説明

神経損傷を処置するためのまたは神経細胞を再生するための組成物

【課題】神経損傷を処置するためまたは神経細胞を再生するための以下の工程を含む方法において用いる組成物を提供する。
【解決手段】酸性繊維芽細胞成長因子(aFGF)をコードする遺伝子を神経損傷部位または神経細胞に輸送する工程;および該遺伝子を神経損傷部位または神経細胞において発現させる工程を含む、神経損傷を処理するための組成物。該aFGF遺伝子を有するウィルス粒子を含んだ該組成物を、神経損傷部位へ注射し、該遺伝子を神経損傷部位にトランスフェクトする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経損傷を処置するため又は神経細胞を再生させるための方法およびそれに用いるベクターコンストラクトに関する。本発明はさらに、神経損傷を処置するため又は神経細胞を再生するためのベクターの調製および使用に関する。
【背景技術】
【0002】
身体的処理(transaction)または外傷、挫傷または圧迫または外科的損傷、出血性または虚血性損傷などの血管の薬理学的損傷から、または、神経変性疾患または他の神経学的疾患から生じた、急性または慢性的な神経系の損傷に対して、神経が麻痺した組織内において神経細胞を再生させ、神経の連結を回復することは望ましいと考えられる。
【0003】
神経系損傷後、損傷した神経を修復するということは、一般に、患者に外科的な神経縫合や神経移植を施すことを意味していた。神経損傷を処置する他の可能性としては、新しい神経細胞を移植して維持すること、既に脊髄に存在する細胞による再生を刺激するタンパク質を輸送すること、および再生阻害を減少させることなどがある。いくつかの研究により、ラットの脊髄の損傷部位またはその近辺に神経修復剤を直接投与すると、損傷が修復されることが見出されている(Cheng et al., 1996, Science 273: 510-513)。
【0004】
特に、米国特許出願公開第2004/0267289号明細書には、脊椎動物の末梢神経系の特定部分を同じ脊椎動物の中枢神経系または末梢神経系の特定部分の近くへ運び、その2つの部分の間に、成長因子、フィブリノゲンおよび他の必須要素を含有するフィブリン接着混合物をアプライし、その脊椎動物の末梢神経系の該部分と中枢神経系または末梢神経系の該部分の間に機能的連結を形成することに関する神経根修復法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0267289号明細書
【非特許文献1】Cheng et al., 1996, Science 273: 510-513
【非特許文献2】Gerhardt et al., 1994, Method for General and Molecular Bacteriology, American Society for Microbiology, Washington, DC, p. 574
【非特許文献3】Sambrook, et al., 1992, Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, N.Y.
【非特許文献4】Samulski et al. Journal of Virology, 1987, Vol. 61, No. 10, pp. 3096-3101
【非特許文献5】Grimm et al., 1998, Human Gene Therapy 9:2745-2760
【非特許文献6】The Journal of Trauma, March 2003; 54(3): 569-73, "Gene therapy into Human keloid tissue with adeno-associated virus vector"
【非特許文献7】Conway et al., 1999 Biochemical Journal 337:171-177
【非特許文献8】Basso et al., 1995 Journal of Neurotrauma 12:1-21
【発明の開示】
【0006】
[発明の概要]
本発明の1つの局面は、神経損傷を処置するための方法であって、酸性繊維芽細胞成長因子(aFGF)をコードする遺伝子を神経損傷部位へ輸送する工程、および該遺伝子を神経損傷部位で発現させる工程を含む方法を提供する。
【0007】
本発明の別の局面において、酸性線維芽細胞成長因子(aFGF)をコードする遺伝子を、該遺伝子を神経損傷部位に輸送し、該部位で発現させる態様にて含む、神経損傷を処置するための組成物を提供する。
【0008】
本発明の別の局面では、aFGFをコードする遺伝子を載せたウイルスベクターを含む、神経損傷を処置するためのベクターコンストラクトを提供する。
【0009】
本発明の他の局面では、神経細胞を再生するための方法であって、aFGFをコードする遺伝子を神経細胞へ輸送する工程、および該遺伝子を神経細胞において発現させる工程を含む方法を提供する。
【0010】
本発明の別の局面において、酸性線維芽細胞成長因子(aFGF)をコードする遺伝子を、該遺伝子を神経細胞へ輸送し、該細胞において発現させる態様にて含む、神経細胞を再生するための組成物を提供する。
【0011】
本発明のさらに別の局面では、aFGFをコードする遺伝子を載せたウイルスベクターを含む、神経細胞を再生するためのベクターコンストラクトを提供する。
【0012】
[定義]
本発明の理解を容易にするために、いくつかの用語を以下に定義する。
【0013】
本明細書で用いられる単数形は、1つまたは1つより多く(つまり少なくとも1つ)の文法的対象物を意味する。例えば、「要素」は1つの要素または1つより多い要素を意味する。
【0014】
「ベクター」は、単離核酸を含む組成物であり、単離核酸を細胞内部へ輸送するのに用いることができる。多くのベクターが当分野で知られており、以下を含むがこれらに限定されない:直鎖状ポリヌクレオチド、イオン性または両親媒性化合物と結合したポリヌクレオチド、プラスミドおよびウイルス。このように、「ベクター」なる用語は、自己複製プラスミドまたはウイルスを含む。この用語はまた、例えば、ポリリジン化合物、リポソームなどのような、核酸の細胞内への移動を促進する非プラスミドおよび非ウイルス化合物も含むと解釈されるべきである。ウイルスベクターの例には、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクターなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0015】
本明細書で用いられる、「アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター」なる用語は、アデノ随伴ウイルス血清型に由来するベクターを意味し、AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAVX7などが含まれるが、これらに限定されない。
【0016】
AAVベクターはまた、ポリアデニル化部位のような転写配列に加え、選択可能マーカーまたはリポーター遺伝子、エンハンサー配列および転写の誘導が可能な他の調節要素を含み得る。
【0017】
本明細書で用いられる、「AAVビリオン」なる用語は、完全なウイルス粒子を意味する。AAVビリオンは、野生型AAVウイルス粒子(AAVカプシド、すなわちタンパク質被覆を伴った直鎖状、一本鎖AAV核酸ゲノム)、または組換えAAVウイルス粒子であり得る。ここで、一本鎖AAV核酸分子(一般に定義される意味のセンス/コーディング鎖またはアンチセンス/アンチコーディング鎖のいずれか)はAAVビリオン内にパッケージングできる;センス鎖およびアンチセンス鎖は共に感染性である。
【0018】
「遺伝子」は、転写または翻訳後の特定のポリペプチドまたはタンパク質をコード可能な、少なくとも1つのオープンリーディングフレームを含むポリヌクレオチドを意味する。本明細書に記載のあらゆるポリヌクレオチド配列は、関係遺伝子のより長い断片または完全長コード配列の同定に用いることができる。より長い断片配列を単離する方法は当業者に周知である。
【0019】
cDNAライブラリーは、細胞においてmRNA分子から合成された相補的DNA分子のみを含む。
【0020】
「プライマー」とは、目的のポリヌクレオチドテンプレートと特異的に結合し、相補的ポリヌクレオチドの合成開始点を提供することができるポリヌクレオチドを意味する。そのようなポリヌクレオチド合成は、合成が誘導される条件下、すなわち、ヌクレオチド、相補的ヌクレオチドテンプレートおよびDNAポリメラーゼなどの重合剤の存在下に、ポリヌクレオチドプライマーが置かれた場合に起こる。プライマーは典型的には一本鎖であるが、二本鎖の場合もある。プライマーは通常はデオキシリボ核酸であるが、幅広い種類の合成プライマーおよび天然プライマーが多くの用途に有用である。プライマーは、ハイブリダイズして合成開始部位となるよう設計されているプライマー自身のハイブリダイズ先のテンプレートと相補的であるが、テンプレートの正確な配列を反映している必要はない。このような場合、テンプレートへのプライマーのハイブリダイゼーションは、ハイブリダイズ条件のストリンジェンシーに依拠する。プライマーは、例えば色素生産性部分、放射性部分または蛍光部分で標識化でき、検出可能部分として用いることができる。
【0021】
「オリゴヌクレオチド」なる用語は通常、短いポリヌクレオチドを意味し、一般に約50ヌクレオチドを超えない。ヌクレオチド配列をDNA配列(すなわちA、T、G、C)で表している時は、UがTに置き換わったRNA配列(すなわちA、U、G、C)も含まれると解される。
【0022】
本明細書で用いる「シーケンシングプライマー」は、少なくともポリヌクレオチドの一部と相補的であり、DNAポリメラーゼのようなDNAまたはRNA重合化酵素により伸長することができる、オリゴヌクレオチドプライマーである。当分野で周知の方法を用いた、ポリヌクレオチドへのシーケンシングプライマーの結合およびプライマーの伸長により、該ポリヌクレオチドの少なくとも一部と相補的なオリゴヌクレオチド転写物が生じる。
【0023】
本明細書で用いられる「リポーター遺伝子」なる用語は、既知の方法を用いてその発現が検出できる遺伝子を意味する。例として、大腸菌(Escherichia coli (E coli))のlacZ遺伝子の発現は、色素生産性基質o-ニトロフェニル-β-ガラクトシドを培地に加えることにより、既知の方法を用いて検出できるので、培地中でレポーター遺伝子として用いることができる(Gerhardt et al., 1994, Method for General and Molecular Bacteriology, American Society for Microbiology, Washington, DC, p. 574)。
【0024】
本明細書で用いられる「プロモーター/調節配列」なる用語は、そのプロモーター/調節配列に作動可能に結合している遺伝子の発現に必要な核酸配列を意味する。ある場合は、この配列はコアプロモーター配列であり、別の場合は、エンハンサー配列や遺伝子の発現に必要な他の調節要素などであり得る。プロモーター/調節配列は、例えば、組織特異的に遺伝子を発現させる配列であり得る。
【0025】
制限部位は、制限エンドヌクレアーゼにより認識される二本鎖核酸の一部位である。二本鎖核酸とエンドヌクレアーゼが接触した時に、エンドヌクレアーゼがその部分で核酸の両鎖を切断可能である場合、核酸の該部分は制限エンドヌクレアーゼにより「認識される」という。
【0026】
「トランスフェクション」なる用語は、核酸のような遺伝物質を培養細胞内に挿入することができる方法を意味する。
【0027】
医学辞書の定義による「感染」とは、細菌、寄生生物、菌類、ウイルス、プリオンおよびウイルス様体などの、宿主生物を犠牲にして増殖する感染性生物または病原体の、宿主生物での有害な定着である。本発明の好ましい一態様において、「感染」なる用語は、ウイルスが最外側表面上のタンパク質によって適当な宿主を認識し、自身の遺伝物質を宿主内に導入する、有害でないウイルス感染を意味する。ウイルスの核酸は宿主細胞内機構を利用し、ウイルス核酸だけでなくウイルスに必要な酵素およびウイルス外被タンパク質をも複製する。
【0028】
本明細書で用いられる「神経損傷」なる用語は、身体的処理または外傷、挫傷または圧迫または外科的損傷、出血性または虚血性損傷などの血管の薬理学的損傷から、または、神経変性疾患または他の神経学的疾患から、または、神経損傷または神経の有害な症状を引き起こす他の因子から生じた、急性的または慢性的な、神経損傷または神経の有害な症状を意味する。
【0029】
「ポリペプチド」は、ペプチド結合で結合しているアミノ酸残基、関連するその天然構造変異体および合成非天然類似体で構成されるポリマー、関連するその天然構造変異体、および合成非天然類似体を意味する。合成ポリペプチドは、例えば自動ポリペプチド合成器を用いて合成することができる。本明細書ではポリプチド配列を従来の表記法を用いて表記する:ポリペプチド配列の左側の末端はアミノ末端である;ポリペプチド配列の右側の末端はカルボキシル末端である。
【0030】
[発明の詳細な説明]
本発明は神経損傷を処置するための方法に関する。本発明は、酸性線維芽細胞成長因子(aFGF)をコードする遺伝子を神経損傷部位へ輸送することを含む。その後aFGF遺伝子は神経損傷部位で発現される、つまり、aFGF mRNAに転写され、あるいはさらにaFGFポリペプチドへ翻訳される。神経損傷部位は、ベクターで形質導入可能な神経器官、神経組織、神経細胞系、または、神経細胞または神経突起が存在し得る部位(神経軸索投射経路(neuronal axonal projection tract)などであるがこれに限定されない)であり得る。
【0031】
本発明の好ましい一態様において、aFGF遺伝子は配列番号:1のDNA配列を有する。図1Aから1Dに関して、ベクターは配列番号:1のaFGF遺伝子を含むように構成されている。ベクターは、自身をウイルス粒子内にパッケージングするためのウイルスゲノムを含むウイルスベクターであり得る。ウイルスゲノムは、組換えアデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ヘルペスウイルス、ポックスウイルスまたはレトロウイルスのような組換えウイルスのゲノムであり得る。本発明によると、任意のウイルスベクターを用いてaFGF遺伝子を宿主細胞ゲノムへ組み込むことができる。好ましくは、該ウイルスベクターはアデノ随伴ウイルス(AAV)遺伝子およびアデノウイルス遺伝子のうち少なくとも1つを含む。ベクターコンストラクトはまた、レポーター遺伝子、好ましくは細菌のlacZ cDNAを含む。当業者に周知の方法を用いて、適切な転写/翻訳制御シグナルと作動可能に結合したaFGFコーディング配列を含む発現ベクターを構成することができる。該方法には、Sambrook, et al., 1992, Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, N.Y.に記載のインビトロ組換えDNA技術などがある。
【0032】
本発明の別の好ましい態様において、配列番号:2のアミノ酸配列を有するaFGFをコードする遺伝子を含むようにベクターを構成することができる。配列番号:2のaFGFには、種々の形態およびタンパク質構造に折り畳まれた配列番号:2のaFGFポリペプチドが含まれる。
【0033】
さらなる態様において、ベクターはヒト脳cDNAライブラリーから得られたaFGF cDNAを含む。しかし、ベクターコンストラクトはそのようなものに限らず、必要とする神経損傷の処置または神経細胞再生のタイプに応じて、他種のaFGF遺伝子もベクター構築に用いることができる。
【0034】
また、ベクターは、プラスミドおよびバクテリオファージのうちの少なくとも1つであり、例えば、Samulski et al. (Journal of Virology, 1987, Vol. 61, No. 10, pp. 3096-3101)に初めに開示されたpSub201のようなAAVプラスミドである。このベクターは、プラスミド基本骨格内に2型アデノ随伴ウイルス(AAV-2)野生型のコーディング領域およびシス作動性末端反復が全てクローニングされている。このベクターは、制限酵素Xba Iでの制限消化により、AAV末端反復を無傷のままプラスミド基本骨格内に残しつつAAVコーディング領域を除去できるように設計されており、クローニングに適している。
【0035】
該ベクターはさらに、組換え体AAVを生成させるために、AAV遺伝子(repおよびcap)とAAV増殖に必要なヘルパー遺伝子の両方を有するヘルパープラスミドpDG(Grimm et al., 1998, Human Gene Therapy 9:2745-2760)を含有する。このプラスミドは、AAV遺伝子と、AAVベクターの増幅およびパッケージングに必要なアデノウイルス遺伝子の機能とを備えている。
【0036】
このように、AAV粒子のパッケージングにおいて、好ましくはリン酸カルシウム法でのプラスミドトランスフェクションによって、aFGF cDNAを載せたpSub201プラスミドおよびAAVパッケージングのためのpDGヘルパープラスミドを、細胞に共トランスフェクトした。成熟ビリオンが宿主細胞においてパッケージングされた。この態様において、宿主細胞はHEK293細胞であってもよい。
【0037】
神経損傷の処置方法に関して、aFGF遺伝子を含むベクターを神経損傷部位へ輸送する他の様式には、神経損傷部位にウイルスベクターを感染させる;aFGF遺伝子を載せたウイルス粒子を神経損傷部位へ注射する;および、例えばエレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リポソーマルトランスフェクション試薬、ポリエチレンイミン(PEI)、Effecteneおよび活性化デンドリマー、その他当業者に周知の方法といった細胞トランスフェクション法により、aFGF遺伝子を神経損傷部位へトランスフェクトする、などがある。
【0038】
あるいは、神経損傷の処置方法には、aFGF遺伝子を有するウイルス粒子を神経損傷部位へ感染させ、aFGF遺伝子を神経損傷部位で発現させる方法が含まれる。神経損傷部位にウイルス粒子を溶原経路で感染させると、神経損傷部位の細胞ゲノムの特定部位にaFGF遺伝子が組み込まれ、細胞複製時にaFGFが複製される。ウイルスベクターは、aFGF cDNAを有するウイルス粒子にパッケージングするためのウイルス含有ベクターであり得る。好ましくは、該ウイルスベクターは、ヒトaFGFおよび/または細菌LacZのcDNAを含有するpPAM-AAVプラスミドである。
【0039】
本発明の別の態様において、神経細胞を再生する方法を提供する。該方法はaFGF遺伝子を含むベクターを神経細胞へ輸送することに関する。輸送されたaFGF遺伝子は神経細胞において発現する、つまり、aFGF遺伝子が転写、翻訳され、神経細胞においてaFGFポリペプチドが産生される。該aFGFを発現する神経細胞にはまた、星状膠細胞、乏突起膠細胞、神経膠細胞、脈絡叢細胞、上衣細胞、髄膜細胞、シュワン細胞、線維芽細胞、小膠細胞、脊髄組織の細胞、または、(褐色細胞腫)PC 12細胞のような、上記ベクターコンストラクトで形質導入可能な神経細胞起源のあらゆる細胞株も含まれる。
【0040】
本発明の好ましい態様において、aFGF遺伝子は配列番号:1のDNA配列を有する遺伝子、または配列番号:2のアミノ酸配列を有するaFGFをコードする遺伝子であり得る。aFGF遺伝子は様々な種類のプロモーター/エンハンサー要素に作動可能に結合していてもよく、限定するものでないがそれらには、プロモーター、エンハンサー、転写因子結合部位、および他の遺伝子発現調節配列、例えば伸長因子(EF)、ポリアデニル化(PolyA)配列、長い末端反復配列(LTR)、抗生物質耐性遺伝子などが含まれ得る。これらのベクターの発現要素は、強度および特異性において多様であり得る。使用する宿主/ベクター系に基づいて、多数ある適切な転写および翻訳要素のうちいずれを用いてもよい。該プロモーターは、目的遺伝子と天然に結合したプロモーター形態であり得る。あるいは、該DNAは、組換えまたはヘテロ接合プロモーター、すなわち通常はその遺伝子と結合していないプロモーターの制御下にあり得る。いずれの場合においても、本明細書のプロモーターは、上記全ての態様において配列番号:1のaFGF遺伝子の転写を開始するプロモーターの状態を表す、「作動可能に結合した」プロモーターである。
【0041】
ここで、以下の個々の実施例を参照して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例1】
【0042】
完全長ヒトaFGF cDNAを含有するpPAM-AAVプラスミドの構築およびAAV-aFGF粒子の生成
【0043】
ヒトaFGFおよび/または細菌LacZのcDNAを含有するpPAM-AAVプラスミドを以下の通りに構築した。初めに、ヒトaFGF cDNAをクローニングし、増幅した。ヒト脳cDNAライブラリー(Clontech Laboratories, Inc., Mountain View, CA, USA)からのヒトaFGF cDNAを、Expand High Fidelity PCR system (Roche Diagnostics GmbH, Nonnenwald, Germany)を用いた、以下の条件のヒトaFGF用PCR解析にかけた:PCR段階30サイクル;95℃を30秒、60℃を60秒、72℃を30秒。コントロールベクター用に、完全長細菌lacZ cDNAのレポーター遺伝子を、pDNR-LacZ Donor Reporter (Clontech Laboratories, Inc., Mountain View, CA, USA)から、以下の条件のPCR反応により増幅した:30サイクル;95℃を30秒、55℃を60秒、72℃を30秒。aFGFおよび/またはLacZのプライマーをMDBio Inc. (Taipei, Taiwan)から調達した。それらの配列を以下に記す:
ヒトaFGFのプライマー
(フォワードシーケンシングプライマー部位、配列番号:3の5'-ATGGCTGAAGGGGAAATC-3'、リバースシーケンシングプライマー部位、配列番号:4の5'-TTAATCAGAAGAGACTGGCAGGGG-3');
LacZのプライマー
(フォワードシーケンシングプライマー部位、配列番号:5の5'-ATGTCGTTTACTTTGACCAACAAG-3'、リバースシーケンシングプライマー部位、配列番号:6の5'-CTTTTTTTGACACCAGACCAACTGG-3')。
【0044】
増幅断片をpGEM-T easy TA vector system (Promega Corp., Madison, WI, USA)中に直接クローニングし、図1Aに示すヒトaFGFのcDNAを含有するA2クローンを得た。次いでA2クローンを制限酵素EcoRIで消化、溶出し、ヒトaFGF配列を含む溶出断片をEcoRI消化pBluescript-SKプラスミド(Stratagene Corp., La Jolla, CA, USA)にライゲートした。そうして得られたaFGF配列を含有するBluescriptプラスミドを、起こりうる2つの配向のうち正しい配向の配列であることを確認し、図1BにA4クローンとして示した。次いで、A4クローンおよびプラスミドpSub201を制限酵素HindIII/XbaIで同時消化して得たより小さい断片をライゲーションしてヒトaFGF cDNA含有AAVプラスミドを作成した。ヒトaFGF cDNAを載せたAAVプラスミドを図1CにおいてはpPAM-AAVとして示し、後の実施例においてはAAV-aFGFと記す。野生型(wt)AAVゲノムを含むプラスミドpSub201および組換えヘルパープラスミドpDGは、Dr. Hsu Ma(Division of Plastic Surgery, Veterans General Hospital, Taipei, Taiwan)(参考:The Journal of Trauma, March 2003; 54(3): 569-73, "Gene therapy into Human keloid tissue with adeno-associated virus vector")から贈呈頂いた。
【0045】
リン酸カルシウム型プラスミドトランスフェクションにより、成熟ビリオンをHEK293細胞(LifeTechnologies Inc., Grand Island, NY, USA)にパッケージングした。AAV粒子のパッケージングにおいて、aFGF cDNAを載せたpPAM-AAVプラスミドと、図1Dに示したwt AAVおよびAAVパッケージングに必要なアデノウイルス遺伝子を含有するpDGヘルパープラスミドを、細胞に共トランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後にラバーポリスマンで細胞を収穫し、Opti-MEN溶液(Gibco(登録商標)Invitrogen, Inc., Carlsbad, CA, USA)中に懸濁し、超音波処理した。次いで細胞懸濁液を1/3体積の1,1,2-トリ-クロロ-トリフルオロエタンと混合した。さらに、塩化セシウム(CsCl)密度勾配遠心法を2回行いAAV-aFGF粒子を精製した。次いで、ウイルス調製物をDNase I処理してカプシドで包まれていないDNAを消化し、精製AAV-aFGF粒子を含む上清を-80℃で保存した。Progen Biotechnik GmbH (Heidelberg, Germany)のsandwich ELISA kitsにより、精製AAV-aFGF粒子のタイターを推定した。同様に、AAV-aFGF粒子の調製手順に従い、AAV-lacZ粒子を調製した。
【実施例2】
【0046】
培養PC12神経細胞における組換えAAV-aFGFのインビトロ作用解析
【0047】
ラット褐色細胞腫PC12細胞(ATCC(登録商標)番号:CRL-1721(商標))を、85%(v/v)RPMI-1640(Gibco(登録商標)Invitrogen, Inc., Carlsbad, CA, USA)、10%(v/v)加熱不活性化ウマ血清(HS)および5%(v/v)ウシ胎仔血清(FCS) (Biochrom Ltd., Berlin, Germany)、2mMグルタミン、および、ペニシリン100U/mlおよびストレプトマイシン100μg/mlの25mM HEPES(pH7.3)を含む培地で培養した。37℃、5%CO2の加湿したインキュベーターでPC12細胞を維持した。解析中、PC12細胞は、2%HSおよび1%FCSを補足したRPMIで培養した。また、ポジティブコントロール群の調製においては、PC12細胞の分化および/または増殖を解析するために、細胞培養中に100ng/mlのNGF (CytoLab Ltd., Rehovot, Israel)を加えた。他の材料は全てSigma Chemical Co. (St. Louis, MO, USA)から購入した。
【0048】
神経細胞分化解析において、6ウェルプレートに5×105細胞/ウェルの密度で細胞を継代培養した。AAV-aFGFにより誘導される神経突起の伸長を測定するため、培養培地をコントロールビヒクルまたは各量のAAV-aFGF(細胞あたり200、2000または20000ウイルス粒子)を含有する無血清RPMIで置換した。細胞をAAV-aFGFに8時間曝した後、ウイルス含有無血清培地を除去し、2%HSおよび1%FCSを補足したRPMIでさらに24または48時間細胞をインキュベートした。4%パラホルムアルデヒド/PBSで細胞を固定した後、顕微鏡(Eclipse(登録商標)T100(商標), Nikon Corp., Tokyo, Japan)下で神経突起の伸長の程度を観察し、写真撮影した。各条件につき少なくとも100細胞、3重複分のウェル、独立した3回の実験から、全神経突起長を測定し、国立保健研究所(National Health Institute)(NIH)のイメージソフトウェア、ImageJを用いて定量化した。ImageJは、NIHウェブサイト、http://rsb.info.nih.gov/ij/から入手できる。
【0049】
図2Aを参照すると、PC12細胞をAAV-aFGF粒子で処理した場合の神経突起の伸長は明らかであり、このことは、AAV-aFGFが神経細胞の分化を引き起こしたことを示している。タイターが200、2000、20000AAV-aFGF粒子へと増加すると、伸長した神経突起の全長(μm単位で測定)も増加した。またPC12細胞の神経細胞分化も、インキュベーション時間を24時間から48時間に延長すると、各タイターにおいて増加した。
【0050】
AAV-aFGFの増殖作用の測定において、96ウェルプレート上の2%HSおよび1%FCSを補足したRPMI培地に、5×103細胞/ウェルの密度のPC12細胞を37℃で培養した。培養培地をコントロールビヒクルまたは各量のAAV-aFGF(細胞あたり20、200、2000、20000ウイルス粒子)を含有する無血清RPMIで置換した。細胞をAAV-aFGFに8時間曝した後、ウイルスを含む無血清培地を除去した。次いで、2%HSおよび1%FCSを補足したRPMIでさらに24時間細胞をインキュベートした。24時間の培養後、アッセイするウェル内で、加温した無血清RPMI-1640により細胞を洗浄し、MTT(3-[4,5-ジメチル-チアゾール-2-イル]2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロマイド(Promega Corp., San Luis Obispo, CA, USA))ワーキング溶液(無血清RPMI-1640中5mg/ml MTT)0.1mlを加えた。37℃で3時間インキュベートした後、ワーキング溶液を除去し、MTT溶解バッファー(20%SDSおよび50%DMF/蒸留、脱イオン水)を細胞に加え、6時間おいた。Tecan(登録商標)Sunrise(商標)ELISA Reader (Phenix Research Products, Hayward, CA, USA)を用いて、波長650nmでバックグラウンド除去し、波長570nmの吸光度を測定した。aFGFにより誘導された増殖は、顕微鏡観察によるトリパンブルー排斥アッセイ(tryptan blue exclusion assay)およびフローサイトメトリーを用いたPI染色でも定量した。各群の測定吸光度とコントロール群の測定吸光度(650nmでバックグラウンド除去した、570nmの吸光度)とを比較して各群の細胞増殖率を算出したところ、100%であった。
【0051】
図2Bに示すように、AAV-aFGF粒子の用量を細胞あたり200、2000、20000AAV-aFGF粒子と増加させるにつれ、PC12細胞の増殖も増加した。例えば、細胞あたり2000または20000ウイルス粒子の用量で細胞を処理すると、細胞増殖は120%超に増加した。このように、AAV-aFGFのPC12細胞に対する分裂促進効果は、用量依存的な反応であった。
【実施例3】
【0052】
組換えAAV-aFGFのインビトロ発現に対する定性的および定量的解析
【0053】
PC12細胞を無血清RPMI中で組換えAAV-aFGFに8時間感染させ、その後細胞を2%HSおよび1%FCSを含有するRPMI培地で、免疫細胞化学解析(ICC)においては少なくとも24時間、ウェスタンブロッティング解析においては24、48、72の各時間培養した。
【0054】
ICC解析において、PC12細胞をAAV感染させた24時間後に、メタノール/アセトン/PBS(V/V/V=1:1:8、10mM MES、pH6.9、0.1mM EGTAおよびMgCl2/1×PBS中)により25分間4℃で該細胞を固定し、次いで1×PBS(0.1%Tween(登録商標)20を含む)で2回洗浄した。その後、1%FCS/PBSにより細胞を2時間から約3時間室温でブロックした。細胞をPBSで洗浄した後、抗aFGFポリクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology, Inc., Santa Cruz, CA, USA)とともに2時間室温でインキュベートした。次に、細胞をPBSおよび水で洗浄し、さらに50%、70%エタノール/PBSおよび100%エタノールの溶媒濃度勾配洗浄を行った。その後、細胞を顕微鏡下で観察した。細胞あたり2×103または2×104のAAV-aFGF粒子による処理時に神経突起の形成などの形質学的な変化が起こった時から、細胞はさらに分化していることが分かった。
【0055】
配列番号:2のaFGFタンパク質濃度についてのウェスタンブロッティング解析において、細胞を各時点(AAV感染から24、48および72時間後)に収穫した。遠心分離により細胞を回収し、溶解バッファー(30mM Na4P2O7、30mM NaF、1mM Na3VO4および1×Protease Inhibitor Cocktail Table (Roche Diagnostics GmbH, Nonnenwald, Germany)を含有する1%NP-40)内で溶解させた。次に、各サンプル10μgをSDS-PAGEで分離し、抗aFGFポリクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology, Inc., Santa Cruz, CA, USA)を用いて配列番号:2のaFGFの発現レベルを解析した。SDS-PAGEおよびイムノブロッティングをConway et al., 1999 Biochemical Journal 337:171-177の方法に従って行った。図3Aを参照すると、細胞あたり20000 AAV-aFGF粒子の用量で72時間にわたって感染させたPC12細胞は、より低用量および短時間で感染させた細胞よりも高い発現レベルを示していることから、絶対光学密度で決定した配列番号:2のaFGFタンパク質濃度は、時間および用量依存的に増加している。
【0056】
さらなる解析を行い、配列番号:2のaFGFが細胞外環境へ分泌されているかどうかを決定した。無血清RPMI培地でPC12細胞をAAV-aFGF(1μl)に8時間感染させた後、2%HSおよび1%FCS含有RPMI培地で24時間培養した。24時間のインキュベーションの後、血清含有培地を除去し、無血清RPMI培地で細胞をさらに3時間インキュベートした。次いで、AAV感染PC12細胞から生成した無血清条件培地を回収した。加えて、その条件培地に組換えヒトaFGFタンパク質1ngを注射し、ポジティブコントロール群を調製した。該条件培地を透析膜管(No.3:3.5kDaカットオフ;Spectrum Microgon, Inc., Laguna Hills, CA, USA)を用いて100RPMI培地(3倍体積、3から18時間)に透析し、凍結乾燥器(Labconco Corp., Kansas City, MO, USA)で凍結乾燥および濃縮した。次いで、全凍結乾燥サンプルを上記のようにSDS-PAGE分離およびウェスタンブロッティング解析に適用した。
【0057】
図3Bを参照すると、1μlのAAV-aFGFに感染させた細胞は、条件培地においてaFGF発現は少ししか増加しないかまたは全く増加しておらず、このことは配列番号:2のaFGFがサイトゾルから細胞外領域へ分泌または放出されていないことを示している。
【実施例4】
【0058】
挫傷性脊髄損傷SDラットと、組換えAAV-aFGFを用いた非損傷または損傷成体ラットの脊髄へのインビボヒトaFGF遺伝子導入
【0059】
Sprague-Dawley(SD)ラットは台湾行政院国家科学委員会の動物センター(Animal Center of National Science Council)から入手した。脊髄損傷(SCI)誘導実験のために体重240-280g範囲のメス成体SDラットを選択した。動物取扱いおよび実験プロトコールは退役軍人病院の動物研究小委員会により慎重に見直され承認を得た。メス成体SDラットを麻酔し、T9-10水準で椎弓切除を行った。椎弓切除後、ニューヨーク大学(NYU)のNYUインパクタのようなウエイト落下装置を用いて、25から50mmの高さから10gの桿体を落としてSCIを生じさせ、挫傷群の脊髄背面を損傷させた。挫傷群および前処置や椎弓切除を行っていない正常群と対照させるために、シャム群としてSCIのないSDラットを用意した。一方、SCI後7、14、21および28日に、歩行運動評価スケールにより損傷の程度を定量化した。
【0060】
さらに、椎弓切除後シャム+AAV-aFGF群の脊髄のT8およびT10分節にAAV-aFGFを注射した。SCI後5分以内の挫傷+AAV-aFGF群に、中心(epicenter)から約1から約2mm吻側および尾側にAAV-aFGFを注射した。AAV-aFGFの投与においては、定位固定フレームにラットを置き、33ゲージ斜角針を取り付けた注射速度0.5μl/分の5μlハミルトンシリンジにより、脊髄の標的部位に2分間かけて1μlの組換えAAV-aFGFを注射した。注射開始後1分のところで、針を0.5mm後退させ、さらに1分間その位置で維持した後、脊髄からゆっくり抜き取った。
【0061】
導入遺伝子「ヒトaFGF」の発現を脊髄に位置づけるため、ラットの脊髄を解剖し、固定し、凍結保護し;7日後にクリオスタットで免疫組織学的分析用の連続横断面を作成した。シャム群のラットを、外科術後、生理食塩水および4%パラホルムアルデヒド/PBSで7日間灌流した。その後、脊髄を取り出し、4%パラホルムアルデヒド/PBSで2時間固定した。脊髄を0.8Mスクロース溶液に2週間保存した後、-20℃のクリオスタットを用いて水平に切断し、それぞれ10nmの薄さに切片化した。脊髄切片上でのaFGFの免疫活性を抗aFGFモノクローナルおよびポリクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology, Inc., Santa Cruz, CA, USA; and R & D Systems, Inc., Minneapolis, MN, USA)により染色し、AAV感染後14日目に写真撮影した。図4を参照すると、aFGF陽性神経細胞は、脊髄の前角領域に見られた。
【0062】
AAV-aFGF曝露後のaFGF発現レベルを解析するために、脊髄組織を素早く取り出し、分節または領域に解剖し、外科術後3日間および7日間凍結させた。AAV感染および非感染脊髄のT9分節からHigh Pure(登録商標)RNA抽出単離キット(Roche Diagnostics GmbH, Nonnenwald, Germany)を用いて単離したトータルRNA(5μg)を、SuperScript one-step RT-PCR system (Invitrogen, Inc.)を使用した、以下の反応[RT段階:55℃を30分、PCR段階30サイクル;95℃を30秒、60℃を55秒、72℃を30秒]の逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)解析にかけ、ヒトaFGF mRNAレベルを測定した。
ヒトaFGFプライマー:
(フォワードプライマー、配列番号:7の5'-CGAATTCACTAGTGATTATGG-3'、
リバースプライマー、配列番号8の5'-CTGCAGGAATTCGATTTTAATC-3')。
ラットアクチンプライマー:
(フォワードプライマー、配列番号:9の5'-AAGATCCTGACCGAGCGTGG-3'、
リバースプライマー、配列番号:10の5'-AGCGATGCCTGG- GTACATGG-3')。
PCR反応後、cDNA産物を0.5%アガロースゲルで分離し、50μM EtBr溶液で染色した。次いで、染色したゲルをFoto/UV-26 system (Fotodyne Incorporated, Hartland, WI, USA)にかけ、Polaroid(登録商標)GelCamera(商標)を用いて白黒インスタントパックフィルム(Polaroid Corp., Hertfordshire, England)に写真撮影した。NIHソフトウェアImageJを用いてRT-PCR産物量を定量した。
【0063】
図5Aを参照すると、脊髄組織において発現したmRNA量は用量依存的に増加した。しかし、組換えAAV-aFGFの用量が1μlに増加すると、発現量は明らかに劇的に増加した。
【0064】
AAV感染後各時点(24、48、72時間)で細胞を収穫し、ウェスタンブロッティング解析により細胞内aFGFタンパク質濃度を解析した。脊髄から細胞質内タンパク質を採集し、タンパク質の精製は行わなかった。細胞を遠心分離し、溶解バッファー(30mM Na4P2O7、30mM NaF、1mM Na3VO4、および1×Protease Inhibitor Cocktail Table(Roche Diagnostics GmbH, Nonnenwald, Germany)を含む1%NP-40)中で溶解させた。組織サンプルのタンパク質濃度を、Bio-Rad(登録商標)DC kit (Bio-Rad Laboratories, Inc., Hercules, CA, USA)を用いてアッセイした。脊髄組織のT9文節からのタンパク質30μgをSDS-PAGEで分離し、aFGFおよびアクチンの発現レベルを、それぞれ抗aFGF抗体および抗アクチン抗体を用いたウェスタンブロットにより解析した。図5Bに示すように、AAV-aFGFに感染した脊髄は、AAV-aFGFに感染していない脊髄よりも、配列番号:2のaFGFタンパク質発現が少し高かった。さらに、組織タンパク質サンプル50μgを用いて、aFGF ELISA Quantikine kit(R & D Systems Inc., Minneapolis, MN, USA)による正確なタンパク質濃度を調べた。各群のタンパク質サンプル50μg内の配列番号:2のaFGF濃度(pg/ml)を算出し、以下の表1に示した。
【表1】

【0065】
表1に記したように、処理期間が3日あるいは14日にかかわらず、AAV感染を受けていないシャム群(4.48±0.27あるいは4.58±0.37pg/ml)よりも、AAV感染を受けたシャム群(4.98±0.24あるいは5.22±0.21pg/ml)の方が、概して高いaFGF発現を示した。処理をしていない挫傷群と比較して、AAV-aFGFベクターに感染した挫傷群はさらにより顕著なaFGF発現の増加(4.10±0.49あるいは5.86±0.35pg/ml)を示した。
【0066】
これらのインビボ組織サンプルをさらなるタンパク質精製にかけた。これらの各々のサンプルをUltrafree(登録商標)-0.5 Centrifugal filter (Millipore Corp., Billerica, MA, USA)に直接通し、残った上清を回収した。その上清を、結合バッファー(10mMリン酸ナトリウムバッファー、pH7.0)を満たしたheparin-affinity column(Amersham Pharmacia Biotech, Piscataway, NJ, USA)により分離し、勾配結合バッファー(10mMリン酸ナトリウムバッファー中、濃度勾配0.15、0.5、0.8から1.5M範囲のNaCl、pH 7.0)により溶出させた。溶出したタンパク質溶液をSephadex(登録商標)G25 spin column (Amersham Pharmacia Biotech, Piscataway, NJ, USA)に通して脱塩し、凍結乾燥器(Labconco Corp., Kansas City, MO, USA)で凍結乾燥/濃縮した。全凍結乾燥サンプルをSDS-PAGEで分離し、配列番号:2のaFGFの発現レベルをそれぞれ抗aFGF抗体および抗アクチン抗体を用いたウェスタンブロッティング解析で解析した。
【0067】
図5Cを参照すると、AAV-aFGFに感染していない脊髄よりも、AAV-aFGFに感染した脊髄の方が配列番号:2のaFGFタンパク質発現が高かった。1μlのAAV-aFGFに感染した脊髄では、該タンパク質発現は有意に増加した。
【実施例5】
【0068】
運動評価
【0069】
外科術後1週間から6週間の各週に全てのラットに対して2つの運動試験を行った。全ての運動試験をビデオ撮影し、また2名の試験官は運動試験時にどのラットが処理されているかは知らされなかった。ラットの後肢歩行運動を、Basso, Beattie, Bresnahan (BBB)オープンフィールド歩行運動試験(Basso et al., 1995 Journal of Neurotrauma 12:1-21)および複合運動スコアリング(combined behavior score)(CBS)により評価した。
【0070】
初めに、ラットのBBB試験をオープンフィールド(少なくとも150cm×100cm)で行った。挫傷性脊髄損傷ラットの数は、それぞれ、コントロールビヒクル処理群(SCI)が8匹、AAV-aFGF処理群(SCI+AAV-aFGF)が12匹、AAV-lacZ処理群(SCI+AAV-lacZ)が3匹であった。各試験は5分間行った。オープンフィールド歩行運動活動スコアは、臀部の動き、膝の動き、足首の動きならびに胴体と尾または後肢間の位置を含めた運動を観察およびスコアリングして決定した。足踏み(stepping)、つま先クリアランス(toe clearance)、足底接地(paw placement)、体重の支持および分配(weight support and coordination)についての詳細な評価も行った。スコアは0から21の範囲(0は完全麻痺、21は正常歩行)であった。図6Aを参照すると、SCI+AAV-aFGF群はスコアが劇的に増加しており、これはAAV-aFGFを脊髄注射した挫傷ラットが、AAV-aFGFを注射しなかった挫傷ラットまたはAAV-lacZを注射した挫傷ラットと比較して神経損傷がかなり回復したことを示している。スコアの増加は、SCIまたはSCI-AAV-lacZ群と比較して、4週目から6週目のSCI+AAV-aFGF群に最も顕著であった。
【0071】
第2に、単一および複合反射ならびに自発および誘発運動パターンを評価するためのTarlovスコアリングシステム試験および傾斜板試験を組み合わせたCBS解析を行った。この測定には、駆動動作(motor function)、爪先開き角(toe spread)、立ち直り(righting)、引っ込め反応(withdrawal response)、踏み直り(placing)、傾斜板および水泳試験が含まれる。記録した運動レベルを格付けしスコアリングした。ほとんどの歩行運動活動を失ったラットを100とスコアリングし、歩行運動活動が最も回復したラットを100未満や0付近にスコアリングした。図6Bにおいて、AAV-aFGFで処理した挫傷ラットのCBSスコアは時間の経過につれ減少している。またAAV-aFGFで処理した挫傷ラットのCBSスコアはAAV-lacZまたはコントロールビヒクルで処理したSCIラットのCBSスコアよりも低かった。従って、AAV-aFGF処理した挫傷ラットは歩行運動活動において最も顕著な回復を示した。
【0072】
当業者は、本発明の幅広い概念を逸脱することなく上記態様に変更を加えることが可能であることを理解するであろう。従って、本発明は、開示した個々の態様に限定されず、添付の特許請求の範囲に定義した本発明の精神および範囲内における改変を包括する意図であることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0073】
上述の本発明の概要ならびに詳細な説明は添付の図と共に参照するとより理解できるであろう。本発明を説明するために、図には目下好ましい態様を示した。しかし、本発明はそこに示した特定のクローニングベクターおよび調節遺伝子に限定されるものではないことを理解されたい。
【0074】
【図1A】図1Aは、配列番号:1のヒトaFGF(h-aFGF)遺伝子を載せたA2クローンベクターのベクターマップである。
【図1B】図1Bは、配列番号:1のヒトaFGF遺伝子およびrep遺伝子を載せたA4クローンベクターのベクターマップである。
【図1C】図1Cは、配列番号:1のヒトaFGF(h-aFGF)遺伝子、伸長因子(EF)、ポリAおよびWPRE(ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント)配列を載せたアデノ随伴ウイルス(AAV)ファージハイブリッドファージミドベクターのベクターマップである。
【図1D】図1Dは、rep-2およびcap-2遺伝子を載せたAAVファージヘルパーベクターのベクターマップである。
【図2A】図2Aは、各AAV-aFGFタイターでの経時的なPC12細胞の神経細胞分化を示す棒グラフである。
【図2B】図2Bは、各AAV-aFGFタイターでのPC12細胞の細胞増殖を示す棒グラフである。
【図3A】図3Aは、AAV-aFGFのインビトロ発現の定量的解析を示す棒グラフであり、ウェスタンブロッティング解析によるPC12細胞で発現したaFGF量を経時的に示している。
【図3B】図3Bは、AAV-aFGFのインビトロ発現の定量的解析を示す棒グラフであり、ウェスタンブロッティング解析による細胞外領域で発現したaFGFの量を示している。
【図4】図4は、ラットの脊髄の前角においてaFGFを発現する安定なトランスフェクタントの顕微鏡像である。
【図5A】図5Aは、AAV-aFGFのインビトロ発現に対する定量的ウェスタンブロッティング解析を示す棒グラフであり、各AAV-aFGFタイターで脊髄組織において発現したaFGF mRNAの絶対量を示す。
【図5B】図5Bは、AAV-aFGFのインビトロ発現に対する定量的ウェスタンブロッティング解析を示す棒グラフであり、各AAV-aFGFタイターで脊髄組織において発現したaFGFの較正した量を示す。
【図5C】図5Cは、AAV-aFGFのインビトロ発現に対する定量的ウェスタンブロッティング解析を示す棒グラフであり、各AAV-aFGFタイターで脊髄組織において発現した精製aFGFの較正した量を示す。
【図6A】図6Aは、運動評価に対するaFGF遺伝子導入の経時的効果を表す棒グラフである。
【図6B】図6Bは、運動評価に対するaFGF遺伝子導入の経時的効果を表す棒グラフである。
【配列表フリーテキスト】
【0075】
配列番号3:合成配列、配列番号4:合成配列、配列番号5:合成配列、配列番号6:合成配列、配列番号7:プライマー配列、配列番号8:プライマー配列、配列番号9:プライマー配列、配列番号10:プライマー配列。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性線維芽細胞成長因子(aFGF)をコードする遺伝子を、該遺伝子を神経損傷部位に輸送し、該部位で発現させる態様にて含む、神経損傷を処置するための組成物。
【請求項2】
該遺伝子が配列番号:1のDNA配列を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
該遺伝子が配列番号:2のアミノ酸配列を有するaFGFをコードする遺伝子である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
ベクターである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
リポーター遺伝子をさらに含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
プラスミドまたはバクテリオファージである、請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
ウイルスベクターである、請求項4に記載の組成物。
【請求項8】
アデノ随伴ウイルス(AAV)遺伝子およびアデノウイルス遺伝子のうち少なくとも1つを含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
aFGF遺伝子を有するウイルスベクターであって、神経損傷部位に感染させるためのものである、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
該遺伝子を載せたウイルス粒子であって、神経損傷部位へ注射するためのものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
該遺伝子を神経損傷部位へトランスフェクトするためのものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
リポーター遺伝子が細菌性lacZのcDNAを含む、請求項5に記載の組成物。
【請求項13】
神経損傷部位が、ベクターによる形質導入が可能な神経器官、神経組織、神経細胞系および神経細胞または神経突起が存在し得る部位のうち少なくとも1つを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
神経損傷を処置するためのベクターコンストラクトであって、酸性線維芽細胞成長因子(aFGF)をコードする遺伝子を載せたウイルスベクターを含むベクターコンストラクト。
【請求項15】
該遺伝子が配列番号:1のDNA配列を有する、請求項14に記載のベクターコンストラクト。
【請求項16】
該遺伝子が配列番号:2のアミノ酸配列を有するaFGFをコードする遺伝子である、請求項14に記載のベクターコンストラクト。
【請求項17】
ウイルスベクターをウイルス粒子へパッケージングするためのウイルスゲノムをさらに含む、請求項14に記載のベクターコンストラクト。
【請求項18】
リポーター遺伝子をさらに含む、請求項14に記載のベクターコンストラクト。
【請求項19】
リポーター遺伝子が細菌性lacZのcDNAである、請求項18に記載のベクターコンストラクト。
【請求項20】
酸性線維芽細胞成長因子(aFGF)をコードする遺伝子を、該遺伝子を神経細胞へ輸送し、該細胞において発現させる態様にて含む、神経細胞を再生するための組成物。
【請求項21】
該遺伝子が配列番号:1のDNA配列を有する、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
該遺伝子が配列番号:2のアミノ酸配列を有するaFGFをコードする遺伝子である、請求項20に記載の組成物。
【請求項23】
ベクターである、請求項20に記載の組成物。
【請求項24】
ウイルスベクターである、請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
アデノ随伴ウイルス(AAV)遺伝子およびアデノウイルス遺伝子のうち少なくとも1つを含む、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
aFGF遺伝子を有するウイルスベクターであって、神経細胞に感染させるためのものである、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
該遺伝子を載せたウイルス粒子であって、神経細胞に注射するためのものである、該遺伝子を神経細胞へ輸送する、請求項20に記載の組成物。
【請求項28】
該遺伝子を神経細胞へトランスフェクトするためのものである、請求項20に記載の組成物。
【請求項29】
神経細胞が、該遺伝子で形質転換される、星状膠細胞、乏突起膠細胞、神経膠細胞、脈絡叢細胞、上衣細胞、髄膜細胞、シュワン細胞、線維芽細胞、小膠細胞、脊髄組織の細胞および神経細胞起源の細胞株のうち少なくとも1つを含む、請求項20に記載の組成物。
【請求項30】
プラスミドまたはバクテリオファージである、請求項23に記載の組成物。
【請求項31】
リポーター遺伝子をさらに含む、請求項23に記載の組成物。
【請求項32】
リポーター遺伝子が細菌性lacZのcDNAを含む、請求項31に記載の組成物。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6B】
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【公開番号】特開2007−161704(P2007−161704A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−278869(P2006−278869)
【出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(506090428)
【Fターム(参考)】