説明

移動通信システムにおけるユーザ装置

【課題】広帯域で通信できるがガードバンドが狭い帯域において、高い性能を維持しながら通信を行うこと。
【解決手段】ユーザ装置は、周波数バンドの一部を用いて基地局と無線通信を行うための第1及び第2のデュプレクサと、第1又は第2のデュプレクサに結合される送受信回路とを有し、第1のデュプレクサは、上りリンクの信号を、第1の帯域においては通過させ、第2の帯域においては通過させず、下りリンクの信号を、第3の帯域においては通過させ、第4の帯域においては通過させず、第2のデュプレクサは、上りリンクの信号を、第5の帯域においては通過させ、第6の帯域においては通過させず、下りリンクの信号を、第7の帯域においては通過させ、第8の帯域においては通過させず、上りリンクの全帯域幅が、第1及び第5を含む帯域幅に等しく、第1及び第2のデュプレクサの周波数特性において通過帯域及び阻止帯域の帯域幅が非対称に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動通信システムにおけるユーザ装置に関連する。
【背景技術】
【0002】
周波数分割複信(FDD)方式の携帯電話機、あるいは業務用無線やアマチュア無線のレピータのように送信と受信を同時に行う無線機において、送信及び受信アンテナを共用する場合、送信信号が受信回路に流入することを防ぐ必要がある。このため、送信経路と受信経路を電気的に分離するデュプレクサが利用されている。デュプレクサは、送信回路から送信された信号をアンテナに向けて通過させるフィルタ特性と、アンテナから受信した信号を受信回路に向けて通過させるフィルタ特性とを有する。これら2つのフィルタ特性を利用することにより、強力な送信信号が受信回路に漏れ込んでしまうことを防ぎ、良好な受信性能を保つことができる。デュプレクサは2つの異なる周波数帯域を持つフィルタを1つの端子(アンテナ端子)で共有することで実現される。
【0003】
しかしながら、利用する送信信号帯域及び受信信号帯域の周波数上の配置や、要求される性能によっては、1つのデュプレクサでフィルタ特性を担保することが容易でない場合がある。このような懸念に対処するため、移動通信システムがカバーする広い帯域を2つ以上の帯域に分割し、分割された個々の帯域にデュプレクサを割り当て、それらの複数のデュプレクサをスイッチで切り替える技術がある。特に、2つのデュプレクサを利用する場合、「デュアルデュプレクサ」と呼ばれる。分割された個々の帯域に関連付けられたデュプレクサは、システム全体がカバーする帯域より狭い帯域に対して、通過特性や阻止特性のフィルタ特性を満たせばよいので、1つのデュプレクサでは満たすことが困難なフィルタ特性を比較的簡易に実現できる。デュアルデュプレクサを利用する従来技術については、例えば特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−355174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術によるユーザ装置は、以下に示すような問題点を有する。
【0006】
2つのデュプレクサによりデュアルデュプレクサを構成する場合、それぞれのデュプレクサが実現するフィルタ特性は、デュプレクサ各々の送信帯域及び受信帯域に対して対称的に設計されるのが一般的である。例えば、送信信号を通過させる帯域幅と受信信号を通過させる帯域幅が同等であるように設計される。また、通過帯域だけでなく、阻止帯域についても同様に、送信側及び受信側のペアとなる帯域において、大きな減衰特性が得られるように、周波数特性が対称的に設計される。このため、一方のデュプレクサは、自身の対象外であって他方のデュプレクサが対象とする帯域に対して、十分な減衰特性を維持するとは限らない。その結果、あるユーザ装置から送信された信号が、他のユーザ装置が受信した信号に対して悪影響を及ぼすことが懸念される。このような懸念に対処するために通過及び阻止帯域に厳しい条件を課すことにすると、結果的にユーザ装置の構成が複雑化してしまうことが懸念される。特に広帯域を利用可能にする通信方式、例えば、直交周波数分割多重(OFDM)方式に基づく通信方式では、広い周波数帯域のうちの一部の狭帯域を利用するので、これらの問題は顕著に現れる傾向がある。
【0007】
ところで、デュアルデュプレクサを構成する2つのデュプレクサの通過帯域が重複している帯域幅が、システムの帯域幅より狭かった場合、その重複した帯域における信号の送受信は、2つのデュプレクサのうち何れか一方でしか実行できない。また、重複する帯域幅がシステム帯域幅の半分以下である場合には、その帯域の周波数の利用方法が限られてしまうという課題がある。例えば、全帯域が100MHz幅であり、システム帯域幅が20MHzのシステムであった場合、重複する帯域幅が10MHz以下であった場合には、対象とする重複した帯域の中心部分の10MHzは中心周波数とした割り当てを行うことが出来ない。しかしながら、2つのデュプレクサをそれぞれ通過する信号の受信品質が同じであるとは限らず、何れか一方のデュプレクサの受信品質の方が優れている場合がある。このような場合に、他方のデュプレクサしか使用できないとすることは、信号の高品質化等の観点から好ましくない。
【0008】
本発明の課題は、上記の問題の少なくとも1つを軽減することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施例によるユーザ装置は、
移動通信システムにおけるユーザ装置であって、
所定の帯域幅を有する周波数バンドの一部を用いて基地局と無線通信を行うための第1及び第2のデュプレクサと、
前記第1又は第2のデュプレクサに選択的に結合される送受信回路と
を有し、前記第1のデュプレクサは、
上りリンクの信号を、通過帯域である第1の帯域においては通過させ、阻止帯域である第2の帯域においては通過させない第1のフィルタ部と、
下りリンクの信号を、通過帯域である第3の帯域においては通過させ、阻止帯域である第4の帯域においては通過させない第2のフィルタ部と
を有し、前記第2のデュプレクサは、
上りリンクの信号を、通過帯域である第5の帯域においては通過させ、阻止帯域である第6の帯域においては通過させない第3のフィルタ部と、
下りリンクの信号を、通過帯域である第7の帯域においては通過させ、阻止帯域である第8の帯域においては通過させない第4のフィルタ部と
を有し、前記周波数バンドにおける上りリンクの帯域幅が、前記第1及び第5の帯域を含む帯域の帯域幅に等しく、前記周波数バンドにおける下りリンクの帯域幅が、前記第3及び第7の帯域を含む帯域の帯域幅に等しく、
前記第1ないし第4のフィルタ部各々の周波数特性において通過帯域及び阻止帯域の帯域幅が非対称に形成されている、ユーザ装置である。
【発明の効果】
【0010】
一実施例によれば、広帯域で通信できるがガードバンドが狭い帯域において、高い性能を維持しながら通信を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】デュプレクサの通過及び阻止周波数特性の関係を示す図。
【図2】1つのデュプレクサにより上下の周波数帯域を分離する様子を示す図。
【図3A】従来のデュアルデュプレクサを用いて上下の周波数帯域を分離する様子を示す図。
【図3B】実施例において使用されるデュアルデュプレクサの上りリンクに関する周波数特性を説明するための図。
【図3C】実施例において使用されるデュアルデュプレクサの下りリンクに関する周波数特性を説明するための図。
【図4】実施例におけるデュアルデュプレクサの対象帯域と通過及び阻止帯域を示す図。
【図5】デュアルデュプレクサの対象帯域と通過及び阻止帯域の別の関係を示す図。
【図6】実施例において使用されるユーザ装置の構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施例によるユーザ装置は、広帯域であるがガードバンドが狭い帯域において通信を行う。デュアルデュプレクサを構成する個々のデュプレクサの通過帯域及び阻止帯域の特性は非対称であり、一方のデュプレクサを通過する信号に対する特性と他方のデュプレクサを通過する信号に対する特性が別々に設計される。
【0013】
一実施例において、ユーザ装置の複数のデュプレクサは、重複した通過帯域又は重複した阻止帯域を有し、その重複した帯域の帯域幅は、広帯域無線システムに含まれる何れかのオペレータのシステムの帯域幅以上広い。このため、重複した帯域において、何れのデュプレクサでも使用可能であり、受信品質が優れている方のデュプレクサを使用することが可能になる。具体的には、それぞれのデュプレクサにおける帯域が被る他システムからの被干渉レベルを考慮して、最適なデュプレクサが選択される。このようなユーザ装置は、複数のデュプレクサとスイッチにより構成できる。
【0014】
以下の観点から実施例を説明する。
【0015】
1.デュプレクサ
2.1つのデュプレクサを使用する場合の問題点
3.従来のデュアルデュプレクサ
4.実施例によるデュアルデュプレクサ
5.別のデュアルデュプレクサ
6.ユーザ装置。
【実施例1】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら実施例を説明する。図面では実施例に特に関連の深い要素が強調されており、他の要素は図示の簡略化を図るため省略されている。
【0017】
<1.デュプレクサ>
図1は、基本的なデュプレクサの構成およびその周波数特性の関係を示す。デュプレクサにおいて、信号が通る方向に応じて通過帯域および阻止帯域が決定される。例えば、アンテナから受信回路へ向かう方向に対して通過帯域とする周波数帯の信号は、アンテナから送信回路へ向かう方向に対しては阻止される。なお、阻止帯域は、非通過帯域と言及されてもよい。
【0018】
実施例によるデュアルデュプレクサを説明する前に、従来のデュプレクサ及びデュアルデュプレクサを概説する。
【0019】
<2.1つのデュプレクサを使用する場合の問題点>
図2は、広帯域であるがガードバンドが狭い周波数配置に対して、1つのデュプレクサにより上下の周波数帯域を分離する場合の様子を示す。周波数配置は、上り及び下りのペアバンドを含む。この周波数配置を利用して、複数のオペレータがシステムを運用している。説明の便宜上、低周波数側のN個の周波数B1UL、...、BNULにより、上りの帯域全体が構成され、高周波数側のN個の周波数B1DL、...、BNDLにより、下りの帯域全体が構成されているものとする。なお、ここでペアバンドの観点から、上りの利用帯域数Nと下り帯域数Nは同じ数字である。ただし、上下の周波数帯域の配置は図示の例に限定されず、他の構成が使用されもよい。各オペレータは上り及び下りのペアバンドを有する。例えば、あるオペレータは、B1UL及びB1DLをペアバンドとして使用する。
【0020】
図2下側には、このような周波数構成において、1つのデュプレクサが使用される場合におけるデュプレクサの周波数特性を模式的に示す。このデュプレクサは、広帯域でありかつガードバンドが狭い上下の帯域を分離しなければならない。図中、左側の台形状の折れ線は、上りリンク側の周波数特性を模式的に示したものである。右側の台形状の折れ線は、下りリンク側の周波数特性を模式的に示したものである。ユーザ装置は、このような周波数特性を用いて、特定のオペレータのペアバンドを使用して通信を行うことができる。図示されているように、この周波数配置における上下の周波数帯域は広帯域であるが、ガードバンドが狭い。ガードバンドとは、上りリンクと下りリンクの周波数差又はギャップである。
【0021】
このような周波数配置において、1つのデュプレクサにより上下リンクの周波数を分離しようとした場合、上りリンクの周波数を通過帯域とし下りリンクの周波数を阻止帯域とするデュプレクサのフィルタにおいて、阻止帯域における減衰特性が十分でなくなるおそれがある。この場合、上りリンクの信号のサイドローブが下りリンクの受信信号に干渉として直接的に洩れ込んでしまうことが懸念される。逆に、下りリンクの周波数を通過帯域とし上りリンクの周波数を阻止帯域とするフィルタにおいても、阻止帯域における減衰特性が十分でなくなるおそれがある。この場合、上りリンク帯域で送信信号を受信回路が受信してしまい、受信信号に干渉が含まれてしまう。その結果、大きな送信信号により受信回路のアンプが飽和し、受信信号を正確に増幅することができなくなってしまうことが懸念される。
【0022】
<3.従来のデュアルデュプレクサ>
図3Aは、従来技術において、このような懸念に対処するためにデュアルデュプレクサを使用する様子を示す。この場合、移動通信システムがカバーする広い帯域を2つの帯域に分割し、分割された個々の帯域にデュプレクサを割り当て、それら2つのデュプレクサがスイッチで切り替えられる。分割された個々の帯域に関連付けられたデュプレクサは、システム全体がカバーする帯域より狭い帯域において、通過特性や阻止特性の条件を満たせばよい。複数のデュプレクサを組み合わせることで、1つのデュプレクサでは満たすことが困難であったフィルタ特性を比較的簡易に実現することができる。
【0023】
図3Aに示すような従来のデュアルデュプレクサの通過帯域及び阻止帯域の帯域幅は、図2のようにデュプレクサが1つであった場合と同様に、一般的には対称的に設計される。例えば、第1のデュプレクサにおいて、上り信号に対する通過帯域(下り信号に対する阻止帯域)の帯域幅、及び上り信号に対する阻止帯域(下り信号に対する通過帯域)の帯域幅は等しく設計される。同様に、第2のデュプレクサにおいて、上り信号に対する通過帯域(下り信号に対する阻止帯域)の帯域幅、及び上り信号に対する阻止帯域(下り信号に対する通過帯域)の帯域幅も等しく設計される。ただし帯域内で利用するシステムへの要求条件によっては、場合により、構成するデュプレクサの帯域幅は異なる場合も存在する。したがって、通過帯域及び阻止帯域の両側における減衰特性は、ガードバンドの範囲内で十分にかつ急峻に減衰するように設計されている。このように急峻に減衰する特性を実現する際、ユーザ装置の構成が複雑化してしまうことが懸念される。
【0024】
<4.実施例によるデュアルデュプレクサ>
図3B及び図3Cは実施例において使用されるデュアルデュプレクサの周波数特性をどのように設計するかを説明するための図である。図3Bは上りリンクに関するものであり、図3Cは下りリンクに関するものである。図3B及び図3Cにおいて、第1のデュプレクサは第1のシステムのペアバンドを利用するためのものであり、第2のデュプレクサは第2のシステムのペアバンドを利用するためのものである。説明の便宜上、第1のシステムの上り信号に対する通過帯域をB1ULとし、下り信号に対する通過帯域をB1DLとする。同様に、第2のシステムの上り信号に対する通過帯域をB2ULとし、下り信号に対する通過帯域をB2DLとする。
【0025】
図3Bに示すような上りリンクに関するデュプレクサの周波数特性を決定する場合、上り信号が、下り信号の干渉になってしまうことを十分に抑制する必要がある。このため、第1のデュプレクサの帯域B1ULの上り信号が、帯域B1DL及び帯域B2DLに混入してしまうことを抑制する必要がある。従来は、帯域幅の対称性等の観点から、実線で示すように、上りリンク側の周波数特性が、帯域B1ULの高周波側の周波数f1において、十分に低いレベルLまで急峻に減衰するように設計されていた。しかしながら、帯域B1ULの上り信号が、帯域B1DLに混入することを防ぐには、破線で示すように、上りリンク側の周波数特性が、帯域B1DLの最低周波数fB1DLにおいて、十分に低いレベルLまで減衰していればよい。次に、帯域B1ULの上り信号が、帯域B2DLに混入してしまうことを抑制する必要もある。帯域B2DLは、帯域B1DLよりも高い周波数帯域に位置している。したがって、帯域B1ULの上り信号が帯域B1DLに混入することを十分に抑制できていれば、帯域B1ULの上り信号が帯域B2DLに混入してしまうことも抑制できる。このような観点から、本実施例では、第1のデュプレクサは、上りリンク側の周波数特性が破線のように緩慢に減衰するように設計される。
【0026】
次に、第2のデュプレクサの帯域B2ULの上り信号が、帯域B1DL及び帯域B2DLに混入してしまうことを抑制する必要がある。従来は、帯域幅の対称性等の観点から、実線で示すように、上りリンク側の周波数特性が、ガードバンド付近の高周波fGにおいて、十分に低いレベルLまで急峻に減衰するように設計されている。しかしながら、帯域B2ULの上り信号が、帯域B2DLに混入することを防ぐには、破線で示すように、上りリンク側の周波数特性が、帯域B2DLの最低周波数fB2DLにおいて、十分に低いレベルLまで減衰していればよい。次に、帯域B2ULの上り信号が、帯域B1DLに混入してしまうことを抑制する必要もある。帯域B2UL及び帯域B1DLの間の間隔は、ガードバンドと同程度に狭いので、上りリンク側の周波数特性は、比較的速やかに減衰する必要がある。どの程度減衰させるべきかは、次のように考えられる。帯域B2ULの上り信号が帯域B2DLに混入する経路は、同一のユーザ装置内の送信回路からデュプレクサを介して受信回路に至るものである。したがって、この経路を通じて受信信号に混入する送信信号を阻止するには、送信信号側の周波数特性が、十分に低いレベルLまで減衰している必要がある。これに対して、帯域B2ULの上り信号が帯域B1DLに混入する経路は、第2のシステムのユーザ装置から空間を通じて第1のシステムのユーザ装置に至るものである。したがって、この経路を通じて受信信号に混入する送信信号は比較的弱いので、これを阻止するには、送信信号側の周波数特性が、レベルLほど低い値ではないレベルMまで減衰していればよい。このような観点から、本実施例では、第2のデュプレクサは、上りリンク側の周波数特性が破線のように緩慢に減衰するように設計される。
【0027】
上記の説明は上りリンク側のものであるが、下りリンク側の周波数特性も同様に設計される。図3Cに示すような下りリンクに関するデュプレクサの周波数特性を決定する場合も、下りリンクの信号を受信するフィルタの特性として、上り信号帯域での減推量が十分でない場合には、その影響により受信アンプが飽和してしまい下り信号の受信感度の劣化を引き起こしてしまうことがある。つまり、第1のデュプレクサの帯域B1ULの上り信号及び第2のデュプレクサの帯域B2ULの上り信号が、帯域B1DLを利用している受信フィルタに混入してしまうことを抑制する必要がある。従来は、帯域幅の対称性等の観点から、実線で示すように、下りリンク側の周波数特性が、ガードバンド付近の高周波fG'において、十分に低いレベルLまで急峻に減衰するように設計されている。しかしながら、帯域B1ULの上り信号が、帯域B2DLに混入することを防ぐには、破線で示すように、下りリンク側の周波数特性が、帯域B1DLの最高周波数fB1ULにおいて、十分に低いレベルLまで減衰していればよい。次に、帯域B2ULの上り信号が、帯域B1DLに混入してしまうことを抑制する必要もある。帯域B2UL及び帯域B1DLの間の間隔は、ガードバンドと同程度に狭いので、下りリンク側の周波数特性は、比較的速やかに減衰する必要がある。どの程度まで減衰させるべきかは、次のように考えられる。帯域B1ULの上り信号が帯域B1DLに混入する経路は、同一のユーザ装置内の送信回路からデュプレクサを介して受信回路に至るものである。したがって、この経路を通じて受信信号に混入する送信信号を阻止するには、受信フィルタを通過した送信信号の周波数特性が、十分に低いレベルLまで減衰している必要がある。これに対して、帯域B2ULの上り信号が帯域B1DLに混入する経路は、第2のシステムのユーザ装置から空間を通じて第1のシステムのユーザ装置に至るものである。したがって、一般的にはこの経路を通じて受信信号に混入する送信信号は比較的、受信信号レベルが小さいので、これを阻止するには、受信側の周波数特性が、レベルLほど低い値ではないレベルMまで減衰していればよい。このような観点から、本実施例では、第1のデュプレクサは、下りリンク側の周波数特性が破線のように緩慢に減衰するように設計される。
【0028】
次に、第1のデュプレクサの帯域B1ULの上り信号及び第2のデュプレクサの帯域B2ULの上り信号が、帯域B2DLに混入してしまうことを抑制する必要もある。従来は、帯域幅の対称性等の観点から、実線で示すように、下りリンク側の周波数特性が、帯域B2DLの低周波側の周波数f2において、十分に低いレベルLまで急峻に減衰するように設計されていた。しかしながら、帯域B2ULの上り信号が、帯域B2DLに混入することを防ぐには、破線で示すように、下りリンク側の周波数特性が、帯域B2ULの最低周波数fB2DUにおいて、十分に低いレベルLまで減衰していればよい。次に、帯域B1ULの上り信号が、帯域B2DLに混入してしまうことを抑制する必要もある。帯域B1DLは、帯域B2ULよりも低い周波数帯域に位置している。したがって、帯域B2ULの上り信号が帯域B2DLに混入することを十分に抑制できていれば、帯域B1ULの上り信号が帯域B2DLに混入してしまうことも抑制できる。このような観点から、本実施例では、第2のデュプレクサは、下りリンク側の周波数特性が破線のように緩慢に減衰するように設計される。
【0029】
図4は、本実施例において使用される第1及び第2のデュプレクサ各々について、上りリンク側の周波数特性及び下りリンク側の周波数特性を模式的に示す。帯域1と帯域3はペアバンドを構成する。帯域5と帯域7もペアバンドを構成する。
【0030】
第1のデュプレクサの上りリンク側の周波数特性は、通過帯域である帯域1において上り信号を通過させ、阻止帯域である帯域2において上り信号を阻止する。この周波数特性は中間帯域である帯域Aにおいて高いレベルHから低いレベルLに減衰している。
【0031】
第1のデュプレクサの下りリンク側の周波数特性は、通過帯域である帯域3において下り信号を通過させ、阻止帯域である帯域4において上り信号を阻止する。この周波数特性は中間帯域である帯域Bにおいて高いレベルHから中間のレベルMに至り、その後低いレベルLに減衰している。
【0032】
第2のデュプレクサの上りリンク側の周波数特性は、通過帯域である帯域5において下り信号を通過させ、阻止帯域である帯域6において上り信号を阻止する。この周波数特性は中間帯域である帯域Cにおいて高いレベルHから中間のレベルMに至り、その後低いレベルLに減衰している。
【0033】
第2のデュプレクサの下りリンク側の周波数特性は、通過帯域である帯域7において上り信号を通過させ、阻止帯域である帯域8において上り信号を阻止する。この周波数特性は中間帯域である帯域Dにおいて高いレベルHから低いレベルLに減衰している。
【0034】
中間帯域である帯域A、B、C、Dにおいては、従来よりも緩い減衰特性の条件を満足するように、各フィルタが設計される。このようにすることにより、例えば、送信帯域である帯域1、5からの漏れ込みにより帯域3、7における受信品質が劣化することを防ぐことができる。ここで、信号の漏れ込みとは、送信帯域である帯域1または帯域5から帯域3または帯域7への大きな電力の信号の漏れ込みを含み、このような漏れ込みがあると、受信帯域のフィルタ特性が緩いためにアンプが飽和してしまうことが懸念される。本実施例では、従来の通過帯域及び阻止帯域に加えて、阻止帯域として機能する中間帯域A−Dが規定されるので、通過帯域と阻止帯域の帯域幅は同等ではなく、非対称な構成となる。この点、通過帯域及び阻止帯域の帯域幅が対称的に設計されていた従来の方法と大きく異なる。
【0035】
このような構成の場合、帯域5を通過する上り信号が、異なるデュプレクサ(第1のデュプレクサ)の帯域3へ及ぼす干渉信号レベルと、同じデュプレクサ(第2のデュプレクサ)の帯域6への干渉信号レベルとは異なり、前者は後者より弱い。なぜなら、帯域5から帯域3への干渉は空間を伝搬して他のユーザ装置に至るものであるのに対して、帯域5から帯域6への干渉は、同じユーザ装置内で生じるものだからである。このような干渉信号レベルを抑制できるように、帯域1及び帯域5に対して異なる設計が行われる。同様に帯域3を通過する下り信号に対して、異なるデュプレクサ(第2のデュプレクサ)の帯域5から受ける干渉信号レベルに対する耐性と、同じデュプレクサ(第1のデュプレクサ)の帯域1からの干渉信号レベルに対する耐性とは異なることも考慮される。なお、干渉信号レベルに対する耐性は、ある干渉信号レベルを持つ信号を受信する環境における受信品質により評価される。受信品質は、当該技術分野で既知の適切な如何なる量で測定されてもよい。例えば、受信品質は、希望波電力対干渉波電力比(SIR)、ビットエラーレート(BER)、ブロックエラーレート(BLER)、スループット等により測定されてもよい。
【0036】
<5.別のデュアルデュプレクサ>
図5は、デュアルデュプレクサの別の構成例を示す。概して図4に示すものと同様であるが、第1及び第2のデュプレクサがカバーする周波数範囲が一部重複している点が異なる。図示の例の場合、上りリンクに関する第1のデュプレクサの通過帯域(帯域1)と、第2のデュプレクサの通過帯域(帯域5)とは、帯域9において重複している。また、下りリンクに関する第1のデュプレクサの通過帯域(帯域3)と、第2のデュプレクサの通過帯域(帯域7)とは、帯域10において重複している。本実施例では、重複している帯域9及び帯域10の帯域幅が、複数のオペレータのうちの何れかのオペレータのシステムの帯域幅以上であるように規定される。このように規定することにより、重複する帯域に対しても柔軟な周波数割り当てが可能となる。例えば100MHz幅の帯域に対して、それぞれのデュプレクサが55MHz幅までを対象として設計された場合には、10MHz幅が重複することになる。この場合には、20MHz幅のシステムに対して、デュプレクサ1ではその中心周波数は最大で45MHzの位置、対してデュプレクサ2では最小の中心周波数は55MHzとなり、その間にある10MHzの位置を中心周波数とするように周波数を利用することが出来ない。
重複する帯域の帯域幅は、この具体的な数値に限定されず、他の値でもよい。システムの帯域幅は、例えばW−CDMAシステムでは5MHzである。LTEシステムでは1.4MHz、5MHz、10MHz、15MHz又は20MHzの選択肢がある。例えば、オペレータ1ないしNが運営するシステム1なしいNの各々が、20MHzのシステム帯域幅を有する場合、重複する帯域9及び10の帯域幅は、20MHz以上である。また、あるオペレータのシステムの帯域幅が1.4MHzであり、別のオペレータのシステムの帯域幅が10MHzであり、さらに別のオペレータのシステムの帯域幅が5MHzであった場合、重複する帯域9及び10の帯域幅は、それらのうち最大の10MHz以上であることが好ましい。
【0037】
重複する帯域の帯域幅を、存在する複数のシステムの帯域幅以上にすることで、重複する帯域では第1及び第2の何れのデュプレクサも使用可能になる。ここで、隣接する帯域を利用するシステムから漏れこんでくる干渉量や、デュプレクサが対象とする帯域幅の比率により決定されるデュプレクサが持つ希望信号に対する減衰量の影響を受けて、その品質が劣化する。その結果、例えば、重複する帯域において、受信品質が良い方のデュプレクサを使用することができる。この場合、第1のデュプレクサから受信した信号の受信品質と、第1のデュプレクサから受信した信号の受信品質とを測定及び比較する必要がある。上述したように、受信品質は、希望波電力対干渉波電力比(SIR)、ビットエラーレート(BER)、ブロックエラーレート(BLER)、スループット等により測定されてもよい。
【0038】
<6.ユーザ装置>
図6は、実施例において使用されるユーザ装置の機能ブロック図を示す。図6には、ユーザ装置に備わる様々な要素又は処理部のうち、実施例に特に関連するものが示されている。ユーザ装置は、複数のシステムのうち何れかを選択して通信を行うことが可能な任意の通信装置である。したがって、ユーザ装置は基地局との間の無線リンクを通じて通信することができる。具体的には、ユーザ装置は、携帯電話、情報端末、高機能携帯電話、スマートフォン、タブレット型コンピュータ、パーソナルディジタルアシスタント、携帯用パーソナルコンピュータ等であるが、これらに限定されない。ユーザ装置は、送信回路61、受信回路62、スイッチ63、64、第1のデュプレクサ65、第2のデュプレクサ66、スイッチ67及びスイッチ切替制御回路68を少なくとも有する。
【0039】
送信回路61は、アンテナを介して送信する送信信号を生成し、出力する。送信回路61は、通信に必要な処理を行うベースバンド処理部及びベースバンド信号を無線周波数信号に変換するRF部を少なくとも含む。
【0040】
受信回路62は、アンテナを介して受信した受信信号を処理する。受信回路62は、通信に必要な処理を行うベースバンド処理部及び受信した無線周波数信号をベースバンド信号に変換するRF部を少なくとも含む。
【0041】
スイッチ63、64は、スイッチ切替制御回路68からの制御信号にしたがって、送信回路61及び受信回路62を、第1又は第2のデュプレクサ65、66の何れかに接続する。
【0042】
第1のデュプレクサ65は、スイッチ63及び64を介して送信回路61及び受信回路62に選択的に接続される。第1のデュプレクサ65は、図4又は図5における第1のデュプレクサのような周波数特性のフィルタを有する。
【0043】
第2のデュプレクサ66は、スイッチ63及び64を介して送信回路61及び受信回路62に選択的に接続される。第2のデュプレクサ66は、図4又は図5における第2のデュプレクサのような周波数特性のフィルタを有する。
【0044】
スイッチ67は、スイッチ切替制御回路68からの制御信号にしたがって、第1のデュプレクサ65又は第2のデュプレクサ66を、アンテナ端子に接続する。
【0045】
スイッチ切り替え制御回路68は、スイッチ63、64、67の動作を制御する。
【0046】
ユーザ装置は、送信回路で生成された送信信号を、第1又は第2のデュプレクサ及びアンテナを介して送信する。また、ユーザ装置は、アンテナで受信した受信信号を、第1又は第2のデュプレクサを介して受信回路において処理する。
【0047】
図5に示すようにシステムの帯域幅以上、第1及び第2のデュプレクサの通過帯域が重複していた場合、個々のデュプレクサにおいて受信した信号の受信品質が測定される。そして、受信品質が相対的に良いデュプレクサが、スイッチ63、64により送信回路61及び受信回路62に接続される。
【0048】
上記に説明した実施例は、特定のシステムに限定されず、適切な如何なる通信システムに適用されてもよい。ISDNやADSL、NGNのシステム等に適用されてもよい。例えば本発明は移動通信システムである、W−CDMAシステム、HSDPA/HSUPA方式のシステム、LTE方式のシステム、LTE−Advanced方式のシステム、IMT−Advancedシステム、WiMAX、Wi−Fi方式のシステム等に適用されてもよい。本発明は特定の実施例を参照しながら説明されてきたが、それらは単なる例示に過ぎず、当業者は様々な変形例、修正例、代替例、置換例等を理解するであろう。発明の理解を促すため具体的な数値例を用いて説明がなされたが、特に断りのない限り、それらの数値は単なる一例に過ぎず適切な如何なる値が使用されてもよい。実施例又は項目の区分けは本発明に本質的ではなく、2以上の項目に記載された事項が必要に応じて組み合わせて使用されてよい。説明の便宜上、本発明の実施例に係る装置は機能的なブロック図を用いて説明されたが、そのような装置はハードウェアで、ソフトウェアで又はそれらの組み合わせで実現されてもよい。本発明は上記実施例に限定されず、本発明の精神から逸脱することなく、様々な変形例、修正例、代替例、置換例等が本発明に包含される。
【符号の説明】
【0049】
61 送信回路
62 受信回路
63、64 スイッチ
65 第1のデュプレクサ
66 第2のデュプレクサ
67 スイッチ
68 スイッチ切替制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動通信システムにおけるユーザ装置であって、
所定の帯域幅を有する周波数バンドの一部を用いて基地局と無線通信を行うための第1及び第2のデュプレクサと、
前記第1又は第2のデュプレクサに選択的に結合される送受信回路と
を有し、前記第1のデュプレクサは、
上りリンクの信号を、通過帯域である第1の帯域においては通過させ、阻止帯域である第2の帯域においては通過させない第1のフィルタ部と、
下りリンクの信号を、通過帯域である第3の帯域においては通過させ、阻止帯域である第4の帯域においては通過させない第2のフィルタ部と
を有し、前記第2のデュプレクサは、
上りリンクの信号を、通過帯域である第5の帯域においては通過させ、阻止帯域である第6の帯域においては通過させない第3のフィルタ部と、
下りリンクの信号を、通過帯域である第7の帯域においては通過させ、阻止帯域である第8の帯域においては通過させない第4のフィルタ部と
を有し、前記周波数バンドにおける上りリンクの帯域幅が、前記第1及び第5の帯域を含む帯域の帯域幅に等しく、前記周波数バンドにおける下りリンクの帯域幅が、前記第3及び第7の帯域を含む帯域の帯域幅に等しく、
前記第1ないし第4のフィルタ部各々の周波数特性において通過帯域及び阻止帯域の帯域幅が非対称に形成されている、ユーザ装置。
【請求項2】
前記第1の帯域と前記第5の帯域とが第9の帯域において重複し、該第9の帯域の帯域幅が、前記移動通信システムにおけるオペレータのシステムの帯域幅以上である、請求項1に記載のユーザ装置。
【請求項3】
前記第3の帯域と前記第7の帯域とが第10の帯域において重複し、該第10の帯域の帯域幅が、前記移動通信システムにおけるオペレータのシステムの帯域幅以上である、請求項1又は2に記載のユーザ装置。
【請求項4】
前記移動通信システムにおける上りリンクの帯域の帯域幅が、前記第4及び第8の帯域を含む帯域の帯域幅に等しい、請求項1ないし3の何れか1項に記載のユーザ装置。
【請求項5】
前記移動通信システムにおける下りリンクの帯域の帯域幅が、前記第2及び第6の帯域を含む帯域の帯域幅に等しい、請求項1ないし4の何れか1項に記載のユーザ装置。
【請求項6】
前記第1のデュプレクサの通過帯域と前記第2のデュプレクサの通過帯域とが重複している帯域において、受信品質が相対的に良い方のデュプレクサが信号の送受信に使用される、請求項1ないし5の何れか1項に記載のユーザ装置。
【請求項7】
前記第1のデュプレクサの通信帯域と前記第2のデュプレクサの通過帯域とが重複している帯域において、
その帯域幅が利用される通信システムの帯域幅以上とすることを特徴とする請求項6に記載のユーザ装置
【請求項8】
前記受信品質が、希望信号の電力及び干渉信号の電力により決定される、請求項6または7に記載のユーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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