説明

神経細胞接着分子L1のペプチド断片を含む新規FGF受容体結合化合物

本発明は、5から105個のアミノ酸残基のアミノ酸配列を含む繊維芽細胞成長因子受容体(FGFR)と相互作用できる新規ペプチド化合物に関し、それは、式:
x'-(x)n-xp-(x)n-x'
[式中、
x-は、塩基性アミノ酸残基であり、
xpは、疎水性アミノ酸残基であり、そして
(x)nは、任意のアミノ酸残基である(ここで、nは、0から3の整数である)]
のアミノ酸モチーフを含む。好ましくは、本発明の化合物は、神経接着分子L1の断片を含む。本発明はまた、FGFRおよび/またはL1が、病状および/または疾患からの回復で役割を果たす、異なる病状の処置および/または処置のための化合物の使用に関する。したがって、本発明の化合物を含む医薬組成物もまた関係する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、繊維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)に結合し、該受容体を活性化することができる新規ペプチド化合物に関する。本発明の新規化合物は、FGFR結合モチーフx--(x)n-xp-(x)n-x-を含むペプチド断片を含み、ここで、x-は、塩基性アミノ酸残基であり、xpは、疎水性アミノ酸残基であり、そして(x)nは、任意のアミノ酸残基の配列である(nは、0から3までの整数である)。好ましくは、本発明の化合物は、FGFRに結合し、該受容体を活性化することができる神経細胞接着分子L1の断片を含む。本発明は、L1のFGFR結合断片のアミノ酸配列を開示し、それを含む医薬組成物を特徴とする。発明はまた、異なる病的状態の処置のための化合物および医薬組成物の使用に関し、ここでは、FGFRおよび/またはL1が、病状および/または疾患からの回復で役割を果たす。本発明のペプチド配列を含むエピトープに結合することができる抗体もまた関係している。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
脳の可塑性および可塑性を制御するメカニズムは、学習および記憶ならびに脳損傷後の機能の回復の中心となる。神経栄養因子が、成人中枢神経系(CNS)での脳の可塑性を制御するのに関与している分子クラスの1つであることは明らかであるが、可塑性メカニズム、例えば、長期増強、神経の保護および再生における神経接着分子(CAM)の役割は、あまり認識されていないが、等しく重要である。しかしながら、皮肉にも、CAMは、また、細胞外空間を再構築し、アルツハイマー病および多発性硬化症のような状態における脳病状の発症を駆動するかく乱を引き起こし得る。候補分子は、古典的なCAMおよびベータ-アミロイドの多くの特性を共有し、偽CAMになりすまし得るアミロイド前駆体タンパク質を含む。ベータ-アミロイドは、アルツハイマー病において、老人斑の形成のための病巣としての役割を果たし得て、CAMの様に、神経栄養因子および他のCAMを組織するための環境を提供する。炎症性反応が、この環境で発達し、ミクログリア、補体および他の因子により仲介される持続した神経損傷の悪循環を開始し得る(Cotman et al. (1998) Prog Neurobiol. 55:659-69)。
【0003】
免疫グロブリンスーパーファミリーの神経細胞接着分子(CAM)は、初期発生および成人期の間、重要な部位において細胞の集団を凝集し、維持する。それらの接着特性に加えて、CAMの同種および異種相互作用は、細胞内シグナル伝達に影響を与え得る。したがって、細胞移動、増殖、および分化を含むそれらの発生イベントに影響を与える能力は、それらの接着およびシグナル伝達特性から生じ得る。
【0004】
神経細胞接着分子L1は、神経細胞間の結合を仲介し、軸索伸張および線維束性攣縮を刺激することにより、神経系の発生の間、重要な役割を果たす。L1は、アミノ末端領域に6個の免疫グロブリン(Ig)モジュール、次いで、5個のIII型フィブロネクチン(F3)モジュール、膜貫通ドメイン、および高度に保存された細胞内テールからなる(Nybroe and Bock, 1990)。L1は、同種結合により、すなわち、ある細胞上のL1が、隣接する細胞上のL1に結合することにより、細胞−細胞相互作用を仲介することが既知である(Grumet and Edelman, 1984; Lemmon V et al., 1989, Doherty et al., 1995)。また、神経細胞接着分子(NCAM) (Horstkorte et al., 1993)、軸索結合細胞接着分子TAG-1/アクソニン-1 (Kuhn et al., 1991; Felsenfeld et al., 1994)、グリコシルホスファチジルイノシトール固定化分子HAS/CD24 (Sammar et al., 1997)および神経組織特異的コンドロイチン硫酸プロテオグリカンニューロカンおよびホスファカン(Margolis et al., 1996)を含む様々な細胞表面分子との異種結合も可能であり、それはまた、細胞外マトリックスの構成要素に結合する。
【0005】
L1により刺激される神経突起伸張は、繊維芽細胞成長因子受容体(FGFR)のチロシンキナーゼ活性化に依存した細胞内シグナル伝達カスケードの活性化を含むことが示された(Williams et al., 1994)。間接的な証拠に基づいて、L1が、細胞外で受容体と相互作用することによりFGFRを活性化することができることが示されたが、相互作用の証拠は、証明されていなし、相互作用分子の結合部位も同定されていない。
【0006】
繊維芽細胞成長因子受容体(FGFR)は、少なくとも4個の密接に関連した受容体タンパク質チロシンキナーゼ、FGFR1、FGFR2、FGFR3およびFGFR4のファミリーであり、細胞外の3個のIg様モジュールおよび細胞内の分割されたチロシンキナーゼモジュールからなる(Powers et al. (2000) Endocr Relat Cancer 7:165-97)。受容体は、形態形成、発生、血管新生、および創傷治癒の重要なレギュレーターであることが既知である。FGFR活性化およびシグナル伝達は、FGFRの天然リガンドである繊維芽細胞成長因子(FGF)の高親和性結合により誘導される、受容体の二量体化に依存しており、それはまた、細胞表面ヘパリンまたはヘパラン硫酸プロテオグリカンの参加を必要とする。繊維芽細胞成長因子(FGF)およびそれらの受容体は、実質的にすべてのほ乳類組織の、多くの発生および修復過程に参加する複雑なシグナル伝達系を構成し、特に、それらは、末梢および中枢神経系の機能化で重要な役割を果たす。したがって、FGFファミリーの23個のメンバーのうちの10個が、脳で同定された(Jungnickel et al, (2004) Mol Cell Neurosci. 25:21-9; Reuss and von Bohlen und Halbach (2003) Cell Tissue Res. 313:139-57)。
【0007】
現在までに蓄積された多くの証拠が、FGFR受容体が、神経細胞接着分子NCAM、L1およびN-カドヘリンと関連する細胞内シグナル伝達に関与することを示している(Williams et al. (1994) Neuron 13:83-94)。NCAMは、最近、FGFRの推定されるオルタナティブリガンド、すなわち低親和性リガンドの新規クラスのメンバーと同定された(Kiselyov et al. (2005) J Neurochem 94:1169-1179)。NCAMと該受容体間の直接の相互作用のための取得した証拠が存在した(Kiselyov et al. (2003) Structure (Camb) 11:691-701)。NCAMとFGFR間の直接の相互作用に関与する、配列EVYVVAENQQGKSKA(FGLペプチド)を有する同定したNCAM断片は、FGFRの活性が重要な役割を果たす、様々な病的状態の処置のための新規候補薬剤として示された(WO 03/016351)。WO 03/016351は、FGFRに結合し、活性化することによるFGLペプチドのある生物学的効果を開示している。
【0008】
L1は、神経突起伸張刺激および細胞生存促進性(proting)細胞接着分子として広く研究されてきた(Haspel et al. (2000) J Neurobiol 15:287-302; Roonprapurt et al. (2003) J Neurotrauma 20:871-882; Wiencken-Barger et al. Cereb Cortex (2004) 14:121-131; Loers er al. (2005) J Neurochem 92:1463-1476)。また、神経細胞前駆体増殖、分化および伝達物質表現型サブタイプ産生のために重要であると見なされていて(Dihne et al. (2003) J Neurosci 23:6638-6650)、シナプス可塑性において重要な役割を果たすことが既知である(Saghatelyan et al. (2004) Mol Cell Neurosci 26:191-203)。
【0009】
L1による複数の生物学的活性の遂行における、L1分子の異なる領域の関与を調べるための、およびL1が介在する細胞応答を特定の細胞内シグナル伝達経路と関連づけるための多くの研究が、行われてきた。したがって、L1のIgモジュール1-4が、同種結合および神経突起伸張のために重要であることが証明された(Haspel et al (2000) J Neurobiol 42:287-302)。F3ドメイン2および3の間のエピトープに向けられた抗体は、シグナル伝達および付随する神経突起伸張を促進することが示された(Appel et al (1995) J. Neurobiol. 28:297-312)。Holm et al. (1995)は、あるFN様ドメイン断片が、同種結合の能力を有することを証明し、それは、1個またはそれ以上のFN様ドメインが自己結合の潜在性を有し得て、おそらく、細胞の表面でL1のクラスターを生じ得ることを示している(そのようなクラスターは、次に、FN様リピートの球状構造により課された構造制約を受け得る)(J. Neurosci. Res 42:9-20)。可溶性分子および基質としてのL1の全細胞外ドメインは、神経細胞生存の促進および神経突起伸張の刺激のために重要である(Loers et al. (2005) J Neurochem 92:1463-1476; Naus et al. (2004) J Biol Chem 279:16083-90)。
【0010】
可溶性分子L1は、治療的応用での神経突起伸張および生存促進化合物としての使用のために示された(米国特許第6,576,607号)。しかしながら、医学的応用のためのそのような分子の利用は、L1細胞外ドメインポリペプチドが非常に長い(1100個のアミノ酸を形成する(Swissprot P32004))ので、限定される。
【0011】
L1ポリペプチドの機能的に重要な領域の同定および全L1細胞外ドメインポリペプチドの生物学的機能を模倣できる個々のペプチド断片としてのこれらの領域の産生は、L1の医学的応用が関与するときに生じる問題を解決したように見える。有益な提供は、また、異なるL1結合分子との相互作用に関与する、L1の結合サイトの同定を与え得る。有利には、L1と相互作用する分子、例えば、FGFR受容体が関与する疾患の処置のための新規有効薬剤を提供し得る。しかしながら、L1分子の機能的能力のための構造的必要性に関する情報は、利用できるとしても、先行技術で十分に開示されていない。
【発明の開示】
【0012】
発明の要約
本発明は、L1のFGFR結合サイトを同定し、これらの結合サイトに由来のペプチド断片を含む化合物を提供することに関する。本発明の新規化合物は、FGFR活性を調節することができるFGFR結合化合物である。
【0013】
したがって、本発明の最初の目的は、FGFRに結合し、FGFR活性を調節することができるペプチド配列を含む、新規化合物を提供することである。
【0014】
本発明の化合物は、FGFR結合モチーフ:
x--(x)n-xp-(x)n-x-
[式中、
x-は、塩基性アミノ酸残基であり、
xpは、疎水性アミノ酸残基であり、そして
(x)nは、任意のアミノ酸残基の配列である(ここで、nは、0から3の整数である)]
を含む。好ましくは、本発明の化合物は、多くとも105個のアミノ酸長であり、FGFRに結合し、該受容体を活性化できる、神経細胞接着分子L1の断片を含む。本発明は、L1のFGFR結合断片のアミノ酸配列を開示し、それを含む医薬組成物を特徴とする。発明はまた、異なる病的状態の処置のための化合物およびそれを含む医薬組成物の使用に関し、ここで、FGFRおよび/またはL1は、病状および/または疾患からの回復、例えば、
a)術後神経損傷、外傷性神経損傷、障害された神経繊維の髄鞘形成、卒中から生じるような虚血後損傷、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、認知症、例えば、多発脳梗塞性認知症、硬化症、糖尿病に付随する神経変性、概日時計に影響を与える傷害または神経-筋伝達、および統合失調症、気分障害、例えば、躁鬱病に関連する中枢および末梢神経系の状態の処置;
b)神経-筋結合の障害された機能を有する状態、例えば、臓器移植後の、または例えば、遺伝性もしくは外傷性萎縮性筋障害を含む、筋肉の疾患または状態の処置のための;または、様々な器官の疾患または状態、例えば、生殖腺の変性状態、膵臓の、例えば、I型およびII型糖尿病、腎臓の、例えば、ネフローゼならびに心臓、肝臓および腸の疾患または状態の処置;
c)創傷治癒の促進;
d)例えば、急性心筋梗塞後の心筋細胞死の予防;
e)血管再生の促進;
f)学習する能力ならびに/または短期および/もしくは長期記憶の刺激;
g)虚血による細胞死の予防;
h)アルコール消費による身体損傷の予防;
i)プリオン疾患の処置;
j)癌の処置
において役割を果たす。
【0015】
本発明のペプチド配列を含むエピトープに結合できる抗体もまた本発明に関連する。
【0016】
図の説明
図1. L1 F3 モジュールI-Vの FGFR1 IgモジュールII-IIIへの結合。結合は、SPR解析の手段により調べた。FGFR1モジュールのおよそ3000共鳴ユニット(RU)をセンサーチップに固定した。合わせた L1 F3モジュールI-Vまたは合わせたNCAM IgモジュールI-II (ctrl)を、特定の濃度でセンサーチップに注入した。結合は、固定化FGFR1モジュールを有するセンサーチップへの結合とブランクセンサーチップへの結合(非特異的結合)間の応答差異として特定する。非常に低い非特異的結合のみを、この研究で使用した全ての濃度で、上記のタンパク質に関して検出した。4-5回の独立した実験を、すべてのタンパク質の異なる調製物を用いて行った。
【0017】
図2. FGFR1 IgモジュールII-IIIとL1 F3モジュールI-V間の結合のATP誘導による増加の証明。結合は、SPR解析の手段により調べた。FGFR1モジュールのおよそ3000共鳴ユニット(RU)をセンサーチップに固定した。ATP(AMP-PCP、AMPまたはGTP)の各濃度に関して3回の独立した実験を行った。A、B、C、D) ATP (A)、AMP-PCP (B)、AMP (C)およびGTP (D)の異なる濃度での存在下での、14μMモジュールI-VのFGFR1モジュールへの結合。
【0018】
図3. FGFR1 IgモジュールII-IIIとL1 F3モジュールI-V間の結合におけるATP、AMP-PCP、GTP、AMPの効果の証明。A)ATP、AMP-PCP、GTPまたはAMPの添加前(Ctr)および添加後のF3モジュールとFGFR1間の平衡解離定数KD。B)FGFR1へのF3モジュールの結合の開始結合速度V0対ATP濃度のプロットは、F3モジュールとATP間の相互作用の平衡解離定数KDを計算するために使用した。
【0019】
図4. FGFR1のリン酸化におけるL1 F3モジュールI-Vの効果およびFGFR1によるL1の免疫沈降。A) C末端StrepII-タグを含むFGFR1で安定的にトランスフェクトしたTREX/FLP-IN細胞を、何もなし(レーン1)、4 mM (レーン2)、10 mM (レーン3)および30 mM (レーン4)のL1 F3モジュールI-Vで、15分間刺激した。刺激後、FGFR1を、抗ホスホチロシン抗体を用いて免疫精製し、次いで、StrepII-タグに対する抗体を用いて、イムノブロッティングにより解析した。B) C末端StrepII-タグを含むFGFR1で安定的にトランスフェクトしたTREX/FLP-IN細胞を、25 mM NCAM IgモジュールI-II (コントロールとして、レーン1)および10 mM L1 F3モジュールI-V (レーン2)で、25分間刺激した。全部で9回の実験を行った。すべての実験は、L1 F3モジュールI-Vでの処理で、FGFR1のリン酸化を示す。
【0020】
図5. 小脳神経細胞からの神経突起伸張におけるL1 F3モジュールI-Vの効果。A) 神経突起の長さ対F3モジュールI-Vの濃度。B) 4mM F3モジュールI-Vにより誘導される神経突起伸張におけるFGFR1阻害剤、SU5402の効果。C、D) 様々な濃度のATP(C)またはAMP-PCP(D)の存在下での、4mM F3モジュールI-Vで刺激した神経細胞。E、F) 様々な濃度のATP(E)またはAMP-PCP(F)の存在下での、1mM F3モジュールI-Vで刺激した神経細胞。4回の独立した実験を行った。エラーバーは、平均の1つの標準誤差を表す。*および**は、Ctrと比較して、それぞれp<0.05およびp<0.01の統計的有意を表す。+、++および+++は、最大の応答と比較して、それぞれp<0.05、p<0.01およびp<0.001の統計的有意を表す。
【0021】
図6. L1 F3ドメインI-Vのループ領域を示すペプチドの配列。F3 I-Vモジュールのすべてのループを示す30個のペプチドを合成し、L1とFGFR1間の結合サイトをマップするために使用した。隣接したベータストランドの部分と共に、F3 I-Vモジュールのループ領域を示す。
【0022】
図7. FGFR1とL1 F3モジュールI-Vに由来するペプチド間の結合の証明。結合は、SPR解析により調べた。FGFR1モジュールのおよそ3000共鳴ユニット(RU)を、センサーチップに固定した。3回の独立した実験を行った。A) FGFR1モジュールII-IIIに結合するペプチド(F1CDL- (8mM)、F2BCL- (8mM)、F3ABL- (40mM)、F3CDL- (2mM)、F5BCL- (80mM)、およびF5FGL- (80mM)ペプチド)。B) FGFR1モジュールIIに結合するペプチド(F1CDL- (16mM)、F2BCL- (16mM)、F3CDL- (8mM)、およびF5BCL- (130mM)ペプチド)。
【0023】
図8. FGFR1のリン酸化におけるFGFR1に結合したペプチドの効果。リン酸化レベル対FGFR1に結合するペプチドの濃度。4回の独立した実験を行った。エラーバーは、平均の1つの標準誤差を表す。*、**および***は、PBSと比較して、それぞれp<0.05、p<0.01およびp<0.001の統計的有意を表す。+、++および+++は、ネガティブコントロール(FGFR1に結合せず、受容体ペプチドの濃度依存性リン酸化を示さなかった、F1BCL-ペプチド)と比較して、それぞれp<0.05、p<0.01およびp<0.001の統計的有意を表す。
【0024】
図9. 小脳神経細胞からの神経突起伸張におけるFGFR1に結合したペプチドの効果。神経突起の長さ対FGFR1に結合したペプチドの濃度。4つの独立した実験を行った。エラーバーは、平均の標準誤差を表す。*および**は、Ctr(PBS)と比較したときの、各々p<0.05およびp<0.01の統計的な有意を表す。
【0025】
図10. L1とFGFR1間の結合モデル。L1 F3モジュールの考えられるコンパクトな構造を提案し、そこでは、印をつけた領域が、FGFR1に結合し、神経突起伸張および受容体のリン酸化を刺激するペプチドに相当する。FGFR1の二量体の構造は、FGFR1の結晶構造から取得する(Pellegrini et al., 2000)。
【0026】
図11. L1 F3ドメインI-Vのコンパクトな構造の可能性を証明するゲルろ過実験。A) PBS(青色)中およびPBS+1M NaCl(赤色)中、Superdex 200 pgゲルろ過カラムを用いた、L1 F3ドメインI-Vのゲルろ過。B) PBS(青色)中およびPBS+1M NaCl(赤色)中、BSAのゲルろ過。
【0027】
発明の詳細な説明
1. 化合物
1.1. ペプチド配列
本明細書では、アミノ酸残基の標準的な一文字表記および標準的な三文字表記を適用する。アミノ酸の略称は、IUPAC-IUB Joint Commission on Biochemical Nomenclature Eur. J. Biochem, 1984, vol. 184, pp 9-37の推薦に従う。本明細書および請求項を通して、天然アミノ酸の三文字表記または一文字表記を使用する。L型またはD型が特定されていないとき、問題のアミノ酸は、天然L型(cf. Pure & Appl. Chem. Vol. (56(5) pp 595-624 (1984))、またはD型を有し、その結果、形成されるペプチドは、L型、D型、またはL型およびD型が混在する配列のアミノ酸を構成し得るものと理解すべきである。
【0028】
何も特定されていなければ、本発明のペプチドのC末端アミノ酸は、遊離カルボン酸として存在し、これはまた、“-OH”として特定し得るものと理解されるべきである。しかしながら、本発明の化合物のC末端アミノ酸は、アミド化された誘導体であり、それは、“-NH2”として示される。他に何も記載がなければ、ポリペプチドのN末端アミノ酸は、遊離アミノ基を含み、これはまた、“H-”として特定し得る。
【0029】
他に何も特定されていなければ、アミノ酸は、自然に生じるか否かを問わず、任意のアミノ酸、例えば、アルファアミノ酸、ベータアミノ酸、および/またはガンマアミノ酸から選択し得る。したがって、集団は、非限定的に、A、V、L、I、P、F、W、M、G、S、T、C、Y、N、Q、D、E、K、R、H Aib、Nal、Sar、Orn、リジン類似体、DAP、DAPAおよび4Hyp
を含む。
【0030】
また、本発明にしたがって、化合物/ペプチドの修飾、例えば、アミノ酸のグリコシル化および/またはアセチル化を行い得る。
【0031】
塩基性アミノ酸残基は、本発明にしたがって、アミノ酸H、KおよびRの残基により表され;酸性アミノ酸残基は、アミノ酸EおよびDの残基により表され;疎水性アミノ酸残基は、アミノ酸A、L、I、V、M、F、YおよびWの残基により表され;中性の弱い疎水性は、P、AおよびGにより表され;中性親水性は、アミノ酸残基Q、N、SおよびTにより表され;架橋形成は、アミノ酸残基Cにより表される。
【0032】
第1の局面では、本発明は、式:
x--(x)n-xp-(x)n-x-
[式中、
x-は、塩基性アミノ酸残基であり、
xpは、疎水性アミノ酸残基であり、そして
(x)nは、任意のアミノ酸残基の配列である(ここで、nは、0から3の整数である)]
のアミノ酸モチーフを含むアミノ酸配列を含む、繊維芽細胞成長因子受容体(FGFR)と相互作用できる化合物に関する。
【0033】
本発明にしたがって、x-は、独立して、K、RまたはHから選択される任意の塩基性アミノ酸残基であり得て、xpは、独立して、A、V、L、I、P、F、W、MまたはYから選択される任意の疎水性アミノ酸残基であり得て、そして(x)nは、任意のアミノ酸残基の配列である(ここで、nは、0から3の整数である)。しかしながら、好ましいモチーフは、残基x-およびxpならびに配列(x)の長さが、下記のモチーフのいずれかであるモチーフである:
K-(x)3-L-(x)1-K、
R-(x)3-L-(x)1-K、
K-(x)1-L-(x)3-K、
H-(x)1-L-(x)2-K、
R-(x)2-W-(x)0-R、
K-(x)2-L-(x)0-R、
R-(x)1-V-(x)2-H、
K-(x)1-F-(x)3-K、
R-(x)0-Y-(x)2-Kまたは
R-(x)2-I-(x)2-K。
【0034】
さらに、配列(x)の少なくとも1個の残基が、塩基性アミノ酸残基、親水性アミノ酸残基またはGであることが、好ましい。1つの好ましい態様では、それは、K、RまたはHから選択される塩基性残基であり得て、ここで、Hが、より好ましい。他の好ましい態様では、それは、荷電または非荷電親水性残基、例えば、D、E、H、K、N、Q、R、SまたはTから選択され得て、ここで、Hが、荷電アミノ酸残基の中でより好ましく、そしてQまたはSが、非荷電残基の中でより好ましい。また他の好ましい態様では、残基は、Gであり得る。
【0035】
本発明にしたがって、上記のアミノ酸モチーフは、FGFR結合アミノ酸モチーフである。本発明は、下記のそのようなFGFR結合アミノ酸モチーフの非限定的な例を提供する:
KWFSLGK (配列番号8)
RYQWR (配列番号9)
KGHLR (配列番号10)
RHVHSH (配列番号11)
RFHILFK (配列番号12)
KALPEGK (配列番号13)
HHLAVK (配列番号14)。
【0036】
本発明にしたがって、上記のアミノ酸配列のすべてが、FGFRに結合でき、この能力は、該配列を含む化合物に与えられる。したがって、上記の配列のいずれかを含む化合物は、FGFRを活性化する目的のために有望な化合物として関係する。本発明のそのような有望な化合物の中で、多くとも105個のアミノ酸残基を含むペプチド配列が好ましい。
【0037】
したがって、本発明にしたがい、好ましい化合物の1つは、上記で同定したモチーフ(配列番号8-14)から選択されるFGFR結合モチーフを含む単離したペプチド配列を含んだ化合物であり、単離したペプチド配列は、好ましくは、下記のアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列を含む:
APEKWFSLGKV (配列番号1)、
DWNAPQIQYRYQWR (配列番号2)、
DLAQVKGHLRGYN (配列番号3)、
RHVHSHMVVPAN (配列番号4)、
RFHILFKALPEGKVSPD (配列番号5)または
LHHLAVKTNGTG (配列番号6)。
【0038】
本質的に、配列番号1-6から選択されるアミノ酸配列を含む化合物が、より好ましい。“本質的に含む”なる用語は、本明細書では、配列番号1-6から選択される配列が、少なくとも、10%の化合物内容量を構成することを意味し、それは、化合物分子量として、または化合物中のアミノ酸残基またはアミノ酸配列の範囲として発現し得る。選択したアミノ酸配列が、化合物含有量の100%を構成するとき、化合物は、該配列を構成すると理解される。
配列番号1-6から選択される配列のいずれかからなる化合物は、また、本発明の好ましい化合物の中にある。
【0039】
1つの態様では、配列番号1-6の配列から選択される配列からなる好ましい化合物は、配列番号1からなる化合物である。他の態様では、好ましい化合物は、配列番号2からなり得る。また他の態様では、好ましい化合物は、配列番号3からなり得る。また、好ましい化合物は、配列番号4からなり得る。他の好ましい態様では、化合物は、配列番号5または配列番号6からなり得る。これらの態様において、配列番号1-6は、単離したペプチド配列であることを意味する。
【0040】
単離したペプチド配列は、本発明にしたがって、望む長さのアミノ酸配列であり、それは、任意の組み換え技術法もしくは化学合成の使用により産生されるか、またはそれは、より長いペプチドまたはタンパク質から、酵素学的または化学的切断の方法により分離された。
【0041】
したがって、単離したペプチド配列は、タンパク質の他の部分から分離したタンパク質の断片、例えば、タンパク質ポリペプチドの他の断片であり得る。本発明は、上記のFGFRモチーフを含む、タンパク質の単離したペプチド断片に関する。本発明にしたがって、本発明の単離したペプチド断片は、任意のタンパク質に由来し得るが、好ましい本発明の単離したタンパク質の断片は、神経細胞接着分子L1に由来する。したがって、本発明の化合物は、L1のペプチド断片を含むか、またはL1のペプチド断片からなり得る。本発明は、すべてのほ乳類L1タンパク質、例えば、Swiss-ProtデータベースポリペプチドP32003、P11627、Q05695で同定したタンパク質に関する。好ましくは、L1は、Swiss-ProtデータベースでP32004として同定した配列を有するヒトである。
【0042】
本発明は特に、L1ポリペプチドの一部に由来するL1のペプチド断片に関し、3型フィブロネクチンモジュール1から5に相当する(F3,1-5)。したがって、1つの態様では、本発明のL1のペプチド断片は、L1のF3, 1モジュールからなり、配列番号15として同定した配列を有する。他の態様では、L1由来ペプチド断片は、L1のF3, 2モジュールからなり、配列番号16として同定した配列を有する。また他の態様では、断片は、L1のF3, 3モジュールであり、配列番号17として同定した配列を有する。また、他の態様では、断片は、L1のF3, 4モジュールであり、配列番号18として同定した配列を有する。他の態様では、断片は、L1のF3, 5モジュールからなり得て、配列番号19として同定した配列を有する。
【0043】
本発明は、好ましくは、下記の配列を有するL1 F3,1-F3,5モジュールに関する:
F3,1: PGPVPRLVLSDLHLLTQSQVRVSWSPAEDHNAPIEKYDIEFEDKEMAPEKWYSLGKVPGNQTSTTLKLSPYVHYTFRVTAINKYGPGEPSPVSETV
F3,2: PEKNPVDVKGEGNETTNMVITWKPLRWMDWNAPQVQYRVQWRPQGTR GPWQEQIVSD PFLVVSNTSTFVPYEIKVQA VNSQGKGPEP QVTIGYS
F3,3: PQAIPELEGIEILNSSAVLVKWRPVDLAQVKGHLRGYNVTYWREGSQRKHSKRHIHKDHVVVPANTTSVILSGLRPYSSYHLEVQAFNGRGSGPASEFT FST
F3,4: PEGVPGHPEALHLECQSNTSLLLRWQPPLSHNGVLTGYVLSYHPLDEGGKGQLSFNLRDPELRTHNLTDLSPHLRYRFQLQATTKEGPGEAIVREGGT
F3,5: GISDFGNISATAGENYSVVSWVPKEGQCNFRFHILFKALGEEKGGASLSPQYVSYNQSSYTQWDLQPDTDYEIHLFKERMFRHQMAVKTNGTG。
【0044】
しかしながら、本発明のある好ましい態様では、より短いペプチド配列を使用することが有利であり得る。したがって、本発明は、L1のF3モジュールの断片、例えば、F3,1、F3,2、F3,3、F3,4またはF3,5モジュールの断片に関する。後者のモジュールの断片が、配列番号1-6から選択される配列または該配列の断片、例えば、5-7個のアミノ酸残基の長さを有し、上記のFGFR結合モチーフを含む断片、例えば、配列番号8-14から選択される配列を少なくとも1個含むことが、好ましい。
【0045】
1.1ペプチド配列の長さ
本発明にしたがって、本発明の化合物は、多くとも105個のアミノ酸残基でのFGFR結合モチーフを含むアミノ酸配列を含む。
【0046】
したがって、1つの態様では、化合物は、3-105個のアミノ酸残基、例えば、3-100個のアミノ酸残基、例えば、3-95個のアミノ酸残基、例えば、3-90個のアミノ酸残基、例えば、3-85個のアミノ酸残基、例えば、3-80個のアミノ酸残基、例えば、3-75個のアミノ酸残基、例えば、3-70個のアミノ酸残基、例えば、3-65個のアミノ酸残基、例えば、3-60個、例えば、3-55個のアミノ酸残基、例えば、3-50個のアミノ酸残基、例えば、3-45個のアミノ酸残基、例えば、3-40個のアミノ酸残基、例えば、3-35個のアミノ酸残基、例えば、3-30個のアミノ酸残基、例えば、3-25個のアミノ酸残基、例えば、3-20個のアミノ酸残基、例えば、3-15個、例えば、3-10個のアミノ酸残基、例えば、3-5個のアミノ酸残基を含むペプチド配列を含み得る。
【0047】
他の態様では、該化合物のペプチド配列は、4-100個のアミノ酸残基、例えば、4-90個のアミノ酸残基、例えば、4-80個のアミノ酸残基、例えば、4-70個、例えば、4-60個、例えば、4-50個のアミノ酸残基、例えば、4-40個のアミノ酸残基、例えば、4-30個のアミノ酸残基、例えば、4-20個のアミノ酸残基、例えば、4-15個のアミノ酸残基または4-10個の間の長さを有し得る。
【0048】
さらなる態様では、ペプチド配列は、5から100個のアミノ酸残基、例えば、5から90個のアミノ酸残基、例えば、5から80個のアミノ酸残基、例えば、5から70個、例えば、5から60個、例えば、5から50個のアミノ酸残基、例えば、5から40個のアミノ酸残基、例えば、5から30個のアミノ酸残基、例えば、5から20個のアミノ酸残基、例えば、5から15個のアミノ酸残基、例えば、5から10個のアミノ酸残基の間の長さを有し得る。
【0049】
またさらなる態様では、配列は、6-100個のアミノ酸残基、例えば、6-90個のアミノ酸残基、例えば、6-80個のアミノ酸残基、例えば、6-70個、例えば、6-60個、例えば、6-50個のアミノ酸残基、例えば、6-40個のアミノ酸残基、例えば、6-30個のアミノ酸残基、例えば、6-20個のアミノ酸残基、例えば、6-15個のアミノ酸残基、例えば、6-10個のアミノ酸残基であり得る。
【0050】
本発明はまた、7-100個のアミノ酸残基、例えば、7-90個のアミノ酸残基、7-80個のアミノ酸残基、例えば、7-70個、例えば、7-60個、例えば、7-50個のアミノ酸残基、例えば、7-40個のアミノ酸残基、例えば、7-30個のアミノ酸残基、例えば、7-20個のアミノ酸残基、例えば、7-15個のアミノ酸残基、例えば、8、9、10、11、12、13、または14個のアミノ酸残基の間の長さを有するアミノ酸配列に関する。
【0051】
単離した配列の長さは、また、8-80個のアミノ酸残基、例えば、8-70個、例えば、8-60個、例えば、8-50個のアミノ酸残基、例えば、8-40個のアミノ酸残基、例えば、8-30個のアミノ酸残基、例えば、8-20個のアミノ酸残基であり得る。あるいは、それは、9-80個のアミノ酸残基、例えば、9-70個のアミノ酸残基、例えば、9-60個のアミノ酸残基、例えば、9-50個のアミノ酸残基、例えば、9-40個のアミノ酸残基、例えば、9-30個のアミノ酸残基、例えば、9-20個のアミノ酸残基であり得る。
【0052】
10-80個のアミノ酸残基、例えば、10-70個のアミノ酸残基、例えば、10-60個のアミノ酸残基、例えば、10-50個のアミノ酸残基、例えば、10-40個のアミノ酸残基、例えば、10-30個のアミノ酸残基、例えば、10-20個のアミノ酸残基のアミノ酸配列を含む化合物は、また、本発明の範囲内にある。
【0053】
本発明の1つの好ましい態様では、該化合物のアミノ酸配列の最小の長さは、16、17、18、19、20、21、22、23、24または25個のアミノ酸残基であり、そして最大の長さは、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49または50個のアミノ酸残基である。長さが、25-36個のアミノ酸残基の範囲内にあるアミノ酸配列を含む化合物は、また、好ましい。
【0054】
さらに、より好ましい化合物は、長さが、多くとも20個のアミノ酸残基である単離したペプチド配列を含むものである。5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17または18個のアミノ酸残基の長さを有する個々のペプチド断片を含む化合物は、最も好ましい化合物の中にある。
【0055】
上記のすべてのペプチド配列は、本発明のFGFR結合モチーフまたは上記のL1のペプチド断片を含み、FGFRに結合できるものと理解される。
【0056】
1.3.多量体化合物
本発明の単離したペプチド配列は、融合タンパク質で化学結合により他の単離したペプチド配列と結合し得る(ただし、融合タンパク質は、L1タンパク質ではない)。本発明の2個またはそれ以上の単離した配列は、また、リンカー基を介して互いに結合し、本発明のペプチド配列の他の型の多量体提示をし得る。後者の融合タンパク質および多量体の両方が、本発明の化合物として関係する。
【0057】
したがって、本発明のペプチド配列は、ある態様では、該ペプチド配列のいくつかのコピーを含むポリマーとして形成し得る。2個の配列を含むポリマーは、本明細書では、二量体と呼ぶ。4個のペプチド配列を含むポリマーは、本明細書では、四量体と呼ぶ。
【0058】
したがって、本発明にしたがい、多量体化合物は、本発明の2個またはそれ以上の同一もしくは異なるペプチド配列のポリマーであり得て、ここで、好ましい態様では、2個またはそれ以上のアミノ酸配列の1つは、配列番号1-6、または該配列の断片もしくは変異型から選択される。
【0059】
ある態様では、化合物は、配列番号1-6から選択される2個の同一のアミノ酸配列、または選択した配列の2個の同一の断片もしくは変異型(ここで、該アミノ酸配列、フラグメントまたは変異型)を含み得る。または、化合物は、配列番号1-6から選択したアミノ酸配列の4個の同一のコピーを含み得るか、または該選択した4個の同一の配列の断片もしくは変異型を含み得る。
【0060】
他の態様では、化合物は、2個またはそれ以上の異なるアミノ酸配列を含み得て、ここで、2個のアミノ酸配列のうち少なくとも1個は、配列番号1-6、またはその断片もしくは変異型から選択される配列である。
【0061】
また他の態様では、化合物は、2個またはそれ以上の異なるアミノ酸配列を含み得て、ここで、該2個またはそれ以上のアミノ酸配列は、配列番号1-6、またはその断片もしくは変異型から選択される。
【0062】
本発明の好ましい多量体化合物は、アミノ酸配列が、リンカーまたはリンカー基を介して互いに結合する化合物である。
【0063】
リンカーは、本発明にしたがって、2個またはそれ以上のペプチド配列を架橋することができる任意の分子または化学的部分であり得て、例えば、一般式:
X[(A)nCOOH][(B)mCOOH]
[式中、
nおよびmは、独立して、1から20の整数であり、
Xは、HN、H2N(CR2)pCR、RHN(CR2)pCR、HO(CR2)pCR、HS(CR2)pCR、ハロゲン-(CR2)pCR、HOOC(CR2)pCR、ROOC(CR2)pCR、HCO(CR2)pCR、RCO(CR2)pCR、[HOOC(A)n][HOOC(B)m]CR(CR2)pCR、H2N(CR2)p、RHN(CR2)p、HO(CR2)p、HS(CR2)p、ハロゲン-(CR2)p、HOOC(CR2)p、ROOC(CR2)p、HCO(CR2)p、RCO(CR2)p、または[HOOC(A)n][HOOC(B)m](CR2)pであり、ここで、pは、0または1から20の整数であり、
AおよびBは、独立して、置換または非置換C1-10アルキル、置換または非置換C2-10アルケニル、置換または非置換環式部分、置換または非置換ヘテロ環式部分、置換または非置換芳香族部分であるか、またはAおよびBは、一緒に、置換または非置換環式部分、置換または非置換ヘテロ環式部分、置換または非置換芳香族部分を形成する]
のアキラルのジ-、トリ-またはテトラカルボン酸であり得る。
【0064】
C1-10 アルキルなる用語は、1-10個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖アルキル基を意味し、例えば、メチル、エチル、イソプロピル、ブチル、およびtertブチルを意味する。
【0065】
C2-10 アルケニルなる用語は、2-10個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖アルケニル基を意味し、例えば、エチニル、プロペニル、イソプロペニル、ブテニル、およびtert-ブテニルを意味する。
【0066】
環式部分なる用語は、シクロヘキサン、およびシクロペンタンを意味する。
【0067】
芳香族性部分なる用語は、フェニルを意味する。
【0068】
“AおよびBは、環式の、ヘテロ環式のまたは芳香族性部分を形成する”なる表現は、シクロヘキサン、ピペリジン、ベンゼン、およびピリジンを表す。
【0069】
本発明の多量体化合物が、上記のリンカーを含むそれらの態様では、該化合物は、好ましくは、WO0018791およびWO2005014623に記載されたとおり、LPA法(リガンド提示会合法)により取得される。
【0070】
本発明の好ましいリンカーの他の例は、アミノ酸リジンであり得る。個々のペプチド配列は、リジンのようなコア分子に結合し、それにより、個々のペプチド配列(複数もある)の樹状多量体(デンドリマー)を形成し得る。デンドリマーの産生はまた、当業者に既知であり(PCT/US90/02039, Lu et al., (1991) Mol Immunol. 28:623-630; Defoort et al., (1992) Int J Pept Prot Res. 40:214-221; Drijfhout et al. (1991) Int J Pept Prot Res. 37:27-32)、デンドリマーは、現在、研究および医学的応用において広く使用されている。
【0071】
また、ある態様では、アミノ酸システインが、好ましいリンカー分子であり得る。
【0072】
本発明の好ましい態様の1つは、リジンコア分子に結合した4つの個々のアミノ酸配列を含む化合物、すなわち、本発明のペプチド配列の樹状四量体/デンドリマーに関する。
【0073】
本発明の多量体化合物、例えば、LPA-二量体またはデンドリマーは、本発明の最も好ましい化合物である。本発明の2個またはそれ以上の個々の配列を含む他の型の多量体化合物は、また、本発明の範囲内にある。これらの化合物は、当業者に既知の技術を用いて産生し得る。
【0074】
ペプチド配列は、アミノ-またはカルボキシ-基を介して、好ましくは、N-またはC末端アミノ-またはカルボキシ-基を介して、それらのリンカーに共有的に結合し得る。
【0075】
1.4.ペプチド配列の断片および変異型
本発明のある態様では、本発明のFGFR結合配列の変異型または断片、好ましくは、配列番号1-6から選択される断片または変異型を含み得る。
【0076】
本発明にしたがって、配列番号1-6の配列から選択されるアミノ酸配列の変異型は、下記のものであり得る:
i)選択した配列と少なくとも60%の同一性、例えば、61-65%の同一性、例えば、66-70%の同一性、例えば、71-75%の同一性、例えば、76-80%の同一性、例えば、81-85%の同一性、例えば、86-90%の同一性、例えば、91-95%の同一性、例えば、96-99%の同一性を有するアミノ酸配列(ここで、同一性は、選択した配列と照合したときに、該配列中の同一アミノ酸の割合として定義される)。アミノ酸配列間の同一性は、既知のアルゴリズム、例えば、BLOSUM 30、BLOSUM 40、BLOSUM 45、BLOSUM 50、BLOSUM 55、BLOSUM 60、BLOSUM 62、BLOSUM 65、BLOSUM 70、BLOSUM 75、BLOSUM 80、BLOSUM 85、またはBLOSUM 9を用いて計算し得る;
【0077】
ii)選択した配列と少なくとも60%のポジティブアミノ酸一致、例えば、61-65%のポジティブアミノ酸一致、例えば、66-70%のポジティブアミノ酸一致、例えば、71-75%のポジティブアミノ酸一致、例えば、76-80%のポジティブアミノ酸一致、例えば、81-85 %のポジティブアミノ酸一致、例えば、86-90%のポジティブアミノ酸一致、例えば、91-95%のポジティブアミノ酸一致、例えば、96-99%のポジティブアミノ酸一致を有するアミノ酸配列(ここで、ポジティブアミノ酸一致は、2つの比較される配列の同じ位置での、物理的および/または化学的特性の類似性を有するアミノ酸残基の割合として定義される)。本発明の好ましいポジティブアミノ酸一致は、KとR、EとD、LとM、QとE、IとV、IとL、AとS、YとW、KとQ、SとT、NとSおよびQとRである;
【0078】
iii)選択した配列と同一のアミノ酸配列であるか、またはそれが、該配列と少なくとも60%の同一性、例えば、61-65%の同一性、例えば、66-70%の同一性、例えば、71-75%の同一性、例えば、76-80%の同一性、例えば、81-85%の同一性、例えば、86-90%の同一性、例えば、91-95%の同一性、例えば、96-99%の同一性を有するか、もしくは選択した配列と少なくとも60%のポジティブアミノ酸一致、例えば、61-65%のポジティブアミノ酸一致、例えば、66-70%のポジティブアミノ酸一致、例えば、71-75%のポジティブアミノ酸一致、例えば、76-80%のポジティブアミノ酸一致、例えば、81-85%のポジティブアミノ酸一致、例えば、86-90%のポジティブアミノ酸一致、例えば、91-95%のポジティブアミノ酸一致、例えば、96-99%のポジティブアミノ酸一致を有するアミノ酸配列を有し、そして他の化学的部分、例えば、ホスホリル、硫黄、アセチル、グリコシル部分を含む。
【0079】
1つの局面では、“ペプチド配列の変異型”なる用語は、ペプチド配列が、例えば、1個またはそれ以上のアミノ酸残基の置換により修飾され得ることを意味する。L-アミノ酸およびD-アミノ酸の両方を使用し得る。他の修飾は、誘導体、例えば、エステル、糖などを含み得る。例は、メチルおよびアセチルエステルである。
【0080】
他の局面では、本発明に記載のペプチド断片の変異型は、同じ変異型、もしくはその断片または異なる変異型もしくはその断片の中に、少なくとも1個の置換、例えば、互いに独立して導入される複数の置換を含み得る。したがって、複合体の変異型、またはその断片は、互いに独立して、保存的置換含み得て、ここで、該変異型、またはその断片の少なくとも1個のグリシン(Gly)が、Ala、Val、Leu、およびIleからなるアミノ酸の集団から選択されるアミノ酸で置換され、そしてそれぞれ独立して、変異型、またはその断片、ここで、該変異型、またはその断片の少なくとも1個のアラニン(Ala)が、Gly、Val、Leu、およびIleからなるアミノ酸の集団から選択されるアミノ酸で置換され、そしてそれぞれ独立して、変異型、またはその断片、ここで、該変異型、またはその断片の少なくとも1個のバリン(Val)が、Gly、Ala、Leu、およびIleからなるアミノ酸の集団から選択されるアミノ酸で置換され、そしてそれぞれ独立して、変異型、またはその断片、ここで、該変異型、またはその断片の少なくとも1個のロイシン(Leu)が、Gly、Ala、Val、およびIleからなるアミノ酸の集団から選択されるアミノ酸で置換され、そしてそれぞれ独立して、変異型、またはその断片、ここで、該変異型、またはその断片の少なくとも1個のイソロイシン(Ile)が、Gly、Ala、ValおよびLeuからなるアミノ酸の集団から選択されるアミノ酸で置換され、そしてそれぞれ独立して、変異型、またはその断片、ここで、該変異型、またはその断片の少なくとも1個のアスパラギン酸(Asp)が、Glu、Asn、およびGlnからなるアミノ酸の集団から選択されるアミノ酸で置換され、そしてそれぞれ独立して、変異型、またはその断片、ここで、該変異型、またはその断片の少なくとも1個のアスパラギン(Asn)が、Asp、Glu、およびGlnからなるアミノ酸の集団から選択されるアミノ酸で置換され、そしてそれぞれ独立して、変異型、またはその断片、ここで、該変異型、またはその断片の少なくとも1個のグルタミン(Gln)が、Asp、Glu、およびAsnからなるアミノ酸の集団から選択されるアミノ酸で置換され、そして該変異型、またはその断片の少なくとも1個のフェニルアラニン(Phe)が、Tyr、Trp、His、Proからなるアミノ酸の集団から選択されるアミノ酸で置換され、好ましくは、TyrおよびTrpからなるアミノ酸の集団から選択され、そしてそれぞれ独立して、変異型、またはその断片、ここで、該変異型、またはその断片の少なくとも1個のチロシン(Tyr)が、Phe、Trp、His、Proからなるアミノ酸の集団から選択されるアミノ酸で置換され、好ましくは、PheおよびTrpからなるアミノ酸の集団から選択されるアミノ酸で置換され、そしてそれぞれ独立して、変異型、またはその断片、ここで、該断片の少なくとも1個のアルギニン(Arg)が、LysおよびHisからなるアミノ酸の集団から選択されるアミノ酸で置換され、そしてそれぞれ独立して、変異型、またはその断片、ここで、該変異型、またはその断片の少なくとも1個のリジン(Lys)が、ArgおよびHisからなるアミノ酸の集団から選択されるアミノ酸で置換され、そしてそれぞれ独立して、変異型、またはその断片、そしてそれぞれ独立して、変異型、またはその断片、そしてここで、該変異型、またはその断片の少なくとも1個のプロリン(Pro)が、Phe、Tyr、Trp、およびHisからなるアミノ酸の集団から選択されるアミノ酸で置換され、そしてそれぞれ独立して、変異型、またはその断片、ここで、該変異型、またはその断片の少なくとも1個のシステイン(Cys)が、Asp、Glu、Lys、Arg、His、Asn、Gln、Ser、Thr、およびTyrからなるアミノ酸の集団から選択されるアミノ酸で置換される。
【0081】
したがって、上記から、当然に、ペプチド断片の同じ機能的同等体、または該機能的同等体の断片は、上記本明細書に記載したとおり、保存的アミノ酸の2個以上の集団からの2個以上の保存的アミノ酸置換を含み得るということになる。“保存的アミノ酸置換”なる用語は、“相同なアミノ酸置換”なる用語と同義的に本明細書で用いられる。保存的アミノ酸の集団は、下記のものである:
A、G (中性、弱い疎水性),
Q、N、S, T (親水性、非荷電)
E、D (親水性、酸性)
H、K、R (親水性、塩基性)
L、P、I、V、M、F、Y、W (疎水性、芳香族性)
C (架橋形成)。
【0082】
保存的置換は、本発明の好ましい前決定されたペプチドまたはその断片の任意の位置に導入し得る。しかしながら、また、非保存的置換(特に、非限定的に、任意の1個またはそれ以上の位置での非保存的置換)を導入することも望み得る。
【0083】
本発明のペプチドの機能的同等断片の形成を生じる非保存的置換は、実質的に、極性が異なり得て(例えば、非極性側鎖(Ala、Leu、Pro、Trp、Val、Ile、Leu、PheまたはMet)を有する残基の、Gly、Ser、Thr、Cys、Tyr、Asn、またはGlnのような極性側鎖を有する残基か、もしくはAsp、Glu、Arg、またはLysのような荷電アミノ酸への置換、または荷電残基もしくは極性残基の非極性残基への置換);および/または ii) 実質的に、ペプチド骨格方向における効果が異なり得て(例えば、ProまたはGlyの他の残基への置換); および/または iii)実質的に、電荷が異なり得て(例えば、GluまたはAspのような負電荷残基の、Lys、HisまたはArgのような正電荷残基への置換(逆もまた然り)); および/または iv) 実質的に、立体的体積(steric bulk)が異なり得る(例えば、His、Trp、PheまたはTyrの様な巨大な残基の、Ala、GlyまたはSerのような小さい側鎖を有する1つへの置換(逆もまた然り))。
【0084】
アミノ酸の置換は、1つの態様では、それらの疎水性および親水性値ならびに荷電、サイズなどを含むアミノ酸側鎖置換基の相対的な類似性に基づいてなされる。
【0085】
本発明にしたがって、本発明の選択した配列、例えば、配列番号1-6から選択した配列の断片は、選択したアミノ酸配列の長さの約25-99%を有するアミノ酸配列であり得る。
【0086】
本発明の選択した配列の断片および変異型は、本発明にしたがって、該選択した配列の機能的ホモログである。
【0087】
選択したアミノ酸配列の“機能ホモログ”なる用語は、本明細書中では、選択した配列の1個またはそれ以上の生物学的機能を可能にする分子または該配列を含む化合物を意味し、好ましい態様では、生物学的機能は、FGFRに結合し、活性化するメカニズムを介して実行される。
【0088】
1.5 生物学的活性
本発明にしたがって、上記の化合物は、機能的に活性な化合物である。化合物は、機能的細胞表面受容体に結合し、該受容体を活性化することができる。受容体は、本発明にしたがって、FGFRであり、繊維芽細胞成長因子受容体1(FGFR1)、繊維芽細胞成長因子受容体2(FGFR2)、繊維芽細胞成長因子受容体3(FGFR3)、繊維芽細胞成長因子受容体4(FGFR4)または繊維芽細胞成長因子受容体5(FGFR5)を含むFGFR受容体の集団から選択し得る。本発明に記載の上記化合物は、受容体の細胞外部分に位置する結合サイトで、例えば、FGFRのIg1、Ig2および/またはIg3ドメインに位置する結合サイトで、好ましくは、FGFRのIg2および/またはIg3ドメインに位置する結合サイトで、後者のFGFRのいずれかに結合できる。本発明にしたがって、後者の結合サイトは、FGFRの他の記載された結合サイトとは異なる(例えば、Plotnikov AN, Hubbard SR, Schlessinger J, Mohammadi M.. Cell. 2000 May 12;101(4):413-24を参照のこと)。
【0089】
したがって、本発明は、機能的細胞表面受容体に関する。“機能的細胞表面受容体”は、受容体が、細胞の外部細胞膜に位置し、細胞外リガンドの同定可能な基を有することを意味する。これらのリガンドの受容体への結合は、細胞内シグナル伝達を誘導し、細胞の生理学的応答を生じる。生理学的応答、例えば、リガンド結合により誘導される細胞代謝の変化、細胞分化の誘導、細胞増殖の終結もしくは誘導、細胞の生存もしくは死、細胞の運動性行動の変化は、受容体リガンドの性質、受容体細胞および細胞外環境および/または、特に、リガンド受容体相互作用、例えば、相互作用の親和性および/または持続に依存する。機能的受容体に結合するリガンドは、通常、受容体の活性化状態の変化を生じ、それは、例えば、受容体が、細胞内の生化学的反応のカスケードを開始できるようになり、上記した細胞の生理学的応答(集合的に、“受容体シグナル伝達”または“シグナル伝達”と呼ばれる)の1つを生じる。リガンドの結合はまた、受容体活性の阻害を生じ得て、それは、該受容体が、“サイレント”または“不活性”になり、それ以上、通常はリガンド結合により起こる生化学的反応のカスケードを開始できないことを意味する。本発明は、FGFRを活性化することができる化合物およびFGFRを阻害することができる化合物に関する。1つの態様では、本発明は、FGFRを活性化できる化合物に関し、他の好ましい態様では、本発明は、FGFRを阻害できる化合物に関する。好ましくは、本発明は、FGFR1を活性化し、FGFR1シグナル伝達を刺激することができる化合物に関する。
【0090】
受容体の活性化は、しばしば、リガンド結合により誘導される受容体の二量体化に先導される。したがって、受容体の二量体化(または、多量体化)を促進する化合物の能力は、有利な特徴として本発明に関係する。したがって、1つの態様では、本発明は、FGFRの二量体化を可能にする化合物に関する。
【0091】
本発明の化合物は、他の結合サイト(複数もある)を占有するにもかかわらず、他のリガンドの結合を低下させることができ得る。したがって、本発明の化合物は、他のリガンド結合に依存した受容体シグナル伝達を調節し得る。受容体の活性化に対する細胞応答が、受容体刺激の強度に依存し、例えば、リガンドと受容体の相互作用の親和性の値により、および/またはそのような相互作用の持続により特徴づけられることは、既知である。したがって、FGFと受容体の相互作用の親和性および持続が、本発明の化合物により影響され得る。したがって、本発明の他の態様では、他の受容体、例えば、WO 03/016351のFGFまたはFGL-ペプチドにより誘導される受容体シグナル伝達を調節することができる化合物を提供することである。
【0092】
本明細書では、“相互作用する”なる用語は、“結合する”なる用語と交換可能に使用され、本発明の化合物とFGF受容体の間の、直接または間接的な接触のことを言い、好ましくは、直接的な相互作用である。“直接的な相互作用”なる用語は、問題の化合物が、直接、受容体に結合することを意味する。
【0093】
本発明に記載の化合物の結合親和性は、好ましくは、Kd値が、10-3からの10-10 Mの範囲内、例えば、好ましくは、10-4から10-8 Mの範囲内を有する。本発明にしたがって、結合親和性は、この目的のために適当な任意の利用可能なアッセイ、例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)解析または核磁気共鳴(NMR)分光法により決定し得る。
【0094】
本発明にしたがって、化合物のFGFRへの結合親和性は、ヌクレオチド化合物の存在下で、調節し得る(例えば、増強するか、または減弱させる)。1つの態様では、相互作用の親和性を、増強し得る。他の態様では、相互作用の親和性を、減弱させ得る。本発明にしたがって、相互作用の親和性は、トリヌクレオチドホスフェート、例えば、ATP、GTPまたはUTPの存在下で促進され、そして親和性は、モノヌクレオチドホスフェート、例えば、AMP、GMPの存在下、ジヌクレオチドホスフェート、例えば、ADPまたはGDPの存在下で減弱する。したがって、ある態様では、本発明の化合物は、最適にFGFRを活性化するか、または阻害する目的のために、ヌクレオチドと組み合わせて使用し得る。
【0095】
本発明の化合物のFGFRへの結合は、FGFRが介在する一連の細胞応答を生じる。したがって、FGFRに結合し、FGFRを活性化する/阻害することができる化合物は、また、FGFR提示細胞の分化を誘導し、FGFR提示細胞の増殖を調節し、FGFR提示細胞の生存を刺激し、および/またはFGFR提示細胞の形態学的可塑性を刺激することができる(血管新生、抗酸化ストレスおよび抗炎症性活性を含む)。
【0096】
“FGFR提示細胞”なる用語は、細胞の外部膜にFGFRを発現する細胞を意味し、これらの細胞は、例えば、神経細胞、グリア細胞、あらゆる型の筋細胞、神経内分泌細胞、生殖腺細胞および腎細胞、内皮細胞、繊維芽細胞、骨芽細胞、癌、幹細胞および胚性細胞である。
【0097】
1つの好ましい態様では、化合物は、神経突起伸張を刺激することができる。
【0098】
他の好ましい態様では、化合物は、細胞生存を刺激することができる。
【0099】
他の好ましい態様では、化合物は、シナプス可塑性を刺激することができる。したがって、化合物は、同様に、学習および記憶を刺激することができる。
【0100】
また他の好ましい態様では、化合物は、幹細胞の分化を刺激することができる。
【0101】
神経細胞分化および可塑性の刺激
神経突起伸張を促進し、神経細胞の再生および/または分化を刺激する潜在性を有する物質、例えば、内在性の栄養因子は、例えば、神経再生および神経可塑性の他の形態を促進する化合物の探索における重要な標的である。本発明の化合物の潜在性を評価するために、神経突起伸張関連シグナル伝達を刺激し、細胞接着を妨害し、神経突起伸張、神経の再生を刺激する能力を調べ得る。
【0102】
本発明の化合物は、神経突起伸長を促進することが示され、したがって、神経結合の再生、およびそれによる損傷後の機能回復の有効なプロモーターならびにそのような効果が必要とされる他の状態での神経機能のプロモーターであると考えられる。さらに、本発明の化合物は、神経前駆体細胞の成熟した神経細胞への分化を刺激することができる。本発明の化合物は、また、学習および記憶に関連する神経細胞の形態学的可塑性の有力な刺激剤である。
【0103】
本明細書では、“分化”は、神経前駆細胞の分化の開始の過程、すなわち、未成熟な神経細胞の成熟、例えば、該神経細胞の最後の細胞分裂の後に起こる神経突起伸長、ならびに、例えば、学習および記憶と関連して脳で起こる成熟神経細胞の形態学的可塑性の両方に関する。したがって、本発明の化合物は、神経前駆細胞および未成熟な神経細胞分裂を止め、該細胞の成熟を開始し、例えば、神経突起の伸長を開始でき得る。あるいは、“分化”は、神経前駆細胞、未成熟な神経細胞または胚性幹細胞の遺伝学的、生化学的、形態学的および生理学的形質転換の過程の開始に関し、それは、正常な神経細胞の機能的特徴(該特徴は、当分野で定義されている)を有する細胞の形成を生じる。本発明は、“未成熟な神経細胞”を、神経細胞に特有の特徴として当業者に受容される神経細胞の少なくとも1個の特徴を有する細胞と定義する。
【0104】
本発明にしたがって、上記ペプチド配列の少なくとも1個を含む化合物は、神経突起伸張を刺激することができる。本発明は、神経突起伸張改善/刺激、例えば、コントロール/非刺激細胞の神経突起伸張の値の約75%超、例えば、50%超、例えば、150%超、例えば、100%超、例えば、250%超、例えば、200%超、例えば、350%超、例えば、300%超、例えば、450%超、例えば、400%超、例えば、500%超の神経突起伸張改善/刺激に関する。
【0105】
神経突起伸張を刺激する候補化合物の能力の推定は、任意の既知の方法、または、例えば、実施例に記載したとおりの神経突起伸張の推定のためのアッセイを使用することにより為し得る。
【0106】
本発明にしたがって、化合物は、細胞増殖基質の不溶性の固定化構成成分として、および細胞増殖培地の可溶性の構成成分として神経突起生成活性を有する。本明細書では、“固定”は、化合物が、水または水溶液に不溶性の物質に結合する/接着することを意味し、それにより、それは、同様に、そのような溶液に不溶性になる。医学的応用のために、不溶性および可溶性化合物の両方が適用されると考えられるが、可溶性化合物が好ましい。“可溶性化合物”は、水または水溶液に溶解可能な化合物であると理解される。
【0107】
抗体
本発明の目的は、本発明のFGFRモチーフを含むエピトープ、例えば、配列番号8-14から選択される配列または配列番号1-6から選択される配列、または該配列の断片を含むエピトープ、好ましくは、L1ポリペプチドのエピトープを認識し、選択的に結合できる抗体、抗原結合断片またはその組み換えタンパク質を提供することである。
【0108】
“エピトープ”なる用語は、抗体(抗原の)により認識される(それにより、免疫応答を生じる)、原子の特異的な基(抗原分子上の)を意味する。“エピトープ”なる用語は、“抗原決定基”なる用語と同等である。エピトープは、近接に、例えば、連続したアミノ酸配列の範囲内に位置するか、または抗原のアミノ酸配列の離れた場所に位置するが、タンパク質の折り畳みにより互いに接近する、3個またはそれ以上のアミノ酸残基、例えば、4、5、6、7、8個のアミノ酸残基を含み得る。
【0109】
抗体分子は、免疫グロブリンと呼ばれる血漿タンパク質のファミリーに属し、その基本的構成要素、免疫グロブリンフォールドまたはドメインは、免疫系および他の生物学的認識系の多くの分子で、様々な形態で使用される。典型的な免疫グロブリンは、可変領域として既知の抗原結合領域および定常領域として既知の非可変領域を含む、4個のポリペプチド鎖を有する。
【0110】
自然抗体および免疫グロブリンは、通常、約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質であり、2個の同一軽(L)鎖および2個の同一重(H)鎖からなる。各軽鎖は、1つの共有ジスルフィド結合により重鎖に結合し、ジスルフィド結合の数は、異なる免疫グロブリンアイソタイプの重鎖間で変わる。各重鎖および軽鎖はまた、制御された空間鎖内ジスルフィド架橋を有する。各重鎖は、1つの末端に可変ドメイン(VH)を有し、次いで、多くの定常ドメインを有する。各軽鎖は、1つの末端に可変ドメイン(VL)およびその反対の末端に定常ドメインを有する。軽鎖の定常ドメインは、重鎖の第1定常ドメインと配列され、軽鎖可変ドメインは、重鎖の可変ドメインと配列される。特定のアミノ酸残基が、軽鎖および重鎖可変ドメイン間のインターフェースを形成すると信じられている(Novotny J, & Haber E. Proc Natl Acad Sci U S A. 82(14):4592-6, 1985)。
【0111】
それぞれの重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に依存して、免疫グロブリンは、異なるクラスに割り当てられる。少なくとも五個(5)の主要な免疫グロブリンが存在し: IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgM、これらのいくつかは、さらにサブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG-1、IgG-2、IgG-3およびIgG-4; IgA-1およびIgA-2に分類し得る。異なるクラスの免疫グロブリンに相当する重鎖定常領域は、それぞれ、アルファ(α)、デルタ(δ)、エプシロン(ε)、ガンマ(γ)およびマイクロ(μ)と呼ばれる。抗体の軽鎖は、それらの定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)およびラムダ(λ)と呼ばれる2個のはっきりと異なるタイプのうち1個に割り当て得る。異なるクラスの免疫グロブリンのサブユニット構造および三次元構造は、既知である。
【0112】
抗体の可変ドメインの文脈で“可変”なる用語は、可変ドメインのある部分が、広く、抗体中の配列と異なる事実のことを言う。可変ドメインは、結合を目的とし、その特定の抗原への各特定の抗体の特異性を決定する。しかしながら、変動性は、抗体の可変ドメインを介して、等しく、分布していない。それは、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる3つの部分に集中し、また、軽鎖および重鎖可変ドメインでの超可変領域として既知である。
【0113】
可変ドメインのより高度に保存された部分は、フレームワーク(FR)と呼ばれる。天然の重鎖および軽鎖の可変ドメインは、それぞれ、主に、3個のCDRに結合したβシート構造を採用する4個のFR領域を含み、それは、ループ結合を、ある場合には、βシート構造の部分を形成する。各鎖のCDRは、FR領域に近似して一緒に保持され(他の鎖からのCDRと共に)、抗体の抗原結合サイトの形成に貢献する。定常ドメインは、抗原に対する抗体の結合に、直接は関与しないが、様々なエフェクター機能、例えば、抗体依存性細胞毒性における抗体の参加を示す。
【0114】
したがって、本発明での使用のために意図する抗体は、全免疫グロブリン、抗体断片、例えば、Fv、Fab、および類似の断片、可変ドメイン相補性決定領域(CDR)を含む一本鎖抗体、などの形態を含む、様々な形態のいずれかであり得て、そのすべては、本明細書で使用するとき、広く、“抗体”なる用語のもとにある。本発明は、抗体、ポリクローナルまたはモノクローナルのあらゆる特異性の使用を意図し、特異的抗原を認識し、免疫反応する抗体に限定されない。好ましい態様では、下記に記載した治療およびスクリーニング法の両方の文脈で、本発明の抗原またはエピトープに対する免疫特異的な抗体またはその断片を使用する。
【0115】
“抗体断片”なる用語は、全長抗体の部分のことを言い、一般には、抗原結合または可変領域である。抗体断片の例は、Fab、Fab'、F(ab')2およびFv断片を含む。抗体のパパイン消化は、いわゆる、容易に結晶化できる能力のために、各々、単一の抗原結合サイトを有するFab断片、および残りの“Fc”断片と呼ばれる2個の同一の抗原結合断片を産生する。ペプシン処置は、2個の抗原結合断片を有し、抗原と架橋することができる、F(ab')2断片および残りの他の断片(pFc'を呼ばれる)を産生する。さらなる断片は、抗体断片から形成される、ダイアボディ、直線抗体、一本鎖抗体分子、および多特異的抗体を含み得る。本明細書で使用するとき、抗体に関して“機能断片”は、Fv、F(ab)およびF(ab')2断片のことを言う。
【0116】
“抗体断片”なる用語は、本明細書で、“抗原結合断片”なる用語と交換可能に使用する。
【0117】
抗体断片は、約4個のアミノ酸、5個のアミノ酸、6個のアミノ酸、7個のアミノ酸、9個のアミノ酸、約12個のアミノ酸、約15個のアミノ酸、約17個のアミノ酸、約18個のアミノ酸、約20個のアミノ酸、約25個のアミノ酸、約30個のアミノ酸と同じくらい小さいか、またはそれ以上であり得る。一般には、本発明の抗体断片は、それが、エピトープに対する特異性を有する抗体と比較して、類似のまたは免疫学的特性を有する限り、すべての上限サイズ制限を有し得て、配列番号1-14として本明細書中で同定した配列のいずれかから選択されるペプチド配列、または該配列の断片を含む。したがって、本発明の文脈では、“抗体断片”なる用語は、“抗原結合断片”なる用語と同一である。
【0118】
抗体断片は、選択的にその抗原または受容体と結合する能力を保持する。ある型の抗体断片は、下記のとおり定義される:
(1) Fabは、一価の抗原結合断片または抗体分子を含む断片である。Fab断片は、全抗体の消化により産生し得る(酵素パパインは、インタクト軽鎖および1つの重鎖の部分を産生する)。
【0119】
(2) Fab'は、全抗体をペプシンで処理し、次いで還元することにより取得し得る、抗体分子の断片であり、インタクト軽鎖および重鎖の部分を産生する。2個のFab'断片を、抗体分子あたり取得する。Fab' 断片は、抗体ヒンジ領域からの1個またはそれ以上のシステインを含む重鎖CH1ドメインのカルボキシル基末端での数個の残基の添加により、Fab断片と異なる。
【0120】
(3) (Fab')2は、全抗体を、次の還元なしに、酵素ペプシンで処理することにより取得し得る抗体の断片である。
【0121】
(4) F(ab')2 は、2個のジスルフィド結合により一緒に保持される2個のFab'断片の二量体である。Fvは、完全抗原認識および結合サイトを含む、最小の抗体断片である。この領域は、堅固な非共有結合での、1個の重鎖および1個の軽鎖可変ドメインの二量体からなる(VH -V L二量体)。各可変ドメインの3個のCDRが、VH -V L二量体の表面上の抗原結合サイトを明確にするように相互作用することは、この構造の範囲内にある。集合的に、6個のCDRは、抗体に対する抗原結合特異性を与える。しかしながら、単一の可変ドメイン(または、抗原に対して特異的な3個のCDRのみを含むFvの半分)さえ、全体の結合サイトより低い親和性ではあるが、抗原を認識し結合する能力を有する。
【0122】
(5) 軽鎖の可変領域、重鎖の可変領域を含む、遺伝的に改変された分子として定義された一本鎖抗体(“SCA”)は、遺伝的に融合した一本鎖分子として、適当なポリペプチドリンカーにより結合する。そのような、一本鎖抗体は、また、“一本鎖Fv”または“sFv”抗体断片と言われる。一般に、Fvポリペプチドは、さらに、VHとVLドメイン間のポリペプチドリンカーを含み、sFvが、抗原結合の望む構造を形成するのを可能にする。sFvのために、Pluckthun in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies 113: 269-315 Rosenburg and Moore eds. Springer-Verlag, NY, 1994を参照のこと。
【0123】
“ダイアボディ”なる用語は、2個の抗原結合サイトを有する小抗体断片のことを言い、断片は、同じポリペプチド鎖(VH-VL)での、軽鎖可変ドメイン(VL)に結合した重鎖可変ドメイン(VH)を含む。短過ぎて同じ鎖上の2個のドメイン間の対合を可能にしないリンカーを用いることにより、該ドメインは、強制的に、他の鎖の相補的ドメインと対合し、2個の抗原結合サイトを作り出す。ダイアボディは、例えば、EP 404,097; WO 93/11161、およびHollinger et al., Proc. Natl. Acad Sci. USA 90: 6444-6448 (1993)でより十分に記載されている。
【0124】
本発明は、本発明に記載のエピトープに結合できる、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体、抗原結合断片およびその組み換えタンパク質を意図する。
【0125】
ポリクローナル抗体の製造は、当業者に既知である。例えば、Green et al. 1992. Production of ポリクローナル Antisera, in: Immunochemical Protocols (Manson, ed.), pages 1-5 (Humana Press); Coligan, et al., Production of ポリクローナル Antisera in Rabbits, Rats Mice and Hamsters, in: Current Protocols in Immunology, section 2.4.1を参照のこと(それらは、引用により本明細書の一部とする)。
【0126】
モノクローナル抗体の製造は、同様に、慣用的である。例えば、Kohler & Milstein, Nature, 256:495-7 (1975); Coligan, et al., sections 2.5.1-2.6.7;およびHarlow, et al., in: 抗体: A Laboratory Manual, page 726 ,Cold Spring Harbor Pub. (1988)を参照のこと。モノクローナル抗体は、様々な確立された技術により、ハイブリドーマ培養から単離し、精製し得る。そのような単離技術は、プロテイン-Aセファロースを用いた親和性クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、およびイオン交換クロマトグラフィーを含む。例えば、Coligan, et al., sections 2.7.1-2.7.12 and sections 2.9.1-2.9.3; Barnes, et al., Purification of Immunoglobulin G (IgG). In: Methods in Molecular Biology, 1992, 10:79-104, Humana Press, NYを参照のこと。
【0127】
モノクローナル抗体のインビトロおよびインビボ操作の方法は、当業者に既知である。例えば、本発明にしたがって使用するモノクローナル抗体は、最初、Kohler and Milstein, 1975, Nature 256, 495-7に記載されたハイブリドーマ法により製造し得るか、または組み換え法、例えば、米国特許第4,816,567号に記載された方法により製造し得る。本発明での使用のためのモノクローナル抗体は、また、Clackson et al., 1991, Nature 352: 624-628、およびMarks et al., 1991, J Mol Biol 222: 581-597に記載された技術を用いて、ファージ抗体ライブラリーから単離し得る。他の方法は、ヒト特異的および認識可能配列を含む抗体を産生するために、組み換え的手段により、モノクローナル抗体をヒト化することを含む。Holmes, et al., 1997, J Immunol 158:2192-2201 and Vaswani, et al., 1998, Annals Allergy, Asthma & Immunol 81:105-115を参照のこと。
【0128】
本明細書で使用するとき、“モノクローナル抗体”なる用語は、実質的に同種の抗体の集団から取得される抗体のことを言い、すなわち、該集団を含む個々の抗体は、少量で存在し得て考え得る自然に生じる突然変異を除いて、同一である。モノクローナル抗体は、高度に特異的であり、単一の抗原性サイトに向けられる。さらに、典型的に、異なる決定基(エピトープ)に対して向けられた異なる抗体を含む、慣用的なポリクローナル抗体調製物とは対照に、各モノクローナル抗体は、抗原の単一決定基に対して向けられる。それらの特異性に加えて、モノクローナル抗体は、それらが、ハイブリドーマ培養により合成され、他の免疫グロブリンにより汚染されていないという点で有利である。修飾語“モノクローナル”は、抗体の特徴を実質的に相同な抗体の集団から取得されるものとして示し、何らかの特定の方法による抗体の産生を必要とすると解釈すべきではない。
【0129】
本明細書のモノクローナル抗体は、特に、“キメラ抗体”(免疫グロブリン)を含み、重鎖および/または軽鎖の一部は、それらが、望む生物学的活性を示す限り、特定の種に由来する抗体もしくは特定の抗体クラスまたはサブクラスに属する抗体に相当する配列と同一であるか、または相同であり、一方で、鎖(複数もある)の残りは、他の種に由来する抗体もしくは他の抗体のクラスまたはサブクラスに属する抗体、およびそのような抗体の断片に相当する配列と同一であるか、または相同である(米国特許第4,816,567号); Morrison et al., 1984, Proc Natl Acad Sci 81: 6851-6855。
【0130】
抗体断片を製造する方法は、また当分野で既知である(例えば、Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, NY, 1988,を参照し、引用により本明細書の一部とする)。本発明の抗体断片は、抗体のタンパク質分解加水分解によるか、または該断片をコードするDNAのE. coliでの発現により製造し得る。抗体断片は、全抗体慣用的方法により、ペプシンまたはパパインにより取得し得る。例えば、抗体断片は、ペプシンを用いた抗体の酵素学的切断により製造し得て、F(ab')2で表される5S断片を提供する。この断片はさらに、チオール還元剤、所望により、ジスルフィド結合の切断から生じるスルフヒドリル基のための保護基を用いて切断し得て、3.5S Fab'一価断片を産生する。あるいは、ペプシンを用いた酵素的切断は、2個の一価Fab' 断片およびFc断片を直接に産生する。これらの方法は、例えば、米国特許第4,036,945号および米国特許第4,331,647号、ならびにそれらの中に含まれる引用に記載されている。これらの特許は、引用によりそれらの全体を本明細書の一部とする。
【0131】
抗体を切断する他の方法、例えば、一価軽鎖-重鎖断片を形成するための重鎖の分離、さらなる断片の切断、または他の酵素学的、化学的、または遺伝学的技術は、また、該断片が、インタクト抗体により認識される抗原に結合する限り、使用し得る。例えば、Fv抗体は、VHおよびVL鎖の結合を含む。この結合は、非共有であり得るか、または可変鎖は、分子間ジスルフィド結合により結合するか、またはグラタルアルデヒドのような化学物質により架橋し得る。好ましくは、Fv 断片は、ペプチドリンカーに結合したVHおよびVL鎖を含む。これらの単一鎖抗原結合タンパク質(sFv)は、オリゴヌクレオチドに結合したVHおよびVLドメインをコードするDNA配列を含む構造遺伝子を構築することにより製造する。構造遺伝子を、発現ベクターに挿入し、次いで、宿主細胞、例えば、E. coliに導入する。組み換え宿主細胞は、2個のVドメインを架橋するリンカーペプチドと共に、単一ポリペプチド鎖を合成する。sFvsを産生するための方法は、例えば、Whitlow, et al., 1991, In: Methods: A Companion to Methods in Enzymology, 2:97; Bird et al., 1988, Science 242:423-426; US 4,946,778;およびPack, et al., 1993, BioTechnology 11:1271-77に記載されている。
【0132】
抗体断片の他の形態は、単一の相補性決定領域(CDR)をコードするペプチドである。CDRペプチド(“最小認識単位”)は、しばしば、抗原認識および結合に関与する。CDRペプチドは、関心のある抗体のCDRをコードする遺伝子をクローニングするか、または構築することにより取得し得る。そのような遺伝子は、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応を用いて、抗体産生細胞のmRNAから可変領域を合成することによるのが好ましい。例えば、Larrick, et al., Methods: a Companion to Methods in Enzymology, Vol. 2, page 106 (1991)を参照のこと。
【0133】
本発明は、ヒトおよび非ヒト(例えば、ネズミ科)抗体のヒト化形態を意図する。そのようなヒト化抗体は、エピトープ認識配列のような非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含む、キメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖またはその断片(例えば、抗体のFv、Fab、Fab'、F(ab')2または他の抗原結合サブ配列)である。多くの場合には、ヒト化抗体は、レシピエントの相補性決定領域(CDR)からの残基が、望む特異性、親和性および能力を有する非ヒト種(ドナー抗体)、例えば、マウス、ラットまたはウサギのCDRからの残基で置換されるヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。本明細書に記載のエピトープ(複数もある)を認識する配列(複数もある)のような、本発明の抗体(複数もある)の最小配列(複数もある)を含むヒト化抗体(複数もある)は、本発明の好ましい態様の1つである。
【0134】
ある例では、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク残基は、相当する非ヒト残基により置換される。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にも、取り込まれるCDRもしくは断片配列にも見出されない残基を含み得る。これらの修飾は、抗体パフォーマンスをさらに改善し、最適化するために為される。一般に、ヒト化抗体は、実質的に、少なくとも1個の、および典型的には2個の可変ドメインのすべてを含み、すべてまたは実質的にすべてのCDR領域は、非ヒト免疫グロブリンのそれらに相当し、すべてまたは実質的にすべてのFR領域は、ヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のそれらである。ヒト化抗体は、最適にはまた、免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的には、ヒト免疫グロブリンの定常領域の少なくとも一部を含む。さらなる詳細に関しては、Jones et al., 1986, Nature 321, 522-525; Reichmann et al., 1988, Nature 332, 323-329; Presta, 1992, Curr Op Struct Biol 2:593-596; Holmes et al., 1997, J Immunol 158:2192-2201およびVaswani, et al., 1998, Annals Allergy, Asthma & Immunol 81:105-115を参照のこと。
【0135】
抗体の産生は、抗原としてL1の天然または組み換え断片(該断片は、配列番号1-14から選択される配列を含む)を用いて、ポリクローナルおよびモノクローナル抗体を産生するための、当分野での任意の標準的な方法により達成し得る。そのような抗体はまた、配列番号1-14のペプチド配列の変異型、ホモログまたは断片を用いて産生し得て、該変異型、ホモログおよび断片は、下記の基準を満たす免疫原性ペプチド配列である:
(i)少なくとも6個のアミノ酸の連続したアミノ酸配列であること;
(ii)本発明のFGFRモチーフを含むこと。
【0136】
抗体はまた、処置される個体によりインビボで産生し得て、例えば、本発明に記載の免疫原性断片を該個体に投与することにより産生し得る。したがて、本発明はさらに、上記の免疫原性断片を含むワクチンに関する。
【0137】
本出願はまた、本発明の抗体を産生する方法に関し、該方法は、上記の免疫原性断片を提供する工程を含む。
【0138】
本発明は、L1の生物学的機能、特に、神経細胞分化、生存および/または可塑性に関する機能を調節できる、例えば、増強するか、または減弱させる抗体、ならびにその生物学的活性を調節することなく、後者のタンパク質を認識し、特異的に結合できる抗体に関する。
【0139】
本発明は、上記抗体の、1) L1またはFGFRの活性の調節が必要とされるときの治療適用、2) L1または上記のエピトープを含むタンパク質を、診断目的のためにインビトロおよび/またはインビボで検出することおよび/またはモニターすること、3) 研究目的のための使用に関する。
【0140】
ペプチド配列の産生
本発明のペプチド配列は、任意の慣用的な合成法、組み換えDNA技術、該ペプチド配列が由来する完全長タンパク質の酵素学的切断、または該方法の組合せにより製造し得る。
【0141】
組み換え製造
したがって、1つの態様では、本発明のペプチドは、組み換えDNA技術の使用により産生される。
【0142】
ペプチドまたはペプチドが由来する相当する完全長タンパク質をコードするDNA配列は、確立された標準的な方法、例えば、Beaucage and Caruthers, 1981, Tetrahedron Lett. 22:1859-1869によるホスホアミド法またはMatthes et al., 1984, EMBO J. 3:801-805により記載された方法により合成的に製造し得る。ホスホアミド法にしたがって、オリゴヌクレオチドは、例えば、自動DNA合成機で合成され、精製され、アニール化され、ライゲートされ、そして適当なベクター中にクローン化される。
【0143】
ペプチドをコードするDNA配列は、標準的なプロトコールにしたがってDNAase Iを用いて、ペプチドが由来する相当する完全長タンパク質をコードするDNA配列の断片化により製造し得る(Sambrook et al., Molecular cloning: A Laboratory manual. 2 rd ed., CSHL Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989)。本発明は、上記で同定したタンパク質の集団から選択される完全長タンパク質に関する。本発明の完全長タンパク質をコードするDNAは、あるいは、特異的な制限エンドヌクレアーゼを用いて断片化し得る。DNAの断片は、さらに、Sambrook et al., Molecular cloning: A Laboratory manual. 2 rd ed., CSHL Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989に記載された標準的なプロトコールを用いて精製される。
【0144】
完全長タンパク質をコードするDNA配列はまた、ゲノムまたはcDNA起源であり得て、例えば、ゲノムまたはcDNAライブラリーを製造し、標準的な技術にしたがって、合成オリゴヌクレオチドプローブを用いたハイブリダイゼーションにより、完全長タンパク質のすべてまたは部分をコードするDNA配列をスクリーニングすることにより取得し得る(cf. Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor, 1989)。DNA配列はまた、例えば、米国特許第4,683,202号またはSaiki et al., 1988, Science 239:487-491に記載されたとおり、特異的なプライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応により製造し得る。
【0145】
次いで、DNA配列は、任意のベクターであり得て、好適には、組み換えDNA手順に付されれ得る、組み換え発現ベクター中に挿入される。ベクターの選択は、しばしば、それが導入される宿主細胞に依存する。したがって、ベクターは、自律的に複製するベクター、すなわち、染色体外物質として存在し、その複製が、染色体複製から独立しているベクター、例えば、プラスミドであり得る。あるいは、ベクターは、宿主細胞に導入されると、宿主細胞ゲノムに統合され、それが統合された染色体(複数もある)と共に複製されるベクターであり得る。
【0146】
ベクター中では、ペプチドまたは完全長タンパク質をコードするDNA配列は、操作可能に、適当なプロモーター配列と結合されるべきである。プロモーターは、任意のDNA配列配列であり得て、それは、選択した宿主細胞での転写活性を示し、宿主細胞と同種または異種のタンパク質をコードする遺伝子に由来し得る。ほ乳類細胞でのコードDNA配列の転写に向けられるための適当なプロモーターの例は、SV40プロモーター(Subramani et al., 1981, Mol. Cell Biol. 1:854-864)、MT-1(メタロチオネイン遺伝子)プロモーター(Palmiter et al., 1983, Science 222: 809-814)またはアデノウイルス2主要後期プロモーターである。昆虫細胞における使用のための適当なプロモーターは、ポリヘドリンプロモーターである(Vasuvedan et al., 1992, FEBS Lett. 311:7-11)。酵母宿主細胞における使用のための適当なプロモーターは、糖分解遺伝子(Hitzeman et al., 1980, J. Biol. Chem. 255:12073-12080; Alber and Kawasaki, 1982, J. Mol. Appl. Gen. 1: 419-434)もしくはアルコール脱水素酵素遺伝子(Young et al., 1982, in Genetic Engineering of Microorganisms for Chemicals, Hollaender et al, eds., Plenum Press, New York)からのプロモーター、またはTPI1(US 4,599,311)もしくはADH2-4c(Russell et al., 1983, Nature 304:652-654)プロモーターを含む。糸状菌宿主細胞における使用のための適当なプロモーターは、例えば、ADH3プロモーター(McKnight et al., 1985, EMBO J. 4:2093-2099)またはtpiAプロモーターである。
【0147】
コードDNA配列はまた、操作可能に、適当なターミネーター、例えば、ヒト成長ホルモンターミネーター(Palmiter et al., op. cit.)または(真菌宿主のために)TPI1(Alber and Kawasaki, op. cit.)またはADH3(McKnight et al., op. cit.)プロモーターに結合し得る。ベクターはさらに、エレメント、例えば、ポリアデニル化シグナル(例えば、SV40またはアデノウイルス5 Elb領域から)、転写エンハンサー配列(例えば、SV40エンハンサー)および翻訳エンハンサー配列(例えば、アデノウイルスVA RNAをコードする配列)を含み得る。
【0148】
組み換え発現ベクターは、さらに、ベクターが問題の宿主細胞で複製することができるDNA配列を含み得る。そのような配列の例は(宿主細胞が、ほ乳類細胞であるとき)、SV40複製開始点である。ベクターはまた、選択可能マーカー、例えば、遺伝子産物が、宿主細胞の欠損を補完する遺伝子、例えば、ジヒドロ葉酸(DHFR)をコードする遺伝子または薬剤に対する耐性を与える遺伝子、例えば、ネオマイシン、ヒドロマイシンもしくはメトトレキサートを含み得る。
【0149】
ペプチドまたは完全長タンパク質をコードするDNA配列、プロモーターおよびターミネーターを、それぞれライゲートし、それらを、複製に関する必要な情報を含む適当なベクター中に挿入するために使用する手順は、当業者に既知である(cf., 例えば、Sambrook et al., op.cit.)。
【0150】
本発明の組み換えペプチドを取得するために、コードDNA配列を、通常、第2ペプチドコード配列およびプロテアーゼ切断サイトコード配列と融合させ、融合タンパク質をコードするDNAコンストラクトを生じ得る(ここで、プロテアーゼ切断サイトコード配列は、HBP断片と第2ペプチドコードDNAの間に位置し、組み換え発現ベクター中に挿入され、組み換え宿主細胞で発現させる)。1つの態様では、該第2ペプチドは、非限定的に、グルタチオン-S-レダクターゼ、ウシチモシン、細菌チオレドキシンまたはヒトユビキチン天然もしくは合成変異型、またはそのペプチドを含む集団から選択される。他の態様では、プロテアーゼ切断サイトを含むペプチド配列は、アミノ酸配列IEGRを有する第Xa因子、アミノ酸配列DDDDKを有するエンテロキナーゼ、アミノ酸配列LVPR/GSを有するトロンビン、 またはアミノ酸配列XKXを有するAcharombacter lyticusであり得る(各アミノ酸配列は、切断サイトである)。
【0151】
発現ベクターが導入される宿主細胞は、ペプチドまたは完全長タンパク質の発現を可能にする任意の細胞であり得て、好ましくは、真核細胞、例えば、無脊椎動物(昆虫)細胞または脊椎動物細胞、例えば、Xenopus laevis卵母細胞またはほ乳類細胞、特に、昆虫およびほ乳類細胞である。適当なほ乳類細胞株の例は、HEK293(ATCC CRL-1573)、COS(ATCC CRL-1650)、BHK(ATCC CRL-1632, ATCC CCL-10)またはCHO(ATCC CCL-61)細胞株である。ほ乳類細胞にトランスフェクトし、該細胞に導入したDNA配列を発現させる方法は、例えば、Kaufman and Sharp, J. Mol. Biol. 159, 1982, pp. 601-621; Southern and Berg, 1982, J. Mol. Appl. Genet. 1:327-341; Loyter et al., 1982, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 79: 422-426; Wigler et al., 1978, Cell 14:725; Corsaro and Pearson, 1981, in Somatic Cell Genetics 7, p. 603; Graham and van der Eb, 1973, Virol. 52:456;およびNeumann et al., 1982, EMBO J. 1:841-845に記載されている。
【0152】
あるいは、真菌細胞(酵母細胞を含む)は、宿主細胞として使用し得る。適当な酵母細胞の例は、Saccharomyces spp.またはSchizosaccharomyces spp.の細胞、特に、Saccharomyces cerevisiaeの株を含む。他の真菌細胞の例は、糸状菌、例えば、Aspergillus spp.またはNeurospora spp.の細胞、特に、Aspergillus oryzaeまたはAspergillus nigerの株である。タンパク質の発現のためのAspergillus spp.の使用は、EP 238 023に記載されている。
【0153】
細胞を培養するために使用する培地は、増殖するほ乳類細胞のために適当な任意の慣用的な培地、例えば、適当な補完物を含有する血清含有もしくは無血清培地、または増殖する昆虫、酵母もしくは真菌細胞のための適当な培地であり得る。適当な培地は、商業的に利用可能であるか、または公開された方法(例えば、American Type Culture Collectionのカタログ)にしたがって製造し得る。
【0154】
細胞により組み換え的に産生されたペプチドまたはタンパク質は、次いで、慣用的な手順により培養培地から回収され得て、それは、遠心分離またはろ過により培地から宿主細胞を分離し、上清のタンパク質様構成成分を沈殿させるか、または塩の手段、例えば、硫酸アンモニウムによるろ過、様々なクロマトグラフィー手順、例えば、HPLC、イオン交換クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィーなどによる精製を含む。
【0155】
合成製造
ペプチドの合成産生の方法は、当業者に既知である。合成ペプチドを製造するための詳細な記載および実際的な助言は、Synthetic Peptides: A User's Guide (Advances in Molecular Biology), Grant G. A. ed., Oxford University Press, 2002、またはPharmaceutical Formulation: Development of Peptides and Proteins, Frokjaer and Hovgaard eds., Taylor and Francis, 1999に見出し得る。
【0156】
ペプチドは、例えば、Fmoc化学およびAcm保護化システインを用いることにより合成し得る。逆相HPLCによる精製後、ペプチドはさらに、例えば、環状またはC-もしくはN-末端修飾アイソフォームを取得するために加工し得る。環状化および末端修飾の方法は、当業者に既知であり、上記に引用したマニュアルにおいて詳細に記載されている。
【0157】
好ましい態様では、本発明のペプチド配列は、特に、配列補助ペプチド合成(Sequence Assisted Peptide Synthesis)(SAPS)法により合成的に産生される。
【0158】
配列補助ペプチド合成(SAPS)
ペプチドは、N-a-アミノ保護基および側鎖官能性のための適当な通常の保護基として、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)またはtert.-ブチルオキシカルボニル、(Boc)を用いた完全自動合成機で、ろ過のためのポリプロプロピレンフィルターを装備したポリエチレン容器でのまたはポリアミド固相法(Dryland, A. and Sheppard, R.C., (1986) J.Chem. Soc. Perkin Trans. I, 125 - 137.)の連続フロー版でのいずれかのバッチ式で、合成し得る。
【0159】
下記は、薬品のリストおよび本発明のペプチド断片の合成のためのSAPSを用いるとき有用であり得る、手順の記載である。
【0160】
3. 医薬
FGFRおよびL1は、正常な状態および疾患における多くの身体過程に、特に、神経系に関与することが既知である。これらの過程は、分化、増殖、生存、可塑性および細胞の運動を含む。
【0161】
細胞死は、正常な神経発生(そこでは、発生中の神経細胞の50%が、プログラムされた細胞死により除去される)および神経変性状態の病理学、例えば、アルツハイマーおよびパーキンソン病で重要な役割を果たす。FGFRは、発生の間および成人期の両方で、神経生存の重要な決定要因であることが示された(Haspel et al. (2000) J Neurobiol 15:287-302; Roonprapurt et al. (2003) J Neurotrauma 20:871-882; Wiencken-Barger et al. Cereb Cortex (2004) 14:121-131; Loers er al. (2005) J Neurochem 92:1463-1476; Reuss and von Bohlen und Halbach (2003) Cell tissue Res, 313:139-57)。したがって、FGFRに結合し、活性化することにより神経細胞生存を促進することができる化合物が、非常に望まれる。したがって、1つの局面では、本発明は、神経細胞の生存を促進し、神経細胞死を含む状態の処置のための医薬として使用し得る化合物を特徴とする。しかしながら、本発明の化合物はまた、FGFRシグナル伝達が、筋肉および癌細胞の生存因子であることが示されたので、他の型の細胞、例えば、異なる型の筋肉細胞の生存の促進、あるいはまた他の型の細胞、例えば、癌細胞の細胞死の促進のための医薬として使用し得る(Ozen et al. (2001) J Nat Cancer Inst. 93:1783-90; Miyamoto et al. (1998) J Cell Physiol. 177:58-67; Detilliux et al. (2003) Cardiovasc Res. 57:8-19)。
【0162】
細胞表面受容体の活性は、健康な個体では、厳格に制御されている。突然変異、異常な発現または受容体もしくは受容体リガンドのプロセッシングの結果、受容体活性の異常を生じ、したがって、受容体の機能障害を生じる。受容体の機能障害は、順に、該受容体を様々な細胞過程の誘導および/または維持のために使用する細胞の、機能障害の理由となる。後者は、疾患の兆候である。また、FGFRシグナル伝達の減弱が、多くの異なる病的状態、例えば、糖尿病(Hart et al., Nature 2000, 408:864-8)を生じることが示された。FGF受容体の活性化は、正常なおよび病的な血管新生に関与している(Slavin, Cell Biol Int 1995, 19:431-44)。それは、発生、増殖、機能化ならびに生存骨格筋細胞、心筋細胞および神経細胞のために重要である(Merle at al., J Biol Chem 1995, 270:17361-7; Cheng and Mattson, Neuron 1991, 7:1031-41; Zhu et al., Mech Ageing Dev 1999, 108:77-85)。それは、正常な腎臓構造維持において役割を果たし(Cancilla et al., Kidney Int 2001, 60:147-55)、創傷治癒および癌疾患に関与する(Powers et al., Endocr Relat Cancer. 2000, 7:165-97)。
【0163】
本発明は、FGFRの活性を調節することができる化合物を提供する。結果として、該化合物は、本発明により、FGFRの活性の調節が、治癒のために重要な条件として考え得る、疾患を処置するための医薬として関与する。
【0164】
したがって、本発明の医薬は、1つの態様では、
1)中枢および末梢神経系、または筋肉または様々な器官の疾患および状態、および/または
2)中枢および末梢神経系の疾患または状態、例えば、術後神経損傷、外傷性神経損傷、障害された神経繊維の髄鞘形成、卒中から生じるような虚血後損傷、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、認知症、例えば、多発脳梗塞性認知症、硬化症、糖尿病に付随する神経変性、概日時計に影響を与える傷害または神経-筋伝達、および統合失調症、気分障害、例えば、躁鬱病;
3)神経-筋結合の障害された機能を有する状態、例えば、臓器移植後の、または例えば、遺伝性もしくは外傷性萎縮性筋障害を含む、筋肉の疾患または状態の処置のための;または、様々な器官の疾患または状態、例えば、生殖腺の変性状態、膵臓の、例えば、I型およびII型糖尿病、腎臓の、例えば、ネフローゼならびに心臓、肝臓および腸の疾患または状態の処置のための、および/または
4)癌疾患、および/または
5)プリオン疾患
の予防および/または処置を目的とする。
【0165】
本発明は、血管新生を必要とする固形腫瘍の任意の型の癌に関する。
【0166】
本発明は、スクレイピー、クロイツフェルト-ヤコブ病からなる集団から選択される、プリオン疾患に関する。FGFRは、プリオン疾患で、異なる役割を果たすことが示された(Castelnau et al. (1994) Exp Neurobiol. 130:407-10; Ye and Carp (2002) J Mol Neurosci. 18:179-88)。
【0167】
他の態様では、本発明の化合物は、
1)創傷治癒の促進、および/または
2)例えば、急性心筋梗塞後、または血管新生後の心筋細胞の細胞死の予防、および/または
3)血管再生
のための医薬の製造を目的とする。
【0168】
L1は、広く、神経突起伸長刺激剤として研究されてきた。それはまた、神経細胞前駆体増殖、分化および伝達物質表現型サブタイプ産生のために重要であるとみなされてきて(Dihne et al. (2003) J Neurosci 23:6638-6650)、シナプス可塑性において役割を果たすことは既知である(Saghatelyan et al. (2004) Mol Cell Neurosci 26:191-203)。FGFRおよびそれらのリガンドは、CNSで重要な役割を果たし、特に、それらは、記憶および学習と関連した過程に関与する(Reuss and von Bohlen und Halbach (2003) Cell Tissue Res. 313:139-57)。したがって、また他の態様では、本発明の化合物は、学習する能力ならびに/または短期および/または長期記憶の刺激のために使用し得る。この態様は、本発明の好ましい態様の1つである。
【0169】
また、さらなる態様では、本発明の化合物は、
1)虚血による細胞死の予防;
2)アルコール消費による身体損傷の予防
のための医薬の製造を目的とする。
【0170】
特に、本発明は、正常な、変性したまたは損傷を受けたL1提示細胞に関する。X染色体関連水頭症およびMASA症候群脳梁形成不全、精神遅滞、内転母指、痙攣および水頭症(CRASH)症候群のような疾患は、本発明で特に関心がある。
【0171】
本発明の医薬は、上記の1個またはそれ以上の化合物、または1個またはそれ以上の化合物および薬学的に許容される添加剤を含む医薬組成物の有効量を含む。
【0172】
したがって、他の局面では、本発明はまた、本発明の少なくとも1個の化合物を含む医薬組成物に関する。
【0173】
本発明のさらなる局面は、医薬組成物を産生する工程であり、1個またはそれ以上の本発明の化合物、または本発明に記載の医薬組成物の有効量を、1個またはそれ以上の薬学的に許容される添加剤もしくは担体と共に含む。1つの態様では、化合物は、人工装具と組み合わせて使用し、ここで、該装置は、神経ガイドである。したがって、更なる局面では、本発明は、上記したとおりの1個またはそれ以上の化合物または医薬組成物を含む、神経ガイドに関する。神経ガイドは、当業者に既知である。
【0174】
本発明は、下記に記載した疾患および状態のいずれかの処置または予防のための、本発明の化合物を含む医薬および/または医薬組成物の使用に関する。
【0175】
そのような医薬および/または医薬組成物は、適当に、経口、経皮、筋肉内、静脈内、頭蓋内、髄腔内、脳室内、経鼻または肺内投与のために製剤し得る。
【0176】
本発明の化合物に基づく医薬および組成物の製剤開発における戦略は、一般に、あらゆる他のタンパク質に基づく薬剤産物のための製剤戦略に相当する。潜在的な問題およびこれらの問題を克服するために必要とされる手引きは、いくつかの教科書、例えば、“Therapeutic Peptides and Protein Formulation. Processing and Delivery Systems”, Ed. A.K. Banga, Technomic Publishing AG, Basel, 1995で取り扱われている。
【0177】
注射用は、通常、液体溶液または懸濁液、注射前に液体に溶解または懸濁するために適当な固形として製造される。製剤はまた、エマルジョン化し得る。有効成分は、しばしば、薬学的に許容され、そして有効成分に適合する賦形剤と共に混合し得る。適当な賦形剤は、例えば、水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、およびその組合せである。さらに、所望により、製剤は、少量の補助物質、例えば、湿潤剤もしくは乳化剤、pH緩衝剤または製剤の効果または輸送を高める物質を含み得る。
【0178】
本発明の化合物の製剤は、当業者に既知の技術により製造し得る。該製剤は、マイクロスフェア、リポソーム、マイクロカプセル、ナノ粒子などを含む、薬学的に許容される担体および賦形剤を含み得る。
【0179】
製剤は、注射により、所望により、有効成分がその効果を及ぼす部位に、適当に投与し得る。他の投与形態のために適当なさらなる製剤は、座薬、経鼻、肺内および、ある場合には、経口製剤を含む。座薬に関しては、伝統的な結合剤および担体は、ポリアルキレングリコールまたはトリグリセリドを含む。そのような座薬は、0.5%から10%、好ましくは、1-2%の範囲内で、有効成分(複数もある)を含む混合物から形成し得る。経口製剤は、そのような通常使用される賦形剤、例えば、マンニトール、、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、ナトリウムサッカリン、セルロース、炭酸マグネシウム、などの医薬グレードを含む。これらの組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、糖衣錠、カプセル、徐放性製剤または粉末の形態を取り、一般に、10-95%の有効成分(複数もある)、好ましくは、25-70%を含む。
【0180】
他の製剤は、例えば、経鼻および肺内投与、例えば、吸入器およびエアロゾルでの投与のために適当である。
【0181】
活性化合物は、中性または塩型として製剤し得る。薬学的に許容される塩は、酸付加塩(ペプチド化合物の遊離アミノ基で形成される)を含み、無機酸、例えば、塩酸もしくはリン酸、または有機酸、例えば、酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などで形成される。遊離カルボキシル基で形成される塩は、また無機塩基、例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、または水酸化鉄、および有機塩基、例えば、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどに由来し得る。
【0182】
製剤は、用量製剤に適合する方法で投与し、そのような量はまた、治療的有効量である。投与される量は、例えば、対象の体重および年齢、処置される疾患ならびに疾患の段階を含む処置される対象に依存する。適当な用量範囲は、投与につき、通常、キロ体重あたり数百μgの有効量のオーダーであり、好ましくは、キロ体重あたり約0.1 μgから5000 μgである。化合物の単量体形態を用いて、適当な用量は、しばしば、キロ体重あたり、0.1 μgから5000 μgの範囲内、例えば、キロ体重当たり約0.1 μgから3000 μgの範囲内、および、とりわけ、キロ体重当たり、約0.1 μgから1000 μgの範囲内である。化合物の多量体型を用いて、適当な用量は、しばしば、キロ体重当たり、0.1 μgから1000 μgの範囲内、例えば、キロ体重当たり、約0.1 μgから750 μg、および、とりわけ、キロ体重当たり、約0.1 μgから500 μgの範囲内、例えば、キロ体重当たり、約0.1 μgから250 μgの範囲内である。特に、経鼻的に投与するとき、他の経路で投与するときよりも、より少量を使用する。投与は、1度で行い得るか、または次の投与を行い得る。用量はまた、投与経路に依存し、処置される対象の年齢および体重により変わる。多量体型の好ましい用量は、体重70 kgあたり1 mgから70 mgの間である。
【0183】
ある適応症のために、局所または実質的に局所適用が好ましい。
【0184】
他の適応症のために、経鼻適用が好ましい。
【0185】
本発明の化合物のいくつかは、十分に活性であるが、他のいくつかは、調製物がさらに薬学的に許容される添加物および/または担体を含むとき、効果が高められるであろう。そのような添加物および担体は、当業者に既知である。ある場合には、活性物質の標的への送達を促進する化合物を含むことが、有利である。
【0186】
多くの例では、製剤を複数回投与することが必要である。投与は、持続注入、例えば、脳室内注入またはより多い投与で、例えば、1日により多い投与回数、毎日、1週間により多い回数、毎週などでの投与であり得る。医薬の投与は、個体が、細胞死を生じ得る要因(複数もある)に付される前か、または付された直後に開始することが好ましい。好ましくは、医薬は、要因発生から8時間以内、例えば、要因発生から5時間以内に投与される。化合物の多くは、長期の効果を示し、それにより、化合物の投与は、例えば、1週間または2週間のような長期の間隔で行い得る。
【0187】
神経ガイドにおける使用と関連して、投与は、継続するか、または有効成分(複数もある)の制御された放出に基づく小部分であり得る。さらに、前駆体は、放出速度および/または放出部位を制御するために使用し得る。他の種類のインプラントは、経口投与と同様に、前駆体の制御された放出および/または使用に基づき得る。
【0188】
処置
本発明に記載の化合物/組成物の使用による処置は、1つの態様において、分化を誘導し、増殖を調節し、再生、神経可塑性および細胞(例えば、細胞は、インプラントまたは移植されたものである)の生存を刺激するために有用である。これは、長期効果を有する化合物を使用するとき、特に有用である。
【0189】
さらなる態様では、処置は、様々な要因、例えば、外傷および損傷、急性疾患、慢性疾患および/または障害、特に、通常は細胞死を生じる変性疾患、他の外部要因、例えば、遊離基の形成を生じ得るか、またはX線および化学療法のような細胞毒性効果を有する、内科的および/または外科的処置および/または診断法のために死の危険がある細胞の生存の刺激であり得る。化学療法に関連して、本発明に記載のFGFR結合化合物は、癌の処置に有用である。化学療法に関連して、本発明に記載のFGFR結合化合物は、癌の処置に有用である。
【0190】
したがって、処置は、中枢および末梢神経系の疾患または状態、例えば、脊髄損傷から生じる術後神経損傷、外傷性神経損傷、障害された神経繊維の髄鞘形成、卒中から生じるような虚血後損傷、多発脳梗塞性認知症、多発性硬化症、糖尿病に付随する神経変性、神経-筋変性、統合失調症、アルツハイマー病、パーキンソン病、またはハンチントン病に関連する細胞死の処置および/または予防を含む。
【0191】
また、遺伝性または外傷性萎縮性筋障害のような神経-筋結合の障害された機能を有する状態を含む筋肉の疾患または状態と関連するか、または様々な器官の疾患または状態、例えば、生殖腺の、膵臓の(例えば、I型およびII型糖尿病)、腎臓の変性状態(例えば、ネフローゼ)の処置のための本明細書に記載した化合物は、分化を誘導し、増殖を調節し、再生、神経可塑性および生存を刺激する、すなわち、生存を刺激するために使用し得る。
【0192】
さらに、化合物および/または医薬組成物は、血管新生を誘導するために、例えば、急性心筋梗塞後の心筋細胞の細胞死を予防することを目的とし得る。さらに、1つの態様では、化合物および/または医薬組成物は、心筋細胞の生存、例えば、急性心筋梗塞後の生存の刺激を目的とする。他の局面では、化合物および/または医薬組成物は、例えば、損傷後の血管再生を目的とする。
【0193】
創傷治癒の促進のための化合物および/または医薬組成物の使用は、また、本発明の範囲内である。本発明の化合物は、血管新生を刺激することができ、それにより、それらは、創傷治癒過程を促進することができる。
【0194】
本発明はさらに、癌の処置における化合物および/または医薬組成物の使用を開示する。FGFRの活性化の制御は、腫瘍の血管新生、増殖および拡張のために重要である。
【0195】
また、さらなる態様では、FGFR活性が神経細胞の分化のために重要であるので、化合物および/または医薬組成物の使用は、学習する能力ならびに/または短期および/もしくは長期記憶の刺激を目的とする。
【0196】
また、他の態様では、本発明の化合物および/または医薬組成物は、アルコール消費による身体損傷の処置を目的とする。胎児の発生奇形、長期神経行動学的変化、アルコール性肝臓疾患は、特に、関係がある。
【0197】
化合物および/または医薬組成物を用いることを含むプリオン疾患の治療的処置は、また、本発明の他の態様である。
【0198】
特に、本発明の化合物および/または医薬組成物は、臨床的状態の処置、例えば、腫瘍例えば、悪性腫瘍、良性腫瘍、インサイチュでの癌腫および不確かな行動の腫瘍、乳房、甲状腺、膵臓、脳、肺、腎臓、前立腺、肝臓、心臓、皮膚、血液、筋肉(肉腫)の癌、機能異常および/または特異的受容体の過剰もしくは過少発現および/または突然変異した受容体の発現を有する癌、または可溶性受容体と関連する癌、例えば、非限定的に、Erb-受容体およびFGF-受容体、内分泌腺の疾患、例えば、I型およびII型糖尿病、下垂体腫瘍、精神病、例えば、老年期および初老期器質性精神病状態、アルコール性精神病、薬剤精神病、一過性器質性精神病状態、アルツハイマー病、脳リピドーシス、癲癇、進行麻痺[梅毒]、肝レンズ核変性症、ハンチントン舞踏病、クロイツフェルトヤコブ病、多発性硬化症、脳のピック病、結節性多発性動脈炎、梅毒、統合失調症、情動的精神病、神経症性障害、性格神経症を含む人格障害、器質脳症候群と関連する非精神病性人格障害、パラノイア人格障害、熱狂的人格、偏執的人格(障害)、偏執的特徴、性的倒錯および障害または機能異常(いかなる理由であれ、減少した性欲)、精神遅滞、神経系および感覚器官における疾患、例えば、視覚、聴覚、嗅覚、感覚、味覚に影響を与えるもの、疾患後の認知異常、損傷(例えば、外傷、外科手術、および暴力の後)、中枢神経系の炎症性疾患、例えば、髄膜炎、脳炎、脳変性、例えば、アルツハイマー病、ピック病、脳の老人性変性、老化NOS、交通性水頭症、閉塞性水頭症、他の錐体外路疾患および異常な行動障害を含むパーキンソン病、脊髄小脳疾患、小脳性運動失調症、マリー サンガー-ブラウン、ミオクローヌス性小脳性共同運動障害、初期小脳変性、例えば、脊髄性筋萎縮症、家族性、若年性、成人脊髄性筋萎縮症、運動神経疾患、筋萎縮性側索硬化症、運動神経疾患、進行性球麻痺、偽球麻痺、原発性側索硬化症、他の前角細胞疾患、前角細胞疾患、非特異的、脊髄の他の疾患、脊髄空洞症および延髄空洞症、血管性ミエロパチー、脊髄の急性梗塞(塞栓性)(非塞栓性)、脊髄の動脈血栓症、脊髄の浮腫、脊髄出血、亜急性壊死ミエロパシー、他の場所に分類される疾患での亜急性脊髄の合わせた変性、ミエロパシー、薬剤誘導、放射線誘導脊髄炎、自律神経系の障害、末梢自律神経系の障害、交感神経、副交感神経、または植物性系、家族性自律神経失調症[ライリー-デイ症候群]、特発性末梢自律神経系ニューロパシー、頸動脈洞性失神または症候群、頸部交感神経性ジストロフィーまたは麻痺、他の場所に分類される疾患での末梢自律神経系ニューロパシー、アミロイドーシス、末梢神経系の疾患、上腕神経叢の病変、頸肋症候群、肋骨鎖骨症候群、前斜角筋症候群、胸郭出口症候群、急性上腕神経炎または神経根炎NOS(新生児を含む);
【0199】
急性感染性多発性神経炎を含む炎症性および中毒性ニューロパシー、ギランバレー症候群、感染後多発性神経炎、膠原血管病での多発性ニューロパシー、複数の眼の構造に影響を与える障害を含む眼球の障害、例えば、化膿性内眼球炎、耳および乳様突起の疾患、慢性リウマチ性心臓疾患、虚血性心疾患、不整脈、肺系の疾患、呼吸器系、感覚器、例えば、酸素、喘息、神経系を含む新生児の器官および軟組織の異常、陣痛および分娩での麻酔または他の鎮静剤の投与の合併症、感染を含む皮膚疾患、不十分な循環問題、やけど損傷および他の機械的および/または物理的損傷;手術後を含む損傷、壊滅的損傷、やけど;神経の切断を含む神経および脊髄の損傷、連続損傷(開放創傷を有するか、または有しない);外傷性神経腫(開いた傷を有するか、または有しない)、外傷性一過性麻痺(開いた傷を有するか、または有しない)、偶発的硬膜穿刺または医療処置中の裂傷、視神経および経路の損傷、視神経損傷、第2脳神経、視交叉の損傷、視覚経路の損傷、視覚野の損傷、非特異的失明、脳神経(複数もある)の損傷、他のおよび非特異的神経の損傷; 薬物による中毒、医薬および生物学的物質、遺伝的または外傷性萎縮性筋障害;または、様々な器官の、例えば、生殖腺の変性状態、膵臓の、例えば、I型およびII型糖尿病Iの、腎臓の、例えば、ネフローゼの疾患または状態の処置;スクレイピー、クロイツフェルトヤコブ病、ゲルスマン・ストロイスラー・シャインカー(GSS)病;X染色体関連水頭症およびMASA症候群脳梁形成不全、精神遅滞、内転母指、痙攣および水頭症(CRASH)症候群、疼痛症候群、脳炎、薬物/アルコール中毒、不安、術後神経損傷、術中虚血、感染因子に影響を与えるか、または組織を保護することによる組織損傷を伴う炎症性障害、HIV、肝炎、および下記の症状、自己免疫性疾患、例えば、リウマチ性関節炎、SLE、ALS、およびMS;抗炎症性効果、喘息および他のアレルギー性反応、急性心筋梗塞、および他の関連する障害またはAMIからの続発症、代謝障害、例えば、肥満脂質障害(例えば、高コレステロール血症、アテローム性動脈硬化症、アミノ酸輸送および代謝の障害、プリンおよびピリミジン代謝の障害および痛風、骨障害、例えば、骨折、骨粗鬆症、変形性関節症(OA)、萎縮性皮膚炎、乾癬、感染性疾患、インビボまたはインビトロでの幹細胞保護または成熟において使用し得る。
【0200】
本発明にしたがって、上記状態および症状の処置および/または予防は、必要とする個体に有効量の化合物および/または医薬組成物を投与する工程を含む。
【実施例】
【0201】
実施例
1. 本発明のL1断片
配列番号1 APEKWFSLGKV F1CDLペプチド
配列番号2 DWNAPQIQYRVQWR F2BCLペプチド
配列番号3 DLAQVKGHLRGYN F3ABLペプチド
配列番号4 RHVHKSHMVVPAN F3CDLペプチド
配列番号5 RFHILFKALPEGKVSPD F5BCLペプチド
配列番号6 LHHLAVKTNGTG F5FGLペプチド
【0202】
2.実験の手順
2. 1.組み換えタンパク質の産生
L1 F3モジュールI-Vは、ラット脳全RNAを用いて、RT-PCRにより産生した。FGFR1 IgモジュールII-IIIは、マウスFGFR1 (IIICアイソフォーム) cDNA (Dr. Patrick Doherty, King's College, Londonにより、恵与された)を用いて産生した。L1 F3モジュールは、RSPWPG、L1のアミノ酸608-1109(swissprot Q05695)およびHHHHHHからなる。FGFR1 IgモジュールIIは、RSHHHHHHおよびFGFR1のアミノ酸253-365(swissprot p16092)からなる。FGFR1結合IgモジュールII-IIIは、RSHHHHHHおよびFGFR1のアミノ酸141-365(swissprot p16092)からなる。FGFR1 IgモジュールII-IIIおよびL1 F3モジュールI-Vは、製造者の指示に従って、ショウジョウバエS2細胞(Invitrogen, USA)で発現した。全てのタンパク質を、Ni2+-NTAレジン(Qiagen, USA)を用いた親和性クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、およびゲルろ過により精製した(精製のために使用したすべてのクロマトグラフィーカラムは、Amersham Biosciences, Swedenから購入した)。FGFR1のIgIIモジュールは、製造者の指示にしたがって、Pichia Pastoris KM71細胞発現系(Invitrogen, USA)で発現した。タンパク質を、Ni2+-NTAレジン(Qiagen, USA)を用いた親和性クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、およびゲルろ過により精製した(精製のために使用したすべてのクロマトグラフィーカラムは、Amersham Biosciences, Swedenから購入した)。結合NCAM IgモジュールIおよびII (RVおよびラットNCAMのアミノ酸20-208、swissprot p13596)は、上記したとおり産生した(Jensen et. al., 1999)。
【0203】
2.2 SPR解析
結合解析は、ランニングバッファーとして10 mM リン酸ナトリウムpH 7.4、150 mM NaClを用いて、25℃で、BIAcoreX装置(Biosensor AB, Sweden)を用いて行った。流速は、5 l/分であった。データは、製造者のソフトウェアを用いて、非線形曲線フィッティングにより解析した。FGFR1 Igモジュール2-3は、アミンカップリングキット (Biosensor AB)を用いて、下記のとおり、センサーチップCM5上に固定した: 1) チップの2つの部分(Fc1およびFc2と指定された)を、20 l活性化溶液により活性化した; 2) タンパク質は、10 mMリン酸ナトリウムバッファーpH 6.0中、12 lの20 g/ml タンパク質を用いて、Fc1上に固定した; 3) Fc1およびFc2を、35 lのブロッキング溶液によりブロックした。固定化FGFR1モジュールへの様々な化合物の結合を、下記のとおり調べた:化合物を、Fc1 (固定化FGFR1モジュールと共に)およびFc2 (固定化、何も存在しない)中に、同時に注入した。Fc2の表面への化合物の非特異的結合を示す曲線は、固定化FGFR1モジュールおよびFc1の表面へのタンパク質の結合を示す曲線から抽出した。生じた曲線は、解析のために使用した。ATP競合実験のために、様々な化合物を、特定の濃度でATPと共に10分間プレインキュベートした。ATPとL1 F3モジュール間の親和性は、下記の手順から推定した:14 μM F3モジュールの最初の結合速度(V0)、および特定の濃度のATPを用いてプレインキュベートした14 μM F3モジュールの最初の結合速度(VATP)を決定した。VATPは、下記の式から計算し得る:
【数1】

[式中、
k2およびk1は、最初の結合速度とATP-F3複合体およびF3モジュールそれぞれの、最初の瞬間での濃度の間の比例定数であり;
Fは、F3モジュールの濃度であり;
aは、ATPの濃度であり;
KDは、平衡解離定数である]。VATPは、ATP濃度に対してプロットし、そしてKDを、実験データに対する理論曲線の非線形フィッティングにより計算した。
【0204】
2.3 FGFR1リン酸化の決定のためのアッセイ
TREX-293細胞(Invitrogen)を、Flp-In系(Invitrogen)を用いて、C末端StrepII-タグ(IBA biotech, Germany)を有するヒトFGFR1(Dr. Lena Claesson-Welsh, Uppsala, Swedenにより恵与された)で、安定的にトランスフェクトした。リン酸化の研究のために: 〜1x106TREX/FGFR1細胞を、特定の化合物で15分間刺激する前に、一晩飢餓状態にした。細胞を、1% NP-40、Completeプロテアーゼ阻害剤 (Roche, Switzerland)およびホスファターゼ阻害剤カクテルセットII(Calbiochem, USA)を含むPBSに溶解した。除去した細胞ライセートを、Pierce BCAアッセイ(Pierce, USA)を用いて、全タンパク質内容量に関して解析し、等しいタンパク質の量を、20 μlのアガロース結合抗ホスホチロシン抗体(4G10-AC, Upstate Biotechnologies, USA)で、3時間、4℃で、インキュベートした。結合タンパク質を、150 mMのフェニルリン酸(Sigma, Germany)で溶出する前に、溶解バッファー(x1)およびPBS (x2)で洗浄した。溶出フラクションのタンパク質を、12%トリクロロ酢酸で沈殿させ、冷却アセトンで洗浄し、そしてSDS-PAGEサンプルバッファーに溶解した。イムノブロッティングを、StrepII-タグ(IBA Biotech)に対する抗体を用いて行った。
【0205】
2. 4 小脳顆粒神経細胞培養および免疫染色
ラット小脳(生後7-8日)から分離した神経細胞を、B27 (Gibco)および特定の化合物を補充した、20 mM Hepes、100 U/ml ペニシリン/ストレプトマイシン、1% glutamax、25 mg/L ピルビン酸、0.4% BSA (Sigma)を含有するNeurobasal培地(Gibco)中、24時間、37℃、5% CO2で、8ウェルLab-Tekチャンバースライド(Nunc, Germany) (各ウェルあたり104細胞)上で増殖させた。24時間後、細胞をパラフォルムアルデヒドで固定し、GAP-43に対する一次抗体 (1:1000) (Chemicon, USA)、二次Alexa Flour抗体(1:700)(Molecular Probes, Netherlands)で免疫染色し、神経突起の長さを、記載したとおりの立体的方法により測定した(Ronn et al., 2000)。
【0206】
3. 結果
L1 F3モジュールとFGFR1間の考えられる相互作用を調べるために、我々は、下記の組み換えタンパク質を使用した: 結合NCAM IgモジュールI-II、結合L1 F3モジュールI-V、FGFR IgモジュールII、および結合FGFR1 IgモジュールII-III。NCAMとFGFR Igモジュールは、一次元NMR解析で判定したとおり適当に折り畳まれ、同じ手順で発現させたL1の細胞外部分を(すべてのIgおよびF3モジュールと共に)結晶化し得るので、L1 F3モジュールは、適当に折り畳まれた(Kulahin et al., 2004)。
【0207】
3.1 L1とFGFR間の直接的相互作用の証明
L1 F3モジュールが、FGFR1に結合し得るか否かを調べるために、我々は、SPR解析を使用した。図1から、L1 F3モジュールI-Vからなる組み換えタンパク質は、固定化FGFR1 IgモジュールII-IIIに結合し、一方で、NCAM IgモジュールI-IIからなるコントロールタンパク質は、FGFR1断片に結合しなかった(図1)。平衡解離定数(Kd)ならびに結合および解離の係数は、それぞれ、3.246±0.452 μM、321±65 M-1s-1および1.09±0.003×10-3 s-1 (平均±標準偏差)であった。したがって、これらのデータは、L1 F3モジュールが、直接、FGFR1に結合することを示す。
【0208】
3.2 L1のFGFR1への結合は、ATP、GTPおよびAMP-PCPにより高め得る
NCAMとFGFR1間の結合が、ATPにより阻害し得ることが示された(Kiselyov et al., 2003)。したがって、ATPが、L1-FGFR1結合に関して、同じ効果を有するか否かを理解することに関心があった。これを調べるために、我々は、SPR解析を使用した。図2Aおよび3Aから理解し得るとおり、14 μMのL1 F3モジュールI-VにATPを加えることが、F3モジュールのFGFR1 IgモジュールII-IIIへの結合を促進した。この効果が、ATP、AMP-PCP (ATPの非加水分解類似体) (図2B、3A)、AMP (図2C、3A)、およびGTP (図2D、3A)に特異的であるか否かを調べるために、同じ設定で試験した。GTPおよびAMP-PCPはまた、該モジュールとFGFR1間の相互作用の親和性を増加させて、L1 F3モジュールに結合し、一方で、AMPは、該結合の重要ではない阻害を証明した(図2C、3A)。これらの結果は、L1 F3モジュールへのATP、GTPおよびAMP-PCP結合が、タンパク質の構造を変え得て、それにより、L1とFGFR1間の親和性を増加させることを示した。2mM ATP(GTPまたはAMP-PCP)の存在下での14 μMのL1 F3モジュールとFGFR1間の相互作用のKdは、3.246±0.452 μMから1.246±0.129 μM(それぞれ、0.944±0.041 μMまたは0.861±0.032 μM)まで減少した(図3A)。ATPが、L1F3に結合し、結合の開始速度を変えるモデルを用いて実験データを適合させて、我々は、L1 F3モジュールとATP間の相互作用の平衡解離定数(Kd)を推定した(それは、0.388±0.105 mMであるように見えた)(図3B)。これらの実験は、トリフホスフェートヌクレオチドのみが、L1-FGFR1相互作用を促進し得ることを示している。
【0209】
3.3 FGFR1は、L1 F3モジュールにより活性化される
L1 F3モジュールは、FGFR1に結合するので、それらは、生細胞でFGFR1活性化を誘導することを期待し得る。これを調べるために、我々は、以前、Kiselyov et al. (2003)により記載されたFGFR1リン酸化を検出するための方法を用いた。TREX-293細胞を、C-末端StrepII-タグを含むFGFR1で安定的にトランスフェクトし、異なる濃度でのL1のF3モジュールで刺激した。刺激後、FGFR1は、固定した量の抗ホスオホチロシン抗体を用いて免疫精製し、次いでStrepII-タグに対する抗体を用いて、イムノブロッティングにより解析した。図4から見られるとおり、L1 F3モジュールは、実質的に、非刺激細胞およびSPR解析により、FGFR1に結合しなかった結合NCAM Ig I-IIモジュールで処理した細胞と比較して、FGFR1リン酸化を増加させた(図1を参照のこと)。最大のリン酸化レベルは、10 mMのL1 F3モジュールの濃度で達成された。これは、L1 F3モジュールのFGFR1への結合が、受容体の活性化を生じることを示している。
【0210】
L1 F3モジュールによるFGFR1活性化は、神経突起伸長を刺激し、この刺激効果が、ATPにより調節し得る。
【0211】
L1 F3モジュールは、FGFR1を活性化するので、我々は、それらが、L1の特徴的機能:神経突起伸長により反映される神経細胞分化を模倣することができることを示した。この仮定を調べるために、分離した小脳神経細胞をプラスチックに播種し、下記に記載した化合物の存在下で、24時間増殖することを可能にした。図5Aから理解し得るとおり、4 mMの濃度で、L1 F3モジュールは、実質的に、非刺激神経細胞と比較して、神経突起の長さを増加させた。効果は、濃度応答研究で定量し、F3モジュールが、成長因子誘導神経突起伸長に典型的な釣鐘曲線と共に、神経突起伸長を増加させたことを証明している(Hatten et al., 1988)。F3モジュールの刺激効果は、FGFR1、SU5402の阻害剤により、完全に、廃止し得て(図5B)、さらに該モジュールが、FGFR1と相互作用するという考えを支持する。
【0212】
ATPがL1-FGFR1結合を促進したので、我々は、ATPが、L1 F3モジュールによるFGFR1活性化を妨害し、その結果、該モジュールの神経突起促進活性に影響を与え得ると推測した。これを調べるために、神経細胞を、ATPまたはAMP-PCPの存在下でL1 F3モジュールを用いて刺激した。図5CおよびDから理解し得るとおり、ATPおよびAMP-PCPは、ATPの存在下で、最大応答を生じるL1 F3モジュールの濃度(4 mM)を用いた時、実質的に、F3モジュールにより活性化される神経突起生成効果を減少させた(図5A)。F3モジュールの効果の完全な阻害は、ATPの濃度と比較してより低い濃度でAMP-PCPを用いて達成され、これは、ATPが、その非加水分解型類似体よりも有力ではない阻害剤であることを示した。しかしながら、L1 F3の濃度を、1 mMまで下げると、ATPまたはAMP-PCPの添加は、神経突起伸長におけるタンパク質の効果を増加させた(図5EおよびF)。それは、L1とFGFR1間の親和性を増加させるATPを加えることにより、L1 F3モジュールをより高い濃度で添加したときに起こったような、L1に対する結合および非結合FGFR1間のより高い比率を生じたことを示している(図5A)。したがって、F3モジュールの濃度は、最も有効な濃度よりも低いはずであり、ATPの添加による神経突起伸長の促進を証明する。これらの結果は、L1 F3モジュール誘導神経突起生成による神経細胞でのFGFR1の活性化およびこの効果が、ATPにより調節し得ることを示している。
【0213】
3.4 L1 F3モジュールとFGFR1間の結合サイトのマッピング
すべてのL1のF3モジュールは、FGFR1よりも長いタンパク質を構成しているので、FGFR1への結合に関与するL1の部分を特定することに関心があった。L1の3型フィブロネクチンの二次構造は、ベータサンドウィッチを形成するために折り畳まれた、それぞれ、7個の逆平行ベータストランドA、C、E、GおよびB、D、Fを含む2個のベータシートからなる。最近、NCAMのF3モジュール間の結合が、NCMAのF3IIモジュールのN末端およびF3IモジュールのC末端に近い、F3IIのFおよびGベータストランド間のループに相当するNCMAの領域で起こることが証明された(Kiselyov et al., 2003)。NCAMおよびL1は、構造的に相同なタンパク質であるので、L1とFGFR1間の結合が、また、NCAMとFGFR1間の結合モデルと同様に、L1のF3モジュールのループ領域で起こることが示された。したがって、L1 F3モジュールの30個全ての領域を(図6)、ペプチドとして産生し、ペプチドとFGFR1間の結合を、SPR解析を用いて試験した。図7Aから、F3IモジュールのCおよびDベータストランド(F1CDL-ペプチド、APEKWFSLGKV (配列番号1))間、F3IIモジュールのBおよびCベータストランド(F2BCL-ペプチド、DWNAPQIQYRVQWR (配列番号2))間、F3IIIモジュールのAおよびBベータストランド(F3ABL-ペプチド、DLAQVKGHLRGYN (配列番号3))間、F3IIIモジュールのCおよびDベータストランド(F3CDL-ペプチド、RHVHKSHMVVPAN (配列番号4))間、F3VモジュールのBおよびCベータストランド(F5BCL-ペプチド、AA: RFHILFKALPEGKVSPD (配列番号5))間ならびにF3VモジュールのFおよびGベータストランド(F5FGL-ペプチド、AA: LHHLAVKTNGTG (配列番号6))間のループ領域に相当するペプチドが、FGFR1のIgモジュールII-IIIに結合することが理解できる。FGFR1のIgIIおよびIgIIIモジュールの両方が、L1とFGFR1間の結合に関与し得るので、FGFR1の単一モジュールに対するペプチドの結合を調べることに関心があった。SPR実験の同じ設定を、6個中4個のペプチド(F1CDL-、F2BCL-、3CDL-、および5BCL-ペプチド)が、FGFR1のIgIIモジュールに結合することを証明するために使用した(図7B)。これらのデータは、L1とFGFR1間の結合に関与するL1のフィブロネクチンモジュールにおいて、6個の結合サイトが存在し得ることを証明している。
【0214】
3.5 FGFR1に結合するペプチドは、受容体を活性化し、神経突起伸張を刺激する
F3モジュールのいくつかのループ領域を示すペプチドが、FGFR1に結合したので、それらが、FGFR1を活性化し得ることを提案した。それが、本当か否かを調べるために、F3によるFGFR1の活性化を調べるための同じ方法を、ペプチドに関して使用した。図8から、F1CDL、F2BCL、F3ABL、F5BCLおよびF5FGLペプチドは、コントロールペプチド(F1BCL-ペプチドを、それが、FGFR1に結合せず、受容体の濃度依存性リン酸化を示さなかったので、ネガティブコントロールとして使用した)と比較して、受容体のリン酸化レベルを有意に増加させるように見える。同時に、F3CDLペプチドは、FGFR1のリン酸化に対するかなり小さい効果を証明した。
【0215】
FGFR1は、ぺプチドにより活性化されたので、我々は、それらが、上記のL1のF3モジュールの特性を模倣し、神経突起伸長を刺激し得ることを示した。同じ方法を、F1CDL、F2BCL、F3ABL、F5BCLおよびF5FGLペプチド(FGFR1のリン酸化レベルを増やすペプチド)が、神経突起伸長を刺激することを示すために使用したが、F3CDLおよびF1BCLペプチド(後者は、FGFR1に結合しなかった)は、コントロールと比較して、神経突起伸長応答を生じなかった(図9)。
【0216】
これらのデータに基づいて、我々は、L1のF3モジュールとFGFR1間の結合モデルを提案した(図10;FGFR1の二量体は、FGFR1の結晶構造に基づくモデルであった; Pellegrini et al., 2000)。F3モジュールが、そのようなコンパクトな構造を有し得るか否かを検討し得る。したがって、タンパク質の考え得る構造は、ゲルろ過クロマトグラフィーに基づいて推定した。図11から、L1のF3モジュールは、ゲルろ過をPBSプラス1 M NaClで行うときよりもより遅く、PBSでSuperdex 200 pgカラムから溶出し、一方で、BSAの溶出時間は、両バッファーで同じであったことを理解できる。これらのデータは、L1のF3モジュールが、上記のL1とFGFR1間の結合モデルにしたがって、相対的にコンパクトな構造を有し得ることを示している。
【0217】
4. 考察
我々は、ここで、神経細胞接着分子L1とFGFR1間の相互作用の最初の直接的な証拠を提供する。さらに、我々は、この相互作用でのATPの制御役割を証明する。
【0218】
SPR解析を用いて、我々は、L1膜近接F3モジュールI-Vが、3.246±0.452 μMのKdでFGFR1膜近接IgモジュールII-IIIに結合することを示した。FGFR1とL1の近接結合は、また免疫沈降により生細胞で証明した。
【0219】
L1 F3モジュールを用いた細胞の刺激は、FGFR1のリン酸化を増加させた。これは、該モジュールが、どのようにしてFGFR1活性化を誘導するのかという疑問を生じる。1つの説明は、FGFR1が、非常に低い親和性ではあるが、二量体化する能力を有することであり得る。これは、動的平衡を生じ、FGFR1分子の小片が、一時的に二量体を形成し、その結果、低いバックグラウンドレベルのFGFR1リン酸化を生じる。任意のリガンドのFGFR1結合は、わずかに二量体化を変えて、結合または解離に対する平衡を移し得る。したがって、我々は、F3モジュールのFGFR1への結合は、結合に対して平衡を移し得て、結果として、FGFR1リン酸化を増やすと推測する。
【0220】
FGFR1に結合し、活性化することに加えて、F3モジュールは、L1の特徴的機能:神経突起の伸張を模倣することができる。F3モジュールによる細胞の刺激は、L1刺激神経突起伸張の阻害剤、FGFR1阻害剤SU5402により妨害し得て、このことは、さらに、該モジュールが、FGFR1と相互作用するという考えを支持する。
【0221】
SPR解析を用いて、我々は、ATPが、F3モジュールのFGFR1 IgモジュールII-IIIへの結合を促進することを観察した。我々はまた、ATPが、神経突起の伸張におけるF3モジュールの刺激効果を調節することを証明した。この効果は、神経突起伸張を刺激するために使用されたL1 F3モジュールの濃度に依存する。タンパク質の濃度が、神経突起伸長誘導に関する最大の効果を有するものに相当するとき(図5)、ATPは、阻害的に作用する。一方で、タンパク質の濃度がより低いとき、ATPは、神経突起伸長の誘導を促進する。これは、L1に対する結合および非結合FGFR1間の比率が高すぎると、効果の濃度応答研究にしたがって、神経突起伸長におけるL1の刺激効果の廃止が起こることを示し得る。これらのデータに基づいて、我々は、したがって、L1へのATP結合が、L1-FGFR1相互作用を促進し、L1の実際の濃度に依存して、神経突起伸長の刺激または阻害を生じることを示している。
【0222】
実験的に決定したL1-FGFR1相互作用に関する親和性の値(3 μMのKD)は、低いように思われるが、相互作用の親和性が、ATPの添加により増加すると、L1 F3モジュール誘導神経突起伸長の阻害が観察され、このことは、FGFR1とL1間の相互作用の低い親和性が、細胞接着分子L1およびNCAMの内在する特性であり得ることを意味する(後者は、およそ同じFGFR1への親和性を有する; Kiselyov et al., 2003)。
【0223】
我々の研究は、以前に証明されていないL1仲介神経突起伸長でのATPの制御役割を明らかにするが、一連の研究は、NCAMおよび他の神経接着分子が外ATPase活性を有し、ATPは、FGFR1へ結合するNCAMを阻害するように見えることを示した(Dzhandzhugazyan and Bock, 1997; Kiselyov et al., 2003)。
【0224】
L1は、細胞外部分に11個のモジュールを有する非常に長い分子である。L1のループ領域を模倣する合成ペプチドを用いて、我々は、L1とFGFR1間の結合に関する考え得るモデルが、F3モジュールのコンパクトな構造を必要とすることを証明した。L1の第1 Igモジュールの馬蹄形を示している他の研究(Su et al. 1998; Freigang et al. 2000)と共に、ゲルろ過実験は、11個すべてのL1のモジュールが、コンパクトな形態を有することを推定するのを可能にする。
【0225】
成長円錐のL1と周囲の細胞で発現しているL1間の同種相互作用は、おそらく、成長円錐でのL1クラスター化を生じ、次いで、局所的に、L1とFGFR1の濃度間の比率を増加させ、したがって、軸索伸長を刺激する環境を提供する。ATPは、CNSで豊富な神経伝達物質である。したがって、成長円錐が標的に到達し、シナプス接触が形成されると、シナプスからのATPの放出が、L1とFGFR1間の結合を制御し得て、よって、もはや必要がない新しく形成されたシナプス接触の領域で軸索伸長に影響を与え、例えば、阻害し得る。逆に、ATP放出は、L1-FGFR1相互作用および次の相対的にL1分子の密度が低い領域でのシグナル伝達を引き起こし得る。
【0226】
したがって、我々の結果は、L1とFGFR1間の直接の相互作用に関する証拠を提供し、ATPが、L1-FGFR1相互作用の制御を介したL1誘導軸索伸張のレギュレーターであることを示している。
【0227】
参照文献
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【0228】
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【0229】
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【図面の簡単な説明】
【0230】
【図1】L1 F3 モジュールI-Vの FGFR1 IgモジュールII-IIIへの結合。結合は、SPR解析の手段により調べた。FGFR1モジュールのおよそ3000共鳴ユニット(RU)をセンサーチップに固定した。合わせた L1 F3モジュールI-Vまたは合わせたNCAM IgモジュールI-II (ctrl)を、特定の濃度でセンサーチップに注入した。結合は、固定化FGFR1モジュールを有するセンサーチップへの結合とブランクセンサーチップへの結合(非特異的結合)間の応答差異として特定する。非常に低い非特異的結合のみを、この研究で使用した全ての濃度で、上記のタンパク質に関して検出した。4-5回の独立した実験を、すべてのタンパク質の異なる調製物を用いて行った。
【図2】FGFR1 IgモジュールII-IIIとL1 F3モジュールI-V間の結合のATP誘導による増加の証明。結合は、SPR解析の手段により調べた。FGFR1モジュールのおよそ3000共鳴ユニット(RU)をセンサーチップに固定した。ATP(AMP-PCP、AMPまたはGTP)の各濃度に関して3回の独立した実験を行った。A、B、C、D) ATP (A)、AMP-PCP (B)、AMP (C)およびGTP (D)の異なる濃度での存在下での、14μMモジュールI-VのFGFR1モジュールへの結合。
【図3】FGFR1 IgモジュールII-IIIとL1 F3モジュールI-V間の結合におけるATP、AMP-PCP、GTP、AMPの効果の証明。A)ATP、AMP-PCP、GTPまたはAMPの添加前(Ctr)および添加後のF3モジュールとFGFR1間の平衡解離定数KD。B)FGFR1へのF3モジュールの結合の開始結合速度V0対ATP濃度のプロットは、F3モジュールとATP間の相互作用の平衡解離定数KDを計算するために使用した。
【図4】FGFR1のリン酸化におけるL1 F3モジュールI-Vの効果およびFGFR1によるL1の免疫沈降。A) C末端StrepII-タグを含むFGFR1で安定的にトランスフェクトしたTREX/FLP-IN細胞を、何もなし(レーン1)、4 mM (レーン2)、10 mM (レーン3)および30 mM (レーン4)のL1 F3モジュールI-Vで、15分間刺激した。刺激後、FGFR1を、抗ホスホチロシン抗体を用いて免疫精製し、次いで、StrepII-タグに対する抗体を用いて、イムノブロッティングにより解析した。B) C末端StrepII-タグを含むFGFR1で安定的にトランスフェクトしたTREX/FLP-IN細胞を、25 mM NCAM IgモジュールI-II (コントロールとして、レーン1)および10 mM L1 F3モジュールI-V (レーン2)で、25分間刺激した。全部で9回の実験を行った。すべての実験は、L1 F3モジュールI-Vでの処理で、FGFR1のリン酸化を示す。
【図5】小脳神経細胞からの神経突起伸張におけるL1 F3モジュールI-Vの効果。A) 神経突起の長さ対F3モジュールI-Vの濃度。B) 4mM F3モジュールI-Vにより誘導される神経突起伸張におけるFGFR1阻害剤、SU5402の効果。C、D) 様々な濃度のATP(C)またはAMP-PCP(D)の存在下での、4mM F3モジュールI-Vで刺激した神経細胞。E、F) 様々な濃度のATP(E)またはAMP-PCP(F)の存在下での、1mM F3モジュールI-Vで刺激した神経細胞。4回の独立した実験を行った。エラーバーは、平均の1つの標準誤差を表す。*および**は、Ctrと比較して、それぞれp<0.05およびp<0.01の統計的有意を表す。+、++および+++は、最大の応答と比較して、それぞれp<0.05、p<0.01およびp<0.001の統計的有意を表す。
【図6】L1 F3ドメインI-Vのループ領域を示すペプチドの配列。F3 I-Vモジュールのすべてのループを示す30個のペプチドを合成し、L1とFGFR1間の結合サイトをマップするために使用した。隣接したベータストランドの部分と共に、F3 I-Vモジュールのループ領域を示す。
【図7】FGFR1とL1 F3モジュールI-Vに由来するペプチド間の結合の証明。結合は、SPR解析により調べた。FGFR1モジュールのおよそ3000共鳴ユニット(RU)を、センサーチップに固定した。3回の独立した実験を行った。A) FGFR1モジュールII-IIIに結合するペプチド(F1CDL- (8mM)、F2BCL- (8mM)、F3ABL- (40mM)、F3CDL- (2mM)、F5BCL- (80mM)、およびF5FGL- (80mM)ペプチド)。B) FGFR1モジュールIIに結合するペプチド(F1CDL- (16mM)、F2BCL- (16mM)、F3CDL- (8mM)、およびF5BCL- (130mM)ペプチド)。
【図8】FGFR1のリン酸化におけるFGFR1に結合したペプチドの効果。リン酸化レベル対FGFR1に結合するペプチドの濃度。4回の独立した実験を行った。エラーバーは、平均の1つの標準誤差を表す。*、**および***は、PBSと比較して、それぞれp<0.05、p<0.01およびp<0.001の統計的有意を表す。+、++および+++は、ネガティブコントロール(FGFR1に結合せず、受容体ペプチドの濃度依存性リン酸化を示さなかった、F1BCL-ペプチド)と比較して、それぞれp<0.05、p<0.01およびp<0.001の統計的有意を表す。
【図9】小脳神経細胞からの神経突起伸張におけるFGFR1に結合したペプチドの効果。神経突起の長さ対FGFR1に結合したペプチドの濃度。4つの独立した実験を行った。エラーバーは、平均の標準誤差を表す。*および**は、Ctr(PBS)と比較したときの、各々p<0.05およびp<0.01の統計的な有意を表す。
【図10】L1とFGFR1間の結合モデル。L1 F3モジュールの考えられるコンパクトな構造を提案し、そこでは、印をつけた領域が、FGFR1に結合し、神経突起伸張および受容体のリン酸化を刺激するペプチドに相当する。FGFR1の二量体の構造は、FGFR1の結晶構造から取得する(Pellegrini et al., 2000)。
【図11】L1 F3ドメインI-Vのコンパクトな構造の可能性を証明するゲルろ過実験。A) PBS(青色)中およびPBS+1M NaCl(赤色)中、Superdex 200 pgゲルろ過カラムを用いた、L1 F3ドメインI-Vのゲルろ過。B) PBS(青色)中およびPBS+1M NaCl(赤色)中、BSAのゲルろ過。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5から105個のアミノ酸残基のアミノ酸配列を含む繊維芽細胞成長因子受容体(FGFR)と相互作用できる化合物であって、式:
x--(x)n-xp-(x)n-x-
[式中、
x-は、塩基性アミノ酸残基であり、
xpは、疎水性アミノ酸残基であり、そして
(x)nは、任意のアミノ酸残基の配列である(ここで、nは、0から3の整数である)]
のアミノ酸モチーフを含む、化合物。
【請求項2】
アミノ酸モチーフが、FGFR結合モチーフである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
アミノ酸モチーフが、下記のアミノ酸モチーフ:
KxxxLxK、RxxxLxK、KxLxxxK、HxLxxK、RxxWR、KxxLR、RxVxxH
(ここで、K、L、R、H、WおよびVは、アミノ酸残基K、L、R、H、WおよびVに相当し、そしてXは、任意のアミノ酸残基である)
のいずれか1つである、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
少なくとも1個のxが、塩基性アミノ酸残基、親水性アミノ酸残基またはGである、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
塩基性アミノ酸残基が、Hである、請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
親水性アミノ酸残基が、QまたはSである、請求項4に記載の化合物。
【請求項7】
i)神経細胞接着分子L1の第1のIII型フィブロネクチン(Fn3,1)モジュールまたはその断片、および/または
ii)神経細胞接着分子L1の第2のIII型フィブロネクチン(Fn3,2)モジュールまたはその断片、および/または
iii)神経細胞接着分子L1の第3のIII型フィブロネクチン(Fn3,3)モジュールまたはその断片、および/または
iv)神経細胞接着分子L1の第4のIII型フィブロネクチン(Fn3,4)モジュールまたはその断片、および/または
v)神経細胞接着分子L1の第5のIII型フィブロネクチン(Fn3,5)モジュールまたはその断片
を含む、請求項1-6のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項8】
L1 Fn3,1および/またはL1 Fn3,2、および/またはL1 Fn3,3、および/またはL1 Fn3,4、および/またはL1 Fn3,5の断片であり、ここで、該断片が、請求項1-6のいずれか1項に記載のFGFR結合モチーフを含む5-7個のアミノ酸残基のアミノ酸配列を含む、請求項1-7のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項9】
断片が、3から90個のアミノ酸残基を含む、請求項8に記載の化合物。
【請求項10】
APEKWFSLGKV (配列番号1)、
DWNAPQIQYRYQWR (配列番号2)、
DLAQVKGHLRGYN (配列番号3)、
RHVHSHMVVPAN (配列番号4)、
RFHILFKALPEGKVSPD (配列番号5)または
LHHLAVKTNGTG (配列番号6)
から選択されるアミノ酸配列または断片、その変異型の少なくとも1個を含む、請求項1-9のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項11】
配列番号1-6のアミノ酸配列またはその断片もしくはその変異型から選択される少なくとも1個のアミノ酸配列からなる、請求項10に記載の化合物。
【請求項12】
配列番号1のアミノ酸配列、またはその断片もしくは変異型からなる、請求項11に記載の化合物。
【請求項13】
配列番号2のアミノ酸配列、またはその断片もしくは変異型からなる、請求項11に記載の化合物。
【請求項14】
配列番号3のアミノ酸配列、またはその断片もしくは変異型からなる、請求項11に記載の化合物。
【請求項15】
列番号4のアミノ酸配列、またはその断片もしくは変異型からなる、請求項11に記載の化合物。
【請求項16】
配列番号5のアミノ酸配列、またはその断片もしくは変異型からなる、請求項11に記載の化合物。
【請求項17】
配列番号6のアミノ酸配列、またはその断片もしくは変異型からなる、請求項11に記載の化合物。
【請求項18】
配列番号1-6の配列から選択される2個またはそれ以上のアミノ酸配列、または該配列の2個またはそれ以上の断片もしくは変異型を含む、請求項10に記載の化合物。
【請求項19】
配列番号1-6の配列から選択されるアミノ酸配列の2個の同一のコピー、または選択した配列の2個の同一の断片もしくは変異型(ここで、該アミノ酸配列、断片または変異型)を含む、請求項18に記載の化合物。
【請求項20】
化合物が、配列番号1-6の配列から選択されるアミノ酸配列の4個の同一のコピー、または選択した配列の4個の同一の断片もしくは変異型(ここで、該アミノ酸配列、断片または変異型)を含む、請求項18に記載の化合物。
【請求項21】
2個またはそれ以上の異なるアミノ酸配列を含み、ここで、2個のアミノ酸配列のうち少なくとも1個が、配列番号1-6の配列、またはその断片もしくは変異型から選択される配列である、請求項10に記載の化合物。
【請求項22】
2個の異なるアミノ酸配列を含み、ここで、両方のアミノ酸配列が、配列番号1-6の配列、またはその断片もしくは変異型から選択される、請求項18に記載の化合物。
【請求項23】
アミノ酸配列が、互いにリンカー基を介して結合する、請求項18-22のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項24】
変異型が、配列番号1-6の配列から選択される配列と少なくとも60%の同一性を有し、FGFRに結合可能なアミノ酸配列である、請求項10-22のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項25】
断片が、請求項1-6のいずれか1項に記載のFGFR結合モチーフを含む、請求項10-22のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項26】
FGFRが、繊維芽細胞成長因子受容体1(FGFR1)、繊維芽細胞成長因子受容体2(FGFR2)、繊維芽細胞成長因子受容体3(FGFR3)、繊維芽細胞成長因子受容体4(FGFR4)または繊維芽細胞成長因子受容体5(FGFR5)から選択される、請求項1-25のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項27】
FGFRを活性化することができる、請求項1〜26のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項28】
FGFRシグナル伝達を刺激することができる、請求項27に記載の化合物。
【請求項29】
FGFR1シグナル伝達を刺激する、請求項28に記載の化合物。
【請求項30】
化合物とFGFRの相互作用が、ヌクレオチドにより調節され得る、請求項1-29のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項31】
相互作用を促進する、請求項30に記載の化合物。
【請求項32】
ヌクレオチドが、ヌクレオチド三リン酸である、請求項31に記載の化合物。
【請求項33】
相互作用を弱める、請求項30に記載の化合物。
【請求項34】
ヌクレオチドが、ヌクレオチド一リン酸である、請求項33に記載の化合物。
【請求項35】
神経突起伸張を刺激することができる、請求項1-29のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項36】
細胞生存を刺激することができる、請求項1-29のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項37】
シナプス可塑性を刺激することができる、請求項1-29のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項38】
幹細胞の分化を刺激することができる、請求項1-29のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項39】
学習および/または記憶を刺激することができる、請求項1-29のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項40】
請求項1-39のいずれか1項に定義した少なくとも1個の化合物を含む、医薬組成物。
【請求項41】
組成物が、経口、経皮、筋肉内、静脈内、頭蓋内、髄腔内、脳室内、経鼻または肺内投与のために製剤される、請求項40に記載の医薬組成物。
【請求項42】
投与が継続的である、請求項41に記載の医薬組成物。
【請求項43】
請求項1-39のいずれか1項に記載の化合物の1個またはそれ以上、または請求項40-42のいずれか1項に記載の医薬組成物の有効量を、1個またはそれ以上の薬学的に許容される添加剤もしくは担体と混合することを含む、医薬組成物を製造する方法。
【請求項44】
請求項1-39のいずれか1項に定義した化合物を、人工装具と組み合わせて使用する、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
装置が、神経ガイド(nerve guide)である、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
神経ガイドが、請求項1-39のいずれか1項に定義した少なくとも1個の化合物、または請求項40-43のいずれか1項に定義した医薬組成物を含むことを特徴とする、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
神経突起伸長、細胞生存、シナプス可塑性、幹細胞分化および/または学習ならびに記憶を刺激することが、疾患または状態からの回復に有効である疾患または状態の処置を目的とする医薬の製造のための、請求項1から39のいずれか1項に記載の化合物の使用。
【請求項48】
医薬が、中枢および末梢神経系の疾患または状態、術後神経損傷、外傷性神経損傷、障害された神経繊維の髄鞘形成、虚血後損傷、多発脳梗塞性認知症、多発性硬化症、糖尿病に付随する神経変性、神経筋変性、統合失調症、気分障害、躁鬱病、アルツハイマー病、パーキンソン病、またはハンチントン病の処置を目的とする、請求項47に記載の使用。
【請求項49】
医薬が、神経-筋結合の障害された機能を有する状態を含む筋肉の疾患または状態の処置を目的とするか、または生殖腺、膵臓または腎臓の疾患または変性状態の処置を目的とする、請求項47に記載の使用。
【請求項50】
医薬が、心筋細胞の細胞死を妨げるための、請求項47に記載の使用。
【請求項51】
医薬が、血管再生を目的とする、請求項47に記載の使用。
【請求項52】
医薬が、創傷治癒の促進を目的とする、請求項47に記載の使用。
【請求項53】
化合物および/または医薬組成物が、血管新生を阻害できる、請求項47に記載の使用。
【請求項54】
医薬が、癌の処置を目的とする、請求項47または53に記載の使用。
【請求項55】
医薬が、学習する能力ならびに/または短期および/もしくは長期記憶の刺激を目的とする、請求項47に記載の使用。
【請求項56】
医薬が、細胞の増殖および/または分化および/または再生および/または形態学的可塑性を調節できる、請求項47に記載の使用。
【請求項57】
配列番号1-6から選択されるアミノ酸配列を含むエピトープを認識し、結合できる、抗体。
【請求項58】
FGFRを活性化することが処置のために有効である状態または疾患を処置する方法であって、それを必要とする個体に、請求項1-39のいずれか1項に記載の化合物または請求項40-43のいずれか1項に記載の医薬組成物を投与することを含む、方法。
【請求項59】
状態または疾患が、請求項47-56のいずれか1項に定義したとおりである、請求項58に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2009−511613(P2009−511613A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−535887(P2008−535887)
【出願日】平成18年10月16日(2006.10.16)
【国際出願番号】PCT/DK2006/000580
【国際公開番号】WO2007/045243
【国際公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(503214070)エンカム ファーマシューティカルズ アクティーゼルスカブ (8)
【Fターム(参考)】