説明

神経幹細胞の分化およびその治療用途

【課題】本発明は、インビトロまたはインビボにて、神経系細胞(ニューロンまたはグリア細胞を含む)を選択的に産生する方法を提供する。また、神経系細胞を産生することによって神経変性疾患または病状を処置または緩和させる方法を提供する。
【解決手段】神経前駆細胞またはグリア前駆細胞を産生するために、種々の因子の組み合わせを、2つの工程:神経幹細胞の数を増加させる工程、およびニューロンまたはグリア細胞に選択的になるように神経幹細胞を指示する工程を達成するために用いる。また、神経変性疾患または病状を処置または緩和するために、(a)神経幹細胞の数を増加させ得る該因子を哺乳動物に投与し;および(b)限定された系統の細胞の産生を促進する条件下に、この哺乳動物を供し;これによって限定された系統の細胞の産生を促進させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、インビトロまたはインビボにて、神経系細胞(neural cell)(例えば、ニューロンまたはグリア細胞)を選択的に産生する方法に関する。また、神経系細胞を産生することによって神経変性疾患または病状を処置または緩和させる方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
近年、神経変性疾患は、これらの障害に関する多大な危険のある高齢者の増加に起因して、重大な懸念となっている。神経変性疾患としては、中枢神経系(CNS)の特定部位における神経系細胞の変性に関連している疾患が挙げられ、意図された機能を実行するこれらの細胞の能力を不能にする。これらの疾患としては、アルツハイマー病、多発性硬化症(MS)、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、およびパーキンソン病が挙げられる。さらに、おそらく(罹患した人の数に対する)CNS機能不全の最大領域は、神経系細胞の欠損によってではなく、存在する神経系細胞の異常な機能によって特徴付けられている。これは、ニューロンの不適切な興奮、または神経伝達物質の異常な合成、放出、およびプロセシングに起因し得る。これらの機能不全は、うつ病および癲癇のような十分に研究され特徴付けられた障害、または壊死および精神病のようなあまり理解されていない障害の結果であり得る。さらに、脳損傷は、しばしば、神経系細胞の欠損、罹患した脳の部位の不適切な機能、およびその結果の行動異常を生じる。
【0003】
従って、神経変性疾患または神経変性状態を処置するために、変性したニューロン/グリア細胞または欠損したニューロン/グリア細胞を補償するように脳に神経系細胞を供給することが望ましい。この目標のための1つのアプローチは、患者の脳に神経系細胞を移植することである。このアプローチは、好ましくは、対移植片性宿主拒絶(host−versus−graft−rejection)もしくは対宿主性移植片拒絶が最小になり得るように、同じ個体または非常に関連する個体に由来する神経系細胞の多量の供給源を必要とする。1人の人物から多量のニューロンまたはグリア細胞を取り出し、別の人物に移植することは現実的ではないので、多量の神経系細胞を培養する方法が、このアプローチの成功には必須である。
【0004】
別のアプローチは、欠損または変性した細胞を補償するために、インサイチュで神経系細胞の産生を誘導することである。このアプローチは、脳(特に生体の脳)において神経系細胞を産生することが可能であるか否か、およびその方法についての広い知識を必要とする。
【0005】
多能性神経幹細胞の単離およびインビトロ培養についての技術(例えば、米国特許第5,750,376号;同第5,980,885号;同第5,851,832号を参照のこと)の開発は、両方のアプローチの見込みを非常に増大させた。胎児の脳は、インビトロにて多能性神経幹細胞を単離し、そして培養するために用いられ得ることが発見された。さらに、対照的に、生体の脳細胞は、脳細胞を複製または再生できないと長い間考えられてきたが、神経幹細胞は、生体の哺乳動物の脳からも単離され得ることが発見された。胎児または生体の脳のいずれかに由来するこれらの幹細胞は、自己複製し得る。子孫細胞は、再び増殖し得るか、または神経系の細胞系統(ニューロン、アストロサイトおよびオリゴデンドロサイトを含む)の任意の細胞に分化し得る。それゆえ、これらの知見は、移植に用いられ得る神経系細胞の供給源を提供するだけでなく、成体脳における多能性神経幹細胞の存在およびインサイチュにおいてこれらの幹細胞からニューロンまたはグリア細胞を産生する能力もまた、実証する。
【0006】
(参考文献)
【数1】

【数2】

【0007】
【数3】

【0008】
本明細書において上または他の部分に引用される刊行物、特許および特許出願の全ては、各個々の刊行物、特許または特許出願の開示がその全体において参考として援用されることが具体的にかつ別個に示されるのと同じ程度まで、その全体が参考として本明細書中に援用される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、以下の2つの目的のために、神経幹細胞を効果的に増殖させるための方法を開発することが望ましい:移植治療に用いられ得る、より多くの幹細胞および神経系細胞を得ること、ならびにインサイチュでより多くの幹細胞を産生するために用いられ得る方法を同定すること。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の要旨)
本発明は、インビトロまたはインビボで神経系細胞を産生する2工程の方法に関する。本発明者らは、多能性神経幹細胞(NSC)による神経新生およびグリア新生が、増殖および方向付けられた分化に関わることを発見した。図1に示されるように、EGF(すなわち、EGFの成体ホモログのTGFα)は、NSC集団の自己複製/増殖(expansion)を誘導する。NSCは、グリア前駆細胞(GPC)になる規定の経路において自然発生的な分化を起こす。この自然発生的な分化は、毛様体神経栄養因子(CNTF)によって減弱され得る。GPCは、グリア細胞に分化する(この分化は、EGFによって促進される)。あるいは、NSCは、ニューロンだけを産生する神経前駆細胞(NPC)に分化するように、EPOおよび/またはPACAP/cAMPによって指示を受け得る。
【0011】
従って、以下の2工程プロセスは、ニューロンまたはグリア細胞を産生するために使用され得る:(1)NSCの数を増加させる工程;および(2)ニューロンまたはグリア細胞の産生を選択的に促進する適切な条件にNSCを供することによって、ニューロンまたはグリア細胞のいずれかにNSCの分化を促進させる工程。
【0012】
従って、本発明の1つの局面は、神経前駆細胞またはグリア前駆細胞を産生する方法を提供し、この方法は、以下:
(a)少なくとも1つの神経幹細胞を提供する工程;
(b)該神経幹細胞を、プロラクチン、成長ホルモン、エストロゲン、毛様体神経栄養因子(CNTF)、下垂体アデニレートシクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、形質転換成長因子α(TGFα)および上皮成長因子(EGF)からなる群より選択される因子の、該神経幹細胞の数を増加させるのに十分な量
と接触させる工程;および
(c)工程(b)からの該神経幹細胞を、エリスロポエチン(EPO)、PACAP、プロラクチン、セロトニン、骨形成因子(BMP)およびcAMPからなる群より選択される因子の、該神経幹細胞から神経前駆細胞またはグリア前駆細胞の産生を促進させるのに十分な量と接触させる工程;
を包含する方法であって、
但し、工程(b)の因子がEGFまたはFGFである場合、工程(c)の因子はPACAPまたはプロラクチンである。
【0013】
従って、工程(b)は、神経幹細胞の数を増加させるために実施され、この工程は、以下の少なくとも1つによって達成され得る:
(i)例えば、EGFを提供することによって、神経幹細胞の増殖を増大させる工程;
(ii)例えば、CNTFを提供することによって、神経幹細胞の自然発生的な分化を阻害する工程;または
(iii)例えば、エストロゲンを提供することによって、神経幹細胞の生存を促進する工程。
【0014】
これらの2工程(NSC数を増加させる工程およびニューロンまたはグリアの産生を促進する工程)は、連続してか、または同時に実施され得る。工程(b)は工程(c)の前に実施されることが好ましい。
【0015】
これらの因子は、当該分野において確立された任意の方法によって提供され得る。例えば、血管内投与、髄腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、腹腔内投与、局所的投与、経口的投与、直腸内投与、膣内投与、鼻腔内投与、吸入投与され得るか、または脳内に投与され得る。この投与は、好ましくは、全身的に、特に皮下投与によって実施される。これらの因子はまた、哺乳動物において内因性因子の量を増大させ得るのに有効な量を、哺乳動物に投与することによって提供され得る。例えば、哺乳動物におけるプロラクチンのレベルは、プロラクチン放出ペプチドを使用することによって増加され得る。
【0016】
これらの因子が脳内に直接的に送達されない場合、血液脳関門透過剤は、必要に応じて、脳への侵入を促進するために含まれ得る。血液脳関門透過剤は、当該分野で公知であり、そしてこれらとしては、例えば、ブラジキニンおよびブラジキニンアゴニスト(米国特許第5,686,416号;同第5,506,206号および同第5,268,164号(例えば、NH−アルギニン−プロリン−ヒドロキシプロキシプロリン−グリシン−チエニルアラニン−セリン−プロリン−4−Me−チロシンΨ(CHNH)−アルギニン−COOH)に記載される)が挙げられる。あるいは、これらの因子は、トランスフェリンレセプター抗体(例えば、米国特許第6,329,508号;同第6,015,555号;同第5,833,988号または同第5,527,527号に記載される)に結合され得る。これらの因子はまた、トランスフェリンレセプターのような脳毛細管内皮細胞レセプター(例えば、米国特許第5,977,307号を参照のこと)と反応性である、因子およびリガンドを含む融合タンパク質として送達され得る。
【0017】
全年齢の哺乳動物は、この方法に供され得るが、哺乳動物は胚でないことが、好ましい。より好ましくは、哺乳動物は成体である。
【0018】
哺乳動物は、神経変性疾患または神経変性状態に罹患しているか、あるいはこれらを有すると疑われ得る。この疾患または状態は、脳の外科手術によって引き起こされる発作または損傷のような脳損傷であり得る。神経幹細胞の数が非常に減少することに関連する疾患または状態は、加齢であり得る。この疾患または状態はまた、神経変性疾患、特にアルツハイマー病、多発性硬化症、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、およびパーキンソン病であり得る。
【0019】
あるいは、神経幹細胞は、インビトロでの培養物として存在し得る。この細胞は、任意の年齢の哺乳動物由来であり得る。好ましくは、この動物は、胚ではなく、そして最も好ましくは、この動物は成体である。
【0020】
本発明の別の局面は、神経変性疾患または病状を処置または緩和するための方法を提供し、この方法は、(a)神経幹細胞の数を増加させ得る因子を哺乳動物に投与する工程;および(b)限定された系統の細胞の産生を促進する条件下に、この哺乳動物を供し;これによって限定された系統の細胞の産生を促進させる、工程を包含する。例えば、ニューロンは、EGFおよびEPOを投与することによって、欠損したニューロンまたは機能不全のニューロンを補償するように産生され得る。NSCの数を増加させ得る他の因子(例えば、CNTF、FGF、プロラクチン、成長ホルモン、IGF−1、PACAPまたはエストロゲン)もまた、EGFの代わりに使用されるか、またはEGFに加えて使用され得る。同様に、ニューロン産生を促進し得る他の因子(例えば、PACAPまたはcAMPレベルを高める因子)が、EPOの代わりに使用され得るか、またはEPOに加えて用いられ得る。
【0021】
欠損したグリア細胞または機能不全のグリア細胞を補償するようにグリア細胞を産生するためにEGFが投与され得、このEGFはNSC増殖を刺激し、その結果、NSCは規定によってグリア細胞に分化する。必要に応じて、神経経路のインヒビター(例えば、EPOの抗体およびcAMPシグナル伝達インヒビター)は、グリア産生を促進するために使用され得る。好ましくは、グリア形成を促進する因子(例えば、BMP)はまた、グリア細胞をさらに産生するために使用される。
【0022】
(発明の詳細な説明)
本発明は、インビトロまたはインビボで神経系細胞(ニューロンまたはグリア細胞を含む)を選択的に産生する方法に関する。また、神経系細胞を産生することによって神経変性疾患または病状を処置または緩和させる方法を提供する。従って、因子の組み合わせが、以下の2つの工程を達成するための使用される:神経幹細胞の数を増加させる工程およびニューロンまたはグリア細胞に選択的になるように、神経幹細胞に指示する工程。
【0023】
本発明をさらに詳細に記載する前に、本明細書中において使用される用語は、別の指示がない限り、以下のように定義される。
【0024】
(定義)
「神経幹細胞」は、神経系の細胞系統における幹細胞である。幹細胞は、自己再生し得る細胞である。言い換えると、幹細胞の分割から生じた娘細胞は幹細胞を含む。神経幹細胞は、神経系の細胞系統(ニューロン、アストロサイトおよびオリゴデンドロサイト(アストロサイロトおよびオリゴデンドロサイトは、グリアまたはグリア細胞の総称である)を含む)にける全ての細胞型に最終的に分化し得る。従って、本明細書中で言及される神経幹細胞は、多能性の神経幹細胞である。
【0025】
「ニューロスフェア(neurosphere)」は、クローンに増殖した結果として単一の神経幹細胞から誘導された細胞の群である。「初代ニューロスフェア」は、神経幹細胞を含む初代培養脳組織のプレーティングによって生成されるニューロスフェアをいう。ニューロスフェアを形成する神経幹細胞の培養方法は、例えば、米国特許第5,750,376号に記載されている。「二代目のニューロスフェア」は、初代ニューロスフェアをバラバラにすることによって生じ、そして個々のバラバラにした細胞がニューロスフェアを再び形成することを可能にするニューロスフェアをいう。
【0026】
「神経系細胞(neural cell)」は、神経系の系統の任意の細胞である。好ましくは、神経系細胞は、ニューロンまたはグリア細胞である。
【0027】
ネイティブな因子と「実質的な配列の類似性」を共有するポリペプチドは、ネイティブ因子とアミノ酸レベルで、少なくとも約30%同一である。このポリペプチドは、ネイティブ因子とアミノ酸レベルで、好ましくは少なくとも約40%、より好ましくは少なくとも約60%、さらにより好ましくは少なくとも約70%、そして最も好ましくは少なくとも約80%同一である。
【0028】
句、ネイティブ因子とアナログまたは改変体の「パーセント同一性」または「%同一性」は、2つの配列が整列した場合に、アナログまたは改変体にもまた見出される、ネイティブ因子のアミノ酸配列の割合をいう。パーセント同一性は、当該分野において確立された任意の方法またはアルゴリズム(例えば、LALIGNまたはBLAST)によって決定され得る。
【0029】
ポリペプチドは、ネイティブ因子に対するレセプターに結合され得るか、またはネイティブ因子に対して惹起されたポリクローナル抗体によって認識され得る場合に、ネイティブ因子の「生物学的活性」を有する。好ましくは、このポリペプチドは、レセプター結合アッセイにおいて、ネイティブ因子に対するレセプターに特異的に結合し得る。
【0030】
ネイティブ因子の「機能的アゴニスト」は、ネイティブ因子のレセプターに結合し、活性化する化合物であるが、ネイティブ因子と実質的な配列類似性を共有することは必須ではない。
【0031】
「プロラクチン」は、(1)ネイティブな哺乳動物プロラクチン、好ましくはネイティブなヒトプロラクチン(下垂体で主に合成される199アミノ酸のポリペプチド)と実質的な配列類似性を共有し;(2)ネイティブな哺乳動物のプロラクチンの生物学的活性を有する、ポリペプチドである。従って、用語「プロラクチン」は、ネイティブプロラクチンの欠失改変体、挿入改変体または置換改変体であるプロラクチンアナログを含む。さらに、用語「プロラクチン」は、他の種に由来するプロラクチンおよびその天然に存在する改変体を含む。さらに、用語「プロラクチン」は、他の種および天然に存在するそれらの改変体由来のプロラクチンを含む。
【0032】
さらに、「プロラクチン」はまた、ネイティブな哺乳動物プロラクチンレセプターの機能的アゴニストであり得る。例えば、機能的アゴニストは、以下であり得る:プロラクチンレセプターについての米国特許第6,333,031号に開示された活性化アミノ酸配列;プロラクチンレセプターに対するアゴニスト活性を有する金属錯体レセプターリガンド(米国特許第6,413,952号);G120RhGH(これは、ヒト成長ホルモンのアナログであるが、プロラクチンアゴニストとして作用する)(Modeら、1996);または米国特許第5,506,107号および同第5,837,460号に記載されるようなプロラクチンレセプターに対するリガンド。
【0033】
「EGF」は、ネイティブなEGFまたは任意のEGFのアナログもしくは改変体を意味し、このアナログまたは改変体は、ネイティブなEGFと実質的なアミノ酸類配列似性を共有し、そして少なくとも1つ、ネイティブEGFの有する生物学的活性(例えば、EGFレセプターへの結合)を共有する。特に、EGFとしては、任意の種のネイティブEGF、TGFα、または組換え改変EGFが挙げられる。特定の例としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:2つのC末端アミノ酸の欠失および51位での1つの中性アミノ酸置換を有する組換え改変EGF(特に、EGF51gln51;米国特許出願公開番号20020098178A1)、16位のHis残基が中性アミノ酸または酸性アミノ酸で置換されている、EGFムテイン(EGF−X16)(米国特許第6,191,106号)、ネイティブEGFのアミノ末端残基を欠く、EGFの52アミノ酸欠失改変体(EGF−D)、N末端残基ならびに2つのC末端残基(Arg−Leu)が欠失された、EGF欠失改変体(EGF−B)、21位のMet残基が酸化されているEGF−D(EGF−C)、21位のMet残基が酸化されているEGF−B(EGF−A)、ヘパリン−結合EGF様成長因子(HB−EGF)、βセルリン、アンフィレグリン(amphiregulin)、ニューレグリン(neuregulin)、または上記のいずれかを含む融合タンパク質。他の有用なEGFのアナログまたは改変体は、米国特許出願番号20020098178A1、ならびに米国特許第6,191,106号および同第5,547,935号に記載されている。
【0034】
さらに、「EGF」はまた、ネイティブの哺乳動物EGFレセプターの機能性アゴニストであり得る。例えば、機能性アゴニストは、EGFレセプターの活性化アミノ酸配列(米国特許第6,333,031号に開示される)、またはEGFレセプターに対してアゴニスト活性を有する抗体(Fernandez−Pol、1985および米国特許第5,723,115号)であり得る。
【0035】
「PACAP」は、ネイティブPACAP、あるいはネイティブPACAPと実質的なアミノ酸配列類似性を共有する任意のPACAPアナログまたは改変体、ならびにネイティブPACAPへの少なくとも1つの生物学的活性(例えば、PACAPレセプターへの結合)を共有する任意のPACAPアナログまたは改変体を意味する。有用なPACAPアナログおよび改変体としては、以下に限定されないが、PACAPの38アミノ酸改変体および27アミノ酸改変体(それぞれ、PACAP38およびPACAP27)、そして例えば、米国特許第5,128,242号;同第5,198,542号;同第5,208,320号;同第5,326,860号;同第5,623,050号;同第5,801,147号;ならびに同第6,242,563号に開示されるアナログおよび改変体が挙げられる。
【0036】
さらに、「PACAP」はまた、ネイティブの哺乳動物PACAPレセプターの機能性アゴニストであり得る。例えば、機能性アゴニストは、マキサディラン(maxadilan)(PACAP1型レセプターの特異的アゴニストとして作用するポリペプチド)(Moroら、1997)であり得る。
【0037】
「エリスロポエチン(EPO)」とは、ネイティブEPO、あるいはネイティブEPOと実質的なアミノ酸配列類似性を共有する任意のEPOアナログまたは改変体、ならびにネイティブEPOへの少なくとも1つの生物学的活性(例えば、EPOレセプターへの結合)を共有する任意のEPOアナログまたは改変体を意味する。エリスロポエチンアナログおよび改変体は、例えば、米国特許第6,048,971号および同第5,614,184号に開示される。
【0038】
さらに、「EPO」はまた、ネイティブの哺乳動物EPOレセプターの機能性アゴニストであり得る。例えば、機能性アゴニストは以下のものであり得る:EMP1(EPO擬態ペプチド1、Johnsonら、2000);EPOの短いペプチド擬態の1つ(Wrightonら、1996および米国特許第5,773,569号に記載される);任意の低分子EPO擬態(Kaushansky、2001に開示される);EPOレセプターを活性化する抗体(米国特許第5,885,574号、WO96/40231、WO97/48729、Fernandez−Pol、1985または米国特許第5,723,115号に記載される);活性化アミノ酸配列(米国特許第6,333,031号にEPOレセプターについて開示される);EPOレセプターに対してアゴニスト活性を有する金属錯体化レセプターリガンド(米国特許第6,413,952号);またはEPOレセプターに対するリガンド(米国特許第5,506,107号および同第5,837,460号に記載される)。
【0039】
細胞型の形成の「増強」または「促進」は、その細胞型の数が増加することを意味する。従って、ある因子の存在下におけるニューロン数が、その因子の不存下におけるニューロン数より大きい場合に、その因子は、ニューロン形成を増強するために使用され得る。その因子の不存下におけるニューロン数は、0以上であり得る。
【0040】
「神経変性疾患または神経変性状態」としては、ニューロン欠損またはニューロン機能不全に関連する疾患または医学的状態である。神経変性疾患または神経変性状態の例としては、神経変性疾患、脳損傷またはCNS機能不全が挙げられる。神経変性疾患としては、例えば、以下のものが挙げられる:アルツハイマー病、多発性硬化症(MS)、黄斑変性、緑内障、糖尿病性網膜症、末梢神経障害、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、およびパーキンソン病。脳損傷としては、例えば、以下が挙げられる;発作(例えば、出血性発作、局所性の虚血性発作または全体的な虚血性発作);および外傷性脳損傷(例えば、脳外科手術または物理的な事故により引き起こされる損傷)。CNS機能不全としては、例えば、うつ病、てんかん、神経症および精神病が挙げられる。
【0041】
「治療または改善」とは、疾患または医学的状態の症状の軽減あるいは完全な除去を意味する。
【0042】
「神経変性疾患または神経変性状態を有すること疑われる」哺乳動物とは、神経変性疾患または神経変性状態と正式には診断されないが、神経変性疾患または神経変性状態の症状を示す哺乳動物であり、家族歴または遺伝素因に起因して神経変性疾患または神経変性状態と疑われるか、または、以前に神経変性疾患または神経変性状態を有しており、そして再発の危険にさらされている哺乳動物である。
【0043】
哺乳動物への組成物の「移植」は、当該分野において確立された任意の方法によって、哺乳動物の身体内へ組成物を導入することをいう。導入される組成物は「移植片」であり、哺乳動物は「レシピエント」である。移植片およびレシピエントは、同系、同種異系、または異種であり得る。好ましくは、移植は、自己移植である。
【0044】
「有効な量」は、意図する目的を達成するために十分な治療剤の量である。例えば、神経幹細胞の数を増加させるための因子の有効な量は、インビボまたはインビトロのいずれの場合もあり得るが、神経幹細胞数の増加という結果を生じさせるために十分な量である。神経変性疾患または神経変性状態を処置または改善するための組成物の有効な量は、神経変性疾患または神経変性状態の症状を軽減または取り除くのに十分な組成物の量である。所定の治療剤の有効な量は、因子(例えば、薬剤の性質、投与経路、治療剤を受ける動物のサイズおよび種、ならびに投与の目的)によって変化する。各個々の症例における有効な量は、当該分野において確立された方法に従って、当業者によって経験的に決定され得る。
【0045】
(方法)
神経幹細胞(NSC)(例えば、成体前脳において見出される神経幹細胞)は、限定された神経系前駆体およびグリア前駆体の供給源である可能性が高く、これらは、それぞれ例えば、嗅球および脳梁といった構造中に存在する。NSCが限定された前駆体を生じる機構は、本発明以前には不明である。
【0046】
本発明者らは、EGF応答性NSCが、グリア系列に徐々に限定されるようになることを見出した。このプロセスは、多分化能段階においてNSCを維持するために、notch1を通じて作用するCNTFによって遮断される。本発明者らは、エリスロポエチン(EPO)が、Mash1を利用する機構を通じて、制限された神経前駆体の産生を指示することを見出した。
【0047】
従って、本発明者らは、成体マウスの側脳室へ、CNTFまたはEPOのいずれかを6日間注入し、その後、本発明者らは、EGF−応答性NSCの総数を調べるために、成体の上衣/上衣下を全て取り出したか、または、神経前駆体のインビボでの産生を試験した。CNTF注入により、NSCの数が20〜25%増加しており、このことは、グリア前駆体へのNSC分化を妨げることによるという可能性が最も高い。EPO注入により、NSCの数が50%減少し、そして、同時に神経前駆体倍加が生じた。抗EPO抗体の注入により、NSCが20%増加した。それゆえに、EGF応答性NSCは、インビボで持続的にターンオーバーされ、その部分集団が、自発的に限定されたグリア前駆体へ分化し、一方、別の部分集団は、EPOによって限定された神経系列へと向う。
【0048】
図1に、この機構が示される。従って、EGF(またはその成体ホモログTGFα)は、NSC集団の自己再生/自己拡張を引き起こす。グリア細胞へと分化するグリア前駆細胞(GPC)となる初期経路として、NSCは自発的な分化を受ける。この自発的な分化は、CNTFによって減衰され得る。あるいは、ニューロンのみを産生する神経前駆細胞(NPC)へと分化するように、NSCは、EPOおよび/またはPACAP/cAMPによって指示され得る。
【0049】
この機構に基づいて、本発明者らは、神経系細胞を産生するための2段階の方法を開発した。第1の工程は、神経幹細胞の数を増加させることであり、それは、例えば、神経幹細胞を(例えば、EGF、FGF−1、FGF−2、TGFα、エストロゲン、プロラクチン、PACAP、成長ホルモン、および/またはIGF−1によって)増殖させること、神経幹細胞の自発的な分化を(例えば、CNTFによって)阻害すること、および/または神経幹細胞の生存を(例えば、エストロゲンによって)促進させることによって達成され得る。第2の工程は、神経幹細胞からの神経形成またはグリア形成を増強することである。例えば、エリスロポエチン、プロラクチン、セロトニン、PACAPおよび/サイクリックAMPが、ニューロン形成を増強させるために使用され得、一方、骨形態形成タンパク質(BMP)が、グリア形成の増強のために使用され得る。
【0050】
本発明の方法は、インビボまたはインビトロで使用され得る。インビトロでは、本発明は、多数の神経系細胞を生じ、これは、研究または治療目的において使用され得る。特に、神経系細胞は、神経変性疾患または神経変性状態の移植処置において使用され得る。インビボでは、本発明の方法は、インサイチュで神経幹細胞の数を増加し得、そして神経幹細胞の拡大したプールからの神経形成またはグリア形成を増強し得る。生じた神経系細胞は、神経学的機能を増強するために、神経系において適切な位置へ移動し得るか、または、欠損もしくは機能不全の神経系細胞を補強し得る。さらに、インビボ適用およびインビトロ適用は、組み合わせ得る。従って、神経系細胞、特にインビトロで本発明の方法によって産生される神経幹細胞は、動物へ移植され得、そして、第2の工程の因子が、インビボで神経系細胞の分化を増強するために、動物へと提供され得る。必要に応じて、第1の工程の因子はまた、引き続いてニューロン細胞またはグリア細胞へと変換され得る神経幹細胞の数をさらに増加させるために、動物へと提供され得る。
【0051】
1つの特に興味深い神経変性状態は、老化である。本発明者らは、脳室下帯における神経幹細胞の数が、老化したマウスにおいてはかなり減少していることを見出した。従って、本発明によって老化に関連する問題を改善することは、特に興味深いことである。
【0052】
さらに、脳室下帯における神経幹細胞は、嗅覚ニューロンの供給源であり、そして、嗅覚機能不全は、前脳神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病およびハンチントン病)の特徴である。嗅球への神経系細胞移動の中断は、嗅覚識別の欠損へとつながり、新しい嗅覚の介在ニューロン(interneuon)の倍加は、新しい匂いの記憶を増強させる(Rochefortら、2002)。それゆえに、嗅覚識別または嗅覚記憶、ならびに嗅覚および嗅覚識別に関連する生理学的機能(例えば、交配、子孫認識および成育)を増強させるために、本発明は使用され得る。
【0053】
本発明の別の特に重要な適用は、脳損傷(例えば、発作)の処置および/または改善である(実施例2)。発作を模倣する脳損傷を、ラットの運動野に導入し、そしてこの損傷されたラットは、その損傷の位置と相関する異常な行動を示した。次いで、これらのラットに7日間プロラクチンまたは成長ホルモン(これらは両方とも神経幹細胞増殖を増大し得る)を与えた。続いて、これらのラットにビヒクルコントロールまたはニューロン形成を増強するためのエリスロポエチンを7日間与えた。次いで、これらのラットを行動試験について一定期間観察し、そして解剖分析のために屠殺した。
【0054】
この結果は、プロラクチン処置および成長ホルモン処置の両方が、損傷したラットにおける運動機能の改善をもたらしたことを示す。エリスロポエチンの追加は、特にプロラクチンと組合せた場合に、さらにこの効果を増強した。解剖分析はまた、移動するニューロンおよび/または神経幹細胞の数が、プロラクチンまたは成長ホルモンを含む処置毎に増加したことを示す。実際、プロラクチンおよびエリスロポエチンの組合せは、大部分のラットにおける脳損傷により生成された空隙の完全または部分的な充てんさえ生じた。従って、これらの因子(特に、これらの組合せ)を使用して、神経系細胞を産生し得、そして脳損傷を有する動物における神経学的機能を修復し得る。
【0055】
興味深い知見は、プロラクチンおよび成長ホルモンが、異なる行動機能の修復をもたらしたことである。従って、これらのラットは、成長ホルモンを与えられた後のバランシングにおいて非対称的な前肢使用から回復し、一方、プロラクチンは、水泳の間の前肢の異常な位置付けを修正した。従って、異なる因子は、異なる神経機構に関与する、異なる細胞遊走パターンまたは異なる細胞の産生をもたらし得る。従って、複数の因子が、複雑な症状を有する疾患または状態の処置において組み合わされることが好ましい。好ましい組合せとしては、以下が挙げられる:
(a)プロラクチン、および神経分化またはグリア分化を増強する少なくとも1つの因子(例えば、EPO、PACAP、サイクリックAMPおよび/またはBMP);
(b)EGF、および神経分化またはグリア分化を増強する少なくとも1つの因子(例えば、プロラクチン、EPO、PACAP、サイクリックAMPおよび/またはBMP、特に、プロラクチンおよび/またはPACAP);
(c)プロラクチンと共に、神経幹細胞数を増加させる少なくとも1つの因子;
(d)PACAPと共に、神経幹細胞数を増加させる少なくとも1つの因子;
(e)EPOと共に、神経幹細胞数を増加させる少なくとも1つの因子;ならびに
(f)上記のものの組合せ。
【0056】
特に好ましい組合せとしては、以下が挙げられる:EGFおよびEPO、EGFおよびプロラクチン、EGFおよびPACAP、EGFおよび成長ホルモン(および/またはIGF−1)、EGFおよびプロラクチンおよび成長ホルモン(および/またはIGF−1)、EGFおよびプロラクチンおよびPACAP、プロラクチンおよび成長ホルモン(および/またはIGF−1)、プロラクチンおよび成長ホルモン(および/またはIGF−1)およびEPO、プロラクチンおよびPACAPおよび成長ホルモン(および/またはIGF−1)。最も好ましい組合せとしては、EGFおよびPACAP、EGFおよびプロラクチン、ならびにプロラクチンおよびPACAPが挙げられる。好ましくは、EGFは、使用されない。
【0057】
(組成物)
本発明は、神経幹細胞数を増加し得る少なくとも1つの因子、および神経幹細胞の分化を増強し得る少なくとも1つの因子を含む組成物を提供する。いくつかの因子(例えば、プロラクチン)は、両方の機能が可能であることに留意すべきである。PACAPはまた、神経分化を増強することに加えて、別のマイトジェンの存在下で神経幹細胞の増殖を増強する。
【0058】
本発明において有用な因子には、ネイティブの因子と実質的な類似性および少なくとも1つの生物学的活性を共有するそれらのアナログおよび改変体が含まれる。例えば、下垂体において見出されるプロラクチンの主要な形態は、23kDaの分子量を有するが、プロラクチンの改変体は、多くの哺乳動物(ヒトを含む)において特徴付けられている。プロラクチン改変体は、一次転写物の選択的スプライシング、タンパク質分解切断、および他の翻訳後修飾から生じ得る。137アミノ酸のプロラクチン改変体は、下垂体前葉にあると記載されており、これは、選択的スプライシングの産物であるようである。プロラクチンの種々のタンパク質分解産物が特徴付けられており(特に、14kDa、16kDa、および22kDaのプロラクチン改変体)、これらの全ては、C末端で短縮されたプロラクチンフラグメントであるようである。プロラクチンについて報告された他の翻訳後修飾としては、二量体化、重合、リン酸化、グリコシル化、硫酸化、および脱アミド化が挙げられる。
【0059】
本発明において有用なプロラクチンは、任意のプロラクチンアナログ、改変体または神経幹細胞数を増加し得るプロラクチン関連タンパク質を含む。プロラクチンアナログまたは改変体は、ネイティブヒトプロラクチンのアミノ酸配列の少なくとも約30%を含むポリペプチドであり、これは、プロラクチンの生物学的活性を有する。好ましくは、プロラクチンの生物学的活性は、プロラクチンレセプターに結合する能力である。プロラクチンレセプターのいくつかのアイソフォームは、単離されているが(例えば、ラットにおける長い形態、中間の形態、および短い形態)、これらのアイソフォームは、プロラクチンに結合する同じ細胞外ドメインを共有する。従って、任意のレセプターアイソフォームを使用して、プロラクチン結合活性についてアッセイし得る。プロラクチンとしては、具体的に、以下が挙げられる:天然に存在するプロラクチン改変体、プロラクチン関連タンパク質、胎盤ラクトゲン、S179Dヒトプロラクチン(Bernichteinら、2001)、種々の哺乳動物種(ヒト、他の霊長類、ラット、マウス、ヒツジ、ブタ、およびウシが揚げられるがこれらに限定されない)由来のプロラクチン、および米国特許第6,429,286号および同第5,955,346号に記載されるプロラクチン変異体。
【0060】
同様に、ネイティブのEGFに加えて、EGFアナログまたはEGF改変体もまた使用され得、これらは、ネイティブのEGFと実質的なアミノ酸配列類似性を共有するべきであり、かつネイティブのEGFと少なくとも1つの生物学的活性(例えば、EGFレセプターへの結合)を共有するべきである。EGFとして特に挙げられるものは、任意の主のネイティブEGF、TGFα、または組換え改変されたEGFである。具体例としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:2つのC末端アミノ酸の欠失および51位において中性アミノ酸置換を有する組換え改変されたEGF(特にEGF51gln51;米国特許出願公開第20020098178号A1)、16位のHis残基が中性または酸性のアミノ酸で置き換えられているEGFムテイン(EGF−X16)(米国特許第6,191,106号)、ネイティブEGFのアミノ末端残基を欠く、EGFの52−アミノ酸欠失変異体(EGF−D)、N末端残基および2つのC末端残基(Arg−Leu)が欠失されているEGF欠失変異体(EGF−B)、21位のMet残基が酸化されているEGF−D(EGF−C)、21位のMet残基が酸化されているEGF−B(EGF−A)、ヘパリン結合EGF様成長因子(HB−EGF)、βセルリン、アンフィレグリン(amphiregulin)、ニューレグリン(neuregulin)、または上記のうちのいずれかを含む融合タンパク質。他の有用なEGFアナログまたは改変体は、米国特許出願公開第20020098178号A1、および米国特許第6,191,106号および同第5,547,935号に記載される。
【0061】
別の例として、有用なPACAPアナログおよび改変体としては、限定することなく、PACAPの38アミノ酸改変体および27アミノ酸改変体(それぞれ、PACAP38およびPACAP27)、ならびに例えば、米国特許第5,128,242号;同第5,198,542号;同第5,208,320号;同第5,326,860号;同第5,623,050号;同第5,801,147号および同第6,242,563号に開示されるアナログおよび改変体が挙げられる。
【0062】
エリスロポエチンアナログおよび改変体は、例えば、米国特許第6,048,971号および同第5,614,184号に開示される。
【0063】
さらに、本発明において有用なプロラクチンの機能的アナログまたはさらなる因子が本発明において企図される。これらの機能的アゴニストは、ネイティブの因子のレセプターに結合しそして活性化するが、これらは、必ずしもネイティブの因子と実質的な配列類似性を共有する必要はない。例えば、maxadilanは、PACAP1型レセプターの特異的アゴニストとして作用するポリペプチドである(Moroら、1997)。
【0064】
EPOの機能的アゴニストは、広く研究されている。EMP1(EPOミメティックペプチド1)は、Johnsonら、2000に記載されるEPOミメティックのうちの1つである。EPOの短いペプチドミメティックは、例えば、Wrightonら、1996および米国特許第5,773,569号に記載される。低分子EPOミメティックは、例えば、Kaushansky、2001に開示される。EPOレセプターを活性化する抗体は、例えば、米国特許第5,885,574号;WO96/40231およびWO97/48729に記載される。
【0065】
EGFレセプターに対してアゴニスト活性を有する抗体は、例えば、Fenandez−Pol,1985および米国特許第5,723,115号に記載される。さらに、EPOレセプター、EGFレセプター、プロラクチンレセプターおよび多くの他の細胞表面レセプターを活性化するアミノ酸配列もまた、米国特許第6,333,031号に開示される;プロラクチンレセプターおよびEPOレセプターに対してアゴニスト活性を有する金属錯化レセプターリガンドは、米国特許第6,413,952号に見出され得る。レセプター(例えば、EPOレセプターおよびプロラクチンレセプター)に対するリガンドを同定および調製する他の方法は、例えば、米国特許第5,506,107号および同第5,837,460号に記載される。
【0066】
各アナログ、改変体または機能的アゴニストの有効量が、ネイティブの因子または化合物についての有効量と異なり得ることに留意すべきであり、そして各々の場合における有効量は、本明細書中の開示に従って当業者により決定され得る。好ましくは、ネイティブの因子、またはそのネイティブの因子と実質的な配列類似性を共有するアナログおよび改変体は、本発明において使用される。
【0067】
薬学的組成物もまた提供され、これは、上記の因子、および薬学的に受容可能な賦形剤および/またはキャリアを含む。
【0068】
薬学的組成物は、以下のような当該分野で公知の任意の経路を介して送達され得る:非経口、髄腔内、脈管内、静脈内、筋内、経皮的、皮内、皮下、鼻腔内、局所的、経口、直腸、膣、肺または腹腔内。好ましくは、この組成物は、注射または灌流により中枢神経系に送達される。より好ましくは、これは、脳室、特に側脳室に送達される。あるいは、この組成物は、好ましくは全身経路(例えば、皮下投与)により送達される。例えば、本発明者らは、プロラクチン、成長ホルモン、IGF−1、PACAPおよびEPOが、皮下投与により有効に送達されて、脳室下帯(subventricular zone)における神経幹細胞の数を調節し得ることを発見した。
【0069】
組成物が、脳に直接送達されない場合、およびその組成物中の因子が、血液脳関門を容易に横切らない場合、血液脳関門浸透剤が、脳への進入を容易にするために必要に応じて含まれ得る。血液脳関門浸透剤は、当該分野で公知であり、これらとしては、例として、米国特許第5,686,416号;同第5,506,206号および同第5,268,164号に記載されるブラジキニンおよびブラジキニンアゴニスト(例えば、NH−アルギニン−プロリン−ヒドロキシプロキシプロリン−グリシン−チエニルアラニン−セリン−プロリン−4−Me−チロシンΨ(CHNH)−アルギニン−COOH)が挙げられる。あるいは、これらの因子は、米国特許第6,329,508号;同第6,015,555号;同第5,833,988号または同第5,527,527号に記載されるようなトランスフェリンレセプター抗体に結合体化され得る。これらの因子はまた、その因子と、脳毛細管内皮細胞レセプター(例えば、トランスフェリンレセプター)と反応性のリガンド(例えば、米国特許第5,977,307号を参照のこと)とを含む融合タンパク質として送達され得る。
【0070】
薬学的組成物は、所望の治療剤と、意図された投与経路に適した適切なビヒクルと混合することにより調製され得る。本発明の薬学的組成物を作製する際に、治療剤は、通常、賦形剤と混合されるか、賦形剤により希釈されるか、またはカプセル、サシェ、紙または他の容器の形態であり得るようなキャリア内に包含される。薬学的に授与可能な賦形剤は、希釈剤として作用する場合、これは、固体、半固体、または液体の材料であり得、これらは、治療剤のためのビヒクル、キャリアまたは媒体として作用する。従って、組成物は、錠剤、丸剤、粉末、ロゼンジ、サシェ、カシェ剤、エリキシル、懸濁液、乳剤、液剤、シロップ、エーロゾル(固体または液体媒体中として)、例えば、10重量%までの治療剤を含有する軟膏、軟質および硬質のゼラチンカプセル、坐剤、滅菌注射用液、ならびに滅菌パッケージングされた粉末の形態であり得る。
【0071】
適切な賦形剤のいくつかの例としては、人工脳髄液、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギナート、トラガカント、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、滅菌水、シロップ、およびメチルセルロースが挙げられる。処方物は、さらに以下を含み得る:タルク、ステアリン酸マグネシウム、および鉱油のような滑沢剤;湿潤剤;乳化剤および懸濁剤;ヒドロキシ安息香酸メチルおよびヒドロキシ安息香酸プロピルのような保存剤;甘味料;ならびに香味料。本発明の組成物は、当該分野で公知の手順を使用することにより、患者への投与後に、治療剤の急速な放出、持続された放出、または遅延した放出を提供するように処方され得る。
【0072】
錠剤のような固体組成物を調製するために、治療剤は、薬学的賦形剤と混合されて、本発明の化合物の均一な混合物を含む固体の予め配合された組成物を形成する。これらの予め配合された組成物を均一として言及する場合、これは、組成物が、等しく有効な単位投薬形態(例えば、錠剤、丸剤およびカプセル)に容易に小分けされ得るように、その組成物全体にわたって一様に治療剤が分散されることを意味する。
【0073】
本発明の錠剤または丸剤は、被覆されるか、またはそうでなければ長期の作用という利点を提供する投薬形態を提供するように混合され得る。例えば、錠剤または丸剤は、内部投薬成分および外部投薬成分を含み得、後者は、前者を包み込む形態である。この2つの成分は、腸溶性層により隔てられ得、この腸溶層は、胃における崩壊に抵抗するように作用し、そして内部成分がインタクトなままで十二指腸に通過するかまたは放出を遅らせることを可能にする。種々の材料は、このような腸溶性層または被覆のために使用され得、このような材料としては、多数のポリマー酸、およびポリマー酸とこのような材料(シェラック、セチルアルコール、および酢酸セルロースとして)との混合物が挙げられる。
【0074】
本発明の新規な組成物が経口投与または注射による投与のために組み込まれ得る液体形態としては、水溶液、適切に香味付けされたシロップ、水性懸濁液または油懸濁液、および食用油(例えば、トウモロコシ油、綿実油、ゴマ油、ココナッツ油、またはピーナッツ油)を用いて香味付けした乳剤、ならびにエリキシルおよび同様の薬学的ビヒクルが挙げられる。
【0075】
吸入または吹き入れ(insufflation)のための組成物としては、薬学的に受容可能な、水性溶媒もしくは有機溶媒、またはそれらの混合物中の溶液および懸濁液、ならびに粉末が挙げられる。液体または固体の組成物は、本明細書中に記載されるような適切な薬学的に受容可能な賦形剤を含み得る。これらの組成物は、局所効果または全身効果のための経口または経鼻呼吸経路により投与される。好ましくは薬学的に受容可能な溶媒中の組成物は、不活性ガスの使用により噴霧され得る。噴霧される溶液は、噴霧デバイスから直接吸入されても、噴霧デバイスが、フェースマスクテントもしくは間欠正圧換気機に取り付けられてもよい。溶液、懸濁液または粉末の組成物は、適切な様式で処方物を送達するデバイスから好ましくは経口または経鼻で投与され得る。
【0076】
本発明の方法において使用される別の処方物は、経皮送達デバイス(「パッチ」)を使用する。このような経皮パッチを使用して、制御された量で本発明の治療剤の連続的または不連続な注入を提供し得る。薬剤の送達のための経皮パッチの構築および使用は、当該分野で周知である。例えば、米国特許第5,023,252号(本明細書中に参考として援用される)を参照のこと。このようなパッチは、薬剤の連続的、拍動性、または要求に応じた送達用に構築され得る。
【0077】
本発明に用いるための、他の適切な処方物が、Remington’s Pharmaceutical Sciencesに見出され得る。
【0078】
以下の略語は、以下の意味を有する。略語は、一般に受け入れられている意味を有するとは規定されない。
EGF =表皮増殖因子
PDGF =血小板由来増殖因子
DMSO =ジメチルスルホキシド
CNTF =毛様体神経栄養性因子
EPO =エリスロポエチン
NSC =神経幹細胞
GPC =グリア前駆細胞
NPC =神経前駆細胞
PACAP=下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド
cAMP =サイクリックAMP
【実施例】
【0079】
(材料および方法)
(神経幹細胞培養)
神経幹細胞培養のためのプロトコルは、米国特許第5,750,376号またはShingoら,2001に詳細に示される。簡単にいうと、E14内側および側方の神経節隆起から胚性神経幹細胞を調製した。成熟した神経幹細胞を、成体マウスの脳室下帯から調製した。組織を、20ng/ml EGF、または各々のケースに示されるような他の成長因子を含む標準培地内で培養し、ニューロスフェア(neurosphere)を形成した。標準培地の組成物は、以下のようである:DMEM/F12(1:1);グルコース(0.6%);グルタミン(2mM);重炭酸ナトリウム(3mM);HEPES(5mM);インスリン(25μg/ml);トランスフェリン(100μg/ml);プロゲステロン(20nM);プトレシン(60μM);および塩化セレン(30nM)。
【0080】
7日後、機械的分離によってニューロスフェア(初代のニューロスフェア)を経て、単一の細胞(初代)として再度播種した。2代目のニューロスフェアのために、次いで、この単一の細胞を7日間培養し、2代目のニューロスフェアを得た。
【0081】
(増殖因子の注入)
2月齢のCD−1マウス(Charles−River,Laval,Quebec,Canada)を、ペントバルビタールナトリウム(120mg/kg,i.p.)で麻酔し、浸透圧ポンプ(Alzet 1007D;Alza Corporation,Palo Alto,CA)で移植した。カニューラを右側脳室(ブレグマに対して、前後に+0.2mm、側方に+0.8mm、および背腹方向に硬膜下−2.5mm、ラムダとブレグマとの間の頭蓋レベルで)に配置した。ヒト組換えEPO(1000IU/ml)、ウサギ抗EPO中和抗体(100μg/ml)、ウサギIgG(100μg/ml)、ラット組換えCNTF(33μg/ml)、またはヒト組換えEGF(33μg/ml)を、0.9%生理食塩水(1mg/ml マウス血清アルブミン(Sigma)を含む)中に溶解した。各動物に、0.5μl/時間の流速で、6日間継続的に注入し、1日あたり約25IUのEPO、3μgの抗体、あるいは400ngのCNTFまたはEGFを送達した。
【0082】
(発作の研究のための試験動物)
雄成体ロングエバンスラット(250〜350g)を、Charls River Breeding Farmsから入手し、任意の処理前の2週間、コロニーに適応させた。手術の1週間前に、このラットで、行動試験におけるベースライン試験を行った。
【0083】
(局所虚血性の損傷および注入)
発作研究のための動物に、感覚運動皮質の片側の脈管遮断を施した。イソフルラン麻酔を用いて、皮膚を切開し、収縮させ、そして表面の筋膜を頭蓋から除去した。頭蓋の開口部を、硬膜を傷つけないように注意して、以下の座標に形成した:AP +4.0〜−2.0;L 1.5〜4(傍矢状の隆線;Kolbら,1997)。この硬膜を切り、頭蓋の開口部から収縮させた。生理食塩水中に浸漬した綿棒で、露出した軟膜越しに穏やかに擦り、血管を除いた。次いで、反対側の半球に穴を開け、浸透圧ミニポンプ(AP −0.5;L 1.5)を備えたカニューラのための穴を提供した。浸透圧ミニポンプを、肩甲骨の間の皮膚の下に配置し、チューブを、速乾性セメントで頭蓋に取り付けたカニューラに皮膚の下で接続した。一旦止血がなされると、頭皮を5−O 滅菌縫合糸を用いて縫合し、閉じた。この動物に、Banamine(鎮痛薬(analgesic))の注射を1回与え、ホームケージに戻した。骨に穴を開けた偽手術動物には麻酔のみを与え、皮膚を切開し、そして縫合した。
【0084】
6日後、この動物を、行動試験を用いて評価した。次の日、この動物を再度麻酔し、ミニポンプを適切な溶液を備えた第2のミニポンプと置換した。偽手術動物は、麻酔のみを行った。これらの動物を、7日後、14日後、および28日後に再試験し、1週間目、2週間目、3週間目、4週間目および6週間目での行動測定結果を得た。
【0085】
(前肢抑止試験)
この試験は、新皮質前方領域の機能的な保全性の、感度の高い測定を構成することが示されている。通常のラットにおいて、泳ぎは、後肢からの推進力によってなされる。前肢は、通常、任意の動作が抑止され、動かないままであり、動物の頚部の下部と一緒にされる。前肢の抑止は、泳いでいる間、動物を撮影することによって評価した。動物を、室温の水(約25℃)で深さ25cmまで満たした水槽(30w×90l×43h cm)の一方の端に導入し、これらの動物が泳ぐのを、9.5cm四方の可視的プラットフォームに撮影した。このプラットフォームを、水面の2cm上に投影し、そして水槽の反対側の端に配置する。水槽の長さに沿った3回の泳ぎにおいて、各前肢によってなされる場合、動作回数の計数によって抑止をスコアリングした。泳ぎは、動物が、泳ぎを試行している間に水槽の側面に接触しなかった場合にのみ、スコアリング可能であると考えられる。
【0086】
(前肢非対称性試験)
動物の前足の非対称性を、それらの動物(直径25cmのアクリルシリンダー中、アクリルプラットフォーム上)を下から撮影することによって決定した。動物が、5分間に左前足または右前足を上げ下げした回数をそれぞれ計数することによって、姿勢の安定性の挙動における優先度を決定した。この試験は、前肢の使用における非対称性の測定を可能にし、測定結果は、外傷に対する同側の肢の使用に対する信頼できるバイアスを示す。
【0087】
(脳の解剖学的分析)
6週の終りに、動物に過剰量のエタノール(Euthanol)を与え、ピクリン酸中の0.9%生理食塩水および4%パラホルムアルデヒドで心臓内を灌流した。この脳を細胞保護し、そしてビブラトームで、40ミクロンに切った。5セットの切片を、400ミクロンごとに保持した。2セットを染色した(一方をクレシルバイオレットで、そしてもう一方をダブルコルチンで)。残りのセットは、保存した。クレシルバイオレット染色を、スライド上で実施し、一方ダブルコルチン染色は、自由なフロートの切片における免疫組織化学手順で実施した。クレシルバイオレット染色は、損傷領域の評価を可能にし、一方、ダブルコルチン染色は、移動性の神経前駆細胞(neuronal progenitor cell)に存在するタンパク質と会合した。
【0088】
(実施例1)
(インビボでのCNTFおよびEPOの効果)
インビボでのCNTFおよびEPOの有効性を決定するために、CNTFまたはEPOを、材料および方法に記載されるように、6日間にわたり成体マウスに注入した。次いで、その脳組織を収集し、注入後の脳における神経幹細胞の数の指標として神経幹細胞の増殖に用いた。あるいは、チロシンヒドロキシラーゼまたはMash1について脳組織を染色し、神経発生領域を決定した。
【0089】
Shimazakiら,2001に詳細に記載されるように、CNTF注入は、脳から得られ得る初期ニューロスフェアの有意な増加(約25%)をもたらした。さらに、EGFおよびCNTFの同時注入は、神経幹細胞の数を40%増加させた。従って、CNTFは、特にEGFとの組合せにおいて、神経幹細胞数を増加させ得る。BrdUがまた動物に与えられる場合、CNTFは、BrdU陽性細胞の数を増加させなかったように、CNTFは、神経幹細胞の増殖を刺激しない。
【0090】
CNTFは、神経幹細胞の増殖または生存を促進しないので、本発明者らは、CNTFが、神経幹細胞の自発的な分化を阻害するとの仮説を立てた。系統的に制限された細胞への自発的な分化により、神経幹細胞は、自己再生する能力がなく、神経幹細胞の数は、分化細胞の数が増えるにつれて減少する。従って、CNTFが、この自発的な分化を阻害する場合、CNTF存在下で生成されるニューロスフェアは、CNTF非存在下で生成したニューロスフェアより展開可能であり、そして多能である。
【0091】
従って、本発明者らは、EGF単独中またはEGF+CNTF中で生成したニューロスフェアの展開可能性および多能性を比較した。展開可能性について、初代ニューロスフェアを分離し、そしてクローン密度で再プレートして2代目ニューロスフェアを産生し、そして単一の初代のスフェア由来の2代目ニューロスフェアの数を計数した。この結果は、EGF+CNTF中で産生した初代ニューロスフェアが、有意なさらなる2代目スフェアをもたらしたことを表し、これらの初代スフェアが、EGF単独中で産生したスフェアより展開可能性のある細胞を含むことを示す。多能性について、各ニューロスフェア由来のニューロン、乏突起膠細胞およびの星状膠細胞のパーセントを決定した。その結果は、EGF単独中で生成したニューロスフェアがまた、EGF+CNTF中で生成したニューロスフェアより、4倍の数のグリア細胞が産生したことを表す。従って、神経幹細胞は、デフォルトで、グリア細胞に分化し、これはCNTFによって阻害され得る。
【0092】
一方、EPOは、神経幹細胞の数を、約50%減少させ、神経発生を増加させた。従って、たとえ神経幹細胞が自発的にグリア系に分化するとしても、神経幹細胞の一部は、EPOによって神経前駆細胞の形成が誘導され得る。なおさらに、抗EPO抗体の注入は、神経幹細胞の増加をもたらすが、非特異的IgGは、神経幹細胞の増加をもたらさなかった。このことは、EPOを含む進行中のインビボでの神経発生プロセスが存在することを示す。
【0093】
(実施例2)
(動作モデルにおける因子組合せの効果)
脳に損傷を受けた動物における因子の種々の組合せの効果を決定するために、動作のモデルとして、ラットの脳に局所的な虚血性損傷を誘導した。脳損傷の結果、この動物は、運動皮質に損傷を有し、2つの行動試験において異常な行動をした。1つは前肢抑止試験(新皮質前部の領域の機能保全性の感覚測定)である。通常のラットは、泳ぐとき、前肢の使用を抑止するが、本実験において、運動皮質の一方を損傷させた場合、運動皮質は、体の反対側を制御するので、そのラットは、反対側の前肢の使用を抑止しなかった。他の試験(前肢非対称性試験)において、正常なラットは、それらのラットが自身のバランスをとることを試行する場合と同様に、両前肢を使用する。しかし、損傷したマウスは、同側の前肢を使用することを好む。何故ならば、おそらくそれらのマウスは、自身の反対側の前肢をコントロールし得ないからである。
【0094】
次いで、この動物に、種々の試験因子を与え、前肢の抑止試験および脳解剖学におけるこれらの因子の効果を評価した。コントロールとして、偽手術コントロール動物群に、偽脳損傷および試験に使わない因子を与え、そしてビヒクルコントロール群に脳損傷ならびに人工的な大脳脊髄液(CSF)の注入を行った。各試験群で行った処置を、以下にまとめた:
【0095】
【表1】

【0096】
脳損傷、注入、行動試験および解剖学的分析のスケジュールおよび手順は、材料および方法に記載される。
【0097】
(A.プロラクチンおよびプロラクチン+EPOの効果)
脳損傷前、全てのラットは、前肢抑止試験において両前足を抑止した。損傷後、全ての虚血性群(群2〜群6)は、反対側の前足を抑止しなかったが、同側の前足は抑止し続けた。試験因子の注入により、2つのプロラクチン群(群3および4群)は、より高い前足の抑止を示した。実際、最終週(注入完了の4週間後)の終りまでには、プロラクチン+EPO群(群4)は、コントロールと区別不可能であった。従って、プロラクチン、および特に、プロラクチンとEPOとの組み合せは、行動の代表的な症状からの回復をもたらした。
【0098】
解剖学的には、プロラクチン群は、脳において高度のダブルコルチン染色を示し、このことは、プロラクチンが、広範囲の神経発生を誘導したことを示す。プロラクチン+EPO群のラットは、拡張された脳室下帯を有し、このことは、この領域における有意な細胞増殖を示す。さらに、多くのダブルコルチン陽性細胞が、外傷領域、白質および側脳室において見られた。ダブルコルチン陽性細胞は、脳室下帯と外傷領域との間に観察される。ダブルコルチンは、移動性神経前駆細胞のマーカーであるので、これらの結果は、処理の際に神経幹細胞が神経前駆細胞を生じ、これらの前駆細胞が、外傷領域に移動したことを示す。外傷領域における新たな増殖は、非常に広範囲であり、その結果、この群の大部分のラットにおいて、虚血性外傷によって生じた空洞が、完全にまたは部分的に満たされた。従って、これらの解剖学的結果は、プロラクチン、またはプロラクチンとEPOとの組合せが、脳損傷(例えば、発作)処置に用いられ得る行動学的研究を、強く支持する。
【0099】
(B.成長ホルモンおよび成長ホルモン+EPOの効果)
前肢非対称性試験の結果は、全ての試験群において、6週目の終りには非対称の程度は下がったが、成長ホルモンを与えた群(群3および群4)は、初めの4週間で、より速いかつ広範囲の回復が見られたことを示す。これらの結果は、解剖学的分析からの結果と一致し、成長ホルモン単独(群3)は、ダブルコルチン陽性細胞の増加をもたらし、そして成長ホルモンとEPOとの組合せ(群4)は、側脳室の周囲でのダブルコルチン陽性細胞の移動をもたらした。
【0100】
従って、成長ホルモン単独、または成長ホルモンとEPOとの組合せのいずれかは、脳における発作モデルの運動神経関連機能ならびに神経の形成/移動を改善し、このことは、成長ホルモンを用いて、脳損傷を処置または改善し得ることを示す。
【0101】
従って、プロラクチンおよびプロラクチンとEPOとの組み合せは、前肢抑止試験における損傷したラットの運動機能を改善し、前肢非対称性試験は改善しなかったが、一方、成長ホルモンおよび成長ホルモンとEPOとの組合せは回復効果を有した。これらの結果は、様々な因子が、異なる神経経路を刺激し得、そして異なる神経細胞の回路の回復を促進することを立証し、より完全かつ効果的な処置結果のためには、種々の因子を組み合わせることが重要であることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】図1は、神経幹細胞(NSC)による神経新生およびグリア新生についての模式図である。EGF(すなわち、EGFの成体ホモログのTGFα)は、NSC集団の自己複製/増殖を誘導する。NSCは、グリア前駆細胞(GPC)になる規定の経路において自然発生的な分化を起こす。この自然発生的な分化は、CNTFによって減弱され得る。GPCは、アストロサイトおよび/またはオリゴデンドロサイトに分化する(この分化は、EGFによって促進される)。あるいは、NSCは、ニューロンだけを産生する神経前駆細胞(NPC)に分化するように、EPOおよび/またはPACAP/cAMPによって指示を受け得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経前駆細胞および/またはグリア前駆細胞を増殖させるために、そのような処置を必要とする疾患または状態を有する哺乳動物に投与される医薬組成物であって、
(a)神経幹細胞の数を増加させるのに十分な量の、プロラクチン、成長ホルモン、毛様体神経栄養因子(CNTF)および上皮成長因子(EGF)からなる群から選択される因子、および
(b)該神経幹細胞から神経前駆細胞またはグリア前駆細胞の生産を促進させるのに十分な量の、エリスロポエチン(EPO)、下垂体アデニレートシクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)およびcAMPからなる群から選択される因子、
を有効成分として含む、因子(a)および(b)の同時投与または段階的投与のための組成物(但し、因子(a)がEGFである場合、因子(b)はPACAPまたはcAMPである。)。
【請求項2】
因子(a)および(b)が、同時投与により投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
因子(a)および(b)が、段階的投与により投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
因子(a)および(b)の段階的投与が、初めに因子(a)を投与し、次いで因子(b)を投与することにより行なわれる、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
因子(a)がプロラクチンである、請求項1−4の何れかに記載の医薬組成物。
【請求項6】
因子(a)が成長ホルモンである、請求項1−4の何れかに記載の医薬組成物。
【請求項7】
因子(a)が毛様体神経栄養因子(CNTF)である、請求項1−4の何れかに記載の医薬組成物。
【請求項8】
因子(a)が上皮成長因子(EGF)であり、因子(b)が下垂体アデニレートシクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)またはcAMPである、請求項1−4の何れかに記載の医薬組成物。
【請求項9】
因子(b)がエリスロポエチン(EPO)である、請求項1−7の何れかに記載の医薬組成物。
【請求項10】
因子(b)が下垂体アデニレートシクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)である、請求項1−8の何れかに記載の医薬組成物。
【請求項11】
因子(b)がcAMPである、請求項1−8の何れかに記載の医薬組成物。
【請求項12】
脳内投与用である、請求項1−11の何れかに記載の医薬組成物。
【請求項13】
該脳内投与が、哺乳動物の前脳の脳室下帯に対して行なわれる、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
該疾患または状態が脳損傷である、請求項1−13の何れかに記載の医薬組成物。
【請求項15】
該脳損傷が発作である、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
該疾患または状態が、アルツハイマー病、多発性硬化症(MS)、ハンティングトン病、筋萎縮性側索硬化症、およびパーキンソン病からなる群より選択される、請求項1−13の何れかに記載の医薬組成物。
【請求項17】
神経前駆細胞またはグリア前駆細胞を産生する方法であって、以下:
(a)少なくとも1つの神経幹細胞を提供する工程、
(b)該神経幹細胞を、プロラクチン、成長ホルモン、毛様体神経栄養因子(CNTF)および上皮成長因子(EGF)からなる群より選択される因子の、該神経幹細胞の数を増加させるのに十分な量と接触させる工程、および
(c)工程(b)からの該神経幹細胞を、エリスロポエチン(EPO)、下垂体アデニレートシクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)およびcAMPからなる群より選択される因子の、該神経幹細胞から神経前駆細胞またはグリア前駆細胞の産生を促進させるのに十分な量と接触させる工程、
を包含する方法(但し、工程(b)の因子がEGFである場合、工程(c)の因子はPACAPまたはcAMPである。)。
【請求項18】
工程(b)が工程(c)の前に実施される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
工程(b)および(c)が同時に実施される、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
該神経幹細胞が胚性細胞ではない、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
該神経幹細胞が成体神経幹細胞である、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
該神経幹細胞が非ヒト哺乳動物細胞である、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
該神経幹細胞が非ヒト哺乳動物に神経幹細胞を移植することによって提供される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
該神経前駆細胞または該グリア前駆細胞が培地で生産され、非ヒト哺乳動物に移植される、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
該移植された神経幹細胞が該非ヒト哺乳動物と同系である、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
該神経幹細胞が該非ヒト哺乳動物の前脳の脳室下帯に存在する、請求項22に記載の方法。
【請求項27】
該非ヒト哺乳動物が、神経変性疾患または神経変性状態を有しているか、または有する疑いがある、請求項22に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−211023(P2007−211023A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−120739(P2007−120739)
【出願日】平成19年5月1日(2007.5.1)
【分割の表示】特願2003−523633(P2003−523633)の分割
【原出願日】平成14年8月30日(2002.8.30)
【出願人】(504075315)ステム セル セラピューティクス インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】