神経障害または神経変性障害の処置
本発明は、神経障害または神経変性障害、特に脳卒中を処置するための、クリングルタンパク質またはペプチドからなるタンパク質またはペプチドおよびその使用に関する。本発明はまた、NMDA受容体サブユニットNR1のN末端ドメインに結合する単離された抗体またはその断片(抗NR1抗体)(ここで、前記抗体またはその断片の結合は前記NR1サブユニットの細胞外ドメインまたはその断片の切断を妨げる)、および神経障害または神経変性障害、特に脳卒中を処置するためのその使用に関する。本発明はさらに、前記クリングルタンパク質もしくはペプチドまたは抗NR1抗体を含有する薬学的組成物に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経障害または神経変性障害の処置のための方法に関する。より具体的には、本発明は、神経障害または神経変性障害の結果、有害な影響を受ける神経細胞および/または血液脳関門の保護に関する。本発明は、欧州特許出願09 011 149.3の優先権を主張し、上記欧州特許出願09 011 149.3は、本明細書によって、開示に関して全てが援用される。
【背景技術】
【0002】
脳卒中は、年間約600万人が死亡している成人死および身体障害の主因であり、高齢者人口の増加によって、今後10年間は憂慮すべき発生率が予測される。脳虚血の細胞および分子病態生理学の理解は著しく前進してきたが、組換え組織型プラスミノーゲン活性化因子(rt−PA)は依然として虚血性脳卒中に対する唯一の承認された急性期処置薬である。これまで何百もの化合物が虚血性脳卒中の臨床治験において試験されているが、rt−PAを除いて効果的であると判明したものは1つもない。
【0003】
rt−PAの使用は、処置ウィンドウ(window)が短いこと(発症後4.5時間)、および脳内出血と神経毒性の両方が助長されることにより限定されている。したがって、rt−PA誘導血栓溶解の包括的利益を改善し、血栓溶解法に適格ではない脳卒中患者(すなわち、脳卒中患者のうちの80%超)に処置を施すためには、さらに安全でさらに効果的な処置法に対する重大な必要性が存在する。
【0004】
T−PAは、血管内腔において、血液と脳の界面で、および脳実質において重要な役割を示す2つの顔を持つセリンプロテアーゼである(総説については、非特許文献1)。血管内コンパートメントにおいて、t−PAの主要な基質は不活性チモーゲンプラスミノーゲンであり、その主要な役割は線維素溶解を促進することである。血液由来t−PAは、無傷の血液脳関門(BBB)でも損傷した血液脳関門でも通過することができ(非特許文献2、非特許文献3)、したがって、内因的に産生されるt−PAとともに、脳実質において様々な基質と相互作用でき、こうして、t−PA/プラスミン(プラスミノーゲン)駆動細胞外マトリックス分解を超えてその機能を拡張することができる。
【0005】
t−PAとNメチルDアスパラギン酸受容体(NMDAR)、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質(LRP)、グリア細胞におけるアネキシンIIおよび/または神経細胞活性化細胞シグナル伝達過程と間の相互作用により、脳浮腫、出血性変化および細胞死を含む有害な結果をもたらすことを示す証拠が増えている。t−PAのこれら複数の病態生理学的作用に基づいて、内在性t−PAの関与(外因的に適用されるrt−PAの副作用により支持されている)が、てんかん、アルツハイマー病、多発性硬化症または髄膜炎などのいくつかの神経障害または神経変性障害について、虚血性障害における確立した役割を超えて議論されている。
【0006】
t−PAの複雑な挙動に従って、t−PAの有害な影響を阻害するためのいくつかの分子戦略を考えることが可能である。しかし、臨床的状況に移すことが可能である戦略はまだ見あたらない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Yepes et al., Trends Neurosci 2009; 32(1): 48−55
【非特許文献2】Benchenane et al., Circulation 2005, 111(17): 2241−2249
【非特許文献3】Benchenane et al., Stroke 2005, 36(5): 1065−1070
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、神経障害または神経変性障害、特に脳卒中の処置のための新規の手段を提供することである。
【0009】
この目的は、請求項1に記載の方法により解決される。本発明の追加の実施形態は、追加の独立請求項または従属請求項の主題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、クリングルドメインを含むかもしくはそれからなるタンパク質またはNMDA受容体のNR1サブユニットのアミノ末端ドメインに特異的に結合する抗体(抗ATD−NR1抗体)は、2つのt−PA関連標的部位、すなわち血液脳関門およびNMDA受容体で活性であり、その結果、血管保護および神経保護活性を示すことを見出した。
【0011】
したがって、抗ATD−NR1抗体(またはその抗原結合断片)およびクリングルドメイン含有タンパク質もしくはペプチド(以下、「クリングルタンパク質」および/または「クリングルペプチド」)はともに「t−PAインヒビター」と呼ばれる。
【0012】
下に示されることになるように、動物モデルからの結果により、本発明のt−PAインヒビターは、t−PAと一緒に与えられる場合だけではなく、単独で投与される場合も効果的である。さらに、t−PAインヒビターは、血餅形成後に与えられた場合血栓性障害において有益効果を示し、それゆえに、血栓症の急性期処置または後急性期処置が可能になる。
【0013】
したがって、本発明は、神経障害または神経変性障害、特に脳卒中の処置のための医薬品の製造のためのタンパク質またはペプチドの使用であって、前記タンパク質またはペプチドが、
(a)
(i)配列番号1、配列番号2もしくは配列番号3に記載のアミノ酸配列、または
(ii)配列番号3に記載のアミノ酸配列と少なくとも70%の同一性、好ましくは80%、さらに好ましくは90%、もっとも好ましくは95%の同一性を有するアミノ酸配列、または
(iii)配列「CY−X3−G−X2−YRGTXS−X2−ES−X3−C−X2−WNS−X2−L−X4−Y−X4−PXA−X2−LGLGXHNYCRNP−X4−KPWCXVXK−X6−EXC−X2−PXC」(Xは任意のアミノ酸を示す)により定義されるプラスミノーゲン活性化因子関連クリングル(PARK)モチーフと少なくとも90%の同一性、好ましくは少なくとも95%もしくは100%の同一性を有するアミノ酸配列、または
(iv)配列「CY−X3−G−X2−YRGTXS−X2−ESR−X2−C−X2−WNS−X2−LXR−X2−Y−X3−MPXAFN−LGLGXHNYCRNPNXAXKPWCXVXK−X3−F−X2−ESC−X2−PXC」(Xは任意のアミノ酸を示す)により定義されるDARKモチーフと少なくとも92%の同一性、好ましくは少なくとも95%もしくは100%の同一性を有するアミノ酸配列
を含むかまたはそれからなる、セリンプロテアーゼ活性を示さないクリングルタンパク質またはペプチド、
あるいは
(b)NMDA受容体サブユニットNR1のN末端ドメインに結合する単離された抗体またはその断片(抗ATD−NR1抗体)であって、前記抗体または前記その断片の結合が前記NR1サブユニットの細胞外ドメインまたは断片の切断を妨げ、前記NR1は好ましくは
(i)配列番号4もしくは5のアミノ酸配列を有する、
(ii)配列番号6もしくは7のヌクレオチド配列によりコードされる、
(iii)ハイブリダイゼーションが5×SSPE、5×デンハート液および0.5%SDS中55〜60℃で終夜実施される高いストリンジェンシーの条件下で配列番号6もしくは7の核酸分子の相補体に特異的にハイブリダイズする核酸分子である、
単離された抗体またはその断片
からなる群より選択される、使用に関する。
【0014】
本発明者らは、プラスミノーゲン活性化因子関連クリングル(PARK)ドメインのみからなるタンパク質はt−PA輸送インヒビターでもあるという最終証拠により、クリングルドメインを、BBBを通るt−PA輸送の阻害のための関連ドメインとして同定することができた。それゆえに、このドメインを含むかまたはこれからなるタンパク質またはペプチドは血管保護薬(vasoprotectant)および/または神経保護薬(neuroprotectant)として使用することが可能である。これは、デスモテプラーゼ(desmoteplase;Desmodus rotundusプラスミノーゲン活性化因子)DSPAのクリングルドメインに限定されず、他のプラスミノーゲン活性化因子のクリングルドメインにも適用される。なぜならば、異なるプラスミノーゲン活性化因子のクリングルドメインがrt−PAのトランスBBB輸送を阻害することができることが見出されたからである。
【0015】
それゆえに、本発明は、神経障害の処置のためのプラスミノーゲン活性化関連クリングル(PARK)ドメインまたはデスモテプラーゼ活性化因子関連クリングル(DARK)ドメインを有するタンパク質の使用に関する。特に、これらのタンパク質は血管保護薬および/または神経保護薬として用いることが可能である。
【0016】
前記クリングルタンパク質の保護活性は、そのプロテアーゼ活性に起因するものではない。それゆえに、本発明のタンパク質は、プラスミノーゲン活性化因子により一般的に共有されるセリンプロテアーゼ活性を示さない。
【0017】
このことは、BBB進入のインビトロモデルにおいて本発明者らにより明らかにすることができた。本明細書では、rt−PAの輸送は、プラスミノーゲン活性化因子デスモテプラーゼによってだけではなく、不活化されたいわゆる「クロッグ(clogged)」DSPA(cDSPA)によってもブロックすることが可能であることが実証された。不活化DSPAは、t−PAのプラスミノーゲン活性化能力を増大することもないし、t−PAのプラスミノーゲン活性化、したがって血餅溶解効力を妨害することもないために、これにより新しい治療アプローチへの道が開かれた。むしろ、不活化DSPAは、t−PA関連血栓溶解物の有害な副作用のみを阻害する。さらに、不活化DSPAは、NMDA受容体のNR1サブユニットを切断することができず、それゆえ、自身により神経毒性の危険をもたらすことはない。
【0018】
さらに、本発明者らは、rt−PAとクロッグDSPA(または単離され精製されたクリングルドメイン)の共インキュベーションは、血液脳関門に毒性作用を及ぼさないことを明らかにすることができた。
【0019】
クリングルは、3つのジスルフィド結合により形成されるトリプルループポリペプチド構造体である。クリングルは、約79から82アミノ酸基まで長さが変動する。高度な配列相同性は、ヒトウロキナーゼの単一クリングル(Guenzlerら、Hoppe−Seyler’s Z. Physiol. Chem. 363巻、1155頁、1982年)、ヒト組織プラスミノーゲン活性化因子の2つのクリングル(Pennicaら、Nature、301巻、214頁、1983年)、ヒトプロトロンビンの2つのクリングル(Walzら、Proc. Nat’l.Acad. Sci. USA、74巻、1969頁、1977年)およびヒトプラスミノーゲンの5つのクリングル(Sottrup−Jensenら、in Progress in Chemical Fibrinolysis and Thrombolysis (Davidsonら編)、3巻、191頁、1978年)間で共有されている。クリングル内ジスルフィド架橋に関与している6つのシステインの相対位置はすべてのクリングルで保存されている。
【0020】
本出願において使用される用語「プラスミノーゲン活性化因子関連クリングルドメイン」(PARKドメイン)とは、配列「CY−X3−G−X2−YRGTXS−X2−ES−X3−C−X2−WNS−X2−L−X4−Y−X4−PXA−X2−LGLGXHNYCRNP−X4−KPWCXVXK−X6−EXC−X2−PXC」(Xは任意のアミノ酸を示す)(図1B)により定義されるプラスミノーゲン活性化因子関連クリングル(PARK)モチーフと少なくとも90%の同一性、好ましくは少なくとも95%もしくは100%の同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質またはペプチドのことである。
【0021】
この用語は特に、配列番号1、配列番号2および配列番号3のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるタンパク質を包含する。1つまたは複数のアミノ酸が付加されていたり、欠失していたり、または置換されていたりする場合がある、これらのタンパク質のクリングル領域における多形性形態は天然に存在しうることも理解されている。タンパク質における類似の変化はまた、遺伝子の点変異という現代技術の出現により、または任意の望ましい配列を有する遺伝子の化学的合成により、インビトロでもたらされうる。したがって、これらの改変構造(複数可)も、本出願において使用される用語、クリングル(複数可)に含まれる。
【0022】
配列番号1および配列番号2の配列は、組換えt−PA(アルテプラーゼ)のクリングル1および2ドメインのアミノ酸配列を示している。配列番号3は、デスモテプラーゼ(DSPAアルファ1)のクリングルドメインのアミノ酸配列を示している。
【0023】
【化1】
前記ペプチドまたはタンパク質に好ましい他のクリングルドメインには、ウロキナーゼおよびプロトロンビン由来のクリングルドメインが挙げられる。
【0024】
本明細書で使用されるように、「DARKドメイン」は、図1Bに与えられるDSPAアルファ1のクリングル配列から生じる以下のアミノ酸配列モチーフ:
CY−X3−G−X2−YRGTXS−X2−ESR−X2−C−X2−WNS−X2−LXR−X2−Y−X3−MPXAFN−LGLGXHNYCRNPNXAXKPWCXVXK−X3−F−X2−ESC−X2−PXC(Xは任意のアミノ酸を示す)と少なくとも90%の同一性、好ましくは少なくとも95%または100%の同一性のアミノ酸配列を有するペプチドとして定義される。
【0025】
本発明の追加の態様では、クリングルタンパク質は、それぞれ図1Bまたは図1AのDARKまたはPARKドメインのいずれかのアミノ酸配列からなる。
【0026】
【化2】
本発明のクリングルタンパク質は、好ましくは、200アミノ酸(aa)を超えない、好ましくは150aaを超えない、もっとも好ましくは100aaを超えない長さを有し、上記のPARKまたはDARKモチーフを含む。これは82aaの長さを有する。
【0027】
クリングルタンパク質は、さらに、本明細書で使用される82aaクリングルドメインの番号付けに従って、好ましくはアミノ酸Y36、W62およびH64の存在により定義されるリジン結合部位を含むことができる。
【0028】
本発明のクリングルタンパク質は、好ましくは、少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、もっとも好ましくは少なくとも40%または50%(これは、本発明の実施例A、第2章に記載される方法により評価できる)、哺乳動物における血液脳関門(BBB)を通るt−PA輸送を阻害する。
【0029】
前記t−PAインヒビターは、低密度リポタンパク質(LDL)受容体関連タンパク質(LRP)に特異的に結合することができる。LRPは、t−PA、βアミロイド前駆体タンパク質、アルファ2マクログロブリン、アポリポタンパク質Eエンリッチベータ超低密度(E−enriched beta−very−low−density)リポタンパク質および緑膿菌外毒素Aを含む様々なリガンドに結合する多機能エンドサイトーシス受容体であり、これらの一部はアルツハイマー病などの神経疾患に関係している。LRP結合により、前記タンパク質またはペプチドは、t−PAまたは他のリガンドの前記LRPへの結合をブロックし、それによってBBBを越えるLRP媒介輸送を阻害することができる。
【0030】
さらに、本発明のt−PAインヒビターはNMDA受容体のNR1サブユニットに結合することができる。このNR1結合により、前記t−PAインヒビターは他の基質またはリガンドの前記NR1サブユニットへの結合をブロックし、それによってそのタンパク質分解性切断を阻害することができる。
【0031】
追加の態様では、本発明は、神経障害、特に脳卒中の処置のための、NMDA受容体サブユニットNR1のN末端ドメインまたはその断片に、特に配列番号4または5を含むかまたはそれからなる抗原に、特異的に結合する単離された抗体(抗ATD−NR1抗体)またはその抗原結合部分の使用に関する。
【0032】
追加の実施形態では、本発明の抗体またはその断片は、高ストリンジェンシーの条件下で配列番号6または7の核酸分子の相補体に特異的にハイブリダイズする。この高ストリンジェンシー条件は、たとえば、5×SSPE、5×デンハート液および0.5%SDSにおいて55〜60℃で終夜実施されるハイブリダイゼーションにより提供することができる。
【0033】
本発明者らは、t−PAとNMDA受容体のNR1サブユニットのアミノ末端ドメインの相互作用を標的にする抗体ベースの処置は、脳損傷を制限しBBBの破壊を阻害することにより、脳卒中後の神経学的結果を強く恒久的に改善することができることを今や見出した。
【0034】
抗ATD NR1抗体効果のこの有益な効力は、ヒトにおけるt−PA処置についての観察された時間ウィンドウを再現する能力を有する脳卒中の臨床的に関連するモデルにおいて示された(Orsetら、2007年)。このモデルでは、精製されたマウストロンビンのインサイチューマイクロインジェクションが中大脳動脈において局所的血餅を引き起こし、再現性のある血餅形成、皮質脳損傷および手術関連死亡の欠如(lack of surgery−associated lethality)をもたらす。この血栓症モデルでは、t−PAの効力およびt−PA処置についての時間ウィンドウは、ヒト臨床状況に類似している。要約して言えば、この動物モデルは脳卒中治療の前臨床評価によく適している。
【0035】
抗ATD NR1抗体は、NMDAサブユニットのうちの1つの小部分だけに対するものである。このために、NMDA受容体の生理的機能を妨害せず、NMDA活性のt−PA誘導増強を阻害するだけである、NMDA受容体での特異的介入が可能になる。
【0036】
前記抗体がt−PAに対するものではないという事実から、治療的に投与されるt−PAまたは他のプラスミノーゲン活性化因子は、血栓障害において有益な活性には必須であるその正常な血栓溶解機能を保持することになる。
【0037】
抗ATD NR1抗体は、血栓障害のリスクを抱えているかまたは血栓障害に罹っている患者の受動免疫のために使用することが可能である。適切な抗原を用いる前処置により実現される能動免疫とは対照的に、NMDA受容体でのブロッキング効果は直ちに実現される。血栓障害ではタイミングの良い処置が、好結果への保証となるので、このことは極めて重要である。
【0038】
t−PAおよびグルタミン酸、すなわちNMDA受容体での内在性アゴニストは、記憶と学習過程の根底にあるシナプスの再構築および可塑性において決定的に重要な機能を発揮するので、対応する副作用のリスクは明白である。本明細書で使用される受動免疫では、空間記憶、文脈的および恐怖条件付けを含む認知機能の明白な変化はなかった。このことは、脳保護のこの戦略の優れた安全プロファイルを支持している。
【0039】
t−PAの投与の有害な影響に対する前記抗体の治療効力は、その設計の論理的帰結であると考えられるが、さらに、前記抗体がt−PAの共投与がなくても効果的であることが見出されたことは最も驚きであった。血栓塞栓性脳卒中のマウスモデルにおいて、抗体を用いて処置されたマウスは脳損傷の強い減少を見せた(図12参照;対照と比べて43.3%の保護)。このような保護効果は、このモデルにおける早期rt−PA処置の保護効果に匹敵することは注目すべきである。
【0040】
これらの所見の結果として、抗ATD NR1抗体は内因的に発現されるt−PAを阻害することもできる。
【0041】
それゆえに、本発明に従って、抗ATD NR1抗体は、血栓障害、特に脳卒中の処置のための単独療法(monotherapy)(すなわち、t−PA共処置または他の任意の薬物物質の共投与なし)として使用することが可能である。
【0042】
脳卒中モデルにおける血液脳関門漏洩の分析により、抗ATD NR1抗体単独の早期投与と後期投与の両方が脳卒中により誘導されるBBB漏洩の程度を著しく減少することが明らかにされた。さらに、抗ATD NR1処置は、この脳卒中モデルにおいてBBBの完全性に対するrt−PAの損傷効果を効率的に減少した。さらに、クリングルドメイン含有タンパク質は、BBBのt−PA誘導損傷を防ぐ。
【0043】
それゆえに、本発明の好ましい実施形態では、t−PAインヒビターを、血液脳関門の増強された透過性と関連する神経障害または神経変性障害の処置のために使用することが可能である。これらの障害は、脳卒中またはTIAなどの虚血性または血栓障害、側頭葉てんかん(TLE)などのてんかん、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、脳腫瘍、パーキンソン病、アルツハイマー病、脳浮腫または髄膜炎もしくは脳炎などの寄生虫、細菌、真菌もしくはウイルス感染から生じるCNS合併症を含む。
【0044】
抗体は一般的には、無傷の血液脳関門により脳から効果的に排除され、BBB損傷の場合にのみ脳組織に接近することができると考えられている。驚くべき所見として、脳実質における蛍光抗ATD NR1抗体の免疫染色および定量化により(図22参照)、前記抗体は非手術動物および偽動物において脳に到達することができ、抗体は損傷した半球が明らかに増加している虚血性動物においてはさらに速い速度で脳に到達することが明らかにされた。したがって、現在の考えに反して、本発明は、抗体をBBB損傷がない場合に使用することが可能であることを証明している。外因性t−PAがBBBを高速で通過することができる場合、そのような損傷の存在下では、さらに、前記抗体は、脳組織により大量に到達してNMDA受容体で前記t−PAをアンタゴナイズすることになる。
【0045】
それゆえに本発明に従えば、抗ATD NR1抗体を、BBBの増強された透過性がない障害のために、またはBBBの病態生理学的な透過性増強前でも、治療的有効量の前記抗体が脳実質に存在し、初期に神経細胞を保護する予防的処置としても使用することが可能である。
【0046】
本発明の状況では、前記抗体は、好ましくは配列番号6もしくは7のヌクレオチド配列によりコードされているアミノ酸19〜480をコードするか、または配列番号4もしくは5に開示されるアミノ酸19〜371をコードするNR1−1aサブユニットのN末端領域、あるいは8個〜30個、好ましくは10個〜20個の連続するアミノ酸を含むその断片に対するものであり、前記断片に対する抗体はt−PAによるNR1サブユニットの切断を防ぐ。
【0047】
【化3】
【0048】
【化4】
本発明に従えば、前記抗体は、プロテアーゼによる、好ましくはt−PAによる、もっとも好ましくはアミノ酸残基Arg260でのNR1サブユニットの細胞外ドメインの切断を防ぐ。
【0049】
本発明の一実施形態では、抗ATD NR1抗体は、モノクローナル抗体、好ましくはヒト化抗体、単一ドメイン抗体またはVHH抗体(いわゆるナノボディ)、キメラ抗体または脱免疫化(deimmunized)抗体である。
【0050】
本発明の追加の実施形態に従えば、前記抗体の抗原結合部分、好ましくはscFv分子またはFab断片を使用することが可能である。前記抗原結合部分はヒト化することが可能であるか、またはヒト配列を所有する。
【0051】
血栓塞栓性脳卒中のマウスモデルにおける追加の実験により、抗ATD NR1抗体の治療的関連性の1つの驚くべき面が明らかにされた。後期t−PA血栓溶解は、早期再灌流に匹敵するほどに脳血流量を回復するにもかかわらず、減少ではなく増加した脳損傷と関連していた。しかし、抗ATD NR1抗体を用いて追加で処置されたマウスでは、脳保護は、早期血栓溶解動物において観察されるのと類似する程度に回復された。
【0052】
これらの所見に基づいて、本発明は、患者が治療的有効量の血栓溶解薬と有効量のt−PAインヒビター、特に抗ATD NR1抗体を用いて処置される、神経障害および神経変性障害、特に脳卒中の処置のための方法に関する。本発明は、さらに、血栓溶解薬とt−PAインヒビター、特にNMDA受容体サブユニットNR1のN末端ドメインに対する抗体を含む複合物に関する。
【0053】
したがって、抗ATD NR1抗体は、血栓溶解療法の補助剤として、特に後期t−PA誘導血栓溶解のために使用することができる。
【0054】
本発明者らは、抗ATD NR1抗体の単回静脈内注射が血餅形成後でも高度に保護的であることも実証することができた。血栓塞栓性脳卒中モデルにおける抗ATD NR1抗体の早期送達(血餅形成の20分後)は、このモデルにおける早期rt−PA処置の保護効果に匹敵する著しい脳保護(対照と比べて44%の保護、図16A参照)を与えた。極めて驚くべきことに、抗ATD NR1抗体の遅延注射(血餅形成の4時間後)は、共投与されたt−PAの有害な影響を阻害することができるだけではなく、単独で与えられた場合でも高度に保護的であった。MRI分析により決定される抗ATD NR1抗体の単回後期注射のこのような保護効果は、虚血の24時間後にはすでに目に見えるほどであり、手術の15日後まで維持され(図18A対18B)、それによって脳卒中後に長期の利益を与えた。
【0055】
したがって、本発明の追加の態様では、抗ATD NR1抗体は、神経障害または神経変性障害、特に脳卒中の急性期処置または後急性期処置のために使用することが可能である。この急性期処置または後急性期処置は、単独療法としてあるいは追加の薬物、好ましくは抗凝固剤、抗血小板剤、もしくは血栓溶解薬と、さらに好ましくはt−PAもしくはその改変体またはDSPAアルファ1と組み合わせて実施することが可能である。
【0056】
内因性t−PAの有害な影響は外因的に適用された血栓溶解薬の有益な効果も相殺するために、前記t−PAインヒビターの組合せ使用は、たとえば、DSPAアルファ1などの神経毒性のおよび/または血管毒性の副作用と関連のない血栓薬についての血栓溶解療法の結果さえ改善するはずである。
【0057】
それゆえに、t−PAインヒビターは、BBBともNMDA受容体とも不利に相互作用しないか、または脈管構造にも神経細胞にも有害な影響を与えない血栓溶解薬と組み合わせて与えることが可能である。そのような組合せでは、DSPAアルファ1が好ましい。
【0058】
本発明の追加の実施形態に従えば、前記血栓溶解薬と前記t−PAインヒビターは等モル濃度で与えられる。
【0059】
本発明に従った複合物は、治療的有効量の少なくとも両成分(前記血栓溶解薬と前記t−PAインヒビター)を含む単一調製物を含むことが可能であるか、または、それぞれが少なくとも治療的有効量の成分、すなわち前記血栓溶解薬もしくは前記t−PAインヒビターのうちの1つを含有する2つの別々の調製物を表す。2つの別々の調製物が使用される場合、患者には、同時にまたは続けてのいずれかで投与することが可能である。したがって、両成分はコンビナトリアル調製物として、または、別々の調製物として共に投与することが可能である。適用可能であり適切な場合には、前記調製物は、単回ボーラスとして、または注入として、またはその組合せとして投与することが可能である。複数の連続注入を用いることも可能である。
【0060】
前記t−PAインヒビターおよび前記血栓溶解薬、特にプラスミノーゲン活性化因子は、好ましくは非経口適用として、たとえば、静脈内または皮下適用により非経口的に与えられる。静脈内または皮下ボーラス適用が可能である。このように、本発明に従えば、非経口投与に適している薬学的組成物が提供される。
【0061】
本発明の追加の実施形態では、NR1サブユニットのATDに特異的に結合するナノボディでは経口投与を実施することが可能である。
【0062】
本発明に従えば、前記t−PAインヒビターと組み合わせて、血栓溶解薬、特にt−PAもしくはその改変体またはDSPAアルファ1を使用する療法は、
(a)前記血栓溶解薬、特にプラスミノーゲン活性化因子を、脳卒中の発症から3時間超、好ましくは4.5時間超、好ましくは6時間超およびさらに9時間または12時間超後に患者に投与することが可能であるという特徴;
(b)処置のための血栓溶解薬、特にt−PAの用量は、前記血栓溶解薬を用いた単独療法に推奨される用量と比較して、増加することが可能であるという特徴;
(c)血栓溶解処置を、現在血栓溶解療法が望ましくない患者、すなわち可能な処置が提供される3時間前よりも早く、さらに好ましくは4.5時間前よりも早く脳卒中に罹った患者、または出血のリスクが増大している患者において適用することが可能であるという特徴;
のうちの1つまたは複数を含む。
【0063】
したがって、本発明は、脳卒中の発症から3時間を越えた、好ましくは4.5時間を越えた治療時間ウィンドウ、さらにより好ましくは9時間またはさらに12時間を越えての血栓溶解脳卒中療法を可能にする。
【0064】
こうして、本発明の一態様では、前記t−PAインヒビターを使用して、血栓溶解処置の結果として起こる1つまたは複数の有害な副作用を減少、予防または遅延する。これらの副作用には、頭蓋内出血または脳内出血などの出血が挙げられる。
【0065】
本発明の追加の態様では、前記t−PAインヒビターの適用により、通常それぞれの指示で与えられるレベルを超えて、好ましくは血栓溶解薬の製造業者により推奨される用量を超えて血栓溶解薬の用量を増加することが可能になる。
【0066】
本発明は、様々な血栓溶解薬の使用を可能にする。好ましくは、血栓溶解薬はプラスミノーゲン活性化因子、さらに好ましくは組換えt−PA(rt−PA、たとえば、アルテプラーゼ)または、パミテプラーゼ、ラノテプラーゼ、レテプラーゼ、テネクテプラーゼもしくはモンテプラーゼなどのt−PAの改変体、ウロキナーゼ、またはDSPAアルファ1、DSPAアルファ2、DSPAベータもしくはDSPAガンマなどのDSPA改変体である。
【0067】
上記概略のように、本発明のクリングルタンパク質は、不活化プラスミノーゲン活性化因子、好ましくは、DSPAアルファ2、DSPAベータもしくはDSPAガンマ、ウロキナーゼ、アルテプラーゼまたはレテプラーゼ、パミテプラーゼ、ラノテプラーゼ、レテプラーゼ、テネクテプラーゼもしくはモンテプラーゼなどのt−PAの改変体からなる群より選択される不活化プラスミノーゲン活性化因子により構成されることが可能である。
【0068】
DSPA(Desmodus rotundusプラスミノーゲン活性化因子)の改変体は、米国特許第5,830,849号および米国特許第6,008,019号の主題であり、これら特許文献は参照により本明細書に完全に組み込まれている。
【0069】
特に、不活化DSPAアルファ1を使用することが可能であり、好ましくは上記不活化DSPAアルファ1が自殺基質に、さらに好ましくはD−フェニル−プロリル−アルギニンクロロメチルケトン(PPACK)に連結されている。
【0070】
本発明のこの態様に従えば、前記クリングルタンパク質またはペプチドには、プラスミノーゲン活性化因子または関連するタンパク質に見出される、たとえばフィンガードメイン(F)、上皮増殖因子ドメイン(EGF)もしくはリジン結合部位などの1つもしくは複数のドメイン、領域もしくは触媒部位が含まれる。これらの配列(複数可)の供給源としては、組換えt−PA(rt−PA、たとえばアルテプラーゼ)またはパミテプラーゼ、ラノテプラーゼ、レテプラーゼ、テネクテプラーゼもしくはモンテプラーゼなどのt−PAの改変体、ウロキナーゼ、またはDSPAアルファ1、DSPAアルファ2、DSPAベータもしくはDSPAガンマなどのDSPA改変体が好ましい。追加の実施形態では、異なるプラスミノーゲン活性化因子タンパク質由来のドメイン、領域または触媒部位が互いに組み合わされる。
【0071】
本発明の一つの好ましい態様では、前記クリングルタンパク質またはペプチドは、クリングルドメインまたはその断片のみからなり、前記断片はクリングルドメインの少なくとも8個、好ましくは少なくとも15〜30個の連続アミノ酸を含み、前記ペプチドは、BBBを通過するt−PA輸送を下の第2章の実施例Aに従って評価できるように、少なくとも20%阻害する。
【0072】
本発明の特定の態様では、前記クリングルペプチドは、DSPAアルファ2、DSPAベータまたはDSPAガンマ、ウロキナーゼ、アルテプラーゼ、またはレテプラーゼ、パミテプラーゼ、ラノテプラーゼ、レテプラーゼ、テネクテプラーゼもしくはモンテプラーゼなどのt−PAの改変体由来のクリングルドメインおよび好ましくはDSPAアルファ1由来のクリングルドメインからなる。
【0073】
したがって、本発明はさらに、
(a)配列番号3に記載のアミノ酸配列(DSPAクリングル)、または
(b)配列番号3に記載のアミノ酸配列と少なくとも70%の同一性、好ましくは80%、さらに好ましくは90%、もっとも好ましくは95%の同一性を有するアミノ酸配列、または
(c)配列「CY−X3−G−X2−YRGTXS−X2−ESR−X2−C−X2−WNS−X2−LXR−X2−Y−X3−MPXAFN−LGLGXHNYCRNPNXAXKPWCXVXK−X3−F−X2−ESC−X2−PXC」(Xは任意のアミノ酸を示す)により定義されるDARKモチーフと少なくとも92%の同一性、好ましくは少なくとも95%もしくは100%の同一性を有するアミノ酸配列
を含み、
セリンプロテアーゼ活性を示さず、ただし、t−PAもしくはウロキナーゼのクリングルドメインではなく、自殺基質に共有結合したDSPAアルファ1タンパク質でもt−PAでもない、タンパク質またはペプチドに関する。
【0074】
本発明の別の態様では、単離された抗体またはその断片が、配列番号4もしくは5から選択されるアミノ酸配列により、または配列番号6もしくは7から選択される核酸配列によりコードされるNMDA受容体サブユニットNR1のN末端ドメインに結合するか(抗ATD−NR1抗体)、あるいは代わりに高度にストリンジェンシーな条件下で配列番号6もしくは7の核酸分子の相補体に特異的にハイブリダイズする核酸分子によりコードされるタンパク質に結合する、単離された抗体またはその断片が提供される。高度なストリンジェンシーは、たとえば、5×SSPE、5×デンハート液および0.5%SDSにおいて55〜60℃で終夜実施されるハイブリダイゼーションにより実現することが可能である。
【0075】
本発明に従えば、前記t−PAインヒビターは神経保護薬として使用することが可能である。
【0076】
本発明の追加の態様は、血栓溶解薬を伴なうか、またはそれを伴なわない、前記t−PAインヒビターのうちの1つまたは複数からなる群より選択される薬学的組成物であって、1つまたは複数の薬学的に許容されるキャリアもしくは賦形剤をさらに含みうる薬学的組成物を提供する。
【0077】
本発明の追加の態様では、神経障害または神経変性障害、特に脳卒中を処置する方法であって、治療的有効量の前記t−PAインヒビターを単独で、または治療的有効量の血栓薬、好ましくはプラスミノーゲン活性化因子、さらに好ましくはt−PAと組み合わせて投与することを含む、方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】図1は、PARKドメインに相当する保存、類似のアミノ酸を示すコンピュータベースの3Dモデルである。緑色で強調されているアミノ酸は保存されたアミノ酸を表し、赤色は類似のアミノ酸残基を表示している。
【図2】図2は、DSPAアルファ1のクリングル、ならびにrt−PAのクリングル1およびクリングル2により描かれている例示となるPARKドメインの結合部位である。
【図3】図3は、クロッグDSPAアルファ1の3Dコンピュータベースのモデルである。触媒的に不活性なクロッグDSPAをもたらす、触媒に結合しているD−フェニル−プロリル−アルギニンクロロメチルケトンを含む、リボン表示でのインシリコ法(Swiss Model、GROMOS96、POVRAY)によるMDシミュレーションの4400ピコ秒後のDSPAの構造。水色:フィンガードメイン、赤色:EGFドメイン、黄色:クリングルドメイン、緑色:触媒ドメイン。
【図4】図4は、アルテプラーゼおよびデスモテプラーゼの3Dモデルである。リボン表示でのインシリコ法(Swiss Model、GROMOS96、POVRAY)によるMDシミュレーションのそれぞれ4400ピコ秒後および4000ピコ秒後のDSPAおよびrt−PAの構造。水色:フィンガードメイン、赤色:EGFドメイン、黄色:DSPAのクリングルドメインおよびt−PAのクリングル1ドメイン、青色:t−PAのクリングル2ドメイン、緑色:触媒ドメイン。
【図5】図5は、内皮細胞およびグリア細胞の共培養の模式図である。
【図6】図6は、透過性研究の模式図である。
【図7】図7は、BBB輸送の測定の実験手順である。
【図8】図8は、rt−PA輸送競合(0.3μM)についての酵素電気泳動アッセイである。指示された異なる化合物の存在下での処理の2時間後、反管腔側区画に対応するバス培地(図5参照)は回収され、プラスミノーゲンおよびカゼイン含有酵素電気泳動アッセイに供されて、そのそれぞれの分子量およびプラスミノーゲンを活性化し(37℃で2時間のインキュベーション)続いてカゼイン消化するその能力に基づいてプラスミノーゲン様活性化因子を明らかにした。
【図9】図9は、棒グラフ、左手側軸:DSPA関連分子およびK2(t−PA)有りでのおよびなしでのrt−PAの輸送を示す。前記輸送は、スペクトロザイムアッセイを使用して評価された。線、右手側軸:スクロースの無変化透過性(Peスクロース)である。
【図10】図10は、DSPAによるNMDA媒介神経毒のインビボアンタゴニズムである。NMDA(50nmol)の線条体投与により誘導される神経細胞死の程度に対するrt−PAおよび/またはデスモテプラーゼ(DSPA)(それぞれ1mg/kg)ならびにそのビヒクルの静脈内注射の効果。*P 約0.01、ボンフェローニ較正したANOVA。
【図11】図11は、DSPAによるNMDA媒介およびt−PA増強神経毒のインビボアンタゴニズムである。NMDA(50nmol)の線条体投与により誘導される神経細胞死の程度に対するrt−PAおよび/またはデスモテプラーゼ(DSPA)(それぞれ3μg)の線条体内注射の効果。*P 約0.001、ボンフェローニ較正したANOVA。
【図12−1】図12は、ATD−NR1に対する能動免疫が、rt−PA誘導再灌流を伴なったインサイチュー血栓塞栓性脳卒中のモデルでは保護的であることを示す。(A、C)虚血性病変は、Swissマウス(群あたりn=10)におけるMCAへのトロンビンインサイチュー注入(0.75 U.I)により、組換えrATD−NR1の最後の接種の11日後に実施した。20分後(A)または4時間後(C)、rt−PA(10mg/kg)または生理食塩水を40分かけて注入した(10%ボーラス、90%注入)。脳は24時間後に収集し、脳病変は、チオニン染色されたクリオスタット切片を分析することにより測定した(各群の代表的切片参照)。結果は平均±SDとして表されている。*:p<0.01。(B、D)レーザードップラーにより測定される正規化された脳血流速度は、NMDA受容体NR1サブユニットのATDに対する免疫化が、早期(20分)または後期(4時間)rt−PA投与の再灌流を誘導する能力に影響を与えないことを示した(群あたりn=10、結果はベースライン値に正規化され、平均±SDとして表された。*:p<0.001)。
【図12−2】図12は、ATD−NR1に対する能動免疫が、rt−PA誘導再灌流を伴なったインサイチュー血栓塞栓性脳卒中のモデルでは保護的であることを示す。(A、C)虚血性病変は、Swissマウス(群あたりn=10)におけるMCAへのトロンビンインサイチュー注入(0.75 U.I)により、組換えrATD−NR1の最後の接種の11日後に実施した。20分後(A)または4時間後(C)、rt−PA(10mg/kg)または生理食塩水を40分かけて注入した(10%ボーラス、90%注入)。脳は24時間後に収集し、脳病変は、チオニン染色されたクリオスタット切片を分析することにより測定した(各群の代表的切片参照)。結果は平均±SDとして表されている。*:p<0.01。(B、D)レーザードップラーにより測定される正規化された脳血流速度は、NMDA受容体NR1サブユニットのATDに対する免疫化が、早期(20分)または後期(4時間)rt−PA投与の再灌流を誘導する能力に影響を与えないことを示した(群あたりn=10、結果はベースライン値に正規化され、平均±SDとして表された。*:p<0.001)。
【図13】図13は、rATD−NR1に対して産生されたポリクローナル抗体が、NR1の組換えATDドメインおよび脳実質におけるNMDA受容体NR1サブユニットを認識することができることを示す。(A)20gのNR1の組換えN末端ドメイン(ATD−NR1、アミノ酸19〜371)(ヒスチジンタグまたはFcタグに結合されている)は、抗ATD−NR1ポリクローナル抗体、抗ヒスチジン抗体、抗Fc抗体および対照IGを用いた検出に先立って、SDS−PAGEにより分離された。免疫ブロットは3つの独立した実験を代表している。(B)ヒトおよびマウスの脳皮質由来のタンパク質抽出物は、抗ATD−NR1ポリクローナル抗体またはNMDA受容体NR1サブユニットを認識することができる市販のNR1−ct抗体を用いた検出に先立ってSDS−PAGEにより分離された。免疫ブロットは3つの独立した実験を代表している。
【図14−1】図14は、ATD−NR1に対して産生されたポリクローナル抗体が、t−PA促進NMDA受容体媒介神経毒を防ぐことを示している。神経細胞死割合は、NMDAへの興奮毒性曝露24時間後に評価されるバス培地へ放出されたLDHにより評価した。(A)混合皮質培養物は、NMDA(10μM)単独への、またはrt−PA(20μg/ml)、抗ATD−NR1(0.01mg/ml)もしくはその両方の存在下でNMDAへの長期曝露を受けた。rt−PAは神経細胞死割合の著しい増加を引き起こし、これは抗ATD−NR1によりアンタゴナイズされた。(C)NMDA(50μM)に短期間曝露された混合皮質培養物、他の条件および効果はパネルAと同じ。(B、D)対照は、対照IGの存在下で実施された。実験ごとにN=3;n=12ウェル;p<0.01。
【図14−2】図14は、ATD−NR1に対して産生されたポリクローナル抗体が、t−PA促進NMDA受容体媒介神経毒を防ぐことを示している。神経細胞死割合は、NMDAへの興奮毒性曝露24時間後に評価されるバス培地へ放出されたLDHにより評価した。(A)混合皮質培養物は、NMDA(10μM)単独への、またはrt−PA(20μg/ml)、抗ATD−NR1(0.01mg/ml)もしくはその両方の存在下でNMDAへの長期曝露を受けた。rt−PAは神経細胞死割合の著しい増加を引き起こし、これは抗ATD−NR1によりアンタゴナイズされた。(C)NMDA(50μM)に短期間曝露された混合皮質培養物、他の条件および効果はパネルAと同じ。(B、D)対照は、対照IGの存在下で実施された。実験ごとにN=3;n=12ウェル;p<0.01。
【図15−1】図15は、ATD−NR1に対して産生されたポリクローナル抗体が、t−PA促進NMDA受容体媒介Ca2+流入を防ぐことを示している。rt−PA処理は、皮質神経細胞におけるNMDA誘起Ca++増加を増強した。細胞内遊離Ca2+([Ca2+]i)は、fura−2蛍光ビデオ顕微鏡を使用して測定された。細胞内Ca++撮像実験のための神経細胞を、ガラス底35mm皿に蒔いた。実験は12日目にインビトロで実施した。(A)25μMのNMDAへの30秒間曝露により、神経細胞[Ca2+]iは急速に増加したが、続く数分間かけて回復した。t−PA(20μg/ml)への15分間曝露後、NMDA誘起Ca2+流入は、[Ca2+]iの正味の積分された増加(任意単位で表された曲線下の面積)が37%増強される程度にまで増強された(N=3、n(細胞数)=108;p<0.05)。(B)抗ATD−NR1抗体(0.01mg/ml)とrt−PA(20μg/ml)の共投与は、NMDA誘導Ca2+流入のrt−PA増強を完全にブロックした(N=3、n(細胞数)=108;p<0.01)。(C)対照Ig(0.01mg/ml)とrt−PA(20μg/ml)の共投与は、NMDA誘起Ca2+流入の改変を全く引き起こさなかった(N=3、n(細胞数)=109;p<0.05)。(D)パネルA〜Cに例示される実験の定量化(quantization)。曲線下面積の値は最初のNMDAチャレンジに対して正規化されている。
【図15−2】図15は、ATD−NR1に対して産生されたポリクローナル抗体が、t−PA促進NMDA受容体媒介Ca2+流入を防ぐことを示している。rt−PA処理は、皮質神経細胞におけるNMDA誘起Ca++増加を増強した。細胞内遊離Ca2+([Ca2+]i)は、fura−2蛍光ビデオ顕微鏡を使用して測定された。細胞内Ca++撮像実験のための神経細胞を、ガラス底35mm皿に蒔いた。実験は12日目にインビトロで実施した。(A)25μMのNMDAへの30秒間曝露により、神経細胞[Ca2+]iは急速に増加したが、続く数分間かけて回復した。t−PA(20μg/ml)への15分間曝露後、NMDA誘起Ca2+流入は、[Ca2+]iの正味の積分された増加(任意単位で表された曲線下の面積)が37%増強される程度にまで増強された(N=3、n(細胞数)=108;p<0.05)。(B)抗ATD−NR1抗体(0.01mg/ml)とrt−PA(20μg/ml)の共投与は、NMDA誘導Ca2+流入のrt−PA増強を完全にブロックした(N=3、n(細胞数)=108;p<0.01)。(C)対照Ig(0.01mg/ml)とrt−PA(20μg/ml)の共投与は、NMDA誘起Ca2+流入の改変を全く引き起こさなかった(N=3、n(細胞数)=109;p<0.05)。(D)パネルA〜Cに例示される実験の定量化(quantization)。曲線下面積の値は最初のNMDAチャレンジに対して正規化されている。
【図16−1】図16は、rATD−NR1を標的にする抗体ベースの免疫療法が脳を脳卒中から保護し、rt−PA誘導血栓溶解の治療ウィンドウを増加させることを示している。(A、C)rATD−NR1に対する抗ATD−NR1抗体(0.8mg/ml)の単回静脈内注射は、rt−PA(10mg/kg)による早期(A:20分)もしくは後期(C:4時間)再灌流のどちらかを用いるか(黒色バー)、または再灌流なしでの(生理食塩水注入、白色バー)、インサイチュー血栓塞栓性脳卒中後の内因性および外因性t−PAの増強効果を標的にする(群あたりn=8〜10マウス、p<0.05、*p<0.01)。抗体は、t−PAまたは生理食塩水溶液のボーラス後ボリ(boli)として注入した。(B、D)ベースライン値、レーザードップラーにより測定されベースラインに正規化された脳血流速度は、NMDA受容体NR1サブユニットのATDに対する免疫化が、血餅発症後早期(20分後、B)にまたは後期(4時間後、D)に実行されたrt−PA誘導再灌流に影響を与えないことを示す(群あたりn=8〜10マウス、p<0.001)。
【図16−2】図16は、rATD−NR1を標的にする抗体ベースの免疫療法が脳を脳卒中から保護し、rt−PA誘導血栓溶解の治療ウィンドウを増加させることを示している。(A、C)rATD−NR1に対する抗ATD−NR1抗体(0.8mg/ml)の単回静脈内注射は、rt−PA(10mg/kg)による早期(A:20分)もしくは後期(C:4時間)再灌流のどちらかを用いるか(黒色バー)、または再灌流なしでの(生理食塩水注入、白色バー)、インサイチュー血栓塞栓性脳卒中後の内因性および外因性t−PAの増強効果を標的にする(群あたりn=8〜10マウス、p<0.05、*p<0.01)。抗体は、t−PAまたは生理食塩水溶液のボーラス後ボリ(boli)として注入した。(B、D)ベースライン値、レーザードップラーにより測定されベースラインに正規化された脳血流速度は、NMDA受容体NR1サブユニットのATDに対する免疫化が、血餅発症後早期(20分後、B)にまたは後期(4時間後、D)に実行されたrt−PA誘導再灌流に影響を与えないことを示す(群あたりn=8〜10マウス、p<0.001)。
【図17A】図17は、ATD−NR1に対する抗体ベースの免疫療法が、脳卒中後のrt−PA誘導BBB溢出を妨げることを示している。(A)MCAO24時間後のエバンズブルー色素血管外溢出は偽条件(血餅のないマウス)の平均値に正規化された。脳卒中20分後または4時間後の抗ATD−NR1ポリクローナル抗体(0.01mg/ml)の単回注入は、rt−PA(10mg/kg)と組み合わせたかまたはrt−PA(10mg/kg)のない、脳卒中誘導BBB溢出を減少することができた(群あたりn=3マウス、p<0.05)。この能力はMMP−9活性と連結することができた。(B)MMP−9タンパク質分解活性は、生理食塩水注入によって得られた平均値に対して正規化された。脳卒中20分後または4時間後の抗ATD−NR1ポリクローナル抗体の単回注入は、rt−PA(10mg/kg)と組み合わせたかまたはrt−PA(10mg/kg)なしにおいて、同側の皮質におけるMMP−9活性を減少することができた(群あたりn=3マウス、p<0.05)。パネル(C)はMMP−2およびMMP−9活性の代表的図を示している。MMP−9は生理食塩水およびrt−PA条件下で増加した。もっとも興味深いことに、MMP−2およびMMP−9活性は抗ATD−NR1抗体の単回注入後に減少した。
【図17B】図17は、ATD−NR1に対する抗体ベースの免疫療法が、脳卒中後のrt−PA誘導BBB溢出を妨げることを示している。(A)MCAO24時間後のエバンズブルー色素血管外溢出は偽条件(血餅のないマウス)の平均値に正規化された。脳卒中20分後または4時間後の抗ATD−NR1ポリクローナル抗体(0.01mg/ml)の単回注入は、rt−PA(10mg/kg)と組み合わせたかまたはrt−PA(10mg/kg)のない、脳卒中誘導BBB溢出を減少することができた(群あたりn=3マウス、p<0.05)。この能力はMMP−9活性と連結することができた。(B)MMP−9タンパク質分解活性は、生理食塩水注入によって得られた平均値に対して正規化された。脳卒中20分後または4時間後の抗ATD−NR1ポリクローナル抗体の単回注入は、rt−PA(10mg/kg)と組み合わせたかまたはrt−PA(10mg/kg)なしにおいて、同側の皮質におけるMMP−9活性を減少することができた(群あたりn=3マウス、p<0.05)。パネル(C)はMMP−2およびMMP−9活性の代表的図を示している。MMP−9は生理食塩水およびrt−PA条件下で増加した。もっとも興味深いことに、MMP−2およびMMP−9活性は抗ATD−NR1抗体の単回注入後に減少した。
【図17C】図17は、ATD−NR1に対する抗体ベースの免疫療法が、脳卒中後のrt−PA誘導BBB溢出を妨げることを示している。(A)MCAO24時間後のエバンズブルー色素血管外溢出は偽条件(血餅のないマウス)の平均値に正規化された。脳卒中20分後または4時間後の抗ATD−NR1ポリクローナル抗体(0.01mg/ml)の単回注入は、rt−PA(10mg/kg)と組み合わせたかまたはrt−PA(10mg/kg)のない、脳卒中誘導BBB溢出を減少することができた(群あたりn=3マウス、p<0.05)。この能力はMMP−9活性と連結することができた。(B)MMP−9タンパク質分解活性は、生理食塩水注入によって得られた平均値に対して正規化された。脳卒中20分後または4時間後の抗ATD−NR1ポリクローナル抗体の単回注入は、rt−PA(10mg/kg)と組み合わせたかまたはrt−PA(10mg/kg)なしにおいて、同側の皮質におけるMMP−9活性を減少することができた(群あたりn=3マウス、p<0.05)。パネル(C)はMMP−2およびMMP−9活性の代表的図を示している。MMP−9は生理食塩水およびrt−PA条件下で増加した。もっとも興味深いことに、MMP−2およびMMP−9活性は抗ATD−NR1抗体の単回注入後に減少した。
【図18A】図18は、ATD−NR1を標的にする抗体ベース免疫療法は脳卒中後に長期の利益を与えることを示している。マウスを、脳卒中の4時間後に生理食塩水(A)または抗ATD−NR1抗体(0.8mg/ml)(B)を用いて処置した。虚血の24時間、72時間、7日および15日後、マウスをT2脳撮像のために、および24時間において見掛けの拡散係数(ADC)のために、7T MRI(Pharmascan Brucker)に置いた。群あたり3動物。4つの異なる脳切片を含む代表的画像が示されている。
【図18B】図18は、ATD−NR1を標的にする抗体ベース免疫療法は脳卒中後に長期の利益を与えることを示している。マウスを、脳卒中の4時間後に生理食塩水(A)または抗ATD−NR1抗体(0.8mg/ml)(B)を用いて処置した。虚血の24時間、72時間、7日および15日後、マウスをT2脳撮像のために、および24時間において見掛けの拡散係数(ADC)のために、7T MRI(Pharmascan Brucker)に置いた。群あたり3動物。4つの異なる脳切片を含む代表的画像が示されている。
【図19】図19は、ATD−NR1を標的にする抗体ベースの免疫療法は、脳卒中後の長期認知回復を改善することを示している。マウスを、脳卒中の20分後(A)または4時間後(B)に生理食塩水または抗ATD−NR1抗体(0.8mg/ml)を用いて処置した。虚血24時間後、マウスを恐怖条件付け部屋に置いた。結果は、5分間期間中のフリージング時間の割合で表され、ナイーブマウスを用いて得られた結果に正規化された(群あたりn=10、*p<0.025;$p<0.05)。
【図20】図20は、rATD−NR1に対する抗体は、興奮毒性病変モデルにおいて内因性t−PAの神経毒性の影響を防ぐことを示している。興奮毒性病変は、NMDA(10nmol)を右線条体に注入することにより生み出された(座標:ブレグマに対して0.0mm後方、2.0mm側方、4.0mm腹側)。30分後、抗ATD−NR1抗体または対照IGを尾静脈に注射した(0.8mg/ml)。対照と比べて、抗ATD−NR1抗体は線条体の著しい保護を与えた(n=8、p<0.01)。
【図21】図21は、rATD−NR1に対する抗体がNMDA受容体のヒトNR1サブユニットに特異的に結合することを示している。タンパク質抽出物を、虚血性脳卒中の2日後に死亡した患者の同側および反対側半球から死後単離し、SDS−PAGEゲルクロマトグラフィーに供し、ナイロン膜上にブロットし、(A)抗ATD NR1抗体または(B)抗ヒトNR1抗体を使用してウェスタンブロットにおいて分析した。
【図22】図22は、rATD−NR1に対する抗体が非手術動物の脳に到達することを示している。(A)XX、(B)XX。(C)非手術または偽動物由来の脳組織を使用した抗ATD−NR1抗体に対する免疫組織学的分析は、脳実質における抗ATD−NR1抗体の存在を明らかにしている。
【図23】図23は、ATD−NR1に対して産生されたポリクローナル抗体が、血清欠乏により誘導される神経細胞アポトーシスをアンタゴナイズするt−PAの能力に影響を与えないことを示している。神経細胞培養物(DIV7)の血清欠乏により引き起こされるアポトーシスに対するrt−PA(20μg/mL)および抗ATD−NR1抗体(0.01mg/ml)の影響を試験した。上パネル:血清欠乏により引き起こされる神経細胞死、この影響をアンタゴナイズするrt−PAの能力(p<0.01)、およびrt−PAの影響に対する抗ATD−NR1抗体の影響の欠如。神経細胞死の割合は、トリパンブルー陽性神経細胞の比率により決定した(ウェルあたりの3ランダムフィールドにおいてトリパンブルー陽性細胞を計数する)。結果は、偽洗浄対照神経細胞において得られたそれぞれの値について補正した。下パネル:アポトーシス状態の指標としてのカスパーゼ3の切断。切断分子は、切断されたカスパーゼ3に対して産生された抗体を用いて明らかにされた。やはり、rt−PAの保護効果は、抗ATD−NR1抗体に影響されなかった(N=3、n=12)。
【発明を実施するための形態】
【0079】
本明細書で使用される用語「神経障害」は、被験体の神経系の正常な機能または解剖学的形態に直接的にまたは間接的に影響を与える疾患、障害または状態と定義される。
【0080】
本発明の文脈では、用語「神経変性障害」は、中枢神経系または末梢神経系の細胞が失われる疾患と定義される。
【0081】
神経障害および/または神経変性障害の例は、脊髄の挫傷、透過、剪断、圧迫もしくは裂傷病変または鞭打ち揺さぶられっ子症候群を含むがこれらに限定されない脊髄損傷、頭蓋内または椎骨内(intravertebral)病変である。
【0082】
本発明の文脈では、神経障害には、虚血性事象または、細胞もしくは組織における任意の局所的もしくは領域的低酸素状態(これは、通常は、たとえば、この領域の血管の遮断または閉塞により引き起こされる不十分な血液供給(循環)に起因する)と定義することができる虚血または虚血性障害も挙げられる。
【0083】
低酸素は、脳血管不全、脳虚血または脳梗塞(塞栓性閉塞および血栓症に由来する脳虚血もしくは梗塞を含む)、網膜虚血(糖尿病ほか)、緑内障、網膜変性、多発性硬化症、虚血性視神経障害、急性脳虚血に続く再灌流、周産期低酸素性虚血性損傷または任意の種類の頭蓋内出血(硬膜外の、硬膜下の、くも膜下のもしくは脳内出血を含むがこれらに限定されない)を含むが、これらに限定されない低酸素症および/または虚血として急性損傷を引き起こすことができる。
【0084】
したがって、用語「虚血性障害」は、血栓症または血栓症傾向に関連するかまたはそれから生じる状態を含む血栓性障害を包含する。これらの状態は、血栓溶解薬を用いて処置することが可能な動脈または静脈血栓に関連する状態を含む。
【0085】
本明細書で使用される用語「t−PA」には、天然t−PAおよび組換えt−PAの他にも天然t−PAの酵素活性または線維素溶解活性を保持している改変型のrt−PAが挙げられる。t−PAの酵素活性は、プラスミノーゲンをプラスミンに転換する前記分子の能力を評価することにより測定することが可能である。t−PAの線維素溶解活性は、当技術分野で公知の任意のインビトロ血餅溶解活性によっても決定しうる。組換えt−PAは先行技術において広範に記載されており、当業者には公知である。rt−PAはアルテプラーゼとして市販されている(Activase(登録商標)またはActilyse(登録商標))。改変型のrt−PA(「改変rt−PA」)はすでに特徴付けられており当業者には公知である。改変rt−PAには、欠失または置換アミノ酸またはドメインを有する改変体、他の分子に結合体化されたかまたは融合した改変体、および改変グリコシル化などの化学修飾物を有する改変体が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの好ましい改変rt−PAは、PCT公開WO93/24635、欧州特許第352,119号、欧州特許第382,174号に記載されている。
【0086】
本発明の文脈では、用語「自殺基質」は、前記酵素を阻害する産物への酵素反応を受けるのに十分なほど密接に正常基質に類似している化合物と定義される。基質類似物として、自殺基質は、多くの場合前記酵素のアミノ酸、通常は触媒アミノ酸に不可逆的に結合し、それによって他の分子に対して前記酵素の活性部位を遮断し、効果的におよび大半が不可逆的に前記酵素を阻害する。
【0087】
本明細書に使用される用語「脳卒中」は、脳虚血の任意の事象について使用される。
【0088】
用語「処置する(treating)」または「処置(treatment)」とは、それを必要とする哺乳動物、特にヒト内において生理的障害を防ぐ、減少する、緩和するまたは治すための任意の医療措置のことである。
【0089】
「治療的有効量」は、脳卒中などの神経疾患または神経変性疾患と関連する症状を減少することになる活性成分の量と定義される。「治療的に有効な」とは、無処置と比べた障害の重症度または発生の頻度の任意の改善のことでもある。用語「処置」は治すことまたは治癒のどちらでも、ならびに緩和、寛解または予防を包含する。
【0090】
本明細書の文脈において使用される用語「NMDA受容体サブユニットNR1のN末端ドメイン(抗ATD−NR1)」は、t−PAと相互作用するNMDA受容体のNR1サブユニットの領域と定義される。これは、マウス、ラット、ブタ、ウシ、ネコ、イヌまたはサルのような異なる種のNMDA受容体を包含する。好ましくは、ヒトNMDA受容体が使用される。NR1サブユニットの異なるアイソフォーム、好ましくは選択的スプライシングにより産生され、アイソフォームNR1−1a、NR1−1b、NR1−2a、NR1−2b、NR1−3a、NR1−3b、NR1−4a、NR1−4bを含むアイソフォームもこの定義に含まれる。好ましくは、アミノ酸19〜480をコードする、さらに好ましくはアミノ酸19〜371(配列番号4または配列番号5参照)をコードするNR1−1aサブユニットの領域が使用される。
【0091】
用語「抗体」は、抗体全体、ヒト抗体、ヒト化抗体、およびモノクローナル抗体、キメラ抗体または組換え抗体のような遺伝的に操作された抗体、および本発明に従った特性が保持されている限り、そのような抗体の断片を含むがこれらに限定されない様々な形態の抗体を包含する。
【0092】
本明細書で使用される用語「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体組成物」とは、単一アミノ酸組成の抗体分子の調製物のことである。したがって、用語「ヒトモノクローナル抗体」とは、単一結合特異性を示し、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列由来の可変および定常領域を有する抗体のことである。一実施形態では、ヒトモノクローナル抗体は、不死化細胞に融合された、ヒト重鎖トランス遺伝子およびヒト軽鎖トランス遺伝子を含むゲノムを有するトランスジェニック非ヒト動物、たとえば、トランスジェニックマウスから得られるB細胞を含むハイブリドーマにより産生される。好ましくは抗ATD NR1抗体の種類はモノクローナル抗体である。
【0093】
用語「キメラ抗体」とは、通常、組換えDNA技術により調製される、1つの供給源または種由来の可変領域すなわち結合領域、および異なる供給源または種由来の定常領域の少なくとも一部を含むモノクローナル抗体のことである。マウス可変領域およびヒト定常領域を含むキメラ抗体が特に好ましい。そのようなマウス/ヒトキメラ抗体は、マウス免疫グロブリン可変領域をコードするDNAセグメントとヒト免疫グロブリン定常領域をコードするDNAセグメントを含む発現された免疫グロブリン遺伝子の産物である。本発明により包含される他の形態の「キメラ抗体」は、クラスまたはサブクラスが元の抗体のクラスまたはサブクラスから改変または変更されている抗体のことである。そのような「キメラ」抗体は、「クラススイッチ抗体」とも呼ばれる。キメラ抗体を作製するための方法は、従来の組換えDNA技法および今や当技術分野では周知の遺伝子トランスフェクション技法を伴う。たとえば、Morrison、S.L.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81巻(1984年)6851〜6855頁、米国特許第5,202,238号および米国特許第5,204,244号を参照されたい。
【0094】
用語「ヒト化抗体」とは、そのフレームワークまたは「相補性決定領域」(CDR)が、親免疫グロブリンと比べて、特異性が異なる免疫グロブリンのCDRを含むように改変されている抗体のことである。好ましい実施形態では、「ヒト化抗体」を調製するためにマウスCDRがヒト抗体のフレームワーク領域に移植される。たとえば、Riechmann、L.ら、Nature 332巻(1988年)323〜327頁;およびNeuberger、M.S.ら、Nature 314巻(1985年)268〜270頁を参照されたい。特に好ましいCDRは、キメラおよび二機能性抗体について、上で述べられた抗原を認識する配列を表すCDRに一致する。
【0095】
用語「ヒト抗体」は、本明細書で使用されるように、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列由来の可変および定常領域を有する抗体を含むように意図されている。ヒト抗体は最先端の分野で周知である(van Dijk、M.A.、and van de Winkel, J. G.、Curr. Opin. Pharmacol. 5巻(2001年)368〜374頁)。そのような技術に基づいて、多種多様な標的に対するヒト抗体を作製することが可能である。
【0096】
ヒト抗体の例は、たとえば、Kellermann、S. A.ら、Curr Opin Biotechnol. 13巻(2002年)593〜597頁に記載されている。
【0097】
用語「組換えヒト抗体」は、本明細書で使用されるように、NSOもしくはCHO細胞などの宿主細胞から、またはヒト免疫グロブリン遺伝子についてトランスジェニックである動物(たとえば、マウス)から単離された抗体、あるいは宿主細胞にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを使用して発現される抗体などの、組換え手段により調製される、発現される、作製される、または単離されるすべてのヒト抗体を含むように意図されている。そのような組換えヒト抗体は、再編成された形で、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列由来の可変および定常領域を有する。
【0098】
本明細書で使用されるように、用語「神経保護薬」は、神経保護を提供する、すなわち損傷部位、たとえば、虚血性損傷または外傷性損傷で神経細胞などの神経実体を保護することができる薬剤を意味する。
【0099】
本発明の文脈では、用語「急性期処置」とは、通常は病院における、急性疾病もしくは損傷を有するかまたは手術から回復中の患者に対する短期医療処置のことである。用語「後急性期処置」とは、通常は病院における、急性疾病もしくは損傷を有するかまたは手術から回復中の患者に対する中期医療処置のことである。
【実施例】
【0100】
(実施例)
(A.PARKドメインを含有するタンパク質によるt−PA神経毒性の阻害)
(材料および方法)
PARKドメイン(DSPAアルファ1、cDSPA、レテプラーゼ、DSPAアルファ2、DSPAベータおよびアルテプラーゼのクリングル2(K2))を含むいくつかのタンパク質のアルテプラーゼトランスBBB輸送を阻害する能力を、下に概略される材料および方法を使用して実証した。
【0101】
DSPAアルファ1、cDSPA、レテプラーゼ、DSPAアルファ2およびDSPAベータはPAION Deutschland GmbHにより提供された。レテプラーゼは薬局において購入され、PAION Deutschland GmbHにより提供された。クリングル2(アルテプラーゼ由来)はUMR CNRS 61185/INSERM−Avenir、Caen Franceにより開発され提供された化合物である。
【0102】
【化5】
【0103】
【化6】
ストック溶液を希釈し、リンガーHEPES緩衝液で必要な濃度(0.3μMまたは10nM)を得た。
【0104】
(2.インビトロ血液脳関門モデルの説明)
(2.1 前記モデルの確立)
脳毛細血管機能を研究するためのインビトロシステムを提供するために、フィルターの一方の側で脳毛細血管内皮細胞を、もう一方の側でグリア細胞を培養することにより、インビボ状況をかなりの程度まで模倣する共培養物を開発した(図5)。内皮細胞をフィルター上の上部区画で培養し、グリア細胞を6ウェルプレートのプラスティック上の下部区画で維持した。これらの条件下では、内皮細胞はすべての内皮マーカー(第VIII因子関連抗原、非血栓形成性表面、プロスタサイクリンの産生、アンギオテンシン変換酵素活性)ならびに血管脳関門の特徴(接着結合の存在、飲小胞の欠乏、モノアミン酸化酵素活性、ガンマグルタミルトランスペプチダーゼ活性およびP糖タンパク質)を保持していることが知られている。
【0105】
(2.2 細胞培養物)
ウシ脳内皮細胞を、10%(v/v)熱不活化ウシ血清および10%(v/v)ウマ血清(Hyclone Laboratories、Logan、UT、USA)、2mMグルタミン、50μg/mLゲンタマイシンならびに塩基性線維芽細胞増殖因子(1ng/mL、隔日に添加される)を補充したDMEMにおいて培養された脳毛細血管から単離した。3継代で凍結された内皮細胞のサブクローンを、60mm径ゼラチンコートペトリ皿上で再培養し、コンフルエンスまで増殖させた。
【0106】
初代グリア培養物を新生ラット大脳皮質から単離した。髄膜を取り除いた後、脳組織をナイロンふるいに穏やかに通した。10%(v/v)胎仔ウシ血清(FCS)、2mMグルタミンおよび50μg/mLのゲンタマイシンを補充したDMEMは、脳組織の解離およびグリア細胞の発生に使用した。グリア細胞を、6ウェルプレートのプラスティック上に1.25×105細胞ml−1の濃度で蒔き、5%CO2を用いて37℃でインキュベートした。培地を週2回交換した。播種の3週間後、グリア培養物はコンフルエントであり、神経膠星状細胞(約60%)、乏突起神経膠細胞およびミクログリア細胞で構成されていた。
【0107】
(2.3 フィルターの調製)
培養プレートインサート(Millicell PC 3μmポアサイズ)を、Bornstein(1958年)の方法に従って調製されたラット尾部コラーゲンを用いて上辺でコーティングした。
【0108】
スクロース透過および0.3μMで試験された化合物の分析では、表面が4.2cm2のフィルターを使用した。10nMで試験された化合物では、表面が3cm2のフィルターを使用した。
【0109】
(2.4 ウシ脳毛細血管内皮細胞およびグリア細胞の共培養)
コーティングしたフィルターを、共培養のため、グリア細胞を含有する6ウェル皿に置いた。共培養培地は、脳毛細血管内皮細胞用の培地と同じであった。コンフルエントな内皮細胞をトリプシン処理し、4×105細胞/mlの濃度でフィルターの上辺に蒔いた。これらの条件下で、内皮細胞は12日以内にコンフルエント単層を形成した。実験はコンフルエンスの5日後に実施した。
【0110】
(4.インビトロBBBモデルを使用する輸送実験)
(4.1 毒性試験)
スクロースを、BBBの完全性に対する試験化合物の考えうる効果の評価を可能にする傍細胞(paracellular)マーカーとして使用した。この小親水性分子は、低い脳透過を示し、その内皮透過性係数は内皮細胞単層完全性の尺度である。
【0111】
実験当日、リンガーHEPESを6ウェルプレート(ウェルあたり2.5ml)の下の区画(反管腔側)に添加した。内皮細胞のコンフルエント単層を含有する1つのフィルターを、プレートの最初のウェルに移した。
【0112】
[14C]スクロース(フィルターあたり0.5μCiの[14C]スクロースの添加)との共インキュベーション中の化合物を含有する1.5mlリンガーHEPESを上部区画(管腔側)に置いた。試験化合物の添加後の一定時間に、前記インサートを6ウェルプレートの別のウェルに移して、下の区画から上の区画への物質の考えうる逆流を最小限にした(図6参照)。各インキュベーション期間の終了時に、アリコートの反管腔側と管腔側液体を放射性分析のために収集した。
【0113】
60分の実験中、クリアランス容積は時間とともに直線的に増加した。平均クリアランス容積は時間に対してプロットされ、勾配は線形回帰分析により見積もり、平均と関連標準誤差を生じた。共培養についてのクリアランス曲線の勾配はPStで表示され、PSは透過性×表面積の積(1分あたりのマイクロリットルにおける)である。コラーゲンで覆われているだけのフィルターのクリアランス曲線の勾配はPSfで表示される。
【0114】
内皮単層のPS値(PSe)は、
【0115】
【数1】
から計算した。
【0116】
PSe値をフィルターの表面積(Millicell PCおよびCMで4.2cm2ならびにTranswellインサートで4.7cm2)で割って、内皮透過性係数(Pe、1分あたりのセンチメートルにおける)を得た。
【0117】
スクロース透過性の安定性は、三連で単層において各試験化合物を用いて試験し、BBBに対する毒性の影響の非存在を確認した。
【0118】
(4.2 37℃での化合物の輸送;完全性試験)
rt−PAの移行は、スクロースについて4.1下に記載された通りに決定した。
【0119】
これらのおよび他のすべての実験では、BBBの完全性は、BBBの完全性に対する考えうる効果の評価を可能にする傍細胞マーカーとして[14C]スクロースを使用してモニターした。
【0120】
データ評価:アルテプラーゼの通過は、プラスミノーゲンベースの酵素電気泳動(zymography)アッセイを用いて評価した。アルテプラーゼの通過は画像定量システムを使用して定量化した。さらに、三連の管腔側溶液および反管腔側溶液を、スペクトロザイムアッセイを用いてアルテプラーゼについてアッセイした。
【0121】
研究の連続的段階は図7に記載する。
【0122】
(5.輸送研究)
(フィルター研究)
このステップでは、フィルターによる輸送制限の可能性を排除するために、アルテプラーゼがフィルターを通過する能力を試験した。アルテプラーゼを、完全性試験で決定された非毒性濃度で適用した。
【0123】
(輸送研究)
DSPA関連分子であるレテプラーゼおよびクリングル2(アルテプラーゼ)を、プラスミノーゲンベースの酵素電気泳動アッセイおよびスペクトロザイムアッセイによる定量化を用いて評価される、アルテプラーゼ透過に影響を与えるその能力について等モル濃度で調べた。
【0124】
(実施例1:PARK含有タンパク質と組み合わせたrt−PAは、インビトロでBBBに毒性の影響を及ぼさない)
スクロースのみを用いて、およびアルテプラーゼのみを用いて、またはアルテプラーゼをDSPA関連分子のレテプラーゼもしくはK2(アルテプラーゼ)と組み合わせて用いて得られた内皮透過性係数は、以下の表1に要約する。
【0125】
【表1】
スクロースについて得られた内皮透過性係数により、DSPA関連分子との共インキュベーションのアルテプラーゼは、0.3μMまたは10nMのそれぞれの濃度で、インビトロでBBBに毒性の影響を及ぼさないことが示された。
【0126】
(実施例2:アルテプラーゼはコラーゲンフィルターを通過することができる)
コラーゲンコートフィルターを通るアルテプラーゼ(0.3μM)の輸送は120分の期間にわたり調べた。
【0127】
実験期間後、アルテプラーゼの濃度を、管腔側および反管腔側試料において、スペクトロザイムアッセイを用いて決定した(表2)。
【0128】
【表2】
結果は、アルテプラーゼがフィルターを通過する潜在力を7.88%の程度まで示したので、アルテプラーゼ透過は空フィルターに制限されないことを示している。この値は空フィルターを通る拡散通過の最大割合として記録され、内皮輸送研究において参照(いわゆる「対フィルター」)として使用された。
【0129】
(実施例3:BBBを通るrt−PAの輸送は、PARKドメインを含有するタンパク質との共インキュベーションによりインビトロでブロックされる)
アルテプラーゼ単独での、ならびにDSPA関連分子(DSPAα1、cDSPA、DSPAα2)、レテプラーゼおよびK2(アルテプラーゼ)と共インキュベーションでの移行は120分の期間にわたり調べた。等モル濃度(0.3μM)を使用した。
【0130】
実験期間後、アルテプラーゼの管腔側および反管腔側濃度は、プラスミノーゲン含有酵素電気泳動アッセイ(図8)を用いて決定し、画像システムを使用して定量化した。
【0131】
図8に示されるように、酵素電気泳動アッセイにより、cDSPA、DSPAα1、DSPAα2およびK2(アルテプラーゼ)による、ならびにレテプラーゼによるBBBを通るアルテプラーゼ輸送の阻害が明らかになり、これらのすべてが酵素電気泳動シグナルの減少を引き起こした。定量化されたデータは表3に要約する。
【0132】
【表3】
追加のシリーズでは、スペクトロザイムアッセイを、DSPA関連分子およびK2(アルテプラーゼ)(すべて0.3μMで)との共インキュベーション中のアルテプラーゼ(0.3μM)の通過を定量化するために管腔側と反管腔側区画の両方において実施した(表4)。
【0133】
【表4】
レテプラーゼのプロテアーゼ活性により、アルテプラーゼとレテプラーゼに関連する活性を区別することができなかったので、スペクトロザイムアッセイを使用することはできなかった。
【0134】
図9に例示されるように、スペクトロザイムアッセイにより、DSPA関連分子およびK2(アルテプラーゼ)の存在下での、アルテプラーゼの包括的タンパク質分解活性の減少を明らかにした。数字も表4に示す。
【0135】
(実施例4:静脈内共投与後DSPAはrt−PA媒介神経毒性の影響をアンタゴナイズしたが、線条体への共投与後はアンタゴナイズしなかった)
PARKドメインを含むタンパク質の阻害効果は下に概説される動物モデルにも示された。
【0136】
ヒト組換えアルテプラーゼ(rt−PA、アルテプラーゼ)はBoehringer Ingelheim(France)製で、NMDAはTocris(U.K.)製であった。デスモテプラーゼはPAION Deutschland GmbH(Germany)により提供された。
【0137】
(動物)
雄性Sprague Dawleyラット(270〜330g)を、12明時間/12暗時間サイクルで恒温室に収容し、餌と水を自由に与えた。実験は、実験動物の管理と使用についてのフランス(act no.87 to 848;Ministere de l’Agriculture et de la Foret)と欧州共同体評議会(Directives of November 24、1986年、86/609/EEC)指針に従って実施した。
【0138】
(線条体興奮毒性病変)
ラットを、イソフルラン(5%、0.8 l/分で、酸素/N2O(1:3)中で維持2%)を用いて麻酔した。体温を37±0.5℃に維持した。注入ピペット(内径0.32mmおよび15mm/μlで較正されている;Hecht Assistent、Germany)は、右側線条体(ブレグマに対し3.5側方と5.5腹側)に定位的に埋めこんだ。NMDA(50nmol)を容積1μlで注入し、前記ピペットを3分後にはずした。第一組の実験では、アルテプラーゼ(1mg/kg)、デスモテプラーゼ(1mg/kg)、アルテプラーゼとデスモテプラーゼ(それぞれ1mg/kg)、アルテプラーゼビヒクル(L−Arg 35mg/kg、リン酸10mg/kgおよびポリソルベート80、0.2%)またはデスモテプラーゼビヒクル(グリシン4mg/kgおよびマンニトール10.64mg/kg)の静脈内注射により15分後に興奮毒性処置を相補した。第二組の実験では、アルテプラーゼ(3μg)、デスモテプラーゼ(3μg)、アルテプラーゼとDSPA(それぞれ3μg)またはそれに対応するビヒクルと一緒に、NMDAを線条体に共注入した(すべて容積1μlで)。
【0139】
(組織学的分析)
24時間後、ラットを安楽死させ、全脳を取り出しイソペンタンにおいて凍結させた。体積分析では、20ごとに1冠状切片(20μm)をチオニンを用いて染色し、全病変にわたって分析した。目的の領域はラットの定位的アトラス(stereotaxic atlas)を使用して決定した(PaxinosおよびWatson)。画像分析システム(BIOCOM RAG 200、Paris、France)を使用して非染色領域により与えられる病変を測定した。
【0140】
この分析により、両方が静脈内に共注射された場合には、デスモテプラーゼはrt−PA媒介神経毒性の影響をアンタゴナイズしたが、線条体に共投与された場合にはアンタゴナイズしない(図10および11)ことが示され、このことは、これら2つの血栓溶解薬剤間のBBBレベルでの関連インビボ競合と一致している。
【0141】
(結論)
これらの結果により、PARKドメインを含む様々なタンパク質のアルテプラーゼトランスBBB輸送を阻害する能力が明らかにされている。
【0142】
単独のアルテプラーゼ、およびDSPAα1、cDSPA、DSPAα2、レテプラーゼおよびK2(アルテプラーゼ)と共インキュベーションしたアルテプラーゼは、すべて0.3μMの濃度で、BBB完全性に対する毒性の影響を有さなかった。スペクトロザイムアッセイを用いて分析したように、DSPAα1およびDSPAα2は、BBBを通るアルテプラーゼ輸送をそれぞれ約67および62%まで減少することができ、DSPA関連分子を使用してアルテプラーゼの血管から脳移行をブロックすることが可能であることを確証している。類似の結果(約76%までの減少)が、クロッグDSPA、すなわちタンパク質分解活性を発揮しないDSPA改変体について得られた。阻害は、アルテプラーゼの酵素電気泳動定量化において確認した。
【0143】
さらに、単離されたクリングル2は、アルテプラーゼ輸送を約50%減少することができた(分光データ、酵素電気泳動により確認された)。
【0144】
アルテプラーゼ酵素電気泳動分析により実証されたように、レテプラーゼもアルテプラーゼ移行を阻害することができた。レテプラーゼはタンパク質分解活性を有しているので、その効果はスペクトロザイムアッセイを用いて定量することはできなかった。
【0145】
この研究で試験された分子は、おそらくLRP媒介輸送について競合することによりrt−PAトランスBBB輸送を阻害することができる。スペクトロザイムデータに従えば、これらの分子は以下のように、K2(t−PA)>DSPAα2>DSPAα1>cDSPA順にランク付けすることが可能である。
【0146】
(B.抗ATD−NR1抗体によるT−PA神経毒の阻害)
(材料および方法)
組換えATD/ロイシン−イソロイシン−バリン結合タンパク質(LIVBP)様ドメインの作製:t−PAとの相互作用のドメインとして同定された、NR1のアミノ末端ドメインに対応するアミノ酸19〜371をコードするNR1−1aサブユニットの領域を、以前記載された通りに、完全長ラットNR1−1a cDNAから増幅した(Fernandez−Monrealら、2004年)。rATD−ND1と命名された組換えタンパク質を、製造業者(Qiagen、France)により記載されたように、ニッケル親和性マトリックス上で、イソプロピル1−チオ−β−D−ガラクトピラノシド誘導細菌培養物(Escherichia coli、M15株)の封入体から精製した。
【0147】
能動免疫:手短に述べると、わずかな改変を加えて以前記載された通りに(Benchenaneら、2007年)、マウスを、免疫原性混合物:rATD−NR1(30μg)を含有する完全フロイントアジュバンド(Sigma Aldrich、France、最初の注射に使用される)および不完全フロイントアジュバンド(Sigma Aldrich、France、後期注射、3週間中週に1回)の腹腔内注射により免疫化し、rATD−NR1を含有しない同一混合物を対照血清として使用した。
【0148】
ポリクローナル抗体の作製および精製:能動免疫について記載されたように、最後の接種の2週間後に、rATD−NR1または対照アジュバンドで免疫化されたマウスから血清を収集した。次に、ポリクローナル抗体(抗ATD−NR1抗体または対照Ig)を、血清ヒドロキシアパタイトカラム(Proteogenix、France)から精製した。
【0149】
免疫ブロッティング:対応する図で言及されるrATD−NR1(20μg)またはタンパク質抽出物をロードし、10%SDS−PAGEにより分離し、PVDF膜に移した。膜は、0.05%Tween−20、5%ドライミルクを含有するトリス緩衝生理食塩水(10mM Trisおよび200mM NaCl、pH7.4)を用いてブロックした。ブロットを、マウス抗ATD−NR1一次抗体(1:2000;4℃)、マウス対照Ig一次抗体(1:2000;4℃)または対照ヤギヒスチジンタンパク質一次抗体(1:1000;4℃、Qiagen、France)のいずれかを用いて終夜曝露させた。マウスまたはヤギペルオキシダーゼ結合体化二次抗体(1:5000;Sigma Aldrich、France)後、タンパク質を、増強化学発光ECL−Plus検出システム(Perkin Elmer−NEN、France)を用いて可視化した。
【0150】
血栓塞栓性局所脳虚血:以前報告された通りに(Orsetら、2007年)、雄性Swissマウス(28〜30g、CERJ、Paris、France)を、深く麻酔をかけ(イソフルレン5%とNO2/O2の70%/30%混合物を使用して)、定位固定デバイスに置いた。眼窩と耳との間の皮膚を切開し、側頭筋を縮退させた。小規模な開頭手術を実施し、硬膜を切除し中大脳動脈(MCA)を曝露させた。ピペットを前記MCAの管腔に導入し、1μLの精製されたマウスアルファトロンビン(0.75UI、Gentaur、Belgium)を含気性(pneumatically)に注入し(カテーテルを介してピペットに連結された注射器を用いて正圧をかけることにより)、インサイチュー血餅形成を誘導した。アルファトロンビン注入の10分後に前記ピペットをはずし、その時間には血餅は安定化している。筋肉および軟組織を元に戻し、切開部を縫合した。脳血流速度を、レーザードップラーフローメトリー(Oxford Optronix、United Kingdom)によりモニターし、温度を全外科手術にわたり制御した。血栓溶解を誘導するために、rt−PA(10mg/kg、Actilyse(登録商標)、Boehringer Ingelheim、Germany)を、アルファトロンビン注入の20分後または4時間後に静脈内に注射した(尾静脈、10%ボーラス、40分間中90%灌流)。対照群に、同一条件下で同容積の生理食塩水を投与した。
【0151】
受動免疫:血餅形成の20分後または4時間後、前記rATD−NR1に対して産生された精製ポリクローナル抗体を、0.2mgの抗ATD−NR1または対照免疫グロブリンのボーラス(200μl)により尾静脈に静脈内注射した。
【0152】
脳病変の組織学的分析:24時間後、マウスを麻酔薬過量投与により屠殺し、脳を取り出し、イソペンタンにおいて凍結した。クリオスタットカット冠状脳切片(20μm)を、チオニンを用いて染色し、画像分析機(BIOCOM RAG 200、Paris、France)を使用することにより分析した。体積分析では、10のうちから20μmの1つの切片を染色し分析した(全病変にわたって)。目的の領域(梗塞組織に対応する非染色領域)は、マウスの定位的アトラス(FranklinおよびPaxinos、1997年)を使用して決定した。梗塞体積は、式:V虚血性病変=P(虚血性病変の面積)切片間の距離に従って、切片の非染色領域の合計×その厚みとして決定した。この方法は、虚血性病変の体積評価の優れた再現性を実証しており、すでに確証されている(Osborneら、1987年)。
【0153】
MRI分析:MRI分析は、血餅形成4時間後に生理食塩水またはαATD−NR1抗体を静脈注射されたマウスにおいて実施された血栓塞栓性虚血の24時間、72時間、7日、15日後に実施した。MRI実験は、無線周波数送信には72mm内径バードケージおよび受信には25mm径表面コイルを使用して、Paravision4.0ソフトウェア(Bruker、Ettlingen、Germany)を用いるPharmascan 7 T/12cmシステム上で実行した。MRI実験中、麻酔はイソフラン(NO2/O2の70%/30%混合物)を使用して維持した。マウスは、麻酔濃度を調整するために、その呼吸数の変化についてモニターした。T2加重画像を、RAREシークエンス:4アベレージ(average)のTE/TR 41/3000ms(マトリックス256×256、FOV 23.7×20mm)を使用して取得した。拡散加重画像を、6方向(direction)EPI−DTIシークエンス:方向ごとに2実験(マトリックス 128×128、FOV 20.5×19.2mm)の2つのb値(0と800s/mm2)を使用するTE/TR 34/3750msで取得した。mm2/sでの見掛け上の拡散係数(ADC)を、単一指数関数モデルを使用してpixel−by−pixel曲線フィティングにより計算した。血管造影は2アベレージのTE/TR 12/7ms(マトリックス 256×256、FOV 20×20mm)を用いて取得した。
【0154】
エバンズブルー血管外溢出:エバンズブルー(200μl、2%、Sigma−Aldrich)は、安楽死の3時間前に虚血マウスの静脈内に注射した。前記マウスは、その脳を収集するのに先立ってヘパリン生理食塩水を用いて平均動脈圧で灌流させた。その皮質を解剖し、ドデシル硫酸ナトリウム1%のリン酸緩衝生理食塩水中でホモジナイズし、遠心分離した(10000g、15分)。エバンズブルーは620nmの吸光度から上清で定量し、各半球の湿重量で割った。各観察は3回繰り返した。
【0155】
行動分析:マウスを、脳虚血の24時間後に包括的神経機能試験に供した。この行動試験は、黒色メタクリル酸壁により形成され、プレキシグラス前扉を特色とするチャンバー(67×53×55cm、BIOSEB(登録商標)、Chaville、France)内で実施した。チャンバーの床は22本のステンレス鋼の棒(径3mm、1.1cmの間隔が開いている、中心間)からなり、無条件足ショック刺激の送達のためのスクランブラー付きのショック発生器に配線されていた。マウスの動きにより生じるシグナルを5分間にわたり記録し、高感度重量トランスデューサシステムを用いて分析した。アナログシグナルは、記録および活動/不動(フリージング)の期間により示される可動性のオフライン分析のためにロードセルユニットを通じてフリージングソフトウェアモジュールに伝えられた。対応するハードウェアに関連する追加のインターフェイスにより、フリージングソフトウェアからのショックの強度を制御することが可能であった。
【0156】
細胞培養:皮質神経細胞の初代培養物を、胎仔マウス(E15−E16)から調製した。解離した皮質細胞を、5%ウシ胎仔血清、5%ウマ血清および2mmol/Lグルタミンが補充されたダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)に再懸濁させ、ポリ−D−リジンとラミニンで前もってコーティングされた24ウェル皿に蒔いた。3日後、前記細胞を10μmol/LのAra−Cに曝露し、グリア細胞増殖を阻害した。培養物をインビトロで12日後、使用した。
【0157】
興奮毒性:それぞれ、ゆっくりとまたは急速に引き起こされた興奮毒性は、神経細胞培養物を、グリシン(10μmol/L)が補充されたDMEMにおいて10μmol/L NMDAに24時間および50μmol/L NMDAに1時間曝露することにより37℃で誘導した。NMDAへの曝露は、単独で、またはrt−PA(20μg/mL)および/もしくはαATD−NR1もしくは対照Ig(0.01mg/ml)と組み合わせて実施した。どちらの場合も、神経細胞死は、位相差顕微鏡を使用して24時間後に評価し、損傷細胞からバス培地(bathing medium)への乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)放出の測定により定量化した。
【0158】
カルシウムビデオ顕微鏡分析:皮質神経細胞の初代培養物に、5μmol/Lのfura−2/AMと0.1%プルロニックF−127(Molecular Probes、Leiden、the Netherlands)を含有するHEPES緩衝生理食塩水をロードし(37℃で30分間)、HEPES緩衝生理食塩水中さらに30分間インキュベートした。実験は、75WキセノンランプおよびNikon×40、1.3開口数落射蛍光油浸対物レンズを備えたNikon Eclipse倒立顕微鏡の試料台上、22℃で実施した。Fura−2(興奮:340、380nm、放出:510nm)比画像(ratio image)はCCDカメラ(Princeton Instrument、Trenton、New Jersey)を用いて得、Metafluor4.11ソフトウェア(Universal Imaging Corporation、Cherter、Pennsylvania)を使用してデジタル化した(256×512)。
【0159】
アポトーシスの誘導:血清欠乏(SD)は、10マイクロMのグリシンが補充された無血清DMEMに神経細胞培養物(DIV7)を曝露することにより誘導し、以前記載された通りに特徴付けた(Kohら、1995年;Nicoleら、2001年a、Liotら、2004年)。対照は、血清含有の新鮮な培地において維持した。二次的なNMDA受容体活性化を防ぐために、MK−801(1マイクロM)を添加した。4%パラホルムアルデヒドにおける固定化の前に、細胞を0.4%トリパンブルーを用いて15分間染色した。SDは、単独で、またはrt−PA(20μg/mL)および/または抗ATD−NR1抗体(0.01mg/ml)と組み合わせて実施した。神経細胞損傷は、ウェルあたり3ランダムフィールドにおいてトリパンブルー陽性細胞を計数することにより定量化した。神経細胞死の割合は、神経細胞の総数と比べたSD後のトリパンブルー陽性神経細胞の数として判定した。偽の洗浄対照条件下でのトリパンブルー陽性神経細胞の平均値を実験値から引いた。対応する免疫ブロットの濃度測定分析データ(Image Jソフトウェア)は、対照条件について得られた平均値に対して正規化した。
【0160】
MMP−2および−9についてのゼラチン酵素電気泳動分析:ゼラチナーゼアッセイは、虚血マウス脳試料におけるMMP−9およびMMM−2レベルを評価するために実施した。手短に述べると、組織ライセート(25μgのタンパク質)を、電気泳動のために1mg/mLゼラチン(Sigma Aldrich、France)で共重合された10%SDSポリアクリルアミドゲル上にロードした。電気泳動後、ゲルを2.5%Triton X−100で洗浄し、次に展開トリス緩衝液(developing Tris buffer)と一緒に37℃で36時間インキュベートし、その後クーマシーブルーを用いて染色した。次に、ゲルを脱染色し、MMP−2および−9バンド強度を定量化した。
【0161】
(実施例1:NMDAR上のt−PAの相互作用部位に対する能動免疫は、rt−PA誘導後期再灌流を伴なったインサイチュー血栓塞栓性脳卒中のモデルにおいて保護的である)
血漿精製マウストロンビンのMCAへのインサイチュー注入により、マウスにおいて局所虚血を誘導した(Orsetら、2007年)。トロンビン注入直後、レーザードップラーフローメトリーにより測定される脳血流速度(CBV)の劇的低下(80%の平均低下)により血餅形成が証明された(図12Bおよび12D)。低灌流は、rt−PAが静脈内に投与されるのでなければ(早期でも後期でも)、安定的に確立され、rt−PA注入後の25分以内にCBVは、ベースライン値の60〜70%まで回復した(図12Bおよび12D、n=10、p<0.001)。24時間後、処置とは無関係に、すべてのマウスが皮質に限定される脳梗塞(チオニン染色)を示した。早期rt−PA誘導血栓溶解(血餅発症の20分後に開始)は虚血性脳損傷の程度を著しく減少し、平均病変体積は18.94mm3±1.85(n=10)であり、非処置動物(26.22mm3±2.47;n=10;図12A)と比べて27.76%(p<0.01)のrt−PA保護効果を実証した。
【0162】
抗原としてNMDARのNR1サブユニットの組換えアミノ末端ドメイン(rATD−NR1)を用いたマウスの先行する能動免疫は、血餅形成もrt−PA誘導再灌流も変化させなかった(図12Bおよび12D)。rATD−NR1免疫マウスは、脳損傷の顕著な減少を見せた(対照と比べて43.3%の保護、n=10、p<0.002)。これらのマウスでは早期(脳卒中の20分後)rt−PA処置により再灌流が生じた場合、病変体積への付加的な有益な効果はなかった(12A)。血餅形成の4時間後の同じ処置により、rt−PAは早期再灌流により誘導される程度に匹敵する程度までCBVを回復させることができたが(図12D、n=10、p<0.001)、rt−PAがrATD−NR1で免疫されていないマウスに注入された場合、増加した脳損傷と関連していた(rt−PA注入動物での28.60mm3と比べてPBS注入マウスでは21.56mm3、n=10、p<0.001)。しかし、rATD−NR1免疫マウスにおいてt−PAを使用して後期血栓溶解を実施すると、脳保護は、免疫されているが生理食塩水を注射された対応するマウスにおいて観察されるのと類似する程度にまで、次に早期血栓溶解を受けている動物において観察されるのと類似する程度にまで回復した(それぞれ、対照およびt−PAと比べて54.91%および66.01%の保護、n=7、p<0.01;図12C)。全体でこれらのデータは、t−PAによる早期再灌流は有益であるが、遅延したrt−PA誘導再灌流は、効率的再疎通にもかかわらず、脳損傷を悪化させることを示している。第二に、前記データは、血栓塞栓性脳卒中のマウスモデルにおけるrATD−NR1免疫は、単独で、または後期t−PA誘導血栓溶解の補助剤として脳保護を与えることを示している。
【0163】
(実施例2:ATD−NR1に対して産生された抗体は、t−PA促進NMDAR媒介神経毒を防ぐ)
実施例1に記載の結果は、NMDA受容体のNR1サブユニットのアミノ末端ドメインに対する抗体は急性虚血脳卒中において有益であるという考えに概念証明を与えた。しかし、能動免疫は急性障害を処置する手段としては実行可能ではないので、本発明者らは、rATD−NR1ワクチン接種されたマウス由来の精製された血清免疫グロブリンに基づいて、受動免疫(抗体ベースの免疫治療)の戦略を開発した。本発明者らは先ず、免疫ブロッティングにより、精製されたポリクローナル抗ATD−NR1抗体は免疫原性ペプチドを認識することができることを確かめた。前記抗ATD−NR1抗体は、ヒスチジンタグ(図13A;37kDa)またはFcタグ(データは示されていない)のどちらかと結合した2種類のrATD−NR1を独立して認識することができた。同様に、抗ATD−NR1抗体は、NMDARのNR1サブユニットの予想される分子量に一致して、ヒト脳組織中の約120kDaのタンパク質と相互作用することが見出された(図13B)。フロイントアジュバンド混合物注入マウスから精製された対照抗体は、陽性染色を示さなかった(図13A)。
【0164】
次のステップは、NMDA毒性に対するrt−PAの増悪的影響を防ぐこれらの抗体の能力を検証することであった(Nicoleら、2001年)。高濃度のNMDA(50μM)を短期間(1時間)、または中等度濃度のNMDA(10μM)を長期間(24時間)のどちらかに曝露されたマウス皮質神経細胞の初代培養物では、抗ATD−NR1抗体の共投与は、rt−PA(0.3μM)により誘導される神経細胞消失の促進を完全に防いだ(図14A、N=3、n=12、p<0.01および図14B、N=3、n=12、p<0.01)。対照抗体は、t−PA促進NMDA誘導神経細胞死に何の効果もなかった(図14Cおよび14D)。次に、本発明者らは、興奮毒性パラダイムにおいて観察される影響が、興奮毒性ネクローシスにおける決定的に重要な事象の1つであるNMDA誘起Ca2+流入の調節と相関しているのかどうかを調べた。Fura−2蛍光ビデオ顕微鏡測定値により、rt−PA(0.3μM)は培養皮質神経細胞においてNMDA誘導Ca2+流入を約30%増加させたことが明らかにされた。抗ATD−NR1抗体の共投与は、NMDA媒介カルシウム流入のrt−PA誘導増強を防いだ(図15、N=3、n=108、p<0.05)。対照抗体は効果なしであった(図15)。興味深いことに、血清欠乏誘導NMDAR非依存アポトーシス性神経細胞死に対するt−PAの有益な非タンパク質分解活性(Liotら、2006年)は、抗ATD−NR1抗体の共投与により妨げられず(図23;N=3、n=12)、これはNMDA受容体を抗体が標的にする際の抗体の特異性を支持する発見であった。
【0165】
(実施例3:ATD−NR1を標的にする抗体ベースの免疫療法は神経学的結果を改善し、脳を脳卒中から保護し、rt−PA誘導血栓溶解の処置ウィンドウを増加させる)
次に、抗ATD−NR1抗体の治療的価値(受動免疫)をインビボで調べた。先ず、NMDA(10nmol)を対照物または精製抗体の単回静脈注射と一緒に線条体に投与することにより、興奮毒性病変をマウスに誘導した。対照動物では、NMDAは17±2mm3の興奮毒性病変をもたらし、抗ATD−NR1抗体処置マウスでは、病変(9±1mm3)はサイズが47.06%減少した(各群でn=8、p<0.01;図20)。このように、抗ATD−NR1抗体の単回静脈注射により、興奮毒性のこのモデルでは内因性t−PAの有害な影響を防ぐことができる。したがって、次に、抗ATD−NR1抗体(0.8mg/ml、静脈内、単回ボーラス;群あたりn=8〜10)を、マウスの血栓塞栓性脳卒中のモデルにおいて試験した。抗体(対照または抗ATD−NR1)の共投与は、再灌流を誘導する早期rt−PA注入の能力を変えなかったことに注目するのが重要である(図16B)。早期rt−PA誘導血栓溶解は虚血性病変の体積を31.53%減少させた(図16A)。同様に、抗ATD−NR1抗体の早期(発作の20分後)送達は、著しい脳保護を与えた(対照と比べて44%の保護、n=10、p<0.001)。この効果は、抗体がrt−PA誘導再灌流と組み合わされた場合に改善されなかった(図16A)。血餅形成の4時間後に実施された場合には、rt−PA処置はなお、早期灌流実験の場合と同じくらい効率的にCBVを回復した(図16D)(血餅形成後、初期CBFの80%対rt−PA処置、後85%、n=9、p<0.01)。しかし、脳病変はこれらの条件下では劇的に悪化した(血餅形成4時間後のrt−PA注入動物での33.03mm3と比べてPBS注入マウスでは24.90mm3、n=10、p<0.0025;図16C)。この有害な影響は、rt−PAが抗ATD−NR1抗体の単回ボーラスと共投与された場合には観察されなかった。むしろ、対照実験(生理食塩水のみ)およびrt−PA処置と比べて、それぞれ病変体積の50.52%および62.7%の減少が観察された(n=8、p<0.005)。興味深いことに、抗ATD−NR1抗体単独の遅延注入も高度に保護的であった(対照動物と比べた場合−41%、n=10、p<0.002)。全体として、これらのデータは、NMDARシグナル伝達および神経毒に対するt−PAの増強効果を標的にする、ATD−NR1に対する抗体の単回静脈内注射の2つの重要な可能性を示している。そのような注射は、それだけで治療的価値があり、第二に、rt−PAによる血栓溶解の治療ウィンドウも延長することができる。
【0166】
閉塞の24時間後、脳卒中誘導認知障害を文脈的フリージング(contextual freezing)タスク(n=10)(これは不安、記憶および学習過程の包括的認知評価を可能にすると見なされている)において評価した。偽動物と比べて、虚血性マウスは、フリージングの増加(+214%、p<0.025)を示し、これは、αATD−NR1抗体の静脈内投与により劇的に減少する影響である(−170%;p<0.05)(図19)。
【0167】
(実施例4:ATD−NR1に対する抗体ベースの免疫療法は、脳卒中後のrt−PA誘導BBB溢出を防ぐ)
虚血性脳損傷ならびにt−PAの有益な効果または有害な影響は、血液脳関門(BBB)と高度に関係しているために、エバンズブルー(EB)血管外溢出およびマトリックスメタロプロテイナーゼ活性化(MMP−2およびMMP−9)を上記条件下で評価した。予想通りに、rt−PAは、MMP−9の活性を誘導し、エバンズブルーの脳実質への血管外溢出を増強することができることが見出された。血餅形成後rt−PAを投与するのが遅くなるに従って、MMP−9活性(図17Bおよび17C)とEBの血管外溢出(図17A)に対するその効果はそれだけ強くなった。虚血性病変に対するその効果と一致して、抗ATD−NR1抗体単独の早期投与も後期投与も脳卒中により誘導されるBBB溢出の程度を著しく減少させた(対照血餅動物と比べた場合、血餅形成20分後、−63%および血餅発症4時間後、−68%、n=3、p<0.05;図17A)。さらに、抗ATD−NR1免疫療法は、BBBの完全性に対するrt−PAの損傷的影響を効率的に低下させた(対照動物と比べた場合、血餅形成20分後28%低下、血餅発症4時間後42%、n=3、p<0.05;図17)。同様に重要なことに、MMP−9は、BBBに対するrt−PAの効果における計器(instrumental)となるが、rt−PAが共投与されるされないにかかわらず、抗ATD−NR1抗体の存在下で活性の低下を示した(図17B)。これらの所見は、前記抗体が、内因性t−PA(虚血に応答して神経細胞から放出される)から、ならびに外因性rt−PAからBBBの完全性を保護し、第二に、この保護はMMP−9の活性の妨害を伴うという結論を与える。
【0168】
(実施例5:ATD−NRT1を標的にする抗体ベースの免疫療法は、脳卒中後に長期の利益を与える)
急性期処置の結果の長期追跡調査は、もっとも高度に臨床的関連性がある。したがって、血餅発症の4時間後に抗ATD−NR1抗体の単回注入を用いて処置された動物のMRIベースの長期追跡調査が、3ヶ月の期間にわたって行われた。T2 MRI分析により、前に観察されたチオニン染色のパターンが明白に確認され、これは、虚血を誘導した24時間後にはすでに目に見えており、手術後少なくとも15日間維持された前記抗体の脳保護効果を証明する(対照動物と比べた場合X%の減少、n=3、p<X;図18a、b)。さらに、ADCシークエンスにより、抗ATD−NR1抗体を用いて処置された虚血性動物においてあらゆる時点での浮腫の非存在が明らかにされた(図18a、18b)。
【0169】
(結論)
血栓塞栓性脳卒中のマウスモデルにおける血餅発症後の早期(20分後)または後期(4時間後)に適用された場合、抗ATD−NR1抗体の単回静脈注射は、劇的な神経保護を引き起こすのに十分である。注目すべきは、本発明は、rt−PA処置の利益の時間依存性消失を示している点である。早期のrt−PA誘導再灌流は、この薬物の臨床使用において観察されるように、利益をもたらすが、遅延rt−PA誘導再灌流(血餅形成の4時間後)は、再灌流レベルは匹敵するけれども、有害な結果にさえ関連している。この否定的結果は、抗ATD−NR1抗体の共投与により解決され、このことは、神経保護効果を回復させ、さらにこれによってrt−PA誘導血栓溶解が治療利益を与えることができる時間ウィンドウを延長する。
【0170】
さらに、抗ATD−NR1抗体を用いる本発明の免疫療法は、脳虚血に付随し、虚血状態下での後期rt−PA処置により増悪するBBBにおける増加(脳内出血の前兆と見なされる)を減らす手段を提供する。これらの観察結果により、抗ATD−NR1抗体に対する治療的関心が強化される。なぜならば、脳浮腫および出血は脳卒中患者の臨床結果不良と関連しているからである。
【0171】
留意するとすれば、t−PAは、(i)シナプスの再構築および可塑性、(ii)周産期発生中の神経細胞移動、(iii)海馬における後期相の長期増強(L−LTP)などの記憶および学習過程に関与する機序の制御、ならびに(iv)BDNFへのプロBDNFの活性化において極めて重要な生理的機能を果たすことも報告されている。それゆえに、本発明の抗体は、これらの機能に対する考えうる影響について試験された場合において、無害であることが分かっていることに注目するのは重要である。虚血性病変の非存在下では、空間記憶、文脈的およびキュー恐怖条件付けを含む認知機能の変化を同定することはできず、免疫療法の提示される戦略の安全プロファイルを示唆している。
【0172】
【数2】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経障害または神経変性障害の処置のための方法に関する。より具体的には、本発明は、神経障害または神経変性障害の結果、有害な影響を受ける神経細胞および/または血液脳関門の保護に関する。本発明は、欧州特許出願09 011 149.3の優先権を主張し、上記欧州特許出願09 011 149.3は、本明細書によって、開示に関して全てが援用される。
【背景技術】
【0002】
脳卒中は、年間約600万人が死亡している成人死および身体障害の主因であり、高齢者人口の増加によって、今後10年間は憂慮すべき発生率が予測される。脳虚血の細胞および分子病態生理学の理解は著しく前進してきたが、組換え組織型プラスミノーゲン活性化因子(rt−PA)は依然として虚血性脳卒中に対する唯一の承認された急性期処置薬である。これまで何百もの化合物が虚血性脳卒中の臨床治験において試験されているが、rt−PAを除いて効果的であると判明したものは1つもない。
【0003】
rt−PAの使用は、処置ウィンドウ(window)が短いこと(発症後4.5時間)、および脳内出血と神経毒性の両方が助長されることにより限定されている。したがって、rt−PA誘導血栓溶解の包括的利益を改善し、血栓溶解法に適格ではない脳卒中患者(すなわち、脳卒中患者のうちの80%超)に処置を施すためには、さらに安全でさらに効果的な処置法に対する重大な必要性が存在する。
【0004】
T−PAは、血管内腔において、血液と脳の界面で、および脳実質において重要な役割を示す2つの顔を持つセリンプロテアーゼである(総説については、非特許文献1)。血管内コンパートメントにおいて、t−PAの主要な基質は不活性チモーゲンプラスミノーゲンであり、その主要な役割は線維素溶解を促進することである。血液由来t−PAは、無傷の血液脳関門(BBB)でも損傷した血液脳関門でも通過することができ(非特許文献2、非特許文献3)、したがって、内因的に産生されるt−PAとともに、脳実質において様々な基質と相互作用でき、こうして、t−PA/プラスミン(プラスミノーゲン)駆動細胞外マトリックス分解を超えてその機能を拡張することができる。
【0005】
t−PAとNメチルDアスパラギン酸受容体(NMDAR)、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質(LRP)、グリア細胞におけるアネキシンIIおよび/または神経細胞活性化細胞シグナル伝達過程と間の相互作用により、脳浮腫、出血性変化および細胞死を含む有害な結果をもたらすことを示す証拠が増えている。t−PAのこれら複数の病態生理学的作用に基づいて、内在性t−PAの関与(外因的に適用されるrt−PAの副作用により支持されている)が、てんかん、アルツハイマー病、多発性硬化症または髄膜炎などのいくつかの神経障害または神経変性障害について、虚血性障害における確立した役割を超えて議論されている。
【0006】
t−PAの複雑な挙動に従って、t−PAの有害な影響を阻害するためのいくつかの分子戦略を考えることが可能である。しかし、臨床的状況に移すことが可能である戦略はまだ見あたらない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Yepes et al., Trends Neurosci 2009; 32(1): 48−55
【非特許文献2】Benchenane et al., Circulation 2005, 111(17): 2241−2249
【非特許文献3】Benchenane et al., Stroke 2005, 36(5): 1065−1070
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、神経障害または神経変性障害、特に脳卒中の処置のための新規の手段を提供することである。
【0009】
この目的は、請求項1に記載の方法により解決される。本発明の追加の実施形態は、追加の独立請求項または従属請求項の主題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、クリングルドメインを含むかもしくはそれからなるタンパク質またはNMDA受容体のNR1サブユニットのアミノ末端ドメインに特異的に結合する抗体(抗ATD−NR1抗体)は、2つのt−PA関連標的部位、すなわち血液脳関門およびNMDA受容体で活性であり、その結果、血管保護および神経保護活性を示すことを見出した。
【0011】
したがって、抗ATD−NR1抗体(またはその抗原結合断片)およびクリングルドメイン含有タンパク質もしくはペプチド(以下、「クリングルタンパク質」および/または「クリングルペプチド」)はともに「t−PAインヒビター」と呼ばれる。
【0012】
下に示されることになるように、動物モデルからの結果により、本発明のt−PAインヒビターは、t−PAと一緒に与えられる場合だけではなく、単独で投与される場合も効果的である。さらに、t−PAインヒビターは、血餅形成後に与えられた場合血栓性障害において有益効果を示し、それゆえに、血栓症の急性期処置または後急性期処置が可能になる。
【0013】
したがって、本発明は、神経障害または神経変性障害、特に脳卒中の処置のための医薬品の製造のためのタンパク質またはペプチドの使用であって、前記タンパク質またはペプチドが、
(a)
(i)配列番号1、配列番号2もしくは配列番号3に記載のアミノ酸配列、または
(ii)配列番号3に記載のアミノ酸配列と少なくとも70%の同一性、好ましくは80%、さらに好ましくは90%、もっとも好ましくは95%の同一性を有するアミノ酸配列、または
(iii)配列「CY−X3−G−X2−YRGTXS−X2−ES−X3−C−X2−WNS−X2−L−X4−Y−X4−PXA−X2−LGLGXHNYCRNP−X4−KPWCXVXK−X6−EXC−X2−PXC」(Xは任意のアミノ酸を示す)により定義されるプラスミノーゲン活性化因子関連クリングル(PARK)モチーフと少なくとも90%の同一性、好ましくは少なくとも95%もしくは100%の同一性を有するアミノ酸配列、または
(iv)配列「CY−X3−G−X2−YRGTXS−X2−ESR−X2−C−X2−WNS−X2−LXR−X2−Y−X3−MPXAFN−LGLGXHNYCRNPNXAXKPWCXVXK−X3−F−X2−ESC−X2−PXC」(Xは任意のアミノ酸を示す)により定義されるDARKモチーフと少なくとも92%の同一性、好ましくは少なくとも95%もしくは100%の同一性を有するアミノ酸配列
を含むかまたはそれからなる、セリンプロテアーゼ活性を示さないクリングルタンパク質またはペプチド、
あるいは
(b)NMDA受容体サブユニットNR1のN末端ドメインに結合する単離された抗体またはその断片(抗ATD−NR1抗体)であって、前記抗体または前記その断片の結合が前記NR1サブユニットの細胞外ドメインまたは断片の切断を妨げ、前記NR1は好ましくは
(i)配列番号4もしくは5のアミノ酸配列を有する、
(ii)配列番号6もしくは7のヌクレオチド配列によりコードされる、
(iii)ハイブリダイゼーションが5×SSPE、5×デンハート液および0.5%SDS中55〜60℃で終夜実施される高いストリンジェンシーの条件下で配列番号6もしくは7の核酸分子の相補体に特異的にハイブリダイズする核酸分子である、
単離された抗体またはその断片
からなる群より選択される、使用に関する。
【0014】
本発明者らは、プラスミノーゲン活性化因子関連クリングル(PARK)ドメインのみからなるタンパク質はt−PA輸送インヒビターでもあるという最終証拠により、クリングルドメインを、BBBを通るt−PA輸送の阻害のための関連ドメインとして同定することができた。それゆえに、このドメインを含むかまたはこれからなるタンパク質またはペプチドは血管保護薬(vasoprotectant)および/または神経保護薬(neuroprotectant)として使用することが可能である。これは、デスモテプラーゼ(desmoteplase;Desmodus rotundusプラスミノーゲン活性化因子)DSPAのクリングルドメインに限定されず、他のプラスミノーゲン活性化因子のクリングルドメインにも適用される。なぜならば、異なるプラスミノーゲン活性化因子のクリングルドメインがrt−PAのトランスBBB輸送を阻害することができることが見出されたからである。
【0015】
それゆえに、本発明は、神経障害の処置のためのプラスミノーゲン活性化関連クリングル(PARK)ドメインまたはデスモテプラーゼ活性化因子関連クリングル(DARK)ドメインを有するタンパク質の使用に関する。特に、これらのタンパク質は血管保護薬および/または神経保護薬として用いることが可能である。
【0016】
前記クリングルタンパク質の保護活性は、そのプロテアーゼ活性に起因するものではない。それゆえに、本発明のタンパク質は、プラスミノーゲン活性化因子により一般的に共有されるセリンプロテアーゼ活性を示さない。
【0017】
このことは、BBB進入のインビトロモデルにおいて本発明者らにより明らかにすることができた。本明細書では、rt−PAの輸送は、プラスミノーゲン活性化因子デスモテプラーゼによってだけではなく、不活化されたいわゆる「クロッグ(clogged)」DSPA(cDSPA)によってもブロックすることが可能であることが実証された。不活化DSPAは、t−PAのプラスミノーゲン活性化能力を増大することもないし、t−PAのプラスミノーゲン活性化、したがって血餅溶解効力を妨害することもないために、これにより新しい治療アプローチへの道が開かれた。むしろ、不活化DSPAは、t−PA関連血栓溶解物の有害な副作用のみを阻害する。さらに、不活化DSPAは、NMDA受容体のNR1サブユニットを切断することができず、それゆえ、自身により神経毒性の危険をもたらすことはない。
【0018】
さらに、本発明者らは、rt−PAとクロッグDSPA(または単離され精製されたクリングルドメイン)の共インキュベーションは、血液脳関門に毒性作用を及ぼさないことを明らかにすることができた。
【0019】
クリングルは、3つのジスルフィド結合により形成されるトリプルループポリペプチド構造体である。クリングルは、約79から82アミノ酸基まで長さが変動する。高度な配列相同性は、ヒトウロキナーゼの単一クリングル(Guenzlerら、Hoppe−Seyler’s Z. Physiol. Chem. 363巻、1155頁、1982年)、ヒト組織プラスミノーゲン活性化因子の2つのクリングル(Pennicaら、Nature、301巻、214頁、1983年)、ヒトプロトロンビンの2つのクリングル(Walzら、Proc. Nat’l.Acad. Sci. USA、74巻、1969頁、1977年)およびヒトプラスミノーゲンの5つのクリングル(Sottrup−Jensenら、in Progress in Chemical Fibrinolysis and Thrombolysis (Davidsonら編)、3巻、191頁、1978年)間で共有されている。クリングル内ジスルフィド架橋に関与している6つのシステインの相対位置はすべてのクリングルで保存されている。
【0020】
本出願において使用される用語「プラスミノーゲン活性化因子関連クリングルドメイン」(PARKドメイン)とは、配列「CY−X3−G−X2−YRGTXS−X2−ES−X3−C−X2−WNS−X2−L−X4−Y−X4−PXA−X2−LGLGXHNYCRNP−X4−KPWCXVXK−X6−EXC−X2−PXC」(Xは任意のアミノ酸を示す)(図1B)により定義されるプラスミノーゲン活性化因子関連クリングル(PARK)モチーフと少なくとも90%の同一性、好ましくは少なくとも95%もしくは100%の同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質またはペプチドのことである。
【0021】
この用語は特に、配列番号1、配列番号2および配列番号3のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるタンパク質を包含する。1つまたは複数のアミノ酸が付加されていたり、欠失していたり、または置換されていたりする場合がある、これらのタンパク質のクリングル領域における多形性形態は天然に存在しうることも理解されている。タンパク質における類似の変化はまた、遺伝子の点変異という現代技術の出現により、または任意の望ましい配列を有する遺伝子の化学的合成により、インビトロでもたらされうる。したがって、これらの改変構造(複数可)も、本出願において使用される用語、クリングル(複数可)に含まれる。
【0022】
配列番号1および配列番号2の配列は、組換えt−PA(アルテプラーゼ)のクリングル1および2ドメインのアミノ酸配列を示している。配列番号3は、デスモテプラーゼ(DSPAアルファ1)のクリングルドメインのアミノ酸配列を示している。
【0023】
【化1】
前記ペプチドまたはタンパク質に好ましい他のクリングルドメインには、ウロキナーゼおよびプロトロンビン由来のクリングルドメインが挙げられる。
【0024】
本明細書で使用されるように、「DARKドメイン」は、図1Bに与えられるDSPAアルファ1のクリングル配列から生じる以下のアミノ酸配列モチーフ:
CY−X3−G−X2−YRGTXS−X2−ESR−X2−C−X2−WNS−X2−LXR−X2−Y−X3−MPXAFN−LGLGXHNYCRNPNXAXKPWCXVXK−X3−F−X2−ESC−X2−PXC(Xは任意のアミノ酸を示す)と少なくとも90%の同一性、好ましくは少なくとも95%または100%の同一性のアミノ酸配列を有するペプチドとして定義される。
【0025】
本発明の追加の態様では、クリングルタンパク質は、それぞれ図1Bまたは図1AのDARKまたはPARKドメインのいずれかのアミノ酸配列からなる。
【0026】
【化2】
本発明のクリングルタンパク質は、好ましくは、200アミノ酸(aa)を超えない、好ましくは150aaを超えない、もっとも好ましくは100aaを超えない長さを有し、上記のPARKまたはDARKモチーフを含む。これは82aaの長さを有する。
【0027】
クリングルタンパク質は、さらに、本明細書で使用される82aaクリングルドメインの番号付けに従って、好ましくはアミノ酸Y36、W62およびH64の存在により定義されるリジン結合部位を含むことができる。
【0028】
本発明のクリングルタンパク質は、好ましくは、少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、もっとも好ましくは少なくとも40%または50%(これは、本発明の実施例A、第2章に記載される方法により評価できる)、哺乳動物における血液脳関門(BBB)を通るt−PA輸送を阻害する。
【0029】
前記t−PAインヒビターは、低密度リポタンパク質(LDL)受容体関連タンパク質(LRP)に特異的に結合することができる。LRPは、t−PA、βアミロイド前駆体タンパク質、アルファ2マクログロブリン、アポリポタンパク質Eエンリッチベータ超低密度(E−enriched beta−very−low−density)リポタンパク質および緑膿菌外毒素Aを含む様々なリガンドに結合する多機能エンドサイトーシス受容体であり、これらの一部はアルツハイマー病などの神経疾患に関係している。LRP結合により、前記タンパク質またはペプチドは、t−PAまたは他のリガンドの前記LRPへの結合をブロックし、それによってBBBを越えるLRP媒介輸送を阻害することができる。
【0030】
さらに、本発明のt−PAインヒビターはNMDA受容体のNR1サブユニットに結合することができる。このNR1結合により、前記t−PAインヒビターは他の基質またはリガンドの前記NR1サブユニットへの結合をブロックし、それによってそのタンパク質分解性切断を阻害することができる。
【0031】
追加の態様では、本発明は、神経障害、特に脳卒中の処置のための、NMDA受容体サブユニットNR1のN末端ドメインまたはその断片に、特に配列番号4または5を含むかまたはそれからなる抗原に、特異的に結合する単離された抗体(抗ATD−NR1抗体)またはその抗原結合部分の使用に関する。
【0032】
追加の実施形態では、本発明の抗体またはその断片は、高ストリンジェンシーの条件下で配列番号6または7の核酸分子の相補体に特異的にハイブリダイズする。この高ストリンジェンシー条件は、たとえば、5×SSPE、5×デンハート液および0.5%SDSにおいて55〜60℃で終夜実施されるハイブリダイゼーションにより提供することができる。
【0033】
本発明者らは、t−PAとNMDA受容体のNR1サブユニットのアミノ末端ドメインの相互作用を標的にする抗体ベースの処置は、脳損傷を制限しBBBの破壊を阻害することにより、脳卒中後の神経学的結果を強く恒久的に改善することができることを今や見出した。
【0034】
抗ATD NR1抗体効果のこの有益な効力は、ヒトにおけるt−PA処置についての観察された時間ウィンドウを再現する能力を有する脳卒中の臨床的に関連するモデルにおいて示された(Orsetら、2007年)。このモデルでは、精製されたマウストロンビンのインサイチューマイクロインジェクションが中大脳動脈において局所的血餅を引き起こし、再現性のある血餅形成、皮質脳損傷および手術関連死亡の欠如(lack of surgery−associated lethality)をもたらす。この血栓症モデルでは、t−PAの効力およびt−PA処置についての時間ウィンドウは、ヒト臨床状況に類似している。要約して言えば、この動物モデルは脳卒中治療の前臨床評価によく適している。
【0035】
抗ATD NR1抗体は、NMDAサブユニットのうちの1つの小部分だけに対するものである。このために、NMDA受容体の生理的機能を妨害せず、NMDA活性のt−PA誘導増強を阻害するだけである、NMDA受容体での特異的介入が可能になる。
【0036】
前記抗体がt−PAに対するものではないという事実から、治療的に投与されるt−PAまたは他のプラスミノーゲン活性化因子は、血栓障害において有益な活性には必須であるその正常な血栓溶解機能を保持することになる。
【0037】
抗ATD NR1抗体は、血栓障害のリスクを抱えているかまたは血栓障害に罹っている患者の受動免疫のために使用することが可能である。適切な抗原を用いる前処置により実現される能動免疫とは対照的に、NMDA受容体でのブロッキング効果は直ちに実現される。血栓障害ではタイミングの良い処置が、好結果への保証となるので、このことは極めて重要である。
【0038】
t−PAおよびグルタミン酸、すなわちNMDA受容体での内在性アゴニストは、記憶と学習過程の根底にあるシナプスの再構築および可塑性において決定的に重要な機能を発揮するので、対応する副作用のリスクは明白である。本明細書で使用される受動免疫では、空間記憶、文脈的および恐怖条件付けを含む認知機能の明白な変化はなかった。このことは、脳保護のこの戦略の優れた安全プロファイルを支持している。
【0039】
t−PAの投与の有害な影響に対する前記抗体の治療効力は、その設計の論理的帰結であると考えられるが、さらに、前記抗体がt−PAの共投与がなくても効果的であることが見出されたことは最も驚きであった。血栓塞栓性脳卒中のマウスモデルにおいて、抗体を用いて処置されたマウスは脳損傷の強い減少を見せた(図12参照;対照と比べて43.3%の保護)。このような保護効果は、このモデルにおける早期rt−PA処置の保護効果に匹敵することは注目すべきである。
【0040】
これらの所見の結果として、抗ATD NR1抗体は内因的に発現されるt−PAを阻害することもできる。
【0041】
それゆえに、本発明に従って、抗ATD NR1抗体は、血栓障害、特に脳卒中の処置のための単独療法(monotherapy)(すなわち、t−PA共処置または他の任意の薬物物質の共投与なし)として使用することが可能である。
【0042】
脳卒中モデルにおける血液脳関門漏洩の分析により、抗ATD NR1抗体単独の早期投与と後期投与の両方が脳卒中により誘導されるBBB漏洩の程度を著しく減少することが明らかにされた。さらに、抗ATD NR1処置は、この脳卒中モデルにおいてBBBの完全性に対するrt−PAの損傷効果を効率的に減少した。さらに、クリングルドメイン含有タンパク質は、BBBのt−PA誘導損傷を防ぐ。
【0043】
それゆえに、本発明の好ましい実施形態では、t−PAインヒビターを、血液脳関門の増強された透過性と関連する神経障害または神経変性障害の処置のために使用することが可能である。これらの障害は、脳卒中またはTIAなどの虚血性または血栓障害、側頭葉てんかん(TLE)などのてんかん、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、脳腫瘍、パーキンソン病、アルツハイマー病、脳浮腫または髄膜炎もしくは脳炎などの寄生虫、細菌、真菌もしくはウイルス感染から生じるCNS合併症を含む。
【0044】
抗体は一般的には、無傷の血液脳関門により脳から効果的に排除され、BBB損傷の場合にのみ脳組織に接近することができると考えられている。驚くべき所見として、脳実質における蛍光抗ATD NR1抗体の免疫染色および定量化により(図22参照)、前記抗体は非手術動物および偽動物において脳に到達することができ、抗体は損傷した半球が明らかに増加している虚血性動物においてはさらに速い速度で脳に到達することが明らかにされた。したがって、現在の考えに反して、本発明は、抗体をBBB損傷がない場合に使用することが可能であることを証明している。外因性t−PAがBBBを高速で通過することができる場合、そのような損傷の存在下では、さらに、前記抗体は、脳組織により大量に到達してNMDA受容体で前記t−PAをアンタゴナイズすることになる。
【0045】
それゆえに本発明に従えば、抗ATD NR1抗体を、BBBの増強された透過性がない障害のために、またはBBBの病態生理学的な透過性増強前でも、治療的有効量の前記抗体が脳実質に存在し、初期に神経細胞を保護する予防的処置としても使用することが可能である。
【0046】
本発明の状況では、前記抗体は、好ましくは配列番号6もしくは7のヌクレオチド配列によりコードされているアミノ酸19〜480をコードするか、または配列番号4もしくは5に開示されるアミノ酸19〜371をコードするNR1−1aサブユニットのN末端領域、あるいは8個〜30個、好ましくは10個〜20個の連続するアミノ酸を含むその断片に対するものであり、前記断片に対する抗体はt−PAによるNR1サブユニットの切断を防ぐ。
【0047】
【化3】
【0048】
【化4】
本発明に従えば、前記抗体は、プロテアーゼによる、好ましくはt−PAによる、もっとも好ましくはアミノ酸残基Arg260でのNR1サブユニットの細胞外ドメインの切断を防ぐ。
【0049】
本発明の一実施形態では、抗ATD NR1抗体は、モノクローナル抗体、好ましくはヒト化抗体、単一ドメイン抗体またはVHH抗体(いわゆるナノボディ)、キメラ抗体または脱免疫化(deimmunized)抗体である。
【0050】
本発明の追加の実施形態に従えば、前記抗体の抗原結合部分、好ましくはscFv分子またはFab断片を使用することが可能である。前記抗原結合部分はヒト化することが可能であるか、またはヒト配列を所有する。
【0051】
血栓塞栓性脳卒中のマウスモデルにおける追加の実験により、抗ATD NR1抗体の治療的関連性の1つの驚くべき面が明らかにされた。後期t−PA血栓溶解は、早期再灌流に匹敵するほどに脳血流量を回復するにもかかわらず、減少ではなく増加した脳損傷と関連していた。しかし、抗ATD NR1抗体を用いて追加で処置されたマウスでは、脳保護は、早期血栓溶解動物において観察されるのと類似する程度に回復された。
【0052】
これらの所見に基づいて、本発明は、患者が治療的有効量の血栓溶解薬と有効量のt−PAインヒビター、特に抗ATD NR1抗体を用いて処置される、神経障害および神経変性障害、特に脳卒中の処置のための方法に関する。本発明は、さらに、血栓溶解薬とt−PAインヒビター、特にNMDA受容体サブユニットNR1のN末端ドメインに対する抗体を含む複合物に関する。
【0053】
したがって、抗ATD NR1抗体は、血栓溶解療法の補助剤として、特に後期t−PA誘導血栓溶解のために使用することができる。
【0054】
本発明者らは、抗ATD NR1抗体の単回静脈内注射が血餅形成後でも高度に保護的であることも実証することができた。血栓塞栓性脳卒中モデルにおける抗ATD NR1抗体の早期送達(血餅形成の20分後)は、このモデルにおける早期rt−PA処置の保護効果に匹敵する著しい脳保護(対照と比べて44%の保護、図16A参照)を与えた。極めて驚くべきことに、抗ATD NR1抗体の遅延注射(血餅形成の4時間後)は、共投与されたt−PAの有害な影響を阻害することができるだけではなく、単独で与えられた場合でも高度に保護的であった。MRI分析により決定される抗ATD NR1抗体の単回後期注射のこのような保護効果は、虚血の24時間後にはすでに目に見えるほどであり、手術の15日後まで維持され(図18A対18B)、それによって脳卒中後に長期の利益を与えた。
【0055】
したがって、本発明の追加の態様では、抗ATD NR1抗体は、神経障害または神経変性障害、特に脳卒中の急性期処置または後急性期処置のために使用することが可能である。この急性期処置または後急性期処置は、単独療法としてあるいは追加の薬物、好ましくは抗凝固剤、抗血小板剤、もしくは血栓溶解薬と、さらに好ましくはt−PAもしくはその改変体またはDSPAアルファ1と組み合わせて実施することが可能である。
【0056】
内因性t−PAの有害な影響は外因的に適用された血栓溶解薬の有益な効果も相殺するために、前記t−PAインヒビターの組合せ使用は、たとえば、DSPAアルファ1などの神経毒性のおよび/または血管毒性の副作用と関連のない血栓薬についての血栓溶解療法の結果さえ改善するはずである。
【0057】
それゆえに、t−PAインヒビターは、BBBともNMDA受容体とも不利に相互作用しないか、または脈管構造にも神経細胞にも有害な影響を与えない血栓溶解薬と組み合わせて与えることが可能である。そのような組合せでは、DSPAアルファ1が好ましい。
【0058】
本発明の追加の実施形態に従えば、前記血栓溶解薬と前記t−PAインヒビターは等モル濃度で与えられる。
【0059】
本発明に従った複合物は、治療的有効量の少なくとも両成分(前記血栓溶解薬と前記t−PAインヒビター)を含む単一調製物を含むことが可能であるか、または、それぞれが少なくとも治療的有効量の成分、すなわち前記血栓溶解薬もしくは前記t−PAインヒビターのうちの1つを含有する2つの別々の調製物を表す。2つの別々の調製物が使用される場合、患者には、同時にまたは続けてのいずれかで投与することが可能である。したがって、両成分はコンビナトリアル調製物として、または、別々の調製物として共に投与することが可能である。適用可能であり適切な場合には、前記調製物は、単回ボーラスとして、または注入として、またはその組合せとして投与することが可能である。複数の連続注入を用いることも可能である。
【0060】
前記t−PAインヒビターおよび前記血栓溶解薬、特にプラスミノーゲン活性化因子は、好ましくは非経口適用として、たとえば、静脈内または皮下適用により非経口的に与えられる。静脈内または皮下ボーラス適用が可能である。このように、本発明に従えば、非経口投与に適している薬学的組成物が提供される。
【0061】
本発明の追加の実施形態では、NR1サブユニットのATDに特異的に結合するナノボディでは経口投与を実施することが可能である。
【0062】
本発明に従えば、前記t−PAインヒビターと組み合わせて、血栓溶解薬、特にt−PAもしくはその改変体またはDSPAアルファ1を使用する療法は、
(a)前記血栓溶解薬、特にプラスミノーゲン活性化因子を、脳卒中の発症から3時間超、好ましくは4.5時間超、好ましくは6時間超およびさらに9時間または12時間超後に患者に投与することが可能であるという特徴;
(b)処置のための血栓溶解薬、特にt−PAの用量は、前記血栓溶解薬を用いた単独療法に推奨される用量と比較して、増加することが可能であるという特徴;
(c)血栓溶解処置を、現在血栓溶解療法が望ましくない患者、すなわち可能な処置が提供される3時間前よりも早く、さらに好ましくは4.5時間前よりも早く脳卒中に罹った患者、または出血のリスクが増大している患者において適用することが可能であるという特徴;
のうちの1つまたは複数を含む。
【0063】
したがって、本発明は、脳卒中の発症から3時間を越えた、好ましくは4.5時間を越えた治療時間ウィンドウ、さらにより好ましくは9時間またはさらに12時間を越えての血栓溶解脳卒中療法を可能にする。
【0064】
こうして、本発明の一態様では、前記t−PAインヒビターを使用して、血栓溶解処置の結果として起こる1つまたは複数の有害な副作用を減少、予防または遅延する。これらの副作用には、頭蓋内出血または脳内出血などの出血が挙げられる。
【0065】
本発明の追加の態様では、前記t−PAインヒビターの適用により、通常それぞれの指示で与えられるレベルを超えて、好ましくは血栓溶解薬の製造業者により推奨される用量を超えて血栓溶解薬の用量を増加することが可能になる。
【0066】
本発明は、様々な血栓溶解薬の使用を可能にする。好ましくは、血栓溶解薬はプラスミノーゲン活性化因子、さらに好ましくは組換えt−PA(rt−PA、たとえば、アルテプラーゼ)または、パミテプラーゼ、ラノテプラーゼ、レテプラーゼ、テネクテプラーゼもしくはモンテプラーゼなどのt−PAの改変体、ウロキナーゼ、またはDSPAアルファ1、DSPAアルファ2、DSPAベータもしくはDSPAガンマなどのDSPA改変体である。
【0067】
上記概略のように、本発明のクリングルタンパク質は、不活化プラスミノーゲン活性化因子、好ましくは、DSPAアルファ2、DSPAベータもしくはDSPAガンマ、ウロキナーゼ、アルテプラーゼまたはレテプラーゼ、パミテプラーゼ、ラノテプラーゼ、レテプラーゼ、テネクテプラーゼもしくはモンテプラーゼなどのt−PAの改変体からなる群より選択される不活化プラスミノーゲン活性化因子により構成されることが可能である。
【0068】
DSPA(Desmodus rotundusプラスミノーゲン活性化因子)の改変体は、米国特許第5,830,849号および米国特許第6,008,019号の主題であり、これら特許文献は参照により本明細書に完全に組み込まれている。
【0069】
特に、不活化DSPAアルファ1を使用することが可能であり、好ましくは上記不活化DSPAアルファ1が自殺基質に、さらに好ましくはD−フェニル−プロリル−アルギニンクロロメチルケトン(PPACK)に連結されている。
【0070】
本発明のこの態様に従えば、前記クリングルタンパク質またはペプチドには、プラスミノーゲン活性化因子または関連するタンパク質に見出される、たとえばフィンガードメイン(F)、上皮増殖因子ドメイン(EGF)もしくはリジン結合部位などの1つもしくは複数のドメイン、領域もしくは触媒部位が含まれる。これらの配列(複数可)の供給源としては、組換えt−PA(rt−PA、たとえばアルテプラーゼ)またはパミテプラーゼ、ラノテプラーゼ、レテプラーゼ、テネクテプラーゼもしくはモンテプラーゼなどのt−PAの改変体、ウロキナーゼ、またはDSPAアルファ1、DSPAアルファ2、DSPAベータもしくはDSPAガンマなどのDSPA改変体が好ましい。追加の実施形態では、異なるプラスミノーゲン活性化因子タンパク質由来のドメイン、領域または触媒部位が互いに組み合わされる。
【0071】
本発明の一つの好ましい態様では、前記クリングルタンパク質またはペプチドは、クリングルドメインまたはその断片のみからなり、前記断片はクリングルドメインの少なくとも8個、好ましくは少なくとも15〜30個の連続アミノ酸を含み、前記ペプチドは、BBBを通過するt−PA輸送を下の第2章の実施例Aに従って評価できるように、少なくとも20%阻害する。
【0072】
本発明の特定の態様では、前記クリングルペプチドは、DSPAアルファ2、DSPAベータまたはDSPAガンマ、ウロキナーゼ、アルテプラーゼ、またはレテプラーゼ、パミテプラーゼ、ラノテプラーゼ、レテプラーゼ、テネクテプラーゼもしくはモンテプラーゼなどのt−PAの改変体由来のクリングルドメインおよび好ましくはDSPAアルファ1由来のクリングルドメインからなる。
【0073】
したがって、本発明はさらに、
(a)配列番号3に記載のアミノ酸配列(DSPAクリングル)、または
(b)配列番号3に記載のアミノ酸配列と少なくとも70%の同一性、好ましくは80%、さらに好ましくは90%、もっとも好ましくは95%の同一性を有するアミノ酸配列、または
(c)配列「CY−X3−G−X2−YRGTXS−X2−ESR−X2−C−X2−WNS−X2−LXR−X2−Y−X3−MPXAFN−LGLGXHNYCRNPNXAXKPWCXVXK−X3−F−X2−ESC−X2−PXC」(Xは任意のアミノ酸を示す)により定義されるDARKモチーフと少なくとも92%の同一性、好ましくは少なくとも95%もしくは100%の同一性を有するアミノ酸配列
を含み、
セリンプロテアーゼ活性を示さず、ただし、t−PAもしくはウロキナーゼのクリングルドメインではなく、自殺基質に共有結合したDSPAアルファ1タンパク質でもt−PAでもない、タンパク質またはペプチドに関する。
【0074】
本発明の別の態様では、単離された抗体またはその断片が、配列番号4もしくは5から選択されるアミノ酸配列により、または配列番号6もしくは7から選択される核酸配列によりコードされるNMDA受容体サブユニットNR1のN末端ドメインに結合するか(抗ATD−NR1抗体)、あるいは代わりに高度にストリンジェンシーな条件下で配列番号6もしくは7の核酸分子の相補体に特異的にハイブリダイズする核酸分子によりコードされるタンパク質に結合する、単離された抗体またはその断片が提供される。高度なストリンジェンシーは、たとえば、5×SSPE、5×デンハート液および0.5%SDSにおいて55〜60℃で終夜実施されるハイブリダイゼーションにより実現することが可能である。
【0075】
本発明に従えば、前記t−PAインヒビターは神経保護薬として使用することが可能である。
【0076】
本発明の追加の態様は、血栓溶解薬を伴なうか、またはそれを伴なわない、前記t−PAインヒビターのうちの1つまたは複数からなる群より選択される薬学的組成物であって、1つまたは複数の薬学的に許容されるキャリアもしくは賦形剤をさらに含みうる薬学的組成物を提供する。
【0077】
本発明の追加の態様では、神経障害または神経変性障害、特に脳卒中を処置する方法であって、治療的有効量の前記t−PAインヒビターを単独で、または治療的有効量の血栓薬、好ましくはプラスミノーゲン活性化因子、さらに好ましくはt−PAと組み合わせて投与することを含む、方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】図1は、PARKドメインに相当する保存、類似のアミノ酸を示すコンピュータベースの3Dモデルである。緑色で強調されているアミノ酸は保存されたアミノ酸を表し、赤色は類似のアミノ酸残基を表示している。
【図2】図2は、DSPAアルファ1のクリングル、ならびにrt−PAのクリングル1およびクリングル2により描かれている例示となるPARKドメインの結合部位である。
【図3】図3は、クロッグDSPAアルファ1の3Dコンピュータベースのモデルである。触媒的に不活性なクロッグDSPAをもたらす、触媒に結合しているD−フェニル−プロリル−アルギニンクロロメチルケトンを含む、リボン表示でのインシリコ法(Swiss Model、GROMOS96、POVRAY)によるMDシミュレーションの4400ピコ秒後のDSPAの構造。水色:フィンガードメイン、赤色:EGFドメイン、黄色:クリングルドメイン、緑色:触媒ドメイン。
【図4】図4は、アルテプラーゼおよびデスモテプラーゼの3Dモデルである。リボン表示でのインシリコ法(Swiss Model、GROMOS96、POVRAY)によるMDシミュレーションのそれぞれ4400ピコ秒後および4000ピコ秒後のDSPAおよびrt−PAの構造。水色:フィンガードメイン、赤色:EGFドメイン、黄色:DSPAのクリングルドメインおよびt−PAのクリングル1ドメイン、青色:t−PAのクリングル2ドメイン、緑色:触媒ドメイン。
【図5】図5は、内皮細胞およびグリア細胞の共培養の模式図である。
【図6】図6は、透過性研究の模式図である。
【図7】図7は、BBB輸送の測定の実験手順である。
【図8】図8は、rt−PA輸送競合(0.3μM)についての酵素電気泳動アッセイである。指示された異なる化合物の存在下での処理の2時間後、反管腔側区画に対応するバス培地(図5参照)は回収され、プラスミノーゲンおよびカゼイン含有酵素電気泳動アッセイに供されて、そのそれぞれの分子量およびプラスミノーゲンを活性化し(37℃で2時間のインキュベーション)続いてカゼイン消化するその能力に基づいてプラスミノーゲン様活性化因子を明らかにした。
【図9】図9は、棒グラフ、左手側軸:DSPA関連分子およびK2(t−PA)有りでのおよびなしでのrt−PAの輸送を示す。前記輸送は、スペクトロザイムアッセイを使用して評価された。線、右手側軸:スクロースの無変化透過性(Peスクロース)である。
【図10】図10は、DSPAによるNMDA媒介神経毒のインビボアンタゴニズムである。NMDA(50nmol)の線条体投与により誘導される神経細胞死の程度に対するrt−PAおよび/またはデスモテプラーゼ(DSPA)(それぞれ1mg/kg)ならびにそのビヒクルの静脈内注射の効果。*P 約0.01、ボンフェローニ較正したANOVA。
【図11】図11は、DSPAによるNMDA媒介およびt−PA増強神経毒のインビボアンタゴニズムである。NMDA(50nmol)の線条体投与により誘導される神経細胞死の程度に対するrt−PAおよび/またはデスモテプラーゼ(DSPA)(それぞれ3μg)の線条体内注射の効果。*P 約0.001、ボンフェローニ較正したANOVA。
【図12−1】図12は、ATD−NR1に対する能動免疫が、rt−PA誘導再灌流を伴なったインサイチュー血栓塞栓性脳卒中のモデルでは保護的であることを示す。(A、C)虚血性病変は、Swissマウス(群あたりn=10)におけるMCAへのトロンビンインサイチュー注入(0.75 U.I)により、組換えrATD−NR1の最後の接種の11日後に実施した。20分後(A)または4時間後(C)、rt−PA(10mg/kg)または生理食塩水を40分かけて注入した(10%ボーラス、90%注入)。脳は24時間後に収集し、脳病変は、チオニン染色されたクリオスタット切片を分析することにより測定した(各群の代表的切片参照)。結果は平均±SDとして表されている。*:p<0.01。(B、D)レーザードップラーにより測定される正規化された脳血流速度は、NMDA受容体NR1サブユニットのATDに対する免疫化が、早期(20分)または後期(4時間)rt−PA投与の再灌流を誘導する能力に影響を与えないことを示した(群あたりn=10、結果はベースライン値に正規化され、平均±SDとして表された。*:p<0.001)。
【図12−2】図12は、ATD−NR1に対する能動免疫が、rt−PA誘導再灌流を伴なったインサイチュー血栓塞栓性脳卒中のモデルでは保護的であることを示す。(A、C)虚血性病変は、Swissマウス(群あたりn=10)におけるMCAへのトロンビンインサイチュー注入(0.75 U.I)により、組換えrATD−NR1の最後の接種の11日後に実施した。20分後(A)または4時間後(C)、rt−PA(10mg/kg)または生理食塩水を40分かけて注入した(10%ボーラス、90%注入)。脳は24時間後に収集し、脳病変は、チオニン染色されたクリオスタット切片を分析することにより測定した(各群の代表的切片参照)。結果は平均±SDとして表されている。*:p<0.01。(B、D)レーザードップラーにより測定される正規化された脳血流速度は、NMDA受容体NR1サブユニットのATDに対する免疫化が、早期(20分)または後期(4時間)rt−PA投与の再灌流を誘導する能力に影響を与えないことを示した(群あたりn=10、結果はベースライン値に正規化され、平均±SDとして表された。*:p<0.001)。
【図13】図13は、rATD−NR1に対して産生されたポリクローナル抗体が、NR1の組換えATDドメインおよび脳実質におけるNMDA受容体NR1サブユニットを認識することができることを示す。(A)20gのNR1の組換えN末端ドメイン(ATD−NR1、アミノ酸19〜371)(ヒスチジンタグまたはFcタグに結合されている)は、抗ATD−NR1ポリクローナル抗体、抗ヒスチジン抗体、抗Fc抗体および対照IGを用いた検出に先立って、SDS−PAGEにより分離された。免疫ブロットは3つの独立した実験を代表している。(B)ヒトおよびマウスの脳皮質由来のタンパク質抽出物は、抗ATD−NR1ポリクローナル抗体またはNMDA受容体NR1サブユニットを認識することができる市販のNR1−ct抗体を用いた検出に先立ってSDS−PAGEにより分離された。免疫ブロットは3つの独立した実験を代表している。
【図14−1】図14は、ATD−NR1に対して産生されたポリクローナル抗体が、t−PA促進NMDA受容体媒介神経毒を防ぐことを示している。神経細胞死割合は、NMDAへの興奮毒性曝露24時間後に評価されるバス培地へ放出されたLDHにより評価した。(A)混合皮質培養物は、NMDA(10μM)単独への、またはrt−PA(20μg/ml)、抗ATD−NR1(0.01mg/ml)もしくはその両方の存在下でNMDAへの長期曝露を受けた。rt−PAは神経細胞死割合の著しい増加を引き起こし、これは抗ATD−NR1によりアンタゴナイズされた。(C)NMDA(50μM)に短期間曝露された混合皮質培養物、他の条件および効果はパネルAと同じ。(B、D)対照は、対照IGの存在下で実施された。実験ごとにN=3;n=12ウェル;p<0.01。
【図14−2】図14は、ATD−NR1に対して産生されたポリクローナル抗体が、t−PA促進NMDA受容体媒介神経毒を防ぐことを示している。神経細胞死割合は、NMDAへの興奮毒性曝露24時間後に評価されるバス培地へ放出されたLDHにより評価した。(A)混合皮質培養物は、NMDA(10μM)単独への、またはrt−PA(20μg/ml)、抗ATD−NR1(0.01mg/ml)もしくはその両方の存在下でNMDAへの長期曝露を受けた。rt−PAは神経細胞死割合の著しい増加を引き起こし、これは抗ATD−NR1によりアンタゴナイズされた。(C)NMDA(50μM)に短期間曝露された混合皮質培養物、他の条件および効果はパネルAと同じ。(B、D)対照は、対照IGの存在下で実施された。実験ごとにN=3;n=12ウェル;p<0.01。
【図15−1】図15は、ATD−NR1に対して産生されたポリクローナル抗体が、t−PA促進NMDA受容体媒介Ca2+流入を防ぐことを示している。rt−PA処理は、皮質神経細胞におけるNMDA誘起Ca++増加を増強した。細胞内遊離Ca2+([Ca2+]i)は、fura−2蛍光ビデオ顕微鏡を使用して測定された。細胞内Ca++撮像実験のための神経細胞を、ガラス底35mm皿に蒔いた。実験は12日目にインビトロで実施した。(A)25μMのNMDAへの30秒間曝露により、神経細胞[Ca2+]iは急速に増加したが、続く数分間かけて回復した。t−PA(20μg/ml)への15分間曝露後、NMDA誘起Ca2+流入は、[Ca2+]iの正味の積分された増加(任意単位で表された曲線下の面積)が37%増強される程度にまで増強された(N=3、n(細胞数)=108;p<0.05)。(B)抗ATD−NR1抗体(0.01mg/ml)とrt−PA(20μg/ml)の共投与は、NMDA誘導Ca2+流入のrt−PA増強を完全にブロックした(N=3、n(細胞数)=108;p<0.01)。(C)対照Ig(0.01mg/ml)とrt−PA(20μg/ml)の共投与は、NMDA誘起Ca2+流入の改変を全く引き起こさなかった(N=3、n(細胞数)=109;p<0.05)。(D)パネルA〜Cに例示される実験の定量化(quantization)。曲線下面積の値は最初のNMDAチャレンジに対して正規化されている。
【図15−2】図15は、ATD−NR1に対して産生されたポリクローナル抗体が、t−PA促進NMDA受容体媒介Ca2+流入を防ぐことを示している。rt−PA処理は、皮質神経細胞におけるNMDA誘起Ca++増加を増強した。細胞内遊離Ca2+([Ca2+]i)は、fura−2蛍光ビデオ顕微鏡を使用して測定された。細胞内Ca++撮像実験のための神経細胞を、ガラス底35mm皿に蒔いた。実験は12日目にインビトロで実施した。(A)25μMのNMDAへの30秒間曝露により、神経細胞[Ca2+]iは急速に増加したが、続く数分間かけて回復した。t−PA(20μg/ml)への15分間曝露後、NMDA誘起Ca2+流入は、[Ca2+]iの正味の積分された増加(任意単位で表された曲線下の面積)が37%増強される程度にまで増強された(N=3、n(細胞数)=108;p<0.05)。(B)抗ATD−NR1抗体(0.01mg/ml)とrt−PA(20μg/ml)の共投与は、NMDA誘導Ca2+流入のrt−PA増強を完全にブロックした(N=3、n(細胞数)=108;p<0.01)。(C)対照Ig(0.01mg/ml)とrt−PA(20μg/ml)の共投与は、NMDA誘起Ca2+流入の改変を全く引き起こさなかった(N=3、n(細胞数)=109;p<0.05)。(D)パネルA〜Cに例示される実験の定量化(quantization)。曲線下面積の値は最初のNMDAチャレンジに対して正規化されている。
【図16−1】図16は、rATD−NR1を標的にする抗体ベースの免疫療法が脳を脳卒中から保護し、rt−PA誘導血栓溶解の治療ウィンドウを増加させることを示している。(A、C)rATD−NR1に対する抗ATD−NR1抗体(0.8mg/ml)の単回静脈内注射は、rt−PA(10mg/kg)による早期(A:20分)もしくは後期(C:4時間)再灌流のどちらかを用いるか(黒色バー)、または再灌流なしでの(生理食塩水注入、白色バー)、インサイチュー血栓塞栓性脳卒中後の内因性および外因性t−PAの増強効果を標的にする(群あたりn=8〜10マウス、p<0.05、*p<0.01)。抗体は、t−PAまたは生理食塩水溶液のボーラス後ボリ(boli)として注入した。(B、D)ベースライン値、レーザードップラーにより測定されベースラインに正規化された脳血流速度は、NMDA受容体NR1サブユニットのATDに対する免疫化が、血餅発症後早期(20分後、B)にまたは後期(4時間後、D)に実行されたrt−PA誘導再灌流に影響を与えないことを示す(群あたりn=8〜10マウス、p<0.001)。
【図16−2】図16は、rATD−NR1を標的にする抗体ベースの免疫療法が脳を脳卒中から保護し、rt−PA誘導血栓溶解の治療ウィンドウを増加させることを示している。(A、C)rATD−NR1に対する抗ATD−NR1抗体(0.8mg/ml)の単回静脈内注射は、rt−PA(10mg/kg)による早期(A:20分)もしくは後期(C:4時間)再灌流のどちらかを用いるか(黒色バー)、または再灌流なしでの(生理食塩水注入、白色バー)、インサイチュー血栓塞栓性脳卒中後の内因性および外因性t−PAの増強効果を標的にする(群あたりn=8〜10マウス、p<0.05、*p<0.01)。抗体は、t−PAまたは生理食塩水溶液のボーラス後ボリ(boli)として注入した。(B、D)ベースライン値、レーザードップラーにより測定されベースラインに正規化された脳血流速度は、NMDA受容体NR1サブユニットのATDに対する免疫化が、血餅発症後早期(20分後、B)にまたは後期(4時間後、D)に実行されたrt−PA誘導再灌流に影響を与えないことを示す(群あたりn=8〜10マウス、p<0.001)。
【図17A】図17は、ATD−NR1に対する抗体ベースの免疫療法が、脳卒中後のrt−PA誘導BBB溢出を妨げることを示している。(A)MCAO24時間後のエバンズブルー色素血管外溢出は偽条件(血餅のないマウス)の平均値に正規化された。脳卒中20分後または4時間後の抗ATD−NR1ポリクローナル抗体(0.01mg/ml)の単回注入は、rt−PA(10mg/kg)と組み合わせたかまたはrt−PA(10mg/kg)のない、脳卒中誘導BBB溢出を減少することができた(群あたりn=3マウス、p<0.05)。この能力はMMP−9活性と連結することができた。(B)MMP−9タンパク質分解活性は、生理食塩水注入によって得られた平均値に対して正規化された。脳卒中20分後または4時間後の抗ATD−NR1ポリクローナル抗体の単回注入は、rt−PA(10mg/kg)と組み合わせたかまたはrt−PA(10mg/kg)なしにおいて、同側の皮質におけるMMP−9活性を減少することができた(群あたりn=3マウス、p<0.05)。パネル(C)はMMP−2およびMMP−9活性の代表的図を示している。MMP−9は生理食塩水およびrt−PA条件下で増加した。もっとも興味深いことに、MMP−2およびMMP−9活性は抗ATD−NR1抗体の単回注入後に減少した。
【図17B】図17は、ATD−NR1に対する抗体ベースの免疫療法が、脳卒中後のrt−PA誘導BBB溢出を妨げることを示している。(A)MCAO24時間後のエバンズブルー色素血管外溢出は偽条件(血餅のないマウス)の平均値に正規化された。脳卒中20分後または4時間後の抗ATD−NR1ポリクローナル抗体(0.01mg/ml)の単回注入は、rt−PA(10mg/kg)と組み合わせたかまたはrt−PA(10mg/kg)のない、脳卒中誘導BBB溢出を減少することができた(群あたりn=3マウス、p<0.05)。この能力はMMP−9活性と連結することができた。(B)MMP−9タンパク質分解活性は、生理食塩水注入によって得られた平均値に対して正規化された。脳卒中20分後または4時間後の抗ATD−NR1ポリクローナル抗体の単回注入は、rt−PA(10mg/kg)と組み合わせたかまたはrt−PA(10mg/kg)なしにおいて、同側の皮質におけるMMP−9活性を減少することができた(群あたりn=3マウス、p<0.05)。パネル(C)はMMP−2およびMMP−9活性の代表的図を示している。MMP−9は生理食塩水およびrt−PA条件下で増加した。もっとも興味深いことに、MMP−2およびMMP−9活性は抗ATD−NR1抗体の単回注入後に減少した。
【図17C】図17は、ATD−NR1に対する抗体ベースの免疫療法が、脳卒中後のrt−PA誘導BBB溢出を妨げることを示している。(A)MCAO24時間後のエバンズブルー色素血管外溢出は偽条件(血餅のないマウス)の平均値に正規化された。脳卒中20分後または4時間後の抗ATD−NR1ポリクローナル抗体(0.01mg/ml)の単回注入は、rt−PA(10mg/kg)と組み合わせたかまたはrt−PA(10mg/kg)のない、脳卒中誘導BBB溢出を減少することができた(群あたりn=3マウス、p<0.05)。この能力はMMP−9活性と連結することができた。(B)MMP−9タンパク質分解活性は、生理食塩水注入によって得られた平均値に対して正規化された。脳卒中20分後または4時間後の抗ATD−NR1ポリクローナル抗体の単回注入は、rt−PA(10mg/kg)と組み合わせたかまたはrt−PA(10mg/kg)なしにおいて、同側の皮質におけるMMP−9活性を減少することができた(群あたりn=3マウス、p<0.05)。パネル(C)はMMP−2およびMMP−9活性の代表的図を示している。MMP−9は生理食塩水およびrt−PA条件下で増加した。もっとも興味深いことに、MMP−2およびMMP−9活性は抗ATD−NR1抗体の単回注入後に減少した。
【図18A】図18は、ATD−NR1を標的にする抗体ベース免疫療法は脳卒中後に長期の利益を与えることを示している。マウスを、脳卒中の4時間後に生理食塩水(A)または抗ATD−NR1抗体(0.8mg/ml)(B)を用いて処置した。虚血の24時間、72時間、7日および15日後、マウスをT2脳撮像のために、および24時間において見掛けの拡散係数(ADC)のために、7T MRI(Pharmascan Brucker)に置いた。群あたり3動物。4つの異なる脳切片を含む代表的画像が示されている。
【図18B】図18は、ATD−NR1を標的にする抗体ベース免疫療法は脳卒中後に長期の利益を与えることを示している。マウスを、脳卒中の4時間後に生理食塩水(A)または抗ATD−NR1抗体(0.8mg/ml)(B)を用いて処置した。虚血の24時間、72時間、7日および15日後、マウスをT2脳撮像のために、および24時間において見掛けの拡散係数(ADC)のために、7T MRI(Pharmascan Brucker)に置いた。群あたり3動物。4つの異なる脳切片を含む代表的画像が示されている。
【図19】図19は、ATD−NR1を標的にする抗体ベースの免疫療法は、脳卒中後の長期認知回復を改善することを示している。マウスを、脳卒中の20分後(A)または4時間後(B)に生理食塩水または抗ATD−NR1抗体(0.8mg/ml)を用いて処置した。虚血24時間後、マウスを恐怖条件付け部屋に置いた。結果は、5分間期間中のフリージング時間の割合で表され、ナイーブマウスを用いて得られた結果に正規化された(群あたりn=10、*p<0.025;$p<0.05)。
【図20】図20は、rATD−NR1に対する抗体は、興奮毒性病変モデルにおいて内因性t−PAの神経毒性の影響を防ぐことを示している。興奮毒性病変は、NMDA(10nmol)を右線条体に注入することにより生み出された(座標:ブレグマに対して0.0mm後方、2.0mm側方、4.0mm腹側)。30分後、抗ATD−NR1抗体または対照IGを尾静脈に注射した(0.8mg/ml)。対照と比べて、抗ATD−NR1抗体は線条体の著しい保護を与えた(n=8、p<0.01)。
【図21】図21は、rATD−NR1に対する抗体がNMDA受容体のヒトNR1サブユニットに特異的に結合することを示している。タンパク質抽出物を、虚血性脳卒中の2日後に死亡した患者の同側および反対側半球から死後単離し、SDS−PAGEゲルクロマトグラフィーに供し、ナイロン膜上にブロットし、(A)抗ATD NR1抗体または(B)抗ヒトNR1抗体を使用してウェスタンブロットにおいて分析した。
【図22】図22は、rATD−NR1に対する抗体が非手術動物の脳に到達することを示している。(A)XX、(B)XX。(C)非手術または偽動物由来の脳組織を使用した抗ATD−NR1抗体に対する免疫組織学的分析は、脳実質における抗ATD−NR1抗体の存在を明らかにしている。
【図23】図23は、ATD−NR1に対して産生されたポリクローナル抗体が、血清欠乏により誘導される神経細胞アポトーシスをアンタゴナイズするt−PAの能力に影響を与えないことを示している。神経細胞培養物(DIV7)の血清欠乏により引き起こされるアポトーシスに対するrt−PA(20μg/mL)および抗ATD−NR1抗体(0.01mg/ml)の影響を試験した。上パネル:血清欠乏により引き起こされる神経細胞死、この影響をアンタゴナイズするrt−PAの能力(p<0.01)、およびrt−PAの影響に対する抗ATD−NR1抗体の影響の欠如。神経細胞死の割合は、トリパンブルー陽性神経細胞の比率により決定した(ウェルあたりの3ランダムフィールドにおいてトリパンブルー陽性細胞を計数する)。結果は、偽洗浄対照神経細胞において得られたそれぞれの値について補正した。下パネル:アポトーシス状態の指標としてのカスパーゼ3の切断。切断分子は、切断されたカスパーゼ3に対して産生された抗体を用いて明らかにされた。やはり、rt−PAの保護効果は、抗ATD−NR1抗体に影響されなかった(N=3、n=12)。
【発明を実施するための形態】
【0079】
本明細書で使用される用語「神経障害」は、被験体の神経系の正常な機能または解剖学的形態に直接的にまたは間接的に影響を与える疾患、障害または状態と定義される。
【0080】
本発明の文脈では、用語「神経変性障害」は、中枢神経系または末梢神経系の細胞が失われる疾患と定義される。
【0081】
神経障害および/または神経変性障害の例は、脊髄の挫傷、透過、剪断、圧迫もしくは裂傷病変または鞭打ち揺さぶられっ子症候群を含むがこれらに限定されない脊髄損傷、頭蓋内または椎骨内(intravertebral)病変である。
【0082】
本発明の文脈では、神経障害には、虚血性事象または、細胞もしくは組織における任意の局所的もしくは領域的低酸素状態(これは、通常は、たとえば、この領域の血管の遮断または閉塞により引き起こされる不十分な血液供給(循環)に起因する)と定義することができる虚血または虚血性障害も挙げられる。
【0083】
低酸素は、脳血管不全、脳虚血または脳梗塞(塞栓性閉塞および血栓症に由来する脳虚血もしくは梗塞を含む)、網膜虚血(糖尿病ほか)、緑内障、網膜変性、多発性硬化症、虚血性視神経障害、急性脳虚血に続く再灌流、周産期低酸素性虚血性損傷または任意の種類の頭蓋内出血(硬膜外の、硬膜下の、くも膜下のもしくは脳内出血を含むがこれらに限定されない)を含むが、これらに限定されない低酸素症および/または虚血として急性損傷を引き起こすことができる。
【0084】
したがって、用語「虚血性障害」は、血栓症または血栓症傾向に関連するかまたはそれから生じる状態を含む血栓性障害を包含する。これらの状態は、血栓溶解薬を用いて処置することが可能な動脈または静脈血栓に関連する状態を含む。
【0085】
本明細書で使用される用語「t−PA」には、天然t−PAおよび組換えt−PAの他にも天然t−PAの酵素活性または線維素溶解活性を保持している改変型のrt−PAが挙げられる。t−PAの酵素活性は、プラスミノーゲンをプラスミンに転換する前記分子の能力を評価することにより測定することが可能である。t−PAの線維素溶解活性は、当技術分野で公知の任意のインビトロ血餅溶解活性によっても決定しうる。組換えt−PAは先行技術において広範に記載されており、当業者には公知である。rt−PAはアルテプラーゼとして市販されている(Activase(登録商標)またはActilyse(登録商標))。改変型のrt−PA(「改変rt−PA」)はすでに特徴付けられており当業者には公知である。改変rt−PAには、欠失または置換アミノ酸またはドメインを有する改変体、他の分子に結合体化されたかまたは融合した改変体、および改変グリコシル化などの化学修飾物を有する改変体が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの好ましい改変rt−PAは、PCT公開WO93/24635、欧州特許第352,119号、欧州特許第382,174号に記載されている。
【0086】
本発明の文脈では、用語「自殺基質」は、前記酵素を阻害する産物への酵素反応を受けるのに十分なほど密接に正常基質に類似している化合物と定義される。基質類似物として、自殺基質は、多くの場合前記酵素のアミノ酸、通常は触媒アミノ酸に不可逆的に結合し、それによって他の分子に対して前記酵素の活性部位を遮断し、効果的におよび大半が不可逆的に前記酵素を阻害する。
【0087】
本明細書に使用される用語「脳卒中」は、脳虚血の任意の事象について使用される。
【0088】
用語「処置する(treating)」または「処置(treatment)」とは、それを必要とする哺乳動物、特にヒト内において生理的障害を防ぐ、減少する、緩和するまたは治すための任意の医療措置のことである。
【0089】
「治療的有効量」は、脳卒中などの神経疾患または神経変性疾患と関連する症状を減少することになる活性成分の量と定義される。「治療的に有効な」とは、無処置と比べた障害の重症度または発生の頻度の任意の改善のことでもある。用語「処置」は治すことまたは治癒のどちらでも、ならびに緩和、寛解または予防を包含する。
【0090】
本明細書の文脈において使用される用語「NMDA受容体サブユニットNR1のN末端ドメイン(抗ATD−NR1)」は、t−PAと相互作用するNMDA受容体のNR1サブユニットの領域と定義される。これは、マウス、ラット、ブタ、ウシ、ネコ、イヌまたはサルのような異なる種のNMDA受容体を包含する。好ましくは、ヒトNMDA受容体が使用される。NR1サブユニットの異なるアイソフォーム、好ましくは選択的スプライシングにより産生され、アイソフォームNR1−1a、NR1−1b、NR1−2a、NR1−2b、NR1−3a、NR1−3b、NR1−4a、NR1−4bを含むアイソフォームもこの定義に含まれる。好ましくは、アミノ酸19〜480をコードする、さらに好ましくはアミノ酸19〜371(配列番号4または配列番号5参照)をコードするNR1−1aサブユニットの領域が使用される。
【0091】
用語「抗体」は、抗体全体、ヒト抗体、ヒト化抗体、およびモノクローナル抗体、キメラ抗体または組換え抗体のような遺伝的に操作された抗体、および本発明に従った特性が保持されている限り、そのような抗体の断片を含むがこれらに限定されない様々な形態の抗体を包含する。
【0092】
本明細書で使用される用語「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体組成物」とは、単一アミノ酸組成の抗体分子の調製物のことである。したがって、用語「ヒトモノクローナル抗体」とは、単一結合特異性を示し、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列由来の可変および定常領域を有する抗体のことである。一実施形態では、ヒトモノクローナル抗体は、不死化細胞に融合された、ヒト重鎖トランス遺伝子およびヒト軽鎖トランス遺伝子を含むゲノムを有するトランスジェニック非ヒト動物、たとえば、トランスジェニックマウスから得られるB細胞を含むハイブリドーマにより産生される。好ましくは抗ATD NR1抗体の種類はモノクローナル抗体である。
【0093】
用語「キメラ抗体」とは、通常、組換えDNA技術により調製される、1つの供給源または種由来の可変領域すなわち結合領域、および異なる供給源または種由来の定常領域の少なくとも一部を含むモノクローナル抗体のことである。マウス可変領域およびヒト定常領域を含むキメラ抗体が特に好ましい。そのようなマウス/ヒトキメラ抗体は、マウス免疫グロブリン可変領域をコードするDNAセグメントとヒト免疫グロブリン定常領域をコードするDNAセグメントを含む発現された免疫グロブリン遺伝子の産物である。本発明により包含される他の形態の「キメラ抗体」は、クラスまたはサブクラスが元の抗体のクラスまたはサブクラスから改変または変更されている抗体のことである。そのような「キメラ」抗体は、「クラススイッチ抗体」とも呼ばれる。キメラ抗体を作製するための方法は、従来の組換えDNA技法および今や当技術分野では周知の遺伝子トランスフェクション技法を伴う。たとえば、Morrison、S.L.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81巻(1984年)6851〜6855頁、米国特許第5,202,238号および米国特許第5,204,244号を参照されたい。
【0094】
用語「ヒト化抗体」とは、そのフレームワークまたは「相補性決定領域」(CDR)が、親免疫グロブリンと比べて、特異性が異なる免疫グロブリンのCDRを含むように改変されている抗体のことである。好ましい実施形態では、「ヒト化抗体」を調製するためにマウスCDRがヒト抗体のフレームワーク領域に移植される。たとえば、Riechmann、L.ら、Nature 332巻(1988年)323〜327頁;およびNeuberger、M.S.ら、Nature 314巻(1985年)268〜270頁を参照されたい。特に好ましいCDRは、キメラおよび二機能性抗体について、上で述べられた抗原を認識する配列を表すCDRに一致する。
【0095】
用語「ヒト抗体」は、本明細書で使用されるように、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列由来の可変および定常領域を有する抗体を含むように意図されている。ヒト抗体は最先端の分野で周知である(van Dijk、M.A.、and van de Winkel, J. G.、Curr. Opin. Pharmacol. 5巻(2001年)368〜374頁)。そのような技術に基づいて、多種多様な標的に対するヒト抗体を作製することが可能である。
【0096】
ヒト抗体の例は、たとえば、Kellermann、S. A.ら、Curr Opin Biotechnol. 13巻(2002年)593〜597頁に記載されている。
【0097】
用語「組換えヒト抗体」は、本明細書で使用されるように、NSOもしくはCHO細胞などの宿主細胞から、またはヒト免疫グロブリン遺伝子についてトランスジェニックである動物(たとえば、マウス)から単離された抗体、あるいは宿主細胞にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを使用して発現される抗体などの、組換え手段により調製される、発現される、作製される、または単離されるすべてのヒト抗体を含むように意図されている。そのような組換えヒト抗体は、再編成された形で、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列由来の可変および定常領域を有する。
【0098】
本明細書で使用されるように、用語「神経保護薬」は、神経保護を提供する、すなわち損傷部位、たとえば、虚血性損傷または外傷性損傷で神経細胞などの神経実体を保護することができる薬剤を意味する。
【0099】
本発明の文脈では、用語「急性期処置」とは、通常は病院における、急性疾病もしくは損傷を有するかまたは手術から回復中の患者に対する短期医療処置のことである。用語「後急性期処置」とは、通常は病院における、急性疾病もしくは損傷を有するかまたは手術から回復中の患者に対する中期医療処置のことである。
【実施例】
【0100】
(実施例)
(A.PARKドメインを含有するタンパク質によるt−PA神経毒性の阻害)
(材料および方法)
PARKドメイン(DSPAアルファ1、cDSPA、レテプラーゼ、DSPAアルファ2、DSPAベータおよびアルテプラーゼのクリングル2(K2))を含むいくつかのタンパク質のアルテプラーゼトランスBBB輸送を阻害する能力を、下に概略される材料および方法を使用して実証した。
【0101】
DSPAアルファ1、cDSPA、レテプラーゼ、DSPAアルファ2およびDSPAベータはPAION Deutschland GmbHにより提供された。レテプラーゼは薬局において購入され、PAION Deutschland GmbHにより提供された。クリングル2(アルテプラーゼ由来)はUMR CNRS 61185/INSERM−Avenir、Caen Franceにより開発され提供された化合物である。
【0102】
【化5】
【0103】
【化6】
ストック溶液を希釈し、リンガーHEPES緩衝液で必要な濃度(0.3μMまたは10nM)を得た。
【0104】
(2.インビトロ血液脳関門モデルの説明)
(2.1 前記モデルの確立)
脳毛細血管機能を研究するためのインビトロシステムを提供するために、フィルターの一方の側で脳毛細血管内皮細胞を、もう一方の側でグリア細胞を培養することにより、インビボ状況をかなりの程度まで模倣する共培養物を開発した(図5)。内皮細胞をフィルター上の上部区画で培養し、グリア細胞を6ウェルプレートのプラスティック上の下部区画で維持した。これらの条件下では、内皮細胞はすべての内皮マーカー(第VIII因子関連抗原、非血栓形成性表面、プロスタサイクリンの産生、アンギオテンシン変換酵素活性)ならびに血管脳関門の特徴(接着結合の存在、飲小胞の欠乏、モノアミン酸化酵素活性、ガンマグルタミルトランスペプチダーゼ活性およびP糖タンパク質)を保持していることが知られている。
【0105】
(2.2 細胞培養物)
ウシ脳内皮細胞を、10%(v/v)熱不活化ウシ血清および10%(v/v)ウマ血清(Hyclone Laboratories、Logan、UT、USA)、2mMグルタミン、50μg/mLゲンタマイシンならびに塩基性線維芽細胞増殖因子(1ng/mL、隔日に添加される)を補充したDMEMにおいて培養された脳毛細血管から単離した。3継代で凍結された内皮細胞のサブクローンを、60mm径ゼラチンコートペトリ皿上で再培養し、コンフルエンスまで増殖させた。
【0106】
初代グリア培養物を新生ラット大脳皮質から単離した。髄膜を取り除いた後、脳組織をナイロンふるいに穏やかに通した。10%(v/v)胎仔ウシ血清(FCS)、2mMグルタミンおよび50μg/mLのゲンタマイシンを補充したDMEMは、脳組織の解離およびグリア細胞の発生に使用した。グリア細胞を、6ウェルプレートのプラスティック上に1.25×105細胞ml−1の濃度で蒔き、5%CO2を用いて37℃でインキュベートした。培地を週2回交換した。播種の3週間後、グリア培養物はコンフルエントであり、神経膠星状細胞(約60%)、乏突起神経膠細胞およびミクログリア細胞で構成されていた。
【0107】
(2.3 フィルターの調製)
培養プレートインサート(Millicell PC 3μmポアサイズ)を、Bornstein(1958年)の方法に従って調製されたラット尾部コラーゲンを用いて上辺でコーティングした。
【0108】
スクロース透過および0.3μMで試験された化合物の分析では、表面が4.2cm2のフィルターを使用した。10nMで試験された化合物では、表面が3cm2のフィルターを使用した。
【0109】
(2.4 ウシ脳毛細血管内皮細胞およびグリア細胞の共培養)
コーティングしたフィルターを、共培養のため、グリア細胞を含有する6ウェル皿に置いた。共培養培地は、脳毛細血管内皮細胞用の培地と同じであった。コンフルエントな内皮細胞をトリプシン処理し、4×105細胞/mlの濃度でフィルターの上辺に蒔いた。これらの条件下で、内皮細胞は12日以内にコンフルエント単層を形成した。実験はコンフルエンスの5日後に実施した。
【0110】
(4.インビトロBBBモデルを使用する輸送実験)
(4.1 毒性試験)
スクロースを、BBBの完全性に対する試験化合物の考えうる効果の評価を可能にする傍細胞(paracellular)マーカーとして使用した。この小親水性分子は、低い脳透過を示し、その内皮透過性係数は内皮細胞単層完全性の尺度である。
【0111】
実験当日、リンガーHEPESを6ウェルプレート(ウェルあたり2.5ml)の下の区画(反管腔側)に添加した。内皮細胞のコンフルエント単層を含有する1つのフィルターを、プレートの最初のウェルに移した。
【0112】
[14C]スクロース(フィルターあたり0.5μCiの[14C]スクロースの添加)との共インキュベーション中の化合物を含有する1.5mlリンガーHEPESを上部区画(管腔側)に置いた。試験化合物の添加後の一定時間に、前記インサートを6ウェルプレートの別のウェルに移して、下の区画から上の区画への物質の考えうる逆流を最小限にした(図6参照)。各インキュベーション期間の終了時に、アリコートの反管腔側と管腔側液体を放射性分析のために収集した。
【0113】
60分の実験中、クリアランス容積は時間とともに直線的に増加した。平均クリアランス容積は時間に対してプロットされ、勾配は線形回帰分析により見積もり、平均と関連標準誤差を生じた。共培養についてのクリアランス曲線の勾配はPStで表示され、PSは透過性×表面積の積(1分あたりのマイクロリットルにおける)である。コラーゲンで覆われているだけのフィルターのクリアランス曲線の勾配はPSfで表示される。
【0114】
内皮単層のPS値(PSe)は、
【0115】
【数1】
から計算した。
【0116】
PSe値をフィルターの表面積(Millicell PCおよびCMで4.2cm2ならびにTranswellインサートで4.7cm2)で割って、内皮透過性係数(Pe、1分あたりのセンチメートルにおける)を得た。
【0117】
スクロース透過性の安定性は、三連で単層において各試験化合物を用いて試験し、BBBに対する毒性の影響の非存在を確認した。
【0118】
(4.2 37℃での化合物の輸送;完全性試験)
rt−PAの移行は、スクロースについて4.1下に記載された通りに決定した。
【0119】
これらのおよび他のすべての実験では、BBBの完全性は、BBBの完全性に対する考えうる効果の評価を可能にする傍細胞マーカーとして[14C]スクロースを使用してモニターした。
【0120】
データ評価:アルテプラーゼの通過は、プラスミノーゲンベースの酵素電気泳動(zymography)アッセイを用いて評価した。アルテプラーゼの通過は画像定量システムを使用して定量化した。さらに、三連の管腔側溶液および反管腔側溶液を、スペクトロザイムアッセイを用いてアルテプラーゼについてアッセイした。
【0121】
研究の連続的段階は図7に記載する。
【0122】
(5.輸送研究)
(フィルター研究)
このステップでは、フィルターによる輸送制限の可能性を排除するために、アルテプラーゼがフィルターを通過する能力を試験した。アルテプラーゼを、完全性試験で決定された非毒性濃度で適用した。
【0123】
(輸送研究)
DSPA関連分子であるレテプラーゼおよびクリングル2(アルテプラーゼ)を、プラスミノーゲンベースの酵素電気泳動アッセイおよびスペクトロザイムアッセイによる定量化を用いて評価される、アルテプラーゼ透過に影響を与えるその能力について等モル濃度で調べた。
【0124】
(実施例1:PARK含有タンパク質と組み合わせたrt−PAは、インビトロでBBBに毒性の影響を及ぼさない)
スクロースのみを用いて、およびアルテプラーゼのみを用いて、またはアルテプラーゼをDSPA関連分子のレテプラーゼもしくはK2(アルテプラーゼ)と組み合わせて用いて得られた内皮透過性係数は、以下の表1に要約する。
【0125】
【表1】
スクロースについて得られた内皮透過性係数により、DSPA関連分子との共インキュベーションのアルテプラーゼは、0.3μMまたは10nMのそれぞれの濃度で、インビトロでBBBに毒性の影響を及ぼさないことが示された。
【0126】
(実施例2:アルテプラーゼはコラーゲンフィルターを通過することができる)
コラーゲンコートフィルターを通るアルテプラーゼ(0.3μM)の輸送は120分の期間にわたり調べた。
【0127】
実験期間後、アルテプラーゼの濃度を、管腔側および反管腔側試料において、スペクトロザイムアッセイを用いて決定した(表2)。
【0128】
【表2】
結果は、アルテプラーゼがフィルターを通過する潜在力を7.88%の程度まで示したので、アルテプラーゼ透過は空フィルターに制限されないことを示している。この値は空フィルターを通る拡散通過の最大割合として記録され、内皮輸送研究において参照(いわゆる「対フィルター」)として使用された。
【0129】
(実施例3:BBBを通るrt−PAの輸送は、PARKドメインを含有するタンパク質との共インキュベーションによりインビトロでブロックされる)
アルテプラーゼ単独での、ならびにDSPA関連分子(DSPAα1、cDSPA、DSPAα2)、レテプラーゼおよびK2(アルテプラーゼ)と共インキュベーションでの移行は120分の期間にわたり調べた。等モル濃度(0.3μM)を使用した。
【0130】
実験期間後、アルテプラーゼの管腔側および反管腔側濃度は、プラスミノーゲン含有酵素電気泳動アッセイ(図8)を用いて決定し、画像システムを使用して定量化した。
【0131】
図8に示されるように、酵素電気泳動アッセイにより、cDSPA、DSPAα1、DSPAα2およびK2(アルテプラーゼ)による、ならびにレテプラーゼによるBBBを通るアルテプラーゼ輸送の阻害が明らかになり、これらのすべてが酵素電気泳動シグナルの減少を引き起こした。定量化されたデータは表3に要約する。
【0132】
【表3】
追加のシリーズでは、スペクトロザイムアッセイを、DSPA関連分子およびK2(アルテプラーゼ)(すべて0.3μMで)との共インキュベーション中のアルテプラーゼ(0.3μM)の通過を定量化するために管腔側と反管腔側区画の両方において実施した(表4)。
【0133】
【表4】
レテプラーゼのプロテアーゼ活性により、アルテプラーゼとレテプラーゼに関連する活性を区別することができなかったので、スペクトロザイムアッセイを使用することはできなかった。
【0134】
図9に例示されるように、スペクトロザイムアッセイにより、DSPA関連分子およびK2(アルテプラーゼ)の存在下での、アルテプラーゼの包括的タンパク質分解活性の減少を明らかにした。数字も表4に示す。
【0135】
(実施例4:静脈内共投与後DSPAはrt−PA媒介神経毒性の影響をアンタゴナイズしたが、線条体への共投与後はアンタゴナイズしなかった)
PARKドメインを含むタンパク質の阻害効果は下に概説される動物モデルにも示された。
【0136】
ヒト組換えアルテプラーゼ(rt−PA、アルテプラーゼ)はBoehringer Ingelheim(France)製で、NMDAはTocris(U.K.)製であった。デスモテプラーゼはPAION Deutschland GmbH(Germany)により提供された。
【0137】
(動物)
雄性Sprague Dawleyラット(270〜330g)を、12明時間/12暗時間サイクルで恒温室に収容し、餌と水を自由に与えた。実験は、実験動物の管理と使用についてのフランス(act no.87 to 848;Ministere de l’Agriculture et de la Foret)と欧州共同体評議会(Directives of November 24、1986年、86/609/EEC)指針に従って実施した。
【0138】
(線条体興奮毒性病変)
ラットを、イソフルラン(5%、0.8 l/分で、酸素/N2O(1:3)中で維持2%)を用いて麻酔した。体温を37±0.5℃に維持した。注入ピペット(内径0.32mmおよび15mm/μlで較正されている;Hecht Assistent、Germany)は、右側線条体(ブレグマに対し3.5側方と5.5腹側)に定位的に埋めこんだ。NMDA(50nmol)を容積1μlで注入し、前記ピペットを3分後にはずした。第一組の実験では、アルテプラーゼ(1mg/kg)、デスモテプラーゼ(1mg/kg)、アルテプラーゼとデスモテプラーゼ(それぞれ1mg/kg)、アルテプラーゼビヒクル(L−Arg 35mg/kg、リン酸10mg/kgおよびポリソルベート80、0.2%)またはデスモテプラーゼビヒクル(グリシン4mg/kgおよびマンニトール10.64mg/kg)の静脈内注射により15分後に興奮毒性処置を相補した。第二組の実験では、アルテプラーゼ(3μg)、デスモテプラーゼ(3μg)、アルテプラーゼとDSPA(それぞれ3μg)またはそれに対応するビヒクルと一緒に、NMDAを線条体に共注入した(すべて容積1μlで)。
【0139】
(組織学的分析)
24時間後、ラットを安楽死させ、全脳を取り出しイソペンタンにおいて凍結させた。体積分析では、20ごとに1冠状切片(20μm)をチオニンを用いて染色し、全病変にわたって分析した。目的の領域はラットの定位的アトラス(stereotaxic atlas)を使用して決定した(PaxinosおよびWatson)。画像分析システム(BIOCOM RAG 200、Paris、France)を使用して非染色領域により与えられる病変を測定した。
【0140】
この分析により、両方が静脈内に共注射された場合には、デスモテプラーゼはrt−PA媒介神経毒性の影響をアンタゴナイズしたが、線条体に共投与された場合にはアンタゴナイズしない(図10および11)ことが示され、このことは、これら2つの血栓溶解薬剤間のBBBレベルでの関連インビボ競合と一致している。
【0141】
(結論)
これらの結果により、PARKドメインを含む様々なタンパク質のアルテプラーゼトランスBBB輸送を阻害する能力が明らかにされている。
【0142】
単独のアルテプラーゼ、およびDSPAα1、cDSPA、DSPAα2、レテプラーゼおよびK2(アルテプラーゼ)と共インキュベーションしたアルテプラーゼは、すべて0.3μMの濃度で、BBB完全性に対する毒性の影響を有さなかった。スペクトロザイムアッセイを用いて分析したように、DSPAα1およびDSPAα2は、BBBを通るアルテプラーゼ輸送をそれぞれ約67および62%まで減少することができ、DSPA関連分子を使用してアルテプラーゼの血管から脳移行をブロックすることが可能であることを確証している。類似の結果(約76%までの減少)が、クロッグDSPA、すなわちタンパク質分解活性を発揮しないDSPA改変体について得られた。阻害は、アルテプラーゼの酵素電気泳動定量化において確認した。
【0143】
さらに、単離されたクリングル2は、アルテプラーゼ輸送を約50%減少することができた(分光データ、酵素電気泳動により確認された)。
【0144】
アルテプラーゼ酵素電気泳動分析により実証されたように、レテプラーゼもアルテプラーゼ移行を阻害することができた。レテプラーゼはタンパク質分解活性を有しているので、その効果はスペクトロザイムアッセイを用いて定量することはできなかった。
【0145】
この研究で試験された分子は、おそらくLRP媒介輸送について競合することによりrt−PAトランスBBB輸送を阻害することができる。スペクトロザイムデータに従えば、これらの分子は以下のように、K2(t−PA)>DSPAα2>DSPAα1>cDSPA順にランク付けすることが可能である。
【0146】
(B.抗ATD−NR1抗体によるT−PA神経毒の阻害)
(材料および方法)
組換えATD/ロイシン−イソロイシン−バリン結合タンパク質(LIVBP)様ドメインの作製:t−PAとの相互作用のドメインとして同定された、NR1のアミノ末端ドメインに対応するアミノ酸19〜371をコードするNR1−1aサブユニットの領域を、以前記載された通りに、完全長ラットNR1−1a cDNAから増幅した(Fernandez−Monrealら、2004年)。rATD−ND1と命名された組換えタンパク質を、製造業者(Qiagen、France)により記載されたように、ニッケル親和性マトリックス上で、イソプロピル1−チオ−β−D−ガラクトピラノシド誘導細菌培養物(Escherichia coli、M15株)の封入体から精製した。
【0147】
能動免疫:手短に述べると、わずかな改変を加えて以前記載された通りに(Benchenaneら、2007年)、マウスを、免疫原性混合物:rATD−NR1(30μg)を含有する完全フロイントアジュバンド(Sigma Aldrich、France、最初の注射に使用される)および不完全フロイントアジュバンド(Sigma Aldrich、France、後期注射、3週間中週に1回)の腹腔内注射により免疫化し、rATD−NR1を含有しない同一混合物を対照血清として使用した。
【0148】
ポリクローナル抗体の作製および精製:能動免疫について記載されたように、最後の接種の2週間後に、rATD−NR1または対照アジュバンドで免疫化されたマウスから血清を収集した。次に、ポリクローナル抗体(抗ATD−NR1抗体または対照Ig)を、血清ヒドロキシアパタイトカラム(Proteogenix、France)から精製した。
【0149】
免疫ブロッティング:対応する図で言及されるrATD−NR1(20μg)またはタンパク質抽出物をロードし、10%SDS−PAGEにより分離し、PVDF膜に移した。膜は、0.05%Tween−20、5%ドライミルクを含有するトリス緩衝生理食塩水(10mM Trisおよび200mM NaCl、pH7.4)を用いてブロックした。ブロットを、マウス抗ATD−NR1一次抗体(1:2000;4℃)、マウス対照Ig一次抗体(1:2000;4℃)または対照ヤギヒスチジンタンパク質一次抗体(1:1000;4℃、Qiagen、France)のいずれかを用いて終夜曝露させた。マウスまたはヤギペルオキシダーゼ結合体化二次抗体(1:5000;Sigma Aldrich、France)後、タンパク質を、増強化学発光ECL−Plus検出システム(Perkin Elmer−NEN、France)を用いて可視化した。
【0150】
血栓塞栓性局所脳虚血:以前報告された通りに(Orsetら、2007年)、雄性Swissマウス(28〜30g、CERJ、Paris、France)を、深く麻酔をかけ(イソフルレン5%とNO2/O2の70%/30%混合物を使用して)、定位固定デバイスに置いた。眼窩と耳との間の皮膚を切開し、側頭筋を縮退させた。小規模な開頭手術を実施し、硬膜を切除し中大脳動脈(MCA)を曝露させた。ピペットを前記MCAの管腔に導入し、1μLの精製されたマウスアルファトロンビン(0.75UI、Gentaur、Belgium)を含気性(pneumatically)に注入し(カテーテルを介してピペットに連結された注射器を用いて正圧をかけることにより)、インサイチュー血餅形成を誘導した。アルファトロンビン注入の10分後に前記ピペットをはずし、その時間には血餅は安定化している。筋肉および軟組織を元に戻し、切開部を縫合した。脳血流速度を、レーザードップラーフローメトリー(Oxford Optronix、United Kingdom)によりモニターし、温度を全外科手術にわたり制御した。血栓溶解を誘導するために、rt−PA(10mg/kg、Actilyse(登録商標)、Boehringer Ingelheim、Germany)を、アルファトロンビン注入の20分後または4時間後に静脈内に注射した(尾静脈、10%ボーラス、40分間中90%灌流)。対照群に、同一条件下で同容積の生理食塩水を投与した。
【0151】
受動免疫:血餅形成の20分後または4時間後、前記rATD−NR1に対して産生された精製ポリクローナル抗体を、0.2mgの抗ATD−NR1または対照免疫グロブリンのボーラス(200μl)により尾静脈に静脈内注射した。
【0152】
脳病変の組織学的分析:24時間後、マウスを麻酔薬過量投与により屠殺し、脳を取り出し、イソペンタンにおいて凍結した。クリオスタットカット冠状脳切片(20μm)を、チオニンを用いて染色し、画像分析機(BIOCOM RAG 200、Paris、France)を使用することにより分析した。体積分析では、10のうちから20μmの1つの切片を染色し分析した(全病変にわたって)。目的の領域(梗塞組織に対応する非染色領域)は、マウスの定位的アトラス(FranklinおよびPaxinos、1997年)を使用して決定した。梗塞体積は、式:V虚血性病変=P(虚血性病変の面積)切片間の距離に従って、切片の非染色領域の合計×その厚みとして決定した。この方法は、虚血性病変の体積評価の優れた再現性を実証しており、すでに確証されている(Osborneら、1987年)。
【0153】
MRI分析:MRI分析は、血餅形成4時間後に生理食塩水またはαATD−NR1抗体を静脈注射されたマウスにおいて実施された血栓塞栓性虚血の24時間、72時間、7日、15日後に実施した。MRI実験は、無線周波数送信には72mm内径バードケージおよび受信には25mm径表面コイルを使用して、Paravision4.0ソフトウェア(Bruker、Ettlingen、Germany)を用いるPharmascan 7 T/12cmシステム上で実行した。MRI実験中、麻酔はイソフラン(NO2/O2の70%/30%混合物)を使用して維持した。マウスは、麻酔濃度を調整するために、その呼吸数の変化についてモニターした。T2加重画像を、RAREシークエンス:4アベレージ(average)のTE/TR 41/3000ms(マトリックス256×256、FOV 23.7×20mm)を使用して取得した。拡散加重画像を、6方向(direction)EPI−DTIシークエンス:方向ごとに2実験(マトリックス 128×128、FOV 20.5×19.2mm)の2つのb値(0と800s/mm2)を使用するTE/TR 34/3750msで取得した。mm2/sでの見掛け上の拡散係数(ADC)を、単一指数関数モデルを使用してpixel−by−pixel曲線フィティングにより計算した。血管造影は2アベレージのTE/TR 12/7ms(マトリックス 256×256、FOV 20×20mm)を用いて取得した。
【0154】
エバンズブルー血管外溢出:エバンズブルー(200μl、2%、Sigma−Aldrich)は、安楽死の3時間前に虚血マウスの静脈内に注射した。前記マウスは、その脳を収集するのに先立ってヘパリン生理食塩水を用いて平均動脈圧で灌流させた。その皮質を解剖し、ドデシル硫酸ナトリウム1%のリン酸緩衝生理食塩水中でホモジナイズし、遠心分離した(10000g、15分)。エバンズブルーは620nmの吸光度から上清で定量し、各半球の湿重量で割った。各観察は3回繰り返した。
【0155】
行動分析:マウスを、脳虚血の24時間後に包括的神経機能試験に供した。この行動試験は、黒色メタクリル酸壁により形成され、プレキシグラス前扉を特色とするチャンバー(67×53×55cm、BIOSEB(登録商標)、Chaville、France)内で実施した。チャンバーの床は22本のステンレス鋼の棒(径3mm、1.1cmの間隔が開いている、中心間)からなり、無条件足ショック刺激の送達のためのスクランブラー付きのショック発生器に配線されていた。マウスの動きにより生じるシグナルを5分間にわたり記録し、高感度重量トランスデューサシステムを用いて分析した。アナログシグナルは、記録および活動/不動(フリージング)の期間により示される可動性のオフライン分析のためにロードセルユニットを通じてフリージングソフトウェアモジュールに伝えられた。対応するハードウェアに関連する追加のインターフェイスにより、フリージングソフトウェアからのショックの強度を制御することが可能であった。
【0156】
細胞培養:皮質神経細胞の初代培養物を、胎仔マウス(E15−E16)から調製した。解離した皮質細胞を、5%ウシ胎仔血清、5%ウマ血清および2mmol/Lグルタミンが補充されたダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)に再懸濁させ、ポリ−D−リジンとラミニンで前もってコーティングされた24ウェル皿に蒔いた。3日後、前記細胞を10μmol/LのAra−Cに曝露し、グリア細胞増殖を阻害した。培養物をインビトロで12日後、使用した。
【0157】
興奮毒性:それぞれ、ゆっくりとまたは急速に引き起こされた興奮毒性は、神経細胞培養物を、グリシン(10μmol/L)が補充されたDMEMにおいて10μmol/L NMDAに24時間および50μmol/L NMDAに1時間曝露することにより37℃で誘導した。NMDAへの曝露は、単独で、またはrt−PA(20μg/mL)および/もしくはαATD−NR1もしくは対照Ig(0.01mg/ml)と組み合わせて実施した。どちらの場合も、神経細胞死は、位相差顕微鏡を使用して24時間後に評価し、損傷細胞からバス培地(bathing medium)への乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)放出の測定により定量化した。
【0158】
カルシウムビデオ顕微鏡分析:皮質神経細胞の初代培養物に、5μmol/Lのfura−2/AMと0.1%プルロニックF−127(Molecular Probes、Leiden、the Netherlands)を含有するHEPES緩衝生理食塩水をロードし(37℃で30分間)、HEPES緩衝生理食塩水中さらに30分間インキュベートした。実験は、75WキセノンランプおよびNikon×40、1.3開口数落射蛍光油浸対物レンズを備えたNikon Eclipse倒立顕微鏡の試料台上、22℃で実施した。Fura−2(興奮:340、380nm、放出:510nm)比画像(ratio image)はCCDカメラ(Princeton Instrument、Trenton、New Jersey)を用いて得、Metafluor4.11ソフトウェア(Universal Imaging Corporation、Cherter、Pennsylvania)を使用してデジタル化した(256×512)。
【0159】
アポトーシスの誘導:血清欠乏(SD)は、10マイクロMのグリシンが補充された無血清DMEMに神経細胞培養物(DIV7)を曝露することにより誘導し、以前記載された通りに特徴付けた(Kohら、1995年;Nicoleら、2001年a、Liotら、2004年)。対照は、血清含有の新鮮な培地において維持した。二次的なNMDA受容体活性化を防ぐために、MK−801(1マイクロM)を添加した。4%パラホルムアルデヒドにおける固定化の前に、細胞を0.4%トリパンブルーを用いて15分間染色した。SDは、単独で、またはrt−PA(20μg/mL)および/または抗ATD−NR1抗体(0.01mg/ml)と組み合わせて実施した。神経細胞損傷は、ウェルあたり3ランダムフィールドにおいてトリパンブルー陽性細胞を計数することにより定量化した。神経細胞死の割合は、神経細胞の総数と比べたSD後のトリパンブルー陽性神経細胞の数として判定した。偽の洗浄対照条件下でのトリパンブルー陽性神経細胞の平均値を実験値から引いた。対応する免疫ブロットの濃度測定分析データ(Image Jソフトウェア)は、対照条件について得られた平均値に対して正規化した。
【0160】
MMP−2および−9についてのゼラチン酵素電気泳動分析:ゼラチナーゼアッセイは、虚血マウス脳試料におけるMMP−9およびMMM−2レベルを評価するために実施した。手短に述べると、組織ライセート(25μgのタンパク質)を、電気泳動のために1mg/mLゼラチン(Sigma Aldrich、France)で共重合された10%SDSポリアクリルアミドゲル上にロードした。電気泳動後、ゲルを2.5%Triton X−100で洗浄し、次に展開トリス緩衝液(developing Tris buffer)と一緒に37℃で36時間インキュベートし、その後クーマシーブルーを用いて染色した。次に、ゲルを脱染色し、MMP−2および−9バンド強度を定量化した。
【0161】
(実施例1:NMDAR上のt−PAの相互作用部位に対する能動免疫は、rt−PA誘導後期再灌流を伴なったインサイチュー血栓塞栓性脳卒中のモデルにおいて保護的である)
血漿精製マウストロンビンのMCAへのインサイチュー注入により、マウスにおいて局所虚血を誘導した(Orsetら、2007年)。トロンビン注入直後、レーザードップラーフローメトリーにより測定される脳血流速度(CBV)の劇的低下(80%の平均低下)により血餅形成が証明された(図12Bおよび12D)。低灌流は、rt−PAが静脈内に投与されるのでなければ(早期でも後期でも)、安定的に確立され、rt−PA注入後の25分以内にCBVは、ベースライン値の60〜70%まで回復した(図12Bおよび12D、n=10、p<0.001)。24時間後、処置とは無関係に、すべてのマウスが皮質に限定される脳梗塞(チオニン染色)を示した。早期rt−PA誘導血栓溶解(血餅発症の20分後に開始)は虚血性脳損傷の程度を著しく減少し、平均病変体積は18.94mm3±1.85(n=10)であり、非処置動物(26.22mm3±2.47;n=10;図12A)と比べて27.76%(p<0.01)のrt−PA保護効果を実証した。
【0162】
抗原としてNMDARのNR1サブユニットの組換えアミノ末端ドメイン(rATD−NR1)を用いたマウスの先行する能動免疫は、血餅形成もrt−PA誘導再灌流も変化させなかった(図12Bおよび12D)。rATD−NR1免疫マウスは、脳損傷の顕著な減少を見せた(対照と比べて43.3%の保護、n=10、p<0.002)。これらのマウスでは早期(脳卒中の20分後)rt−PA処置により再灌流が生じた場合、病変体積への付加的な有益な効果はなかった(12A)。血餅形成の4時間後の同じ処置により、rt−PAは早期再灌流により誘導される程度に匹敵する程度までCBVを回復させることができたが(図12D、n=10、p<0.001)、rt−PAがrATD−NR1で免疫されていないマウスに注入された場合、増加した脳損傷と関連していた(rt−PA注入動物での28.60mm3と比べてPBS注入マウスでは21.56mm3、n=10、p<0.001)。しかし、rATD−NR1免疫マウスにおいてt−PAを使用して後期血栓溶解を実施すると、脳保護は、免疫されているが生理食塩水を注射された対応するマウスにおいて観察されるのと類似する程度にまで、次に早期血栓溶解を受けている動物において観察されるのと類似する程度にまで回復した(それぞれ、対照およびt−PAと比べて54.91%および66.01%の保護、n=7、p<0.01;図12C)。全体でこれらのデータは、t−PAによる早期再灌流は有益であるが、遅延したrt−PA誘導再灌流は、効率的再疎通にもかかわらず、脳損傷を悪化させることを示している。第二に、前記データは、血栓塞栓性脳卒中のマウスモデルにおけるrATD−NR1免疫は、単独で、または後期t−PA誘導血栓溶解の補助剤として脳保護を与えることを示している。
【0163】
(実施例2:ATD−NR1に対して産生された抗体は、t−PA促進NMDAR媒介神経毒を防ぐ)
実施例1に記載の結果は、NMDA受容体のNR1サブユニットのアミノ末端ドメインに対する抗体は急性虚血脳卒中において有益であるという考えに概念証明を与えた。しかし、能動免疫は急性障害を処置する手段としては実行可能ではないので、本発明者らは、rATD−NR1ワクチン接種されたマウス由来の精製された血清免疫グロブリンに基づいて、受動免疫(抗体ベースの免疫治療)の戦略を開発した。本発明者らは先ず、免疫ブロッティングにより、精製されたポリクローナル抗ATD−NR1抗体は免疫原性ペプチドを認識することができることを確かめた。前記抗ATD−NR1抗体は、ヒスチジンタグ(図13A;37kDa)またはFcタグ(データは示されていない)のどちらかと結合した2種類のrATD−NR1を独立して認識することができた。同様に、抗ATD−NR1抗体は、NMDARのNR1サブユニットの予想される分子量に一致して、ヒト脳組織中の約120kDaのタンパク質と相互作用することが見出された(図13B)。フロイントアジュバンド混合物注入マウスから精製された対照抗体は、陽性染色を示さなかった(図13A)。
【0164】
次のステップは、NMDA毒性に対するrt−PAの増悪的影響を防ぐこれらの抗体の能力を検証することであった(Nicoleら、2001年)。高濃度のNMDA(50μM)を短期間(1時間)、または中等度濃度のNMDA(10μM)を長期間(24時間)のどちらかに曝露されたマウス皮質神経細胞の初代培養物では、抗ATD−NR1抗体の共投与は、rt−PA(0.3μM)により誘導される神経細胞消失の促進を完全に防いだ(図14A、N=3、n=12、p<0.01および図14B、N=3、n=12、p<0.01)。対照抗体は、t−PA促進NMDA誘導神経細胞死に何の効果もなかった(図14Cおよび14D)。次に、本発明者らは、興奮毒性パラダイムにおいて観察される影響が、興奮毒性ネクローシスにおける決定的に重要な事象の1つであるNMDA誘起Ca2+流入の調節と相関しているのかどうかを調べた。Fura−2蛍光ビデオ顕微鏡測定値により、rt−PA(0.3μM)は培養皮質神経細胞においてNMDA誘導Ca2+流入を約30%増加させたことが明らかにされた。抗ATD−NR1抗体の共投与は、NMDA媒介カルシウム流入のrt−PA誘導増強を防いだ(図15、N=3、n=108、p<0.05)。対照抗体は効果なしであった(図15)。興味深いことに、血清欠乏誘導NMDAR非依存アポトーシス性神経細胞死に対するt−PAの有益な非タンパク質分解活性(Liotら、2006年)は、抗ATD−NR1抗体の共投与により妨げられず(図23;N=3、n=12)、これはNMDA受容体を抗体が標的にする際の抗体の特異性を支持する発見であった。
【0165】
(実施例3:ATD−NR1を標的にする抗体ベースの免疫療法は神経学的結果を改善し、脳を脳卒中から保護し、rt−PA誘導血栓溶解の処置ウィンドウを増加させる)
次に、抗ATD−NR1抗体の治療的価値(受動免疫)をインビボで調べた。先ず、NMDA(10nmol)を対照物または精製抗体の単回静脈注射と一緒に線条体に投与することにより、興奮毒性病変をマウスに誘導した。対照動物では、NMDAは17±2mm3の興奮毒性病変をもたらし、抗ATD−NR1抗体処置マウスでは、病変(9±1mm3)はサイズが47.06%減少した(各群でn=8、p<0.01;図20)。このように、抗ATD−NR1抗体の単回静脈注射により、興奮毒性のこのモデルでは内因性t−PAの有害な影響を防ぐことができる。したがって、次に、抗ATD−NR1抗体(0.8mg/ml、静脈内、単回ボーラス;群あたりn=8〜10)を、マウスの血栓塞栓性脳卒中のモデルにおいて試験した。抗体(対照または抗ATD−NR1)の共投与は、再灌流を誘導する早期rt−PA注入の能力を変えなかったことに注目するのが重要である(図16B)。早期rt−PA誘導血栓溶解は虚血性病変の体積を31.53%減少させた(図16A)。同様に、抗ATD−NR1抗体の早期(発作の20分後)送達は、著しい脳保護を与えた(対照と比べて44%の保護、n=10、p<0.001)。この効果は、抗体がrt−PA誘導再灌流と組み合わされた場合に改善されなかった(図16A)。血餅形成の4時間後に実施された場合には、rt−PA処置はなお、早期灌流実験の場合と同じくらい効率的にCBVを回復した(図16D)(血餅形成後、初期CBFの80%対rt−PA処置、後85%、n=9、p<0.01)。しかし、脳病変はこれらの条件下では劇的に悪化した(血餅形成4時間後のrt−PA注入動物での33.03mm3と比べてPBS注入マウスでは24.90mm3、n=10、p<0.0025;図16C)。この有害な影響は、rt−PAが抗ATD−NR1抗体の単回ボーラスと共投与された場合には観察されなかった。むしろ、対照実験(生理食塩水のみ)およびrt−PA処置と比べて、それぞれ病変体積の50.52%および62.7%の減少が観察された(n=8、p<0.005)。興味深いことに、抗ATD−NR1抗体単独の遅延注入も高度に保護的であった(対照動物と比べた場合−41%、n=10、p<0.002)。全体として、これらのデータは、NMDARシグナル伝達および神経毒に対するt−PAの増強効果を標的にする、ATD−NR1に対する抗体の単回静脈内注射の2つの重要な可能性を示している。そのような注射は、それだけで治療的価値があり、第二に、rt−PAによる血栓溶解の治療ウィンドウも延長することができる。
【0166】
閉塞の24時間後、脳卒中誘導認知障害を文脈的フリージング(contextual freezing)タスク(n=10)(これは不安、記憶および学習過程の包括的認知評価を可能にすると見なされている)において評価した。偽動物と比べて、虚血性マウスは、フリージングの増加(+214%、p<0.025)を示し、これは、αATD−NR1抗体の静脈内投与により劇的に減少する影響である(−170%;p<0.05)(図19)。
【0167】
(実施例4:ATD−NR1に対する抗体ベースの免疫療法は、脳卒中後のrt−PA誘導BBB溢出を防ぐ)
虚血性脳損傷ならびにt−PAの有益な効果または有害な影響は、血液脳関門(BBB)と高度に関係しているために、エバンズブルー(EB)血管外溢出およびマトリックスメタロプロテイナーゼ活性化(MMP−2およびMMP−9)を上記条件下で評価した。予想通りに、rt−PAは、MMP−9の活性を誘導し、エバンズブルーの脳実質への血管外溢出を増強することができることが見出された。血餅形成後rt−PAを投与するのが遅くなるに従って、MMP−9活性(図17Bおよび17C)とEBの血管外溢出(図17A)に対するその効果はそれだけ強くなった。虚血性病変に対するその効果と一致して、抗ATD−NR1抗体単独の早期投与も後期投与も脳卒中により誘導されるBBB溢出の程度を著しく減少させた(対照血餅動物と比べた場合、血餅形成20分後、−63%および血餅発症4時間後、−68%、n=3、p<0.05;図17A)。さらに、抗ATD−NR1免疫療法は、BBBの完全性に対するrt−PAの損傷的影響を効率的に低下させた(対照動物と比べた場合、血餅形成20分後28%低下、血餅発症4時間後42%、n=3、p<0.05;図17)。同様に重要なことに、MMP−9は、BBBに対するrt−PAの効果における計器(instrumental)となるが、rt−PAが共投与されるされないにかかわらず、抗ATD−NR1抗体の存在下で活性の低下を示した(図17B)。これらの所見は、前記抗体が、内因性t−PA(虚血に応答して神経細胞から放出される)から、ならびに外因性rt−PAからBBBの完全性を保護し、第二に、この保護はMMP−9の活性の妨害を伴うという結論を与える。
【0168】
(実施例5:ATD−NRT1を標的にする抗体ベースの免疫療法は、脳卒中後に長期の利益を与える)
急性期処置の結果の長期追跡調査は、もっとも高度に臨床的関連性がある。したがって、血餅発症の4時間後に抗ATD−NR1抗体の単回注入を用いて処置された動物のMRIベースの長期追跡調査が、3ヶ月の期間にわたって行われた。T2 MRI分析により、前に観察されたチオニン染色のパターンが明白に確認され、これは、虚血を誘導した24時間後にはすでに目に見えており、手術後少なくとも15日間維持された前記抗体の脳保護効果を証明する(対照動物と比べた場合X%の減少、n=3、p<X;図18a、b)。さらに、ADCシークエンスにより、抗ATD−NR1抗体を用いて処置された虚血性動物においてあらゆる時点での浮腫の非存在が明らかにされた(図18a、18b)。
【0169】
(結論)
血栓塞栓性脳卒中のマウスモデルにおける血餅発症後の早期(20分後)または後期(4時間後)に適用された場合、抗ATD−NR1抗体の単回静脈注射は、劇的な神経保護を引き起こすのに十分である。注目すべきは、本発明は、rt−PA処置の利益の時間依存性消失を示している点である。早期のrt−PA誘導再灌流は、この薬物の臨床使用において観察されるように、利益をもたらすが、遅延rt−PA誘導再灌流(血餅形成の4時間後)は、再灌流レベルは匹敵するけれども、有害な結果にさえ関連している。この否定的結果は、抗ATD−NR1抗体の共投与により解決され、このことは、神経保護効果を回復させ、さらにこれによってrt−PA誘導血栓溶解が治療利益を与えることができる時間ウィンドウを延長する。
【0170】
さらに、抗ATD−NR1抗体を用いる本発明の免疫療法は、脳虚血に付随し、虚血状態下での後期rt−PA処置により増悪するBBBにおける増加(脳内出血の前兆と見なされる)を減らす手段を提供する。これらの観察結果により、抗ATD−NR1抗体に対する治療的関心が強化される。なぜならば、脳浮腫および出血は脳卒中患者の臨床結果不良と関連しているからである。
【0171】
留意するとすれば、t−PAは、(i)シナプスの再構築および可塑性、(ii)周産期発生中の神経細胞移動、(iii)海馬における後期相の長期増強(L−LTP)などの記憶および学習過程に関与する機序の制御、ならびに(iv)BDNFへのプロBDNFの活性化において極めて重要な生理的機能を果たすことも報告されている。それゆえに、本発明の抗体は、これらの機能に対する考えうる影響について試験された場合において、無害であることが分かっていることに注目するのは重要である。虚血性病変の非存在下では、空間記憶、文脈的およびキュー恐怖条件付けを含む認知機能の変化を同定することはできず、免疫療法の提示される戦略の安全プロファイルを示唆している。
【0172】
【数2】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経障害または神経変性障害、特に脳卒中の処置のための医薬品の製造のためのタンパク質またはペプチドの使用であって、該タンパク質またはペプチドは、
(a)
(i)配列番号1、配列番号2もしくは配列番号3に記載のアミノ酸配列、または
(ii)配列番号3に記載のアミノ酸配列と少なくとも70%の同一性、好ましくは80%、さらに好ましくは90%、もっとも好ましくは95%の同一性を有するアミノ酸配列、または
(iii)配列「CY−X3−G−X2−YRGTXS−X2−ES−X3−C−X2−WNS−X2−L−X4−Y−X4−PXA−X2−LGLGXHNYCRNP−X4−KPWCXVXK−X6−EXC−X2−PXC」(Xは任意のアミノ酸を示す)により定義されるプラスミノーゲン活性化因子関連クリングル(PARK)モチーフと少なくとも90%の同一性、好ましくは少なくとも95%もしくは100%の同一性を有するアミノ酸配列、または
(iv)配列「CY−X3−G−X2−YRGTXS−X2−ESR−X2−C−X2−WNS−X2−LXR−X2−Y−X3−MPXAFN−LGLGXHNYCRNPNXAXKPWCXVXK−X3−F−X2−ESC−X2−PXC」(Xは任意のアミノ酸を示す)により定義されるDARKモチーフと少なくとも92%の同一性、好ましくは少なくとも95%もしくは100%の同一性を有するアミノ酸配列
を含むかまたはそれからなる、セリンプロテアーゼ活性を示さないクリングルタンパク質またはペプチド、あるいは
(b)NMDA受容体サブユニットNR1のN末端ドメインに結合する単離された抗体またはその断片(抗ATD−NR1抗体)であって、該抗体または該その断片の結合は、該NR1サブユニットの細胞外ドメインまたは断片の切断を妨げ、該NR1は好ましくは、
(i)配列番号4もしくは5のアミノ酸配列を有する、
(ii)配列番号6もしくは7のヌクレオチド配列によりコードされる、
(iii)ハイブリダイゼーションが5×SSPE、5×デンハート液および0.5%SDS中55〜60℃で終夜実施される高いストリンジェンシーの条件下で配列番号6もしくは7の核酸分子の相補体に特異的にハイブリダイズする核酸分子である、
単離された抗体またはその断片
からなる群より選択される、使用。
【請求項2】
血栓溶解薬、好ましくはプラスミノーゲン活性化因子を含む医薬品と組み合わせた、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
血栓溶解薬を使用する療法が、
(a)該血栓溶解薬、特にプラスミノーゲン活性化因子を、脳卒中の発症から3時間超、好ましくは4.5時間超、好ましくは6時間超およびさらに9時間または12時間超後に患者に投与できるという特徴、
(b)該処置のための該血栓溶解薬、特にt−PAの用量を、該血栓溶解薬を用いた単独療法のために推奨される用量と比較して増加できるという特徴、
(c)該血栓溶解処置を、現在血栓溶解療法に適格ではない患者、すなわち、可能な処置が提供される3時間よりも前に、さらに好ましくは4.5時間よりも前に脳卒中に罹った患者、または出血のリスクが増大している患者において適用できるという特徴
のうちの1つまたは複数を含む、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記血栓溶解薬が、プラスミノーゲン活性化因子、さらに好ましくは組換えt−PA(rt−PA、たとえば、アルテプラーゼ)または、パミテプラーゼ、ラノテプラーゼ、レテプラーゼ、テネクテプラーゼもしくはモンテプラーゼなどのt−PAの改変体、ウロキナーゼ、またはDSPAアルファ1、DSPAアルファ2、DSPAベータもしくはDSPAガンマなどのDSPA改変体である、請求項2または3に記載の使用。
【請求項5】
請求項1(a)に記載のタンパク質またはペプチドが、不活化プラスミノーゲン活性化因子、好ましくは組換えt−PA(rt−PA、たとえば、アルテプラーゼ)または、パミテプラーゼ、ラノテプラーゼ、レテプラーゼ、テネクテプラーゼもしくはモンテプラーゼなどのt−PAの改変体、ウロキナーゼ、またはDSPAアルファ2、DSPAベータもしくはDSPAガンマなどのDSPA改変体からなる群より選択される不活化プラスミノーゲン活性化因子である、前述の請求項のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
請求項1(a)に記載のタンパク質またはペプチドが、好ましくは自殺基質に、さらに好ましくはD−フェニル−プロリル−アルギニンクロロメチルケトン(PPACK)に連結されている不活化DSPAアルファ1である、前述の請求項のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
請求項1(a)に記載のタンパク質またはペプチドが、フィンガードメイン(F)または上皮増殖因子ドメイン(EGF)などの、プラスミノーゲン活性化因子において見出され、好ましくはt−PAまたはデスモテプラーゼ由来である、追加のドメインのうちの1つまたは複数を含む、前述の請求項のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
請求項1(a)に記載のタンパク質またはペプチドが、クリングルドメインまたはその断片のみからなる、前述の請求項のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
(a)配列番号3に記載のアミノ酸配列(DSPAクリングル)、または
(b)配列番号3に記載のアミノ酸配列と少なくとも70%の同一性、好ましくは80%、さらに好ましくは90%、もっとも好ましくは95%の同一性を有するアミノ酸配列、または
(c)配列「CY−X3−G−X2−YRGTXS−X2−ESR−X2−C−X2−WNS−X2−LXR−X2−Y−X3−MPXAFN−LGLGXHNYCRNPNXAXKPWCXVXK−X3−F−X2−ESC−X2−PXC」(Xは任意のアミノ酸を示す)により定義されるDARKモチーフと少なくとも92%の同一性、好ましくは少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列
を含むかまたはそれからなる単離されたクリングルタンパク質またはペプチドであって、セリンプロテアーゼ活性を示さず、t−PAもしくはウロキナーゼのクリングルドメインではなく、自殺基質に共有結合したDSPAアルファ1タンパク質でもt−PAでもない、タンパク質またはペプチド。
【請求項10】
NMDA受容体サブユニットNR1のN末端ドメインに結合する単離された抗体またはその断片(抗ATD−NR1抗体)であって、該抗体または該その断片の結合は、該NR1サブユニットの細胞外ドメインまたは断片の切断を妨げ、該NR1は好ましくは、
(a)配列番号4もしくは5のアミノ酸配列を有する、
(b)配列番号6もしくは7のヌクレオチド配列によりコードされる、
(c)ハイブリダイゼーションが5×SSPE、5×デンハート液および0.5%SDS中55〜60℃で終夜実施される高いストリンジェンシーの条件下で配列番号6もしくは7の核酸分子の相補体に特異的にハイブリダイズする核酸分子である、
単離された抗体またはその断片。
【請求項11】
神経保護薬としてのタンパク質またはペプチドの使用であって、該タンパク質またはペプチドは、
(a)
(i)配列番号1、配列番号2もしくは配列番号3に記載のアミノ酸配列、または
(ii)配列番号3に記載のアミノ酸配列と少なくとも70%の同一性、好ましくは80%、さらに好ましくは90%、もっとも好ましくは95%の同一性を有するアミノ酸配列、または
(v)配列「CY−X3−G−X2−YRGTXS−X2−ES−X3−C−X2−WNS−X2−L−X4−Y−X4−PXA−X2−LGLGXHNYCRNP−X4−KPWCXVXK−X6−EXC−X2−PXC」(Xは任意のアミノ酸を示す)により定義されるプラスミノーゲン活性化因子関連クリングル(PARK)モチーフと少なくとも90%の同一性、好ましくは少なくとも95%もしくは100%の同一性を有するアミノ酸配列、または
(vi)配列「CY−X3−G−X2−YRGTXS−X2−ESR−X2−C−X2−WNS−X2−LXR−X2−Y−X3−MPXAFN−LGLGXHNYCRNPNXAXKPWCXVXK−X3−F−X2−ESC−X2−PXC」(Xは任意のアミノ酸を示す)により定義されるDARKモチーフと少なくとも92%の同一性、好ましくは少なくとも95%もしくは100%の同一性を有するアミノ酸配列
を含むかまたはそれからなる、セリンプロテアーゼ活性を示さないクリングルタンパク質またはペプチド、あるいは
(b)NMDA受容体サブユニットNR1のN末端ドメインに結合する単離された抗体またはその断片(抗ATD−NR1抗体)であって、該抗体または該その断片の結合は、該NR1サブユニットの細胞外ドメインまたは断片の切断を妨げ、該NR1は好ましくは、
(i)配列番号4もしくは5のアミノ酸配列を有する、
(ii)配列番号6もしくは7のヌクレオチド配列によりコードされる、
(iii)ハイブリダイゼーションが5×SSPE、5×デンハート液および0.5%SDS中55〜60℃で終夜実施される高いストリンジェンシーの条件下で配列番号6もしくは7の核酸分子の相補体に特異的にハイブリダイズする核酸分子である、
単離された抗体またはその断片、
からなる群より選択される、使用。
【請求項12】
(a)請求項1(a)に記載のタンパク質もしくはペプチド、および、または
(b)請求項10に記載の単離された抗体もしくは抗原結合部分
からなる群より選択され、血栓溶解薬を伴なうか、もしくはそれを伴なわず、1つまたは複数の薬学的に許容されるキャリアもしくは賦形剤をさらに含みうる、薬学的組成物。
【請求項13】
神経障害もしくは神経変性障害、特に脳卒中を処置する方法であって、前述の請求項のいずれかに記載の治療量の血栓薬、好ましくはプラスミノーゲン活性化因子、さらに好ましくはt−PAと一緒に、もしくはそれなしで、請求項1(a)に記載の治療的有効量の単離されたタンパク質もしくはペプチド、または請求項10に記載の単離された抗体もしくはその抗原結合部分を投与することを含む、方法。
【請求項1】
神経障害または神経変性障害、特に脳卒中の処置のための医薬品の製造のためのタンパク質またはペプチドの使用であって、該タンパク質またはペプチドは、
(a)
(i)配列番号1、配列番号2もしくは配列番号3に記載のアミノ酸配列、または
(ii)配列番号3に記載のアミノ酸配列と少なくとも70%の同一性、好ましくは80%、さらに好ましくは90%、もっとも好ましくは95%の同一性を有するアミノ酸配列、または
(iii)配列「CY−X3−G−X2−YRGTXS−X2−ES−X3−C−X2−WNS−X2−L−X4−Y−X4−PXA−X2−LGLGXHNYCRNP−X4−KPWCXVXK−X6−EXC−X2−PXC」(Xは任意のアミノ酸を示す)により定義されるプラスミノーゲン活性化因子関連クリングル(PARK)モチーフと少なくとも90%の同一性、好ましくは少なくとも95%もしくは100%の同一性を有するアミノ酸配列、または
(iv)配列「CY−X3−G−X2−YRGTXS−X2−ESR−X2−C−X2−WNS−X2−LXR−X2−Y−X3−MPXAFN−LGLGXHNYCRNPNXAXKPWCXVXK−X3−F−X2−ESC−X2−PXC」(Xは任意のアミノ酸を示す)により定義されるDARKモチーフと少なくとも92%の同一性、好ましくは少なくとも95%もしくは100%の同一性を有するアミノ酸配列
を含むかまたはそれからなる、セリンプロテアーゼ活性を示さないクリングルタンパク質またはペプチド、あるいは
(b)NMDA受容体サブユニットNR1のN末端ドメインに結合する単離された抗体またはその断片(抗ATD−NR1抗体)であって、該抗体または該その断片の結合は、該NR1サブユニットの細胞外ドメインまたは断片の切断を妨げ、該NR1は好ましくは、
(i)配列番号4もしくは5のアミノ酸配列を有する、
(ii)配列番号6もしくは7のヌクレオチド配列によりコードされる、
(iii)ハイブリダイゼーションが5×SSPE、5×デンハート液および0.5%SDS中55〜60℃で終夜実施される高いストリンジェンシーの条件下で配列番号6もしくは7の核酸分子の相補体に特異的にハイブリダイズする核酸分子である、
単離された抗体またはその断片
からなる群より選択される、使用。
【請求項2】
血栓溶解薬、好ましくはプラスミノーゲン活性化因子を含む医薬品と組み合わせた、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
血栓溶解薬を使用する療法が、
(a)該血栓溶解薬、特にプラスミノーゲン活性化因子を、脳卒中の発症から3時間超、好ましくは4.5時間超、好ましくは6時間超およびさらに9時間または12時間超後に患者に投与できるという特徴、
(b)該処置のための該血栓溶解薬、特にt−PAの用量を、該血栓溶解薬を用いた単独療法のために推奨される用量と比較して増加できるという特徴、
(c)該血栓溶解処置を、現在血栓溶解療法に適格ではない患者、すなわち、可能な処置が提供される3時間よりも前に、さらに好ましくは4.5時間よりも前に脳卒中に罹った患者、または出血のリスクが増大している患者において適用できるという特徴
のうちの1つまたは複数を含む、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記血栓溶解薬が、プラスミノーゲン活性化因子、さらに好ましくは組換えt−PA(rt−PA、たとえば、アルテプラーゼ)または、パミテプラーゼ、ラノテプラーゼ、レテプラーゼ、テネクテプラーゼもしくはモンテプラーゼなどのt−PAの改変体、ウロキナーゼ、またはDSPAアルファ1、DSPAアルファ2、DSPAベータもしくはDSPAガンマなどのDSPA改変体である、請求項2または3に記載の使用。
【請求項5】
請求項1(a)に記載のタンパク質またはペプチドが、不活化プラスミノーゲン活性化因子、好ましくは組換えt−PA(rt−PA、たとえば、アルテプラーゼ)または、パミテプラーゼ、ラノテプラーゼ、レテプラーゼ、テネクテプラーゼもしくはモンテプラーゼなどのt−PAの改変体、ウロキナーゼ、またはDSPAアルファ2、DSPAベータもしくはDSPAガンマなどのDSPA改変体からなる群より選択される不活化プラスミノーゲン活性化因子である、前述の請求項のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
請求項1(a)に記載のタンパク質またはペプチドが、好ましくは自殺基質に、さらに好ましくはD−フェニル−プロリル−アルギニンクロロメチルケトン(PPACK)に連結されている不活化DSPAアルファ1である、前述の請求項のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
請求項1(a)に記載のタンパク質またはペプチドが、フィンガードメイン(F)または上皮増殖因子ドメイン(EGF)などの、プラスミノーゲン活性化因子において見出され、好ましくはt−PAまたはデスモテプラーゼ由来である、追加のドメインのうちの1つまたは複数を含む、前述の請求項のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
請求項1(a)に記載のタンパク質またはペプチドが、クリングルドメインまたはその断片のみからなる、前述の請求項のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
(a)配列番号3に記載のアミノ酸配列(DSPAクリングル)、または
(b)配列番号3に記載のアミノ酸配列と少なくとも70%の同一性、好ましくは80%、さらに好ましくは90%、もっとも好ましくは95%の同一性を有するアミノ酸配列、または
(c)配列「CY−X3−G−X2−YRGTXS−X2−ESR−X2−C−X2−WNS−X2−LXR−X2−Y−X3−MPXAFN−LGLGXHNYCRNPNXAXKPWCXVXK−X3−F−X2−ESC−X2−PXC」(Xは任意のアミノ酸を示す)により定義されるDARKモチーフと少なくとも92%の同一性、好ましくは少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列
を含むかまたはそれからなる単離されたクリングルタンパク質またはペプチドであって、セリンプロテアーゼ活性を示さず、t−PAもしくはウロキナーゼのクリングルドメインではなく、自殺基質に共有結合したDSPAアルファ1タンパク質でもt−PAでもない、タンパク質またはペプチド。
【請求項10】
NMDA受容体サブユニットNR1のN末端ドメインに結合する単離された抗体またはその断片(抗ATD−NR1抗体)であって、該抗体または該その断片の結合は、該NR1サブユニットの細胞外ドメインまたは断片の切断を妨げ、該NR1は好ましくは、
(a)配列番号4もしくは5のアミノ酸配列を有する、
(b)配列番号6もしくは7のヌクレオチド配列によりコードされる、
(c)ハイブリダイゼーションが5×SSPE、5×デンハート液および0.5%SDS中55〜60℃で終夜実施される高いストリンジェンシーの条件下で配列番号6もしくは7の核酸分子の相補体に特異的にハイブリダイズする核酸分子である、
単離された抗体またはその断片。
【請求項11】
神経保護薬としてのタンパク質またはペプチドの使用であって、該タンパク質またはペプチドは、
(a)
(i)配列番号1、配列番号2もしくは配列番号3に記載のアミノ酸配列、または
(ii)配列番号3に記載のアミノ酸配列と少なくとも70%の同一性、好ましくは80%、さらに好ましくは90%、もっとも好ましくは95%の同一性を有するアミノ酸配列、または
(v)配列「CY−X3−G−X2−YRGTXS−X2−ES−X3−C−X2−WNS−X2−L−X4−Y−X4−PXA−X2−LGLGXHNYCRNP−X4−KPWCXVXK−X6−EXC−X2−PXC」(Xは任意のアミノ酸を示す)により定義されるプラスミノーゲン活性化因子関連クリングル(PARK)モチーフと少なくとも90%の同一性、好ましくは少なくとも95%もしくは100%の同一性を有するアミノ酸配列、または
(vi)配列「CY−X3−G−X2−YRGTXS−X2−ESR−X2−C−X2−WNS−X2−LXR−X2−Y−X3−MPXAFN−LGLGXHNYCRNPNXAXKPWCXVXK−X3−F−X2−ESC−X2−PXC」(Xは任意のアミノ酸を示す)により定義されるDARKモチーフと少なくとも92%の同一性、好ましくは少なくとも95%もしくは100%の同一性を有するアミノ酸配列
を含むかまたはそれからなる、セリンプロテアーゼ活性を示さないクリングルタンパク質またはペプチド、あるいは
(b)NMDA受容体サブユニットNR1のN末端ドメインに結合する単離された抗体またはその断片(抗ATD−NR1抗体)であって、該抗体または該その断片の結合は、該NR1サブユニットの細胞外ドメインまたは断片の切断を妨げ、該NR1は好ましくは、
(i)配列番号4もしくは5のアミノ酸配列を有する、
(ii)配列番号6もしくは7のヌクレオチド配列によりコードされる、
(iii)ハイブリダイゼーションが5×SSPE、5×デンハート液および0.5%SDS中55〜60℃で終夜実施される高いストリンジェンシーの条件下で配列番号6もしくは7の核酸分子の相補体に特異的にハイブリダイズする核酸分子である、
単離された抗体またはその断片、
からなる群より選択される、使用。
【請求項12】
(a)請求項1(a)に記載のタンパク質もしくはペプチド、および、または
(b)請求項10に記載の単離された抗体もしくは抗原結合部分
からなる群より選択され、血栓溶解薬を伴なうか、もしくはそれを伴なわず、1つまたは複数の薬学的に許容されるキャリアもしくは賦形剤をさらに含みうる、薬学的組成物。
【請求項13】
神経障害もしくは神経変性障害、特に脳卒中を処置する方法であって、前述の請求項のいずれかに記載の治療量の血栓薬、好ましくはプラスミノーゲン活性化因子、さらに好ましくはt−PAと一緒に、もしくはそれなしで、請求項1(a)に記載の治療的有効量の単離されたタンパク質もしくはペプチド、または請求項10に記載の単離された抗体もしくはその抗原結合部分を投与することを含む、方法。
【図3】
【図4】
【図1】
【図2】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12−1】
【図12−2】
【図13】
【図14−1】
【図14−2】
【図15−1】
【図15−2】
【図16−1】
【図16−2】
【図17A】
【図17B】
【図17C】
【図18A】
【図18B】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図4】
【図1】
【図2】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12−1】
【図12−2】
【図13】
【図14−1】
【図14−2】
【図15−1】
【図15−2】
【図16−1】
【図16−2】
【図17A】
【図17B】
【図17C】
【図18A】
【図18B】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公表番号】特表2013−503117(P2013−503117A)
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−525890(P2012−525890)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【国際出願番号】PCT/EP2010/000544
【国際公開番号】WO2011/023250
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(505081191)パイオン ドイチュラント ゲーエムベーハー (11)
【氏名又は名称原語表記】PAION Deutschland GmbH
【住所又は居所原語表記】Martinstrasse 10−12, 52062 Aachen, Deutschland
【出願人】(509302364)インサーム(インスティテュート ナショナル デ ラ セント エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル) (3)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【国際出願番号】PCT/EP2010/000544
【国際公開番号】WO2011/023250
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(505081191)パイオン ドイチュラント ゲーエムベーハー (11)
【氏名又は名称原語表記】PAION Deutschland GmbH
【住所又は居所原語表記】Martinstrasse 10−12, 52062 Aachen, Deutschland
【出願人】(509302364)インサーム(インスティテュート ナショナル デ ラ セント エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル) (3)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]