移動体検知装置
【課題】 2周波CW方式レーダを用いた移動体検知装置において、2つのドップラ信号間の位相差をFFT等の複雑な演算処理で求めると処理負荷が大きい。
【解決手段】 ミキサ32から時分割で交互に出力されるドップラ信号D1,D2を切替器34で分離し、それぞれをLPF36,38で平滑化する。差分器44は、平滑化されたD1,D2の差信号を生成する。差信号の振幅BはD1,D2相互の位相差Δφ及び元のドップラ信号の振幅Aに応じて増減する。移動体までの距離Rは位相差Δφと比例関係にあり、Δφは信号強度比κ(≡B/A)に比例する式で近似される。そこで、除算器50でκを求め、これを距離Rを表す指標として用い、移動体検知を行う。
【解決手段】 ミキサ32から時分割で交互に出力されるドップラ信号D1,D2を切替器34で分離し、それぞれをLPF36,38で平滑化する。差分器44は、平滑化されたD1,D2の差信号を生成する。差信号の振幅BはD1,D2相互の位相差Δφ及び元のドップラ信号の振幅Aに応じて増減する。移動体までの距離Rは位相差Δφと比例関係にあり、Δφは信号強度比κ(≡B/A)に比例する式で近似される。そこで、除算器50でκを求め、これを距離Rを表す指標として用い、移動体検知を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2周波CW(Continuous Wave:連続波)レーダを用いて移動体を検知する移動体検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電波を送受波して対象物までの距離を測定する手段として電波レーダが知られており、その方式としてFMCW方式や2周波CW方式等がある。FMCW方式は、高精度の距離測定を行うために電波の周波数を可変制御するものであり、広い占有周波数帯域を必要とし、かつ近距離の測定を行うためには直線性の高い電圧制御型発振器が必要である。
【0003】
一方、2周波CW方式は、周波数が僅かに異なる2種類の電波を監視空間に放射し、移動体からの反射波の位相を観察し、各周波数での反射波の間での位相差に基づいて移動体までの距離を求める。そのため、狭い占有周波数帯域幅で監視領域内の移動物体までの距離を、近距離でも高精度に測定できる。
【0004】
2周波CW方式のミリ波レーダは衝突防止用の車載レーダ等に使用されている。また、同方式のマイクロ波レーダ(マイクロ波センサ)を用いて移動体を検出する移動体検知装置が提案されている。その移動体検知装置では、移動体までの距離と反射波の信号強度とに基づいて移動体の存在や性質等を検出し、検出された移動体が監視対象(人や車)であるかを判別することが行われる。
【0005】
これらのレーダで使用される周波数は高く、特に、マイクロ波センサに使用が許可されている周波数は、Xバンド(10.5GHz帯)、Kバンド(24.2GHz帯)と非常に高く、得られた反射波の位相を直接測定することが難しい。そのため、放射したマイクロ波とその反射波とからドップラ信号を抽出し、ドップラ信号の位相を観察する。
【0006】
具体的には、2周波CW方式で用いられるマイクロ波の送信周波数をf1,f2、また各周波数での反射波から得られるドップラ信号相互間の位相差をΔφとすると、移動体までの距離Rは、次式で与えられる。
【0007】
【数1】
【0008】
ここで、cは光速である。このように、ドップラ信号の位相差Δφを観測すれば、その値から移動体までの距離Rを求めることができる。ちなみに、速度vは、周波数f1,f2の送信波それぞれに対するドップラ信号の周波数をfd1,fd2とすると、次式で与えられる。
【0009】
【数2】
【0010】
ドップラ信号は、反射波を受信して得られた受信信号をミキサにより送信信号と混合することにより抽出することができる。受信された反射波は、目的とする移動体以外からの反射波などのノイズ成分を含み得るため、抽出されたドップラ信号は歪みを有し得る。そのため、ドップラ信号の波形から直接に求めた位相は十分な精度を得ることが難しい。そこで、従来は、下記特許文献1に示されるミリ波レーダ装置のように、高速フーリエ変換(FFT)等のデジタル信号処理を行って、ドップラ信号から位相差Δφを求めている。
【特許文献1】特開2001−33545号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
FFT等のデジタル信号処理は複雑なデジタル回路や高速CPU等を要する。そのため、それを用いた移動体検知装置が比較的高価なものとなるという問題があった。
【0012】
本発明は上述の問題を解決するためになされたものであり、2周波CW方式レーダを用いた移動体検知装置であって、簡易な回路で構成されるものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る移動体検知装置は、移動体を検知する対象領域へ向けて、周波数が互いに異なる2種類の送信波を送出する送信手段と、前記各送信波に対する反射波を受信する受信手段と、前記送信波の種類毎に、当該送信波及び前記反射波からドップラ信号を抽出するドップラ信号抽出手段と、前記各送信波に対応した2種類の前記ドップラ信号を線形的に合成した合成信号を生成し、当該合成信号と当該ドップラ信号との信号強度比を求める強度比算出手段と、前記反射波を生じる前記移動体までの距離を前記信号強度比の関数として表す所定の関係式を設定され、当該関係式に基づいて前記信号強度比から前記移動体の測定距離を決定する距離決定手段と、を有するものである。
【0014】
本発明によれば、抽出された2種類のドップラ信号D1,D2それぞれに係数k1,k2(k1,k2≠0)を乗じて合成した合成信号(k1・D1+k2・D2)が生成される。ここで、係数k1,k2は正負いずれでもよい。合成信号の信号強度は、もとのドップラ信号D1,D2の信号強度を反映すると共に、ドップラ信号D1,D2の位相差Δφを反映して変化する。この合成信号ともとのドップラ信号との信号強度比κは、もとのドップラ信号D1,D2の信号強度の影響を除去されて、基本的に位相差Δφに応じて変化する。この信号強度比κは、近似的な位相差Δφの情報を与え、これを距離決定に用いることができる。また、位相差Δφのより高次の近似式を、信号強度比κの簡単な関数、例えば四則演算だけを用いた関数で構成し、これを距離決定に用いることができる。
【0015】
他の本発明に係る移動体検知装置においては、前記強度比算出手段が、前記合成信号として前記2種類のドップラ信号相互の差信号を生成し、前記関係式が、前記信号強度比に比例して前記測定距離を定める。
【0016】
本発明によれば、基本的に位相差Δφが0のとき信号強度比κは0であり、位相差Δφの増加と共に信号強度比κは単調に増加する。そこで、位相差Δφに代えて、信号強度比κに比例する値を用いて、移動体までの測定距離を決定する。
【0017】
また他の本発明に係る移動体検知装置は、前記関係式に応じた前記距離の前記移動体までの実際の距離に対する誤差が所定の許容限度以下であることに基づいて有効測距限界を設定され、前記測定距離が当該有効測距限界以下である場合に、前記移動体の検出判定を行う移動体判定手段を有するものである。
【0018】
2周波CW方式レーダにおいては、移動体の距離が送受信の原点から遠ざかるにつれて、位相差Δφの絶対値は0から増加し、位相差Δφの絶対値がπ[rad]となる距離が理論的な測距限界となる。本発明によれば、移動体検知装置から理論的な測距限界までのうち、移動体検知装置寄りの所定範囲内において、測定距離の誤差が小さくなるように設定され、当該範囲内が移動体検知の対象領域とされる。ここで、信号強度比κに対する位相差Δφの変化は、送受信の原点に近い側において好適に直線的であるという性質を有する。そこで特に、信号強度比κに比例して測定距離を定めるという簡単な関係式で、比較的小さな誤差の許容限度で比較的大きな有効測距限界を得ることができる。
【0019】
別の本発明に係る移動体検知装置は、前記測定距離に基づき、前記ドップラ信号の信号強度の減衰を補正して、前記移動体の前記送信波に対する反射断面積を求める反射断面積算出手段を有し、前記移動体判定手段が、検知目的の移動体に応じた所定断面積範囲を設定され、前記測定距離が前記有効測距限界以下であることに加えて、前記反射断面積が当該断面積範囲内である場合に、前記移動体の検出判定を行う。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ドップラ信号の位相差Δφに相当する情報を簡易な回路で生成することができ、移動体検知装置の構成が簡素化される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態(以下実施形態という)について、図面に基づいて説明する。本実施形態は、本発明に係る移動体検知装置を侵入者検知に適用した侵入者検知装置である。図1は、本発明に係る移動体検知装置の基本的な構成を示す機能ブロック図である。送信手段2は監視対象領域に向けて、周波数f1,f2の2種類の送信波を時分割で交互に送出する。周波数f1,f2は、波形に相違がほとんど現れない程度に近い値とする。受信手段4は、各送信波に対する反射波を受信する。ドップラ信号抽出手段6は、送信波の種類毎に、送信波及びその送信波に対する反射波からドップラ信号を抽出する。強度比算出手段8は、各送信波に対応して抽出された2種類のドップラ信号D1,D2を線形的に重ね合わせた合成信号Uを生成し、合成信号Uとドップラ信号との信号強度比を求める。距離決定手段10は、反射波を生じる移動体までの距離Rを信号強度比κの関数として表す所定の関係式を予め設定され、その関係式に基づいて信号強度比κから移動体の測定距離を決定する。反射断面積算出手段12は、ドップラ信号の送受信波の経路長に応じた信号強度減衰を補正して、移動体の反射断面積を求める。移動体判定手段14は、関係式に応じた距離の誤差が所定の許容限度以下であることに基づいて、予め有効測距限界を設定され、その範囲内で検知対象とする移動体が存在するか否かを判定する。
【0022】
図2は、本実施形態に係る侵入者検知装置の回路ブロック図である。矩形波発生器20、電圧制御型発振器22、送信アンテナ24が送信手段2を構成し、また受信手段4として受信アンテナ30を、そしてドップラ信号抽出手段6としてミキサ32、切替器34、LPF36,38、アンプ40,42を有している。矩形波発生器20は、2つの周波数f1,f2の送信波を切り替える周期Δtの切り替えタイミングに同期して切替クロックを生成する。電圧制御型発振器22は、矩形波発生器20が生成する切替クロックに連動して一定時間ずつ時分割で、電圧に応じて周波数を交互に切り替えながら、周波数f1,f2のマイクロ波帯の送信信号を生成し、送信アンテナ24へ出力する。送信アンテナ24は、入力された送信信号を送信波として空間へ放射する。
【0023】
受信アンテナ30は、送信波が物体にて反射された反射波を空間から受信し、受信信号をミキサ32へ出力する。ミキサ32は、電圧制御型発振器22で発生されている送信信号と、その送信信号に対応して得られた受信信号とをミキシングする。ミキシングの結果、送信信号と受信信号との周波数差で変動する信号が得られる。この周波数差は送信波を反射した物体が移動している場合のドップラ効果により生じ、ミキサ32は、この差周波数の信号をドップラ信号として抽出する。
【0024】
切替器34は、矩形波発生器20の生成する切替クロックに同期して送信周波数f1,f2それぞれに対応するドップラ信号D1,D2に分離し、それぞれを低域通過フィルタ(LPF:Low Pass Filter)36,38へ振り分けて出力する。LPF36,38はドップラ信号D1,D2から不要な高周波成分を除去し、それぞれをアンプ40,42へ出力する。アンプ40,42は入力されたドップラ信号D1,D2の信号波形を適度なレベルに増幅して出力する。
【0025】
図3は、上述したミキサ32、切替器34及びLPF36,38の動作を説明する信号波形の模式図である。図3(a)は矩形波発生器20の生成する切替クロックに同期した送信波の切り替わるタイミングを示している。このように送信波の周波数が周期Δtで交互にf1とf2とに切り替わることに対応して、ミキサ32では、図3(b)に示すように、ドップラ信号D1,D2が周期Δtで時分割で交互に抽出される。すなわち、送信周波数がf1の期間に対応してドップラ信号D1が得られ、送信周波数がf2の期間に対応してドップラ信号D2が得られる。切替器34からLPF36,38に入力されたドップラ信号D1,D2はそれぞれ切替クロックに同期して断続的になっている。そこで、LPF36,38のカットオフ周波数はそれぞれ切替クロックよりも低い周波数に設定され、当該カットオフ周波数より高い周波数成分を除去し、断続的なドップラ信号D1,D2それぞれを平滑化する。図3(c)は、LPF36,38それぞれから出力される平滑化されたドップラ信号D1,D2の波形を示している。なお、図3(b)(c)において、縦軸は信号電圧を表している。
【0026】
図2の構成において、差分器44、整流器46,48、除算器50が強度比算出手段8を構成する。除算器50は距離決定手段10としての機能も有する。差分器44には、アンプ40,42にて増幅されたドップラ信号D1,D2が入力される。差分器44は、合成信号U(≡k1・D1+k2・D2)として、ドップラ信号D1,D2を線形加算(減算)して合成信号を生成する。本実施形態では、ドップラ信号D1,D2の差信号を生成する。例えば、差分器44は、k1=1、k2=−1とした場合の合成信号である差信号U’(≡D1−D2)を出力する。この差信号U’は一般的に脈動波となり、整流器46はその波形の実効値Beを出力する。この実効値Beが差信号U’の強度とされる。これに対応して、ドップラ信号の強度を、整流器48により得られるドップラ信号の波形の実効値Aeで定義する。ここで、周波数f1,f2での送信波の強度は同じに設定され、それぞれに対する反射波の強度も基本的に同じと推定されることから、ドップラ信号D1,D2の強度も互いに等しいとして取り扱うことが可能である。そこで本装置では、ドップラ信号D1のみに基づいてドップラ信号の強度を定め、回路構成の簡略化を図っている。すなわち、整流器48にドップラ信号D1を入力し、その実効値Aeをドップラ信号の強度としている。
【0027】
除算器50は、整流器46,48それぞれから差信号の実効値Be、ドップラ信号の実効値Aeを入力され、Be/Aeを算出する。このBe/Aeは、差信号U’とドップラ信号との信号強度比κに相当し、後述する関係式に基づいて移動体までの距離Rに対応付けられる。
【0028】
反射断面積算出手段12は、乗算器52,54により構成される。乗算器52の2つの入力端子にはそれぞれ除算器50から距離Rを入力され、Rの2乗値を出力する。乗算器54は、乗算器52の出力であるR2と、整流器48の出力であるAeとを入力され、それらの積に応じた出力を生成する。ドップラ信号の強度は、装置と移動体との距離の2乗に反比例して減衰する。そこでドップラ信号の強度に対応するAeに距離の2乗であるR2を乗じることで、その距離減衰を補正し、反射を生じた移動体の反射断面積Sに対応する結果を得ることができる。
【0029】
移動体判定手段14に相当する侵入判定部56は、移動体までの距離Rの情報を除算器50の出力から取得し、また移動体の反射断面積Sの情報を乗算器54の出力から取得し、それらに基づいて監視対象領域における移動体の存在や、それが侵入者であるかの判定を行う。
【0030】
なお、除算器50からは信号強度比κを出力するように構成し、侵入判定部56において距離R及び反射断面積Sを後述する関係式に基づいて求めても同様である。
【0031】
次に、本装置において距離Rの情報を求める原理について説明する。図4は、移動体までの距離RがRa,Rb,Rc(Ra<Rb<Rc)の場合におけるドップラ信号D1,D2の信号波形を示す模式図である。また、図5は、図4に示す場合に対応したドップラ信号D1,D2の差信号U’の信号波形を示す模式図である。ここで2種類の周波数f1,f2は近い値に設定されているため、この周波数の差による位相のずれは省略できるものとする。
【0032】
(1)式に示されるように、距離Rに比例して2つのドップラ信号D1,D2間の位相差Δφは増加する。図4(a)〜(c)はそれぞれ、距離RがRa,Rb,Rc(Ra<Rb<Rc)の場合を表しており、距離Rが大きいほど位相差Δφが拡大する。位相差Δφが−π〜π[rad]の範囲では、2つのドップラ信号の差分は位相差Δφの絶対値が大きいほど大きくなる。これに対応して、図5に示すように、距離Rが増加するほど、差信号U’の振幅が大きくなる。
【0033】
差信号U’の振幅をB、位相をθとし、ドップラ信号D1,D2それぞれの振幅をA1,A2、位相差をΔφとすると、任意の時刻tにおいて次式が成立する。
【0034】
Bcos(ωt+θ)=A1cos(ωt)−A2cos(ωt+Δφ) …(3)
【0035】
ドップラ信号D1,D2は同一の移動体からの反射波に基づくものであり、それらの振幅A1,A2は同じとみなせるので、A1=A2=Aとし、三角関数の加法定理に基づいて(3)式の両辺を展開すると、
Bcos(ωt)cos(θ)−Bsin(ωt)sin(θ)
=Acos(ωt){1−cos(Δφ)}+Asin(ωt)sin(Δφ) …(4)
となる。(4)式が任意のωtで成立する条件は次式となる。
【0036】
Bcos(θ)=A{1−cos(Δφ)} …(5)
Bsin(θ)=−Asin(Δφ) …(6)
【0037】
(5)(6)式の両辺を2乗して、加算、整理すると、振幅A,Bは共に0以上であるので、
B=A{2−2cos(Δφ)}1/2 …(7)
となる。この式より、差信号U’の振幅Bは位相差Δφから求められることが分かる。(7)式をΔφについて解くと、
|Δφ|=cos−1(1-κ2/2) …(8)
となる。ここで、信号強度比κ=B/Aを用いた。この式から、差分後の振幅と差分前の振幅とから位相差Δφの絶対値が求められ、(1)式に基づいて距離Rを求めることができることが理解される。
【0038】
図6は、(8)式の関係を表すグラフであり、横軸がκ、縦軸が|Δφ|である。この図に示されるように、|Δφ|はκの取り得る値の範囲(0≦κ≦2)のうち、0からほぼ中程まで直線的に変化する。このことは、(8)式の右辺をマクローリン級数に展開し、例えば、その第2項までで近似すると、
Δφ=κ+κ3/24
であることからも分かる。すなわちκが0から1前後までの範囲ではκの高次の項の寄与が小さく、Δφは右辺第1項の影響を支配的に受けて直線的に変化する。このことから、κの0寄りに、κに適当な係数を乗じた次式で定義されるΔφ’がΔφの好適な近似を与える範囲を設定できることが理解される。
【0039】
Δφ’=ακ …(9)
【0040】
また、この(9)式を(1)式に代入して得られる次式により、Δφ’から距離Rを求めることができる。このように(8)式の真値Δφにより距離Rを求めることもできるが、(9)式の近似値Δφ'を用いることで、簡略的に距離Rを求めることができる。
【0041】
【数3】
【0042】
ここで、係数αは、監視対象とする距離範囲と当該範囲内での許容誤差とに基づいて決定される。例えば、係数αは、設定された監視対象の距離範囲内において近似値Δφ'から求めた距離Rと真値Δφから求めた距離との誤差(すなわち、近似値Δφ'と真値Δφとの誤差)が小さくなるように定められる。図7は、ΔφとΔφ’との比較結果を示すグラフである。この図は、κを0から2まで変化させたときのΔφと、Δφが0°から90°の範囲で誤差を小さくするようにαを設定した場合のΔφ’との関係を示している。係数αは例えば、監視対象とする距離範囲における誤差の絶対値の累積値が最小になるように定めることができる。図において横軸がΔφ、左側の縦軸がΔφ’を表し、実線の曲線60がΔφに対するΔφ’の関係を示している。また、傾き1の点線の直線62は真値(すなわちΔφそのもの)をプロットしたものであり、一点鎖線の曲線64は誤差ε(≡Δφ’−Δφ)を表している。誤差εのスケールは右側の縦軸に表されている。係数αを調整することにより、曲線60が変形し、曲線64の勾配や頂点の位置が変動する。
【0043】
ここで、本装置に設定する監視対象距離範囲(有効測距限界Rt)について考察する。位相差Δφの取り得る範囲は−180°から180°である。なお、位相差の正負は、反射波を生じる移動体が装置に対して接近しているか、装置から遠ざかっているかに応じて決まる。装置の理論的な測距限界Rmaxは|Δφ|が180°のときのR、すなわち(1)式においてΔφ=πとした場合のRにより与えられる。また(1)式から理解されるように、Rmaxは送信波の2種類の周波数f1,f2の周波数差に応じて定まる。例えば、本装置は、マイクロ波の24GHz帯にて5MHzの差を有するf1,f2を使用し、これによりRmaxは15mとなる。
【0044】
装置がRmaxより遠方の移動体からの反射波を受信した場合、位相差Δφが180°を超える。その場合、Δφ=180°を境として折り返しが生じ、計算上、R<Rmaxとなり、擬似的に移動体が測距限界Rmaxより内側に存在することを示す結果が得られる。この問題は、測距限界に余裕を持たせることで或る程度回避可能である。
【0045】
図8は、測距限界Rmaxが15mである場合であって、図7に示す設定、つまり位相差Δφ=0〜90°にて誤差を小さくするようにαを設定した場合における、Δφ’に基づく距離Rと真の距離Rとを対比するグラフである。図において、横軸が(1)式を用いて算出される距離、縦軸が移動体までの実際の距離である。実線の曲線70は、Δφに代えて(9)式のΔφ’を用いて(1)式から算出した距離と実際の距離との関係を示すものである。点線の直線72は、(8)式で与えられるΔφを用いて(1)式から算出した距離と実際の距離との関係を示すものである。
【0046】
本装置では、除算器50にて得られる信号強度比κを距離Rを示す指標として用い、侵入判定部56における判定を行う。上述のように係数αを設定したとき、ΔφとΔφ'との誤差が小さいΔφ=0〜90°を監視範囲として設定する。つまり、有効測距限界RtをRmaxの半分に設定し、誤差が大きくなるRt以上については監視範囲としない。このように構成することで、例えば、信号強度比κを用いた簡単な四則演算による代数関数を用いてΔφを定め、それに基づいて距離Rを判定することができ、回路構成や演算処理が簡単となる。特に本装置で採用するようにκに比例するという関係式でΔφを表すこととした場合、その効果は顕著である。この効果に加えて、Rmax側の領域を使わないように構成することで、上述の折り返しによる誤検出を抑制しやすくなる効果が得られる。
【0047】
なお、Rmaxは送信波の2種類の周波数f1,f2の周波数差に反比例するので、この周波数差(f1−f2)の絶対値を小さくすることにより、Rmaxを遠方まで延ばすことが可能である。ちなみに、発振器がどれだけ精度良く小さな周波数差での信号出力が可能であるか、すなわち、発振器の安定性に依存してRmaxの上限が制限される。
【0048】
例えば、上述のようにΔφ=0〜90°にて誤差を小さくするように設定する場合において、上述のように(f1−f2)を5MHzとする場合、Rmaxが15mであり、有効測距限界Rtは7.5mとなる。ここで、さらに大きな有効測距限界Rtとして例えば10mが必要とされるならば、差(f1−f2)を縮小して測距限界Rmaxを20mに設定すればよい。
【0049】
ちなみに、Δφ=0〜90°に対して例えば、κの1次の項しか含まない(9)式のΔφ’であっても誤差は3°程度内である。これは、Rtを10mとする場合にて、距離に換算すると最大で30cm程度の誤差であり、例えば、侵入者検知に必要な精度での距離判定が可能である。
【0050】
以上、移動体の距離の判定について述べた。次に、本装置における反射断面積に基づく移動物体の識別の原理について説明する。上述したように、反射断面積Sは信号強度比κとドップラ信号の実効値Aeとを用いて、乗算器52,54によりAe・κ2を算出することにより求められる。
【0051】
反射断面積Sは電波をどれだけ多く反射するかの指標であり、人の反射断面積を基準とした相対的な反射断面積はおおよそ、下表に示すものとなることが知られている。
【0052】
【表1】
【0053】
この表は、例えば、自動車は人に比べ100倍程度、強い電力を反射するのに対し、鳥は人の1/100程度しか反射しないことを表している。また、動物の場合は、体の構成物質のほとんどが水分であり、電波に対する反射断面積はセンサから見た反射物体の断面積に比例すると考えられる。このため、人よりも小さい小動物の反射断面積は人よりも小さくなる。そこで、検知を望まない小動物の反射断面積を本装置で予め測定しておき、侵入者監視中に測定された反射断面積と比較することで、小動物の侵入に対しては検知しないようにすることができる。同様に、自動車等の反射断面積とも比較することで、監視範囲に侵入した物体が人か自動車か等の区別も可能である。
【0054】
なお、一般にドップラ信号の振幅は物体が移動しているため、基本的に常に変動している。このため、測定される反射断面積も常時変動し、設定された反射断面積との比較を安定して行うことが難しい。そこで、反射断面積の一定時間に亘る積分値や平均値を移動体の識別等の処理に用いることで、反射断面積の安定した比較判定を行うことができる。
【0055】
次に、本装置の動作を具体的な例を用いつつ説明する。ここでは、Rmax=10mの本装置を壁や柱に設置し、そのマイクロ波センサを中心として5mの範囲を監視範囲とする例を述べる。この場合、有効測距限界Rt=5mの範囲内で距離Rの誤差が最小となるように(9)式のαが定められる。例えば、本装置の侵入判定部56以外の各部20〜54はアナログ回路で構成することができ、侵入判定部56は、除算器50から距離Rに応じた電圧値の出力信号を、また乗算器54から反射断面積Sに応じた電圧値の出力信号を入力される。侵入判定部56は、例えば、A/D変換器及びマイクロプロセッサ等の演算手段を備え、A/D変換器にて、除算器50、乗算器54からの電圧信号をデジタル値に変換し、侵入者検知の判定のための演算処理を行う。
【0056】
本装置は、マイクロ波を一定周期で繰り返して送受信し、反射波に基づいてドップラ信号を抽出する動作を行う一方で、得られたドップラ信号に基づいて、距離R,反射断面積Sを求め、侵入判定を行う動作を行う。
【0057】
図9は、ドップラ信号に基づく侵入判定処理を説明するフロー図である。侵入判定部56は、図9のフローで繰り返される処理の各サイクルにおいて、除算器50の出力電圧値に基づいて、移動体までの距離Rを算出し(S100)、また乗算器54の出力電圧値に基づいて、移動体の反射断面積Sを算出する(S105)。
【0058】
侵入判定部56は、処理S105で得た反射断面積Sが人に対応した値であるか否かを判断する(S110)。例えば、反射断面積Sが所定の範囲内であることにより、検知された移動体が人と判断する。なお、ここで用いる所定の閾値は、予め実験によって、鳥や犬などの小動物と人間、及び自動車などの大型物と人間とを区別できる値に設定される。
【0059】
侵入判定部56は、検知された移動体を人や人よりも大きな物と判断した場合(S110)、処理S100で求めた移動体までの距離Rが監視範囲内であるか否かを判断する(S115)。
【0060】
判断処理S110及びS115での判定が共に真である場合には、人又は人よりも大きな物が監視範囲に存在することになる。侵入判定部56は、誤検出を抑制するために、この状態が所定時間内に所定回数発生した場合に、侵入者が検知されたと判断して異常検知の出力を行う。具体的には、処理S110及びS115の判定が共に真となる関心イベントが起こると、そのときタイマーが起動していなければ(S120)、これを起動する(S125)。また、関心イベントが発生した場合には、カウンタの値を1ずつインクリメントする(S130)。
【0061】
当該処理サイクルにて、そのカウント値が所定数に達さず(S135)、また、タイマーもタイムアップしなかった場合は、カウンタの値を維持し、タイマーの計時を継続しつつ処理S100に戻り、次の処理サイクルを始める。
【0062】
一方、ある処理サイクルにおいて、そのカウント値が所定数に達すると(S135)、監視範囲に検知対象とする何かが存在する可能性が高いため、侵入発生と判断し、異常検知の出力を行う(S140)。これに対して、ある処理サイクルにおいて、タイマーがタイムアップすると(S145)、異常検知の出力は行わずに、カウンタ及びタイマーをリセットして(S150)処理S100に戻り、次の処理サイクルを始める。
【0063】
なお、処理S110,S115にて関心イベントの発生が否定された場合にも、処理S100に戻り、次の処理サイクルが開始される。
【0064】
一例として、人が距離Rが0mの位置から10mの位置へ一直線にほぼ等速で離れる動作をした場合における本装置による距離Rの検知結果を図10に、また反射断面積Sの検知結果を図11に示す。図10の縦軸に表す距離Rの単位はメートル[m]である。また図11の縦軸の反射断面積Sは対数目盛で表され、乗算器54の出力電圧を表しており、単位はボルト[V]である。なお、図10,図11の横軸は共に時間tである。図10に点線で示す水平線は監視範囲である有効測距限界Rt=5mを示しており、処理S115ではこのRt以下に移動体が存在するか否かが判定される。一方、図11にS=0.05Vに点線で示す水平線は、移動体が人とそれより小さい物とを区別するために設定される閾値であり、処理S110での判定にて用いられる。
【0065】
監視対象とされる人は計測開始から5秒より少し前から移動を開始し、それに応じて距離Rがほぼ直線的に増加し始め、また反射断面積Sが設定された閾値以上に増加する。距離Rは、信号強度比κを用いた(9)式に基づいて算出されるため、上述したようにRtを超えると誤差が大きくなり、実際の到達点である10mまでは測定値が達しないが、Rt以下での移動中においては良好な精度で距離Rの測定値が得られる。この例では、時刻t=0から、距離Rが5mに達する時刻t2までの間、処理S115の判定結果は真となる。また、処理S110に関しては、その閾値を超える時刻t1から時刻t3までの間、判定結果は真となる。侵入判定部56は、処理S110と処理S115とが共に真となる時刻t1からt2における各処理サイクルにて、カウンタの値をインクリメントし、それが所定値に達すると侵入発生と判断し、異常検知の出力処理S140を行う。
【0066】
上述したように、本装置によれば、ドップラ信号の位相差Δφを求めるために、FFT等の複雑な演算処理や、逆余弦関数を含む(8)式を直接計算する演算処理、又はその演算結果を予めテーブルとして格納するメモリ等の構成要素が不要である。本装置は簡易な構成のアナログ回路でΔφを求め、距離Rや反射断面積Sの情報を取得する。すなわち、装置構成が簡単となりコストも低減可能であるため、侵入者検知装置の導入が容易となり防犯に貢献し得る。
【0067】
本実施形態では本発明を侵入者検知装置に適用したが、他の用途の装置にも適用することができる。例えば、自動水洗トイレの人体検知、ドアやゲートの自動開閉のための人体や車両の検知、標識や看板、掲示板の自動アナウンスのための人体検知、照明や機器の電源の自動オン/オフ、車上荒し防止のための人体検知、周辺の障害物の検知や認識に応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明に係る移動体検知装置の基本的な構成を示す機能ブロック図である。
【図2】本実施形態に係る侵入者検知装置の回路ブロック図である。
【図3】ミキサ、切替器及びLPFの動作を説明する信号波形の模式図である。
【図4】移動体までの距離Rに応じて位相差が異なるドップラ信号D1,D2の信号波形を示す模式図である。
【図5】図4に示す場合に対応したドップラ信号D1,D2の差信号U’の信号波形を示す模式図である。
【図6】位相差Δφと信号強度比κとの関係を表すグラフである。
【図7】ΔφとΔφ’との比較結果を示すグラフである。
【図8】信号強度比κに比例するΔφ’を用いて算出される距離Rと正しい距離Rとを対比するグラフである。
【図9】ドップラ信号に基づく侵入判定処理を説明するフロー図である。
【図10】距離Rの測定例を示すグラフである。
【図11】反射断面積Sの測定例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0069】
2 送信手段、4 受信手段、6 ドップラ信号抽出手段、8 強度比算出手段、10 距離決定手段、12 反射断面積算出手段、14 移動体判定手段、20 矩形波発生器、22 電圧制御型発振器、24 送信アンテナ、30 受信アンテナ、32 ミキサ、34 切替器、36,38 LPF、40,42 アンプ、44 差分器、46,48 整流器、50 除算器、52,54 乗算器、56 侵入判定部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、2周波CW(Continuous Wave:連続波)レーダを用いて移動体を検知する移動体検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電波を送受波して対象物までの距離を測定する手段として電波レーダが知られており、その方式としてFMCW方式や2周波CW方式等がある。FMCW方式は、高精度の距離測定を行うために電波の周波数を可変制御するものであり、広い占有周波数帯域を必要とし、かつ近距離の測定を行うためには直線性の高い電圧制御型発振器が必要である。
【0003】
一方、2周波CW方式は、周波数が僅かに異なる2種類の電波を監視空間に放射し、移動体からの反射波の位相を観察し、各周波数での反射波の間での位相差に基づいて移動体までの距離を求める。そのため、狭い占有周波数帯域幅で監視領域内の移動物体までの距離を、近距離でも高精度に測定できる。
【0004】
2周波CW方式のミリ波レーダは衝突防止用の車載レーダ等に使用されている。また、同方式のマイクロ波レーダ(マイクロ波センサ)を用いて移動体を検出する移動体検知装置が提案されている。その移動体検知装置では、移動体までの距離と反射波の信号強度とに基づいて移動体の存在や性質等を検出し、検出された移動体が監視対象(人や車)であるかを判別することが行われる。
【0005】
これらのレーダで使用される周波数は高く、特に、マイクロ波センサに使用が許可されている周波数は、Xバンド(10.5GHz帯)、Kバンド(24.2GHz帯)と非常に高く、得られた反射波の位相を直接測定することが難しい。そのため、放射したマイクロ波とその反射波とからドップラ信号を抽出し、ドップラ信号の位相を観察する。
【0006】
具体的には、2周波CW方式で用いられるマイクロ波の送信周波数をf1,f2、また各周波数での反射波から得られるドップラ信号相互間の位相差をΔφとすると、移動体までの距離Rは、次式で与えられる。
【0007】
【数1】
【0008】
ここで、cは光速である。このように、ドップラ信号の位相差Δφを観測すれば、その値から移動体までの距離Rを求めることができる。ちなみに、速度vは、周波数f1,f2の送信波それぞれに対するドップラ信号の周波数をfd1,fd2とすると、次式で与えられる。
【0009】
【数2】
【0010】
ドップラ信号は、反射波を受信して得られた受信信号をミキサにより送信信号と混合することにより抽出することができる。受信された反射波は、目的とする移動体以外からの反射波などのノイズ成分を含み得るため、抽出されたドップラ信号は歪みを有し得る。そのため、ドップラ信号の波形から直接に求めた位相は十分な精度を得ることが難しい。そこで、従来は、下記特許文献1に示されるミリ波レーダ装置のように、高速フーリエ変換(FFT)等のデジタル信号処理を行って、ドップラ信号から位相差Δφを求めている。
【特許文献1】特開2001−33545号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
FFT等のデジタル信号処理は複雑なデジタル回路や高速CPU等を要する。そのため、それを用いた移動体検知装置が比較的高価なものとなるという問題があった。
【0012】
本発明は上述の問題を解決するためになされたものであり、2周波CW方式レーダを用いた移動体検知装置であって、簡易な回路で構成されるものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る移動体検知装置は、移動体を検知する対象領域へ向けて、周波数が互いに異なる2種類の送信波を送出する送信手段と、前記各送信波に対する反射波を受信する受信手段と、前記送信波の種類毎に、当該送信波及び前記反射波からドップラ信号を抽出するドップラ信号抽出手段と、前記各送信波に対応した2種類の前記ドップラ信号を線形的に合成した合成信号を生成し、当該合成信号と当該ドップラ信号との信号強度比を求める強度比算出手段と、前記反射波を生じる前記移動体までの距離を前記信号強度比の関数として表す所定の関係式を設定され、当該関係式に基づいて前記信号強度比から前記移動体の測定距離を決定する距離決定手段と、を有するものである。
【0014】
本発明によれば、抽出された2種類のドップラ信号D1,D2それぞれに係数k1,k2(k1,k2≠0)を乗じて合成した合成信号(k1・D1+k2・D2)が生成される。ここで、係数k1,k2は正負いずれでもよい。合成信号の信号強度は、もとのドップラ信号D1,D2の信号強度を反映すると共に、ドップラ信号D1,D2の位相差Δφを反映して変化する。この合成信号ともとのドップラ信号との信号強度比κは、もとのドップラ信号D1,D2の信号強度の影響を除去されて、基本的に位相差Δφに応じて変化する。この信号強度比κは、近似的な位相差Δφの情報を与え、これを距離決定に用いることができる。また、位相差Δφのより高次の近似式を、信号強度比κの簡単な関数、例えば四則演算だけを用いた関数で構成し、これを距離決定に用いることができる。
【0015】
他の本発明に係る移動体検知装置においては、前記強度比算出手段が、前記合成信号として前記2種類のドップラ信号相互の差信号を生成し、前記関係式が、前記信号強度比に比例して前記測定距離を定める。
【0016】
本発明によれば、基本的に位相差Δφが0のとき信号強度比κは0であり、位相差Δφの増加と共に信号強度比κは単調に増加する。そこで、位相差Δφに代えて、信号強度比κに比例する値を用いて、移動体までの測定距離を決定する。
【0017】
また他の本発明に係る移動体検知装置は、前記関係式に応じた前記距離の前記移動体までの実際の距離に対する誤差が所定の許容限度以下であることに基づいて有効測距限界を設定され、前記測定距離が当該有効測距限界以下である場合に、前記移動体の検出判定を行う移動体判定手段を有するものである。
【0018】
2周波CW方式レーダにおいては、移動体の距離が送受信の原点から遠ざかるにつれて、位相差Δφの絶対値は0から増加し、位相差Δφの絶対値がπ[rad]となる距離が理論的な測距限界となる。本発明によれば、移動体検知装置から理論的な測距限界までのうち、移動体検知装置寄りの所定範囲内において、測定距離の誤差が小さくなるように設定され、当該範囲内が移動体検知の対象領域とされる。ここで、信号強度比κに対する位相差Δφの変化は、送受信の原点に近い側において好適に直線的であるという性質を有する。そこで特に、信号強度比κに比例して測定距離を定めるという簡単な関係式で、比較的小さな誤差の許容限度で比較的大きな有効測距限界を得ることができる。
【0019】
別の本発明に係る移動体検知装置は、前記測定距離に基づき、前記ドップラ信号の信号強度の減衰を補正して、前記移動体の前記送信波に対する反射断面積を求める反射断面積算出手段を有し、前記移動体判定手段が、検知目的の移動体に応じた所定断面積範囲を設定され、前記測定距離が前記有効測距限界以下であることに加えて、前記反射断面積が当該断面積範囲内である場合に、前記移動体の検出判定を行う。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ドップラ信号の位相差Δφに相当する情報を簡易な回路で生成することができ、移動体検知装置の構成が簡素化される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態(以下実施形態という)について、図面に基づいて説明する。本実施形態は、本発明に係る移動体検知装置を侵入者検知に適用した侵入者検知装置である。図1は、本発明に係る移動体検知装置の基本的な構成を示す機能ブロック図である。送信手段2は監視対象領域に向けて、周波数f1,f2の2種類の送信波を時分割で交互に送出する。周波数f1,f2は、波形に相違がほとんど現れない程度に近い値とする。受信手段4は、各送信波に対する反射波を受信する。ドップラ信号抽出手段6は、送信波の種類毎に、送信波及びその送信波に対する反射波からドップラ信号を抽出する。強度比算出手段8は、各送信波に対応して抽出された2種類のドップラ信号D1,D2を線形的に重ね合わせた合成信号Uを生成し、合成信号Uとドップラ信号との信号強度比を求める。距離決定手段10は、反射波を生じる移動体までの距離Rを信号強度比κの関数として表す所定の関係式を予め設定され、その関係式に基づいて信号強度比κから移動体の測定距離を決定する。反射断面積算出手段12は、ドップラ信号の送受信波の経路長に応じた信号強度減衰を補正して、移動体の反射断面積を求める。移動体判定手段14は、関係式に応じた距離の誤差が所定の許容限度以下であることに基づいて、予め有効測距限界を設定され、その範囲内で検知対象とする移動体が存在するか否かを判定する。
【0022】
図2は、本実施形態に係る侵入者検知装置の回路ブロック図である。矩形波発生器20、電圧制御型発振器22、送信アンテナ24が送信手段2を構成し、また受信手段4として受信アンテナ30を、そしてドップラ信号抽出手段6としてミキサ32、切替器34、LPF36,38、アンプ40,42を有している。矩形波発生器20は、2つの周波数f1,f2の送信波を切り替える周期Δtの切り替えタイミングに同期して切替クロックを生成する。電圧制御型発振器22は、矩形波発生器20が生成する切替クロックに連動して一定時間ずつ時分割で、電圧に応じて周波数を交互に切り替えながら、周波数f1,f2のマイクロ波帯の送信信号を生成し、送信アンテナ24へ出力する。送信アンテナ24は、入力された送信信号を送信波として空間へ放射する。
【0023】
受信アンテナ30は、送信波が物体にて反射された反射波を空間から受信し、受信信号をミキサ32へ出力する。ミキサ32は、電圧制御型発振器22で発生されている送信信号と、その送信信号に対応して得られた受信信号とをミキシングする。ミキシングの結果、送信信号と受信信号との周波数差で変動する信号が得られる。この周波数差は送信波を反射した物体が移動している場合のドップラ効果により生じ、ミキサ32は、この差周波数の信号をドップラ信号として抽出する。
【0024】
切替器34は、矩形波発生器20の生成する切替クロックに同期して送信周波数f1,f2それぞれに対応するドップラ信号D1,D2に分離し、それぞれを低域通過フィルタ(LPF:Low Pass Filter)36,38へ振り分けて出力する。LPF36,38はドップラ信号D1,D2から不要な高周波成分を除去し、それぞれをアンプ40,42へ出力する。アンプ40,42は入力されたドップラ信号D1,D2の信号波形を適度なレベルに増幅して出力する。
【0025】
図3は、上述したミキサ32、切替器34及びLPF36,38の動作を説明する信号波形の模式図である。図3(a)は矩形波発生器20の生成する切替クロックに同期した送信波の切り替わるタイミングを示している。このように送信波の周波数が周期Δtで交互にf1とf2とに切り替わることに対応して、ミキサ32では、図3(b)に示すように、ドップラ信号D1,D2が周期Δtで時分割で交互に抽出される。すなわち、送信周波数がf1の期間に対応してドップラ信号D1が得られ、送信周波数がf2の期間に対応してドップラ信号D2が得られる。切替器34からLPF36,38に入力されたドップラ信号D1,D2はそれぞれ切替クロックに同期して断続的になっている。そこで、LPF36,38のカットオフ周波数はそれぞれ切替クロックよりも低い周波数に設定され、当該カットオフ周波数より高い周波数成分を除去し、断続的なドップラ信号D1,D2それぞれを平滑化する。図3(c)は、LPF36,38それぞれから出力される平滑化されたドップラ信号D1,D2の波形を示している。なお、図3(b)(c)において、縦軸は信号電圧を表している。
【0026】
図2の構成において、差分器44、整流器46,48、除算器50が強度比算出手段8を構成する。除算器50は距離決定手段10としての機能も有する。差分器44には、アンプ40,42にて増幅されたドップラ信号D1,D2が入力される。差分器44は、合成信号U(≡k1・D1+k2・D2)として、ドップラ信号D1,D2を線形加算(減算)して合成信号を生成する。本実施形態では、ドップラ信号D1,D2の差信号を生成する。例えば、差分器44は、k1=1、k2=−1とした場合の合成信号である差信号U’(≡D1−D2)を出力する。この差信号U’は一般的に脈動波となり、整流器46はその波形の実効値Beを出力する。この実効値Beが差信号U’の強度とされる。これに対応して、ドップラ信号の強度を、整流器48により得られるドップラ信号の波形の実効値Aeで定義する。ここで、周波数f1,f2での送信波の強度は同じに設定され、それぞれに対する反射波の強度も基本的に同じと推定されることから、ドップラ信号D1,D2の強度も互いに等しいとして取り扱うことが可能である。そこで本装置では、ドップラ信号D1のみに基づいてドップラ信号の強度を定め、回路構成の簡略化を図っている。すなわち、整流器48にドップラ信号D1を入力し、その実効値Aeをドップラ信号の強度としている。
【0027】
除算器50は、整流器46,48それぞれから差信号の実効値Be、ドップラ信号の実効値Aeを入力され、Be/Aeを算出する。このBe/Aeは、差信号U’とドップラ信号との信号強度比κに相当し、後述する関係式に基づいて移動体までの距離Rに対応付けられる。
【0028】
反射断面積算出手段12は、乗算器52,54により構成される。乗算器52の2つの入力端子にはそれぞれ除算器50から距離Rを入力され、Rの2乗値を出力する。乗算器54は、乗算器52の出力であるR2と、整流器48の出力であるAeとを入力され、それらの積に応じた出力を生成する。ドップラ信号の強度は、装置と移動体との距離の2乗に反比例して減衰する。そこでドップラ信号の強度に対応するAeに距離の2乗であるR2を乗じることで、その距離減衰を補正し、反射を生じた移動体の反射断面積Sに対応する結果を得ることができる。
【0029】
移動体判定手段14に相当する侵入判定部56は、移動体までの距離Rの情報を除算器50の出力から取得し、また移動体の反射断面積Sの情報を乗算器54の出力から取得し、それらに基づいて監視対象領域における移動体の存在や、それが侵入者であるかの判定を行う。
【0030】
なお、除算器50からは信号強度比κを出力するように構成し、侵入判定部56において距離R及び反射断面積Sを後述する関係式に基づいて求めても同様である。
【0031】
次に、本装置において距離Rの情報を求める原理について説明する。図4は、移動体までの距離RがRa,Rb,Rc(Ra<Rb<Rc)の場合におけるドップラ信号D1,D2の信号波形を示す模式図である。また、図5は、図4に示す場合に対応したドップラ信号D1,D2の差信号U’の信号波形を示す模式図である。ここで2種類の周波数f1,f2は近い値に設定されているため、この周波数の差による位相のずれは省略できるものとする。
【0032】
(1)式に示されるように、距離Rに比例して2つのドップラ信号D1,D2間の位相差Δφは増加する。図4(a)〜(c)はそれぞれ、距離RがRa,Rb,Rc(Ra<Rb<Rc)の場合を表しており、距離Rが大きいほど位相差Δφが拡大する。位相差Δφが−π〜π[rad]の範囲では、2つのドップラ信号の差分は位相差Δφの絶対値が大きいほど大きくなる。これに対応して、図5に示すように、距離Rが増加するほど、差信号U’の振幅が大きくなる。
【0033】
差信号U’の振幅をB、位相をθとし、ドップラ信号D1,D2それぞれの振幅をA1,A2、位相差をΔφとすると、任意の時刻tにおいて次式が成立する。
【0034】
Bcos(ωt+θ)=A1cos(ωt)−A2cos(ωt+Δφ) …(3)
【0035】
ドップラ信号D1,D2は同一の移動体からの反射波に基づくものであり、それらの振幅A1,A2は同じとみなせるので、A1=A2=Aとし、三角関数の加法定理に基づいて(3)式の両辺を展開すると、
Bcos(ωt)cos(θ)−Bsin(ωt)sin(θ)
=Acos(ωt){1−cos(Δφ)}+Asin(ωt)sin(Δφ) …(4)
となる。(4)式が任意のωtで成立する条件は次式となる。
【0036】
Bcos(θ)=A{1−cos(Δφ)} …(5)
Bsin(θ)=−Asin(Δφ) …(6)
【0037】
(5)(6)式の両辺を2乗して、加算、整理すると、振幅A,Bは共に0以上であるので、
B=A{2−2cos(Δφ)}1/2 …(7)
となる。この式より、差信号U’の振幅Bは位相差Δφから求められることが分かる。(7)式をΔφについて解くと、
|Δφ|=cos−1(1-κ2/2) …(8)
となる。ここで、信号強度比κ=B/Aを用いた。この式から、差分後の振幅と差分前の振幅とから位相差Δφの絶対値が求められ、(1)式に基づいて距離Rを求めることができることが理解される。
【0038】
図6は、(8)式の関係を表すグラフであり、横軸がκ、縦軸が|Δφ|である。この図に示されるように、|Δφ|はκの取り得る値の範囲(0≦κ≦2)のうち、0からほぼ中程まで直線的に変化する。このことは、(8)式の右辺をマクローリン級数に展開し、例えば、その第2項までで近似すると、
Δφ=κ+κ3/24
であることからも分かる。すなわちκが0から1前後までの範囲ではκの高次の項の寄与が小さく、Δφは右辺第1項の影響を支配的に受けて直線的に変化する。このことから、κの0寄りに、κに適当な係数を乗じた次式で定義されるΔφ’がΔφの好適な近似を与える範囲を設定できることが理解される。
【0039】
Δφ’=ακ …(9)
【0040】
また、この(9)式を(1)式に代入して得られる次式により、Δφ’から距離Rを求めることができる。このように(8)式の真値Δφにより距離Rを求めることもできるが、(9)式の近似値Δφ'を用いることで、簡略的に距離Rを求めることができる。
【0041】
【数3】
【0042】
ここで、係数αは、監視対象とする距離範囲と当該範囲内での許容誤差とに基づいて決定される。例えば、係数αは、設定された監視対象の距離範囲内において近似値Δφ'から求めた距離Rと真値Δφから求めた距離との誤差(すなわち、近似値Δφ'と真値Δφとの誤差)が小さくなるように定められる。図7は、ΔφとΔφ’との比較結果を示すグラフである。この図は、κを0から2まで変化させたときのΔφと、Δφが0°から90°の範囲で誤差を小さくするようにαを設定した場合のΔφ’との関係を示している。係数αは例えば、監視対象とする距離範囲における誤差の絶対値の累積値が最小になるように定めることができる。図において横軸がΔφ、左側の縦軸がΔφ’を表し、実線の曲線60がΔφに対するΔφ’の関係を示している。また、傾き1の点線の直線62は真値(すなわちΔφそのもの)をプロットしたものであり、一点鎖線の曲線64は誤差ε(≡Δφ’−Δφ)を表している。誤差εのスケールは右側の縦軸に表されている。係数αを調整することにより、曲線60が変形し、曲線64の勾配や頂点の位置が変動する。
【0043】
ここで、本装置に設定する監視対象距離範囲(有効測距限界Rt)について考察する。位相差Δφの取り得る範囲は−180°から180°である。なお、位相差の正負は、反射波を生じる移動体が装置に対して接近しているか、装置から遠ざかっているかに応じて決まる。装置の理論的な測距限界Rmaxは|Δφ|が180°のときのR、すなわち(1)式においてΔφ=πとした場合のRにより与えられる。また(1)式から理解されるように、Rmaxは送信波の2種類の周波数f1,f2の周波数差に応じて定まる。例えば、本装置は、マイクロ波の24GHz帯にて5MHzの差を有するf1,f2を使用し、これによりRmaxは15mとなる。
【0044】
装置がRmaxより遠方の移動体からの反射波を受信した場合、位相差Δφが180°を超える。その場合、Δφ=180°を境として折り返しが生じ、計算上、R<Rmaxとなり、擬似的に移動体が測距限界Rmaxより内側に存在することを示す結果が得られる。この問題は、測距限界に余裕を持たせることで或る程度回避可能である。
【0045】
図8は、測距限界Rmaxが15mである場合であって、図7に示す設定、つまり位相差Δφ=0〜90°にて誤差を小さくするようにαを設定した場合における、Δφ’に基づく距離Rと真の距離Rとを対比するグラフである。図において、横軸が(1)式を用いて算出される距離、縦軸が移動体までの実際の距離である。実線の曲線70は、Δφに代えて(9)式のΔφ’を用いて(1)式から算出した距離と実際の距離との関係を示すものである。点線の直線72は、(8)式で与えられるΔφを用いて(1)式から算出した距離と実際の距離との関係を示すものである。
【0046】
本装置では、除算器50にて得られる信号強度比κを距離Rを示す指標として用い、侵入判定部56における判定を行う。上述のように係数αを設定したとき、ΔφとΔφ'との誤差が小さいΔφ=0〜90°を監視範囲として設定する。つまり、有効測距限界RtをRmaxの半分に設定し、誤差が大きくなるRt以上については監視範囲としない。このように構成することで、例えば、信号強度比κを用いた簡単な四則演算による代数関数を用いてΔφを定め、それに基づいて距離Rを判定することができ、回路構成や演算処理が簡単となる。特に本装置で採用するようにκに比例するという関係式でΔφを表すこととした場合、その効果は顕著である。この効果に加えて、Rmax側の領域を使わないように構成することで、上述の折り返しによる誤検出を抑制しやすくなる効果が得られる。
【0047】
なお、Rmaxは送信波の2種類の周波数f1,f2の周波数差に反比例するので、この周波数差(f1−f2)の絶対値を小さくすることにより、Rmaxを遠方まで延ばすことが可能である。ちなみに、発振器がどれだけ精度良く小さな周波数差での信号出力が可能であるか、すなわち、発振器の安定性に依存してRmaxの上限が制限される。
【0048】
例えば、上述のようにΔφ=0〜90°にて誤差を小さくするように設定する場合において、上述のように(f1−f2)を5MHzとする場合、Rmaxが15mであり、有効測距限界Rtは7.5mとなる。ここで、さらに大きな有効測距限界Rtとして例えば10mが必要とされるならば、差(f1−f2)を縮小して測距限界Rmaxを20mに設定すればよい。
【0049】
ちなみに、Δφ=0〜90°に対して例えば、κの1次の項しか含まない(9)式のΔφ’であっても誤差は3°程度内である。これは、Rtを10mとする場合にて、距離に換算すると最大で30cm程度の誤差であり、例えば、侵入者検知に必要な精度での距離判定が可能である。
【0050】
以上、移動体の距離の判定について述べた。次に、本装置における反射断面積に基づく移動物体の識別の原理について説明する。上述したように、反射断面積Sは信号強度比κとドップラ信号の実効値Aeとを用いて、乗算器52,54によりAe・κ2を算出することにより求められる。
【0051】
反射断面積Sは電波をどれだけ多く反射するかの指標であり、人の反射断面積を基準とした相対的な反射断面積はおおよそ、下表に示すものとなることが知られている。
【0052】
【表1】
【0053】
この表は、例えば、自動車は人に比べ100倍程度、強い電力を反射するのに対し、鳥は人の1/100程度しか反射しないことを表している。また、動物の場合は、体の構成物質のほとんどが水分であり、電波に対する反射断面積はセンサから見た反射物体の断面積に比例すると考えられる。このため、人よりも小さい小動物の反射断面積は人よりも小さくなる。そこで、検知を望まない小動物の反射断面積を本装置で予め測定しておき、侵入者監視中に測定された反射断面積と比較することで、小動物の侵入に対しては検知しないようにすることができる。同様に、自動車等の反射断面積とも比較することで、監視範囲に侵入した物体が人か自動車か等の区別も可能である。
【0054】
なお、一般にドップラ信号の振幅は物体が移動しているため、基本的に常に変動している。このため、測定される反射断面積も常時変動し、設定された反射断面積との比較を安定して行うことが難しい。そこで、反射断面積の一定時間に亘る積分値や平均値を移動体の識別等の処理に用いることで、反射断面積の安定した比較判定を行うことができる。
【0055】
次に、本装置の動作を具体的な例を用いつつ説明する。ここでは、Rmax=10mの本装置を壁や柱に設置し、そのマイクロ波センサを中心として5mの範囲を監視範囲とする例を述べる。この場合、有効測距限界Rt=5mの範囲内で距離Rの誤差が最小となるように(9)式のαが定められる。例えば、本装置の侵入判定部56以外の各部20〜54はアナログ回路で構成することができ、侵入判定部56は、除算器50から距離Rに応じた電圧値の出力信号を、また乗算器54から反射断面積Sに応じた電圧値の出力信号を入力される。侵入判定部56は、例えば、A/D変換器及びマイクロプロセッサ等の演算手段を備え、A/D変換器にて、除算器50、乗算器54からの電圧信号をデジタル値に変換し、侵入者検知の判定のための演算処理を行う。
【0056】
本装置は、マイクロ波を一定周期で繰り返して送受信し、反射波に基づいてドップラ信号を抽出する動作を行う一方で、得られたドップラ信号に基づいて、距離R,反射断面積Sを求め、侵入判定を行う動作を行う。
【0057】
図9は、ドップラ信号に基づく侵入判定処理を説明するフロー図である。侵入判定部56は、図9のフローで繰り返される処理の各サイクルにおいて、除算器50の出力電圧値に基づいて、移動体までの距離Rを算出し(S100)、また乗算器54の出力電圧値に基づいて、移動体の反射断面積Sを算出する(S105)。
【0058】
侵入判定部56は、処理S105で得た反射断面積Sが人に対応した値であるか否かを判断する(S110)。例えば、反射断面積Sが所定の範囲内であることにより、検知された移動体が人と判断する。なお、ここで用いる所定の閾値は、予め実験によって、鳥や犬などの小動物と人間、及び自動車などの大型物と人間とを区別できる値に設定される。
【0059】
侵入判定部56は、検知された移動体を人や人よりも大きな物と判断した場合(S110)、処理S100で求めた移動体までの距離Rが監視範囲内であるか否かを判断する(S115)。
【0060】
判断処理S110及びS115での判定が共に真である場合には、人又は人よりも大きな物が監視範囲に存在することになる。侵入判定部56は、誤検出を抑制するために、この状態が所定時間内に所定回数発生した場合に、侵入者が検知されたと判断して異常検知の出力を行う。具体的には、処理S110及びS115の判定が共に真となる関心イベントが起こると、そのときタイマーが起動していなければ(S120)、これを起動する(S125)。また、関心イベントが発生した場合には、カウンタの値を1ずつインクリメントする(S130)。
【0061】
当該処理サイクルにて、そのカウント値が所定数に達さず(S135)、また、タイマーもタイムアップしなかった場合は、カウンタの値を維持し、タイマーの計時を継続しつつ処理S100に戻り、次の処理サイクルを始める。
【0062】
一方、ある処理サイクルにおいて、そのカウント値が所定数に達すると(S135)、監視範囲に検知対象とする何かが存在する可能性が高いため、侵入発生と判断し、異常検知の出力を行う(S140)。これに対して、ある処理サイクルにおいて、タイマーがタイムアップすると(S145)、異常検知の出力は行わずに、カウンタ及びタイマーをリセットして(S150)処理S100に戻り、次の処理サイクルを始める。
【0063】
なお、処理S110,S115にて関心イベントの発生が否定された場合にも、処理S100に戻り、次の処理サイクルが開始される。
【0064】
一例として、人が距離Rが0mの位置から10mの位置へ一直線にほぼ等速で離れる動作をした場合における本装置による距離Rの検知結果を図10に、また反射断面積Sの検知結果を図11に示す。図10の縦軸に表す距離Rの単位はメートル[m]である。また図11の縦軸の反射断面積Sは対数目盛で表され、乗算器54の出力電圧を表しており、単位はボルト[V]である。なお、図10,図11の横軸は共に時間tである。図10に点線で示す水平線は監視範囲である有効測距限界Rt=5mを示しており、処理S115ではこのRt以下に移動体が存在するか否かが判定される。一方、図11にS=0.05Vに点線で示す水平線は、移動体が人とそれより小さい物とを区別するために設定される閾値であり、処理S110での判定にて用いられる。
【0065】
監視対象とされる人は計測開始から5秒より少し前から移動を開始し、それに応じて距離Rがほぼ直線的に増加し始め、また反射断面積Sが設定された閾値以上に増加する。距離Rは、信号強度比κを用いた(9)式に基づいて算出されるため、上述したようにRtを超えると誤差が大きくなり、実際の到達点である10mまでは測定値が達しないが、Rt以下での移動中においては良好な精度で距離Rの測定値が得られる。この例では、時刻t=0から、距離Rが5mに達する時刻t2までの間、処理S115の判定結果は真となる。また、処理S110に関しては、その閾値を超える時刻t1から時刻t3までの間、判定結果は真となる。侵入判定部56は、処理S110と処理S115とが共に真となる時刻t1からt2における各処理サイクルにて、カウンタの値をインクリメントし、それが所定値に達すると侵入発生と判断し、異常検知の出力処理S140を行う。
【0066】
上述したように、本装置によれば、ドップラ信号の位相差Δφを求めるために、FFT等の複雑な演算処理や、逆余弦関数を含む(8)式を直接計算する演算処理、又はその演算結果を予めテーブルとして格納するメモリ等の構成要素が不要である。本装置は簡易な構成のアナログ回路でΔφを求め、距離Rや反射断面積Sの情報を取得する。すなわち、装置構成が簡単となりコストも低減可能であるため、侵入者検知装置の導入が容易となり防犯に貢献し得る。
【0067】
本実施形態では本発明を侵入者検知装置に適用したが、他の用途の装置にも適用することができる。例えば、自動水洗トイレの人体検知、ドアやゲートの自動開閉のための人体や車両の検知、標識や看板、掲示板の自動アナウンスのための人体検知、照明や機器の電源の自動オン/オフ、車上荒し防止のための人体検知、周辺の障害物の検知や認識に応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明に係る移動体検知装置の基本的な構成を示す機能ブロック図である。
【図2】本実施形態に係る侵入者検知装置の回路ブロック図である。
【図3】ミキサ、切替器及びLPFの動作を説明する信号波形の模式図である。
【図4】移動体までの距離Rに応じて位相差が異なるドップラ信号D1,D2の信号波形を示す模式図である。
【図5】図4に示す場合に対応したドップラ信号D1,D2の差信号U’の信号波形を示す模式図である。
【図6】位相差Δφと信号強度比κとの関係を表すグラフである。
【図7】ΔφとΔφ’との比較結果を示すグラフである。
【図8】信号強度比κに比例するΔφ’を用いて算出される距離Rと正しい距離Rとを対比するグラフである。
【図9】ドップラ信号に基づく侵入判定処理を説明するフロー図である。
【図10】距離Rの測定例を示すグラフである。
【図11】反射断面積Sの測定例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0069】
2 送信手段、4 受信手段、6 ドップラ信号抽出手段、8 強度比算出手段、10 距離決定手段、12 反射断面積算出手段、14 移動体判定手段、20 矩形波発生器、22 電圧制御型発振器、24 送信アンテナ、30 受信アンテナ、32 ミキサ、34 切替器、36,38 LPF、40,42 アンプ、44 差分器、46,48 整流器、50 除算器、52,54 乗算器、56 侵入判定部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体を検知する対象領域へ向けて、周波数が互いに異なる2種類の送信波を送出する送信手段と、
前記各送信波に対する反射波を受信する受信手段と、
前記送信波の種類毎に、当該送信波及び前記反射波からドップラ信号を抽出するドップラ信号抽出手段と、
前記各送信波に対応した2種類の前記ドップラ信号を線形的に合成した合成信号を生成し、当該合成信号と当該ドップラ信号との信号強度比を求める強度比算出手段と、
前記反射波を生じる前記移動体までの距離を前記信号強度比の関数として表す所定の関係式を設定され、当該関係式に基づいて前記信号強度比から前記移動体の測定距離を決定する距離決定手段と、
を有することを特徴とする移動体検知装置。
【請求項2】
請求項1に記載の移動体検知装置において、
前記強度比算出手段は、前記合成信号として前記2種類のドップラ信号相互の差信号を生成し、
前記関係式は、前記信号強度比に比例して前記測定距離を定めるものであること、
を特徴とする移動体検知装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の移動体検知装置において、
前記関係式に応じた前記距離の前記移動体までの実際の距離に対する誤差が所定の許容限度以下であることに基づいて有効測距限界を設定され、前記測定距離が当該有効測距限界以下である場合に、前記移動体の検出判定を行う移動体判定手段を有すること、
を特徴とする移動体検知装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の移動体検知装置において、
前記測定距離に基づき、前記ドップラ信号の信号強度の減衰を補正して、前記移動体の前記送信波に対する反射断面積を求める反射断面積算出手段を有し、
前記移動体判定手段は、検知目的の移動体に応じた所定断面積範囲を設定され、前記測定距離が前記有効測距限界以下であることに加えて、前記反射断面積が当該断面積範囲内である場合に、前記移動体の検出判定を行うこと、
を特徴とする移動体検知装置。
【請求項1】
移動体を検知する対象領域へ向けて、周波数が互いに異なる2種類の送信波を送出する送信手段と、
前記各送信波に対する反射波を受信する受信手段と、
前記送信波の種類毎に、当該送信波及び前記反射波からドップラ信号を抽出するドップラ信号抽出手段と、
前記各送信波に対応した2種類の前記ドップラ信号を線形的に合成した合成信号を生成し、当該合成信号と当該ドップラ信号との信号強度比を求める強度比算出手段と、
前記反射波を生じる前記移動体までの距離を前記信号強度比の関数として表す所定の関係式を設定され、当該関係式に基づいて前記信号強度比から前記移動体の測定距離を決定する距離決定手段と、
を有することを特徴とする移動体検知装置。
【請求項2】
請求項1に記載の移動体検知装置において、
前記強度比算出手段は、前記合成信号として前記2種類のドップラ信号相互の差信号を生成し、
前記関係式は、前記信号強度比に比例して前記測定距離を定めるものであること、
を特徴とする移動体検知装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の移動体検知装置において、
前記関係式に応じた前記距離の前記移動体までの実際の距離に対する誤差が所定の許容限度以下であることに基づいて有効測距限界を設定され、前記測定距離が当該有効測距限界以下である場合に、前記移動体の検出判定を行う移動体判定手段を有すること、
を特徴とする移動体検知装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の移動体検知装置において、
前記測定距離に基づき、前記ドップラ信号の信号強度の減衰を補正して、前記移動体の前記送信波に対する反射断面積を求める反射断面積算出手段を有し、
前記移動体判定手段は、検知目的の移動体に応じた所定断面積範囲を設定され、前記測定距離が前記有効測距限界以下であることに加えて、前記反射断面積が当該断面積範囲内である場合に、前記移動体の検出判定を行うこと、
を特徴とする移動体検知装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−98099(P2006−98099A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−281671(P2004−281671)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000108085)セコム株式会社 (596)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000108085)セコム株式会社 (596)
【Fターム(参考)】
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