説明

神経損傷の抑制

本明細書では神経損傷を抑制するための材料および方法を提供する。特に、本明細書では、細胞外ATPの病理作用に関連する神経損傷を抑制するための材料および方法を提供する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本文書は、神経損傷をブロックするための材料および方法、特にATPの病理作用に関連する神経損傷をブロックするための材料および方法に関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は2005年5月31に出願された米国特許仮出願第60/685,802号について優先権を主張する。
【背景技術】
【0003】
背景
神経損傷は多くの臨床症状および疾患の衰弱した結果である。中枢神経系のいくつかの疾患ならびに目および脳の外科的処置過程における主な損傷要因は、細胞外圧力の増加である。特に眼圧(IOP)の増加は、網膜神経節細胞(RGC)の進行性喪失により特徴づけられる網膜疾患のファミリーであり失明の主な原因である緑内障で見られるように、RGC損傷に対する主な危険因子である(正常眼圧緑内障共同研究およびグループ(1998)Am. J. Ophthalmol. 126:487-497(非特許文献1))。圧力誘発RGC損傷の機構は不明確である(Quigley(1999)Prog. Retin. Eye Res. 18:39-57(非特許文献2))。外傷、外科的処置、および緑内障などの病態生理学的症状で見られる圧力の増加と関連する神経細胞損傷の治療および/または阻止には、新規治療法が必要である。
【0004】
【非特許文献1】(1998)Am. J. Ophthalmol. 126:487-497
【非特許文献2】Quigley(1999)Prog. Retin. Eye Res. 18:39-57
【発明の開示】
【0005】
概要
本文書は、IOPの増加が眼の流体中へのアデノシン5'-三リン酸(ATP)の放出を引き起こす可能性があり、単離した網膜に細胞外ATPを適用すると圧力誘発RGC損傷に似た症状を起こし得るという発見に、一部基づく。本文書はまた、ATPを分解する薬剤、またはアデノシン受容体に対するATP効果のアンタゴニストを使用して、圧力誘発RGC損傷を抑制することができるという発見に、一部基づく。このように、本明細書では、細胞外ATP(eATP)の病理作用をブロックすることにより、損傷からニューロンを保護する方法について記載する。これらの方法は、例えば、ATPを分解する薬剤(例えばアピラーゼ)またはP2X受容体(例えば、P2X7受容体)のアンタゴニストの投与を含むことができる。そのような方法は、緑内障などの状態の治療において、または外傷もしくは外科的処置の結果生じることがある神経損傷を軽減するために有用であり得る。
【0006】
1つの局面では、本文書は、神経損傷を抑制するための方法に関する。本方法は、(a)神経損傷を有する、神経損傷を有する可能性のある、または神経損傷が起こる可能性のある哺乳動物被験体を特定する段階;および(b)被験体内のニューロンまたは該ニューロンの細胞外環境に、ニューロンに対するATPの病理作用を阻害する1つまたは複数の薬剤を送達する段階を含むことができる。哺乳動物被験体はヒトであってよい。神経損傷は細胞外圧力の増加に起因する可能性がある。細胞外圧力の増加は、自然発生的であり、外傷性であり、病的であり、または外科的処置と関連する可能性がある。細胞外圧力の増加は、眼内、頭蓋内、または髄液内であり得る。ニューロンは網膜ニューロン(例えば、網膜神経節細胞)であり得る。ニューロンは、皮質ニューロン、海馬ニューロン、基底核、または脊髄ニューロンであり得る。薬剤はアピラーゼであってよい。薬剤はP2X受容体(例えば、P2X7受容体)の阻害剤であってよい。薬剤はブリリアントブルーG、酸化ATP、P2X受容体に特異的に結合する抗体もしくは抗体断片、P2X受容体mRNA特異的オリゴヌクレオチド、P2X受容体低分子干渉RNA、またはP2X核酸アプタマーであってよい。
【0007】
別の局面では、本文書は、薬学的に許容される担体およびニューロンに対するATPの病理作用を阻害する薬剤を含む組成物に関する。本文書はまた、包装材料、ニューロンに対するATPの病理作用を阻害する1つまたは複数の薬剤、および本明細書で記載した方法において1つまたは複数の薬剤を使用するための使用説明書を含む製品に関する。さらに本文書は、ニューロンに対するATPの病理作用を阻害する2つまたはそれ以上の薬剤を含むキットに関する。
【0008】
特に規定されていなければ、本明細書で使用した技術用語および科学用語はすべて、本発明が属する分野の当業者が一般に理解するものと同じ意味を有する。本明細書で記載したものと同様の、または等価の方法および材料を使用して本発明を実行することができるが、適した方法および材料を下記に記載する。本明細書で言及した刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献はすべて、その全体が参照により組み入れられる。不一致が生じた場合、定義を含む本明細書を優先する。さらに、材料、方法、および実施例は例示にすぎず、制限するものではない。
【0009】
本発明の1つまたは複数の態様の詳細を、添付の図面および下記説明において記載する。本発明の他の特徴、目的、および利点は説明および添付の図面から、ならびに添付の特許請求の範囲から明らかになると思われる。
【0010】
詳細な説明
ATPは全ての生細胞で見られるプリンヌクレオチドであり、細胞代謝およびエネルギー論において重要な役割を果たす。ATPは生理学的および病態生理学的条件下で細胞から放出され;細胞外ATPは局所生理的制御因子として、ならびに、例えば、閉塞性気道疾患の病態生理学において機構的な役割を果たす内因性メディエーターとして作用する(Pelleg et al.(2002) Am. J. Ther. 9:454-464)。さらに、ATPは樹状細胞、好酸球およびマスト細胞に対し強力な作用を及ぼす。例えば、ATPは、ヒト肺マスト細胞からのヒスタミンおよび他のメディエーターのIgE-媒介放出を増強する(Schulman et al. (1999) Am. J. Respir. Cell. Mol. Biol. 20:530-537)。
【0011】
細胞外ATPはP2プリン受容体(P2R)として公知の細胞表面受容体を活性化することにより、様々な組織および器官中の多くの細胞型に影響を与える。P2Rは2つのファミリーに分類される:リガンド結合二量体の細胞膜貫通カチオンチャネルであるP2X、および7回細胞膜貫通ドメインGタンパク質結合受容体であるP2Y。8つのP2Y(P2Y1、P2Y2、P2Y4、P2Y6、P2Y11、P2Y12、P2Y13、およびP2Y14)、7つのホモ二量体P2X受容体サブタイプ(P2X1〜7)、および5つのP2Xヘテロ二量体受容体(X1/2、X2/3、X2/6、X1/5、およびX1/6)が同定され、クローニングされている。
【0012】
細胞外流体圧力(例えば、眼内、頭蓋内、または脊髄)の増加は、中枢神経系のいくつかの疾患において、ならびに目および脳の外科的処置において、主な損傷因子である。IOPが増加すると、ATPの眼流体中へのATPの放出に至る可能性がある。本明細書で記載するように、単離した網膜への細胞外ATPの適用は圧力誘発RGC損傷を模倣することができる。このように本明細書では、ATPの病理作用により引き起こされる損傷からニューロンを保護する方法を提供する。本明細書で記載するように、これらの方法は、ATPの病理作用をブロックする薬剤の投与を含むことができる。そのような薬剤としては、例えば、アピラーゼおよびATPを分解することができる他の薬剤、またはP2X受容体(例えば、P2X7 ATP受容体)アンタゴニストが挙げられる。本明細書で提供した方法は、臨床症状(例えば、緑内障)の治療において、または外傷もしくは外科的処置により生じ得る神経損傷を減少させるために有用であり得る。
【0013】
本明細書で提供した方法を使用して保護することができるニューロンとしては、中枢神経系(CNS)の神経(例えば、脳もしくは脊髄ニューロン、またはRGC)ならびに末梢神経系(PNS)中の神経(例えば、自律神経、脊髄神経、または脳神経)におけるニューロンが挙げられる。一般にATPの病理作用に関連する神経損傷としては、例えば、水頭症、浮腫、物理的および圧迫性外傷、興奮毒性損傷、および虚血が挙げられる。
【0014】
1.ATPの病理作用を阻害することができる薬剤
本明細書で提供する方法はATPの病理作用を阻害またはブロックする薬剤の投与を含むことができる。そのような薬剤としては、例えば、ATPを分解する薬剤、P2X7およびP2X4受容体などのP2X ATP受容体のアンタゴニスト、ならびにATP合成またはATPシグナル伝達に関連するタンパク質の発現を減少もしくは阻止する薬剤が挙げられる。
【0015】
ATPを分解することができる薬剤の例としては、エクト-ATPアーゼおよびCD39(エクト-ATPジホスホヒドロラーゼ、NTP-Dアーゼ-1、またはエクト-アピラーゼとしても公知)などのアピラーゼを含むエクトヌクレオチダーゼ、ヘキソキナーゼ、および細胞外ATPを加水分解する他の酵素が挙げられるが、それらに限定されない。
【0016】
本明細書で使用される「P2X受容体アンタゴニスト」という用語は、(a)P2X受容体を発現する細胞のP2X受容体アゴニストによる活性化を阻害する;または(b)P2X受容体を発現する細胞の活性を阻害する薬剤を含む。そのようなP2X受容体アンタゴニストは、受容体上の関連アゴニストの結合部位へ結合することによりP2X受容体へのアゴニストの結合を完全に阻害または実質的に阻害することによって、作用することができ、またはそのようなP2X受容体アンタゴニストは、アゴニスト結合部位以外の部位に結合することにより、およびアゴニストの受容体への結合を、完全でなければ実質的に阻害するようにP2X受容体中に立体構造変化を誘発することにより、アロステリックに作用することができる。または、P2X受容体アンタゴニストは、アゴニスト結合部位、または別の部位のいずれかで、受容体に結合することにより、および細胞に阻害シグナルを送達することにより、P2X受容体を発現する細胞の活性を阻害することができる。さらに、P2X受容体アンタゴニストは、P2X受容体から下流の部位で、受容体により開始される関連シグナル伝達の1つまたは複数の段階を妨害することにより、作用することができる。
【0017】
P2X受容体のアンタゴニストの例としては、ブリリアントブルーG、ラットP2X7受容体の選択的かつ可逆阻害剤;酸化ATP(oATP)、P2X受容体の不可逆ブロッカー;ピリドキサルホスフェート-6-アゾフェニル-2',4'-ジスルホン酸・4Na(PPADS)、機能的選択性P2Xプリン受容体アンタゴニスト;スラミン、非特異的P2X受容体アンタゴニスト;1-[N,O-ビス(5-イソキノリンスルホニル)-N-メチル-L-チロシル]-4-フェニルピペラジン(KN-62)、ラット脳Ca+2/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼIIの選択的阻害剤;および5-(N,N-ヘキサメチレン)アミロリド(HMA)、Na+/H+対向輸送阻害剤、ならびに5-{[3''-ジフェニルエーテル(1',2',3',4'-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アミノ]カルボニル}ベンゼン-1,2,4-トリカルボン酸;2',3'-O-(4-ベンゾイルベンゾイル)-ATP(BzATP);テトラメチルピラジン(TMP);および2',3'-O-2,4,6-トリニトロフェニル-ATP(TNP-ATP)が挙げられるが、それらに限定されない。P2X受容体アンタゴニストの追加の例としては、全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,831,193号で列挙されているものが挙げられる。
【0018】
核酸アプタマーとして公知の小分子化合物もまた、ATPの病理活性を減少させるまたはブロックするために使用することができる。核酸アプタマーは、高い親和力でタンパク質(例えば、本明細で列挙したP2X受容体のいずれか)に結合することができ、リガンド、受容体、および他の分子のそのようなタンパク質への結合を阻害することができる相対的に短い核酸(DNA、RNAまたは両方の組み合わせ)分子である。アプタマーは一般に、約25〜40ヌクレオチドの長さであり、約18〜25kDaの範囲の分子量を有することができる。SELEX(指数関数的濃縮によるリガンドの系統的進化)と呼ばれるインビトロ進化過程を用いて標的に対し高い特異性および親和性を有するアプタマーを得ることができる(例えば、Zhang et al.(2004) Arch. Immunol. Ther. Exp. 52:307-315を参照されたい)。核酸アプタマーの安定性(例えば、ヌクレオチド類似体を使用する)およびインビボバイオアベイラビリティ(例えば、被験体の循環系におけるインビボ残留性)を増強する方法については、Zhang et al.(上記)およびBrody et al.(2000) Rev. Mol. Biotechnol. 74:5-13を参照されたい。
【0019】
さらに、P2X受容体(例えば、P2X7受容体)に対する特異的な結合親和性を有する非アゴニスト抗体またはATPシグナル伝達に関係する他の分子を使用して、ATPの病理活性を減少させることができる。抗体を産生させるために、ウサギ、ニワトリ、マウス、モルモット、またはラットなどの宿主動物は、標的ポリペプチドまたは標的ポリペプチドの抗原断片を注入することにより免疫することができる(例えば、P2X7などのP2X受容体)。宿主種に応じて様々なアジュバントを使用して、免疫応答を増加させることができる。これらは、フロイントアジュバント(完全および不完全)、水酸化アルミニウムなどのミネラルゲル、リゾレシチンなどの表面活性物質、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油エマルジョン、キーホールリンペットヘモシアニン、およびジニトロフェノールを含む。抗体はポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体であってよい。ポリクローナル抗体は、免疫動物の血清に含まれる抗体分子の不均一集団である。特定の抗原に対する抗体の均一集団であるモノクローナル抗体は、標的ポリペプチド(またはその抗原断片)および標準ハイブリドーマ技術を用いて調製することができる。特に、モノクローナル抗体は、Kohler et al., Nature, 256:495(1975)により記載されているような、培地中で連続細胞系による抗体分子産生を提供する任意の技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kosbor et al., Immunology Today, 4:72 (1983); Cole et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA, 80:2026 (1983))、およびEBV-ハイブリドーマ技術(Cole et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc., pp. 77-96(1983))を用いて得ることができる。そのような抗体は、IgG、IgM、IgE、IgA、IgDを含む任意の免疫グロブリンクラス、および任意のそれらのサブクラスであってよい。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、インビトロまたはインビボで培養することができる。抗体は任意の様々な種、例えば、ヒト、非ヒト霊長類(例えば、サル、ヒヒ、またはチンパンジー)、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、スナネズミ、ハムスター、ラット、およびマウス中で産生させることができ、またはそれらから誘導することができる。
【0020】
標的ポリペプチドに対し特異的な結合親和性を有する抗体断片もまた有用であり、公知の技術により生成することができる。本明細書で使用される「抗体断片」という用語は、抗原結合断片、例えば、Fab、F(ab')2、Fv、および一本鎖Fv(scFv)断片を示す。F(ab')2断片は、抗体分子のペプシン消化により産生することができ、Fab断片は、F(ab')2断片のジスルフィド架橋を還元することにより産生することができる。または、Fab発現ライブラリを作製することができる。例えば、Huse et al., Science, 246:1275 (1989)を参照されたい。産生されたら、抗体またはその断片について、ELISA技術、ラジオイムノアッセイおよびウエスタンブロッティングを含む標準イムノアッセイ法によりPNMT変異ポリペプチドの認識に対して試験する。Ausubel et al., 1992により出版された、Short Protocols in Molecular Biology, Chapter 11, Green Publishing Associates and John Wiley & Sonsを参照されたい。scFv断片は、scFvが由来する抗体の重鎖および軽鎖可変領域の両方を含む一本鎖ポリペプチド鎖である。scFv断片は、例えば、米国特許第4,642,334号で記載されているように、産生させることができる。さらに、二重特異性抗体[Poljak(1994)Structure 2(12):1121-1123;Hudson et al., (1999) J. Immunol. Methods 23(1-2):177-189]および細胞内抗体[Huston et al., (2001) Hum. Antibodies 10(3-4):127-142;Wheeler et al., (2003) Mol. Ther. 8(3):355-366;Stocks (2004) Drug Discov. Today 9(22):960-966]を、本明細書で提供した方法において使用することができる。
【0021】
抗体は精製または組換え抗体であってよい。非ヒト(例えば、マウス、ラット、スナネズミ、またはハムスター)抗体から作製したキメラ抗体およびヒト化抗体も有用である。キメラおよびヒト化モノクローナル抗体は、当技術分野において公知の組換えDNA技術を用いて、例えば、国際特許公開番号PCT/US86/02269;欧州特許出願第184,187号;欧州特許出願第171,496号;欧州特許出願第173,494号;PCT出願WO 86/01533;米国特許第4,816,567号;欧州特許出願第125,023号;Better et al.(1988) Science 240:1041-1043;Liu et al.(1987) J. Immunol. 139:3521-3526;Sun et al. (1987) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:214-218;Nishimura et al. (1987) Canc. Res. 47:999-1005;Wood et al.(1985) Nature 314:446-449;Shaw et al. (1988) J. Natl. Cancer Inst. 80:1553-1559;Morrison (1985) Science 229:1202-1207;Oi et al.(1986) BioTechniques 4:214;米国特許第5,225,539号;Jones et al.(1986) Nature 321:552-525;Veroeyan et al.(1988) Science 239:1534;およびBeidler et al.(1988) J. Immunol. 141:4053-4060において記載されている方法を用いて作製することができる。
【0022】
ATP合成またはATPシグナル伝達に関連するタンパク質の発現を阻害するのに使用することができる薬剤は、アンチセンス核酸(例えば、オリゴヌクレオチド)および干渉RNAを含むことができる。アンチセンス化合物は一般に、例えば、標的mRNA分子の翻訳を直接妨害することにより、標的mRNAのリボヌクレアーゼ-H媒介性分解により、mRNAの5'キャッピングを妨害することにより、5'キャップのマスキングによる標的mRNAへの翻訳因子結合を阻止することにより、またはmRNAポリアデニル化を阻害することにより、タンパク質発現を妨害するために使用される。タンパク質発現の妨害は、アンチセンス化合物とその標的mRNAとのハイブリダイゼーションから生じる。アンチセンス化合物との相互作用のための対象標的mRNA上の特異的標的部位を選択する。このように、例えば、ポリアデニル化の調節については、mRNA標的上の標的部位は、ポリアデニル化シグナルまたはポリアデニル化部位であってよい。mRNAの安定性または分解を減少させるには、標的部位として不安定化配列が有用である。1つまたは複数の標的部位が特定されると、所望の効果を与える、標的部位に十分相補的な(すなわち、生理学的条件下で十分良好に、かつ十分特異的に、ハイブリダイズする)オリゴヌクレオチドを選択することができる。
【0023】
本明細書で使用される「オリゴヌクレオチド」という用語は、RNA、DNA、もしくはいずれかの模倣体のオリゴマーまたはポリマーを示す。この用語は、天然由来の核酸塩基、糖、およびヌクレオシド間(骨格)共有結合からなるオリゴヌクレオチドを含む。RNAおよびDNAの標準結合または骨格は3'→5'ホスホジエステル結合である。しかしながら、この用語はまた、天然由来の成分のみを含むオリゴヌクレオチドと同様の様式で機能する非天然成分から完全に構成される、またはそれらを含む部分を有するオリゴヌクレオチドを示す。そのような修飾された置換オリゴヌクレオチドは、例えば、細胞取り込みの増強、標的配列に対する親和性の増強、およびヌクレアーゼの存在下での安定性の増加などの所望の特性のため、天然の形態よりも好ましい可能性がある。模倣体では、コア塩基(ピリミジンまたはプリン)構造は一般に保存されるが、(1)糖が修飾され、もしくは他の成分と置換され、および/または(2)核酸塩基間結合が修飾される。非常に有用な1つのクラスの核酸模倣体は、タンパク質核酸(PNA)と呼ばれる。PNA分子では、糖骨格はアミド含有骨格(例えば、アミノエチルグリシン骨格)で置換される。塩基は保持され、骨格のアミド部分のアザ窒素原子に直接結合される。本明細書で開示した方法において有用である可能性のあるPNAおよび他の模倣体は米国特許第6,210,289号で詳細に記載されている。
【0024】
本明細書で提供した方法において使用することができるアンチセンスオリゴマーは、一般に約8〜約100(例えば、約14〜約80または約14〜約35)核酸塩基(または、核酸塩基が天然由来であるヌクレオシド)を含むことができる。
【0025】
1つまたは複数のアンチセンスオリゴヌクレオチド自体を細胞に導入し、特定のタンパク質(例えば、本明細書で列挙したP2X受容体のいずれか)の発現を減少させるかまたは阻止することができる。または、アンチセンスオリゴヌクレオチドをコードする核酸配列を含む発現ベクターを細胞内に導入することができる。後者の場合、発現ベクターにより産生されたオリゴヌクレオチドは完全に天然由来の成分からなるRNAオリゴヌクレオチドである。RNAオリゴヌクレオチドをコードする配列を、プロモーターに機能的に結合し、オリゴヌクレオチドの転写を促進することができる。本明細書で使用される「機能的に結合する」とは、1つまたは複数の発現制御配列が対象のコード配列の発現を効果的に制御することができるように、遺伝子構築物中に組み入れることを意味する。RNAポリメラーゼがコード配列をmRNAに転写することができる場合、細胞中で、コード配列は「機能的に結合」され、発現制御配列の「制御下」にある。
【0026】
エンハンサーは、時間、位置、およびレベルの観点から発現特異性を提供する。プロモーターとは異なり、エンハンサーは、プロモーターが存在すれば、転写開始部位から様々な距離に位置しても機能することができる。エンハンサーはまた、転写開始部位の下流に位置することができる。コード配列をプロモーターの制御下におくためには、ペプチドまたはポリペプチドの翻訳読み枠の翻訳開始部位をプロモーターの1〜約50ヌクレオチド下流(3')の間に配置することが必要である。対象プロモーターとしては、サイトメガロウイルスhCMV前初期遺伝子、SV40アデノウイルスの初期または初期および後期プロモーター、lac系、trp系、TAC系、TRC系、ファージAの主要なオペレーターおよびプロモーター領域、fdコートタンパク質の制御領域、3-ホスホグリセリン酸キナーゼに対するプロモーター、酸ホスファターゼのプロモーター、および酵母α接合因子のプロモーター、アデノウイルスE1b最小プロモーター、またはチミジンキナーゼ最小プロモーターが挙げられるが、それらに限定されない。発現ベクターのコード配列は転写終結領域に機能的に結合される。
【0027】
適した発現ベクターはプラスミド、ならびに、とりわけ、ヘルペスウイルス、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、弱毒ワクシニアウイルス、カナリアポックスウイルス、アデノウイルスおよびアデノ関連ウイルスなどのウイルスベクターを含む。
【0028】
特定のDNAに類似する二本鎖低分子干渉RNA(siRNA)もまた、そのDNAの発現を減少させるために使用することができる。例えば、P2X受容体(例えば、P2X7)に類似するsiRNAもまた、神経細胞でP2X7の発現を減少させるために使用することができる。例えば、Fire et al.(1998) Nature 391:806-811;Romano and Masino (1992) Mol. Microbiol. 6:3343-3353;Cogoni et al.(1996) EMBO J. 15:3153-3163;Cogoni and Masino (1999) Nature 399:166-169;Misquitta and Paterson (1999) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96:1451-1456;およびKennerdell and Carthew (1998) Cell 95:1017-1026を参照されたい。
【0029】
siRNAのセンスRNA鎖およびアンチセンスRNA鎖は、化学合成および酵素連結反応を用い、当技術分野公知の手順を使用して、個々に構成することができる。例えば、各鎖は、天然由来のヌクレオチド、または分子の生物学的安定性を増加させる、またはセンス鎖およびアンチセンス鎖間で形成される二本鎖の物理的安定性を増加させるように設計された様々な修飾ヌクレオチド、例えば、ホスホロチオエート誘導体およびアクリジン置換ヌクレオチドを使用して化学的に合成することができる。センスまたはアンチセンス鎖はまた、センスまたはアンチセンス配向で標的配列(全長または断片)がサブクローニングされている発現ベクターを使用して、生物学的に生成することができる。センスRNA鎖およびアンチセンスRNA鎖は、dsRNAを細胞へ送達する前にインビトロでアニールすることができる。また、アニーリングは、センス鎖およびアンチセンス鎖が、神経細胞に連続的に送達された後、インビボで起こすこともできる。
【0030】
センスRNAおよびアンチセンスRNAを別個のプロモーターの指示の下、転写させることができるポリヌクレオチド、またはセンス配列およびアンチセンス配列の両方共を単一プロモーターの指示の下、転写させることができる一本鎖RNA分子を神経細胞に導入することにより、二本鎖siRNA干渉を達成することができる。
【0031】
細胞外ATPは直接ニューロン(例えば、RGC)に作用し、それらの死を引き起こすことができる。しかしながら、細胞外ATPはまた、バイスタンダー細胞(例えば、網膜のグリア細胞)に作用し、ATPと協同してRGCの損傷を引き起こす毒性因子(例えば、NOまたはスーパーオキシドアニオン、またはグルタメート)の放出を促進することもできる。このように、上記薬剤に加えて、スジバイスタンダー(sudibystander)グリア細胞のATP媒介活性化から誘導される損傷を減少させるかまたは阻止するのに他の薬剤が有用であり得る。そのような薬剤としては、例えば、腫瘍壊死因子-α(TNFα)およびインターロイキン1-β(IL-1β)が挙げられる。
【0032】
2.方法
本明細書で記載した薬剤をインビトロまたはインビボで送達することができる。インビトロ法は、例えば、特定の薬剤の有効性を試験する、または様々な目的、例えば、薬物スクリーニング、毒性試験などのいずれかのためにニューロンを生成させる培養設定におけるニューロンの生存および/もしくは成長を最適化するためのスクリーニングアッセイにおける「陽性対照」として有用であり得る。そのような方法は、神経細胞にインビトロで、ATPのニューロンへの病理作用を減少させるかもしくは阻害することができる1つまたは複数の薬剤を投与する段階を含むことができる。これらの薬剤は本明細書では「ATP阻害剤」と呼ばれる。
【0033】
本明細書で提供したインビボ法を使用して、被験体における神経損傷を抑制することができる。本方法は、被験体内のニューロンまたはニューロンの細胞外環境に、ATPのニューロンに対する病理作用を阻害する1つまたは複数の薬剤を送達する段階を含むことができる。送達前に、本方法はまた、神経損傷(例えば、緑内障を併発する可能性があるような、圧力関連神経損傷)を有する、それを有する可能性がある、またはそれを起こす可能性がある被験体を特定する段階を含むことができる。または、ATPに応答するバイスタンダー細胞によるニューロンに対して毒性のある物質の産生を阻害する1つまたは複数の薬剤を、そのようなバイスタンダー細胞またはそのようなバイスタンダー細胞の細胞外環境に送達することができる。
【0034】
本明細書で提供した方法は治療的または予防的であり得る。本明細書で使用される「治療的」である薬剤とは、疾患もしくは状態の症状の完全な排除、または疾患もしくは状態の症状の重篤度の減少を引き起こす薬剤である。「阻止」とは、疾患または状態の症状が本質的に存在しないことを意味する。本明細書で使用される「予防」とは、疾患または状態の症状の完全な阻止、疾患または状態の症状の発症の遅延、またはその後に生じる症状の重篤度の低下を意味する。いくつかの態様では、本明細書で提供した方法は、本明細書で記載した1つまたは複数の阻害剤を用いた治療中または治療後の神経損傷(例えば、神経損傷の減少または神経損傷の有無)についての被験体のモニタリング、ならびに、所望であれば、別の用量の同じ薬剤またはある用量の異なる薬剤の、ニューロンもしくはニューロンの細胞外環境への送達を含むことができる。
【0035】
「被験体」とは任意の哺乳動物被験体であってよい。例えば、被験体はラット、マウス、イヌ、ネコ、ウサギ、ウマ、ウシ(例えば、乳牛、種牛、または雄牛)、ヤギ、ヒツジ、ブタ、非ヒト霊長類(例えば、チンパンジーまたはオランウータン)、またはヒトであってよい。「有する、有する可能性がある、または起こす可能性がある」とは、被験体は、神経損傷を有するもしくはそれが生じていると診断されているか、またはその危険があることを意味する。例えば、特定の型の外科的処置(例えば、眼科手術)を受ける被験体は、神経損傷が生じる可能性がある。同様に、緑内障に対する危険のある被験体は、神経損傷を有するまたはそれが生じる可能性があると考えられる。
【0036】
圧力増加に供されるニューロンは、本明細書で記載されるように、CNSまたはPNSの任意のニューロンであり得る。「圧力増加」とは、神経損傷を引き起こすのに十分増加した細胞外圧力を意味し、一般に、ニューロンが典型的にさらされる正常な周囲細胞外圧力よりも、少なくとも10%(例えば、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、または100%以上)高くてよい。そのような圧力増加は、限定しないが、緑内障、頭蓋内手術、神経外傷、眼科手術、脳浮腫、および水痘症などの状態の結果生じる可能性がある。
【0037】
本明細書で使用される「細胞外環境」という用語は、細胞に接する周囲の環境を示す。特定の細胞の細胞外環境は、例えば、任意の細胞外マトリクスまたは細胞に隣接する流体を含む可能性があり、そのため、ATP阻害剤がニューロンまたはバイスタンダー細胞の細胞外環境に送達されると、薬剤は、それぞれ、ニューロンもしくはバイスタンダー細胞の表面に結合し、またはそれらに入ることができる。
【0038】
「ATPの病理作用」という語句は、ATPシグナル伝達に起因する、またはそれと関連する細胞(例えば、神経細胞)への有害作用を示す。ニューロンへのATPの病理作用により、例えば、細胞死または細胞機能の障害が生じる可能性がある。
【0039】
神経損傷に対し本明細書で使用される「抑制する」という用語は、ATP阻害剤による神経損傷の減少全てを示す。いくつかの態様では、神経損傷の抑制は、対応する未処置ニューロンと比較して、神経損傷のわずか5%の減少である可能性があり、対応する未処置ニューロンと比較して神経損傷の完全な(すなわち、100%)抑制であり得る。このように、神経損傷の「抑制」は、対応する未処置ニューロンと比較して5%〜100%(例えば、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、99%、または100%)の間の、処置ニューロンの神経損傷の減少を含む。いくつかの態様では、神経損傷の減少とは、未処置の被験体または未処置の目に対する、処置した被験体または処置した目の損傷ニューロン数の減少であってよい。このように、神経損傷の「抑制」は、未処置の被験体または未処置の目と比較した場合、処置した被験体または処置した目の損傷ニューロン数の5%〜100%(例えば、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、99%、または100%)の間の減少を含むことができる。
【0040】
一般に、本明細書で提供した方法において有用なATP阻害剤を、薬学的に許容される担体中に懸濁し、被験体に治療的有効量で投与することができる。薬学的に許容される担体は、ヒトに投与するのに適した、生物学的に適合性のあるビヒクルである(例えば、生理食塩水またはリポソーム)。「治療的有効量」とは、処置した被験体において医学的に望ましい結果(例えば、ATPのニューロンに対する病理作用の減少)を生じさせることができる薬剤の量である。薬剤は、任意の適した経路を介して投与することができる。例えば、1つもしくは複数の薬剤は、被験体に経口投与することができ、または静脈内、皮下、筋内、髄腔内、腹腔内、直腸内、膣内、鼻内、胃内、気管内、もしくは肺内注入することができる。1つまたは複数の薬剤はまた、直接神経細胞に送達することができ、例えば、網膜に眼内送達することができる。必要な用量は、投与経路の選択、製剤の性質、患者の疾患の性質、被験体のサイズ、体重、表面積、年齢、および性別、投与する別の薬物、ならびに主治医の判断に依存する。適した用量は、0.0001mg/kg〜100mg/kgの範囲であり得る。ポリヌクレオチドの投与のための用量は、ポリヌクレオチド分子の約106〜約1012コピーであってよい。有効な化合物の多様性および様々な投与経路の異なる効率を考慮すると、必要とされる用量の広い変動が予測される。例えば、経口投与は、静脈内注射による投与よりも高い用量を必要とすることが予測される。これらの用量レベルの変動は、当技術分野でよく理解されている最適化のための標準経験的ルーチンを用いて調節することができる。薬剤は1度に投与することができ、または必要に応じ、繰り返し投与することができる。
【0041】
送達するべき薬剤がポリペプチドである場合、特に経口送達に関して、適した送達ビヒクル(例えば、ポリマー微粒子または移植可能装置)中へのポリペプチドの封入により、送達効率が増大する可能性がある。または、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸を被験体に送達することができる。コード配列の発現は、被験体の体内のいずれの細胞でも誘導することができる。発現は典型的には、損傷が抑制されることが望ましい神経細胞付近の細胞に誘導することができる。コード配列の発現は神経細胞自体に誘導することができる。これは、例えば、当技術分野で公知のポリマー生物分解性微粒子またはマイクロカプセル送達装置を使用することにより達成することができる。
【0042】
核酸の取り込みを達成する別の方法はリポソームを使用するものであり、リポソームは標準法により調製することができる。ベクターは単独でこれらの送達ビヒクルに組み入れることができ、または組織特異的もしくは腫瘍特異的抗体と共に組み入れることができる。または、静電力もしくは共有結合力によりポリ-L-リシンに結合させたプラスミドまたは他のベクターからなる分子結合体を調製することができる。ポリ-L-リシンはリガンドに結合し、リガンドは標的細胞上の受容体に結合することができる(Cristiano et al. (1995), J. Mol. Med. 73:479)。または、組織特異的ターゲティングは、当技術分野で公知なものを含む、組織特異的転写調節因子(TRE)を使用することにより達成することができる。「裸のDNA」(すなわち、送達ビヒクル無し)の筋内、皮内、または皮下部位への送達は、インビボ発現を達成する別の手段である。
【0043】
アンチセンスオリゴヌクレオチド自体を投与する場合、それらを薬学的に許容される担体(例えば、生理食塩水)中に懸濁し、ATPの病理作用を減少させる他の薬剤について本明細書で記載したのと同じ条件下で投与することができる。アンチセンスオリゴヌクレオチドをコードする核酸配列を含む発現ベクターを被験体に投与する場合、コード配列の発現は、本明細書で記載した細胞または組織ターゲティング技術のいずれかを用いて被験体の体内の神経細胞に誘導することができる。
【0044】
ATPの病理作用による神経損傷を減少させる上記方法のいずれかにおいて、例えば、P2X受容体アンタゴニスト、ATP分解酵素、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、薬物、もしくは小分子(またはそれらをコードするベクター)を含む1つまたは複数の薬剤(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、15、18、20、25、30、40、50、60、70、80、100またはそれ以上)を使用することができる。
【0045】
3.組成物、キット、および製品
本明細書で提供した方法において有用な薬剤を、ATPのニューロンに対する病理作用による神経損傷を軽減するための薬剤の製造において使用することができる。このように、本明細書では、薬学的に許容される担体および1つまたは複数のATP阻害剤、すなわち、ATPのニューロンに対する病理作用を阻害する薬剤を含む組成物を提供する。本明細書では、包装材料、ATPのニューロンに対する病理作用を阻害する1つまたは複数の薬剤、およびATPの病理作用による神経損傷を軽減する1つまたは複数の薬剤を使用するための使用説明書を含む製品もまた、提供する。さらに本明細書では、ATPのニューロンに対する病理作用を阻害する1つまたは複数の薬剤を含むキットを提供する。キットはさらに、例えば、1つもしくは複数の薬剤を被験体に投与するシリンジまたは他の装置を含むことができる。キットはまた、ATPの病理作用による神経損傷を軽減するための1つもしくは複数の薬剤を使用するためのラベルまたは使用説明書を含むことができる。
【0046】
本発明についてさらに、下記実施例で記載するが、これらの実施例は添付の特許請求の範囲で記載した本発明の範囲を制限するものではない。
【0047】
実施例
実施例1-材料および方法
圧力制御インキュベーション:
独立バイオリアクターチャンバを使用して、生網膜(例えば、ラット網膜)を人工脳脊髄液(ACFS;Stacy et al., (2003) J. Comp. Neurol. 456:154-166)中、制御された温度(33±0.5℃;pH7.4±0.1)および静水圧条件(10〜90mmHg、分解能(resolution)2mmHg;Previti, et al. (2002) IEEE-EMBS Special Topic conference on Molecular, Cellular and Tissue Engineering, 1:157-158)下でインキュベートした。ラット網膜を12mmHgで5分間安定化させ、1分圧力増加を適用することで、20秒未満でピーク値に到達した。連続圧力過渡(pressure transient)を12mmHgで1分間行うことにより分離した。静水圧およびpHを、インキュベータチャンバ内での電気的に制御した空気/CO2注入により調節した。
【0048】
生RGCの撮像:
動物実験に関するARVOおよび国家規則にしたがい、Long Evansラットに対し実験を実施した。全ての化学薬品は、特に記載がなければ、Sigma(St.Louis, MO)から入手した。
【0049】
成体動物を斬首し、網膜を迅速に解剖し、ニトロセルロースフィルタ上で平らにし、酸素化ACSF中で維持した。個々のRGCを、Oregon Green 488結合デキストランでコートした1.3μmタングステン粒子(Molecular Probes, Inc., Eugene, OR)を、網膜中に、遺伝子銃(Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA;Kettunen, et al. (2002) J. Neurosci. Methods 119:37-43)を用いて打ち込むことにより標識した。網膜を、特注の4ml観察チャンバ内の、白黒CCDカメラを備えたZeiss Axioplan蛍光顕微鏡(Chroma DTA, Pisa, Italy)のステージ上で、酸素化ACSF中に置くことにより、個々のRGCを撮像した。観察は室温(25〜28℃)で実行した。40x Olympus液浸対物レンズ(N.A. 0.80)を使用して、励起光をその最大強度の10%未満で維持した。網膜1つあたり5未満のRGCを分析し、露光量を最小とした。膜の完全性の喪失を、1.5μM PIをACSFに1分間添加することにより評価した。外膜小葉上でのホスファチジルセリン曝露を、3μg/ml Cy3-Annexin Vを含むACSF中での20分のインキュベーションにより証明した。いくつかの実験では、RGCを酸化ATP(oATP)を用いて2時間、またはブリリアントブルーG(BBG)を用いて30分間、撮像前にプレインキュベートした。
【0050】
インビボ圧力過渡:
成体Long EvansラットをAvertine(10ml/kg体重、3.3%トリブロモエタノール、2%第3アミルアルコールを含む生理食塩水)を腹腔内注射することにより深く麻酔し、それらの右目を、適当な高さで保持したACSFカラムである、圧力装置に接続した30ゲージ針でカニューレ処置した(incannulated)。針とACSFカラムとの間の接続をオンに切り換えることにより、眼圧を50mmHgまで2分間増加させた。圧電抵抗圧力センサ(RS Electronics)は圧力値およびライン堅固さ(line tightness)を制御した。この全手順を解剖顕微鏡下で実行し、目の損傷を制御した。局所アトロピンを用いて瞳孔散大を達成し、コンタクトレンズの使用により、加圧しながらの網膜血管のモニタリングが可能になった。加圧後、動物をケージに戻し回復させた。網膜を1時間後に単離した。対照の目をカニューレ処置したが、圧力過渡を適用しなかった。インビボでのeATPブロッキング効果を分析するために、2μlのアピラーゼ(30U/ml眼内濃度)を加圧5分前に眼内注入した。細胞損傷を評価するために、PI標識細胞を網膜領域全体にわたり、1つの網膜あたり等間隔(370×250μm2)の10試料場で、撮像した。この色素により、膜完全性の低下した細胞には色素が透過し、色素により染色されるので、膜完全性の評価が可能となった。長期分析のために、網膜解剖、組織学的および免疫細胞化学処理を、記載されているように実行した(Galli-Resta et al., (1997) J. Neurosci. 17:7831-7838)。
【0051】
ATPレベルを測定するために、麻酔した動物から、鋸状縁のすぐ後ろに挿入した30ゲージ針を用いて目の後眼房に穴を開け、その後、穴の中に50μmの先端を有するガラスマイクロピペットを配置することにより、5μlの硝子体試料を収集した。マイクロピペットを、試料体積制御を可能にする微量駆動(microdriven)ピストンを備える25μl Hamiltonシリンジに接続した。試料を圧力パルス90秒後に収集し、ATPレベルを照度計(Wallac Victor 31420, Perkin Elmer, Boston, MA)においてルシフェリン-ルシフェラーゼアッセイ法により測定した。
【0052】
細胞外電気生理学的記録:
細胞外電気生理学的記録のための実験手順は記載されている通りである(Caleo et al. (2003) J. Neurosci. 23(1):287-296)。簡単に言うと、P25〜P30の間の年齢のラットをウレタン(20%の生理食塩水溶液;0.7ml/100gの体重、腹腔内;Sigma)で麻酔し、定位固定フレームに入れた。両目を、眼球の外側部分を取り囲む調整可能な金属リングにより固定した。体温を連続してモニタリングし、サーモスタット制御電気毛布により37℃に維持した。脳表面を露出させた後、3M NaClで満たしたガラスマイクロピペット(先端抵抗、2MΩ)を適当な定位座標(人字縫合から2.1mm前方および3.3mm後方)で脳に挿入し、降下させて、RGC軸索(対側の目から約90%、同側の目から10%)からなる視索に到達させた。最初に引き起こされる視覚活動は、通常軟膜から3.6mmの深さで遭遇し、視索の線維からの放電の特徴である、聞き取れる「ヒューという音(swish)」を有した。視索位置は、記載されているように(Caleo et al., 上記)、数匹の動物において電極トラックの組織学的再構築により確認した。視覚刺激は、ラットの目の前20〜30cmに配置したディスプレイ(Sony Multiscan G500)上のVSG2/5カード(Cambridge Research Systems, Rochester, UK)により発生する1.25秒の光フラッシュとした。刺激振動数は0.2Hzであり、フラッシュコントラストは80%であり、平均輝度は15cd/m2であった。シグナルを25,000倍増幅させ、バンドパスフィルタにかけ(500〜5000Hz)、保存および特注プログラム(National Instrument Cardに基づく)による分析のためにコンピュータに伝達した。多ユニットスパイクを、電圧閾値によりバックグラウンドから区別し、電圧閾値は、ノイズの標準偏差の3.5〜4.5倍の間で設定した。応答を10連続刺激に対して平均した。回復時間は、加圧刺激後、検討中の変数が、加圧前のその値の85%に到達した最初の時間として規定した。
【0053】
実施例2-インビトロでのRGCに対する圧力増加の効果
圧力誘発RGC損傷の機構を研究するために、ラット網膜を単離し、個々の生RGCを標識し、制御した圧力増加の前後に、細胞体、樹状突起および軸索を撮像した。この手順により、インビボでIOPの増加を引き起こす網膜血液供給の変化と独立した様式で、圧力の単一ニューロンに対する効果を調べることができた(Quigley (1999) Prog. Retin. Eye Res. 18:39-57)。焦点は、一時的な視覚障害を誘発することができる、短い高圧過渡においた(Siliprandi et al., (1988) Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 29:558-565)。
【0054】
生理学的圧力レベル(12mmHg)での1時間のインキュベーションではRGCに何の影響もなかったが、50mmHgで1分(1×50)では、細胞の25%に影響し、1時間以内に細胞体および軸索起始部の小疱形成が引き起こされた。PI透過性から、小疱形成細胞の半分での膜完全性の崩壊が示された(12% RGC)。より高い圧力値または圧力発作の繰り返しにより、影響を受ける細胞の割合が増加し、小疱形成はより重篤になり、樹状突起にまで拡大した。90mmHgで1分のパルスを7回(7×90)行った後1時間で、α型RGCを除く全てが小疱形成および膜完全性の喪失を示した。7×90圧力刺激後数時間で、細胞体は縮小または断片化を示し(10/10RGC)、Annexin V結合(10/10RGC)により明らかにされるように、ホスファチジルセリン曝露が外膜上で観察され、死滅過程の活性化が示された(Wyllie et al.(1980) Int. Rev. Cytol. 68:251-306)。この進行性の変性は、1×50刺激では観察されなかった。圧力誘発RGC損傷を図1で定量化した。Fisher 2×2両側検定により、eATPシグナル伝達をブロックする保護効果のように(7×90+eATP遮断:P<10-11;1×50+eATP遮断:P<10-3)、圧力の損傷効果は統計的に有意である(1×50:P<0.001;7×90:P<10-11)ことが示された。
【0055】
実施例3-インビトロでの圧力誘発RGC損傷に対するATP還元剤の効果
eATPの効果は、P2X7受容体により媒介させることができる(Di Virgilio et al. (1998) Cell Death Differ. 5:191-199;およびNorth (2002) Physiol. Rev. 82:1013-1067)。このように、eATPが圧力誘発RGC損傷に関与するかどうかを決定するために実験を実施した。
【0056】
RGCを下記薬剤と共にインキュベートした:30U/mlアピラーゼ(細胞外ATPを分解する酵素;North、上記);300μM oATP(P2X受容体の不可逆ブロッカー;North、上記);または0.5μM BBG (ラットP2X7受容体の選択的および可逆阻害剤;North、上記)。これらの薬剤はそれぞれ、試験した最も不都合な圧力条件下(7×90;図1)でさえも、圧力誘発RGC損傷の全ての徴候を阻止した。例えば、アピラーゼの存在下で加圧しても、小疱形成またはPI透過性は観察されなかった。eATPをブロックしても、50mmHgでの1分パルス(1×50)により引き起こされる損傷からRGCが保護された。
【0057】
1mM ATP中で単離したラット網膜をインキュベートすると、圧力増加を繰り返して得られたのと同じ効果が誘導され、α型RGCを除き(0/15)、1時間以内に、試験した全てのRGC(35/試験した35)において細胞小疱形成およびPI取り込みが引き起こされた。2',3'-ベンゾイル-4-ベンゾイル-ATPに対して強力なP2X7受容体を適用すると、同じ効果が得られた(BzATP;0.1mM;10/10非α-RGC)。ATP適用後2時間で、Annexin V結合により明らかなように(7/7 RGC)、外膜上でホスファチジルセリン曝露が観察され、細胞体収縮または断片化もまた観察された(10/10RGC)。これらの現象はどちらも、細胞死滅過程の活性化の典型的な指標である(Wyllie et al.,上記;およびReutelingsperger et al., (2002 J. Immunol. Methods 265:123-132)。ATP誘発RGC損傷は、300μM oATP(0/20非α-RGC)または0.5μM BBG(0/15非α-RGC)のいずれかを含むACSF中で、2時間プレインキュベートすることにより全体的に阻止された。このように、eATPの分解またはATPのための細胞毒性P2X7受容体のブロックにより、単離した網膜における圧力損傷が阻止された。逆に、直接ATP適用は、高圧により誘発されるRGC損傷を模倣することが示された。
【0058】
実施例4-インビボでのRGCに対する圧力増加の効果
圧力がインビボで同様の効果を有するかどうかを試験するために、短い眼圧過渡(50mmHgで2分)を麻酔した成体ラットに適用し、一方、網膜血管を視覚的にモニタリングし、圧力により影響されないことを確認した。圧力パルス1時間後、網膜を酸素化ACSF中で単離し、RGC損傷を試験した。神経節細胞層中の細胞の10%がPIで染色されることが観察され、細胞傷害が明確に示された。このPI標識細胞の割合は、50mmHgの単一圧力パルス後インビトロで観察されたものと非常に類似した。圧力パルス90秒後、対照動物に対して、ATP量の5倍の増加が、処置ラットの硝子体中で観察された(対照0.37±0.15μM、N=8;処置2.1±0.6μM N=6;P<0.01 t-試験)。加圧5分前にアピラーゼ(30U/ml眼内)を眼内注射して細胞外ATPを分解させると、インビボで圧力誘発RGC損傷が全体的に阻止された(図2;P<10-5)。このように、短い圧力過渡はインビボでATP放出およびRGC損傷を引き起こし、内在性細胞外ATPを分解することによりRGC損傷は完全に阻止された。
【0059】
圧力誘発損傷がインビボで不可逆であるかどうかを調べるために、圧力パルス後5日間動物を生存させた。この時に、細胞喪失が視神経切断などのRGC損傷の古典的モデルで明らかになるからである(Kermer et al. (1999) FEBS Lett. 453:361-364)。圧力に曝露された網膜は、RGCまたはpicnotic細胞数の有意な減少を示さず、カスパーゼ3、c-fosまたはphospho-junの活性化などの損傷の典型的な初期徴候を示さなかった。これにより、RGCはインビボで、単一圧力過渡により誘発された損傷から回復することが示唆された。
【0060】
これを直接試験するために、インビボで圧力パルスを提供した後、網膜を単離し、膜完全性の喪失を明らかにすることができる2つの異なる色素(YOYO-proおよびPI)を同時に、または連続して添加した。色素を同時に適用すると、YOYO透過性の細胞は全てPI透過性であった(200/200細胞)。加圧後1時間にYOYOを適用し、続いて、加圧後2時間にPIを適用すると、いずれかの細胞が1時間で膜完全性を喪失したが、2時間で回復したかどうかを評価することができた。そのような細胞はYOYO-proを取り込むが、PIを取り込まないからである。多くの細胞を両方の色素で標識した。さらに、色素の連続添加により、YOYO-pro標識により示されるように、加圧後1時間で膜完全性を喪失したが、2時間までには膜完全性を回復し、このようにPI透過性であるニューロンが明らかになった。YOYO-pro標識は典型的には、これらの細胞がほとんど細胞質収縮および核染色を有さないことを示し、1時間であっても、損傷の制限を受けたことが示された。この時点で、回復細胞は損傷細胞の30±20%を示した。
【0061】
実施例5-アピラーゼの眼内注射の効果
(1)アピラーゼの眼内注射がRGC発火活性および光応答に対し何らかの有害効果を有するかどうか、および(2)アピラーゼの眼内注射がインビボでの過渡IOP上昇後のRGC光応答回復に対し何らかの効果を有するかどうかを決定するために、実験を実施した。光フラッシュにより引き起こされた多ユニットスパイク活性を、視索において、90mmHgで1分間のIOPパルスの前後に5分間隔で記録した。典型的には、多ユニット記録では、図3a、3bおよび4aで例示されるように、光フラッシュの開始および消失の両方で、発火頻度で有意な増加が引き起こされた。単一IOPスパイク後、この光に対する応答は一時的に減少し、またはほとんど消滅し(図4b)、その後、徐々に回復し(図4c)、単一RGC記録で観察されたものと一致した(Troy and Shou (2002) Prog. Retin. Eye Res. 21(3):263-302)。RGC活性は光の開始および消失の両方により誘発され、PSTHでは2つのピークが生じた(図4c)。実施例は、IOP後すぐのRGC活性の強い減少の場合を示している。フラッシュ開始後0〜2秒の間隔での平均発火頻度として応答を定量化すると、平均最大応答減少は80±16%;N=15であり、最初の応答の少なくとも85%回復するのに必要な平均時間はIOPスパイク後32±4分であった。正常な動物における応答回復の2つの典型的な時間経過を図5aに示し、一方、アピラーゼ処置動物のIOPスパイク後の応答回復の2つの例を図5bに示した。IOP増加前1〜3時間でのアピラーゼ処置(30U/ml眼内)では、平均応答回復時間が11.2±2.6分まで短縮され(N=8)たが、加圧前では、スパイク活性に有意な変化はなかった。正常動物とアピラーゼ処置動物との間の回復時間の違いは統計学的に有意であった(P<0.001)。このように、アピラーゼ注入による眼内でのeATPレベルの減少はRGC光応答に負の影響を与えず、むしろ、IOP過渡後の回復を改善する。
【0062】
総合すれば、これらの研究により、内在性細胞外ATPは、インビトロおよびインビボで短い圧力増加により誘発されるRGC損傷を媒介することが示された。インビトロ研究により、単一細胞レベルでの圧力効果をモニタリングすることが可能となり、単一圧力パルス後の神経傷害は、圧力がインビボで引き起こす可能性のある血液供給に対する効果とは関係なく生じることが示された。平行実験により、短い圧力過渡により、インビボでATP放出が引き起こされ、RGCへの損傷に至ることが示された。圧力効果は単離した網膜にATPを直接適用することにより模倣され、逆に、内在性細胞外ATPを分解するか、またはATPに対するP2X7受容体の活性化をブロックするかのいずれかにより、eATPシグナル伝達をブロックすると、インビトロおよびインビボの両方で圧力誘発RGC損傷が全体的に阻止された。
【0063】
別の態様
本発明について、その詳細な説明を用いて記載してきたが、前記説明は本発明の範囲を説明するものであり、制限しようとするものではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲により規定されることを理解すべきである。別の局面、利点、および改変は添付の特許請求の範囲内にある。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】eATPシグナル伝達をブロックする薬剤の存在下または非存在下での非α型RGCに対する圧力効果の定量を示すグラフである。対照=12mmHgで1時間、N=40RGC;1×50=50mmHgで1分、続いて12mmHgで1時間、N=45RGC;7×90=90mmHgで1分の曝露を7連続、続いて12mmHgで1時間、N=47RGC。
【図2】インビボでの圧力パルス後、またはアピラーゼの存在下での圧力パルス後の神経節細胞層における細胞のPI染色の定量を示す図である。P<10-5;各実験条件に対してN=8網膜。
【図3】図3aは、一連の光フラッシュに対する多ユニット応答を示す、視索における細胞外活性の代表的な記録である。トレース下の水平バーは光がオンの期間を示す(各フラッシュ期間=1.25秒)。トレース上に配置された連続線は、スパイク区別のための閾値化手順を定量的に例示したものである。図3bは、6連続光フラッシュに応答するスパイク記録の例を示すラスター表示である。ラスタープロット上の各垂直バーは、細胞外で記録された活動電位を示す。各列は、単一フラッシュに対する応答である。トレース下の水平バーはフラッシュ期間(=1.25秒)を示す。上部列はシリーズの第1のフラッシュに対応する。
【図4】図4a、b、cは、90mmHgへの1分のIOP過渡の直前(c)、5分後(d)、および40分後(e)の1.25秒光フラッシュに応答する、視索において記録した多ユニットスパイク活性から得られる刺激前後時間ヒストグラム(PSTH)の例である。スパイク応答は、78ms毎に発火頻度を計算し、10の連続刺激に対し平均することにより得た。各グラフの下のバーはフラッシュ期間を示す。
【図5】図5aは、対照動物における90mmHgに対する1分のIOP過渡後の応答回復の時間経過を示す。シンボルサイズはエラーバーよりも大きい。平均応答を、各PSTHの0〜2秒時間間隔における平均スパイク活性として定量した。図5bは、IOP増加前にアピラーゼの眼内注入により処置した動物における、90mmHgに対する1分のIOP過渡後の応答回復の時間経過を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)神経損傷を有する、神経損傷を有する可能性のある、または神経損傷が起こる可能性のある哺乳動物被験体を特定する段階;および
(b)被験体内のニューロンまたは該ニューロンの細胞外環境に、ニューロンに対するATPの病理作用を阻害する1つまたは複数の薬剤を送達する段階
を含む、神経損傷を抑制するための方法。
【請求項2】
哺乳動物被験体がヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
神経損傷が、細胞外圧力の増加に起因する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
細胞外圧力の増加が、自然発生的であるか、外傷性であるか、病的であるか、または外科的処置と関連する、請求項3記載の方法。
【請求項5】
細胞外圧力の増加が、眼内であるか、頭蓋内であるか、または髄液内である、請求項3記載の方法。
【請求項6】
ニューロンが網膜ニューロンである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
網膜ニューロンが網膜神経節細胞である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
ニューロンが皮質ニューロン、海馬ニューロン、基底核、または脊髄ニューロンである、請求項1記載の方法。
【請求項9】
薬剤がアピラーゼである、請求項1記載の方法。
【請求項10】
薬剤がP2X受容体の阻害剤である、請求項1記載の方法。
【請求項11】
P2X受容体がP2X7受容体である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
薬剤がブリリアントブルーGである、請求項10記載の方法。
【請求項13】
薬剤が酸化ATPである、請求項10記載の方法。
【請求項14】
薬剤が、P2X受容体に特異的に結合する抗体または抗体断片である、請求項10記載の方法。
【請求項15】
薬剤がP2X受容体mRNA特異的オリゴヌクレオチドである、請求項10記載の方法。
【請求項16】
薬剤がP2X受容体低分子干渉RNAである、請求項10記載の方法。
【請求項17】
薬剤がP2X核酸アプタマーである、請求項10記載の方法。
【請求項18】
薬学的に許容される担体およびニューロンに対するATPの病理作用を阻害する薬剤を含む、組成物。
【請求項19】
包装材料、ニューロンに対するATPの病理作用を阻害する1つまたは複数の薬剤、および請求項1記載の方法において該1つまたは複数の薬剤を使用するための使用説明書を含む、製品。
【請求項20】
ニューロンに対するATPの病理作用を阻害する2つまたはそれ以上の薬剤を含む、キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−542385(P2008−542385A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−514805(P2008−514805)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【国際出願番号】PCT/US2006/021100
【国際公開番号】WO2006/130676
【国際公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(507393182)ダスカ サイエンティフィック コーポレーション (1)
【Fターム(参考)】