説明

移動体通信システムおよび基地局

【課題】遠隔基地局からハンドオフする場合、収容先のネイバーリストを基に、ハンドオフ先を探しても、近接基地局からの電波が到達するとは限らないため、ハンドオフ先が見つからずに呼が切断することがある。
【解決手段】基地局は、複数セルで構成される移動体通信システムにおいて、大地面に垂直な方向に複数配置した受信アンテナと、各アンテナに対応した受信部と、各アンテナが受信する同一移動体通信端末からの電波の航路差を判定する装置とを含む。基地局は、各アンテナが受信する同一移動体通信端末からの電波の航路差が、一定値以下、若しくは大地面に対してより離れているアンテナの受信電波よりも、大地面に近いアンテナの受信電波の航路長が長い場合、第2のネイバーリストを対象移動体通信端末に個別に通知し、移動体通信端末内部のネイバーリストを更新させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のセルで構成された移動体通信システムおよび基地局において、特に遠方基地局に収容された移動体通信端末のハンドオフ動作に適した移動体通信システムおよび基地局に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、特許文献1がある。特許文献1において、MSは位置登録時/パラメータ更新時/ハンドオフ時にMSが収容されているBTSと近接のBTSの情報を持ったネイバーリストを受信し、そのネイバーリストにより内部のネイバーリストを更新する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−224882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の移動体通信システムは、ハンドオフ時、移動体通信端末が、収容先基地局とその近接の基地局の情報とを持ったネイバーリストを収容先基地局から受信し、移動体通信端末内部に保持していたネイバーリストを更新するとともに、そのネイバーリストを基に、収容先基地局の近接基地局を探査し、ハンドオフ先候補の基地局を決定していた。
【0005】
しかし、移動体通信端末が高層建築物の上層に存在する等の理由で遠方基地局からの見通しが良い場合、その移動体通信端末が遠方の基地局に収容されるときがある。この場合、移動体通信端末が移動して、その収容先基地局のネイバーリストに基づきハンドオフ先を探しても、近接基地局からの見通しが必ずしも良いとは限らない。このため、移動体通信端末がハンドオフ先を見つけることができずに、呼切断することがある。
本発明は、この呼切断をなくすとともに、呼切断後の再接続に要する無用なトラフィックの発生を防止する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
複数のセルで構成される移動体通信システムにおいて、大地面に垂直な方向に複数配置した受信アンテナと、各アンテナに対応した受信部と、各アンテナが受信する同一移動体通信端末からの電波の航路差を算出する装置とを含む基地局、および移動体通信システムを構成する基地局を識別する情報と、その基地局が設置されている位置の情報とを記憶する記憶装置を設ける。
【0007】
基地局は、各アンテナが受信する同一移動体通信端末からの電波の航路差が、一定値以下、または大地面に対してより離れているアンテナの受信電波よりも、大地面に近いアンテナの受信電波の航路長が長い場合、移動体通信端末から移動体通信端末の位置情報を通知させるとともに、通知された移動体通信端末の位置情報を基に、収容基地局の位置と移動体通信端末の位置が離れているかを解析する。解析した結果、収容基地局と移動体通信端末の位置が離れている場合、基地局は、記憶装置から移動体通信端末の位置に近い基地局の情報を収集して、既に保持しているネイバーリストとは別の第二のネイバーリストを作成する。次に基地局は、この第二のネイバーリストを対象移動体通信端末に個別に通知し、移動体通信端末内部のネイバーリストを更新させる。
【0008】
上述した課題は、鉛直線上に間隔Lを採って配置された2本の受信アンテナと、これら受信アンテナに接続された2台の受信部と、これら受信部と接続され、受信アンテナが受信する同一移動体通信端末からの電波の航路差を算出する航路差算出装置と、この航路差算出装置と接続された制御部とを含む基地局と、複数の基地局のネイバーリストを記憶する記憶装置と、を含む移動体通信システムであって、制御部は、航路差算出部が算出した航路差dが、予め定めた閾値C以下のとき、当該移動体通信端末から位置情報を取得して、この位置情報に基づいて、記憶装置から移動体端末近傍の基地局情報を取得して、ネイバーリストを作成し、作成したネイバーリストを移動体通信端末に送信する移動体通信システムにより、解決できる。
【0009】
また、鉛直線上に間隔Lを採って配置された2本の受信アンテナと、これら受信アンテナに接続された2台の受信部と、これら受信部と接続され、受信アンテナが受信する同一移動体通信端末からの電波の航路差を算出する航路差算出装置と、この航路差算出装置と接続された制御部と、複数の基地局のネイバーリストを記憶する記憶部と、を含む基地局であって、制御部は、航路差算出部が算出した航路差dが、予め定めた閾値C以下のとき、当該移動体通信端末から位置情報を取得して、この位置情報に基づいて、記憶部から移動体端末近傍の基地局情報を取得して、ネイバーリストを作成し、作成したネイバーリストを移動体通信端末に送信する基地局により、解決できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、遠方基地局に収容された移動体通信端末が、ハンドオフ時に呼切断されることを防止することができる。さらに、本発明によれば、呼切断後の再接続に要する無用なトラフィックを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】移動体通信システムの構成を説明するブロック図である。
【図2】アンテナ間の航路差を説明する正面図である。
【図3】移動体通信システムの処理を説明するフローチャートである。
【図4】ネイバーリストを構成するセルエリアを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、実施例を用い図面を参照しながら詳細に説明する。なお、実質同一部位には同じ参照番号を振り、説明は繰り返さない。
【実施例1】
【0013】
実施例1では、遠方の基地局に収容された移動体通信端末が、呼切断することなしにハンドオフすることが可能な移動体通信システムを説明する。
図1において、移動体通信システム500は、基地局100と、記憶装置200と、移動体通信端末300とで構成される。さらに基地局100は、アンテナ101と、受信部103と、航路差算出装置105と、結合器106と、送信部107と、制御部108とから構成される。
【0014】
アンテナ101−1およびアンテナ101−2は、大地に対して垂直な同一線上に、縦方向に間隔Lを取る。アンテナ101−1の方が、アンテナ101−2より地表面から距離Lだけ高く配置する。アンテナ101−1およびアンテナ101−2は、移動体通信端末300より受信した電波を、アンテナ101に対応した受信部103−1および受信部103−2に入力する。
【0015】
受信部103−1、受信部103−2は、入力された受信電波を、受信信号に再生する。受信部103−1、受信部103−2は、また、航路差算出装置105に再生した受信信号を入力する。
【0016】
航路差算出装置105は、受信部101−1、受信部101−2から入力された信号の航路差dを算出する。ここで、航路差dは、アンテナ101−1に入力した電波の航路長と、アンテナ101−2に入力した同一移動体通信端末300からの電波の航路長のアンテナ101−2を基準とする差分である。なお、dは、0(ゼロ)および負の値をとることがある。
【0017】
航路差算出装置105は、航路差dを、予め定めた定数Cと比較する。航路差算出装置105は、航路差dがCより大きい場合、次のハンドオフ時まで航路差を算出しない。航路差算出装置105は、航路差dが定数Cより小さい場合、移動体通信端末300の位置情報を要求するように、制御部108に通知する。ここで、航路差dが定数Cより小さい場合は、アンテナ101−1に入力した電波の航路長が、アンテナ101−2に入力した同一移動体通信端末300からの電波の航路長より短い場合、即ち航路差dが負の値になる場合を含む。
【0018】
結合器106は、アンテナ101−2で受信した電波を受信器103−2に送信する。結合器106は、また送信部107の出力をアンテナ101−2に送信する。送信部107は、下り信号を生成する。制御部108は、基地局100の全体を制御する。制御部108は、航路差算出部105が算出した航路差dが予め定めた閾値C以下のとき、第2のネイバーリストを生成して、移動体通信端末300に送信する。なお、基地局100は、図示しないメモリを保持して、自局のネイバーリストを記憶している。
【0019】
記憶装置200は、複数の基地局100と接続され、それらの基地局のネイバーリストを一括記憶する。移動体通信端末300は、基地局100から取得したネイバーリストに基づいて、周辺基地局を探査する。なお、記憶装置200は、基地局100内部に個別に有してもよい。
【0020】
図2を参照して、アンテナ101間の航路差を説明する。図2において、一般的にフラウンホーファ領域での航路差dは、アンテナ間の距離をL、移動体通信端末300からアンテナに到達する電波の仰角をθとすると、
d≒L×sinθ…(式1)
で一義的に表わされる。したがって、この航路差dを求めることにより、アンテナ101−1、およびアンテナ101−2と移動体通信端末300とが作る角度がわかる。
【0021】
この角度(航路差d)は、移動体通信端末300が、アンテナ101−1およびアンテナ101−2から離れるほど、または、地上からの高さが高くなるほど、小さくなる。このため、遠方の基地局に収容された可能性があるかどうかは、この航路差dを根拠に判定すれば良い。
【0022】
図3を参照して、移動体通信システムの処理を説明する。基地局100は、アンテナ間の航路差dを測定する(S11)。基地局100は、航路差dが予め定めた定数D以下か判定する(S12)。ステップ12が誤のとき、基地局100は、ステップ11に遷移する。ステップ12が正のとき、基地局100は、移動体通信端末300からその位置情報を取得する(S13)。基地局100は、移動体通信端末300の位置が自サポートセル内か判定する(S14)。ステップ14が正のとき、基地局100は、保有するネイバーリストを報知情報により、移動体通信端末300に送信する(S16)。
【0023】
ステップ14が誤のとき、基地局100は、記憶装置200から移動体通信端末300の位置情報を基に基地情報を取得し、第2のネイバーリストを作成する(S17)。基地局100は、第2のネイバーリストを報知情報により、移動体通信端末300に送信する(S18)。ステップ16またはステップ18のあと、移動体通信端末300は、受信したネイバーリストを基に周辺基地局を探査して(S19)、終了する。
【0024】
図4を参照して、ネイバーリストを構成するセルを説明する。図4において、移動体通信端末300は、遠方の基地局100−1に収容されている。基地局100−1が保持するネイバーリストは、セルエリア400−1である。移動体通信端末300が在圏するセル410−2は、基地局100−2のセルである。基地局100−2が保持するネイバーリストは、セルエリア400−2である。
【0025】
基地局100−1が作成する第2のネイバーリストは、セルエリア400−2にセル410−2を加えたリストである。
【0026】
図4が示す様に、移動体通信端末300が遠方の基地局に収容された場合、収容先基地局100−1のネイバーリストが、移動体通信端末300が必要とするネイバーリストにならない。したがって、第2のネイバーリスト作成の必要性は明らかである。
【0027】
収容先基地局100−1は、送信部107、および結合器108を介して、この第2のネイバーリストを、対象移動体通信端末300に個別制御チャネルまたは個別ユーザチャネル等を使用して個別送信し、移動体通信端末300内部のネイバーリストを更新させる。移動体通信端末300は、このネイバーリストを基に、近接基地局を探査することができるので、ハンドオフ時の呼切断を無くすことができる。
【0028】
また、移動体通信端末300から送信されてきた位置情報と、収容基地局100−1の位置情報とが近接している(自サポートセル410−1内)ときは、収容基地局100は第2のネイバーリストを作成せずに、収容基地局100が保有するネイバーリストを通常通り報知情報を使用して移動体通信端末300に送信する。移動体通信端末300は、このネイバーリストを基に、近接基地局を探査することができるので、この場合においても、ハンドオフ時の呼切断を無くすことができる。なお、移動体通信端末300の位置情報と、収容基地局100−1の位置情報とが近接しているときとは、自サポートセル内の高層ビルに移動体通信端末300がある場合である。
【0029】
次に航路差dと比較する定数Cの決定方法を説明しよう。第一の方法は、移動体通信端末300を、基地局100のサービスセルのエッジにおいて、この時に観測される航路差d1を、定数Cとする方法である。第二の方法は、移動体通信端末300を、基地局100のサービスセルのエッジにおいて、アンテナに到達する電波の仰角θにより、計算によって求めた航路差d2を、定数Cにする方法である。この方法によると、航路差dがCより小さくなったときは、移動体通信端末300が、セルエッジより外か、大地面より高いところに存在することがわかる。なお本定数は、基地局100が構成するセクタごとに設定してもよい。
【0030】
また実施例1ではCを定数としているが、気象条件等によりダイナミックに変化する変数として設定することを妨げない。
【実施例2】
【0031】
遠方の基地局に収容された移動体通信端末が、呼切断することなしにハンドオフすることが可能な移動体通信システムの実施例2を説明する。
【0032】
実施例1は、移動体通信システムの構成は、実施例1と同一とし、航路差dを算出して制御部108に通知を行う迄は、実施例1と同じ動作をする。そのため、詳細な説明はここでは割愛する。
【0033】
制御部108は、航路差算出装置105から通知を受取った場合、位置情報を通知するように、移動体通信端末300に要求する。続いて制御部108は、移動体通信端末300から送信されてきた位置情報を解析する。移動体通信端末300の位置情報と基地局100の位置情報とが離れている(自サポートセルから離れている)場合、制御部108は、移動体通信端末300に、内部に保持している第2のネイバーリストをそのまま活用して近接基地局を探査させる。これにより、ハンドオフ時の呼切断を無くすことができる。なお、基地局100は、ネイバーリストを記憶するメモリに第2のネイバーリストを保持する。この第2のネイバーリストは、他の基地局100’用に実施例1の手順で生成して、メモリに記憶したものである。したがって、他の基地局100”用の第3のネイバーリストを記憶することも可能である。
【符号の説明】
【0034】
100…基地局、101…アンテナ、103…受信部、105…航路差算出装置、106…結合器、107…送信部、108…制御部、200…記憶装置、300…移動体通信端末、400…セルエリア、410…セル、500…移動体通信システム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直線上に間隔Lを採って配置された2本の受信アンテナと、これら受信アンテナに接続された2台の受信部と、これら受信部と接続され、前記受信アンテナが受信する同一移動体通信端末からの電波の航路差を算出する航路差算出装置と、この航路差算出装置と接続された制御部とを含む基地局と、
複数の基地局のネイバーリストを記憶する記憶装置と、
を含む移動体通信システムであって、
前記制御部は、前記航路差算出部が算出した航路差dが、予め定めた閾値C以下のとき、当該移動体通信端末から位置情報を取得して、この位置情報に基づいて、前記記憶装置から前記移動体端末近傍の基地局情報を取得して、ネイバーリストを作成し、作成したネイバーリストを前記移動体通信端末に送信することを特徴とする移動体通信システム。
【請求項2】
請求項1に記載の移動体通信システムであって、
前記基地局のサービスセルエッジに、移動体通信端末をおき、この時に観測される航路差d1を前記閾値Cとすることを特徴とする移動体通信システム。
【請求項3】
請求項1に記載の移動体通信システムであって、
前記基地局のサービスセルエッジに、移動体通信端末をおき、前記アンテナに到達する電波の仰角θから
d2=L×sinθ
を求め、このd2を前記閾値Cとすることを特徴とする移動体通信システム。
【請求項4】
鉛直線上に間隔Lを採って配置された2本の受信アンテナと、これら受信アンテナに接続された2台の受信部と、これら受信部と接続され、前記受信アンテナが受信する同一移動体通信端末からの電波の航路差を算出する航路差算出装置と、この航路差算出装置と接続された制御部と、複数の基地局のネイバーリストを記憶する記憶部と、を含む基地局であって、
前記制御部は、前記航路差算出部が算出した航路差dが、予め定めた閾値C以下のとき、当該移動体通信端末から位置情報を取得して、この位置情報に基づいて、前記記憶部から前記移動体端末近傍の基地局情報を取得して、ネイバーリストを作成し、作成したネイバーリストを前記移動体通信端末に送信することを特徴とする基地局。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−62564(P2013−62564A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197890(P2011−197890)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】