説明

移動局装置および距離推定方法

【課題】移動局装置と基地局装置との通信において障害物や反射等の有る場合に、移動局装置と基地局装置との間の距離を精度よく推定でき、移動局装置の位置を推定することができる移動局装置を提供すること。
【解決手段】基地局装置から送信された信号の信号レベルを測定する受信レベル測定部109と、受信レベル測定部109によって測定された信号レベルに基づいて基地局装置との間が見通し外か否かを判定する見通し判定部111と、見通し判定部111が見通し外と判定した場合、基地局装置に関する伝搬モデルに基づいて基地局装置との距離を推定する距離推定部112とを備えて構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話端末やPHS(Personal Handy−Phone System)端末等の移動局装置および距離推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
移動局装置および基地局装置を含む移動通信システムでは、移動局装置または基地局装置において受信された信号の電波強度等から、移動局装置と基地局装置との間の距離を推定することが可能である。
【0003】
下記特許文献1には、移動する機器にPHS端末を装着し、該PHS端末で計測された周辺の基地局装置からの信号の電波強度を計測して、計測結果から該PHS端末と基地局装置との距離を推定する手法が記載されている。そして、これらの距離から該PHS端末の位置を計測し、該位置が予め設定された拠点から予め設定された範囲内にある時は該拠点にあると判定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−43343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記技術で開示されている位置探索方法は、移動局装置と基地局装置との間に障害物が存在する場合や反射が発生する場合について考慮していない。よって、このような場合には移動局装置と基地局装置との間の距離の推定精度が低下する。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、移動局装置と基地局装置との通信において障害物や反射等の有る場合に、移動局装置と基地局装置との間の距離を精度よく推定でき、移動局装置の位置を推定することができる移動局装置および距離推定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の移動局装置は、基地局装置から送信された信号の信号レベルを測定する測定部と、前記測定部によって測定された信号レベルに基づいて前記基地局装置との間が見通し外か否かを判定する判定部と、前記判定部が見通し外と判定した場合、前記基地局装置に関する伝搬モデルに基づいて前記基地局装置との距離を推定する距離推定部とを備えた構成を有している。
【0008】
この構成により、基地局装置に関する伝搬モデルに基づいて基地局装置との距離を推定するため、見通し外でも移動局装置と基地局装置との間の距離を精度よく推定でき、移動局装置の位置を推定することができる。
【0009】
また、本発明の移動局装置は、前記伝搬モデルの特性において反射波の受信レベルや回折の受信レベルが加味されている構成を有している。
【0010】
この構成により、精度高く基地局装置との距離を推定することができる。
【0011】
また、本発明の移動局装置は、基地局装置との間の理想的な信号レベルを推定する受信レベル推定部を備え、前記判定部は、前記測定部で測定された信号レベルと、前記受信レベル推定部で推定された信号レベルとの差が一定値を超えている場合、見通し外と判定する構成を有している。
【0012】
この構成により、見通し外を容易に判定することができる。
【0013】
本発明の距離推定方法は、基地局装置から送信された信号の信号レベルを測定する測定ステップと、前記測定ステップで測定された信号レベルに基づいて前記基地局装置との間が見通し外か否かを判定する判定ステップと、前記判定ステップで見通し外と判定された場合、前記基地局装置に関する伝搬モデルに基づいて前記基地局装置との距離を推定する距離推定ステップとを備えている。
【0014】
この方法により、基地局装置に関する伝搬モデルに基づいて基地局装置との距離を推定するため、見通し外でも移動局装置と基地局装置との間の距離を精度よく推定でき、移動局装置の位置を推定することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、移動局装置と基地局装置との通信において障害物や反射等の有る場合に、移動局装置と基地局装置との間の距離を精度よく推定でき、移動局装置の位置を推定することができる移動局装置および距離推定方法を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係る移動局装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る移動局装置が行う通信を模式的に示す図である。
【図3】NLOSの状況下での伝搬モデルの特性を表すグラフである。
【図4】本発明の実施の形態の移動局装置の動作例を示すフローチャートである。
【図5】移動局装置と基地局装置との間の信号伝搬を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面に基づき詳細に説明する。
【0018】
移動局装置および基地局装置を含む移動通信システムにおいて、移動局装置と基地局装置との間で行われる通信は、伝搬路上の障害物の影響を受けやすい。図5は、移動局装置1301と基地局装置1302との間の信号伝搬を示す模式図である。図5(a)のように伝搬路上に障害物がない場合には、伝搬路は直線になり、その長さはアンテナの高さ等を用いて高精度に求められる。このように障害物がない状態を見通し(LOS、Line Of Sight)という。これに対し、図5(b)に示すように、移動局装置1301と基地局装置1302の間に建物等の障害物が存在すると、電波は反射、もしくは遮られてしまう。このような状態を見通外(NLOS、Non Line Of Sight)という。この場合、伝搬路は直線ではなくなり、その長さは実際の移動局装置1301と基地局装置1302との間の距離よりも長くなる。その結果、電波強度や伝搬時間を基に推定される、移動局装置1301と基地局装置1302との間の距離の精度は低下する。
【0019】
本発明の実施の形態に係る移動通信システムにおける移動局装置は、障害物や反射等が存在する場合には補正を行うことにより精度のよい距離推定を実行すると共に、こうして得られた距離の応用として、移動局装置の位置推定を行う。
【0020】
以下、上記処理を実現するために移動局装置が備える構成を説明する。なお、本発明の実施の形態では、1つの基地局装置と通信を行い、該基地局装置とは異なる2つの近接基地局装置から制御信号を受信する移動局装置の例を示す。
【0021】
図2は、本発明の実施の形態に係る移動局装置101が行う通信を模式的に示す図である。移動局装置101は、基地局装置201と通信を行う。また、少なくとも2つの近接基地局装置が、移動局装置101により受信される制御信号を送信する。本発明の実施の形態においては、基地局装置202および203が近接基地局装置である場合を説明する。例えば、基地局装置201は、移動局装置101が基地局装置をサーチしたときの受信レベルが最も強かったものであり、基地局装置202および基地局装置203は、2番目および3番目に受信レベルが強かったものである。なお、基地局装置201,202,203は、例えばPHSの基地局装置である。
【0022】
図1は、本発明の実施の形態に係る移動局装置101の構成を示す図である。移動局装置101は、通信部102、制御部103、記憶部104、アンテナ105を有する。
【0023】
通信部102は、半導体回路からなり、移動局装置101における通信処理を行う。詳細には、通信部102は、アンテナ105が受信した、基地局装置201,202,203からの信号から受信データを生成し、制御部103へ出力する下り処理、および制御部103から出力された送信データから信号を生成しアンテナ105へ出力する上り処理を行う。図1は、主に下り処理に関する構成を示している。通信部102は、RF部106、復調部107および復号部108を有する。
【0024】
RF部106は、アンテナ105から出力された信号に対してダウンコンバートや増幅処理を行う。復調部107は、RF部106から出力された信号に対しAD変換や復調処理を実行する。復号部108は、復調部107から出力された信号に対して復号処理を行い、受信データを生成する。
【0025】
制御部103は、CPU、メモリなどからなり、移動局装置101全体の動作を制御する。制御部103は、受信レベル測定部109、受信レベル推定部110、見通し判定部111、距離推定部112を有し、各部はプログラムのモジュール等で構成される。
【0026】
記憶部104は、移動局装置101で扱われるデータを記憶し、メモリやハードディスクなどからなる。なお、基地局装置の組み合わせに対応する伝搬モデルが記憶されている。伝搬モデルについては後述する。
【0027】
アンテナ105は、通信部102から出力される信号を電波として送信し、また、周囲の基地局装置201,202,203から送信される信号を受信して、通信部102に出力する。アンテナ105は、送信アンテナおよび受信アンテナを1つにまとめて図示している。
【0028】
次に、制御部103内の各部の動作を説明する。
【0029】
受信レベル測定部109は、基地局装置から送信された信号を受信した際、受信した信号のレベル(以下、信号レベルPmという)を測定する。
【0030】
受信レベル推定部110は、基地局装置との間の理想的な信号レベルPrを推定する。例えば、Friisの伝送公式(1)を用いて、受信レベル推定部110は、理想的な信号レベルPrを推定する。
【0031】
Pr=(GtGr(λ/(4πD))^2)Pt (1)
ここで、Pt:送信電力、D:アンテナ間の距離、Gt:送信アンテナ絶対利得、Gr:受信アンテナ絶対利得とする。
【0032】
なお、受信レベル測定部109の信号レベルの測定と、受信レベル推定部110の信号レベルの推定とは、ほぼ同時期に行われる。
【0033】
見通し判定部111は、受信レベル測定部109で測定された信号レベルPmと、受信レベル推定部110で推定された信号レベルPrとの差が一定値を超えている場合、基地局装置との間がNLOSであると判定し、差が一定値以下である場合、LOSであると判定する。
【0034】
距離推定部112は、見通し判定部111がNLOSと判定した場合、移動局装置101で検出されている基地局装置の組み合わせに対応する基地局装置の伝搬モデルに基づいて距離を推定する。伝搬モデルは、信号レベルと基地局装置から移動局装置101までの距離との関係を表したものである。
【0035】
本発明の実施の形態では、基地局装置201,202,203の組み合わせおよび距離を推定したい基地局装置(201,202,203の何れか)の伝搬モデルが使用される。例えば、移動局装置101が基地局装置201,202,203を検出し、基地局装置201との距離を求めようとする場合、距離推定部112は、この場合に距離を推定したい基地局装置201の伝搬モデルに基づいて距離を推定する。
【0036】
図3は、NLOSの状況下での伝搬モデルの特性を表すグラフである。このような伝搬モデルは、その特性が予め測定または推測されており、記憶部104に登録されている。伝搬モデルの特性では実線で示しているように、LOSとなる地点で基地局装置201との距離に応じて受信レベルが一定の割合で減少するが、NLOSとなる地点では、例えば、反射波の受信レベルや回折の受信レベルが加味されて減少することが知られている(丹後俊宏、他2名「車々間通信における交差点見通し外環境での伝搬損失推定法の検討」、信学技報、A・P2007−173(2008−03))。よって、伝搬モデルの特性を用いて信号レベルPmと対応する距離が求まる。
【0037】
また、距離推定部112は、見通し判定部111がLOSと判定した場合、基地局装置との距離に応じて受信レベルが一定の割合で減少することを利用して距離を推定する。
【0038】
なお、本発明の実施の形態では、制御部103は、各基地局装置201,202,203から移動局装置101までの距離を求め、各基地局装置201,202,203を中心とし、求めた距離を半径として3つの円を描き、これらの円が重複している領域に移動局装置101がいるものとして位置を推定する(さらに重複領域の中心に移動局装置101がいるものとして位置を推定してもよい)。また、上述した3つの基地局装置を例にとって説明したが、特に2つには限定しない。各基地局装置の位置を表す座標(緯度、経度)については、それぞれの基地局装置から取得できるものとする。
【0039】
以上のように構成された移動局装置101の動作について図面を用いて説明する。図4は、本発明の実施の形態の移動局装置の動作例を示すフローチャートである。
【0040】
まず、制御部103は、検出された基地局装置のうち、未だ選択していない基地局装置の1つを選択する(S1)。
【0041】
次に、受信レベル測定部109は、選択された基地局装置の信号レベルPmを測定し(S2)、受信レベル推定部110は、選択された基地局装置の信号レベルPrを推定する(S3)。見通し判定部111は、信号レベルPmと信号レベルPrとに基づいて、基地局装置との間がNLOSまたはLOSであると判定する(S4)。
【0042】
距離推定部112は、基地局装置との間がNLOSと判定された場合、伝搬モデルに基づいて距離を推定し(S5)、基地局装置との間がLOSと判定された場合、基地局装置との距離に応じて受信レベルが一定の割合で減少することを利用して距離を推定する(S6)。
【0043】
検出された全ての基地局装置が選択された場合(S7)、制御部103は、各基地局装置を中心とし、推定した距離を半径としてそれぞれの円を描き、これらの円が重複している領域に移動局装置101がいるものとして位置を推定する(S8)。
【0044】
以上説明したように、本発明の実施の形態に係る移動局装置は、基地局装置に関する見通し外のための伝搬モデルに基づいて基地局装置との距離を推定するため、見通し外でも移動局装置と基地局装置との間の距離を精度よく推定でき、移動局装置の位置を推定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、見通し外でも移動局装置と基地局装置との間の距離を精度よく推定できるという効果を有し、携帯電話端末やPHS端末等の移動局装置、基地局装置、および移動通信システム等に有用である。
【符号の説明】
【0046】
101 移動局装置
102 通信部
103 制御部
104 記憶部
105 アンテナ
106 RF部
107 復調部
108 復号部
109 受信レベル測定部
110 受信レベル推定部
111 見通し判定部
112 距離推定部
201、202、203 基地局装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基地局装置から送信された信号の信号レベルを測定する測定部と、
前記測定部によって測定された信号レベルに基づいて前記基地局装置との間が見通し外か否かを判定する判定部と、
前記判定部が見通し外と判定した場合、前記基地局装置に関する伝搬モデルに基づいて前記基地局装置との距離を推定する距離推定部と
を備えたことを特徴とする移動局装置。
【請求項2】
前記伝搬モデルの特性において、反射波の受信レベルや回折の受信レベルが加味されていることを特徴とする請求項1に記載の移動局装置。
【請求項3】
前記基地局装置との間の理想的な信号レベルを推定する受信レベル推定部を備え、
前記判定部は、前記測定部で測定された信号レベルと、前記受信レベル推定部で推定された信号レベルとの差が一定値を超えている場合、見通し外と判定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の移動局装置。
【請求項4】
基地局装置と通信する移動局装置の距離推定方法において、
前記基地局装置から送信された信号の信号レベルを測定する測定ステップと、
前記測定ステップで測定された信号レベルに基づいて前記基地局装置との間が見通し外か否かを判定する判定ステップと、
前記判定ステップで見通し外と判定された場合、前記基地局装置に関する伝搬モデルに基づいて前記基地局装置との距離を推定する距離推定ステップと
を備えたことを特徴とする距離推定方法。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate