説明

移動体無線通信システム

【課題】 移動体と地上システム間の無線通信において、回路規模の増大、装置の大型化、および高価格化を招くことなく、ドップラーシフトの影響を排除して安定した品質の無線回線を提供する。
【解決手段】 親局21のレーダ波により列車25のドップラーシフト周波数を測定し、測定結果に基いて親局21の周波数可変発振器を制御することで、親局21はあらかじめドップラーシフトを補正した送信波を子局23へ送信し、子局23からの受信波のドップラーシフトを補正する。また、測定結果の情報をドップラーシフトの影響が少ない周波数のAM変調にて親局21から子局23へ伝送することで、子局23において受信波および送信波のドップラーシフトを補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親局と移動体に搭載された子局との間で無線通信を行う移動体無線通信システムに関し、特に、鉄道の駅等に設置された親局と列車に搭載された子局との間で無線通信を行う列車無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
図11は、鉄道の駅周辺において列車運行の安全確保に用いられている自動列車停止(Automatic Train Stop:ATS)システムの例を示している。図12は、図11の破線で示された(A)の周辺を上から見た平面図である。
【0003】
このATSシステムでは、レール11上の必要箇所に地上子16が設置され、情報伝送装置14とケーブル15で接続される。地上子16は、停止信号機13の信号種別や距離情報等のデジタル情報を、列車12に設置されている車上子17に伝送し、車上子17は、地上子16から受信した情報を情報伝送装置18を介して運転台装置19に転送する。
【0004】
一方、最近、通過列車や停止列車の車上システムと地上システムの間で行うデータ通信の内容に、列車番号情報や運転者識別子等の各種データを加えて、より高度な各種制御を行うニーズが高まっている。
【0005】
通過列車に対する各種データの送受信を安価に行う方法として、地上システムと車上システムに無線送受信装置を用いることが考えられるが、デジタル移動体通信においては、送信局と受信局の相対速度によってドップラーシフトが発生し、受信信号を正しく復調することが困難となり、ビット誤り率(BER)が劣化することは広く知られている。
【0006】
ドップラーシフトを補正する方法として、例えば、下記特許文献1のように、全地球測位システム(Global Positioning System :GPS)を利用して移動局の緯度、経度、および移動速度を測定し、あらかじめ測定された基地局との相対位置からドップラーシフトを計算し、その計算結果より送信装置のローカル周波数を微調整するシステムが知られている。
【0007】
また、下記特許文献2のように、速度検出器を用いて移動体の速度を検出し、ドップラーシフトを補正する方法や、下記特許文献3のように、人工衛星を利用した移動体通信におけるドップラーシフトを補正する方法も知られている。
【0008】
その他、車両の位置検出装置として、近年、ミリ波帯を用いた安価で高性能な周波数変調連続波(Frequency Modulated-Continuous Wave :FM−CW)方式の車載レーダが一般の乗用車に搭載されおり、前方車両との相対距離と相対速度を計測し、前方車両と衝突した場合の被害を軽減する安全技術として用いられている。
【特許文献1】特開2003−309517号公報
【特許文献2】特開平05−022183号公報
【特許文献3】特表2001−509324号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した従来の列車無線通信システムには、次のような問題がある。
ATSシステムは、列車への位置通知とデータ通信を行うことにより、列車が停止信号機の指示速度を超えて信号位置に入ろうとした場合、乗務員に警報を発したり、列車を自動で停止させる保安システムである。しかし、既設の線路に新たにATSシステムを導入する場合、図11および図12に示すように、地上子を設置するために信号線や電源線のケーブルをレールの下に潜らせる敷設工事が必要になり、莫大な工事費用が掛かる等、経済的な問題が発生する。
【0010】
この工事費用の問題を解決する方法として、地上システムに安価で高性能なレーダ装置と無線送受信装置を設け、車上システムに無線送受信装置を設けて、ATSシステムを構築する方法が考えられる。しかし、マイクロ波帯やミリ波帯の無線送受信装置を用いて高速で移動する列車と地上システム間の通信を行う場合、受信する電波に列車の速度に応じたドップラーシフトが発生し、BERが劣化する。
【0011】
上記特許文献1では、ドップラーシフト補正のためにGPSを用いているが、駅構造物による遮蔽や天候の状況により、GPS衛星からの電波の受信が困難な場合や、地下鉄等ではこの方法を適用することができない。
【0012】
本発明の課題は、高速で移動する列車のような移動体と地上システム間の無線通信において、無線送受信装置の回路規模の増大、大型化、および高価格化を招くことなく、ドップラーシフトの影響を排除して安定した品質の無線回線を提供することである。
【0013】
本発明のもう1つの課題は、ATSシステムのような列車運行管理システムを安価に構築することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
図1は、本発明の第1〜第3の局面における移動体無線通信システムの原理図である。
本発明の第1の局面において、無線通信装置は、測定手段101、制御手段102、周波数可変発振手段103、変調手段104、および送信手段105を備え、移動体111に設置された移動無線通信装置112に対してデータを送信する。
【0015】
測定手段101は、レーダ波を送信し、移動体111により反射されたレーダ波を受信して、ドップラーシフト周波数を測定する。制御手段102は、測定された周波数に基いて、ドップラーシフトを補正するための制御信号を出力し、周波数可変発振手段103は、その制御信号に応じた周波数のローカル信号を出力する。変調手段104は、送信データのベースバンド信号から変調波を生成する。送信手段105は、ローカル信号を用いて変調波の周波数変換を行い、ドップラーシフトが補正された周波数の電波を移動無線通信装置112に対して送信する。
【0016】
このような無線通信装置によれば、ドップラーシフトによる周波数ずれをあらかじめ補正した送信波が、移動無線通信装置112に対して送信される。補正されたドップラーシフト分は電波伝搬路のドップラーシフトにより相殺されるため、移動無線通信装置112はドップラーシフトの影響を排除した電波を受信することができる。
【0017】
測定手段101および制御手段102は、例えば、後述する図3のレーダ装置31および周波数制御回路309にそれぞれ対応し、周波数可変発振手段103は、例えば、送信部高周波帯電圧制御発振器(VCO)306または送信部中間周波数帯VCO308に対応する。変調手段104は、例えば、変調回路310に対応し、送信手段105は、例えば、送信部高周波帯周波数変換器305または送信部中間周波数帯周波数変換器307、高周波帯送信増幅回路304、および送信アンテナ303に対応する。
【0018】
本発明の第2の局面において、無線通信装置は、測定手段101、制御手段102、周波数可変発振手段103、受信手段106、および復調手段107を備え、移動体111に設置された移動無線通信装置112からデータを受信する。
【0019】
測定手段101は、レーダ波を送信し、移動体111により反射されたレーダ波を受信して、ドップラーシフト周波数を測定する。制御手段102は、測定された周波数に基いて、ドップラーシフトを補正するための制御信号を出力し、周波数可変発振手段103は、その制御信号に応じた周波数のローカル信号を出力する。受信手段106は、移動無線通信装置112から電波を受信し、ローカル信号を用いて受信波の周波数変換を行い、ドップラーシフトが補正された受信波の変調成分を抽出する。復調手段107は、受信波の変調成分から受信データのベースバンド信号を生成する。
【0020】
このような無線通信装置によれば、移動無線通信装置112からドップラーシフトの影響を受けた電波を受信したとき、その受信波の周波数ずれを補正することができる。
測定手段101および制御手段102は、例えば、後述する図4のレーダ装置41および周波数制御回路409にそれぞれ対応し、周波数可変発振手段103は、例えば、受信部高周波帯VCO406または受信部中間周波数帯VCO408に対応する。受信手段106は、例えば、受信部高周波帯周波数変換器405または受信部中間周波数帯周波数変換器407、高周波帯受信増幅回路404、および受信アンテナ403に対応し、復調手段107は、例えば、復調回路410に対応する。
【0021】
本発明の第3の局面において、無線通信装置は、測定手段101、制御手段102、周波数可変発振手段103、変調手段104、送信手段105、受信手段106、および復調手段107を備え、移動体111に設置された移動無線通信装置112との間で、周波数変調連続波を用いたパッシブ方式によりデータを送受信する。
【0022】
測定手段101は、レーダ波を送信し、移動体111により反射されたレーダ波を受信して、ドップラーシフト周波数と、レーダ波を送信してから反射されたレーダ波を受信するまでの時間を測定する。制御手段102は、測定された周波数および時間に基いて、ドップラーシフトを補正するための周波数変調連続波カーブを示す制御信号を出力し、周波数可変発振手段103は、その制御信号に応じて変化する周波数のローカル信号を出力する。
【0023】
変調手段104は、送信データのベースバンド信号から変調波を生成する。送信手段105は、ローカル信号を用いて変調波の周波数変換を行い、ドップラーシフトが補正された周波数の電波を移動無線通信装置112に対して送信する。
【0024】
受信手段106は、移動無線通信装置112からパッシブ方式により送信された電波を受信し、上記ローカル信号を用いて受信波の周波数変換を行い、ドップラーシフトが補正された受信波の変調成分を抽出する。復調手段107は、受信波の変調成分から受信データのベースバンド信号を生成する。
【0025】
このような無線通信装置によれば、ドップラーシフトによる周波数ずれをあらかじめ補正した送信波が移動無線通信装置112に対して送信され、移動無線通信装置112はドップラーシフトの影響を排除した電波を受信することができる。さらに、移動無線通信装置112からドップラーシフトの影響を受けた電波を受信したとき、その受信波の周波数ずれを補正することができる。
【0026】
測定手段101、制御手段102、周波数可変発振手段103、変調手段104、および復調手段107は、例えば、後述する図5のレーダ装置51、周波数制御回路510、送受共用高周波帯VCO506、変調回路512、および復調回路513にそれぞれ対応する。送信手段105は、例えば、高周波帯送信増幅回路504および送信アンテナ503に対応し、受信手段106は、例えば、受信部高周波帯周波数変換器507、高周波帯受信増幅回路508、および受信アンテナ509に対応する。
【0027】
本発明の第4の局面において、無線通信装置は、測定手段、生成手段、送信用発振手段、変調手段、および送信手段を備え、移動体に設置された移動無線通信装置に対してデータを送信する。
【0028】
測定手段は、レーダ波を送信し、移動体により反射されたレーダ波を受信して、ドップラーシフト周波数を測定する。生成手段は、測定された周波数の情報を含む低速伝送通信パケットと、送信データを含む高速伝送通信パケットを生成する。送信用発振手段は、送信用ローカル信号を出力する。変調手段は、低速伝送通信パケットに対して搬送波より低い周波数で振幅変調を行って変調波を生成し、高速伝送通信パケットに対して多値変調を行って変調波を生成する。送信手段は、送信用ローカル信号を用いて、生成された変調波の周波数変換を行い、変換された周波数の電波を移動無線通信装置に対して送信する。
【0029】
また、移動無線通信装置は、受信手段、復調手段、制御手段、受信用周波数可変発振手段、および受信用変換手段を備え、他の無線通信装置からデータを受信する。
受信手段は、移動体のドップラーシフト周波数の情報を含む低速伝送通信パケットに対して搬送波より低い周波数で振幅変調を行って生成された電波と、送信データを含む高速伝送通信パケットに対して多値変調を行って生成された電波を、他の無線通信装置から受信する。復調手段は、低速伝送通信パケットの受信波から包絡線検波により低速伝送通信パケットのベースバンド信号を生成し、高速伝送通信パケットの受信波の変調成分から高速伝送通信パケットのベースバンド信号を生成する。
【0030】
制御手段は、低速伝送通信パケットのベースバンド信号からドップラーシフト周波数の情報を抽出し、抽出された周波数に基いて、ドップラーシフトを補正するための受信用制御信号を出力する。受信用周波数可変発振手段は、受信用制御信号に応じた周波数の受信用ローカル信号を出力する。受信用変換手段は、受信用ローカル信号を用いて高速伝送通信パケットの受信波の周波数変換を行い、ドップラーシフトが補正された受信波の変調成分を抽出して復調手段に出力する。
【0031】
このような移動体無線通信システムによれば、最初に、無線通信装置から移動無線通信装置へ、ドップラーシフトの影響が少ない振幅変調にてドップラーシフト周波数の情報が送信され、移動無線通信装置はその情報を用いて受信波の周波数ずれを補正することが可能な状態になる。次に、無線通信装置から移動無線通信装置へ、ドップラーシフトの影響を受けた多値変調による送信データが送信され、移動無線通信装置は受信波の周波数ずれを補正することで、ドップラーシフトの影響を排除した電波を受信することができる。
【0032】
測定手段は、例えば、後述する図8のレーダ装置81または図10のレーダ装置1001に対応する。生成手段、変調手段、復調手段、および制御手段は、例えば、データパケット生成回路809または1019、変調回路810または1020、復調回路819または1035、および周波数制御回路818または1042にそれぞれ対応する。
【0033】
送信用発振手段は、例えば、図8の送信部高周波帯発振器806または送信部中間周波数帯発振器808、あるいは、図10の送信部高周波帯発振器1016または送信部中間周波数帯発振器1018に対応する。送信手段は、例えば、図8の送信部高周波帯周波数変換器805または送信部中間周波数帯周波数変換器807、高周波帯送信増幅回路804、および送信アンテナ803、あるいは、図10の送信部高周波帯周波数変換器1015または送信部中間周波数帯周波数変換器1017、高周波帯送信増幅回路1014、および送信アンテナ1013に対応する。
【0034】
受信手段は、例えば、図8の受信アンテナ812および高周波帯受信増幅回路813、あるいは、図10の受信アンテナ1029および高周波帯受信増幅回路1030に対応する。受信用周波数可変発振手段は、例えば、図8の受信部高周波帯VCO815または受信部中間周波数帯VCO817、あるいは、図10の受信部高周波帯VCO1032または受信部中間周波数帯VCO1034に対応する。
【0035】
受信用変換手段は、例えば、図8の受信部高周波帯周波数変換器814または受信部中間周波数帯周波数変換器816、あるいは、図10の受信部高周波帯周波数変換器1031または受信部中間周波数帯周波数変換器1033に対応する。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、地上に設置された親局無線通信装置と列車のような移動体に設置された子局無線通信装置の間でデータの送受信を行う移動体無線通信システムにおいて、親局のレーダ波により移動体のドップラーシフト周波数を測定することで、ドップラーシフトによる周波数ずれをあらかじめ補正した送信波を親局から子局へ送信したり、親局において子局からの受信波の周波数ずれを補正したりすることが可能になる。また、測定されたドップラーシフト周波数の情報を親局から子局へ送信し、子局において親局からの受信波の周波数ずれを補正することも可能になる。
【0037】
これにより、親局と子局の間でドップラーシフトの影響を排除した無線通信が実現され、移動体の速度に応じて発生するドップラーシフトが引き起こすBERの劣化が改善される。また、GPSを用いたシステムのように衛星からの電波を受信しなくても、ドップラーシフトの補正を行えるため、実用に適した列車無線通信システムを構築することができる。
【0038】
さらに、ドップラーシフトの影響を低減させるための回路の大部分を、デジタル信号処理と安価で容易な構成の変調回路および復調回路で実現できるので、無線通信装置の小型化および低価格化が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。
図2は、列車無線通信システムの概念図である。図2において、地上システムは親局21および親局制御装置22からなり、列車25に搭載された車上システムは、子局23および子局制御装置24からなる。VおよびLは、親局21と子局23の相対速度および相対距離をそれぞれ表す。また、F1は、親局21に備えられた無線送信装置の送信周波数、F2は、子局23に備えられた無線送信装置の送信周波数、F3は、親局21に備えられたレーダ装置の送信周波数を表す。
【0040】
以下に説明する第1〜第5の列車無線通信システムでは、親局21のレーダ装置にて測定されたドップラー周波数情報を利用してドップラーシフト分を算出し、その結果をもとに親局21と子局23の間の通信に用いる無線周波数を補正する。
【0041】
第1の列車無線通信システムでは、親局21から子局23への単方向通信において、親局21は、レーダ装置にて測定されたドップラー周波数情報に基づいて送信部高周波帯VCOまたは送信部中間周波数帯VCOを制御し、ドップラーシフトにより発生する周波数のずれをあらかじめ補正した送信波を出力する。補正されたドップラーシフト分が電波伝搬路のドップラーシフトにより相殺され、子局23は、正しい周波数の受信波を受け取る。
【0042】
図3は、このような第1の列車無線通信システムにおける親局21および子局23の構成例を示している。図3のシステムは、親局21に設置されたレーダ装置31および親局無線送信装置32と、子局23に設置された子局無線受信装置33からなる。
【0043】
レーダ装置31は、レーダ用アンテナ301およびドップラー周波数測定回路302を備える。親局無線送信装置32は、送信アンテナ303、高周波帯送信増幅回路304、送信部高周波帯周波数変換器305、送信部高周波帯VCO306、送信部中間周波数帯周波数変換器307、送信部中間周波数帯VCO308、周波数制御回路309、変調回路310、およびベースバンド処理回路311を備える。
【0044】
子局無線受信装置33は、受信アンテナ312、高周波帯受信増幅回路313、周波数変換器314、受信用発振器315、復調回路316、およびベースバンド処理回路317を備える。
【0045】
次に、図3の列車無線通信システムの動作について説明する。図2を参照すると、地上に設置された親局21に向かって列車25に設置された子局23が速度Vで接近しているため、親局無線送信装置32の送信周波数F1の電波は、ドップラー効果による影響を受けてドップラーシフトΔF1を伴い、F1+ΔF1となって子局23に到達する。このとき、周波数F1の電波の波長をλ1とすると、ΔF1=V/λ1となる。
【0046】
また、レーダ装置31からの送信周波数F3の電波は、ドップラー効果による影響を受けてドップラーシフトΔF3を伴い、F3+ΔF3となって子局23に到達し、列車25により反射されて、さらにドップラーシフトΔF3を伴って親局21に到達する。このため、レーダ装置31が受信する反射波の周波数は、F3+2×ΔF3となる。このとき、周波数F3の電波の波長をλ3とすると、ΔF3=V/λ3となる。
【0047】
このように、レーダ用アンテナ301は、周波数F3の電波を出力し、列車25からの周波数F3+2×ΔF3の反射波を受信する。ドップラー周波数測定回路302は、時々刻々と変化するドップラーシフト分ΔF3を抽出し、子局23を搭載した列車25の相対速度Vを逐次算出する。このとき、レーダ装置31により観測されるドップラーシフト分をΔFrd(=2×ΔF3)とすると、相対速度Vは次式により算出される。

V=λ3×ΔFrd/2 (1)

ドップラー周波数測定回路302は、さらに、相対速度Vを用いて親局無線送信装置32の送信波F1のドップラーシフト分ΔF1(=V/λ1)を逐次計算し、その計算結果を周波数制御回路309に出力する。
【0048】
周波数制御回路309は、送信波F1のドップラーシフト分ΔF1が補正されるような制御電圧補正値ΔVF1を生成し、送信部高周波帯VCO306に対して制御電圧VLO1−ΔVF1を出力するか、または送信部中間周波数帯VCO308に対して制御電圧VLO2−ΔVF1を出力する。
【0049】
送信部高周波帯VCO306に対して制御電圧VLO1−ΔVF1を出力する場合は、送信部中間周波数帯VCO308に対して制御電圧VLO2を出力し、送信部中間周波数帯VCO308に対して制御電圧VLO2−ΔVF1を出力する場合は、送信部高周波帯VCO306に対して制御電圧VLO1を出力する。
【0050】
制御電圧VLO1−ΔVF1が送信部高周波帯VCO306に出力された場合は、送信部高周波帯VCO306は周波数FLO1−ΔF1の信号を出力し、送信部中間周波数帯VCO308は周波数FLO2の信号を出力する。また、制御電圧VLO2−ΔVF1が送信部中間周波数帯VCO308に出力された場合は、送信部高周波帯VCO306は周波数FLO1の信号を出力し、送信部中間周波数帯VCO308は周波数FLO2−ΔF1の信号を出力する。
【0051】
ベースバンド処理回路311は、親局制御装置22から送信データを受け取り、送信ベースバンド信号を生成して変調回路310に出力し、変調回路310は、送信ベースバンド信号から送信データの変調波を生成して送信部中間周波数帯周波数変換器307に出力する。
【0052】
送信部中間周波数帯周波数変換器307は、送信部中間周波数帯VCO308の出力FLO2(またはFLO2−ΔF1)をローカル信号として、変調波を中間周波数FIF(またはFIF−ΔF1)に変換する。送信部高周波帯周波数変換器305は、送信部高周波帯VCO306の出力FLO1−ΔF1(またはFLO1)をローカル信号として、中間周波数FIF(またはFIF−ΔF1)の出力をドップラーシフト分ΔF1が補正された送信周波数F1−ΔF1に変換する。
【0053】
高周波帯送信増幅回路304は、周波数F1−ΔF1の送信波を増幅し、送信アンテナ303は、増幅された送信波を子局無線受信装置33に対して送信する。
親局無線送信装置32からの送信波F1−ΔF1は、電波伝搬路にてドップラーシフトの影響を受けることによりドップラーシフト分ΔF1が相殺される。したがって、子局無線受信装置33の受信アンテナ312には、周波数F1の受信波が入力される。受信波F1は、高周波帯受信増幅回路313により増幅され、周波数変換器314に出力される。
【0054】
周波数変換器314は、受信用発振器315の出力をローカル信号として、高周波帯受信増幅回路313の出力を周波数変換する。復調回路316は、周波数変換された受信信号からドップラーシフト分ΔF1が補正された受信ベースバンド信号を抽出し、ベースバンド処理回路317に出力する。ベースバンド処理回路317は、受信ベースバンド信号から受信データを抽出して子局制御装置24に転送する。
【0055】
すなわち、子局無線受信装置33は、ドップラーシフト分ΔF1が補正された電波を受信することで、ドップラーシフトΔF1による信号劣化が少ない受信ベースバンド信号を抽出して、BERの劣化が起きることなくデータを復調することができる。
【0056】
以上説明したように、図3の列車無線通信システムによれば、親局21から子局23への単方向通信において、レーダ装置31の送受信波のドップラーシフト分ΔFrdから送信波F1のドップラーシフト分ΔF1を逐次算出することで、ドップラーシフト分ΔF1の補正をリアルタイムかつ容易に行えるので、安定した通信品質を確保できる。
【0057】
また、親局21においては、ドップラーシフト分ΔF1を算出し、補正するための回路のほとんどがデジタル信号処理で実現可能であり、子局23においては、送信波F1のドップラーシフト分を補正する特別な回路を必要としない。
【0058】
次に、第2の列車無線通信システムについて説明する。第2の列車無線通信システムでは、子局23から親局21への単方向通信において、親局21は、レーダ装置にて測定されたドップラー周波数情報に基づいて受信高周波帯VCOまたは受信中間周波数帯VCOを制御し、受信波のドップラーシフトによる周波数ずれを補正する。
【0059】
図4は、このような列車無線通信システムにおける親局21および子局23の構成例を示している。図4のシステムは、親局21に設置されたレーダ装置41および親局無線受信装置42と、子局23に設置された子局無線送信装置43からなる。
【0060】
レーダ装置41は、レーダ用アンテナ401およびドップラー周波数測定回路402を備える。親局無線受信装置42は、受信アンテナ403、高周波帯受信増幅回路404、受信部高周波帯周波数変換器405、受信部高周波帯VCO406、受信部中間周波数帯周波数変換器407、受信部中間周波数帯VCO408、周波数制御回路409、復調回路410、およびベースバンド処理回路411を備える。
【0061】
子局無線送信装置43は、送信アンテナ412、高周波帯送信増幅回路413、周波数変換器414、送信用発振器415、変調回路416、およびベースバンド処理回路417を備える。
【0062】
次に、図4の列車無線通信システムの動作について説明する。このシステムでは、親局無線受信装置42において、受信部高周波帯VCO406または受信部中間周波数帯VCO408の出力である受信ローカル信号を制御して、子局無線送信装置43からの周波数F2の送信波のドップラーシフト分ΔF2を補正する。
【0063】
子局無線送信装置43のベースバンド処理回路417は、子局制御装置24から送信データを受け取り、送信ベースバンド信号を生成して変調回路416に出力し、変調回路416は、送信ベースバンド信号から送信データの変調波を生成して周波数変換器414に出力する。
【0064】
周波数変換器414は、送信用発振器415からの周波数F2の出力をローカル信号として、送信データの変調波を高周波帯の信号に変換し、高周波帯送信増幅回路413は、周波数F2の送信波を増幅し、送信アンテナ412は、増幅された送信波を親局無線受信装置42に対して送信する。
【0065】
レーダ装置41は、図3のレーダ装置31と同様に、周波数F3の電波を出力し、ドップラーシフト分ΔFrd(=2×ΔF3)から子局23の相対速度Vを逐次算出する。そして、相対速度Vを用いて子局無線送信装置43の送信波F2のドップラーシフト分ΔF2を逐次計算し、その計算結果を周波数制御回路409に出力する。
【0066】
周波数制御回路409は、送信波F2のドップラーシフト分ΔF2が補正されるような制御電圧補正値ΔVF2を生成し、受信部高周波帯VCO406に対して制御電圧VLO1−ΔVF2を出力するか、または受信部中間周波数帯VCO408に対して制御電圧VLO2−ΔVF2を出力する。
【0067】
受信部高周波帯VCO406に対して制御電圧VLO1−ΔVF2を出力する場合は、受信部中間周波数帯VCO408に対して制御電圧VLO2を出力し、受信部中間周波数帯VCO408に対して制御電圧VLO2−ΔVF2を出力する場合は、受信部高周波帯VCO406に対して制御電圧VLO1を出力する。
【0068】
制御電圧VLO1−ΔVF2が受信部高周波帯VCO406に出力された場合は、受信部高周波帯VCO406は周波数FLO1−ΔF2の信号を出力し、受信部中間周波数帯VCO408は周波数FLO2の信号を出力する。また、制御電圧VLO2−ΔVF2が受信部中間周波数帯VCO408に出力された場合は、受信部高周波帯VCO406は周波数FLO1の信号を出力し、受信部中間周波数帯VCO408は周波数FLO2−ΔF2の信号を出力する。
【0069】
子局無線送信装置43からの送信波F2は、電波伝搬路にてドップラーシフトの影響を受けるため、受信アンテナ403には周波数F2+ΔF2の受信波が入力される。受信波F2+ΔF2は、高周波帯受信増幅回路404により増幅され、受信部高周波帯周波数変換器405に出力される。
【0070】
受信部高周波帯周波数変換器405は、受信部高周波帯VCO406の出力FLO1−ΔF2(またはFLO1)をローカル信号として、高周波帯受信増幅回路404からの出力を中間周波数FIF(またはFIF+ΔF2)に変換する。受信部中間周波数帯周波数変換器407は、受信部中間周波数帯VCO408の出力FLO2(またはFLO2−ΔF2)をローカル信号として、中間周波数FIF(またはFIF+ΔF2)の出力を周波数変換し、ドップラーシフト分ΔF2が補正された周波数F2の受信波の変調成分を抽出する。
【0071】
復調回路410は、受信波の変調成分から受信ベースバンド信号を抽出し、ベースバンド処理回路411に出力する。ベースバンド処理回路411は、受信ベースバンド信号から受信データを抽出して親局制御装置22に転送する。
【0072】
すなわち、親局無線受信装置42は、周波数制御回路409により受信部高周波帯VCO406または受信部中間周波数帯VCO408を制御することで、ドップラーシフト分ΔF2を補正するようなローカル信号を生成することができる。このローカル信号を用いて、ドップラーシフトの影響を受けた受信波F2+ΔF2のドップラーシフト分ΔF2を除去することで、ドップラーシフトΔF2による信号劣化が少ない受信ベースバンド信号を抽出して、BERの劣化が起きることなくデータを復調することができる。
【0073】
以上説明したように、図4の列車無線通信システムによれば、子局23から親局21への単方向通信において、レーダ装置41の送受信波のドップラーシフト分ΔFrdから子局23の送信波(すなわち、親局21の受信波)のドップラーシフト分ΔF2を逐次算出することで、親局21の受信波のドップラーシフト分ΔF2の補正をリアルタイムかつ容易に行えるので、安定した通信品質を確保できる。
【0074】
また、親局21においては、ドップラーシフト分ΔF2を算出し、補正するための回路のほとんどがデジタル信号処理で実現可能であり、子局23においては、送信波F2のドップラーシフト分を補正する特別な回路を必要としない。
【0075】
次に、第3の列車無線通信システムについて説明する。第3の列車無線通信システムでは、親局21と子局23の間でパッシブ方式を用いた半二重双方向通信を行う。親局21は、レーダ装置にて測定されたドップラー周波数情報に基いて送受共用VCOを制御して、ドップラーシフトにより発生する周波数ずれをあらかじめ補正した送信波を出力するとともに、受信波のドップラー周波数による周波数ずれを補正する。
【0076】
図5は、このような列車無線通信システムにおける親局21および子局23の構成例を示している。図5のシステムは、親局21に設置されたレーダ装置51および親局無線送受信装置52と、子局23に設置された子局無線送受信装置53からなる。
【0077】
レーダ装置51は、レーダ用アンテナ501およびドップラー周波数・相対距離測定回路502を備える。親局無線送受信装置52は、送信アンテナ503、高周波帯送信増幅回路504、送受共用高周波帯VCO506、受信部高周波帯周波数変換器507、高周波帯受信増幅回路508、受信アンテナ509、周波数制御回路510、メモリ511、変調回路512、復調回路513、およびベースバンド処理回路514を備える。
【0078】
子局無線送受信装置53は、受信アンテナ515、高周波帯受信増幅回路516、信号分配器517、高周波帯送信増幅回路519、送信アンテナ520、復調回路521、変調回路522、およびベースバンド処理回路523を備える。
【0079】
図6は、図5の列車無線通信システムにおける周波数の変化を示すグラフである。図6において、破線531は、親局無線送受信装置52の送受共用高周波帯VCO506が出力する信号(送信波の周波数F1)の周波数変化を表し、実線532は、親局無線送受信装置52が受信する電波の周波数変化を表し、一点鎖線533は、子局無線送受信装置53が受信する電波の周波数変化を表す。
【0080】
t1は、親局21と子局23の相対距離による電波伝搬遅延時間を表し、t3は、親局21と子局23の相対距離による往復の電波伝搬遅延時間を表す。t2は、親局21から子局23へのパケット送信の時間を表し、t4は、子局23から親局21へのパケット送信の時間を表す。ΔF1は、子局23がパケットを受信する際に生じるドップラーシフトであり、2×ΔF1は、親局21がパケットを受信する際に生じるドップラーシフトである。
【0081】
時間t2における親局無線送受信装置52から子局無線送受信装置53へのパケット送信において、親局無線送受信装置52の変調回路512は、振幅変調(AM変調)信号を生成し、高周波送信増幅回路504の駆動電圧をON/OFFする。これにより、親局無線送受信装置52から高周波帯のAM変調波が出力され、子局無線送受信装置53の復調回路521は、包絡線検波方式を用いてパケットの抽出を行う。
【0082】
なお、子局無線送受信装置53が親局無線送受信装置52からパケットを受信する際、搬送波にドップラーシフトΔF1が生じるが、搬送波より遥かに低い周波数帯でAM変調を行い、包絡線検波方式を用いて復調を行うため、搬送波帯でドップラーシフトΔF1が生じても、受信ベースバンド帯ではドップラーシフト量は微少となる。したがって、信号劣化が少ない受信ベースバンド信号を抽出して、BERの劣化が起きることなくデータを復調することができる。
【0083】
一方、時間t4における子局無線送受信装置53から親局無線送受信装置52へのパケット送信において、レーダ装置51により測定されるドップラー周波数および相対距離Lをもとに、周波数制御回路510およびメモリ511を用いて送受共用高周波帯VCO506を制御することで、親局無線送受信装置52からドップラーシフト分2×ΔF1をあらかじめ補正したFM−CWの送信波が出力される。
【0084】
子局無線送受信装置53は、受信したFM−CW信号をパッシブ方式により折り返し、高周波帯送信増幅回路519にローカル信号として供給し、変調回路522は、FSK(Frequency shift keying)/AM変調信号を生成して、高周波送信増幅回路519の駆動電圧をFSKの周波数に合わせてON/OFFする。これにより、子局無線送受信装置53から高周波帯のFSK/AM変調波が出力される。
【0085】
親局無線送受信装置52の受信部高周波帯周波数変換器507は、ホモダイン方式による検波を行う際、ドップラーシフト分2×ΔF1を補正するように制御された送受共用高周波帯VCO507が出力するFM−CW信号を、ローカル信号として用いる。したがって、信号劣化が少ない受信ベースバンド信号を抽出して、BERの劣化が起きることなくデータを復調することができる。
【0086】
ところで、親局無線送受信装置52のメモリ511には、例えば、図7に示すように、相対距離Lの軸と相対速度Vの軸が取られたマトリクス構造の領域が用意され、それぞれの数値の組に対応するFM−CWカーブのデータが格納されている。このFM−CWカーブは、デジタル−アナログ変換可能なデジタルデータであり、その傾きkは相対速度Vおよび相対距離Lをパラメータとして、次式によりあらかじめ計算される。

k=(V×C)/(L×λ) (2)

ここで、Cは光速を表し、λは親局無線送受信装置52の送信波の波長を表す。
【0087】
時間t4においては、親局無線送受信装置52のドップラー周波数・相対距離測定回路502が、時々刻々と変化する子局23の相対速度Vおよび相対距離Lを逐次算出して、周波数制御回路510に出力する。周波数制御回路510は、受け取った相対速度Vおよび相対距離Lの組に対応するFM−CWカーブをメモリ511から読み出して、制御電圧に変換し、送受共用高周波帯VCO506に出力する。これにより、送受共用高周波帯VCO506の周波数変化531と親局無線送受信装置52の受信波の周波数変化532を一致させることが可能になる。
【0088】
次に、図5の列車無線通信システムの動作について説明する。このシステムでは、親局無線送受信装置52から子局無線送受信装置53に向けてパケット送信を行う場合、ベースバンド処理回路514は、親局制御装置22から送信データを受け取り、送信ベースバンド信号を生成して変調回路512に出力し、変調回路512は、送信ベースバンド信号から送信データのAM変調信号を生成して高周波帯送信増幅回路504に出力する。
【0089】
高周波帯送信増幅回路504は、変調回路512からのAM変調信号により駆動電圧をON/OFF制御して、高周波帯のAM変調波を出力し、送信アンテナ503は、AM変調波を子局無線送受信装置53に対して送信する。
【0090】
親局無線送受信装置52の送信波F1は電波伝搬路にてドップラーシフトの影響を受けるため、ドップラーシフト分ΔF1が生じて、子局無線送受信装置53の受信アンテナ515には受信波F1+ΔF1が入力される。受信波F1+ΔF1は、高周波帯受信増幅回路516により増幅され、信号分配器517を経て復調回路521に出力される。
【0091】
復調回路521は、包絡線検波方式を用いて受信波を復調し、受信ベースバンド信号をベースバンド処理回路523に出力する。ベースバンド処理回路523は、受信ベースバンド信号から受信データを抽出して子局制御装置24に転送する。
【0092】
すなわち、親局無線送受信装置52は搬送波より遥かに低い周波数帯でAM変調を行い、子局無線送受信装置53は包絡線検波方式を用いて復調を行うため、搬送波帯でドップラーシフトΔF1が生じても、受信ベースバンド帯ではドップラーシフト量は微少となる。
【0093】
一方、子局無線送受信装置53から親局無線送受信装置52に向けてパケット送信を行う場合、レーダ装置51は、図3のレーダ装置31と同様に、周波数F3の電波を出力し、ドップラーシフト分ΔFrd(=2×ΔF3)と、電波を送信してから反射波を受信するまでの時間t3を測定する。ドップラー周波数・相対距離測定回路502は、ドップラーシフト分ΔFrdから子局23の相対速度Vを逐次算出するとともに、時間t3から子局23の相対距離Lを次式により逐次算出する。

L=t3×C/2 (3)

算出された相対速度Vおよび相対距離Lは、親局無線送受信装置52の周波数制御回路510に出力され、周波数制御回路510は、それらの数値の組に対応するFM−CWカーブをメモリ511から読み出して、ドップラーシフト分2×ΔF1を補正するための制御電圧を生成する。
【0094】
送受共用高周波帯VCO506は、この制御電圧により制御され、FM−CW変調された周波数FLOのローカル信号を出力する。このローカル信号FLOは、高周波帯送信増幅回路504および送信アンテナ503を経て、送信波F1として子局無線送受信装置53に対して送信される。
【0095】
このとき、(2)式の相対速度Vをλ×ΔF1で置き換え、相対距離Lを(3)式のt3×C/2で置き換えると、FM−CWカーブの傾きkは次式のようになる。

k=2×ΔF1/t3 (4)

したがって、送受共用高周波帯VCO506のローカル信号FLOは、電波伝搬遅延時間t3の間に周波数が2×ΔF1だけ増加するように制御されることが分かる。
【0096】
親局無線送受信装置52の送信波F1は電波伝搬路にてドップラーシフトの影響を受けるため、ドップラーシフト分ΔF1が生じて、子局無線送受信装置53の受信アンテナ515には受信波F2=F1+ΔF1が入力される。受信波F2は高周波帯受信増幅回路516にて増幅され、信号分配器517を経て高周波帯送信増幅回路519にローカル信号として供給される。
【0097】
ベースバンド処理回路523は、子局制御装置24から送信データを受け取り、送信ベースバンド信号を生成して変調回路522に出力し、変調回路522は、送信ベースバンド信号から送信データのFSK/AM変調信号を生成して高周波帯送信増幅回路519に出力する。高周波送信増幅回路519は、変調回路522からのFSK/AM変調信号によりFSKの周波数に合わせて駆動電圧をON/OFF制御して、高周波帯のFSK/AM変調波を出力し、送信アンテナ520は、周波数F2の送信波を親局無線送受信装置52に対して送信する。
【0098】
子親局無線送受信装置53の送信波F2は電波伝搬路にてドップラーシフトの影響を受けるため、ドップラーシフト分ΔF1が生じて、親局無線送受信装置52の受信アンテナ509には受信波F2+ΔF1=F1+2×ΔF1が入力される。
【0099】
高周波帯受信増幅回路508は、受信波F1+2×ΔF1を増幅して受信部高周波帯周波数変換器507に出力する。受信部高周波帯周波数変換器507は、送受共用高周波帯VCO506が出力するFM−CW変調されたローカル信号FLOを用いて受信波のホモダイン検波を行って、変調成分を抽出する。復調回路513は、受信波の変調成分から受信ベースバンド信号を抽出し、ベースバンド処理回路514に出力する。ベースバンド処理回路514は、受信ベースバンド信号から受信データを抽出して親局制御装置22に転送する。
【0100】
受信波F1+2×ΔF1を受信部高周波帯周波数変換器507でホモダイン検波する時点では、親局21と子局23間の往復の電波伝搬遅延時間t3が経過しているため、送受共用高周波帯VCO506から出力されるローカル信号FLOの周波数は、F1からF1+2×ΔF1に変化している。このため、ローカル信号FLOの周波数変化分2×ΔF1とドップラーシフト分2×ΔF1とが相殺される。
【0101】
なお、周波数制御回路510が制御電圧を出力する際、FM−CWカーブのデータを格納したメモリ511を用いる代わりに、FM−CWカーブの傾きkを(2)式によりリアルタイムで算出するようにしてもよい。
【0102】
以上説明したように、図5の列車無線通信システムによれば、親局21と子局23の間でパッシブ方式にて行う双方向通信において、レーダ装置51の送受信波のドップラーシフト分ΔFrdから子局23の相対速度Vおよび相対距離Lが計算され、それらに対応するFM−CWカーブをメモリから読み出して、逐次、送受共用高周波帯VCO506が制御される。これにより、親局21の送受信波のドップラーシフト分2×ΔF1の補正をリアルタイムかつ容易に行えるので、安定した通信品質を確保できる。
【0103】
また、親局21においては、ドップラーシフト分を補正するための制御回路のほとんどがデジタル信号処理で実現可能であり、さらに、パッシブ方式の通信であるため送受信周波数が同一であり、送受信のローカル信号を生成するVCOが1個だけで済む。子局23においては、高周波帯発振器を必要とせず、送受信波のドップラーシフト分2×ΔF1を補正する特別な回路を必要としない。
【0104】
次に、第4の列車無線通信システムについて説明する。第4の列車無線通信システムでは、親局21から子局23への単方向通信において、親局21は、レーダ装置にて測定されたドップラー周波数情報を含むデータパケットを生成し、ドップラーシフトの影響が少ないAM変調にて低速データ伝送を行い、子局23側において受信波の周波数補正が可能となった後に、多値変調による高速データ伝送に切り替えて送信波を出力する。
【0105】
一方、子局23は、包絡線検波による復調データからドップラー周波数情報を抽出して受信部高周波帯VCOまたは受信部中間周波数帯VCOを制御することにより、受信波のドップラーシフトによる周波数ずれを補正し、その後、ヘテロダイン方式またはスーパーヘテロダイン方式を用いて、多値変調された高速データの復調を行う。これにより、ドップラーシフトを補正した親局21から子局23への通信が行われる。
【0106】
図8は、このような第4の列車無線通信システムにおける親局21および子局23の構成例を示している。図8のシステムは、親局21に設置されたレーダ装置81および親局無線送信装置82と、子局23に設置された子局無線受信装置83からなる。
【0107】
レーダ装置81は、レーダ用アンテナ801およびドップラー周波数測定回路802を備える。親局無線送信装置82は、送信アンテナ803、高周波帯送信増幅回路804、送信部高周波帯周波数変換器805、送信部高周波帯発振器806、送信部中間周波数帯周波数変換器807、送信部中間周波数帯発振器808、データパケット生成回路809、変調回路810、およびベースバンド処理回路811を備える。
【0108】
子局無線受信装置83は、受信アンテナ812、高周波帯受信増幅回路813、受信部高周波帯周波数変換器814、受信部高周波帯VCO815、受信部中間周波数帯周波数変換器816、受信部中間周波数帯VCO817、周波数制御回路818、復調回路819、およびベースバンド処理回路820を備える。
【0109】
図9は、図8の列車無線通信システムで用いられる通信パケットの構造およびタイミングの例を示している。通信パケットのタイミング構成91に示されるように、親局21から子局23へは、最初にN個の低速伝送通信パケット92が送信された後に、M個の高速伝送通信パケット93が送信され、以後、これらのN+M個のパケットを基準周期として、データ伝送が行われる。
【0110】
低速伝送通信パケット92は、受信時のタイミング同期を取るための同期データ901、ドップラーシフト情報を含む制御データ902、および誤り検出符号903からなる。高速伝送通信パケット93は、受信時のタイミング同期を取るための同期データ904、ドップラーシフト情報を含む制御データ905、情報データ906、および誤り検出符号907からなる。
【0111】
次に、図8の列車無線通信システムの動作について説明する。このシステムでは、親局無線送信装置82は、ドップラーシフト情報を含む低速伝送通信パケット92をドップラーシフトの影響が少ないAM変調波に変換して送信し、その後、高速伝送通信パケット93を多値変調波に変換して送信する。
【0112】
子局無線受信装置83は、AM変調が施された受信波から包絡線検波によりドップラーシフト情報を抽出して周波数制御を行い、多値変調が施された受信波に対してドップラーシフト分を補正することで、高速伝送通信パケット93を正常に受信する。子局無線受信装置83では、高速データの復調にスーパーヘテロダイン方式が用いられる。
【0113】
レーダ装置81は、図3のレーダ装置31と同様に、周波数F3の電波を出力し、ドップラーシフト分ΔFrd(=2×ΔF3)から子局23の相対速度Vを逐次算出する。そして、相対速度Vを用いて親局無線送信装置82の送信波F1のドップラーシフト分ΔF1を逐次計算し、その計算結果を親局無線送信装置82に出力する。
【0114】
親局無線送信装置82のデータパケット生成回路809は、ドップラーシフト分の計算結果を制御データ902および905に含めて、通信パケットのタイミング構成91に示した時系列で、低速伝送通信パケット92および高速伝送通信パケット93を生成する。高速伝送通信パケット93を生成する場合は、親局制御装置22から送信データを受け取り、それを情報データ906として用いる。
【0115】
ベースバンド処理回路811は、データパケット生成回路809から通信パケットを受け取り、送信ベースバンド信号を生成して変調回路810に出力する。変調回路810は、送信ベースバンド信号から送信データの変調波を生成して送信部中間周波数帯周波数変換器807に出力する。このとき、低速伝送通信パケット92は、搬送波より遥かに低い周波数帯でAM変調されてAM変調波に変換され、高速伝送通信パケット93は多値変調波に変換される。
【0116】
送信部中間周波数帯周波数変換器807は、送信部中間周波数帯発振器808が出力する周波数FLO2のローカル信号を用いて、変調波を中間周波数FIFに変換する。送信部高周波帯周波数変換器805は、送信部高周波帯発振器806が出力する周波数FLO1のローカル信号を用いて、中間周波数FIFの出力を送信周波数F1に変換する。高周波帯送信増幅回路804は、周波数F1の送信波を増幅し、送信アンテナ803は、増幅された送信波を子局無線受信装置83に対して送信する。
【0117】
親局無線送信装置82からの送信波F1は、電波伝搬路にてドップラーシフトの影響を受け、子局無線受信装置83の受信アンテナ812には、周波数F1+ΔF1の受信波が入力される。
【0118】
AM変調が施された受信波は、高周波帯受信増幅回路813により増幅されて復調回路819に出力される。復調回路819は、包絡線検波により受信波を復調し、受信ベースバンド信号をベースバンド処理回路820に出力する。ベースバンド処理回路820は、受信ベースバンド信号から低速伝送通信パケット92を再生し、その制御データ902からドップラーシフト情報を抽出して、周波数制御回路818に逐次出力する。
【0119】
周波数制御回路818は、ドップラーシフト情報からドップラーシフト分ΔF1を補正するための制御電圧を生成し、受信部高周波帯VCO815の周波数がFLO1−ΔF1となり、受信部中間周波数帯VCO817の周波数がFLO2となるように、または受信部中間周波数帯VCO817の周波数がFLO2−ΔF1となり、受信部高周波帯VCO815の周波数がFLO1となるように制御する。
【0120】
一方、多値変調が施された受信波は、高周波帯受信増幅回路813により増幅され、受信部高周波帯周波数変換器814に出力される。受信部高周波帯周波数変換器814は、受信部高周波帯VCO815の出力FLO1−ΔF1(またはFLO1)をローカル信号として、受信波を周波数変換し、受信部中間周波数帯周波数変換器816は、受信部中間周波数帯VCO817の出力FLO2(またはFLO2−ΔF1)をローカル信号として、受信部高周波帯周波数変換器814の出力を周波数変換する。
【0121】
これにより、ドップラーシフト分ΔF1が補正された受信波の多値変調成分が抽出される。復調回路819は、多値変調成分からドップラーシフト分ΔF1による劣化が少ない受信ベースバンド信号を抽出して、BERの劣化が起きることなくデータを復調する。
【0122】
ベースバンド処理回路820は、受信ベースバンド信号から高速伝送通信パケット93を再生し、その制御データ905からドップラーシフト情報を抽出して、周波数制御回路818に逐次出力する。これにより、周波数制御回路818は、子局23の移動速度に依存して変化するドップラーシフト分ΔF1をリアルタイムで補正することができる。さらに、ベースバンド処理回路820は、高速伝送通信パケット93の情報データ906を抽出して子局制御装置24に転送する。
【0123】
なお、通信パケットのタイミング構成91において、N個の低速伝送通信パケット92とM個の高速伝送通信パケット93が一定周期で交互に送信されているので、子局23が任意のタイミングで親局21の通信エリアに到達しても、低速伝送通信パケット92を一定周期で受信してドップラーシフト分を補正することが可能である。
【0124】
以上説明したように、図8の列車無線通信システムによれば、親局21から子局23への単方向通信において、レーダ装置81の送受信波のドップラーシフト分ΔFrdから送信波F1のドップラーシフト分ΔF1が逐次算出され、親局無線送信装置82がドップラーシフト分ΔF1の情報を含むAM変調による低速伝送通信パケットおよび多値変調による高速伝送通信パケットを周期的に交互に送信する。これにより、子局無線受信装置83はドップラーシフト分ΔF1の補正をリアルタイムかつ容易に行えるので、安定した通信品質を確保できる。
【0125】
また、親局無線送信装置82においては、ドップラーシフト分ΔF1を算出し低速伝送通信パケット92および高速伝送通信パケット93を生成する回路のほとんどがデジタル信号処理で実現可能であり、低速伝送通信パケット92のためのAM変調回路は容易かつ安価に構成することができる。子局無線受信装置83においては、包絡線検波回路は容易かつ安価に構成することができる。
【0126】
次に、第5の列車無線通信システムについて説明する。第5の列車無線通信システムでは、第4の列車無線通信システムの構成に加えて、親局21は、ヘテロダイン方式またはスーパーヘテロダイン方式を用いて、多値変調された高速データの復調を行う構成を備え、子局23は、高速データ伝送のための多値変調信号を生成する構成と、ドップラーシフトを補正した周波数制御信号により送信部高周波帯VCOまたは送信部中間周波数帯VCOを制御して送信波を送信する構成とを備える。これにより、ドップラーシフトを補正した、子局23から親局21への送信が実現される。
【0127】
図10は、このような第5の列車無線通信システムにおける親局21および子局23の構成例を示している。図10のシステムは、親局21に設置されたレーダ装置1001および親局無線送受信装置1002と、子局23に設置された子局無線送受信装置1003からなる。
【0128】
親局無線送受信装置1002は、図8の親局無線送信装置82の回路構成に、多値変調を施した受信波の受信回路を追加した構成を有し、子局無線送受信装置1003は、図8の子局無線受信装置83の回路構成に、多値変調を施した送信波の送信回路を追加した構成を有する。親局無線送受信装置1002では、高速データの復調にスーパーヘテロダイン方式が用いられる。
【0129】
レーダ装置1001は、レーダ用アンテナ1011およびドップラー周波数測定回路1012を備える。親局無線送受信装置1002は、送信アンテナ1013、高周波帯送信増幅回路1014、送信部高周波帯周波数変換器1015、送信部高周波帯発振器1016、送信部中間周波数帯周波数変換器1017、送信部中間周波数帯発振器1018、データパケット生成回路1019、変調回路1020、受信アンテナ1021、高周波帯受信増幅回路1022、受信部高周波帯周波数変換器1023、受信部高周波帯発振器1024、受信部中間周波数帯周波数変換器1025、受信部中間周波数帯発振器1026、復調回路1027、およびベースバンド処理回路1028を備える。
【0130】
子局無線送受信装置1003は、受信アンテナ1029、高周波帯受信増幅回路1030、受信部高周波帯周波数変換器1031、受信部高周波帯VCO1032、受信部中間周波数帯周波数変換器1033、受信部中間周波数帯VCO1034、復調回路1035、送信アンテナ1036、高周波帯送信増幅回路1037、送信部高周波帯周波数変換器1038、送信部高周波帯VCO1039、送信部中間周波数帯周波数変換器1040、送信部中間周波数帯VCO1041、周波数制御回路1042、変調回路1043、およびベースバンド処理回路1044を備える。
【0131】
次に、図10の列車無線通信システムの動作について説明する。このシステムでは、親局21と子局23の間で行う双方向通信において、親局21の送信波F1のドップラーシフト分ΔF1を補正することに加えて、子局の送信波F2のドップラーシフト分ΔF2も補正する。
【0132】
親局21から子局23へ送信波F1を送信する動作と子局23においてドップラーシフト分ΔF1を補正する動作については、図8の場合と同様である。このとき、図9に示した低速伝送通信パケット92および高速伝送通信パケット93が用いられる。
【0133】
子局23から親局21へ送信波F2を送信する際、子局無線送受信装置1003のベースバンド処理回路1044は、子局制御装置24から高速伝送通信パケット93を受け取り、送信ベースバンド信号を生成して変調回路1043に出力する。変調回路1043は、送信ベースバンド信号から多値変調波を生成して送信部中間周波数帯周波数変換器1040に出力する。
【0134】
また、ベースバンド処理回路1044は、受信した通信パケットからドップラーシフト情報を抽出して、周波数制御回路1042に逐次出力する。周波数制御回路1042は、ドップラーシフト情報からドップラーシフト分ΔF2を補正するための制御電圧を生成し、送信部高周波帯VCO1039の周波数がFLO3−ΔF2となり、送信部中間周波数帯VCO1041の周波数がFLO4となるように、または送信部中間周波数帯VCO1041の周波数がFLO4−ΔF2となり、送信部高周波帯VCO1039の周波数がFLO3となるように制御する。
【0135】
このとき、周波数制御回路1042は、送信波F1のドップラーシフト分ΔF1を、相対速度Vを介して送信波F2のドップラーシフト分ΔF2に変換することで、送信部高周波帯VCO1039および送信部中間周波数帯VCO1041の制御電圧を生成する。
【0136】
送信部中間周波数帯周波数変換器1040は、送信部中間周波数帯VCO1041の出力FLO4−ΔF2(またはFLO4)をローカル信号として、多値変調波を中間周波数に変換する。送信部高周波帯周波数変換器1038は、送信部高周波帯VCO1039の出力FLO3(またはFLO3−ΔF2)をローカル信号として、中間周波数の出力をドップラーシフト分ΔF2が補正された送信周波数F2−ΔF2に変換する。
【0137】
高周波帯送信増幅回路1037は、周波数F2−ΔF2の送信波を増幅し、送信アンテナ1036は、増幅された送信波を親局無線送受信装置1002に対して送信する。
子局無線送受信装置1003からの送信波F2−ΔF2は、電波伝搬路にてドップラーシフトの影響を受けることによりドップラーシフト分ΔF2が相殺される。したがって、親局無線送受信装置1002の受信アンテナ1021には、周波数F2の受信波が入力される。受信波F2は、高周波帯受信増幅回路1022により増幅され、受信部高周波帯周波数変換器1023に出力される。
【0138】
受信部高周波帯周波数変換器1023は、受信部高周波帯発振器1024の出力FLO3をローカル信号として、受信波を周波数変換し、受信部中間周波数帯周波数変換器1025は、受信部中間周波数帯発振器1026の出力FLO4をローカル信号として、受信部高周波帯周波数変換器1023の出力を周波数変換する。
【0139】
これにより、ドップラーシフト分ΔF2が補正された受信波の多値変調成分が抽出される。復調回路1027は、多値変調成分からドップラーシフト分ΔF2による劣化が少ない受信ベースバンド信号を抽出して、BERの劣化が起きることなくデータを復調する。ベースバンド処理回路1028は、受信ベースバンド信号から高速伝送通信パケット93を再生して、親局制御装置22に転送する。
【0140】
以上説明したように、図10の列車無線通信システムによれば、親局21と子局23の間の双方向通信において、レーダ装置1001の送受信波のドップラーシフト分ΔFrdから送信波F1のドップラーシフト分ΔF1が逐次算出され、親局無線送受信装置1002がドップラーシフト分ΔF1の情報を含むAM変調による低速伝送通信パケットおよび多値変調による高速伝送通信パケットを周期的に交互に送信する。これにより、子局無線送受信装置1003はドップラーシフト分ΔF1およびΔF2の補正をリアルタイムかつ容易に行えるので、安定した通信品質を確保できる。
【0141】
また、親局無線送受信装置1002においては、ドップラーシフト分ΔF1を算出し低速伝送通信パケット92および高速伝送通信パケット93を生成する回路のほとんどがデジタル信号処理で実現可能であり、親局無線送受信装置1002は、一般的な多値変調による無線送受信装置に容易かつ安価な構成のAM変調回路を付加することで実現できる。
【0142】
子局無線送受信装置1003においても、ドップラーシフト情報を抽出して周波数制御信号を生成する回路のほとんどがデジタル信号処理で実現可能であり、子局無線送受信装置1003は、一般的な多値変調による無線送受信装置に容易かつ安価な構成の包絡線検波回路を付加することで実現できる。
【0143】
ところで、図3の親局無線送信装置32、図4の親局無線受信装置42、図8の親局無線送信装置82、子局無線受信装置83、および図10の親局無線送受信装置1002、子局無線送受信装置1003では、高周波帯および中間周波数帯の発振器を併用して周波数変換を行っているが、いずれか一方の発振器のみを用いた場合でも同様のドップラーシフト補正を行うことが可能である。
【0144】
(付記1) 移動体に設置された移動無線通信装置に対してデータを送信する無線通信装置であって、
レーダ波を送信し、前記移動体により反射されたレーダ波を受信して、ドップラーシフト周波数を測定する測定手段と、
測定された周波数に基いて、ドップラーシフトを補正するための制御信号を出力する制御手段と、
前記制御信号に応じた周波数のローカル信号を出力する周波数可変発振手段と、
送信データのベースバンド信号から変調波を生成する変調手段と、
前記ローカル信号を用いて前記変調波の周波数変換を行い、前記ドップラーシフトが補正された周波数の電波を前記移動無線通信装置に対して送信する送信手段と
を備えることを特徴とする無線通信装置。
(付記2) 移動体に設置された移動無線通信装置からデータを受信する無線通信装置であって、
レーダ波を送信し、前記移動体により反射されたレーダ波を受信して、ドップラーシフト周波数を測定する測定手段と、
測定された周波数に基いて、ドップラーシフトを補正するための制御信号を出力する制御手段と、
前記制御信号に応じた周波数のローカル信号を出力する周波数可変発振手段と、
前記移動無線通信装置から電波を受信し、前記ローカル信号を用いて受信波の周波数変換を行い、前記ドップラーシフトが補正された受信波の変調成分を抽出する受信手段と、
前記受信波の変調成分から受信データのベースバンド信号を生成する復調手段と
を備えることを特徴とする無線通信装置。
(付記3) 移動体に設置された移動無線通信装置との間で、周波数変調連続波を用いたパッシブ方式によりデータを送受信する無線通信装置であって、
レーダ波を送信し、前記移動体により反射されたレーダ波を受信して、ドップラーシフト周波数と、レーダ波を送信してから反射されたレーダ波を受信するまでの時間を測定する測定手段と、
測定された周波数および時間に基いて、ドップラーシフトを補正するための周波数変調連続波カーブを示す制御信号を出力する制御手段と、
前記制御信号に応じて変化する周波数のローカル信号を出力する周波数可変発振手段と、
送信データのベースバンド信号から変調波を生成する変調手段と、
前記ローカル信号を用いて前記変調波の周波数変換を行い、前記ドップラーシフトが補正された周波数の電波を前記移動無線通信装置に対して送信する送信手段と、
前記移動無線通信装置からパッシブ方式により送信された電波を受信し、前記ローカル信号を用いて受信波の周波数変換を行い、ドップラーシフトが補正された受信波の変調成分を抽出する受信手段と、
前記受信波の変調成分から受信データのベースバンド信号を生成する復調手段と
を備えることを特徴とする無線通信装置。
(付記4) あらかじめ計算された複数の周波数変調連続波カーブのデータを格納する格納手段をさらに備え、前記制御手段は、前記測定された周波数および時間に対応する周波数変調連続波カーブのデータを前記格納手段から読み出して、前記制御信号を生成することを特徴とする付記3記載の無線通信装置。
(付記5) 移動体に設置された移動無線通信装置に対してデータを送信する無線通信装置であって、
レーダ波を送信し、前記移動体により反射されたレーダ波を受信して、ドップラーシフト周波数を測定する測定手段と、
測定された周波数の情報を含む低速伝送通信パケットと、送信データを含む高速伝送通信パケットを生成する生成手段と、
送信用ローカル信号を出力する送信用発振手段と、
前記低速伝送通信パケットに対して搬送波より低い周波数で振幅変調を行って変調波を生成し、前記高速伝送通信パケットに対して多値変調を行って変調波を生成する変調手段と、
前記送信用ローカル信号を用いて、生成された変調波の周波数変換を行い、変換された周波数の電波を前記移動無線通信装置に対して送信する送信手段と
を備えることを特徴とする無線通信装置。
(付記6) 受信用ローカル信号を出力する受信用発振手段と、前記低速伝送通信パケットに含まれる周波数の情報に基いてドップラーシフトが補正された周波数の電波を、前記移動無線通信装置から受信し、前記受信用ローカル信号を用いて受信波の周波数変換を行い、受信波の変調成分を抽出する受信手段と、前記受信波の変調成分から受信データのベースバンド信号を生成する復調手段とをさらに備えることを特徴とする付記5記載の無線通信装置。
(付記7) 移動体に設置され、他の無線通信装置からデータを受信する移動無線通信装置であって、
前記移動体のドップラーシフト周波数の情報を含む低速伝送通信パケットに対して搬送波より低い周波数で振幅変調を行って生成された電波と、送信データを含む高速伝送通信パケットに対して多値変調を行って生成された電波を、前記他の無線通信装置から受信する受信手段と、
前記低速伝送通信パケットの受信波から包絡線検波により低速伝送通信パケットのベースバンド信号を生成し、前記高速伝送通信パケットの受信波の変調成分から高速伝送通信パケットのベースバンド信号を生成する復調手段と、
前記低速伝送通信パケットのベースバンド信号から前記ドップラーシフト周波数の情報を抽出し、抽出された周波数に基いて、ドップラーシフトを補正するための受信用制御信号を出力する制御手段と、
前記受信用制御信号に応じた周波数の受信用ローカル信号を出力する受信用周波数可変発振手段と、
前記受信用ローカル信号を用いて前記高速伝送通信パケットの受信波の周波数変換を行い、前記ドップラーシフトが補正された受信波の変調成分を抽出して前記復調手段に出力する受信用変換手段と
を備えることを特徴とする移動無線通信装置。
(付記8) 送信用制御信号に応じた周波数の送信用ローカル信号を出力する送信用周波数可変発振手段と、送信データのベースバンド信号から変調波を生成する変調手段と、前記送信用ローカル信号を用いて前記変調波の周波数変換を行い、変換された周波数の電波を前記他の無線通信装置に対して送信する送信手段とをさらに備え、前記制御手段は、前記抽出された周波数に基いて、ドップラーシフトを補正するための送信用制御信号を前記送信用周波数可変発振手段に出力することを特徴とする付記7記載の移動無線通信装置。
【図面の簡単な説明】
【0145】
【図1】本発明の移動体無線通信システムの原理図である。
【図2】列車無線通信システムの概念図である。
【図3】第1の列車無線通信システムの構成図である。
【図4】第2の列車無線通信システムの構成図である。
【図5】第3の列車無線通信システムの構成図である。
【図6】周波数の変化を示す図である。
【図7】FM−CWカーブのデータ構造を示す図である。
【図8】第4の列車無線通信システムの構成図である。
【図9】通信パケットを示す図である。
【図10】第5の列車無線通信システムの構成図である。
【図11】自動列車停止システムを示す図(その1)である。
【図12】自動列車停止システムを示す図(その2)である。
【符号の説明】
【0146】
11 レール
12、25 列車
13 停止信号機
14、18 情報伝送装置
15 ケーブル
16 地上子
17 車上子
19 運転台装置
21 親局
22 親局制御装置
23 子局
24 子局制御装置
31、41、51、61、81、1001 レーダ装置
32、82 親局無線送信装置
33、83 子局無線受信装置
42 親局無線受信装置
43 子局無線送信装置
52、1002 親局無線送受信装置
53、1003 子局無線送受信装置
91 通信パケットのタイミング構成
92 低速伝送通信パケット
93 高速伝送通信パケット
101 測定手段
102 制御手段
103 周波数可変発振手段
104 変調手段
105 送信手段
106 受信手段
107 復調手段
111 移動体
112 移動無線通信装置
301、401、501、801、1011 レーダ用アンテナ
302、402、802、1012 ドップラー周波数測定回路
303、412、503、520、803、1013、1036 送信アンテナ
304、413、504、519、804、1014、1037 高周波帯送信増幅回路
305、805、1015、1038 送信部高周波帯周波数変換器
306、1039 送信部高周波帯VCO
307、807、1017、1040 送信部中間周波数帯周波数変換器
308、1041 送信部中間周波数帯VCO
309、409、510、818、1042 周波数制御回路
310、416、512、522、810、1020、1043 変調回路
311、317、411、417、514、523、811、820、1028、1044 ベースバンド処理回路
312、403、509、515、812、1021、1029 受信アンテナ
313、404、508、516、813、1022、1030 高周波帯受信増幅回路
314、414 周波数変換器
315 受信用発振器
316、410、513、521、819、1027、1035 復調回路
405、507、814、1023、1031 受信部高周波帯周波数変換器
406、815、1032 受信部高周波帯VCO
407、816、1025、1033 受信部中間周波数帯周波数変換器
408、817、1034 受信部中間周波数帯VCO
415 送信用発振器
502 ドップラー周波数・相対距離測定回路
506 送受共用高周波帯VCO
511 メモリ
517 信号分配器
531 破線
532 実線
533 一点鎖線
806、1016 送信部高周波帯発振器
808、1018 送信部中間周波数帯発振器
809、1019 データパケット生成回路
901、904 同期データ
902、905 制御データ
903、907 誤り検出符号
906 情報データ
1024 受信部高周波帯発振器
1026 受信部中間周波数帯発振器
F1、F2、F3 周波数
L 相対距離
V 相対速度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に設置された移動無線通信装置に対してデータを送信する無線通信装置であって、
レーダ波を送信し、前記移動体により反射されたレーダ波を受信して、ドップラーシフト周波数を測定する測定手段と、
測定された周波数に基いて、ドップラーシフトを補正するための制御信号を出力する制御手段と、
前記制御信号に応じた周波数のローカル信号を出力する周波数可変発振手段と、
送信データのベースバンド信号から変調波を生成する変調手段と、
前記ローカル信号を用いて前記変調波の周波数変換を行い、前記ドップラーシフトが補正された周波数の電波を前記移動無線通信装置に対して送信する送信手段と
を備えることを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
移動体に設置された移動無線通信装置からデータを受信する無線通信装置であって、
レーダ波を送信し、前記移動体により反射されたレーダ波を受信して、ドップラーシフト周波数を測定する測定手段と、
測定された周波数に基いて、ドップラーシフトを補正するための制御信号を出力する制御手段と、
前記制御信号に応じた周波数のローカル信号を出力する周波数可変発振手段と、
前記移動無線通信装置から電波を受信し、前記ローカル信号を用いて受信波の周波数変換を行い、前記ドップラーシフトが補正された受信波の変調成分を抽出する受信手段と、
前記受信波の変調成分から受信データのベースバンド信号を生成する復調手段と
を備えることを特徴とする無線通信装置。
【請求項3】
移動体に設置された移動無線通信装置との間で、周波数変調連続波を用いたパッシブ方式によりデータを送受信する無線通信装置であって、
レーダ波を送信し、前記移動体により反射されたレーダ波を受信して、ドップラーシフト周波数と、レーダ波を送信してから反射されたレーダ波を受信するまでの時間を測定する測定手段と、
測定された周波数および時間に基いて、ドップラーシフトを補正するための周波数変調連続波カーブを示す制御信号を出力する制御手段と、
前記制御信号に応じて変化する周波数のローカル信号を出力する周波数可変発振手段と、
送信データのベースバンド信号から変調波を生成する変調手段と、
前記ローカル信号を用いて前記変調波の周波数変換を行い、前記ドップラーシフトが補正された周波数の電波を前記移動無線通信装置に対して送信する送信手段と、
前記移動無線通信装置からパッシブ方式により送信された電波を受信し、前記ローカル信号を用いて受信波の周波数変換を行い、ドップラーシフトが補正された受信波の変調成分を抽出する受信手段と、
前記受信波の変調成分から受信データのベースバンド信号を生成する復調手段と
を備えることを特徴とする無線通信装置。
【請求項4】
移動体に設置された移動無線通信装置に対してデータを送信する無線通信装置であって、
レーダ波を送信し、前記移動体により反射されたレーダ波を受信して、ドップラーシフト周波数を測定する測定手段と、
測定された周波数の情報を含む低速伝送通信パケットと、送信データを含む高速伝送通信パケットを生成する生成手段と、
送信用ローカル信号を出力する送信用発振手段と、
前記低速伝送通信パケットに対して搬送波より低い周波数で振幅変調を行って変調波を生成し、前記高速伝送通信パケットに対して多値変調を行って変調波を生成する変調手段と、
前記送信用ローカル信号を用いて、生成された変調波の周波数変換を行い、変換された周波数の電波を前記移動無線通信装置に対して送信する送信手段と
を備えることを特徴とする無線通信装置。
【請求項5】
移動体に設置され、他の無線通信装置からデータを受信する移動無線通信装置であって、
前記移動体のドップラーシフト周波数の情報を含む低速伝送通信パケットに対して搬送波より低い周波数で振幅変調を行って生成された電波と、送信データを含む高速伝送通信パケットに対して多値変調を行って生成された電波を、前記他の無線通信装置から受信する受信手段と、
前記低速伝送通信パケットの受信波から包絡線検波により低速伝送通信パケットのベースバンド信号を生成し、前記高速伝送通信パケットの受信波の変調成分から高速伝送通信パケットのベースバンド信号を生成する復調手段と、
前記低速伝送通信パケットのベースバンド信号から前記ドップラーシフト周波数の情報を抽出し、抽出された周波数に基いて、ドップラーシフトを補正するための受信用制御信号を出力する制御手段と、
前記受信用制御信号に応じた周波数の受信用ローカル信号を出力する受信用周波数可変発振手段と、
前記受信用ローカル信号を用いて前記高速伝送通信パケットの受信波の周波数変換を行い、前記ドップラーシフトが補正された受信波の変調成分を抽出して前記復調手段に出力する受信用変換手段と
を備えることを特徴とする移動無線通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−295657(P2006−295657A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−115142(P2005−115142)
【出願日】平成17年4月12日(2005.4.12)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】