウスの脳ホモジネート(図5Cに対応)。
【図14−1】図14A〜Dは、ELISAアッセイで測定した場合、4〜5ヶ月齢マウスの脳ホモジネートにおいて非凝集Aβ1-40含有量に有意差は見られなかったことを示す(図6Aに対応)。B. Aβ抗体6E10を使用したウェスタンブロット解析で測定した場合、全ての遺伝子型の12〜13ヶ月齢のマウスの脳細胞質画分においてAβオリゴマーは検出されなかった(図6C〜Dに対応)。
【図14−2】図14A〜Dは、ELISAアッセイで測定した場合、4〜5ヶ月齢マウスの脳ホモジネートにおいて非凝集Aβ1-40含有量に有意差は見られなかったことを示す(図6Aに対応)。C〜D. 標準タンパク質混合物をsuperdex 75サイズ排除カラムで分離して、それぞれの画分中で大きさが予想されるタンパク質を校正して排出した。
【図15−1】図15AおよびBは、隠されたプラットフォーム実験の結果を示し、WTマウスと比較して、ADマウスには記憶欠損があるが、AD:Igf1r+/-およびIgf1r+/-マウスにはないことが示された(マウスは9〜12ヶ月齢、*P<0.01)(集団大きさ:WT(10)、Igf1r+/-(8)、AD(10)、AD:Igf1r+/-(10)。
【図15−2】図15Cは、独立した隠されたプラットフォームアッセイの結果を示し、3ヶ月齢ではADマウスの記憶障害が検出されないがその後は明白になり有意になることが示された(*P<0.05)(全ての遺伝子型について集団あたり7匹の動物)。図15Dは、AD:Igf1r+/-とIgf1r+/-マウスの間には、記憶性能に有意差は検出されなかったことを示す。
【図15−3】図15Eは、RotaRodアッセイの結果を示し、WTマウスと比較して、ADマウスは有意な運動器官調整障害を示すことが示された。この障害は実験を通じて見られた(*P<0.01)。図15Fは、AD:Igf1r+/-マウスは、Igf1r+/-と比較して、16〜17ヶ月齢のみで明白な小さな運動器官調整欠陥を示したことを示す(*P<0.01)。
【図15−4】図15Gは、ストリンジェントアジリティ試験により測定した場合、適合WT動物と比較して、ADマウスは、障害のあるアジリティを有したことを示す。この障害は、6ヶ月齢以降で見られた(*P<0.01)。図15Hは、AD:Igf1r+/-とIgf1r+/-動物の間で、有意なアジリティ性能の差は検出されなかったことを示す。
【図16−1】図16Aは、AD:Igf1r+/-マウスの歯状回(海馬下部構造)において星状細胞増加症の低下が観察されたことを示す(B)(DG-歯状回)。
【図16−2】図16Bは、NueNシグナルの濃度測定解析を示し、AD動物の皮質中の神経密度はWT動物と比較して有意に低かった(P<0.01)ことを示す。AD:Igf1r+/-とIgf1r+/-マウスの皮質の間では有意差は見られなかった。
【図17−1】図17A〜Bは、密度測定解析により12〜13ヶ月齢のADマウスの皮質において、AD:IgfIr+/-マウスの皮質と比較して有意に高いAβシグナル強度(P<0.02)が確認されたことを示す(P<0.02)。
【図17−2】図17CおよびDは、ADおよびAD:Igf1r+/-動物の海馬において有意な強度の差は見られなかったことを示す。
【図18】図18は、Aβ毒性からの保護の時間的に異なる機構を模式的に示す。若年期では(I)、解離/分解機構により自然に形成されたAβオリゴマーが脳から除去され、Aβプラークの形成が予防される。この機構は、熱ショック因子(HSF)の1つにより制御されると思われる。後年期において、基本的な解離/分解機構の活性の齢依存的な減退により、第2の積極的凝集機構の活性化が誘発される(II)。若年動物においては明らかに不活性であるこの機構は、小さな毒性Aβオリゴマーの、より毒性が低い高次凝集構造への凝集を媒介する。IGFシグナル伝達経路は、おそらくはFOXO転写因子により保護積極的凝集機構を負に制御する。
【図19】図19は、12〜13ヶ月齢のAD:Igf1r+/-マウスが、齢適合ADマウスと比較して、歯状回において星状細胞増加症を低下したことを示す(DG-歯状回)。
【図20−1】図20Aは、胞埋後免疫電子顕微鏡検査を示し、12〜13ヶ月齢のAD:Igf1r+/-のAβプラーク(右パネル)は、AD動物のもの(左パネル)と比較して、高次であり、高密度であることを示す。
【図20−2】図20Bは、Aβポリクローナル抗体を使用して、全ての齢のWTおよびIgf1r+/-マウスの皮質において、バックグラウンドAβ金標識が検出されなかったことを示す。
【図21】図21は、サンドイッチELISAアッセイによって測定した場合、4〜5ヶ月齢のマウスの脳ホモジネートにおいて、非凝集Aβ含有量の有意差は観察されなかったことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明の詳細な説明
本発明の好ましい態様は以下の通りである。
単語「a」および「an」は、特定されなければ1つ以上を包含することを意味する。
【0017】
「治療する」または「治療」は、アルツハイマー病などの治療対象の機能獲得疾患もしくは状態の症状、合併症、または生化学的な徴候の開始の緩和、改善、予防または遅延、あるいは疾患のさらなる発症の拘束または阻害のことをいう。アルツハイマー病の症状、合併症および生化学的徴候としては、例えば、記憶障害、神経炎症、神経減少および/または脳中の毒性Aβオリゴマーの存在が挙げられる。
【0018】
「治療有効量」は、単独または1つ以上の他の活性剤と組み合わせて、治療対象の疾患または状態の1つ以上の症状を制御、低減、阻害、緩和、予防または他の影響を及ぼし得る量である。
【0019】
「患者」は、治療を必要とするヒト被験体である。
【0020】
本明細書で使用する場合、用語「阻害」または「低下」または「低減」は、直接または間接的な手段のいずれかにより正味の低下を引き起こすことを包含する。用語「増加」または「促進」は、直接または間接的な手段のいずれかにより正味の獲得を引き起こすことを意味する。
【0021】
用語「薬剤」は、化合物、化合物の混合物、生物学的巨大分子(例えば、核酸、抗体、タンパク質またはその一部を含む)あるいは細菌、植物、真菌もしくは動物(特に哺乳動物)細胞または組織などの生物材料由来の抽出物を示すために本明細書で使用される。
【0022】
用語「抗体」は、モノクローナル抗体ポリクローナル抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、単鎖Fv(scFv)、Fab断片、F(ab')断片、細胞内抗体および合成抗体を包含する。
【0023】
IGF-1レセプターに関する用語「天然リガンド」は、該レセプターに結合し、かつ生物体中に天然に存在するリガンドを意味するものである。ヒトにおいて、IGF-1レセプターの天然リガンドとしては、例えばIGF-1およびIGF-2が挙げられる。
【0024】
用語「小分子」は、本明細書で使用する場合、約5kDa未満の分子量を有する化合物のことをいうものである。小分子は有機または無機化合物であり得る。
【0025】
インスリン/IGFシグナル伝達経路は、ストレス抵抗性、加齢および長生を制御する。哺乳動物において、IGF-1シグナル伝達経路は、IGF-1およびその膜結合レセプターIGF-1Rの活性により媒介される。1型IGF-1レセプター(本明細書において「IGF-1R」ともいう)は、インスリンレセプターと約70%のアミノ酸相同性を共有し、そのシグナル伝達経路のいくつかを共有する(Jones et al. (1995), Endocr. Rev., 16: 3-34 (1995); Riedermann et al. (2006), Endocrine-Related Cancer 13: S33-S43)。IGF-1の主要な調節因子は、前下垂体から放出される成長ホルモン(GH)である。ヒトIGF-1は、70アミノ酸ポリペプチドである(例えば、米国特許第5,231,178号およびRinderknecht et al. (1978) JBC, 253(8): 2769-2776に配列が記載される)。IGF-1Rは筋肉、卵巣、下垂体および脳を含む種々の組織に局在している(Daftray et al. (2005), Experimental Biology and Medicine 230(5): 292-306)。
【0026】
IGF-1Rは、膜貫通レセプターキナーゼである。IGF-1Rはリガンド結合を媒介する2つの同一の細胞外αサブユニット、膜貫通ドメインおよび細胞内チロシンキナーゼドメインを有する2つの同一のβサブユニットで構成される。リガンド-レセプター相互作用は、チロシンキナーゼドメイン中のチロシン残基のリン酸化を生じる。IGF-1Rのリガンドとしては、例えばIGF-1およびIGF-2が挙げられる。IGF-R1中でリン酸化されるチロシン残基としては、1131位、1135位および1136位のチロシンが挙げられる(LeRoith et al., Endocr Rev 1995 April; 16(2), 143-63)。リン酸化の後、レセプターキナーゼは、例えば、インスリンレセプター基質-1ならびにホスファチジルイノシトール-3キナーゼおよびマイトジェン活性化タンパク質キナーゼのそれぞれのシグナル伝達経路を活性化するSheなどの種々の細胞内タンパク質をリン酸化する。
【0027】
血清IGF-1レベルの減少は、長生の増加および癌の予防に関連している(Suh et al. (2008). PNAS 105(9): 3438-3442)。カロリー制限の結果、循環IGF-1の低下がもたらされることは、文献中に大きく記載されている(Smith et al., (1995), J Clin Endocrinol Metab. 80(2):443-9; Giani et al., J Gerontol A Biol Sci Med. 63(8): 788-797; Hiyashi et al., Exp. Gerontol. 43(9): 827-32)。カロリー制限に加えて、いくつかの薬剤が、IGF-1シグナル伝達経路の活性の低減に有効であると記載されている。
【0028】
本発明は、IGF-1シグナル伝達の低下により、ペプチドAβに関連する毒性からの保護がもたらされるという発見に基づく。IGF-1シグナル伝達の低下は、高分子量で高密度のAβの凝集物の形成に関連する。これらの高密度充填凝集物は、小分子オリゴマーAβ集合体よりも毒性が低い(Haass et al. (2007) Nat Rev Mol Cell Biol 8(2): 101-12; Shankar et al. (2008). Nat Med 14(8): 837-42)。
【0029】
いくつかの局面において、本発明は、機能獲得疾患または障害に苦しむ患者においてIGF-1シグナル伝達経路の活性を低減する工程を含む、該患者を治療する方法に関する。別の態様において、IGF-1シグナル伝達を低減する薬剤は、治療有効量で前記患者に投与される。用語「機能獲得障害」、「機能獲得疾患」、「毒性機能獲得障害」および「毒性機能獲得疾患」は、交換可能に使用される。機能獲得障害は、凝集関連タンパク質毒性の増加を特徴とする疾患である。これらの疾患において、凝集は、細胞内および/または外のクリアランスを超える。機能獲得疾患としては、限定されないが、例えばポリグルタミンの凝集に関連する疾患、レヴィー小体疾患、筋萎縮性側索硬化症、トランスチレチン関連凝集疾患およびアルツハイマー病などの神経変性疾患が挙げられる。ポリグルタミンの凝集に関連する神経変性疾患としては限定されないが、ハンチントン病、室頂核脳幹および淡蒼球ルイ体萎縮症、いくつかの種類の脊椎小脳性運動失調、ならびに脊椎および延髄筋萎縮症が挙げられる。アルツハイマー病は2種類の凝集物:Aβペプチドの細胞外凝集物とタウタンパク質に関連する微小管の細胞内凝集物の形成を特徴とする。トランスチレチン関連凝集疾患としては、例えば、老年性全身アミロイドーシスおよび家族性アミロイド神経障害が挙げられる。レヴィー小体疾患は、α-シヌクレインタンパク質の凝集を特徴として、例えばパーキンソン病が挙げられる。
【0030】
特定の局面において、本発明は、アルツハイマー病に苦しむ患者においてIGF-1シグナル伝達経路の活性を低減する工程を含む、該患者の治療方法である。別の態様において、IGF-1シグナル伝達を低減する薬剤は、治療有効量で前記患者に投与される。
【0031】
本発明のさらなる局面において、本発明は、脳におけるAβの高密度充填凝集物への線維化または凝集の促進(本明細書において「Aβの高凝集の促進」ともいう)を必要とする患者における、脳におけるAβの高密度充填凝集物への線維化または凝集を促進する方法に関する。高密度充填凝集物は、可溶性のAβのオリゴマー(Aβダイマー等)よりも低い毒性を伴うAβの不溶性凝集物である。Aβの高分子量凝集物を、小分子オリゴマーAβと区別する方法は、文献において公知であり、かかる方法の具体例は、以下の実施例セクションに記載される。かかる治療を必要とする患者は、例えばアルツハイマー病を発症するリスクのある患者またはアルツハイマー病に苦しむ患者であり得る。アルツハイマー病を発症するリスクのある患者は、Aβの産生の増加を生じる遺伝的変異またはアルツハイマー病の別のリスク因子を有する患者であり得る。
【0032】
本発明の別の態様は、IGF-1シグナル伝達を低減する工程を含む、脳においてAβの沈着に関連する毒性を低減す方法に関する。脳におけるAβの沈着は、記憶障害、神経減少および神経炎症を含むが限定されないアルツハイマー病に関連する症状の提示を伴う。
【0033】
本発明は、アルツハイマー病または他の機能獲得疾患(タンパク質毒性に関する神経変性疾患など)に苦しむ患者の治療方法、タンパク質毒性を低減する方法、Aβタンパク質毒性を低減する方法、および患者においてIGF-1シグナル伝達を低減する薬剤を、前記患者に投与する工程を含む、Aβ高凝集を誘導する方法に関する。該薬剤は、小分子、抗体、ペプチドおよび核酸からなる群より選択され得る。IGF-1シグナル伝達は、IGF-1、IGF-1Rまたはその下流のシグナル伝達経路の活性の減少または阻害がある場合に低減される。これらの下流のシグナル伝達経路としては、いくつかの転写因子または他の下流タンパク質の活性に影響を及ぼすホスホチジルイノシトール3-キナーゼおよびMAPキナーゼの経路が挙げられる。本発明の方法により使用される薬剤は、任意の機構によりIGF-1シグナル伝達を低減する任意の薬剤であり得ることが理解されよう。IGF-1シグナル伝達を低減する薬剤およびIGF-1シグナル伝達を低減する戦略は、Riederman et al. (2006), IGF1R Signaling and Its Inhibition, Endocrine-Related Cancer 13: S33-S36に概説されており、その内容は、参照により本明細書に援用される。
【0034】
一態様において、IGF-1シグナル伝達を低減する薬剤は、天然リガンドのIGF1-Rへの結合を阻害する。別の態様において、リガンドはIGF-1である。さらなる態様において、該薬剤は、天然リガンドの脳内のIGF-1Rへの結合を阻害する。天然リガンドのレセプターへの結合は、IGF-1Rレセプターアンタゴニスト(IGF-1Rアンタゴニスト)の投与により阻害され得る。IGF-1Rアンタゴニストは、レセプターに結合して天然リガンドがIGF-1Rに結合スエ得能力をブロックすることで、IGF-1Rのそのリガンドへの結合を阻害する。IGF-1Rアンタゴニストとしては、競合アンタゴニスト、競合しない(non-competitive)アンタゴニスト、非競合(uncompetitive)アンタゴニストおよび部分アンタゴニストが挙げられる。一態様において、IGF1Rアンタゴニストは小分子である。小分子IGF-1Rアンタゴニストは、例えば米国特許第6,337,338号およびHaylor et al. (2000), J Am Soc Nephrology 11(11):2027-2035)に記載されており、その内容は参照により本明細書に援用される。さらなる態様において、IGF-1Rアンタゴニストはペプチドである。本明細書で使用する場合、用語ペプチドとしては、タンパク質および抗体、ならびに2個以上のアミノ酸で構成される分子が挙げられる。IGF-1Rアンタゴニストとして機能するペプチドは、例えば米国特許第7,173,005号、および米国特許出願公開公報第20060233804号、WO 00/23469およびEP 639981に記載されており、それぞれの内容は参照により本明細書に援用される。別の態様において、該薬剤は抗IGF-1R抗体である。抗IGF-1R抗体の例およびその合成のための方法は、米国特許出願第20070243194号、20080181891号、20080187536号および20080176881号に記載され、その内容は参照により本明細書に援用される。また、免疫化抗原の調製、ならびにポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の産生は、例えばファージディスプレイなど任意の適切な技術を使用して実施され得る。種々の方法が記載されている(例えば、Kohler et al., Nature, 256:495-497 (1975)) and Eur. J. Immunol 6:511-519 (1976)); Milstein et al., Nature 266:550-552 (1977)); 米国特許第4,172,124号; Harlow, E. and D. Lane, 1988, Antibodies: A Laboratory Manual, (Cold SpringHarbor Laboratory: Cold Spring Harbor, N.Y.); and Current Protocols In Molecular Biology, Vol. 2 (Supplement 27, Summer '94), Ausubel, F. M. et al., Eds., (John Wiley & Sons: New York, N. Y.), Chapter 11, 1991)参照; それぞれの教示は参照により本明細書に援用される)。
【0035】
別の態様において、リガンドのIGF-1Rへの結合を阻害する薬剤は、IGF-1に結合しIGF-1のIGF-1Rへの結合を防ぐ。かかる薬剤は、例えば、IGF-1に結合する抗体であり得る。別の態様において、該薬剤は、組み換えIGF-1R(sIGF1-R)(例えば、細胞内ドメインおよび膜貫通ドメインを欠いたIGF1-R)または抗IGF-1抗体であり得る。当業者に理解されるように、sIGF-1Rは、細胞外ドメインのアミノ酸配列を有し得、任意に1つ以上のアミノ酸置換および/または翻訳後修飾などの種々の修飾を有し得るが、かかるsIGF-1R分子はIGF-1結合能を有するものであり、当該技術分野において公知の方法を使用して評価され得る。かかるsIGF-1R分子は、例えば組み換え技術を使用して作製され得る。可溶性IGF1-Rの例は、例えばWO9718241に記載され、その内容は参照により本明細書に援用される。
【0036】
IGF-1シグナル伝達を低減する薬剤は、IGF-1Rまたはその天然リガンドの発現を阻害することによっても機能し得る。一態様において、IGF-1RまたはIGF-1Rリガンドの発現を阻害する薬剤は核酸である。IGF-1Rの発現を阻害する特異的核酸の例は、例えば米国特許出願公開公報第20070185319号および20050255493号に記載されており、その内容は参照により本明細書に援用される。
【0037】
一態様において、IGF-1Rまたはその天然リガンドの発現を阻害する薬剤は、アンチセンス核酸である。該アンチセンス核酸は、RNA、DNA、PNAまたは任意の他の適切な核酸分子であり得る。アンチセンス核酸とその相補的センス配列間で二重鎖が形成され得、遺伝子の不活性化が生じる。本発明の標的遺伝子はIGF-1Rまたはそのリガンドをコードする遺伝子である。アンチセンス核酸は、遺伝子から転写されたRNAと二重鎖を形成すること、二重差DNAと三重鎖を形成すること等により、遺伝子発現を阻害し得る。アンチセンス核酸は、例えばコードする核酸が公知である遺伝子について生成され得るか、または充分に確立されたいくつかの技術(例えば、アンチセンスRNAまたはオリゴヌクレオチドの化学合成(任意に分解に対する抵抗性を増大させたもしくは細胞取り込みを向上した修飾ヌクレオチドおよび/または結合を含む)またはインビトロ転写)により決定され得る。アンチセンス核酸およびその使用は、例えば米国特許第6,242,258号、6,500,615号、6,498,035号、6,395,544号および5,563,050号に記載され、その内容は、参照により本明細書に援用される。
【0038】
別の態様において、核酸は、RNA干渉剤である。「RNA干渉剤」は、本明細書で使用する場合、標的遺伝子またはゲノム配列の発現をRNA干渉(RNAi)により干渉または阻害する任意の薬剤として規定される。かかるRNA干渉剤としては、限定されないが、標的遺伝子またはゲノム配列に相同なRNA分子、またはその断片、低分子干渉RNA(siRNA)、低分子(short)ヘアピンまたは低分子(small)ヘアピンRNA(shRNA)、および標的遺伝子の発現をRNA干渉(RNAi)により干渉または阻害する小分子が挙げられる。本発明の標的遺伝子はIGF-1Rまたはそのリガンドをコードする遺伝子である。
【0039】
一態様において、RNA干渉剤はsiRNAである。siRNAは、化学的に合成され得るか、インビトロ転写により生成され得るか、または宿主細胞中で生成され得る。一態様において、siRNAは、約15〜約40ヌクレオチド長または約15〜約28ヌクレオチド長または約19〜約25ヌクレオチド長または約19、20、21または22ヌクレオチド長の二本鎖RNA(dsRNA)分子であり、各鎖に、約0、1、2、3、4、5または6ヌクレオチドの長さを有する3'および/または5'突出を含み得る。突出の長さは二本の鎖間で独立しており、すなわち一方の鎖の突出の長さは第2の差の突出の長さに依存しない。
【0040】
RNAiはまた、小ヘアピン(ステムループとも称される)RNA(shRNA)を含む。一態様において、これらのshRNAは、短(例えば、約19〜約25ヌクレオチド)アンチセンス鎖、続いて約5〜約9ヌクレオチドのヌクレオチドループ、および類似のセンス鎖で構成される。代替的に、センス鎖は、ヌクレオチドループ構造の前にあり得、アンチセンス鎖が続いてもよい。これらのshRNAは、プラスミド、レトロウイルス、およびレンチウイルスに含まれ得、例えばpol III U6プロモーターまたは別のプロモーターから発現され得る(例えば、Stewart, et al. (2003) RNA Apr;9(4):493-501参照、参照により本明細書に援用される)。
【0041】
RNAに加えて、RNA干渉剤はまた、化学的に修飾されたヌクレオチドおよび非ヌクレオチドから構成され得、また、リボース糖分子が別の糖分子または同様の機能を果たす分子に置換された分子を含み得る。また、ヌクレオチド残基間に、ホスホロチオエート結合などの非天然結合が使用されてもよい。該RNA鎖は、フルオロフォアなどのレポーター基の反応性官能基により誘導体化され得る。例示的な誘導体は、RNA鎖の両末端または一方の末端、典型的にはセンス鎖の3'末端で修飾される。他の例示的な誘導体は、2'O-アルキル化残基または2'-O-メチルリボシル誘導体および2'-O-フルオロリボシル誘導体などの修飾炭水化物部分を有するヌクレオチドを組み込む。RNA塩基が修飾されていてもよく、例えばアルキル化またはハロゲン化され得る。例えば、ハロゲン化塩基、例えば5-ブロモウラシルおよび5-ヨードウラシルが取り込まれ得る。該塩基がアルキル化されてもよく、例えば7-メチルグアノシンがグアノシン残基の代わりに取り込まれ得る。成功裡の阻害を生じる非天然塩基がさらに取り込まれ得る。
【0042】
別の態様において、核酸はリボザイムまたはデオキシリボザイムである。リボザイムおよびデオキシリボザイムは、核酸分子の配列特異的切断を触媒することが示されている。切断部位は、RNAまたはDNA酵素と標的核酸中のヌクレオチドのヌクレオチド相補的対形成により決定される。そのため、RNAおよびDNAの酵素は、核酸分子を切断するように設計されて、分解の速度が増大され得る[Cotten et al, EMBOJ. 8: 3861-3866, 1989; Usman et al., Nucl. Acids Mol. Biol. 10: 243, 1996; Usman, et al., Curr. Opin. Struct. Biol. 1: 527, 1996; Sun, et al., Pharmacol. Rev., 52: 325, 2000]。
【0043】
さらに別の態様において、IGF-1Rまたはそのリガンドの発現を阻害する薬剤は、ペプチドまたは小分子である。かかる薬剤の例は、例えば米国特許公開公報第20070129399号; Parrizas et al. (1997), Endocrinology 138: 1427-1433; Blum et al. (2000), Biochemistry: 15705-15712; Blum et al. (2003), J Biol Chem 278: 40442-40451に記載され、その内容は参照により本明細書に援用される。
【0044】
IGF-1シグナル伝達経路は、FOXO転写因子を活性化することによっても低減され得る。FOXOは、FOXO1(Genbank Acc. No. NM019739およびNM002015)、FOXO3(Genbank Acc. No. NM019740およびNP001446)およびFOXO4(Genbank Acc. No. Ab032770)などの転写因子のフォークヘッドボックス、クラスOファミリーの一員のことをいう。例示的なFOXO転写因子としてはFOXO1、FOXO3a、FOXO4およびFOXO6が挙げられる(Lam et al. (2006), Biochemical Society Transactions 34(5):722-726)。特定の局面において、FOXO転写因子はFOXO3aである。FOXO遺伝子ファミリーは、哺乳動物において高度に保存され、ニューロンで発現される。FOXOタンパク質は、PI3キナーゼ/Akt経路により負に制御される。FOXOタンパク質は、脱アセチル化およびリン酸化などの翻訳後修飾により制御され得る。例えば、セリン/トレオニンタンパク質キナーゼAkt/タンパク質キナーゼBにより(Foxo3のトレオニン32、セリン253および/またはセリン315のいずれかで)リン酸化される場合、FOXOは細胞質に残り、核転写活性が阻害される。脱リン酸化される場合、FOXOは核に移行し、転写活性を促進する。FOXOを調節する方法は、例えば米国特許出願公開公報第20060069049号、WO 2007008982および米国特許第7,288,385号に記載されており、その内容は参照により本明細書に援用される。そのため、本発明の一態様において、FOXO転写因子の活性を増加する薬剤が投与される。別の態様において、FOXO転写因子を活性化する薬剤は、FOXO転写因子の脱アセチル化を増加する薬剤、FOXO転写因子のリン酸化を減少させる薬剤、FOXO転写因子の核への移行を増加させる薬剤およびFOXO転写共制御因子を調節する薬剤からなる群より選択される。例示的なFOXO転写共制御因子は14-3-3、PGC-1a、SMK-1、Sir2タンパク質(例えばSIRT1を含む)、p300、HCF-1、およびそのいずれかのオーソログである(Daitoku et al. (2004). PNAS 101(27): 10042-10047; Li et al. (2008) PLoS Biol 6(9): e233. doi: 10.1371/journal.pbio.0060233; Lam et al. (2006))。
【0045】
IGF-1シグナル伝達経路の活性は、さらに、IGF-1Rのチロシン残基のリン酸化を阻害する薬剤により低減し得る。かかる薬剤は、例えば、WO 02/102805 A1に記載され、Riederman et al. (2006), Endocrine-Related Cancer 13: S33-S43に概説され、それぞれの内容は参照により本明細書に援用される。
【0046】
さらなる態様において、IGF-1シグナル伝達を低減する薬剤は、血清中のIGF-1のレベルを低減する薬剤である。別の態様において、該薬剤は脳内のIGF-1のレベルを低減する。上述のように、IGF-1Rは、中枢神経系に見られる。神経系におけるIGF-1の活性は、末梢のIGF-1ならびにニューロンおよびグリアにより合成されたIGF-1により媒介される(Daftary et al. (2005))。そのため、一例において、末梢におけるIGF-1の産生を低下させるもしくはIGF-1のクリアランスを増加させるおよび/または脳内で産生されるIGF-1の産生を低下させるもしくはクリアランスを増加させることにより、該薬剤はIGF-1シグナル伝達を低減し得る。一態様において、血清中または神経系中のIGF-1レベルを低減する薬剤は、抗IGF-1抗体である。
【0047】
IGF-1シグナル伝達活性を低減する薬剤はまた、ペプチドアプタマーであり得る。ペプチドアプタマーは、タンパク質機能のドミナントインヒビターとして機能するペプチドまたは小ポリペプチドである。ペプチドアプタマーは、IGF-1Rまたはその天然リガンドを標的化し得る。一態様において、リガンドはIGF-1である。ペプチドアプタマーは標的タンパク質に特異的に結合して、その機能をブロックする(Kolonin and Finley, PNAS (1998) 95: 14266-14271)。IGF−1Rまたはそのリガンドに対して高い親和性および特異性で結合するペプチドアプタマーは、当該技術分野で公知の種々の技術により単離し得る。ペプチドアプタマーは、酵母ツーハイブリッドスクリーニングにより、ランダムペプチドライブラリーから単離され得る(Xu et al., PNAS (1997) 94: 12473-12478)。それらはまた、ファージライブラリー(Hoogenboom et al., Immunotechnology (1998) 4: 1-20)または化学的に生成されたペプチド/ライブラリーから単離され得る。
【0048】
IGF-1シグナル伝達を低減する薬剤は、治療対象の疾患または状態に適した任意の手段により投与され得る。かかる投与経路としては、例えば、非経口、局所、静脈内、経口、経皮、動脈内、頭蓋内、脳室内、腹膜内、鼻腔内または筋内の手段が挙げられる。IGF-1シグナル伝達を低減する薬剤は、任意に、機能獲得疾患、アルツハイマー病、タンパク質毒性に関連のある状態またはAβ毒性に関連のある状態の治療に少なくとも部分的に効果的である他の薬剤と組み合わせて投与し得る。
【0049】
本発明はまた、機能獲得疾患またはアルツハイマー病に苦しむ患者の治療方法、タンパク質毒性の低減方法、Aβタンパク質毒性の低減方法および患者におけるIGF-1シグナル伝達を低減する薬剤を、さらなるプロテオスタシス制御因子の投与と組み合わせて該患者に投与する工程を含む、Aβ高凝集の誘導方法に関する。用語「プロテオスタシス制御因子」は、細胞のタンパク質ホメオスタシスを増強する小分子、siRNAおよび生物物質(例えばタンパク質を含む)のことをいう。例えば、プロテオスタシス制御因子は、タンパク質合成、折りたたみ、輸送および分解経路に影響を及ぼす薬剤であり得る。プロテオスタシス制御因子は、シグナル伝達経路、例えば限定されないが熱ショック応答およびアンフォールドタンパク質応答、またはその両方を操作することにより機能し、プロテオスタシスネットワーク構成因子の転写および翻訳を生じる。プロテオスタシス制御因子は、タンパク質(例えば変異タンパク質)の折りたたみ、輸送および機能を増強し得る。プロテオスタシス制御因子はまた、タンパク質シャペロンの転写もしくは翻訳を上方制御することまたはタンパク質シャペロンの分解を阻害することにより、タンパク質シャペロンを制御し得る。プロテオスタシス制御因子は、しばしばシャペロンおよび折りたたみ酵素レベルならびに部分的に折りたたまれたコンホメーション集合体に結合する巨大分子を協調的に増加することにより、折りたたみの生物学に影響し得、より天然に近い構造を有する中間体を進歩させて、最終的に出力のための折りたたまれた変異タンパク質の濃度を上げる。一局面において、プロテオスタシス制御因子は、変異タンパク質のホメオスタシスを増強し得るが変異タンパク質には結合しないので、プロテオスタシス制御因子とシャペロンは異なる。別の態様において、IGF-1シグナル伝達を低減する薬剤は、機構的に異なるプロテオスタシス制御因子と組み合わせて投与される。機構的に異なるプロテオスタシス制御因子は、IGF-1シグナル伝達を低減するとは異なる機構で細胞のプロテオスタシスを増強するプロテオスタシス制御因子である。また、プロテオスタシス制御因子は、凝集経路または脱凝集活性を上方制御し得る。例示的なプロテオスタシス制御因子は、セラストール、MG-132およびL型Ca+ チャネルブロッカー(例えば、ジルチアゼム(dilitiazem)およびベラパミル)である。
【0050】
IGF-1シグナル伝達を低減する薬剤を、第二の薬剤(例えばプロテオスタシス制御因子、アルツハイマー病またはAβ毒性に関連する他の状態の治療に使用される薬剤)と組み合わせて投与する場合、両方の薬剤は同時に投与されても良く、および/または両方の薬剤は異なるタイミングでもしくは連続して投与されてもよいことが理解されよう。
【0051】
本発明の治療方法に使用されるIGF-1シグナル伝達を低減する薬剤または該薬剤を含む医薬組成物の形態は、目的の投与形態および治療用途による。該薬剤はまた、所望の剤型に応じて、動物またはヒトへの投与のための医薬組成物の調製に一般的に使用されるビヒクルとして規定される薬学的に許容される非毒性担体または希釈剤を含み得る。該希釈剤は、薬剤または組成物の生物学的活性に影響を及ぼさないように選択される。かかる希釈剤の例は、蒸留水、生理学的リン酸緩衝食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液およびハンクス液である。また、医薬組成物または製剤は、他の担体、アジュバント、または非毒性、非治療用、非免疫原性の安定化剤等も含み得る。医薬組成物はまた、タンパク質などの大きな代謝遅延巨大分子、キトサン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸およびコポリマー(ラテックス基付加セファロースTM、アガロース、セルロース等)などの多糖類、多量体化アミノ酸、アミノ酸コポリマー、ならびに脂質凝集物(例えば油滴またはリポソーム)も含み得る。
【0052】
非経口投与のためには、医薬組成物または薬理剤は、水、油、食塩水、グリセロールまたはエタノールなどの滅菌液であり得る医薬担体と共に、生理学的に許容され得る希釈剤中の物質の溶液または懸濁液の注射用量で投与され得る。さらに、湿潤剤または乳化剤、界面活性剤、pH緩衝剤等の補助物質を、組成物中に含ませてもよい。医薬組成物の他の成分は、石油、動物、植物または合成起源の油、例えばピーナッツ油、ダイズ油および鉱物油である。一般的に、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコールなどのグリコールは、特に注射溶液に好ましい液体担体である。
【0053】
該組成物は、溶液または懸濁液のいずれかの注射用製剤として調製され得、注射前に液体ビヒクル中の溶液または懸濁液に適した固体形態でも調製され得る。該製剤はまた、上述のように、アジュバント効果の増強のために、ポリラクチド、ポリグリコリドまたはコポリマーなどのリポソームまたは微小粒子中に乳化または封入され得る。Langer, Science 249: 1527, 1990 and Hanes, Advanced Drug Delivery Reviews 28: 97-119, 1997。本明細書に記載される組成物および薬理剤は、有効成分の徐放または拍動(pulsatile)放出を可能にする様式で調製され得る貯蔵注射物または移植製剤の形態で投与され得る。
【0054】
他の投与形態に適したさらなる調製物としては、経口、鼻腔内および肺性の調製物、坐剤、ならびに経皮適用物が挙げられる。
【0055】
坐剤のための結合剤および担体としては、例えば、ポリアルキレングリコールまたはトリグリセリドが挙げられ、かかる坐剤は、0.5%〜10%、好ましくは1%〜2%の範囲で有効成分を含む混合物から形成され得る。経口調製物は、医薬等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロースおよび炭酸マグネシウムなどの賦形剤を含む。局所適用は、経皮または真皮内送達をもたらし得る。経皮送達は、皮膚パッチまたはtrans ferosomesを使用して達成され得る[Paul et al., Eur. J. Immunol. 25: 3521-24, 1995; Cevc et al., Biochem. Biophys. Acta 1368: 201-15, 1998]。
【0056】
さらなる局面において、本発明は、試験薬剤をIGF-1シグナル伝達の指標と接触させる工程を含む、Aβ毒性を低減する薬剤の同定方法であり、IGF-1シグナル伝達の低下は、該試験薬剤がAβ毒性を低減することを示す。別の局面において、本発明は、試験薬剤をIGF-1シグナル伝達の指標と接触させる工程を含む、Aβ高凝集を促進する薬剤の同定方法であり、IGF-1シグナル伝達の減少は、該試験薬剤がAβ毒性を低減することを示す。該同定方法は、細胞非含有系、細胞ベースアッセイまたは生物中で行い得る。IGF-1シグナル伝達の指標は、IGF-1Rとそのリガンドの相互作用を示すパラメーターであるかまたはIGF-1Rもしくはリガンドのレベルを示すパラメーターである。IGF-1シグナル伝達の指標としては、限定されないが、(例えば、アセチル化またはリン酸化状態の測定による)IGF-1Rのリン酸化、IGF-1Rまたはそのリガンドの発現、IGF-1Rへの結合、IGF-1Rの天然リガンドへの結合の阻害、試料中のIGF-1Rまたはそのリガンドのレベル、およびFOXO転写因子の活性化が挙げられる。
【0057】
試験薬剤は、合成または天然化合物のライブラリーなどの種々の供給源から得られる。例えば、種々の有機化合物および他の薬剤のランダムおよび直接合成には多くの手段が利用可能である。細菌、真菌、植物および動物の抽出物の形態の天然化合物のライブラリーも利用可能であるか、または容易に製造し得る。また、天然または合成により製造されたライブラリーおよび化合物は、従来の化学的、物理的および生化学的手段により容易に改変され、コンビナトリアルライブラリーを製造するために使用され得る。薬剤はまた、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化等の直接またはランダム化学修飾に供されて、構造アナログが製造され得る。試験薬剤は、多くの化学的分類、典型的には合成、半合成、または天然に存在する無機もしくは有機分子を含む。試験薬剤は、合成または天然化合物の大きなライブラリー中に見られるものを含む。
【0058】
細胞非含有アッセイの例において、IGF-1Rおよびそのリガンドの間の相互作用に対する試験薬剤の効果が測定され得る。IGF1-Rとそのリガンド(例えばIGF-1)の間の相互作用は、試験薬剤の存在下および非存在下で測定され、試験薬剤の存在下でのIGF-1Rとそのリガンドの間の相互作用の阻害は、該試験薬剤が生物においてAb毒性を低減する能力を有することを示す。
【0059】
別の態様において、Aβ毒性を低減する薬剤の同定方法は、細胞ベースアッセイである。細胞は、脊椎動物、非脊椎動物、真核生物、原核生物、哺乳動物または非哺乳動物由来であり得る。一態様において、IGF-1Rを発現する細胞は試験薬剤と接触され、IGF-1シグナル伝達指標を阻害する試験薬剤の能力が測定される。一態様において、IGF-1シグナル伝達指標は、IGF-1Rまたはそのリガンドのレベルである。IGF-1Rまたはそのリガンドのレベルは、例えば免疫アッセイにより測定され得る。
【0060】
さらなる局面において、本発明は、
a) 試験薬剤を生物に投与する工程;
b) IGF-1シグナル伝達指標の変化を測定する工程
を含む、生物においてAβ毒性を低減する薬剤を同定する方法であって、IGF-1シグナル伝達の減少は、該薬剤が動物においてAβ毒性を低減することを示し、
IGF-1シグナル伝達指標は、IGF-1Rまたはそのリガンドの発現の低下、IGF-1Rのリン酸化の低下、IGF-1Rに対する親和性または天然リガンドに対するIGF-1Rの親和性の低下からなる群より選択される。
【0061】
スクリーニング方法における使用のための生物としては、脊椎動物および無脊椎動物、哺乳動物および他の哺乳動物が挙げられる。一態様において、生物は、ショウジョウバエ、線虫、マウスおよびラットからなる群より選択される。
【0062】
IGF-1シグナル伝達の低下の指標の変化の測定方法は、当該技術分野において記載されている。例えば、IGF-1Rのリン酸化は、米国特許出願公開公報第20070129399号に記載されるように抗ホスホチロシン残基を使用してリン酸化チロシン残基を検出すること、またはキナーゼレセプター活性化アッセイ(例えば米国特許公開公報第20060233804号に記載)により測定され得る。試料中のIGF-1Rまたはそのリガンドのレベルは、例えば免疫アッセイ(ELISA、ラジオイムノアッセイまたは化学発光)を使用して測定され得る。
【0063】
本発明は以下の実施例により説明され、いかなる方法に限定されることも意図しない。
【実施例】
【0064】
実施例1:IGF-1シグナル伝達の低下によりマウスにおいて加齢関連タンパク質毒性が遅延される
概要
インスリン/インスリン成長因子(IGF)シグナル伝達(IIS)経路は、蠕虫、ハエ、マウス、およびおそらくヒトの加齢の重要な調節因子である。IISの低下による加齢の遅延により、線虫C. エレガンスが、アルツハイマー病関連ヒトペプチドAβの凝集と関連する毒性から保護される。IGFシグナル伝達は、アルツハイマーモデルマウスにおいて低下し、これらの動物はアルツハイマー様疾患症状、例えば、行動障害の低下、神経炎症、およびニューロン減少から保護されることが見い出された。この保護は、密に密集した整列した斑をもたらすAβの過剰凝集と相関しており、IGFシグナル伝達の低下によってもたらされる保護の一局面が、低毒性の緻密な凝集塊への可溶性Aβオリゴマーの封鎖であることを示唆する。この所見は、Aβ毒性から保護するIGFシグナル伝達調節機構が蠕虫から哺乳動物まで保存されていることを示し、アルツハイマー病治療薬の開発のための有望なストラテジーとしてのこのシグナル伝達経路の調節を示す。
【0065】

アルツハイマー病(AD)の症例のほとんどは、70歳代以降で散発的発症が示されるが、少数派の変異関連の家族性の症例は、典型的に50代で発現する。数多くの神経変性疾患に共通するこれらの時間的特徴は、加齢を、これらの疾病の発生の主要なリスクファクターと規定する(Amaducci and Tesco、1994)。インスリン/インスリン様成長因子(IGF)シグナル伝達(IIS)経路は、ストレス抵抗性、加齢を調節し、寿命の決定因子である。IISの低下により、ストレス抵抗性の長寿蠕虫(Kenyon et al,1993)、ハエ(Tatar et al.,2001)、およびマウス(Bluher et al,2003,Holzenberger et al.,2003)がもたらされ、ヒトの寿命の増大と相関している(Flachsbart et al.,2009,Suh et al.,2008,Willcox et al.,2008)。IISの低下による加齢の遅延により、蠕虫は、ハンティングトン病関連ポリQペプチド(Morley et al.,2002)およびAD関連ヒトAβペプチド(Cohen et al.,2006)の凝集と関連するタンパク質毒性から保護される。しかしながら、このタンパク質毒性からの保護が蠕虫から哺乳動物まで保存されているかどうか、およびどのような保護的機構が作動し得るのかについては、ほとんど知られていない。
【0066】
Aβは、アミロイド前駆体タンパク質(APP)のエンドプロテオリシス(endoproteolysis)により生じる(Glenner and Wong、1984、Selkoe、2004)。セリンプロテアーゼBACE(βアミロイド切断酵素)はAPPを切断し(Farzan et al.,2000)、その後、得られた断片は、γ-セクレターゼタンパク質分解性複合体の活性成分であるプレセニリン1(PS1)によって膜内切断される(Wolfe et al.,1999)。これらの事象により、凝集傾向ペプチドのAβファミリー、例えば、Aβ1-40および高度にアミロイド形成性のAβ1-42が放出される。説得力のあるデータにより、Aβ凝集によってADが誘発されることが示されているが、疾患の発生に至る機構は不明である(Selkoe、2004)。最近の研究により、ADモデル生物において原線維ではなく小さいAβオリゴマーが毒性を(Cohen et al.,2006,Lesne et al.,2006)、およびヒトにおいてADを(Haass and Selkoe、2007,Shankar et al.,2008)もたらすことが示されている。
【0067】
C. エレガンスAβモデル(Aβ蠕虫[Link、1995])では、IISの低下によってもたらされるヒトAβ1-42タンパク質毒性からの保護は、2つの転写因子、Aβ解離を調節する熱ショック因子1(HSF-1)と、より大きな毒性の低いAβ凝集塊の形成を助長するDAF-16(哺乳動物のFOXOに対してオルソログ)に依存性である。したがって、IISの低下によってAβ毒性から保護されるAβ蠕虫は、より大きなAβ凝集塊が蓄積され、オリゴマーは通常のIISを有する非保護対応物よりも少ない(Cohen et al.,2006)。
【0068】
IGFシグナル伝達の低下によってマウスの寿命は延びるが(Holzenberger et al.,2003)、IGF-1注入により、IGFシグナル伝達の低下または活性化により、Aβ毒性から保護され(Carro et al.,2002,Carro et al.,2006)、クエリーが生じる。この疑問に取り組むため、本発明者らは、充分確立されたADトランスジェニックマウスモデル(Jankowsky et al.,2001)を、Igf1r遺伝子を1コピーだけ有する長寿マウス(Igf1r+/-マウス)(Holzenberger et al.,2003)と交配することにより、IGFシグナル伝達の低下を有するADマウスモデルを作製した。
【0069】
結果
IGF-1Rシグナル伝達の低下に関連するAD導入遺伝子を有するマウスの作製
Igf1rは、唯一の蠕虫インスリン/IGF受容体daf-2の哺乳動物オルソログである(Kimura et al.,1997)。Igf1r+/-マウスは、IGF-1シグナル伝達の低下を示し、長寿で酸化的ストレス抵抗性であり、体の大きさが小さい(Holzenberger et al.,2003)。ADマウスモデルは、ともに、マウスプリオンタンパク質プロモーターによって駆動される2つのAD関連変異導入遺伝子APPswe(ヒトAβペプチド配列を含むヒト化マウスAPP)およびヒトプレセニリン-1ΔE9を発現する(以下、本明細書においてADマウスと称する)(Jankowsky et al.,2001)。これらの導入遺伝子の発現により、脳内でヒトAβアミロイドの生成、斑形成、および低速で進行性のAD様症状がもたらされる(Jankowsky et al.,2004)。また、AD様マウスは、他のADマウスモデルと同様の加齢発症行動障害も示す(Reiserer et al.,2007)。ADモデルは、他のADモデルよりも攻撃性が低く、6〜7ヶ月齢で脳内にAβ斑の出現を示す(Jankowsky et al.,2004)。AD様症状の発症が遅いことにより、IISの乱れ(perturbation)について、AD様症候群の加齢発症要件におけるその役割を調べることが可能である。
【0070】
本発明者らのマウスの遺伝的背景を等しくするため、本発明者らは、まず、ADマウスとIgf1r+/-マウス系統の両方を野生型129雌と、3世代戻し交配した後、ADマウスとIgf1r+/-マウスを4回異種交配した。Igf1r+/-マウスとADマウスの交配により、4つの遺伝子型の子孫が得られた(図1A)。元の親遺伝子型、(1)ヘテロ接合性Igf1r+/-(Igfr+/-)および(2)内部対照としたADマウス(AD)。(3)2つのIgf1r遺伝子コピーのため自然に加齢するが、どちらのAD導入遺伝子も有していない類遺伝子性の同胞。これらの動物を、無症候性のAD様疾患および天然IGF-1シグナル伝達(WT)の陰性内部対照とした。最後に、(4)両方のAD導入遺伝子および1つだけのIgf1r遺伝子コピーを有するマウスを注目する実験群とした(AD;Igf1r+/-)。
【0071】
定量的ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)解析により、APPswe導入遺伝子の発現レベルは、ADおよびAD;Igf1r+/-マウスの脳においてほぼ同一である(図8A〜E)ことが示され、IGFシグナル伝達の低下がプリオンタンパク質プロモーター駆動性導入遺伝子の発現に影響しないことを示す。また、単量体AβおよびC末端APP断片(APP CTF)のレベルも、ADおよびAD;Igf1r+/-マウスにおいて非常に類似していた。(図8Fおよび8G)。同様に、IGFシグナル伝達の低下は、すべての遺伝子型のマウス脳において、内因性αおよびβセクレターゼ(それぞれ、ADAM17およびBACE)に影響しなかった(図8H)。これらの結果を合わせると、IGFシグナル伝達の低下は、導入遺伝子発現にも内因性APPプロセッシング酵素のレベルにもそれらの活性にも影響しなかったことを示す。予測どおり、Igf1r+/-マウスおよびAD;Igf1r+/-マウスはどちらも、2つのIgf1r+/-コピーを有するその同腹子と比べて小さく、IGF-1Rシグナル伝達の低下を示す(図9A)(Holzenberger et al,2003)。
【0072】
IGF-1Rシグナル伝達の低下により、ADマウスの行動欠陥が低減される
見当識および運動の加齢発症記憶欠陥および障害は、数多くのADマウスモデルにおいてAβ生成と関連している(Jensen et al.,2005、King and Arendash、2002,Westerman et al.,2002)。本発明者らは、IGF-1シグナル伝達の低下により、マウスがAβ関連行動障害から保護されるかどうかを、いくつかの行動アッセイを用いて評価した。最初の解析として、本発明者らは、遺伝子型1つあたり8匹の動物を使用し、3、6、9および12ヶ月齢でのモリス水迷路試験における成績を追跡し、9および12ヶ月の時間点でAD、AD;Igf1r+/-動物およびその同腹子対照間の最も大きな違いを見い出した(図9BおよびC)。16ヶ月目、本発明者らは、AD群に、AD;IgflR+/-マウスに存在しない死亡率を観察した(データ示さず)。しがたって、本発明者らは、より大きな動物コホートを使用し、本発明者らの行動解析を11〜15ヶ月齢に精密化した。
【0073】
本発明者らは、キュー付きの(可視)プラットフォームを用いたモリス水迷路を用いて、マウスの学習能力を連続4日間測定した。他のADモデルマウスについて先に報告されているように(Blanchard et al.,2008,Westerman et al.,2002)、ADマウスは、その年齢対応WT、Igf1r+/-およびAD;Igf1r+/-対応体(図1B、p>0.05)と比べて学習欠陥を示さなかった。見当識適性を試験するため、本発明者らは、プラットフォームからキューを取り除き、マウスが水面下のプラットフォームを探し当てるのに必要とされる待機時間を連続4日間記録した。実験の2、3および4日目、ADマウスは、隠れたプラットフォームを見つけるのに、そのWT、Igf1r+/-およびAD;Igf1r+/-対応体と比べて有意に(p<0.05)長い時間を必要とした(図1C)。これは、他のマウスADモデル(Jensen et al.,2005,King and Arendash、2002,Westerman et al.,2002)と同様、AD動物の見当識能力が障害されていることを示す(泳ぐ速度がすべての遺伝子型でほぼ同一であった;図9D)。最後に、本発明者らは、水迷路からプラットフォームを取り除き、先のプラットフォーム位置を横断する回数を記録することにより、記憶能力を試験した(プローブトライアル(probe trial))。ADマウスがプラットフォームの先の位置を横断した回数は、そのWT、Igf1r+/-および最も重要なことにはAD;Igf1r+/-対応体よりも有意に少なく(p<0.05)、記憶の障害を示す。AD;Igf1r+/-動物がWTおよびIgf1r+/-と同様の頻度で先のプラットフォーム位置横断したという観察は、一部記憶の回復を示す(図1D)。
【0074】
次に、本発明者らは、ADモデルマウスの運動能力に対するIGF-1シグナル伝達の低下の効果を、Rota-Rodアッセイを用いて試験した。このアッセイでは、見当識および記憶試験とほとんど同じく、ADマウスの成績は、その年齢対応WT、Igf1r+/-およびAD;Igf1r+/-対応体よりも有意に低かった(図1E、p<0.05)。
【0075】
総合すると、行動データにより、ADマウスは、見当識および記憶力の障害ならびに運動障害を有し、これらは、IGF-1シグナル伝達の低下によって遅延され得ることが示された。
【0076】
IGF-1Rシグナル伝達の低下により、ADマウスにおいて炎症およびニューロン減少が低減される
本発明者らは、マウスにおけるAD様疾患と関連する生物学的マーカーの出現もまたIGFシグナル伝達の低下によって遅延されるかどうかという疑問を持った。まず、本発明者らは、ヒトAD(Mancardi et al,1983)、およびADモデルマウスの脳内のAβ凝集(Wirths et al.,2008)と関連する神経炎症を示す反応性星状細胞増加症が、AD;Igf1r+/-動物において低減されるかどうかを試験した。活性化星状細胞を認識するグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)抗体(Mancardi et al.,1983)を使用し、本発明者らは、年齢対応ADマウスと比べて、AD;Igf1r+/-マウスの脳において活性化星状細胞が顕著に減少したことを見い出した(図2)。この低減は、皮質と海馬の両方において明白であり(図21)、年齢対応ADマウスと比べてAD;Igf1r+/-マウスにおいて、神経炎症が低減されていることを示す。興味深いことに、ADマウスの皮質内で観察されたGFAP シグナルは広く散在しているが、AD;Igf1r+/-マウスの皮質性GFAP染色の外観は集中しており(図2Cと2Dを比較)、AD;Igf1r+/-脳内の神経炎症がAD動物の脳内よりも小さい領域に限られていることを示す。
【0077】
ニューロンの減少は、ヒトAD(Scheff et al,1990)およびADモデルマウス(Masliah and Rockenstein、2000)の別のホールマークである。本発明者らは、直接立体解析学的可視化およびADマウスにおいて減少するニューロン密度のマーカーであるNeuN免疫反応性を使用し、年齢対応AD対応体と比べ、12〜13ヶ月齢AD;Igf1r+/-マウスの皮質においてNeuN免疫反応性が高いことを見い出した(図3)。これは、IGFシグナル伝達の低下によりニューロン減少が保護されることを示す。年齢適合対照遺伝子型と比較した場合、同様のニューロン減少が幼獣(4〜5ヶ月齢)および高齢(16〜17ヶ月)AD において観察されたが、AD;Igf1r+/-マウスでは観察されなかった(図10)。
【0078】
シナプス密度の減少は、さらなるホールマークであり、おそらくADの原因である(Hamos et al.,1989)。しがたって、本発明者らは、シナプスマーカーであるシナプトフィシンを使用し、すべての遺伝子型の12〜13ヶ月齢マウスの前頭領域および海馬脳領域においてシナプス密度を比較し(Hamos et al.,1989)、AD動物では、そのAD;Igf1r+/-対応体と比べ、両方の脳領域でシナプス密度が有意に低いことを見い出した(それぞれ、図3Jおよび3K)。これらの観察により、IGFシグナル伝達の低下によってマウスがAβ関連ニューロン減少から保護されることが確認される。
【0079】
IGFシグナル伝達の低下により、高密度密集凝集塊の形成が促進される
変異AD関連導入遺伝子を異所的に発現するマウスにおいて、IGFシグナル伝達の低下によってもたらされる行動欠陥に対する保護、ならびに炎症およびニューロン減少からの保護の基礎となる機構を調べるため、本発明者らは、ADおよびAD;Igf1r+/-マウスの脳内のAβ集合体の性質を調べた。免疫組織化学(IHC)およびAβ抗体(クローン6E10)を使用し、ADおよびAD;Igf1r+/-マウスの脳切片内のAβ斑を可視化した(図11)。先の結果(Jankowsky et al.,2004)と一致して、Aβ斑は幼獣マウス(4〜5ヶ月齢)の脳内では検出することができなかった。いくつかの斑が8〜9ヶ月齢動物の脳内で観察されたが、12 〜13 ヶ月齢ADおよびAD;Igf1r+/-マウスの脳では斑の数が増加した。検査したいずれの年齢のWTまたはIgf1r+/-マウスの脳でもバックグラウンド染色は観察されなかった(図11)。しがたって、IGFシグナル伝達の低下は、斑形成の発生に対して明白な効果を有しない。次に、本発明者らは、蛍光色素チオフラビン-Sを使用し、ADおよびAD;Igf1r+/-脳内のアミロイドを可視化し、両方の遺伝子型の皮質と海馬領域のアミロイド負荷量がほぼ同一であることを見い出した(図4A、パネルIX)。(特異的Aβ抗体[クローン82E1]のシグナルでのチオフラビン(Thiosflavin)-S標識の共局在により、チオフラビン-Sの斑特異性が確認された 図12)。したがって、Aβ斑出現ならびにアミロイド負荷量の速度論は、AD動物とAD;Igf1r+/-動物間で異ならないようであった。
【0080】
IHCによって解析したAβ斑をより詳しく調べることにより、AD;Igf1r+/-動物の皮質で観察された斑は、その年齢対応AD対応体の皮質で検出されたものよりも小さく、凝縮していることが示された(図11、12〜13ヶ月、挿入部)。マウス脳内の斑緻密性を比較するため、本発明者らは、高度に特異的なAβ抗体(プロセッシングされたAβを認識するクローン82E1)を使用し、異なる脳内のAβ免疫反応性光学密度(単位面積あたりのシグナル)を測定した。AD脳よりもAD;Igf1r+/-マウスの脳において有意に高いAβ免疫反応性光学密度が検出され(図4B、パネルIX)、AD;Igf1r+動物におけるAβアミロイド斑の方が緻密性が高いことを示す。
【0081】
また、本発明者らは、Aβ抗体で標識する前に12〜13ヶ月齢マウスの脳切片を10μg/mlのプロテイナーゼKで処理することにより、ADおよびAD;Igf1r+/-動物の斑のプロテアーゼ感受性を比較した。AD;Igf1r+/-脳薄片と比べてAD脳薄片内に見られるAβ斑の散在性の染色(図12 B)により、AD;Igf1r+/-動物の斑がADマウスのものよりもプロテアーゼ抵抗性であることが示された。
【0082】
アミロイド斑の密度をさらに解析するため、本発明者らは、包埋後(postembedding)免疫電子顕微鏡検査、Aβ抗体、および金標識プロテインAを使用した。AD;Igf1r+/-マウスの皮質内のAβ原線維は、そのAD対応体のものよりも緻密なようであった(図5 Aおよび13A)。(WTおよびIgf1r+/-マウスの脳切片に免疫反応性がないことにより、該抗体の特異性が確認された;図13 B)。
【0083】
ADおよびAD;Igf1r+/-マウス脳のアミロイド斑の密度を定量して比較するため、本発明者らは、Aβ抗体にコンジュゲートされた金粒子を同定し(図13C〜F)、各粒子周囲の目的の領域(ROI)を設定し、金粒子を排除後のROI内のメジアンシグナル密度を測定する電子顕微鏡検査(EM)画像処理アルゴリズムを開発した(図13G〜I)。明るいピクセルが少なく、暗いピクセルが多い(すなわち、グレイスケール値が低い)ため、緻密な構造を含むROIは、低いスコア値を有する。6匹の12〜13 ヶ月齢ADマウスおよび5匹のAD;Igf1r+/-マウスの皮質をEMによって可視化し、ADの135枚の画像(34,087個のROI)およびAD;Igf1r+/-の101枚の画像(26,066個のROI)を自動によりセグメント化し、不偏的様式で解析した。ROメジアンシグナル強度の分布は、AD;Igf1r+/-マウスの斑が年齢対応AD対応体のものよりも有意に(p<0.038)密であることを示す(図5B)。ADおよびAD;Igf1r+/-脳の斑に対する抗体の接近性が異なるという可能性を、各金粒子との最も隣接する粒子との距離を測定するために設計した第2のアルゴリズムによって評価した。このアルゴリズムは、接近性が低い方がまばらな分布および金粒子間の長い距離がをもたらされ得るという仮定に基づく。ADおよびAD;Igf1r+/-のすべての斑の画像を自動処理すると、距離に差は示されず(図13J、p>0.54)これは、抗体の接近性が類似していることを示す。
【0084】
光学および電子顕微鏡検査を用いて得られた結果は、IGFシグナル伝達の低下により、毒性がより低いより多くの凝縮アミロイド斑へのAβの集合が媒介されることを示す。本発明者らは、インビトロ速度論凝集アッセイ(Cohen et al,2006)を使用し、ADおよびAD;Igf1r+/-マウスの等容積の脳内のAβアミロイドの相対総量を評価した。プロテイナーゼK処理した超音波処理(原線維を均一な大きさに断片)した脳ホモジネートをAβ1-40凝集反応に添加した場合、凝集反応の50%終了までにかかる時間の減少は、組織内のAβアミロイド原線維の量に比例する(Cohen et al.,2006)(D.D. and J.K.,未公表データ)。アミロイド負荷量を、4〜5ヶ月齢および12〜13 ヶ月齢のADおよびAD;Igf1r+/-マウス脳ホモジネートにおいて評価した(遺伝子型1つあたり9匹の動物)。幼獣動物(4〜5ヶ月齢、図13K)の脳ホモジネート間に凝集塊負荷量に有意差は検出され得なかったが、12〜13ヶ月齢AD;Igf1r+/-マウスの脳抽出物は、年齢対応AD動物と比べて短いt50(Aβ1-40の凝集の加速を示す)に反映される高い凝集塊負荷量を示す(図5C;p=0.035)。これらのデータは、等容量の12〜13ヶ月齢AD;Igf1r+/-脳にはAD脳と比べてより多くのアミロイドが存在することを示す。この結果は、保護されたAD;Igf1r+/-動物がAD動物よりも密に密集したAβ凝集塊を有することを示す光学および電子顕微鏡検査データと一致する。
【0085】
IGF-1シグナル伝達の低下により、高MW凝集塊が増大しSDS-可溶性凝集塊が減少する
IGF-1シグナル伝達の低下によるAβの過剰凝集により、非凝集Aβおよび/またはオリゴマーAβの残留量が少ないことが予測される。しがたって、本発明者らは、AD;Igf1r+/-脳ホモジネートと比べて、より多くの可溶性AβがADに存在するかどうかを試験した。本発明者らは、7匹のADおよび9匹のAD;Igf1r+/-12〜13ヶ月齢マウスの脳ホモジネートをスピンし、高度に凝集されたAβを沈殿させ(10,000gで10分間、4℃)、酵素免疫測定法(ELISA)アッセイを用いて可溶性画分中の低分子量(MW)Aβ1-40およびAβ1-42レベルを定量した。Aβ1-40(図6A)およびAβ1-42(図6B)レベルは、年齢適合(12〜13ヶ月齢)AD動物と比べて、AD;Igf1r+/-マウスの可溶性脳上清み画分中において有意に(それぞれ、p<0.001およびp<0.005)低かった。かかる差は、幼獣マウス間の可溶性Aβ1-40の量では検出され得なかった(図14A、p=0.126)。
【0086】
次に、本発明者らは、SDS可溶性Aβオリゴマー含有量および総量がIGF-1シグナル伝達の低下によって影響されるかどうかを試験した。12〜13ヶ月齢マウスの4つのADおよび4つのAD;Igf1r+マウスの脳をAβオリゴマー調製プロトコル(Bar-On et al.,2006)、続いてSDS-PAGEおよびウエスタンブロット(WB)解析に供した。驚いたことに、SDS可溶性Aβオリゴマー含有量、ならびにAPPの総量および量は、ADおよびAD;Igf1r+/-マウスの全脳ホモジネート(図6Cおよび6D)において区別できなかった(サイトゾル画分中にオリゴマーは検出され得なかった;図14B)。ELISAアッセイによって観察されたオリゴマー解析の結果の差およびAD;Igf1r+/-とAD動物間の非凝集Aβ種プールにおける顕著な差(図6Aおよび6B)は、オリゴマーAβ集合物がSDS感受性であることを示す。このことを試験するため、本発明者らは、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を使用し、ADおよびAD;Igf1r+/-マウスの脳内のAβ集合物の天然組成物を解析した。ELISAアッセイで行なったようにしてAD;Igf1r+/-およびADマウスの脳をホモジナイズして調製し、巨大分子の構造完全性を保持した。等量の清浄化したホモジネート(図6E、パネルi)をサイズ排除カラムに負荷し、20個の画分を収集し、凍結乾燥させ、再懸濁し、SDSゲルに負荷した。WBおよびAβ抗体(6E10)を用いてAβ集合物を可視化した。注目すべきことに、AD;Igf1r+/-(赤色参照ライン参照)では、初めから大きかったこと、および/またはよりSDS抵抗性であったことを反映する高MW集合物が観察された(図6E、パネルiii、画分3)。ずっと大きな凝集塊のSDS媒介性変性によって生じる明白な二量体バンドは、AD;Igf1r+/-SEC 画分では観察可能でない(図6E、パネルiii)が、ADマウス画分では観察可能である(図6E、パネルii、画分5-7、白矢印)。これにより、AD;Igf1r+/-脳では、Aβ原線維がより密であり、よりSDS抵抗性であり、より効率的に潜在的に毒性のオリゴマー種の放出を妨げることが提案される。毒性は、以前に、高MW集合物の断片能力と関連していたため(Shankar et al.,2008)、小さいSDS安定化Aβ種の出現と神経毒性間の先の相関がこれを反映しているかもしれない。顕微鏡解析、ELISAおよびインビトロアッセイから得られたデータは、より密で、高MWで、よりSDS-抵抗性の凝集塊へのオリゴマーの変換は、AD;Igf1r+/-動物においてタンパク質毒性に対して保護するプロセスの一部であることを示す。
【0087】
考察
ADおよびAD;Igf1r+/-マウスにおいてアルツハイマー様疾患の行動と病理学的局面を比較することにより、本発明者らは、IGF-1シグナル伝達の低下により、マウスがAD関連ヒトペプチドAβの発現と関連するタンパク質毒性から顕著に保護されることを見い出した。光学および電子顕微鏡検査、ならびにインビトロ速度論凝集、ELISA、およびSECアッセイはすべて、IGF-1シグナル伝達の低下により一生の後期において密に密集した大きな原線維状構造へのAβの集合が誘導されることを示す。保護されたAD;Igf1r+/-マウスがSDS安定性のAβを形成することにより、おそらく毒性のAβ二量体が生成されることがより困難になるという観察(Shankar et al.,2008)は、活発な機構によって、オリゴマーが、AD;Igf1r+/-マウスをタンパク質毒性から保護する低毒性の密に密集した凝集塊に変換されることを示す。この仮説は、インスリン/IGFシグナル伝達の低下により、蠕虫がAβ関連毒性から保護されたが、高MW Aβ凝集塊の形成は増大したというAβ蠕虫モデルで得られた結果と一致する(Cohen et al.,2006)。
【0088】
Aβ凝集の増大によって、どのようにしてタンパク質毒性に対して保護され得るのか?高度に凝集されたAβは、オリゴマーと比較して低毒性を有すると考えられる(Haass and Selkoe、2007)。したがって、原線維化の増強により、AD-マウスモデルにおいてAβ毒性が低減され得る(Cheng et al.,2007)。さらに、長期相乗作用アッセイの結果は、高度に凝集されたAβが小さいオリゴマーよりも低い毒性を有することを示す(Shankar et al.,2008)。興味深いことに、化学的抽出による大きなAβ集合物(原線維)からの小さいオリゴマー、顕著にはほとんど二量体の放出により毒性が増大する。凝集の加速が保護的であり得るという仮説の裏付けにおいて、ともに毒性タンパク質凝集塊を破壊することが公知である細胞シャペロンHSP104(Shorter and Lindquist、2004)およびTRiC(Behrends et al.,2006)もまた、凝集しているタンパク質の濃度が閾値レベルを超えると凝集を加速することにより保護を媒介し得るという発見がもたらされる。これらの研究により、密に密集した大きなAβ集合物の生成により、高度に毒性の小さい凝集塊構造が捕捉されて貯蔵されることによってAD;Igf1r+/-マウスがタンパク質毒性から保護されるという予測が生じる。活発な凝集によってAβ毒性から保護される場合、かかる保護的機構は、IGFシグナル伝達経路によって負に調節されることが予測され得る。蠕虫において、この活性は、少なくとも一部は、IIS受容体DAF-2によって負に調節されるFOXO転写因子DAF-16によって媒介される(Cohen et al.,2006)。FOXO遺伝子ファミリーは、哺乳動物において高度に保存されており、ニューロン内で発現され、ストレス下でのニューロン生存に必要とされ(Lehtinen et al.,2006)、これは、FOXO転写因子もまた、哺乳動物におけるIGFシグナル伝達の低下による保護効果の媒介因子であることを示す。
【0089】
おそらく、IGFシグナル伝達の低下により、Aβ緻密な原線維形成に付加的な機構によってAβタンパク質毒性が改善される。Igf1r+/-マウスが酸化的ストレスに対して抵抗性の増大を示すという観察(Holzenberger et al.,2003)により、IGF-1シグナル伝達の低下によって、AD関連脳損傷に関与していると提案されている(Fukui et al.,2007)酸化的ストレスに対して保護する酵素のレベルが向上することによりニューロン抗(counter)タンパク質毒性能が増強されるという可能性が生じる。これは、反応性酸素種の生成が、パーキンソン病様表現型を誘導することが知られたMPTP処理後、Igf1r+/-マウスの脳において、そのWT対応体と比べて減少しているという観察によって裏づけられる(Nadjar et al.,2008)。さらに、ミトコンドリア標的化カタラーゼの過剰発現は、マウスの長寿を促す(Schriner et al.,2005)。代替モデルにより、IGFシグナル伝達の低下と関連するニューロン弾性の増大は、DNA修復能の向上によって促進されることが示される。ゲノム安定性の維持に役割を果たし(Oberdoerffer et al,2008)、HSF-1(Westerheide et al.,2009)を調節するヒストンデアセチラーゼSIRTl、加齢調節因子(Ghosh、2008)もまた、AD;Igf1r+/-マウスにおけるIGFシグナル伝達の低下による保護効果の媒介因子であり得ると推測することは妥当である。FOXOによって媒介される複雑さおよび種々の効果(Partridge and Bruning、2008)により、IGFシグナル伝達の低下は、一連の抗タンパク質毒性活性、例えば、Aβ過剰凝集、抗酸化活性、およびおそらくまだ規定されていない他の機構と協調することが提案される(図7)。哺乳動物FOXOファミリー構成員がADに対して保護的機構に役割を果たすかどうかを解明するためには、さらなる研究が必要である。
【0090】
保護されたAD;Igf1r+/-マウス脳で観察されたAβ過剰凝集により、Aβ斑がこれらの幼獣動物の皮質において、その非保護AD対応体と比べて可視的であることが示唆されたが、これは、本発明者らの解析では明白でなかった。これは、おそらく、一生の早期において、蠕虫で観察されるようなHSF-1によって調節される脱凝集酵素および解離活性などのタンパク質ホメオスタシスの他の機構が有効なためである(Cohen et al.,2006)。これに鑑みて、保護的解離/解離および過剰凝集機構は、時間的に異なり得る。活発な過剰凝集は、加齢または外因的ストレスの結果として、主要解離機構によって、もはや毒性Aβ種が有効に排除され得なくなった場合のみ誘発され得る。マウスの4つのHSF遺伝子の1つ以上が一生を通してAβ毒性から脳を保護するかどうか、およびFOXO活性が一生の後期において顕著になるかどうかを評価することは興味深い。
【0091】
本明細書に示したデータと、IGF注入によりラット(Carro et al.,2002)およびマウス(Carro et al.,2006)がAβタンパク質毒性から保護され、IGF-1Rのブロックによりラットにおいて神経学的疾患が誘導された(Carro et al.,2006)という以前の報告との間には明白な矛盾がある。経時的にIGFシグナル伝達カスケードの応答性を下げることにより、IGF濃度における急増に応答するフィードバック-シグナル伝達事象の存在は、なぜIGF注入がAD様病理に対して保護的であるのかの説明となり得る(Cohen and Dillin、2008)。この説明は、多くの観察によって裏付けられる。例えば、100歳以上の長寿女性のヒトは高血清IGF-1レベルを有するが、IGF-1R活性は低く、IGFシグナル伝達の低下がもたらされる(Suh et al.,2008)。したがって、高IGF-1レベルは、必ずしも、長期間にわたる下流の活性増大と相関しない。さらに、AD患者は、通常よりも低い血清インスリン濃度を有するが、通常よりも高いCSF インスリンレベルを有する(Craft et al.,1998)。これらの研究により、インスリンおよびIGFシグナル伝達は、組織特異的様式で調節されるという予測が生じ、末梢IGF注入により脳内でIGFシグナル伝達の低下がもたらされ得ることを示す(Cohen and Dillin、2008)。
【0092】
本明細書に示したデータは、IGF-1Rシグナル伝達の低下により、マウスの脳でのAβ発現と関連する毒性の著しい減少がもたらされることを示す。AD;Igf1r+/-マウスにおける、SDS抵抗性のようである大きくて密なAβ凝集塊の形成は、これが、以前に報告された脱凝集酵素活性と同様、少なくとも一部、IGF-1Rシグナル伝達によって調節されるコア保護活性の1つであることを示す(Cohen et al.,2006)。IISの低下が、高度に保存されたIGFシグナル伝達経路およびその下流成分が操作される線虫および哺乳動物ストレスにおいて保護的であると示されたことは、新規な神経変性およびタンパク質毒性治療薬の開発に有望である。
【0093】
補足データ
動物が水面下の隠れたプラットフォームを覚えている能力は、ADモデルマウスにおいて低下しているため、記憶と見当識の適性を、プラットフォームから旗を移動させ、動物が水面下の隠れたプラットフォームを見つけるのに必要とされる待機時間を記録することにより評価した。実験の3日目と4日目、9〜12ヶ月齢のADマウスは、隠れたプラットフォームを見つけるのに、そのWT対応体と比べて有意に(P<0.01)長い時間が必要であった(図15A)。対照的に、AD:Igf1r+/-マウスは、実験全体を通して、隠れたプラットフォームを、そのIgf1r+/-およびWT対応体とほぼ同じ平均時間で見つけた(図15B))(泳ぐ速度がすべての遺伝子型ほぼ同一であった。また、本発明者らは、12ヶ月齢の間、独立したマウスコホートを試験した。ADおよびWTマウスは、3ヶ月齢では同様の成績であったが、記憶障害(P<0.05)は6ヶ月齢に始まり、9および12ヶ月で進行的に悪化した(図15C)。本発明者らの9〜12ヶ月齢のデータと一致して、本発明者らは、IGF1シグナル伝達の低下によって、すべての年齢で記憶が大きく回復することを見い出した(図1D)。本発明者らの9〜12ヶ月齢のデータと一致して、本発明者らは、IGF1シグナル伝達の低下によって、すべての年齢で記憶が大きく回復することを見い出した(図1E)。
【0094】
次に、本発明者らは、運動を測定するためのRota-Rodアッセイと、運動協調を測定するためのストリングアジリティ(string agility)アッセイの両方を用いて、ADモデルマウスの運動能力に対するIGF-1シグナル伝達の低下の効果を試験した。記憶試験とほとんど同じく、ADマウスは、Rota-Rod(図15F)およびストリングアジリティ試験の両方において、そのWT対応体ほど良好な成績ではなかった(図15H)。対照的に、AD:Igf1r+/-マウスの成績は、そのIgf1r+/-およびWT対応体とほぼ同じであり、アッセイ(図15F〜I))の両方において有意でない差を示した。行動データを総合的に考慮すると、ADマウスは通常の学習能を有するが、記憶は障害されており、この低下は、IGF-1シグナル伝達の低下によってもたらされる保護によって遅延され得ることが示される。同様に、ヒトAD関連導入遺伝子に関連する運動および協調障害は、IGF-1シグナル伝達の低下によって大きく遅延された。
【0095】
上記のように、保護されたAD:Igf1r+/-動物の皮質において観察されたAβ斑は、その年齢適合非保護AD対応体の皮質において検出された斑よりも大きさが小さく、より凝縮しているようであった。シグナルのデンシメトリー画像解析により、皮質内に含有される斑は、より緻密である(図17AおよびB)が、海馬では、そうでない(図17CおよびD)ことが確認された。
【0096】
実験手順
マウス系統および遺伝子型
ともにプリオンタンパク質プロモーターによって駆動される変異体キメラマウス/ヒトAPPsweおよび変異体ヒトプレセニリン1(ΔE9)を発現するADモデル雄マウスを、Jackson laboratory(B6C3-Tg [APPswePSENl dE9] 85Dbo/J系統、保管番号004462)から購入した。
【0097】
長寿欠陥性(compromised)IISマウス
一方のIgf1rコピー(S129背景[Holzenberger et al,2003])のみを有する雄を、Jeffery Friedman博士(TSRI、La Jolla、CA)から取得した。両方の系統の雄を、3世代、「野生型」129雌(Jackson laboratories、129Xi/SvJ系統、保管番号000691)と交配し、2つの独立した群を設定した。各群のマウスを、さらに2世代戻し交配した。次に、Igf1r+/-雄をAD雌と3世代交配し、実験用マウスを作製した。
【0098】
DNAをマウス尾部の生検材料から精製し、PCRに供した。APPsweおよびPS1ΔE9を、Jackson Laboratoriesに指示されたとおりに増幅した。プライマーを用いてIgf1rを増幅した。
【0099】
ウエスタンブロット解析
脳を切開し、ホモジナイズし、超遠心分離(100,000g、1時間、4℃)によって、サイトゾル画分と膜(粒状)画分に分けた。WB解析のため、Lowry法によってアッセイされたサイトゾル画分および粒状画分のレーンあたり15μgを、10%SDS-PAGEゲルに負荷し、ニトロセルロース紙上にブロットした。ブロットをAPP/Aβ(6E10)、Aβ(82E1)、およびC末端APP(CT-15、Ed Koo博士のご好意)に対する抗体とともにO/Nインキュベートした。次に、膜を、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(1:5000、Santa Cruz Biotechnology,Inc.,Santa Cruz、CA)でタグ化した二次抗体とともにインキュベートし、増強化学発光によって可視化し、Versadoc XL画像形成装置(Bio-Rad、Hercules、CA)を用いて解析した。アクチンを負荷の対照とした。
【0100】
Rota Rod
Rota Rodシステム(EconoMex、Columbus Instruments、Columbus、OH)を用いて運動を試験した。4匹のマウスを、ある時間点で、0.2rpm/秒で加速するように設定した回転光線上に置いた。
【0101】
開始から各マウスが落下するまでの時間を記録した。各マウスは、実験前に1日、5回訓練した。各マウスを1日5回、連続4日間(合計20回の測定/マウス/年齢)試験した。遺伝子型1つあたり少なくとも12匹の動物(雄および雌)を、各時間点で使用した(補足統計データ)。
【0102】
モリス水迷路
モリス水迷路を、さきに記載のようにして行なった(Jensen et al,2005)。簡単には、4つの遺伝子型の11〜15ヶ月齢マウスをケージあたり動物1匹で入れ、実験中の遺伝子型の同定を回避するため、無作為に番号付けした。直径120cmのプラスチック槽を室温(RT)の水(23℃)で満たし、これを、白色の無毒性塗料で不透明にした。透明なプラットフォーム(8cm×12cm)を4つの事実上四分円に分けたうちの1つの中央に配置し、水面下の0.5cmに沈めて見えないようにした。すべての実験で、空間的参照として遠位キューを提供した。プラットフォームを見つけるまで、または最大60秒間、マウスを泳がせた。試行間に、マウスをプラットフォーム上で15秒間休息させた。すべての実験設定において、本発明者らは、ビデオ追跡システム(Ethovision;Noldus Information Technology、Leesburg、VA)を使用し、泳いだ距離、泳いだ速度、プラットフォーム達するのにかかった時間(待機)、および各四分円で費やした時間を記録し、解析した。実験は、以下の順:キュー付きのプラットフォーム(連続4日間)、隠したプラットフォーム(連続4日間)、プローブトライアル(1日)で行なった。使用した動物の数は13(WT)、12(Igf1r+/-)、8(AD)、and 15(AD;Igf1r+/-)であった。
【0103】
キュー付きのプラットフォーム
キュー付き型の水迷路試験では、プラットフォームを不透明な水面下0.5cmに配置したが、プラットフォーム上に水玉模様の旗(3cm×4cm)を有する15cmの高さの棒を配置することにより、マウスに明白に見えるようにした。プラットフォーム位置は実験全体を通して固定した。マウスは、水槽に沿った4つの異なる位置から解放した。
【0104】
隠したプラットフォーム
プラットフォームは、キュー付きのプラットフォーム実験で使用したものと同じ位置に不透明な水面下0.5cmに配置したが、水玉模様の旗はなしとし、見えないようにした。マウスは、槽に沿った4つの異なる位置から解放した。待機時間、泳いだ速度、距離、および各四分円で費やした時間を記録した。
【0105】
プローブトライアル
プラットフォームを取り除き、マウスを40秒間泳がせた。各四分円および先のプラットフォーム位置で費やした時間、先でプラットフォームを配置した領域を横断した回数、泳いだ速度および距離を記録した。
【0106】
サイズ排除クロマトグラフィー
AKTA FPLCシステムに取り付けたSuperdex 75 10/300 GLカラム(Cat # 17-5174-01 GE Healthcare、Uppsala Sweden)を用いて、マウス脳由来のAβオリゴマーを分離した。カラムは、低MW較正キット(GE Healthcare cat # 28-4038-41)を用いて較正した。次いで、250μlの10%(w/v)マウス脳ホモジネート(PBS中)をカラムに注入し、50mM酢酸アンモニウム(pH8.5)で、0.5ml/分の流速で溶出した。上記に記載のようにして、20個の1ml画分を収集し、凍結乾燥させ、120μlのPBSと40μlのLDS試料バッファー中に再懸濁し、10分間煮沸し、4%〜12%Bis-Trisゲル上で分離した。
【0107】
形態学的および包埋後免疫電子顕微鏡検査
WT、Igf1r+/-、AD、およびAD;Igf1r+/-マウスを、表示した年齢で屠殺した。各マウス脳由来の皮質片を、PBS中冷2%パラホルムアルデヒドおよび0.25%グルタルアルデヒド中で24時間固定した後、PBS中で洗浄し、PBS中1%四酸化オスミウム中で後固定した。試料をPBS中で洗浄し、等級化エタノール溶液中、続いてプロピレンオキシド中で脱水し、Epon/Araldite 混合物(Cat # 13940、Electron Microscopy Sciences、Hatfield、PA)中に包埋した。重合された樹脂を、ダイアモンドナイフ(Diatome、Hatfield、PA)を用いて切片(70nm)にし、免疫標識のために、非コーティング400メッシュニッケルグリッド(Cat# G400-Ni、Electron Microscopy Sciences)上にマウントした。m-過ヨウ素酸ナトリウム飽和水溶液を用いて抗原回復を10分間行なった後、TBS(50mmol/lのTris-HCl、150mmol/lのNaCl [pH7.4])で洗浄した。切片を、TBS中3%ウシ血清アルブミン(BSA)中で30分間バックグラウンドブロックした後、ペプチド(Cat # AB5078P Chemicon-Millipore、Temecula、CA)のC末端を認識する一次Aβ1-42アフィニティ精製したポリクローナルウサギ抗体中、1:50 TBS中で中1%BSA 室温で一晩インキュベーションした。切片をTBS中で3回洗浄し、TBS中3%BSA中で30分間ブロックした後、TBS中1%BSA中で1:100に希釈した10nm金粒子(Cat # EM PAGlO BB International、Cardiff、UK)にコンジュゲートしたプロテインA中、室温で2時間インキュベーションし、TBS中で3回、H2O中で3回すすぎ、風乾した。50%エタノール中2%酢酸ウラニルで10分間、およびレイノルドのクエン酸鉛溶液(120mmol/lのクエン酸ナトリウム、25mmol/lのクエン酸鉛[pH12])中で1.5分間でコントラストを上げた。被検物を、Jeol 100CX電子顕微鏡(Jeol、Akishima、Tokyo、Japan)において100kVで試験した。電子顕微鏡写真を、Mega View III CCDカメラ(Soft ImagingSystem GmbH、Muenster、Germany)およびAnalysis Pro v 3.2デジタルmicrographソフトウェア(Soft ImagingSystem GmbH)で撮影した。
【0108】
インビトロ速度論Aβ凝集アッセイ
1-40ペプチド(リン酸バッファー:300mM NaCl、50mM リン酸Na[pH7.4]中10μM)をThT(20μM)で標識した。マウス脳ホモジネートを40分間超音波処理し(FS60、Fisher Scientific、Pittsburg、PA)、プロテイナーゼK(2時間、0.2μg/ml)で処理し、完全無EDTAプロテアーゼインヒビターカクテル(cat#1836170 Roche、Basel Switzerland)を添加した。3等分(各々100μlの、総タンパク質濃度10μg/ml)を各反応のために96ウェルマイクロプレート(Costar black、clear bottom)に移した。プレートをGemini SpectraMax EM蛍光プレートリーダー(Molecular Devices、Sunnyvale、CA)に入れ、37℃でインキュベートし、各読み取りの前に5秒間振って、蛍光(440nmで励起、485nmで発光)を底面から10分間隔で測定した。最大の半分の蛍光の時間点(t50)を、ThT蛍光が凝集前ベースラインと凝集後ベースラインの中間に達する時間点と規定した。蛍光トレースおよびt50値は、少なくとも3回の独立した実験の平均を表す。
【0109】
RNAの単離および定量的RT-PCR
脳をマウスから取り出し、フラッシュ凍結した。約30mgの組織を各前脳から切り出し、500μlのQiazol(Cat # 79306 Qiagen、Hilden Germany)に移し、シリンジと針を用いてホモジナイズし、-80℃で4時間凍結した。試料を解凍し、120μlのクロロホルムを添加し、10分間(18,000g)スピンした。RNeasyキット(Qiagen cat # 74106)を用いて上清みから全RNAを単離した。Quanti Tectキット(Qiagen cat # 204341)を用いて1μg RNAからcDNAを調製した。定量的PCR反応のため、10倍希釈物を使用した。SybrGreenリアルタイムqPCR実験を、ABI Prism7900HT(Applied Biosystems)を用いてマニュアルに記載のようにして行なった。SDS2.1ソフトウェア(Applied biosystems)を用いて定量を行ない、β-アクチンcDNAの対照レベルに対して標準化した。
【0110】
Aβのブロッティングおよび検出
Aβオリゴマー解析
各マウス脳から前方半球(ほぼ100mg)を取り出し、700μlのPDGFバッファー(1mM HEPES、5mM ベンズアミジン、2mM β-メルカプトエタノール、3mM EDTA、5mM 硫酸マグネシウム、0.05%アジ化ナトリウム、pH8.8)およびホスファターゼおよびプロテアーゼインヒビターカクテル(Calbiochem、San Diego、それぞれ、CA cat # 524625および539134)を添加した。脳を超音波処理し、スピンした(5分間、5000rpm、デスクトップ遠心機)。ペレットに500μlのPDGFバッファーを添加し、再度超音波処理した(全体)。上清みを100,000rpm、4℃で1時間スピンした(Beckman TL-100デスクトップ超遠心機、回転機TL-120.2、gav=355,000g)。超遠心分離の上清みを新たなチューブ(Cytosolic)に移し、一方、ペレットを300μlのPDGFバッファー(Particulate)中に再懸濁した。BCAキットを用いて総タンパク質量を測定した。等しい総タンパク質量を4〜12%Bis-Trisゲル(Invitrogen、Carlsbad、CA cat # NP0322)上で分離し、ニトロセルロース膜(Protean 0.2μm Whatman、Dassel Germany)上に移し、6E10 Aβ抗体(SIG-39320 Covance Emeryville、CA)でブロットした。Lumi-light plusキット(Roche、Basel Switzerland)を用いてECLを開発した。ウエスタンブロット(ProSci Inc.,CA)を用いてBACEのレベルを測定し、モノクローナル特異的抗体(Abeam、MA)を用いてADAM17(TACE)を検出し、Mabl501抗体(Millipore、MA)を用いてアクチンをブロットした。
【0111】
免疫組織化学(IHC)
組織の処理
脳を矢状方向に(sagitally)取り出し、分割した。左半球脳は、リン酸緩衝4%パラホルムアルデヒド(pH7.4)中で4℃にて48時間後固定し、Vibratome 2000(Leica、Germany)を用いて40μmの切片にしたが、右半球脳はスナップ凍結し、タンパク質解析のために-70℃で保存した。
【0112】
神経変性の解析およびAβ沈着の解析
神経変性を評価するため、盲検的にコード化した40um厚のビブラトーム切片を、GFAP(大グリアマーカー、1:500、Chemicon)またはシナプトフィシン(Millipore、MAB5258)のNeuN(一般的なニューロンマーカー、1:1000、Chemicon)に対するモノクローナル抗体で、先に記載のようにして免疫標識し、ジアミノ-ベンジジン(DAB)と反応させた。抗Neuで免疫染色した切片を、Stereo-Investigator Software(MBF Biosciences)を用いて解析した。光学検出法に従って収集した画像を、先に記載のようにして(Chana et al. 2003)解析した。抗GFAPで免疫染色した切片について、Olympusデジタル顕微鏡(BX51)で組織を画像化し、ImageQuantプログラムを用いて画像を解析し、補正光学密度のレベルを測定した。マウス1匹あたり3つの免疫標識切片を解析し、個々の測定値の平均を用いて群の平均を計算した。結果を105mm2あたりGFAP+細胞の平均数で示した。
【0113】
Aβ沈着物を、先に記載のようにして検出した。簡単には、ビブラトーム切片を4℃で、マウスモノクローナル抗体4G8(1:600、Senetek、Napa、CA)で一晩インキュベートした後、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)-コンジュゲート抗マウスIgG(Vector Laboratories)とともにインキュベーションした。LSCM(MRC 1024、BioRad)を用いて、先に記載のようにして(Mucke et al. 2000)切片を画像化し、NIH Image 1.43プログラムを用いてデジタル画像を解析し、Aβ沈着物で占められた面積の割合を調べた。マウス1匹あたり3つの免疫標識切片を解析し、個々の測定値の平均を用いて群の平均を計算した。
【0114】
Aβ沈着物の密度(densite)の解析のため、Aβ(82E1クローン、Aβ1-16に対して調製)に対する抗体で、先に記載のようにして(Rockenstein et al.,2007)切片を免疫標識し、DABと反応させた。各場合から、3つの連続した盲検的にコード化した切片を、デジタル明視野光学顕微鏡(Olympus、BX51)でスキャンした。各切片から、新皮質および海馬の4画像を得、ImageQuantプログラムを用いて光学密度のレベルについて解析した。結果を平均し、各場合の平均として示した。プロテイナーゼK(PK)処理を適用する場合、切片を、10ug/mlのPKとともに8分間インキュベートした後、特異的Aβ抗体(82E1)で免疫標識した。
【0115】
すべての切片を同じ条件下で同時に処理し、実験を2回実施して再現性を評価した。デジタルOlympusのOlympus 6OX(NA 1.4)対物レンズまたは、MRC 1024 LSCMシステム(BioRad)を取り付けたAxiovert 35 顕微鏡(Zeiss、Germany)上のZeiss 63X(NA 1.4)対物レンズを用いて画像化した(Masliah et al.,2000)。特異的一次抗体を確認するため、切片を一次抗体の非存在下(欠失)または免疫前血清および一次抗体単独で一晩インキュベートする対照実験を行なった。
【0116】
AβELISAアッセイ
マウス脳を中央の矢状方向に切除した。完全プロテアーゼインヒビターカクテル(Roche Cat#1836170)を含有する冷PBS中で、ガラス製組織磨砕機(885482、Kontes、Vineland、NJ)を用いて最終濃度10%w/vまで片半球をホモジナイズした。ホモジネートを短時間スピンして残屑を沈殿させた(5000rpm、3分間、デスクトップ遠心機)。上清みを新たなチューブに移し、再度スピンして非高度凝集Aβを沈殿させた(rcf=10,000g、10分間、4℃)。ELISAキットを製造業者の使用説明書に従って使用し、二次上清み中のAβ1-40およびAβ1-42含有量を測定した(それぞれ、Cat# SIG-38940およびSIG-38942、Covance、Emeryville、CA)。Aβ1-40アッセイには9ulの各上清みを使用し、72ulの各上清みを用いてAβ1-42を測定した。
【0117】
統計学的方法
データ解析は、パラメトリック線形モデル(一元もしくは二元分散解析)またはデータが正規分布していない場合はその同等ノンパラメトリック代用物を用いて行なった。フィッシャー-最小二乗差(LSD)によってポストホックペアワイズ対比(計画比較)を行なった。本発明の試験では、モリス水迷路における「プローブトライアル」の解析およびEM粒子強度の比較のために、この必要性が生じた。この目的のため、本発明者らは、クラスカル・ワリスノンパラメトリック検定、続いて、ポストホックマンホイットニーU 検定を用いて、対応するデータを解析した。すべての場合において、0.05より低いp値を有意とみなした。データが正規分布しているという帰無仮説を伴って、両側リリーフォーの完全適合度の検定を用いて、正規分布を検定した。すべてのデータ解析は、提供された統計学的ツールブックを実装することにより、Matlab(Mathworks Inc.)において行なった。皮質および海馬領域の両方のニューロン数(NeuN-based)データセットを、各年齢群について、一元配置ANOVA設計を用いて別々に解析した。12〜13ヶ月齢群の海馬数だけは、リリーフォースの正規化検定ができなかったため、クラスカル・ワリスノンパラメトリック検定を用いて解析した。テューキー・クレーマー検定によってポストホック比較を行なった。すべての解析において、95%の信頼性レベルをすべての年齢群に使用し、自由度は同じ(すなわち、df=3)であり、遺伝子型1つあたりの件数を以下の順:WT、IgfRl+/1、ADおよびAD:IgfRl+/-に示す。
【0118】
EM粒子解析
本発明者らは、金標識電子顕微鏡画像の自動デンシメトリー解析のための、無監督(unsupervised)アルゴリズムを開発した。アルゴリズムは、主に2つの工程:i)適応的(adaptive)閾値決定(thresholding)による金粒子セグメント化ii)各標識粒子周囲に位置する目的領域(ROI)における強度測定前の金粒子除去からなる。金粒子のセグメント化ため、本発明者らは、各画像に対して適応的閾値選択を使用する。まず、この(thi)アルゴリズムは、異なる閾値でのセグメント化の結果の調査の実施からなる。次いで、この調査に基づき、無視できる偽陽性率と合わせて高い検出率がもたらされるような閾値を選択する(図13C)。3つのセグメント化期間(regime)が低閾値レベル(図13CおよびDのth1)において示され、対象物(object)はセグメント化しない。閾値を上げるにつれて、対象物は検出され始める。その3次元的性質により、金標識粒子のコアは、中心でより高い密度(したがって、より低いグレイスケール値)を有する。そのため、対象物メジアン面積は、閾値とともに、いくらかのバックグラウンドピクセルがセグメント化結果に含まれ始める点まで増加し、この点において、平均対象物面積は減少し始め、対象物の数は増加し始める(第2期間)。th2閾値が選択されるのは、この期間である(図13C)。図13Eは、適応的閾値選択により、満足なセグメント化がもたらされることを示す。閾値のさらなる増大により、対象物の大きさのさらなる減少およびセグメント化対象物の数の高速増加がもたらされた(第3期間、th3およびその対応するセグメント化結果(図13CおよびF)。次に、セグメント化対象物をその面積によってフィルタリングし、2.5%分位より小さいか97.5%分位より大きい、または9nm2小さいか180nn2より大きい領域を有するいずれかをアウトライアーとみなした;これらの値は、小さい差込データセット(n=10画像)のセグメント化の結果の検査によって得た。次いで、セグメント化され、面積フィルタリングされた各金粒子の中心周囲の約500nm2(41×41ピクセル)のROIにおいて斑密度を推定する。不偏的測定を得るため、適切な閾値の推定後、金粒子を除去し、ここで、再度、このプロセスを各ROIについて別々に行なう。この閾値は、その主要対角線に沿った、およびROIの中心のピクセルラインに沿った画像のサンプリングによって得られた4つの組の強度プロフィールに基づいて推定する(かかる単一の画像プロフィールを図13Gに示す)。各強度プロフィールを処理し、単一の閾値推定値を得、次いで、これらの推定値のメジアンをコンピュータ計算し、さらに実行する。まず、プロフィールの逆関数次いで、最大値の0.05%における閾値をコンピュータ計算する。この工程の目的は、金粒子に属する画像プロフィールに沿ったピクセルと、属さないピクセルとの明白な境界を提供することである。次に、強度プロフィールの中心から開始して、ゼロである左と右の最初の位置を選択し、画像プロフィールに沿ったその値を単一の閾値推定値とする。そうすることにより、現状のROIに含まれたかもしれない他の粒子の測定が回避される。かかる粒子が存在する場合、メジアン推定閾値をROIに適用した場合、これらも除去される。金粒子の除去後、残りのピクセルについて総強度を測定し(図13Iの「包含」領域)、その対応する面積で割ると、その対応するメジアングレイレベル強度によって斑密度の推定値が得られる。このアルゴリズムはMatlab(Matworks,Inc.)において実行された。
【0119】













【0120】
本発明を、その好ましい態様を参照して具体的に示し、記載したが、形態および詳細における種々の変形が、添付の特許請求の範囲によって包含される本発明の範囲から逸脱せずになされ得ることは、当業者によって理解されよう。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能獲得疾患に苦しむ患者の治療方法であって、前記患者においてIGF-1シグナル伝達を低下させる薬剤の治療有効量を前記患者に投与する工程を含み、該機能獲得疾患が神経変性疾患である、方法。
【請求項2】
機能獲得疾患がアルツハイマー病である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
IGF-1シグナル伝達を低下させる薬剤が、IGF1受容体(IGF-1R)へのリガンドの結合を阻害する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
リガンドがIGF-1である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
該薬剤が受容体アンタゴニストである、請求項3記載の方法。
【請求項6】
該薬剤が小分子およびタンパク質からなる群より選択される、請求項5記載の方法。
【請求項7】
タンパク質が抗IGF-1R抗体である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
該薬剤が可溶性IGF-1Rである、請求項3記載の方法。
【請求項9】
該薬剤が血清中のIGF-1のレベルを減少させる、請求項2記載の方法。
【請求項10】
該薬剤が脳内のIGF-1のレベルを減少させる、請求項2記載の方法。
【請求項11】
該薬剤がIGF-1Rの発現を低減させる、請求項2記載の方法。
【請求項12】
該薬剤がアンチセンス核酸またはRNA干渉剤である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
該薬剤が小分子である、請求項11記載の方法。
【請求項14】
該薬剤がFOXO転写因子を活性化させる、請求項2記載の方法。
【請求項15】
FOXO転写因子を活性化させる薬剤が、FOXO転写因子の脱アセチル化を増大させる薬剤、FOXO転写因子のリン酸化を減少させる薬剤、FOXO転写因子の核移行を促進させる薬剤、およびFOXO転写共調節因子への結合を増大させる薬剤からなる群より選択される、請求項14記載の方法。
【請求項16】
該薬剤がIGF-1Rのリン酸化を阻害する、請求項2記載の方法。
【請求項17】
Aβ過剰凝集の誘導を必要とする患者においてAβ過剰凝集を誘導する方法であって、該患者に、IGF-1シグナル伝達を低下させる薬剤の治療有効量を投与する工程を含む、方法。
【請求項18】
IGF-1シグナル伝達を低下させる薬剤がIGF-1Rへのリガンドの結合を阻害する、請求項17記載の方法。
【請求項19】
該薬剤が受容体アンタゴニストである、請求項18記載の方法。
【請求項20】
該薬剤が小分子およびタンパク質からなる群より選択される、請求項19記載の方法。
【請求項21】
タンパク質が抗IGF-1R抗体である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
該薬剤が可溶性IGF-1Rである、請求項21記載の方法。
【請求項23】
該薬剤が血清中のIGF-1のレベルを減少させる、請求項17記載の方法。
【請求項24】
該薬剤が脳内のIGF-1のレベルを減少させる、請求項17記載の方法。
【請求項25】
該薬剤がIGF-1Rの発現を低減させる、請求項17記載の方法。
【請求項26】
該薬剤がアンチセンス核酸またはRNA干渉剤である、請求項25記載の方法。
【請求項27】
該薬剤が小分子である、請求項25記載の方法。
【請求項28】
該薬剤がFOXO転写因子を活性化させる、請求項17記載の方法。
【請求項29】
FOXO転写因子を活性化させる薬剤が、FOXO転写因子の脱アセチル化を増大させる薬剤、FOXO転写因子のリン酸化を減少させる薬剤、FOXO転写因子の核移行を促進させる薬剤、およびFOXO転写共調節因子への結合を増大させる薬剤からなる群より選択される、請求項28記載の方法。
【請求項30】
該薬剤がIGF-1Rのリン酸化を阻害する、請求項17記載の方法。
【請求項31】
Aβタンパク質毒性の低下を必要とする患者においてAβタンパク質毒性を低減させる方法であって、該患者に、IGF-1シグナル伝達を低下させる薬剤の治療有効量を投与する工程を含む、方法。
【請求項32】
IGF-1シグナル伝達を低下させる薬剤がIGF-1Rへのリガンドの結合を阻害する、請求項31記載の方法。
【請求項33】
該薬剤が受容体アンタゴニストである、請求項32記載の方法。
【請求項34】
該薬剤が小分子およびタンパク質からなる群より選択される、請求項33記載の方法。
【請求項35】
タンパク質が抗IGF-1R抗体である、請求項34記載の方法。
【請求項36】
該薬剤が可溶性IGF-1Rである、請求項32記載の方法。
【請求項37】
該薬剤が血清中のIGF-1のレベルを減少させる、請求項31記載の方法。
【請求項38】
該薬剤が脳内のIGF-1のレベルを減少させる、請求項31記載の方法。
【請求項39】
該薬剤がIGF-1Rの発現を低減させる、請求項32記載の方法。
【請求項40】
該薬剤がアンチセンス核酸またはRNA干渉剤である、請求項39記載の方法。
【請求項41】
該薬剤が小分子である、請求項40記載の方法。
【請求項42】
該薬剤がFOXO転写因子を活性化させる、請求項40記載の方法。
【請求項43】
FOXO転写因子を活性化させる薬剤が、FOXO転写因子の脱アセチル化を増大させる薬剤、FOXO転写因子のリン酸化を減少させる薬剤、FOXO転写因子の核移行を促進させる薬剤、およびFOXO転写共調節因子への結合を増大させる薬剤からなる群より選択される、請求項42記載の方法。
【請求項44】
該薬剤が脳内のIGF-1のレベルを減少させる、請求項31記載の方法。
【請求項45】
該薬剤がIGF-1Rのリン酸化を阻害する、請求項31記載の方法。


【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図6−3】
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【図7】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図8−3】
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【図8−4】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図10−1】
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【図10−2】
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【図10−3】
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【図11】
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【図12】
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【図13−1】
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【図13−2】
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【図13−3】
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【図13−4】
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【図13−5】
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【図13−6】
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【図14−1】
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【図14−2】
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【図15−1】
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【図15−2】
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【図15−3】
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【図15−4】
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【図16−1】
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【図16−2】
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【図17−1】
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【図17−2】
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【図18】
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【図19】
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【図20−1】
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【図20−2】
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【図21】
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【公表番号】特表2012−513477(P2012−513477A)
【公表日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−543678(P2011−543678)
【出願日】平成21年12月23日(2009.12.23)
【国際出願番号】PCT/US2009/069410
【国際公開番号】WO2010/075511
【国際公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(511154205)ソーク インスティチュート フォー バイオロジカル スタディーズ (1)
【Fターム(参考)】