説明

神経毒の送達のための方法およびシステム

被験体の体内へと神経毒を送達するための方法およびシステムを開示する。本方法は、処置を必要とする被験体の皮膚の部分に、マイクロニードルの1個または複数のアレイを逐次的に適用する段階を含む。マイクロニードルは神経毒であらかじめコーティングされている。マイクロニードルの1個または複数のアレイを被験体の皮膚の部分上に逐次的に適用することにより、被験体への神経毒の送達がもたらされる。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は概して、被験体の体内への神経毒の送達、より具体的には、マイクロニードルまたはマイクロプロジェクタイルのアレイを用いた神経毒の送達のためのデバイスおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
神経毒は、腋窩多汗、手掌多汗、疣贅、鶏眼、胼胝、神経腫、潰瘍、槌状足指、腱膜瘤、およびヘルペス後神経痛などの障害の処置のために使用されうる薬物である。これらの障害を処置するために、これらの障害に罹患している被験体の体内へと神経毒が送達される。神経毒を送達するための既存の方法には、注射による送達および経口投与による送達が含まれる。注射の例には、標準的なニードルおよびシリンジでの皮内注射、皮下注射が含まれる。神経毒はまた、経皮パッチを用いて送達されうる。
【0003】
注射によって神経毒を送達するには、医療の専門知識が必要とされる。さらに、注射による送達は、局所的な痛みを引き起こすことがあり、かつ被験体を血液媒介性の疾患にさらす恐れがある。加えて、適切な量の神経毒を送達するには多数の注射が必要となる場合があり、注射の調製および投与に多くの時間が必要となりうる。さらに、注射は、所望の速度で神経毒を送達できない可能性がある。経口投与の場合、身体に対する神経毒の生物学的利用能は被験体の胃のpHに依存する。pHが異常に酸性になると生物学的利用能が低下する場合がある。
【0004】
医療の専門知識を必要としない神経毒の送達方法の必要性が存在する。本方法は、神経毒を送達する既存の方法よりも局所の痛みの低減を確実にするはずである。さらに、本方法により、所望の速度で神経毒を送達することが可能になるはずである。さらに、本方法により、治療的効果に対する神経毒の生物学的利用能が保持されるはずである。さらに、本方法は、神経毒の処置時間、投薬回数、および血液汚染の可能性を低下させるはずである。
【発明の開示】
【0005】
発明の概要
患者被験体に神経毒を送達する方法を開示する。本方法は、神経毒であらかじめコーティングされたマイクロニードルのアレイを使用することを含む。アレイは、神経毒を投与しようとする表面に接触させる。例えば、マイクロアレイニードルの先端部は被験体の皮膚を通して移動させる。ニードル上に神経毒を有するマイクロニードルの複数のアレイを、神経毒を投与しようとする表面に逐次的に接触させることができる。神経毒には、ボツリヌス毒素などの任意の公知の神経毒または後発の神経毒が含まれてもよく、かつニードルは、処置される領域に、約1秒間から約30分間、または5秒間から10分間、または10秒間から5分間、または20秒間から1分間の期間にわたって適用することができる。アレイにおけるマイクロニードルは、約1ミクロンから約1000ミクロン、または50ミクロンから約400ミクロンの範囲の長さを有しうる。投与しようとする神経毒の量に応じて、マイクロニードルは、その全表面にわたって(100%)またはその表面の任意の部分、例えばマイクロニードル表面の1%にわたってコーティングされうる。ニードルは、中実の、すなわち中空ではないニードルでありうる。
【0006】
本発明のデバイスはマイクロニードルのアレイを含み、このアレイは、いかなるサイズ、構成、またはマイクロニードル密度であってもよい。しかし、アレイは好ましくは、1平方センチメートルあたり2〜2,000本または1平方センチメートルあたり20〜200本のニードルを含む約1mm2から約200cm2の間の領域にわたり、1ミクロンから1,000ミクロンの間の長さ、または50ミクロンから400ミクロンの間の長さを有するマイクロニードルを含む。マイクロニードルアレイはキット中に調製することができ、このキットは1個から任意の数のアレイ、例えば1〜25個または1〜10個のアレイを含むことができる。複数のアレイが含まれる場合は、各アレイを約1秒間から約30分間または約5秒間から約10分間投与する所与の期間にわたって、逐次的にアレイを標的領域に適用する。
【0007】
本発明の一局面は、投与のための実質的な医療の専門知識を必要としない方法およびデバイスを提供することである。
【0008】
本発明の別の局面は、細いゲージおよび長さの短いマイクロニードルを用いることにより、投与の間、患者に実質的な痛みが生じない方法を提供することである。
【0009】
本発明の別の局面は、ニードル上の神経毒の量に基づいて厳密に整合させた所望の量および速度で、ニードルを所望の標的領域に接触させる所望の期間にわたり、神経毒を送達することができる方法を提供することである。
【0010】
本発明のさらに別の局面は、所望の治療的効果に対して十分な生物学的利用能を提供するように、ある一定量の神経毒の送達を提供することである。
【0011】
本発明の別の局面は、神経毒の処置時間、投薬回数を減らし、かつ血液汚染の可能性を低下させる方法を提供することである。
【0012】
本発明のこれらの局面および他の局面は、以下の記載の通り、図面を含む本開示を検討した上で当業者にとって明らかになると考えられる。
【0013】
本発明の様々な態様は、添付の図面と併せて以下に記載される。図面は例証するために提供されており、本発明を限定するものではなく、図面中の同じ記号表示は同じ要素を指す。
【0014】
発明の詳細な説明
本方法およびデバイスを記載する前に、本発明が、記載される特定の態様に限定されず、例えば当然変化してもよいことは理解されることである。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるため、本明細書において用いられる専門用語が、特定の態様の記載のみを目的とし、限定を意図するものではないこともまた理解されることである。
【0015】
数値の範囲が提供される場合、範囲の上限値および下限値の間に存在する、文脈に別に明確な指定がない限りは下限値の単位の10分の1までの各介在値もまた、具体的に開示されているものと理解される。記述された任意の数値または記述された範囲内の任意の介在値と、記述された任意の他の数値または記述された範囲内の任意の他の介在値との間に存在するより狭い範囲は、それぞれ本発明に包含される。これらのより狭い範囲の上限値および下限値は、独立して範囲内に含まれてもよく、または除外されてもよい。上記のより狭い範囲が極限値のいずれかまたは両方を含むにしろ、いずれも含まないにしろ、各範囲は、記述された範囲内の具体的に除外された任意の極限値によって制約を受けるが、本発明にまた包含される。記述された範囲が、極限値の一方または両方を含む場合、その含まれる極限値のいずれかまたは両方を除外した範囲もまた本発明に含まれる。
【0016】
別に規定されない限り、本明細書において用いられる全ての技術用語および科学用語は、本発明の属する技術分野の当業者によって通常理解される意味と同じ意味を有する。本発明の実施または試験においては、本明細書に記載される方法および材料と類似のまたは等価のいかなる方法および材料も使用することができるが、見込みがありかつ好ましいいくつかの方法および材料をこれより記載する。本明細書に記載される全ての刊行物は、その刊行物が引用するものと関連させて方法および/または材料を開示および記載するために、参照により本明細書に組み入れられる。矛盾が生じる範囲においては、本開示が、組み込まれた刊行物のいかなる開示にも優先することは理解される。
【0017】
本明細書および添付の特許請求の範囲において用いられる場合、「1つの(a)(an)」および「その(the)」という単数形態が、文脈に別に明確な指定がない限り複数の言及を含むことに留意しなければならない。従って、例えば「1本のマイクロニードル」という言及は複数のそのようなマイクロニードルを含み、かつ「その神経毒」という言及は1つまたは複数の神経毒および当業者に公知のその等価物などについての言及を含む。
【0018】
本明細書において論じられる刊行物は、本出願の出願日より前の開示として単に提供されるものである。本明細書におけるいかなるものも、先の発明であるという理由でそのような刊行物に対して本発明が先行する資格がないと認めるようには解釈されない。さらに、提供される刊行物の日付は、独立して確認することが必要となりうる実際の刊行日とは異なる場合がある。
【0019】
神経毒
神経毒は、いかなる神経毒であってもよく、かつ市販されているものでもよい。神経毒は以下を含むポリペプチドでありうる:
(a)ボツリヌス毒素のA型、B型、C1型、D型、E型、F型、G型、およびそれらの混合物からなる群より選択される神経毒に実質的に完全に由来する野生型の神経結合部分を含む、第一のアミノ酸配列領域;
(b)ポリペプチドまたはその一部をエンドソーム膜を越えて移行(translocate)させるのに有効な第二のアミノ酸配列領域;および
(c)標的細胞の細胞質中に放出されると治療的活性を有する第三のアミノ酸配列領域。
【0020】
ポリペプチドの第一のアミノ酸配列領域は、神経毒に由来する重鎖のカルボキシル末端を含んでいてもよく、かつ神経毒は、A型ボツリヌス毒素などのボツリヌス毒素であってもよい。
【0021】
ポリペプチドの第二のアミノ酸配列領域は、ボツリヌス毒素のA型、B型、C1型、D型、E型、F型、G型、およびそれらの混合物からなる群より選択される神経毒に由来する重鎖のアミン末端を有しうる。特に、ポリペプチドの第二のアミノ酸配列領域は、A型ボツリヌス毒素に由来する毒素重鎖のアミン末端を含みうる。
【0022】
最後に、ポリペプチドの第三のアミノ酸配列領域は、クロストリジウム-バラティ(Clostridium beratti)毒素;ブチリカム(butyricum)毒素;テタニ(tetani)毒素;ボツリヌス毒素のA型、B型、C1型、D型、E型、F型、G型、およびそれらの混合物からなる群より選択される神経毒に由来する毒素軽鎖を含みうる。ポリペプチドの第三のアミノ酸配列領域は、A型ボツリヌス毒素に由来する毒素軽鎖を含みうる。
【0023】
A型ボツリヌス毒素は、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)の培養物を発酵槽中で樹立および増殖させ、その後、発酵混合物を公知の手順に従って収集および精製することにより得られる。ボツリヌス毒素の全ての血清型はまず、不活性な単鎖タンパク質として合成し、それを神経刺激性とするためにはプロテアーゼによって切断するかまたはニックを入れる必要がある。血清型がA型およびG型のボツリヌス毒素を生成する菌株は内因性のプロテアーゼを有し、したがってA型およびG型の血清型は、大部分がその活性型で細菌培養物から回収されうる。対照的に、血清型がC1型、D型、およびE型のボツリヌス毒素は、タンパク質非分解性の株によって合成され、したがって培養物からの回収時は典型的には活性化されていない。B型およびF型の血清型は、タンパク質分解性およびタンパク質非分解性の両方の株によって産生され、したがって活性型または不活性型のいずれでも回収することができる。しかし、例えば血清型がB型のボツリヌス毒素を産生するタンパク質分解性株でさえ、産生した毒素の一部を切断するのみである。ニックの入っていない分子に対するニックの入った分子の正確な比率は、インキュベーションの長さおよび培養温度に依存する。したがって、例えばB型ボツリヌス毒素の調製物はいずれも一定の割合が不活性となる可能性があり、これはおそらく、A型ボツリヌス毒素と比較して効力が有意に低いことが知られるB型ボツリヌス毒素の理由を説明するものである。臨床上の調製物中に存在する不活性なボツリヌス毒素分子は、調製物の総タンパク質負荷量(overall protein load)の一部を成すと考えられ、このことは、その臨床的効力には寄与せずに、抗原性を増大させることと関連付けられている。加えて、B型ボツリヌス毒素は、筋肉内注射の場合、同じ用量レベルのA型ボツリヌス毒素と比べて活性の持続期間がより短く、かつ効力もより低いことが知られている。
【0024】
高品質結晶A型ボツリヌス毒素は、3×lO7U/mg以上(.gtoreq.)、A260/A278が0.60未満、およびゲル電気泳動における明瞭なバンドパターンという特徴をもって、ボツリヌス菌のHall A株から産生されうる。Shantz, E.J., et al, Properties and Use of Botulinum Toxin and Other Microbial Neurotoxins in Medicine, Microbiol Rev. 56;80-99:1992に記載の通り、公知のShantzのプロセスを用いて結晶A型ボツリヌス毒素を得ることができる。一般に、A型ボツリヌス毒素複合体は、適した培地中でA型ボツリヌス菌を培養することによる嫌気発酵から単離および精製することができる。公知のプロセスを用いて、非毒素タンパク質から分離した上で例えば以下のような純粋なボツリヌス毒素を得ることもできる:分子量約150kD、比効力(specific potency)1〜2×108 LD50 U/mgまたはそれ以上の精製A型ボツリヌス毒素;分子量約156kD、比効力1〜2×108 LD50 U/mgまたはそれ以上の精製B型ボツリヌス毒素;および分子量約155kD、比効力1〜2×107 LD50 U/mgまたはそれ以上の精製F型ボツリヌス毒素。
【0025】
ボツリヌス毒素および/またはボツリヌス毒素複合体は、List Biological Laboratories, Inc., Campbell, Calif.、the Centre for Applied Microbiology and Research, Porton Down, U.K.、Wako (Osaka, Japan)、Metabiologics (Madison, Wis.)、およびSigma Chemicals of St. Louis, Moから得ることができる。
【0026】
純粋なボツリヌス毒素は非常に不安定であるので、一般に薬学的組成物の調製には用いられていない。さらに、ボツリヌス毒素複合体、例えばA型毒素複合体はまた、表面変性、熱、およびアルカリ性条件による変性を極めて起こしやすい。不活性化毒素はトキソイドタンパク質を形成し、これは免疫原性となりうる。その結果生じる抗体は、毒素注射に対して患者を無反応性にすることがある。
【0027】
マイクロニードルアレイ
図1は、本発明の一態様に従って神経毒を送達するためのマイクロニードルのアレイ100を図示する。マイクロニードルのアレイ100は被験体の標的部位に神経毒を送達するために用いられる。神経毒は、腋窩多汗、手掌多汗、疣贅、鶏眼、胼胝、神経腫、潰瘍、槌状足指、腱膜瘤、およびヘルペス後神経痛などの障害を処置するために被験体の標的部位に送達される。
【0028】
マイクロニードルのアレイ100は、神経毒であらかじめコーティングされた1本またはそれ以上の(複数の)マイクロニードルを含む。本発明のある態様において、マイクロニードルの数は10mm2から2cm2あたり10から1000本の範囲である。本発明のある態様において、マイクロニードルのアレイ100は、マイクロニードル102、マイクロニードル104、マイクロニードル106、およびマイクロニードル108を含む。マイクロニードル102、104、106、および108は、アレイを形成する様々な構成、例えば、行列状(縦列および横列)、円形、正方形、長方形、卵形、楕円形などに配列されうる。しかし、マイクロニードルのアレイ100におけるマイクロニードルを上記の構成のみで使用することに本発明が限定されるとは解釈すべきではない;本発明の範囲から逸脱することなく、他の構成を使用することができる。
【0029】
さらに、マイクロニードルのアレイ100は様々なサイズを有してもよい。本発明のある態様において、マイクロニードルのアレイ100のサイズは1mm2から200cm2または1mm2から25cm2の範囲にある。マイクロニードルのアレイ100のサイズは、アレイにおける2本のマイクロニードル間の距離に関係しうる。例えばマイクロニードル102および104などのマイクロニードルは、互いに既定の距離で配置されてよく、かつ各ニードルは、その隣の近接したニードルとも同じ距離離れていてよい。マイクロニードル102と104の間の既定の距離は、被験体の体内への投与に必要な神経毒の量に基づいて選択されうる。被験体の皮膚の罹患表面に神経毒を投与することを確実にするためには、マイクロニードル102および104を実質的に互いに近接させるべきである。処置を必要とする皮膚表面にわたって神経毒を広げることができないほどマイクロニードル102および104を遠く離すべきではない。マイクロニードルのアレイ100は、皮膚の罹患表面を処置するのに必要なマイクロニードルの数を最少にするよう設計されるべきであるため、マイクロニードルはまた必要以上に近接させるべきではない。
【0030】
本発明に関連して様々な異なる種類のマイクロニードルのアレイを用いてもよいことを当業者は理解すると考えられる。例えば、出願人は、本発明に関連して用いることができる異なる種類のマイクロアレイを開示した2001年7月3日に発行された米国特許第6,256,533号を参照する。出願人はまた、2004年9月14日に発行された米国特許第6,790,372号も参照する。本アレイのマイクロニードルの種類は、その中を通して薬物を注射できる中空のニードルであってもよい。しかし、ニードルは、中実で、かつニードル表面が薬物でコーティングされるものであってもよい。本明細書で言及する特許および当業者に公知の他の刊行物に示されるように、1つ隣の近接したニードルからの距離と実質的に同じになる距離で各マイクロニードルが配置されるように、アレイのマイクロニードルは、一般に一様なパターンで位置付けられる。マイクロニードルのアレイならびにそのようなアレイの使用方法および製造方法を開示し、かつ記載するために、上述の特許ならびにそれらの特許の各々に開示および引用される特許および刊行物は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0031】
本発明のある態様においては、1本のマイクロニードルとその隣の近接したニードルとの間、例えば、マイクロニードル120と104の間の距離は10μmから200μmの範囲にある。マイクロニードル120などのマイクロニードルの長さは、マイクロニードルが角質層(すなわち皮膚の最上層)を通り抜けるが神経受容体に接触するほど深くは貫入しないことを確実にする様式で選択される。本発明の1つの態様において、マイクロニードル102の長さは1ミクロンから1000ミクロンの範囲にある。本発明の別の態様において、マイクロニードル102の長さは50から400ミクロンの範囲にある。
【0032】
例えばマイクロニードル102などの各マイクロニードルは、被験体の体内へのマイクロニードル102の挿入を容易にする先端を有する。マイクロニードル102の先端の直径は、その製造、耐久性、神経毒のコーティングを受ける能力を含む様々な要因に基づいて選択される。マイクロニードル102の先端の直径は、治療効果をもたらすのに十分な量の神経毒でマイクロニードル102をコーティングするために、適切な表面領域が利用可能であるような直径とすべきである。
【0033】
本発明のある態様において、マイクロニードル102の先端の直径は1μmから5μmの範囲にある。マイクロニードル102は神経毒であらかじめコーティングされる。神経毒はマイクロニードル102の先端上にコーティングされる。例えば、マイクロニードル102はボツリヌス毒素でコーティングされる。本発明のある態様において、マイクロニードル102は乾燥形態の神経毒でコーティングされる。神経毒であらかじめコーティングされるマイクロニードル102の領域は、マイクロニードル102の表面領域の1から100パーセントまで変化する。マイクロニードルのアレイ100の各マイクロニードルは、コーティングされる神経毒の累積量が神経毒の既定量と等しくなるようにコーティングされる。神経毒の既定量は、被験体の皮膚へと送達しようとする神経毒の量および想定される神経毒の損失に基づいて算出される。神経毒の損失は、マイクロニードルのアレイ100を製造、保管、および取り扱う際、マイクロニードルのアレイ100を皮膚表面に適用した後のアレイからの水和および放出の際に想定される。
【0034】
マイクロニードル102、104、106、および108をコーティングするための様々な方法がある。本発明のある態様においては、マイクロニードルのアレイ100を神経毒の液体溶液中に浸漬する。その後、マイクロニードル102、104、106、および108の先端上で神経毒を乾燥させる。本発明の別の態様では、神経毒をマイクロニードル102、104、106、および108の上に適用し、凍結乾燥させる。マイクロニードル102は1から25ユニットの範囲の量の神経毒を送達する。マイクロニードルのアレイ100は10から250ユニットの範囲の量の神経毒を送達する。神経毒は、その他の賦形剤、すなわち不活性な担体と混合した活性のある薬学的成分を含んでいてもよい。本発明のある態様において、賦形剤は、糖、ポリオール、塩、緩衝剤、および界面活性剤などの標準的な賦形剤から選択される。しかし、本発明は、神経毒と担体との特定の製剤の使用に限定されると解釈すべきではない。1つまたは複数の活性のある薬学的成分、賦形剤、およびその他の必要な成分の様々な可能な組み合わせを、本発明の範囲から逸脱せずに使用することができる。
【0035】
送達方法
図2は、本発明の一態様に従って被験体へと神経毒を送達するための方法のフローチャートである。神経毒は、腋窩多汗、手掌多汗、疣贅、鶏眼、胼胝、神経腫、潰瘍、槌状足指、腱膜瘤、およびヘルペス後神経痛などの障害を処置するために送達される。
【0036】
段階202では、マイクロニードルの1個または複数のアレイ100を、障害に罹患している被験体の皮膚の部分に逐次的に適用する。マイクロニードル102、104、106、および108は神経毒であらかじめコーティングされている。マイクロニードルのアレイ100は図1と関連させて説明してきた。本発明の1つの態様では、被験体の皮膚の部分に適用するマイクロニードルのアレイの数は、被験体の標的領域に送達しようとする神経毒の量およびマイクロニードルの各アレイが送達できる量に基づいて決定される。
【0037】
本発明の別の態様では、被験体の皮膚の部分に適用されるマイクロニードルのアレイの数は、被験体の皮膚の罹患領域およびマイクロニードルのアレイが適用される領域に基づいて決定される。例えば、被験体の皮膚の罹患領域が100mm2であり、1本のマイクロニードルが25mm2を処置可能である場合は、その被験体の皮膚の罹患領域を処置するのに4本のマイクロニードルが必要となる。本発明の様々な態様において、皮膚の部分に適用されるマイクロニードルのアレイの数は、1から10個まで変化する。
【0038】
本発明のある態様において、神経毒は、皮膚の部分を通じて神経毒を送達させるために皮膚の部分の透過性を高める促進剤(enhancing agent)と共に混合される。マイクロニードルのアレイを適用する皮膚の部分の表面領域の範囲は、1mm2から200mm2の範囲にある。マイクロニードルのアレイ100は既定の時間にわたって適用される。既定の時間は、標的領域への(例えば皮膚の部分を通じた)神経毒の送達速度に依存する。既定の時間の範囲は1秒間から30分間の範囲に及ぶ。本発明のある態様では、既定の時間の範囲は5秒間から10分間の間である。
【0039】
マイクロニードルの1個または複数のアレイの適用により、被験体への神経毒の送達がもたらされる。マイクロニードル102、104、106、および108は、皮膚の部分を突き通し、皮膚の部分全体にわたって神経毒を運搬するための微細な溝を作製する。その結果、マイクロニードル102をコーティングする神経毒は被験体の体内へと送達される。マイクロニードル102、104、106、および108は皮膚の上層のみに貫入し、神経毒を容易に通過させる。しかし、マイクロニードル102、104、106、および108は、概して、神経に接触しかつ刺激するほど深くは貫入しない。その結果、マイクロニードル102、104、106、および108の挿入は無痛および無血であるよう意図される。例えば、Dermaroller(商標)C-8の表面上のマイクロニードルは、直径0.07mmおよび深さ0.13mmの極小穴を作製し、一方でマイクロニードルに接して存在するシリンダーは、適用する物質を機械的に穴内部に、最終的には皮膚部分下に押し込む。
【0040】
マイクロニードルの1個または複数のアレイ100の使用により、神経毒を送達するプロセスの改善がもたらされる。神経毒は領域に(例えば、被験体の皮膚の部分へと)貫入し、神経毒の必要量を均一に標的領域(例えば、皮膚の表面下)に提供する。マイクロニードルは痛みを伴わずに被験体の皮膚の部分に適用することができ、いかなる医療の専門知識も必要としなくてよい。さらに、マイクロニードルの1個または複数のアレイの使用により、神経毒を送達するための処置の時間が減少する。これは、神経毒のより多い量がより短い期間で送達されるためである。マイクロニードルの使用は、皮膚の部分全体にわたる神経毒の送達を促進する。さらに、神経毒を送達するプロセスはそれほど被験体の苦痛にはならない。
【0041】
本発明の好ましい態様を例証および記載してきたが、本発明がそのようには限定されないことは明らかであると考えられる。当業者は、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の精神および範囲から逸脱することなく、多数の修正、変更、変形、代替、および等価物を思いつくと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一態様に従って神経毒を送達するためのマイクロニードルのアレイを図示する。
【図2】本発明の一態様に従って神経毒を被験体へと送達するための方法のフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロニードルのアレイを含む、被験体へと神経毒を送達するためのシステムであって、各マイクロニードルが神経毒であらかじめコーティングされている、システム。
【請求項2】
神経毒がボツリヌス毒素である、請求項1記載のシステム。
【請求項3】
逐次的な適用のための複数のアレイを含むシステムであって、マイクロニードルが神経受容体に接触するほど深くは貫入せずに角質層に貫入するように、各マイクロニードルの長さが選択される、請求項1記載のシステム。
【請求項4】
各マイクロニードルの長さが1ミクロンから1000ミクロンの間である、請求項1記載のシステム。
【請求項5】
各マイクロニードルの長さが50ミクロンから400ミクロンの間である、請求項1記載のシステム。
【請求項6】
各マイクロニードルが、各マイクロニードルの表面領域の1%から100%に相当する表面領域にわたって神経毒でコーティングされている、請求項1記載のシステム。
【請求項7】
マイクロニードルが、1mm2から200cm2の間の領域にわたってシステム上に位置付けられる、請求項19記載のシステム。
【請求項8】
腋窩多汗、手掌多汗、疣贅、鶏眼、胼胝、神経腫、潰瘍、槌状足指、腱膜瘤、およびヘルペス後神経痛からなる群より選択される障害の処置のために設計される、請求項1記載のシステム。
【請求項9】
送達される神経毒の量が1ユニットから25ユニットの間である、請求項1記載のシステム。
【請求項10】
マイクロニードルを相互に接続する基部をさらに含む、請求項1記載のシステム。
【請求項11】
基部が実質的に平面である、請求項10記載のシステム。
【請求項12】
基部が可撓性である、請求項11記載のシステム。
【請求項13】
基部がその上に10から1,000本のニードルを約1mm2から4cm2の領域にわたって有する、請求項11記載のシステム。
【請求項14】
マイクロニードルが50ミクロンから400ミクロンの長さである、請求項13記載のシステム。
【請求項15】
以下の段階を含む、患者の標的領域に神経毒を投与する方法:
(a)マイクロニードルのアレイを患者の標的領域に適用する段階であって、マイクロニードルが、神経毒からなる製剤の治療的有効量でコーティングされている、段階;および
(b)標的領域に神経毒が送達されるように、ある期間にわたって標的領域中にマイクロニードルを残存させておく段階。
【請求項16】
以下の段階をさらに含む、請求項15記載の方法:
(c)段階(a)および(b)を複数回繰り返す段階であって、段階(a)毎にマイクロニードルの新しいアレイが使用される、段階。
【請求項17】
アレイのマイクロニードルが標的領域に逐次的に適用され、標的領域がヒト皮膚の外層下の領域であり、神経毒がボツリヌス毒素である、請求項15記載の方法。
【請求項18】
皮膚の部分を通じた神経毒の送達速度に基づいて決定される時間にわたって、マイクロニードルのアレイが適用される、請求項17記載の方法。
【請求項19】
1秒間から30分間の間の期間にわたってマイクロニードルのアレイが適用される、請求項15記載の方法。
【請求項20】
マイクロニードルが神経受容体に接触するほど深くは貫入せずに角質層を通り抜けるように、マイクロニードルの長さが選択され、5秒間から10分間の間の期間にわたってマイクロニードルのアレイが適用される、請求項15記載の方法。
【請求項21】
マイクロニードルの長さが1ミクロンから1000ミクロンの間である、請求項15記載の方法。
【請求項22】
マイクロニードルの長さが50ミクロンから400ミクロンの間であり、かつマイクロニードルが表面領域の1%から100%の領域にわたってコーティングされている、請求項15記載の方法。
【請求項23】
皮膚の部分の表面領域が、1mm2から200cm2の間である、請求項15記載の方法。
【請求項24】
腋窩多汗、手掌多汗、疣贅、鶏眼、胼胝、神経腫、潰瘍、槌状足指、腱膜瘤、およびヘルペス後神経痛を含む群より選択される1つまたは複数の障害を処置するために神経毒が送達される、請求項15記載の方法。
【請求項25】
逐次的に適用されるマイクロニードルのアレイの数が、送達しようとする神経毒の量およびマイクロニードルの各アレイが送達できる量に基づいて決定される、請求項16記載の方法。
【請求項26】
逐次的に適用されるマイクロニードルのアレイの数が、被験体の皮膚の罹患部分の領域およびマイクロニードルのアレイが適用される領域に基づいて決定される、請求項16記載の方法。
【請求項27】
段階(c)において、マイクロニードルの1から10個の新しいアレイが、患者の皮膚の部分である標的領域に逐次的に適用される、請求項16記載の方法。
【請求項28】
逐次的に適用されるマイクロニードルの全アレイによって被験体に送達される神経毒の量が、10から250ユニットの間である、請求項27記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−527275(P2009−527275A)
【公表日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−555394(P2008−555394)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【国際出願番号】PCT/US2007/004201
【国際公開番号】WO2007/098057
【国際公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(507363901)ゾゲニクス インコーポレーティッド (6)
【Fターム(参考)】